2017年9月、10月の新刊から


2017年9月、10月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの本を紹介します。(一部、見逃していた6月、8月に出版された本もあり)

また、ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。すべての新刊本を購入して読むことはできませんが、教文館ナルニア国の新刊本コーナー、クレヨンハウス新刊本コーナー、代官山蔦屋書店児童書部門、横浜日吉にあるともだち書店などにある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。


 (なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

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絵本】

 『はくぶつかんのよる』イザベル・シムレール/文 石津ちひろ/訳 岩波書店 2017/6/27

はくぶつかんのよる
イザベル・シムレール
岩波書店
2017-06-28

 昨年出版されその美しさで話題を呼んだあおのじかんのイザベル・シムレールの描く夜の博物館です。何も動かずひっそりとした展示室の一角、蝶の標本箱から黄色い一匹の蝶が優雅に飛び立ちます。その翅のはばたきに誘われるかのように博物館の中がにわかに賑やかになるのです。どんな賑わいだったのかは、ぜひ本を手にしてお楽しみください。幻想的で美しい世界が広がっています。

 

『エンリケタ、えほんをつくる』リニエルス/作 宇野和美/訳 ほるぷ出版 2017/8/25

エンリケタ、えほんをつくる
リカルド・シリ=リニエルス
ほるぷ出版
2017-08-25

ママに色鉛筆をプレゼントしてもらったエンリケタ。それで絵本を創ろうと、描き始めます。題して「3つあたまと2つのぼうしのモンスター」。夜になるとクローゼットの中から変な物音がしてくるという設定です。さて、どんなお話をエンリケタは描くのでしょう。アルゼンチンで国民的人気を誇る漫画家リニエルスの作品を、宇野和美さんが翻訳されました。これが日本での初翻訳本だそうです。表紙見返しの部分でエンリケタが、飼い猫に「ほんはもちはこべるうちゅうだね」と語っている部分もとても気に入りました。

『カランポーのオオカミ王』ウィリアム・グリル/作 千葉茂樹/訳 岩波書店 2017/9/7

カランポーのオオカミ王
ウィリアム・グリル
岩波書店
2017-10-19

昨年秋に南極探検に出かけたエンデュアランス号の漂流を題材してシャクルトンの大漂流がデビュー作だったウィリアム・グリル。そのデビュー作でケイト・グリーナウェイ賞を最年少で受賞しました。そのグリルの2作目は「シートン動物記」の中でも、多くの子どもたちの心をつかむ「オオカミ王ロボ」を絵本にした『カランポーのオオカミ王』です。この作品ではボローニャ・ラガッツィ賞(ノンフィクション部門)の最優秀賞を受賞しています。こちらでも色鉛筆で描く細かい描写がとても美しく、西部開拓時代のシートンとロボとの駆け引き、そしてロボと出会ったことでシートンが動物保護へと考え方を変えていく様が丁寧に描かれています。

『さるとかに』神沢利子/文 赤羽末吉/絵 BL出版 2017/10/1

さるとかに
神沢利子
ビーエル出版
2017-10-01

1974年に銀河社から出版されていた神沢利子と赤羽末吉による『さるとかに』がこのほどBL出版より復刊されました。この昔話を絵本にしたものでは、岩波書店から出版されて読み継がれているかにむかし(木下順二/文 清水崑/絵 岩波書店 1976)が有名ですが、こちらの絵本もまた味わい深いです。赤羽末吉のダイナミックな筆致で描かれた木の上から青柿を投げるさるや、火の玉のように熱くなった栗が顔に当たってびっくりするさるの表情が素晴らしいです。

 

