新刊本・話題の本

2017年6月、7月の新刊より
『物語の森へ 児童図書館基本蔵書目録2』への想いを聞いてきました!
2017年5月、6月の新刊より(その2)
2017年5月、6月の新刊より(その1)*追加資料あり
子どもに本を手渡す人にぜひ読んでほしい2冊
2017年4月の新刊本より(追加)
2017年3月、4月の新刊から
2017年2月、3月の新刊から
『きゅうきゅうばこ』の新版が出ました。
2016年12月、2017年1月の新刊本から
2016年10月、11月の新刊から(その2)
限定増刷! 赤羽末吉の絵本2冊
2016年10月、11月の新刊から(その1)
『明日の平和をさがす本300』ブックガイドをぜひ座右に
2016年9月、10月の新刊から(11/2追記あり)

2017年6月、7月の新刊より


 

2017年6月、7月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの本を紹介します。

また、ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。すべての新刊本を購入して読むことはできませんが、教文館ナルニア国の新刊本コーナー、クレヨンハウス新刊本コーナーなどにある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。


 (なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

 【絵本】

『夏がきた』羽尻利門/作 あすなろ書房 2017/6/30

夏がきた
羽尻 利門
あすなろ書房
2017-06-26

金子みすゞの生涯と詩を描いたアメリカの絵本ARE YOU AN ECHO?The Lost Poetry of Misuzu Kaneko ―( Chin Music 2016/9)で絵を描いて評価の高かった羽尻利門が初めて文章と絵の両方を手掛けた作品です。真っ青な空と元気に走る男の子の姿は、はたこうしろう作なつのいちにち(偕成社 2004)を思い出します。それもそのはず、羽尻さんは、絵本作家になる前からはたこうしろう絵本の大ファンだということで、意識してこの絵本を作られたということです。昭和の時代にタイムスリップしたような海辺の小さな町で迎える夏休み。何気ない夏の一日を切り取っていますが、子どもたちの躍動感あふれる姿、細部まで丁寧に描かれた風景は、とても懐かしいにおいがします。今でも都会を少し離れると、こんな夏の風景が広がっているのでしょうか。


『ゆめみるじかんよ こどもたち』ティモシー・ナップマン/文 ヘレン・オクセンバリ―/絵 石井睦美/訳 BL出版 2017/7/10

ゆめみるじかんよ こどもたち
ティモシー・ナップマン
ビーエル出版
2017-06-27

アリスとジャックの姉弟が庭で遊んでいると、森の中から聞こえてくるへんな声。「たしかめにいかなくちゃ」とアリス。森のの奥までその声を求めて足を踏み入れた二人が見たものはいったいなんだったのでしょう。声を出している正体がわかるまで、不安そうだった二人の表情が、わかったとたんに一気にゆるむところが素敵です。
 

『きみもこねこなの?』エズラ・ジャック・キーツ/作・絵 当麻ゆか/訳 徳間書店 2017/7/30

きみも こねこなの? (児童書)
エズラ・ジャック キーツ
徳間書店
2017-07-12

こねこが4匹仲良く遊んでいると、こいぬが一匹飛びこんできます。「きみもこねこなの?」と聞くと「えっと・・・そう」というこいぬ。5匹は仲良く、たくさん遊びます。でもね、おかあさんいぬが「もうかえるじかんですよ」とお迎えに来てしまいます。その時、こいぬが言った言葉がなんともかわいいのですよ。1963年にコールデコット賞を受賞した『ゆきのひ』(木島始/訳 偕成社 1969)や『ピーターのてがみ』(木島始/訳 偕成社 1974)、『ぼくのいぬがまいごです』(さくまゆみこ/訳 徳間書店 2000)などの作品があるキーツの1974年の作品です。



『ごちそうの木 タンザニアのむかしばなし』ジョン・キラカ/作 さくまゆみこ/訳 西村書店 2017/8/3

アフリカ、タンザニアのストーリーテラー、ジョン・キラカさんによるタンザニア南西部フィバという民族に伝わる昔話です。キラカさんは、文明が浸透するにつれて失われていくアフリカの語りの文化を保護し、後世に伝えるために、さまざまな民族の昔話を再話する活動をしています。この作品は2011年国際児童図書評議会スウェーデン支部が選ぶピーターパン・シルバー賞を受賞しました。2017年7月末から8月上旬にかけて来日し、講演やワークショップなどを精力的にしたキラカさん。生の語りは力強くリズミカルで大地の生命力を感じました。カラフルな絵(ティンガティンガアート)と、なんともとぼけた味わいのある動物たちの姿に魅力を感じる絵本です。


【児童書】


『ガラスの封筒と海と』アレックス・シアラー/作 金原瑞人・西本かおる/訳 求龍堂 2017/6/30

ガラスの封筒と海と
アレックス・シアラー
求龍堂
2017-06-23

トムは小さな海辺の町に住む少年です。今、トムが夢中になっているのは瓶の中に手紙を詰めて海に流すこと。海流に乗ってどこか遠くの島にでも辿り着き、誰かがそれを読んでくれるのを楽しみにしています。実は、大型貨物船の乗組員だったトムの父親は一年前の嵐の中で、船もろとも転覆して行方不明です。周囲の人はもう絶望的だと考えていました。トムは父親を奪った海に向かって、ガラスの封筒に入れて手紙を流すのです。ところがある日、海の底のデイヴィ・ジョーンズ監獄にいるというテッド・ボーンズから返事が来るのです。ちょっとミステリアスな展開に、惹きつけられていきます。読後は爽やか。夏にふさわしい1冊といえるでしょう。小学校高学年から中学生向けです。

『グリムのむかしばなし1』ワンダ・ガアグ/編・絵 松岡享子/訳 のら書店 2017/7/5

100まんびきのねこ』(石井桃子/訳 福音館書店 1961)などの絵本があるワンダ・ガアグは、幼少期におとなが昔話を語ってくれるのが大好きだったそうです。ある時「ヘンデルとグレーテル」に挿絵を描いていて、子ども時代に昔話に夢中になっていたことを思い出し、ドイツ語でグリムの昔話を読み込み、また昔話の精神について深く掘り下げます。そうした昔話の研究をベースに、ガアグは子どもたちにその魅力を存分に味わえるようにと英訳します。そのテキストを、このたび松岡享子さんが翻訳しました。訳者あとがきに「今回、翻訳を引き受けることになって(中略)実に幸運でした。改めて、ガアグのグリムのおもしろさ、たのしさに魅了される貴重な体験になったからです。文章は軽やかで勢いがあり、頭韻を多用した音の響きは、ほんとうに耳に快く、声に出して読んでいると、ひとりでにリズムと抑揚がついてきます。」(p174)と記しています。さまざまな訳で触れているグリムの昔話ですが、ガアグの訳、そしてそれを活かした松岡享子さんの訳で、改めて味わってみてほしいと思います。きっと、訳者あとがきに記された意味がすとんと理解できることでしょう。


『もうひとつのワンダー』R・J・パラシオ/作 中井はるの/訳 ほるぷ出版 2017/7/20

もうひとつのワンダー
R・J・パラシオ
ほるぷ出版
2017-07-20

2年前の夏に出版された話題作ワンダーの続編です。(2015年に出版された時は、「本のこまど」で紹介しそびれていました。)しかし、世界中の人に感動を与えたオギ-のその後を描いているのではありません。前作では詳しくは描かれなかったいじめっ子ジュリアン、幼なじみのクリストファー、そして最初に校長先生にオギ-の案内役のひとりとして選ばれたシャーロットの3つの物語が描かれています。オギ-と出会い、彼らはどのように感じ、どう成長していったか知ることで、『ワンダー』に託されたメッセージをよりしっかりと受け取ることができるのではと思います。



『知らないと恥をかく世界の大問題8 自国ファーストの行き着く先』池上彰/著 角川新書 角川書店 2017/7/20

知らないと恥をかく世界の大問題8 自国ファーストの行き着く先 (角川新書)
池上 彰
KADOKAWA / 角川書店
2017-07-20
 
 2009年から出版されている池上彰の人気のシリーズ『知らないと恥をかく世界の大問題』の8巻目。世界情勢を知るための最新情報を豊富な図表を用いて解説しています。一般向けの書籍ですが、わかりやすい言葉を用いて、複雑な世界情勢を紐解いています。18歳で選挙権を持つことになったYA世代に、自国の利益だけではなくグローバルな視点をもって政治を考えるヒントを与えてくれるでしょう。特に昨年話題になったイギリスのEU離脱やトランプ政権の誕生に、どのような背景があるのかを高校生にも理解しやすく解説しています。偏らず、ぶれず、自分で考えることを促す池上さんの姿勢は評価できます。「私たち、日本人にできることは何か。ますは“知ること”です。」(p245)若い世代が“知ること”ができる書籍を手に取りやすい場所に準備してあげたいですね。 
 
(作成k・J)

『物語の森へ 児童図書館基本蔵書目録2』への想いを聞いてきました!


5月下旬に東京子ども図書館から児童図書館基本蔵書目録2『物語の森へ』が出版されました。予約で申し込みをしていたので、届くのがとても楽しみでした。(手違いで届いたのは6月下旬でした) 

 

 

 

2012年3月の児童図書館基本目録1『絵本の庭へ』の出版から約5年、多くの児童サービス関係者が待ちに待った出版でした。

 

 

7月7日に銀座・教文館ナルニア国で開催された「『物語の森へ』刊行記念トーク」に参加し、この目録作成に取り組まれた東京子ども図書館理事長の張替惠子さん、担当者の護得久えみ子さんのお話を伺ってきました。

この目録には戦後出版された内外の児童文学(創作物語・昔話・伝説・神話・古典文学・詩集)の中から、次世代の子どもたちに手渡したい本が1600点が収められています。

トークでは、最初になぜ東京子ども図書館(TCL)が子どもの本のリストを作って来たのかその理由と経緯が、TCLの歴史を紐解きながら語られました。

1974年にTCLが設立される以前に、初代理事長であった石井桃子さんが瀬田貞二さんたちと始められた「子どもの本研究会」から、『私たちの選んだ子どもの本』が1966年に出版されています。石井桃子さんのかつら文庫や、瀬田貞二さんの瀬田文庫に通ってくる親たちからの「うちの子にどんな本を選んだらよいか」という質問に答えられる本のリストとして誕生しました。

このリストに挙げられたものは、文庫にくる子どもたちの反応がもとになっていました。その後、リスト作成はTCLに引継がれ、改訂が行われてきました。しかし、品切れや絶版になったり、新訳や改訂版が出たり、復刊されたりという子どもの本の出版状況の中で、収録された作品の出版情報を最新のものに保ちながらリストの改訂を行うことが困難になったといいます。

そこでTCLでは『私たちの選んだ子どもの本』とは別に、1990年以降に出版された子どもの本の中から選んだ『子どもの本のリスト「こどもとしょかん」新刊案内 1990~2001セレクション』を出版しました。こちらには絵本、昔話、物語に限らず、伝記や知識の本なども収録され、詳細な索引(書名、人名、件名)が付きました。

 


 

 そのような流れの中で、なぜ再びTCLが児童図書館基本目録に着手したのか、その理由はこれまで子どもたちが読み継がれてきた、子どもたちが心躍らせてきた作品が、本の出版流通の中で手に入らなくなっただけではなく、公共図書館でも廃棄され入手困難になっているという現実にあるということでした。

『物語の森へ』の「はじめに」のページ(p6~7)にはこのように書かれています。(太字引用文)

“『絵本の庭へ』や『物語の森へ』がこれまでのブックリストと大きく異なる点は、入手が可能かどうかという出版状況の枠を取り払い、すぐれた作品を将来に向けて伝承すべき文化遺産として記録にとどめようとしたところです。1950年から60年代、戦後の再興に取り組んだ児童書のつくり手たちは、子どもたちに希望を託し、作家、画家、編集者がひとつの思いで、質の高い作品づくりに取り組みました。高度経済成長の恩恵もあり、子どもたちの本棚はかつてないほど彩り豊かになりました。70年、80年代には、その果実を行きわたらせるための公共図書館システムも整ってきました。しかし、その後の電子メディアの普及や受験競争の過熱により、子どもたちがゆったりと本に向きあう時間はどんどん限られるようになりました。少子化による購買層の減少も影響し、出版社は過去に生み出した読みごたえのある傑作を品切れ・絶版にせざるを得ないケースが増えています。たとえ書店で手に入らなくなっても、質の高い作品を蓄積して提供することが使命であるはずの図書館も、施設面や資料提供の利便性という点では飛躍的に進歩したものの、子どものためのサービスを担う専門職員の雇用環境が不安定で、その役割を十分に果たしているとはいえません。
 このような状況の中で、わたしたちができることはなにかと考えたとき、どうしてもやり遂げたいと思ったのが「基本蔵書目録」の刊行でした。「基本蔵書目録」とは、図書館で蔵書の核として常に揃えておくべきだという評価を得た本のリストです。もし、その本が紛失したり破損したときには、買い換えなければなりませんし、絶版で入手できなくなった場合には、傷んでも廃棄せず、修理して保存を心がけなければならない作品であることを示し、蔵書構築の指針としたものです。”

以上のような思いで作られたこの「児童図書館基本目録」は、私たちが常に児童室の蔵書に気を配り、棚を作っていく際に、さらに研修でよく質問を受ける「児童書の廃棄基準」について明確な指針を示してくれるものだと思います。

今回、選定にかけられた本は約5000冊。15年にわたる選定作業に関わった人は延べ320人だったとのこと。その膨大な作業を想い、ほんとうに頭が下がります。

『絵本の庭へ』に続いて、『物語の森へ』の索引の充実度は、子どもの本についてのレファレンスでも大変心強い味方です。特に件名の小項目は1129にもなっています。(『絵本の庭へ』では1095項目)また登場人物索引は909件(『絵本の庭へ』では557件)となっており、本を探すときの手がかりとなります。トークの際に、件名の種類も『絵本の庭へ』と『物語の森へ』では大きく変化したことが示されました。たとえば「気持ち・こころ」をあらわす件名は『絵本の庭へ』(a)では27項目80冊、『物語の森へ』(b)では33項目275冊となり、物語ではより複雑なこころの動きを表現した作品が多いということがわかります。もっと単純な比較では、「のりもの」の件名のうち、「電車」は(a)では36冊なのが(b)では10冊に、「車」は(a)23冊、(b)12冊と減っている中、「船」は(a)32冊、(b)36冊とさほど変化がないことなど、件名を見ていくだけでも、絵本と物語の違いもみえて面白いことがわかりました。

それに加えて、『物語の森へ』では作品の出版履歴が提示されています。最初に出版した出版社から復刊した出版社、あるいは翻訳者の変更、題名の変更なども併せて辿ることが可能になっています。

トークの終盤で「図書館員はこれに収録している本は捨てるな。これらの本がなければ図書館員稼業は出来ないと、思ってほしい」との言葉を聞いて、襟を正す思いになりました。本来は、子どもの本の選書眼は長く児童サービスに携わる中で、子どもたちの反応を見ながら身についていくもの。それがなかなか厳しい中で、どのように児童サービスに関わるスタッフの研修でそれを伝えていくか、苦心をしていたところだったからです。

「本のこまど」でも、「基本図書を読む」の連載をしたり、児童部会の活動報告の中で「基本図書から学ぶ」についてお伝えしてきました。しかし、今回TCLの「児童図書館基本目録」に対する覚悟と篤い想いを聞いて、これらについて児童サービスに関わるスタッフにもっと丁寧に伝えていくことの重要性を感じています。

まずは『絵本の庭へ』に続いて、『物語の森へ』を児童サービス業務の座右の銘として常にそばに置いてほしいと願います。

(作成K・J)

2017年5月、6月の新刊より(その2)


 

 2017年5月、6月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの本を紹介します。(2017年4月発行の書籍も含まれています)

(その2)では児童書、YA向けの書籍を紹介します。

また、ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。すべての新刊本を購入して読むことはできませんが、教文館ナルニア国の新刊本コーナー、クレヨンハウス新刊本コーナーなどにある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。

 (なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

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 【児童書】

『キキとジジ 魔女の宅急便特別篇その2』角野栄子/作 佐竹美保/画 福音館書店 2017/5/25


多くの子どもたちに夢を与えてくれる「魔女の宅急便」のシリーズは、第1巻が出てから32年になります。そのシリーズ最新作が5月に出ました。キキがオキノさん、コキリさん夫婦のもとに誕生した日から始まる物語です。つまり14歳になったキキが二人のもとを旅立つ日から始まった「魔女の宅急便」のお話が、その一番の始まりのキキの誕生に巻き戻されたといってもよいでしょう。そして赤ちゃんのキキのもとに、赤ちゃんネコのジジがやってきます。キキとジジ、二人(ひとりと一匹)の成長物語ですが、ところどころにジジの本音の気持ちが書かれていて、それがまたくすりと笑いを誘います。本編でのキキとジジの関係はこのように育まれてきたのだなと、読んでいてうれしくなりました。

