本に関する情報

2018年5月、6月の新刊から
おすすめの幼年童話⑯『小さいおばけ』オトフリート・プロイスラー
『うみべのまちで』がケイト・グリナウェイ賞を受賞しました!
基本図書を読む3『秘密の花園』 F・H・バーネット(再掲)
基本図書を読む2『たのしい川べ』ケネス・グレーアム(再掲)
おすすめ幼年童話15『ナスレディンのはなし』トルコの昔話
4月、5月の新刊から(2冊追加あり)
『スロバキアのともだち・はなとゆろ おるすばんのぼうけん』BIBIANAから賞を贈られました!
3月、4月の新刊から
訃報 かこさとし(加古里子)さん だるまちゃん さようなら!
訃報 アリス・プロヴェンセンさん
おすすめ幼年童話14『オンネリとアンネリのおうち』マリヤッタ・クレンニエミ
基本図書を読む1 『エーミールと探偵たち』 エーリヒ・ケストナー(再掲)
おすすめ幼年童話13『こぶたのピクルス』小風さち
2018年2月、3月の新刊から

2018年5月、6月の新刊から


2018年5月、6月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの本を紹介します。

ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。出版されたすべての新刊本を購入して読むことはできませんが、毎月、教文館ナルニア国の新刊本コーナー、クレヨンハウス新刊本コーナー、横浜日吉にあるともだち書店、代官山蔦屋書店児童書売り場など、信頼できる児童書の目利きのいる書店にある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。

 (なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

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【絵本】

『ちょうちょのためにドアをあけよう』ルース・クラウス/文 モーリス・センダック/絵 木坂涼/訳 岩波書店 2018/5/17

ちょうちょのために ドアをあけよう
ルース・クラウス
岩波書店
2018-05-18

子どもたちにとって日々の生活は、いろんなわくわくすることに満ち溢れている、そんな日々の気づきが可愛らしいつぶやきになっていて、またセンダックが描く子どもたちの表情がとても愛くるしい小さな本です。おとなはそんな子どもの表情に癒されるでしょうが、子どもは自分と同じ目線、同じ考えをもっているということに「そうそう!」と頷くのではないでしょうか。集団での読み聞かせには向かないかもしれませんが、子どもを隣に座らせて読んであげたいなと思いました。この本を介しておとなと子どもの会話が弾みそうです。私は「おかあさんと おとうさんを つくるのは あかちゃん もし あかちゃんが うまれなければ ふたりは どっちも ただの ひと」この一文が一番気に入りました。


『どしゃぶり』おーなり由子/文 はたこうしろう/絵 講談社 2018/6/12

どしゃぶり (講談社の創作絵本)
おーなり 由子
講談社
2018-06-14
 
暑い夏の午後、空にもくもくと育っていく入道雲。黒い雲のかたまりがこっちに来ると思うと、「ぼつっ!ぼつっ!ぼつっ!あめだだ!」と、雨が降り始めます。雨が広げた傘にぶつかると「ばらっ ばらっ ばらっ ばらばらっ」「とん ととん ぼつんっ ばら ばら ばらっ かさの たいこだあ!」、ますます雨脚は強くなり「ずだだだだだだだ ぼぼぼぼぼぼぼ…」「ずざあ ずざあ ずざあ ずざあああ」。空から地面からものすごい音が溢れてきます。そうなると傘なんて無用の長物。傘を投げ捨て雨の中で飛び跳ねる男の子の躍動感は、生命の輝きに満ちています。先日、5月に亡くなったかこさとしさんの亡くなる約1か月くらい前の様子を撮影したNHKの番組「プロフェッショナル仕事の流儀」で、かこさんが絵本作家の鈴木まもるさんと雨粒の形について話すシーンがありました。雨粒は実は雫の形ではなく丸い形で空から降ってくるのだとかこさんが指摘するのですが、はたこうしろうさんは降ってくる雨粒すべて丸く、さすがだなと思いました。雨は、傘の先から垂れる時は雫の形に見えますが、空から降ってくるときは、少し押しつぶされたような丸い粒なのです。(参考までに→中日新聞プラス達人に訊け


『ぼくのなまえはへいたろう』灰島かり/文 殿内真帆/絵 福音館書店 2018/6/15

ぼくのなまえはへいたろう (ランドセルブックス)
灰島 かり
福音館書店
2018-06-13

2016年に亡くなられた子どもの本の研究者で翻訳者の灰島かりさんの作品です。(追悼記事→こちら)主人公の男の名前は「平太郎」。友達から「むかしのひとみたい」「うまれるとき、おならしたんだよ」とからかわれるので、自分の名前を変えたいと思います。市役所勤めの友達のおじさんに名前を変える手続きについて尋ねてみると簡単には変えられそうにない。そこで父親に直談判しにいくと、自分の名前に込められた思いを教えられます。それでも納得のいかない平太郎くん。でも少しずつ自分の名前を前向きに捉えていくおはなしです。福音館書店のランドセルブックシリーズは、絵本の形をしていますがひとりで読書を始める子どもたち向けの幼年童話として書かれています。


『旅の絵本Ⅸ』安野光雅/作 福音館書店 2018/6/15

旅の絵本Ⅸ (安野光雅の絵本)
安野 光雅
福音館書店
2018-06-13
 
安野光雅さんは、かこさとしさんと同い年の92歳。その安野さんの新作が6月に2冊出版されました。その1冊が長年旅先の風景を描き続けて来られた「旅の絵本」シリーズの9冊目『旅の絵本Ⅸ』、スイス編です。イタリア・ミラノから車でアルプス越えをしてスイスに入って行ったと解説編に書いてありますが、工事で一方通行になっていた急峻な崖路を命がけで越えた先で見たグラン・サン・ベルナール峠が、冒頭のページに描かれています。安野さんが実際に歩いてスケッチしたスイス各地の風景が、そこに暮らす人々の様子とともに描かれています。文字のない絵本ですが、旅人となって絵の中に入りこんでいくと思わぬ発見を、たくさんすることができます。
 
 
『Whale’s Way ザトウクジラ』ヨハンナ・ジョンストン/作 レナード・ワイスガード/絵 こみやゆう/訳 好学社 2018/6/16

ザトウクジラ
ヨハンナ・ジョンストン
好学社
2018-06-19
 
昨年12月に出版された『コウテイペンギン』(こちら→紹介記事)に続くヨハンナ・ジョンストンとレナード・ワイスガードによる動物の生態を丁寧に描いた絵本です。人間と同じ哺乳類でありながら、普段知ることのできないザトウクジラの生態、とくに子育ての様子を黒と深緑色2色で美しく描き出すワイスガードの画力に圧倒されます。ジョンストンのクジラへの愛情に満ちた言葉を、こみやゆうさんがわかりやすい日本語に翻訳しています。厳しい自然の中で生きるザトウクジラの生き方から、子どもたちもきっと何かを学ぶのではないかと思いました。
 
 
『シルクロードのあかい空』イザベル・シムレール/文・絵 石津ちひろ/訳 岩波書店 2018/6/27

シルクロードのあかい空
イザベル・シムレール
岩波書店
2018-06-28
 
あおのじかん(こちら→紹介記事)やはくぶつかんのよる(こちら→紹介記事)に続くイザベル・シムレールの作品。こちらは「朝日にあかくそまる東の空に背をむけて、夕日がしずむ西をめざして」進むシルクロードを赤と白の対比をうまく使って描いています。蝶を専門とする若き昆虫学者が、西安を発って新疆ウイグル自治区の西の果て、カシュガルへと珍しい蝶を求めて旅をしていきます。壮大なシルクロードの風景と、その土地土地の風物や生物を克明に描くページとが交互に出てきます。風物や生物を描くページでは、まるで博物館の展示ケースを覗いているようです。手書き文字は岩波書店の担当編集者が書かれたそうです。
 
 
【詩】
 
『こどもあそびうた』谷川俊太郎/詩 山田馨/編 童話屋 2018/6/3

こどもあそびうた
谷川俊太郎
童話屋
2018-06-28
 
谷川俊太郎さんのこれまでの詩の中から、子どもたちが声に出して読める楽しいものばかりを、谷川さんの大親友で岩波書店で児童書の編集者だった山田馨さんが選んだ詩集が、童話屋から出ました。のはらうたと同じ文庫本サイズで、巻頭におかれた詩「かっぱ」にちなんで表紙デザインはつぶらな瞳の緑の河童です。お二人の友人だったはせみつこさん(詩やことば遊びをステージ構成したパフォーマー、『しゃべる詩あそぶ詩きこえる詩』などの詩集を編んでいる)へのオマージュとして本の帯には「子どもたちに贈る谷川俊太郎のあそぶ詩おどる詩そらでうたう詩」と書かれていました。巻末の詩「えかきうた」の「ひった へに びっくり」のページに描かれている「ひ」「へ」「び」を組み合わせた絵は谷川さんの自作とのこと。6月30日に行われた銀座教文館ナルニア国『こどもあそびうた』刊行記念トークで、童話屋の田中和雄さんと谷川さん、山田さんの楽しいおしゃべりの中で伺いました。声に出して楽しい詩は、おはなし会の導入に使えそうです。


【児童書】

『リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ』こまつあやこ/作 講談社 2018/6/5

昨年9月に第58回講談社児童文学新人賞(公式サイト→こちら)を受賞した作品が刊行されました。作者は現役の図書館司書さんです。題名には耳慣れない言葉が並びます。まるで魔法の呪文のようですが、これはマレーシア語でリマは5、トゥジュは7、つまり「五七五七七」という短歌の韻律をマレーシア語で表したものです。中学2年生の沙弥はマレーシアからの帰国子女、2学期から日本の中学に編入し毎日クラスの中で浮かないか、どきどきしていました。そんな時にみんなから「督促女王」と呼ばれている3年の佐藤先輩に図書室に呼び出されます。借りた本の返却だけかと思いきや、いきなり「今からギンコウに出かけるよ。ついてきてよ」と言われてしまいます。戸惑う沙弥でしたが…中学生の揺れる心を瑞々しい感性で描き、読後感はとても爽やか。ぜひこの夏、10代の利用者に薦めてほしい1冊です。
 

『ふくろ小路一番地』イーヴ・ガーネット/作 石井桃子/訳 岩波少年文庫159  岩波書店 2018/6/15新版第3刷

ふくろ小路一番地 (岩波少年文庫)
イーヴ・ガーネット
岩波書店
2009-05-15

イギリスの小さな町の袋小路に住んでいる子だくさんのラッグルス一家の、家族が織りなすドタバタの日々を描いた作品です。この本はイギリスで1937年に出版され、イギリス図書館協会からその年に出版された最優秀児童文学に贈られるカーネギー賞を受賞しています。ラッグルスのお父さんはゴミ収集を仕事とし、お母さんは洗濯屋さんで、その上子だくさんとくれば、TV番組などで取り上げられる貧乏子だくさん家族を思い浮かべてしまいます。この当時、イギリス児童文学が描いていたのは子守りのいる上流階級の家庭が多かったため、この作品は貧しい労働者階級を描いて話題を呼んだのです。7人の個性豊かな子どもたちが巻き起こすどんな失敗をも、おおらかに受け止める家族の物語は、とても愉快です。ガーネットは若い頃にロンドンの子どもを描くために貧民街を何度も訪ねたということです。そこで見た貧しいけれど生き生きと暮らす子どもたちの姿が作品の中で描かれているのでしょう。石井桃子さんはあとがきに「ガーネット女史の文体は、俗語もまじえた口語で、べらべらしゃべるような調子で書かれてありますので、訳すのに、たいへん苦労しました。」と書いています。その翻訳も大変魅力的です。新版が2009年に出た後、しばらく品切れになっていましたが、この度第3刷として出版されました。すでに蔵書している館も、旧版しかない場合は、この機会に買い替えてもよいと思います。



