2015年7月の新刊から


2015年7月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの本を紹介します。

絵本

『せいめいのれきし改訂版』バージニア・リー・バートン 文・絵 いしいももこ訳 まなべまこと監修 岩波書店 2015/7/22

せいめいのれきし 改訂版
バージニア・リー・バートン
岩波書店
2015-07-22

1964年に石井桃子の翻訳で出版されて以来、長く読み継がれてきた名作『せいめいのれきし』は、多くの子どもたちに地球科学や古生物への関心を抱かせ、大きな影響を与えてきました。しかしここ20年ほどで地殻変動や気候変動、進化の流れなどについて新しい知見が出され、内容が一部古くなってきていました。その一方で、地球誕生から現在に至るまでの生命のつながりをプロローグ+5つの場面(幕)でわかりやすく伝えながら、その生命のつながりの中に今の私がいるということを伝えるバージニア・リー・バートンの秀逸なる絵物語に勝るものはほかにはなく、その考え方は子どもたちにぜひ伝えたいと思ってきました。アメリカでは2009年に『LIFE STORY Update Edition』が出版され、それを基にこの度日本でも改訂版として、新しい知見を反映した新訳が出版されました。監修を務めたのは国立科学博物館生命進化史研究グループ長の真鍋真氏で、石井桃子の訳を生かしながら東京子ども図書館の協力のもと、改訂が行われました。旧版と見比べながらぜひ中身を確認していただきたいのですが、例えばプロローグ2場の「太陽系」の説明ページでは、「太陽の家族にあたる、九つの惑星のひとつで」というところが、「太陽の家族にあたる、8つの惑星のひとつで」と書き直され、絵からも冥王星が削除されています。特に生物が誕生してからの記述は最新の知見に合わせて時代区分や生物の名前などが多くが書き直されていますが、5幕はほとんどが石井桃子訳のままに残されています。初版から50年間もの間に64刷40万部出版されて読み継がれたこの作品を、この改訂により、現代の子どもたちにも自信を持って手渡していくことができるでしょう。岩波書店での紹介ページは→こちら 

『アンドルーのひみつきち』ドリス・バーン 文・絵 千葉茂樹 訳 岩波書店 2015/7/7

アンドルーのひみつきち
ドリス・バーン
岩波書店
2015-07-07

 

昨年の秋に「本のこまど」でも紹介した『クリスティーナとおおきなはこ』(偕成社)の絵を描いたドリス・バーンの作品です。『クリスティーナ・・・』では大きな冷蔵庫の入っていたダンボール箱を次々に形を変えて遊ぶ子どもを描いていましたが、今度のテーマは「ひみつきち」です。アンドルーは身近にあるモノを使って次々に発明をし、様々な作品を作り上げますが、家庭の中では邪魔者扱いにされ、さっさと片付けるように注意をされてしまいます。思い切り自分の作品作りがしたいと思ったアンドルーは、秘密基地になる場所をみつけ、そこに自分の居場所を作ります。ところがそこには、同じように自分の居場所を求めて他の子どもたちも集まってきます。この絵本の良いところは、秘密基地を作って出て行った子どもたちが親に自分たちのやっていることの価値を認めてもらって、また家庭に居場所を作ることです。親たちの子どもの気持ちに寄り添い、理解しようとする姿勢に、読んでもらう子ども達も安心感を味わうことができるでしょう。

 『しりたがりやのこねこのポコ』安藤美紀夫 文 スズキコージ 絵 復刊ドットコム 2015/7/21

しりたがりやのこねこのポコ
安藤 美紀夫
復刊ドットコム
2015-07-22

 1979年に文研ジョイフルえほんNo.59として出版されていて、長く絶版になっていた絵本が読者の要望に応えて復刊されました。まさとくんちにもらわれてきたねこのポコは好奇心満々。ある日まさとくんの家族が出かけてしまった留守の間にポコはまだ行ったことのない2階へと上がって行きます。子ども部屋で、絵本の世界に引き込まれ、絵本の中で不思議な冒険を続けていきます。安藤美紀夫のリズミカルな文章に合わせたスズキコージの絵が、その不思議な雰囲気を一層醸し出しています。

 

『いそあそび しようよ!』はたこうしろう 文・絵 奥山英治 文 ほるぷ出版 2015/7/18

いそあそびしようよ! (ほるぷ創作絵本)
はた こうしろう
ほるぷ出版
2015-07-18

 夏休みにおばあちゃんのいる海辺の町へ出かけた兄弟が、おばあちゃんの知恵を基にして、磯でいろいろな生き物をみつけて実に楽しそうに遊びます。砂浜と違ってたくさんの生き物のいる磯ですが、岩がごつごつしていて怪我もしやすい場所でもあります。絵本の中ではさりげなく磯遊びのための安全な出で立ちなども説明をしながら、子どもたちの興味関心を引き出すように、兄弟が生き生きと楽しんでいる様子を描いています。生き物の生態なども描かれており、磯遊びのお供に出来る1冊です。また、共著者の奥山さんは雑誌『BE-PAL』に連載記事を書いている日本野生生物研究所の研究員です。(公式ブログは→こちら)なお、2013年に出版された『むしとりにいこうよ!』、2014年に出版された『ふゆのむしとり』の続編です。はたこうしろうさんのサイト→『いそあそびしようよ!