 
 
『マウスさん一家とライオン』ジェームズ・ドーハティ/作 安藤紀子/訳 ロクリン社 2017/5/26

マウスさん一家とライオン
ジェームズ ドーハティ
ロクリン社
2017-05-30
 
この絵本は『アンディとらいおん』(村岡花子/訳 福音館書店 1661)でコルデコット賞を受賞したジェームズ・ドーハティの作です。ドーハティは『アンディとらいおん』で絵本作家としての地位を確立したのだそうですが、他の作家が作った文章に絵をつけることが多く、文章、絵ともに自作の作品は『アンディとらいおん』に次いでこちらの2冊だけなのだそうです。イソップ物語の「ねずみとライオン」をもとに作られたお話です。陽気なねずみのマウスさん一家がピクニックに出かけた時に、一家の末息子チェダーがぐっすり眠っていたライオンに悪戯をしてしまいます。怒ってチェダーを捕まえたライオンに許しを請う家族たち。ライオンはその愛情深く心優しい一家の姿に胸を打たれて逃してやります。チェダーが「あなたのピンチには助けるよ」と真顔で言うのを笑い転げるライオンでしたが、ある日人間のしかけた罠にかかてしまいます。チェダーたちは約束通りに駆け付けました。抑えた色味でセンスの良い絵が、このお話の面白さをさらに引き立てています。絵本に分類するか悩みましたが、低学年の子どもたちが自分で読むのにちょうどよいと考えて、児童書として紹介します。


『メリーメリーのびっくりプレゼント』ジョーン・G・ロビンソン/作・絵 小宮由/訳 岩波書店 2017/6/15 
 
メリーメリーのびっくりプレゼント
ジョーン・G.ロビンソン
岩波書店
2017-06-16

3月に出版された『メリーメリーおとまりにでかける』に続く「メリーメリー」シリーズの2作目です。(『メリーメリーおとまりにでかける』の紹介文は→こちら)5人兄姉の末っ子メリーメリーは、とにかくお茶目で、みんなを驚かせます。子どもたちだけで留守番をしていたある退屈な土曜日なんて、家の前に消防自動車を呼んでしまいます。(通報したのは上の子たちですが)でも、メリーメリーはお騒がせなだけではありません。二人の姉ミリアムとメグよりも上手に赤ちゃんのお世話もしましたし、ご近所に住むサマーズさんの結婚式には立派に付き添いを務めました。このシリーズを読めば、きっとみんなメリーメリーが大好きになるはずです。

 

 
【ノンフィクション】

 『ほんはまっています のぞんでいます』かこさとし/作・絵 復刊ドットコム 2017/5/25

ほんはまっています のぞんでいます (かこさとし◆しゃかいの本)
かこ さとし
復刊ドットコム
2017-05-25

昨年夏の『こどものとうひょう おとなのせんきょ』に続いて、「かこさとし◆しゃかいの本」の2冊目が復刊されました。1985年に童心社から出ていた同名の本を底本として、よみがえりました。この本では子どもたちに本に出会うための公共図書館の機能をわかりやすく伝えています。また「あとがき」では、「親は大人は、子どもにだけ本を読めというだけで、良書の普及や図書館の状況が文明国の中でとても恥ずかしい状態なのを改める努力が少ないように思います。」と、子どもたちの読書離れについて大人に向けて苦言を呈しています。32年前にすでにそういう危惧があったこと、そして今それらが改善されているかということを振り返ってみて、図書館に関わるものとして胸を張って「その心配は杞憂に終わりました」と言えないことに忸怩たる思いがします。それでも今、新しい図書館が次々とオープンし、真剣に市民の側から図書館サービスを考えようとする機運が高まっていることも事実です。子どもたちにとって、子ども時代に本に出会うことの大切さは今も昔も変わっていません。この本は、子どもたちはもちろん子どもと本に関わる大人たちに読んでほしいと思います。(『こどものとうひょう おとなのせんきょ』についての紹介記事は→こちら

 

【YA向け】
 
『太陽と月の大地』コンチャ・ロペス=ナルバエス/作 宇野和美/訳 松本里美/画 福音館書店 2017/4/15
太陽と月の大地 (世界傑作童話シリーズ)
コンチャ・ロペス=ナルバエス
福音館書店
2017-04-15

世界史を学習した人は、記憶のどこかに「レコンキスタ」(国土回復運動)や「グラナダの陥落」という言葉が残っているのではないでしょうか。611年に興ったイスラム国家ウマイヤ朝は、710年にジブラルタル海峡を越えてイベリア半島に進出しました。それから1492年のグラナダ陥落までイスラム勢力(ナスル朝)による支配が現在のスペイン南部で続くことになります。この物語はグラナダ陥落後のグラナダを舞台にして、16世紀のキリスト教徒とイスラム教徒との確執のはざまで育まれた友情と引き裂かれていく運命について描いています。当時、イスラム教徒は強制的にキリスト教に改宗させられ「モスリコ」と呼ばれていました。その後アラビア語の使用や生活様式の禁止令も出て、徹底的な同化政策が行われていたようです。この物語の中心人物はモスリコの老人ディアス。彼らの家族はアルベーニャ伯爵家に仕えていました。ディアスと、前当主ドン・ゴンサロは、主と使用人という関係というよりは、少年時代から一緒に過ごしてきた親友のような存在でした。この関係は息子の代になっても続くと思っていたのですが、アラビア語禁止令が出たことによって変化していきます。ディアゴの孫のミゲルは山賊となってイスラム教徒の反乱に参加していくのです。物語は、民族、宗教に引き裂かれる人々の、しかし同じ人間同士として理解することもできるんだというメッセージをも含んでいます。キリスト教徒とイスラム教徒の軋轢の歴史は、今も続いています。テロとその影響で難民になって他国へと逃れていく姿は、16世紀の物語としてではなく、今まさに中東とEU諸国で起きていることと重なります。この本は1984年にスペインで出版されIBBY(国際児童図書評議会)のオナーリスト、そしてヘルマン・サンチェス・ルイペレス財団(*)による「20世紀のスペインの100冊」にも選ばれて、長く読み継がれているということです。スペイン留学中にこの本に出会ったという宇野和美さんによる翻訳は、とても読みやすく、言葉が心に沁みわたってきます。世界史を学ぶYA世代に、ぜひ手渡したい1冊です。
*この財団についての説明は、宇野和美さんのブログ「訳者の言いわけ」に詳細に書かれています。→こちら

 

『スレ―テッド』1,2,3 テリ・テリー/著 竹内美紀/訳 祥伝社文庫 祥伝社 2017

スレーテッド 消された記憶 (祥伝社文庫)
テリ ・ テリー
祥伝社
2017-04-12


スレーテッド3 砕かれた塔 (祥伝社文庫)
テリ・テリー
祥伝社
2017-06-21

題名になっている「スレーテッド」とは、解説によれば「「石板」を意味するslate(スレート葺きの屋根に使われてるあのスレートです)をもとにした造語。英語で”clean slate”と言えば、「白紙」のことだし、”wipe the slate clean”と言えば、「過去を清算する」とか「新たに出直す」という意味」で、この物語は2054年、EU離脱後のイギリスで、中央連合政府によって強制的にスレ―テッドつまり記憶を消去された少女カイラが、自分の過去に気づき、国家全体を揺るがす陰謀へと巻き込まれていく様を描くサスペンスです。カイラは16歳。当時、イギリスはEU離脱後の欧州経済危機に端を発する大混乱と国境封鎖を経て、超管理社会へと変化していました。犯罪行為など反社会的なことを行った16歳以下の子どもは矯正と再犯防止のために、強制的に脳手術を施され、記憶が消されてしまいます。その上、腕にはブレスレットのようなレポと呼ばれる監視装置を取り付けられています。レポは、脳内に埋めこまれているチップが測定する脳内物質の変化を数値化して表示します。強い不安や怒りを感じると、レポが脳内に埋め込まれたチップに電気ショックを与えて強制的にブラックアウトし、酷い場合には死に至るように設定されているのです。スレ―テッドされた少年少女は徹底的に管理化に置かれているのですが、カイラはある時、自分の過去の記憶が完全に消えていないことに気がつきます。そしてスレ―テッドの少年ベンと真相を探ろうとして、反政府組織と接触するようになってきます。4月から6月にかけて毎月1冊ずつ出版されましたが、読み始めると早く次が読みたくて出版が待ちきれなくなった作品です。この作品の翻訳は、『石井桃子の翻訳はなぜ子どもをひきつけるのか―「声を訳す」文体の秘密』(ミネルヴァ書房 2014)を書いた東洋大学准教授の竹内美紀さんです。YA世代が惹きつけられるような言葉を意識して翻訳したのだとか。近未来のディストピアは現実となるのでしょうか。このような未来を子どもに手渡してはいけないと思いつつ、多くの人に読んでほしいと思いました。
 
 
『高校図書館デイズ 生徒と司書の本をめぐる語らい』成田康子/著 ちくまプリマ―新書 筑摩書房 2017/6/10
高校図書館デイズ: 生徒と司書の本をめぐる語らい (ちくまプリマー新書)
成田 康子
筑摩書房
2017-06-05
 
北海道札幌南高校で学校司書をつとめる成田康子さんが、学校図書館を利用する13人の生徒たちの読書と日々の生活のことなどを綴ったノンフィクションです。今を生き高校生たちが、どんな本に出会っているのか、また読書を通してどんなことを感じているのかが、生き生きと描かれていて、その生徒の顔が見えてくるように思いました。ひとりの生徒が成田さんが司書として詰めている図書館を「ここって、仕事帰りにふらっと寄っていきたくなるような居酒屋」のようだと、「はじめに」の冒頭に書かれていますが、忙しい高校生活の中で、時間をみつけてちょっとだけ顔を出してみよう、司書の成田さんとひと言、ふた言話してみよう、そうすることでまた自分のすべきことへ向かうことができる、そんな関係性を作ったのはひとえに成田さんの学校司書としての働きにあることは明白です。自分も高校時代にこんな素敵な司書さんに学校図書館の中で出会いたかったなと思いました。(当時の学校図書館は、開かずの間でしたから)巻末にある13人の高校生が取り上げた本のリストも、図書館でのYAサービスの参考になるでしょう。高校生の不読率が5割を超えた(高校生の読書習慣に関する調査結果→こちら) という調査結果が一昨年出ましたが、だからこそまたこの本は多くの同世代の子どもたちにも読んでほしいと思います。
 
 
 【その他】
『おはなし会がはじまるよー特別支援学校(肢体不自由校)でび図書館活動―』おはなしの会うさぎ/編集・発行 2017/4/30
東京都立墨東特別支援学校での学校図書館の様子や、障害を持つ子どもへのおはなし会の実践についてまとめた小冊子です。現在、教文館ナルニア国においてのみ販売しています。値段は500円です。(教文館ナルニア国の紹介文→こちら
 
【おまけ】
『やさしいことばで日本国憲法―新訳条文+英文憲法+憲法前文』池田香代子/訳 C・ダグラス・ラミス/監修・解説 マガジンハウス 2002/12/10
やさしいことばで日本国憲法―新訳条文+英文憲法+憲法全文
C.Douglas Lummis
マガジンハウス
2002-12

 私たちの日本国憲法が実は双子だったってご存知でしたか?GHQのスタッフによって英語でも書かれていたのです。ただし日本語の憲法を英訳したものでもなく、また英語の憲法を和訳したのが現行の日本国憲法になったわけでもなく、同時に作られていたというのです。2002年に出版されていたこの本が、今年の春に増刷されました。『世界がもし100人の村だったら』を翻訳した池田香代子さんの訳です。日本語と英語の憲法を対にして読むことによって、この憲法に書かれていることが、世界の平和への希望だとわかります。基本的人権、そして誰もが恐怖や貧しさから免れて平和に生きる権利を有していることを、改めて考えたいと思いました。

(作成K・J)

2017年5月、6月の新刊より(その1)*追加資料あり


 2017年5月、6月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの本を紹介します。なお、6/28に2冊追加しました。(2017年4月発行の書籍も含まれています)

(その1)では絵本を、(その2)で児童書、YA向けの書籍を紹介します。

また、ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。すべての新刊本を購入して読むことはできませんが、教文館ナルニア国の新刊本コーナー、クレヨンハウス新刊本コーナーなどにある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。

 (なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

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【絵本】

 『えじえじえじじえ』佐藤可士和/絵 谷川俊太郎/字 クレヨンハウス 2017/4/10

 谷川俊太郎さんが多彩な画家やアーティストとコラボして作る「あかちゃんから絵本」シリーズの13作品目です。佐藤可士和さんは谷川さんからこのシリーズの依頼があって約2年半、どのような表現にしようかと初めての絵本への取組に答えが出せなかったそうです。ところが有田焼が創業400年を迎える2016年に向けて「ARITA 400project」に関わったことで、触発され自由に色をかけて表現したのが今回の絵になっています。その絵をみながら、今度は谷川さんが「字」をつけていきます。絵も字もあかちゃんにとっては、ひとつの表現であるということで、並んでいる文字に意味はなく、谷川さんが絵からイメージした「字」が並んでいるのです。ところが、実際に保育園で読み聞かせをしてみると、この不思議な絵本に小さな子どもたちが惹きつけられていく、そんな映像もおふたりのトークイベントで見せていただきました。小さな子どもの感性を揺すぶる絵本と言えるのかもしれませんね。

 

『なにもかも おちてくる』ジーン・ジオン/文 マーガレット・ブロイ・グレアム/絵 まさきるりこ/訳 瑞雲舎 2017/4/15

ほら なにもかも おちてくる
ジーン ジオン
瑞雲舎
2017-04-15

 この絵本の原書『All Falling Down』(1951)は、1952年のコールデコット・オナー賞受賞作品で、2005年にあすなろ書房から同じ訳者によって『あっ、おちてくる ふってくる』というタイトルで出版されていました。ジーン・ジオンとマーガレット・ブロイ・グレアムのコンビによる絵本としては『どろんこハリー』(わたなべしげお/訳 福音館書店 1964)が良く知られていますが、実はこちらがデビュー作です。今回、別の出版社から出すにあたり、タイトルだけではなく、内容もいくつか翻訳が変更されています。たとえばあすなろ書房版で「ひとびとは、いそいでいえじにつきます」→瑞雲舎版「ひとびとは、いえにむかっていそぎます」、あ「おばあさんのけいとのたまが おちてころがります。ころころ ころころ・・・」→瑞「おばあさんのけいとのたまがころがります。まるいためが、ころころ ころころ」、あ「おとうさんがジミーをしっかりうけとめます」→瑞「おとうさんが、ジミーをしっかりうけとめました」というように変更されています。2冊を読み比べてみると、たしかに声に出して読んだ時に、耳心地よく読みやすい訳になっているなと感じました。自然の営みの中で、落ちるもの、落ちてくるものとして花びらに、噴水の水、りんごに落ち葉など身の回りのものに目を向けさせる絵本です。と、同時に英語ではすべて「Falling Down」という表現ですむものが、日本語では「おちる」「おりる」「ふる」と違うことばで表現されていることも面白いなと思いました。

 

『アームストロング 宙飛ぶネズミの大冒険』トーベン・クールマン/作 金原瑞人/訳 2017/4/15 

アームストロング: 宙飛ぶネズミの大冒険
トーベン クールマン
ブロンズ新社
2017-04-15

2015年に出版された『リンドバーグ 空飛ぶネズミの大冒険』(本のこまど紹介記事は→こちら)の第2弾です。今度は、仲間のネズミたちが「月は大きなチーズだ」と思い込んでいる中、天体望遠鏡で月を観測していて地球の衛星だと気がつくネズミが主人公です。仲間に理解してもらえないでいるネズミのもとにスミソニアン博物館の老ネズミから手紙が届き会いに行きます。この老ネズミは前作のネズミだと思われます。そして月へ行くことを決意したネズミは、大学の授業を聴講して(無断で)設計図を作成し、着々と準備を進めます。ところが大きな事故を起こし、人間に追われる身に・・・そんな中、無事に月へ着陸し、また地球へ帰還します。壮大な物語は、困難な状況を克服しながら月面着陸をはじめとして宇宙開発をすすめてきた人類の歩みを彷彿とさせます。前作と合わせて読んでみると、面白さも倍増しそうです。
 

