基本図書を読む8『太陽の戦士』 ローズマリ・サトクリフ


  ローズマリ・サトクリフは、幼いころに関節炎をわずらい不自由な体でしたが、ローマ時代のブリテンをあつかった作品群を執筆し、イギリスの歴史小説の書き手として定評のある作家です。1959年には『ともしびをかかげて』でカーネギー賞を受賞しています。今回紹介する『太陽の戦士』は、青銅器時代のブリテンを舞台にしています。


ローズマリ・サトクリフ 岩波書店 2005-06-16
ローズマサトクリフ 岩波書店 1968-12-20
 
 
 主人公のドレムは片腕が不自由でしたが、1対1でオオカミと命をかけて勝負をする試練を得て、緋色を身につけることができる部族の戦士になるのが夢でした。9歳のとき、ドレムは決して戦士にはなれないと言われているのを聞いてしまいますが、勇敢な戦士タロアの励ましをえて、片腕でも狩りができる槍を、誰よりもうまく扱えるようになることを決意します。12歳になると、部族の少年たちが共に生活し、戦士になるために必要なことを学ぶ”わかものの家”に入ります。そこで、ドレムは自分の片腕を馬鹿にするものとは一歩もひかずやりあって、自分の場所を見い出し、ボトリックスという親友もえて、成長してきます。そして15歳の冬、オオカミ殺しの試練に向かうのですが・・・・・・。
 
 ドレムは、戦士になるという決意のかたさ、槍の訓練をする忍耐強さ、勝負にかける激しさ、そして、傷ついていることを気づかれまいとする弱さ、生きものを気遣わずにはいられない優しさをもっている少年です。そんな複雑な内面を抱えながらも、しっかりした芯をもち、挫折を乗り越えていく姿は、力強く尊くもあり、生きるということを考えさせられます。
 
 また、この作品の特徴として、青銅器時代を舞台とした歴史小説だということがあげられます。『ジャンル・テーマ別 英米児童文学』では、歴史小説について、次のように述べられています。
「作家は、ある時代の生活の細部を、史実をふまえ、想像力を駆使することによって、目に見えるように描写しなければならないのである。そのとき歴史は単なる背景であることをやめ、物語の内在的要素となる。」(p278)
 サトクリフは、狩りをして日々の糧を得る生活、新王をむかえる盛大な儀式、決して変えられない部族の掟など、青銅器時代のくらしや価値観を丁寧に描いています。また、誇り高く気難しい祖父、しっかりものの愛情深い母親、親に捨てられ孤独をかかえる少女ブライなど、ドレムを囲む人たちも存在感があり、その中で成長するドレムの姿が浮かび上がってきます。読み手は、青銅期時代に入り込み、ドレムとともに、時代の空気を吸い、生き抜くことで、人類の長い歴史の中における人の生き方に触れることができるのです。 
 
「もし、事が戦うのにふさわしいことなら、戦え。そしてじいさんのいうことなんかききながしておきな。道はある――まわり道もあれば、ぬける道もあるし、こえていく道もな。弓を射るのに二本の手がなければ、投げ槍を練習しろ。おまえがしかたなしにそれをえらんだってことを、敵のやつらや、兄きたちが忘れちまうほどうまくなるんだ。」(岩波少年文庫 P56)
 
 ドレムの支えとなった、部族の戦士タロアの言葉は、現代の若い人たちにも勇気を与えてくれるでしょう。骨太の作品で手に取られにくいのですが、ぜひ伝えていきたい1冊です。
 
<参考文献>
 
『ジャンル・テーマ別 英米児童文学』 吉田新一編著 中教出版 1987
 英米児童文学を中心に、伝承文芸、絵本、幼年童話と少年少女小説といったジャンルや、動物物語、冒険物語、歴史小説といったテーマに分けて、そのジャンルおよびテーマの概要が詳しく解説されている本です。代表的な作家、作品の基本的な知識を得られるだけではなく、特定の分野について俯瞰してみることができるようになっています。
 
『世界児童・青少年文学情報大事典(第1~16巻) 藤野幸雄編 勉誠出版 2000-2004
 アメリカのゲール・リサーチ出版の児童文学に関する事典『作者についての情報』(Something about the Author,1976- )、および『児童ヤングアダルト主要作家=挿絵画家事典』(Major Authors and Illustrators for Children and Young Adults:A Selection of Sketches from Something about the Author,compiled by Laurie Collier and Joyce Nakamura,1993,6vols.)などから、日本の読者に知られている作家および挿絵画家を選んで、翻訳・編集されたものです。
 各項目には、作家・画家の略歴、職歴、受賞、日本語約、著作の全リストならびに作者についての情報提供の事項が書かれていて、作家・画家について詳しく知る手がかりとなります。
 
(T.S)

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