2015年10月、11月の新刊から


2015年10月、11月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの本を紹介します。

絵本

『スワン アンナ・パブロワのゆめ』ローレル・スナイダー/文 ジュリー・モースタッド/絵 石津ちひろ/訳 BL出版 2015/10/20
ローレル スナイダー
BL出版
2015-10
 
20世紀の初めに活躍した ロシアの伝説的なバレリーナ、アンナ・パブロワを題材にした絵本。「ひん死の白鳥」で世界的に有名になったパブロワが、貧しかった子ども時代を思い出して小さな村にまで出かけて行って踊ったことなどが描かれています。絵がとても美しい絵本ですが、パブロワの一生を描くという点では、終わり方が少し中途半端な気がします。それでもバレリーナを題材にした絵本が少ないので、バレエに興味を持つ子どもたちに手渡してあげてもよいでしょう。またこの絵本から、今年6月に出版された『夢へ翔けて 戦争孤児から世界的バレリーナへ』(ミケーラ・デプリンス、エレーン・デプリンス/文 田中奈津子/訳 ポプラ社 2015/06)につなげてあげるとよいでしょう。
 
『子どものためのラ・フォンテーヌのおはなし』マーガレット・ワイズ・ブラウン/再話 アンドレ・エレ/絵 あべきみこ/訳 こぐま社 2015/10/24
子どものためのラ・フォンテーヌのおはなし
マーガレット・ワイズ ブラウン
こぐま社
2015-10-24
 
イソップの物語を17世紀のフランスの詩人ジャン・ド・フォンテーヌ(1621-1695)が寓話集にしたものを、マーガレット・ワイズ・ブラウンが再話したものです。「コオロギとアリ」「キツネとぶどう」「オオカミとヤギと子ヤギ」など、読めばどこかで聞いたことのあるおはなしばかり13話が収められています。アンドレ・エレの絵もはっきりとしてわかりやすく想像をかきたてます。 
 
『おじいちゃんのコート』ジム・エイルズワース/文 バーバラ・マクリントック/絵 ほるぷ出版 2015/10/28
おじいちゃんのコート (海外秀作絵本)
ジム エイルズワース
ほるぷ出版
2015-10-28
 
イディッシュ語(東ヨーロッパなどで使用されるユダヤ人の言語)の民謡が元になっているおはなしです。同じ民謡を元にした絵本に『おじいさんならできる』(フィービ・ギルマン/作 芦田ルリ/訳 福音館書店 1998)や、コールデコット賞受賞作の『ヨセフのだいじなコート』(シムズ・タバック/作 木坂涼/訳 フレーベル館 2001)があります。それぞれの作品は、最初が赤ちゃんの時におじいさんに贈られたブランケットだったり、すりきれた古いコートだったりするのですが、この作品では仕立て屋だったおじいちゃんが結婚する時に自分で仕立てたコートがはじまりです。古くなってすりきれるたびに上着やベスト、ネクタイと変化していくところは同じですが、最後には孫のためのねずみのおもちゃになるのです。『ないしょのおともだち』(ビバリー・ドノフリオ/作 ほるぷ出版 2009)などの作品があるバーバラ・マクリントックの絵は、品があり、家族の暖かさを伝えてくれます。並べて展示をしても面白いと思います。  
 
『わいわいきのこの おいわいかい』レーマ・ペトルシャーンスカヤ/文 タチヤーナ・マーヴリナ/絵 まきのはらようこ/訳 保坂健太郎/きのこ監修 カランダーシ 2015/11/2
わいわいきのこのおいわいかい きのこ解説つき
レーマ・ペトルシャーンスカヤ
カランダーシ
2015-11-02
 
 ロシアの絵本を専門に出版しているひとり出版社カランダーシ(K・Jの大学の同級生がやっています)から新しい絵本が出ました。国際アンデルセン賞受賞画家タチヤーナ・マーヴリナの描くきのこのにぎやかな声が聞こえてきそうな楽しい絵本です。おはなしの中でも、さまざまなきのこの特徴が描かれていますが、絵本の末尾に国立科学博物館 植物研究部 菌類・藻類研究グループ研究員の保坂健太郎氏によるカラー写真付のきのこの解説もあり、一層おはなしに親しみがもてることでしょう。
 
 『ゆき』きくちちき ほるぷ出版 2015/11/20
ゆき (ほるぷ創作絵本)
きくちちき
ほるぷ出版
2015-11-20
 
2013年にブラティスラヴァ世界絵本原画展で見事「金のりんご」賞を受賞されたきくちちきさんの最新作が出版されました。パリの古本屋さんでブーテ・ド・モンヴェルの絵本に出会い、衝撃を受けて100年以上読み継がれる絵本を作りたいと絵本を創り始められたきくちちきさんですが、一作ごとに絵本の表現も磨かれていっています。きくちさんが生まれ育った北海道の大地を舞台に晩秋の森に雪が降り始め、やがて一面の雪に閉ざされるまでをダイナミックな筆使いで描いた作品です。動物や子どもたちの息遣いも聞こえてきそうです。  

