基本図書を読む15『だれも知らない小さな国』


子ども時代に、どこか身近に小人がいてくれたらどんなに素敵だろうと想像したことのある人はきっと多いでしょう。絵本や児童文学の中で小人と出会って、それが本当になればと私も思っていました。繰り返し、繰り返し、同じことの連続の毎日にそんな不思議なことが起きる“エブリディ・マジック”の代表が小人の登場する作品です。

数年前にジブリが映画化したイギリスのメアリー・ノートンの作品である『床下の小人たち』(原作『Borrowers』1952年、邦訳1956年 岩波書店)をはじめとして、イギリス人教師から託された小人との日々を描いたいぬいとみこの『木かげの家の小人たち』(初版1959年 中央公論社)など、子ども心に印象に残っている作品はいくつかありますが、とりわけ心に残っている作品が「コロボックル物語」として知られる佐藤さとるの『だれも知らない小さな国』(1959年 講談社)でした。

コロボックル物語(1) だれも知らない小さな国 (児童文学創作シリーズ)
佐藤 さとる
講談社
1985-02-27

 この作品は、「戦後日本児童文学初の本格的ファンタジー作品として、また現代日本児童文学を生むきっかけになった作品として大きな価値を持つ」と評され(「日本の子どもの本100選 1945年~1978年」大阪国際児童文学館HPより)、たとえば2014年に有川浩がその続きの物語『コロボックル絵物語』(講談社)を書いた時の対談で“このシリーズに子ども時代に出会って作家を志した”と言っているように、大きな影響力をいまだに持ち続けています。

今回、ほんとうに久しぶりにシリーズを読み返してみました。(子どもの時以来です。)そして大変驚きました。物語の時代背景は第二次世界大戦をはさんで、特に戦後の復興期が主人公の「ぼく」と小人たちとの共存共生の時期にあたるのですが、底に流れる「子ども時代の輝き」「不思議な体験」への憧憬は今も色あせず、こうしてずっと読み継がれる作品として残ってきたことを改めて思わされました。

だれも知らない小さな国―コロボックル物語 1 (講談社青い鳥文庫 18-1)
佐藤 さとる
講談社
1980-11-10

 物語の主人公「ぼく」は、小学生の時にいつも遊んでいた山の中で伝説になっていた「こぼしさま」に出会います。それはその小山に紛れ込んできた女の子の無くなった片方の靴を探しているときでした。小川を流れていくその靴を拾いあげようとして、その中で手を振っている小指ほどの大きさの小さな人を見つけるのでした。それから何度も「こぼしさま」を探しに行くのですが会えないまま「ぼく」は引っ越していってしまいます。その後、日本では戦争が始まり、やがて終戦を迎えます。焼け野原になった町を眺めていて、急に思い出したのが、子ども時代に遊んだ小山とそこで出会った「こぼしさま」だったのです。

それから「ぼく」は、子ども時代に過ごしたその山に足繁く通い、そこを自分のものにしようと持ち主に掛け合って小屋を建てます。そして「こぼしさま」たちと再会し、また靴を片方落とした女の子、今では幼稚園の先生になっている「おちび先生」や「こぼしさま」たちと力を合わせて、山を開発して自動車道を通そうとする計画を変更させます。やがて「ぼく」は「おちび先生」と結婚するのですが、その過程のどれもが、子ども心にもわくわくとするエピソードの連続で、読む者を飽きさせません。

この物語の中で、「ぼく」は「こぼしさま」はアイヌの伝説に出てくる「コロボックル」との関連について研究しています。これは、佐藤さとるさん自身が終戦後、旭川に疎開していた家族のもとに身を寄せ、そこで進駐軍のキッチンボーイをしていた頃に、アイヌの「コロボックル伝説」に触れ、それと日本神話に描かれる「少彦名命(すくなひこのみこと)伝説」との関連を調べ、縄文時代の先住民族が持っていた神様像として共通しているという確信を持っていたことに依拠しています。