『源氏物語 つる花の結び 上・下』荻原規子/訳 理論社 2018/6


源氏物語 つる花の結び(下)
理論社
2018-06-12
 
 
『紫の結び』三巻から始まり、『宇治の結び』上下巻(宇治十帖)に続き、この度出版された『つる花の結び』上下巻で荻原源氏物語が完成しました。源氏物語五十四帖を、光源氏と藤壺の宮、紫の上の一生を描く『紫の結び』、中流階級の女人たちとの逢瀬から始まり玉鬘十帖へ続く『つる花の結び』、そして源氏の孫たちが主人公となる『宇治の結び』と大胆に3つの系統にわけて、全7冊に再構築したものです。千年の時を経た古典を読みやすい現代語訳にし、多くの若い読者に読んでほしいという作者の願い通りに、『つる花の結び』は、光源氏の色男っぷりを伝えていて、現代の若い世代も楽しんで読める作品になっています。
 
 
【その他】

 『かんがえる子ども』安野光雅/作 福音館書店

かんがえる子ども (福音館の単行本)
安野 光雅
福音館書店
2018-06-13

安野光雅さんの新刊のもう1冊は子どもの学びと生活について語るエッセイです。「おとなの目が行きとどいていることは必要ですが、行きとどきすぎると、子どもの自由がなくなります。」、「実際に触れて知る、というのは、映像などで見て知っている、というのとは違うと思います。(中略)実際に自然の中を歩いて、花が咲いているのを見、鳥が謳っているのを聞き、雨が地面にしみこんでいく様子を見たり、森の中のにおいをかいだり、というような、直接自分の体で触れて知るような体験とでは、感じかたが大きく違ってくると思います。」と述べ、子どもが体験し、そこから「どうなっているんだろう」と考える、そして自分で答えを見つけていくことの大切さを、実例をあげながら書いておられます。『ふしぎなえ』や、『はじめてであうすうがくの絵本』、『旅の絵本』は、それを実行された結果の作品だったのだと、改めて国際アンデルセン賞作家である安野さんのこれまでの仕事も理解できる1冊でした。

(作成K・J)

おすすめの幼年童話⑯『小さいおばけ』オトフリート・プロイスラー


小さいおばけ
オトフリート・プロイスラー
徳間書店
2003-07-16
 
 
 
   
 ずっと昔から、ドイツのフクロウ城というお城に、ひとりの小さい夜おばけが住んでいました。目を覚ますのは、夜12時からの1時間だけ。手には、ひとふりすると扉や門がぱっと開き、さっとふればたちまち閉まる13個の鍵がついた鍵束をいつも持っています。小さいおばけは、月の光を浴びたり、仲良しのミミズク・シューフーとおしゃべりしたりと楽しく暮らしていましたが、ふと、昼の世界を見てみたいと思うようになります。
 
 そしてある時、突然昼間に目が覚めるのです。小さいおばけは大喜びで、早速昼の世界を見てまわります。ところが、日の光を浴びて白い体が黒くなってしまい、町の人を驚かせて大騒ぎになってしまいます。夜おばけにに戻りたくても、方法が分かりません。そこで小さいおばけは、三人の子どもたちに助けを求めるのですが・・・。

 気が良くて、いたずら好きな小さいおばけが愛らしく、親しみが持てます。怒ると人間が恐れるほどの怖さを発揮するおばけらしさも魅力的です。小さいおばけが起こす騒動や昼間に目覚めてしまった謎が、どんどん読者を話に引き込みます。情景が細かく描かれた挿絵が豊富にあり、物語の雰囲気がたっぷり伝わってきます。

 作者のオトフリート・プロイスラーは、ドイツを代表する児童文学作家です。『小さい水の精』(畑沢裕子訳 徳間書店 2003)でドイツ児童図書賞特別賞を受賞しています。他にも、『小さい魔女』(大塚勇三訳 学研プラス 1965)や「大どろぼうホッツェンプロッツ」(中村浩三訳 偕成社 1966)シリーズがあります。小学校高学年からは、ドイツの一地方の伝説がもとになっている『クラバート』(大塚勇三訳 偕成社 1980)がおすすめで、壮大な世界に浸れます。様々な年齢で楽しめるプロイスラーの作品を、ぜひ手に取ってみてください。

*『クラバート』は、本のこまど「基本図書を読む㉛『クラバート』プロイスラー」→こちらで紹介しています。

(作成A・U)

第1回『おはようスーちゃん』→こちら
第2回『じゃんけんの好きな女の子』→こちら
第3回『こぶたのレーズン』→こちら
第4回『ちびっこタグボート』→こちら
第5回『スプーン王子のぼうけん』→こちら
第6回『プレゼントはお・ば・け』→こちら
第7回『ちびねこグルのぼうけん』→こちら 
第8回『宇宙からきたかんづめ』→こちら
第9回『ごきげんいかが がちょうのおくさん』→こちら
第10回『ジェニーとキャットクラブ』→こちら
第11回『火曜日のごちそうはヒキガエル』→こちら
第12回『ちびっこ大せんしゅ』→こちら
第13回『こぶたのピクルス』→こちら 
第14回『オンネリとアンネリ』→こちら
第15回『ナスレディンのはなし』→こちら

『うみべのまちで』がケイト・グリナウェイ賞を受賞しました!


2018年のケイト・グリナウェイ賞(*)に輝いたのは、カナダの絵本『うみべのまちで』(原題「TOWN IS BY THE SEA」、ジョアン・シュウォーツ/文 シドニー・スミス/絵 いわじょうよしひと/訳 BL出版 2017/7/15)です。

*ケイト・グリナウェイ賞*
イギリスの絵本作家ケイト・グリナウェイにちなんで1955年に英国図書館協会によって設立された賞。1年間にイギリスで発行された絵本のうちで特に優れたものの画家に対して贈られる。

 

受賞を知らせるサイト→The Canadian Children’s Book Centre 「TOWN IS BY THE SEA wins Kate Greenaway Medl

 

この作品は、昨年産経児童文化出版賞翻訳賞も受賞しています。

昨年、この本が出版された時に教文館ナルニア国で読んで、紹介文を書いているのに、なぜか昨年の新刊情報から抜け落ちていました。(ノートから書き起こす時に、ページを飛ばしてしまった模様)

改めてこの機会に紹介します。

うみべのまちで
ジョアン・シュウォーツ
ビーエル出版
2017-07-11
 
 
“舞台は、カナダ、ノヴァ・スコシア州、ケープ・プレトン島。1950年頃の炭鉱のある町の様子を、炭鉱夫の息子の視点から描きます。うちの窓から、あるいは町のあちこちから見渡せる穏やかな海。その海の下に坑道があり、そこで父さんたちが働いている。美しい島の景色と対照的にところどころで挟み込まれる地下の坑道の様子。黒い地面が重苦しくそこで働く人々の上にのしかかるように描かれ、町の繁栄が暗い坑道で働く人々によってもたらされていることを語りかけている。
文章として書かれてはいないけれど、「そのころ、とうさんは、うみのした。くらいトンネルで せきたんを ほっている。」という繰り返される地下坑道の場面3,4枚目では落盤事故の様子が描かれる。地上ではやはり炭鉱夫だったおじいちゃんのお墓に行って花を捧げる少年。次のシーンでは父さんが疲れて帰ってくるとシャワーを浴びて、家族で食事をし、ベランダで家族4人並んで海をみつめるシーンへと続く。「いつかぼくも そこではたらく。」最後は暗い海辺の町を海上から引いてみるアングルから描き「ぼくは、たんこうではたらく とうさんのむすこ。」「ぼくのまちでは、みんな そうやっていきてきた。」というセリフで終わる。”
 
カナダ人のイラストレーター、シドニー・スミスはノヴァ・スコシア州出身の38歳で、ノヴァ・スコシア美術デザイン学校の出身です。彼は、光の表現が非常に上手く、美しいのです。その抑えた光のきらめきが、人々が親から子へと連綿と受け継いできた生活を静かに指し示してくれます。またまばゆいような少年の一日と、暗い坑道の様子と対比、少年の住む家の中の様子を描くかと思うと、次のページでは俯瞰して広い大海原を見せるという視点の移動など、絵を通して私たちに豊かに語りかけてきます。
 
シドニー・スミスの手がけた絵本で、ほかに日本で出版されているものに、文字のない絵本『おはなをあげる』(ポプラ社 2016)があります。

おはなをあげる (ポプラせかいの絵本)
ジョナルノ ローソン
ポプラ社
2016-04-04
 
この作品ではカナダ総督文学賞(児童書部門)。ニューヨークタイムズ・ベストイラスト賞なども受賞しています。
 
 
ぜひこの機会に手に取って読んでほしいと思います。
 
(作成K・J)

基本図書を読む3『秘密の花園』 F・H・バーネット(再掲)


 2014年6月23日に公開した「基本図書を読む3『ヒミツの花園』」を再掲載します。この作品は、5月に少年写真新聞社から発行された『小学生のうちに読みたい物語~学校司書が選んだブックガイド~』にも掲載されています。

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 著者F・H・バーネット(1849-1924)は、イギリス生まれの作家で、早くに父を亡くして経済的に苦労し、16歳でアメリカに移住します。幼いころから文章を書くことが好きだったことから作家となって生計を立て、『小公子』『小公女』で大成功をおさめます。『秘密の花園』は、1911年の出版当時はあまり話題にならなかったそうですが、現在では児童文学の傑作に値すると評されています。

 メリーは、インドで召使いに甘やかされて育った大変わがままな女の子です。コレラで両親が亡くなったので、イギリスのおじさんの家に引き取られます。ムーア(荒野)に囲まれた大きなお屋敷には、遊び相手もおらず、仕方なく外に出たメリーは、10年間誰も入ったことがない秘密の庭を見つけ、自分の手で荒れた庭を生き返らせることに決めます。また、自分は死ぬんだと思い込んで隠れるように暮らしていた従兄のコリンも見つけ、2人はぶつかり合いながらも仲良くなります。田舎の少年ディッコンの力も借りながら、庭仕事に励み、時がとまっていた庭が息を吹き返したとき、お屋敷に嬉しい奇跡が起こるのです。

閉ざされていたメリーとコリンの心が、自然の力や、周りの人の助けをかりて、生き生きと生命力を取り戻していく様子が無理なく感動的に描かれている作品です。風がふきぬける暗い海のようなムーア(荒野)、冬枯れの茶色で覆われた静かな庭、そして、その庭が春を迎え鮮やかに彩られていく様子など、細やかで美しい自然描写は、そこにいる人の心も映し出しているようで、心に残ります。また、笛を吹くと動物たちが集まってくるディッコンや、10人の子どもをたくましく育てているおかみさん、表面では無愛想だけれど心優しい庭師のベンなど、イギリスの田舎ヨークシャで暮らす素朴であたたかい人たちも魅力的です。

小学校高学年を中心に、「秘密」という言葉にひかれた子や、花や動物が好きな子などが手に取り、時間をかけて読む姿を何度か見られました。また、大人の方にすすめても、喜んでもらえることが多かった作品です。

『秘密の花園』は、古典作品ということで、名作全集などでダイジェスト版も多数出版されています。2点ほど読んでみましたが、自然のもつ力、複雑な感情の動き、子どもたちが成長していく様子は、ダイジェスト版では感じることができませんでした。この作品は、全訳で丁寧に読んでこそ、その魅力を味わうことができると思います。

現在手にとりやすい完訳本として、下記の3点をおすすめします。

秘密の花園』 FH・バーネット作 猪熊葉子訳 堀内誠一画 福音館古典童話シリーズ または 福音館文庫 

 

