本に関する情報

2016年5月、6月の新刊から(その1)
基本図書を読む27『ピーター・パンとウェンディ』J・M・バリー
訃報 灰島かりさん
基本図書を読む26『風と木の歌』 安房直子
2016年4月、5月の新刊から
訃報 末吉暁子さん
2016年3月、4月の新刊から
基本図書を読む25『ハイジ』ヨハンナ・シュピーリ
基本図書を読む24『ジャングル・ブック』 R・キップリング
2016年2月、3月の新刊から
基本図書を読む23『ゲド戦記Ⅰ影との戦い』ル=グウィン
訃報 井上洋介さん
2016年1月の新刊から
基本図書を読む22『トムは真夜中の庭で』フィリッパ・ピアス
2015年11月、12月の新刊から

2016年5月、6月の新刊から(その1)


5月~6月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、(その1)では絵本のおすすめの本をいくつか紹介します。なお、ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。(その2)で幼年童話や長編の読物などを紹介します。(その2)のUPは6月末を予定しています。

(なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。奥付の出版年月日とAmazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

 【絵本】

『すずめくん どこでごはんたべるの?』たしろちさと 福音館書店 2016/05/15

 福音館書店ちいさなかがくのとも2008年4月号がハードカバーになりました。小さなすずめの目線で動物園の動物たちが描かれています。すずめは自分専用の餌場を持たない代わりに、いろんな動物たちから餌のおすそ分け(つまみ食い?)をもらっているのですね。カバにキツネにライオン、動物たちがどんな食事をしているかも知ることが出来ます。 

 

 『夜空をみあげよう』松村由利子/文 ジョン・シェリー/絵 福音館書店 2016/5/15 

夜空をみあげよう (福音館の科学シリーズ)
松村 由利子
福音館書店
2016-05-11

夏の夕方にベランダで洗濯物を取り込んでいて一番星をみつけたはるか。それがきっかけで家族中での夜空の観測が始まります。子どもたちが関心をもったことを一緒に探求しようとしてくれる両親の姿勢はとても素晴らしいと思います。この絵本は科学絵本ではないのですが、読み終わると夜空を見上げてみたくなる、そんな作品です。「8月のおはなし会☆おすすめプラン」のその2としても、今回取り入れてみました。(→夏の夜に

 

『わたしのこねこ』澤口たまみ/文 あずみ虫/絵 福音館書店 2016/5/20

わたしのこねこ (福音館の科学シリーズ)
澤口 たまみ
福音館書店
2016-05-18

福音館の科学シリーズとして出版されました。わたしのところにやってきた小さな黒ねこ。「くろ」と名付けた子猫と仲良くなるために、前から家にいる「トラ」とのやりとりを通してねこの気持ちを理解していきます。ねこの気持ちがわかって、どんどん仲良しになれると嬉しいですね。切り絵で描かれたねこの表情がとても可愛らしい作品です。

 

『ぺんぎんたいそう』齎藤槙/作 福音館書店 2016/6/5

ぺんぎんたいそう (0.1.2.えほん)
齋藤 槙
福音館書店
2016-06-01

「こどものとも0.1.2」の2013年10月号でとても好評だった作品がハードカバーになりました。赤ちゃん向けの絵本ですが、大きい子に読んであげても「おっ」という感じで、最後の「おしりをふって~ またあした」というところでニンマリします。赤ちゃん向けのおはなし会でも大活躍しそうな1冊です。こちらも「8月のおはなし会☆おすすめプラン」に取り入れました。(→夏のいちにち

 

『ぞうきばやしのすもうたいかい』広野多珂子/作 廣野研一/絵 福音館書店 2016/6/5

「こどものとも年少版」2012年7月号のハードカバー版です。ぞうきばやしの切り株の上で虫たちの相撲大会です。カナブンとタマムシの勝負ではカナブンが勝つのは順当なのですが、ダンゴムシとカマキリの勝負ではなんとダンゴムシの勝ち。その他にもいろいろな虫たちが勝負をします。意外な結果に子どもたちも喜ぶことでしょう。絵は写実的ですが、内容は科学絵本ではなく、小さな子どもたちにふさわしいおはなし絵本です。 

 

『みみずくのナイトとプードルのデイ』ロジャー・デュボアザン/作 安藤紀子/訳 ロクリン社 2016/6/1 

みみずくのナイトとプードルのデイ
ロジャー・デュボアザン
ロクリン社
2016-06-01

 みみずくのナイトとプードルのデイはひょんなことから仲良くなります。でも夜行性のナイトと、夜になると家に入れられてしまうデイはなかなか会うことが出来ません。お互いに餌を相手のねぐらに置いていくだけのすれ違いが続きます。そのうち夜になると台所のドア越しに会話をするようになります。「フーッ、フーッ、ホー」「ウー、ワァー、ワァー」という鳴き声で家の人は寝付けません。デイを地下室に閉じ込めると、鳴き交わす声はますます大きくなりました。すると子どものボブがひらめきます。それはみんなが幸せになれる解決策でした。読後感がとても爽やかで心温まる1冊です。

 

『ハワイ島のボンダンス』いわねあい/文 おおともやすお/絵 福音館書店 2016/6/10

 ハワイに住む日系人たちの間で長い間大切に伝統が守られている「ボンダンス」つまりは「盆踊り」について、詳しく調べた福音館の科学シリーズです。作者のいわね氏は、ハワイを訪れた際に一世紀以上前に移住した日系人が心の拠り所としてきたハマクア浄土院というお寺と出会い、日系人の歴史や生活について調査をするようになりました。この絵本では、小学生のマサルが、ハワイに嫁いだ姉を尋ねる祖母の旅に父親と共に同行し日系人の暮らしを初めて知るという設定です。マサルの目から見た「ボンダンス」の様子を描き、日系人の文化を理解する読物として読み応えがあります。

 『小さなサンと天の竜』チェン・ジャンホン/作 平岡敦/訳 徳間書店 2016/6/30 

小さなサンと 天の竜 (児童書)
チェン ジャンホン
徳間書店
2016-06-11
 
『ウェン王子とトラ』や『この世でいちばんすばらしい馬』、『ハスの花の精リアン』、『ロンと海からきた漁師』(いずれも平岡敦/訳 徳間書店)に続く、チェン・ジャンホンの絵本です。三つの高い山に囲まれた谷に小さな集落がありました。谷では、生活が不便であることから村人はみんな山を降りていましたが、まもなく赤ん坊が生まれる家族だけは谷に残ります。生まれてきた男の子はサンと名付けられすくすくと育ちます。サンはそのうち家族を手伝うようになり、険しい山の暮らしが年々辛くなる母親のために山を動かそうと思い立ちます。毎日、少しずつ、つるはしで山を削っていくサン。サンのひたむきな願いと努力は、ある時、不思議なおじいさんと出会うことで大きく動き出します。大胆で力強い絵が印象的です。
 
(作成K・J)

基本図書を読む27『ピーター・パンとウェンディ』J・M・バリー


ディズニーのアニメやミュージカルで誰もが知っている「ピーターパン」の原作を、読んだことがありますか?今回、紹介するのは石井桃子さんが1957年に岩波文庫のために訳出したものを、子どものために改訳した福音館書店版の『ピーター・パンとウェンディ』(石井桃子/訳 F・D・ベッドフォード/画 1979年)です。2003年に童話シリーズとして福音館文庫になっています。

 

 


 

この作品は、子ども向けに出版される前の1904年12月に「ピーター・パン―おとなにならない少年」という題の劇がでロンドンで上演されて好評を博し、1911年にその劇を本にして出版した「Peter and Wendy」を訳したものです。ジェイムズ・マシュー・バリーはこの作品で作家としての功績が認められ、1913年に準男爵に任じられました。

夢見がちな少女ウェンディは、ある夜、子ども部屋に忘れた自分の影を探しにやってきたピーター・パンと出会います。ピーターの影をウェンディが縫い付けてあげることろから、この物語は大きく動き出し、弟のジョンとマイケルを巻き込んでネヴァーランドへ飛んでいき、個性豊かな海賊フックとその一味や、インディアンたちと心躍る冒険を繰り広げるのです。初めてこの作品を読んだン十年前、妖精の粉の力を借りて夜空を飛んでいけるなんて、なんて素敵だろう、誰もが子どものままで居られるネヴァーランドがほんとうにあったらどれだけ楽しいだろうとわくわくしたことを思い出します。

ところでピーターの姓名であるパンといえば、『たのしい川べ』(ケネス・グレアム・作 石井桃子/訳 岩波書店 1963)(基本図書を読む②)に出てくるパンの神を思い出す人もいるでしょうか。迷子になったカワウソの子が葦の根元でパンの神に見守られている第7章「あかつきのパンの笛」は印象的です。パンとはギリシャ神話に出てくる半身半獣の牧神で、大勢の妖精とも関係があります。作者バリーはそこからピーターの姓をつけたのではと類推したのですが、それに関しては徳島大学の山内暁彦氏の研究「ピーター・パンと牧神「パン」」が大変興味深いので、ぜひご一読ください。(「Hyperion」59、15-32、2013 徳島大学 →こちら

今回、大人になって読み返して気がついたことがありました。迷子たちの家でのウェンディの役割などをみると女性に良妻賢母を求めていることや、フックが有名なパブリックスクールの卒業生でその伝統と正しい作法というものにこだわっている、つまりはそれに価値を置いているということでした。この作品が書かれのが1900年代初頭で、そうした古い価値観が一般的だったわけですが、子ども時代にはまったく気にならなかった部分が引っかかってしまったのは意外でした。それだけ大人の分別を持ってしまったということなのでしょう。だからこそ、この作品に妖精の力を信じることの出来る時代に出会ってほしいと思います。

この作品については、猪熊葉子氏は、『英米児童文学史』の中で「一八世紀末ローマン派の詩人たちは一様に子どものもつ人間的価値に目ざめ、子どもたちを生命や成長の象徴としてとらえた。そしてそのような児童像が徐々に一九世紀の人びとの意識にきざみつけられていったのだが、バリの時代にはそのような前向きの児童像がかなり変化をみせ、幼年時代は浮世の苦渋にたえねばならぬ大人たちの心理的エスケープの対象であると受けとられるようになってきていたのである。永遠の子どものままであれば、大人になる痛みにたえる必要はなく、いつまでも楽しく過ごすことができるからである。バリが成功したのは、そのように現実逃避したい欲求をもつ大人の代弁者となったからであった。」(瀬田貞二/猪熊葉子/神宮輝男/共著『英米児童文学史』 研究社 1971 p160)と、評論しています。

