2016年7月(その2)ここにいること(幼児~小学生低学年向け)


 「いま、ここに私がいるってことは、どんな意味があるんだろう?」って、考えたことがありますか?私は小学校3年生のころの夏休みに小高い里山の木に登り、遠くに見える海を航行する船を見たときに、初めてそのことを強く意識したことをよく覚えています。「いま、ここにいる自分は大きな世界から見たらどんな存在なんだろう?」と、急に自分を俯瞰してみるような不思議な気持ちになったのでした。

夏休み、大自然の中で静かに過ごす体験はそんな気持ちを多くの子どもたちにも呼び起こすことでしょう。自分をそのように客観視することは、成長していく上でのエネルギーとなると確信しています。たくさんの子どもたちに、夏休みは塾の宿題に追われるのではなく、のんびりと豊かな経験をたくさん積んでほしいと願っています。図書館にも足を運んでもらえるよう、各図書館でもさまざまな企画を立てて、子どもたちに素晴らしい体験の機会を作ってあげて欲しいと思います。

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導入 詩 「ぼくがここに」 まどみちお 『日本語を味わう名詩入門20 まど・みちお』萩原昌好/編 あすなろ書房 2014 より 1分


 「ぼくが ここに いるとき
ほかの どんなものも
ぼくに かさなって
ここに いることは できない
(中略)
ああ このちきゅうの うえでは
こんなに だいじに
まもられているのだ
どんなものが どんなところに
いるときにも

その「いること」こそが
なににも まして
すばらしいこと として」

詩を朗読することで、言葉の美しい響きを子どもたちは耳から聞いて実感していきます。子どもたちの日常生活の中での言葉が貧困化しているとも言われています。美しい言葉を丁寧に伝えていくことは、今、とても大事なことでしょう。
おはなし会の導入として、詩の朗読をするプログラムをずっと推奨してきましたが、ぜひ図書館で続けて欲しいと思っています。

 

絵本 『ぼくからみると』高木仁三郎/文 片山健/絵 のら書店 2014 3分

ぼくからみると
高木 仁三郎
のら書店
2014-07

 

 1983年に福音館書店より刊行された「かがくのとも173号」をもとに1995年に「かがくのとも傑作集」として出版されていましたが、しばらくの間絶版になっていました。それは、かやねずみの出てくるシーンで巣の中に仔が描かれており、かやねずみの雄が子育てはしない、という点が指摘されたためでした。しかし、この絵本は、同じ瞬間にその場にいるものたちの視点を変えると、こんなに違って見えるということを美しくもダイナミックな絵で表現したもので、絶版にするにはとても惜しい作品でした。2年前に表紙絵を片山健さんが新たに描きおろして別の出版社から出版された時は、「やった!」と思いました。視点が変わると見える世界が違う・・・ということが理解できるようになる幼稚園年長児~小学生におすすめの1冊です。 なお、かやねずみの部分は、物理学者であり、原子力の危険性を説いてきた作者の高木仁三郎さんが故人であることから、巻末脚注で触れるだけでそのままになっています。読むだけだと2分弱の短い文章ですが、じっくりと各見開きページを見せてあげてから、次のページに移る様にしましょう。

 

絵本 『なつのいちにち』はたこうしろう/作 偕成社 2004 4分

なつのいちにち
はた こうしろう
偕成社
2004-07

夏といったらこの絵本を真っ先に思い浮かべるほど、定番の絵本になってきました。照りつける陽射しの強さと対照的な陰の黒い色。真っ青な空の色。沸き立つ白い雲。濃い木々の緑。まるで映像を見ているかのような「なつのいちにち」。初めて自力でクワガタを捕まえた時の興奮が、絵本の中から伝わってきます。机上の勉強よりもまずは自分で体験することがどれほど尊く子どもたちの心と身体を育てていくか・・・その重要性をひとりでも多くの親に知ってほしいと思います。 

 

絵本 『ぼくのいまいるところ』かこさとし/著 太田大輔/絵 かこさとしかがくの本1 童心社 1968 4分

ぼくのいまいるところ (かこ・さとし かがくの本)
かこ さとし
童心社
1988-08

 48年前の1968年にこの絵本の初版は出ました。ぼくがいまいるところは、うんとうんと視点を引いていくと・・・住んでいる町、日本、そしてアジア、地球、太陽系そしてその太陽系は銀河系の隅っこ・・・『ぼくからみると』が視点を自分の周囲に広げるだけだったのが、こちらの絵本では壮大なスケールで俯瞰していきます。そうやって考えると、ぼくが、わたしが、今、この瞬間にこの場でいることがたくさんの奇跡の積み重ねであることがわかってきます。これは理屈ではなく、身体感覚として。それが理解できると、自分の尊厳、生きる力というものは、外から声高に言わなくても、子ども自身が身につけていけるのです。夏休みは、とにかく子どもたちに普段は知ることのできない広い世界を感じてほしいと願います。

(作成K・J)