本に関する情報

今年のリンドグレーン児童文学賞が決まりました!
訃報 大岡信さん
おすすめ幼年童話1『おはようスーちゃん』ジョーン・G・ロビンソン 
基本図書を読む36『ムギと王さま』『天国を出ていく』エリナー・ファージョン
2017年2月、3月の新刊から
『きゅうきゅうばこ』の新版が出ました。
基本図書を読む35『西遊記』呉承恩
訃報 まついのりこさん
訃報 ディック・ブルーナ氏
訃報 佐藤さとるさん
2016年12月、2017年1月の新刊本から
基本図書を読む34『人形の家』ルーマー・ゴッデン
基本図書を読む33『シートン動物記3 カランポーのオオカミ王 ロボ』 アーネスト・T・シートン
2016年10月、11月の新刊から(その2)
限定増刷! 赤羽末吉の絵本2冊

今年のリンドグレーン児童文学賞が決まりました!


4月3日から6日までイタリア・ボローニャで開催されていたボローニャブックフェアにおいて、今年のリンドグレーン児童文学賞に『うんちしたのはだれよ!』の画家、ヴォルフ・エールブルッフ氏が選ばれたという知らせが入ってきました。

ヴォルフ・エールブルッフ氏は、それまでの功績が評価され2006年には国際アンデルセン賞画家賞を受賞しています。

リンドグレーン児童文学賞のページ→こちら(英文)

ロイター通信のサイト→こちら

『うんちしたのはだれよ!』ヴェルナー・ホルツヴァルト/文 ヴォルフ・エールブルッフ/絵 関口裕昭/訳 偕成社 1993

うんち したのは だれよ!
ヴェルナー ホルツヴァルト
偕成社
1993-11

 

 

ある日、もぐらの頭に空からだれかのうんちが落ちてきます。いったいだれの仕業かと、もぐらの犯人探しが始まります。はたして犯人はみるかるのか、なんとも、ユーモラスな絵本です。(偕成社の紹介サイト→こちら

ヴォルフ・エールブルックの邦訳されている作品は、このほかに『レオナルド』(うえのようこ/訳 BL出版 1996)や、『マイヤ―夫人のしんぱいのたねは?』(うえのようこ/訳 BL出版 1998)、『死神とアヒルさん』(三浦美紀子/訳 草土文化 2008)などをはじめとして、全部で9作あります。(絵本ナビサイト→著者詳細
 

『レオナルド』ヴォルフ・エールブルッフ/作 うえのようこ/訳 BL出版 1996

レオナルド
ヴォルフ・エァルブルッフ
ブックローン出版
1996-02

 

『マイヤ―夫人のしんぱいのたねは?』ヴォルフ・エールブルッフ/作 うえのようこ/訳 BL出版 1998

マイヤー夫人のしんぱいのたねは?
ヴォルフ エァルブルッフ
BL出版
1998-10
 
 
 
『死神さんとアヒルさん』ヴォルフ・エールブルッフ/作 三浦美紀子/訳 草土文化 2008
 
死神さんとアヒルさん
ヴォルフ エァルブルッフ
草土文化
2008-02
 
 
 
 
これを機会に、面出ししてはいかがでしょうか?
 
(作成K・J)

 

訃報 大岡信さん


詩人の大岡信さんが、本日4月5日に亡くなられたというニュースが入ってきました。86歳でした。(ニュース記事は→こちら

1979年1月25日から2007年3月31日まで朝日新聞紙上に掲載された、大岡信さんによる古今東西の詩歌の紹介は通算6762回に及びました。昨年は童話屋より、春夏秋冬に合わせた『折々のうた 春夏秋冬』が相次いで出版されました。詩を学ぶ子どもたちに相応しい装丁で、ブックトークなどにも使える作品となっていました。(私は教文館ナルニア国でサイン入り本を入手。今となっては貴重な宝物です。)

『折々のうた 春夏秋冬』大岡信/著 童話屋 2016

折々のうた 春夏秋冬・春
大岡信
童話屋
2016-06-23
 
 
 
 
折々のうた 春夏秋冬・夏
大岡信
童話屋
2016-06-23
 
 
 

折々のうた 春夏秋冬・秋
大岡信
童話屋
2016-09-30
 
 
 

折々のうた 春夏秋冬・冬
大岡信
童話屋
2016-09-30

 

 

また、大岡信さんは何冊かの海外の絵本の翻訳もされています。詩人らしく、とても素敵な訳文になっています。ぜひこちらの作品もこれを機会に手にしてみてください。

『みつけたぞ ぼくのにじ』ドン・フリーマン/作 大岡信/訳 岩波書店 1977

みつけたぞぼくのにじ (岩波の子どもの本)
ドン・フリーマン
岩波書店
1977-06-24
 
 
 
 

 

『まっくろけのまよなかネコよおはいり』J・ワーグナー/作 R・ブルッグス/絵 大岡信/訳 岩波書店 1978

 

 

 

『おふろばをそらいろにぬりたいな』ルース・クラウス/作 モーリス・センダック/絵 大岡信/訳 岩波書店 1979

 

 

 

『星の林に月の船 声で楽しむ和歌・俳句』大岡信/編著 岩波少年文庫 岩波書店 2005


 

心より哀悼の誠を捧げます。

(作成K・J)

おすすめ幼年童話1『おはようスーちゃん』ジョーン・G・ロビンソン 


 

ヴィアックスには児童部会という部会活動があります。(詳しくはこちらを見てください。→児童部会のページほんのふくろう-9

児童部会では27年度、28年度の2年間「基本図書から学ぶ」をメインのテーマにして活動をしてきました。それは、毎年2000点を超える児童向け出版物の中から、子どもたちに自信をもって手渡していく本を選ぶ力を身につけていくための実践的な学びでした。

1年目の27年度は絵本の読み比べを通して、長く読み継がれてきた作品がどのように子どもたちに受け入れられてきたのか、文章と絵、またそれらが補完し合うことで生まれる相乗効果などについて学び、作品を評価する視点を養ってきました。28年度は絵本から読み物へ移行する時期の幼年期に出会ってほしい本とはどのようなものであるかについて、基本図書を読み込むことを通して学びました。加えて本の特徴や 本質を捉えてレビュースリップを作成し、それをもとに紹介文を書くことも課題として取り組みました。

そして1年間の学びのまとめとして、2002年以降に出版された幼年児童文学のうち、東京子ども図書館の「こどもとしょかん」で選定されている166作品の中から、絵本から読み物へ移行する時期の子どもたちに相応しく、これからも長く読み継がれていくであろう作品を部員たちが1冊ずつ選びました。

今年度は、部員たちが交代でおすすめの幼年童話を紹介していきます。どうぞお楽しみに!
(第1回目は、このサイトの管理人K・Jですが、第2回から交代での執筆になります。)

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連載の第1回目を飾るのは、『おはようスーちゃん』(ジョーン・G・ロビンソン/作・絵 中川李枝子/訳 アリス館 2007)です。

おはようスーちゃん
ジョーン・G. ロビンソン
アリス館
2007-09

 

 

 スーちゃんはとても好奇心旺盛な小さな女の子です。ちいさなおうちにパパとママと一緒に住んでいます。

 ある時、ままごとでお人形のセモリナのお誕生日パーティーをしようと、スーちゃんは庭の植木鉢を逆さまにしてケーキにし、その上ママが大切にしている食器や銀のナイフを勝手に使ってママを驚かせます。スーちゃんに悪気がないことを理解したパパとママは、頭ごなしに叱ったりはせずにスーちゃんのために砂場を作り、ままごとの食器を用意してあげました。(「1スーちゃんの砂場」)

 パパやママだけでなく、スーちゃんを取り巻くほかの大人たちも、子どもらしい発想で行動をするスーちゃんを、優しい眼差しで温かく見守っています。そんな中でのびのびと生活をするスーちゃんの姿に、読み手の子どもたちにも安堵感を与えることでしょう。

 この本には、無邪気で可愛らしいスーちゃんの日常を描いたお話が9つ入っています。

 ジョーン・G・ロビンソンはイギリス児童文学作家で、『テディ・ロビンソン』シリーズ(福音館書店)や『思い出のマーニー』(岩波書店)などの作品があり、子どもたちに長く親しまれています。翻訳は『ぐりとぐら』の中川李枝子さんです。

 この本はイギリスで1953年に出版されました。60年以上前の作品です。けれども、3、4歳頃の子どもの特性は昔と今とでも、さほど変わっていないことがわかります。今、読んでも「あるある、こういうこと」と思える子どもの姿です。ただ、今は情報が多すぎて子育て中の親はスーちゃんのパパやママのようにおおらかに見守ることが難しくなっているかもしれません。だからこそ、スーちゃんと同年代の子にはぜひ読んであげてほしいと思います。一人で読める子どもたちには、温かなユーモアを感じながら、幼いスーちゃんの様子を楽しんで読むことができると思います。 

(作成児童部会事務局K・J)

基本図書を読む36『ムギと王さま』『天国を出ていく』エリナー・ファージョン


 36回目の「基本図書を読む」は、エドワード朝のイギリスで活躍した女性作家エリナ―・ファージョンの『ムギと王さま 本の小べや1』、『天国を出ていく 本の小べや2』(共に石井桃子/訳 岩波書店 岩波少年文庫)です。これらは、ファージョンが77歳の時(1955年)に、それまで書いた作品の中から27編の短編を自ら選んで一冊の本、『THE LITTLE BOOKROOM』(邦題 『本の小部屋』)として出版したものです。

『ムギと王さま 本の小べや1』エリナー・ファージョン/作 石井桃子/訳 岩波少年文庫 岩波書店 2001

ムギと王さま―本の小べや〈1〉 (岩波少年文庫)
エリナー ファージョン
岩波書店
2001-05-18
 
 
 
 
『天国を出ていく 本の小べや2』エリナー・ファージョン/作 石井桃子/訳 岩波少年文庫 岩波書店 2001
 

 

ファージョン作品集3『ムギと王さま』(石井桃子/訳 岩波書店 1971)では、原作と同じ27編が収められていますが、岩波少年文庫として出版される時に、14編と13編に分けられました。

 『ムギと王さま ファージョン作品集3』エリナ―・ファージョン/作 石井桃子/訳 岩波書店 1971

ムギと王さま (ファージョン作品集 3)
エリナー・ファージョン
岩波書店
1971-09-08

 

本の表紙画は、『チムとゆうかんなせんちょうさん』(瀬田貞二/訳 福音館書店)、『時計つくりのジョニー』(あべきみこ/訳 こぐま社)などでおなじみのエドワード・アーディゾーニで、たくさんの本に囲まれて、読書に没頭する子どもの姿が描かれています。

「作者まえがき」には、“わたくしが子どものころに住んでいた家には、わたくしたちが「本の小部屋」とよんでいた部屋がありました。なるほど、その家の部屋は、どの部屋も、本の部屋といえたかもしれません。”(『ムギと王さま』p3)と、子ども部屋も、父の書斎も、食堂も居間も、寝室も本であふれていたことが書かれています。

 そして「本の小部屋」について、次のように語っています。“わたくしに魔法のまどをあけてみせてくれたのは、この部屋です。そこのまどから、わたくしは、じぶんの生きる世界や時代とはちがった、またべつの世界や時代をのぞきました。詩や散文、事実や夢に満ちている世界でした。その部屋には、古い劇や歴史や、古いロマンスがありました。迷信や、伝説や、またわたくしたちが「文学のこっとう品」とよぶものがありました。”(『ムギと王さま』p4~5)

そうしたものに夢中になった子ども時代があったからこそ、ファージョンは詩や、子どものための創作物語を書くようになっていくのです。そして、77歳で出版した『THE LITTLE BOOKROOM』で、1956年にイギリスで出版された最もすぐれた子どもの本に贈られるカーネギー賞と、初の国際アンデルセン賞を受賞しました。

イギリス児童文学研究者の中野節子らは、『作品を読んで考えるイギリス児童文学講座4 花ひらくファンタジー』(中野節子・水井雅子・吉井紀子/著 JULA出版局 2012)の中で、“「イギリスのアンデルセン」といわれたエリナ―の特徴をよく伝える創作妖精物語の傑作が収められている。”と、この作品について評しています。