『インドの昔話 あおいジャッカル』マーシャ・ブラウン/作 こみやゆう/訳 瑞雲舎 2017/10/1

あおいジャッカル
マーシャ・ブラウン
瑞雲舎
2017-10-01

 1979年に瀬田貞二の訳で佑学社から出版されていたあおいやまいぬ(のちに1995年に瑞雲舎より復刊)を、こみやゆうさんが新たに翻訳しなおし、再度瑞雲舎から出版されました。タイトルも原題の「The Blue Jackal」に合わせて『あおいジャッカル』となりました。紙の色が白から薄いベージュ色になり、マーシャ・ブラウンの版画絵が色合いも鮮やかに蘇っています。より原書の初版の色に近づいたということです。また、瀬田貞二版では「ですます調」だった訳が「である調」になっており、一層力強い印象があります。もとのお話は、世界最古の寓話集と言われるインドの「パンチャタントラ」で、その中の一話をマーシャ・ブラウンが再話して絵本にしたのです。こみやゆうさんはマーシャ・ブラウンをアメリカ、ロサンゼルス郊外へ訪ねており、その際に「やまいぬ」を「ジャッカル」と改めることを約束されていたそうです。また、瀬田版では、最後のページもお話の続きとして翻訳されていましたが、これは本文とは別の「パンチャタントラ」の各話についている格言ということで、フォントを変えて格言とわかるような表現になっています。図書館で『あおいやまいぬ』と並べて展示をしてみても面白いですね。

 

『わたしたちのたねまきーたねをめぐる いのちたちのおはなしー』キャスリン・O・ガルブレイス/作 ウェンディ・アンダスン・ハルパリン/絵 梨木香歩/訳 のら書店 2017/10/10

わたしたちのたねまき: たねをめぐるいのちたちのおはなし
キャスリン・O. ガルブレイス
のら書店
2017-10-05

庭に母子が野菜の種を蒔いているシーンから絵本は始まります。しかし、太古の昔から植物は人の手を借りなくても、命をつないでいたのです。風や鳥、太陽の光によって自ら弾けることによって、あるいは雨に流されたり、動物の身体にくっついて遠くへ運ばれたりしながら、次の世代へと命を引き継いできたことが、柔らかいタッチの絵でわかりやすく描かれています。親子で読みながら、命のつながりを一緒に考えられたら素敵ですね。


『ざしき童子のはなし』宮沢賢治/作 岡田千晶/絵 三起商行 2017/10/17

ミキハウスから出版されている宮沢賢治の絵本シリーズの29冊目です。今回絵を描いたのは『ぬいぐるみおとまりかい』(風木一人/作 岩崎書店 2014)や『あかり』(林木林/作 光村教育図書 2014)などを描いている岡田千晶さんです。柔らかいタッチの色鉛筆画で、賢治が語るざしき童子の不思議な雰囲気を余すことなく表現しています。絵本の中から子どもたちのさんざめく声が聞こえてきそうです。

 

『りんごとけんだま』鈴木康広/作 ブロンズ新社 2017/10/25

りんごとけんだま
鈴木康広
ブロンズ新社
2017-10-19

アーティストとして先端技術と融合させたさせた作品などのある鈴木康広さんの2作目の絵本。普段何気なく見ているものが視点を変えることで、別の意味をもったものに見えてくるという鈴木さんのお話はとても面白いので、ぜひ名前をクリックして公式サイトに行ってみてください。鈴木さんは14歳の時にけん玉の「灯台」という技をクラスで一番に完成させて以来、けん玉はもはや自分の分身なんだそうです。りんごのけん玉(玉の部分がりんご型)を24歳の時に制作し、地球の引力と自分をつなぐ道具としてのけん玉を通してニュートンに想いを馳せたそうです。それが今回絵本という形となりました。代官山蔦屋書店児童書部門では11月4日に鈴木康広さんと東京大学先端科学技術研究センター中邑賢龍教授とのトークショーも行われます。(→こちら

『ル・コルビュジエ 建築家の仕事』フランシーヌ・ブッシェ、ミッシェル・コーアン/作 ミッシェル・ラビ/絵 小野塚昭三郎/訳 現代企画室 2017/10/31

ル・コルビュジエ: 建築家の仕事 (末盛千枝子ブックス)
フランシーヌ ブッシェ
現代企画室
2017-10-16

1987年にスイスで出版された「CORBU COMME LE CORBUSIER」が、1999年にすえもりブックスから翻訳されて出版されましたが、しばらく絶版となっていました。2017年に原書の出版30周年を記念してスイスで新装版が出版されたのを機に、日本語版も復刊されました。本の装丁もとても斬新で美しいものとなっています。「あとがき」に建築家の原広司さんが書かれたル・コルビュジエが考えた家や都市への考え方の解説を読むと、彼の遺したものがいかに大きなものであったかがよくわかります。この絵本に出会った子どもたちの中から、都市をデザインできる第2のル・コルビュジエが誕生するといいなと思います。

