2018年5月、6月の新刊から


2018年5月、6月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの本を紹介します。

ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。出版されたすべての新刊本を購入して読むことはできませんが、毎月、教文館ナルニア国の新刊本コーナー、クレヨンハウス新刊本コーナー、横浜日吉にあるともだち書店、代官山蔦屋書店児童書売り場など、信頼できる児童書の目利きのいる書店にある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。

 (なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

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【絵本】

『ちょうちょのためにドアをあけよう』ルース・クラウス/文 モーリス・センダック/絵 木坂涼/訳 岩波書店 2018/5/17

ちょうちょのために ドアをあけよう
ルース・クラウス
岩波書店
2018-05-18

子どもたちにとって日々の生活は、いろんなわくわくすることに満ち溢れている、そんな日々の気づきが可愛らしいつぶやきになっていて、またセンダックが描く子どもたちの表情がとても愛くるしい小さな本です。おとなはそんな子どもの表情に癒されるでしょうが、子どもは自分と同じ目線、同じ考えをもっているということに「そうそう!」と頷くのではないでしょうか。集団での読み聞かせには向かないかもしれませんが、子どもを隣に座らせて読んであげたいなと思いました。この本を介しておとなと子どもの会話が弾みそうです。私は「おかあさんと おとうさんを つくるのは あかちゃん もし あかちゃんが うまれなければ ふたりは どっちも ただの ひと」この一文が一番気に入りました。


『どしゃぶり』おーなり由子/文 はたこうしろう/絵 講談社 2018/6/12

どしゃぶり (講談社の創作絵本)
おーなり 由子
講談社
2018-06-14
 
暑い夏の午後、空にもくもくと育っていく入道雲。黒い雲のかたまりがこっちに来ると思うと、「ぼつっ!ぼつっ!ぼつっ!あめだだ!」と、雨が降り始めます。雨が広げた傘にぶつかると「ばらっ ばらっ ばらっ ばらばらっ」「とん ととん ぼつんっ ばら ばら ばらっ かさの たいこだあ!」、ますます雨脚は強くなり「ずだだだだだだだ ぼぼぼぼぼぼぼ…」「ずざあ ずざあ ずざあ ずざあああ」。空から地面からものすごい音が溢れてきます。そうなると傘なんて無用の長物。傘を投げ捨て雨の中で飛び跳ねる男の子の躍動感は、生命の輝きに満ちています。先日、5月に亡くなったかこさとしさんの亡くなる約1か月くらい前の様子を撮影したNHKの番組「プロフェッショナル仕事の流儀」で、かこさんが絵本作家の鈴木まもるさんと雨粒の形について話すシーンがありました。雨粒は実は雫の形ではなく丸い形で空から降ってくるのだとかこさんが指摘するのですが、はたこうしろうさんは降ってくる雨粒すべて丸く、さすがだなと思いました。雨は、傘の先から垂れる時は雫の形に見えますが、空から降ってくるときは、少し押しつぶされたような丸い粒なのです。(参考までに→中日新聞プラス達人に訊け


『ぼくのなまえはへいたろう』灰島かり/文 殿内真帆/絵 福音館書店 2018/6/15

ぼくのなまえはへいたろう (ランドセルブックス)
灰島 かり
福音館書店
2018-06-13

2016年に亡くなられた子どもの本の研究者で翻訳者の灰島かりさんの作品です。(追悼記事→こちら)主人公の男の名前は「平太郎」。友達から「むかしのひとみたい」「うまれるとき、おならしたんだよ」とからかわれるので、自分の名前を変えたいと思います。市役所勤めの友達のおじさんに名前を変える手続きについて尋ねてみると簡単には変えられそうにない。そこで父親に直談判しにいくと、自分の名前に込められた思いを教えられます。それでも納得のいかない平太郎くん。でも少しずつ自分の名前を前向きに捉えていくおはなしです。福音館書店のランドセルブックシリーズは、絵本の形をしていますがひとりで読書を始める子どもたち向けの幼年童話として書かれています。


