基本図書を読む4『星の王子さま』サン=テグジュペリ


「大切なものは目に見えない」という有名なフレーズを残した『星の王子さま』は、第二次世界大戦が終わってまもなくの1946年にアントワーヌ・ド・サン=テグジュペリの遺作として、フランスで出版されました。サン=テグジュペリはその2年前にドイツ軍を飛行機で偵察中に地中海で撃墜され亡くなりました。

星の王子さま―オリジナル版
サン=テグジュペリ
岩波書店
2000-03-10
 
『星の王子さま』は、子ども向けの童話として書かれていますが、人間社会の矛盾や、虚栄心にとらわれた大人たちへの風刺が散りばめられており、多くの大人をも惹きつけてきた哲学的な作品です。
 
冒頭に、サン=テグジュペリの言葉として「そのおとなの人は、むかし、いちどは子どもだったのだから、わたしは、その子どもに、この本をささげたいと思う。」とあるように、この本は実は大人に向けて書かれていたともいえます。
 
物語は、一人の飛行士がサハラ砂漠に不時着し、そこで不思議な雰囲気の小さな子どもに出会うところから始まります。それは、小さな星からやってきた王子さまでした。物語は、王子さまが、自分の星でしていたことや、いくつかの星をめぐってたことを、順番に並べながら展開していきます。
 
王子さまの星はとても小さく、バオバブの木が生えないように、芽のうちから摘んでいること、小さな美しい花を育てていることなどが読んでいるうちにわかります。あるとき王子さまは、その大切な花に愛想をつかして自分の星を出てきたのです。
 
そのあとの星めぐりでは、支配権にこだわる王さま、ナルシストなうぬぼれ男、自己憐憫におぼれる呑み助、数字が増えることが自分の幸せだと錯覚している実業家、実際に現地を見もしないで空虚な机上だけの学問に自己満足する地理学者に王子さまは出会います。大人のもつエゴイズムを、それらの人々の中に描き出しています。
 
また、ある星ではガス燈をつけたり消したりする点燈夫に出会います。言われたことを忠実にこなす点燈夫は、働く喜びを感じることなく、どうしたら効率よくできるかという工夫もせず、ただただ働き続けています。ただ他に出会った人と違うことは、自己の欲望のためではなく、他のために働いているという点で、王子さまは点燈夫に好意を抱きます。
 
そして最後に王子さまは、地球にやってきたのでした。そしてキツネと出会い、友達になります。
 
そのキツネが「秘密のおくりもの」として王子さまに伝えるのが、「心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。かんじんなことは、目にみえないんだよ」という言葉でした。
 
この言葉と、『星の王子さま』の物語を十分に理解するためには、その背景にあるキリスト教の教えも知っておく必要があるでしょう。この「大切なものは目に見えない」というのは、新約聖書コリント信徒への手紙第二に由来しているのです。
 
コリント信徒への手紙第二4章16~18節
「だからわたしたちは落胆しません。たとえ、わたしたちの「外なる人」は衰えていくとしても、わたしたちの「内なる人」は日々新たにされていきます。わたしたちの一時の艱難は、比べものにならないほどの、恵みのある永遠の栄光をもたらしてくれます。わたしたちは、見えるものではなく、見えないものに目を注ぎます。見えるものは過ぎ去り、見えないものは永遠に存続します。」
 
この本の主題は、まさにこのキツネと王子さまとの対話の中にあると言ってよいでしょう。目に見える現象にとらわれがちな人間に、その本質を見抜き、対象に価値を与えるのは、私たち自身の心であり、目に見えない心の働きこそが重要であるということを、ここで明確に伝えてくれています。
 
王子さまは、やがて自分が星に置いてきた花への愛を思い出し、金色のヘビの力を借りて星へ戻っていきます。王子さまと出会ったことによって、飛行士は人間社会で身につけてきた地位や名誉、財産などといったうわべの虚飾にとらわれることなく、人間はなぜ生きるのか真剣に考えるようになります。そのことを忘れないようにと、王子さまとの出会いを物語に書いたと、綴っています。
 
この本は、こども時代に出会って読むときと、大人になって読むときとでは、受ける印象が違ってくることでしょう。何度でも読み返してほしい本です。社会的な経験が加わるにつれて、深い読み込みが出来るようになるからです。
 
小説家で詩人の池澤夏樹氏が、子どもにも是非読んでほしいと願って抄訳した絵本も出版されています。サン=テグジュペリの描いた絵が大きく中心に据えられていて、その絵の魅力に出会うことができます。しかし、省略された部分も多く、やはり本として子どもたちに出会ってほしいと思います。
絵本 星の王子さま
アントワーヌ・ド サンテグジュペリ
集英社
2006-10

 

 
また、2005年に著作権が消滅したのを機に、多くの新訳が出版され、そのうちの何冊かは、原題の『Le Petit Prince』にならって『小さな王子』というタイトルで出版されているものもあります。すべてを読み比べたわけではありませんが、岩波書店の内藤濯訳とは同じにならないよう意識して訳出されています。また岩波書店の本にある内藤濯氏の解説は、一読の価値があるでしょう。
この本の解説書として、おすすめの2冊を紹介します。哲学的な内容の『星の王子さま』を深く読み解くための、道しるべになることでしょう。(K・J)
星の王子さまの世界―読み方くらべへの招待 (中公新書 (638))
塚崎 幹夫
中央公論新社
1982-01
 
 
 
 
 
 
 

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