花ひらくファンタジー (作品を読んで考えるイギリス児童文学講座)
中野 節子
JULA出版局
2012-05

 

 

表題作の「ムギと王さま」は、お人よしの少年ウィリーがエジプトのラー王との不思議な問答を語ってくれるというお話です。エジプト王の持つ財宝よりも自分の父親が丹精込めて作ったムギのほうが金色だと信じるウィリーの純粋な気持ちと、空想の中で語られる問答に思わず引き込まれます。

「貧しい島の奇跡」では、貧しい島を訪問してくれる女王のために大切なバラの花を犠牲にして水たまりを埋めたロイスの心に報いるように、女王亡き後に起こる奇跡を描いています。純真な子どものひたむきさと、それが身分の高い人の気持ちを動かすという物語は、静かな感動がすっと心にしみわたりました。

ひいおばあちゃんのそのまたひいおばあちゃんの時代から代々受け継がれてきた子守歌を、百十歳のひいおばあちゃんのために歌ってあげる十歳のひ孫グリゼルダを描く「《ねんねはおどる》」は、健気な少女の姿に心を打たれます。

「サン・フェアリー・アン」というお話もまた印象的です。第二次世界大戦でリトル・エグハム村に疎開してきたキャシーはずっと心を閉ざしていました。それは大事にしていた人形のサン・フェアリー・アンを、いたずらっ子によって池の中に投げ込まれてしまったからでした。この人形は、第一次世界大戦前にフランスで作られ代々女の子に受け継がれていたもので、終戦後、フランスに従軍していたキャシーの父親が廃墟の中から拾って娘に渡したものだったのです。心を閉ざしているキャシーを気にしていたレイン先生の奥さんは、ある時干上がった池が不衛生なのを見て、池の掃除をします。最後に出てきたのがサン・フェアリー・アンでした。レイン先生の奥さんはその人形を見て驚きます。それこそ、自分がフランスにいた時、母から譲られ大切にしていた人形だったからです。幾世代も女の子たちの手を経て大切にされてきた人形が、キャシーのその後の人生を変えていくこのお話も、心を動かします。 

 27の短い物語は、どれも不思議で面白く、それぞれに歌うようなことばで、ファージョンが作り上げた想像の世界に私たちを誘ってくれます。この歌うようなことば、詩のようなことばこそファージョンの魅力なのでしょう。

『ファージョン自伝 わたしの子供時代』(エリナ―・ファージョン/著 中野節子/監訳 広岡弓子・原山美樹子/訳 西村書店 2000)によると、ファージョンの子ども時代、さまざまな生活の場面に歌があったと書かれています。ゲームの時に子どもたちがポーズを決めるときも、「はい、ポーズ」というメロディを母親がピアノで弾いていたというのです。(第5章 1890年代の子供部屋 p259)

この自伝にはあちこちに、遊びの中で歌われていたメロディが採譜されて掲載されています。

ファージョン自伝―わたしの子供時代
エリナー ファージョン
西村書店
2000-02
 
 
 

 エリナ―・ファージョンは1881年、ロンドンに生まれます。父親は貧しい生まれのユダヤ系イギリス人でしたが、ニュージーランドで新聞を発行する仕事につき、その後ベストセラー作家となってイギリスに戻ってきます。母親は、その作品愛読していたというアメリカの俳優ジョーゼフ・ジェファソンの娘マーガレットです。ふたりの間には、兄ハリー、そしてエリナ―、弟ジョーゼフ、ハーバート(ほかに夭折したエリナ―の兄チャールズもいた)の子どもたちがいましたが、兄弟は学校には通うことなく育ちました。ファージョンが物語のまえがきに書いた「本の小部屋」で、古今東西のさまざまな本に出会うことによって、さまざまな知識を得、想像の世界を広げていったのです。

この自伝は1935年にイギリスで出版されました。克明に自分たちの両親のこと、そして子ども時代のことが記されており、その中にはエリナ―・ファージョンの作品の魅力を理解するためのヒントがたくさん散りばめられています。

 ファージョンの作品は、一部では古臭いと評する人もいるようですが、想像の翼を広げて物語の世界に深く入り込んでいくことを好む子どもたちには、今でも手渡すことの出来る作品です。また、歌うようなことばで綴られた物語は、耳から聴いて心地よく語りのテキストとしておすすめです。

 

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2014年4月より毎月1回長く読み継がれてきた児童文学を紹介してきた「基本図書を読む」の連載は、36回をもって最終回とします。

第1回目の冒頭には、もう一人の執筆者T・S(のちにT・I)が
“「何か楽しい本ない?」と聞かれたとき、ブックトークを作成するとき、新刊図書の購入を検討するときなど、業務を行ううえで、本を選ぶ場面はたくさんあります。資料を選択するためには、その資料を評価しなければならず、資料を選ぶ判断基準が必要になってきます。判断基準をつくるには、とにかくたくさん本を読むことですが、とりわけ基本図書とよばれている本を読むことは、大きな力となってくれます。

基本図書とは、長い間子どもに愛され、読み継がれてきた本を言います。時の試練を経ても色あせることがない、読書の喜びを与えてくれる本で、図書館の蔵書の核となっています。基本図書を読むことで、子どもたちが本質的にどんなものを求めているのか、質の高い作品とはどのようなものなのか、図書館員としてどのようなものを手渡していくべきかが、自ずとみえてきます。

H26年度「本のこまど」では、「基本図書を読む」というテーマで、毎月1冊の本を紹介する予定です。大人になっても楽しめる作品ばかりですが、子どもたちはどんなふうに読んでいるのだろうという視点も持って、味わってみてください。12冊の中から、みなさまにとっても、心に残る大切な1冊が見つかり、仕事をしていくうえで力になってくれればと思っています。”

と記しました。

当初、1年だけで終わる予定だった連載を3年続けて来られたのは、私たちが子ども時代に読んだ本が、「子どもに本を手渡す」という今の仕事を支えてくれているという思いがあったからです。3年間で36冊を紹介できたことは、私たちにとっても喜びです。

この度、共に記事を書いてきた室員が産休に入ったこともあり、連載を終わることにしました。長い間、読んでくださりありがとうございました。

過去の記事はこちらから遡って読むことが出来ます。→「基本図書を読む

(作成K・J)

2017年2月、3月の新刊から


 

2017年2月、3月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの本を紹介します。(一部2017年1月下旬発行のものあり)

また、ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。すべての新刊本を購入して読むことはできませんが、教文館ナルニア国の新刊本コーナー、クレヨンハウス新刊本コーナーなどにある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。

 (なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

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【絵本】

『あめ』イブ・スパング・オルセン/作 ひだにれいこ/訳 亜紀書房 2017/2/13

あめ
イブ・スパング・オルセン
亜紀書房
2017-01-26
 
 
 シャルロッテという少女、雨音で窓を開けてみると、雨つぶの精バラバラとボトボトと出会います。バラバラから聞いたぼうけん話は、そのまま水の循環や、天気のことについて理解を促します。自分で読むなら小学生以上ですが、読んであげるなら幼児でも興味をもつでしょう。『つきのぼうや』(やまのうちきよこ/訳 福音館書店 1975)などで有名な国際アンデルセン賞作家オルセンの1963年の作品です。昨年11月に同じく亜紀書房から『かぜ』が出版されています。

 

『よるのこどものあかるいゆめ』谷川俊太郎/詩 むらいさち/写真 マイクロマガジン社 2017/2/15

よるのこどものあかるいゆめ
谷川 俊太郎
マイクロマガジン社
2017-02-03
 
 子どもを寝かしつけるための催眠療法をそのまま絵本にして爆発的に売れた絵本が昨年ありました。あれは催眠術の手法なので眠くなるのは当たり前なのですが、絵本としてどうかなと考えさせられました。世の中、子どもも寝かしつける親もストレスフルなのでしょうか。「ねるまえに読む本」というコンセプトで出版が相次いでいます。こちらはそんな流行に乗っているようでもありますが、谷川俊太郎さんの詩が、凝り固まった心を解きほぐしてくれて、読んでいくうちに安らかな気持ちになっていきます。海の中を撮影した写真も水にたゆとうように気持ちよくなっていく、そんな絵本です。
 
 
『ぼくの草のなまえ』長尾玲子/作 福音館書店 2017/2/10
 
ぼくの草のなまえ (福音館の科学シリーズ)
長尾 玲子
福音館書店
2017-02-08
 
 太郎くんが丹精込めて育てたチューリップのプランターの中に、小さな白い花をつけた雑草をみつけます。雑草だからと抜いたりせずに「かわいい花だな」と思った太郎くんは、植物に詳しいおじいちゃんに電話をして聞きます。花の色だけでなく、茎の様子、葉の形や手ざわり、つき方を順番に聞いていくおじいちゃん。その雑草がハコベであることがわかりました。名前がわかれば、抜かれる運命の雑草としてではなく、固有の植物として愛着もわきますね。デンマークで刺繡を学んできた作者の、緻密で丁寧な刺繡による絵が、植物の特徴をよく捉えていて素敵です。同じ作者の『ざっそうの名前』(福音館書店 2013)もおすすめです。
 

 『みどりの町をつくろう 災害をのりこえて未来をめざす』アラン・ドラモンド/作 まつむらゆりこ/訳 福音館書店 2017/2/10

みどりの町をつくろう 災害をのりこえて未来をめざす (福音館の科学シリーズ)
アラン・ドラモンド
福音館書店
2017-02-08
 
2007年5月にアメリカはカンザス州グリーンズバーグを巨大な竜巻が襲いました。日本国内でもニュースに取り上げられましたから記憶にある方もいらっしゃるでしょう。人口1400人の集落の9割の建物が全壊し、死者も11名でた大きな災害でした。この絵本は何もかも失ったグリーンズバーグの人たちが失意の中から立ち上がり、自然環境に優しい緑の町づくりに取り組む過程を子どもたちにもわかりやすい絵と文章でつづった絵本です。アラン・ドラモンドはイギリス在住の絵本作家ですが、『風の島へようこそ―くりかえしつかえるエネルギー』(まつむらゆりこ/訳 福音館書店 2012)で、グリーンアース文学賞を得ています。夏休みの自由研究のきっかけにもなる作品です。
 
 
『ぼくのあかいボール』イブ・スパング・オルセン/作 ひしきあきらこ/訳 BL出版 2017/2/20 
ぼくのあかいボール
イブ・スパング・オルセン
ビーエル出版
2017-02-20

こちらも、デンマークの絵本作家オルセンの1983年の作品です。いつも遊んでいるお気に入りのぼくのあかいボールが、ある時ころころころがって、バスの中へ。運転手におこられたボールは、どんどんどんどん逃げていき公園の中へ。さて、ボールはもどってくるのでしょうか。今年は日本とデンマークの国交樹立から150周年の年、練馬区下石神井にあるちひろ美術館・東京では3月1日からデンマークの心 イブ・スパング・オルセンの絵本」を開催中です。(5月14日まで)そちらで、この絵本の原画を見ることもできます。機会があれば原画にも触れてみてください。
 

 
『くまさん』まど・みちお/詩 ましませつこ/絵 こぐま社 2017/2/25
 
くまさん
まど みちお
こぐま社
2017-02-17
 
「はるがきて めがさめて くまさん ぼんやり かんがえた」で始まるまど・みちおさんの詩が絵本になりました。寝ぼけたくまさん、水に映った自分の顔をみて、自分がくまだったことを思い出します。小学2年生の国語の教科書 (三省堂)にも掲載されており、音読の宿題で声に出して読んでいたのを思い出します。ましませつこさんの優しいタッチの絵が、長い冬眠から覚めて春の訪れを喜んでいるくまの気持ちを上手に表現しています。耳に心地よいリズムの詩です。小さな子どもたちにも読んであげるとよいでしょう。

 

