新刊本・話題の本

子どもに本を手渡す人にぜひ読んでほしい2冊
2017年4月の新刊本より(追加)
2017年3月、4月の新刊から
2017年2月、3月の新刊から
『きゅうきゅうばこ』の新版が出ました。
2016年12月、2017年1月の新刊本から
2016年10月、11月の新刊から(その2)
限定増刷! 赤羽末吉の絵本2冊
2016年10月、11月の新刊から(その1)
『明日の平和をさがす本300』ブックガイドをぜひ座右に
2016年9月、10月の新刊から(11/2追記あり)
2016年8月、9月の新刊から
東京子ども図書館から『ブックトークのきほん―21の事例つき』が出版されました
オバマ大統領のスピーチが本になりました
2016年6月、7月の新刊から

子どもに本を手渡す人にぜひ読んでほしい2冊


今年1月に出版されていながら、手に取るのが遅くなって紹介しそびれていた本が2冊あります。

1冊は子どもの本を専門にする出版社、福音館書店を作り上げてこられた松居直氏の絵本づくりへの篤い思いを膨大なインタビューの中からまとめあげた藤本朝巳著『松居直と絵本づくり』で、もう1冊は長く家庭文庫活動をされた後、54歳の時(1994年)にイギリスに留学し、6年間ヴィクトリア時代の絵本研究をされた当時の様々な記録をまとめた正置友子著『イギリス絵本留学滞在記ー現代絵本の源流ウォルター・クレインに魅せられてー』です。

 

『松居直と絵本づくり』藤本朝巳/著 教文館 2017/1/30

松居直と絵本づくり
藤本 朝巳
教文館
2017-01-25

白百合女子大学大学院に児童文学を学ぶ博士課程が開設された時、男性でありながら院生として迎えられた著者が、講師と院生として出会った福音館書店編集者の松居直氏に絵本や絵本の編集について多くのことを聞き取り記録されたことを1冊にまとめられました。膨大なインタビューの内容は、実は2012年から2014年にかけて、ミネルヴァ書房からシリーズ・松居直の世界として3冊出版されたいます。(『松居直・自伝ー軍国少年から児童文学の世界へ』2012/1/20刊、『松居直と「こどものとも」』2013/7/20刊、『翻訳絵本と海外児童文学との出会い』2017/7/15刊)
そのシリーズとは別の形で、しかも大変読みやすいコンパクトな形で、手に出来ることは、私たち、子どもたちに本を手渡すものにとってはありがたいことです。
戦後日本の絵本を語る時に、松居直氏と福音館書店の月刊「こどものとも」を避けて語ることはできません。この本を読むことによって、長く読み継がれている絵本が、編集者のどのような篤い思いから作られて来たのか、その一端を知ることができるでしょう。

第1部「こどものとも」の編集と松居直
第2部 松居直と名作絵本作り
第3部 松居直とともに絵本を作った人々
第4部 ロングセラーと新しい絵本

以上の4部構成となっており、私たちがよく知っている作品や作者についてわかりやすく解説されているので、親しみをもって読むことができます。
創刊当時から子どもに手渡す本であるからこそ、芸術性の高い絵本づくりを目指した「こどものとも」と松居直氏の姿勢は、デジタル時代を迎えた現代の子どもたちにどのような絵本を手渡していくのか、残していくのかを考えるのにも多くのヒントを与えてくれます。


『イギリス絵本留学滞在記ー現代絵本の源流ウォルター・クレインに魅せられてー』正置友子/著 風間書房 2017/1/31

イギリス絵本留学滞在記
正置 友子
風間書房
2017-02-13
 
著者の正置友子氏は、大学卒業後結婚され、子育ての傍ら、大阪千里ニュータウンで家庭文庫(青山台文庫)活動をずっと続けてこられています。子どもたちに直接本を手渡す活動をする中で、絵本についてもっと学びたい、絵本の歴史について深く研究したいと考え、古今の絵本の蔵書があり、絵本という芸術について造詣の深い研究者のいるところとしてイギリスへ留学します。その時点で、著者は54歳になっており。自分のお子さん達は成人していました。
イギリスでは、ウォルター・クレイン(1845~1915)の絵本に出会い、その運命的な出会いからヴィクトリア時代(1837~1901)の絵本の歴史を研究し、6年後に1千ページに及ぶ英文と900枚の図版入りの博士論文にまとめられました。それが、ヴィクトリア時代の絵本研究として世界で初めての本格的な研究であり、子どもの本の優れた歴史研究であると認められイギリスの子どもの本歴史協会から2008年に「ハーベイ・ダートン賞」を授与されました。
イギリスでの生活のこと、出会った人々のことなど、留学中のさまざまなエピソードが盛りだくさんで読み物として面白く、一気に読んでしまいました。
その中で、一番心に残ったのは、ロンドンの新聞図書館で著者が見つけた新聞記事でした。今から150年前の1865年12月12日づけの出版業界新聞『ブックセラー』の中に記されている言葉です。

「本を制作するとき、子どもの本を作製するときほど、いっそうの熟練の技と、良いセンスに培われた細やかな配慮とが必要とされる分野はないであろう。にもかかわらず、このことは概してなおざりにされてきた。子どもたちにはまるでガラクタモノで充分だというふうに考えられている。なんというひどい間違いだ!もし可能であるならば、本当に美しいもの、純粋なもの、良いものだけが、子ども時代の感じやすい目と耳に提供されるべきである。」(「第4部 ヴィクトリア時代の絵本に魅せられて 第6章 児童文学史上重要な一八六五年 第1節 子どもたちには最高の絵本を手渡すべきであるー一八六五年十二月」p202)
 
 松居直氏が、「こどものとも」で目指した絵本づくりの目標が、すでに150年前のイギリスで掲げられていたこと、そしてヴィクトリア時代の絵本にはウォルター・クレインをはじめとして、そのような作品が生み出されていたことを、この本を通して再確認できました。
 
 この本の「おわりに」で、著者はイギリス留学中に、自分の母と父を相次いで天国へ見送ったことが記されていました。ロンドンとご実家のある名古屋を何度も行き来されたこと、父危篤の知らせを受けた時に英国航空がしてくれた粋な計らいを読んだ時には思わず涙がこぼれました。
 この本を手にすることによって、絵本の研究を志す若い世代が現れることを期待するとも記されています。絵本の研究分野には、文学にも芸術にもデザインにも保育学にも押し込めることのできない広さと奥行を内包しているとして、絵本学の構築を目指して、今また大阪大学の大学院で学んでいるという正置氏。女性の生き方、学び続けることの価値についても教えてくださっていると感じました。
 
この2冊の本は、子どもたちに本を手渡す活動をされている方々にはぜひ読んでほしいと思います。

(作成K・J)

 

2017年4月の新刊本より(追加)


4月の出版された本の中より、保護者・研究者向けの本2冊を紹介します。

(その他の本について、こちら→2017年3月、4月の新刊から

****************************

『深読み!絵本『せいめいのれきし』』真鍋真/著 岩波科学ライブラリー260 岩波書店 2017/4/13

1964年に石井桃子の翻訳で出版され長く読み継がれてきた『せいめいのれきし』(バージニア・リー・バートン/作 石井桃子/訳 岩波書店)の改訂版が、この本の著者真鍋真の監修で2015年7月に出版されました。(「本のこまど」での紹介記事→こちら)この絵本を子ども時代に何度も繰り返して読み、長じて科学者になった著者が解説する『せいめいのれきし 改訂版』の見どころ解説です。絵本の中に描かれていることをわかりやすい言葉で解説し、実際の写真なども添えるなど、読めば読むほど地球上の生命の歴史に興味がわき、もっと知りたいと思います。カラーの図版や、コラム記事などもたくさんあり、絵本の解説書としてだけでなく、この1冊だけでも十分に楽しめます。小学生高学年からYA世代、そして保護者まで多くの年代の人に手渡したい1冊です。この本は代官山蔦屋書店児童書コンシェルジュYさんのおすすめです。

 

『子どものアトリエ―絵本づくりを支えたもの』西巻茅子/著 こぐま社 2017/4/25

銀座・教文館9階ウェンライトホール(第2会場→6階ナルニア国・ナルニアホール)で5月28日まで開催中の「西巻茅子絵本デビュー50周年展」に合わせて出版された西巻茅子の初エッセー集です。50周年展の展示解説ボードに記された言葉が、そのまま1冊の本になって手元に置いておけることに感激しました。『わたしのワンピース』をはじめとして西巻茅子の絵本が子どもたちを魅了し続けるのか、そこに子どもの心に寄り添う作家の眼差しがあることに気がつきます。この展覧会を見に行く機会がない方も、西巻茅子の絵本に込められた思いを、この1冊を読むことで深く知ることができるでしょう。なお、展覧会は前期(~5月7日)と一部原画が入れ替えられ、後期展覧会として5月28日まで開催されています。機会があれば、ぜひ覗いてみてください。

(作成K・J) 

2017年3月、4月の新刊から


2017年3月、4月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの本を紹介します。(一部2017年1月および2月下旬発行のものあり)

また、ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。すべての新刊本を購入して読むことはできませんが、教文館ナルニア国の新刊本コーナー、クレヨンハウス新刊本コーナーなどにある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。

 (なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

 **********************************

【絵本】

 

『くろねこトミイ』神沢利子/作 林明子/絵 復刊ドットコム 2017/2/25

くろねこトミイ
神沢 利子
復刊ドットコム
2017-02-28

 1978年にひかりのくに社から出版された『おはなしひかりのくに くろねこトミイ』を底本に復刊された絵本です。1973年に福音館書店月刊かがくのとも『かみひこうき』でデビューした林明子さんが、神沢利子さんのお話に絵をつけていた比較的初期の作品です。仲良しのまこちゃんが知らないおじさんの車に乗り込んだと知ったくろねこトミイが、クロヒョウのごとく大きくなって、まこちゃん救出に向かいます。いつもはごろごろ甘えているトミイの凛々しい姿が、きっと子どもたちの記憶に残ったのでしょう。復刊希望が多く寄せられ復刊ドットコムから出版されました。
 
 
『猫魔ヶ岳の妖怪ー福島の伝説』八百板洋子/再話 齋藤隆夫/絵 福音館書店 2017/3/8

この本には、 福島に本当にあった話として伝わる四つの伝説が入っています。表題作の「猫魔ヶ岳の妖怪」は会津地方に伝わる伝説で、山に捨てられ、妖怪になってしまった猫と、退治を命じられた鉄砲うちの若者のふれあいと悲しい別れを描いています。その他に伊達市山舟生の伝説「天にのぼった若者」、福島市笹木野の伝説「大杉とむすめ」、福島市松川の伝説「おいなりさまの田んぼ」が収録されており、少し重いお話から、読みやすいお話までバラエティーに富んでいます。再話者の八百板さんは、福島県中通り出身です。ブルガリア・ソフィア大学留学経験があり、『吸血鬼の花よめ―ブルガリアの昔話』、『いちばんたいせつなもの―バルカンの昔話』、『ナスレディンのはなし―トルコの昔話』、『ほしをもったひめ―セルビアのむかしばなし』などバルカン半島各地の昔話を再話して出版しています。また留学体験記『ソフィアの白いばら』も書かれています。いずれも福音館書店刊です。機会があれば合わせて読んでみるとよいでしょう。 

 

『ぼくのおじいちゃん』カタリーナ・ソブラル/作 松浦弥太郎/訳 アノニマ・スタジオ 2017/3/12

ぼくのおじいちゃん
カタリーナ・ソブラル
アノニマ・スタジオ
2017-03-17

 人はかならず老いていきます。子どもたちにとって、老いるということがどんなイメージで捉えられるかは、その後の生き方にかかわる大切なことです。この絵本に描かれるおじいちゃんは、とても自然体で、さわやか。人生の時間を軽やかに楽しんでいます。歳を重ねるって素敵なことだなと、感じることでしょう。同じアパートメントに住む仕事に勤しむ現役のライトさんの生活を対比的に描いていて、忙しい勤務をリタイアした後の実り豊かな人生の日々をスマートに描いた絵本です。代官山蔦屋書店児童書売り場のコンシェルジュYさんに教えていただいた1冊です。

 
 
『ママのて』やまもとゆうこ/作 こぐま社 2017/4/15

ママのて
やまもと ゆうこ
こぐま社
2017-04-04

 小さな子どもにとって、ママの手ほど安心するものはないと思います。おにぎりを握ってくれる手、折り紙を折ってくれる手、お絵かきしてくれる手、お風呂で洗ってくれる手。この絵本ではママは手だけ描かれています。読んでもらった子どもたちは自分のママを思い描きながら聞くことができます。小さな子どもたちの読み聞かせにぴったりの絵本です。

 

【ノンフィクション絵本】

『ながいながい骨の旅』松田素子/文 川上和生/絵 桜木晃彦(宝塚大学教授)、群馬県立自然史博物館/監修 講談社 2017/2/23

ながいながい骨の旅
ながいながい骨の旅 [単行本]

松田 素子
講談社
2017-02-24

 『せいめいのれきし』のように、この地球上に生命が誕生してから現在までを時系列でわかりやすく説明する子ども向けの優れた本はこれまでもありましたが、この本は、特に「骨」に注目して作られた科学絵本です。いつ、「骨」が生物の中に生まれたのか、そしてそれはどのような役割を持っているのか、生物の進化に密接に影響を与えてきたのか、「骨」の進化の歴史を読み解くと、私たちの体が実に地球上の物質(ミネラル)を使って精巧に組み立てられていることがわかり、自然と生命のつながりを深く考える視点を与えてくれます。
 
 
 【児童書】
 
『ありづかのフェルダ』オンドジェイ・セコラ/作・絵 関沢明子/訳 福音館書店 2017/3/8 
ありづかのフェルダ (世界傑作童話シリーズ)
オンドジェイ・セコラ
福音館書店
2017-03-08

 チェコの子どもの本の黄金期(二つの大戦の間)に活躍したオンドジェイ・セコラ(1899~1967)の作品『ありのフェルダ』(2008)、『とらわれのフェルダ』(2011)の完結編がこの作品です。赤い水玉スカーフのはたらきあり「フェルダ」が登場するこのシリーズは、チェコでは知らない子はいないという長く読み継がれた作品です。この作品では、女王ありの産んだ卵から幼虫がかえり、さなぎから成虫になっていく様子を描いています。フェルダは、赤ちゃんありのためにミルクを出すアリマキを捕まえてきたり、お芝居をしたりと大活躍をします。そんな時に、大切なさなぎが盗まれる大事件が!この本も代官山蔦屋書店児童書コンシェルジュYさんにすすめていただきました。なお、2008年に国際子ども図書館では「チェコへの扉―子どもの本の世界」という展示会がありました。チェコの児童書のリストはこちらから見ることができます。→こちら

