基本図書を読む3『秘密の花園』 F・H・バーネット(再掲)


 2014年6月23日に公開した「基本図書を読む3『ヒミツの花園』」を再掲載します。この作品は、5月に少年写真新聞社から発行された『小学生のうちに読みたい物語~学校司書が選んだブックガイド~』にも掲載されています。

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 著者F・H・バーネット(1849-1924)は、イギリス生まれの作家で、早くに父を亡くして経済的に苦労し、16歳でアメリカに移住します。幼いころから文章を書くことが好きだったことから作家となって生計を立て、『小公子』『小公女』で大成功をおさめます。『秘密の花園』は、1911年の出版当時はあまり話題にならなかったそうですが、現在では児童文学の傑作に値すると評されています。

 メリーは、インドで召使いに甘やかされて育った大変わがままな女の子です。コレラで両親が亡くなったので、イギリスのおじさんの家に引き取られます。ムーア(荒野)に囲まれた大きなお屋敷には、遊び相手もおらず、仕方なく外に出たメリーは、10年間誰も入ったことがない秘密の庭を見つけ、自分の手で荒れた庭を生き返らせることに決めます。また、自分は死ぬんだと思い込んで隠れるように暮らしていた従兄のコリンも見つけ、2人はぶつかり合いながらも仲良くなります。田舎の少年ディッコンの力も借りながら、庭仕事に励み、時がとまっていた庭が息を吹き返したとき、お屋敷に嬉しい奇跡が起こるのです。

閉ざされていたメリーとコリンの心が、自然の力や、周りの人の助けをかりて、生き生きと生命力を取り戻していく様子が無理なく感動的に描かれている作品です。風がふきぬける暗い海のようなムーア(荒野)、冬枯れの茶色で覆われた静かな庭、そして、その庭が春を迎え鮮やかに彩られていく様子など、細やかで美しい自然描写は、そこにいる人の心も映し出しているようで、心に残ります。また、笛を吹くと動物たちが集まってくるディッコンや、10人の子どもをたくましく育てているおかみさん、表面では無愛想だけれど心優しい庭師のベンなど、イギリスの田舎ヨークシャで暮らす素朴であたたかい人たちも魅力的です。

小学校高学年を中心に、「秘密」という言葉にひかれた子や、花や動物が好きな子などが手に取り、時間をかけて読む姿を何度か見られました。また、大人の方にすすめても、喜んでもらえることが多かった作品です。

『秘密の花園』は、古典作品ということで、名作全集などでダイジェスト版も多数出版されています。2点ほど読んでみましたが、自然のもつ力、複雑な感情の動き、子どもたちが成長していく様子は、ダイジェスト版では感じることができませんでした。この作品は、全訳で丁寧に読んでこそ、その魅力を味わうことができると思います。

現在手にとりやすい完訳本として、下記の3点をおすすめします。

秘密の花園』 FH・バーネット作 猪熊葉子訳 堀内誠一画 福音館古典童話シリーズ または 福音館文庫 

 

秘密の花園 (福音館古典童話シリーズ (24))秘密の花園 (福音館文庫 古典童話)
フランシス・ホジソン・バーネット
福音館書店 1979-10-31
フランシス・ホジソン バーネット
福音館書店 2003-06-20
 

 

 

『秘密の花園 上・下』 バーネット作 山内玲子訳 シャーリー・ヒューズ画 岩波少年文庫

 

秘密の花園〈上〉 (岩波少年文庫)秘密の花園〈下〉 (岩波少年文庫)
フランシ・ホジソン バーネット
岩波書店 2005-03-16
フランシス・ホジソン・バーネット
岩波書店 2005-03-16

 

 

 

いずれも、完訳ですが、方言の訳し方が違ったり、挿絵が違ったりして、印象が異なりますので、読み比べてみると楽しいです。子どもにすすめるときには、3点を見せて、好きなものを選んでもらうのもよいかと思います。

ダイジェストの問題については、『読む力は生きる力」』(脇明子著 岩波書店 2005でも取り上げられています。

 

読む力は生きる力
脇 明子
岩波書店
2005-01-18

 

 

 

著者は、ダイジェストにすることが、絶対に悪いのではないが、「ただし、ダイジェストとして許せるのは、あくまでも原作を尊重し、そのよさを損なわないように注意しながら刈り込んだもので、しかも、あとがきなどに、それが原作どおりでないこと、どんな方針でどれくらい縮めたものであるかということを明記してあるものだけです。」と述べています。わかりやすく簡単なものをよかれと思ってすすめることが、その子の作品との本質的な出会いを奪ってしまうこともあることを心にとめて、本を選び、手渡していく必要があるでしょう。

『読む力は生きる力』は、大学教授で、「岡山子どもの本の会」代表の著者が、どうして子どもたちにとって「本を読むこと」が大切なのか、学生や子どもと本に関わっている仲間とやりとりするなかで、深めていった考えが書かれています。現在の日本の子どもの現状に即して、読書の本質を考えることができますので、一読をおすすめいたします。

(作成T.I)

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