『おうさまのくつ』ヘレン・ビル/文 ルイス・スロボドキン/絵 こみやゆう/訳 瑞雲舎 2015/11/24
おうさまのくつ
ヘレン ビル
瑞雲舎
2015-11-24
 
うぬぼれやのくつが、自分たちこそお城に住むのにふさわしいと、はりきってお城へ出かけていくのですが、どしゃぶりの雨にふられてしまいます。そしてお城中に泥まみれの足あとをつけて、追い返されるはめに・・・お城の中でのやり放題なくつにはハラハラドキドキするでしょう。しかし、その後くつがどのようになったかの結末は子どもたちにとってもホッとするものです。 
 
 
児童書

『クリスマスの森』ルイーズ・ファティオ/文 ロジャー・デュボアザン/絵 つちやきょうこ/訳 福音館書店 2015/10/7

クリスマスの森 (世界傑作絵本シリーズ)
ルイーズ・ファティオ
福音館書店
2015-10-07
 
プレゼントの準備に忙しくて寝不足のまま、トナカイたちと飛び立ったサンタクロースは、プレゼントを配り始める前に一休み。おくさんが作ってくれたコーヒーを飲んでサンドイッチを食べると睡魔が襲ってきて眠り込んでしまいます。このままではプレゼントがみんなのところに届きません。そこで森の動物たちが大活躍。デュボアザンの絵も温かい雰囲気を醸し、ほのぼのとした物語です。 
 
 
『ハリーとうたうおとなりさん』ジーン・ジオン/文 マーガレット・ブロイ・グレアム/絵 こみやゆう/訳 大日本図書 2015/11/25
ジーン ジオン
大日本図書
2015-11
 
どろんこハリー』(福音館書店 1964) などの絵本でハリーのファンになった子どもたちに読んでほしい幼年童話です。ハリーの家のとなりに住む歌手のおばさんは、いつも高く大きな声で歌の練習をしています。ハリーにはそれがとても不快でした。なんとか歌うのをやめさせようとするのですが・・・ハリーにとっても歌手のおとなりさんにとってもハッピーな解決方法はあるのかしら。今年1月に亡くなられたマーガレット・ブロイ・グレアムの最新邦訳の1冊です。
 
 
 『雪の女王』ハンス・クリスチャンセン・アンデルセン/作 サンナ・アンヌッカ/絵 こみやゆう/訳 中央出版(アノニマスタジオ) 2015/11/6
雪の女王
ハンス・クリスチャン アンデルセン
KTC中央出版
2015-11-06
 
フィンランドのファッションブランド、マリメッコのデザイナー サンナ・アンヌッカが絵と装丁を手がけた美しい本です。児童室に置くには字体も小さいので迷うかもしれません。それでもこみやゆう氏による翻訳は読みやすく、おしゃれに敏感なYA世代には手にとってもらえるのではないかと思います。同じくサンナ・アンヌッカが描き、こみやゆう氏が翻訳したの『もみの木』(ハンス・クリスチャン・アンデルセン/作 サンナ・アンヌッカ/絵 こみやゆう/訳 中央出版(アノニマスタジオ) 2013)と合わせて、アンデルセン童話の真髄を伝える試みも面白いと思います。 
 
『北風のうしろの国』上・下 ジョージ・マクドナルド/作 脇明子./訳 岩波少年文庫 岩波書店 2015/1016
北風のうしろの国(上) (岩波少年文庫)
ジョージ・マクドナルド
岩波書店
2015-10-17

北風のうしろの国(下) (岩波少年文庫)
ジョージ・マクドナルド
岩波書店
2015-10-17
 
 19世紀のイギリスを代表する児童文学作家のジョージ・マクドナルドの作品で、1868年から69年にかけて『Good Words for the Young」という雑誌に連載されていた物語が1871年に単行本化された作品です。当時、イギリスは産業革命を成し遂げ、日本は1968年に明治維新が起きています。ダイヤモンドという主人公の男の子は、美しい北風と出会い、北風のうしろの国へ行ってきます。そこはとても美しく平和で、誰もが穏やかに過ごしていました。そこから戻ってきてからのダイヤモンドは、人の痛みに寄り添い、素晴らしい働きをします。どの時代にも貧富の差があり、貧しいながらも高潔な気持ちを保ちながら懸命に生きていた子どもたちがいたのだということ感じました。1977年に田谷多枝子訳で太平出版から出され、2005年にはハヤカワ文庫として中村妙子訳が出版されています。この度岩波少年文庫となり、現代の子どもたちに手渡されることになりました。脇明子さんの翻訳も子どもたちにとって、読みやすいでしょう。
 