『旅の絵本Ⅸ』安野光雅/作 福音館書店 2018/6/15

旅の絵本Ⅸ (安野光雅の絵本)
安野 光雅
福音館書店
2018-06-13
 
安野光雅さんは、かこさとしさんと同い年の92歳。その安野さんの新作が6月に2冊出版されました。その1冊が長年旅先の風景を描き続けて来られた「旅の絵本」シリーズの9冊目『旅の絵本Ⅸ』、スイス編です。イタリア・ミラノから車でアルプス越えをしてスイスに入って行ったと解説編に書いてありますが、工事で一方通行になっていた急峻な崖路を命がけで越えた先で見たグラン・サン・ベルナール峠が、冒頭のページに描かれています。安野さんが実際に歩いてスケッチしたスイス各地の風景が、そこに暮らす人々の様子とともに描かれています。文字のない絵本ですが、旅人となって絵の中に入りこんでいくと思わぬ発見を、たくさんすることができます。
 
 
『Whale’s Way ザトウクジラ』ヨハンナ・ジョンストン/作 レナード・ワイスガード/絵 こみやゆう/訳 好学社 2018/6/16

ザトウクジラ
ヨハンナ・ジョンストン
好学社
2018-06-19
 
昨年12月に出版された『コウテイペンギン』(こちら→紹介記事)に続くヨハンナ・ジョンストンとレナード・ワイスガードによる動物の生態を丁寧に描いた絵本です。人間と同じ哺乳類でありながら、普段知ることのできないザトウクジラの生態、とくに子育ての様子を黒と深緑色2色で美しく描き出すワイスガードの画力に圧倒されます。ジョンストンのクジラへの愛情に満ちた言葉を、こみやゆうさんがわかりやすい日本語に翻訳しています。厳しい自然の中で生きるザトウクジラの生き方から、子どもたちもきっと何かを学ぶのではないかと思いました。
 
 
『シルクロードのあかい空』イザベル・シムレール/文・絵 石津ちひろ/訳 岩波書店 2018/6/27

シルクロードのあかい空
イザベル・シムレール
岩波書店
2018-06-28
 
あおのじかん(こちら→紹介記事)やはくぶつかんのよる(こちら→紹介記事)に続くイザベル・シムレールの作品。こちらは「朝日にあかくそまる東の空に背をむけて、夕日がしずむ西をめざして」進むシルクロードを赤と白の対比をうまく使って描いています。蝶を専門とする若き昆虫学者が、西安を発って新疆ウイグル自治区の西の果て、カシュガルへと珍しい蝶を求めて旅をしていきます。壮大なシルクロードの風景と、その土地土地の風物や生物を克明に描くページとが交互に出てきます。風物や生物を描くページでは、まるで博物館の展示ケースを覗いているようです。手書き文字は岩波書店の担当編集者が書かれたそうです。
 
 
【詩】
 
『こどもあそびうた』谷川俊太郎/詩 山田馨/編 童話屋 2018/6/3

こどもあそびうた
谷川俊太郎
童話屋
2018-06-28
 
谷川俊太郎さんのこれまでの詩の中から、子どもたちが声に出して読める楽しいものばかりを、谷川さんの大親友で岩波書店で児童書の編集者だった山田馨さんが選んだ詩集が、童話屋から出ました。のはらうたと同じ文庫本サイズで、巻頭におかれた詩「かっぱ」にちなんで表紙デザインはつぶらな瞳の緑の河童です。お二人の友人だったはせみつこさん(詩やことば遊びをステージ構成したパフォーマー、『しゃべる詩あそぶ詩きこえる詩』などの詩集を編んでいる)へのオマージュとして本の帯には「子どもたちに贈る谷川俊太郎のあそぶ詩おどる詩そらでうたう詩」と書かれていました。巻末の詩「えかきうた」の「ひった へに びっくり」のページに描かれている「ひ」「へ」「び」を組み合わせた絵は谷川さんの自作とのこと。6月30日に行われた銀座教文館ナルニア国『こどもあそびうた』刊行記念トークで、童話屋の田中和雄さんと谷川さん、山田さんの楽しいおしゃべりの中で伺いました。声に出して楽しい詩は、おはなし会の導入に使えそうです。


