新刊本・話題の本

2016年1月の新刊から
2015年11月、12月の新刊から
2015年10月、11月の新刊から
新米のおいしい季節にこの本を!
小学館児童出版文化賞に『どろぼうのどろぼん』ほか
2015年8月、9月の新刊から
BIB金のりんご賞をミロコマチコさんが受賞
2015年に出た子どもの本〈上半期〉から
2015年7月の新刊から
2015年5月、6月の新刊から(追加あり7/2)
2015年4月の新刊から
2014年に出た子どもの本を振り返って(4)ノンフィクション編、伝記・詩・昔話編
2014年に出た子どもの本を振り返って(3)読み物編
2015年3月の新刊から
2014年に出た子どもの本を振り返って(2)絵本編

2016年1月の新刊から


昨年の12月後半から、今年の1月にかけて出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの本をいくつか紹介します。なお、ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。長編やYA向けの本は、読了してからの紹介になりますので、また次の月に紹介します。

絵本

『わたしのいえ』カーリン・エリス/作 木坂涼/訳 偕成社 2016/1/7

わたしのいえ
カーソン エリス
偕成社
2016-01-07

丘の上に建つ一軒の家から始まって、いろいろな家について思いを巡らせる。大きな家、小さな家、鳥やけもの、虫たちにとっての家、物語に出てくる家。「家」は私たちを守り、私たちが安らぐ、そんな場所。それぞれの人に、それぞれの生き方に合わせて家がある。そんなことを、美しいイラストとともに伝えてくれる1冊です。いろいろな家を思いめぐらせ、そしてまた自分の家に戻ってきます。戻る場所があるって素敵なことだなと思いました。

『ロベルトのてがみ』マリー・ホール・エッツ/作 こみやゆう/訳 好学社

ロベルトのてがみ
マリー・ホール・エッツ
好学社
2016-01-07

 『もりのなか』などの作品があるマリー・ホール・エッツの1967年の作品『BAD BOY,GOOD BOY』がこみやゆうさんの翻訳で、この度出版されました。エッツが若い頃にセツルメント運動(貧困地区の住民を援助する社会事業)に関わっていた時に出会った実在の少年をモデルにしている作品です。ロベルトは家族でメキシコからアメリカに移住してきたので、スペイン語しかわかりません。言葉が通じないことで、さまざまなトラブルを起こしてしまうのですが、子どもセンターに通い、字を覚えるようになって表情も変わってくるのです。大人の視点から読むと、子どもの貧困や、移民問題が話題になっている今、子どもたちにとって、言葉の問題が生活の中で大きな位置を示すのか、また適切な援助の手が差し伸べられることがいかに重要かわかります。でも、子どもたちの視点で読めば、自分で文字を書けた喜び、初めての手紙が家族の絆を守ったという喜びに大きな意味があるでしょう。絵本の形態ですが、文章はとても長いので、小学生向けにおすすめするとよいでしょう。

 

『ひとりぼっちのベロニカ』ロジャー・デュボアザン/作 神宮輝夫/訳 復刊ドットコム 2016/1/16

ひとりぼっちのベロニカ
ロジャー デュボアザン
復刊ドットコム
2016-01-16

1978年に佑学社から出版された『ひとりぼっちのベロニカ』は長く絶版となっていましたが、このたび復刊ドットコムから再編集ののち復刻されました。2015年11月に出版された『かばのベロニカ』に続く第2弾です。(「本のこまど」では紹介しそびれています。)何事にも興味津々のかばのベロニカは、また仲間たちから離れて高層ビルの立ち並ぶ街へやってきました。ビルの工事現場で、なにやら不思議な箱をみつけて乗ってしまいます。・・・ベロニカが巻き起こす事件は、いたずら盛りの子どもたちを惹きつけることでしょう。


『ペネロペひめとにげだしたこねこ』アリソン・マレー/作 美馬しょうこ/訳 徳間書店 2016/1/16

ペネロペひめと にげだしたこねこ (児童書)
アリソン マレー
徳間書店
2016-01-16

ペネロペひめは、真っ白なこねこを飼っています。ある日、こねこと一緒に遊ぼうとすると、こねこはピンク色の毛糸をからだに巻きつけたまま逃げ出してしまいます。お城のあっちの部屋、こっちの部屋とさまざまな騒ぎを起こしながら、ピンクの毛糸はどんどん伸びていきます。ペネロペひめが毛糸のあとを追って探しに行くと・・・とてもおしゃれで楽しい絵本です。

 

『しあわせないぬになるには にんげんにはないしょだよ!』ジョー・ウィリアムソン/作・絵 木坂涼/訳 徳間書店 2016/1/16

『ペネロペひめと・・・』と同時発売された絵本で、こちらは犬が主人公。犬としてしあわせに過ごすためには、どんなふうにすればいい?ということが犬の視点でユーモラスに描かれています。まずはどんな人間と一緒に住むかが一番大事!そしてどんなふうにふるまうか、たとえば食事についてはこんなふうに・・・「しょくじをすませたあとでも まだなんにもたべてないふりをすると もういちどもらえることがあります」 作者はファッションデザイナーとしても活躍しているだけに、こちらもおしゃれな絵本です。
  

児童書

『ウォーリーと16人のギャング』リチャード・ケネディ/作 マーク・シーモント/絵 こみやゆう/訳 大日本図書 2016/12/25

ウォーリーと16人のギャング (こころのほんばこ)
リチャード ケネディ
大日本図書
2015-12-25

 カウリックという町に、大人もふるえあがるような乱暴者のホグホーンとその手下の者、あわせて16人が押しかけてきます。ちょうどしょちょうとおまわりさんは釣りへ出かけて町には不在。大人たちは家にこもって鍵をかけ、ふるえていると・・・小さな男の子ウォーリーがホグホーンの前に現れて、力試しを申し出ます。5人の手下をかけっこで、5人の手下をはしごのぼりに、5人の手下を力比べに引き出して、勝たせたと思わせて実のところ、ホグホーンをぎゃふんと言わせてしまいます。その痛快さに、読んでいてひざを打ちたくなりました。自分で本を読めるようになった子に手渡したい1冊です。 

へっちゃらトーマス』パット・ハッチンス/作 こみやゆう/訳 大日本図書 2016/1/25

パット ハッチンス
大日本図書
2016-01-25
字をまったく覚えようとしないトーマスは、「きけん」と書いてあろうが、まわりの人が大きな声で注意しようとも、たった一言「かんけいないね」という言葉をはき、まったく無視をしてずんずん突き進みます。頭に緑色のペンキがかかろうとも、どんなトラブるを引き起こそうが、お構いなし。そうしてとうとう、トーマスはおまわりさんにつかまって・・・牢屋に保護された時に囚人のおじさんたちに字を教えてもらうと、今度はたちまち本が大好きに!絵本から読み物に移行する小学校低学年でも自分で読める幼年童話です。
 
『キキに出会った人びと 魔女の宅急便特別編』角野栄子/作 佐竹美保/画 福音館書店 2016/1/25
 
 1985年1月25日に『魔女の宅急便』の1巻目が出版されてちょうど31年目の同じ日に、本編では触れられていなかった登場人物のその後や、裏の物語を集めた特別編が出版されました。Amazonでの流通開始日は2016年1月20日になっていますが、本の奥付には「2016年1月25日」となっています。キキが最初に居候したグーチョキパン店のおソノさんの小さい時の話、なぜ「グーチョキパン店」と名付けられたか?など興味深い「ソノちゃんがおソノさんになったわけ」や、コリコ町長が体験した不思議なおはなしなどが収められています。この本を読んでいると、また本編も読み直したくなります。この本をきっかけに、『魔女の宅急便』1~6巻を再び手にとってもらえるといいですね。
 
 

ノンフィクション

『生きものビックリ食事のじかん』スティーブ・ジェンキンス&ロビン・ペイジ/作 佐藤見果夢/訳 評論社 2015/12/23

生きものビックリ食事のじかん (児童図書館・絵本の部屋)
スティーブ ジェンキンズ
評論社
2015-12-23

美しいコラージュの技法を使って、動物たちに備わっている不思議な能力や習性を、子どもたちにわかりやすく伝えてくれる知識絵本。 「どうやって・・・さかなをつかまえる?」「どうやって・・・たまごをまもる?」「どうやって・・・葉っぱをつかう?」など6つのテーマにわかれています。本文では、「わあ、すごい!」と声があがりそうな特徴だけを伝えていますが、巻末に詳しい説明がつけられています。この本を入門書にして、動物たちが命をつなぐために、どのような生活をしているのか、さらに詳しく調べてみようとするきっかけになるとよいな、と思います。
(担当K・J)

2015年11月、12月の新刊から


 先月の新刊紹介で11月に出た本もいくつか紹介しましたが、見落としていた作品もありました。11月に出版された本も追加して新刊を紹介します。選書などの参考にしていただけるとありがたいです。 

絵本

『クリスマスイヴの木』デリア・ハディノ/文 エミリー・サットン/絵 三原泉/訳 BL出版 2015/11/1

デリア ハディ
BL出版
2015-11

 しっかりと植えられなかったために、曲がって大きくなれなかったモミの木は、クリスマスイブの夜になっても売れ残ったままでした。そのモミの木をもらった男の子は橋の下のねぐらへと持ち帰ります。その夜、ホームレス仲間のおじいさんがツリーのそばでバンドネオンを弾き鳴らし、そのまわりにクリスマスキャロルを歌う人の輪が出来上がります。きらびやかな家がなくても、豪華なご馳走がなくても、ささやかな喜びを分かち合う姿に心が温かくなります。その後、このモミの木は掃除のおじさんの機転で公園に植えられ大きく育っていくのですが、この男の子はその後どうなったかは描かれていません。男の子が幸せに育っていてほしいと願いつつこの絵本を閉じました。

 

『おもち!』石津ちひろ/作 村上康成/絵  小峰書店 2015/11/12

おもち! (にじいろえほん)
石津 ちひろ
小峰書店
2015-11-12

 ことば遊びの達人、石津ちひろさんのリズミカルで元気な言葉がお餅つきの情景を描き出します。村上康成さんのユーモラスな絵も、搗きたてで、よ~くのびるお餅にぴったり。昔はお正月を迎える準備にどこの家でも年末には臼と杵を出してきて餅つきをしたものですが、今では臼と杵で搗く餅つきは子どもたちには珍しいかもしれませんね。

 

『いちばんのなかよしさん』エリック・カール/作 アーサー・ビナード/訳 偕成社 2015/11

いちばんのなかよしさん
エリック・カール
偕成社
2015-11-18

 いつも何をするにも一緒だったお友達が、ある日突然いなくなってしまいます。やっぱり一緒がいい!と男の子は探しに出かけます。この絵本の裏見返しにエリック・カールの3歳の時の写真が載っています。当時仲良しだった女の子と、この絵本の表紙のようにぎゅ~っと抱きしめあっている写真です。エリックが幼少期を過ごしたニューヨークのお隣の女の子でした。でもエリックの家族はドイツへ引越し、長い年月が経つうちに相手の名前もわからなくなったままだったそうです。ところが、この絵本が出版されたことで写真に写っていた女の子のお嬢さんが気がつき、80年ぶりにお互いの存在がわかったそうです。素敵なおまけですね。

『かようびのドレス』ボニ・アッシュバーン/作 ジュリア・デーノス/絵 小川糸/訳 ほるぷ出版 2015/11/20

かようびのドレス (海外秀作絵本)
ボニ・アッシュバーン
ほるぷ出版
2015-11-20

先月、紹介した『おじいちゃんのコート』と同じように、大好きだった服がいつのまにか着古して小さくなるたびに、ほかのものに変身していくというおはなしの女の子版です。お気に入りのたくさんフリルのついたドレスが小さくなってしまった時、ママが「ぎゃくてんのはっそうがだいじ」といいながら、違うものに仕立て直してくれます。柔らかなパステルカラーで描かれた絵は、おしゃれが大好きな女の子の夢が詰まっているようにも見えます。

 

ユーゴ修道士と本をあいしすぎたクマ』ケイティ・ビービ/文 S.D.シンドラー/絵 千葉茂樹/訳 光村教育図書 2015/12/20

ケイティ ビービ
光村教育図書
2015-12-20
修道院の図書館から大事な経典を借りたまま返せなかったユーゴ修道士。それはクマに襲われた時にとっさに本を投げつけたからでしたが、クマはその味をしめてしまいます。ユーゴ修道士は別の修道院から経典を借り、仲間たちに助けてもらって写本を完成させます。そして経典を返しに行くのですが・・・本の味に目覚めたクマに出会わなきゃいいですね。この絵本を読んでいると中世の書物の作られる過程や、扱いについても興味を持つのではないでしょうか。中世フランスでほんとうにあったお話をベースに作られた絵本だそうです。

 

児童書

『どうぶつたちがはしっていく』長新太/作 子どもの未来社 2015/11/26

どうぶつたちがはしっていく 1 (長新太のおはなし絵本)
長 新太
子どもの未来社
2015-11-26

 「長新太のおはなし絵本」として『キャベツくんのおしゃべり』と2冊が同時に出版されました。絵本となっていますが、絵本から読み物へ移る幼稚園の年長さんくらいから小学校低学年の子どもたちにちょうどよい幼年童話です。「どうぶつたちがはしっていく」「ゾウのオネエサン」の2話が収録されています。とにかくおもしろい長新太ワールドが広がります。 

『キャベツくんのおしゃべり』長新太/作 子どもの未来社 2015/11/26

 こちらには「キャベツくんのおしゃべり」のほか、「ゾウのオジイサン」「こうえんのすなば」の3話が収録されています。長新太さんならではの、おかしくも、ちょっぴりシュールな世界が繰り広げられています。読んであげてもいいし、自分でも読める、そんな短いお話です。

『さかさ町』F・エマーソン・アンドリュース/作 ルイス・スロボドキン/絵 こみやゆう/訳 岩波書店 2015/12/17

さかさ町
F.エマーソン・アンドリュース
岩波書店
2015-12-18
 
リッキーとアンの兄妹は自分たちだけでランカスターに住むおじいちゃんを訪ねていくために汽車に乗っていました。ところが途中で橋が壊れて前に進めなくなり、「さかさ町」という見知らぬ町で一日待たされることになりました。この町はその名のとおり、なにもかもが逆さま。なんだかへんてこりんな町です。でも、読めばこんな町があればいいのになぁ~ときっと思うことでしょう。こちらも幼稚園年長さんくらいから小学生低学年向けの幼年童話です。
 
『ゆうかんな猫ミランダ』エレナー・エスティス/作 エドワード・アーディゾーニ/絵 津森優子/訳 岩波書店 2015/12/15
ゆうかんな猫ミランダ
エレナー・エスティス
岩波書店
2015-12-16
 