 
 
『河童のユウタの冒険 上』斎藤惇夫/作 金井田英津子/画 福音館書店 2017/4/15
『河童のユウタの冒険 下』斎藤惇夫/作 金井田英津子/画 福音館書店 2017/4/15
 
  

河童のユウタの冒険(下) (福音館創作童話シリーズ)
斎藤 惇夫
福音館書店
2017-04-12
 
『冒険者たち―ガンバと15ひきの仲間たち』(岩波書店)の斎藤惇夫氏が満を持して発表する長編作品です。下巻あとがきには、この作品を書くことに至った経緯が書かれています。それは今年1月に出版された荒木田隆子氏による『子どもの本のよあけ―瀬田貞二伝』の解説(『子どもの本のよあけ』p469)にも同様に書かれているのですが、瀬田貞二さんは、『指輪物語』の翻訳に取り組んでいたころに「我が国最後の天狗が、最後の魔法を使って戦いを挑む物語を書きたい」と斎藤氏に話していたというのです。信州の仕事場の前を通る炭焼きの老人が、人間に身をやつした天狗に見えきたのだそうです。しかし、瀬田氏はその思いを果たすことなく病に倒れます。天狗の話を書いていただかないと困ると言い寄る斎藤氏に、「これほど自然破壊がすすんでしまった国で、もう天狗の話は書けません」と答えた後に、そのアイディアを継いでほしいと瀬田氏が遺言されたと書かれています。(「あとがき」p400~401) 上下巻を手にしたとき、その分厚さに一瞬ひるみますが、読み始めるとぐいぐいと引き込む力があります。北国の「恵みの湖」で穏やかに暮らしていた河童のユウタのもとに、ある日尾が九に分かれているアカギツネが現れ、娘の旅の仲間にと声をかけるのでした。旅の目的もわからぬままキツネの娘アカネと、天狗のハヤテと龍川の水源を目指す旅へ出ます。彼らとともに、この旅の目的はなんだろうと探りながら読むのはとても楽しいものでした。金井田英津子氏の版画による挿し絵も、この本の魅力を高めています。文庫活動で中で紹介をしたら、小学5年生の女の子が早速、夢中になって読みふけっていました。この国にまだ残る豊かな自然と天狗や河童たちが息づく場所を、大切にしたいと思いました。
 

 
【ノンフィクション】
 
『世界がもし100人の村だったら お金篇 たった1人の大金持ちと50人の貧しい村人たち』池田香代子/C・ダグラス・スミス対訳
   マガジンハウス 2017/01/30
 
 2001年に『世界がもし100人の村だったら』が出版された時は、アメリカ同時多発テロの起きた後だったので、富の分配の不公平について考えさせられたものです。それから15年以上が過ぎて、世界情勢はあの頃以上に複雑になってきました。グローバリゼーションの反動も各地で起きています。この本は、その後、10億人増えた世界人口と、その過程で貧富の格差が広がったことを伝えてくれます。「100人の村では1人の大金持ちの富と99人の富がだいたい同じです」。貧しい者たちは、50人。世界の半分の人たちが食べるものにも事欠くという事実も突き付けられます。そして、それに対して、どうすればよいかを考えるヒントも与えてくれます。現代社会について学ぶYA世代が気軽に手に取れる1冊としておすすめします。
 
 
『知らなかった、ぼくらの戦争』アーサー・ビナード/編著 2017/4/2

知らなかった、ぼくらの戦争
アーサー ビナード
小学館
2017-03-28

第二次世界大戦終結から72年が経ち、当時実際に戦場に赴いた経験のある人、空襲など過酷な戦争体験をした人々の年齢がどんどん高齢化し、亡くなっていく方々が増えている今、その体験を書き記しておかなければ永遠に語られることのないままになってしまいそうです。この本は詩人のアーサー・ビナードさんが、そうした危惧を抱きつつ、1990年に来日して以降、勝戦国アメリカ人という立場から「日本の戦後」について考え、また多くの戦争体験者から直接聞いた話をまとめ、戦争とはいったい何なのかを私たちに問うています。現状を見ると、緊迫する朝鮮半島情勢などから、もはや「戦後」という雰囲気ではなく、戦前の状況に似てきたとする戦争体験者の声もあるほどです。私たちが今の状況を客観的に判断するためにも、第二次世界大戦を体験した人々の生の声に耳を傾けることはとても大事なことでしょう。

 

【研究書】
 

『子どもの本から平和を考える』児童図書館研究会/編 児童図書館研究会 2017/2/25

2015年11月に児童図書館研究会が主催して行われた児童文学者、山花郁子さんの「戦後七〇年、子どもの本から平和を考える」と題した講演会の講演録です。また機関誌『こどもの図書館』に連載された特集記事、ここ最近出版された平和を考えるための関連本リストも収録されています。子どもたちに平和について考えてもらう時の参考になると思います。この資料についての教文館ナルニア国の記事も併せて紹介します。→ナルニア国の紹介文

(作成K・J)

2017年2月、3月の新刊から


 

2017年2月、3月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの本を紹介します。(一部2017年1月下旬発行のものあり)

また、ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。すべての新刊本を購入して読むことはできませんが、教文館ナルニア国の新刊本コーナー、クレヨンハウス新刊本コーナーなどにある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。

 (なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

 **********************************

【絵本】

『あめ』イブ・スパング・オルセン/作 ひだにれいこ/訳 亜紀書房 2017/2/13

あめ
イブ・スパング・オルセン
亜紀書房
2017-01-26
 
 
 シャルロッテという少女、雨音で窓を開けてみると、雨つぶの精バラバラとボトボトと出会います。バラバラから聞いたぼうけん話は、そのまま水の循環や、天気のことについて理解を促します。自分で読むなら小学生以上ですが、読んであげるなら幼児でも興味をもつでしょう。『つきのぼうや』(やまのうちきよこ/訳 福音館書店 1975)などで有名な国際アンデルセン賞作家オルセンの1963年の作品です。昨年11月に同じく亜紀書房から『かぜ』が出版されています。

 

『よるのこどものあかるいゆめ』谷川俊太郎/詩 むらいさち/写真 マイクロマガジン社 2017/2/15

よるのこどものあかるいゆめ
谷川 俊太郎
マイクロマガジン社
2017-02-03
 
 子どもを寝かしつけるための催眠療法をそのまま絵本にして爆発的に売れた絵本が昨年ありました。あれは催眠術の手法なので眠くなるのは当たり前なのですが、絵本としてどうかなと考えさせられました。世の中、子どもも寝かしつける親もストレスフルなのでしょうか。「ねるまえに読む本」というコンセプトで出版が相次いでいます。こちらはそんな流行に乗っているようでもありますが、谷川俊太郎さんの詩が、凝り固まった心を解きほぐしてくれて、読んでいくうちに安らかな気持ちになっていきます。海の中を撮影した写真も水にたゆとうように気持ちよくなっていく、そんな絵本です。
 
 
『ぼくの草のなまえ』長尾玲子/作 福音館書店 2017/2/10
 
ぼくの草のなまえ (福音館の科学シリーズ)
長尾 玲子
福音館書店
2017-02-08
 
 太郎くんが丹精込めて育てたチューリップのプランターの中に、小さな白い花をつけた雑草をみつけます。雑草だからと抜いたりせずに「かわいい花だな」と思った太郎くんは、植物に詳しいおじいちゃんに電話をして聞きます。花の色だけでなく、茎の様子、葉の形や手ざわり、つき方を順番に聞いていくおじいちゃん。その雑草がハコベであることがわかりました。名前がわかれば、抜かれる運命の雑草としてではなく、固有の植物として愛着もわきますね。デンマークで刺繡を学んできた作者の、緻密で丁寧な刺繡による絵が、植物の特徴をよく捉えていて素敵です。同じ作者の『ざっそうの名前』(福音館書店 2013)もおすすめです。
 

 『みどりの町をつくろう 災害をのりこえて未来をめざす』アラン・ドラモンド/作 まつむらゆりこ/訳 福音館書店 2017/2/10

みどりの町をつくろう 災害をのりこえて未来をめざす (福音館の科学シリーズ)
アラン・ドラモンド
福音館書店
2017-02-08
 
2007年5月にアメリカはカンザス州グリーンズバーグを巨大な竜巻が襲いました。日本国内でもニュースに取り上げられましたから記憶にある方もいらっしゃるでしょう。人口1400人の集落の9割の建物が全壊し、死者も11名でた大きな災害でした。この絵本は何もかも失ったグリーンズバーグの人たちが失意の中から立ち上がり、自然環境に優しい緑の町づくりに取り組む過程を子どもたちにもわかりやすい絵と文章でつづった絵本です。アラン・ドラモンドはイギリス在住の絵本作家ですが、『風の島へようこそ―くりかえしつかえるエネルギー』(まつむらゆりこ/訳 福音館書店 2012)で、グリーンアース文学賞を得ています。夏休みの自由研究のきっかけにもなる作品です。
 
 
『ぼくのあかいボール』イブ・スパング・オルセン/作 ひしきあきらこ/訳 BL出版 2017/2/20 
ぼくのあかいボール
イブ・スパング・オルセン
ビーエル出版
2017-02-20

こちらも、デンマークの絵本作家オルセンの1983年の作品です。いつも遊んでいるお気に入りのぼくのあかいボールが、ある時ころころころがって、バスの中へ。運転手におこられたボールは、どんどんどんどん逃げていき公園の中へ。さて、ボールはもどってくるのでしょうか。今年は日本とデンマークの国交樹立から150周年の年、練馬区下石神井にあるちひろ美術館・東京では3月1日からデンマークの心 イブ・スパング・オルセンの絵本」を開催中です。(5月14日まで)そちらで、この絵本の原画を見ることもできます。機会があれば原画にも触れてみてください。
 

 
『くまさん』まど・みちお/詩 ましませつこ/絵 こぐま社 2017/2/25
 
くまさん
まど みちお
こぐま社
2017-02-17
 
「はるがきて めがさめて くまさん ぼんやり かんがえた」で始まるまど・みちおさんの詩が絵本になりました。寝ぼけたくまさん、水に映った自分の顔をみて、自分がくまだったことを思い出します。小学2年生の国語の教科書 (三省堂)にも掲載されており、音読の宿題で声に出して読んでいたのを思い出します。ましませつこさんの優しいタッチの絵が、長い冬眠から覚めて春の訪れを喜んでいるくまの気持ちを上手に表現しています。耳に心地よいリズムの詩です。小さな子どもたちにも読んであげるとよいでしょう。

 

『どのはな いちばん すきな はな?』(0.1.2えほん)いしげまりこ/文 わきさかかつじ/絵 福音館書店 2017/3/5

どのはな いちばん すきな はな? (0.1.2.えほん)
いしげ まりこ
福音館書店
2017-03-01
 
 福音館書店の月刊誌「こどものとも0.1.2」から2冊、ハードカバーになりました。1冊めは2012年3月号の『どのはな いちばん すきな はな?』です。見開き画面にぱあっと広がる原色の美しい花。春らしい明るい気持ちになります。デフォルメされた絵ですが、なんの花かわかります。小さな子どもたちに、美しい花に目を向けてもらうきっかけになる1冊です。
 
 

『ひよこさん』(0.1.2えほん)征矢清./作 林明子/絵 福音館書店 2017/3/5

ひよこさん (0.1.2.えほん)
征矢 清
福音館書店
2017-03-01
 
2冊目は 2013年3月号の征矢清・林明子夫妻による『ひよこさん』です。ひとりでおでかけひよこさん、暗くなって動けなくなりました。でも大丈夫。目を覚ますとおかあさんがそばにいてくれました。小さな子どもたちに安心感を与えてくれるお話です。 
 
 

 『生きる』谷川俊太郎/詩 岡本よしろう/絵 2017/3/5

生きる (日本傑作絵本シリーズ)
谷川 俊太郎
福音館書店
2017-03-01
 
 月刊たくさんのふしぎ2013年9月号として出版された谷川俊太郎の詩「生きる」の絵本が、この度ハードカバーになりました。月刊誌の別刷付録「ふしぎ新聞」に、谷川俊太郎が「〈いま〉は物理的に一瞬でありながら、心理的には一瞬にとどまらないひろがりをもっています。(中略)〈いま〉を止めることは誰にも出来ませんが、〈いま〉を意識することが、逆に流れ止まない時間を意識することにつながることがある。」と、この詩の背景にある思いをつづっています。イラストレーターの岡本よしろうが描く何気ない家族の夏の一日が、そうした日常にこそ「生きる」実感があることを伝えてくれています。手渡すなら小学生中学年くらいから。
 

 『いのちのひろがり』中村桂子/文 松岡達英/絵 福音館書店 2017/3/5

いのちのひろがり (たくさんのふしぎ傑作集)
中村 桂子
福音館書店
2017-03-01

 こちらも月刊たくさんのふしぎ2015年4月号がハードカバーになりました。JT生命誌研究館館長、中村桂子氏が生命誌の考え方から地球上に生命が発生してからの38億年の歴史を、子どもたちにもわかりやすく説明してくれています。庭にいるアリも、魚も、草も木も人間も、地球上にいるすべての生命は38億年前に発生したひとつの細胞から始まっているという発見は、驚きとともに子どもたちに生命あることの感動を伝えることができると思います。自然科学絵本を得意とする松岡達英の絵も、子どもたちには親しみやすいでしょう。

 

 『だいち』谷川俊太郎/詩 山口マオ/絵 岩崎書店 2017/3/20

詩の絵本 教科書にでてくる詩人たち (5) だいち (詩の絵本―教科書にでてくる詩人たち)
谷川 俊太郎
岩崎書店
2017-03-08
 
 今回紹介する新刊本の中で3冊目の谷川俊太郎作品です。教科書に出てくる詩人たちの作品を絵本として出版しているシリーズの5作目です。この詩の初出は、詩集『いち』(佐野洋子/絵 国土社 1989)でした。「だいちのうえに くさがはえ/ だいちのうえに
 はながさき / だいちのうえに きはしげり / だいちのうえに あめはふる(後略)」と、大地の上で営まれる人々の暮らしを描く詩を、山口マオの力強い版画が際立たせます。読んであげることで、幼稚園の子どもたちにもこの詩の世界が理解できることでしょう。
 

