基本図書を読む21『たのしいムーミン一家』トーベ・ヤンソン


テレビのアニメ番組も放映され多くの人に親しみを持たれているフィンランドの作家、トーベ・ヤンソンの「ムーミン」シリーズ。(日本では講談社より出版)2014年はトーベ・ヤンソン生誕100周年にあたり、今年は「ムーミン」シリーズの第1作『小さなトロールと大きな洪水』(冨原眞弓/訳 講談社 1992年)が1945年に書かれて70周年ということで、2014年~2015年にかけて全国各地で「ムーミン展」が行われました。

今回は、一連の作品の中で初めて英訳され、フィンランド以外の国で人気を博した作品、『たのしいムーミン一家』(原作1948年/ 日本版 山室静/訳 講談社 1968年)を紹介します。

新装版 たのしいムーミン一家 (講談社文庫)
トーベ・ヤンソン
講談社
2011-04-15
 
 
 
 
たのしいムーミン一家 (1978年) (講談社文庫)
トーベ ヤンソン
講談社
1978-04
 
 
 
 
たのしいムーミン一家 復刻版
トーベ・ヤンソン
講談社
2015-07-30

 

プロローグはムーミン谷に初雪が降ってくるところ。寒い北国にあるムーミン谷では11月にはみんな冬眠に入ってしまうのです。そしてある春の朝、早くにムーミントロールは長い眠りから目を覚まします。そして、隣に寝ていたはずのスナフキンが居ないことに気がついて、飛び起きるのでした。

冬眠から目覚めたムーミントロールとスナフキンは、友達のスニフを誘って山の方へ散歩に出かけます。そこで見つけたのは真っ黒なシルクハット。3人はこの帽子がどんな騒動を起こすかも知らずに家に持ち帰りました。それは、飛行おに(世界のはての高い山に住む魔物、第5章でスナフキンが語っている)が落とした不思議な力を持った帽子で、帽子の中に何かが入るとたちまち別のものに変身させてしまうのです。その帽子をめぐって、ムーミン谷では夏の間中、不思議なことが次々起こっていきます。個性豊かな登場人物たちが繰り広げるエピソードは、ユーモアがあって、ドキドキすることがあって、ぐいぐいと引き込まれてあっという間に読んでしまうことでしょう。

トーベ・ヤンソンは、この作品の前2作、『小さなトロールと大きな洪水』(原作1945年/  冨原眞弓/訳 1992年)、『ムーミン谷の彗星』(原作1946年/ 下村隆一/訳 1969年)では、戦争の暗い体験をベースに襲い来る自然の恐怖を描き、その中で家族の結びつきの大切さをテーマに書いていました。第3作めにあたる『たのしいムーミン一家』では、ムーミン谷の美しい自然の中で仲間たちがお互いを許容しあい、助け合う姿を描き、子どもたちにとって身近に感じられる作品として仕上げました。

この作品は英訳されイギリスを始め、多くの国で人気を博します。その後、「ムーミン」シリーズは、『ムーミンパパの思い出』(原作1950年/  小野寺百合子/訳 1969年)、『ムーミン谷の夏まつり』(原作1954年/ 下村隆一/訳 1968年)、『ムーミン谷の冬』(原作1957年/  山室静/訳 1969年)、『ムーミン谷の仲間たち』(原作1962年/ 山室静/訳 1969年)、『ムーミンパパ海へいく』(原作1965年/ 小野寺百合子/訳 1968年)、『ムーミン谷の十一月』(原作1970年/ 鈴木徹郎/訳 1977年)(注・日本での出版年は講談社トーベ・ヤンソン全集の初出版年にしています)と続きます。フィンランドの豊かな自然を背景に、ムーミン谷に生きる仲間たちを愛情たっぷりに描いたシリーズは全世界で愛され、1966年には児童文学界のノーベル賞といわれる国際アンデルセン賞作家賞をIBBY(国際児童図書評議会)より授与されています。また人生哲学のようなことばが作品の中に散りばめられており、大人たちの間にも根強いファンが多いのも特徴です。

ムーミンの生みの親、トーベ・ヤンソン
トゥーラ カルヤライネン
河出書房新社
2014-09-25

 

昨年、出版されたトーベ・ヤンソンの評伝『ムーミンの生みの親、トーベ・ヤンソン』(トゥーラ・カルヤライネン/著 セルボ貴子・五十嵐淳/訳 河出書房新社)には、トーベ・ヤンソンの両親の出会いから始まり、幼少期から彼女の創作に影響を与えたさまざまな出会いや別れ、出来事などが整理しつつ詳述されており、トーベ・ヤンソンその人の残した作品について深く知ることができます。

もう1冊、『小さいトロールと大きな洪水』を翻訳した冨原眞弓氏が実際に交流のあったトーベ・ヤンソンの実像に迫った『ムーミンを生んだ芸術家トーヴェ・ヤンソン』(芸術新潮編集部 新潮社)も昨年出版されました。こちらも合わせてぜひ読んでみてください。

ムーミンを生んだ芸術家 トーヴェ・ヤンソン
冨原 眞弓
新潮社
2014-04-16
 
 
 

ところで今年6月に飯能市にムーミンのテーマパークが2017年に出来るというニュースが流れたことを記憶されている方もいるでしょう。飯能市にある宮沢湖畔に民間会社がオープンさせる「Mestsa」(メッツァ フィンランド語で森を意味する)というテーマパークです。

あけぼの子どもの森公園実は、飯能市にはもうひとつ市が運営する「ムーミン公園」として親しまれている「あけぼの子どもの森公園」があります。こちらは横浜市にある村山建築設計事務所が園内のムーミン屋敷や森の家などを設計しました。1997年のオープン当時、この事務所に勤めていた大学の先輩に、フィンランドのトーベ・ヤンソンさんと公園や建物のコンセプトについてやり取りをしていたことを聞かされていました。訪れる人の想像力をかきたててくれる公園です。また園内の森あけぼの子どもの森公園2の家の2階は小さな図書室になっています。機会があればぜひ訪れてみてほしい場所です。(画像は2011年秋にあけぼの子どもの森公園に訪れた時に撮影したものです。)
(作成K・J)