読み終わって感じたのは、どんな困難な時にも生命を生み育てる母性の強さでした。物語はうんと昔のローマの街。まだコロッセオでライオンのショーが行われていたような昔です。人間の家族に飼われていた母猫のミランダは、ある時蛮族が街を襲い火をつけたことから人間の家族と離れてしまい、迫り来る火と煙の中を子猫たちを連れて逃げていきます。途中で親猫からはぐれた子猫も一緒に・・・街外れのコロッセオに着いた頃には子猫の数は34匹。おまけに自分にも赤ちゃんが4匹生まれます。さあ、ミランダはどうやってたくさんの子猫たちを育て守っていくのでしょう。この物語の作者は『百まいのドレス』のエレナー・エスティス、そして繊細な絵はエドワード・アーディゾーニです。
 
『少年キム』ラドヤード・キプリング/作 三辺律子/訳  岩波少年文庫 岩波書店 2015/11/17
少年キム(上) (岩波少年文庫)
ラドヤード・キプリング
岩波書店
2015-11-18

少年キム(下) (岩波少年文庫)
ラドヤード・キプリング
岩波書店
2015-11-18
 
英国初史上最年少ノーベル文学賞受賞作家で『ジャングル・ブック』でも有名なラドヤード・キプリングの作品です。日本では『少年キムの冒険』(亀山竜樹/訳 世界名作全集 講談社 1960)、『少年キム』(斎藤兆史/訳 晶文社 1997)など既にほかの訳者によって発表されてきた作品ですが、この度若手翻訳家の三辺さんにより岩波少年文庫として出版されました。大英帝国が植民地としていた19世紀のインドを舞台に、13歳の孤児キムがチベットのラマ(高僧)と出会い、伝説の聖なる河を探す旅に出ます。当時ロシアもインドの覇権を狙っており、キムは英国側のスパイとしての活動もすることになります。利発なキムはスパイとして「大いなるゲーム」に加わりながらも、ラマの弟子としてその教えも彼の中に深く影響を与えていきます。多感な時期を懸命に生きるキムの姿から目が離せなくなります。三辺さんは今年5月には『ジャングル・ブック』を岩波少年文庫として訳していらっしゃいます。合わせて読んでほしいと思います。
 
 『お静かに、父が昼寝しております ユダヤの民話』母袋夏生/編訳 岩波少年文庫 岩波書店 2015/12/17
お静かに、父が昼寝しております――ユダヤの民話 (岩波少年文庫)
岩波書店
2015-12-17
 
紀元70年にローマ帝国がイスラエル王国を滅ぼして以来、世界中に散らばって生活を続けているユダヤ民族に伝わる昔話を集めて母袋さんが翻訳されました。世界各地に伝わる昔話が32編、旧約聖書の創世記の中から6編の合わせて38編が紹介されています。「あとがき」を読むと、これらの昔話は口承で伝えられ、記録されるようになったのは19世紀末になってからとのこと。20世紀以降中東問題の火種となり続けているイスラエル建国のことも含めて、ユダヤ民族が2000年もの間バラバラになりながらも伝えてきた文化、考え方に触れることができるのも、そのために多くの研究者の労があってのことと感じ入ります。どのお話も既知に富んだものばかりです。
 
その他
『10代のためのYAブックガイド150』金原瑞人、ひこ田中/監修 ポプラ社 2015/11/10
今すぐ読みたい! 10代のための YAブックガイド150!
ポプラ社
2015-11-11
 
金原瑞人さんとひこ田中さんが選んだYA世代向けのブックガイドです。この本の出版記念の金原さんのトークショーに行った際に、“ティーンエイジャーって、先生や親に隠れて本を読みたいわけで・・・ここに挙げているのはそんな本。決して良い本というわけではない。その世代って性のこととか、暴力とか、とにかく近づいちゃダメというものに近づきたい時代。そんな多感な時期に読んでほしい本を選んである”とおっしゃっていたのが、とても印象的でした。自分も親や先生に反抗してた時期がありました。その時の気持ちを思い出して、YA世代に本を手渡せるといいなと思います。
 
 
『司書が先生とつくる学校図書館』福岡淳子/作 玉川大学出版部 2015/11
司書と先生がつくる学校図書館
福岡 淳子
玉川大学出版部
2015-11-28
 
中野区で長く図書館指導員として学校図書館の仕事をしてこられた筆者が、学校教育の中でどのように司書教諭をはじめとして先生方と協働して、図書館を利用する教育を展開していったのか、学校司書としてそれにどのように関わってこられたのかを克明に書き綴った実践記録です。読書の支援だけではなく、どのように蔵書構成を作るのか、また学年別にどのように働きかけをすればよいのか、ということが具体的に書かれており、学校図書館現場で働く人の力強い味方になってくれる1冊です。
 
『石井桃子談話集 子どもに歯ごたえのある本を』石井桃子/著 河出書房新社 2015/12/9
子どもに歯ごたえのある本を
石井 桃子
河出書房新社
2015-12-09

 1965年から2007年までの雑誌や出版社から出される小冊子に残された石井桃子さんへのインタビュー記事、あるいは対談をまとめて「石井桃子談話集」としている本です。内容は今までの石井桃子さんのエッセイで読んだことのあるものなのですが、インタビュアーによって様々な聞き方、つっこみ方をしていて、石井桃子さんの素の姿が立ち現れてくるかのようです。たとえば詩人の吉原幸子さんは、そのものズバリ「ご家族はお持ちにならなかった。」「ずっとお一人でいらっしゃいます?」「たとえば、『ノンちゃん』に出てくる少年が戦争から帰ってこなかったように、密かに待ってた方が、帰っていらっしゃらなかったとか。」などと質問し、それに対して石井桃子さんが「「そりゃね、結婚しようかと思った人はありましたけどもね、とてもその頃はね。」などと答えていらっしゃり、人間味溢れる人物像が浮き上がります。タイトルになっている「子どもに歯ごたえのある本を」は、1996年8月の『文藝春秋』掲載の短いインタビュー記事です。他にも何編か、「子どもの本」について論じているものもありますが、それ以上に約40年強の時間の中から拾い上げられてまとめられた談話集であるにもかかわらず一貫して語られる子どもへの、創作への変わらぬ姿勢というものに敬服いたしました。

 (作成K・J)

2015年10月、11月の新刊から


2015年10月、11月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの本を紹介します。

絵本

『スワン アンナ・パブロワのゆめ』ローレル・スナイダー/文 ジュリー・モースタッド/絵 石津ちひろ/訳 BL出版 2015/10/20
ローレル スナイダー
BL出版
2015-10
 
20世紀の初めに活躍した ロシアの伝説的なバレリーナ、アンナ・パブロワを題材にした絵本。「ひん死の白鳥」で世界的に有名になったパブロワが、貧しかった子ども時代を思い出して小さな村にまで出かけて行って踊ったことなどが描かれています。絵がとても美しい絵本ですが、パブロワの一生を描くという点では、終わり方が少し中途半端な気がします。それでもバレリーナを題材にした絵本が少ないので、バレエに興味を持つ子どもたちに手渡してあげてもよいでしょう。またこの絵本から、今年6月に出版された『夢へ翔けて 戦争孤児から世界的バレリーナへ』(ミケーラ・デプリンス、エレーン・デプリンス/文 田中奈津子/訳 ポプラ社 2015/06)につなげてあげるとよいでしょう。
 
『子どものためのラ・フォンテーヌのおはなし』マーガレット・ワイズ・ブラウン/再話 アンドレ・エレ/絵 あべきみこ/訳 こぐま社 2015/10/24
子どものためのラ・フォンテーヌのおはなし
マーガレット・ワイズ ブラウン
こぐま社
2015-10-24
 
イソップの物語を17世紀のフランスの詩人ジャン・ド・フォンテーヌ(1621-1695)が寓話集にしたものを、マーガレット・ワイズ・ブラウンが再話したものです。「コオロギとアリ」「キツネとぶどう」「オオカミとヤギと子ヤギ」など、読めばどこかで聞いたことのあるおはなしばかり13話が収められています。アンドレ・エレの絵もはっきりとしてわかりやすく想像をかきたてます。 
 
『おじいちゃんのコート』ジム・エイルズワース/文 バーバラ・マクリントック/絵 ほるぷ出版 2015/10/28
おじいちゃんのコート (海外秀作絵本)
ジム エイルズワース
ほるぷ出版
2015-10-28
 
イディッシュ語(東ヨーロッパなどで使用されるユダヤ人の言語)の民謡が元になっているおはなしです。同じ民謡を元にした絵本に『おじいさんならできる』(フィービ・ギルマン/作 芦田ルリ/訳 福音館書店 1998)や、コールデコット賞受賞作の『ヨセフのだいじなコート』(シムズ・タバック/作 木坂涼/訳 フレーベル館 2001)があります。それぞれの作品は、最初が赤ちゃんの時におじいさんに贈られたブランケットだったり、すりきれた古いコートだったりするのですが、この作品では仕立て屋だったおじいちゃんが結婚する時に自分で仕立てたコートがはじまりです。古くなってすりきれるたびに上着やベスト、ネクタイと変化していくところは同じですが、最後には孫のためのねずみのおもちゃになるのです。『ないしょのおともだち』(ビバリー・ドノフリオ/作 ほるぷ出版 2009)などの作品があるバーバラ・マクリントックの絵は、品があり、家族の暖かさを伝えてくれます。並べて展示をしても面白いと思います。  
 
『わいわいきのこの おいわいかい』レーマ・ペトルシャーンスカヤ/文 タチヤーナ・マーヴリナ/絵 まきのはらようこ/訳 保坂健太郎/きのこ監修 カランダーシ 2015/11/2
わいわいきのこのおいわいかい きのこ解説つき
レーマ・ペトルシャーンスカヤ
カランダーシ
2015-11-02
 
 ロシアの絵本を専門に出版しているひとり出版社カランダーシ(K・Jの大学の同級生がやっています)から新しい絵本が出ました。国際アンデルセン賞受賞画家タチヤーナ・マーヴリナの描くきのこのにぎやかな声が聞こえてきそうな楽しい絵本です。おはなしの中でも、さまざまなきのこの特徴が描かれていますが、絵本の末尾に国立科学博物館 植物研究部 菌類・藻類研究グループ研究員の保坂健太郎氏によるカラー写真付のきのこの解説もあり、一層おはなしに親しみがもてることでしょう。
 
 『ゆき』きくちちき ほるぷ出版 2015/11/20
ゆき (ほるぷ創作絵本)
きくちちき
ほるぷ出版
2015-11-20
 
2013年にブラティスラヴァ世界絵本原画展で見事「金のりんご」賞を受賞されたきくちちきさんの最新作が出版されました。パリの古本屋さんでブーテ・ド・モンヴェルの絵本に出会い、衝撃を受けて100年以上読み継がれる絵本を作りたいと絵本を創り始められたきくちちきさんですが、一作ごとに絵本の表現も磨かれていっています。きくちさんが生まれ育った北海道の大地を舞台に晩秋の森に雪が降り始め、やがて一面の雪に閉ざされるまでをダイナミックな筆使いで描いた作品です。動物や子どもたちの息遣いも聞こえてきそうです。  

『おうさまのくつ』ヘレン・ビル/文 ルイス・スロボドキン/絵 こみやゆう/訳 瑞雲舎 2015/11/24
おうさまのくつ
ヘレン ビル
瑞雲舎
2015-11-24
 
うぬぼれやのくつが、自分たちこそお城に住むのにふさわしいと、はりきってお城へ出かけていくのですが、どしゃぶりの雨にふられてしまいます。そしてお城中に泥まみれの足あとをつけて、追い返されるはめに・・・お城の中でのやり放題なくつにはハラハラドキドキするでしょう。しかし、その後くつがどのようになったかの結末は子どもたちにとってもホッとするものです。 
 
 
児童書

『クリスマスの森』ルイーズ・ファティオ/文 ロジャー・デュボアザン/絵 つちやきょうこ/訳 福音館書店 2015/10/7

クリスマスの森 (世界傑作絵本シリーズ)
ルイーズ・ファティオ
福音館書店
2015-10-07
 
プレゼントの準備に忙しくて寝不足のまま、トナカイたちと飛び立ったサンタクロースは、プレゼントを配り始める前に一休み。おくさんが作ってくれたコーヒーを飲んでサンドイッチを食べると睡魔が襲ってきて眠り込んでしまいます。このままではプレゼントがみんなのところに届きません。そこで森の動物たちが大活躍。デュボアザンの絵も温かい雰囲気を醸し、ほのぼのとした物語です。 
 
 
『ハリーとうたうおとなりさん』ジーン・ジオン/文 マーガレット・ブロイ・グレアム/絵 こみやゆう/訳 大日本図書 2015/11/25
ジーン ジオン
大日本図書
2015-11
 
どろんこハリー』(福音館書店 1964) などの絵本でハリーのファンになった子どもたちに読んでほしい幼年童話です。ハリーの家のとなりに住む歌手のおばさんは、いつも高く大きな声で歌の練習をしています。ハリーにはそれがとても不快でした。なんとか歌うのをやめさせようとするのですが・・・ハリーにとっても歌手のおとなりさんにとってもハッピーな解決方法はあるのかしら。今年1月に亡くなられたマーガレット・ブロイ・グレアムの最新邦訳の1冊です。
 
 
 『雪の女王』ハンス・クリスチャンセン・アンデルセン/作 サンナ・アンヌッカ/絵 こみやゆう/訳 中央出版(アノニマスタジオ) 2015/11/6
雪の女王
ハンス・クリスチャン アンデルセン
KTC中央出版
2015-11-06
 
フィンランドのファッションブランド、マリメッコのデザイナー サンナ・アンヌッカが絵と装丁を手がけた美しい本です。児童室に置くには字体も小さいので迷うかもしれません。それでもこみやゆう氏による翻訳は読みやすく、おしゃれに敏感なYA世代には手にとってもらえるのではないかと思います。同じくサンナ・アンヌッカが描き、こみやゆう氏が翻訳したの『もみの木』(ハンス・クリスチャン・アンデルセン/作 サンナ・アンヌッカ/絵 こみやゆう/訳 中央出版(アノニマスタジオ) 2013)と合わせて、アンデルセン童話の真髄を伝える試みも面白いと思います。 
 
『北風のうしろの国』上・下 ジョージ・マクドナルド/作 脇明子./訳 岩波少年文庫 岩波書店 2015/1016
北風のうしろの国(上) (岩波少年文庫)
ジョージ・マクドナルド
岩波書店
2015-10-17

北風のうしろの国(下) (岩波少年文庫)
ジョージ・マクドナルド
岩波書店
2015-10-17
 
 19世紀のイギリスを代表する児童文学作家のジョージ・マクドナルドの作品で、1868年から69年にかけて『Good Words for the Young」という雑誌に連載されていた物語が1871年に単行本化された作品です。当時、イギリスは産業革命を成し遂げ、日本は1968年に明治維新が起きています。ダイヤモンドという主人公の男の子は、美しい北風と出会い、北風のうしろの国へ行ってきます。そこはとても美しく平和で、誰もが穏やかに過ごしていました。そこから戻ってきてからのダイヤモンドは、人の痛みに寄り添い、素晴らしい働きをします。どの時代にも貧富の差があり、貧しいながらも高潔な気持ちを保ちながら懸命に生きていた子どもたちがいたのだということ感じました。1977年に田谷多枝子訳で太平出版から出され、2005年にはハヤカワ文庫として中村妙子訳が出版されています。この度岩波少年文庫となり、現代の子どもたちに手渡されることになりました。脇明子さんの翻訳も子どもたちにとって、読みやすいでしょう。
 