『だれもが知ってる小さな国』有川浩/作 村上勉/絵 講談社 2015/10/28
だれもが知ってる小さな国
有川 浩
講談社
2015-10-28
 
 子ども時代に佐藤さとるの『だれも知らない小さな国』をはじめとするコロボックル物語シリーズを愛読していた有川浩さんが、その続きの物語を完成され、出版されました。昨年、『コロボックル絵物語』(村上勉/絵 講談社)を出版された時から、単行本の出版を予告されており楽しみにしていました。(講談社「コロボックル物語」特設ページは→こちら)この本の語り手は「ヒコ」という男の子。養蜂家の両親に連れられて日本中を転々とする生活をしています。そのヒコが、ある時小人のハリー(ハリエンジュノヒコ=ハヤタ)と出会います。お話の舞台も主役も違っていますが、佐藤さとるさんのコロボックルの世界観をしっかりと引き継いで、物語が展開していきます。佐藤さとるさんの作品も青い鳥文庫や講談社文庫で手に入ります。合わせて読んでもらえるような展示ができるとよいでしょう。(連載「基本図書を読む⑮『だれも知らない小さな国』の記事は→こちら
 
『森のプレゼント』ローラ・インガルス・ワイルダー/作 安野光雅/絵・訳 朝日出版社 2015/11/20 
森のプレゼント
ローラ・インガルス・ワイルダー
朝日出版社
2015-11-20
 
『大草原の小さな家』の作家、ローラ・インガルス・ワイルダーの子ども時代のあるクリスマスの数日が描かれた美しい本です。普段は離れた場所で生活をしているおじさん一家がやってくるので、両親も準備に忙しくしています。そして久しぶりのいとこ同士の再会のシーンもとても心温まります。家族がお互いを想い合って手作りのプレゼントを作ったり、クリスマスプレゼントにもらったキャンデーを大切にするなど、今のクリスマスの風景とは随分違っています。安野光雅さんの描く絵も優しく美しく、私たちの心を温めてくれる、そんな1冊です。
 
 
ノンフィクション
『世界でいちばん貧しい大統領からきみへ』くさばよしみ/編 田口実千代/絵 汐文社 2015/10/9
世界でいちばん貧しい大統領からきみへ
くさば よしみ
汐文社
2015-10-09

 2014年3月に出版されて話題になった絵本『世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ』(くさばよしみ/編 中川学/絵 汐文社 2014)を受けて出版された南米・ウルグアイのホセ・ムヒカ前大統領へのインタビューを小学生でも読みやすいようにまとめたものです。「いちばん大切なものは命なんだ。お金で命を買うことはできないんだよ。命は奇跡なんだ。」という語りかけは、前大統領の信念でもあり、その生き方は多くのことを私たちに教えてくれます。世界が憎しみに憎しみで報復しようとしている今だからこそ、子どもたちに読んでほしいと思います。 

 

その他

『読む力・聴く力』河合隼雄 立花隆 谷川俊太郎 岩波現代文庫 岩波書店 2015/10/17

読む力・聴く力 (岩波現代文庫)
河合 隼雄
岩波書店
2015-10-17
 
2005年11月20日に小樽市民会館で行われた絵本・児童文学研究センター主催の第10回文化セミナー「読む 聞く」を一冊にまとめた本です。2006年に岩波書店から単行本として出版(現在、品切れ中)されたものが、このほど岩波現代文庫として出版されました。2007年に79歳で亡くなられた河合隼雄氏の「読むこと・聴くこと・生きること」と、立花隆氏の「人間の未来と読むこと・聴くこと」、そして詩人の谷川俊太郎氏がコーディネーターになってのシンポジウムとどれも示唆に富む内容です。
 
 『「エルマーのぼうけん」をかいた女性 ルース・S・ガーネット』前沢明枝 福音館書店 2015/11/18
「エルマーのぼうけん」をかいた女性 ルース・S・ガネット (福音館の単行本)
前沢 明枝
福音館書店
2015-11-18
 
『エルマーのぼうけん』の著者、ルース・S・ガーネットさんが2010年に来日した時に通訳した児童文学の翻訳者前沢さんが、その後渡米してルースにインタビューをして書いた人物記です。書評家だったルースの父親の友人に『100まんびきのねこ』の作者、ワンダ・ガアグがいて、父親はルースがワンダ・ガアグと結婚するのではないかと思っていたというエピソードや、父親の再婚相手で継母は『ミス・ヒッコリーと森の仲間たち』(キャロライン・シャーウィンベイリー/作 福音館文庫 2005)でも絵を描いている画家で、ルースが『エルマーのぼうけん』(原題は「ぼくのおとうさんのりゅう」)の物語を書いた時に、その世界観を描いてくれる画家を探していた時に継母が一番それにふさわしい絵を描いてくれたというエピソードなどが盛り込まれています。絵本から読み物へ移行するときに、だれもが一度は手にする『エルマーのぼうけん』がどのように誕生したかがわかる1冊です。
 
(作成K・J)