物語ること、生きること(上橋菜穂子著)


2013年に出版されたYAのおすすめの本を紹介します。
「獣の奏者」、「守り人」シリーズの著者、上橋菜穂子さんが作家になるまでの道程が書かれた『物語ること、生きること』 です。
物語ること、生きること


「その気になりやすい子」で、おばあちゃんから昔話を聞いて、どっぷり物語の世界に入り込んだ子ども時代、少し体が弱かったため、強さに憧れた青春時代、我が身で現実を知りたいと文化人類学を選び、世界に飛び出していった大学時代、その間作家になりたいという想いを抱いて書き続け、上橋さんの作品が生まれてくるまでが、えがかれています。
上橋さんの作品は、別世界を舞台としたファンタジーがほとんどですが、この本を読むと、物語の根底に、上橋さんが体で感じてきたことが流れているのだとわかります。多くの子どもたち、大人が夢中になる、「獣の奏者」も「守り人」シリーズも、上橋さんの頭の中だけで作られたものではなく、上橋さんの歩みの中で、生まれ出たのだと感じます。もちろん、簡単に生まれ出たわけではなくて、ものすごく難産だったことも書かれていますが、「獣の奏者」を読んで語ってくれた小学生の女の子や、「守り人」シリーズの文庫版を電車で読んでいたおじさんを思い出すと、上橋さんがあきらめずに、形にして世に出てくれて、本当によかったと思います。

また、巻末にブックリスト~上橋菜穂子が読んだ本~(読んできた本すべてではなく、思い出に残っている本を中心に紹介)をがあります。読んできた本がその人を作ると言われますが、リストを眺めていると、上橋さんの歩んできた道を、さらに奥深く感じられます。遺跡の発掘を扱った『埋もれた世界』(A.T.ホワイト著 岩波少年文庫)、ローマ・ブリテン時代の歴史物語『第九軍団のワシ』(ローズマリ・サトクリフ著)、不思議なタイム・ファンタジー『グリーン・ノウの子どもたち』(ルーシー・М・ボストン著)、民族学関係の『忘れられた日本人』(宮本常一著)、『遠野物語・山の人生』(柳田國男著)など、10代に出会ってほしい骨太の作品ばかりです。上橋さんの作品が好きで、この本を読んだ中高生が、リストから気になる本を手に取って、自分の世界を広げていってくれると思うと楽しみです。児童担当としても読んでおきたい本ですので、ぜひ読んでみてください。

この本は、「どうやったら作家になれますか」という質問に答えるためには、物語を書くまでにたどってきた道を伝えなければならないという思いもあって作られたそうですが、「夢見る夢子さん」のままでいたくないと、勇気をもって一歩を踏み出し、自分の人生を歩んでいる上橋さんの言葉は、作家志望の人だけでなく、憧れをもって前へ進もうとする若い人たちも励ましてくれると思います。物語を紡ぐ作家から、自分自身の物語をえがこうとしている人への応援メッセージです。インタビューをまとめたもので読みやすいので、上橋ファンにも、そして、まだ上橋さんの作品を読んだことがない人にも、おすすめの1冊です。(T.S)


<上橋菜穂子さん作品(一部)>

精霊の守り人 (偕成社ワンダーランド)

獣の奏者 I 闘蛇編

<ブックリスト~上橋菜穂子が読んだ本~で紹介されている本(一部)>

第九軍団のワシ (岩波少年文庫 579)
ローズマリ サトクリフ
岩波書店
2007-04-17







グリーン・ノウの子どもたち (グリーン・ノウ物語 1)

忘れられた日本人 (岩波文庫)



遠野物語・山の人生 (岩波文庫)






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