秘密の花園 (福音館古典童話シリーズ (24))秘密の花園 (福音館文庫 古典童話)
フランシス・ホジソン・バーネット
福音館書店 1979-10-31
フランシス・ホジソン バーネット
福音館書店 2003-06-20
 

 

 

『秘密の花園 上・下』 バーネット作 山内玲子訳 シャーリー・ヒューズ画 岩波少年文庫

 

秘密の花園〈上〉 (岩波少年文庫)秘密の花園〈下〉 (岩波少年文庫)
フランシ・ホジソン バーネット
岩波書店 2005-03-16
フランシス・ホジソン・バーネット
岩波書店 2005-03-16

 

 

 

いずれも、完訳ですが、方言の訳し方が違ったり、挿絵が違ったりして、印象が異なりますので、読み比べてみると楽しいです。子どもにすすめるときには、3点を見せて、好きなものを選んでもらうのもよいかと思います。

ダイジェストの問題については、『読む力は生きる力」』(脇明子著 岩波書店 2005でも取り上げられています。

 

読む力は生きる力
脇 明子
岩波書店
2005-01-18

 

 

 

著者は、ダイジェストにすることが、絶対に悪いのではないが、「ただし、ダイジェストとして許せるのは、あくまでも原作を尊重し、そのよさを損なわないように注意しながら刈り込んだもので、しかも、あとがきなどに、それが原作どおりでないこと、どんな方針でどれくらい縮めたものであるかということを明記してあるものだけです。」と述べています。わかりやすく簡単なものをよかれと思ってすすめることが、その子の作品との本質的な出会いを奪ってしまうこともあることを心にとめて、本を選び、手渡していく必要があるでしょう。

『読む力は生きる力』は、大学教授で、「岡山子どもの本の会」代表の著者が、どうして子どもたちにとって「本を読むこと」が大切なのか、学生や子どもと本に関わっている仲間とやりとりするなかで、深めていった考えが書かれています。現在の日本の子どもの現状に即して、読書の本質を考えることができますので、一読をおすすめいたします。

(作成T.I)

基本図書を読む2『たのしい川べ』ケネス・グレーアム(再掲)


2014年に配信した記事を、再度掲載します。記事の後半で紹介した『石井桃子の翻訳はなぜ子どもをひきつけるのか』の作者竹内美紀氏が、子ども向けの伝記『石井桃子 子どもたちに本を読む喜びを(伝記を読もう)』(竹内美紀/文 立花まこと/絵 あかね書房 2018/4/5)を出版されています。

こちらもぜひ読んでみてください。

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「基本図書を読む」の2回目は、ケネス・グレーアムの『たのしい川べ』です。

たのしい川べ―ヒキガエルの冒険
ケネス・グレーアム
岩波書店
1963-11-29
 
 
カナダおよびアメリカの児童文学に大きな影響を与えたのリリアン・H・スミスが、『児童文学論』(岩波書店、1964)の中で、「『たのしい川べ』は、ゆたかな心の生んだ、ゆたかな本である。そして、非常な明確さとつややかさをもって書かれ、使われていることばは、韻文のもつ呪力にみちている。文にはリズムがあり、また、アーノルド・ベネットのことばを借りれば、「そこには、森と水辺のうた」が見いだされるので、声をだして読むのに楽しい」(p297)と、書き記しているように、大変美しい文章の本で、欧米の子どもたちが必ず一度は声に出して読んだ経験のある作品です。
児童文学論
リリアン H.スミス
岩波書店
1964-04-20
 
待ちに待った春の気配に、家の中の掃除をほっぽり出して、外へ出ていったモグラを待ち構えていたのは、優しい春の陽ざしと、草原をわたる暖かな風でした。春に誘われて歩き回るうちに、モグラは生まれて初めて川に出会います。その川の流れの表現が、ほんとうに美しく、リズミカルで、声に出して読みたくなるのです。

「川はおいかけたり、くすくす笑ったり、ゴブリ、音をたてて、なにかをつかむかとおもえば、声高く笑ってそれを手ばなし、またすぐほかのあそび相手にとびかかっていったりしました。すると、相手のほうでも、川の手をすりぬけてにげだしておきながら、またまたつかまったりするのです。川全体が、動いて、ふるえて―きらめき、光り、かがやき、ざわめき、うずまき、ささやき、あわだっていました。」(『たのしい川べ』p11)
 
春に誘われて出かけたモグラがやがて川ネズミと出会い、一緒に過ごすうちに、ヒキガエルやアナグマなど個性豊かな仲間たちと出会っていきます。その仲間たちとの友情あふれる日々を、豊かな自然の描写とともに描いています。とりわけ、見栄っ張りで向う見ずなヒキガエルが引き起こす事件は、翻訳者の石井桃子が最初に『ヒキガエルの冒険』(英宝社 1950)として出版したように、物語の中心になっています。

それでも、主人公はあくまでモグラとネズミ。そしてなにより豊かな四季折々の川辺の自然です。
 
児童文学研究者であり、児童文学作家・翻訳家でもあった瀬田貞二も、『瀬田貞二 子どもの本評論集 児童文学論(上)』(福音館書店 2009)の中で、「まことにファンタジーの傑作で」(p160)と評しています。躍動感あふれる文章と、小動物たちが繰り広げる物語の中に、人生の悲喜交々が重層的に織りなされ、おとなにも子どもにも愛される作品になっているとまとめています。

ケネス・グレーアムは、スコットランド生まれのイギリスの児童文学者です。5歳で母親を亡くし、母方の祖母に引き取られて数年を過ごした田舎の自然体験がこの本のベースとなっています。不遇の時代を乗り越えて、家族を持った時に幼い自分の息子に語った話が1冊の本になりました。息子に語る話の中に自分の幼少期に体験した豊かな川の流れと、自然、小さな動物たちが盛り込まれ、やがて『The Wind in the Willows』(『たのしい川べ』の原題)にまとめられたのです。
生き生きと描かれる小動物たちの物語を通して、自然の豊かさ、そこで懸命に生きることの素晴らしさ、友情の尊さを伝えてくれます。なにより、「声に出して」読む、その楽しさを味わえる1冊です。

この度、出版された『石井桃子の翻訳はなぜ子どもをひきつけるのか―「声を訳す」文体の秘密』(竹内美紀 ミネルヴァ書房 2014)では、石井桃子が戦後直ぐに『ヒキガエルの冒険』(英宝社 1950)として翻訳し出版した文章と、1963年に『たのしい川べ』と題して翻訳し直した文章が比較されています。この13年の間に、石井桃子は、岩波書店の編集部で「岩波少年文庫」、「岩波子どもの本」シリーズを創刊し、またアメリカやカナダの図書館を訪問し、帰国後に自宅で「かつら文庫」を開設しています。著者の竹内美紀は、「さまざまな側面から現実の子どもに接し、子どもの読みを考える機会に恵まれた13年間であったといえよう。」(p160)と、書いています。この間に、アメリカでリリアン・H・スミス本人に出会い、『児童文学論』を手渡されて、そちらの翻訳にも携わりました。リリアン・H・スミスとの出会いや、実際に子どもたちに本を手渡す中で、子どもたちに届く翻訳を考え手直ししたことは、とても興味深く思います。

「子どもの本の翻訳」という視点で、児童文学を考えてみるのも面白く、こちらの本もぜひ一読されることをおすすめします。

(作成K・J)

おすすめ幼年童話15『ナスレディンのはなし』トルコの昔話


連載15回めは、『トルコの昔話 ナスレディンのはなし』(八百坂洋子/再話 佐々木マキ/絵 福音館書店 2012)です。

ナスレディンのはなし (ランドセルブックス)
福音館書店
2012-03-20

 

 

 

 

「ナスレディン」はおよそ800年前にトルコに生まれ、裁判官補佐や神学校の教師をした人の名前です。人を笑わせることが好きなナスレディンの話は、トルコや周辺の国々で長く語り継がれてきました。この本にはナスレディンのユーモアあふれる話が4つ収められています。

道で酔いつぶれた裁判官の上着をありがたくいただいて(というか持ち去って)着てしまうナスレディン。怒った裁判官の前でナスレディンが言ったこととは?(「ナスレディンと裁判官」)

威張った人をとんちで懲らしめつつ、ちゃっかり自分も得をしてしまう、一休さんなどの日本のとんち話とは一味違った面白さを味わえます。佐々木マキのユーモラスな絵も雰囲気にぴたりと合っています。

イスラム教の考え方、日本人との違いも味わえ、異文化理解の楽しさを味わってもらう入門編としてもおすすめです。

(作成:28年度児童部会部員M・H)

 

第1回『おはようスーちゃん』→こちら
第2回『じゃんけんの好きな女の子』→こちら
第3回『こぶたのレーズン』→こちら
第4回『ちびっこタグボート』→こちら
第5回『スプーン王子のぼうけん』→こちら
第6回『プレゼントはお・ば・け』→こちら
第7回『ちびねこグルのぼうけん』→こちら 
第8回『宇宙からきたかんづめ』→こちら
第9回『ごきげんいかが がちょうのおくさん』→こちら
第10回『ジェニーとキャットクラブ』→こちら
第11回『火曜日のごちそうはヒキガエル』→こちら
第12回『ちびっこ大せんしゅ』→こちら
第13回『こぶたのピクルス』→こちら 
第14回『オンネリとアンネリ』→こちら

 

4月、5月の新刊から(2冊追加あり)


2018年4月、5月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの本を紹介します。(一部、見落としていた2月、3月に出版された本も含まれています)

ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。出版されたすべての新刊本を購入して読むことはできませんが、毎月、教文館ナルニア国の新刊本コーナー、クレヨンハウス新刊本コーナー、横浜日吉にあるともだち書店など、信頼できる児童書の目利きのいる書店にある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。

 (なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

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【絵本】

もりのこえほんシリーズ
『あそぼう!はなのこたち』エリザベス・イワノフスキー/作 ふしみみさを/訳 岩波書店 2018/3/23

あそぼう! はなのこたち (もりのこえほん)
エリザベス・イワノフスキー
岩波書店
2018-03-24

春先から初夏にかけて咲く花たちが主人公の絵本です。こまあそびにたけうま、わまわしにめかくしおにといろいろな遊びをしている様子がとても可愛らしい手のひらサイズの絵本です。

 

『ひなげしのおうじ』エリザベス・イワノフスキー/作 ふしみみさを/訳 岩波書店 2018/3/23

ひなげしのおうじ (もりのこえほん)
エリザベス・イワノフスキー
岩波書店
2018-03-24

ひなげしのおうじが麦の穂で出来た馬に乗って出かけます。途中で馬とはぐれてしまいますが、ひばりやマルハナバチたちに助けられます。素朴な味わいの絵本です。

 

『もりのたんじょうびパーティ』エリザベス・イワノフスキー/作 ふしみみさを/訳 岩波書店 2018/3/23

もりのたんじょうびパーティ (もりのこえほん)
エリザベス・イワノフスキー
岩波書店
2018-04-19

 もりのおうさま、きのこだいおうの誕生日のお祝いに、きのこたちはもちろん、森の小動物や昆虫たちが集まってきました。次々と繰り出される出し物も楽しませてくれます。

 

『サーカスくまさん』エリザベス・イワノフスキー/作 ふしみみさを/訳 岩波書店 2018/3/23

サーカスくまさん (もりのこえほん)
エリザベス・イワノフスキー
岩波書店
2018-04-19

サーカスのくまさんは、家に帰るとこぐまたちのおとうさんです。こぐまたちは、じぶんたちもやってみたくて、おおさわぎです。

もりのこえほん4冊は、1944年にベルギーのブリュッセルで出版されました。シリーズ名は「サン・スーシ(Sans Souci)」、フランス語で「心配なく、お気楽に」という意味だそうです。当時は第二次世界大戦中で物資が不足し、壁紙の試し刷り用紙を使って小さなサイズで出版したそうです。岩波書店から出た日本版も判型が小さく素朴な味わいです。作者はフランス、ベルギーの子どもの本の分野で活躍した旧ロシア帝国出身のエリザベス・イワノフスキー(1910~2006)で、グワッシュを使って花や動物たちを生き生きと描き出しています。