瀬田 貞二/猪熊葉子/渡辺茂男
研究社出版
1971-08-30
 
 
 
 
大人になることを拒み、いつまでも子どものままでいるピーター・パンに対して、17章「ウェンディが大きくなって」では、子どもたちはそれぞれに大人になっていきます。大人になったウェンディとピーターが再会するところでは、ウェンディがすでに結婚して母親になっていて一緒に飛んでいけないことを知ってピーターがショックを受けて泣くシーンがあります。そのかわり娘のジェインが代わりにネヴァーランドへ行くことになるのですが、このことは子ども時代に豊かに持っている空想する力、物語の中にどっぷりと入り込んで楽しむ力は、学校で勉強をし、社会の常識を身につけ、大人になっていく中で失われていくことを暗示しています。このシーンも子ども時代に読んだ時には、さほど気にならず、とにかくネヴァーランドの冒険の楽しさがのほうが心に強く残ったのですが、今回読み返してみると印象的でした。たとえ「現実逃避したい欲求をもつ大人の代弁者」のように評される作品でも、子ども時代に出会って読めば、それは不思議な不思議な冒険へ誘う妖精の粉です。何度も言うようですが、だからこそ子ども時代にぜひ読んでほしいと思います。
 

 なお、岩波少年文庫のほうは、『ジェインのもうふ』(アーサー・ミラー/作 アル・パーカー/絵 偕成社 1971年)や『ロバのロバちゃん』(ロジャー・デュボアザン/作 偕成社 1969年)を翻訳した厨川圭子さんが1954年に翻訳したものが、2000年に新版となって版を重ねています。今回、2冊を比べ読みしましたが、どちらも甲乙つけがたく思いました。

ピーター・パン (岩波少年文庫)
J.M. バリ
岩波書店
2000-11-17


 

 (作成K・J)

訃報 灰島かりさん


2016年6月14日午前4時過ぎに児童文学翻訳家で研究者の灰島かりさんがお亡くなりになりました。お連れ合いの鈴木晶氏がブログで公表しました。(→こちら

「2016年4月、5月の新刊から」で取り上げた『疾走した画家 ランドルフ・コールデコット』(レナード・S・マーカス著 BL出版)が遺作となりました。コールデコットの伝記として読みやすく、また美しいこの本の翻訳は、闘病と重なっていたのだと思うと、胸に迫るものがあります。

訳者あとがきに「翻訳出版にあたっては、訳者の都合で翻訳が長びいてしまった。村田真由美氏にはアシスタントとして活躍していただいた。また編集者である内田広実氏の忍耐なくしては、刊行は不可能だったことを記して感謝したい。」とあり、出版が間に合ってほんとうに良かったと思います。

心より哀悼の意を捧げます。

『疾走した画家 ランドルフ・コールデコット』レナード・Sマーカス/著 灰島かり/訳 BL出版 2016/5/1

レナード・S. マーカス
BL出版
2016-05
 
 
 
 
 
 
灰島かりさんの主な作品
 
 
絵本翻訳教室へようこそ
灰島 かり
研究社
2005-05
 
 
 

猫語のノート (ちくま文庫)
ポール ギャリコ
筑摩書房
2016-05-10
 
 
 
 
 
 

びくびくビリー (児童図書館・絵本の部屋)
アンソニー ブラウン
評論社
2006-09
 
 
 

とけいのあおくん (こどものとも絵本)
エリザベス・ロバーツ
福音館書店
2014-03-05
 

大森林の少年
キャスリン ラスキー
あすなろ書房
1999-11
 
 
 

 
 
 

絵本の絵を読む
ジェーン・ドゥーナン
玉川大学出版部
2013-03-14
 
 
 

メリサンド姫: むてきの算数! (おはなしメリーゴーラウンド)
E. ネズビット
小峰書店
2014-02-21
 
 
 
(作成K・J)

基本図書を読む26『風と木の歌』 安房直子


 安房直子さんは豊かな感性から、数々の美しい物語を生み出した日本の作家です。日常の生活のすぐそばにありそうなふしぎな世界をみせてくれます。今回紹介する『風と木の歌』は、安房さんの初めての短編集で、8つの物語が入っています。

 

 

 何編か紹介すると、きつねがそめてくれた指から懐かしいものがみえる「きつねの窓」、サンショウの木の中に住んでいる不思議な女の子の話「さんしょっ子」、目のみえない女の子に空や海の色をみせてあげる風の子の話「空色のゆりいす」、祭りの晩に100年もの寿命を村人に贈るカメの話「だれも知らない時間」、などがあります。『風と木の歌』というタイトルがぴったり合っていて、すぐそばにあるのに普段の感じ方では気づくことができないものが美しく描き出されています。

次の場面は、「空色のゆりいす」のなかで、風の子が女の子のお父さんに空色をわけてあげるところです。

 「きみ、ぼくはね、絵の具をわけてもらいにきたんだよ。」

 すると、男の子はすずしい目でわらいました。

 「だって、おじさん、空の色がほしいんでしょ。ほんとうの空色は空からもらうんだよ。」

 男の子は、もう一つのポケットから、まっ白いハンカチをとりだして、草の上にひろげました。それから、あのガラスのぼうを、お日さまにかざしました。

 すると、どうでしょう。白いハンカチの上に、小さな小さなにじがかかったではありませんか。

 「空色のゆりいす」(『風と木の歌』 P57)

 ハッとするほど美しい情景ですが、どこか素朴で親しみやすさもあります。まっ白なハンカチが緑の草の上にふわりと広がり、透明なガラスの棒にお日さまがあたって虹が浮かびあがる光景は、別世界に行って驚くというよりは、実際にも起こりそうです。安房さんの描くふしぎは私たちの身近にありそうで、自然にその世界に入っていくことができます。物語を読んだ子が、どうしてハンカチの上ににじがかかるのだろう(「空色のゆりいす」)どうして染めた指からなつかしいものが見えるのだろう(「きつねの窓」)、と、素直にふしぎがっている様子を何度か目にしました。日常の中にこそふしぎで美しいものがあるという大切なことをそっと伝えてくれる、ぜひ出会ってほしい物語です。

 安房直子さんは、日本女子大学国文科に在学中より山室静氏に師事し、「目白児童文学」や同人誌「海賊」を中心に作品を発表しました。「さんしょっ子」で日本児童文学者協会新人賞、『風と木の歌』では小学館文学賞を受賞するなど、多くの賞を受けています。「きつねの窓」は教科書にも掲載され、多くの人に親しまれました。偕成社より「安房直子コレクション」が全7巻で出版されており、主要作品71点とエッセイ40点余りが収録されています。第7巻には、作品目録、年譜も収録されています。

 

「童話と私」というエッセイで、安房さんは次のように書いています。

「私が、童話をこころざした動機を、ひとことで言うとしたら、私自身が、子どもの好きなものが大好きだからということになるでしょうか。つまり子どもが夢みたり、憧れたり信じたりするもの――小人とか、妖精とか、魔女……等々、この世の中には決してあるはずのない、それでいて、ひょっと、どこかにかくれているかもしれない、そういうものたちに、子どものころから憧れて、おとなになっても憧れつづけて、それで結局、そういう物語を書くようになったのです。」(『安房直子コレクション1 なくしてしまった魔法の時間』 安房直子 偕成社 2004』 p312)

  安房さんの作品は、幼いころ愛読したというグリム童話やアンデルセンの作品におそろしく感じるものがあるように、幸せな結末のものばかりではありません。優しくあたたかですが、命あるものの哀しさ、きびしさも根底に流れています。憧れを描きつつ、甘ったれっていない清々しい作品は、子どもから、思春期に入った子、そして大人になっても、ひきつけられるものがあり、愛され続けています。

(作成者 I.S)

2016年4月、5月の新刊から


4月~5月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの本をいくつか紹介します。一部3月末に出版されているものも含まれています。なお、ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。長編やYA向けの本は、読了してからの紹介しますので、翌月以降になることもあります。

(なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。奥付の出版年月日とAmazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

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絵本

『こうまくん』きくちちき 大日本図書 2016/3/25

こうまくん
きくち ちき
大日本図書
2016-03
 
3月末に出版されていたきくちちきさんの最新刊です。先月、見落としていました。春を迎えて生命の力みなぎるままに走り回るこうまの表情が、大胆で流れるような筆致で描かれています。テンポよく読めて、爽快感を感じることができます。幼い子どもたちも、子ども時代はとにかく走り回って自分の好奇心をたっぷり満たして欲しいと願います。
 
 
『ねずみにぴったりののりもの』マリー・ホール・エッツ/作 こみやゆう/訳 好学社 2016/5/26 
ねずみにぴったりの のりもの
マリー・ホール・エッツ
好学社
2016-05-23
 
『もりのなか』など長く愛される作品の多いマリー・ホール・エッツ。1月にはこの絵本と同じこみやゆうさんの翻訳で、エッツがセツルメント活動に関わっていた時の実話をもとに、移民の子どもが懸命に字を覚えていく様子を描いた『ロベルトのてがみ』(好学社)も出版されました。それに続く訳出絵本でエッツの1964年の作品です。『もりのなか』ほかのエッツの絵本とは少し絵柄も構図も違っているので、最初は「ほんとにエッツの絵かしら?」と思ってしまいました。ねずみ一家が子供部屋でジョニーが出しっぱなしにしたのりもののおもちゃを発見。自分たちにぴったりと喜ぶのですが・・・色合いも含めて新しいエッツの絵本との出会いになることでしょう。
 