 

『だれのこどももころさせない』西郷南海子・浜田桂子/作 浜田桂子/絵 安保関連法に反対するママの会/協力 かもがわ出版 2017/4/30

だれのこどももころさせない
西郷 南海子
かもがわ出版
2017-04-25

 「子育てまっ最中のママたちが、安保関連法案反対の声をあげたと知ったとき、わたしは胸打たれるものがありました。命を生み命を日々育んでい人たちの感性が、この法案を受け入れるはすがない。赤ちゃんや幼い子たちが、ママに大きな勇気を与え背中を押してくれたのだと。」と、この絵本の画家浜田桂子さんはあとがきに記しています。この絵本が出来たきっかけは、教育学を学ぶひとりのママが、わが子のこんな言葉を聞いたことだったそうです。新聞の安保関連法案審議を伝える記事を見て、「きょうのよる、せんそうにならない?」と不安げに聞く小さな声を。日本で今実際に寝ている家の上に爆弾が落ちてくることはないにしても、その問いかけは「いつのまにか、地球の向こうの子どもたちからのSOSに聞こえて」きたというのです。この法律制定の前に実は防衛装備移転三原則が閣議決定されており、いつのまにか武器輸出が可能になっています。国内で戦争は起きなくても、日本から輸出する武器が紛争地の子どもたちの上で使われるかもしれない。そうしたことに目を向け、命は補充可能な部品ではないことを、伝えていく決意を感じる絵本です。しかしその強い決意とは裏腹に絵は柔らかい色彩で優しく包み込むように「だれのこどももころさせない」と高らかに宣言しています。

 

『きゃべつばたけのぴょこり』甲斐信枝/作 ふしぎなたねシリーズ 福音館書店 2017/5/20

 きゃべつの上で育つもんしろ蝶のさなぎが主人公になっている小さな子どものための科学絵本です。植物の絵を描くのが大好きな甲斐信枝さんの、小さな生き物への愛情を感じる絵本です。蝶のさなぎだけではなく、きゃべつ畑にいる様々な昆虫など(たとえばてんとう虫の幼虫や成虫、カメムシなども)が丁寧に描かれています。

 

 『ちいさなかえるくん』甲斐信枝/作 ふしぎなたねシリーズ 福音館書店 2017/5/20

 こちらも甲斐信枝さんが描く小さな子どものための科学絵本です。『きゃべつばたけのぴょこり』に続くお話です。さなぎから孵ったばかりのもんしろ蝶を追いかけて逃げられてしまった蛙が主人公です。蝶が飛んでいくほうへ、どんどん追いかけていきます。おおいぬのふぐりにシロツメクサ、タンポポにナズナ、れんげに母子草、ハルジオンといろいろな春の雑草の中を飛んでいくもんしろ蝶。それを追いかける蛙、最後はまたきゃべつ畑に戻ってきます。蛙の姿を追いかけながら、春の野の花を親子で思い出せるといいなと思います。

 

 『よるのおと』たむらしげる/作 偕成社 2017/6 

よるのおと
たむら しげる
偕成社
2017-06-13

 たむらしげるさんは9歳の時、国語の授業かなにかで「古池や 蛙飛びこむ 水の音」という芭蕉の俳句を初めて耳にし、同時にその池の状況が音と共に鮮明に見えたというのです。あとがきでそのことを、「鳥肌が立つようなこの不思議な感覚をどう表現すればよいのだろう?(中略)ぼくは自分がこのすばらしい宇宙に存在する不思議に気づいた。」と書いています。60年を経て、その俳句を情景化したのがこの絵本なのです。絵本で表現されている時間は、おじいちゃんを訪ねてきた男の子が家の前の池にさしかかって玄関に到達するまでのほんの1,2分です。その間の、夜の池で繰り広げられる生き物たちの営みを「音」で表現しているのです。背景に星空が広がり、蛙が飛び込んだあとの波紋が太陽系のように見えるなどは、自分が「宇宙に存在する」と感じたかつてのたむら少年の心象風景を描き出しているのかもしれません。

 

『金剛山のトラ―韓国の昔話―』クォン・ジョンセン/再話 チェン・スンガク/絵 かみやにじ/訳 福音館書店 2017/6/10

金剛山のトラ 韓国の昔話 (世界傑作絵本シリーズ)
福音館書店
2017-06-07
 
 韓国の金剛山(クムガンサン)は歌にも歌われる代表的な山で、切り立った岩の峰々が連なる険しい山と深い渓谷とが織りなす景勝地とのこと。そこに伝わる昔話です。父親を人喰いトラに殺されたと聞いた少年ユボギが、母親と一緒に厳しい修行を積みます。その修業は母親が頭の上に載せた水瓶を矢で射った後に、泥団子を矢じりにつけて放ち、先ほどの穴をふさぐということであったり、鋭い竹の切り株の上を転がってみたり、自分の体の何倍もある大岩を持ち上げたりすることでした。そしていよいよトラ退治の旅に出かけていきます。旅の途中で出会った老婆の忠告を聞いてさまざまな試練を乗り越えるのですが、とうとう自分も人喰いトラに飲み込まれてしまいます。しかしユボギはトラのお腹の中で出会った娘と共に、必死で脱出する方法を探ります。とても迫力のある絵本ですが、最後は心温まる結論に、物語に引き込まれた子どもたちもホッとすることでしょう。 

 

 『ねむれないおうさま』ベンジャミン・エルキン/原作 ザ・キャビンカンパニー/絵 小宮由/訳 瑞雲舎 2017/6/15

ねむれない おうさま
ベンジャミン・エルキン
瑞雲舎
2017-06-30

 ある国の王さまは、なかなか寝付けません。家来たちは王さまに聞こえる限りの音を消し去ろうとします。飛行機や汽車を止めるだけでなく、子どもたちから積み木やくちゃくちゃかむ音がするチョコバーまで取り上げ、川のせせらぎや鳥の鳴き声まで聞こえないようにしました。それでも眠らない王さま。もう打つ手はないと思ったところへ、歌声が聞こえてきます。すわ大変!と家来たちが駆け付けると、新しく来た乳母が優しい声で子守歌を歌っていたのでした。そして赤ちゃんの王さまは安心して眠りにつくのです。途中までなんてわがままな王さまなんだろう?と思いながら読んでいると、最後に現れる可愛らしい赤ちゃんの寝顔に思わずこちらも頬が緩みます。 

 

 『スリランカの昔話 ふしぎな銀の木』シビル・ウェッタシンハ/再話・絵 松岡享子、市川雅子/訳 福音館書店 2017/6/15 

スリランカの昔話です。あるとき、王さまが不思議な夢を見ます。地面がぱっくりと割れて美しい銀色の木が生え、銀の花が咲き、銀の実がなり、銀の雄鶏がその上にたって時を告げたというのです。その木をほんとうに見たいと願い、三人の王子を探しにやります。三人の王子はそれぞれの道を探しに出かけますが、上の二人の王子はすぐに何かの魔力で姿を変えられてしまいます。末の王子は賢者の助言をもらって大蛇を倒し、不思議な洞窟の中で王さまが見たという夢の木を探し当てます。 大蛇の三人の美しい娘を連れて王さまの元へ戻ってくるのですが・・・正直な末の王子の優しさにホッとします。『きつねのホイティ』(松岡享子/訳 福音館書店 1994)や、『かさどろぼう』(いのくまようこ/訳 徳間書店 2007)で人気のスリランカの絵本作家シビル・ウェッタシンハさんの新しい絵本です。

 

『ホウホウフクロウ』井上洋介/作 福音館書店 2017/6/15

ホウホウフクロウ (日本傑作絵本シリーズ)
井上 洋介
福音館書店
2017-06-14
 
昨年2月に亡くなられた井上洋介さんの最後の絵本です。(訃報のお知らせは→こちら)シュールでいて温かみのある絵が魅力の井上作品ですが、最後のこの作品は水墨画です。淡々とした文章と、深い夜の闇の中を飛び回るフクロウやミミズクの圧倒的な存在感は、読む者を不思議な別世界に連れていきます。井上洋介さんのこれまでの仕事とはひと味違う作品をぜひ味わってほしいと思います。
 

 

 『どうぶつたちがねむるとき』イジー・ドヴォジャーク/作 マリエ・シュトゥンプフォヴァ―/絵 木村有子/訳 偕成社 2017/6

どうぶつたちがねむるとき
イジー・ドヴォジャーク
偕成社
2017-06-13

 「チェコの最も美しい本2014年」の児童書部門で3位を受賞した絵本です。抑えた色彩と、フロッタージュという技法で表現した動物たちの眠る様子は、ため息が出るほど美しく、それでいて科学的な視点をもった説明文がつけられています。ひとつひとつ読んであげているうちに、子どもも眠りに誘われていくことでしょう。

 

『手おけのふくろう』ひらののぶあき/文 あべ弘士/絵 福音館書店 2017/6/25

手おけのふくろう (日本傑作絵本シリーズ)
ひらの のぶあき
福音館書店
2017-06-21
 
 北国のある里山のお話です。古い桜の木のうろで子育てをしていたふくろうの夫婦がいました。ところがある大雪の日に雪の重さに桜の木が倒れてしまうのです。そこでふくろうたちは、民家の軒先につるされた手おけを代わりの巣にするのですが、雪やみぞれがおけの中には吹き込み、また天敵のハクビシンに狙われたりします。そんな危機を乗り越え、ふくろうの夫婦は三羽のひなを育てるのです。このお話は、実際にあった話がもとになっているそうです。野鳥を撮り続けているカメラマンの平野伸明さんが 文章を書き、旭山動物園の飼育員だったあべ弘士さんが現地を取材しながら絵を描いています。
 
 
『エルマーとブルーベリーパイ』ジェーン・セアー/作 シーモア・フレイシュマン/絵 おびかゆうこ/訳 ほるぷ出版 2017/6/24 
 
エルマーとブルーベリーパイ (海外秀作絵本)
ジェーン・セア
ほるぷ出版
2017-06-20

 1961年にアメリカで出版された絵本が、初邦訳されました。ある家にエルマーという妖精が住んでいます。ある日、おうちの人が焼いたブルーベリーパイをエルマーは食べてみました。あまりに美味しくて夢にまで見るほど。翌日もまたブルーベリーパイを食べられるかと思ったら、家の人が全部食べてしまっていました。もう一度食べたいと思ったエルマーはどうしたと思いますか?家の人たちが気がつかないうちに家じゅうの洗い物をし、掃除をし、ベッドメイキングまでしました。でも妖精は人間には見えないのです。どうやって「もう一度ブルーベリーパイ作ってほしい」とお願いするのでしょう?読んでみてくださいね。こんな妖精ならうちにもいて欲しいなと思いました。

 

『まるぽちゃ おまわりさん』マーガレット・ワイズ・ブラウン、イーディス・サッチャー・ハード/作 アリス&マーティン・プロベンセン/絵 こみやゆう/訳 PHP研究所 2017/6/26

まるぽちゃ おまわりさん (おひざにおいで)
イーディス・サッチャー・ハード マーガレット・ワイズ・ブラウン
PHP研究所
2017-06-13
 
 翻訳者として次々に楽しい子どもの本を紹介してくださるこみやゆうさんは、お子さんをお膝の上にのせて絵本を読んであげる至福の時間をこのように表現しています。「絵本を子どもと楽しむということは、その子の心に「よろこびの種」を蒔くということです。種は、いずれ木となり、実をむすびます。その子が大きくなった時、心にたくさんの実があれば、時に他人にわけ与え、時に自らを励ますことができるでしょう。」と。そんな親子の時間のためにと、こみやゆうさんが選ぶ「おひざにおいで」シリーズの第1作目がこの絵本です。ちいさくて太ったまるぽちゃおまわりさんが交通整理に、泥棒退治に、溺れた人の救助に大活躍するお話が3つ入っています。ポップで親しみやすい絵を描いたのは『たまごってふしぎ』(こみやゆう/訳 講談社 2012)の絵本があるプロベンセン夫妻です。 

 

『あめのひ』サム・アッシャー/作・絵 吉上恭太/訳 徳間書店 2017/6/30

あめのひ (児童書)
サム アッシャー
徳間書店
2017-06-13

 朝、目が覚めると外は雨、ぼくは外で遊びたいなと思います。おじいちゃんに「雨を口で受け止めたい」「水たまりにパシャーンと飛びこんだりしたい」「ふねにのってあそびたい」と次々ねだりますが、おじいちゃんは雨が止むまで待つようにと言うのです。さて、雨が止んで玄関のドアを開けると・・・一面の海のようになっているのです。そこで舟に乗って出かけるおじいちゃんとぼく。やりたかったことを全部やって、ぼくも大満足です。こん風に過ごせたら雨の日も楽しいだろうなと思わせてくれます。

 (作成K・J)

 

子どもに本を手渡す人にぜひ読んでほしい2冊


今年1月に出版されていながら、手に取るのが遅くなって紹介しそびれていた本が2冊あります。

1冊は子どもの本を専門にする出版社、福音館書店を作り上げてこられた松居直氏の絵本づくりへの篤い思いを膨大なインタビューの中からまとめあげた藤本朝巳著『松居直と絵本づくり』で、もう1冊は長く家庭文庫活動をされた後、54歳の時(1994年)にイギリスに留学し、6年間ヴィクトリア時代の絵本研究をされた当時の様々な記録をまとめた正置友子著『イギリス絵本留学滞在記ー現代絵本の源流ウォルター・クレインに魅せられてー』です。

 

『松居直と絵本づくり』藤本朝巳/著 教文館 2017/1/30

松居直と絵本づくり
藤本 朝巳
教文館
2017-01-25

白百合女子大学大学院に児童文学を学ぶ博士課程が開設された時、男性でありながら院生として迎えられた著者が、講師と院生として出会った福音館書店編集者の松居直氏に絵本や絵本の編集について多くのことを聞き取り記録されたことを1冊にまとめられました。膨大なインタビューの内容は、実は2012年から2014年にかけて、ミネルヴァ書房からシリーズ・松居直の世界として3冊出版されたいます。(『松居直・自伝ー軍国少年から児童文学の世界へ』2012/1/20刊、『松居直と「こどものとも」』2013/7/20刊、『翻訳絵本と海外児童文学との出会い』2017/7/15刊)
そのシリーズとは別の形で、しかも大変読みやすいコンパクトな形で、手に出来ることは、私たち、子どもたちに本を手渡すものにとってはありがたいことです。
戦後日本の絵本を語る時に、松居直氏と福音館書店の月刊「こどものとも」を避けて語ることはできません。この本を読むことによって、長く読み継がれている絵本が、編集者のどのような篤い思いから作られて来たのか、その一端を知ることができるでしょう。

第1部「こどものとも」の編集と松居直
第2部 松居直と名作絵本作り
第3部 松居直とともに絵本を作った人々
第4部 ロングセラーと新しい絵本

以上の4部構成となっており、私たちがよく知っている作品や作者についてわかりやすく解説されているので、親しみをもって読むことができます。
創刊当時から子どもに手渡す本であるからこそ、芸術性の高い絵本づくりを目指した「こどものとも」と松居直氏の姿勢は、デジタル時代を迎えた現代の子どもたちにどのような絵本を手渡していくのか、残していくのかを考えるのにも多くのヒントを与えてくれます。


『イギリス絵本留学滞在記ー現代絵本の源流ウォルター・クレインに魅せられてー』正置友子/著 風間書房 2017/1/31

イギリス絵本留学滞在記
正置 友子
風間書房
2017-02-13
 
著者の正置友子氏は、大学卒業後結婚され、子育ての傍ら、大阪千里ニュータウンで家庭文庫(青山台文庫)活動をずっと続けてこられています。子どもたちに直接本を手渡す活動をする中で、絵本についてもっと学びたい、絵本の歴史について深く研究したいと考え、古今の絵本の蔵書があり、絵本という芸術について造詣の深い研究者のいるところとしてイギリスへ留学します。その時点で、著者は54歳になっており。自分のお子さん達は成人していました。
イギリスでは、ウォルター・クレイン(1845~1915)の絵本に出会い、その運命的な出会いからヴィクトリア時代(1837~1901)の絵本の歴史を研究し、6年後に1千ページに及ぶ英文と900枚の図版入りの博士論文にまとめられました。それが、ヴィクトリア時代の絵本研究として世界で初めての本格的な研究であり、子どもの本の優れた歴史研究であると認められイギリスの子どもの本歴史協会から2008年に「ハーベイ・ダートン賞」を授与されました。
イギリスでの生活のこと、出会った人々のことなど、留学中のさまざまなエピソードが盛りだくさんで読み物として面白く、一気に読んでしまいました。
その中で、一番心に残ったのは、ロンドンの新聞図書館で著者が見つけた新聞記事でした。今から150年前の1865年12月12日づけの出版業界新聞『ブックセラー』の中に記されている言葉です。