 
『ドームがたり』アーサー・ビナード/作 スズキコージ/画 玉川大学出版部  2017/3/20

ドームがたり (未来への記憶)
アーサー・ビナード
玉川大学出版部
2017-03-11
 
 原爆ドームが主人公のこの絵本は、読む者にさまざまな思いを引き出してくれます。まずはまっさらな気持ちでこの絵本に向き合ってみるとよいでしょう。アメリカで生まれ育ったアーサー・ビナードは、来日するまで「原爆は必要だった」という歴史教科書の記述を疑いもしなかったそうです。しかし、29歳で初めて広島の原爆ドームの前に立った時、ほんとうにそうなのだろうかを疑問を持ちます。その思いを胸に書かれた作品です。スズキコージの絵もまた私たちに何かを訴えかけてくれます。先日、皇太子ご息女愛子さまが中学を卒業するのを機に公表された作文も原爆ドームを訪れた時の強烈な印象が素直に書かれていました。その作文を思い出しながら、ぜひこの絵本も読んでほしいと思います。
 

 【児童書】

サンタクロースのはるやすみ』ロジャー・デュボアザン/文・絵 小宮由/訳 大日本図書  2017/2/20

ロジャー デュボアザン
大日本図書
2017-02-22

 クリスマスにしか町へいかないサンタクロースは、春の訪れに誘われて町へ出かけていきます。変装して出かけたのに、立派なひげと赤い鼻をみて、サンタクロースからそれらを盗んだと疑われてしまいます。本物のサンタクロースだと、町の人たちにわかってもらうためにどうしたと思います?サンタクロースがイースターの町にいるなんて、素敵ですね。原題は「EASTER TREAT」です。『しろいゆきあかるいゆき』でコルでコット賞を受賞したロジャー・デュボアザンの作品で、翻訳は小宮由です。

 

『水の森の秘密』(こそあどの森の物語)岡田淳/作 理論社 2017/2 
 

1994年に『ふしぎな木の実の料理法』で始まった「の森でもなければ、の森でもない の森でもなけれな、の森でもない」「こそあどの森」で繰り広げられるスキッパーやポットさん、トマトさん、トワイエさんをはじめとする森の住人たちの物語が、12冊目のこの作品で完結となります。ある時、こそあどの森のあちこちに水がわき出し、湖のようになってしまいます。その原因をさぐるためスキッパーたちは、調査をはじめます。その意外な原因は!初期の「こそあどの森の物語」シリーズを読んできた世代ももう30代になろうとしています。12巻目が出たことで、最初のころの本も読み返そうとする子どもたちもいることでしょう。親子二代で読む子もいるのではないでしょうか。ぜひ、既出のシリーズと一緒に手渡してほしいと思います。 

 

『小さな赤いめんどり』アリソン・アトリ―/作 神宮輝夫/訳 小池アミイゴ/絵 こぐま社 2017/3/10
小さな赤いめんどり (こぐまのどんどんぶんこ)
アリソン アトリー
こぐま社
2017-02-27
 
 1969年に大日本図書から油野誠一の絵で出版されていたこの作品が、『とうだい』(斉藤倫/作 福音館書店 2016)を描いた小池アミイゴさんの絵でこぐま社の「こぐまのどんどんぶんこ」としてよみがえりました。油野誠一の絵で親しんでいた人には、イメージが違って見えることでしょう。ひとりで暮らすおばあさんのところにある夜、訪ねてきた小さな赤いめんどりは、実はふしぎな力を持っているのでした。絵本から読み物へ移行する時期の子どもたちに手渡したい作品です。
 

『たんけん倶楽部 シークレット・スリー』ミルドレッド・マイリック/文 アーノルド・ローベル/絵 小宮由/訳 大日本図書 2017/3/15

たんけんクラブ シークレット・スリー (こころのほんばこ)
ミルドレッド マイリック
大日本図書
2017-03-17

 今回、紹介した『サンタクロースのはるやすみ』と同じ大日本図書の「こころのほんばこ」シリーズの1冊です。小宮由が絵本から読み物へ移行する時期の子どもたちに手渡す本として厳選して翻訳しているラインナップです。海辺に住むビリーは友だちのマークと一緒に手紙の入っているビンを拾いました。その手紙には「たんけんクラブをつくろう」と書いてありました。それは沖にあるちいさな島の灯台にすむトムという男の子からのものでした。3人はビンに手紙を入れて海を隔ててやり取りをします。同年代の男の子がワクワクするお話です。

 


『メリーメリー おとまりにでかける』ジョーン・G・ロビンソン/作・絵 小宮由/訳 岩波書店 2017/3/17
メリーメリー おとまりにでかける
ジョーン・G.ロビンソン
岩波書店
2017-03-18

『テディ・ロビンソン』や『思い出のマーニー』などの作品があるロビンソンの新しく翻訳された幼年童話です。1957年に書かれたものですが、今の子どもたちが読んでも楽しいお話です。5人兄弟の末っ子のメリーメリーは、いつもおにいちゃんやおねえちゃんにじゃまもの扱いされています。そんなことにめげないメリーメリーのゆかいなお話が5話入っています。自分で読むなら小学校低学年から。小さなお子さんには読んであげてほしい作品です。こちらも小宮由の翻訳です。

 

【その他】

乳幼児おはなし会とわらべうた』落合美知子/作 児童図書館研究会 2017/2/25

長年、図書館司書として、あるいは文庫活動を通して、「親子でたのしむ絵本とわらべうた」の活動を続けてこられた落合美知子さんの活動をまとめたものです。小さな子どもになぜわらべうたなのか、理論的なところもわかりやすくまとめてあります。わらべうたの実践事例や、資料なども豊富です。図書館などで乳幼児おはなし会、わらべうたの会を実施しようとしている図書館司書にとって、貴重なテキストといえるでしょう。ぜひ業務の際に手元に置いて参考にしてほしいと思います。詳しくは児童図書館研究会のサイト(→こちら)をご覧ください。

 (作成K・J)

『きゅうきゅうばこ』の新版が出ました。


福音館書店のかがくのとも傑作集として1989年に出版された『かがくのとも版 きゅうきゅうばこ』(山田真/文 柳生弦一郎/絵)が、当時とけがの処置法が大きく変わってきたことを受けて、書き直され『かがくのともの きゅきゅうばこ 新版』としてリニューアルされました。

1989年出版の『かがくのとも版 きゅうきゅうばこ』

かがくのとも版 きゅうきゅうばこ (かがくのとも絵本)
山田 真
福音館書店
1989-03-25
 
 
 
 
この度、出版された新版『かがくのともの きゅうきゅうばこ』
きゅうきゅうばこ 新版 かがくのともの (かがくのとも絵本)
やまだ まこと
福音館書店
2017-02-01

 

 

2冊を並べて読み比べてみると、やけどの処置では、旧版は「みずぶくれは だんだん ちいさくなって なおることもあるし、やぶれることもある。やぶれたら うむといけないので、びょういんへいこう。」というところが、新版では「みずぶくれになっていたら、やぶって ひふくざいを はっておく。」に書き換えられています。

すりきずの処置では、旧版は「すいどうで よく あらいながしておこう。そのあと しょうどくして きれいな ガーゼをあてておけばいい。」、「すりきずは、たいしたことがないように みえても、けっこう なおりにくい。じくじく うんできたら、びょういんへ いこう。こうせいぶっしつの ついた ガーゼみたいなもので てあてしてもらえるでしょう。」というところが、新版では「すいどうで よく あらいながしておこう。そのあと ひふくざいか ラップを きずぐちに はっておけばいい。」、「すりきずは、たいしたことがないように みえても、けっこう なおりにくい。なんにちかして いたくなったら、うんだのかもしれないから びょういんへ いこう。」となっています。

それ以外にも巻末の「いえにおきたいきゅうきゅうセット」の内容が、旧版では「布ばんそうこう サージカルテープ 帯状ばんそうこう 殺菌消毒剤つきガーゼ 滅菌ガーゼ 殺菌消毒剤 粘着ほうたい 伸縮ほうたい 抗ヒスタミン剤 外傷殺菌消毒剤 副腎皮質ホルモン剤」となっていることろが、新版では「帯状ばんそうこう サージカルテープ 粘着ほうたい 伸縮ほうたい ハイドロコロイド被覆副腎皮質ホルモン剤 抗ヒスタミン剤 ペーパータオル 食品包装用ラップ タオル ハサミ 体温計 ペットボトルの水(傷口の汚れを流す)」となっており、この28年の間にずいぶん家庭での応急処置方法が変化してきたことがわかります。

後ろ見開きページに、この絵本の文章を書いた小児科医の山田真さんが、傷口を消毒しないで乾かさない治療法「うるおい療法」について、丁寧に説明をしてくださっています。

時代の変化に合わせて、絵も新たに描きなおされています。

知識の本は、新しい知見が出てきたときには、それに基づいた改訂が必要になります。2015年には『せいめいのれきし』(バージニア・リー・バートン/作 石井桃子/訳 岩波書店)が、科学者の監修のもと、改訂されています。(本のこまどでの紹介記事→こちら

長く都立多摩図書館などで児童図書館員として勤められた杉山きく子さんは、著書『がんばれ!児童図書館員』(本作り空Sola 2014、この著作は2016年東京子ども図書館から再刊されています)の中で、「ノンフィクションは、書かれた時点でもっとも新しい事実や知見をとりあげているのは当然だが、たいせつなのは対象に対する著者の姿勢や情熱である。最先端の知識を羅列しただけの新しい本よりも、内容は最先端でなくても、テーマに対する著者の愛情や情熱を感じられる本こそが、子どもにはふさわしい。また、学問は常に新しい研究によって進歩発展していることを示唆する姿勢も必要である。」(第2章 子どもの本をしるために 「ノンフィクション 知識の本」の項目より p65)と、述べられています。
 

がんばれ!児童図書館員
杉山 きく子
東京子ども図書館
2016-05-30
 
 
 

 

今回のこの改訂には、作者である山田真さんと柳生弦一郎さんの新しい知見を子どもたちへ伝えたいという思いを感じることができます。子どもたちに人気の著作だからこその、新版の意味を受け止めながら、図書館でも差し替えてあげてください。なお、旧版も廃棄せずに、子どもたちが比較して読めるようにしておくのもよいでしょう。

(作成K・J)

2016年12月、2017年1月の新刊本から


 

2016年12月、2017年1月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの本を紹介します。(一部2016年11月下旬発行のものあり)

また、ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。すべての新刊本を購入して読むことはできませんが、教文館ナルニア国の新刊本コーナー、クレヨンハウス新刊本コーナーなどにある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。

 (なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

 

【絵本】
 
 『まんまん ぱっ』長野麻子/作 長野ヒデ子/絵 童心社 2016/11/20
まんまん ぱっ! (とことこえほん)
長野 麻子
童心社
2016-11-20
 
 長野麻子さん、長野ヒデ子さん母娘による二作目の絵本です。「まんまん ぱっ」「ぱいぱいぱい」「ぐるぐるぐる~ん」など赤ちゃんが喜ぶオノマトペ(擬音語、擬態語)と、パステルの柔らかい線画が楽しい1冊です。耳から聞こえるリズミカルな音にちいさな赤ちゃんも喜ぶことと思います。

 
『フローレンス・ナイチンゲール』デミ/作 さくまゆみこ/訳 光村教育図書 2016/12/20 
デミ
光村教育図書
2016-12

 「近代看護教育の母」と呼ばれるナイチンゲールの伝記絵本です。1820年生まれのフローレンスは、大変裕福な家庭で育ったにも関わらず、貧しい人のために尽くしたいという篤い信仰心をもって、看護婦になる決意をします。実際に看護婦になると患者たちが置かれている劣悪な環境を改善すべきだと提案し、その改革を実践します。従軍看護婦としてクリミア(今のトルコ)戦争の陸軍病院でも働き、ここでも改善するための報告書を作成し、女王にも訴えかけます。先を見通す力、実行に移す力を持っていたフローレンスの働きは、多くの人々に影響を与えます。のちに国際赤十字を設立したアンリ・デュナンもその一人でした。女性としての細やかな配慮をしつつ、大事なことは譲らず実行した姿は、この絵本に出会う子どもたちにも勇気を与えてくれることでしょう。本の表紙画像は出版社のサイトへ→こちら

『だるまちゃんしんぶん』加古里子/作 福音館書店 2016/12/25

 「だるまちゃんしんぶん」は、子どものための新聞。「はるのごう」「なつのごう」「あきのごう」「ふゆのごう」の4枚がポケットに入っています。連載されているのは「せかいびっくりニュース」や「にっぽんきせつニュース」「まちやむらあちこちニュース」などです。やまんば山でのお花見や、沖縄のキジムナちゃんやカッパちゃんに出会った話など創作話の一方で、夏の星座や冬の天気など科学的な記事もあって加古ワールド満載です。新聞の下のほうに季節の植物や生き物が帯状に描かれていたり、季節の遊びが掲載されていたり、読んでいて楽しくなるばかりです。


『ちっちゃなえほん ちっちゃなちっちゃなものがたり―ジェイコブズのイギリス昔話集より―』瀬田貞二/訳 瀬川康男/絵 福音館書店 2017/1/15 

2016年は瀬田貞二生誕100年の年でした。それを記念して出版されたさまざまな作品のうちの1冊です。「ちいさなちいさなおばあさん」などとしてイギリスの昔話で有名なお話を、瀬田貞二さんの訳に瀬川康男さんの意匠による絵で魅せてくれる文字通り小さな(12.8cm×10.6cm)の絵本です。この絵本は1995年にピンク色の横長の絵本(21.2cm×15.2cm)として出版されていましたが、今回は「母の友」1972年4月号掲載の豆本をもとに一回り以上小さくなって、まったく別の絵本として出版されました。素話で語られることの多い昔話ですが、愛蔵版として手元にあると嬉しい1冊です。
 

『おなかのかわ』瀬田貞二/再話 村山知義/絵 福音館書店 1977/4/1第1刷 2017/1/15第16刷(瀬田貞二生誕100年記念出版)