 
児童書
『くろグミ団は名探偵 カラス岩の宝物』ユリアン・プレス/作・絵 大社玲子/訳 岩波書店 2016/4/22


新刊をチェックしに通っている銀座教文館ナルニア国には「文字だけの本をずーっと読んでいくのが苦手な人も楽しく読める」とPOPに書いてあり、手に取りました。(ナルニア国ブログ記事→こちら)横書きで、見開きの左側が文章、右側は細かく描かれたイラストで、各ページに絵さがしが必ず入ってきます。文字を読むのを苦手とする小学校高学年の子達が図書室の後ろの方で『ウォーリーをさがせ』に夢中になっていたのを思い出します。ただ、単に絵さがしの本かというと、そうにはあらず、物語の方にもぐいぐい引き込まれていくという不思議な力を持っている作品です。なお岩波少年文庫から出ている『くろて団は名探偵』(ハンス・ユルゲン・プレス 岩波少年文庫 2010)に題名が似ており、そのパクリかしらと思いましたが、『くろて団・・・』の作者の息子の作品が、『くろグミ団は名探偵』です。まずは、読むのが苦手な子に、『くろグミ団・・・』を手渡しておいてから、読了後に『くろて団・・・』をそっと手渡してみるのもよいかもしれません。
 
 
『玉川百科 こども博物誌 動物のくらし』小原芳明/監修 高槻成紀/編 浅野文彦/絵 玉川大学出版部 2016/5/20
動物のくらし (玉川百科 こども博物誌)
玉川大学出版部
2016-05-19
 
 日本で初めて子どものための玉川児童百科辞典が出版されたのは1932年(昭和7年)のことでした。子どもが自学自習できるようにと時間をかけて編纂された子ども向け百科事典は、戦後も続けられてきました。その後1979年(昭和54年)に出版されたあとはしばらく更新がないままとなってきました。今年は玉川学園90周年を迎え、玉川百科こどもの博物誌の記念出版が始まりました。その第1巻が『動物のくらし』です。玉川百科こどもの博物誌について書かれたこちらのサイトにあるように、調べるというよりはむしろ読み通すことで対象を詳しく知っていくための本になっています。また自分でするフィールドワークや自由研究に対応できるように、巻末に読書案内と関連施設のリストが整備されているのもありがたいことです。全12巻刊行の予定。公共図書館や学校図書館にはぜひ置いておいてほしいシリーズです。
 
 
 
その他
『疾走した画家 ランドルフ・コールデコット』レナード・Sマーカス/著 灰島かり/訳 BL出版 2016/5/1
レナード・S. マーカス
BL出版
2016-05
 
アメリカの優れた絵本に贈られる「コールデコット賞」、その名前の由来となったランドルフ・コールデコットの生涯と、彼が子どもの本に果たした功績について、彼や、同時代を生きた画家たちの絵をふんだんに使って描いた絵本スタイルの本です。 著者はアメリカの児童文学を研究するレナード・マーカス氏。先日もJBBY主催のマーカス氏の講演会が開催されたところです。絵本の仕事をしていると「コールデコット」という名前は何度も何度も口にするのに、彼が15歳で銀行員として働いていたこと、その傍ら絵を描き続いけていたこと、26歳で銀行員をやめ、絵で食べていくと決意したこと、32歳の時『ジャックがたてた家』、『ジョン・ギルビンのこっけいな出来事』の2冊の絵本が出版されたこと、その後アメリカに新天地を求めて渡ったにも関わらず渡米直後に40歳を目前に病死してしまうことなど、初めて知ることが多くありました。短い生涯ではあったものの、「子どもに最良の本だけを提供することを使命としていた」1900年代初頭の熱心な公共図書館員によって「コールデコットの絵本はほかの絵本作家が見習うべき理想の芸術性を示していた。」(p59)として、彼の名を冠して名誉ある賞が作られたことは、ほんとうに素晴らしいことと思います。この本を読みながら、子どもたちに何をどう選んで手渡すべきか、再確認できたように思います。 
 
 
『わんぱく天国』佐藤さとる/著 岡本順/画 ゴブリン書房 2016/3
わんぱく天国
佐藤 さとる
ゴブリン書房
2016-03
 
『わんぱく天国』はこれまでいろいろなバージョンで出版されてきました。この作品は、作者があとがきで「さて、いままで何度か装いを替えて刊行している本作ですが、このたび若干の加筆と修正をおこないました。いわば決定版『わんぱく天国』です。」(p213)と記している通りです。昭和十年代の横須賀市を舞台に繰り広げられる子どもたちによる秘密の人力飛行機建造計画。知恵を出し合い、力を合わせて目的に向かっていく子どもたちの姿はとてもたくましい。今、こんなふうに大人の干渉を一切受けずに遊び倒す経験が出来る子は少ないだろうなと思いました。「生きる力の育成」「コミュニケーション能力を身につけさせる」と声高に叫ぶ教育関係者たちに、いやこうやって異年齢の子どもたちだけでしっかりと遊び倒せる時間と環境を子どもたちに取り戻すことが何より大切だと知ってほしいと願わずにいられません。
 
(作成K・J)
 

訃報 末吉暁子さん


児童文学作家の末吉暁子さんが5月28日にお亡くなりになりました。73歳だったそうです。(ニュース記事→こちら

私にとっては末吉暁子さんといえば『もりのかくれんぼう』(林明子/絵 偕成社 1978)の絵本、というくらいこの作品が大好きで、2011年5月に日本国際児童図書評議会(JBBY)からJBBY賞(画家賞)を林明子さんが受賞された際のパーティーでお二人が寄り添っていらしたことも、つい昨日のことのように思い出されます。

もりのかくれんぼう (日本の絵本)
末吉 暁子
偕成社
1978-11

 



また、多くの方にとっては、NHK教育放送(Eテレ)で放送されていた「ざわざわ森のがんこちゃん」が印象に残っているのではと思います。こちらの脚本も子ども向けの読物になっています。

ざわざわ森のがんこちゃん 学校へいくのいや
末吉 暁子
講談社
1998-02-19

 



『ぞくぞく村のおばけ』シリーズ(垂石真子/絵 あかね書房)は1989年から刊行がはじまり、昨年7月に刊行された『ぞくぞく村のランプの精ジンジン』が最新刊で、26年間で全18冊になっています。このシリーズは小学低学年の子にとても読みやすいシリーズですが、私が最も印象に残っているのは、このシリーズを末吉さんがペープサート人形劇に仕立てていらしたことでした。JBBYが主催する大崎での子どもの本の日フェスティバルで、ご自身が魔女の格好をして演じてくださったり、被災地を精力的に回って子どもたちに笑いを届けてくださっていました。

 

 

 

また、昨年7月に出版されたYA向けの作品『波のそこにも』(佐竹美保/挿絵 偕成社)は、平家物語をモチーフにした作品で、2008年に羽衣伝説をベースに書かれた作品『水のしろたえ』(丹地陽子/画 理論社)に続く歴史ファンタジーとして、読み応えのある作品でした。

波のそこにも
末吉 暁子
偕成社
2015-07-15


 多くの作品を残してくださった末吉暁子さんに心より哀悼の意をお捧げいたします。

(作成K・J)

2016年3月、4月の新刊から


3月に出版されたもののうち見落としていたものと、4月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの本をいくつか紹介します。なお、ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。長編やYA向けの本は、読了してからの紹介しますので、翌月以降になることもあります。

(なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。奥付の出版年月日とAmazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

絵本

『きかんしゃボブ・ノブ』ルース・エインズワース/作 安徳瑛/画 上條由美子/訳 福音館書店 2016/3/5

きかんしゃ ホブ・ノブ (こどものとも絵本)
ルース・エインズワース
福音館書店
2016-03-02

『こすずめのぼうけん』『ちいさなろば』など小さなものへの優しい眼差しで溢れる作品を多く発表しているイギリスの女流作家ルース・エインズワースの絵本です。「こどものとも年中向き」1985年8月号がハードカバーになりました。きかんしゃホブノブに次々動物が乗り込んで遊園地へ遊びに行きます。トンネルを怖がる動物たちにホブノブは素敵な配慮もしてくれます。電車・汽車好きの子どもにはたまらない1冊でしょう。

 

『かくれんぼ 朝鮮半島のわらべうた』池貴巳子/文・絵 福音館書店 2016/3/10


かくれんぼ 朝鮮半島のわらべうた (日本傑作絵本シリーズ)

 

子どもたちの生活に密接な関係だった「わらべうた」。日本だけでなくさまざまな国で口承で伝わってきていますが、この絵本は朝鮮半島に伝わるわらべうたを子どもたちの素朴な表情の絵とともに紹介してくれています。池さんの描く絵はその柔らかいタッチと色合いが素敵で、とくに表紙は韓国の国花木槿(ムクゲ)の絵はこの絵本が持っている魅力をストレートに伝えています。

 

『バンブルアーディ』モーリス・センダック/作 さくまゆみこ/訳 偕成社 2016/4

バンブルアーディ
モーリス・センダック
偕成社
2016-04-13

『かいじゅうたちのいるところ』をはじめ、多くの子どもたちに愛される絵本を作り続けたモーリス・センダックが2012年に亡くなる前年の2011年に描いた作品です。ぶたのバンブルは9才までお誕生日のお祝いをしてもらったことがありませんでした。両親と死別しおばさんが引き取ってくれた今年こそ9才になるお祝いをしてもらえることに!でもバンブルはおばさんが予定していたよりも早い時間に仮装した友だちをご招待。ああ、子ども達だったら、こんな風に大騒ぎ出来たら嬉しいはず!(でもおとなにとっては大変)そんな子どもの側に立った絵本を最後にこうして残してくれたことに感謝したいと思う絵本です。

 

『路線バスしゅっぱつ!』鎌田歩/作 ランドセルブックス 福音館書店 2016/4/15

路線バスしゅっぱつ! (ランドセルブックス)
鎌田 歩
福音館書店
2016-04-13

福音館書店の小学校1、2年生を対象としたランドセルブックスシリーズの新しい1冊です。子どもだけで路線バスに乗って目的地へ行くだけでも、なんだかすごい冒険ですよね。そんなわくわくした気持ちが伝わってくる1冊です。またバスの構造や、運転台の細かな描写など、物語を楽しむだけでなく知識の絵本としても楽しめる1冊で2度美味しい本です。細い道路で、対向車と離合するところの絵などは、ハンドルワークとタイヤの動きも図で説明されていて、乗り物好きにはたまりません。絵本というよりは、自分で読み始めた子ども向けの本という出版社のくくりですが、絵がふんだんに使われていて、ページ数も32ページと少ないので絵本の範疇に入れて紹介しました。