「本を制作するとき、子どもの本を作製するときほど、いっそうの熟練の技と、良いセンスに培われた細やかな配慮とが必要とされる分野はないであろう。にもかかわらず、このことは概してなおざりにされてきた。子どもたちにはまるでガラクタモノで充分だというふうに考えられている。なんというひどい間違いだ!もし可能であるならば、本当に美しいもの、純粋なもの、良いものだけが、子ども時代の感じやすい目と耳に提供されるべきである。」(「第4部 ヴィクトリア時代の絵本に魅せられて 第6章 児童文学史上重要な一八六五年 第1節 子どもたちには最高の絵本を手渡すべきであるー一八六五年十二月」p202)
 
 松居直氏が、「こどものとも」で目指した絵本づくりの目標が、すでに150年前のイギリスで掲げられていたこと、そしてヴィクトリア時代の絵本にはウォルター・クレインをはじめとして、そのような作品が生み出されていたことを、この本を通して再確認できました。
 
 この本の「おわりに」で、著者はイギリス留学中に、自分の母と父を相次いで天国へ見送ったことが記されていました。ロンドンとご実家のある名古屋を何度も行き来されたこと、父危篤の知らせを受けた時に英国航空がしてくれた粋な計らいを読んだ時には思わず涙がこぼれました。
 この本を手にすることによって、絵本の研究を志す若い世代が現れることを期待するとも記されています。絵本の研究分野には、文学にも芸術にもデザインにも保育学にも押し込めることのできない広さと奥行を内包しているとして、絵本学の構築を目指して、今また大阪大学の大学院で学んでいるという正置氏。女性の生き方、学び続けることの価値についても教えてくださっていると感じました。
 
この2冊の本は、子どもたちに本を手渡す活動をされている方々にはぜひ読んでほしいと思います。

(作成K・J)

 

2017年4月の新刊本より(追加)


4月の出版された本の中より、保護者・研究者向けの本2冊を紹介します。

(その他の本について、こちら→2017年3月、4月の新刊から

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『深読み!絵本『せいめいのれきし』』真鍋真/著 岩波科学ライブラリー260 岩波書店 2017/4/13

1964年に石井桃子の翻訳で出版され長く読み継がれてきた『せいめいのれきし』(バージニア・リー・バートン/作 石井桃子/訳 岩波書店)の改訂版が、この本の著者真鍋真の監修で2015年7月に出版されました。(「本のこまど」での紹介記事→こちら)この絵本を子ども時代に何度も繰り返して読み、長じて科学者になった著者が解説する『せいめいのれきし 改訂版』の見どころ解説です。絵本の中に描かれていることをわかりやすい言葉で解説し、実際の写真なども添えるなど、読めば読むほど地球上の生命の歴史に興味がわき、もっと知りたいと思います。カラーの図版や、コラム記事などもたくさんあり、絵本の解説書としてだけでなく、この1冊だけでも十分に楽しめます。小学生高学年からYA世代、そして保護者まで多くの年代の人に手渡したい1冊です。この本は代官山蔦屋書店児童書コンシェルジュYさんのおすすめです。

 

『子どものアトリエ―絵本づくりを支えたもの』西巻茅子/著 こぐま社 2017/4/25

銀座・教文館9階ウェンライトホール(第2会場→6階ナルニア国・ナルニアホール)で5月28日まで開催中の「西巻茅子絵本デビュー50周年展」に合わせて出版された西巻茅子の初エッセー集です。50周年展の展示解説ボードに記された言葉が、そのまま1冊の本になって手元に置いておけることに感激しました。『わたしのワンピース』をはじめとして西巻茅子の絵本が子どもたちを魅了し続けるのか、そこに子どもの心に寄り添う作家の眼差しがあることに気がつきます。この展覧会を見に行く機会がない方も、西巻茅子の絵本に込められた思いを、この1冊を読むことで深く知ることができるでしょう。なお、展覧会は前期(~5月7日)と一部原画が入れ替えられ、後期展覧会として5月28日まで開催されています。機会があれば、ぜひ覗いてみてください。

(作成K・J) 

2017年3月、4月の新刊から


2017年3月、4月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの本を紹介します。(一部2017年1月および2月下旬発行のものあり)

また、ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。すべての新刊本を購入して読むことはできませんが、教文館ナルニア国の新刊本コーナー、クレヨンハウス新刊本コーナーなどにある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。

 (なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

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【絵本】

 

『くろねこトミイ』神沢利子/作 林明子/絵 復刊ドットコム 2017/2/25

くろねこトミイ
神沢 利子
復刊ドットコム
2017-02-28

 1978年にひかりのくに社から出版された『おはなしひかりのくに くろねこトミイ』を底本に復刊された絵本です。1973年に福音館書店月刊かがくのとも『かみひこうき』でデビューした林明子さんが、神沢利子さんのお話に絵をつけていた比較的初期の作品です。仲良しのまこちゃんが知らないおじさんの車に乗り込んだと知ったくろねこトミイが、クロヒョウのごとく大きくなって、まこちゃん救出に向かいます。いつもはごろごろ甘えているトミイの凛々しい姿が、きっと子どもたちの記憶に残ったのでしょう。復刊希望が多く寄せられ復刊ドットコムから出版されました。
 
 
『猫魔ヶ岳の妖怪ー福島の伝説』八百板洋子/再話 齋藤隆夫/絵 福音館書店 2017/3/8

この本には、 福島に本当にあった話として伝わる四つの伝説が入っています。表題作の「猫魔ヶ岳の妖怪」は会津地方に伝わる伝説で、山に捨てられ、妖怪になってしまった猫と、退治を命じられた鉄砲うちの若者のふれあいと悲しい別れを描いています。その他に伊達市山舟生の伝説「天にのぼった若者」、福島市笹木野の伝説「大杉とむすめ」、福島市松川の伝説「おいなりさまの田んぼ」が収録されており、少し重いお話から、読みやすいお話までバラエティーに富んでいます。再話者の八百板さんは、福島県中通り出身です。ブルガリア・ソフィア大学留学経験があり、『吸血鬼の花よめ―ブルガリアの昔話』、『いちばんたいせつなもの―バルカンの昔話』、『ナスレディンのはなし―トルコの昔話』、『ほしをもったひめ―セルビアのむかしばなし』などバルカン半島各地の昔話を再話して出版しています。また留学体験記『ソフィアの白いばら』も書かれています。いずれも福音館書店刊です。機会があれば合わせて読んでみるとよいでしょう。 

 

『ぼくのおじいちゃん』カタリーナ・ソブラル/作 松浦弥太郎/訳 アノニマ・スタジオ 2017/3/12

ぼくのおじいちゃん
カタリーナ・ソブラル
アノニマ・スタジオ
2017-03-17

 人はかならず老いていきます。子どもたちにとって、老いるということがどんなイメージで捉えられるかは、その後の生き方にかかわる大切なことです。この絵本に描かれるおじいちゃんは、とても自然体で、さわやか。人生の時間を軽やかに楽しんでいます。歳を重ねるって素敵なことだなと、感じることでしょう。同じアパートメントに住む仕事に勤しむ現役のライトさんの生活を対比的に描いていて、忙しい勤務をリタイアした後の実り豊かな人生の日々をスマートに描いた絵本です。代官山蔦屋書店児童書売り場のコンシェルジュYさんに教えていただいた1冊です。

 
 
『ママのて』やまもとゆうこ/作 こぐま社 2017/4/15

ママのて
やまもと ゆうこ
こぐま社
2017-04-04

 小さな子どもにとって、ママの手ほど安心するものはないと思います。おにぎりを握ってくれる手、折り紙を折ってくれる手、お絵かきしてくれる手、お風呂で洗ってくれる手。この絵本ではママは手だけ描かれています。読んでもらった子どもたちは自分のママを思い描きながら聞くことができます。小さな子どもたちの読み聞かせにぴったりの絵本です。

 

【ノンフィクション絵本】

『ながいながい骨の旅』松田素子/文 川上和生/絵 桜木晃彦(宝塚大学教授)、群馬県立自然史博物館/監修 講談社 2017/2/23

ながいながい骨の旅
ながいながい骨の旅 [単行本]

松田 素子
講談社
2017-02-24

 『せいめいのれきし』のように、この地球上に生命が誕生してから現在までを時系列でわかりやすく説明する子ども向けの優れた本はこれまでもありましたが、この本は、特に「骨」に注目して作られた科学絵本です。いつ、「骨」が生物の中に生まれたのか、そしてそれはどのような役割を持っているのか、生物の進化に密接に影響を与えてきたのか、「骨」の進化の歴史を読み解くと、私たちの体が実に地球上の物質(ミネラル)を使って精巧に組み立てられていることがわかり、自然と生命のつながりを深く考える視点を与えてくれます。
 
 
 【児童書】
 
『ありづかのフェルダ』オンドジェイ・セコラ/作・絵 関沢明子/訳 福音館書店 2017/3/8 
ありづかのフェルダ (世界傑作童話シリーズ)
オンドジェイ・セコラ
福音館書店
2017-03-08

 チェコの子どもの本の黄金期(二つの大戦の間)に活躍したオンドジェイ・セコラ(1899~1967)の作品『ありのフェルダ』(2008)、『とらわれのフェルダ』(2011)の完結編がこの作品です。赤い水玉スカーフのはたらきあり「フェルダ」が登場するこのシリーズは、チェコでは知らない子はいないという長く読み継がれた作品です。この作品では、女王ありの産んだ卵から幼虫がかえり、さなぎから成虫になっていく様子を描いています。フェルダは、赤ちゃんありのためにミルクを出すアリマキを捕まえてきたり、お芝居をしたりと大活躍をします。そんな時に、大切なさなぎが盗まれる大事件が!この本も代官山蔦屋書店児童書コンシェルジュYさんにすすめていただきました。なお、2008年に国際子ども図書館では「チェコへの扉―子どもの本の世界」という展示会がありました。チェコの児童書のリストはこちらから見ることができます。→こちら

 
 
『河童のユウタの冒険 上』斎藤惇夫/作 金井田英津子/画 福音館書店 2017/4/15
『河童のユウタの冒険 下』斎藤惇夫/作 金井田英津子/画 福音館書店 2017/4/15
 
  

河童のユウタの冒険(下) (福音館創作童話シリーズ)
斎藤 惇夫
福音館書店
2017-04-12
 
『冒険者たち―ガンバと15ひきの仲間たち』(岩波書店)の斎藤惇夫氏が満を持して発表する長編作品です。下巻あとがきには、この作品を書くことに至った経緯が書かれています。それは今年1月に出版された荒木田隆子氏による『子どもの本のよあけ―瀬田貞二伝』の解説(『子どもの本のよあけ』p469)にも同様に書かれているのですが、瀬田貞二さんは、『指輪物語』の翻訳に取り組んでいたころに「我が国最後の天狗が、最後の魔法を使って戦いを挑む物語を書きたい」と斎藤氏に話していたというのです。信州の仕事場の前を通る炭焼きの老人が、人間に身をやつした天狗に見えきたのだそうです。しかし、瀬田氏はその思いを果たすことなく病に倒れます。天狗の話を書いていただかないと困ると言い寄る斎藤氏に、「これほど自然破壊がすすんでしまった国で、もう天狗の話は書けません」と答えた後に、そのアイディアを継いでほしいと瀬田氏が遺言されたと書かれています。(「あとがき」p400~401) 上下巻を手にしたとき、その分厚さに一瞬ひるみますが、読み始めるとぐいぐいと引き込む力があります。北国の「恵みの湖」で穏やかに暮らしていた河童のユウタのもとに、ある日尾が九に分かれているアカギツネが現れ、娘の旅の仲間にと声をかけるのでした。旅の目的もわからぬままキツネの娘アカネと、天狗のハヤテと龍川の水源を目指す旅へ出ます。彼らとともに、この旅の目的はなんだろうと探りながら読むのはとても楽しいものでした。金井田英津子氏の版画による挿し絵も、この本の魅力を高めています。文庫活動で中で紹介をしたら、小学5年生の女の子が早速、夢中になって読みふけっていました。この国にまだ残る豊かな自然と天狗や河童たちが息づく場所を、大切にしたいと思いました。
 

 
【ノンフィクション】
 
『世界がもし100人の村だったら お金篇 たった1人の大金持ちと50人の貧しい村人たち』池田香代子/C・ダグラス・スミス対訳
   マガジンハウス 2017/01/30
 
 2001年に『世界がもし100人の村だったら』が出版された時は、アメリカ同時多発テロの起きた後だったので、富の分配の不公平について考えさせられたものです。それから15年以上が過ぎて、世界情勢はあの頃以上に複雑になってきました。グローバリゼーションの反動も各地で起きています。この本は、その後、10億人増えた世界人口と、その過程で貧富の格差が広がったことを伝えてくれます。「100人の村では1人の大金持ちの富と99人の富がだいたい同じです」。貧しい者たちは、50人。世界の半分の人たちが食べるものにも事欠くという事実も突き付けられます。そして、それに対して、どうすればよいかを考えるヒントも与えてくれます。現代社会について学ぶYA世代が気軽に手に取れる1冊としておすすめします。
 
 
『知らなかった、ぼくらの戦争』アーサー・ビナード/編著 2017/4/2

知らなかった、ぼくらの戦争
アーサー ビナード
小学館
2017-03-28

第二次世界大戦終結から72年が経ち、当時実際に戦場に赴いた経験のある人、空襲など過酷な戦争体験をした人々の年齢がどんどん高齢化し、亡くなっていく方々が増えている今、その体験を書き記しておかなければ永遠に語られることのないままになってしまいそうです。この本は詩人のアーサー・ビナードさんが、そうした危惧を抱きつつ、1990年に来日して以降、勝戦国アメリカ人という立場から「日本の戦後」について考え、また多くの戦争体験者から直接聞いた話をまとめ、戦争とはいったい何なのかを私たちに問うています。現状を見ると、緊迫する朝鮮半島情勢などから、もはや「戦後」という雰囲気ではなく、戦前の状況に似てきたとする戦争体験者の声もあるほどです。私たちが今の状況を客観的に判断するためにも、第二次世界大戦を体験した人々の生の声に耳を傾けることはとても大事なことでしょう。

 

【研究書】
 

『子どもの本から平和を考える』児童図書館研究会/編 児童図書館研究会 2017/2/25

2015年11月に児童図書館研究会が主催して行われた児童文学者、山花郁子さんの「戦後七〇年、子どもの本から平和を考える」と題した講演会の講演録です。また機関誌『こどもの図書館』に連載された特集記事、ここ最近出版された平和を考えるための関連本リストも収録されています。子どもたちに平和について考えてもらう時の参考になると思います。この資料についての教文館ナルニア国の記事も併せて紹介します。→ナルニア国の紹介文

(作成K・J)

2017年2月、3月の新刊から


 

2017年2月、3月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの本を紹介します。(一部2017年1月下旬発行のものあり)

また、ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。すべての新刊本を購入して読むことはできませんが、教文館ナルニア国の新刊本コーナー、クレヨンハウス新刊本コーナーなどにある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。

 (なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

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【絵本】

『あめ』イブ・スパング・オルセン/作 ひだにれいこ/訳 亜紀書房 2017/2/13

あめ
イブ・スパング・オルセン
亜紀書房
2017-01-26
 
 
 シャルロッテという少女、雨音で窓を開けてみると、雨つぶの精バラバラとボトボトと出会います。バラバラから聞いたぼうけん話は、そのまま水の循環や、天気のことについて理解を促します。自分で読むなら小学生以上ですが、読んであげるなら幼児でも興味をもつでしょう。『つきのぼうや』(やまのうちきよこ/訳 福音館書店 1975)などで有名な国際アンデルセン賞作家オルセンの1963年の作品です。昨年11月に同じく亜紀書房から『かぜ』が出版されています。

 