おなかのかわ (こどものとも絵本)
瀬田 貞二
福音館書店
1977-04-10

 ねことおうむが互いに食事に招待し合います。ところが、けちで食いしん坊のねこは、おうむの出してくれたごちそうを平らげてもまだ満足できず、おうむを飲み込み、次々出会ったものを飲み込んでいきます。デンマークの民話「ふとっちょねこ」「ついでにペロリ」にとても似たお話です。しばらく品切れになって手に入らない絵本でしたが、この度瀬田貞二誕生100年記念として限定復刊されています。図書館の蔵書が古くなって買い替える必要がある場合は、この機会にぜひ購入しましょう。

 
『いたずらおばけ』イギリス民話 瀬田貞二/再話 和田義三/画 福音館書店 2017/1/15(瀬田貞二生誕100年記念出版) 

 月刊絵本「こどものとも」1978年2月号として出版されたものを、瀬田貞二生誕100年記念出版としてハードカバー化した絵本です。貧しいけれど陽気な一人暮らしのおばあさん。ある日道端に金貨がたくさん詰まった壺をみつけます。「これがあれば女王さまみたいに働かずに贅沢ができるわ」とショールでしばって引きずって帰る途中、立ち止まると銀に変化してしまいます。「ああ、夢見てたのね。銀でよかったわ」とまた引っ張っていくと、ただの鉄の塊になり、ただの大きな石になっていきます。おばあさんは、「ああ、夢見てたのね。これで十分」と思うのです。いよいよ大きな石を木戸の留め石にしようとすると、それはいたずらが好きなおばけだったのです。おばあさんはおばけに怒ることもなく「いたずらおばけが見られたなんて、なんて運がいいんだろう」と喜んでやすらかに休むというお話です。何事も前向きにとらえるおばあさんに読んでもらうほうも、楽しくなってくる、そんな絵本です。

 

 『なにたべているのかな?(はなしかけえほん)』とよたかずひこ/作 アリス館 2017/1/25

なにたべているのかな? (はなしかけえほん)
とよた かずひこ
アリス館
2017-01-25

 「ももんちゃん」シリーズなど、小さな子どもたちが大好きなたくさんの絵本を作っているとよたかずひこさん。子どもとやりとりをしながら楽しめる絵本を作りたいと「はなしかけえほん」のシリーズを刊行されることになりました。その1冊目が『なにをたべているのかな?』です。先日、クレヨンハウス「子どもの本の学校」でとよたかずひこさんの講演を聞きました。テキストに捉われることなく、子どもたちの反応を見ながらいっぱい話しかけてほしいということでした。3月に『だれかな?だれかな?』、7月に『ゆびさしなあに?』が、このシリーズで出る予定です。初めての子育てでどんな風に子どもに話しかけたらいいのか緊張するという若い親たちにも、ぜひおすすめしたいですね。

 

【研究書】

 『ぼくの絵本美術館 新装版』堀内誠一/著 マガジンハウス 2016/12/14

ぼくの絵本美術館 新装版
堀内 誠一
マガジンハウス
2016-12-14

 1998年に出版された本の新装版です。堀内誠一が生前福音館書店の月刊誌「こどものとも」「母の友」「かがくのとも」や盛光社の「月刊 絵本」や「別冊太陽」などに掲載されていた絵本に関するエッセイをまとめたものです。ラスコーの壁画から始まり、ブーテ・ド・モンヴェルなど19世紀の絵本、コールデコットの絵本などについて語る文章は、美術への深い造詣とともに「子どもに」という視点が明確にあって、読み応えがあります。堀内誠一の絵本への理解も深まることでしょう。 

 

 『子どもの本のよあけ―瀬田貞二伝』荒木田隆子/著 福音館書店 2017/1/15

子どもの本のよあけ―瀬田貞二伝 (福音館の単行本)
荒木田 隆子
福音館書店
2017-01-11

 瀬田貞二担当の福音館書店の編集者として、その晩年の仕事『落穂ひろい―日本の子どもの文化をめぐる人びと』に向かう姿を身近に見てきた荒木田隆子さんによる瀬田貞二伝です。荒木田さんは、瀬田貞二亡き後、その足跡を辿りながら『絵本論―瀬田貞二子どもの本評論集』、『児童文学論―瀬田貞二子どもの本評論集』をまとめあげられました。この本は2013年5月~2014年1月までの5回にわたり東京子ども図書館主催の講座「瀬田貞二氏の仕事」での講演録をもとにしたものです。分厚い著作ですが、講演の際の語り口調そのままになっているので、とても読みやすく、一気に読めてしまいます。この1冊を通して日本の子どもの本の歴史を知ることができ、自分が子ども時代に親しんだ本が生まれてきた背景も知ることができます。前述の3冊の瀬田貞二の評論集とともに、子どもの本について学ぶ人には必読の1冊です。

 

【その他】

『だるまちゃんと楽しむ 日本の子どものあそび読本』加古里子/著 福音館書店 2016/12/25

 まえがきに加古里子さんご自身が「昭和42年(1967年)に出した『日本伝承のあそび読本」を新しくしたものです。(中略)しかし、50年もたっている現在、子どもたちの成長と未来にふさわしい内容、題材、記述になるよう選びなおし、書き改めました。」と記しているように、日本の伝統的なさまざまな遊びが全部で7項目109種類掲載されています。絵も新しく描きなおされ全ページカラーのイラストが、遊び方を丁寧に伝えてくれています。ここに紹介されている草花を使った遊びや、折り紙、あやとりや外遊びなど、子どもたちの創造性を引き出す数々の遊びを、積極的に伝えていきたいと思います。

 

 『少年少女のための文学全集があったころ』松村由利子/著 人文書院 2016/7/10初版第1刷 2017/1/10初版第2刷

少年少女のための文学全集があったころ
松村 由利子
人文書院
2016-07-26
 
昨年夏に出版された時には見落としていた1冊です。1月に増刷されました。この本の著者は子ども時代にたくさんの子どもの本に出会ってきた元新聞記者です。著者紹介を見ると私と同年代。私も子ども時代にほんとうにたくさんの子どもの本に出会ってきました。その中には岩波少年文庫もあれば「少年少女文学全集」の中の本もありました。このエッセイを読んでいて、本に出会うことによって心豊かな子ども時代を過ごせたのだと、瀬田貞二さん、石井桃子さんなど当時子どもの本のために尽力された方々に改めて感謝したくなりました。
 
 

 『さてさて、きょうのおはなしは・・・・・・日本と世界のむかしばなし』瀬田貞二/再話・訳 野見山響子/画 福音館書店  2017/1/15

さてさて、きょうのおはなしは・・・・・・ 日本と世界のむかしばなし (福音館の単行本)
瀬田 貞二
福音館書店
2017-01-11

 瀬田貞二生誕100年記念の一環として出版された「おはなし集」です。「かさじぞう」「ねずみじょうど」や「三びきのやぎのがらがらどん」「三びきのこぶた」など、絵本として出版されているものを含めて、日本の昔話18編、世界の昔話はイギリス7編、ノルウェー1編、ロシア2編の合計28のおはなしが収録されています。ご家庭ではお子さんに読んであげるおはなしとして、図書館員には語りのテキストとして最適です。

(作成K・J)

2016年10月、11月の新刊から(その2)


 

10月、11月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、クリスマスの本と、その他の本をいくつかを紹介します。(9月に出版された本も含む)

また、ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。すべての新刊本を購入して読むことはできませんが、教文館ナルニア国の新刊本コーナーなどにある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。

 (なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

 

クリスマスの新刊絵本

『きょうはクリスマス』小西英子/絵と文 至光社 2016/10

 クリスマスといえば「サンタクロース」が来る日というのが、宗教色のない行事としてのクリスマスのイメージでしょうか。イエス・キリストの降誕祭であるという意識は、多くの人にないのかもしれません。この絵本は、サンタクロースを追いかけて出かけた男の子は、それがお菓子屋さんの売り子だと知り、お手伝いをします。それから、教会の降誕劇に加わってクリスマスの意味を知ります。この降誕劇は、キリストの誕生のいきさつを劇にしたものです。教会学校やキリスト教の幼稚園などでクリスマスの時期に行われています。クリスマスは「イエス・キリストの誕生を祝う日」だと、知るきっかけになるといいですね。 


『そらとぶそりとねこのタビー』C・ロジャー・メイダー/作・絵 齋藤絵里子/訳 徳間書店 2016/10/13 

そらとぶ そりと ねこのタビー (児童書)
C.ロジャー メイダー
徳間書店
2016-10-13

ねこって袋や箱があると本能的に潜り込むもの。ねこのタビーはクリスマスイブにやってきたサンタのおじいさんのふわふわの靴下に惹かれて近づき、贈り物の入っていた袋の中に潜り込んでしまいます。おじいさんは気がつかないまま戻っていってしまいます。そんなわけでもう一度サンタのおじいさんが訪れることになるのです。絵本作家としては3冊目になるこの作品は、『まいごになったねこのタビー』の姉妹編。その他に灰島かりさん翻訳の『てっぺんねこ』(ほるぷ出版 2015)があります。 

 

『もみの木のねがい』エステル・ブライヤー/ジャニィ・ニコル/再話 おびかゆうこ/訳 こみねゆら/絵 福音館書店 2016/10/15

 南アフリカでシュタイナー教育に携わってきた母娘が、操り人形劇の脚本から絵本のために再話したおはなしです。もみの木は、自分のチクチクした葉が気に入らず、妖精に頼んでやわらかい葉に変えてもらいます。ところがヤギに食べられて裸木になってしまいます。その次に銀の葉、金の葉に変えてもらうのですが、やはり葉はすべてなくなってしまいます。元の葉っぱに戻ったとき、子どもたちが喜ぶクリスマスツリーになり、もみの木自身も幸せを感じるのでした。こみねゆらさんの絵が、優しく物語を語ります。

 

 『どうぶつたちのクリスマスツリー』ジャン・ウォール/作 レナード・ワイスガード/絵 こみやゆう/訳 好学社 2016/10/27

どうぶつたちのクリスマスツリー
ジャン ウォール
好学社
2016-10-18

森の中で動物たちがもみの木にクリスマスの飾りをつけています。猛獣も小さな動物もいっしょに手伝います。クリスマスの本当の意味は、イエス・キリストが人々の和解のためにこの世に現れたというところにあります。普段、敵対する者同士も、神の前に同じ創造されたものとして平等であり、互いに尊重しあうことが大切だ、というのがクリスマスにこめられたメッセージです。この絵本は、それを美しく具現化しているのだと感じました。ワイスガードの繊細で色彩豊かな絵にも注目です。

 

絵本

『カイとカイサのぼうけん』エルサ・ベスコフ/作・絵 まつむらゆうこ/訳 福音館書店 2016/11/10

カイとカイサのぼうけん (世界傑作絵本シリーズ)
エルサ・ベスコフ
福音館書店
2016-11-09
 
 エルサ・ベスコフ(1874~1953)はスウェーデンを代表する絵本作家です。『ペレのあたらしいふく』(小野寺百合子/訳 福音館書店 1976)や、『ちいさなちいさなおばあちゃん』(石井登志子/訳 偕成社 2001)などの代表作があります。この絵本は1923年に出版されましたが、これまで日本に紹介されていなかった作品です。森の中にカイとカイサという二人の兄妹が住んでいました。ふたりは家のそばに倒れている枯れ木でいつも遊んでいました。ある日、トムテの魔法で枯れ木がドラゴンになってしまいます。そこからふたりの冒険が始まります。ほかにもトロルの王さまが出てきたりと北欧の正統派ファンタジーになっています。
 
 
児童書

 

『ニット帽の天使―プロイスラーのクリスマス物語』オトフリート・プロイスラー/作 ヘルベルト・ホルツィング/絵 吉田孝夫/訳 さ・え・ら書房 2016/9

ニット帽の天使―プロイスラーのクリスマス物語
オトフリート プロイスラー
さえら書房
2016-09
 
大どろぼうホッツェンプロッツ』(中村浩三/訳 偕成社 1966)や『クラバート』 (中村浩三/訳  偕成社 1980)などの代表作があるプロイスラーのクリスマスの聖家族(幼子イエスとその両親)にまつわる7つの物語が入っている短編集です。舞台はキリスト教、なかでもカトリックの伝統宗教の根付くボヘミアです。ちょっとふしぎな7つの物語を通して、キリスト教の大切な行事であるクリスマスの意味を改めて知る機会にもなることでしょう。小学校3,4年生くらいからがおすすめ。
 
 

『ミスターオレンジ』トゥルース・マティ/作 野坂悦子/訳 平澤朋子/絵 朔北社 2016/9/30 

ミスターオレンジ
トゥルース マティ
朔北社
2016-10
 
舞台は第二次大戦中のニューヨーク。ライナス少年は6人兄弟の3番目。長兄のアプケが志願兵として出征することを誇りに思いますが、母親はそれを喜ぶことができません。ライナスは家業の八百屋を手伝う中で、画家であるミスターオレンジに出会い、想像力の大切さと、戦争の現実に気がついていきます。多感な少年の成長を描いた作品として評価され、2014年に全米図書館協会のバチェルダー賞を授賞しました。ミスターオレンジは、オランダ生まれの画家ピエト・モンドリアン(1872~1944)というオランダを代表する抽象画家で、第二次大戦中、ヨーロッパを離れてニューヨークで晩年を過ごします。この作品は2011年にオランダ・ハーグ市立美術館で開催されるモンドリアン展に合わせて執筆依頼されたとのこと。表紙絵にはモンドリアンの遺作となった「ヴィクトリー・ブギウギ」がデザインがされています。

 

『明るい夜に出かけて』佐藤多佳子/作 新潮社 2016/9/20

明るい夜に出かけて
佐藤 多佳子
新潮社
2016-09-21
 
 大学を1年休学し、両親と住む家を出て、コンビニでバイトする男子大学生の俺こと、富山。実は彼は「ジャンピング・ビーン」と「トーキング・マン」という名前(ラジオネーム)も持っているのです。そしてtwitter、ニコ生、ツイキャス、アメーバピグという現代のコミュニケーションツールや、そして実在する深夜放送「オールナイトニッポン」が登場します。そうしたSNSや深夜放送への投稿を通して緩やかにつながっていく人間模様を軽やかに描いたYA向けの作品。この作品について作者の佐藤多佳子さんご自身のブログ記事も興味深いです。→こちらこちら
 
 
 