『どのはな いちばん すきな はな?』(0.1.2えほん)いしげまりこ/文 わきさかかつじ/絵 福音館書店 2017/3/5

どのはな いちばん すきな はな? (0.1.2.えほん)
いしげ まりこ
福音館書店
2017-03-01
 
 福音館書店の月刊誌「こどものとも0.1.2」から2冊、ハードカバーになりました。1冊めは2012年3月号の『どのはな いちばん すきな はな?』です。見開き画面にぱあっと広がる原色の美しい花。春らしい明るい気持ちになります。デフォルメされた絵ですが、なんの花かわかります。小さな子どもたちに、美しい花に目を向けてもらうきっかけになる1冊です。
 
 

『ひよこさん』(0.1.2えほん)征矢清./作 林明子/絵 福音館書店 2017/3/5

ひよこさん (0.1.2.えほん)
征矢 清
福音館書店
2017-03-01
 
2冊目は 2013年3月号の征矢清・林明子夫妻による『ひよこさん』です。ひとりでおでかけひよこさん、暗くなって動けなくなりました。でも大丈夫。目を覚ますとおかあさんがそばにいてくれました。小さな子どもたちに安心感を与えてくれるお話です。 
 
 

 『生きる』谷川俊太郎/詩 岡本よしろう/絵 2017/3/5

生きる (日本傑作絵本シリーズ)
谷川 俊太郎
福音館書店
2017-03-01
 
 月刊たくさんのふしぎ2013年9月号として出版された谷川俊太郎の詩「生きる」の絵本が、この度ハードカバーになりました。月刊誌の別刷付録「ふしぎ新聞」に、谷川俊太郎が「〈いま〉は物理的に一瞬でありながら、心理的には一瞬にとどまらないひろがりをもっています。(中略)〈いま〉を止めることは誰にも出来ませんが、〈いま〉を意識することが、逆に流れ止まない時間を意識することにつながることがある。」と、この詩の背景にある思いをつづっています。イラストレーターの岡本よしろうが描く何気ない家族の夏の一日が、そうした日常にこそ「生きる」実感があることを伝えてくれています。手渡すなら小学生中学年くらいから。
 

 『いのちのひろがり』中村桂子/文 松岡達英/絵 福音館書店 2017/3/5

いのちのひろがり (たくさんのふしぎ傑作集)
中村 桂子
福音館書店
2017-03-01

 こちらも月刊たくさんのふしぎ2015年4月号がハードカバーになりました。JT生命誌研究館館長、中村桂子氏が生命誌の考え方から地球上に生命が発生してからの38億年の歴史を、子どもたちにもわかりやすく説明してくれています。庭にいるアリも、魚も、草も木も人間も、地球上にいるすべての生命は38億年前に発生したひとつの細胞から始まっているという発見は、驚きとともに子どもたちに生命あることの感動を伝えることができると思います。自然科学絵本を得意とする松岡達英の絵も、子どもたちには親しみやすいでしょう。

 

 『だいち』谷川俊太郎/詩 山口マオ/絵 岩崎書店 2017/3/20

詩の絵本 教科書にでてくる詩人たち (5) だいち (詩の絵本―教科書にでてくる詩人たち)
谷川 俊太郎
岩崎書店
2017-03-08
 
 今回紹介する新刊本の中で3冊目の谷川俊太郎作品です。教科書に出てくる詩人たちの作品を絵本として出版しているシリーズの5作目です。この詩の初出は、詩集『いち』(佐野洋子/絵 国土社 1989)でした。「だいちのうえに くさがはえ/ だいちのうえに
 はながさき / だいちのうえに きはしげり / だいちのうえに あめはふる(後略)」と、大地の上で営まれる人々の暮らしを描く詩を、山口マオの力強い版画が際立たせます。読んであげることで、幼稚園の子どもたちにもこの詩の世界が理解できることでしょう。
 

 
『ドームがたり』アーサー・ビナード/作 スズキコージ/画 玉川大学出版部  2017/3/20

ドームがたり (未来への記憶)
アーサー・ビナード
玉川大学出版部
2017-03-11
 
 原爆ドームが主人公のこの絵本は、読む者にさまざまな思いを引き出してくれます。まずはまっさらな気持ちでこの絵本に向き合ってみるとよいでしょう。アメリカで生まれ育ったアーサー・ビナードは、来日するまで「原爆は必要だった」という歴史教科書の記述を疑いもしなかったそうです。しかし、29歳で初めて広島の原爆ドームの前に立った時、ほんとうにそうなのだろうかを疑問を持ちます。その思いを胸に書かれた作品です。スズキコージの絵もまた私たちに何かを訴えかけてくれます。先日、皇太子ご息女愛子さまが中学を卒業するのを機に公表された作文も原爆ドームを訪れた時の強烈な印象が素直に書かれていました。その作文を思い出しながら、ぜひこの絵本も読んでほしいと思います。
 

 【児童書】

サンタクロースのはるやすみ』ロジャー・デュボアザン/文・絵 小宮由/訳 大日本図書  2017/2/20

ロジャー デュボアザン
大日本図書
2017-02-22

 クリスマスにしか町へいかないサンタクロースは、春の訪れに誘われて町へ出かけていきます。変装して出かけたのに、立派なひげと赤い鼻をみて、サンタクロースからそれらを盗んだと疑われてしまいます。本物のサンタクロースだと、町の人たちにわかってもらうためにどうしたと思います?サンタクロースがイースターの町にいるなんて、素敵ですね。原題は「EASTER TREAT」です。『しろいゆきあかるいゆき』でコルでコット賞を受賞したロジャー・デュボアザンの作品で、翻訳は小宮由です。

 

『水の森の秘密』(こそあどの森の物語)岡田淳/作 理論社 2017/2 
 

1994年に『ふしぎな木の実の料理法』で始まった「の森でもなければ、の森でもない の森でもなけれな、の森でもない」「こそあどの森」で繰り広げられるスキッパーやポットさん、トマトさん、トワイエさんをはじめとする森の住人たちの物語が、12冊目のこの作品で完結となります。ある時、こそあどの森のあちこちに水がわき出し、湖のようになってしまいます。その原因をさぐるためスキッパーたちは、調査をはじめます。その意外な原因は!初期の「こそあどの森の物語」シリーズを読んできた世代ももう30代になろうとしています。12巻目が出たことで、最初のころの本も読み返そうとする子どもたちもいることでしょう。親子二代で読む子もいるのではないでしょうか。ぜひ、既出のシリーズと一緒に手渡してほしいと思います。 

 

『小さな赤いめんどり』アリソン・アトリ―/作 神宮輝夫/訳 小池アミイゴ/絵 こぐま社 2017/3/10
小さな赤いめんどり (こぐまのどんどんぶんこ)
アリソン アトリー
こぐま社
2017-02-27
 
 1969年に大日本図書から油野誠一の絵で出版されていたこの作品が、『とうだい』(斉藤倫/作 福音館書店 2016)を描いた小池アミイゴさんの絵でこぐま社の「こぐまのどんどんぶんこ」としてよみがえりました。油野誠一の絵で親しんでいた人には、イメージが違って見えることでしょう。ひとりで暮らすおばあさんのところにある夜、訪ねてきた小さな赤いめんどりは、実はふしぎな力を持っているのでした。絵本から読み物へ移行する時期の子どもたちに手渡したい作品です。
 

『たんけん倶楽部 シークレット・スリー』ミルドレッド・マイリック/文 アーノルド・ローベル/絵 小宮由/訳 大日本図書 2017/3/15

たんけんクラブ シークレット・スリー (こころのほんばこ)
ミルドレッド マイリック
大日本図書
2017-03-17

 今回、紹介した『サンタクロースのはるやすみ』と同じ大日本図書の「こころのほんばこ」シリーズの1冊です。小宮由が絵本から読み物へ移行する時期の子どもたちに手渡す本として厳選して翻訳しているラインナップです。海辺に住むビリーは友だちのマークと一緒に手紙の入っているビンを拾いました。その手紙には「たんけんクラブをつくろう」と書いてありました。それは沖にあるちいさな島の灯台にすむトムという男の子からのものでした。3人はビンに手紙を入れて海を隔ててやり取りをします。同年代の男の子がワクワクするお話です。

 


『メリーメリー おとまりにでかける』ジョーン・G・ロビンソン/作・絵 小宮由/訳 岩波書店 2017/3/17
メリーメリー おとまりにでかける
ジョーン・G.ロビンソン
岩波書店
2017-03-18

『テディ・ロビンソン』や『思い出のマーニー』などの作品があるロビンソンの新しく翻訳された幼年童話です。1957年に書かれたものですが、今の子どもたちが読んでも楽しいお話です。5人兄弟の末っ子のメリーメリーは、いつもおにいちゃんやおねえちゃんにじゃまもの扱いされています。そんなことにめげないメリーメリーのゆかいなお話が5話入っています。自分で読むなら小学校低学年から。小さなお子さんには読んであげてほしい作品です。こちらも小宮由の翻訳です。

 

【その他】

乳幼児おはなし会とわらべうた』落合美知子/作 児童図書館研究会 2017/2/25

長年、図書館司書として、あるいは文庫活動を通して、「親子でたのしむ絵本とわらべうた」の活動を続けてこられた落合美知子さんの活動をまとめたものです。小さな子どもになぜわらべうたなのか、理論的なところもわかりやすくまとめてあります。わらべうたの実践事例や、資料なども豊富です。図書館などで乳幼児おはなし会、わらべうたの会を実施しようとしている図書館司書にとって、貴重なテキストといえるでしょう。ぜひ業務の際に手元に置いて参考にしてほしいと思います。詳しくは児童図書館研究会のサイト(→こちら)をご覧ください。

 (作成K・J)

『きゅうきゅうばこ』の新版が出ました。


福音館書店のかがくのとも傑作集として1989年に出版された『かがくのとも版 きゅうきゅうばこ』(山田真/文 柳生弦一郎/絵)が、当時とけがの処置法が大きく変わってきたことを受けて、書き直され『かがくのともの きゅきゅうばこ 新版』としてリニューアルされました。

1989年出版の『かがくのとも版 きゅうきゅうばこ』

かがくのとも版 きゅうきゅうばこ (かがくのとも絵本)
山田 真
福音館書店
1989-03-25
 
 
 
 
この度、出版された新版『かがくのともの きゅうきゅうばこ』
きゅうきゅうばこ 新版 かがくのともの (かがくのとも絵本)
やまだ まこと
福音館書店
2017-02-01

 

 

2冊を並べて読み比べてみると、やけどの処置では、旧版は「みずぶくれは だんだん ちいさくなって なおることもあるし、やぶれることもある。やぶれたら うむといけないので、びょういんへいこう。」というところが、新版では「みずぶくれになっていたら、やぶって ひふくざいを はっておく。」に書き換えられています。

すりきずの処置では、旧版は「すいどうで よく あらいながしておこう。そのあと しょうどくして きれいな ガーゼをあてておけばいい。」、「すりきずは、たいしたことがないように みえても、けっこう なおりにくい。じくじく うんできたら、びょういんへ いこう。こうせいぶっしつの ついた ガーゼみたいなもので てあてしてもらえるでしょう。」というところが、新版では「すいどうで よく あらいながしておこう。そのあと ひふくざいか ラップを きずぐちに はっておけばいい。」、「すりきずは、たいしたことがないように みえても、けっこう なおりにくい。なんにちかして いたくなったら、うんだのかもしれないから びょういんへ いこう。」となっています。

それ以外にも巻末の「いえにおきたいきゅうきゅうセット」の内容が、旧版では「布ばんそうこう サージカルテープ 帯状ばんそうこう 殺菌消毒剤つきガーゼ 滅菌ガーゼ 殺菌消毒剤 粘着ほうたい 伸縮ほうたい 抗ヒスタミン剤 外傷殺菌消毒剤 副腎皮質ホルモン剤」となっていることろが、新版では「帯状ばんそうこう サージカルテープ 粘着ほうたい 伸縮ほうたい ハイドロコロイド被覆副腎皮質ホルモン剤 抗ヒスタミン剤 ペーパータオル 食品包装用ラップ タオル ハサミ 体温計 ペットボトルの水(傷口の汚れを流す)」となっており、この28年の間にずいぶん家庭での応急処置方法が変化してきたことがわかります。