 『やまのかいしゃ』スズキコージ/作 かたやまけん/絵 福音館書店 2018/5/5

やまのかいしゃ (日本傑作絵本シリーズ)
スズキ コージ
福音館書店
2018-05-08

1991年に架空社から出版されていた『やまのかいしゃ』が、5月に福音館書店から復刊しました。もとは福音館書店月刊誌「母の友」1986年9月号に読みきりの童話として掲載されたものだと、架空社版の奥付にも記されていました。福音館書店のPR紙「あのね」2018年5月号は、この絵本について作者スズキコージさんのインタビュー記事が掲載されています。なぜ絵本にするときに福音館書店ではなく架空社だったのかということも書かれています。ぜひそちらもチェックしてみてください。朝、起きるのが苦手なほげたさんは今日も昼近くになってやっと駅へ。遅刻しているにも関わらず街へ向かう方向とは反対の電車に乗ってしまいます。山の奥の駅についたほげたさん、そのまま「きょうはやまのかいしゃへいこう」と山を登り始めます。山の上から「遅刻した~」と駆け下りていくほいくさんも誘って山の頂上へ。あまりの気持ちのよさに、街の会社からみんなを呼び寄せことを思いつきます。働き方改革が声高に言われている昨今、この絵本はいろいろな味わい方があるかなと思います。でも子どもたちはそんなことは関係なく、ほげたさんの突き抜けたとぼけ具合に魅了されることでしょう。

 

 『ようかいしりとり』おくはらゆめ/作 こぐま社 2018/5/10 

ようかいしりとり
おくはら ゆめ
こぐま社
2018-05-01

 NHK Eテレ「おかあさんといっしょ」で子どもたちに人気の歌「ようかいしりとり」が絵本になりました。妖怪といっても、おくはらさんの描くのは、ちょっととぼけていて、可愛らしくて、ちっとも怖くありません。夏の「こわいおはなし会」の導入に使えますね。その時は歌もチェックしておいて、子どもたちと一緒に歌えるといいですね。

 

 『はるなつあきふゆの詩(うた)』ジュリー・フォリアーノ/詩 ジュリー・モースタッド/絵 石津ちひろ/訳 偕成社 2018/6
はるなつあきふゆの詩
ジュリー・フォリアーノ
偕成社
2018-05-23
 
 四季折々の自然の変化を、日記のようにして詩に読んだ絵本です。春の詩だけでも13編あるので、図書館などの集団でのおはなし会では、1冊を通して読み聞かせをするには向かないのですが、ご家庭で親子で読んでほしいなと思います。また絵がとても美しく、パラパラとめくって、「ああ、こんな気持ち、わかるな~」と、のんびりと季節の変化に想いを馳せるのに相応しく、勉強に疲れたり、人間関係に悩むYA世代(10代の子たち)に手渡してもいいのではと思います。
 

 

【児童書】
絵本から児童書に移行する子どもたち向けの幼年童話を2冊紹介します。

 『ホイホイとフムフム たいへんなさんぽ』マージョリー・ワインマン・シャーマット/文 バーバラ・クーニー/絵 福本友美子/訳 ほるぷ出版 2018/5/25
ホイホイとフムフム たいへんなさんぽ (海外秀作絵本)
マージョリー・ワインマン・シャーマット
ほるぷ出版
2018-05-17
 
オポッサムのホイホイとフムフムが繰り広げるほのぼのとしたおはなしです。オポッサムはネズミにしていますが、カンガルーのような有袋類でアメリカ大陸に棲息している動物です。ホイホイはいつも家の中ばかりにいて、散歩に出かけたことのないフムフムをやっとのことで誘い出しますが、遠くまで歩いていくと、今度はホイホイが動けなくなってしまいます。ふたりのやりとりは、どこかとぼけていてアーノルド・ローベルの『ふたりはともだち』を彷彿とさせます。

 『ふたごのカウボーイ』フローレンス・スロボドキン/文 ルイス・スロボドキン/絵 小宮由/訳 瑞雲舎 2018/6/1

ふたごのカウボーイ
フローレンス・スロボドキン
瑞雲舎
2018-06-01
 
 絵本『てぶくろがいっぱい』に出てくるふたごの兄弟、ネッドとドニーの楽しいおはなしです。ふたりはカウボーイになって遊ぶときは「オクラホマから来たスティーブとジム」になり切ります。町で出会う人に「おや、ネッドとドニーだね」と聞かれると、「ぼくたちはオクラホマから来たスティーブとジム」だと答えます。ふたりは町へ冒険に出かけますが、迷子になってしまいます。雨宿りしていたお宅からお母さんのところへ「もしかしてお宅のお子さん?」と尋ねられても、名前が違います。さてふたりはちゃんと家に戻れるかしら。幼児期に何か他の者になり切って遊ぶことはとても楽しいですよね。そんな時期の子どもたちもきっと共感しながら読めると思います。
 
 『アンデルセンのおはなし』ハンス・クリスチャン・アンデルセン/原作 スティーブン・コリン/英語訳 エドワード・アーディゾーニ/選・絵 江國香織/訳 のら書店 2018/5/25
アンデルセンのおはなし
ハンス・クリスチャン アンデルセン
のら書店
2018-05-18
 
 『チムとゆうかんなせんちょうさん』『時計つくりのジョニー』などでおなじみのイギリスの絵本作家エドワード・アーディゾーニがアンデルセン物語から14編選んで絵を描いた作品です。江國香織さんがあとがきに、「物語というものをほんとうに深く理解していた人で、物語によりそうのではなく、物語の一部になる挿絵をたくさん描きました。」と書いているのですが、画家であるアーディゾーニが描きたいと思ったおはなしを選んだのだと思います。「しっかりしたスズの兵隊」、「皇帝の新しい服」、「小さな人魚」などおはなしのタイトルもちょっとだけ違っています。読み比べてみてくださいね。
 
 
【研究書】
『絵を読み解く 絵本入門』藤本朝巳・生田美秋/編著 ミネルヴァ書房 2018/5/15
絵を読み解く 絵本入門
ミネルヴァ書房
2018-05-15
 
絵本学会に所属する研究者や、保育者、図書館員など子どもたちに本を手渡している人、また編集者や絵本作家、翻訳家たちが、絵本の「絵を読み解く」という共通のテーマで論じた研究書です。「絵本は、ことばと絵からなり、その相互の関係によって成立し、ページをめくることによって物語が展開していく視覚表現メディアであり、コミュニケーションアートである。そのため、絵本を読み解き、説明するためには、ことばについての理解、絵とことばの相互関係についての理解、絵本と子ども読者の関係についての理解が必要になる。」(あとがき)という視点から、第1部では物語絵本、昔話絵本、ファンタジー絵本、ポストモダン絵本、赤ちゃん絵本について絵の観点から論じ、第2部では古典作品(海外11、日本10)、現代作品(海外8、日本10)の39冊について1冊1冊分析しています。網羅的にわかりやすい解説書となっているので、絵本の選書をする人などは目を通しておくとよいでしょう。
 
『3000万語の格差 赤ちゃんの脳をつくる、親と保育者の話しかけ』ダナ・サスキンド/著 掛札逸美/訳 高山静子/解説 明石書店 2018/5/15 
 
この本の著者はシカゴ大学以下大学院小児外科教授で小児人工内耳移植プログラムのディレクターです。彼女は、小児人工内耳手術の事例から、子どもたちが言語能力の発達にはたんに耳が聞こえるだけではなく、どんな言語環境の中で幼少期を過ごすかがいかに重要かに気がつきます。「人工内耳で聞く力を得たにしても、保護者の言葉の力に変わりはありません。豊かな言語環境がなければ、音が聞こえても何の意味もありませんし、子どもは本来の力を発揮できないでしょう。」と第1章でこの研究へ向かった意図を説いています。この本は親と保育者向けに書かれたものですが、「耳から聴く読書」が子どものことばと心をいかに育てていくかという観点でも読めるので、大変参考になりました。図書館児童サービスとは直接関係ないように思うでしょうが、アウトリーチサービスを考える際にもヒントを与えてくれそうです。
 

【その他】
 『小学生のうちに読みたい物語~学校司書が選んだブックガイド~』対馬初音/編著 少年写真新聞社 2018/5/29
小学生のうちに読みたい物語  ~学校司書が選んだブックガイド~
対馬 初音
少年写真新聞社
2018-05-26
 
杉並区の小中学校で学校司書をしている方々が、子どもたちに本を手渡す中で選んだ物語のブックガイドです。「絵本からの移行期に」、「少し読み物に慣れてきたら」、「主人公にそって物語を楽しみましょう」、「読書の達成感を経験しましょう」、「読書の広がりや深まりを楽しみましょう」、「より深い内容を味わいましょう」、「昔話に楽しみましょう」という7つの単元で、子どもたちの読書力の発達に応じた本を選んでいます。夏休みの読書案内の参考にもなることと思います。ノンフィクションと伝記は含まれておらず、物語(フィクション)だけですが、日々学校で子どもたちと接している司書の方々ならではのコラム記事も充実しています。
 
『遊びの四季 ふるさとの伝承遊戯考』かこさとし/絵・文 復刊ドットコム 2018/2/26

遊びの四季
かこさとし
復刊ドットコム
2018-02-24

 今年5月2日に亡くなられたかこさとしさんが1975年に出版された本を、92歳の誕生を祝って復刊された本です。ご本人が2018年2月の日付で復刊によせて「あとがき」も書いていらっしゃいます。
かこさとしさんが子ども時代に遊んだ遊びを、丁寧に思い出して生き生きと描き出したエッセイです。春夏秋冬、子どもたちが自然の中で自分たちで遊びを生み出していたんだなあと、読み物としてもとても面白かったです。

(作成K・J)

『スロバキアのともだち・はなとゆろ おるすばんのぼうけん』BIBIANAから賞を贈られました!