『 ココの詩』高楼方子/作 千葉史子/絵 福音館書店 2016/10/10 

ココの詩 (福音館創作童話シリーズ)
高楼 方子
福音館書店
2016-10-05
 
1987年にリブリオ出版から出ていた 高楼方子さんのデビュー作『ココの詩』と、同じくリブリオ出版から出ていた児童文学作品『時計坂の家』、『十一月の扉』がこの10月に福音館書店に版権を移して出版されました。『ココの詩』は、高楼さんがフィレンツェに1年4ヶ月滞在していた時に、まるで物語が降ってくるように紡いだという作品です。金色の鍵を拾い上げたことで、小さな女の子になって自由に動くことができるようになった人形のココの、ふしぎな物語です。挿絵は高楼方子の実妹の千葉史子です。
 
 
 『時計坂の家』高楼方子/作 千葉史子/絵 福音館書店 2016/10/10

時計坂の家 (福音館創作童話シリーズ)
高楼 方子
福音館書店
2016-10-05
 
1992年にリブリオ出版から出版された作品です。夏休みにいとこのマリカに誘われて、汀舘にある祖父の家に行くことになった小6のフー子。時計塔のある坂道の途中にある古い屋敷には、不思議が満ちています。踊り場にある窓は別の世界につながっていて・・・行方不明になったという祖母の秘密に迫っていくフー子たち。少しミステリアスで幻想的な長編ファンタジーです。 こちらの作品の挿絵も千葉史子です。
 
 
『十一月の扉』高楼方子/作 福音館書店 2016/10/10

十一月の扉 (福音館創作童話シリーズ)
高楼 方子
福音館書店
2016-10-05
 
 中学二年生の秋に父親の転勤が決まった爽子。二学期の終わりまでは転校したくないと、偶然みつけた「十一月荘」に下宿させてほしいと申し出ます。ここは今で言うシェアハウスのようなところで大家の閑さん、小学生のるみちゃんと馥子さん母娘、建築家の苑子さんとの生活が始まります。その生活の中で爽子は「ドードー森の物語」を紡ぎ始めます。登場人物と物語の世界がオーバーラップしていく構成は、ぐいぐいと引き込んでいきます。こちらは表紙絵は千葉史子ですが、中の挿絵は高楼方子ご自身のものです。
 
 
 『クマのプー 世界一のクマのお話』A.A.ミルン原案 森絵都/訳 KADOKAWA 2016/10/31

クマのプー 世界一のクマのお話
ポール・ブライト
KADOKAWA
2016-11-02
 
A・A・ミルンの 『クマのプーさん』(石井桃子/訳 岩波少年文庫)が生まれて90年を記念して、その公式続編を4人の児童文学者が書き下ろした作品です。それぞれの作家が子ども時代に愛読し、あるいは研究をしてきました。そうして生まれた秋、冬、春、夏の4つの物語。どれもミルンが乗り移って書かせたような、懐かしい『クマのプーさん』の世界が広がっています。翻訳はやはりプーさんを愛してきた森絵都さんです。
 
 
 
研究書 
 
『児童文学論』リリアン・スミス/作 石井桃子、瀬田貞二、渡辺茂男/訳 岩波現代文庫 岩波書店
 
児童文学論 (岩波現代文庫)
リリアン・H.スミス
岩波書店
2016-10-19
 
 子どもの本に関わるすべての人にとってバイブルであり続けるリリアン・スミスの『児童文学論』(1964年)が文庫版になりました。箱入りの重々しい装丁から手軽に読める形にかわって、より多くの人の手に渡ることを嬉しく思います。石井桃子、瀬田貞二、渡辺茂男という戦後の子どもの本の歴史を創って来た方々に大きな影響を与え、そうやって作られた優れた子どもの本に私たちは育てられてきました。リリアン・スミスがこの本を著したのは1953年のこと。もう古びているように言う人もいますが、この60年の間に環境は大きく変化したものの子どもの成長の姿は時代が変化しても普遍的であり、子どもと本の基本的な関係は変わらないのです。今、読み返しても新たな発見があります。もちろん、私たちは時代の変化に合わせた子どもへのサービスを考えていかなければいけませんが、なにか迷った時に立ち返る拠り所として、この本を座右の書としてほしいと思います。
 
 
『アメリカの絵本―黄金期を築いた作家たち』(連続講座〈絵本の愉しみ〉1 吉田新一/著 朝倉書店 2016/11/25
 
アメリカの絵本 ―黄金期を築いた作家たち― (連続講座〈絵本の愉しみ〉 1)
吉田 新一
朝倉書店
2016-11-25
 
 立教大学、日本女子大学でイギリス児童文学について教えてこられた吉田新一先生がまとめられた連続講座〈絵本の愉しみ〉の第一巻です。19世紀末から始まり、1930年代~50年代にかけての開花期、50年代以降の黄金期にわけて、アメリカの絵本の歴史をひも解くテキストです。特に黄金期以降のマリー・ホール・エッツ、マーガレット・ワイズブラウン、エズラ・ジャック・キーツ、バーバラ・クーニー、マーシャ・ブラウン、そしてモーリス・センダックについて詳細に解説しながら、それらの作家の作品の魅力に肉迫するあたり、とても読み応えがあります。子どもの本の黎明期にいかに図書館の児童サービスが大きな役割を果たしたかについての記述も、私たちにとっては励みになるものでした。 
 
 
その他
 
『おいで子どもたち―初めて陪餐する子どもたちへ』斎藤惇夫/文 田中雅之/写真 日本聖公会 2016/10/31
斎藤 惇夫
日本聖公会
2016-10-31
『ガンバの冒険』などの著作がある斎藤惇夫さんが、キリスト教の洗礼を受けた子どもたちに向けた詩を書かれたものが1冊の本になりました。書影は→こちら。陪餐とはキリストの最後の晩餐に倣って、パンとぶどう酒を礼拝の中でいただく儀式です。キリスト教徒(クリスチャン)は日本の人口の1%と少数派ですが、その子どもたちだけのものにしておくにはもったいないので、ここで紹介させていただきます。クリスマスは、イエス・キリストの誕生を祝う日。キリスト教が子どもを大切にすることの意味がすっと理解できることと思います。
 
 
『未来のだるまちゃんへ』かこさとし/作 文春文庫 文藝春秋 2016/12

未来のだるまちゃんへ (文春文庫)
かこ さとし
文藝春秋
2016-12-01

2014年に文藝春秋からハードカバーで出版された絵本作家かこさとしさんの自伝が、文庫版になりました。表紙の絵もハードカバーの緑色の背景に大勢の絵本の登場人物に囲まれているかこさんの絵から、白地にだるまちゃんがすくっと立っているものに変わりました。また、文庫版のあとがきと、中川李枝子さんによる解説が付け加えられています。昭和20年(1945年)の敗戦が、かこさんの生き方を変え、子どもたちと寄り添う絵本作家としての歩みのスタートになったこと、戦後のセツルメント活動(詳しくは→こちら)で出会った子どもたちとの日々、絵本の創作についてなど絵本作家かこさとしの魅力が余すことなく記された1冊です。ロングセラー絵本『だるまちゃんとてんぐちゃん』(福音館書店 1967)は来年出版50周年。なぜ、かこさんの絵本が子どもたちの心を捉えるか納得です。

 (作成K・J) 

限定増刷! 赤羽末吉の絵本2冊


ちひろ美術館・東京で2016年11月9日(水)から2017年1月15日(日)まで開催中の赤羽末吉・中国とモンゴルの大地」展に合わせて、長く品切れになっていた絵本2冊がこの度限定増刷されました。

君島久子さんが中国の少数部族に伝わる昔話を再話して翻訳し、それに赤羽末吉が中国国内を取材して絵を描いた美しい絵本です。この時期にしか手に入らない絵本です。所蔵していない図書館では、購入のチャンスです。また所蔵していても、出版から月日がたち、経年劣化しているのであれば、この機会に買い換えて、また子どもたちに手渡してあげて欲しいと思います。

 

『チワンのにしき―中国民話』(おはなし創作絵本21)君島久子/文 赤羽末吉/絵 ポプラ社 1977年7月第1刷 2016年11月第13刷

理想郷を錦に織り込んだおばばでしたが、織り上がったと同時に風に飛ばされて仙女のもとへ。錦を取り戻しに2人の息子たちが出かけて行きますが、それぞれ諦めてしまいます。末の息子はさまざまな困難を乗り越えて、錦を取り戻すと・・・中国の南方、ベトナムの国境付近に住むチワン族に伝わる昔話です。流れるような大胆かつ繊細な赤羽さんの絵がとても美しい1冊です。

 

『あかりの花―中国苗族民話』肖甘牛/採話 君島久子/再話 赤羽末吉/画 福音館書店 1985年1月30日発行 2016年12月1日第9刷

段々畑で懸命に働くトーリンはある日ユリの花をみつけ楽しみに出かけていくようになりました。ある日、ユリの花が倒されているのを見て持ち帰り、石うすに上で育てます。十五夜の晩、トーリンのもとに美しい娘が現れます。娘と一緒に暮らし始めたトーリンは、暮らし向きが良くなると怠けるようになってしまいます。すると満月の夜金鶏鳥が現れ、娘をさらってしまうのです。このお話は、再び勤勉に仕事をするようになったトーリンのもとに娘が戻ってきるハッピーエンドです。赤羽さんは、「石うす」というものが実際にはどういうものなのか、物々交換をする市場がどのようなものだったのか、苗族の集落を訪れて取材を重ね、この絵を描いたとのことです。絵本の見返しから美しく趣向をこらしたこの作品をこれからの子どもたちにも手渡し続けて欲しいと思います。
 

(作成K・J)

2016年10月、11月の新刊から(その1)


10月、11月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの絵本いくつかを紹介します。

また、ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。すべての新刊本を購入して読むことはできませんが、教文館ナルニア国の新刊本コーナーなどにある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。クリスマスの絵本と、YA向けの本は、(その2)で紹介します。

 (なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

 

絵本

『おばあちゃんとバスにのって』マット・ラ・ペーニャ/作 クリスチャン・ロビンソン/絵 石津ちひろ/訳 すずき出版 2016/9/27 
おばあちゃんと バスにのって
マット デ・ラ・ペーニャ
鈴木出版
2016-10-01
 
ジェイは毎週日曜日、教会で礼拝をすませた後に、おばあちゃんと出かけるところがあります。それはスープ・キッチンと呼ばれるボランティア食堂です。このおばあちゃん、どんなことに対しても「良いところ」をさがす名人のようです。雨降りも植物には必要、スラム街でも美しいものは見つけられる、どんな人にも素晴らしいところがあると、折々に伝えてくれるのです。ボランティア活動も援助するというのではなく、そこにいる人々と時間と場所を共有するためで、とても自然体です。この絵本は2016年度のニューベリー賞(*)、そしてコールデコット賞(*)オナー賞のダブル受賞作です。
(*)ニューベリー賞:1922年よりアメリカ児童図書館協会が授与する、アメリカ合衆国における最も優れた児童文学の著者に与えられる賞
(*)コールデコット賞:1938年より同じく児童図書館協会が授与する、アメリカ合衆国におえる最も優れた絵本に与えられる賞。オナー賞はその次点作品に与えられる 
 
『シャクルトンの大漂流』ウィリアム・グリル/作 千葉茂樹/訳 岩波書店 2016/10/14 
シャクルトンの大漂流
ウィリアム・グリル
岩波書店
2016-10-15
 
1914年にイギリス帝国南極横断探検隊の隊長アーネスト・シャクルトンは、南極大陸を横断しようと隊員26名とともにエンデュアランス号に乗って出航します。しかし、南極大陸の手前で船ごと流氷の中に閉じ込められ、その後船が難破する不運に見舞われます。厳しい自然の中で、隊員たちが協力しながら苦難を乗り越え1917年に帰還するまでの大冒険を描いた作品です。色鉛筆で描いた絵は、とても繊細でありながらダイナミックで素晴らしく、2015年度のケイト・グリーナウェイ賞(*)を受賞しています。しかも作者はこの作品がデビュー作という25歳の青年です。同じ題材を扱った読物には千葉茂樹訳の『エンデュアランス号大漂流』(エリザベス・コーディー キメル/作 あすなろ書房 2000)もあります。
(*)ケイト・グリーナウェイ賞:1956年に英国図書館協会によって設立されたイギリスの絵本作家ケイト・グリーナウェイ(1846~1901)の名を冠した賞で、その年イギリスで出版された絵本のうち、最も優れた作品の画家に贈られる賞
 
 
 『わたしのそばできいていて』リサ・パップ/作 菊田まりこ/訳 WAVE出版 2016/10/20
わたしのそばできいていて
リサ・パップ
WAVE出版
2016-09-27
 
 アメリカにはライブラリー・ドッグがいる図書館があるのをご存知でしたか?字を読むのに困難を抱える子どもたちを、ライブラリー・ドッグがサポートします。この絵本の主人公、マディは字を読むのが苦手です。特に学校でクラスのみんなの前で音読をすると、クラスメートに笑われるので余計に緊張してしまうのです。そんなマディがライブラリー・ドックのボニーに出会い、ボニー相手に本を読むうちに、少しずつ自信をもって読めるようになっていきます。苦手なことを克服するために、静かに見守ってくれるボニーのような存在はとても大切なんだと感じます。
 
 
『ふたりはバレリーナ』バーバラ・マクリントック/作 福本友美子/訳 ほるぷ出版 2016/10/20 
ふたりはバレリーナ
バーバラ・マクリントック
ほるぷ出版
2016-10-25
 
ないしょのともだち』(ビバリー・ドノフリオ/文 福本友美子/訳 ほるぷ出版 2010)などの作品があるバーバラ・マクリントックの最新作です。2016年10月6日~11月27日まで銀座・教文館ナルニア国で原画展が行われていました。最終日にマクリントックさんのトークショーも聞いてきました。バレエを習い始めた女の子エマと、プリマバレリーナのジュリアのある一日が並行して描かれています。エマがその日、大きな劇場で見たバレエ公演のプリマがジュリアなのです。公演後、二人が出会うシーンが印象的です。バレエを習っている子どもたちにぜひ手渡してあげたい素敵な絵本です。 
 
 
『はじめてのオーケストラ』佐渡裕/原作 はたこうしろう/絵 小学館 2016/11/1 
はじめてのオーケストラ
佐渡 裕
小学館
2016-10-27
 
 こちらの絵本は世界的な指揮者・佐渡裕氏が、小学生になって初めてコンサートに行き感動を味わった我が子の体験をもとに、多くの小学生にもコンサートに足を運んでほしいと願い、書いた作品です。さまざまな楽器が響き合い、美しいハーモーニーになる様子を、はたこうしろうさんの絵が余すことなく表現しています。主人公のみーちゃんが初めてコンサートホールに行ったのはクリスマスシーズンで、演目はベートーベンの交響曲第九です。ちょうどこれからの季節におすすめできますね。佐渡裕氏の公式サイトからは、小学館の特集ページにリンクされており、インタビュー動画も見ることができます。こちら→佐渡裕オフィシャルファンサイト→「はじめてのオーケストラ
 