『ねこどけい』岸田衿子/作 山脇百合子/絵 福音館書店 2016/4/25

ねこどけい (こどものとも絵本)
岸田 衿子
福音館書店
2016-04-20

こちらも『きかんしゃボブノブ』と同じく「こどものとも年中向き」からのハードカバー化された絵本です。2009年4月号として発行されたものです。岸田衿子さんは2011年4月に82歳で亡くなられていますから、ちょうど80歳の時の作品です。鳩時計の鳩と遊びたがって壊してしまう猫の「ねねこ」。ことちゃんは仕方なく時計屋さんに修理を頼みに行きました。すると時計屋さんは、修理するだけでなく素敵なものを作ってくれました。愛らしい「ねねこ」の姿は好奇心いっぱいの子ども達と重なります。

 

『小湊鐵道沿線の旅 出発進行!里山トロッコ列車』かこさとし/作 偕成社 2016/5/1

出発進行! 里山トロッコ列車 小湊鐵道沿線の旅
かこ さとし
偕成社
2016-04-23

小湊鐵道が観光用のトロッコ列車を走らせることになり、そのポスターに絵を描いてほしいと小湊鐵道の石川社長に依頼されたことが、この絵本の生まれるきっかけになりました。これは単なる絵本というよりは、沿線の自然環境や歴史などを織り込んだガイドブックのようです。たとえば昨年発見された77年前の逆転層(地球の南北を示す地磁気が現在と逆になっていて、地球の成り立ちについて貴重な資料となる地層、国際地質学会でチバニアンと名付けるよう審議中)のことや、1300年前の壬申の乱にまつわる伝説なども盛り込み、とても面白い内容となっています。春や秋は花見や紅葉狩り、夏にはキャンプやハイキングにトロッコ列車に乗って行ってみたくなりました。

児童書

『雨の日のせんたくやさん 森の小さなおはなし』にしなさちこ/作・絵 のら書店    2016/4/15

森の片隅で暮らす小さな生き物、かたつむりやからすにくまねずみ、しまりすにはりねずみ、ふくろうや虫たちが登場する短い物語が6つある本です。中には「まっくろ雪のこり」も登場。さあ、これは一体なんでしょう?私も最初は真っ黒な生き物かしら?「こり」っていう名前かしら?と思いながら読み進めると・・・意外な展開にびっくりすると同時に心がほっこりとするのでした。ひとつひとつのお話は短くて、字を読み始めた子どもたちが自分で読んだり、家族の人が一話ずつ読んであげるのにちょうど良い本です。この物語と絵はにしなさんが両方担当していますが、実は山梨県大月図書館の館長さん。図書館のおはなし会で朗読してあげても良いでしょう。

 

『日本全国ふしぎ案内2 菜の子ちゃんとカッパ石』富安陽子/作 YUJI/画 福音館書店 2016/4/25

富安陽子さんの「日本全国ふしぎ案内」シリーズの2巻目です。(1巻目は昨年3月に『菜の子ちゃんと龍の子』として出版されています)座敷童子のようにいつの間にかクラスにいて誰もが当然のように受け入れていて、けれども主人公の記憶にしか残っていない不思議な転校生の山田菜の子ちゃん。1では、奈良の吉野に伝わる伝説をベースにはぐれた龍の子を水神の祭りの日に天に昇らせようとしましたが、今回は平家が滅んだ壇ノ浦のある下関に伝わる河童伝説をベースに物語は展開していきます。いきなり今夜赤間神宮で行われるかっぱ評定までに、昔の洪水で流れてしまったかっぱ石をみつけて元の場所に置くというミッションに菜の子ちゃんと関わることになったトオル。いろんな助っ人が現れ、あれよあれよという間にミッション達成。なのに、どうも本当にあったことなのに、次の日には菜の子ちゃんの姿は学校にはなく・・・少し長いお話に挑戦したくなる2、3年生におすすめの不思議なお話です。

 

YA向け

『お金さえあればいい?子どもと考える経済のはなし』浜矩子/著 高畠純/絵 クレヨンハウス 2016/3

大人は知らない・子どもは知りたい! お金さえあればいい? 子どもと考える経済のはなし
浜 矩子
クレヨンハウス
2016-03-12

 

三菱総合研究所主任研究員として英国駐在事務所長などを務めたあと、同志社大学大学院で教授を務める浜矩子さんが、「お金はなんのためにあるのか」「お金はどうやってお金になるのか」など、子どもたちが抱くであろう疑問に明確に答えてくれる本です。経済学の父といわれるアダム・スミスは「経済とは基本的人権の上に成り立つ」と説いたとして、「本当の経済とは利益優先ではなく、人をしあわせにするための手段である」と明快に伝えてくれています。格差の広がる中で、幸福な生き方とはなんだろうと悩む若い世代にぜひ手渡したい1冊です。

 

『18歳からの民主主義』岩波新書編集部 岩波書店 2016/4/20

今年の夏の選挙から、選挙権の年齢が「18歳以上」に引き下げられます。ちょうど我が家の四番目、末っ子の世代が今年その年齢にあたります。区役所からは、ひとりひとりに「選挙権が与えられました。選挙に行きましょう。」という内容の書類も届きました。いよいよ現実になったんだなと実感しました。今回、初めて投票する権利を持つ若い世代に、その1票の持つ意味を先輩たち(憲法学者や社会学者、経済学者や作家、芸術家、活動家など)や同世代を代表するアイドルグループのメンバーなどが語りかけるように問う内容になっています。図もふんだんに取り入れ、横書きで読みやすくなっています。ぜひ多くの若い人たちに読んで欲しいと思います。

 

その他

『幼い子は微笑む』長田弘/詩 いせひでこ/絵 講談社 2016/2/15

出版されてすぐ手にしていたにもかかわらず、3月に紹介しそびれていた1冊です。昨年の5月に亡くなった長田弘さんの詩に、いせひでこさんが柔らかいタッチで絵を描きました。二人のコラボレーションは『最初の質問』に続いて2冊目。人が生まれて、人になっていく過程の、「微笑む」ことに焦点を当てた詩は、心にずんと響きます。「まだことばを知らないので、幼い子は微笑む。微笑むことしか知らないので、幼い子は微笑む もう微笑むことをしない人たちを見て、幼い子は微笑む。」大人になるにつれて、ことばを獲得するにつれて失っていくものの多さを詩人は、静かに見つめていたのだと、そしてそれは私自身に問われているのだと感じました。子ども向けというよりは、子どもと常に相対する大人にぜひ読んでほしい詩です。

 

『小さな本の大きな世界』長田弘/著 酒井駒子/画 クレヨンハウス 2016/4/8

小さな本の大きな世界
長田 弘
クレヨンハウス
2016-04-08
 
こちらも長田弘さんの本です。長田さんがこれまでに書き溜めてこられた「本にまつわるエッセイ」145篇がぎゅっと詰め込まれています(2004年4月~2015年5月まで東京新聞・中日新聞連載の「小さな本の大きな世界」と、2005年4月~2006年3月までUCカード会員誌『てんとう虫』連載の「子どもの本のまわりで」を一部修正して集めてあります)。童話や小説、絵本に随筆、図鑑に至るまで、長田さんの選んださまざまなジャンルの本への長田さんの想いが伝わってきます。この中にきっとあなたの大好きな作品もあるはずです。また、未読の作品は読んでみたくなります。絵は酒井駒子さん。こちらの原画展は現在クレヨンハウス東京店絵本売り場で見ることが出来ます。(2016年5月8日まで開催中。詳しくは→こちら

(作成K・J)

 

基本図書を読む25『ハイジ』ヨハンナ・シュピーリ


 
2014年4月から始まった「基本図書を読む」の連載は、二巡し三年目に入りました。これまでに24冊紹介してきましたが、いかがでしたか?
この連載は今年度も続けることにしました。どうぞお楽しみに! →「基本図書を読む」ページ →「基本図書を読む」1回目の投稿
 
25回目に取り上げるのは『ハイジ』(ヨハンナ・シュピーリ/作 矢川澄子/訳  福音館書店 1974 ほか)です。1880年(明治13年)と1881年(明治14年)にスイスの女流作家ヨハンナ・シュピーリが出版した『ハイジの修行時代と遍歴時代』と『ハイジは習ったことを使うことができる』の2冊が原作です。最初は匿名で上巻を出版しましたが、大変な好評を得て下巻は本名で出版しました。『ハイジ』は日本でも1920年(大正9年)に野上弥生子によって最初の翻訳本が家庭読物刊行会から出版され、これまでに抄訳を含め30通りほどの翻訳本が出されています。中には登場人物を日本名にした『楓物語』(山本憲美/訳 福音書館 1925年(大正14年))などもありました。
 
ハイジ (福音館古典童話シリーズ (13))
J・シュピーリ
福音館書店
1974-12-10
 
生まれてまもなく両親を相次いで失い母の妹デーテに育てられていた5歳になるハイジが、そのデーテに連れられてアルムの山を登っていくところから物語は始まります。デーテは新しい奉公先が決まったため、幼いハイジをアルムの山小屋で一人暮らす父方の祖父に預けに行ったのでした。ハイジはその天真爛漫で素直な心でアルプスの大自然に囲まれた祖父との生活にすぐに慣れ、その生活を楽しむようになります。
ところが3年後、叔母のデーテが再び現れ、フランクフルトのゼーゼマン家の身体の弱い令嬢クララの遊び相手として連れて行かれるのです。クララとはすぐに打ち解けるものの、ハイジは山の生活を恋しがり、心の病になってしまいます。その状況を知ったゼーゼマン氏はハイジをすぐにアルプスに戻すことを決意します。
フランクフルトでクララのおばあさんに、字を読むことと、神に祈ることを教えてもらったハイジは、村の人と断絶していたおじいさんを改心させ、またヤギ飼いのペーターの盲目のおばあさんに祈りの詩を読んであげて励まします。やがてクララがハイジ恋しさにアルプスの山小屋を訪れます。ところが二人の仲の良さに嫉妬したペーターがクララの車椅子を斜面から落として壊してしまうのです。しかし、それがきっかけでクララは自分の足で歩こうと決意し、ハイジとペーターの肩を借りて歩けるようになるシーンは何度読んでも感動的です。 物語は、クララの足の回復を知ったゼーゼマン氏がクララをスイス国内の旅行に誘い、ハイジとの再会を約束して別れる一方で、ゼーゼマン家の医者がハイジの後見人となることをアルムのおじいさんに約束するところで終わります。心優しく健気なハイジの成長の物語は、世界中の多くの人に愛されてきました。