「2017年12月、2018年1月の新刊から」の記事(→こちら)で紹介した福井さと子さんの絵本『スロバキアのともだち・はなとゆろ おるすばんのぼうけん』が、スロバキア国内で「スロバキアの最も美しい絵本賞」の学生部門賞を受賞したというニュースが入ってきました。

これらの賞を主催しているのは、BIBIANAというブラティスラヴァ世界絵本原画展のためにつくられた文化機関で、日本におけるJBBY(日本国際児童図書評議会)と同じような役割を果たしているとのことです。(受賞を伝えるBIBIANAのサイト(スロバキア語→こちら

 

 

『スロバキアのともだち・はなとゆろ おるすばんのぼうけん』福井さとこ/作 JULA出版局 2017/12/25

おるすばんのぼうけん―スロバキアのともだち・はなとゆろ
福井 さとこ
JULA出版局
2017-12-25

 

プラチスラヴァ芸術大学版画学科大学院で、スロバキアの版画家で絵本作家ドゥシャン・カーライの下で版画と絵本製作について学んだ福井さんの卒業制作が、JULA出版局から出版されました。

3色刷りの版画で描かれているのは、福井さんがスロバキアでベビーシッターをしていた子ども達のの姿です。

お留守番をすることになったはなとゆろの兄妹。妹が寂しそうにしているので、お兄ちゃんのゆろは椅子に布をかけて「チャーリー マーリー フック!」と呪文を唱えると、椅子は馬になり、積木は村に、ソファは山に、観葉植物のベンジャミンとポトスは森に、そしてなんとハサミは空飛ぶ鳥になるのです。ふたりはからすが探すテントウムシを探す冒険へ出かけます。洗濯物たちはみんな動物になってふたりの冒険を助けてくれます。本はふくろうになります。

「チャーリー マーリー フック!」はスロバキアの子ども達が遊びの中で使う呪文の言葉。日本で言えば「ちちんぷい」みたいな感じでしょうか。折込にはスロバキアのわらべうたも楽譜入りで掲載されています。海の向こうの子どもたちの遊びに想いを馳せるのも素敵な経験になると思います。 

版画で描かれる子どもたちの空想の世界は、どの国の子どもたちも同じなんだなと感じます。

 

この機会に、まだ手にしていない方は読んでみてください。

注文などはJULA出版局まで(→こちら

(作成K・J)

3月、4月の新刊から


 2018年3月、4月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの本を紹介します。(一部、見落としていた2月に出版された本も含まれています)

ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。出版されたすべての新刊本を購入して読むことはできませんが、毎月、教文館ナルニア国の新刊本コーナー、クレヨンハウス新刊本コーナー、横浜日吉にあるともだち書店、代官山蔦屋書店児童書コーナー、茗荷谷てんしん書房など、信頼できる児童書の目利きのいる書店にある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。

 (なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

 

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【絵本】 

『ほうまん池のカッパ』椋鳩十/文 赤羽末吉/絵 BL出版 2018/2/1

ほうまん池のカッパ
椋 鳩十
ビーエル出版
2018-01-26
 
種子島に伝わる昔話です。島一番の力持ちで、釣も腕も島一番といつも自慢するとらまつですが、ある日地面の下から伸びてきた手につかまり獲った魚を奪われてしまいます。カッパの仕業で、ほうまん池には十匹ものカッパが棲んでいるのでした。とらまつはカッパを捕まえようと待ち受けますが、カッパのほうがどうやら一枚上手のようです。さてさてこの勝負、いったいどうなることでしょう。再話は椋鳩十、絵は赤羽末吉で、1975年に銀河社から出版されて長く絶版になっていたものが、BL出版から復刊されました。

 

『大根はエライ』久住昌之/文・絵 たくさんのふしぎ傑作集 福音館書店 2018/2/25

大根はエライ (たくさんのふしぎ傑作集)
久住 昌之
福音館書店
2018-01-10

月刊「たくさんのふしぎ」2003年9月号が、今年ハードカバーになりました。『孤独のグルメ』などの作品がある漫画家久住昌之氏の初の絵本作品です。大根おろしや刺身のつまとして他の食品の味を引き立てたり、おでんや煮物で一緒に煮るものによって美味しさがかわったりと、脇役でいながら無くてはならない存在の大根を、それこそ味わい尽くす1冊です。ユーモアたっぷりでいながら大根に関する知識が増す、まさに大根のような味わい深い1冊です。(銀座・教文館ナルニア国でバージニア・リー・バートン展に合せた久住氏のトークイベントに参加してきました。『せいめいのれきし』に大きな影響を受けてきたとのことでした。)

 

『おひさまでたよ』北村人/作 絵本館 2018/3

おひさまでたよ
北村 人
絵本館
2018-03-15

暖かい色のクレヨンの線で描いた小さい子向けの可愛らしい判型の絵本。「ぽかぽか ぽかぽか いいきもち」、「ぽかっぽかっ ふあーあ いいきもち」、ページをめくると動物たちがおひさまの温かい陽射しの中でのーんびりしています。のーんびりすること、これが出来そうでいて、なかなか出来ないからこそ、そんな時間を大事にしたいなと思います。

 

『黄金りゅうと天女』代田昇/文 赤羽末吉/絵 BL出版 2018/3/20

黄金りゅうと天女
代田 昇
ビーエル出版
2018-03-15

沖縄慶良間諸島に伝わる昔話です。1974年に銀河社から出版されていましたが、この度BL出版から復刊されました。昔、沖縄の武士と百姓の娘が身分違いの恋に落ち、天女のお告げの通りに慶留間島に渡ります。そこで生まれた可愛(かな)という娘は、賢く育ちます。しかし七才になった朝、可愛は「天にいかねばならない」と言ってオタキ山へ登っていき、阿嘉島オタフキ山にいた黄金の竜の背に乗って天に昇って行ってしまったのです。人々が可愛のことを話題にしなくなった頃、島へ大和民族の海賊が襲ってきました。村々は略奪されますが、そこに黄金の竜が現れるのです。沖縄の昔話も大切に語り継いでいきたいですね。

 

『さとやまさん』工藤直子/文 今森光彦/写真 アリス館 2018/4/5

さとやまさん
工藤 直子
アリス館
2018-03-23

写真家今森光彦さんは滋賀県大津市の里山で暮し、四季折々の自然の変化を観察し、そこに集う蝶を始めとする虫たちとの生活を大切にしてこられました。そうした里山の動植物や生活はこれまでも写真絵本やNHKの番組「オーレリアンの庭-今森光彦 四季を楽しむ里山暮らし」で紹介されてきました。この度は里山で撮影された夥しい数の写真の中から、厳選された春夏秋冬の表情が切り取られ、それに工藤直子さんが詩をつけました。またその詩に新沢としひこさんが曲をつけて、出版記念トークイベントで披露されました。人々の暮らしを豊かに彩る里山が、過疎化によって各地で放置されているというニュースも聞きます。里山の存在価値が見直されてほしいと願います。

 

『ぐるぐるちゃん かくれんぼ』長江青/文・絵 菊地敦己/ブックデザイン 福音館書店 2018/4/5

ぐるぐるちゃん かくれんぼ (福音館あかちゃんの絵本)
長江 青
福音館書店
2018-04-04
 
福音館書店のあかちゃんの絵本で、こりすのぐるぐるちゃんが活躍する『ぐるぐるちゃん』、『ぐるぐるちゃんとふわふわちゃん』に続く3冊目です。ぐるぐるちゃんはある日おとうさんといっしょにさんぽに出かけ、かくれんぼをします。ぐるぐるちゃんがあまりに上手にかくれたので、おとうさんはみつけられません。さてさて、どうなるかしら。小さな子どもの心に寄り添う可愛らしい絵本です。
 
 
『パンダのあかちゃん おっとっと』まつもとさとみ/作 うしろよしあき/文 わたなべさとこ/絵 KADOKAWA 2018/4/26
 
パンダのあかちゃん おっとっと
まつもと さとみ
KADOKAWA
2018-04-26
 
あかちゃんと絵本について研究をされたいる後路好章さんが文章を書き、2015年にボローニャ国際絵本原画展で入選した渡邊智子さんが絵を描いたパンダのあかちゃんが愛らしい絵本です。パンダの絵本は、シャンシャン効果もあって、たくさん出ていますが、小さな子どもたちが喜ぶ耳心地のよさがあり、この作品を手に取ってみました。
 
 

『村じゅうみんなで』ヒラリー・ロダム・クリントン/文 マーラ・フレイジー/絵 落合恵子/訳 徳間書店 2018/4/30 

村じゅう みんなで (児童書)
ヒラリー・ロダム・クリントン
徳間書店
2018-04-25
 
3年前のアメリカ大統領選でトランプ大統領と競ったヒラリーさんが文章を書いた絵本です。「子どもを育てるには村中みんなの力が必要だ」というアフリカのことわざを、ヒラリーさんは信念としてきました。この絵本では、子どもが望む「こんな公園があったらいいな」を、おとなもこどもも、自分の出来ることを分担し合って、一緒に作り上げていきます。おとなは子どもの持っている良さを信じ、また家族という狭い枠だけでなく社会とのかかわりの中で育てていくことの大切さを、ヒラリーさん自身が子育ての中で、また政治活動の中で感じてきたといいます。マーラ・フレイジーの描く絵も、あちこちから子どもやおとなたちの声が聞こえそうなほど生き生きとしています。

 

『花ばあば』クォン・ユンドク/絵・文 桑畑優香/訳 ころから 2018/4/29

花ばぁば
クォン・ユンドク
ころから株式会社
2018-05-02
 
当初、童心社から10冊出ている日中韓平和絵本として出版される予定だった絵本です。日中韓平和絵本は戦争を体験した絵本作家浜田桂子さん、和歌山静子さん、田島征三さんたちが韓国、中国の絵本作家との交流を通して、次の世代へ平和な時代を手渡したいと、歴史と向き合い、日中韓双方の国で出版することを前提に、参加した絵本作家が作成しました。ところがクォン・ユンドクさんの描く日本軍慰安婦をテーマにした絵本だけは、このシリーズから出すことが出来ませんでした。韓国では出版されて版を重ねているこの美しい絵本を、なんとかして日本でも出版したいと、田島征三さんがクラウドファンディングで呼びかけ、多くの人の支援を受けて、この度新興の小さな出版社から出版されました。
 昨年は#MeToo運動が世界的に広がりをみせ、また世界各地でイスラム過激派による女子学生襲撃事件も繰り返されており、若い女性には関心のあるテーマです。日本人としてデリケートな問題を含んでいますが、この問題を正面から直視することは大切です。近年、ナチスドイツによるホロコーストをテーマに扱った児童書がたくさん出ています。それはドイツが第二次世界大戦後に自分たちの犯した過ちをきちんと受け止め総括しているからともいえます。一方で日本ではこの問題を無かったかのように扱う勢力があって、過去の清算が中途半端に終わっています。ユンドクさんの来日に合わせた講演会に参加してきました。日本を責めるものではなく客観的な事実に基づいて文章が練られ、戦争というものの愚かさを伝えています。絵は柔らかくとても美しい絵本です。YA世代にぜひ手渡していきたい1冊と考えています。
 
 
 
【児童書】

『石井桃子 子どもたちに本を読む喜びを(伝記を読もう)』竹内美紀/文 立花まこと/絵 あかね書房 2018/4/5
石井桃子: 子どもたちに本を読む喜びを (伝記を読もう)
竹内 美紀
あかね書房
2018-04-25
 
子どもの本の翻訳家として、作家として、戦後日本の児童書黄金時代を支えてこられた石井桃子さんについて描かれた伝記が出ました。作者は博士論文を『石井桃子の翻訳はなぜ子どもをひきつけるのか:「声を訳す」文体の秘密』(ミネルヴァ書房 2014)としてまとめ出版された竹内美紀さんです。前作は研究者の立場から書いた専門書ですが、この作品は子どもにわかりやすく石井桃子さんの生い立ちや遺した功績を伝えてくれています。あかね書房の「伝記を読もう」のシリーズは第1期で10冊第2期はこの本を含めて5冊出ています。

 
『四人のヤッコ』西内ミナミ/作 はたこうしろう/絵 すずき出版 2018/4/20

四人のヤッコ (おはなしのくに)
西内 ミナミ
鈴木出版
2018-04-16
 
 ヤッコは一人っ子です。ピアノの練習や学校の宿題で忙しい日々に、自分にそっくりな子がいればいいのになあと思います。ところがその願いがある日叶ってしまいます。ピアノを上手に弾くヤッコ、勉強をどんどん進めてくれるヤッコ、友達と楽しく遊ぶヤッコとほんとうのヤッコの四人になってしまったのです。最初は喜んだのもつかの間、ヤッコはなんだか浮かない顔です。『ぐるんぱのようちえん』などの作品がある西内ミナミさんは1979年に『四人のヤッコと半分のアッコ』(絵童話 山口みねやす/絵)を日本教文社から出しています。この度、はたこうしろうさんの絵でまったく新しい版として出ました。子どもたちにとっても身近なテーマで、楽しんで読めることでしょう。
 
 
 
【その他】
 
『子どもの人権をまもるために』木村草太/編 晶文社 2018/2/10
子どもの人権をまもるために (犀の教室)
木村草太
晶文社
2018-02-08
 
私たちが本を手渡そうとしている子どもたちの権利はどのように扱われているのか、第1部家庭、第2部学校、第3部法律・制度とわけて、今子どもたちが置かれている状況を伝えてくれている1冊ですこの本を読むと、現代の子どもたちを取り巻く状況は虐待や貧困、保育の不足など、報道等で知る以上に厳しい現実があることも見えてくる。こうした事実に目を向けることは、図書館の児童サービスをどのように地域の子どもたちに届けられるかを検討する上でも大切だと思います。ぜひ通読しておくことをお薦めします。

 
『13歳からの絵本ガイド YAのための100冊』金原瑞人、ひこ・田中/監修 西村書店 2018/4/18

13歳からの絵本ガイド YAのための100冊
金原 瑞人
西村書店
2018-04-18
 
絵本は文章と絵が互いに引き立て合って、独自の世界を表現したものです。芸術性の高い作品や、人生の深い機微に鋭く切り込んだ優れた作品も多く出ています。ところが絵本は幼い子どものためのものという先入観が強いせいか、小学生高学年や中高生にこそ読んでほしいという作品がなかなかその世代に手に取られてないということがありました。この絵本ガイドは、十代の子どもたちに手にしてほしい絵本の情報をぎゅっとひとまとめにしています。ここにある絵本は、YAコーナーで展示してみるとよいと思います。
 
(作成K・J)

訃報 かこさとし(加古里子)さん だるまちゃん さようなら!