『よるのこどものあかるいゆめ』谷川俊太郎/詩 むらいさち/写真 マイクロマガジン社 2017/2/15

よるのこどものあかるいゆめ
谷川 俊太郎
マイクロマガジン社
2017-02-03
 
 子どもを寝かしつけるための催眠療法をそのまま絵本にして爆発的に売れた絵本が昨年ありました。あれは催眠術の手法なので眠くなるのは当たり前なのですが、絵本としてどうかなと考えさせられました。世の中、子どもも寝かしつける親もストレスフルなのでしょうか。「ねるまえに読む本」というコンセプトで出版が相次いでいます。こちらはそんな流行に乗っているようでもありますが、谷川俊太郎さんの詩が、凝り固まった心を解きほぐしてくれて、読んでいくうちに安らかな気持ちになっていきます。海の中を撮影した写真も水にたゆとうように気持ちよくなっていく、そんな絵本です。
 
 
『ぼくの草のなまえ』長尾玲子/作 福音館書店 2017/2/10
 
ぼくの草のなまえ (福音館の科学シリーズ)
長尾 玲子
福音館書店
2017-02-08
 
 太郎くんが丹精込めて育てたチューリップのプランターの中に、小さな白い花をつけた雑草をみつけます。雑草だからと抜いたりせずに「かわいい花だな」と思った太郎くんは、植物に詳しいおじいちゃんに電話をして聞きます。花の色だけでなく、茎の様子、葉の形や手ざわり、つき方を順番に聞いていくおじいちゃん。その雑草がハコベであることがわかりました。名前がわかれば、抜かれる運命の雑草としてではなく、固有の植物として愛着もわきますね。デンマークで刺繡を学んできた作者の、緻密で丁寧な刺繡による絵が、植物の特徴をよく捉えていて素敵です。同じ作者の『ざっそうの名前』(福音館書店 2013)もおすすめです。
 

 『みどりの町をつくろう 災害をのりこえて未来をめざす』アラン・ドラモンド/作 まつむらゆりこ/訳 福音館書店 2017/2/10

みどりの町をつくろう 災害をのりこえて未来をめざす (福音館の科学シリーズ)
アラン・ドラモンド
福音館書店
2017-02-08
 
2007年5月にアメリカはカンザス州グリーンズバーグを巨大な竜巻が襲いました。日本国内でもニュースに取り上げられましたから記憶にある方もいらっしゃるでしょう。人口1400人の集落の9割の建物が全壊し、死者も11名でた大きな災害でした。この絵本は何もかも失ったグリーンズバーグの人たちが失意の中から立ち上がり、自然環境に優しい緑の町づくりに取り組む過程を子どもたちにもわかりやすい絵と文章でつづった絵本です。アラン・ドラモンドはイギリス在住の絵本作家ですが、『風の島へようこそ―くりかえしつかえるエネルギー』(まつむらゆりこ/訳 福音館書店 2012)で、グリーンアース文学賞を得ています。夏休みの自由研究のきっかけにもなる作品です。
 
 
『ぼくのあかいボール』イブ・スパング・オルセン/作 ひしきあきらこ/訳 BL出版 2017/2/20 
ぼくのあかいボール
イブ・スパング・オルセン
ビーエル出版
2017-02-20

こちらも、デンマークの絵本作家オルセンの1983年の作品です。いつも遊んでいるお気に入りのぼくのあかいボールが、ある時ころころころがって、バスの中へ。運転手におこられたボールは、どんどんどんどん逃げていき公園の中へ。さて、ボールはもどってくるのでしょうか。今年は日本とデンマークの国交樹立から150周年の年、練馬区下石神井にあるちひろ美術館・東京では3月1日からデンマークの心 イブ・スパング・オルセンの絵本」を開催中です。(5月14日まで)そちらで、この絵本の原画を見ることもできます。機会があれば原画にも触れてみてください。
 

 
『くまさん』まど・みちお/詩 ましませつこ/絵 こぐま社 2017/2/25
 
くまさん
まど みちお
こぐま社
2017-02-17
 
「はるがきて めがさめて くまさん ぼんやり かんがえた」で始まるまど・みちおさんの詩が絵本になりました。寝ぼけたくまさん、水に映った自分の顔をみて、自分がくまだったことを思い出します。小学2年生の国語の教科書 (三省堂)にも掲載されており、音読の宿題で声に出して読んでいたのを思い出します。ましませつこさんの優しいタッチの絵が、長い冬眠から覚めて春の訪れを喜んでいるくまの気持ちを上手に表現しています。耳に心地よいリズムの詩です。小さな子どもたちにも読んであげるとよいでしょう。

 

『どのはな いちばん すきな はな?』(0.1.2えほん)いしげまりこ/文 わきさかかつじ/絵 福音館書店 2017/3/5

どのはな いちばん すきな はな? (0.1.2.えほん)
いしげ まりこ
福音館書店
2017-03-01
 
 福音館書店の月刊誌「こどものとも0.1.2」から2冊、ハードカバーになりました。1冊めは2012年3月号の『どのはな いちばん すきな はな?』です。見開き画面にぱあっと広がる原色の美しい花。春らしい明るい気持ちになります。デフォルメされた絵ですが、なんの花かわかります。小さな子どもたちに、美しい花に目を向けてもらうきっかけになる1冊です。
 
 

『ひよこさん』(0.1.2えほん)征矢清./作 林明子/絵 福音館書店 2017/3/5

ひよこさん (0.1.2.えほん)
征矢 清
福音館書店
2017-03-01
 
2冊目は 2013年3月号の征矢清・林明子夫妻による『ひよこさん』です。ひとりでおでかけひよこさん、暗くなって動けなくなりました。でも大丈夫。目を覚ますとおかあさんがそばにいてくれました。小さな子どもたちに安心感を与えてくれるお話です。 
 
 

 『生きる』谷川俊太郎/詩 岡本よしろう/絵 2017/3/5

生きる (日本傑作絵本シリーズ)
谷川 俊太郎
福音館書店
2017-03-01
 
 月刊たくさんのふしぎ2013年9月号として出版された谷川俊太郎の詩「生きる」の絵本が、この度ハードカバーになりました。月刊誌の別刷付録「ふしぎ新聞」に、谷川俊太郎が「〈いま〉は物理的に一瞬でありながら、心理的には一瞬にとどまらないひろがりをもっています。(中略)〈いま〉を止めることは誰にも出来ませんが、〈いま〉を意識することが、逆に流れ止まない時間を意識することにつながることがある。」と、この詩の背景にある思いをつづっています。イラストレーターの岡本よしろうが描く何気ない家族の夏の一日が、そうした日常にこそ「生きる」実感があることを伝えてくれています。手渡すなら小学生中学年くらいから。
 

 『いのちのひろがり』中村桂子/文 松岡達英/絵 福音館書店 2017/3/5

いのちのひろがり (たくさんのふしぎ傑作集)
中村 桂子
福音館書店
2017-03-01

 こちらも月刊たくさんのふしぎ2015年4月号がハードカバーになりました。JT生命誌研究館館長、中村桂子氏が生命誌の考え方から地球上に生命が発生してからの38億年の歴史を、子どもたちにもわかりやすく説明してくれています。庭にいるアリも、魚も、草も木も人間も、地球上にいるすべての生命は38億年前に発生したひとつの細胞から始まっているという発見は、驚きとともに子どもたちに生命あることの感動を伝えることができると思います。自然科学絵本を得意とする松岡達英の絵も、子どもたちには親しみやすいでしょう。

 

 『だいち』谷川俊太郎/詩 山口マオ/絵 岩崎書店 2017/3/20

詩の絵本 教科書にでてくる詩人たち (5) だいち (詩の絵本―教科書にでてくる詩人たち)
谷川 俊太郎
岩崎書店
2017-03-08
 
 今回紹介する新刊本の中で3冊目の谷川俊太郎作品です。教科書に出てくる詩人たちの作品を絵本として出版しているシリーズの5作目です。この詩の初出は、詩集『いち』(佐野洋子/絵 国土社 1989)でした。「だいちのうえに くさがはえ/ だいちのうえに
 はながさき / だいちのうえに きはしげり / だいちのうえに あめはふる(後略)」と、大地の上で営まれる人々の暮らしを描く詩を、山口マオの力強い版画が際立たせます。読んであげることで、幼稚園の子どもたちにもこの詩の世界が理解できることでしょう。
 

 
『ドームがたり』アーサー・ビナード/作 スズキコージ/画 玉川大学出版部  2017/3/20

ドームがたり (未来への記憶)
アーサー・ビナード
玉川大学出版部
2017-03-11
 
 原爆ドームが主人公のこの絵本は、読む者にさまざまな思いを引き出してくれます。まずはまっさらな気持ちでこの絵本に向き合ってみるとよいでしょう。アメリカで生まれ育ったアーサー・ビナードは、来日するまで「原爆は必要だった」という歴史教科書の記述を疑いもしなかったそうです。しかし、29歳で初めて広島の原爆ドームの前に立った時、ほんとうにそうなのだろうかを疑問を持ちます。その思いを胸に書かれた作品です。スズキコージの絵もまた私たちに何かを訴えかけてくれます。先日、皇太子ご息女愛子さまが中学を卒業するのを機に公表された作文も原爆ドームを訪れた時の強烈な印象が素直に書かれていました。その作文を思い出しながら、ぜひこの絵本も読んでほしいと思います。
 

 【児童書】

サンタクロースのはるやすみ』ロジャー・デュボアザン/文・絵 小宮由/訳 大日本図書  2017/2/20

ロジャー デュボアザン
大日本図書
2017-02-22

 クリスマスにしか町へいかないサンタクロースは、春の訪れに誘われて町へ出かけていきます。変装して出かけたのに、立派なひげと赤い鼻をみて、サンタクロースからそれらを盗んだと疑われてしまいます。本物のサンタクロースだと、町の人たちにわかってもらうためにどうしたと思います?サンタクロースがイースターの町にいるなんて、素敵ですね。原題は「EASTER TREAT」です。『しろいゆきあかるいゆき』でコルでコット賞を受賞したロジャー・デュボアザンの作品で、翻訳は小宮由です。

 

『水の森の秘密』(こそあどの森の物語)岡田淳/作 理論社 2017/2 
 

1994年に『ふしぎな木の実の料理法』で始まった「の森でもなければ、の森でもない の森でもなけれな、の森でもない」「こそあどの森」で繰り広げられるスキッパーやポットさん、トマトさん、トワイエさんをはじめとする森の住人たちの物語が、12冊目のこの作品で完結となります。ある時、こそあどの森のあちこちに水がわき出し、湖のようになってしまいます。その原因をさぐるためスキッパーたちは、調査をはじめます。その意外な原因は!初期の「こそあどの森の物語」シリーズを読んできた世代ももう30代になろうとしています。12巻目が出たことで、最初のころの本も読み返そうとする子どもたちもいることでしょう。親子二代で読む子もいるのではないでしょうか。ぜひ、既出のシリーズと一緒に手渡してほしいと思います。 

 

『小さな赤いめんどり』アリソン・アトリ―/作 神宮輝夫/訳 小池アミイゴ/絵 こぐま社 2017/3/10
小さな赤いめんどり (こぐまのどんどんぶんこ)
アリソン アトリー
こぐま社
2017-02-27
 
 1969年に大日本図書から油野誠一の絵で出版されていたこの作品が、『とうだい』(斉藤倫/作 福音館書店 2016)を描いた小池アミイゴさんの絵でこぐま社の「こぐまのどんどんぶんこ」としてよみがえりました。油野誠一の絵で親しんでいた人には、イメージが違って見えることでしょう。ひとりで暮らすおばあさんのところにある夜、訪ねてきた小さな赤いめんどりは、実はふしぎな力を持っているのでした。絵本から読み物へ移行する時期の子どもたちに手渡したい作品です。
 

『たんけん倶楽部 シークレット・スリー』ミルドレッド・マイリック/文 アーノルド・ローベル/絵 小宮由/訳 大日本図書 2017/3/15

たんけんクラブ シークレット・スリー (こころのほんばこ)
ミルドレッド マイリック
大日本図書
2017-03-17

 今回、紹介した『サンタクロースのはるやすみ』と同じ大日本図書の「こころのほんばこ」シリーズの1冊です。小宮由が絵本から読み物へ移行する時期の子どもたちに手渡す本として厳選して翻訳しているラインナップです。海辺に住むビリーは友だちのマークと一緒に手紙の入っているビンを拾いました。その手紙には「たんけんクラブをつくろう」と書いてありました。それは沖にあるちいさな島の灯台にすむトムという男の子からのものでした。3人はビンに手紙を入れて海を隔ててやり取りをします。同年代の男の子がワクワクするお話です。

 


『メリーメリー おとまりにでかける』ジョーン・G・ロビンソン/作・絵 小宮由/訳 岩波書店 2017/3/17
メリーメリー おとまりにでかける
ジョーン・G.ロビンソン
岩波書店
2017-03-18

『テディ・ロビンソン』や『思い出のマーニー』などの作品があるロビンソンの新しく翻訳された幼年童話です。1957年に書かれたものですが、今の子どもたちが読んでも楽しいお話です。5人兄弟の末っ子のメリーメリーは、いつもおにいちゃんやおねえちゃんにじゃまもの扱いされています。そんなことにめげないメリーメリーのゆかいなお話が5話入っています。自分で読むなら小学校低学年から。小さなお子さんには読んであげてほしい作品です。こちらも小宮由の翻訳です。

 

【その他】

乳幼児おはなし会とわらべうた』落合美知子/作 児童図書館研究会 2017/2/25

長年、図書館司書として、あるいは文庫活動を通して、「親子でたのしむ絵本とわらべうた」の活動を続けてこられた落合美知子さんの活動をまとめたものです。小さな子どもになぜわらべうたなのか、理論的なところもわかりやすくまとめてあります。わらべうたの実践事例や、資料なども豊富です。図書館などで乳幼児おはなし会、わらべうたの会を実施しようとしている図書館司書にとって、貴重なテキストといえるでしょう。ぜひ業務の際に手元に置いて参考にしてほしいと思います。詳しくは児童図書館研究会のサイト(→こちら)をご覧ください。

 (作成K・J)

『きゅうきゅうばこ』の新版が出ました。


福音館書店のかがくのとも傑作集として1989年に出版された『かがくのとも版 きゅうきゅうばこ』(山田真/文 柳生弦一郎/絵)が、当時とけがの処置法が大きく変わってきたことを受けて、書き直され『かがくのともの きゅきゅうばこ 新版』としてリニューアルされました。

1989年出版の『かがくのとも版 きゅうきゅうばこ』

かがくのとも版 きゅうきゅうばこ (かがくのとも絵本)
山田 真
福音館書店
1989-03-25
 
 
 
 
この度、出版された新版『かがくのともの きゅうきゅうばこ』
きゅうきゅうばこ 新版 かがくのともの (かがくのとも絵本)
やまだ まこと
福音館書店
2017-02-01

 

 

2冊を並べて読み比べてみると、やけどの処置では、旧版は「みずぶくれは だんだん ちいさくなって なおることもあるし、やぶれることもある。やぶれたら うむといけないので、びょういんへいこう。」というところが、新版では「みずぶくれになっていたら、やぶって ひふくざいを はっておく。」に書き換えられています。

すりきずの処置では、旧版は「すいどうで よく あらいながしておこう。そのあと しょうどくして きれいな ガーゼをあてておけばいい。」、「すりきずは、たいしたことがないように みえても、けっこう なおりにくい。じくじく うんできたら、びょういんへ いこう。こうせいぶっしつの ついた ガーゼみたいなもので てあてしてもらえるでしょう。」というところが、新版では「すいどうで よく あらいながしておこう。そのあと ひふくざいか ラップを きずぐちに はっておけばいい。」、「すりきずは、たいしたことがないように みえても、けっこう なおりにくい。なんにちかして いたくなったら、うんだのかもしれないから びょういんへ いこう。」となっています。

それ以外にも巻末の「いえにおきたいきゅうきゅうセット」の内容が、旧版では「布ばんそうこう サージカルテープ 帯状ばんそうこう 殺菌消毒剤つきガーゼ 滅菌ガーゼ 殺菌消毒剤 粘着ほうたい 伸縮ほうたい 抗ヒスタミン剤 外傷殺菌消毒剤 副腎皮質ホルモン剤」となっていることろが、新版では「帯状ばんそうこう サージカルテープ 粘着ほうたい 伸縮ほうたい ハイドロコロイド被覆副腎皮質ホルモン剤 抗ヒスタミン剤 ペーパータオル 食品包装用ラップ タオル ハサミ 体温計 ペットボトルの水(傷口の汚れを流す)」となっており、この28年の間にずいぶん家庭での応急処置方法が変化してきたことがわかります。