ヨハンナ・シュピーリ(Spyriという姓は、スピリ、シュピリなどに訳されていますが、ここでは福音館書店の本に合わせてシュピーリと表記します)は、1827年スイスのチューリヒ湖南岸近い山村ヒルツェルで、医者である父ヨハン・ホイサーと牧師の娘である母メタ・ホイサーのもとに生まれました。25歳で弁護士ヨハン・ベルンハルト・シュピーリと結婚しました。シュピーリが初めて子どものための本を書いたのは44歳の時で、三作目にあたる『ハイジの修行時代と遍歴時代』は53歳の時の作品でした。
 
敬虔なキリスト教徒である両親に育てられたシュピーリの作品には、宗教的な側面が色濃く残っています。『アルプスの少女ハイジとともに―シュピーリの生涯』(高橋健二/著 彌生書房 1984年)に、「人間としてあくまで真理と真実を求めて力を尽くすが、究極は神にまかせるという謙虚さがシュピーリの作品を貫いている。」(上述の本 p80)と書いてあるとおり、それはクララのおばあさんがハイジに祈りを教える場面や、アルムのおじいさんの改心、嫉妬にかられたペーターの呵責の念を責めずに諭すクララのおばあさんの姿勢などに如実に表れています。
 
この物語が描かれた時代のスイスには、「自然に帰れ」と唱えた教育者のジャン・ジャック・ルソー(1712~1778)や、子どもたちの自立性を重んじ子どもたちが人間本来の成長を遂げられるよう大人は見守るべきだと解いた教育者ヨハン・ハインリッヒ・ペスタロッチ(1748~1827)の教育思想が広まっており、この作品にもそれが反映されています。
『アルプスの少女ハイジとともに―シュピーリの生涯』を書いた高橋健二は、「「自然に帰れ」というルソーの叫びにこだまするように、シュピーリは山の自然な生活の健康な美しさを飽かずに書いた。都会はしばしば、人の心身をゆがめ、むしばむのに反し、母なる自然は本来の人間を育てる。自分は全く大地の子で、栄養を大地から引き出す、と彼女は言っている。自然への帰依は神への帰依である。彼女の自然感情は神への思いに通じている。「ハイジ」は自然児の最も美しい賛歌である。」(p113)と、そのことをについて書いています。
 
日本では1974年にテレビアニメ化され多くのファンを得ました。その際、極力宗教色は排除され、またクララが歩き出すエピソードは、ペーターの嫉妬による車椅子の破壊ではなく別の物語に仕立てられています。アニメで見て「ハイジ」を知っているという方にも、ぜひ原作を読んで欲しいと思います。
 
なお、私は今回、福音館書店版と岩波少年文庫版で読みました。福音館書店の古典童話シリーズ(矢川澄子/訳 1974)は、1880年の初版本のために描かれたパウル・ハイの挿絵が使われています。福音館文庫として上下巻になったものもあります。一方、2003年に出版された岩波少年文庫は、上田真而子が現代の子どもたちに馴染むよう訳し直しており、字体も大きく、とても読みやすくなっています。こちらは本来は『ハイジの修行時代と遍歴時代』つまり上巻に含まれる「日曜日、教会の鐘が鳴ると」を、下巻の最初に持ってきています。これはひとつの物語として連続している「ハイジ」を1冊の本とみなし上下巻を、文章量で調節したからだとのこと。絵もシュピーリ没後100年記念にチューリヒで出版された本のために描かれたものを使っているとのことです。
 
『ハイジ』上・下 ヨハンナ・シュピリ/著 上田真而子/訳 岩波少年文庫 岩波書店 2003
ハイジ (上) (岩波少年文庫 (106))
ヨハンナ・シュピリ
岩波書店
2003-04-18

 

 

ハイジ (下) (岩波少年文庫 (107))
ヨハンナ・シュピリ
岩波書店
2003-04-18
 
 


 さて、「ハイジ」についての研究書や評論は少なく、その一方で「ハイジ」ゆかりの地を巡る紀行写真集は何冊か出版されています。それらの中から、再読のお供になるおすすめの何冊かを取り上げてみます。

『アルプスの少女ハイジとともに―シュピーリの生涯』高橋健二/著 彌生書房 1984

1972年にドイツ文学者高橋健二が最初に著した『シュピーリの生涯』を判型と字体を一回り大きくして再版されたものです。1969年にチューリヒにヨハンナ・シュピーリ財団を設立した篤志家フランツ・カスパー氏からの貴重な資料の提供を受けて書かれた本格的なシュピーリの伝記です。

 

『アルプスの少女ハイジ―スイスメルヘン紀行』高橋健二/監修 矢川澄子/文・訳 西森聡/写真 求龍堂 1992

高橋 健二
求龍堂
1992-12
 
シュピーリの伝記を著した高橋健二が監修し、福音館書店版の翻訳を手がけた矢川澄子の文章と、写真家西森聡の美しいアルプスの大自然の写真で、「ハイジ」の世界観を余すことなく伝えてくれるガイドブックです。巻末には高橋健二による簡単なシュピーリの略歴が書かれており、年譜と作品リストもあります。
 
 
『アルプスの少女ハイジの文化史』福田二郎/著 国文社 2010

アルプスの少女ハイジの文化史
福田 二郎
国文社
2010-09
 
 子ども時代にアニメで「ハイジ」に親しみ、大人になって原作を読みますます「ハイジ」のファンになったという欧米文学者である著者が、この作品の文化的な背景を宗教、歴史、社会問題にまで広げて紐解いてくれた解説書です。とても読みやすい文体で書かれていて、「ハイジ」についてより深く理解ができることでしょう。
 
 『ハイジ神話―世界を制服した「アルプスの少女」』ジャン=ミシェル・ヴィスメール/作 川島隆/訳 晃洋書房 2015
 
ハイジ神話―世界を征服した「アルプスの少女」
ジャン=ミシェル ヴィスメール
晃洋書房
2015-03-24
 
 2014年春のジュネーヴ国際ブックフェアでスイスの文学者である著者と翻訳者の川島隆が「ハイジ」を題材にシンポジウムを開催したご縁で、この研究書が翻訳されました。豊富な資料を下敷きに書かれたスイス人文学者の目から見たシュピーリの研究、「ハイジ神話」論、そして「日本のハイジ」と題して「日本人にとってのハイジ像」の分析もあり興味を引きます。
 
 (作成K・J)

基本図書を読む24『ジャングル・ブック』 R・キップリング


森の中で動物たちと共に暮らせたら、どんなに楽しいだろう? どんなわくわくしたことが待ち受けているのだろう?と、考えたことがある人は多いのではないでしょうか。

『ジャングル・ブック』(R・キプリング作 木島始訳 福音館書店 1979)は、.インドのジャングルでオオカミの子として育てられた少年モーグリの物語です。イギリスの作家ラディヤード・キップリングが書いた2冊の本『ザ・ジャングル・ブック』(1894)と『ザ・セカンド・ジャンブル・ブック』(1895)におさめられている15編からモーグリが主人公になっている8編が訳されています。

ジャングル・ブック (福音館古典童話シリーズ (23))
ジョセフ・ラドヤード・キップリング
福音館書店
1979-07-10

 

 

  トラが人間を襲ったことから、オオカミの巣穴にやってきた人間の赤ん坊モーグリは、動物たちの会議でジャングルの一員として認められ、クマのバルー、ヒョウのパギーラ、白蛇のカーなどジャングルの仲間からジャングルの掟を教わりながら、成長していきます。掟は、くさった枝と上部な枝をどう見分けるか、また自分の土地以外で狩りをするときはどうするか、など自然の見方からお互いの領域の守り方まで様々なものがあります。ジャングルは豊かな恵みががあると同時に厳しい掟があり、それを守らないものは生きていけないのです。

 やがてモーグリは、宿敵のトラであるシアカーンをやっつけ、ジャングルに侵入してきたドールと呼ばれる殺しやの赤犬たちを一掃するほど、モーグリは力、知恵、勇気をもつようになります。それでも、モーグリはジャングルのものにもなりきれず、人間にもなりきれず、動物と人間の間で苦しむことになるのです。オオカミの頭アケーラは、モーグリにこう言います。

「ずっと目をかけてやってた、おおかみっ子だが、おまえは、やっぱり人間だよ、ぼうや。

おまえは、人間なんだ、さもなけりゃ、おおかみなかまたちは、ドールを前にして、逃げてしまっていたところだ。

おれが助かったのは、おまえのおかげだ。いつか、おまえを、おれが助けてやったように、今日は、おまえが、おおかみなかまを助けてくれた。

おまえは、もう忘れてしまったのか? あらゆる借りは、すっかり支払われたぞ。

おまえのなかま、人間たちのところへ、もどっていくがいい。おれの目といっていいおまえ、もう一度いうが、狩りは、終わったのだ。

人間のなかまへ、かえっていくがいい。」(P410)

  野生で育ち、やがて人間の世界にもどっていくモーグリの一連の物語は、一人の英雄を思わせる神話のような力強さ、神秘さがあります。自然や生き物の姿が鮮やかに描かれており、光、風、匂い、音を生き生きと感じ、ジャングルの鼓動が伝わってきます。読み手は、モーグリと共に大地を走り、木にぶらさがり、巣穴で休み、時には飢えに苦しみ、ジャングルでの暮らしを体で感じることができるのです。同時に、ジャングルのものになりきれないモーグリのかなしみ、さみしさも伝わってきます。自分とは何なのか苦しみながらも、愛し育ててくれたものに支えられ、最後は一人で自分の道を選んでいくモーグリの姿は、自分の居場所を探ろうとしている若い人たちの共感も得ることと思います。

人間のもとに戻ろうとするモーグリに、クマのバルー、ヒョウのパキーラ、白蛇のカーの3匹がおくった詩は、次のようにしめくくられています。

「森と水と 風と木と

知恵と 力強さと 礼儀正しさと

ジャングルのありがたさ おもえとともに!」

(「三匹のうた」より P475)

   作者キップリングは今から150年前、インドのボンベイで生まれ、5歳までインドで育ちました。『ジャングル・ブック』の舞台はインドのジャングルで、インドをよく知っていたキプリングだからこそ、野生の自然の厳しさ、美しさを鮮明に書くことができたのでしょう。他にも、『少年キム』(三辺律子訳 岩波書店 2015)、『ゾウの鼻が長いわけ-キプリングのなぜなぜ話』(藤松玲子訳 岩波書店 2014)などがあります。『少年キム』は「本のこまど」の新刊情報「2015年11月、12月の新刊から」でも紹介されています。

少年キム(上) (岩波少年文庫)
ラドヤード・キプリング
岩波書店
2015-11-18

 

 

 

 

 モーグリの物語は多く訳されており、他にも『ジャンブル・ブック』(三辺律子訳 岩波書店 2015)、『ジャングル・ブック―オオカミ少年モウグリの物語〈第1部〉〈第2部〉』(金原瑞人訳 岩波書店 1990)などもあります。今回は、表現がわかりやすく、詩のような響きのある文体の木島始訳を選びました。

 

 平成27度の『基本図書を読む』でも、12回にわたって基本図書を紹介してきました。平成26年度に紹介したものと合わせると24冊になります。第1回の記事にも書きましたが、基本図書とは、長い間子どもに愛され、読み継がれてきた本を言います。時の試練を経ても色あせることがない、読書の喜びを与えてくれる本で、図書館の蔵書の核となっている本です。基本図書を読むことで、子どもたちが本質的にどんなものを求めているのか、質の高い作品とはどのようなものなのか、図書館員としてどのようなものを手渡していくべきかが、自ずとみえてきます。読むのに時間がかかる作品も多いのですが、読むに値する作品ばかりので、ぜひ1冊ずつでも実際に読んでみてください。『基本図書から学ぶ』は来年度も続けていく予定です。どうぞお楽しみに!