【児童書】

『リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ』こまつあやこ/作 講談社 2018/6/5

昨年9月に第58回講談社児童文学新人賞(公式サイト→こちら)を受賞した作品が刊行されました。作者は現役の図書館司書さんです。題名には耳慣れない言葉が並びます。まるで魔法の呪文のようですが、これはマレーシア語でリマは5、トゥジュは7、つまり「五七五七七」という短歌の韻律をマレーシア語で表したものです。中学2年生の沙弥はマレーシアからの帰国子女、2学期から日本の中学に編入し毎日クラスの中で浮かないか、どきどきしていました。そんな時にみんなから「督促女王」と呼ばれている3年の佐藤先輩に図書室に呼び出されます。借りた本の返却だけかと思いきや、いきなり「今からギンコウに出かけるよ。ついてきてよ」と言われてしまいます。戸惑う沙弥でしたが…中学生の揺れる心を瑞々しい感性で描き、読後感はとても爽やか。ぜひこの夏、10代の利用者に薦めてほしい1冊です。
 

『ふくろ小路一番地』イーヴ・ガーネット/作 石井桃子/訳 岩波少年文庫159  岩波書店 2018/6/15新版第3刷

ふくろ小路一番地 (岩波少年文庫)
イーヴ・ガーネット
岩波書店
2009-05-15

イギリスの小さな町の袋小路に住んでいる子だくさんのラッグルス一家の、家族が織りなすドタバタの日々を描いた作品です。この本はイギリスで1937年に出版され、イギリス図書館協会からその年に出版された最優秀児童文学に贈られるカーネギー賞を受賞しています。ラッグルスのお父さんはゴミ収集を仕事とし、お母さんは洗濯屋さんで、その上子だくさんとくれば、TV番組などで取り上げられる貧乏子だくさん家族を思い浮かべてしまいます。この当時、イギリス児童文学が描いていたのは子守りのいる上流階級の家庭が多かったため、この作品は貧しい労働者階級を描いて話題を呼んだのです。7人の個性豊かな子どもたちが巻き起こすどんな失敗をも、おおらかに受け止める家族の物語は、とても愉快です。ガーネットは若い頃にロンドンの子どもを描くために貧民街を何度も訪ねたということです。そこで見た貧しいけれど生き生きと暮らす子どもたちの姿が作品の中で描かれているのでしょう。石井桃子さんはあとがきに「ガーネット女史の文体は、俗語もまじえた口語で、べらべらしゃべるような調子で書かれてありますので、訳すのに、たいへん苦労しました。」と書いています。その翻訳も大変魅力的です。新版が2009年に出た後、しばらく品切れになっていましたが、この度第3刷として出版されました。すでに蔵書している館も、旧版しかない場合は、この機会に買い替えてもよいと思います。



『源氏物語 つる花の結び 上・下』荻原規子/訳 理論社 2018/6


源氏物語 つる花の結び(下)
理論社
2018-06-12
 
 
『紫の結び』三巻から始まり、『宇治の結び』上下巻(宇治十帖)に続き、この度出版された『つる花の結び』上下巻で荻原源氏物語が完成しました。源氏物語五十四帖を、光源氏と藤壺の宮、紫の上の一生を描く『紫の結び』、中流階級の女人たちとの逢瀬から始まり玉鬘十帖へ続く『つる花の結び』、そして源氏の孫たちが主人公となる『宇治の結び』と大胆に3つの系統にわけて、全7冊に再構築したものです。千年の時を経た古典を読みやすい現代語訳にし、多くの若い読者に読んでほしいという作者の願い通りに、『つる花の結び』は、光源氏の色男っぷりを伝えていて、現代の若い世代も楽しんで読める作品になっています。
 
 
【その他】

 『かんがえる子ども』安野光雅/作 福音館書店

かんがえる子ども (福音館の単行本)
安野 光雅
福音館書店
2018-06-13

安野光雅さんの新刊のもう1冊は子どもの学びと生活について語るエッセイです。「おとなの目が行きとどいていることは必要ですが、行きとどきすぎると、子どもの自由がなくなります。」、「実際に触れて知る、というのは、映像などで見て知っている、というのとは違うと思います。(中略)実際に自然の中を歩いて、花が咲いているのを見、鳥が謳っているのを聞き、雨が地面にしみこんでいく様子を見たり、森の中のにおいをかいだり、というような、直接自分の体で触れて知るような体験とでは、感じかたが大きく違ってくると思います。」と述べ、子どもが体験し、そこから「どうなっているんだろう」と考える、そして自分で答えを見つけていくことの大切さを、実例をあげながら書いておられます。『ふしぎなえ』や、『はじめてであうすうがくの絵本』、『旅の絵本』は、それを実行された結果の作品だったのだと、改めて国際アンデルセン賞作家である安野さんのこれまでの仕事も理解できる1冊でした。

(作成K・J)