 
『パンタロンとケーキやさん』キャサリン・ジャクソン/作 レナード・ワイスガード/絵 こみやゆう/訳 好学社 2016/11/1
パンタロンとケーキやさん
キャサリン ジャクソン
好学社
2016-11-02

 1949年にイギリスで出版されたA Little Golden Bookシリーズの中の1冊として出版され、その後1951年にアメリカでも出版された絵本が日本で初めて紹介されました。翻訳はこみやゆうさん。ケーキが大好きなプードルのパンタロンが主人公。ケーキ屋さんのお手伝いがしたいのですが、ケーキ屋のベーカーさんに断られてしまいます。そんなパンタロンはベーカーさんが怪我でお休みの間、大活躍します。『あめがふるとき ちょうちょうはどこへ』(メイ・ゲアリック/文 岡部うた子/訳 1974 金の星社)や、『ちいさな島』(ゴールデン・マクドナルド/文 谷川俊太郎/訳 童話館出版 1996)の絵を描いたレナード・ワイスガードのふんわりとした素朴な絵が楽しい1冊です。 

 

『しろくまのそだてかた』うつみのりこ/作 飛鳥新社 2016/11/7

しろくまのそだてかた
うつみのりこ
飛鳥新社
2016-11-03
 
この絵本は、「子育ては大変だけど、お母さんになったときの喜びを思い出してと、ママ、パパ、おじいちゃん、おばあちゃんなど、子育てに関わるすべてのみなさんに読んで欲しいと願って、2005年に神戸でミニ絵本として誕生」したとのこと。私は10cm×14.5cmのミニ絵本をまず紹介してもらっていました。それが口コミで多くの読者に広がり、10年以上の月日を経て、この度書籍化されました。この絵本は、子どものためのというよりは、お母さんに向けてのメッセージ絵本です。子育てに疲れたママたちが、ホッとできる場所を図書館でも提供できるといいですね。 

 

『かぜ』イブ・スパング・オルセン/作 ひだにれいこ/訳 亜紀書房 2016/11/7 
かぜ
イブ・スパング・オルセン
亜紀書房
2016-10-25
 
 『つきのぼうや』(やまのうちきよこ/訳 福音館書店 1975)というデンマークのロングセラー絵本の作者、イブ・スパング・オルセンが、「風」について丁寧に描いた絵本です。絵本の形をとっていますが、文字が小さく字数が多いので、ちいさなお子さんはご家庭で読んでもらったり、小学低学年のお子さんは自分で読むのにちょうどよいでしょう。「風」といっても、そよ風もあれば、温かい南風もあり、暴風もある、そんな身近な風について姉と弟が会話しながら展開していく絵本です。
 

 (作成K・J) 

『明日の平和をさがす本300』ブックガイドをぜひ座右に


幼児から多感なYA世代を対象に、手渡したい「戦争と平和」について考えるための本のガイドとして、『明日の平和をさがす本300―戦争と平和を考える 絵本からYAまで』(宇野和美/さくまゆみこ/土居安子/西山利佳/野上暁/編著 岩崎書店 2016/11/30)が、出版されました。

本の帯に「公共図書館・学校図書館・図書ボランティア必携!」という文字が踊りますが、内容を見るとそれが大げさな表現でないことがよくわかります。編集委員の5人は、子どもの本の翻訳や編集に携わったり、児童文学を研究し子どもの本の評論をされている、信頼できるプロです。それに加えて、図書館や学校図書館の司書として、書店員として子どもたちに本を手渡す仕事をしている方々、SEALD’s選書「“今”を生き抜くための102冊」選書に携わった方、安保法案に反対するママの会事務局の方など、多彩な21名が執筆者として名前を連ね、今、子どもたちに何をどのように伝えるべきかを真摯に考察し、選書していったことがわかります。

明日の平和をさがす本 戦争と平和を考える絵本からYAまで300
宇野 和美
岩崎書店
2016-11-18
 
 (アマゾンでの配本は2016年11月18日になっていますが、本の奥付の出版年は2016年11月30日です)
 
このブックガイドの特筆すべき点は、掲載されている本が2000年~2016年9月までに出版されたものであること、幼児からYA世代まで年齢に応じて手渡せる本が網羅されていること、絵本、創作文学、そしてノンフィクション、マンガとジャンルも様々であること、巻末に本の舞台となった地域の地図(世界と日本)、時代年表などの資料も充実していることです。
また、各紹介文は1冊に1ページで、読者対象年齢、時代背景、キーワードなどがひと目でわかる表示になっており、使いやすい作りになっています。
 
もうひとつの特徴は、章ごとのコラム記事です。ここでは過去に出版された戦争と平和をテーマにした本の評論や、2000年以前に出版された本で、これからもずっと手渡し続けていきたい作品の紹介などが書かれています。
 
「はじめに」で、野上暁氏が
“日本は、1945年8月15日に、アメリカやイギリスなどの連合国を敵に回した戦争に負けて以来、一度も戦争をしていません。310万人ともいわれる、尊い犠牲者を出した反省から、憲法で戦争をしないと決めたからです。その後、世界の国々と友好関係を築き、平和が続いてきたことで経済も発展し、戦争の荒廃から立ち直し豊かな暮らしを実現できました。
 ところが、それから70年以上もたつと、戦争の悲惨な記憶がうすれ、近隣の国々を侵略したことへの反省もなく、憲法の精神をないがしろにして、戦争ができる国に変えようとする力が強まってきています。世界の各地で、いまも戦争や紛争が起こっていますから、いつまた日本がそれに関わらないとも限りません。
 子どもの本に関わる私たちは、将来にわたって戦争の悲劇を子どもたちに味わわせることを断じて避けたいと願います。”(p3)
と、記しておられます。
 
 私たちの平和な暮らしは当たり前のものではなく、先の戦争をこえて獲得したものであることを痛感します。そして私たちは、子どもたちに平和な世の中をも未来永劫手渡していくんだという決意をもって、彼らが本を通して自分たちとは違う文化があることを理解し、また人と人が信頼をし合うことの大切さを学び、さらに、現在、困難な状況にある人々へ共感の気持ちを抱けるよう事実も知らせていけるよう、本を選書し、手渡していく必要があります。このブックガイドは、その際の道しるべになると思います。

第1章 戦争ってなんだろう?
第2章 生きるための冒険
第3章 声なきものたちの戦争
第4章 子どもたちの体験
第5章 絵のちから 音楽のきぼう
第6章 伝える人 語りつぐ意志
第7章 勇気ある決断 未来への思い
第8章 平和をつくるために
(作成K・J) 

2016年9月、10月の新刊から(11/2追記あり)


  9月、10月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの本いくつかを紹介します。一部、これまでに見落としていた8月の作品も含まれています。

また、ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。すべての新刊本を購入して読むことはできませんが、教文館ナルニア国の新刊本コーナーなどにある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。YA向けの本は、読み終わるのに時間がかかっています。11月のまとめて紹介します。

 (なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

絵本

『プーさんとであった日』リンジー・マティック/文 ソフィー・ブラッコール/絵 山口文生/訳 評論社 2016/8/20

プーさんと であった日: 世界で いちばん ゆうめいな クマの ほんとうに あった お話 (児童図書館・絵本の部屋)
リンジー マティック
評論社
2016-08-27

 

今年コールデコット賞を受賞した作品です。A・A・ミルンの書いた『くまのプーさん』(石井桃子/訳 岩波書店)を知らない人はいないと思いますが、そのプーさんにモデルになったクマがいたのです。カナダ人獣医師が1914年夏に第一次世界大戦の従軍医師としてイギリスに渡った時に連れて行った子グマが、ロンドン動物園に預けられました。そのクマは獣医師の出身地ウィニペグにちなんでウィニーと名付けられます。そして戦争の終わった1925年、ミルンの息子クリストファー・ロビンは動物園でウィニーに会います。そこで、クリストファー・ロビンは自分のクマのぬいぐるみに「ウィニー・ザ・プー」と名付けるのでした。そんな事実をもとに、獣医師の孫にあたるリンジー・マティックがこの絵本の文章を書きました。巻末には写真資料もあり、サブタイトルに「世界でいちばんゆうめいなクマのほんとうにあったお話」とあるように、ノンフィクションであることがわかります。

 

『お月さまのこよみ絵本-旧暦で行事をたのしむ-』千葉望/文 阿部伸二/絵 理論社 2016/8

お月さまのこよみ絵本
千葉 望
理論社
2016-08-20
 
 日本古来の年中行事、例えばお正月やお月見、お盆などは、旧暦(太陰暦)で行われてきました。新年は必ず新月で月がないところから一年が始まります。お盆は旧暦の7月15日に行われ必ず満月になります。晴れた夜に提灯がいらないほどの明るさに照らされて夜通し踊ったことでしょう。太陽暦の中に無理やり年中行事を当てはめるために中秋の名月が毎年変わったりしていることなどもわかります。この絵本を通して、月の満ち欠けと昔の人が営んできた暮らしに思いを馳せて欲しいと思います。併せて『月の満ちかけ絵本』(大枝四郎/文 佐藤みき/絵 あすなろ書房 2012)や、『夜空をみあげよう』(松村由利子/文 ジョン・シェリー/絵 福音館書店)も紹介するとよいでしょう。 

 

 『おばあちゃんのあかいマント』ローレン・カスティーヨ/作 たがきょうこ/訳 ほるぷ出版 2016/8/25

おばあちゃんのあかいマント (海外秀作絵本)
ローレン・カスティーヨ
ほるぷ出版
2016-08-27

おばあちゃんは都会に引っ越していきました。まごのぼくが初めておばあちゃんのところへ泊まりに行きます。都会の雑踏にひるんでいるぼくにおばあちゃんはあかいマントを編んでくれます。マントを羽織ると、なんだか勇気が湧いてきて、おばあちゃんの大好きな都会の生活をあちこち覗いてまわることができました。おばあちゃんにとって、たくさんの刺激がある都会の暮らしが向いているんだなあと、その思いを共有して成長していく姿を、秋らしい色彩とともに描いた絵本です。コルデコット賞オナーブックに選ばれている絵本です。 

  

 『ひまなこなべ アイヌのむかしばなし』萱野茂/文 どいかや/絵 あすなろ書房 2016/8/30

ひまなこなべ アイヌのむかしばなし
萱野 茂
あすなろ書房
2016-08-31

 アイヌのむかしばなしが絵本になりました。アイヌに伝わるイオマンテ(熊送り)の儀式が題材になっています。カムイ(神)は、熊の姿になって人々のもとにやってきて、肉や毛皮をもたらします。それに感謝を捧げるために人々は歌って、踊り、ユカラとよばれる物語を語ります。アイヌの人々にとって自分たちの生活を豊かにしてくれる動物たち、とりわけ熊は信仰の対象であったのです。またこのおはなしには、普段家の人に丁寧に使ってもらっている小さなおなべが、神様となって出てきます。身の回りのものすべてに神が宿ると信じて大切に扱ったアイヌの人々の暮らしが昔話になっています。

 

『りゅうおうさまのたからもの』イチンノロブ・ガンバートル/文 バーサンスレン・ボロルマー/絵 津田紀子/訳 福音館書店 2016/9/15

りゅうおうさまのたからもの (世界傑作絵本シリーズ)
イチンノロブ・ガンバートル
福音館書店
2016-09-14

鳥に捕まえられたちいさな川魚を助けてあげた男の子が、そのお礼に竜王のもとに連れて行かれるところからはじまるモンゴルの昔話です。草原地帯であるモンゴルにこれほど豊かな水に関する昔話があると知って驚きました。それだけ草原での放牧に水の存在が大切だということでしょう。ガンバートル氏とボロルマーさんはご夫妻で、ともにモンゴル文化芸術大学美術学部卒。ウランバートル大学大学院修士課程修了の翻訳者津田さんとは、昨年出版された『トヤのひっこし』(福音館書店)という作品でも仕事をしています。

 

『まどべにならんだ五つのおもちゃ』ケビン・ヘンクス/作・絵 松井るり子/訳 徳間書店 2016/9/30

まどべに ならんだ 五つの おもちゃ (児童書)
ケビン ヘンクス
徳間書店
2016-09-10

 まどべに飾られた小さなお人形たちがなんとも愛らしい絵本です。なにか特別なことが起きるわけでもなく、淡々とまどべの人形たちは窓の外で起きることをじーっとみつめています。このまどべに最後に仲間入りしたのは、ねこの形のマトリョーシカ人形。さてこの人形はなにをまっているのでしょう。こちらもコールデコット賞オナーブックに選ばれた作品です。

 

『あくたれラルフのハロウィン』ジャック・ガントス/作 ニコール・ルベール/絵 こみやゆう/訳 PHP研究所 2016/9/30

あくたれラルフのハロウィン
ジャック・ガントス
PHP研究所
2016-09-17

あくたれラルフ』(石井桃子/訳 童話館出版 1994)の続編として、こみやゆう氏が翻訳した『あくたれラルフのたんじょうび』(2010)、『あくたれラルフのクリスマス』(2013)(いずれもPHP研究所)の続編として、この秋のハロウィンに向けて出版された1冊です。お友達からハロウィンのパーティーに招待されたセイラは「あなたがいちばんすきなものにへんそうしてきてね」という呼びかけにラルフになって出かけます。ラルフはその逆にセイラに変装します。さて、パーティではセイラになったラルフがいつもの通りにいたずら三昧。セイラはどうなってしまうのでしょう。ちょっぴりハラハラドキドキする絵本です。

 

『七五三だよ 一・ニ・三』長野ヒデ子/作・絵 佼成出版社 2016/10/30

七五三だよ 一・二・三
長野ヒデ子
佼成出版社
2016-10-10
 
長野ヒデ子さんによる七五三の絵本が出来ました。どうして女の子の三才と七才、男の子五才でお祝いをするのか、そのいわれを子どもにもわかりやすく伝えてくれます。この絵本では姉弟妹がちょうど七五三の年齢で、祖父母もいっしょにお参りをしてお祝いをします。子どもの成長を願う七五三の行事がこれからも長く続いて欲しいと思いました。
 