後ろ見開きページに、この絵本の文章を書いた小児科医の山田真さんが、傷口を消毒しないで乾かさない治療法「うるおい療法」について、丁寧に説明をしてくださっています。

時代の変化に合わせて、絵も新たに描きなおされています。

知識の本は、新しい知見が出てきたときには、それに基づいた改訂が必要になります。2015年には『せいめいのれきし』(バージニア・リー・バートン/作 石井桃子/訳 岩波書店)が、科学者の監修のもと、改訂されています。(本のこまどでの紹介記事→こちら

長く都立多摩図書館などで児童図書館員として勤められた杉山きく子さんは、著書『がんばれ!児童図書館員』(本作り空Sola 2014、この著作は2016年東京子ども図書館から再刊されています)の中で、「ノンフィクションは、書かれた時点でもっとも新しい事実や知見をとりあげているのは当然だが、たいせつなのは対象に対する著者の姿勢や情熱である。最先端の知識を羅列しただけの新しい本よりも、内容は最先端でなくても、テーマに対する著者の愛情や情熱を感じられる本こそが、子どもにはふさわしい。また、学問は常に新しい研究によって進歩発展していることを示唆する姿勢も必要である。」(第2章 子どもの本をしるために 「ノンフィクション 知識の本」の項目より p65)と、述べられています。
 

がんばれ!児童図書館員
杉山 きく子
東京子ども図書館
2016-05-30
 
 
 

 

今回のこの改訂には、作者である山田真さんと柳生弦一郎さんの新しい知見を子どもたちへ伝えたいという思いを感じることができます。子どもたちに人気の著作だからこその、新版の意味を受け止めながら、図書館でも差し替えてあげてください。なお、旧版も廃棄せずに、子どもたちが比較して読めるようにしておくのもよいでしょう。

(作成K・J)

2016年12月、2017年1月の新刊本から


 

2016年12月、2017年1月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの本を紹介します。(一部2016年11月下旬発行のものあり)

また、ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。すべての新刊本を購入して読むことはできませんが、教文館ナルニア国の新刊本コーナー、クレヨンハウス新刊本コーナーなどにある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。

 (なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

 

【絵本】
 
 『まんまん ぱっ』長野麻子/作 長野ヒデ子/絵 童心社 2016/11/20
まんまん ぱっ! (とことこえほん)
長野 麻子
童心社
2016-11-20
 
 長野麻子さん、長野ヒデ子さん母娘による二作目の絵本です。「まんまん ぱっ」「ぱいぱいぱい」「ぐるぐるぐる~ん」など赤ちゃんが喜ぶオノマトペ(擬音語、擬態語)と、パステルの柔らかい線画が楽しい1冊です。耳から聞こえるリズミカルな音にちいさな赤ちゃんも喜ぶことと思います。

 
『フローレンス・ナイチンゲール』デミ/作 さくまゆみこ/訳 光村教育図書 2016/12/20 
デミ
光村教育図書
2016-12

 「近代看護教育の母」と呼ばれるナイチンゲールの伝記絵本です。1820年生まれのフローレンスは、大変裕福な家庭で育ったにも関わらず、貧しい人のために尽くしたいという篤い信仰心をもって、看護婦になる決意をします。実際に看護婦になると患者たちが置かれている劣悪な環境を改善すべきだと提案し、その改革を実践します。従軍看護婦としてクリミア(今のトルコ)戦争の陸軍病院でも働き、ここでも改善するための報告書を作成し、女王にも訴えかけます。先を見通す力、実行に移す力を持っていたフローレンスの働きは、多くの人々に影響を与えます。のちに国際赤十字を設立したアンリ・デュナンもその一人でした。女性としての細やかな配慮をしつつ、大事なことは譲らず実行した姿は、この絵本に出会う子どもたちにも勇気を与えてくれることでしょう。本の表紙画像は出版社のサイトへ→こちら

『だるまちゃんしんぶん』加古里子/作 福音館書店 2016/12/25

 「だるまちゃんしんぶん」は、子どものための新聞。「はるのごう」「なつのごう」「あきのごう」「ふゆのごう」の4枚がポケットに入っています。連載されているのは「せかいびっくりニュース」や「にっぽんきせつニュース」「まちやむらあちこちニュース」などです。やまんば山でのお花見や、沖縄のキジムナちゃんやカッパちゃんに出会った話など創作話の一方で、夏の星座や冬の天気など科学的な記事もあって加古ワールド満載です。新聞の下のほうに季節の植物や生き物が帯状に描かれていたり、季節の遊びが掲載されていたり、読んでいて楽しくなるばかりです。


『ちっちゃなえほん ちっちゃなちっちゃなものがたり―ジェイコブズのイギリス昔話集より―』瀬田貞二/訳 瀬川康男/絵 福音館書店 2017/1/15 

2016年は瀬田貞二生誕100年の年でした。それを記念して出版されたさまざまな作品のうちの1冊です。「ちいさなちいさなおばあさん」などとしてイギリスの昔話で有名なお話を、瀬田貞二さんの訳に瀬川康男さんの意匠による絵で魅せてくれる文字通り小さな(12.8cm×10.6cm)の絵本です。この絵本は1995年にピンク色の横長の絵本(21.2cm×15.2cm)として出版されていましたが、今回は「母の友」1972年4月号掲載の豆本をもとに一回り以上小さくなって、まったく別の絵本として出版されました。素話で語られることの多い昔話ですが、愛蔵版として手元にあると嬉しい1冊です。
 

『おなかのかわ』瀬田貞二/再話 村山知義/絵 福音館書店 1977/4/1第1刷 2017/1/15第16刷(瀬田貞二生誕100年記念出版)

おなかのかわ (こどものとも絵本)
瀬田 貞二
福音館書店
1977-04-10

 ねことおうむが互いに食事に招待し合います。ところが、けちで食いしん坊のねこは、おうむの出してくれたごちそうを平らげてもまだ満足できず、おうむを飲み込み、次々出会ったものを飲み込んでいきます。デンマークの民話「ふとっちょねこ」「ついでにペロリ」にとても似たお話です。しばらく品切れになって手に入らない絵本でしたが、この度瀬田貞二誕生100年記念として限定復刊されています。図書館の蔵書が古くなって買い替える必要がある場合は、この機会にぜひ購入しましょう。

 
『いたずらおばけ』イギリス民話 瀬田貞二/再話 和田義三/画 福音館書店 2017/1/15(瀬田貞二生誕100年記念出版) 

 月刊絵本「こどものとも」1978年2月号として出版されたものを、瀬田貞二生誕100年記念出版としてハードカバー化した絵本です。貧しいけれど陽気な一人暮らしのおばあさん。ある日道端に金貨がたくさん詰まった壺をみつけます。「これがあれば女王さまみたいに働かずに贅沢ができるわ」とショールでしばって引きずって帰る途中、立ち止まると銀に変化してしまいます。「ああ、夢見てたのね。銀でよかったわ」とまた引っ張っていくと、ただの鉄の塊になり、ただの大きな石になっていきます。おばあさんは、「ああ、夢見てたのね。これで十分」と思うのです。いよいよ大きな石を木戸の留め石にしようとすると、それはいたずらが好きなおばけだったのです。おばあさんはおばけに怒ることもなく「いたずらおばけが見られたなんて、なんて運がいいんだろう」と喜んでやすらかに休むというお話です。何事も前向きにとらえるおばあさんに読んでもらうほうも、楽しくなってくる、そんな絵本です。

 

 『なにたべているのかな?(はなしかけえほん)』とよたかずひこ/作 アリス館 2017/1/25

なにたべているのかな? (はなしかけえほん)
とよた かずひこ
アリス館
2017-01-25

 「ももんちゃん」シリーズなど、小さな子どもたちが大好きなたくさんの絵本を作っているとよたかずひこさん。子どもとやりとりをしながら楽しめる絵本を作りたいと「はなしかけえほん」のシリーズを刊行されることになりました。その1冊目が『なにをたべているのかな?』です。先日、クレヨンハウス「子どもの本の学校」でとよたかずひこさんの講演を聞きました。テキストに捉われることなく、子どもたちの反応を見ながらいっぱい話しかけてほしいということでした。3月に『だれかな?だれかな?』、7月に『ゆびさしなあに?』が、このシリーズで出る予定です。初めての子育てでどんな風に子どもに話しかけたらいいのか緊張するという若い親たちにも、ぜひおすすめしたいですね。

 

【研究書】

 『ぼくの絵本美術館 新装版』堀内誠一/著 マガジンハウス 2016/12/14

ぼくの絵本美術館 新装版
堀内 誠一
マガジンハウス
2016-12-14

 1998年に出版された本の新装版です。堀内誠一が生前福音館書店の月刊誌「こどものとも」「母の友」「かがくのとも」や盛光社の「月刊 絵本」や「別冊太陽」などに掲載されていた絵本に関するエッセイをまとめたものです。ラスコーの壁画から始まり、ブーテ・ド・モンヴェルなど19世紀の絵本、コールデコットの絵本などについて語る文章は、美術への深い造詣とともに「子どもに」という視点が明確にあって、読み応えがあります。堀内誠一の絵本への理解も深まることでしょう。 

 

 『子どもの本のよあけ―瀬田貞二伝』荒木田隆子/著 福音館書店 2017/1/15

子どもの本のよあけ―瀬田貞二伝 (福音館の単行本)
荒木田 隆子
福音館書店
2017-01-11

 瀬田貞二担当の福音館書店の編集者として、その晩年の仕事『落穂ひろい―日本の子どもの文化をめぐる人びと』に向かう姿を身近に見てきた荒木田隆子さんによる瀬田貞二伝です。荒木田さんは、瀬田貞二亡き後、その足跡を辿りながら『絵本論―瀬田貞二子どもの本評論集』、『児童文学論―瀬田貞二子どもの本評論集』をまとめあげられました。この本は2013年5月~2014年1月までの5回にわたり東京子ども図書館主催の講座「瀬田貞二氏の仕事」での講演録をもとにしたものです。分厚い著作ですが、講演の際の語り口調そのままになっているので、とても読みやすく、一気に読めてしまいます。この1冊を通して日本の子どもの本の歴史を知ることができ、自分が子ども時代に親しんだ本が生まれてきた背景も知ることができます。前述の3冊の瀬田貞二の評論集とともに、子どもの本について学ぶ人には必読の1冊です。

 

【その他】

『だるまちゃんと楽しむ 日本の子どものあそび読本』加古里子/著 福音館書店 2016/12/25

 まえがきに加古里子さんご自身が「昭和42年(1967年)に出した『日本伝承のあそび読本」を新しくしたものです。(中略)しかし、50年もたっている現在、子どもたちの成長と未来にふさわしい内容、題材、記述になるよう選びなおし、書き改めました。」と記しているように、日本の伝統的なさまざまな遊びが全部で7項目109種類掲載されています。絵も新しく描きなおされ全ページカラーのイラストが、遊び方を丁寧に伝えてくれています。ここに紹介されている草花を使った遊びや、折り紙、あやとりや外遊びなど、子どもたちの創造性を引き出す数々の遊びを、積極的に伝えていきたいと思います。

 

 『少年少女のための文学全集があったころ』松村由利子/著 人文書院 2016/7/10初版第1刷 2017/1/10初版第2刷

少年少女のための文学全集があったころ
松村 由利子
人文書院
2016-07-26
 
昨年夏に出版された時には見落としていた1冊です。1月に増刷されました。この本の著者は子ども時代にたくさんの子どもの本に出会ってきた元新聞記者です。著者紹介を見ると私と同年代。私も子ども時代にほんとうにたくさんの子どもの本に出会ってきました。その中には岩波少年文庫もあれば「少年少女文学全集」の中の本もありました。このエッセイを読んでいて、本に出会うことによって心豊かな子ども時代を過ごせたのだと、瀬田貞二さん、石井桃子さんなど当時子どもの本のために尽力された方々に改めて感謝したくなりました。
 
 

 『さてさて、きょうのおはなしは・・・・・・日本と世界のむかしばなし』瀬田貞二/再話・訳 野見山響子/画 福音館書店  2017/1/15

さてさて、きょうのおはなしは・・・・・・ 日本と世界のむかしばなし (福音館の単行本)
瀬田 貞二
福音館書店
2017-01-11

 瀬田貞二生誕100年記念の一環として出版された「おはなし集」です。「かさじぞう」「ねずみじょうど」や「三びきのやぎのがらがらどん」「三びきのこぶた」など、絵本として出版されているものを含めて、日本の昔話18編、世界の昔話はイギリス7編、ノルウェー1編、ロシア2編の合計28のおはなしが収録されています。ご家庭ではお子さんに読んであげるおはなしとして、図書館員には語りのテキストとして最適です。

(作成K・J)

2016年10月、11月の新刊から(その2)


 

10月、11月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、クリスマスの本と、その他の本をいくつかを紹介します。(9月に出版された本も含む)

また、ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。すべての新刊本を購入して読むことはできませんが、教文館ナルニア国の新刊本コーナーなどにある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。

 (なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

 

クリスマスの新刊絵本

『きょうはクリスマス』小西英子/絵と文 至光社 2016/10

 クリスマスといえば「サンタクロース」が来る日というのが、宗教色のない行事としてのクリスマスのイメージでしょうか。イエス・キリストの降誕祭であるという意識は、多くの人にないのかもしれません。この絵本は、サンタクロースを追いかけて出かけた男の子は、それがお菓子屋さんの売り子だと知り、お手伝いをします。それから、教会の降誕劇に加わってクリスマスの意味を知ります。この降誕劇は、キリストの誕生のいきさつを劇にしたものです。教会学校やキリスト教の幼稚園などでクリスマスの時期に行われています。クリスマスは「イエス・キリストの誕生を祝う日」だと、知るきっかけになるといいですね。 


『そらとぶそりとねこのタビー』C・ロジャー・メイダー/作・絵 齋藤絵里子/訳 徳間書店 2016/10/13 

そらとぶ そりと ねこのタビー (児童書)
C.ロジャー メイダー
徳間書店
2016-10-13

ねこって袋や箱があると本能的に潜り込むもの。ねこのタビーはクリスマスイブにやってきたサンタのおじいさんのふわふわの靴下に惹かれて近づき、贈り物の入っていた袋の中に潜り込んでしまいます。おじいさんは気がつかないまま戻っていってしまいます。そんなわけでもう一度サンタのおじいさんが訪れることになるのです。絵本作家としては3冊目になるこの作品は、『まいごになったねこのタビー』の姉妹編。その他に灰島かりさん翻訳の『てっぺんねこ』(ほるぷ出版 2015)があります。 

 

『もみの木のねがい』エステル・ブライヤー/ジャニィ・ニコル/再話 おびかゆうこ/訳 こみねゆら/絵 福音館書店 2016/10/15

 南アフリカでシュタイナー教育に携わってきた母娘が、操り人形劇の脚本から絵本のために再話したおはなしです。もみの木は、自分のチクチクした葉が気に入らず、妖精に頼んでやわらかい葉に変えてもらいます。ところがヤギに食べられて裸木になってしまいます。その次に銀の葉、金の葉に変えてもらうのですが、やはり葉はすべてなくなってしまいます。元の葉っぱに戻ったとき、子どもたちが喜ぶクリスマスツリーになり、もみの木自身も幸せを感じるのでした。こみねゆらさんの絵が、優しく物語を語ります。

 

 『どうぶつたちのクリスマスツリー』ジャン・ウォール/作 レナード・ワイスガード/絵 こみやゆう/訳 好学社 2016/10/27

どうぶつたちのクリスマスツリー
ジャン ウォール
好学社
2016-10-18

森の中で動物たちがもみの木にクリスマスの飾りをつけています。猛獣も小さな動物もいっしょに手伝います。クリスマスの本当の意味は、イエス・キリストが人々の和解のためにこの世に現れたというところにあります。普段、敵対する者同士も、神の前に同じ創造されたものとして平等であり、互いに尊重しあうことが大切だ、というのがクリスマスにこめられたメッセージです。この絵本は、それを美しく具現化しているのだと感じました。ワイスガードの繊細で色彩豊かな絵にも注目です。

 

絵本

『カイとカイサのぼうけん』エルサ・ベスコフ/作・絵 まつむらゆうこ/訳 福音館書店 2016/11/10

カイとカイサのぼうけん (世界傑作絵本シリーズ)
エルサ・ベスコフ
福音館書店
2016-11-09
 
 エルサ・ベスコフ(1874~1953)はスウェーデンを代表する絵本作家です。『ペレのあたらしいふく』(小野寺百合子/訳 福音館書店 1976)や、『ちいさなちいさなおばあちゃん』(石井登志子/訳 偕成社 2001)などの代表作があります。この絵本は1923年に出版されましたが、これまで日本に紹介されていなかった作品です。森の中にカイとカイサという二人の兄妹が住んでいました。ふたりは家のそばに倒れている枯れ木でいつも遊んでいました。ある日、トムテの魔法で枯れ木がドラゴンになってしまいます。そこからふたりの冒険が始まります。ほかにもトロルの王さまが出てきたりと北欧の正統派ファンタジーになっています。
 