『だるまちゃん』シリーズに『海』『地球』『宇宙』などの福音館の科学シリーズ(福音館書店)や、『どろぼうがっこう』、『からすのぱんやさん』(偕成社)など3世代にわたる多くの子どもたちに愛されてきた作品があるかこさとし(加古里子)さんが、5月2日に92歳で亡くなられたというニュースが入ってきました。(第一報→こちら)(続報→NewsPass

だるまちゃんとてんぐちゃん
加古 里子
福音館書店
1967-11-20
 
 

海 (福音館の科学シリーズ)
加古 里子
福音館書店
1969-07-25
 
 
 
 
地球 (福音館の科学シリーズ)
加古 里子
福音館書店
1975-01-20
 
 
 
 

ここ数年、ロングセラーのシリーズに新作を書き加えていらしたかこさん。

先月の「新刊本・話題の本」本として、『過去六年間を顧みてかこさとし小学校卒業のときの絵日記』(偕成社)を紹介したばかりでした。

かこさんの作品は、紹介しきれないほどたくさんあります。そしてそれぞれに思い出の1冊があることでしょう。

過去六年間を顧みて かこさとし 小学校卒業のときの絵日記
かこ さとし
偕成社
2018-03-14
 
 
 

 

かこさんは、戦前の教育の中で戦争を美化する思想を刷り込まれたことを、戦後とても悔いていらして、子どもたちに平和な未来を手渡すために、なんとしても戦争は放棄すべきであると訴えてこられました。民主主義の大切さも、ずっと訴えて来られていました。

未来のだるまちゃんへ (文春文庫)
かこ さとし
文藝春秋
2016-12-01
 

子どもたちに本を手渡す者の一員として、その想いを胸に深く刻んでいこうと思います。心より冥福をお祈り申し上げます。

かこさとし公式サイト→こちら

(作成K・J)

訃報 アリス・プロヴェンセンさん


1984年に『The Glorious Flight』でコルデコット賞を夫マーティンと共に受賞したアリス・プロヴェンセンさんが4月23日に亡くなりました。1918年8月14日生まれで、100歳まであと4カ月足らずという99歳でした。(訃報を知らせるPublisher Weeklyの記事→こちら

この作品は1986年に『パパの大飛行』(脇明子/訳 福音館書店)として出版され、その後2009年に『栄光への大飛行』(今江祥智/訳 BL出版)として出版されました。

パパの大飛行 (世界傑作絵本シリーズ―アメリカの絵本)
アリス プロヴェンセン
福音館書店
1986-02-28

 

栄光への大飛行
アリス プロヴェンセン
BL出版
2009-03
 
 
 

図書館では『かえでがおか農場のいちねん』(岸田衿子/訳 ほるぷ出版 1980)、『みみずくと3びきのこねこ-かえでがおか農場シリーズ』(岸田衿子/訳 ほるぷ出版 1985)、『かえでがおか農場のなかまたち』(乾侑美子/訳 童話館出版 1998)や、『動物げきじょう21幕』(乾侑美子/訳 童話館出版 1997)、『たまごってふしぎ』(こみやゆう/訳 講談社 2012)などの作品が馴染み深いことでしょう。『かえでがおか農場シリーズ』の絵本は、ニューヨーク州北部にプロヴェンセン夫妻が購入して住んだMaple Hill Farmの描写で、動物や自然への温かい眼差しを感じます。

かえでがおか農場のいちねん
アリス・プロベンセン
ほるぷ出版
1980-06-01
 
 
 


かえでがおか農場のなかまたち
アリス プロベンセン
童話館出版
1998-04-01
 
 
 

動物げきじょう〈21幕〉
アリス プロベンセン
童話館出版
1997-11-01
 
 
 
 
たまごって ふしぎ (講談社の翻訳絵本)
アリス・プロベンセン
講談社
2012-01-21

 

 

アリスは1918年にシカゴで生まれ育ち、シカゴ美術学校とUCLAで絵を学び、ニューヨークの the Art Students Leagueで訓練を受けました。その後カリフォルニアに移り、日本でも馴染みのある「Woody Woodpecker cartoons」等で有名なWalter Lantz Studiosで仕事をします。夫マーティンもディズニー映画でダンボやファンタジアの制作に関わります。その後マーティンは海軍に所属し戦争関連フィルムの制作に携わっている時にWalter Lantz Studiosで二人は出会って結婚します。

第二次世界大戦終結後は、二人で絵本の制作するようになり、そこから30年以上にわたって共同で作品を作り続けました。夫マーティンは1987年に70歳で亡くなっています。

これを機会に、またプロヴェンセン夫妻の絵本を子どもたちに紹介してみてください。

 (作成K・J)

おすすめ幼年童話14『オンネリとアンネリのおうち』マリヤッタ・クレンニエミ


連載14回めは『オンネリとアンネリのおうち』(マリヤッタ・クレンニエミ/作 マイヤ・カルヤ/絵 渡部翠/訳 福音館書店 2015)です。フィンランドの児童文学の定番で、1975年に大日本図書から出版され、自立をテーマにしたこの作品は多くの子どもたちの心を捉えました。その後プチグラパブリッシングから復刊されましたが品切れとなっていました。2015年に福音館書店から出版され、再び子どもたちの手に届くようになったのは嬉しいことです。

今年6月9日より、映画となって劇場公開されます。作品が映画の中でどのように描かれているか楽しみです。(映画「オンネリとアンネリのおうち」公式サイト→こちら)映画公開に合わせて、図書館でも続編『オンネリとアンネリのふゆ』と共に面だし展示してみてください。

 

オンネリとアンネリのおうち (世界傑作童話シリーズ)
マリヤッタ・クレンニエミ
福音館書店
2015-10-25
 
 
 
 

小学生の女の子、オンネリとアンネリは大親友。オンネリは九人兄弟の真ん中で、家ではいつもなんとなくひとりぼっち。両親とたくさんのきょうだいたちと一緒にひとつのお部屋で暮らしています。アンネリには大学教授のお父さんと趣味に忙しいお母さんがいますが、その両親は別居中。お手伝いさんが二人いて生活には不自由しませんが、お父さんの家でもお母さんの家でも何だか居場所がありません。ちょっと複雑な家庭環境の女の子たちです。

 夏休みのある日、二人はひょんなことから「ふたりの小さな女の子が住むのにちょうどいいおうち」を手に入れます。真っ白いレースカーテンのかかった客間、かわいい二羽の小鳥がさえずる鳥かご、きれいな色のお皿も冷蔵庫も食料も全部そろったドールハウスのような台所、そして今まで見たこともないような素敵な遊び部屋! 女の子の憧れ満載のお城のようなおうちで、二人は大人たちに邪魔されずに暮らすことにします。

子どもの頃、「自分だけの素敵なお部屋があったらいいなぁ」と空想したことは誰でもあるのではないでしょうか。このお話にはそんな夢がそこかしこに溢れています。二人が家の中を探検して素敵なお部屋を発見していく描写には、子どもも大人も垣根を越えて胸がわくわくすることでしょう。

また、この夢のようなおうちで、オンネリとアンネリがきちんと地に足の着いた生活を営んでいく様子も魅力的です。自分たちで食事の支度をし、片づけもして、ご近所さんにご挨拶をしてお客様としてきちんともてなします。個性豊かなご近所さんとのやり取りが描かれながら、お話はハッピーエンドへ向かっていきます。

オンネリとアンネリは二人だけの家で楽しく過ごしながらも、両親に構ってもらえずに少しさみしい思いも抱えていました。そこで二人はオンネリの誕生日パーティを企画し、家族も含めたたくさんの人たちを招待します。パーティにやってきた両親とお互いの気持ちを伝えあい、家族の愛情を確認し、そして改めて二人の家で暮らしたいと宣言します。「わたし、わたしたち、この夏はしあわせだったと思うわ」(p.172)という台詞のとおり、オンネリとアンネリも、二人の家族も、ご近所さんたちも、もちろん読者も、幸せな気持ちが広がっていくフィンランド生まれの楽しい夏の物語です。

 

(作成:29年度児童部会部員A.K)

 

第1回『おはようスーちゃん』→こちら
第2回『じゃんけんの好きな女の子』→こちら
第3回『こぶたのレーズン』→こちら
第4回『ちびっこタグボート』→こちら
第5回『スプーン王子のぼうけん』→こちら
第6回『プレゼントはお・ば・け』→こちら
第7回『ちびねこグルのぼうけん』→こちら 
第8回『宇宙からきたかんづめ』→こちら
第9回『ごきげんいかが がちょうのおくさん』→こちら
第10回『ジェニーとキャットクラブ』→こちら
第11回『火曜日のごちそうはヒキガエル』→こちら
第12回『ちびっこ大せんしゅ』→こちら
第13回『こぶたのピクルス』→こちら

 

基本図書を読む1 『エーミールと探偵たち』 エーリヒ・ケストナー(再掲)


26年度~27年度と24カ月に渡って連載していた「基本図書を読む」は、連載当時たくさんの反響をいただきました。サイトで「本に関する情報」→「基本図書を読む」と辿っていただければ過去記事を読んでいただくことは出来ますが、もう一度多くの方に読んでいただくべく、今月より毎月連載をいたします。基本的に26年度~27年度の記事をそのまま公開日時を変更して再掲しますが、加筆修正する場合もあります。

「基本図書」を読んでいくことは、新しい本の評価の基準を持つことに繋がっていきます。児童サービス担当の方々には忙しい業務の時間を縫ってでも「基本図書」は読んでおくことをお勧めします。(2018/4/19記す)

 

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(以下、2014年4月18日公開記事)

「何か楽しい本ない?」と聞かれたとき、ブックトークを作成するとき、新刊図書の購入を検討するときなど、業務を行ううえで、本を選ぶ場面はたくさんあります。資料を選択するためには、その資料を評価しなければならず、資料を選ぶ判断基準が必要になってきます。判断基準をつくるには、とにかくたくさん本を読むことですが、とりわけ基本図書とよばれている本を読むことは、大きな力となってくれます。