後ろ見開きページに、この絵本の文章を書いた小児科医の山田真さんが、傷口を消毒しないで乾かさない治療法「うるおい療法」について、丁寧に説明をしてくださっています。

時代の変化に合わせて、絵も新たに描きなおされています。

知識の本は、新しい知見が出てきたときには、それに基づいた改訂が必要になります。2015年には『せいめいのれきし』(バージニア・リー・バートン/作 石井桃子/訳 岩波書店)が、科学者の監修のもと、改訂されています。(本のこまどでの紹介記事→こちら

長く都立多摩図書館などで児童図書館員として勤められた杉山きく子さんは、著書『がんばれ!児童図書館員』(本作り空Sola 2014、この著作は2016年東京子ども図書館から再刊されています)の中で、「ノンフィクションは、書かれた時点でもっとも新しい事実や知見をとりあげているのは当然だが、たいせつなのは対象に対する著者の姿勢や情熱である。最先端の知識を羅列しただけの新しい本よりも、内容は最先端でなくても、テーマに対する著者の愛情や情熱を感じられる本こそが、子どもにはふさわしい。また、学問は常に新しい研究によって進歩発展していることを示唆する姿勢も必要である。」(第2章 子どもの本をしるために 「ノンフィクション 知識の本」の項目より p65)と、述べられています。
 

がんばれ!児童図書館員
杉山 きく子
東京子ども図書館
2016-05-30
 
 
 

 

今回のこの改訂には、作者である山田真さんと柳生弦一郎さんの新しい知見を子どもたちへ伝えたいという思いを感じることができます。子どもたちに人気の著作だからこその、新版の意味を受け止めながら、図書館でも差し替えてあげてください。なお、旧版も廃棄せずに、子どもたちが比較して読めるようにしておくのもよいでしょう。

(作成K・J)

基本図書を読む35『西遊記』呉承恩


今月の基本図書は、呉承恩作『西遊記』です。岩波少年文庫(伊藤貴麿/訳 1955)と、読み比べた上で、君島久子が翻訳した福音館書店の本で紹介します。(今回は福音館文庫で読みました)

『西遊記(上)』呉承恩/作 君島久子/訳 瀬川康男/画 福音館書店 1975

西遊記(上) (福音館古典童話シリーズ (15))
呉 承恩
福音館書店
1975-07-15
 
 
 

『西遊記(下)』呉承恩/作 君島久子/訳 瀬川康男/画 福音館書店 1976

 

 

花果山の頂きにあった仙石から孵った石猿は、知恵も力も優れていたので、猿の群れの王座につき美猴王と名乗るようになります。そうやって五百年が経ったころ、仙人になろうとして斉天大聖となり、孫悟空という名前をいただきます。しかし仙力が強いことをよいことにやりたい放題。天宮を大いに騒がせ、お釈迦様に五行山の下に閉じ込められます。そのまた五百年後に縁があって三蔵法師に出会い、取経の旅に猪八戒、沙悟浄とともに同行することになります。物語は、西天目指して幾山河越えていく4人に、次々と困難が襲ってくる様が描かれています。これでもか、これでもかと次々襲いかかる妖怪変化の群れを、悟空たちが知恵と力を使って倒し、八十一の災厄艱難を切り抜け、ついには目的地にたどり着き、無事に経典をいただくまでが、百回の物語にまとめられています。

如意金箍棒を片手に觔斗雲に乗って、ひとっ飛びで十万八千里を越えることの出来る孫悟空の姿は、本だけではなく、映画やアニメーション、ゲームにもなっていて、知らない人はいないでしょう。妖術あり、心躍る冒険あり、唐の皇帝太宗や仏典を求めてインドへ旅をした玄奘など歴史上の人物も登場する壮大なファンタジー物語は、読む人の心を惹きつける魅力があります。乱暴者の孫悟空が健気にも三蔵を必死で守る姿や、食い意地がはって欲得に溺れて道を踏み外すけれども愛嬌のある猪八戒、一途に三蔵に仕える沙悟浄と、三蔵法師を守る三人の個性豊かなお供にも親しみがわきます。

今年1月に出版された『子どもの本のよあけー瀬田貞二伝』(荒木田隆子/著 福音館書店)には、瀬田貞二さんがインタビューに答えて「ぼくは『西遊記』って小学校三年のとき読んで、それでそれ以来なんべん読んだかわからないです。大好きなもののひとつですね」と答えている箇所があります。(『子どもの本のよあけー瀬田貞二伝』p323)

子どもの本のよあけ―瀬田貞二伝 (福音館の単行本)
荒木田 隆子
福音館書店
2017-01-11
 
 
 
 

『王さまと九人のきょうだい』(君島久子/訳 赤羽末吉/画 岩波書店 1969)という中国昔話絵本の翻訳でも知られる君島久子さんによる福音館書店版『西遊記』は、声に出して読むとますます滑らかに物語が進み、その面白さを倍増させます。

 

たとえば、「なんじは妖怪か魔物か。我をたぶらかしにやって来たのか。我は公明正大の僧、大唐の勅命を奉じて、西天へ経を求めに行く者。三人の弟子があり、いずれも降竜伏虎の豪傑、妖魔を除く壮士。かれらに見つかれば、その身はみじんに砕かれるであろうぞ。」(第三十七回)、「なんだと。知らざあ言ってきかせよう。我々は、東土大唐より勅命にて、西天へ取経に行く聖僧の弟子だ。(中略)耳をそろえてそっくり返せば、命だけはかんべんしてやる」(第四十七回)という言葉は、目で追って読むよりも、実際に声に出して読んでみると、味わい深いものがあります。

西遊記〈上〉 (福音館文庫 古典童話)
呉 承恩
福音館書店
2004-01-20
 
 

 

西遊記〈中〉 (福音館文庫 古典童話)
呉 承恩
福音館書店
2004-01-20

 

 

西遊記〈下〉 (福音館文庫 古典童話)
呉 承恩
福音館書店
2004-01-20


 

福音館書店版は、「現存する「西遊記」のテキストとして最も古いものの一つ、明代(14~17世紀)に刊行された金陵世徳堂本を底本として、清代(17世紀~20世紀)に出された六種の刻本により校訂を行ない、北京人民文学出版社より刊行した「西遊記」に拠って訳したもの」(「はじめに」より)をもとにして訳出されています。

あとがきには、「作者は呉承恩(1500年~1583年)といっても、明代や清代の古い「西遊記」には作者の署名がなく、呉承恩が書いたという確かな証拠があるわけではありません。あるいは、この物語をまとめ、すぐれた文学作品に仕上げたのが呉承恩であったのかも知れません。」(「訳者あとがき」より)として、南宋時代に著された「大唐三蔵取経詩話」以降、多くの民衆に語り継がれ、「西遊記」という壮大なファンタジーになっていったのではと記されています。

また、福音館書店版は瀬川康男さんの挿し絵がとても目を引きます。この作品に取り掛かっている時、瀬田貞二さんと一緒に宋や明の時代の絵入り古版本を見ており、そうした絵の伝統も受け継いだ作品として仕上がっていると、先の『子どもの本のよあけ』にも記されています。(『子どもの本のよあけ』p324)

「王さまと九人の兄弟」の世界
君島 久子
岩波書店
2009-07-03
 
 
 

君島久子さんは、エッセイ『「王さまと九人の兄弟」の世界』(岩波書店 2009)の中で、孫悟空が刀や斧で切りつけられても死なず、八卦炉の中で錬成されても無事でるのは『王さまと九人のきょうだい』に出てくる「きってくれ」「ぶってくれ」などとの相似しており、天上の話から地獄の音まで聞き分ける聴力はリー族に伝わる「五人兄弟」に出てくる「千里耳」と相似しているなど、中国のさまざまな民族に伝わる多兄弟の昔話との関連を、「このように『西遊記』では、孫悟空が一人で、「九人兄弟」や「十人兄弟」のあらゆる超能力をそなえており、三面六臂の活躍を演じています。どんなに恐ろしく強大な相手にも負けないスーパーヒーロー孫悟空と、「九人兄弟」や「十人兄弟」には、どちらにも、大きな権力に屈しまいとする民衆の願いがこめられているように思われてなりません。」(p105「『西遊記』孫悟空の超能力」)と述べています。

三蔵法師のモデルとなった玄奘(602年~664年)は、隋王朝から唐王朝に代わった629年、太宗の時代に、仏教の研究のために原典を求めようと、西域を抜け、西トルキスタン、サマルカンドを通って、インドのガンダーラに到着、ナーランダ学院で仏典の研究を行い、645年に長安に戻ってきます。その後、「大唐西域記」を著しますが、彼の壮挙はその後広く語り伝えられるようになります。宋代(10世紀~13世紀)にすでに語り物として流行し、「大唐三蔵取経詩話」が書かれていたと、『西遊記』の「はじめに」にも記されています。元の時代には、「西遊記」として芝居として演じられるようになり、物語が次第に膨らんでいったようです。君島久子さんが書いているように、王朝が次々に変わっていく中国の歴史に翻弄される民衆が、語り伝えながら逞しい想像力で練り上げていった物語であり、だからこそ読む者を惹きつけるのだと思います。

今の子どもたちは自分で読むのは難しいかもしれませんが、ひとつひとつの回は短いので、ご家庭でぜひ読み聞かせをしてほしいと思います。「さて、次はどのようになるのでしょうか。次回をお楽しみに。」という言葉に促されて、きっと楽しみに聞くことでしょう。

(作成K・J) 

訃報 まついのりこさん


今月、また子どもの本の作り手の訃報が飛び込んできました。絵本&紙芝居作家のまついのりこさんが、2017年2月12日に亡くなられたとのこと。82歳だったそうです。(ニュース記事→こちら

2011年5月にクレヨンハウスでまついのりこさんの講演を聞きました。その時のお話が今も胸に残っています。

じゃあじゃあびりびり (まついのりこのあかちゃんのほん)
まつい のりこ
偕成社
2001-08
 
 
 

 

その講演のことを綴った日記にこんなことを記していました。
「まついさんは1934年生まれの77歳。1931年に日本は15年戦争に突入し、45年まついさんが9歳の時に終戦を迎えています。まさに子ども時代がすっぽりと戦時中に重なっているのです。子ども心に覚えているのは、色彩のない世界。美しいもの、きれいなもの、本物が圧殺され、「生きる意味」を問う文化というもの、本物の文化を創ろうとする人を弾圧していた時代と重なっていたのです。
 まついさんのお父様は、経済学者でいらしたのですが、まついさんが小4の時に治安維持法により逮捕、抑留されるという経験もなさっています。弾圧されていた時代に子ども時代を過ごされていたので、27歳の時、上のお子さんの子育て中に福音館書店の月刊こどものとも、かこさとし作『だむのおじさんたち』(1959年発行)と出会った、大きな衝撃を受けたというのです。絵本というものが持つ文化の光、本物が放つ光を、そこに感じたのだそうです。
 まついさんのすごいところは、絵本の持つ力を感じたことで、自分も絵本を描きたい、絵本を作りたいと思ったということ。子育てをしながら、28歳で武蔵野美術大学に入学し、絵を描くということを一から学ばれたのでした。当時は、今のように社会人入学という制度もなく、ましてや子育てをしながらの大学での学びは、容易ではなかったはずですが、子ども時代に文化というものから隔離されていたという渇望が、まついさんをそこまで突き動かしたでした。
 32歳で美大を卒業された後、さて絵本を作ろうと思ったものの、デッサンや油絵を美大で学んだものの、自分は絵本の作り方は学んでこなかったと、戸惑ったそうです。しかし卒業した年に次女が生まれ、「私はこの子に対して絵本を描こう」と決意されたのです。
 生まれ出た人間の子は、人間になりたいという本能を持っている。“生きるとはなにか”その意味を知りたいという欲求を持っている。そういう知的好奇心を持って生まれた我が子が喜ぶ絵本を作ろうと決意され、我が子のために何作も作ってこられました。それらは、子どもが心の底から喜ぶもの、奥底から光ってくるものを描いてこられたのです。36歳の時、最初にお子さんに作った絵本が、『じゃあじゃあびりびり』でした。」