その他
 
『大人に贈る子どもの文学』猪熊葉子/作 岩波書店 2016/8/31
大人に贈る子どもの文学
猪熊 葉子
岩波書店
2016-08-31
 
今年88歳を迎えられたイギリス児童文学者であり、翻訳家でもある猪熊葉子さんが、どうしても書き残しておきたいと書かれた本が出版されました。猪熊さんの子ども時代は裕福な家庭であったにもかかわらず、母親との確執があって決して幸せではなかったとのことですが、そのような子ども時代に出会った本が猪熊さんを支えたと「おわりに」に書かれています。本の世界で出会った主人公たちとともに困難を乗り越えることによって、自分の人生を肯定できる力になったというのです。そして「自分の人生にイエスといえる幸福」を、次の世代にも手渡してほしいと願っていらっしゃいます。子どもたちに本を手渡す私たちにとって、背筋がしゃんとなるメッセージです。

(作成K・J)

2016年8月、9月の新刊から


 8月、9月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの本いくつかを紹介します。一部、これまでに見落としていた7月以前の作品も含まれています。

また、ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。すべての新刊本を購入して読むことはできませんが、教文館ナルニア国の新刊本コーナーなどにある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。 (なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

 

絵本 

『ジャック船長とちびっこかいぞく』ピーター・ベントリー/文 ヘレン・オクセンバリー/絵 やましたはるお/訳 BL出版 2016/6/20

ジャック船長とちびっこかいぞく
ピーター ベントリー
BL出版
2016-06

 6月に出版された絵本です。ジャックは、ちいさな弟や友達と砂浜で砂の船を作ります。「われら、ジャックとザックとカスパー3人ぐみ。おそれをしらない海の勇者だ」と、たちまち砂の船はかいぞく船に。男の子ならではの勇ましい海の冒険が始まります。彼らがみつけた宝物とは・・・。この絵本をみつけたのは、9月になってから。夏休み前に紹介したかった1冊です。 

 

 『おおきくなったら』チェコのわらべうた 内田莉莎子/訳 ヨセフ・ラダ/絵 福音館書店   2016/8/25

 内田莉莎子の翻訳で、ヨセフ・ラダの絵といえば『きつねものがたり』(ヨセフ・ラダ/作 福音館書店 1966)を思い出します。チェコのわらべうたをいくつか再話され、収録されています。ひとつひとつがリズミカルで、声に出して読むと味わい深いものがあります。チェコでは1954年に出版されましたが、日本では1979年に月刊「こどものとも年少版」で出版され1982年にハードカバーになっていました。この8月に久しぶりに増刷されました。

 

『ぐやんよやん』長谷川摂子/文 ながさわまさこ/絵 福音館書店  2016/8/25

ぐやん よやん (幼児絵本シリーズ)
長谷川 摂子
福音館書店
2016-08-24

2011年に亡くなられた長谷川摂子さんの月刊「こどものとも年少版」1999年6月号の作品です。こちらはこの度、はじめてハードカバーになりました。ながさわさんの音を表現した絵が不思議な世界を創り出しています。月刊誌の折込付録には長谷川摂子さんが「この絵本は読むというより、リズムと抑揚を自在につけて、思い切って声を出し、歌って楽しんでほしいのです(中略)子どもといっしょに身体を右に左に揺すぶって、心ゆくまでうねり、のたうつ感覚を味わってください」と書かれていたあったそうです。そんな風に親子で楽しんでほしい絵本です。

 

 『おいしいかぞえうた』岸田衿子/文 古矢一穂/絵 福音館書店 2016/8/25

 「こどものとも年少版」2009年12月号のハードカバー版です。子どもたちが大好きな食べ物や飲み物が10登場します。お菓子だけでなく、「くじゃがも にこにこ たべる」、「くさいや はっぱもたべる」といろいろなものが出てきます。それに合わせて『きいちごだより』(岸田衿子/文 福音館書店)などで植物を繊細に描く古矢さんの、それとは違った味わい深い絵も楽しめます。

 

 ドライバーマイルズ』ジョン・バーミンガム/作 谷川俊太郎/絵 BL出版 2016/8/25

ジョン バーニンガム
BL出版
2016-08

ジョン・バーニンガムの作品を谷川俊太郎さんが翻訳した新しい絵本です。マイルズというのは、アリスとノーマン親子が飼っている犬です。この犬がとても厄介者なのです。散歩は嫌い、ドッグフードも嫌い、雨も嫌い・・・好きなのはドライブに連れて行ってもらうこと。ある日、隣の家のハディがマイルズ用の車を作り、マイルズも運転を覚えます。犬が運転するの?と、びっくりな展開ですが、バーミンガムの絵と谷川さんの文章がマッチしていて、すんなり物語の中に入っていくことができました。

 

『はこぶ』佐々木幹郎/文 いわむらかずお/絵 復刊ドットコム 2016/8/8 

はこぶ (五感のえほん10)
佐々木 幹郎
復刊ドットコム
2016-08-18

1983年に、谷川俊太郎と小松左京が監修し、訪問販売のみで発売されたブリタニカ絵本館ピコモス( 日本ブリタニカ社刊 全25巻)のうち、生活に根付く五感を扱う絵本をセレクトし、復刊されたシリーズ“五感のえほん”全10巻の最後の1冊です。「はこぶ」というと、物流だけに目がいきますが、風が運ぶもの、水が運ぶもの、そして血液によって運ばれるウィルスも、目には見えない心を相手に届けることばも「はこぶ」ものなんだと気づかせてくれる絵本です。『14ひきシリーズ』などを出版する前のいわむらかずおさんのごく初期の作品でもあり、絵にも注目です。 

 

 『きょうはそらにまるいつき』荒井良二/作 偕成社 2016/9 

きょうはそらにまるいつき
荒井 良二
偕成社
2016-09-09

 太陽の光に比べて、柔らかく優しい光を放つ月。それぞれの場所で懸命に生きるひとりひとりの上に注がれる優しい光は、古の時代から人々を慰めてきたことでしょう。この絵本を手に取る人は、まさにその柔らかい光に包まれて、硬くなった心もほどけていくことでしょう。「みんながそらをみています きょうはそらにまるいつき ごほうびのようなおつきさま」。『あさになったのでまどをあけますよ』に続く、懸命に生きる人へ贈られるエールです。

 

 『絵巻じたて ひろがるえほん かわ』加古里子/作 福音館書店 2016/9/10

 1966年に発行されたこどものとも絵本『かわ』は、川の源流から始まって、田畑を潤し、工場を動かし、ものを運び、その周辺の人々の生活をささえて海へ注ぎ込むところまでを丁寧に描いた秀作でした。教育現場などで、この絵本を複数冊購入した上で、解体して絵巻にして子どもたちに見せているという声を聞いた編集部が、絵巻絵本の形で出そうと苦心をし、この度出版したものです。広げると全長7メートル。私たちの生活を潤してくれる川の存在を再発見できるのではないでしょうか。片面は川の水色以外はモノトーンで、こちらにテキストが入っています。片面はカラーで文字がありません。絵巻になったので最終ページの水平線は地球が丸いということがよくわかります。図書館では箱ごと装備するのか、貸出には検討が必要かもしれませんが、学校図書館などでは授業にも使えるのではないでしょうか。 

 

『ぐるりヨーロッパ街歩き たびネコさん』ケイト・バンクス/作 ローレン・カスティーヨ/絵 住吉千夏子/訳 きじとら出版 2016/9/30 

たびネコさん ~ぐるりヨーロッパ街歩き~
ケイト・バンクス
きじとら出版
2016-09-05
 
 前回に続いて、きじとら出版からの新刊を紹介します。こちらの作品は第22回国際翻訳絵本大賞(英語部門)受賞作品です。家族の旅にくっついていくネコ。ローマを出発して、マルセイユ、バルセロナ、パリ、ロンドン、アムステルダム、ミュンヘン、そしてヴェネツィアと、その都市ごとの名所を訪れます。ネコの姿を追いかけながら、ヨーロッパをぐるりと巡ることが出来る絵本です。巻末に各地の名所の解説もついています。

 

『とうだい』斉藤倫/文 小池アミイゴ/絵 福音館書店 2016/9/15

とうだい (日本傑作絵本シリーズ)
斉藤 倫
福音館書店
2016-09-14
 
福音館書店から読み物『どろぼうのどろぼん』や『せなか町から、ずっと』を発表されている詩人の斉藤倫さんの初の絵本です。小さな灯台はいつも同じ場所に立って海を照らしています。沖をいく船や、渡り鳥を見ていて、自分が動けないことを情けなく思うのですが、変わらず海を照らし続ける灯台があるからこそ、嵐の夜に船は港に戻ることができ、渡り鳥も戻ってくることができると知り、自分の役割に誇りを持つのです。淡々と綴られていることばに、温かいまなざしを感じます。
 
 
『ぱーおーぽのうた』きくちちき/作 佼成出版社 2016/9/30
 
ぱーおーぽのうた
きくちちき
佼成出版社
2016-09-20
 
ブラティスラヴァ世界絵本原画展・金のりんご賞受賞作家きくちちきさんの最新作です。この絵本の原画展が、杉並区高円寺にあるギャラリーえほんやるすばんするかいしゃで開催されていると聞き、行ってきました。この絵本は制作も、ブックデザインもきくちさんご本人とのこと。原画は黒一色の線画。それをPCに取り込んでデジタルで彩色したとのことでした。小さなぞうがのっちのっち歩き始めると、大きなぞうも、ほかの動物たちもいっしょに歩き出します。オノマトペで表現されたことばもリズミカル。絵にも躍動感があふれ、読んでいるうちに元気になってくる、そんな絵本です。(原画展の会期は10月4日まで)
 
 
児童書
 

 『やぎと少年』I・B・シンガー/作 モーリス・センダック/絵 工藤幸雄/訳 岩波書店 2016/8/4(第9刷)

やぎと少年 (岩波の愛蔵版)
I.B.シンガー
岩波書店
1979-11-26
 
ノーベル文学賞作家によるユダヤのお話集です。7篇のお話は、人間の持つ業を軽やかに笑い飛ばすような視点で書かれており、面白いものばかりです。1979年に日本で出版された本です。しばらく手に入らなかった作品がこの度、増刷されました。モーリス・センダックの繊細な絵も魅力的です。所蔵していない館はぜひこの機会に購入するとよいでしょう。

 

『ちいさな曲芸師バーナビー』バーバラ・クーニー/再話・絵 末盛千枝子/訳 現代企画室 2016/8/20

ちいさな曲芸師 バーナビー フランスに伝わるお話 (末盛千枝子ブックス)
バーバラ・クーニー
現代企画室
2016-08-06
 
 こちらは2006年にすえもりブックスから出版されていたものの復刊です。この絵本の題材になった「聖母子マリアの曲芸師」は、フランスで何百年もの間語り継がれ、オペラの題材や歌になっている伝説なのだそうです。コルデコット賞作家のバーバラ・クーニーは、パリへ取材に出かけ、700年以上前から保存されている写本を手にし、フランス中を旅をしてこの絵本のためにスケッチをしたそうです。絵本の形をとっていますが、47ページあり、児童書と分類しました。自分で読める子どもたちももちろんですが、幼い子どもたちにも読んで聞かせてあげたいおはなしです。

 

ノンフィクション

『こどものとうひょう おとなのせんきょ』かこさとし 復刊ドットコム  2016/8/22

 1983年に出版された「かこさとし◆しゃかいの本」が、この度復刊されました。民主主義=多数決と思い込みがちな私たちですが、かこさんは、「この本は、少数でもすぐれた考えや案を、狭い利害や自己中心になりやすい多数派が学び、反省する、最も大切な「民主主義の真髄」をとりもどしたいという願いでかいたものです。」と、あとがきに記しています。少数者の意見が踏みにじられていく今の社会を見ていると、余計にかこさんのことばが心に響きます。子どもたちにわかりやすい例とことばで説く優れた社会教育の1冊です。

(作成K・J)

東京子ども図書館から『ブックトークのきほん―21の事例つき』が出版されました


東京子ども図書館から『ブックトークの基本―21の事例つき』が出版されました。

近年ブックトークは、子どもたちに本を手渡す方法として、学校や公共図書館でさかんに行われるようになってきました。

すでに子どもたちの前で実践している方、これから取組みたいなと思っている方も多いのではないでしょうか。

この本では、「ブックトークの意義とその効果的方法」「ブックトークの歴史と実践のためのアドバイス」の2つの記事と、21の実践事例が掲載されていますので、

基本とおさえると同時に、ブックトークから広がる世界をたっぷり味わうことができます。ぜひ参考にしてみてください。

http://www.tcl.or.jp/pdf/invite/invite292.pdf (東京子ども図書館のホームページより

(作成T・I)

 

illust3237_thumb

 

オバマ大統領のスピーチが本になりました


2016年5月27日(金)に広島平和記念公園で語られたオバマ大統領のスピーチが、一冊の本になりポプラ社から出版されました。7月20日に出版されたこの本は、わずか1週間で第2刷になっています。

『オバマ大統領がヒロシマを訪れた日』広島テレビ放送/編 ポプラ社 2016/7/20

オバマ大統領がヒロシマを訪れた日[DVD付]
広島テレビ放送
ポプラ社
2016-07-20
 
 
 
 
歴史的にも大きな意味を持つ、現役のアメリカ大統領の訪問と、そこで語られた演説を記録し、後世に伝えていくためにと、広島テレビ放送が書籍化し、その映像のDVDとともに、こんなに早くに出版に漕ぎ着けられたということには、戦後71年が経ち、オバマ大統領が演説でも述べていたように「Someday the voice of the hibakusha will no longer be with us to bear witness. But the memory of August 6th,1945 must never fade. いつか、被爆者の声を聞けなく日がきます。しかし、1945年8月6日の朝の記憶を決して風化させてはなりません。」、つまり記録し、記憶に残すことの重要性の表れでしょう。 
オバマ大統領の演説を全文翻訳されたのは、広島市で一人出版社である「きじとら出版」の代表、小島明子さんです。小島さんは、オバマ大統領が若い世代に日本語で語りかけるならば、どのような言葉を選ぶだろうかと想像しながら、子どもたちに理解できる翻訳を心がけたとのことです。左ページに英語、右ページに日本語の対訳になっています。
 