基本図書とは、長い間子どもに愛され、読み継がれてきた本を言います。時の試練を経ても色あせることがない、読書の喜びを与えてくれる本で、図書館の蔵書の核となっています。基本図書を読むことで、子どもたちが本質的にどんなものを求めているのか、質の高い作品とはどのようなものなのか、図書館員としてどのようなものを手渡していくべきかが、自ずとみえてきます。

26年度「本のこまど」では、「基本図書を読む」というテーマで、毎月1冊の本を紹介する予定です。大人になっても楽しめる作品ばかりですが、子どもたちはどんなふうに読んでいるのだろうという視点も持って、味わってみてください。12冊の中から、みなさまにとっても、心に残る大切な1冊が見つかり、仕事をしていくうえで力になってくれればと思っています。

 

『エーミールと探偵たち』

4月は、ドイツの作家エーリヒ―・ケストナーの『エーミールと探偵たち』を紹介します。

エーミールと探偵たち (ケストナー少年文学全集 1)

エーリヒ・ケストナー著 高橋健二訳
岩波書店
1962-07-18

                                   

 

 

 エーミール少年は、母さんと二人で暮らしています。おばあさんの家まで一人旅をすることになりますが、列車の中で居眠りをし、母さんが懸命にためたお金を盗まれてしまいます。エーミールは、同じボックス席に座っていた怪しい男を追って、途中の駅でおり、知らない大きな町で、たった一人で尾行することにします。そこに、グスタフという少年があらわれ、協力してくれる町の仲間を呼び集めてくれるのです。少年たちは、資金を集め、状況がわかるように電話センターをつくるなど、綿密な計画をたて、行動を開始します。タクシーでの尾行、スパイとしてホテルに侵入、最後は新聞社が取材にくるような大騒動となりますが、少年たちは、盗んでいないと主張する犯人を追いつめ、見事につかまえるのです。

 真面目で母親思いのエーミール、行動的でガキ大将のようなグスタフ、賢い”教授くん”など親しみを感じる子どもたちが登場し、生き生きと活躍する様子は、読んでいて楽しく爽やかな気持ちになれます。

者は、ドイツの児童文学作家で、詩人、小説家、脚本家、評論家としても活躍し、1960年には国際アンデルセン賞を受賞しています。ナチスの時代には、執筆を禁止されながらも、作家として時代の目撃者であろうと、亡命せずにドイツに留まりました。本書のほか、『二人のロッテ』や『飛ぶ教室』などの代表作があり、いずれも筋立ては面白く、子どもの感じていることを大切にえがいています。子どもたちに敬意をもち、人生の明るい面も暗い面も描き出し、そしてユーモアを忘れないケストナーの作品は、本当の勇気をもらえます。

 

 

ケストナー―ナチスに抵抗し続けた作家
クラウス コードン
偕成社
1999-12

 

 

 

 

ケストナーの伝記に、クラウス・コードン著『ケストナー ナチスに抵抗し続けた作家』があります。欠点も含め、作家として一時代を生きたケストナーの姿が描かれている伝記です。写真も豊富で、小学校高学年くらいから読むことができますので、ケストナーの作品に親しんだ子どもに手渡すと、自分が愛読した作家の人となりを知ることができます。

(作成T.S
)  

おすすめ幼年童話13『こぶたのピクルス』小風さち


児童部会部員がおすすめする幼年童話の紹介も、2年目に突入です。連載13回目は、『こぶたのピクルス』(小風さち/文 夏目ちさ/絵 福音館書店 2015)です。


 

こぶたのピクルスは小学一年生の男の子。

「教科書、よし!

 ノート、よし! 

エンピツ、よし! 

ハンカチ、よし! 

わすれ物は、ひとつもなし!」

と、スキップしながら元気よく出かけたのに、途中で出会った牛乳屋さん、パン屋さん、新聞屋さんのそれぞれの配達の忘れ物を届けているうちに、自分の大事な用事を忘れてしまいます。

そんなピクルスの様子はほほえましく、両親に温かく見守られながら、ドキドキワクワクの毎日を送るピクルスに、読んでいる子どものだれもが自分を重ね合わせてしまうでしょう。

冒頭の「ピクルスのわすれ物」のほか、「ピクルスと卵」、「ピクルスの大ニュース」、「ピクルスの海水パンツ」の4話が収められています。

 作者は『わにわにのおふろ』などのわにわにシリーズや、『とべ!ちいさいプロペラき』を手がける小風さちさん。リズムよくうきうきする文章で、声に出して読むのも耳から聞くのもどちらも楽しく、読みきかせにも向いています。また、全ページに明るい色彩の大きな挿絵が入り、子どもたちがひとりで読み進める助けとなってくれます。絵本から物語へ移行する時期の子どもたちにぜひ手渡したい幼年童話です。

 続編の『ピクルスとふたごのいもうと』では、お兄ちゃんになったピクルスが成長した姿を見せてくれ、こちらもおすすめです。

 

(作成 29年度児童部会部員C・K)

 

第1回『おはようスーちゃん』→こちら
第2回『じゃんけんの好きな女の子』→こちら
第3回『こぶたのレーズン』→こちら
第4回『ちびっこタグボート』→こちら
第5回『スプーン王子のぼうけん』→こちら
第6回『プレゼントはお・ば・け』→こちら
7回『ちびねこグルのぼうけん』→こちら 
第8回『宇宙からきたかんづめ』→こちら
第9回『ごきげんいかが がちょうのおくさん』→こちら
第10回『ジェニーとキャットクラブ』→こちら
第11回『火曜日のごちそうはヒキガエル』→こちら
第12回『ちびっこ大せんしゅ』→こちら

2018年2月、3月の新刊から


2018年2月、3月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの本を紹介します。

ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。すべての新刊本を購入して読むことはできませんが、毎月、教文館ナルニア国の新刊本コーナー、クレヨンハウス新刊本コーナー、横浜日吉にあるともだち書店、代官山蔦屋書店児童書コーナーなどにある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。

 (なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

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【絵本】

『はるは』ジャニーナ・ドマンスカ/作 谷川俊太郎/訳 童話館出版 2018/2/20

はるは
ジャニーナ ドマンスカ
童話館出版
2018-03-01

「はるは はるさめ  はるは はなざかり はるは うたう」と、春の情景から始まり、夏、秋、冬とめぐって「ふゆは はるをまつ」で締めくくられる詩の絵本です。美しい線描の絵に登場するのは茶色のダックスフント。季節ごとにかたつむりやクジラ、虫たち、鳥たち、うさぎと一緒に躍動する姿は、いろいろなことを想像させて楽しくなります。裏表の見返しには一面のクローバーが描かれています。2枚ほど四つ葉のクローバーがあります。子どもと一緒に探してみてください。

 

『とらのことらこ』きくちちき/作 小学館 2018/2/26 

とらのこ とらこ
きくち ちき
小学館
2018-02-26

 2013年に『しろねこくろねこ』(学研)でブラティスラヴァ国際絵本原画展金のりんご賞を取ったきくちちきさんの新作です。ご自身のお子さんの成長に合わせて絵本もどんどん進化しています。今度の絵本もお子さんとの関係の中から生まれた絵本とのこと。とらの子ども、とらこは母さんとらの真似をして一生懸命獲物を追いますが失敗ばかり。そんなとらこの姿を愛情いっぱいに母さんとらは温かく見守ってくれます。「とらこのことらこ つかまえて  母さんのしっぽにつかまった」と繰り返しのことばも心地よくストーリーが進みます。先日原画展に行ってきました。温かい色合いの原画の色を生かすため印刷では苦労をされたとのこと。表紙の黄色も、とらこの鼻の色も、装丁家と印刷技術者の丁寧な仕事のおかげです。(原画展は2018年4月1日まで。高円寺書肆サイコロにて→こちら) 

 

『さよならともだち』内田麟太郎/作 降矢なな/絵 偕成社 2018/2

さよなら ともだち (「おれたち、ともだち! 」絵本)
内田 麟太郎
偕成社
2018-02-28
 
 『ともだちや』(1998年刊)から始まった「おれたち、ともだち!」シリーズの13冊目の最新刊です。タイトルからキツネとオオカミの別れがテーマかと想像しましたが、キツネが「ともだちや」を始める前のお話でした。1館目の『ともだちや』をもう一度引っ張り出して読みたくなるような懐かしい場面もたくさんありました。「さよなら」は、次の新しい出会いへの一歩です。新しい年度が始まる時に、おすすめできる1冊です。
 
 
『かぶきやパン』かねまつすみれ/文 長野ヒデ子/絵 童心社 2018/2/20
 
かぶきやパン (絵本・こどものひろば)
かねまつ すみれ
童心社
2018-02-20
 
2月20日の「歌舞伎の日」に出版されたこの絵本は、2014年に童心社が実施した第7回絵本テキスト大賞を受賞した『まちのパンや「かぶきや」さん』という作品が元になっています。作者のかねまつさんはパン作りと芝居見物が大好きで、自然のこのお話が生まれたのだそうです。そのテキストをもとに長野ヒデ子さんがユーモアたっぷりの絵をつけられました。実際にお二人で歌舞伎の演目とパンの特徴を照らし合わせてストーリーを練り、市川海老蔵さん他、歌舞伎役者の皆さんにもこの絵本を見ていただいたとのこと。2月24日に都立多摩図書館で行われた童心社創業60周年記念講演会の中で長野ヒデ子さんは、歌舞伎の口上は言葉の響きもとても豊かで、歌舞伎を見たことのない子どもたちにも、絵本を通して日本の伝統文化「歌舞伎」の魅力を伝えたいとおっしゃっていました。声に出して子どもたちに読んであげたい絵本です。(童心社・長野ヒデ子さん×かねまつすみれさんスペシャルインタビューの記事→こちら

 

 『もしぼくが本だったら』ジョゼ・ジョルジェ・レトリア/文 アンドレ・レトリア/絵 宇野和美/訳 アノニマ・スタジオ 2018/3/2 

もしぼくが本だったら
ジョゼ・ジョルジェ・レトリア
アノニマ・スタジオ
2018-03-01

表紙にはベンチに残された本が1冊。「もしぼくが本だったら つれて帰ってくれるよう 出会った人にたのむだろう。」というように「もしぼくが本だったら」に続いてさまざまな本にまつわる文章が続いていきます。。最後のページは「もしぼくが本だったら 「この本がわたしの人生を変えた」とだれかが言うのをきいてみたい。」と、本が持っている力、可能性を示してくれます。作者はポルトガル語の詩人で、その文章に息子さんが絵をつけた親子作品です。デザイン的にも美しく、これまでに数々のデザイン賞を受賞し、13か国語に翻訳されています。日本語にはスペイン語圏の絵本や児童書の翻訳者・宇野和美さんが訳されました。YA世代や大人たちに手に取ってほしい1冊です。

 

『だんごむしのおうち』澤口たまみ/文 たしろちさと/絵 福音館書店 2018/3/10

だんごむしの おうち (幼児絵本ふしぎなたねシリーズ)
澤口 たまみ
福音館書店
2018-03-07
 
春の庭で小さな子どもが掌にだんごむしをのせて「ねえねえ、みてみて!」と見せてくれます。触ると丸くなるだんごむしは小さな子どもにとっては楽しい存在です。この絵本を読んで、もう25年以上前のこと、「お母さん、お土産!」といって筆箱にいっぱいのだんごむしを入れて持って帰ってきた我が子の得意気な顔を思い出しました。庭先で出会う小さなだんごむしは、子どもが身近な自然に興味を持つ入り口になります。よく似た虫で丸まらないわらじむしの説明も出てきます。小さな生命にも目をむける子どもたちの素直さを大切にしたいと思います。「ちいさなかがくのとも」2012年4月号のハードカバーです。3歳くらいから手渡せます。
 
 
 