(作成T.S)

2016年2月、3月の新刊から


2月から3月にかけて出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの本をいくつか紹介します。なお、こ

こに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。長編やYA向けの本は、読了してからの紹介になりますので、翌月以降に紹介をします。また3月後半に出版される本も来月紹介したいと思います。

絵本
『でんしゃがはしる』山本忠敬/作 福音館書店 2016/2/1 
 
でんしゃがはしる (福音館の単行本)
山本 忠敬
福音館書店
2016-02-01

『しょうぼうじどうしゃじぷた』『とらっくとらっくとらっく』など、子どもたちに長く愛されている乗りもの絵本の第一人者山本忠敬さん(1916~2003)の生誕100年を記念して特別復刊された絵本です。品川駅を出発した山手線外回りの電車が、山手線を一周してまた品川駅に戻ってくるまでを描いています。この絵本が描かれた1978年当時の車両が描かれており、現在とはずいぶん違っている部分もあります。例えば、渋谷駅では東急東横線は地下に潜り、山手線と並ぶことはなくなりましたし、新幹線も「ひかり」と「こだま」の旧車両、そのほか既に引退してしまった特急もたくさん描かれています。それでも山手線が一周走るうちにどんな私鉄と出会うのか、とてもわかりやすく電車好きな子どもには喜ばれることでしょう。でも、この絵本、当時を懐かしく思い出す高齢者や、一般の鉄道好きな利用者にも手渡したくなりますね。

『とっきゅうでんしゃ あつまれ』山本忠敬/作 福音館書店 2016/2/1 

この絵本も、山本忠敬さんの生誕100年を記念して復刊されました。どの特急電車も1987年当時のもので、新幹線もすでに新型車両に変わっていますし、寝台特急も次々引退していて、懐かしいという気持ちになります。それでも、山本さんの描く電車には温か味があり、これらに乗っていろいろな人が旅をしたのだという想像をかきたてます。この絵本も、乗りもの好きの子ども達だけではなく、広い世代に手にとってほしいと思います。

『ひみつのいもうと』アストリッド・リンドグレーン/文 ハンス・アーノルド/絵 石井登志子/訳 岩波書店 2016/2/26 

ひみつのいもうと
アストリッド・リンドグレーン
岩波書店
2016-02-26
 
スウェーデンで1973年に出版されていたアストリッド・リンドグレーンの絵本が日本で初訳出されました。バーブロという女の子には、おかあさんもおとうさんも知らない秘密があります。それは、ふたごのいもうとがいるってこと。いもうとの名前はイルヴァ・リー。バラのしげみのうしろにある穴の中に住んでいます。バーブロは、お母さんが生まれたばかりの弟の世話で忙しいので、バラのしげみのうしろに出かけていって、ここで日中たっぷりとイルヴァ・リーと遊んだり、冒険をしたりして過ごします。日が暮れて家に戻るとお母さんは顔を真っ青にして心配して待っていました。この絵本は、アストリッド・リンドグレーンの「はるかな国の兄弟」や「ミオよわたしのミオ」を彷彿とさせる幻想的な世界が描かれています。この絵本を読んだあとに、リンドグレーンの読み物へとつなげてあげたいと思いました。 
 
『おはなしかがくえほん うんちコロコロうんちはいのち』きむらだいすけ/作 岩崎書店 2016/2/22

 『ゴリラのジャングルジム』(集文社 2004 初出は1992年 福武書店刊)というゴリラの親子の心温まる作品のあるきむらだいすけさんの最新作。古代エジプトでは太陽神に似ているとして神聖視されたり、ファーブルもその不思議な生態に魅了された昆虫、フンコロガシが主人公。動物たちの糞もその食べるもので、形状などが違っており、フンコロガシが好む糞があるということを、わかりやすく教えてくれます。そしてその糞は次の命を育むゆりかごになっているということから、作者のきむらさんはこの絵本を通して、子どもたちにいのちのつながりについて考えてほしいとのことです。動物好きな子にも、虫好きの子にも、「うんち」に過剰反応する年代の子どもたちにも手渡したい1冊です。

『父は空 母は大地 インディアンからの伝言』寮美千子/編・訳 篠崎正喜/画 ロクリン社 2016/3/1

 chichisora父は空 母は大地―インディアンからの伝言 [大型本]

篠崎 正喜
ロクリン社
2016-03

 1995年にパロル舎から寮美千子さんの翻訳で、篠崎正喜さんの絵で出版されていた『父は空 母は大地 インディアンからの手紙』を、文章も絵も見直しをした改訂版です。1492年の新大陸の発見の後、アメリカ大陸にはいくつかの植民地が出来ますが、ヨーロッパからアメリカ大陸の多くの移民が押し寄せたのは1620年のメイフラワー号での清教徒の移住以降。英仏が植民地の奪い合いをするなかで、先住民族であるインディアンは、その住む土地をどんどんと奪われ、追われていきます。それから月日が流れること、230年以上経った1855年に当時の第14代大統領フランクリン・ピアスは先住民の土地を買い取る代わりに居留地を与えると申し出ます。これ以上、無駄な流血は避けたいと判断した先住民の酋長シアトルが、大統領との条約締結を受ける際に送った手紙が、この作品の元になっています。空や大地は自然のもの、人がお金で売り買いするものではない、大地と空を汚してはならないという酋長シアトルの言葉は、現代を生きる私たちにも力強いメッセージを伝えてくれています。絵本ですが、小学校高学年からYA世代、大人に読んで欲しいなと思います。ロクリン社のサイト→こちら

 
児童書
 
『きょうはかぜでおやすみ』パトリシア・マクラクラン/文 ウィリアム・ベン・デュボア/絵 こみやゆう/訳 大日本図書 2016/2/24
パトリシア マクラクラン
大日本図書
2016-02-24
こみやゆうさんが翻訳を手がける『ハリーとうたうおとなりさん』、『ウォーリーと16人のギャング』、『へっちゃらトーマス』に続く大日本図書「こころのほんばこ」シリーズの新しい1冊です。風邪で学校を休んだエミリー、実は家で仕事をしているパパと過ごせてご機嫌です。病人であることで、わがままに振舞うエミリーとそれを優しく包み込むパパとのやりとりも、なかなか素敵です。ひとりで読めるようになった低学年向けの1冊です。「こころのほんばこ」シリーズは『まるごとごくり!』が3月に出版されていますが、まだ手にしていません。次回紹介したいと思います。

 『ポンちゃんはお金もち』高楼方子/作・絵 こぐま社 2016/2/19

 コータのところにあらわれた不思議な友達、ポンちゃん。どこかで見たことがあるのですが、コータは思い出せません。お母さんに勉強するように言いつけられたのに、ポンちゃんに誘われてはらっぱ公園での移動遊園地へ出かけます。ポンちゃんはポケットにたくさん10円玉を持っていて、気前よくコータにいろいろな体験をさせてくれます。満足して家に帰ると不思議なことに、時間が経っておらず、お母さんが拾い上げた貯金箱を見て、その不思議な友達の正体がわかります。不思議な体験を親子で共有できるのは素敵だなと思いました。こぐま社が創業50周年に出版した「こぐまのどんどこぶんこ」、小学校低学年向きのやさしい読み物シリーズの1冊です。

 『たらふくまんま』馬場のぼる/作・絵 こぐま社 2016/2/19

1972年に学習研究社から出版されたいた馬場のぼるさんの作品が、こぐま社の「こぐまのどんどこぶんこ」で復刊されました。食いしん坊で乱暴者の山男、たらふくまんまは、村へ行っては食べ物を奪ってばかりの迷惑者です。村人はなんとかたらふくまんまを懲らしめようとするのですが・・・馬場のぼるさんらしい奇想天外、でもホッとするおはなしで、自分で本を読み始めた子どもたちにおすすめの1冊です。

『イワンとふしぎなこうま』ピョートル・エルショーフ/作 浦雅春/訳 岩波少年文庫 岩波書店 2016/2/17

イワンとふしぎなこうま (岩波少年文庫)
ピョートル・エルショーフ
岩波書店
2016-02-17

 かつて『せむしの小馬』というタイトルで紹介されていた作品が、タイトルを変更し、訳も改めて、この度岩波少年文庫の1冊として出版されました。韻を踏んだ詩の形式そのままに新たに翻訳を改め、出版されました。(例えば王様がイワンに火の鳥を取りに行くよう命ずる箇所:旧訳「けれども、てみじかに言うならば/わたしは、おまえが火の鳥を、/わたしが命令するならば、/宮殿のへやへつれてくると、/じまんしていること、しっている。/な、いいか、つべこべ言わず、/火の鳥つくれてくるよう、ほねをおれ」→新訳「きけばわしがひとことめいじれば/おまえは火の鳥つかまえて/このしろにつれてまいるそな/そんなじまんばなしをしえおるそうな/よいかつべこべいわず/ここに火の鳥つれてこい」 声に出して読みやすく、耳心地よい翻訳に改められています)挿絵は旧版の岩波少年文庫(網野菊/訳 1978)と同じウラジミール・プレスニャコフの趣のある絵が使われています。日本語でも韻をふみ、リズミカルに読める文章です。ぜひ声に出して読んであげてほしいと思います。