 
児童書

 

『ニット帽の天使―プロイスラーのクリスマス物語』オトフリート・プロイスラー/作 ヘルベルト・ホルツィング/絵 吉田孝夫/訳 さ・え・ら書房 2016/9

ニット帽の天使―プロイスラーのクリスマス物語
オトフリート プロイスラー
さえら書房
2016-09
 
大どろぼうホッツェンプロッツ』(中村浩三/訳 偕成社 1966)や『クラバート』 (中村浩三/訳  偕成社 1980)などの代表作があるプロイスラーのクリスマスの聖家族(幼子イエスとその両親)にまつわる7つの物語が入っている短編集です。舞台はキリスト教、なかでもカトリックの伝統宗教の根付くボヘミアです。ちょっとふしぎな7つの物語を通して、キリスト教の大切な行事であるクリスマスの意味を改めて知る機会にもなることでしょう。小学校3,4年生くらいからがおすすめ。
 
 

『ミスターオレンジ』トゥルース・マティ/作 野坂悦子/訳 平澤朋子/絵 朔北社 2016/9/30 

ミスターオレンジ
トゥルース マティ
朔北社
2016-10
 
舞台は第二次大戦中のニューヨーク。ライナス少年は6人兄弟の3番目。長兄のアプケが志願兵として出征することを誇りに思いますが、母親はそれを喜ぶことができません。ライナスは家業の八百屋を手伝う中で、画家であるミスターオレンジに出会い、想像力の大切さと、戦争の現実に気がついていきます。多感な少年の成長を描いた作品として評価され、2014年に全米図書館協会のバチェルダー賞を授賞しました。ミスターオレンジは、オランダ生まれの画家ピエト・モンドリアン(1872~1944)というオランダを代表する抽象画家で、第二次大戦中、ヨーロッパを離れてニューヨークで晩年を過ごします。この作品は2011年にオランダ・ハーグ市立美術館で開催されるモンドリアン展に合わせて執筆依頼されたとのこと。表紙絵にはモンドリアンの遺作となった「ヴィクトリー・ブギウギ」がデザインがされています。

 

『明るい夜に出かけて』佐藤多佳子/作 新潮社 2016/9/20

明るい夜に出かけて
佐藤 多佳子
新潮社
2016-09-21
 
 大学を1年休学し、両親と住む家を出て、コンビニでバイトする男子大学生の俺こと、富山。実は彼は「ジャンピング・ビーン」と「トーキング・マン」という名前(ラジオネーム)も持っているのです。そしてtwitter、ニコ生、ツイキャス、アメーバピグという現代のコミュニケーションツールや、そして実在する深夜放送「オールナイトニッポン」が登場します。そうしたSNSや深夜放送への投稿を通して緩やかにつながっていく人間模様を軽やかに描いたYA向けの作品。この作品について作者の佐藤多佳子さんご自身のブログ記事も興味深いです。→こちらこちら
 
 
 
『 ココの詩』高楼方子/作 千葉史子/絵 福音館書店 2016/10/10 

ココの詩 (福音館創作童話シリーズ)
高楼 方子
福音館書店
2016-10-05
 
1987年にリブリオ出版から出ていた 高楼方子さんのデビュー作『ココの詩』と、同じくリブリオ出版から出ていた児童文学作品『時計坂の家』、『十一月の扉』がこの10月に福音館書店に版権を移して出版されました。『ココの詩』は、高楼さんがフィレンツェに1年4ヶ月滞在していた時に、まるで物語が降ってくるように紡いだという作品です。金色の鍵を拾い上げたことで、小さな女の子になって自由に動くことができるようになった人形のココの、ふしぎな物語です。挿絵は高楼方子の実妹の千葉史子です。
 
 
 『時計坂の家』高楼方子/作 千葉史子/絵 福音館書店 2016/10/10

時計坂の家 (福音館創作童話シリーズ)
高楼 方子
福音館書店
2016-10-05
 
1992年にリブリオ出版から出版された作品です。夏休みにいとこのマリカに誘われて、汀舘にある祖父の家に行くことになった小6のフー子。時計塔のある坂道の途中にある古い屋敷には、不思議が満ちています。踊り場にある窓は別の世界につながっていて・・・行方不明になったという祖母の秘密に迫っていくフー子たち。少しミステリアスで幻想的な長編ファンタジーです。 こちらの作品の挿絵も千葉史子です。
 
 
『十一月の扉』高楼方子/作 福音館書店 2016/10/10

十一月の扉 (福音館創作童話シリーズ)
高楼 方子
福音館書店
2016-10-05
 
 中学二年生の秋に父親の転勤が決まった爽子。二学期の終わりまでは転校したくないと、偶然みつけた「十一月荘」に下宿させてほしいと申し出ます。ここは今で言うシェアハウスのようなところで大家の閑さん、小学生のるみちゃんと馥子さん母娘、建築家の苑子さんとの生活が始まります。その生活の中で爽子は「ドードー森の物語」を紡ぎ始めます。登場人物と物語の世界がオーバーラップしていく構成は、ぐいぐいと引き込んでいきます。こちらは表紙絵は千葉史子ですが、中の挿絵は高楼方子ご自身のものです。
 
 
 『クマのプー 世界一のクマのお話』A.A.ミルン原案 森絵都/訳 KADOKAWA 2016/10/31

クマのプー 世界一のクマのお話
ポール・ブライト
KADOKAWA
2016-11-02
 
A・A・ミルンの 『クマのプーさん』(石井桃子/訳 岩波少年文庫)が生まれて90年を記念して、その公式続編を4人の児童文学者が書き下ろした作品です。それぞれの作家が子ども時代に愛読し、あるいは研究をしてきました。そうして生まれた秋、冬、春、夏の4つの物語。どれもミルンが乗り移って書かせたような、懐かしい『クマのプーさん』の世界が広がっています。翻訳はやはりプーさんを愛してきた森絵都さんです。
 
 
 
研究書 
 
『児童文学論』リリアン・スミス/作 石井桃子、瀬田貞二、渡辺茂男/訳 岩波現代文庫 岩波書店
 
児童文学論 (岩波現代文庫)
リリアン・H.スミス
岩波書店
2016-10-19
 
 子どもの本に関わるすべての人にとってバイブルであり続けるリリアン・スミスの『児童文学論』(1964年)が文庫版になりました。箱入りの重々しい装丁から手軽に読める形にかわって、より多くの人の手に渡ることを嬉しく思います。石井桃子、瀬田貞二、渡辺茂男という戦後の子どもの本の歴史を創って来た方々に大きな影響を与え、そうやって作られた優れた子どもの本に私たちは育てられてきました。リリアン・スミスがこの本を著したのは1953年のこと。もう古びているように言う人もいますが、この60年の間に環境は大きく変化したものの子どもの成長の姿は時代が変化しても普遍的であり、子どもと本の基本的な関係は変わらないのです。今、読み返しても新たな発見があります。もちろん、私たちは時代の変化に合わせた子どもへのサービスを考えていかなければいけませんが、なにか迷った時に立ち返る拠り所として、この本を座右の書としてほしいと思います。
 
 
『アメリカの絵本―黄金期を築いた作家たち』(連続講座〈絵本の愉しみ〉1 吉田新一/著 朝倉書店 2016/11/25
 
アメリカの絵本 ―黄金期を築いた作家たち― (連続講座〈絵本の愉しみ〉 1)
吉田 新一
朝倉書店
2016-11-25
 
 立教大学、日本女子大学でイギリス児童文学について教えてこられた吉田新一先生がまとめられた連続講座〈絵本の愉しみ〉の第一巻です。19世紀末から始まり、1930年代~50年代にかけての開花期、50年代以降の黄金期にわけて、アメリカの絵本の歴史をひも解くテキストです。特に黄金期以降のマリー・ホール・エッツ、マーガレット・ワイズブラウン、エズラ・ジャック・キーツ、バーバラ・クーニー、マーシャ・ブラウン、そしてモーリス・センダックについて詳細に解説しながら、それらの作家の作品の魅力に肉迫するあたり、とても読み応えがあります。子どもの本の黎明期にいかに図書館の児童サービスが大きな役割を果たしたかについての記述も、私たちにとっては励みになるものでした。 
 
 
その他
 
『おいで子どもたち―初めて陪餐する子どもたちへ』斎藤惇夫/文 田中雅之/写真 日本聖公会 2016/10/31
斎藤 惇夫
日本聖公会
2016-10-31
『ガンバの冒険』などの著作がある斎藤惇夫さんが、キリスト教の洗礼を受けた子どもたちに向けた詩を書かれたものが1冊の本になりました。書影は→こちら。陪餐とはキリストの最後の晩餐に倣って、パンとぶどう酒を礼拝の中でいただく儀式です。キリスト教徒(クリスチャン)は日本の人口の1%と少数派ですが、その子どもたちだけのものにしておくにはもったいないので、ここで紹介させていただきます。クリスマスは、イエス・キリストの誕生を祝う日。キリスト教が子どもを大切にすることの意味がすっと理解できることと思います。
 
 
『未来のだるまちゃんへ』かこさとし/作 文春文庫 文藝春秋 2016/12

未来のだるまちゃんへ (文春文庫)
かこ さとし
文藝春秋
2016-12-01

2014年に文藝春秋からハードカバーで出版された絵本作家かこさとしさんの自伝が、文庫版になりました。表紙の絵もハードカバーの緑色の背景に大勢の絵本の登場人物に囲まれているかこさんの絵から、白地にだるまちゃんがすくっと立っているものに変わりました。また、文庫版のあとがきと、中川李枝子さんによる解説が付け加えられています。昭和20年(1945年)の敗戦が、かこさんの生き方を変え、子どもたちと寄り添う絵本作家としての歩みのスタートになったこと、戦後のセツルメント活動(詳しくは→こちら)で出会った子どもたちとの日々、絵本の創作についてなど絵本作家かこさとしの魅力が余すことなく記された1冊です。ロングセラー絵本『だるまちゃんとてんぐちゃん』(福音館書店 1967)は来年出版50周年。なぜ、かこさんの絵本が子どもたちの心を捉えるか納得です。

 (作成K・J) 

限定増刷! 赤羽末吉の絵本2冊


ちひろ美術館・東京で2016年11月9日(水)から2017年1月15日(日)まで開催中の赤羽末吉・中国とモンゴルの大地」展に合わせて、長く品切れになっていた絵本2冊がこの度限定増刷されました。

君島久子さんが中国の少数部族に伝わる昔話を再話して翻訳し、それに赤羽末吉が中国国内を取材して絵を描いた美しい絵本です。この時期にしか手に入らない絵本です。所蔵していない図書館では、購入のチャンスです。また所蔵していても、出版から月日がたち、経年劣化しているのであれば、この機会に買い換えて、また子どもたちに手渡してあげて欲しいと思います。

 

『チワンのにしき―中国民話』(おはなし創作絵本21)君島久子/文 赤羽末吉/絵 ポプラ社 1977年7月第1刷 2016年11月第13刷

理想郷を錦に織り込んだおばばでしたが、織り上がったと同時に風に飛ばされて仙女のもとへ。錦を取り戻しに2人の息子たちが出かけて行きますが、それぞれ諦めてしまいます。末の息子はさまざまな困難を乗り越えて、錦を取り戻すと・・・中国の南方、ベトナムの国境付近に住むチワン族に伝わる昔話です。流れるような大胆かつ繊細な赤羽さんの絵がとても美しい1冊です。

 

『あかりの花―中国苗族民話』肖甘牛/採話 君島久子/再話 赤羽末吉/画 福音館書店 1985年1月30日発行 2016年12月1日第9刷

段々畑で懸命に働くトーリンはある日ユリの花をみつけ楽しみに出かけていくようになりました。ある日、ユリの花が倒されているのを見て持ち帰り、石うすに上で育てます。十五夜の晩、トーリンのもとに美しい娘が現れます。娘と一緒に暮らし始めたトーリンは、暮らし向きが良くなると怠けるようになってしまいます。すると満月の夜金鶏鳥が現れ、娘をさらってしまうのです。このお話は、再び勤勉に仕事をするようになったトーリンのもとに娘が戻ってきるハッピーエンドです。赤羽さんは、「石うす」というものが実際にはどういうものなのか、物々交換をする市場がどのようなものだったのか、苗族の集落を訪れて取材を重ね、この絵を描いたとのことです。絵本の見返しから美しく趣向をこらしたこの作品をこれからの子どもたちにも手渡し続けて欲しいと思います。
 

(作成K・J)

2016年10月、11月の新刊から(その1)


10月、11月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの絵本いくつかを紹介します。

また、ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。すべての新刊本を購入して読むことはできませんが、教文館ナルニア国の新刊本コーナーなどにある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。クリスマスの絵本と、YA向けの本は、(その2)で紹介します。

 (なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

 

絵本

『おばあちゃんとバスにのって』マット・ラ・ペーニャ/作 クリスチャン・ロビンソン/絵 石津ちひろ/訳 すずき出版 2016/9/27 
おばあちゃんと バスにのって
マット デ・ラ・ペーニャ
鈴木出版
2016-10-01
 
ジェイは毎週日曜日、教会で礼拝をすませた後に、おばあちゃんと出かけるところがあります。それはスープ・キッチンと呼ばれるボランティア食堂です。このおばあちゃん、どんなことに対しても「良いところ」をさがす名人のようです。雨降りも植物には必要、スラム街でも美しいものは見つけられる、どんな人にも素晴らしいところがあると、折々に伝えてくれるのです。ボランティア活動も援助するというのではなく、そこにいる人々と時間と場所を共有するためで、とても自然体です。この絵本は2016年度のニューベリー賞(*)、そしてコールデコット賞(*)オナー賞のダブル受賞作です。
(*)ニューベリー賞:1922年よりアメリカ児童図書館協会が授与する、アメリカ合衆国における最も優れた児童文学の著者に与えられる賞
(*)コールデコット賞:1938年より同じく児童図書館協会が授与する、アメリカ合衆国におえる最も優れた絵本に与えられる賞。オナー賞はその次点作品に与えられる 
 
『シャクルトンの大漂流』ウィリアム・グリル/作 千葉茂樹/訳 岩波書店 2016/10/14 
シャクルトンの大漂流
ウィリアム・グリル
岩波書店
2016-10-15
 
1914年にイギリス帝国南極横断探検隊の隊長アーネスト・シャクルトンは、南極大陸を横断しようと隊員26名とともにエンデュアランス号に乗って出航します。しかし、南極大陸の手前で船ごと流氷の中に閉じ込められ、その後船が難破する不運に見舞われます。厳しい自然の中で、隊員たちが協力しながら苦難を乗り越え1917年に帰還するまでの大冒険を描いた作品です。色鉛筆で描いた絵は、とても繊細でありながらダイナミックで素晴らしく、2015年度のケイト・グリーナウェイ賞(*)を受賞しています。しかも作者はこの作品がデビュー作という25歳の青年です。同じ題材を扱った読物には千葉茂樹訳の『エンデュアランス号大漂流』(エリザベス・コーディー キメル/作 あすなろ書房 2000)もあります。
(*)ケイト・グリーナウェイ賞:1956年に英国図書館協会によって設立されたイギリスの絵本作家ケイト・グリーナウェイ(1846~1901)の名を冠した賞で、その年イギリスで出版された絵本のうち、最も優れた作品の画家に贈られる賞
 
 
 『わたしのそばできいていて』リサ・パップ/作 菊田まりこ/訳 WAVE出版 2016/10/20
わたしのそばできいていて
リサ・パップ
WAVE出版
2016-09-27
 
 アメリカにはライブラリー・ドッグがいる図書館があるのをご存知でしたか?字を読むのに困難を抱える子どもたちを、ライブラリー・ドッグがサポートします。この絵本の主人公、マディは字を読むのが苦手です。特に学校でクラスのみんなの前で音読をすると、クラスメートに笑われるので余計に緊張してしまうのです。そんなマディがライブラリー・ドックのボニーに出会い、ボニー相手に本を読むうちに、少しずつ自信をもって読めるようになっていきます。苦手なことを克服するために、静かに見守ってくれるボニーのような存在はとても大切なんだと感じます。
 
 
『ふたりはバレリーナ』バーバラ・マクリントック/作 福本友美子/訳 ほるぷ出版 2016/10/20 
ふたりはバレリーナ
バーバラ・マクリントック
ほるぷ出版
2016-10-25
 