また、小学校2年生の時に被爆した森重昭さんの手記も掲載されています。この方は、その後の生涯をかけて被爆者について調査を続けられました。とくに被爆して亡くなったアメリカ兵捕虜について調査をすすめ、ホワイトハウスにその事実を伝えてこられました。オバマ大統領の広島訪問の際に森さんを抱き寄せる姿は、ニュースを見た人々に感銘を与えました。
 
また外交ジャーナリストの手島龍一氏による解説も掲載されています。こちらは、テロリズムが横行し、また自国の利益だけを追求するナショナリズムの考え方が台頭している現在、このオバマ大統領のスピーチの持つ意味をわかりやすく解説してくれています。

ぜひ、小学校高学年からYA世代、また広く全ての年代の方に読んでいただきたい本として、ここで紹介いたします。

 

2016年6月、7月の新刊から


 6月、7月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの本いくつかを紹介します。また、ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。すべての新刊本を購入して読むことはできませんが、教文館ナルニア国の新刊本コーナーにある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。

 (なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。奥付の出版年月日とAmazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

 

********************

絵本

『みちくさしようよ!』はたこうしろう/作 奥山英治/作 ほるぷ出版 2016/6/24

はた こうしろう”
ほるぷ出版
2016-06-24
 
 2013年7月刊『むしとりにいこうよ!』(はたこうしろう/作)、2014年10月刊『ふゆのむしとり?!』(はたこうしろう/奥山英治共著)、2015年7月刊『いそあそびしようよ!』(はたこうしろう/奥山英治共著)に続く4冊目。おにいちゃんとの学校の帰り道。ほんの少しだけみちくさ、それは小さな冒険です。通学路の脇の畑で蝶の幼虫をみつけたり、桑の実を味わってみたり、アリの行列に驚嘆してみたり、神社の境内では葉っぱでひこうきを飛ばしたり・・・身近な自然の中に「!」をみつける目の大切さ、「?」と思う心の大切さを教えてくれます。ポケモンGOもいいけれど、身近な場所でちいさな発見をGet!できるといいですね。

 

『かぁかぁ もうもう』丹治匠/作 こぐま社 2016/6/24 

かぁかぁ もうもう
丹治 匠
こぐま社
2016-06-24
 
からすとうしが鳴き声自慢。お互いに自分のほうが上だといばってるうちは、どんどん大声になってとうとう喧嘩腰に。でもお互いの美しい声に耳を澄ますと・・・ことばは少ないけれど、鳴きわけしながら(!?)テンポよく、元気に読んであげたい1冊。最後はホッとして笑顔になれるおはなしです。

 

『あおのじかん』イザベル・シムレール/文・絵 石津ちひろ/訳 岩波書店 2016/6/28  

あおのじかん
イザベル・シムレール
岩波書店
2016-06-29
 
 一口に「あお」色といっても、実に多様だということを教えてくれる美しい絵本です。「おひさまがしずみ よるが やってくるまでの ひととき あたりは あおい いろに そまる―それが あおの じかん」。夜の闇が迫って来るまでの世界各地、山や湖、草原、海・・・いろいろな場所で息づく生き物たちを詩のように味わい深く、繊細な色彩と線で描き出しています。表紙見返しには32色の「あお」色が・・・「ふじいろ」、「ラベンダーいろ」、「あいいろ」はなんとなくわかりますが、「こなゆきいろ」「みずたまりいろ」「ふかいうみのいろ」など、初めて出会う「あお」色に、想像力をかきたてられます。
 
 
『セラフィナせんちょうになる』ロラン・ド・ブリュノフ/作 石津ちひろ/訳 BL出版 2016/6

ロラン・ド ブリュノフ
BL出版
2016-06

 とても洒落た色使いだと思ったらフランスの『ぞうのババール』の作者、ジャン・ド・ブリュノフの長男の作品です。ロランは、早世した父親のあとを継いで、ババールの作画を手がけていました。今回の作品は、昨年7月に出版された『キリンのセラフィナ』の続編です。1作目では夏休みにおばあちゃんのところへ出かけて行き、ともだちとおばあちゃんのためにケーキを焼こうとしていろんな失敗をしてしまうお話でしたが、今度はおばあちゃんちからヨットに乗ってともだちと一緒に家に帰っていく設定です。船長はセラフィナ。順調に航海していたと思ったら、いろんなハプニングが次々に起こって最後までドキドキしてしまいます。でも最後はホッと安心できる、そんなお話です。 

 

 『こうさぎとほしのどうくつ』わたりむつこ/作 でくねいく/絵 のら書店 2016/7

27863438_1こうさぎとほしのどうくつ [大型本]

わたり むつこ
のら書店
2016-07
 
わたりむつこさんの文章に出久根育さんが絵を描いた 『もりのおとぶくろ』(2010年4月刊)、そして『こうさぎと4ほんのマフラー』(2013年12月刊)に続く3冊目の絵本です。おばあちゃん思いのやさしい4ひきのうさぎのきょうだい。ともだちに誘われて、森の奥にあるどうくつ探検に出かけます。明かりを落として真っ暗になったとき、そこに見えたのは!・・・夏休みにちょうど読んであげたい、素敵な作品です。  
 

 『日本の川 あらかわ・すみだがわ』村松昭/作 偕成社 2016/7/7

 東京都の東部を流れる荒川そして隅田川。その源流から東京湾へ流れ込むまでを鳥瞰図で描きながら、沿岸の地勢の様子や名所などを案内してくれる作品です。この「日本の川」シリーズは、2008年1月発行の『たまがわ』にはじまり、『ちくごがわ』、『ちくまがわ・しなのがわ』、『よしのがわ』、『いしかりがわ』、『よどがわ』と続き、この本が7冊目となります。今回、この絵本を手に、Google MapとGoogle Earthで源流から東京湾まで辿ってみました。(本当は実地へ行って源流から歩いてみたいのですが・・・)そうすると、この絵本が正確であるだけでなく、子どもたちが興味を持つようなトピックスを取り上げていることがよくわかります。 

 
『なんでもないなつの日 「夏の夕ぐれ」』ウォルター・デ・ラ・メア/詩 カロリーナ・ラベイ/絵 海後礼子/訳 岩崎書店 2016/7/8
 
なんでもない なつの日 「夏の夕ぐれ」
ウォルター・デ・ラ・メア
岩崎書店
2016-07-08
 
 イギリスの詩人で児童文学作家、怪奇小説家でも知られているウォルター・デ・ラ・メアの短い詩が美しい絵本になりました。夏の太陽が傾き、夕日色にそまる農場の様子、家族は屋外で食卓を囲み、家畜たちもそれぞれに餌を食む・・・穏やかで静かなひとときを、心に残る色彩で描いてくれました。『ハロウィーンの星めぐり「夜に飛ぶものたち」』、『ホワイトクリスマス「雪」』に続くコンビの絵本です。 

 

『船を見にいく』アントニオ・コック/作 ルーカ・カインミ/絵 なかのじゅんこ/訳 きじとら出版 2016/7/11

船を見にいく
アントニオ・コック
きじとら出版
2016-07-11

 力のある海外の作品を精力的に出版している一人出版社きじとら出版の最新刊です。大型客船を造っている造船所へ、毎晩見に行く少年の目を通して、完成に向けて変化していく大型船の様子と、そこで働く人々の息吹を伝えてくれます。この絵本は、いたばしボローニャ子ども絵本館主催の第22回いたばし国際絵本翻訳大賞(イタリア語部門)受賞作品です。

 

 『えのでんタンコロ』倉部今日子/作 偕成社 2016/7/14

えのでん タンコロ
倉部 今日子
偕成社
2016-07-14

鎌倉を訪れたことのある人は一度は乗ったことのある「江ノ電」。この絵本では、孫のしょうちゃんと一緒に江ノ電に乗っていたおじいちゃんが、子どもの頃に江ノ電で活躍していた1両編成の100形電車「タンコロ」の思い出を語り始めます。昭和30年代の沿線の様子が描かれ、絵本でタイムスリップできてしまいます。作者は、鎌倉、江ノ電沿線にお住まいなんだとか。電車好きな子どもにも、昔を懐かしむ大人にもおすすめの1冊です。
 

児童書

 『モンスーンの贈りもの』ミタリ・バーキンス/作 永瀬比奈/訳 今井ちひろ/挿画 鈴木出版 2016/6/24

 アメリカ、バークレーに住む15歳の高校生のジャスミンは、夏休みの間、家族とともにインド・ムンバイに滞在することになります。目的は、社会運動家である母親が、ムンバイにある孤児院に妊婦さん向けのクリニックを立ち上げるのを、手伝うためでした。カースト制の考え方が色濃く残り、貧しい女性の生き方が限定されがちなインドという異文化に身を置く中で、自分をみつめ、そこで自分がどのように人の役に立てるのか、懸命に考えるジャスミンの姿はとても力強くて爽やかです。また、高校生が起業して自分で必要なもののためにお金を稼ぐ姿や、貧しい人でも起業できるようにする金利0のリボルビング・ローンの活用など、センチメンタルなだけでではない物語の展開は、現実を生きる若い世代の共感を呼ぶのではないでしょうか。

 

『アウシュヴィッツの図書係』アントニオ・G・イトゥルベ/著 小原京子/訳 集英社 2016/7/5 

アウシュヴィッツの図書係
アントニオ G イトゥルベ
集英社
2016-07-05

 人権剥奪の象徴のようなアウシュヴィッツ・ユダヤ人強制収容所の中に子どもたちを集めた学校があり、またその中に図書館があったなんて驚きです。戦後、生きて収容所を出ることができた図書係の少女に取材して書かれた作品です。本を持っているということが見つかれば射殺されかねないという過酷な環境の中で、8冊の「本」(どれもボロボロであったにもかかわらず)と、6冊の「生きた本」(先生たちが口述して伝える物語など)が、そこで生きる人々の希望の光となったというのです。「ディタは黙ったまま、今までに何本のマッチに火を点けてきただろうと思いめぐらした。(中略)ときには真っ暗闇のひどく辛い状況の中でも、本を開き、その世界に入り込むと灯りが灯った。彼女のちいさな図書館はマッチ箱だ。」(p312)主人公の少女ディタは、14歳。子ども時代に「本」の世界の持つ豊かさに出会っていたので、図書係という任務をやりとげることができたのです。ページを開くとびっしりと書かれた文字にひるみ、また強制収容所の酷い状況に読んでいて戦慄を覚えるのですが、ひたむきなディタの姿に希望を見出し、一気に読む進めることが出来ました。

 

 『もりモリさまの森』田島征三/作 さとうなおゆき/絵 理論社 2016/7

もりモリさまの森
田島 征三
理論社
2016-07

『やまからにげてきた・ゴミをぽいぽい』(童心社 1993)や、『たすけて』(宮入芳雄、さとうあきら/写真 童心社 1995)などの絵本で、環境問題について子ども達に投げかけてきた田島征三さんの初の童話です。理論社の編集者さんから、ぜひ読んでほしいとご案内をいただきました。「作者が20年かけて書き上げた初めての童話、人間の暮らしや行動をケモノの視点から見つめた視点が新鮮な作品」のとのことです。なお、田島征三さんのトーク&サイン会が8月30日(火)19:30~ジュンク堂池袋本店で、刊行記念講演会が8月31日(水)14:00~銀座・教文館ナルニア国ナルニアホールにて開催されます。

  

ノンフィクション

『宇宙人っているの?』長沼毅/著 吉田尚令/絵 金の星社 2016/6/21 

宇宙人っているの?
長沼 毅
金の星社
2016-06-21

 「ひとつの銀河は、およそ2000おく個の星でできているんだよ。宇宙には、その銀河が1000おく個いじょうあるんだ。」というプロローグから、おとうさんと子どもたちの会話が始まります。地球の環境から始まって太陽系、そしてその外へと次第に目線を広げながら、宇宙に存在する可能性がある生命体について、「この星に、もし宇宙人がいるとしたら、どんなすがたをしているだろう?」と、想像が広がっていきます。著者の長沼毅氏は広島大学大学院生物圏科学研究科の教授で、専門は深海生物学、微生物生態学、系統地理学です。その知識に裏付けられた想像上の宇宙生命体は、宇宙の広がりに興味を持つ子ども達に新鮮に映ることでしょう。50ページほどの絵本になっているので、低学年にもおすすめできそうです。

 

 その他

『あたらしい憲法草案のはなし』自民党の憲法改正草案を爆発的にひろめる有志連合 太郎次郎社エディタス 2016/6/22

あたらしい憲法草案のはなし
自民党の憲法改正草案を爆発的にひろめる有志連合
太郎次郎社エディタス
2016-07-02
 
2001年に童話屋から復刻出版された『あたらしい憲法のはなし』(童話屋編集部 2001)と比較しながら読めるように、装丁などを似せて出版された冊子です。今年から18歳選挙も始まり、参院選では改憲を肯定的に進めようとしている勢力が3分の2を超え、日本国憲法をこれからどうしていくのか、考えていく時期に入ってきました。改憲への考え方も、各党さまざまです。賛成するにしても、反対するにしても、今の憲法と、改正案とをしっかり比較研究することが大切です。とくにこれからこの国を担う若い世代に、関心をもってほしいと思います。『あたらしい憲法のはなし』といっしょに並べて、若い世代にぜひ手に取って欲しいなと思います。

 

『ねないこはわたし』せなけいこ/著 文藝春秋 2016/7/13

せな けいこ
文藝春秋
2016-07-13

 累計200万部と言われている『ねないこだれだ』(福音館書店 1969)の作者、せなけいこさんのエッセイです。『ねないこだれだ』と『にんじん』、『もじゃもじゃ』、『いやだいやだ』4冊でデビューしたせなさんは当時37才、2児のお母さん。『ねないこだれだ』は子どもを寝かしつけるしつけの絵本と誤解する向きもあるが、実はそうではないという告白からはじまるこの本には、せなワールドそのものが表現されています。また今まで公開されてこなかったデビュー作の原画もふんだんに紹介されています。小さい時にだれもが一度は読んでもらったこの絵本、最後はおばけになって飛んでいっちゃうというのでトラウマになったという話も聞きますが、このエッセイを読むとまた違った魅力を発見できるかもです。なお、8月31日まで銀座・教文館子どものほんの店ナルニア国の店内にてミニ原画展を開催中です。店内にはせなさんの画材道具などの展示もあります。また貼り絵で構成された原画は、絵本で見るのとは違った印象を受けます。ぜひお時間を作ってナルニア国へ行ってみてくださいね。 

 (作成K・J)

トップページに戻る