『だれもが知ってる小さな国』有川浩/作 村上勉/絵 講談社 2015/10/28
だれもが知ってる小さな国
有川 浩
講談社
2015-10-28
 
 子ども時代に佐藤さとるの『だれも知らない小さな国』をはじめとするコロボックル物語シリーズを愛読していた有川浩さんが、その続きの物語を完成され、出版されました。昨年、『コロボックル絵物語』(村上勉/絵 講談社)を出版された時から、単行本の出版を予告されており楽しみにしていました。(講談社「コロボックル物語」特設ページは→こちら)この本の語り手は「ヒコ」という男の子。養蜂家の両親に連れられて日本中を転々とする生活をしています。そのヒコが、ある時小人のハリー(ハリエンジュノヒコ=ハヤタ)と出会います。お話の舞台も主役も違っていますが、佐藤さとるさんのコロボックルの世界観をしっかりと引き継いで、物語が展開していきます。佐藤さとるさんの作品も青い鳥文庫や講談社文庫で手に入ります。合わせて読んでもらえるような展示ができるとよいでしょう。(連載「基本図書を読む⑮『だれも知らない小さな国』の記事は→こちら
 
『森のプレゼント』ローラ・インガルス・ワイルダー/作 安野光雅/絵・訳 朝日出版社 2015/11/20 
森のプレゼント
ローラ・インガルス・ワイルダー
朝日出版社
2015-11-20
 
『大草原の小さな家』の作家、ローラ・インガルス・ワイルダーの子ども時代のあるクリスマスの数日が描かれた美しい本です。普段は離れた場所で生活をしているおじさん一家がやってくるので、両親も準備に忙しくしています。そして久しぶりのいとこ同士の再会のシーンもとても心温まります。家族がお互いを想い合って手作りのプレゼントを作ったり、クリスマスプレゼントにもらったキャンデーを大切にするなど、今のクリスマスの風景とは随分違っています。安野光雅さんの描く絵も優しく美しく、私たちの心を温めてくれる、そんな1冊です。
 
 
ノンフィクション
『世界でいちばん貧しい大統領からきみへ』くさばよしみ/編 田口実千代/絵 汐文社 2015/10/9
世界でいちばん貧しい大統領からきみへ
くさば よしみ
汐文社
2015-10-09

 2014年3月に出版されて話題になった絵本『世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ』(くさばよしみ/編 中川学/絵 汐文社 2014)を受けて出版された南米・ウルグアイのホセ・ムヒカ前大統領へのインタビューを小学生でも読みやすいようにまとめたものです。「いちばん大切なものは命なんだ。お金で命を買うことはできないんだよ。命は奇跡なんだ。」という語りかけは、前大統領の信念でもあり、その生き方は多くのことを私たちに教えてくれます。世界が憎しみに憎しみで報復しようとしている今だからこそ、子どもたちに読んでほしいと思います。 

 

その他

『読む力・聴く力』河合隼雄 立花隆 谷川俊太郎 岩波現代文庫 岩波書店 2015/10/17

読む力・聴く力 (岩波現代文庫)
河合 隼雄
岩波書店
2015-10-17
 
2005年11月20日に小樽市民会館で行われた絵本・児童文学研究センター主催の第10回文化セミナー「読む 聞く」を一冊にまとめた本です。2006年に岩波書店から単行本として出版(現在、品切れ中)されたものが、このほど岩波現代文庫として出版されました。2007年に79歳で亡くなられた河合隼雄氏の「読むこと・聴くこと・生きること」と、立花隆氏の「人間の未来と読むこと・聴くこと」、そして詩人の谷川俊太郎氏がコーディネーターになってのシンポジウムとどれも示唆に富む内容です。
 
 『「エルマーのぼうけん」をかいた女性 ルース・S・ガーネット』前沢明枝 福音館書店 2015/11/18
「エルマーのぼうけん」をかいた女性 ルース・S・ガネット (福音館の単行本)
前沢 明枝
福音館書店
2015-11-18
 
『エルマーのぼうけん』の著者、ルース・S・ガーネットさんが2010年に来日した時に通訳した児童文学の翻訳者前沢さんが、その後渡米してルースにインタビューをして書いた人物記です。書評家だったルースの父親の友人に『100まんびきのねこ』の作者、ワンダ・ガアグがいて、父親はルースがワンダ・ガアグと結婚するのではないかと思っていたというエピソードや、父親の再婚相手で継母は『ミス・ヒッコリーと森の仲間たち』(キャロライン・シャーウィンベイリー/作 福音館文庫 2005)でも絵を描いている画家で、ルースが『エルマーのぼうけん』(原題は「ぼくのおとうさんのりゅう」)の物語を書いた時に、その世界観を描いてくれる画家を探していた時に継母が一番それにふさわしい絵を描いてくれたというエピソードなどが盛り込まれています。絵本から読み物へ移行するときに、だれもが一度は手にする『エルマーのぼうけん』がどのように誕生したかがわかる1冊です。
 
(作成K・J)

新米のおいしい季節にこの本を!


10月に入って、あちこちで稲刈りが行われ、新米のおいしい季節が訪れました。日本人にとって、炊きたての白いご飯はなによりのご馳走なのではないでしょうか。

そんな季節におすすめの1冊です。

『稲と日本人』甲斐信枝/作 佐藤洋一郎/監修 福音館書店 2015/9/5

稲と日本人 (福音館の科学シリーズ)
甲斐 信枝
福音館書店
2015-09-02

 

 

福音館書店の『稲と日本人』についての詳細ページは→こちら

科学絵本『たねがとぶ』や『雑草のくらし あき地の五年間』など、植物について丁寧に観察して描く作品を多く手がけてきた甲斐信枝さん、85歳での渾身の作です。私たち、日本人の生活や文化は二千数百年という稲作農業と切っても切れない関係があります。 

そのことを歴史的な背景から、わかりやすく解き明かしてくれる1冊です。絵本なのに、読み終えると、新書本1冊読み終えたような気分になります。小学生の調べ学習の導入としても手渡してあげたいと思います。

小学館児童出版文化賞に『どろぼうのどろぼん』ほか


今年度の小学館児童出版文化賞に、『どろぼうのどろぼん』(斉藤倫/作 牡丹靖佳/イラスト 福音館書店 2014/9)が、写真絵本『オオサンショウウオ』(福田幸広/写真 ゆうきえつこ/文 そうえん社 2014/7)とともに決定いたしました。→小学館のプレスリリース

特に『どろぼうのどろぼん』は、詩人の斉藤倫さんの美しい文章が印象的な作品です。「子どもというには年をとりすぎているけど、おじいさんというには若すぎる。背はのっぽというには低すぎるけど、ちびというには高すぎる」という、特徴のないどろぼうのどろぼんは、声なきモノの声が聞こえる不思議な能力を持っていて、持ち主がその存在さえ忘れてしまったモノを盗み出し(救い出し)ているのです。

そんなどろぼんにある雨の日に刑事であるぼくは出会います。そのシーンは、「あじさいの小さな花びらのひとつひとつに雨つぶが包まれるように当たって、そのささやかな音がたくさん集まって冷たい空気をふるわせていた。あじさいにはじかれた雨つぶは、さらに小さくくだけて紫色の煙幕になり、むせかえるようにあたりをかすませていた。それがどろぼんと、ぼくの出会いだった。」(p6)と、心の襞の中にじんわりと染み込むような文章で描かれています。

どろぼんは、事情聴取で、刑事たちに、それまでの盗みについて打ち明けます。ぼくをはじめとして、聴取にかかわった人々はどろぼんの不思議な話にどんどん引き込まれていきます。読む者もいっしょになって、その不思議なお話に魅了されることでしょう。

そのどろぼんがある夏の夜に、あるものの声を聞き、そのものとの関係を築く中で、能力が失われていくのです。その時にどろぼんは自分の生き方を見つめ直します。読み終わったあとに、まるでどろぼんがそうであるように、その特徴を言い表せないようなふんわりと温かい気持ちになっている、そんな作品です。

大きな事件や心躍る冒険があるわけでもなく、私たちの日常のすぐそばにあるそんな物語ですが、モノと人との関係や、人と命あるものとの関係など、さまざまなことを考えさせてくれる作品です。図書館の棚の中に、もし目立たずに眠っていたら、ぜひ面出しをして光をあててあげてほしいと思います。


 (作成 K・J)

2015年8月、9月の新刊から


2015年8月、9月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの本を紹介します。

絵本

『はね』 曹文軒/作 ホジェル・メロ/絵 濱野京子/訳 マイティブック 2015/8/31

曹 文軒
マイティブック
2015-08
2014年に上橋菜穂子さんと共に国際アンデルセン賞を受賞したブラジルの画家ホジェル・メロ氏の日本初の翻訳絵本です。文章は2016年のら国際アンデルセン賞に中国から推薦されている曹文軒氏。読んでもらった子は、自分はどこから来て、どこへ行くのかという根源的な問いを「はね」を通して考えるきっかけになることでしょう。大人の入口にいる子どもたちに読んでほしいと出版社は勧めていますが、ホジェル・メロ氏の美しい絵と濱野京子さんの美しい日本語の物語は、5、6歳の子どもでも読んで聞かせてもらえれば十分にその作品世界に入っていくことができます。この絵本を出版したマイティブックは一人出版社ですが、こうして国際アンデルセン賞受賞作家の絵本を日本で初出版してくれました。ぜひ図書館でも購入して、多くの子どもたちに手渡してほしいと願います。

 

『ゴリラのおとうちゃん』 三浦太郎/作 こぐま社 2015/9/1

ゴリラのおとうちゃん
三浦 太郎
こぐま社
2015-09
こちらは赤ちゃん絵本として人気のある『くっついた』『なーらんだ』などの作者、三浦太郎さんの新作絵本です。おとうとさんと子どもが身体を使って遊ぶ様子を、とても楽しく描いた絵本です。“おとうさんすべりだい”、“おとうちゃんひこうき”など、子どもたちが大好きな遊びが満載。こんな風に父と子が触れ合って遊べるのは子育ての中のほんの短い間だけです。いっぱい遊んでもらった子は、父性への信頼を深めることでしょう。そんな安心して読んでもらえる1冊です。

 

『戦争と平和を見つめる絵本 わたしの「やめて」』 自由と平和のための京大有志の会声明書【こども語訳】 塚本やすし/絵 朝日新聞出版 2015/9/11

戦争と平和を見つめる絵本 わたしの「やめて」
自由と平和のための京大有志の会
朝日新聞出版
2015-09-11
9月15日の朝日新聞朝刊「天声人語」でこの絵本が取り上げられました。この夏、終戦70年の節目の年に安保法案をめぐって国民の間でさまざまな意見が交わされました。そうした動きのひとつとして「自由と平和のための京大有志の会」が7月に出した声明を、子どもたちにわかりやすい形で埼玉県在住の塾講師山岡信幸さんが訳して会のホームページに載せました。それを見た絵本作家の塚本やすしさんが、多くの子どもたちに知ってほしいと、急いで絵を描き、緊急出版された絵本です。普通、絵本の絵は対象の子どもたちに合わせて、何度も検討がなされ、描き直されるものなのですが、この作品は日数をかけずに逆に勢いで描かれており、それが子どもたちに大切なことを訴える力にもなっています。その後多くのメディアでも紹介されました。子どもたちにいろいろなことを考えるきっかけを与えてくれる1冊になるでしょう。

 

児童書

『ルイージといじわるなへいたいさん』 ルイス・スロボドキン/作・絵 こみやゆう/訳 徳間書店 2015/9/10

ルイージといじわるなへいたいさん (児童書)

ルイス スロボドキン
徳間書店
2015-09-10
コールデコット賞受賞作家スロボドキンのユーモア溢れる幼年童話です。ルイージという小学生の男の子はイタリアの国境近くの小さな村に住んでいます。そして毎週土曜日にバスに乗ってスイスに住むバイオリンの先生のところへ通っています。いつもは国境警備隊の兵士はルイージのことを優しく見守るだけで、荷物を調べたりしません。ところがある日いじわるな兵隊さんがバスに乗り込んで、ルイージのお弁当箱まで開けさせて調べるようになります。それを知ったバイオリンのタリアティーニ先生は、その兵隊さんをこらしめてやろうと決心します。一体どんな風にしてこらしめるのでしょう?絵本を卒業する年齢の子どもたちに手渡したい1冊です。小さな子どもたちには読んで聞かせてあげましょう。 

 

『大きなたまご』 オリバー・バターワース/作 松岡享子/訳 岩波少年文庫 岩波書店 2015/8/19

大きなたまご (岩波少年文庫)
オリバー・バターワース
岩波書店
2015-08-19
この本は、1968年に学習研究社から出版されましたが、長く絶版になっていました。この度、岩波少年文庫として蘇りました。アメリカ、ニューハンプシャー州の小さな町、フリーダムに住むネイトの家で飼うめんどりが、とても大きな卵を産みます。それから6週間が過ぎた頃、そのたまごがとうとう孵ります。ネイトたちがそこに見たものは、なんと恐竜トリケラトプスの赤ん坊だったのです。さて、そこからが大変。6千万年前に絶滅したはずの恐竜が、化石ではなく生きた存在として生まれたのですから研究者を始め、多くの人が小さな町に押し寄せてきます。その一方でネイトがアンクル・ビーズレーと名付けたトリケラトプスを剥製にすべきだという国会議員まで現れます。さてさてどうなるのでしょう。50年前のアメリカの子どもたちに親しまれたこの物語、ぜひ今の子どもたちにも、楽しんでもらいたいと思います。

 

 『岸辺のヤービ』 梨木香歩/作 小沢さかえ/画 福音館書店 2015/9/9

岸辺のヤービ (福音館創作童話シリーズ)

梨木 香歩
福音館書店
2015-09-09
梨木香歩さんが久々に小学高学年からの世代に親しめる美しくも楽しいファンタジー作品を生み出しました。この本は美しい箱入りです。そして箱の内側も見逃してほしくないのですが、図書館の本は箱を外して装備するので残念ですね・・・美しいのは装丁でけではなく、物語の流れもとても美しい 梨木さんの自然への思い、生きとし生けるものへの温かい眼差しを感じる物語です。この物語の舞台はマッドガイド・ウォーターという小さな三日月湖の岸辺です。その近くにある寄宿学校の教師である「わたし」が、湖に浮かべたボートの中で読書をしている時に、はりねずみのような姿をしているクーイ族の小さな男の子ヤービと出会うことで物語が始まります。読み終わって爽やかな一陣の風が吹き渡るような気持ちになりました。多くの子どもたちにもヤービに出会ってほしいと思います。