子どもたちが楽しみながら理解できるよう工夫がされた行事の絵本や、数字・ひらがななどの知識の絵本もたくさん作られました。

『ひらがなのほん』まついのりこ/作 福音館書店 かがくのとも傑作集 1971

ひらがなのほん (かがくのとも傑作集―わくわくにんげん)
まつい のりこ
福音館書店
 
 
 
 
 
『とけいのほん1』まついのりこ/作 福音館書店 1993
とけいのほん1 (幼児絵本シリーズ)
まつい のりこ
福音館書店
1993-03-15
 
 
 
 
 
読み手と聞き手が一緒に楽しめる紙芝居作品をたくさん作られました。
 
『おおきくおおきくおおきくなあれ』まついのりこ/作 童心社 1983
『みんなでぽん!』まついのりこ/作 童心社 1987
 
また、日本独自の文化である紙芝居を世界各地へ普及しようとして、「紙芝居文化の会」代表も長く務められました。紙芝居の演じ方の本も何冊か出されています。
 
『紙芝居の演じ方Q&A』まついのりこ/作 童心社 2006
紙芝居の演じ方 Q&A (単行本図書)
まつい のりこ
童心社
2006-10-31
 
 
 
 
心より冥福をお祈り申し上げます。

(作成K・J)

訃報 ディック・ブルーナ氏


昨日、佐藤さとるさんの訃報をお知らせしましたが、日付が変わる頃に今度はオランダから『ちいさなうさこちゃん』でおなじみのディック・ブルーナさんの訃報が届きました。16日にオランダ・ユトレヒトで89歳の生涯を閉じたということです。 ニュース第一報→こちら

ちいさなうさこちゃん (1才からのうさこちゃんの絵本セット1) (子どもがはじめてであう絵本)
ディック ブルーナ
福音館書店
2000-12-01

この絵本の原作「nijntje」は1955年にオランダで出版され、日本では1964年に石井桃子さんの翻訳で福音館書店から出版されました。

この絵本は日本の赤ちゃん絵本の草分けといっていいのではないでしょうか。今の50代、40代にとってのファーストブックで、それは代々受け継がれてきました。

講談社版では「ミッフィー」という英語版の名前が用いられました、テレビアニメでも「ミッフィーちゃん」と呼ばれ、「うさこちゃん」というよりも「ミッフィー」のほうがしっくり来るという人も多いでしょう。やっぱり石井桃子さん訳(その後翻訳は松岡享子さんに受け継がれました)の「うさこちゃん」が親しみがあるという人も、どちらにしろ世界中の多くの子どもたちに愛されてきた絵本です。

2015年には「生60周年記念 ミッフィー展」が日本国内を巡回しました。その時にお元気そうなビデオメッセージが見られたのに・・・と思います。

きっとブルーナさんも、天国から世界中の子どもたちの幸せを願いながら見守ってくださっていると思います。

(作成K・J)

訃報 佐藤さとるさん


『だれも知らない小さな国』(コロボックル物語1 村上勉/絵 講談社 1959)で知られる児童文学作家の佐藤さとるさんが、2月9日に亡くなられたという知らせが入ってきました。88歳だったそうです。→朝日新聞記事
コロボックル物語は、生まれて58年。子ども時代に読んだという人が、親になり、今は祖父母になる世代です。このシリーズも親子三世代が読み継ぐことのできる作品です。戦争体験し、高度成長期の自然破壊を見てきた佐藤さんの作品は、ファンタジーではありますが、注意深く読むとさまざまなことを教えてくれるものでした。もっともそうしたことに気づいたのは、大人になって読み返してからでしたが。

コロボックル物語 全6巻
佐藤 さとる
講談社
2000-04-04

 

 

 このシリーズには思い入れがあり、「基本図書を読む」の連載の15回目に記事も書いています。→基本図書を読む15『だれも知らない小さな国』

絵本も子どもらしい視点で描かれており、私自身がほんとうに大好きでした。またわが子と何度も読んだ思い出の絵本でもあります。

『おおきなきがほしい』佐藤さとる/作 村上勉/絵 偕成社 1971

 

 

『ふしぎなふしぎなながぐつ』佐藤さとる/作 村上勉/絵 偕成社 1972

 

 

 

『おばあさんのひこうき』佐藤さとる/作 村上勉/絵  小峰書店 1973

おばあさんのひこうき (創作幼年童話選 4)
佐藤 さとる
小峰書店
1973-02-28
 
 
 
 

昨年の3月には自伝小説『コロボックルに出会うまで サットルと『豆の木』』を偕成社から出版され、東京新聞でインタビューに答えていらっしゃいました。(2016年5月1日→こちら

コロボックルに出会うまで 自伝小説 サットルと『豆の木』
佐藤 さとる
偕成社
2016-03-15
 
 
 
 
この本を読み返して、佐藤さとるさんの想いをもう一度胸に刻みたいと思います。

 
(作成K・J)

2016年12月、2017年1月の新刊本から


 

2016年12月、2017年1月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの本を紹介します。(一部2016年11月下旬発行のものあり)

また、ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。すべての新刊本を購入して読むことはできませんが、教文館ナルニア国の新刊本コーナー、クレヨンハウス新刊本コーナーなどにある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。

 (なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

 

【絵本】
 
 『まんまん ぱっ』長野麻子/作 長野ヒデ子/絵 童心社 2016/11/20
まんまん ぱっ! (とことこえほん)
長野 麻子
童心社
2016-11-20
 
 長野麻子さん、長野ヒデ子さん母娘による二作目の絵本です。「まんまん ぱっ」「ぱいぱいぱい」「ぐるぐるぐる~ん」など赤ちゃんが喜ぶオノマトペ(擬音語、擬態語)と、パステルの柔らかい線画が楽しい1冊です。耳から聞こえるリズミカルな音にちいさな赤ちゃんも喜ぶことと思います。

 
『フローレンス・ナイチンゲール』デミ/作 さくまゆみこ/訳 光村教育図書 2016/12/20 
デミ
光村教育図書
2016-12

 「近代看護教育の母」と呼ばれるナイチンゲールの伝記絵本です。1820年生まれのフローレンスは、大変裕福な家庭で育ったにも関わらず、貧しい人のために尽くしたいという篤い信仰心をもって、看護婦になる決意をします。実際に看護婦になると患者たちが置かれている劣悪な環境を改善すべきだと提案し、その改革を実践します。従軍看護婦としてクリミア(今のトルコ)戦争の陸軍病院でも働き、ここでも改善するための報告書を作成し、女王にも訴えかけます。先を見通す力、実行に移す力を持っていたフローレンスの働きは、多くの人々に影響を与えます。のちに国際赤十字を設立したアンリ・デュナンもその一人でした。女性としての細やかな配慮をしつつ、大事なことは譲らず実行した姿は、この絵本に出会う子どもたちにも勇気を与えてくれることでしょう。本の表紙画像は出版社のサイトへ→こちら

『だるまちゃんしんぶん』加古里子/作 福音館書店 2016/12/25

 「だるまちゃんしんぶん」は、子どものための新聞。「はるのごう」「なつのごう」「あきのごう」「ふゆのごう」の4枚がポケットに入っています。連載されているのは「せかいびっくりニュース」や「にっぽんきせつニュース」「まちやむらあちこちニュース」などです。やまんば山でのお花見や、沖縄のキジムナちゃんやカッパちゃんに出会った話など創作話の一方で、夏の星座や冬の天気など科学的な記事もあって加古ワールド満載です。新聞の下のほうに季節の植物や生き物が帯状に描かれていたり、季節の遊びが掲載されていたり、読んでいて楽しくなるばかりです。


『ちっちゃなえほん ちっちゃなちっちゃなものがたり―ジェイコブズのイギリス昔話集より―』瀬田貞二/訳 瀬川康男/絵 福音館書店 2017/1/15 

2016年は瀬田貞二生誕100年の年でした。それを記念して出版されたさまざまな作品のうちの1冊です。「ちいさなちいさなおばあさん」などとしてイギリスの昔話で有名なお話を、瀬田貞二さんの訳に瀬川康男さんの意匠による絵で魅せてくれる文字通り小さな(12.8cm×10.6cm)の絵本です。この絵本は1995年にピンク色の横長の絵本(21.2cm×15.2cm)として出版されていましたが、今回は「母の友」1972年4月号掲載の豆本をもとに一回り以上小さくなって、まったく別の絵本として出版されました。素話で語られることの多い昔話ですが、愛蔵版として手元にあると嬉しい1冊です。
 

『おなかのかわ』瀬田貞二/再話 村山知義/絵 福音館書店 1977/4/1第1刷 2017/1/15第16刷(瀬田貞二生誕100年記念出版)

おなかのかわ (こどものとも絵本)
瀬田 貞二
福音館書店
1977-04-10

 ねことおうむが互いに食事に招待し合います。ところが、けちで食いしん坊のねこは、おうむの出してくれたごちそうを平らげてもまだ満足できず、おうむを飲み込み、次々出会ったものを飲み込んでいきます。デンマークの民話「ふとっちょねこ」「ついでにペロリ」にとても似たお話です。しばらく品切れになって手に入らない絵本でしたが、この度瀬田貞二誕生100年記念として限定復刊されています。図書館の蔵書が古くなって買い替える必要がある場合は、この機会にぜひ購入しましょう。

 
『いたずらおばけ』イギリス民話 瀬田貞二/再話 和田義三/画 福音館書店 2017/1/15(瀬田貞二生誕100年記念出版) 

 月刊絵本「こどものとも」1978年2月号として出版されたものを、瀬田貞二生誕100年記念出版としてハードカバー化した絵本です。貧しいけれど陽気な一人暮らしのおばあさん。ある日道端に金貨がたくさん詰まった壺をみつけます。「これがあれば女王さまみたいに働かずに贅沢ができるわ」とショールでしばって引きずって帰る途中、立ち止まると銀に変化してしまいます。「ああ、夢見てたのね。銀でよかったわ」とまた引っ張っていくと、ただの鉄の塊になり、ただの大きな石になっていきます。おばあさんは、「ああ、夢見てたのね。これで十分」と思うのです。いよいよ大きな石を木戸の留め石にしようとすると、それはいたずらが好きなおばけだったのです。おばあさんはおばけに怒ることもなく「いたずらおばけが見られたなんて、なんて運がいいんだろう」と喜んでやすらかに休むというお話です。何事も前向きにとらえるおばあさんに読んでもらうほうも、楽しくなってくる、そんな絵本です。

 

 『なにたべているのかな?(はなしかけえほん)』とよたかずひこ/作 アリス館 2017/1/25

なにたべているのかな? (はなしかけえほん)
とよた かずひこ
アリス館
2017-01-25

 「ももんちゃん」シリーズなど、小さな子どもたちが大好きなたくさんの絵本を作っているとよたかずひこさん。子どもとやりとりをしながら楽しめる絵本を作りたいと「はなしかけえほん」のシリーズを刊行されることになりました。その1冊目が『なにをたべているのかな?』です。先日、クレヨンハウス「子どもの本の学校」でとよたかずひこさんの講演を聞きました。テキストに捉われることなく、子どもたちの反応を見ながらいっぱい話しかけてほしいということでした。3月に『だれかな?だれかな?』、7月に『ゆびさしなあに?』が、このシリーズで出る予定です。初めての子育てでどんな風に子どもに話しかけたらいいのか緊張するという若い親たちにも、ぜひおすすめしたいですね。

 

【研究書】

 『ぼくの絵本美術館 新装版』堀内誠一/著 マガジンハウス 2016/12/14

ぼくの絵本美術館 新装版
堀内 誠一
マガジンハウス
2016-12-14

 1998年に出版された本の新装版です。堀内誠一が生前福音館書店の月刊誌「こどものとも」「母の友」「かがくのとも」や盛光社の「月刊 絵本」や「別冊太陽」などに掲載されていた絵本に関するエッセイをまとめたものです。ラスコーの壁画から始まり、ブーテ・ド・モンヴェルなど19世紀の絵本、コールデコットの絵本などについて語る文章は、美術への深い造詣とともに「子どもに」という視点が明確にあって、読み応えがあります。堀内誠一の絵本への理解も深まることでしょう。 