ないしょのともだち』(ビバリー・ドノフリオ/文 福本友美子/訳 ほるぷ出版 2010)などの作品があるバーバラ・マクリントックの最新作です。2016年10月6日~11月27日まで銀座・教文館ナルニア国で原画展が行われていました。最終日にマクリントックさんのトークショーも聞いてきました。バレエを習い始めた女の子エマと、プリマバレリーナのジュリアのある一日が並行して描かれています。エマがその日、大きな劇場で見たバレエ公演のプリマがジュリアなのです。公演後、二人が出会うシーンが印象的です。バレエを習っている子どもたちにぜひ手渡してあげたい素敵な絵本です。 
 
 
『はじめてのオーケストラ』佐渡裕/原作 はたこうしろう/絵 小学館 2016/11/1 
はじめてのオーケストラ
佐渡 裕
小学館
2016-10-27
 
 こちらの絵本は世界的な指揮者・佐渡裕氏が、小学生になって初めてコンサートに行き感動を味わった我が子の体験をもとに、多くの小学生にもコンサートに足を運んでほしいと願い、書いた作品です。さまざまな楽器が響き合い、美しいハーモーニーになる様子を、はたこうしろうさんの絵が余すことなく表現しています。主人公のみーちゃんが初めてコンサートホールに行ったのはクリスマスシーズンで、演目はベートーベンの交響曲第九です。ちょうどこれからの季節におすすめできますね。佐渡裕氏の公式サイトからは、小学館の特集ページにリンクされており、インタビュー動画も見ることができます。こちら→佐渡裕オフィシャルファンサイト→「はじめてのオーケストラ
 
 
『パンタロンとケーキやさん』キャサリン・ジャクソン/作 レナード・ワイスガード/絵 こみやゆう/訳 好学社 2016/11/1
パンタロンとケーキやさん
キャサリン ジャクソン
好学社
2016-11-02

 1949年にイギリスで出版されたA Little Golden Bookシリーズの中の1冊として出版され、その後1951年にアメリカでも出版された絵本が日本で初めて紹介されました。翻訳はこみやゆうさん。ケーキが大好きなプードルのパンタロンが主人公。ケーキ屋さんのお手伝いがしたいのですが、ケーキ屋のベーカーさんに断られてしまいます。そんなパンタロンはベーカーさんが怪我でお休みの間、大活躍します。『あめがふるとき ちょうちょうはどこへ』(メイ・ゲアリック/文 岡部うた子/訳 1974 金の星社)や、『ちいさな島』(ゴールデン・マクドナルド/文 谷川俊太郎/訳 童話館出版 1996)の絵を描いたレナード・ワイスガードのふんわりとした素朴な絵が楽しい1冊です。 

 

『しろくまのそだてかた』うつみのりこ/作 飛鳥新社 2016/11/7

しろくまのそだてかた
うつみのりこ
飛鳥新社
2016-11-03
 
この絵本は、「子育ては大変だけど、お母さんになったときの喜びを思い出してと、ママ、パパ、おじいちゃん、おばあちゃんなど、子育てに関わるすべてのみなさんに読んで欲しいと願って、2005年に神戸でミニ絵本として誕生」したとのこと。私は10cm×14.5cmのミニ絵本をまず紹介してもらっていました。それが口コミで多くの読者に広がり、10年以上の月日を経て、この度書籍化されました。この絵本は、子どものためのというよりは、お母さんに向けてのメッセージ絵本です。子育てに疲れたママたちが、ホッとできる場所を図書館でも提供できるといいですね。 

 

『かぜ』イブ・スパング・オルセン/作 ひだにれいこ/訳 亜紀書房 2016/11/7 
かぜ
イブ・スパング・オルセン
亜紀書房
2016-10-25
 
 『つきのぼうや』(やまのうちきよこ/訳 福音館書店 1975)というデンマークのロングセラー絵本の作者、イブ・スパング・オルセンが、「風」について丁寧に描いた絵本です。絵本の形をとっていますが、文字が小さく字数が多いので、ちいさなお子さんはご家庭で読んでもらったり、小学低学年のお子さんは自分で読むのにちょうどよいでしょう。「風」といっても、そよ風もあれば、温かい南風もあり、暴風もある、そんな身近な風について姉と弟が会話しながら展開していく絵本です。
 

 (作成K・J) 

『明日の平和をさがす本300』ブックガイドをぜひ座右に


幼児から多感なYA世代を対象に、手渡したい「戦争と平和」について考えるための本のガイドとして、『明日の平和をさがす本300―戦争と平和を考える 絵本からYAまで』(宇野和美/さくまゆみこ/土居安子/西山利佳/野上暁/編著 岩崎書店 2016/11/30)が、出版されました。

本の帯に「公共図書館・学校図書館・図書ボランティア必携!」という文字が踊りますが、内容を見るとそれが大げさな表現でないことがよくわかります。編集委員の5人は、子どもの本の翻訳や編集に携わったり、児童文学を研究し子どもの本の評論をされている、信頼できるプロです。それに加えて、図書館や学校図書館の司書として、書店員として子どもたちに本を手渡す仕事をしている方々、SEALD’s選書「“今”を生き抜くための102冊」選書に携わった方、安保法案に反対するママの会事務局の方など、多彩な21名が執筆者として名前を連ね、今、子どもたちに何をどのように伝えるべきかを真摯に考察し、選書していったことがわかります。

明日の平和をさがす本 戦争と平和を考える絵本からYAまで300
宇野 和美
岩崎書店
2016-11-18
 
 (アマゾンでの配本は2016年11月18日になっていますが、本の奥付の出版年は2016年11月30日です)
 
このブックガイドの特筆すべき点は、掲載されている本が2000年~2016年9月までに出版されたものであること、幼児からYA世代まで年齢に応じて手渡せる本が網羅されていること、絵本、創作文学、そしてノンフィクション、マンガとジャンルも様々であること、巻末に本の舞台となった地域の地図(世界と日本)、時代年表などの資料も充実していることです。
また、各紹介文は1冊に1ページで、読者対象年齢、時代背景、キーワードなどがひと目でわかる表示になっており、使いやすい作りになっています。
 
もうひとつの特徴は、章ごとのコラム記事です。ここでは過去に出版された戦争と平和をテーマにした本の評論や、2000年以前に出版された本で、これからもずっと手渡し続けていきたい作品の紹介などが書かれています。
 
「はじめに」で、野上暁氏が
“日本は、1945年8月15日に、アメリカやイギリスなどの連合国を敵に回した戦争に負けて以来、一度も戦争をしていません。310万人ともいわれる、尊い犠牲者を出した反省から、憲法で戦争をしないと決めたからです。その後、世界の国々と友好関係を築き、平和が続いてきたことで経済も発展し、戦争の荒廃から立ち直し豊かな暮らしを実現できました。
 ところが、それから70年以上もたつと、戦争の悲惨な記憶がうすれ、近隣の国々を侵略したことへの反省もなく、憲法の精神をないがしろにして、戦争ができる国に変えようとする力が強まってきています。世界の各地で、いまも戦争や紛争が起こっていますから、いつまた日本がそれに関わらないとも限りません。
 子どもの本に関わる私たちは、将来にわたって戦争の悲劇を子どもたちに味わわせることを断じて避けたいと願います。”(p3)
と、記しておられます。
 
 私たちの平和な暮らしは当たり前のものではなく、先の戦争をこえて獲得したものであることを痛感します。そして私たちは、子どもたちに平和な世の中をも未来永劫手渡していくんだという決意をもって、彼らが本を通して自分たちとは違う文化があることを理解し、また人と人が信頼をし合うことの大切さを学び、さらに、現在、困難な状況にある人々へ共感の気持ちを抱けるよう事実も知らせていけるよう、本を選書し、手渡していく必要があります。このブックガイドは、その際の道しるべになると思います。

第1章 戦争ってなんだろう?
第2章 生きるための冒険
第3章 声なきものたちの戦争
第4章 子どもたちの体験
第5章 絵のちから 音楽のきぼう
第6章 伝える人 語りつぐ意志
第7章 勇気ある決断 未来への思い
第8章 平和をつくるために
(作成K・J) 

2016年9月、10月の新刊から(11/2追記あり)


  9月、10月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの本いくつかを紹介します。一部、これまでに見落としていた8月の作品も含まれています。

また、ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。すべての新刊本を購入して読むことはできませんが、教文館ナルニア国の新刊本コーナーなどにある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。YA向けの本は、読み終わるのに時間がかかっています。11月のまとめて紹介します。

 (なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

絵本

『プーさんとであった日』リンジー・マティック/文 ソフィー・ブラッコール/絵 山口文生/訳 評論社 2016/8/20

プーさんと であった日: 世界で いちばん ゆうめいな クマの ほんとうに あった お話 (児童図書館・絵本の部屋)
リンジー マティック
評論社
2016-08-27

 

今年コールデコット賞を受賞した作品です。A・A・ミルンの書いた『くまのプーさん』(石井桃子/訳 岩波書店)を知らない人はいないと思いますが、そのプーさんにモデルになったクマがいたのです。カナダ人獣医師が1914年夏に第一次世界大戦の従軍医師としてイギリスに渡った時に連れて行った子グマが、ロンドン動物園に預けられました。そのクマは獣医師の出身地ウィニペグにちなんでウィニーと名付けられます。そして戦争の終わった1925年、ミルンの息子クリストファー・ロビンは動物園でウィニーに会います。そこで、クリストファー・ロビンは自分のクマのぬいぐるみに「ウィニー・ザ・プー」と名付けるのでした。そんな事実をもとに、獣医師の孫にあたるリンジー・マティックがこの絵本の文章を書きました。巻末には写真資料もあり、サブタイトルに「世界でいちばんゆうめいなクマのほんとうにあったお話」とあるように、ノンフィクションであることがわかります。

 

『お月さまのこよみ絵本-旧暦で行事をたのしむ-』千葉望/文 阿部伸二/絵 理論社 2016/8

お月さまのこよみ絵本
千葉 望
理論社
2016-08-20
 
 日本古来の年中行事、例えばお正月やお月見、お盆などは、旧暦(太陰暦)で行われてきました。新年は必ず新月で月がないところから一年が始まります。お盆は旧暦の7月15日に行われ必ず満月になります。晴れた夜に提灯がいらないほどの明るさに照らされて夜通し踊ったことでしょう。太陽暦の中に無理やり年中行事を当てはめるために中秋の名月が毎年変わったりしていることなどもわかります。この絵本を通して、月の満ち欠けと昔の人が営んできた暮らしに思いを馳せて欲しいと思います。併せて『月の満ちかけ絵本』(大枝四郎/文 佐藤みき/絵 あすなろ書房 2012)や、『夜空をみあげよう』(松村由利子/文 ジョン・シェリー/絵 福音館書店)も紹介するとよいでしょう。 

 

 『おばあちゃんのあかいマント』ローレン・カスティーヨ/作 たがきょうこ/訳 ほるぷ出版 2016/8/25

おばあちゃんのあかいマント (海外秀作絵本)
ローレン・カスティーヨ
ほるぷ出版
2016-08-27

おばあちゃんは都会に引っ越していきました。まごのぼくが初めておばあちゃんのところへ泊まりに行きます。都会の雑踏にひるんでいるぼくにおばあちゃんはあかいマントを編んでくれます。マントを羽織ると、なんだか勇気が湧いてきて、おばあちゃんの大好きな都会の生活をあちこち覗いてまわることができました。おばあちゃんにとって、たくさんの刺激がある都会の暮らしが向いているんだなあと、その思いを共有して成長していく姿を、秋らしい色彩とともに描いた絵本です。コルデコット賞オナーブックに選ばれている絵本です。 

  

 『ひまなこなべ アイヌのむかしばなし』萱野茂/文 どいかや/絵 あすなろ書房 2016/8/30

ひまなこなべ アイヌのむかしばなし
萱野 茂
あすなろ書房
2016-08-31

 アイヌのむかしばなしが絵本になりました。アイヌに伝わるイオマンテ(熊送り)の儀式が題材になっています。カムイ(神)は、熊の姿になって人々のもとにやってきて、肉や毛皮をもたらします。それに感謝を捧げるために人々は歌って、踊り、ユカラとよばれる物語を語ります。アイヌの人々にとって自分たちの生活を豊かにしてくれる動物たち、とりわけ熊は信仰の対象であったのです。またこのおはなしには、普段家の人に丁寧に使ってもらっている小さなおなべが、神様となって出てきます。身の回りのものすべてに神が宿ると信じて大切に扱ったアイヌの人々の暮らしが昔話になっています。

 

『りゅうおうさまのたからもの』イチンノロブ・ガンバートル/文 バーサンスレン・ボロルマー/絵 津田紀子/訳 福音館書店 2016/9/15

りゅうおうさまのたからもの (世界傑作絵本シリーズ)
イチンノロブ・ガンバートル
福音館書店
2016-09-14

鳥に捕まえられたちいさな川魚を助けてあげた男の子が、そのお礼に竜王のもとに連れて行かれるところからはじまるモンゴルの昔話です。草原地帯であるモンゴルにこれほど豊かな水に関する昔話があると知って驚きました。それだけ草原での放牧に水の存在が大切だということでしょう。ガンバートル氏とボロルマーさんはご夫妻で、ともにモンゴル文化芸術大学美術学部卒。ウランバートル大学大学院修士課程修了の翻訳者津田さんとは、昨年出版された『トヤのひっこし』(福音館書店)という作品でも仕事をしています。

 

『まどべにならんだ五つのおもちゃ』ケビン・ヘンクス/作・絵 松井るり子/訳 徳間書店 2016/9/30

まどべに ならんだ 五つの おもちゃ (児童書)
ケビン ヘンクス
徳間書店
2016-09-10

 まどべに飾られた小さなお人形たちがなんとも愛らしい絵本です。なにか特別なことが起きるわけでもなく、淡々とまどべの人形たちは窓の外で起きることをじーっとみつめています。このまどべに最後に仲間入りしたのは、ねこの形のマトリョーシカ人形。さてこの人形はなにをまっているのでしょう。こちらもコールデコット賞オナーブックに選ばれた作品です。

 

『あくたれラルフのハロウィン』ジャック・ガントス/作 ニコール・ルベール/絵 こみやゆう/訳 PHP研究所 2016/9/30

あくたれラルフのハロウィン
ジャック・ガントス
PHP研究所
2016-09-17

あくたれラルフ』(石井桃子/訳 童話館出版 1994)の続編として、こみやゆう氏が翻訳した『あくたれラルフのたんじょうび』(2010)、『あくたれラルフのクリスマス』(2013)(いずれもPHP研究所)の続編として、この秋のハロウィンに向けて出版された1冊です。お友達からハロウィンのパーティーに招待されたセイラは「あなたがいちばんすきなものにへんそうしてきてね」という呼びかけにラルフになって出かけます。ラルフはその逆にセイラに変装します。さて、パーティではセイラになったラルフがいつもの通りにいたずら三昧。セイラはどうなってしまうのでしょう。ちょっぴりハラハラドキドキする絵本です。

 

『七五三だよ 一・ニ・三』長野ヒデ子/作・絵 佼成出版社 2016/10/30

七五三だよ 一・二・三
長野ヒデ子
佼成出版社
2016-10-10
 
長野ヒデ子さんによる七五三の絵本が出来ました。どうして女の子の三才と七才、男の子五才でお祝いをするのか、そのいわれを子どもにもわかりやすく伝えてくれます。この絵本では姉弟妹がちょうど七五三の年齢で、祖父母もいっしょにお参りをしてお祝いをします。子どもの成長を願う七五三の行事がこれからも長く続いて欲しいと思いました。
 
その他
 
『大人に贈る子どもの文学』猪熊葉子/作 岩波書店 2016/8/31
大人に贈る子どもの文学
猪熊 葉子
岩波書店
2016-08-31
 
今年88歳を迎えられたイギリス児童文学者であり、翻訳家でもある猪熊葉子さんが、どうしても書き残しておきたいと書かれた本が出版されました。猪熊さんの子ども時代は裕福な家庭であったにもかかわらず、母親との確執があって決して幸せではなかったとのことですが、そのような子ども時代に出会った本が猪熊さんを支えたと「おわりに」に書かれています。本の世界で出会った主人公たちとともに困難を乗り越えることによって、自分の人生を肯定できる力になったというのです。そして「自分の人生にイエスといえる幸福」を、次の世代にも手渡してほしいと願っていらっしゃいます。子どもたちに本を手渡す私たちにとって、背筋がしゃんとなるメッセージです。

(作成K・J)

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