  
『ぼくたちに翼があったころ コルチャック先生と107人の子どもたち』 タミ・シェム=トヴ/作 樋口範子/訳 岡本よしろう/画 2015/9/16

ぼくたちに翼があったころ コルチャック先生と107人の子どもたち (世界傑作童話シリーズ)
タミ・シェム=トヴ
福音館書店
2015-09-16
ユダヤ系ポーランド人で医者であり、教育者であったヤヌシュ・コルチャックと、彼がその生涯を捧げた「孤児たちの家」の子どもたちとの生活を描いたノンフィクション・ノベルです。「かけこみ所」と呼ばれる孤児収容施設で虐待により足の骨を骨折した後、コルチャック先生のもとで生活を始めるヤネクという少年の目を通して、コルチャック先生の教育方針、つまり子どもたちの権利を尊重し、ひとりひとりの特質を見抜き、的確なアドバイスを与えて伸ばしていく、そのような「孤児たちの家」での様子を描きます。子どもたちはお互いの存在を認め、許し合い、信頼関係を築いていきます。それはまさに、次に紹介する『暴力は絶対だめ!』でリンドグレーンが訴えた教育を具現化したものでした。この物語は第二次世界大戦勃発の前の「孤児たちの家」の様子を描いて終わっています。その後、ナチス・ドイツによってコルチャック先生と子どもたちはワルシャワ・ゲットーに移され、自分だけは恩赦を受けられる機会があったのにコルチャック先生は子どもたちと共に強制収容所に行き、共にガス室で虐殺されてしまいます。この本は、多くのことを私たちに投げかけてくれています。小学校高学年くらいから読める作品です。なお、著者の前作『父さんの手紙はぜんぶおぼえた』(母袋夏生/訳 岩波書店 2011)もぜひ、子どもたちに手渡してほしいと思います。 
 
ノンフィクション

『暴力は絶対だめ!』 アストリッド・リンドグレーン/作 石井登志子/訳 荒井良二/挿画 岩波書店 2015/8/7

暴力は絶対だめ!
アストリッド・リンドグレーン
岩波書店
2015-08-07
1978年に行われたドイツ書店協会平和賞授賞式で、『長くつ下のピッピ』の作者、リンドグレーンが行ったスピーチがこの度一冊の本として刊行されました。当時のスウェーデンでは体罰についての白熱した議論が繰り広げられており、一部の大人は子どもを躾けるのに体罰が必要だと主張していました。それに呼応して世界の平和を望むのであれば、まず子どもたちが安心して育つ家庭が必要であること、親が子どもを暴力で支配するのではなく互いに敬意をもちながら、大人が規範を示していく必要があること、愛情たっぷり育てることは、放任を意味するのではなく、子どもたちが自分で考えて自分の行動に責任を持つことに繋がる、そしてそうして育てられた者は暴力と手を切ることができるとリンドグレーンは訴えています。それが世界を平和に導いていく第一歩であると。世界中に溢れている暴力、内戦のニュースに子どもたちも触れることの多い今、どうしたら本当の平和が訪れるのか、子ども達と一緒に読んでそれを考えるきっかけにしてほしいと思います。 

 
『自然のとびら』 ケイ・マグワイア/文 ダニエル・クロル/絵 さいとうみわ/訳 アノニマ・スタジオ 2015/8/21
自然のとびら
ケイ・マグワイア
アノニマ・スタジオ
2015-08-21 
 「自然は、わたしたちのそばにいます。ただそこに、背すじをただし、呼吸をし、生きています。」という文章ではじまる『自然のとびら』。四季折々の自然の変化を、“庭”、“野菜畑”、“森”、“農場”、“畑”、“池”、“果樹園”、“街”の8つの場面で追っていく図鑑のような美しい絵本です。私たちの身近な自然へ目を向けさせ、私たちが自然の一部であることや、自然からの恩恵をたくさん受けていることを伝えてくれます。子どもたちの“センス・オブ・ワンダー”、“何だろう?不思議だな”って感じる気持ちに答えてくれる宝石箱のような一冊です。
 
 
その他
 omura1982年に、子どもの本の出版社として出発したJULA出版局。その案内には「子どもの本の世界に新風を巻き起こすような、新しく独創的な本の出版をめざし、小さい出版社、JULA出版局の冒険ははじまりました。絵本、子どもと大人が一緒に読む詩集、子どものことをみんなで考えていこうとする本など、JULAは領域を広げ、子どもたちの明日に役立つ本の発行を志し、旅をつづけています。」とあります。そんな出版社がどのようにして生まれたのかを、代表の大村祐子さんが講演会で語りました。それをまとめた冊子がこのほど出来上がりました。とても薄い冊子ですが、「子どもに本を手渡すとはどういうことか」ということを問いかける内容はとても濃いのです。この冊子も大手の流通にはのらないと思いますが、ぜひ児童サービス担当の方々には手にとって読んでほしいと思います。申込方法は、こちらをご覧下さい。→JULA出版局サイト
 
(作成 K・J)  

BIB金のりんご賞をミロコマチコさんが受賞


2013年のきくちちきさん、はいじまのぶひこさんに次いで、今年のブラティスラヴァ国際絵本原画展でミロコマチコさんが金のりんご賞を受賞しました。

受賞作品は『オレときいろ』(WAVE出版 2014)です。

オレときいろ
ミロコ マチコ
WAVE出版
2014-11-11

 

 

 

前回の受賞記事は→こちら

ミロコ
さんの生命力と躍動感あふれる表現の世界が、国際的にも認められた嬉しいニュースでした。

その他の受賞作品については、JBBY公式サイトへ→こちら

2015年に出た子どもの本〈上半期〉から


8月5日(水)に教文館ナルニア国で行われた「2015年夏休み特別企画・夜のブックトークの会“2015年に出た子どもの本〈上半期〉よりおすすめの本”」に参加してきました。

「本のこまど」では、今年1月よりほぼ毎月新刊情報を発信していますが、すべての本を手にすることがなかなかできず抜け落ちている作品がたくさんいくつかありました。その中からいくつか手にして読み、特筆すべきものをご紹介します。また当日ご紹介いただいたものをリストにまとめました。「本のこまど」新刊情報で紹介したものには「紹介済」と記載しています。

【フィクション】

『アラスカの小さな家族 バラードクリークのボー』カークパトリック・ヒル/作 レウィン・ファム/絵 田中奈津子/訳 講談社 2015

アラスカの小さな家族 バラードクリークのボー (文学の扉)
カークパトリック・ヒル
講談社
2015-01-16

 

この本の作者はアラスカ・フェアバンクス在住です。長い間小学校を先生をしていましたが多くの本の中でアラスカが誤ったイメージで捉えられているのに不満を感じ、アラスカを舞台に本を書くようになりました。ゴールドラッシュで湧いたアラスカにもそれが終焉を迎える時が来ます。そのような1920年代のアラスカの自然の中で天真爛漫に育つボーという少女。彼女を育てるのは二人のお父さんです。・・・という出だしから惹きつけられる作品です。

『アルカーディのゴール』ユージン・イェルチン/作・絵 若林千鶴/訳 岩波書店 2015

アルカーディのゴール
ユージン・イェルチン
岩波書店
2015-02-14

旧ソ連のスターリン政権下、孤児院育ちのアルカーディはサッカー選手という夢に向って一生懸命にボールを追いかけていました。あるとき謎の男に養子として迎えられるのですが・・・国の政治体制に子どももまた理不尽な思いをするのですが、その中で夢を失わないアルカーディの姿が印象的です。ロシア系ユダヤ人の作者の著作には『スターリンの鼻が落っこちた』(若林千鶴/訳 岩波書店 2013年)があります。 

 『狐物語』レオポルド・ショヴォー/作 山脇百合子/訳 福音館書店 2015

狐物語 (福音館古典童話シリーズ)
福音館書店
2015-06-17

フランスの中世に成立した動物叙事詩をレオポルド・ショボーが編集し絵を描いた作品『狐物語』をなんと『ぐりとぐら』の絵でお馴染みの山脇百合子さんが翻訳しました。山脇さんは以前、福音館書店から『狐物語』をやさしく直した『きつねのルナール』(2002年)を絵と翻訳両方を手がけて出版されています。それがきっかけで高学年向きに訳されたのです。しなやかな訳文が中世の物語を生き生きと今の子どもたちにも伝えてくれます。

 

【ノンフィクション】

『ハートのはっぱ かたばみ』多田多恵子/文 広野多珂子/絵 福音館書店 2015

ハートの はっぱ かたばみ (かがくのとも絵本)
多田 多恵子
福音館書店
2015-03-04
 
以前、福音館書店の「かがくのとも」編集部の方のお話を伺う機会がありました。子どもたちの身近にある自然の不思議さ、素晴らしさに気がついてほしいと丁寧に絵本を作っているとのことでした。私たちの足元に健気に生えている「かたばみ」が、とても愛おしく感じられる、そんな作品です。
 
『アイちゃんのいる教室 3年1組』高倉正樹/文・写真 偕成社 2015
アイちゃんのいる教室 3年1組
高倉 正樹
偕成社
2015-01-28
 
『アイちゃんのいる教室』の続編が出版されました。アイちゃんも3年生になりました。アイちゃんを取り巻く子どもたちはみんなとてもよい表情をしています。それはアイちゃんにダウン症という障害があるからまわりが特別なことをしているからではなく、先生も教室のひとりひとりの個性を大切にしているからだということがわかります。子どもたちがお互いに影響を与え合い成長していく様子がとてもよくわかります。
 
『テンプル・グランディン 自閉症と生きる』サイ・モンゴメリー/著 杉本詠美/訳 汐文社 2015
テンプル・グランディン―自閉症と生きる
サイ モンゴメリー
汐文社
2015-02-26
 
自閉症をもつテンプル・グランディンは、タイム誌で「世界で最も影響力をもつ100人」に選ばれました。動物愛護活動家でもあり、同時に食肉処理施設の設計者である彼女の子ども時代から今に至る歩みを描いたノンフィクションです。
 
『ガザ 戦争しか知らないこどもたち』清田明宏 ポプラ社 2015   
ガザ: 戦争しか知らないこどもたち (単行本)
清田 明宏
ポプラ社
2015-05-27
 
イスラエルとパレスチナの紛争は1948年以降断続的に続いています。2000年代に入ってからもすでに4度の戦争が起きています。そのような厳しい状況下でも生まれ、育つ子どもたちがいます。そして彼らは「それでも、わたしはガザを再建する。わたしたちが再建する。」と将来に希望を持ち続けているのです。どうしたら戦争のない世界にできるのか、子ども達と一緒に考えたい1冊です。
 
『戦場』亀山亮/著 晶文社 2015
戦場
亀山 亮
晶文社
2015-01-31

上に紹介した本もそうだが、わたしたちにとって「戦争」とは何かを知ることのできる一番の教材は、戦地へ出かけていって戦場の様子を知らせてくれるカメラマンたちが知らせてくれる写真集です。『戦場』の作者、亀山氏はパレスチナ取材で片目を撃たれて失明したにもかかわらず、日本には情報の届きにくい中東やアフリカの戦場の画像を撮り続けました。戦争とは何なのかを突きつける渾身の作品です。

こちらのリストは、教文館ナルニア国の「2015年夏休み特別企画・夜のブックトークの会“2015年に出た子どもの本〈上半期〉よりおすすめの本”」で紹介された本をリスト化したものです。図書館での選書などの参考にしてください。

2015年上半期に出た子どもの本おすすめリスト

(K・T) 

2015年7月の新刊から


2015年7月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの本を紹介します。

絵本

『せいめいのれきし改訂版』バージニア・リー・バートン 文・絵 いしいももこ訳 まなべまこと監修 岩波書店 2015/7/22

せいめいのれきし 改訂版
バージニア・リー・バートン
岩波書店
2015-07-22

1964年に石井桃子の翻訳で出版されて以来、長く読み継がれてきた名作『せいめいのれきし』は、多くの子どもたちに地球科学や古生物への関心を抱かせ、大きな影響を与えてきました。しかしここ20年ほどで地殻変動や気候変動、進化の流れなどについて新しい知見が出され、内容が一部古くなってきていました。その一方で、地球誕生から現在に至るまでの生命のつながりをプロローグ+5つの場面(幕)でわかりやすく伝えながら、その生命のつながりの中に今の私がいるということを伝えるバージニア・リー・バートンの秀逸なる絵物語に勝るものはほかにはなく、その考え方は子どもたちにぜひ伝えたいと思ってきました。アメリカでは2009年に『LIFE STORY Update Edition』が出版され、それを基にこの度日本でも改訂版として、新しい知見を反映した新訳が出版されました。監修を務めたのは国立科学博物館生命進化史研究グループ長の真鍋真氏で、石井桃子の訳を生かしながら東京子ども図書館の協力のもと、改訂が行われました。旧版と見比べながらぜひ中身を確認していただきたいのですが、例えばプロローグ2場の「太陽系」の説明ページでは、「太陽の家族にあたる、九つの惑星のひとつで」というところが、「太陽の家族にあたる、8つの惑星のひとつで」と書き直され、絵からも冥王星が削除されています。特に生物が誕生してからの記述は最新の知見に合わせて時代区分や生物の名前などが多くが書き直されていますが、5幕はほとんどが石井桃子訳のままに残されています。初版から50年間もの間に64刷40万部出版されて読み継がれたこの作品を、この改訂により、現代の子どもたちにも自信を持って手渡していくことができるでしょう。岩波書店での紹介ページは→こちら 

『アンドルーのひみつきち』ドリス・バーン 文・絵 千葉茂樹 訳 岩波書店 2015/7/7

アンドルーのひみつきち
ドリス・バーン
岩波書店
2015-07-07

 

昨年の秋に「本のこまど」でも紹介した『クリスティーナとおおきなはこ』(偕成社)の絵を描いたドリス・バーンの作品です。『クリスティーナ・・・』では大きな冷蔵庫の入っていたダンボール箱を次々に形を変えて遊ぶ子どもを描いていましたが、今度のテーマは「ひみつきち」です。アンドルーは身近にあるモノを使って次々に発明をし、様々な作品を作り上げますが、家庭の中では邪魔者扱いにされ、さっさと片付けるように注意をされてしまいます。思い切り自分の作品作りがしたいと思ったアンドルーは、秘密基地になる場所をみつけ、そこに自分の居場所を作ります。ところがそこには、同じように自分の居場所を求めて他の子どもたちも集まってきます。この絵本の良いところは、秘密基地を作って出て行った子どもたちが親に自分たちのやっていることの価値を認めてもらって、また家庭に居場所を作ることです。親たちの子どもの気持ちに寄り添い、理解しようとする姿勢に、読んでもらう子ども達も安心感を味わうことができるでしょう。

 『しりたがりやのこねこのポコ』安藤美紀夫 文 スズキコージ 絵 復刊ドットコム 2015/7/21

しりたがりやのこねこのポコ
安藤 美紀夫
復刊ドットコム
2015-07-22

 1979年に文研ジョイフルえほんNo.59として出版されていて、長く絶版になっていた絵本が読者の要望に応えて復刊されました。まさとくんちにもらわれてきたねこのポコは好奇心満々。ある日まさとくんの家族が出かけてしまった留守の間にポコはまだ行ったことのない2階へと上がって行きます。子ども部屋で、絵本の世界に引き込まれ、絵本の中で不思議な冒険を続けていきます。安藤美紀夫のリズミカルな文章に合わせたスズキコージの絵が、その不思議な雰囲気を一層醸し出しています。

 

『いそあそび しようよ!』はたこうしろう 文・絵 奥山英治 文 ほるぷ出版 2015/7/18

いそあそびしようよ! (ほるぷ創作絵本)
はた こうしろう
ほるぷ出版
2015-07-18

 夏休みにおばあちゃんのいる海辺の町へ出かけた兄弟が、おばあちゃんの知恵を基にして、磯でいろいろな生き物をみつけて実に楽しそうに遊びます。砂浜と違ってたくさんの生き物のいる磯ですが、岩がごつごつしていて怪我もしやすい場所でもあります。絵本の中ではさりげなく磯遊びのための安全な出で立ちなども説明をしながら、子どもたちの興味関心を引き出すように、兄弟が生き生きと楽しんでいる様子を描いています。生き物の生態なども描かれており、磯遊びのお供に出来る1冊です。また、共著者の奥山さんは雑誌『BE-PAL』に連載記事を書いている日本野生生物研究所の研究員です。(公式ブログは→こちら)なお、2013年に出版された『むしとりにいこうよ!』、2014年に出版された『ふゆのむしとり』の続編です。はたこうしろうさんのサイト→『いそあそびしようよ!