 

 『子どもの本のよあけ―瀬田貞二伝』荒木田隆子/著 福音館書店 2017/1/15

子どもの本のよあけ―瀬田貞二伝 (福音館の単行本)
荒木田 隆子
福音館書店
2017-01-11

 瀬田貞二担当の福音館書店の編集者として、その晩年の仕事『落穂ひろい―日本の子どもの文化をめぐる人びと』に向かう姿を身近に見てきた荒木田隆子さんによる瀬田貞二伝です。荒木田さんは、瀬田貞二亡き後、その足跡を辿りながら『絵本論―瀬田貞二子どもの本評論集』、『児童文学論―瀬田貞二子どもの本評論集』をまとめあげられました。この本は2013年5月~2014年1月までの5回にわたり東京子ども図書館主催の講座「瀬田貞二氏の仕事」での講演録をもとにしたものです。分厚い著作ですが、講演の際の語り口調そのままになっているので、とても読みやすく、一気に読めてしまいます。この1冊を通して日本の子どもの本の歴史を知ることができ、自分が子ども時代に親しんだ本が生まれてきた背景も知ることができます。前述の3冊の瀬田貞二の評論集とともに、子どもの本について学ぶ人には必読の1冊です。

 

【その他】

『だるまちゃんと楽しむ 日本の子どものあそび読本』加古里子/著 福音館書店 2016/12/25

 まえがきに加古里子さんご自身が「昭和42年(1967年)に出した『日本伝承のあそび読本」を新しくしたものです。(中略)しかし、50年もたっている現在、子どもたちの成長と未来にふさわしい内容、題材、記述になるよう選びなおし、書き改めました。」と記しているように、日本の伝統的なさまざまな遊びが全部で7項目109種類掲載されています。絵も新しく描きなおされ全ページカラーのイラストが、遊び方を丁寧に伝えてくれています。ここに紹介されている草花を使った遊びや、折り紙、あやとりや外遊びなど、子どもたちの創造性を引き出す数々の遊びを、積極的に伝えていきたいと思います。

 

 『少年少女のための文学全集があったころ』松村由利子/著 人文書院 2016/7/10初版第1刷 2017/1/10初版第2刷

少年少女のための文学全集があったころ
松村 由利子
人文書院
2016-07-26
 
昨年夏に出版された時には見落としていた1冊です。1月に増刷されました。この本の著者は子ども時代にたくさんの子どもの本に出会ってきた元新聞記者です。著者紹介を見ると私と同年代。私も子ども時代にほんとうにたくさんの子どもの本に出会ってきました。その中には岩波少年文庫もあれば「少年少女文学全集」の中の本もありました。このエッセイを読んでいて、本に出会うことによって心豊かな子ども時代を過ごせたのだと、瀬田貞二さん、石井桃子さんなど当時子どもの本のために尽力された方々に改めて感謝したくなりました。
 
 

 『さてさて、きょうのおはなしは・・・・・・日本と世界のむかしばなし』瀬田貞二/再話・訳 野見山響子/画 福音館書店  2017/1/15

さてさて、きょうのおはなしは・・・・・・ 日本と世界のむかしばなし (福音館の単行本)
瀬田 貞二
福音館書店
2017-01-11

 瀬田貞二生誕100年記念の一環として出版された「おはなし集」です。「かさじぞう」「ねずみじょうど」や「三びきのやぎのがらがらどん」「三びきのこぶた」など、絵本として出版されているものを含めて、日本の昔話18編、世界の昔話はイギリス7編、ノルウェー1編、ロシア2編の合計28のおはなしが収録されています。ご家庭ではお子さんに読んであげるおはなしとして、図書館員には語りのテキストとして最適です。

(作成K・J)

基本図書を読む34『人形の家』ルーマー・ゴッデン


今月、基本図書として取り上げるのはルーマー・ゴッデンの『人形の家』(瀬田貞二/訳 岩波少年文庫 岩波書店 1978)です。 

人形の家 (岩波少年文庫)
ルーマー ゴッデン
岩波書店
2000-10-18

昨年の秋、八ヶ岳にある小さな絵本美術館にて開催されていた「生誕100年 瀬田貞二―こころに響くことば―展」(2016/9/17(土)~12/04(日))にて、瀬田貞二訳の『人形の家』に堀内誠一が絵を描いた原画を見て、この作品への瀬田貞二のことば(この本のあとがき)を読みました。そこで昔読んだこの作品を読み返してみることにしました。 

1947年に書かれた作品の主人公は、エミリーとシャーロットという姉妹です。彼女たちは曾祖母の代から譲られた小さなオランダ人形や、ほかの手持ちの人形を家族に見立てて遊んでいました。

この姉妹の他に、小さな主人公がいます。それはオランダ人形のトチーです。トチーは百年前に上等な木を使って丁寧に作られたものでした。

そしてトチーには家族がいます。陶器で出来た男の子人形(もとはスコットランドの伝統衣装キルトを着ていた)は、プランタガネットさんと名付けられお父さん役でした。なぜなら前の持ち主が消えないペンで口髭を書き込んでいたからです。姉妹は、この人形に水色のシャツと格子縞の背広を着せ、本物の新聞紙を切って持たせ、貫禄十分に仕立てました。プランタガネット夫人には、クラッカーのおまけで付いていたセルロイド人形がなりました。姉妹が赤い水玉模様の青いブラウスと、青い紐飾りのついた赤いスカートを着せてあげたのです。夫人はことりさんという名前でした。またフラシ天(ビロードのこと)で出来た小さな男の子の人形は、りんごちゃんと名付けられ、トチーの弟になりました。背骨はかがり針、足はパイプ掃除で使うモールで出来た犬には、かがりと名付けられていました。

人形の一家は仲良く暮らしていましたが、ただひとつ不満がありました。それは、自分たちが住んでいるところが靴が入っていた箱だということでした。トチーは百年前、曾祖母に可愛がられていたころには、素敵な人形の家があったことを、家族に話して聞かせます。二階建てで玄関の間や、食堂、居間、二階には寝室が二つあって、どの部屋の調度も素晴らしかったことを伝えると、みんなはそんな素敵な家に住めるといいなあと願います。

そこへ、曾祖母の娘であるエミリーとシャーロットの大叔母さんが亡くなり、遺品である人形の家がエミリーたちのところへ届きます。古ぼけてしまった家具や調度を、姉妹と母親が一緒になって修理をしてくれて、人形の一家はこの上なく和やかで幸せな日々を送り始めました。

ところが、トチーはその修理にかかった費用を捻出するために、姉妹によって展覧会に出品されます。トチーは展覧会の会場で家族のことを思い続けて泣いてばかりいました。展覧会が始まると、女王陛下が見学に来られて、自分も幼いころにこれと同じ人形と遊んだと懐かしがって手に取ります。それには展覧会会場に並べられていた人形たちがびっくりしました。トチーが一文人形と呼ばれる安価なものなのに、女王陛下が足を止めたからでした。とりわけ昔、トチーと一緒に人形の家にいたマーチペーンという花嫁人形は嫉妬を募らせます。

運命とは時にいたずらなものです。展覧会が終わってエミリーとシャーロットのもとに戻され、人形の家で家族で楽しく過ごしていたトチーのもとへ、姉妹へのクリスマスの贈り物として、こともあろうかあの花嫁人形のマーチぺーンが届くのです。

そしてマーチぺーンは、エミリーによって人形の家の女主人になり、プランタガネット一家は使用人として屋根裏部屋に押し込められます。そのうえ、りんごちゃんはマーチぺーンの子どもとされてしまうのです。妹のシャーロットはそれに抗議するのですが、そう決めたのはお姉さんのエミリーで、頑として聞きませんでした。

人形の家の居間には、白い磁器のランプがあり、誕生祝用の小さなロウソクを立てれば灯がともるようになっていました。ある日、りんごちゃんがそのランプに近づき過ぎて、今にも火が燃え移ろうとした時、犬のかがりが異変を見つけて吠えはじめます。すると居間に近づくなとマーチペーンに言われていたにもかかわらず、ことりさんが居間に駆け付け、身を投げ出してりんごちゃんを助けたのです。セルロイドで出来ていることりさんは、りんごちゃんを押しのけた瞬間、引火して燃え尽きてしまったのでした。その間、マーチペーンは薄ら笑いを浮かべてソファに座っているだけでした。

エミリーとシャーロットが人形の家の異変に気付いて、人形の家を開けた時にはことりさんはどこにも名残を留めていませんでした。姉妹は、人形の家で起きた事の次第を理解し、マーチペーンは博物館へ寄贈されることになりました。そしてことりさんのいない人形の家で、トチーとプランタガネットさん、りんごちゃんの平穏な生活がまた続くのでした。

大人に贈る子どもの文学
猪熊 葉子
岩波書店
2016-08-31


この本の作者ルーマー・ゴッデン(1907~1998)は、イギリスのサセックス州で生まれ、12歳までインドで育ちました。 その後、教育を受けるためイギリスに戻るのですが、学校に適応できずにいたことが、猪熊葉子さんが昨年出版された『大人に贈る子どもの文学』(岩波書店)の203ページに記されています。異文化の中で育った幼少期と、イギリスでの厳格な教育の中で葛藤したゴッデンは、後に自由教育の立場の教師に出会い、書くことの訓練を受けたということです。こうした経験を通して、物事を相対的に見る力や、想像性を豊かにしていったのです。

ゴッデンは、『人形の家』の物語を通して、人間関係の中にあるさまざまな葛藤や、それでも最後には必ず人は幸せに気づくことができると、子どもたちに伝えようとしたのでしょう。この物語の終盤で、トチーとプランタガネットさんの会話の中で、

「ぼくたちのような小さいものにとって、人形にとってさえ、そうだ。よいことも、悪いことも、そうだ。でもよいことはもどってくる。そうだろ、トチー?」プランタガネットさんは気がかりになってききました。
「もちろん、そうだわ。」トチーは持ち前の親切な木の声でいいました。
「よいことと悪いことか。ずいぶん悪いことがあった。」とプランタガネットさんはいいました。「でも、それも来ては、去っていくんだわ。だからわたしたちも今はしあわせにやっていきましょう。」とトチーがいいました。   (『人形の家』岩波少年文庫 p230~231)

と、語らせています。

あるインタビュアーが、現実には悪が勝つこともあるのでは、といういじわるな質問をすると、“ゴッデンは、「最後は悪は打ち負かされるものです。もっともよい児童文学作品を検討してみれば、そこではすべて、最後に悪が打ち負かされることがわかるでしょう。物語の途中では、ぞっとするほど恐ろしく、また破壊的かもしれない悪であっても、打ち負かされるのです。無意識のうちに私たちは、子どもが悪より善が強いのだということを信ずるようになることを望んでいるのでしょう。(中略)私は、児童文学作品は倫理的でなければならないと固く信じています。」”(『大人に贈る子どもの文学』p204~205より)と、インタビューに答えたということです。

児童文学論
リリアン H.スミス
岩波書店
1964-04-20

 

こうした点についてリリアン・スミスは、『児童文学論』(石井桃子、瀬田貞二、渡辺茂男/訳 岩波書店)の中で、“この本は、作中に出てくる登場人物の人形をのりこえて、人間世界の根本問題にまで触れているのである。つまり、善と悪、正と邪、はかなく消えてゆく価値に対して真実なるもの、などの問題であり、このようなことは、すべての人に重要な問題なのである。(中略)だが、子どもは、こうした内に秘められた意味をとらえることはできないし、子どもが喜ぶのはそのストーリーである、と主張する人がいるかもしれない。しかし、知覚の鋭い子どもたちは、おのずからこのストーリーの底にながれる意味のいくぶんかを感じとって、かれらをとりまく世界にたいして、いっそう敏感な心をもつようになるのである。”(p276~277)と、述べています。

 