「こぼしさま」に出会う小山も、佐藤さとるさんが幼少期を過ごし、遊び場としていた横須賀の三浦按針の墓のある塚山公園あたりをイメージして描かれており、地図でその辺りの地形を見ると、『だれも知らない小さな国』の始まりに描かれている地図とよく似ていることがわかります。

子ども時代にイソップやグリム童話、アンデルセン童話やアラビアン・ナイト、ギリシャ神話をたくさん読んでいたという佐藤さんならではの、幼少期や青年期の多感な時期に出会った物語や情景など様々なものが重なり合って、このような傑出した物語に結実していったと言えるでしょう。


 この作品は、毎日出版文化賞、日本児童文学者協会新人賞、国際アンデルセン賞国内賞を受賞しました。同じ年に出版されたいぬいとみこさんの『木かげの家の小人たち』が、戦争の影を描いているのに対して、イデオロギーとは離れた作品であることも、今の子どもたちには受け入れやすい作品とも言えるでしょう。

コロボックル絵物語 (Colobockle Picture Book)
有川 浩
講談社
2014-04-16

また、第2巻『豆つぶほどのちいさないぬ』、第3巻『星からおちた小さな人』、第4巻『ふしぎな目をした男の子』、第5巻『小さな国のつづきの話』と続き、1987年に第6巻『小さな人のむかし話』(のちに『コロボックルむかしむかし』に改題)まで、コロボックル物語のシリーズは続きました。続編のどれもが第1作に劣らず面白かったことも、長く読み継がれてきた理由のひとつでもあったと思います。そして先にも述べたように、「コロボックル物語」を読んで育ったという有川浩さんが、その後の「コロボックル物語」を書き継ぐというのですから、これからも読み継がれていく作品として、子どもたちにもぜひ勧めたいと思います。

佐藤さとるさんの創作の背景については、Web版「有鄰」の第452号に詳しく座談会記事として掲載されています。→こちら「有鄰」第452号・佐藤さとると「コロボックル」たち


最後に小人の出てくる代表的な児童文学をもう一度紹介しておきます。ロングセラーの『床下の小人たち』(シリーズ含めると5冊)、『木かげの家の小人たち』(続編『くらやみの谷の小人たち』もあり)は、手軽に読める文庫版になっており、今の子どもたちにも勧めやすくなっています。また、朽木祥さんの『引き出しの中の家』(2010年 ポプラ社)も2013年に文庫版が出版されています。洋の東西、またロングセラーと現代の作品の「小人」の出てくるファンタジーを読み比べてみてもよいでしょう。

床下の小人たち―小人の冒険シリーズ〈1〉 (岩波少年文庫)
メアリー ノートン
岩波書店
2000-09-18

 

原作名が『Borrowers』(借りる人たち)であるように、ここに出てくる小人たちは、床下に住んでいて人間たちから生活必需品を借りて暮らしています。人間から借りたものをどのように工夫して生活用品にしているか、想像力をかきたてるファンタジーです。 

 
木かげの家の小人たち (福音館文庫 物語)
いぬい とみこ
福音館書店
2002-06-20
 
親子で引き継いでイギリス生まれの小人を世話してきた森山家でしたが、第二次世界大戦が始まり、小人たちの世話がままならなくなってきます。そのような中でどうにか彼らを守ろうとする娘のゆりと小人たちの物語から目を離せなくなります。
 
 

1960年代、亡き母との思い出のつまった七重の引き出しの中のミニチュアの家に、ある日「花あかり」と言い伝えられてきた小さなお客様がやってきます。それから時代は進み、2000年代に舞台は変わり従姪孫の世代に・・・従姪孫の薫の前にもある日「花あかり」の桜子が現れます。2つの物語は時を越えてやがてひとつに紡がれていきます。『かはたれ』(福音館書店)で児童文芸新人賞、日本児童文学者協会新人賞をとった朽木さんのファンタジー作品です。
(K・J)