 

 児童書

 『波のそこにも』末吉暁子 著 佐竹美保 挿絵 偕成社 2015/7/15

波のそこにも
末吉暁子
偕成社
2015-07-15
 
「ぞくぞく村のおばけ」シリーズや「ざわざわ森のがんこちゃん」シリーズなどのロングセラーを書いている末吉暁子さんの本格的な歴史ファンタジーです。「平家物語」に描かれる壇ノ浦の合戦でわずか8歳で祖母にあたる尼御前に抱かれて身を投げた安徳天皇が水底の国で生きていたら、という想定で繰り広げられる物語です。皇子が主人公の女の子タマオをはじめとする水底の国に住む人々と出会い、帝の御印である宝剣を探す旅に出かけます。周囲の人に守られるのが当たり前のように思っていた皇子が旅を通して成長していく様子や、タマオの微かな恋の物語などを織り込みながら、また日本神話をベースにして描かれた『地と潮の王』(藤川秀之 挿絵 講談社 1996)や、羽衣伝説をベースにして描かれた『水のしろたえ』(丹地陽子 挿絵 理論社 2008)とも繋がって物語は展開していきます。結末はとてもほっとできるもので、「がんこちゃん」シリーズなどに親しんできた子どもたちにも、4年生くらいから手渡せる作品になっています。絵は『魔女の宅急便』3巻以降や『魔法使いハウルと火の悪魔』などのイラストを手がける佐竹美保さんです。
 
 
『スカラブ号の夏休み 上』『スカラブ号の夏休み 下』アーサー・ランサム 著 神宮輝夫 訳 岩波少年文庫 岩波書店 2015/7/16
スカラブ号の夏休み(下) (岩波少年文庫 ランサム・サーガ)
アーサー・ランサム
岩波書店
2015-07-16
 
 「本のこまど」本に関する情報→連載「基本図書を読む」14回で紹介をしたアーサー・ランサムの『ツバメ号とアマゾン号』から始まるランサム・サーガの11巻目が少年文庫として出版されました。この物語の重要な登場人物は2巻の『ツバメの谷』に出てくるアマゾン海賊(ナンシィとペギィのブラケット姉妹)の大おばと、4巻目の『長い冬休み』に登場するドロシアとディックというカラム家の姉弟(D’s)たちです。ナンシィとペギィ姉妹の母親ブラケット夫人の招待で、夏休みを北の湖で過ごそうと楽しみにしてやってきたD’sでしたが、実はブラケット夫人とナンシィたちの叔父であるフリント船長は旅行中でした。ブラケット夫人は、子どもたちの自律を信じて招くのですが、「娘たちを使用人に任せて留守にするなんて」と、躾に厳しい大おばがその事実を知って急遽やってくることになり、彼らはブラケット家に居られなくなります。アマゾン海賊の提案で森の中の「犬小屋」に潜伏することになったD’sと、大おばの前では白いワンピースを着ておしとやかに振舞うアマゾン海賊の涙ぐましい演技、ワンマンな大おばに振り回されながらも、たくましくその困難を楽しんでいる様子の子どもたちの姿は私たちを惹きつけ、物語の急展開と相まってぐいぐい引き込まれていきます。70年以上前に書かれた物語ですが、理不尽にも子どもを型にはめようと押さえつける大人に対抗して、知恵を働かせる子供たちの姿は、現代の子どもが読んでも、きっと面白いと思います。ランサム・サーガの魅力に、この『スカラブ号の夏休み』で出会って欲しいと思います。

 

『トンネルの森1945』角野栄子 著 大庭賢哉 挿画  角川書店 2015/7/20

トンネルの森 1945<トンネルの森 1945>
角野 栄子
KADOKAWA / メディアファクトリー
2015-07-20

 角野栄子さんご自身の戦争体験から書き下ろした作品です。この本を読むと、当時の小学生が置かれていた状況がとても手に取るようにわかります。平和だった日々の生活が一変し、田舎に疎開する、大切な人が空襲で亡くなる、父親が行方不明になるというようなエピソードはこれまでも多くの作家が子ども向けに書いてきました。この本では、子どもの気持ちの動きを中心にして描き、田舎の緑深い情景描写が、凛として静かに響いてきます。疎開していた山奥の一軒家と小学校などのある村を隔てるトンネルのような森の道を「トンネル」と表現し、その先に見えてくる光が象徴的に描かれています。それは子ども心にいつか戦争が終わるという微かな希望に繋がっているようにも感じました。

 その他

『最後の詩集』長田弘 著  大橋歩 イラスト みすず書房 2015/7/2

最後の詩集
長田 弘
みすず書房
2015-07-02

 今年の5月3日に75歳で亡くなられた詩人・長田弘さんの文字通りの「最後の詩集」です。前半は十五篇の詩が、後半は、「日々の楽しみ」という短いエッセイが六篇収められています。いずれも2013年以降から昨年末までの間に発表されたものだそうです。長田さんの晩年の物事を静謐に見つめる視線を感じる詩や文章です。この詩集の原稿を出版社に推敲して渡した時点で、長田さんご自身は「これが最後」という覚悟をしていらしたとのこと。(みすず書房のサイト→こちら)児童向けではありませんが、「子どもの詩」(読売新聞)の選者として長年子どもたちに関わってきた長田弘さんに敬意を表し、こちらで紹介させていただきます。

(K・J)

2015年5月、6月の新刊から(追加あり7/2)


2015年5月、6月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの本を紹介します。

5月23日(土)から7月13日(月)の会期で銀座・教文館ウェンライトホールで開催中の「エドワード・アーディゾーニ展―英国イラストレーションの伝統―」に合わせて、アーディゾーニの新刊が出されたこと、4月末に亡くなったマーシャ・ブラウンのデビュー作品が邦訳されたこと、また夏休みに向けてノンフィクションの本に面白いものがいくつか出されたことなど、特筆すべきものがいくつかありました。ぜひ自分でも手にとって確認してみてください。

*エドワード・アーディゾーニの本*

『エドワード・アーディゾーニ 若い日の自伝』エドワード・アーディゾーニ 阿部公子訳 こぐま社 2015/5/21

エドワード・アーディゾーニ―若き日の自伝
エドワード アーディゾーニ
こぐま社
2015-05-21
 文字通り、アーディゾーニが物心ついた頃、5歳くらいからの若い日々を記憶を辿って克明に描いたイラストともに振り返る自伝。驚くのは彼の記憶力の良さで、6歳の頃に住んでいたイースト・バーゴルドの散歩道に日々草やゼラニウム、スミレやセンノウが咲いていたことを覚えていたり、小学生の時期に過ごしたイプスウィッチの町中で目撃した夫婦喧嘩の様子、とくに肉厚な女性のむき出しの二の腕まで覚えているのです。18歳で軍隊への入隊を志望するものの入隊できず、それまで絵を描くことを慰めとしていたアーディゾーニが本格的に絵を学んで行く様子など、『チムとゆうかんなせんちょうさん』が世に出るまでの前半生は読み物としても、画集としても興味深いです。特に1900年生まれのアーディゾーニの幼少期の家の中の設えや服装など、100年前のイギリスの暮らしを垣間見ることが出来ます。なお「人生を織りなすのは「懐しさ」。アーディゾーニこそ「懐しさ」の巨匠だった。」という帯の言葉はこの5月に亡くなられた長田弘さんのものです。

『エドワード・アーディゾーニ 友へのスケッチ』エドワード・アーディゾーニ ジュディ・テイラー編 阿部公子訳 こぐま社 2015/6/1

エドワード・アーディゾーニ 友へのスケッチ
エドワード アーディゾーニ
こぐま社
2001-06-01
 2001年に出版されたいたスケッチ集が、「エドワード・アーディゾーニ展」開催に合わせて増刷されました。ここに収められている絵はすべて家族や友人へ送った手紙です。アーディゾーニは自分が見聞したものを克明に描いて、それを手紙として送っていたのでした。絵に付けられた短い言葉には彼の優しさやユーモア溢れており、アーディゾーニをさらに深く理解することが出来そうです。

『詩集 ライラックの枝野クロウタドリ』ジェイムス・リーブス エドワード・アーディゾーニ 間崎ルリ子訳 こぐま社 2015/5/27

詩集 ライラックの枝のクロウタドリ
ジェイムズ リーヴズ
こぐま社
2015-05-27
 イギリスの詩人で、子どものための詩やお話を手がけたジェイムズ・リーヴズの詩に、アーディゾーニがイラストをつけた詩集です。英語圏では1952年に出版され長く読み継がれてきていた作品です。この詩集を翻訳された間崎ルリ子さんは、若い頃にニューヨーク公共図書館で児童図書館員として働いていた時に、この詩集を読んで聞かせてもらっていたというのです。長く日本では出版されていませんでしたが、2012年にこぐま社から完訳版の『チムとゆうかんなせんちょうさん』が出版された折に来日して教文館ナルニア国で講演されたイギリス児童文学評論家のブライアン・オルダーソン氏が「二十世紀に出た一番すぐれた本」と称され、出版の運びとなったようです。翻訳の言葉も子どもたちの耳に心地よいように、丁寧に選ばれており、アーディゾーニの挿絵とともに詩のもつ味わいにも十分触れてほしいと思います。 
 

*マーシャ・ブラウンのデビュー作品*

『ちいさなメリーゴーランド』マーシャ・ブラウン こみやゆう訳 瑞雲舎 2015/6/20

ちいさなメリーゴーランド
マーシャ・ブラウン
瑞雲舎
2015-06-20
 1946年にアメリカで出版されていたマーシャ・ブラウンのデビュー作です。5月7日の「追悼 マーシャ・ブラウン」という記事でもお知らせしたとおり、マーシャ・ブラウンは今年の4月28日に亡くなりました。絵本の最後に「この作品について」と題して、マーシャ・ブラウン自身がデビュー当時を振り返って短い文章を寄せています。その日付は「2015年1月3日」。まさに彼女の最後の仕事となったのでした。まだ、通りで子どもたちが遊ぶことが出来た時代に、移動式のメリーゴーランドが馬車でやってきます。子どもたちは大喜び。貧しい家のアンソニーも乗りたいけれど、おこずかいを持っていません。そんなアンソニーを見ていたメリーゴーランドを引いてきたコレッリさんはアンソニーにメリーゴーランドを回す仕事を手伝わせ、その代償に最後に乗せてくれたのでした。メリーゴーランドから降りてきた時のアンソニーの喜びの表情ったら!マーシャ・ブラウンの原点を見たような気がしました。 

*その他のこみやゆうの翻訳作品*

『ベッツィ・メイとにんぎょう』イーニッド・ブライトン ジョーン・G・トーマス こみやゆう訳 岩波書店 2015/5/27

ベッツィ・メイと にんぎょう
イーニッド・ブライトン
岩波書店
2015-05-27
 もうすぐ6歳になる女の子ベッツィ・メイの日常の何気ない出来事が9つのおはなしになって収められています。どれも子どもらしい、ちょっとしたエピソードが巻き起こるのですが、両親も乳母のナニーも温かく育っていくのを見守ってくれているということがわかります。「ベッツィ・メイ おにんぎょうとパーティーをひらく」などは、ベッツィが楽しみにしていたお隣のピーターの家でのパーティーに風邪をひいて行けなくなるのですが、ナニーが子ども部屋にあるお人形たちを座らせて、素敵なティーパーティーのセッティングをしてくれるのです。相手がお人形なら風邪をうつす心配もないですものね。この作品は1940年に発表されましたが、今回初めて邦訳が出版されました。絵を描いているのは、“ジョーン・G・トーマス”ですが、あとがきで翻訳者のこみやさんが、『テディ・ロビンソン』シリーズや『思い出のマーニー』を書いた作家ジョーン・G・ロビンソンのことだと説明しています。そうやって読むとロビンソンの『おはようスーちゃん』の女の子にもベッツィ・メイは雰囲気が似ているように思います。絵本から読み物へ移行する時期の幼年童話としておすすめです。同じ原書から分冊して『ベッツィ・メイとこいぬ』が4月末に発行されています。 

『かわうそオスカーのすべりだい』ナサニエル・ベンチリー アーノルド・ローベル 小宮由訳 好学社 2015/5/25

かわうそオスカーのすべりだい
ナサニエル・ベンチリー
好学社
2015-05-25
 かわうそのオスカーは滑り台で遊ぶのが大好きです。もっと高いところから滑りたくなって、お父さんの止めるのも無視して山のてっぺんへ向かっていきます。ところがオスカーを狙うきつねが現われ、さらにそのきつねを狙っておおかみが現れます。オスカーはいったいどうなっちゃうのでしょう。この本も絵本から読み物へ移行していく時期の子どもたちにぴったりです。テンポよくお話が進んでいくので、初めて読み物を手にする子どもたちも自分で次々ページをめくって読み進めることが出来るでしょう。 
 

*絵本*

『あかいはねのふくろう』フェリンドル・オラル 広松由希子訳 復刊ドットコム 2015/5/30

あかいはねのふくろう
フェリドゥン・オラル
復刊ドットコム
2015-05-30 
 昨年、日本各地の美術館を巡回したブラティスラヴァ国際絵本原画展のノミネート作品への中学生までが投票出来る「子ども審査員賞」で各地で一位を獲得したトルコの絵本作家フェリンドル・オラルの絵本です。昨年、私も平塚市立美術館での展示を見ましたが、文章はトルコ語で書かれているのにも関わらず、絵の美しさと、流れるようなストーリー展開から、文字が読めなくても作品世界にぐっと惹き込まれるという不思議な体験をしました。その人気ぶりを受けて、ブラティスラヴァ国際絵本原画展の審査員でもある広松由希子さんが翻訳されました。ぜひ、手にとって読んでみてください。
 