 

 児童書

 『波のそこにも』末吉暁子 著 佐竹美保 挿絵 偕成社 2015/7/15

波のそこにも
末吉暁子
偕成社
2015-07-15
 
「ぞくぞく村のおばけ」シリーズや「ざわざわ森のがんこちゃん」シリーズなどのロングセラーを書いている末吉暁子さんの本格的な歴史ファンタジーです。「平家物語」に描かれる壇ノ浦の合戦でわずか8歳で祖母にあたる尼御前に抱かれて身を投げた安徳天皇が水底の国で生きていたら、という想定で繰り広げられる物語です。皇子が主人公の女の子タマオをはじめとする水底の国に住む人々と出会い、帝の御印である宝剣を探す旅に出かけます。周囲の人に守られるのが当たり前のように思っていた皇子が旅を通して成長していく様子や、タマオの微かな恋の物語などを織り込みながら、また日本神話をベースにして描かれた『地と潮の王』(藤川秀之 挿絵 講談社 1996)や、羽衣伝説をベースにして描かれた『水のしろたえ』(丹地陽子 挿絵 理論社 2008)とも繋がって物語は展開していきます。結末はとてもほっとできるもので、「がんこちゃん」シリーズなどに親しんできた子どもたちにも、4年生くらいから手渡せる作品になっています。絵は『魔女の宅急便』3巻以降や『魔法使いハウルと火の悪魔』などのイラストを手がける佐竹美保さんです。
 
 
『スカラブ号の夏休み 上』『スカラブ号の夏休み 下』アーサー・ランサム 著 神宮輝夫 訳 岩波少年文庫 岩波書店 2015/7/16
スカラブ号の夏休み(下) (岩波少年文庫 ランサム・サーガ)
アーサー・ランサム
岩波書店
2015-07-16
 
 「本のこまど」本に関する情報→連載「基本図書を読む」14回で紹介をしたアーサー・ランサムの『ツバメ号とアマゾン号』から始まるランサム・サーガの11巻目が少年文庫として出版されました。この物語の重要な登場人物は2巻の『ツバメの谷』に出てくるアマゾン海賊(ナンシィとペギィのブラケット姉妹)の大おばと、4巻目の『長い冬休み』に登場するドロシアとディックというカラム家の姉弟(D’s)たちです。ナンシィとペギィ姉妹の母親ブラケット夫人の招待で、夏休みを北の湖で過ごそうと楽しみにしてやってきたD’sでしたが、実はブラケット夫人とナンシィたちの叔父であるフリント船長は旅行中でした。ブラケット夫人は、子どもたちの自律を信じて招くのですが、「娘たちを使用人に任せて留守にするなんて」と、躾に厳しい大おばがその事実を知って急遽やってくることになり、彼らはブラケット家に居られなくなります。アマゾン海賊の提案で森の中の「犬小屋」に潜伏することになったD’sと、大おばの前では白いワンピースを着ておしとやかに振舞うアマゾン海賊の涙ぐましい演技、ワンマンな大おばに振り回されながらも、たくましくその困難を楽しんでいる様子の子どもたちの姿は私たちを惹きつけ、物語の急展開と相まってぐいぐい引き込まれていきます。70年以上前に書かれた物語ですが、理不尽にも子どもを型にはめようと押さえつける大人に対抗して、知恵を働かせる子供たちの姿は、現代の子どもが読んでも、きっと面白いと思います。ランサム・サーガの魅力に、この『スカラブ号の夏休み』で出会って欲しいと思います。

 

『トンネルの森1945』角野栄子 著 大庭賢哉 挿画  角川書店 2015/7/20

トンネルの森 1945<トンネルの森 1945>
角野 栄子
KADOKAWA / メディアファクトリー
2015-07-20

 角野栄子さんご自身の戦争体験から書き下ろした作品です。この本を読むと、当時の小学生が置かれていた状況がとても手に取るようにわかります。平和だった日々の生活が一変し、田舎に疎開する、大切な人が空襲で亡くなる、父親が行方不明になるというようなエピソードはこれまでも多くの作家が子ども向けに書いてきました。この本では、子どもの気持ちの動きを中心にして描き、田舎の緑深い情景描写が、凛として静かに響いてきます。疎開していた山奥の一軒家と小学校などのある村を隔てるトンネルのような森の道を「トンネル」と表現し、その先に見えてくる光が象徴的に描かれています。それは子ども心にいつか戦争が終わるという微かな希望に繋がっているようにも感じました。

 その他

『最後の詩集』長田弘 著  大橋歩 イラスト みすず書房 2015/7/2

最後の詩集
長田 弘
みすず書房
2015-07-02

 今年の5月3日に75歳で亡くなられた詩人・長田弘さんの文字通りの「最後の詩集」です。前半は十五篇の詩が、後半は、「日々の楽しみ」という短いエッセイが六篇収められています。いずれも2013年以降から昨年末までの間に発表されたものだそうです。長田さんの晩年の物事を静謐に見つめる視線を感じる詩や文章です。この詩集の原稿を出版社に推敲して渡した時点で、長田さんご自身は「これが最後」という覚悟をしていらしたとのこと。(みすず書房のサイト→こちら)児童向けではありませんが、「子どもの詩」(読売新聞)の選者として長年子どもたちに関わってきた長田弘さんに敬意を表し、こちらで紹介させていただきます。

(K・J)