【児童書】

『クリスマスがちかづくと』斉藤倫/作 くりはらたかし/絵 福音館書店 2017/10/5

『どろぼうのどろぼん』(福音館書店 2014)で児童書デビューした斉藤倫さんの最新作です。セロは10歳の男の子。クリスマスが近づくと街は賑やかになるのに、セロは気持ちが晴れません。それは両親がともにその時期は忙しく、かまってくれないからです。「クリスマスなんてだいきらい」とセロは思っていました。ところが、実はおとうさんがサンタクロースなので、クリスマスはとても忙しいということを知ります。半信半疑のセロですが、ある真夜中、サンタクロースとして準備をしているおとうさんをみつけます。セロは自分がクリスマスにどれだけ寂しい想いをしていたかを訴えます。それを聞いたおとうさんの答えは意外なものでした。小さな子どもの思いに寄り添う、とても素敵なお話です。小学校中学年くらいからおすすめです。

 

『命の水 チェコの民話集』カレル・ヤロミール・エルベン/編 出久根育/絵 阿部賢一/訳 西村書店 2017/10/5

「チェコのグリム」と呼ばれたカレル・ヤロミール・エルベン(1811~1870)の生誕200周年を記念して刊行されたアンソロジーを全訳した民話集です。グリム兄弟より約四半世紀後に生まれたエルベンですが、グリム兄弟がドイツでしたのと同じように、19世紀のボヘミア地方(現在のチェコ共和国)に伝わるチェコ語の民話や民謡を収集し、まとめました。20ほどの民話や詩、童謡などが収められています。この民話集の絵はチェコの首都プラハ在住の出久根育さんが手がけられました。テンペラ画の技法で描かれた絵はどれも美しく、物語の世界へ誘ってくれます。グリム童話とよく似たお話もいくつかあります。ヨーロッパ大陸の中で民族が移動しながら、庶民が口伝えで語り継いできたのだなと改めて思いました。

 

『ごはんはおいしい』ぱく きょんみ/文 鈴木理策/写真 福音館書店 2017/10/15

ごはんは おいしい (日本傑作絵本シリーズ)
ぱく きょんみ
福音館書店
2017-10-11

「ごはんは おいしい ごはんは あったかい」で始まる、写真絵本です。78ページあるので、児童書として紹介します。詩人のぱくさんが、おばあちゃんが孫によびかけるような優しいことばで、ごはんの一粒は、稲の実一粒。それを春にたんぼに植えて、稲穂が実り、刈入れをし、お米を炊いてほかほかのごはんになるまでを語りかけます。鈴木さんの写真のアングルも、科学絵本とは違って、とても美しく、こうした水田のある日本に生まれて良かったなと感じます。読むと4分半。収穫感謝のおはなし会などで読んであげると良いでしょう。

 

【その他】

『子どもはハテナでぐんぐん育つ―図書館で調べ学習をやってみよう!―指導法と実践例』調べ学習研究会「調之森」/編著 しまだいさお/イラスト 岩崎書店 2017/10/31

 小学生(低学年~高学年)から中学生、高校生、そして生涯学習としての大人の調べ学習まで、発達に応じて年齢別に、理系分野から社会科分野、国語分野まで、幅広い実践例を通して、調べ学習の進め方、指導法をわかりやすく伝えてくれる1冊です。編著者は、1999年に発足した研究会「調之森」です。メンバーは小・中・高の教師、学校図書館司書、公共図書館司書、ボランティア、地域の教育機関の主事、公益財団法人図書館振興財団調べる学習コンクール関係者、大学の非常勤講師などで構成されています。調べ学習を牽引してこられた蔵元和子さんや片岡則夫さんの名前もありました。巻末付録として、コピーして使える「ドーナツチャート」と「記録カード」が付いているのが嬉しいです。

(作成k・J)