『ロンと海からきた漁師』チェ・ジェンホン 平岡敦訳 徳間書店 2015/6/11

ロンと海からきた漁師 (児童書)
チェン ジャンホン
徳間書店
2015-06-11
 『ウェン王子とトラ』などの作品があるチェン・ジャンホンの新作絵本です。ロンは親を亡くしひとりで漁をしています。ある嵐の夜、どうしても食料を得るために亡くなった父親の言いつけをやぶって漁に出ます。その時、釣竿に引っかかってきたのは、なんとガイコツでした。ガイコツを自分の家に連れて帰り、食べ物を分け与えると・・・実は、ガイコツは嵐の海で息子を亡くした漁師でした。とても力強い筆致で描く不思議な物語です。 
 
 *読み物*
『ジャングル・ブック』ラドヤード・キプリング 三辺律子訳 岩波書店 2015/5/15
ジャングル・ブック (岩波少年文庫)
ラドヤード・キプリング
岩波書店
2015-05-16
福音館書店古典シリーズの木島始訳(1979年)で読み継がれてきたキプリングの『ジャングル・ブック』がこの度新しい翻訳で岩波少年文庫になって出版されました。ジャングルで狼に助けられ育てられた人間の子、モウグリと、ジャングルの掟を教えるヒグマのバルーと黒豹のバギーラの物語は、今も読む者を引きつけていきます。キプリングが『ジャングル・ブック』と『続ジャングル・ブック』を著したのは1894年と1895年のこと。舞台となったインドのジャングルは大英帝国の植民地でした。そうした時代背景は今の子どもたちにはあまり意味をもたず、さまざまな解釈ができるファンタジーとして読んでもよいと翻訳者の三辺さんが訳者あとがきに書いています。ディズニーアニメとは違う、インドのジャングルを舞台にした冒険物語を ぜひ今の子どもたちにも読んでほしいと思います。 
 
『マザーランドの月』サリー・ガードナー 三辺律子訳 小学館 2015/5/20 
マザーランドの月 (SUPER!YA)
サリー ガードナー
小学館
2015-05-20 
上で紹介した『ジャングル・ブック』の翻訳者と同じ三辺さんの訳で、2013年にカーネギー賞、イタリア・アンデルセン賞、フランス文学賞、全米図書YA部門ベストフィクションなどに選ばれたサリー・ガードナーの作品です。「もしなにかがちがったら、とおれは考える。もしサッカーボールが塀の向こうへいってなかったら。」舞台は1965年。実際にあった事実をベースに、もしその歴史的事実が違っていたら・・・という設定で書かれている作品です。100の章から成り立っていますが、それぞれの章はせいぜい3ページ程度の短いもので、時系列もバラバラで、行きつ戻りつしながら、一気に話の中に引き込まれていきます。「圧倒的なパワーのある歴史改変SFだ。」、「感嘆にふるえ、息がつけないほどの完璧な物語。」と裏表紙に印刷されているキャッチコピーがそのままのYA作品です。 
 
『コービーの海』ベン・マイケルセン 代田亜香子訳 鈴木出版 2015/6/19
2011年の青少年読書感想文全国コンクールの中学生の部の課題図書となった『スピリットベアにふれた島』を書いたベン・マイケルセンの最新刊です。主人公は12歳の女の子コービー。実は4年前の交通事故で彼女は片足を失っています。 そんなコービーは海の中だけでは自由にいられます。ある日、コービーは岩場に座礁していたクジラの母子をみつけ助けます。そこからコービーの新しい日々が始まっていきます。 
 
『夢へ翔けて 戦争孤児から世界的バレリーナへ』ミケーラ・デプリンス エレーン・デプリンス 田中奈津子訳 ポプラ社 2015/6/30
 表紙カバーの裏側に「西アフリカのシエラレオネで戦争孤児だた少女が、アメリカでバレリーナになるまでの実話」と書いてありますが、2011年に公開されたドキュメンタリー映画「ファースト・ポジション」のモデルとなったミケーラ・デプリンスの自伝です。内戦の激しいアフリカ、シエラレオネで3歳で孤児になるという壮絶な体験、親切なアメリカ人夫婦の養子になってバレエを始めるものの、黒人であるということで差別を受けるという二重の苦しみを受けます。それを乗り越え、前向きに努力するミケーラの姿は、生きにくい社会で育っていくYA世代の子どもたちにとっても勇気を与えてくれるはずです。表紙絵は酒井駒子さんです。(自伝ですが、「ポプラせかいの文学」というシリーズになっているので、読み物に分類しました。)
  
『走れ、走って逃げろ』ウーリー・オブレブ 母袋夏生訳 岩波書店 2015/6/17
走れ、走って逃げろ (岩波少年文庫)
ウーリー・オルレブ
岩波書店
2015-06-17 
2015年8月15日にヒューマントラストシネマ有楽町ほかで公開予定の映画「ふたつの名前を持つ少年」の原作本です。この本は2003年に岩波書店からハードカバーで出版されていましたが、この6月に岩波少年文庫のラインナップに入りました。若い世代により気軽に手にしてもらえると思います。8歳の少年、スルリックはポーランドに住んでいたユダヤ人でした。第二次世界大戦下で強制収容所(ゲットー)に強制移住させられますが、家族と生き別れ、ゲットーを脱出します。森や農村を転々として生き延びていく中で不思議と助け手が現われホロコーストの嵐を生き延びて行きます。戦後70年の節目となる今年の夏。「戦争と平和」は今年は特に取り上げられるテーマですが、この本もぜひ手渡してほしいと思います。
 
 
*ノンフィクション*
『かき氷 天然氷をつくる』伊地知英信 細島雅代 岩崎書店(ちしきのぽけっと20) 岩崎書店 2015/5/31
とにかく暑い夏に、表紙を見せて展示しておくだけでも、涼しくなること請け合いの1冊です。埼玉県長瀞町で100年も続く天然氷について、どのように作られ、切り出されていくか、知識の本としても 知っておきたいところ。長瀞町では以前は何軒もあったという製氷業に携わる家が、今ではこの本のモデルとなっている阿佐美冷蔵だけになっているとのこと。せっかくの天然氷を作る歴史と伝統が引き継がれてほしいとも思いました。 
 
『エゾリス(北国からの動物記)』竹田津 実  アリス館 2015/6/25
エゾリス (北国からの動物記)
竹田津 実
アリス館
2015-06
北海道でキタキツネの観察を続けてきた獣医師で写真家の竹田津さんの、エゾリスへの豊かな愛情の伝わってくる写真集です。その愛くるしいエゾリスの表情に目が釘付けになります。家に通ってくるようになった子リスに「アカキチ」と名付け、彼を看取るまでの1匹のエゾリスとの4年間の記録です。竹田津さんの文章も合わせて味わってほしいと思います。 
 
『広島の木に会いにいく』石田優子 偕成社 2015/6/16
広島の木に会いにいく
石田 優子
偕成社
2015-06-16
2011年に公開されたドキュメンタリー映画「はだしのゲンが見たヒロシマ」を制作した石田さんは、その映画がきっかけで広島の爆心地に残る「被爆樹木」について知ります。それから3年の歳月をかけて東京から広島に通い、「被爆樹木」について調べ、それらの木にかかわる人々から被爆について証言を聞いたり、戦後すぐに被爆樹木をスケッチしていた大学生などから聞き取り調査をします。スケッチや地図など手描きの資料も多く、ヒロシマについて、「木」という視点から考えるための興味深いノンフィクション作品となっています。
 
『天井からジネズミ』佐伯元子 あべ弘士 学研教育出版 2015/5/25
 「ジネズミ」って知っていますか?数年前に我が家のご近所が建て替えになり、天井裏にネズミが居着いて困ったことがありました。同じような「ネズミ」なのだと思って読み始めると、どうも「ネズミ」と名前がつくものの、種としては「モグラ」の仲間の体長わずか3cmの「ジネズミ」なのです。随所に創意工夫を施したジネズミハウスを作り、「ちうちゃん」と名付けたジネズミを観察、育てていきます。小さなジネズミの生き生きとした様子をぜひ一緒になって味わってください。この作品は第5回子どものための感動ノンフィクション大賞を受賞しています。 
 
『オキノタユウの島で 無人島滞在“アホウドリ”調査日記』長谷川博 偕成社 2015/5/19
 1949年に一旦は絶滅したと言われたアホウドリ=オキノタユウの保護と観察を、40年間地道に続けてきた克明な記録です。特に著者の長谷川さんは1973年以降、20年間毎年1ヶ月以上の無人島生活を繰り返し、それを克明に記録につけてきました。研究者としての熱意の裏に、オキノタユウへの愛情と、自然環境への思いがあることが伝わってきます。 
 
『奥本昆虫記』奥本大三郎 教育評論社 2015/6/28
奥本昆虫記
奥本 大三郎
教育評論社
2015-06-27 
 「ファーブル昆虫記」ならぬ「奥本昆虫記」です。見開き2ページにつき、ひとつの昆虫について愛情あふれるエッセイが記されています。その数、100種類。その中には今まで知らなかった昆虫も含まれており、読みながら「ほお~」「へえ~」と唸るような楽しい発見がたくさんあります。虫好きだけでなく、虫嫌いの人も読めば、虫への理解が深まること、請け合いです。 
 
『本屋になりたい この島の本を売る』宇田知子 高野文子 ちくまプリマー新書 筑摩書房 2015/6/10
本屋になりたい: この島の本を売る (ちくまプリマー新書)
宇田 智子
筑摩書房
2015-06-08 
 2014年1月の朝日新聞新年特集「もう一つの生き方」で、作者の宇田さんが東京の大手書店の店員をやめて、沖縄は那覇にある小さな古書店を立ち上げたという記事を読みました。その宇田さんの活動の記録がちくまプリマー新書にまとめられました。小さな本屋さんで、「地産地消」について考え、本を売るということについて真剣に考えている著者の姿勢に、こちらも衿を正して向き合いたくなります。YA世代には働き方への指南にもなることでしょう。イラストは高野文子さんです。ぜひ手にして欲しい1冊です。
 
*大人向け(教育者・研究者および保護者)
『石井桃子コレクションⅤ エッセイ集』石井桃子 岩波現代文庫 岩波書店 2015/5/15
エッセイ集〈石井桃子コレクションV〉 (岩波現代文庫)
石井 桃子
岩波書店
2015-05-16
今年の1月から毎月1冊ずつ刊行された岩波現代文庫の「石井桃子コレクション」が、5月の『エッセイ集』で完了しました。このエッセイ集は1999年に刊行された『石井桃子集7 エッセイ集』をベースに新たに27篇の新しいエッセイが加わっています。自然や暮らしのエッセイでは石井さんの豊かな感受性に触れ、子どもと本に関わるエッセイでは、ここまで子どもを理解して本を書いたり翻訳されていたのかと、改めてその偉業について思いを馳せることができました。1950年代から2002年までの50年以上に及ぶ期間に書きためられた85篇のエッセイに一貫してあるのは、「子どもに寄り添う」という思いのように感じました。
(K・J)

2015年4月の新刊から


2015年4月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者・保護者向けなど)の中から、おすすめの本を紹介します。

絵本

『のっていこう』木内達朗 福音館書店 2015/4/1

お父さんとお出掛けをする男の子。3つの乗り物を乗り継いでどこへ行くのでしょう?関西に住んだことのある人は、登場する電車を見て「あっ!」と声をあげることでしょう。そして海沿いを走って乗り換えた乗り物はロープウェー。これって、六甲山系のあの山へ登るロープウェイだと、山頂からの景色を見て思いました。山頂から俯瞰する景色には今まで乗ってきた道筋も見えます。父子が乗る乗り物以外にもタクシーや自転車、船などたくさんの乗り物が登場し、乗り物好きの子どもたちを魅了することでしょう。もとは「ちいさなかがくのとも」の月刊誌だったものです。 

おばあさんのひっこし』エドナ・ベッカー作 神沢利子/山田ルイ訳 白根美代子絵 福音館書店 2015/4/1

おばあさんのひっこし (こどものとも絵本)
エドナ・ベッカー
福音館書店
2015-04-01

 東京子ども図書館刊の『おはなしのろうそく16』に収録(愛蔵版では『赤鬼エティン』の中に収録)されている「おばあさんのひっこし」が絵本になりました。1898年にアメリカで生まれたエドナ・ベッカーが子ども向けに書いた作品で、ちょっととぼけたおばあさんが主人公です。可愛がっている猫と牝牛とろばを連れて、古い家を出てお引越しをするのですが…動物たちが一番満足する家を探しているうちに、最後に引っ越してきたのが元々おばあさんたちが住んでいた家だったという楽しいお話です。語りでも楽しいお話が絵本になって、より多くの人に知ってもらえるのは嬉しいことです。 

『ごはん』平野恵理子 福音館書店 2015/4/8

ごはん (日本傑作絵本シリーズ)
平野 恵理子
福音館書店
2015-04-08

 日本人に生まれて何が一番ごちそうかって?やっぱり炊き立てのご飯でしょう。この絵本はそのごはん文化を余すことなく伝えてくれる”よだれ”の出る絵本です。表紙は美味しそうな一膳のごはん。本を開くとお櫃に入ったごはん。そしてたきこみごはんやがいこくごはん(洋食のことを、こう表現しています)、どんぶりごはんにおにぎり・・・と美味しそうなごはんが、「どーん!」「ずらーり!」と並んでいます。それぞれのごはんが盛られている器にも注目です。新米の穫れる秋に読んであげてもいいし、いやいつでも読んであげられる楽しい絵本です。作者の平野恵理子さんは、2010年にあすなろ書房から『和菓子の絵本ー和菓子っておいしい!』を出版されています。 

 『だれかさん』内田麟太郎作 今森光彦 切り絵 アリス館 2015/4/10

だれかさん
内田 麟太郎
アリス館
2015-04

 ねこはねずみを追いかけて食べるものって思っていませんか?この絵本では、なんとねことねずみの素敵な関係を、内田麟太郎さんの洒脱な言葉遊びと、今森光彦さんの切り絵で表現しています。その言葉のリズミカルで面白いこと!そして切り絵のお洒落なこと!各ページの背景の色と共に楽しんでほしいと思います。子どもたちもそのリズミカルな言葉に聞き入ることでしょう。 

『カワと7にんのむすこたち クルドのおはなし』アマンジ・シャクリー/野坂悦子文 おぼまこと絵 福音館書店 2015/4/15

中東情勢のニュースで耳にするクルド人。イラク戦争では難民として、今はISと戦う人々として登場するクルド人ですが、実は第一次世界大戦後のサイクス・ピコ協定によって中東各国に分割されているだけで、民族の歴史も古く人口も2500万人~3000万人、中東ではアラブ人、トルコ人、ペルシャ人の次に継いで多数を占めています。そのクルド人が語り継いできた英雄カワの伝説が日本でこうして紹介されることは、中東の歴史を知り現在を知るためにも大切なことでしょう。ある朝、王さまパシャは呪いによって肩からヘビが生えて来ます。かじ屋のカワと自慢の7人の息子たちは、その王さまからの「男の子をふたりずつさらってきてヘビに捧げろ」という命令にどうするのでしょう。ドキドキする展開が待っています。子どもたちにぜひ読んであげてほしいと思います。 