 『てのひら島はどこにある』佐藤さとる/作 池田仙三郎/絵 理論社 2016/2

てのひら島はどこにある
佐藤 さとる
理論社
2016-02

『だれも知らない小さな国』の作者、佐藤さとるさんが1965年に出版した『てのひら島はどこにある』という、ほっこりと優しい気持ちになれる短い作品がこの度初版の挿絵・装丁で50年ぶりに復刊されました。実は同じタイトルの作品が1981年にも同じ理論社から出版されていましたが、こちらの挿絵は林静一になっています。ある時、おばあちゃんが孫娘に「おもしろいおはなしをしてあげようか」と言って“てのひら島”のおはなしをしてくれます。“てのひら島”とは、おはなしの主人公の太郎が、とある家のトマトを荒らしたことでおしおきをされ、それを忘れないためにお父さんが取った手型が島のように見えたことから名づけられました。“てのひら島”を舞台に子どもたちの空想が織り成す世界と、現実の暮らしとの境界を面白く描いた作品です。梨木香歩さんが子ども時代に読んで「私自身の人生と生活に、それから仕事にも、決定的な方向づけをもたらしました。」と述べている作品であり、今、読んでも新鮮な気持ちになれるファンタジー作品です。
 

 ノンフィクション

『奇想天外発明百科 ややっ、ひらめいた!』マウゴジャタ・ミチェルスカ/文 アレクサンドラ・ミジェリンスカ&ダニエル・ミジェリンスキ/絵 阿部優子/訳 徳間書店 2016/2/27

奇想天外発明百科: ややっ、ひらめいた! (児童書)
マウゴジャタ ミチェルスカ
徳間書店
2016-02-27
 
人間は考えることの出来る動物です。こんなことが出来ればよいのに、こんなものがあれば生活が便利になるのに、という思いを、なんとか実現させようと、想像力を働かせ、さまざまな困難に挑戦してきたのが、発明家たち。それらの発明が今につながって、現代の私たちの生活を便利で豊かなものにしています。この本は紀元前3世紀ごろから現代までの奇想天外な28点を『マップス 新・世界図絵』で話題になったポーランドの絵本作家が、発想を形にしようと努力してきた人々の姿を生き生きと描き出してくれました。
 
 『田んぼのコレクション』内山りゅう/文・写真 フレーベル館 2016/3
 
田んぼのコレクション (ふしぎコレクション)
内山 りゅう
フレーベル館
2016-03

 『土のコレクション』や『時間のコレクション』などのブックトークでも使いやすいフレーベル館のシリーズ「ふしぎコレクション」に新しい仲間が加わりました。日本人の主食である米を作る田んぼに焦点をあてています。日本の原風景にもなっている田んぼは、米を生産するだけではなく、生き物の棲家ともなっていて、豊かな生命を育む場所でもあるのです。「お米」についての調べ学習教材としても使えそうです。ぜひコレクションに追加しましょう。

基本図書を読む23『ゲド戦記Ⅰ影との戦い』ル=グウィン


“ことばは沈黙に
 光は闇に
 生は死の中にこそあるものなれ
 飛翔せるタカの
 虚空にこそ輝ける如くに”
  ――『エアの創造』―― (『ゲド戦記Ⅰ影との戦い』ル=グウィン作 清水真砂子訳 岩波書店 1976 見返しより)

 幼い少年ダニーは生後まもなく母親が亡くなり、父親にも顧みられずゴントという島で幼少期を過ごします。7才になったある日のこと、まじない師である叔母が山羊に向って唱えた呪文を覚え、自分も唱えてみます。たちまち山羊が集まるのを見て、叔母は小さな甥っ子に備わった能力に気づき、魔法使いとして訓練を始めます。
 12才の時、島を強大なカルカド帝国の軍隊が襲ってきますが、ダニーは霧集めの術を使って、軍隊から村を守り抜きます。その噂を聞きつけてル・アルビの大魔法使いオジオンがダニーを訪ねて、弟子としたいと申し出るのです。13才の成人式の後、ダニーは真の名が「ゲド」だとオジオンに伝えられ、この大魔法使いの下で修行をするべ故郷の村を離れるのです。

ゲド戦記 全4冊セット

 アメリカの女性SF作家、アーシュラ・クローバー・ル=グウィン(1929年生まれ)が1968年から2001年にかけて書いた『Earthsea』シリーズは、日本では『ゲド戦記』として岩波書店から清水真砂子の翻訳により出版されました。第1巻の『影との戦い』(原題:『A Wizard of Earthsea』1968年 邦訳1976年)に続いて、『こわれた腕輪』(原題:『The Tombs of Atuan』1971年 邦訳1976年)、『さいはての島へ』(原題:『The Farthest Shore』1972年 邦訳1977年)、『帰還―ゲド戦記最後の書―』(原題:『Tehanu,The Last Book of Earthsea』1990年、邦訳1993年)、『アースシーの風』(原題:『The Other Wind』2001年 邦訳2003年)、『ゲド戦記外伝』(原題:『Tales from Earthsea』2001年 邦訳2004年 現在は『ドラゴンフライ』と題名変更)と全6巻が出版されています。

 『ゲド戦記』のシリーズは、アースシーという多島海諸地域を舞台とし、並外れた魔法の力を持つゲドが繰り広げる波乱万丈の生涯を軸に、世界の光と闇を描く壮大なハイファンタジーです。

 

影との戦い―ゲド戦記〈1〉 (岩波少年文庫)
アーシュラ・K. ル=グウィン
岩波書店
2009-01-16

 第1巻の『影との戦い』では、少年ゲドがその才能を師オジオンに見出され、ローク島の学院で魔法を学ぶのですが、虚栄心から死者の霊とともに自分に襲いかかる影を呼び出してしまい、その影と対峙するという厳しい試練をくぐり抜けるまでが描かれています。

 翻訳を担当した清水真砂子が、この原書を手にした時に、“読みながら、文字どおり体がふるえるような感動を覚えまして、「どうしても訳したい!」と思いました。これが納得のいくように訳せたら、ほんとうにもう、あとはなんにも要らない、と思いました。”(『「ゲド戦記」の世界』清水真砂子 岩波ブックレットNo.683 岩波書店 2006 p7)と感じたというように、13才で故郷の村を出て、さまざまな葛藤の末、自ら呼び出してしまった影と対峙し戦うまでのゲドの成長の過程は、読む者の心にさまざまな感動の波を起こします。

「ゲド戦記」の世界 (岩波ブックレット)
清水 真砂子
岩波書店
2006-09-08

 

 

 オジオンの下で修行を始めたゲドは、早く魔法を伝授されたいと焦ります。事を成し栄誉を我がものにしたいと逸るゲドは、オジオンの留守中に『知恵の書』を紐解き、習いたての神聖文字で呪文を読み解くうちに、暗黒の影を呼び出します。そこへ光を放ちながら飛び込んだオジオンによって、その呪文は解けますが、「そなた、考えてみたことはいっぺんもなかったかの?光に影がつきもののように、力には危険がつきものだということを。魔法は楽しみや賞賛めあての遊びではない。いいか、ようく考えるんだ。わしらが言うこと為すこと、それは必ずや、正か邪か、いずれかの結果を生まずにはおかん。ものを言うたり、したりする前には、それがどういうことになるかを、あらかじめ、知らねばなるまいぞ!」(p41 引用は1979年出版のハードカバー版より)と諫められます。

 オジオンは、ゲドにもっと広い世界を見せるためにローク島にある魔法学院で学ぶように勧めます。ロークの学院ではヒスイと言う名の育ちのよい先輩や、自分とうまが合うカラスノエンドウという先輩に出会います。ゲドはこのヒスイに対して嫉妬心と憎しみを抱くようになります。学院で驚くべき速さでさまざまな術を身につけていったゲドは、やがて自分の力を過信するようになっていきます。そして15才になった夏祭りの夜に、ヒスイの挑発にのって、死者の霊を呼び出す呪文を唱え、黒い影のかたまりを呼び出してしまったのです。黒い影はゲドに瀕死の傷を負わせ、ゲドを救おうとした学院長大賢人ネマールは命を落としてしまいます。

 ゲドもその傷が癒えるのに長い時間を要します。翌年の春になって、ようやくゲドが回復すると新しい学院長のジェンシャーは、ゲドに「そなたはすぐれた力を持って生まれた。だが、そなたはそれをあやまって使ってしまったな。光と闇、生と死、善と悪、そうしたものの均衡にどういう影響を及ぼすのかも考えずに、そなたは自分の力を越える魔法をかけてしまったのだ。しかも、動機となったのは高慢と憎しみの心だった。(中略)そなたとそのものとは、もはや、離れられはせぬ。それは、そなたの投げる、そなた自身の無知と傲慢の影なのだ。」(p106)と告げられます。

  18才でロークの学院での学びを終え、ロー・トーニングの島でベンダーの竜の力を鎮めた後、あの影に追いかけられさまざまな試練をかいくぐったゲドは、もう一度オジオンの下へ戻っていきます。ゲドは師から「一度はふり返り、向きなおって源までさかのぼり、それを自分の中にとりこまなくては、人は自分の行くつくところを知ることはできんのじゃ。」(p196)と、影から逃げるよりも立ち向かうことを教えられます。

 影を追う旅の途中で、絶海の孤島では、数十年前の子どもの時分に島流しにされた王子、王女だった老兄妹に出会い、次の物語(『こわれた腕輪』)に続く欠けた腕輪を受け取ります。またカラスノエンドウと再会し、彼の助けを得て影との対決へと船出をします。その時ゲドは19歳でした。その死の影と対決する場面は、とても印象的です。

 「ゲドは勝ちも負けもしなかった。自分の死の影に自分の名を付し、己を全きものとしたのである。すべてをひっくるめて、自分自身の本当の姿を知る者は自分以外のどんな力にも利用されたり支配されたりすることはない。」(p270)