『王さまになった羊飼い』チベットの昔話 松瀬七織/再話 イ・ヨンギョン/絵 福音館書店 2018/3/15
 
 貧しい羊飼いの男の子が働いて得るものは、毎日たった一握りのツァンパ(ハダカムギを粉にしたもの)でした。ある時、草原でお腹を空かせたうさぎに出会います。男の子はうさぎにツァンパを分けてやるようになります。そうして100日経った時、うさぎは老人に姿を変えました。なんとうさぎは天の神だったのです。老人はお礼を授けようと申し出ますが、男の子は「動物のことばがわかる力がほしい」と願います。男の子はその力で通りかかった王さまの家来の馬を助け、それが縁で王さまの元へ参内し、誰も治療できなかった王子の耳を治します。そして王さまから王国の半分を譲られたのです。小さな生命に注ぐ愛情と誠実さが、貧しい男の子を王へと導いたというチベットの昔話です。 
 
 
 
【児童書】
『おひとよしのりゅう』ケネス₌グレーアム/作 石井桃子/訳 学研プラス 2018/1/15
 『たのしい川べ』(本のこまどの記事は→こちら「基本図書を読む2『たのしい川べ』)を書いたケネス₌グレーアムの幻の名作と言われた『おひとよしのりゅう』(1966年に『新しい世界の童話シリーズ8 おひとよしのりゅう』として学研より出版 その後絶版)が、限定復刻されました。羊飼いの息子と争いごとが嫌いな優しい竜、そして竜退治の騎士セント・ジョージが織りなすなんともユーモラスなお話です。今回の復刻版は東京子ども図書館と教文館ナルニア国だけの限定発売です。のんびりとした話の進み具合は、今の子どもたちに、というよりこのお話にわくわくした昔の子どもだった人たちに喜ばれるのかもしれません。戦隊ものなどで怪獣は退治するものと思っている子どもたちに、戦うことがすべてではないというメッセージを届けられると思います。(教文館ナルニア国の紹介ページ→こちら
 
 
 『青い月の石』トンケ・ドラフト/作 岩波書店 2018/2/16
青い月の石 (岩波少年文庫)
トンケ・ドラフト
岩波書店
2018-02-17
 
作者のトンケ・ドラフトさんは2004年に、1962年に発表した『王への手紙』(岩波少年文庫 2005年)で過去50年にオランダで出版された子どもの本の中から第一位の賞「石筆賞の中の石筆賞」を受賞されました。当時すでに74歳でした。『王への手紙』、そして続編の『白い盾の少年騎士』(岩波少年文庫 2006年)は、困難な状況の中で任務を果たそうとする少年騎士のひたむきな思いと、彼を支える友情を描いて非常に読み応えのある作品でした。大きな賞を受賞した翌2005年に新たに発表した作品が『青い月の石』です。「どこから来たの?マホッフ、マホッフ、マホッヘルチェ」「地面の下からやってきた、マホッヘルチェ!」というオランダに伝わる日本の「はないちもんめ」に似た遊びをモチーフに、地上の世界と地下世界、そして主人公ヨーストのいる世界と中世を思わせる長ひげ王の国が交錯して展開する不思議な物語です。地下の国に君臨するマホッヘルチェを追って、いじめられっ子ヨーストが、いじめっ子ヤンと一緒に冒険に出ていき、同じようにマホッヘルチェを追う長ひげ王の息子イアン王子は地下世界のヒヤシンタ姫に恋をします。編んだセーターが魔力を持つヨーストのおばあちゃん、地下世界に通じる池の近くに住む魔法使いのオルムなどの魅力溢れる登場人物に導かれ一気に読めてしまうファンタジーです。 

 
『イースターのたまごの木』キャサリン・ミルハウス/作・絵 福本友美子/訳 徳間書店 2018/2/28

イースターのたまごの木 (児童書)
キャサリン ミルハウス
徳間書店
2018-02-20
 
1951年にアメリカで出版され、その年の最も優れた絵本に贈られるコールデコット賞を受賞した作品が、翻訳されました。「イースター(復活祭)」は、イエス・キリストが十字架刑を受けた3日後に蘇ったとする聖書にしたがい、キリスト教社会ではクリスマスと並ぶ大切なお祭りです。卵の殻を割って出てくる鳥は、墓から出てきたキリストの象徴とされ、イースターには卵を美しく彩色して飾ったり、庭に隠した卵を子どもたちが探すエッグハントをイースターの朝に行う習慣があります。このお話でも、イースターの朝に兄弟やいとこたちと庭でエッグハントするのを楽しみしている女の子ケイティが主人公です。ケイティがおばあちゃんが子ども時代に隠したイースターエッグを屋根裏で見つけたことから、そのイースターエッグを木に飾るようになり、多くの人に喜ばれるようになります。ここ数年の間に日本でもイースターエッグのお菓子が売られるようになり、ショーウィンドウにもイースターの装飾が施されるようになりました。興味をもった子どもたちに手渡してあげたい1冊です。自分で読むなら低学年から、読んであげるなら幼児でも大丈夫でしょう。なお、イースターは春分の日のすぐ後の満月から一番近い日曜日とされ、毎年変わります。今年のイースターは4月1日の日曜日です。
 
 
『パイパーさんのバス』エリナ―・クライマー/作 クルト・ヴィ―ゼ/絵 小宮由/訳 徳間書店 2018/2/28
パイパーさんのバス (児童書)
エリナー クライマー
徳間書店
2018-02-20
 
 パイパーさんは町でバスの運転手をしています。しかし、家族はなく独りぼっち。ある時、その寂しさにはたと気がついて塞ぎこみます。そんなパイパーさんを頼ってきてくれたのが迷子の犬バスターに、ねこのおくさん。その上バスの中で迷子になったチャボも飼うことになります。しかし町のアパートでは動物の飼育は許されていません。パイパーさんは仕事を休んで、古いバスを買ってバスターたちを乗せ、彼らを引き取ってくれる人を探しに田舎へ出かけていきます。でも動物たちはパイパーさんと別れたくありません。途方に暮れて山道を走っている時に雷雨に合って、山の上の空き家へ逃げ込みます。幸運なことが重なってパイパーさんはこの家を借りて動物たちと一緒に暮らせるようになるのですが・・・その幸運なことっていったいなんでしょう?読んでいると心がほっこりと温かくなる素敵なお話です。文字も大きく挿絵もたくさんついています。小学校低学年の子どもにおすすめできる1冊です。
 
 
 
『波うちぎわのシアン』斉藤倫/作 まめふく/画 偕成社 2018/3
波うちぎわのシアン
斉藤 倫
偕成社
2018-03-14
 
『どろぼうのどろぼん』(福音館書店 2014)や『せなか町から、ずっと』(福音館書店 2016)を書いた 詩人の斉藤倫さんの新作です。この物語の語り手はねこのカモメ。赤ん坊の時に鷗に命を救われたのでこの名前がついています。カモメはラーラという小さな島にある診療所のフジ先生のところで飼われています。カモメはある雨の夜、沖から激しい炎に包まれて港へ流れつく船を発見し、フジ先生に急を知らせます。そしてフジ先生は、焼け落ちる船の中から生まれたばかりの男の赤ん坊を助け出します。この赤ん坊の左の握り拳は固く閉じられ開くことができません。握り拳がシアンという青い巻貝にそっくりなことから、この赤ん坊はやがてシアンと呼ばれるようになります。フジ先生がシアンをはじめ島々の孤児を引き取るために作った孤児院「ちいさなやね」の中で物語が動いていきます。4歳になったシアンには不思議な力がありました。誰かが、シアンの閉じられたままの左手を耳に当てると、潮騒の音が聞こえてきます。それはおかあさんのお腹の中で聞いていた音で、聞いているうちに自分の生まれる前のおかあさんや周りの人の声まで聞こえてくるのでした。ある日シアンは海を隔てた「壁の国」からやってきた旅の一座に誘拐されてしまいます。フジ先生と「ちいさなやね」でおかあさん役のリネンさんが、ねこのカモメを連れてシアンを救出しに「壁の国」に向かうところから物語は急転します。シアンの左手には出生にまつわる重大な事件の秘密が握られていたのでした。ねこの視点から描かれているので、最初は少し読みにくいのですが、旅の一座が現れてくるあたりからぐいぐい惹き込まれていきます。本の好きな子なら、小学校の高学年から手渡せる作品です。
 
 
 
『4ミリ同盟』高楼方子/作 大野八生/絵 福音館書店 2018/3/10
4ミリ同盟 (福音館創作童話シリーズ)
高楼 方子
福音館書店
2018-03-07
 
 この物語の世界では、人々は子どものうちは困らないのに、おとなになると〈フラココノ実〉を食べないと、どうにもこうにもやっていかれないとい体質をしているというのです。この〈フラココノ実〉は、大きな湖の中に浮かぶ〈フラココノ島〉に渡らないと手に入らないので、あちこちの港からその島へ行くルートはいくつもあるというのに、主人公のポイット氏は、いまだにその実を食べる機会が巡ってきません。切望しているにも関わらずです。そんなある日エビータという女性に声をかけられます。彼女もまだ〈フラココノ実〉を食べられていません。なんと〈フラココノ実〉を食べていない人は知らず知らずのうちに地上4ミリほど体が浮いていることを発見し、それでポイット氏が仲間だとわかったのです。同じように体が4ミリ浮いている他の2人とも知り合い、「4ミリ同盟」を作って4人一緒に〈フラココノ実〉を食べるための島にわたるのですが・・・「地に足がついてない」4人はいったいどうなったのでしょう。髙楼方子さんのなんとも不思議で味わい深いお話です。
 
 
 
【その他】
『『ちいさいおうち』『せいめいのれきし』の作者 ヴィ―ジニア・リー・バートンの世界』ギャラリーエークワッド/編 小学館 2018/3/19

昨年(2017年)6月1日から8月9日にかけてギャラリーエークワッドで行われた「ヴァージニア・リー・バートンの「ちいさいおうち」―時代を越えて生き続けるメッセージー」展のリーフレットを底本にして編集された図録で、2018年3月17日から5月7日まで銀座・教文館ウェンライトホールで開催中の「「ちいさいおうち」のばーじにあ・りー・ばーとん」展に併せて、発売されました。ヴァージニア・リー・バートンが遺した作品やさまざまな手仕事について、たくさんのカラー図表とともに展望できる貴重な1冊となっています。また、昨年夏にエークワッドで行われた恐竜学者真鍋真さんと生物学者福岡伸一さんの対談の模様も収録されています。(教文館で開催中の「ばーじにあ・りー・ばーとん」展の案内は→こちら 5/7まで)

 

『過去六年間を顧みて かこさとし小学校卒業のときの絵日記』かこさとし/著 偕成社 2018/3

過去六年間を顧みて かこさとし 小学校卒業のときの絵日記
かこ さとし
偕成社
2018-03-14

91歳のかこさとしさんが、小学卒業時に小学1年生からの6年間を思い出して綴った文集が1冊の本になりました。1926年(大正15年)生まれのかこさんですから、この文集が書かれたのは1938年(昭和13年)です。奇跡的にその当時書いていたものが戦災を免れて残っていたというのは驚きです。また当時の様子が文章と絵で克明に描かれていることに、かこさとしさんの後年の功績を彷彿とさせるものがあります。当時は日中戦争が始まり、戦時体制が強化された時代です。「二・二六事件」や「志那事変」のことが子どもの視点で書かれているのも興味深いです。6年生の時のクラスメートの名前とあだ名、そして相撲人気だったという時代を反映して全員に四股名がついているところなども、とても面白く、時代の記録として大変貴重な資料となるでしょう。かこさとしさんの作品の原点をここに見る思いです。(かこさとし公式webサイト→こちら

(作成K・J)

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