『リンドバーグ 空飛ぶネズミの大冒険』トーベン・クールマン作 金原瑞人訳 ブロンズ新社 2015/4/15

リンドバーグ: 空飛ぶネズミの大冒険
トーベン クールマン
ブロンズ新社
2015-04-15

1912年、ドイツ・ハンブルグの街に本の大好きなネズミがいました。ネズミは図書館でたくさんの知識を得ていました。ある時、仲間のネズミが大量に殺される事件が起きます。そしてネズミは決意をするのです。空を飛んでここから逃げようと!それからネズミの飛行機制作の試行錯誤が始まります。幾多の失敗を重ねて、いよいよネズミは大西洋横断を成功させます。その後ネズミは航空ショーのスターへ。そのポスターをみつめる少年の姿が・・・その少年の名前はチャールズ・リンドバーグ。リンドバーグが大西洋横断を成功させる前のお話として描かれているこの絵本は、ドイツの絵本作家トーベン・クールマンのデビュー作です。お話の面白さもさることながら緻密に描かれた絵から、子どもたちは本から学ぶことや、自分で何かを創りあげることの面白さを知ることでしょう。小学生低・中学年の子どもたちにぜひ読んでほしい作品です。この作品についてのブロンズ新社のサイト→こちら 

YA向け

『大人になるっておもしろい?』清水真砂子 岩波ジュニア新書 2015/4/21

 目次にまず目をやると、”第1信 「かわいい」を疑ってみない?、第2信 怒れ!怒れ!怒れ!、第3信 ひとりでいるっていけないこと?”と気になるタイトルが続きます。周囲の目を必要以上に意識し、それに雁字搦めになって”自分らしさ”を見つけることのできない若い世代に向かって『ゲド戦記』の翻訳者であり児童文学者である清水真砂子さんの直球勝負の手紙です。「おとなになるっておもしろい?うん、だんぜん‼でも焦らないで。現在をていねいに生きてほしい。自分をごまかさず、はぐらかさず、スマホからも解放された独り居の時間を確保して。孤独と孤立が全く違うことは、ここまで読んできてくださったあなたには、もう十分おわかりでしょう。人は個が確立してこそ、初めて他者とつながることができる。そして個の確立には独り居の時間の確保は不可欠だと思います。人と人がつながるのではなく、ただ群れているにすぎないとしたら、それこそさびしすぎませんか。」(あとがきより p224)教育者として40年以上若い世代と向き合って来られた清水真砂子さんの力強い言葉は、悩める10代に希望の灯火を点けてくれることでしょう。巻末に本文で引用された本や、「●他人の悪意にうれたとき ●心惹かれる他人の支配下にとりこまれそうになったとき」など、さまざまな気持ちや状況になった時に手にしてほしい本のリストが掲載されていて、この本から次の読書へとつなげていくきっかけにもなります。ぜひYA世代向けにおすすめしたい1冊です。でも、まずおとなのあなたが手に取って読んでみてください! 

その他

『本物そっくり!昆虫の立体切り紙』今森光彦 日本ヴォーグ社 2015/4/23

昆虫の立体切り紙
今森光彦
日本ヴォーグ社
2015-04-23

 

 昆虫写真家の今森光彦さんが贈る昆虫切り紙の作り方の本です。単なる工作のハウツー本ではなく、今森さんが作る昆虫たちの今にも飛び立ちそうなリアル感がとても素敵です。夏休みの宿題で工作に取り組む子どもたちにもおすすめしたい1冊ですが、何よりその精巧さに大人もまた眺めていて楽しい本です。コラムの中で今森さんが「あしを折ったり、触覚を立たせたり、関節を折り込んだり・・・、最後に必ず体全体のバランスを整え、その昆虫らしさを表現する、これがまさに、作品にいのちを吹き込む大事な作業です。このとき、いつもどれだけ、その昆虫を観察していたかがためされるといっても過言ではありません。」と語っており、単なる工作本ではなく、実物の昆虫の観察へと誘うところがおすすめするポイントです。

(K・J)

2014年に出た子どもの本を振り返って(4)ノンフィクション編、伝記・詩・昔話編


絵本編、読み物編に引き続き教文館ナルニア国で行われた「2014年に出た子どもの本 全ジャンルご紹介します」で、紹介された109冊の「ノンフィクション」と、13冊の「伝記・詩・昔話」の中からいくつか紹介します。とくに目立ちにくいけれど、子どもたちにぜひ出会ってほしい本をピックアップしました。なお、絵本編で紹介しました『ちいさなちいさな めにみえないびせいぶつのせかい』(ゴブリン書房)もノンフィクション編で紹介された1冊です。

ノンフィクション

『キラキラ読書クラブ 子どもの本702冊ガイド 改訂新版』キラキラ読書クラブ 玉川大学出版部

キラキラ読書クラブ 改訂新版 ―子どもの本702冊ガイド―
キラキラ読書クラブ
玉川大学出版部
2014-11-21

120のキーワードで702冊の子どもの本を紹介しているガイドブックです。それぞれのテーマごとに5冊~16冊ほどの本が選ばれ、一つ星から四つ星まで星の数で本の難易度がわけられています。図書館でブックリストを作成したり、ブックトークのプログラムを作成する時に活用しやすいブックガイドです。しかも2014年8月時点で流通している本から選書されているので、どの本も実際に購入することが出来ます。この本は公共図書館や学校図書館で長くサービスに携わってこられた「キラキラ読書クラブ」という名前の4人のお仲間が執筆しています。『キラキラ応援ブックトーク』(岩崎書店 2009)と共に児童サービス業務に欠かせない心強い味方になってくれる1冊です。 

『中学生が書いた消えた村の記憶と記録』かつやま子どもの村中学校 黎明書房

かつやま子どもの村中学校子どもの村アカデミー
黎明書房
2014-10
福井県勝山市に1998年に開校した「かつやま子どもの村中学校」の生徒が県内外の廃村の実情を調べてまとめたレポートが1冊の本になりました。(出版社のサイトは→こちら 本の表紙画像もこちらで見ることができます。)この学校は学校法人立の、子どもの自己決定・個性化・体験学習を基本原則とした自由学校です。授業の半分ちかくがプロジェクトとよばれる体験学習で、子どもたちが自分たちで考えて、本物の家を建てたり、畑で作物を育てたり、料理をしたり、演劇をしたりしているそうです。(学校のサイト→こちら)その生徒たちが自分の足で現地に赴き、自分たちの目と耳を使って聞き取り調査をし、消えた村のくらしと歴史、なぜ村がなくなったのかなどについて考察していきます。地味な本ですが子どもたちがひとつひとつ調べて学んでいく姿に、本当に大切な学習の姿について教えられます。

『〈できること〉の見つけ方 全盲女子大生が手に入れた大切なもの』石田由香理・西村幹子 岩波ジュニア新書

〈できること〉の見つけ方――全盲女子大生が手に入れた大切なもの (岩波ジュニア新書)
石田 由香理
岩波書店
2014-11-21

 

幼い時に病気で両眼を摘出した全盲の石田さんのとても前向きな姿勢に心動かされる1冊です。昨年、日本でも「障害者の権利に関する条約」が批准され2014年2月に発効しました。私たちはこの本を読んで、障害と向き合うこと、共に生きることはどういうことなのだろうと考えることが出来ます。この本の中で石田さんは言い切ります。目が見えないことは不幸なのか、不便なことは確かであるが不幸だとは決めつけられないと。それはどんな人にもある努力ではどうにもならないコンプレックスでしかない、「社会的弱者」として決めつけるのではなく、それぞれができない部分を補い合い共に生きていくことが大切なのではないかと明快に伝えてくれます。それは障害という時、障害者に障害があるのではなく社会の側に問題があるのだという「障害者差別撤廃法」の考え方にも通じていると思いました。多くのYA世代にぜひ読んでほしい1冊です。

『10代の憲法な毎日』伊藤真 岩波ジュニア新書

『中高生のための憲法教室』(岩波ジュニア新書 2009)などYA世代向けの日本国憲法に関する著作を多く書いている弁護士の伊藤真さんの新作です。沙織さんと健太くんという二人の高校生と伊藤先生が会話形式で、高校生活がどのように憲法に関わっているのか、校則と個人の自由、部活や生徒会でのトラブルなど身近な話題から考えていく1冊です。ニュースで「憲法改正」が話題に上るようになってはいますが、普段私たちの生活と憲法がどう結びついているのかについて考える機会は少ないと思います。YA世代にぜひ自分の問題として考えてもらうきっかけになればと良いと思います。

 伝記

『北御門二郎 魂の自由を求めて』ぶな葉一 銀の鈴社

北御門二郎 魂の自由を求めて: トルストイに魅せられた良心的兵役拒否者 (ジュニア・ノンフィクション)
ぶな 葉一
銀の鈴社
2014-03-10

 

若い時にトルストイの『人は何で生きるのか』に出会い、絶対非暴力主義を貫き、兵役を拒否した北御門二郎の伝記です。北御門二郎は戦後は南阿蘇で農業を続けながらトルストイの作品を翻訳し発表し続けてきました。その無骨なまでにひたむきな人生は胸に迫るものがあります。この本は決して目立つ作品ではありませんが、子どもたちに「人生において何が一番大切なのか」を問う作品としてぜひ読んでもらいたい1冊です。漢字にルビもふってありますので、小学校中学年でも十分読むことができます。なお、絵本編集者で、海外の優れた絵本や児童文学を精力的に翻訳して日本の子どもたちに紹介してくださっている小宮由(こみやゆう)さんは北御門二郎のお孫さんです。

『ねこくんいちばでケーキをかった ロシアのわらべうた』ユーリー・ワスネツォフ たなかともこ編 岩波書店

ロシアのわらべうたにユーリー・ワスネツォフが色鮮やかな絵をつけた詩の絵本です。ロシアの人々の生活に身近だった動物や自然を歌ったわらべうたが14編、昔話が1編、見開きで1編ずつ紹介され、中には子どもたちには馴染み深い「おおきなかぶ」もわらべうたとして掲載されています。素朴で、生き生きとした動物たちの絵と、リズミカルなわらべうたの言葉の響きは子どもたちの心を捉えることでしょう。この本は、『この本、読んで』と『子どもと読書』でも選定されています。

昔話

『アラビアンナイトのおはなし』中川正文 赤羽末吉 のら書店

アラビアン・ナイトのおはなし
中川 正文
のら書店
2014-11

 

アラビアン・ナイトの中心となっている代表的な3つのおはなし、「アリババと四十人のとうぞく」、「アラジンとまほうのランプ」、「空飛ぶ木馬」が赤羽末吉の力強い絵と共に収められた1冊です。のら書店は大手出版社で編集をしていた女性二人が立ち上げた小さな児童書専門書店ですが、丁寧に編集をした子どものための本を出版しています。代表作品には『クシュラの奇跡』や、中・東欧の昔話をまとめた『三本の金の髪の毛』などおはなしのテキストなども多くあります。この『アラビアン・ナイトのおはなし』もぜひ子どもに語り継いでいきたい作品です。
(K・J)

2014年に出た子どもの本を振り返って(3)読み物編


絵本編に引き続き、教文館ナルニア国で行われた「2014年に出た子どもの本 全ジャンルご紹介します」で、紹介された94冊の「読み物(フィクション)」のうち、いくつか取り上げて紹介します。(絵本編は→こちら

低学年向け

『こねこのレイコは一年生』ねぎしたかこ にしかわおさむ絵 のら書店

こねこのレイコは一年生
ねぎし たかこ
のら書店
2014-02
ねこの社会にも小学校があるのを知ってましたか?ただし、ねこはたった6ヶ月で卒業をしてしまいますが!小学校入学したころのひとり読みを始める時期にちょうどよい1冊です。好奇心たっぷりのこねこのレイコたちが繰り広げるちょっとした騒動も、ひとりで学校へ通うようになる年代の子どもたちには共感できることでしょう。安心して手渡せる幼年童話です。『図書館の学校』でも選定されています。

 

『ぼくはめいたんてい』シリーズ

ふたつのバレンタインじけん―ぼくはめいたんてい
マージョリー・ワインマン シャーマット
大日本図書
2014-01
 
 
 
 
にげだしたファングをさがせ!―ぼくはめいたんてい
マージョリー・ワインマン シャーマット
大日本図書
2014-03
 
マージョリー・ワインマン・シャーマットとマーク・シーモントのコンビでアメリカでも30年子どもたちに愛され続けてきた『ぼくはめいたんてい』シリーズ12巻に続いて2013年に13巻~15巻がこみやゆう訳で出版され、2014年は16巻『ふたつのバレンタインじけん』と17巻『にげだしたファングをさがせ!』が引き続きこみやゆうさんの訳で出ました。また以前のシリーズ(12巻)がすべて新装版で順次発行されています。(詳細は→こちら) 9歳の男の子ネートが、身近で起きる事件を探偵として解決していきます。ユーモアあふれるお話は、読み物に慣れていない子どもたちにも読みやすく、ぜひ紹介してあげたいシリーズです。 『図書館の学校』でも選定されています。

『ミリー・モリー・マンデーとともだち』ジョイス・L・ブリスリー 上條由美子訳/菊池恭子絵 福音館書店

1991年に出版された『ミリー・モリー・マンデーのおはなし』の姉妹編です。絵本を卒業して自分で物語を読もうとする子どもたちにぜひおすすめしたい1冊です。先に紹介した『ぼくはめいたんてい』シリーズが元気な男の子が活躍するお話ならば、こちらは元気な女の子ミリー・モリー・マンデーが活躍する短いお話が10話入っています。第1話「ミリー・モリー・マンデー巣をみつける」では、おじさんに大きな樫の木のうろの中に素敵な巣=ツリーハウスを作ってもらいます。おじいちゃんもおかあさんもその巣を素敵にするのを手伝ってくれました。信頼できる大人が見守ってくれていることで得られる安心感を感じることができ、子どもたちが安心して読める作品です。 

中・高学年向け

『シャイローがきた夏』フィリス・レイノルズ・ネイラー さくまゆみこ訳 あすなろ書房

シャイローがきた夏
フィリス・レイノルズ・ネイラー
あすなろ書房
2014-09-30

 

ある日11才の男の子マーティーは小さなビーグル犬に出会います。この犬はどうやら乱暴者で知られているジャドのところから逃げてきた犬でした。ジャドがこの犬を虐待していることを知ったマーティーは、この犬にシャイローと名づけて匿います。小さな犬を守りたいという思いと家族に秘密を持つことで感じる心の痛みの狭間で揺れる思いを丁寧に描いています。嘘が破綻したあとに、家族がマーティーにどのように向き合ったか、そしてジャドが納得のいく形でシャイローを引き取れるようにしていく、その誠実な様子は心に響きます。 『子どもの読書』、『図書館の学校』でも選定されています。