そういえば私自身も子ども時代に、叔母に贈られた着せ替え人形と、その周りにキューピー人形やぬいぐるみなどを置いて、それぞれに身近な大人たちの役割を割り振り、大人たちの言うような言葉を言わせて遊びました。後に自分の娘たちが同様にドールハウスで遊ぶようになったとき、人形に言わせるセリフが、やはり大人の鏡のように感じ、子どもの感性は鋭いと思ったものでした。

エミリーとシャーロットの人形遊びでありながら、人生の深い意味を内在させるこの『人形の家』の物語は、子どもたちの遊びの中に見え隠れする、その鋭い感性を見事に描いた作品と言えるでしょう。時代は大きく変わったとはいえ、今の子どもたちも人形で遊ぶことを好みます。そしてこの作品も、これからも読み継がれるよう手渡していきたいと思います。

 (作成K・J)

基本図書を読む33『シートン動物記3 カランポーのオオカミ王 ロボ』 アーネスト・T・シートン


 今月の基本図書として取り上げるのは、『シートン動物記3 カランポーのオオカミ王 ロボ』(アーネスト・T・シートン作・絵 今泉吉晴訳 福音館書店 2003)です。作家、画家でもあり、環境に関する運動にも取り組んだナチュラリスト(自然が好きで、自然とともに生き、たえず自然に目をむけて、自然について深い学識をもつ人)だったシートンが描いた動物物語の中でも有名な作品です。

ロボ―カランポーのオオカミ王 (シートン動物記 3)
アーネスト・T.シートン
福音館書店
2003-06-20

 

 

 著者のシートンは、イギリス生まれですが、5歳のとき家族と一緒にカナダの開拓農場に移住し、大自然とそこに生きる野生動物たちに親しみました。その後、画家になるためにロンドンで絵の勉強をしますが、野生動物と共に生きながら研究したいという気持ちが大きくなり、トロントに戻り、ナチュラリストとして生きる道を探り始めます。そんなシートンが「ナチュラリスト、作家、そして画家としての仕事をひとつにひっくるめた自立した人生」を確固たるものとした作品がオオカミ王ロボの物語です。この作品は、シートンが経験した事実をもとに描かれています。

 今から120年程前、アメリカのニューメキシコ、カランポーという砂漠のような高原地帯が広がっている土地に、「オオカミ王」と呼ばれたロボというオオカミがいました。普通のオオカミよりも圧倒的に体が大きく、優れた知性をもったロボは、4頭のオオカミを引き連れ、カランポーの牧場のウシに大きな被害をもたらしていました。ついにはロボの首には、当時豪邸が買えるくらいの大金1000ドルという懸賞金がかけられますが、挑戦者はことごとく打ち負かされ、依然ロボの群れは自由なふるまいを続けていました。そこで動物の生態に詳しいシートンに声がかかるのです。シートンは、どんな動物でも生きていく権利があると考えるナチュラリストでしたので、この仕事を引き受けることに迷いはありましたが、その迷いを抱えながらも、ロボの存在にひかれ、真剣に勝負を挑みます。

 シートンは、人間の匂いがつかないように、ウシの血にひたした手袋をはめ、骨でつくったナイフを使って巧妙に罠をしかけたり、H型の罠を作ったりなど、あらゆる知恵を絞ってつかまえようとしますが、ロボは見事に見破ります。そんなロボをシートンは観察し続け、やがて一頭、ロボの前を走ったりして群れをみだすものがいることに気がつきます。ロボの連れ合いと言われていた白く美しいオオカミ、ブランカでした。シートンはまずこのブランカを捕まえることに成功し、動揺して適切な判断ができなくなったロボを捕えるのです。

 動物を愛しながらしとめる立場となったシートンですが、ロボと真剣に向き合う姿勢から、シートンがいかにロボに敬意を抱き、共感していたのか伝わってきます。人間は動物を圧倒する力を持っているように見えるけれども、人間と動物は同じ生きものとして共に生きていく権利を持っているのだというシートンの姿勢は貫かれています。訳者あとがきには、「シートンがいなければ、このように野生動物にやさしくなれる自分に、気づくことはなかった。作者(シートン)が動物たちのくらしを、わたしたちが深く考えられるように、描きだしてくれたことに感謝したい。」(P89)という読者の感想が紹介されています。動物への深い理解と愛を持ったシートンが描いた物語は、動物もくらしを持ち、感情を持ち、その生をまっとうしようとしているのだということを、私たちに伝えてくれます。

 この本にはシートン自身が描いた絵やカットが豊富におさめられています。画家をめざし、どうすれば野生動物の美しさを描くことができるのか考えていたシートンの描いたロボは、荒々しく躍動感があります。以前絵のワークショップで、シートンの絵を一生懸命に写している男の子がいました。緻密に愛情を持って書かれた絵は、思わず描いてみたくなるほど力があるのだと改めて思いました。

 訳者の今泉吉晴氏も動物学者で、シートンに深く共感し、自然の中で動物を観察してきたナチュラリストです。動物への理解とシートンへの共感をもって、美しい文章で訳しています。今回は福音館書店で出版されたものを紹介しましたが、同じ訳者で、童心社からも出版されています。

オオカミ王ロボ (シートン動物記)
Ernest Thompson Seton
童心社
2010-02-01

 

 

 こちらの訳は福音館書店版よりも簡潔な文章になっています。また巻末に「Q&A」があり、シートンについてや当時の社会状況、動物の習性などがわかりやすく解説されています。文学的なものが好きな子には福音館書店版を、動物に興味がある子には童心社版をといった具合に、子どもによっておすすめする本を変えてもよいかと思います。シートンの作品は、物語のあらすじを中心に書いた抄訳版も多数出版されていますが、シートンの動物に対する真摯な姿勢を知るには完訳版がよいでしょう。

  またシートンの伝記として、今泉氏が執筆した『子どもに愛されたナチュラリスト シートン』(今泉吉晴著 福音館書店 2002)があります。

シートン―子どもに愛されたナチュラリスト (福音館の単行本)
今泉 吉晴
福音館書店
2002-07-20

 

 

  この伝記は、今泉氏がシートンのすばらしさを伝えたいという思いから、シートンの生涯をシートンの作品や豊富な資料をもとに丁寧に描き出しています。ナチュラリストとして生きていく道を確立するまでに苦労があったこと、またアメリカの先住民の考え方・生き方に共感していたこと、ウッドクラフト運動など社会運動にも積極的だったことなど、シートンの人生を知ることができると同時に、どのような出会いをもってシートンの思想が作り上げられていったのかを知ることができます。この本の中で、今泉氏はシートンの動物物語について次のように書いています。

「シートンの動物物語は、動物の世界のほんらいの楽しさと、人間に圧迫される、きびしく、悲惨なくらしの現実をつつみかくさず伝えていました。しかも、そのきびしい現実のなかに、人間らしい新しい意味を見いだし、未来に夢をもとうというメッセージがこめられていました。自然をふみにじり対立するのではなく、自然と親しみ、先住民の知恵と文から学び、自分たちのくらしを簡素に豊かにしようと、うったえる作品でした。」(P229) 

 シートンの伝えてくれたメッセージは、21世紀を生きる私たちにも響きます。ぜひ次の世代にも継いでいきたい作品です。

 (作成 T.I)

2016年10月、11月の新刊から(その2)


 

10月、11月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、クリスマスの本と、その他の本をいくつかを紹介します。(9月に出版された本も含む)

また、ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。すべての新刊本を購入して読むことはできませんが、教文館ナルニア国の新刊本コーナーなどにある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。

 (なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

 

クリスマスの新刊絵本

『きょうはクリスマス』小西英子/絵と文 至光社 2016/10

 クリスマスといえば「サンタクロース」が来る日というのが、宗教色のない行事としてのクリスマスのイメージでしょうか。イエス・キリストの降誕祭であるという意識は、多くの人にないのかもしれません。この絵本は、サンタクロースを追いかけて出かけた男の子は、それがお菓子屋さんの売り子だと知り、お手伝いをします。それから、教会の降誕劇に加わってクリスマスの意味を知ります。この降誕劇は、キリストの誕生のいきさつを劇にしたものです。教会学校やキリスト教の幼稚園などでクリスマスの時期に行われています。クリスマスは「イエス・キリストの誕生を祝う日」だと、知るきっかけになるといいですね。 


『そらとぶそりとねこのタビー』C・ロジャー・メイダー/作・絵 齋藤絵里子/訳 徳間書店 2016/10/13 

そらとぶ そりと ねこのタビー (児童書)
C.ロジャー メイダー
徳間書店
2016-10-13

ねこって袋や箱があると本能的に潜り込むもの。ねこのタビーはクリスマスイブにやってきたサンタのおじいさんのふわふわの靴下に惹かれて近づき、贈り物の入っていた袋の中に潜り込んでしまいます。おじいさんは気がつかないまま戻っていってしまいます。そんなわけでもう一度サンタのおじいさんが訪れることになるのです。絵本作家としては3冊目になるこの作品は、『まいごになったねこのタビー』の姉妹編。その他に灰島かりさん翻訳の『てっぺんねこ』(ほるぷ出版 2015)があります。 

 

『もみの木のねがい』エステル・ブライヤー/ジャニィ・ニコル/再話 おびかゆうこ/訳 こみねゆら/絵 福音館書店 2016/10/15

 南アフリカでシュタイナー教育に携わってきた母娘が、操り人形劇の脚本から絵本のために再話したおはなしです。もみの木は、自分のチクチクした葉が気に入らず、妖精に頼んでやわらかい葉に変えてもらいます。ところがヤギに食べられて裸木になってしまいます。その次に銀の葉、金の葉に変えてもらうのですが、やはり葉はすべてなくなってしまいます。元の葉っぱに戻ったとき、子どもたちが喜ぶクリスマスツリーになり、もみの木自身も幸せを感じるのでした。こみねゆらさんの絵が、優しく物語を語ります。

 

 『どうぶつたちのクリスマスツリー』ジャン・ウォール/作 レナード・ワイスガード/絵 こみやゆう/訳 好学社 2016/10/27

どうぶつたちのクリスマスツリー
ジャン ウォール
好学社
2016-10-18

森の中で動物たちがもみの木にクリスマスの飾りをつけています。猛獣も小さな動物もいっしょに手伝います。クリスマスの本当の意味は、イエス・キリストが人々の和解のためにこの世に現れたというところにあります。普段、敵対する者同士も、神の前に同じ創造されたものとして平等であり、互いに尊重しあうことが大切だ、というのがクリスマスにこめられたメッセージです。この絵本は、それを美しく具現化しているのだと感じました。ワイスガードの繊細で色彩豊かな絵にも注目です。

 

絵本

『カイとカイサのぼうけん』エルサ・ベスコフ/作・絵 まつむらゆうこ/訳 福音館書店 2016/11/10

カイとカイサのぼうけん (世界傑作絵本シリーズ)
エルサ・ベスコフ
福音館書店
2016-11-09
 
 エルサ・ベスコフ(1874~1953)はスウェーデンを代表する絵本作家です。『ペレのあたらしいふく』(小野寺百合子/訳 福音館書店 1976)や、『ちいさなちいさなおばあちゃん』(石井登志子/訳 偕成社 2001)などの代表作があります。この絵本は1923年に出版されましたが、これまで日本に紹介されていなかった作品です。森の中にカイとカイサという二人の兄妹が住んでいました。ふたりは家のそばに倒れている枯れ木でいつも遊んでいました。ある日、トムテの魔法で枯れ木がドラゴンになってしまいます。そこからふたりの冒険が始まります。ほかにもトロルの王さまが出てきたりと北欧の正統派ファンタジーになっています。
 
 
児童書

 