高学年~中学生向け

『ウェストール短編集 真夜中の電話』ロバート・ウェストール 原田勝訳 宮崎駿絵 徳間書店

真夜中の電話 (児童書)
ロバート・ウェストール
徳間書店
2014-08-08

 『“機関銃要塞”の少年たち』(評論社)や『かかし』(徳間書店)でカーネギー賞を受賞した英国を代表する児童文学作家の短編集で、『ウェストール短編集 遠い日の呼び声』と2冊、徳間書店子どもの本創刊20周年記念として宮崎駿さんの装丁で出版されました。おふたりの翻訳者が編集者とともに80編を超える全短編をすべて読んで選び抜いた18編が、それぞれ9編ずつ収められています。訳者の原田氏が「通りいっぺんの描き方ではなく、わたしたちが気づいていなかった、あるいは気づいていても言葉にできなかった感情や心理のあやまでが、あざやかに描かれているからではないでしょうか。さらに、それを支えるリアリズムというか、うわべをとりつくろわず、現実から目をそむけない強い意志を感じさせるところが魅力だと思います。」と、あとがきに書いているとおり、人間存在の暗部も描き出す文体に思わず引き込まれます。『子どもと読書』、『図書館の学校』でも選定されています。

 『ふたりのエアリエル』ノエル・ストレトフィールド 中村妙子訳 教文館

ふたりのエアリエル
ノエル ストレトフィールド
教文館
2014-07-23

第二次世界大戦が終息に向かいつつあった1942年から翌年にかけてのロンドンが舞台の物語です。12歳になったばかりのソレル、9歳半のマーク、8歳のホリーの三人姉弟妹は、幼い時に母親と死別し、海軍将校の父親は出征し、田舎牧師である祖父のもとに身を寄せていました。1942年夏、三人のもとに父親が載っていた軍艦が日本軍によって撃沈された知らせが届き、それに衝撃を受けた祖父まで亡くなったところから物語が動きます。身寄りがなくなってしまったと心配する三人はロンドンにいる母親の祖母のところに引き取られることになったのです。実は祖母はかつての大女優で、その家系は演劇界の名家だったのです。まったく新しい生活に戸惑いながらも、三人は新しく出会う周囲の人々に支えられ、刺激を受けながら、それまで気がついてなかった才能を開花させていきます。この物語は、英国王立アカデミー演劇学校を卒業し女優を経て児童文学作家になったノエル・ストレトフィールドの作品です。彼女の代表作品『バレエ・シューズ』は1967年に村岡花子訳で日本でも紹介され、その後1980年に偕成社から、1986年には中村妙子さんの訳ですぐ書房から出版されていますが、長く絶版が続いていました。この度、続編の『ふたりのエアリエル』が出版されました。地味な装丁で子どもたちが自分では手に取らないかもしれませんが、ひたむきな子どもたちの姿は、現在を生きる子どもたちにも通じるものがあり、手渡してあげたい1冊です。『図書館の学校』でも選定されています。 
(K・J)

2015年3月の新刊から


2015年3月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者・保護者向けなど)の中から、おすすめの本を紹介します。

絵本

『ニニ、まいごになる』アニタ・ローベル 評論社

ニニ、まいごになる (児童図書館・絵本の部屋)
アニタ ローベル
評論社
2015-03-28

2010年にランダムハウスから出版された作品が邦訳されました。灰色のトラ猫ニニは、家猫として飼われていました。ある日開いているドアから抜け出して、初めて外の世界に飛び出します。最初は花の香りをかいだり、新しい発見を次々にして大興奮のニニですが、気がつくと深い森に入り込んでしまっていました。ニニの名前を呼ぶ飼い主の声が遠くから聞こえてきた時の安堵の表情!子どもたちもニニの気持ちにぐっと入り込んで聞くことができるお話です。何より美しい色彩の絵が素晴らしい1冊です。 

『庭をつくろう!』ゲルダ・ミューラー ふしみみさお訳 あすなろ出版

庭をつくろう!
ゲルダ ミューラー
あすなろ書房
2015-03-24

昨年、出版された『ソフィーのやさいばたけ』(ふしみみさお訳/BL出版)の作者ゲルダ・ミューラーの絵本です。 1989年に出版された『ぼくの庭ができたよ』(ささきたづこ訳/文化出版局)を改訂した復刻版です。前作はドイツ語版からの翻訳だったのですが、今回はフランス語版からの翻訳なので主人公の子どもたちの名前はベンジャミンからバンジャマンに、カロリーネからキャロリーヌに変わりました。春、広い庭のある家に引っ越してきたバンジャマンの家族。でも庭は荒れ放題でした。となりの家に住む車椅子の男の子ルイに植物の育て方を教えてもらいながら、兄妹が力を合わせて庭を作り替えていく過程がとても美しい絵で描かれています。古い大きなりんごの木の病気を治し、次の年には美しい花が咲きます。春夏秋冬、おりおりの自然の移り変わり、収穫の喜びなど、子どもたちに伝えたい大切なことが詰まっています。 

 大人向け(教育者・研究者および保護者)

『新編 子どもの図書館』石井桃子 石井桃子コレクションⅡ 岩波現代文庫

1965年に岩波新書で出版され、長い間子どもに本を手渡す活動をする児童図書館員や、家庭文庫主宰者にバイブルとして読み継がれてきた『子どもの図書館』が、加筆、付記を増補されて、再び手に取れるようになりました。 新書版から文庫版に版形は変わりましたが、読みやすく、図書館の児童サービスにかかわる方々にはぜひ一度は読んでおいてほしい1冊です。あとがきに東京子ども図書館理事長の松岡享子さんが『子どもの図書館』が読み継がれてきた理由として「この本が「大切なこと」をはっきり述べているからだと思う。その大切なことというのは、今日の複雑な社会で、人が人間らしく、しっかりと生きていきためには、子どものときに文字の世界にはいる必要があること、本はそのための「たのしい」道であり、同時に、子どもの精神世界を豊かにし、人間性を育むのに大きな力をもつこと、そして、子どもが自由に、質のよい本と出会える場を備えるのは大人の責任であること、等である。」と書かれています。(p307)子どもたちに本を手渡す大人の責任について、考えながら読んでもらえたらと思います。

『子どもはみんな問題児。』中川李枝子 新潮社

『いやいやえん』や『ぐりとぐら』など、子どもたちに愛され続ける本を送り出した中川李枝子さんによるメッセージ集です。肩に力を入れて子育てに疲弊してしまっている親たちにぜひ読んで欲しいなと思います。子どもたちが子どもらしくいられるように、そこを保証することが人間としての能力を最大限に伸ばす鍵なのだということ、遊びの中から想像力は養われるということなどを、短い文章で簡潔に伝えてくれています。とくに子どもと本に関する第4章「本は子どもと一緒に読むもの」は、児童サービスにかかわる方には読んでおいて欲しいと思います。フロアーワークやカウンターで保護者に聞かれる質問に答えるヒントになることでしょう。

『リンドグレーンと少女サラ 秘密の往復書簡』アストリッド・リンドグレーン/サラ・シュワルト 石井登志子訳 岩波書店

リンドグレーンと少女サラ――秘密の往復書簡
アストリッド・リンドグレーン
岩波書店
2015-03-19
 
 『長くつ下のピッピ』や『やかまし村の子どもたち』などの作品でスウェーデンの豊かな自然に囲まれて伸びやかに育つ子どもたちを描き、世界中の子どもたちを魅了したアストリッド・リンドグレーンと、一読者だった当時12歳の女の子との、20年以上に及ぶ往復書簡集です。感受性豊かで傷つきやすい10代の少女サラからの手紙に、世界的に有名なリンドグレーンが誠実に手紙を返しています。それは父親から虐待を受け、孤独と不安の中にあるサラの苛立ちや迷いが、自分自身の若い頃と重なって放っておけなかったからでしょうか。手紙の中で、サラの人生の可能性が花開くのと見届けたいと綴られ、無謀なサラの思いに寄り添い、励まし、共感を与えています。今は50代後半になっているサラが、この往復書簡を公開するに至る思いも「本当に最後の手紙」と題して書かれています。私たちはこの本を読むことで、リンドグレーンの作品の根底に流れている生きとし生けるものへ向けられる暖かい眼差し、子どもの本を書く作家として子どもたちの幸せを願う気持ちを、確信を持って受け取ることが出来ます。リンドグレーンがこの世を去って10年後の2012年に出版された本が、石井登志子さんの訳によって日本の私たちの元に届けられたことを喜びたいと思います。(K・J) 

2014年に出た子どもの本を振り返って(2)絵本編


教文館ナルニア国で行われた「2014年に出た子どもの本 全ジャンル紹介します」に参加し、紹介された本(リストには42冊選定されています)の中からいくつかピックアップして紹介します。

昨年の「2013年に出た子どもの本」では、「ロングセラーの復刊などで良いものが出版されたが新刊絵本にこれといったものがない」と評されていましたが、2014年に出版された絵本にはいくつか子どもたちに長く読み継がれていくだろう作品がいくつかありました。

なお、「2014年に出た子どもの本を振り返って(1)」で紹介した『子どもと読書』2015年3・4月号(No.410)、『この本読んで!』2015年春号、『図書館の学校』2015年春号でも重複して紹介されているものは、紹介文の後ろにその旨、記しておきます。

『くま!くま!くまだらけ』ルース・クラウス作 モーリス・センダック絵 石津ちひろ訳 徳間書店

くま! くま! くまだらけ (児童書)
ルース クラウス
徳間書店
2014-04-09
『うちがいっけんあったとさ』(岩波書店 1978)、『あなはほるものおっこちるとこ』(岩波書店 1979)で自由で屈託のない子どもらしい姿をいかんなく表現したルース・クラウスとモーリス・センダックの絵本が2014年に2冊邦訳されました。1冊目はこちら。原文では「 Bears, bears, bears, bears, bears」というところを、「くま!くま!くまだらけ」としたり、bearsと、stairs、chairs、hairs、fares、squaresなど韻を踏んで楽しい文章も、ことば遊び絵本の作家として定評のある石津さんが日本語でもリズミカルに訳出しました。主人公の男の子は、どこかで見たことのある格好をしています。『かいじゅうたちのいるところ』と並んで、子どもたちに愛され続ける作品になることでしょう。

『ぼくはきみできみはぼく』ルース・クラウス文 モーリス・センダック絵 江國香織訳 偕成社

ぼくはきみで きみはぼく
ルース・クラウス
偕成社
2014-10-22

 ルース・クラウスとモーリス・センダックの絵本のもう一冊は、一貫したストーリーではなくページごとに子どもたちのつぶやきが集められている絵本です。読んでいくと、そうそう、子ども時代ってこんな風に感じるのよね、と大人も読んでいて懐かしくなります。カバー見返しに「いまにも動きだしそうな生気あふれる子どもたち」と書かれていますが、まさにそのとおり。子どもの本質である無邪気な子どもたち姿、表情がどれも素敵です。『この本読んで!』でも選定されています。 

『ムーン・ジャンパー』ジャニス・メイ・ユードリー文 モーリス・センダック絵 谷川俊太郎訳 偕成社

ムーン・ジャンパー
ジャニス・メイ・ユードリー
偕成社
2014-10-28

 『木はいいなあ』の作者ジャニス・メイ・ユードリーの文章にモーリス・センダックが絵をつけた作品です。日本では1983年に岸田衿子さんの翻訳で講談社から出版されていましたが長く絶版となっていました。今回、谷川俊太郎さんが翻訳を手がけ偕成社から出版されました。モノクロの文章のページと見開きのカラーページが交互に配置され、特にカラーページの絵の美しさに惹きつけられます。夏の夜に満月の光を浴びて体中で喜びを表現する子どもたちの表情からは今にもにぎやかな声が聞こえてきそうです。1960年のコールデコット・オナー賞受賞作品です。『この本読んで!』でも選定されています。

 『あかいえのぐ』エドワード・アーディゾーニ 津森優子訳 瑞雲舎

あかいえのぐ
エドワード・アーディゾーニ
瑞雲舎
2014-05-01

 『チムとゆうかんなせんちょうさん』や『時計つくりのジョニー』など名作を残したエドワード・アーディゾーニの未邦訳の作品(イギリスでは1965年に出版)が昨年出版されました。絵描きとして生きていこうとする父親とその家族の生活を描いた絵本です。しかし絵はなかなか売れず、倹しい生活を強いられるのですが、幼い姉弟サラとサイモンは懸命に父親を励まし、乳飲み子を抱えて家計を切り盛りする母親を支えます。これまでのアーディゾーニの作品には、子どもたちを陰で支え導く大人が登場してきましたが(『チムとゆうかんなせんちょうさん』の船長さんや、『時計つくりのジョニー』の鍛冶屋のジョー)、ここでもそんな大人が登場し、彼らの窮地を救ってくれます。貧しさの中でもお互いを思いやる温かい家族の姿は、「子どもの貧困」が問題視される今の社会で、一筋の光を与えてくれるのではと感じました。 

『クリスティーナとおおきなはこ』パトリシア・リーゴーチ作 ドリス・バーン絵 おびかゆうこ訳 偕成社

クリスティーナとおおきなはこ
パトリシア・リー・ゴーチ
偕成社
2014-07-09

 2014年上半期に出た絵本でイチオシと「本のこまど」でも以前お知らせした絵本です。新しく届いた冷蔵庫が入っていたダンボール箱を見てクリスティーナは大喜び。おとうさんも手伝ってダンボール箱はお城に変身します。遊んでいるうちに壊れていくダンボール箱。その度に秘密基地になったり、レーシングカーになったり。子どもらしい発想の転換と作り替えていく楽しさなど、子どものイマジネーション豊かな遊びの世界を丁寧に描かれています。子ども時代に誰もが一度は夢中になった“見立て遊び”を、今の子どもたちにもぜひ存分に味わってほしいと思います。『子どもと読書』と『図書館の学校』でも選定されています。 

『希望の牧場』森絵都作 吉田尚令絵 岩崎書店

希望の牧場 (いのちのえほん23)
森 絵都
岩崎書店
2014-09-10

 東日本大震災後、原発事故で避難区域内に残された牧場の牛たちを見捨てずに世話を続ける牛飼いの姿を淡々と描いた絵本。肉牛としての価値のなくなった牛を愛情をもって愚直に飼い続ける牛飼いの姿は、静かに、しかし強く心に訴えかける力を持っています。「エサ食って、クソたれて、エサ食って、クソたれて―」その繰り返しの牛たちに、絶望の中から希望を見出そうとするその姿に力強さも感じます。小学校高学年以上の子どもたちにぜひ出会ってほしい1冊です。『子どもと読書』と『この本読んで!』でも選定されています。 

『ちいさなちいさな めにみえない びせいぶつのせかい』

 こちらはノンフィクションですが形態が絵本となっているので、絵本編の中で紹介します。目には見えない微生物の姿を働きを子どもたちにとてもわかりやすい絵と説明で紹介してくれるイギリスの科学絵本です。微生物とは何か、そして私たちの生活が微生物の働きなしでは成立しないことなどを子どもにわかりやすい例えで表現しています。また科学絵本でありながら、芸術性という部分でも素晴らしく美しい作品です。ブックトークなどでもぜひ紹介して欲しいと思います。『この本読んで!』でも選定されています。
(K・J)

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