『ニット帽の天使―プロイスラーのクリスマス物語』オトフリート・プロイスラー/作 ヘルベルト・ホルツィング/絵 吉田孝夫/訳 さ・え・ら書房 2016/9

ニット帽の天使―プロイスラーのクリスマス物語
オトフリート プロイスラー
さえら書房
2016-09
 
大どろぼうホッツェンプロッツ』(中村浩三/訳 偕成社 1966)や『クラバート』 (中村浩三/訳  偕成社 1980)などの代表作があるプロイスラーのクリスマスの聖家族(幼子イエスとその両親)にまつわる7つの物語が入っている短編集です。舞台はキリスト教、なかでもカトリックの伝統宗教の根付くボヘミアです。ちょっとふしぎな7つの物語を通して、キリスト教の大切な行事であるクリスマスの意味を改めて知る機会にもなることでしょう。小学校3,4年生くらいからがおすすめ。
 
 

『ミスターオレンジ』トゥルース・マティ/作 野坂悦子/訳 平澤朋子/絵 朔北社 2016/9/30 

ミスターオレンジ
トゥルース マティ
朔北社
2016-10
 
舞台は第二次大戦中のニューヨーク。ライナス少年は6人兄弟の3番目。長兄のアプケが志願兵として出征することを誇りに思いますが、母親はそれを喜ぶことができません。ライナスは家業の八百屋を手伝う中で、画家であるミスターオレンジに出会い、想像力の大切さと、戦争の現実に気がついていきます。多感な少年の成長を描いた作品として評価され、2014年に全米図書館協会のバチェルダー賞を授賞しました。ミスターオレンジは、オランダ生まれの画家ピエト・モンドリアン(1872~1944)というオランダを代表する抽象画家で、第二次大戦中、ヨーロッパを離れてニューヨークで晩年を過ごします。この作品は2011年にオランダ・ハーグ市立美術館で開催されるモンドリアン展に合わせて執筆依頼されたとのこと。表紙絵にはモンドリアンの遺作となった「ヴィクトリー・ブギウギ」がデザインがされています。

 

『明るい夜に出かけて』佐藤多佳子/作 新潮社 2016/9/20

明るい夜に出かけて
佐藤 多佳子
新潮社
2016-09-21
 
 大学を1年休学し、両親と住む家を出て、コンビニでバイトする男子大学生の俺こと、富山。実は彼は「ジャンピング・ビーン」と「トーキング・マン」という名前(ラジオネーム)も持っているのです。そしてtwitter、ニコ生、ツイキャス、アメーバピグという現代のコミュニケーションツールや、そして実在する深夜放送「オールナイトニッポン」が登場します。そうしたSNSや深夜放送への投稿を通して緩やかにつながっていく人間模様を軽やかに描いたYA向けの作品。この作品について作者の佐藤多佳子さんご自身のブログ記事も興味深いです。→こちらこちら
 
 
 
『 ココの詩』高楼方子/作 千葉史子/絵 福音館書店 2016/10/10 

ココの詩 (福音館創作童話シリーズ)
高楼 方子
福音館書店
2016-10-05
 
1987年にリブリオ出版から出ていた 高楼方子さんのデビュー作『ココの詩』と、同じくリブリオ出版から出ていた児童文学作品『時計坂の家』、『十一月の扉』がこの10月に福音館書店に版権を移して出版されました。『ココの詩』は、高楼さんがフィレンツェに1年4ヶ月滞在していた時に、まるで物語が降ってくるように紡いだという作品です。金色の鍵を拾い上げたことで、小さな女の子になって自由に動くことができるようになった人形のココの、ふしぎな物語です。挿絵は高楼方子の実妹の千葉史子です。
 
 
 『時計坂の家』高楼方子/作 千葉史子/絵 福音館書店 2016/10/10

時計坂の家 (福音館創作童話シリーズ)
高楼 方子
福音館書店
2016-10-05
 
1992年にリブリオ出版から出版された作品です。夏休みにいとこのマリカに誘われて、汀舘にある祖父の家に行くことになった小6のフー子。時計塔のある坂道の途中にある古い屋敷には、不思議が満ちています。踊り場にある窓は別の世界につながっていて・・・行方不明になったという祖母の秘密に迫っていくフー子たち。少しミステリアスで幻想的な長編ファンタジーです。 こちらの作品の挿絵も千葉史子です。
 
 
『十一月の扉』高楼方子/作 福音館書店 2016/10/10

十一月の扉 (福音館創作童話シリーズ)
高楼 方子
福音館書店
2016-10-05
 
 中学二年生の秋に父親の転勤が決まった爽子。二学期の終わりまでは転校したくないと、偶然みつけた「十一月荘」に下宿させてほしいと申し出ます。ここは今で言うシェアハウスのようなところで大家の閑さん、小学生のるみちゃんと馥子さん母娘、建築家の苑子さんとの生活が始まります。その生活の中で爽子は「ドードー森の物語」を紡ぎ始めます。登場人物と物語の世界がオーバーラップしていく構成は、ぐいぐいと引き込んでいきます。こちらは表紙絵は千葉史子ですが、中の挿絵は高楼方子ご自身のものです。
 
 
 『クマのプー 世界一のクマのお話』A.A.ミルン原案 森絵都/訳 KADOKAWA 2016/10/31

クマのプー 世界一のクマのお話
ポール・ブライト
KADOKAWA
2016-11-02
 
A・A・ミルンの 『クマのプーさん』(石井桃子/訳 岩波少年文庫)が生まれて90年を記念して、その公式続編を4人の児童文学者が書き下ろした作品です。それぞれの作家が子ども時代に愛読し、あるいは研究をしてきました。そうして生まれた秋、冬、春、夏の4つの物語。どれもミルンが乗り移って書かせたような、懐かしい『クマのプーさん』の世界が広がっています。翻訳はやはりプーさんを愛してきた森絵都さんです。
 
 
 
研究書 
 
『児童文学論』リリアン・スミス/作 石井桃子、瀬田貞二、渡辺茂男/訳 岩波現代文庫 岩波書店
 
児童文学論 (岩波現代文庫)
リリアン・H.スミス
岩波書店
2016-10-19
 
 子どもの本に関わるすべての人にとってバイブルであり続けるリリアン・スミスの『児童文学論』(1964年)が文庫版になりました。箱入りの重々しい装丁から手軽に読める形にかわって、より多くの人の手に渡ることを嬉しく思います。石井桃子、瀬田貞二、渡辺茂男という戦後の子どもの本の歴史を創って来た方々に大きな影響を与え、そうやって作られた優れた子どもの本に私たちは育てられてきました。リリアン・スミスがこの本を著したのは1953年のこと。もう古びているように言う人もいますが、この60年の間に環境は大きく変化したものの子どもの成長の姿は時代が変化しても普遍的であり、子どもと本の基本的な関係は変わらないのです。今、読み返しても新たな発見があります。もちろん、私たちは時代の変化に合わせた子どもへのサービスを考えていかなければいけませんが、なにか迷った時に立ち返る拠り所として、この本を座右の書としてほしいと思います。
 
 
『アメリカの絵本―黄金期を築いた作家たち』(連続講座〈絵本の愉しみ〉1 吉田新一/著 朝倉書店 2016/11/25
 
アメリカの絵本 ―黄金期を築いた作家たち― (連続講座〈絵本の愉しみ〉 1)
吉田 新一
朝倉書店
2016-11-25
 
 立教大学、日本女子大学でイギリス児童文学について教えてこられた吉田新一先生がまとめられた連続講座〈絵本の愉しみ〉の第一巻です。19世紀末から始まり、1930年代~50年代にかけての開花期、50年代以降の黄金期にわけて、アメリカの絵本の歴史をひも解くテキストです。特に黄金期以降のマリー・ホール・エッツ、マーガレット・ワイズブラウン、エズラ・ジャック・キーツ、バーバラ・クーニー、マーシャ・ブラウン、そしてモーリス・センダックについて詳細に解説しながら、それらの作家の作品の魅力に肉迫するあたり、とても読み応えがあります。子どもの本の黎明期にいかに図書館の児童サービスが大きな役割を果たしたかについての記述も、私たちにとっては励みになるものでした。 
 
 
その他
 
『おいで子どもたち―初めて陪餐する子どもたちへ』斎藤惇夫/文 田中雅之/写真 日本聖公会 2016/10/31
斎藤 惇夫
日本聖公会
2016-10-31
『ガンバの冒険』などの著作がある斎藤惇夫さんが、キリスト教の洗礼を受けた子どもたちに向けた詩を書かれたものが1冊の本になりました。書影は→こちら。陪餐とはキリストの最後の晩餐に倣って、パンとぶどう酒を礼拝の中でいただく儀式です。キリスト教徒(クリスチャン)は日本の人口の1%と少数派ですが、その子どもたちだけのものにしておくにはもったいないので、ここで紹介させていただきます。クリスマスは、イエス・キリストの誕生を祝う日。キリスト教が子どもを大切にすることの意味がすっと理解できることと思います。
 
 
『未来のだるまちゃんへ』かこさとし/作 文春文庫 文藝春秋 2016/12

未来のだるまちゃんへ (文春文庫)
かこ さとし
文藝春秋
2016-12-01

2014年に文藝春秋からハードカバーで出版された絵本作家かこさとしさんの自伝が、文庫版になりました。表紙の絵もハードカバーの緑色の背景に大勢の絵本の登場人物に囲まれているかこさんの絵から、白地にだるまちゃんがすくっと立っているものに変わりました。また、文庫版のあとがきと、中川李枝子さんによる解説が付け加えられています。昭和20年(1945年)の敗戦が、かこさんの生き方を変え、子どもたちと寄り添う絵本作家としての歩みのスタートになったこと、戦後のセツルメント活動(詳しくは→こちら)で出会った子どもたちとの日々、絵本の創作についてなど絵本作家かこさとしの魅力が余すことなく記された1冊です。ロングセラー絵本『だるまちゃんとてんぐちゃん』(福音館書店 1967)は来年出版50周年。なぜ、かこさんの絵本が子どもたちの心を捉えるか納得です。

 (作成K・J) 

限定増刷! 赤羽末吉の絵本2冊


ちひろ美術館・東京で2016年11月9日(水)から2017年1月15日(日)まで開催中の赤羽末吉・中国とモンゴルの大地」展に合わせて、長く品切れになっていた絵本2冊がこの度限定増刷されました。

君島久子さんが中国の少数部族に伝わる昔話を再話して翻訳し、それに赤羽末吉が中国国内を取材して絵を描いた美しい絵本です。この時期にしか手に入らない絵本です。所蔵していない図書館では、購入のチャンスです。また所蔵していても、出版から月日がたち、経年劣化しているのであれば、この機会に買い換えて、また子どもたちに手渡してあげて欲しいと思います。

 

『チワンのにしき―中国民話』(おはなし創作絵本21)君島久子/文 赤羽末吉/絵 ポプラ社 1977年7月第1刷 2016年11月第13刷

理想郷を錦に織り込んだおばばでしたが、織り上がったと同時に風に飛ばされて仙女のもとへ。錦を取り戻しに2人の息子たちが出かけて行きますが、それぞれ諦めてしまいます。末の息子はさまざまな困難を乗り越えて、錦を取り戻すと・・・中国の南方、ベトナムの国境付近に住むチワン族に伝わる昔話です。流れるような大胆かつ繊細な赤羽さんの絵がとても美しい1冊です。

 

『あかりの花―中国苗族民話』肖甘牛/採話 君島久子/再話 赤羽末吉/画 福音館書店 1985年1月30日発行 2016年12月1日第9刷

段々畑で懸命に働くトーリンはある日ユリの花をみつけ楽しみに出かけていくようになりました。ある日、ユリの花が倒されているのを見て持ち帰り、石うすに上で育てます。十五夜の晩、トーリンのもとに美しい娘が現れます。娘と一緒に暮らし始めたトーリンは、暮らし向きが良くなると怠けるようになってしまいます。すると満月の夜金鶏鳥が現れ、娘をさらってしまうのです。このお話は、再び勤勉に仕事をするようになったトーリンのもとに娘が戻ってきるハッピーエンドです。赤羽さんは、「石うす」というものが実際にはどういうものなのか、物々交換をする市場がどのようなものだったのか、苗族の集落を訪れて取材を重ね、この絵を描いたとのことです。絵本の見返しから美しく趣向をこらしたこの作品をこれからの子どもたちにも手渡し続けて欲しいと思います。
 

(作成K・J)

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