 清水真砂子は、この部分について、前出のブックレットの中で以下のように述べています。“ たとえば第1巻で、「全き」と訳したのは、原語でお読みになった方は覚えてらっしゃるでしょうけれども、“whole”という単語です[10世界のはてへ]。それをどう訳すか、ほんとうに四苦八苦しました。第1巻は、ひとりの人間が少年から大人になるまでのことを書いた作品だと考えれば、考えられなくはないですね。「全き」状態になるということ、ひとつの成長の時期を書いたもの、ととることができます。”(『「ゲド戦記」の世界」 p12)

 発達心理学の観点からも、“このような第二次反抗期の心理傾向を前提として、人間がさらに成長するときの起爆剤として、自らの第二人格(影)的対象との強烈な葛藤があり、対決がなされるというのが、欧米で語られてきたところの大人になる一つのパターンであり、「ゲド戦記Ⅰ」は、この課題を余すところなく描いた作品である。”(『ファンタジー文学の世界へ―主観の哲学のために―』工藤左千夫著 成文社 2003 p147)と、捉えられています。

ファンタジー文学の世界へ―主観の哲学のために
工藤 左千夫
成文社
2003-11
 
 
 
 ゲドの内面の成長を描くことで、思春期にそれぞれの子どもたちが出会うであろう自己確立のための内面的葛藤に立ち向かう勇気を与え、その後の人生に指針をしめしてくれる1冊だと思います。私はこれまでこの本を手渡してきた子どもたちが、この本に出会うことで、自己の内面をみつめ不登校から立ち上がる契機になったり、自分の親の死に対面した中で自分を支える杖としたのを見てきました。力のある作品が、成長過程で出合う危機的な状況の中で、その迷える心に寄り添い、導き、そして光を見出す道しるべとなっていくことを、そばで見ていて実感するのは、本を手渡す仕事をするものにとっても大きな喜びでもあります。
 
 そのことについて、脇明子はその著『物語が生きる力を育てる』(岩波書店 2008)の中で、以下のように述べています。
物語が生きる力を育てる
脇 明子
岩波書店
2008-01-29
 
“ゲドが当初いだいていた願望や欲求は、そのままの形で満たされることはなく、それでも最終的にゲドは望んだ以上の地点にたどり着く、ということです。その過程では、願望や欲求そのものが、幾度となく見直されます。世界をよりよく知り、人間を知り、自分を知るにつれて、願望や欲求はおのずと変化することもあれば、苦しんだ末に現実を受け入れてあきらめざるをえないこともあります。しかし、それですべてが失われるわけではなく、現実認識によって鍛え直された願望は、しだいに実現可能なもの、手が届くものになっていきます。それに視野が広がることによって、ついぞ気づいていなかった新たな願いが湧き上がってくることもあります。
 幼い子どものひたすらな願いが、まっすぐに飛ぶ矢のようにかなえられる物語とはちがって、思春期の物語がたどる道のりは意外性に満ちており、結末にたどり着いて振り返ると、最初にこだわっていた問題がこっけいなほどに小さく見えたりもします。それが成長するということであり、そんな物語をしっかり感情移入しながら読むことによって、読者もまたいくらかは成長することができるのだと思います。”(『物語が生きる力を育てる』第7章 願いがかないことと成長すること p158-159)

 この本に出会うことで、困難を乗り越えていった子たちは、まさに物語を感情移入しながら読みながら、自分の内面を見つめ、自ら解決の糸口をみつけ、それを乗り越える力を得ていったのでした。このような力を持った作品を、必要としている子どもたちに、時機を逃さずに手渡していくことが、子どもと本をつなぐ仕事にとって大切であると感じています。

(作成K・J) 

訃報 井上洋介さん


神沢利子さんの『くまの子ウーフ』の絵で知られる絵本作家の井上洋介さんが、2016年2月3日の夜、亡くなられたというニュースが入ってきました。→こちら

84歳だったそうです。

井上さんは『くまの子ウーフ』以外にも、子どもたちに親しまれる絵本をたくさん残してくださいました。
長谷川摂子さんの文章に絵を描いた『ふしぎなやどや』(長谷川摂子/文 井上洋介/画 福音館書店1990)や、オリジナル作品では『ふりむけばねこ』(架空社 1994)、『まがればまがりみち』(福音館書店 1999)、最近の絵本では『つきよのふたり』(小峰書店 2015)など、約140作品があります。(絵本ナビいのうえようすけ作品→こちら

ちょっとシュールで、不思議で、それでいて温かい眼差しを感じる作品ばかりでした。

特に昨年10月に出版された『つきよのふたり』は、すでに闘病されていることを聞いていたので、不思議な月夜の世界に意外なものの組み合わせで「なかよし」とくり返して書かれていることに、井上さんのメッセージを感じ取っていました。

心より哀悼の意を捧げます。




ふしぎなやどや (日本傑作絵本シリーズ)
はせがわ せつこ
福音館書店
1990-06-15

 

 




 

つきよのふたり (にじいろえほん)
井上 洋介
小峰書店
2015-10-14


 

 

2016年1月の新刊から


昨年の12月後半から、今年の1月にかけて出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの本をいくつか紹介します。なお、ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。長編やYA向けの本は、読了してからの紹介になりますので、また次の月に紹介します。

絵本

『わたしのいえ』カーリン・エリス/作 木坂涼/訳 偕成社 2016/1/7

わたしのいえ
カーソン エリス
偕成社
2016-01-07

丘の上に建つ一軒の家から始まって、いろいろな家について思いを巡らせる。大きな家、小さな家、鳥やけもの、虫たちにとっての家、物語に出てくる家。「家」は私たちを守り、私たちが安らぐ、そんな場所。それぞれの人に、それぞれの生き方に合わせて家がある。そんなことを、美しいイラストとともに伝えてくれる1冊です。いろいろな家を思いめぐらせ、そしてまた自分の家に戻ってきます。戻る場所があるって素敵なことだなと思いました。

『ロベルトのてがみ』マリー・ホール・エッツ/作 こみやゆう/訳 好学社

ロベルトのてがみ
マリー・ホール・エッツ
好学社
2016-01-07

 『もりのなか』などの作品があるマリー・ホール・エッツの1967年の作品『BAD BOY,GOOD BOY』がこみやゆうさんの翻訳で、この度出版されました。エッツが若い頃にセツルメント運動(貧困地区の住民を援助する社会事業)に関わっていた時に出会った実在の少年をモデルにしている作品です。ロベルトは家族でメキシコからアメリカに移住してきたので、スペイン語しかわかりません。言葉が通じないことで、さまざまなトラブルを起こしてしまうのですが、子どもセンターに通い、字を覚えるようになって表情も変わってくるのです。大人の視点から読むと、子どもの貧困や、移民問題が話題になっている今、子どもたちにとって、言葉の問題が生活の中で大きな位置を示すのか、また適切な援助の手が差し伸べられることがいかに重要かわかります。でも、子どもたちの視点で読めば、自分で文字を書けた喜び、初めての手紙が家族の絆を守ったという喜びに大きな意味があるでしょう。絵本の形態ですが、文章はとても長いので、小学生向けにおすすめするとよいでしょう。

 

『ひとりぼっちのベロニカ』ロジャー・デュボアザン/作 神宮輝夫/訳 復刊ドットコム 2016/1/16

ひとりぼっちのベロニカ
ロジャー デュボアザン
復刊ドットコム
2016-01-16

1978年に佑学社から出版された『ひとりぼっちのベロニカ』は長く絶版となっていましたが、このたび復刊ドットコムから再編集ののち復刻されました。2015年11月に出版された『かばのベロニカ』に続く第2弾です。(「本のこまど」では紹介しそびれています。)何事にも興味津々のかばのベロニカは、また仲間たちから離れて高層ビルの立ち並ぶ街へやってきました。ビルの工事現場で、なにやら不思議な箱をみつけて乗ってしまいます。・・・ベロニカが巻き起こす事件は、いたずら盛りの子どもたちを惹きつけることでしょう。


『ペネロペひめとにげだしたこねこ』アリソン・マレー/作 美馬しょうこ/訳 徳間書店 2016/1/16

ペネロペひめと にげだしたこねこ (児童書)
アリソン マレー
徳間書店
2016-01-16

ペネロペひめは、真っ白なこねこを飼っています。ある日、こねこと一緒に遊ぼうとすると、こねこはピンク色の毛糸をからだに巻きつけたまま逃げ出してしまいます。お城のあっちの部屋、こっちの部屋とさまざまな騒ぎを起こしながら、ピンクの毛糸はどんどん伸びていきます。ペネロペひめが毛糸のあとを追って探しに行くと・・・とてもおしゃれで楽しい絵本です。

 

『しあわせないぬになるには にんげんにはないしょだよ!』ジョー・ウィリアムソン/作・絵 木坂涼/訳 徳間書店 2016/1/16

『ペネロペひめと・・・』と同時発売された絵本で、こちらは犬が主人公。犬としてしあわせに過ごすためには、どんなふうにすればいい?ということが犬の視点でユーモラスに描かれています。まずはどんな人間と一緒に住むかが一番大事!そしてどんなふうにふるまうか、たとえば食事についてはこんなふうに・・・「しょくじをすませたあとでも まだなんにもたべてないふりをすると もういちどもらえることがあります」 作者はファッションデザイナーとしても活躍しているだけに、こちらもおしゃれな絵本です。
  

児童書

『ウォーリーと16人のギャング』リチャード・ケネディ/作 マーク・シーモント/絵 こみやゆう/訳 大日本図書 2016/12/25

ウォーリーと16人のギャング (こころのほんばこ)
リチャード ケネディ
大日本図書
2015-12-25

 カウリックという町に、大人もふるえあがるような乱暴者のホグホーンとその手下の者、あわせて16人が押しかけてきます。ちょうどしょちょうとおまわりさんは釣りへ出かけて町には不在。大人たちは家にこもって鍵をかけ、ふるえていると・・・小さな男の子ウォーリーがホグホーンの前に現れて、力試しを申し出ます。5人の手下をかけっこで、5人の手下をはしごのぼりに、5人の手下を力比べに引き出して、勝たせたと思わせて実のところ、ホグホーンをぎゃふんと言わせてしまいます。その痛快さに、読んでいてひざを打ちたくなりました。自分で本を読めるようになった子に手渡したい1冊です。 

へっちゃらトーマス』パット・ハッチンス/作 こみやゆう/訳 大日本図書 2016/1/25

パット ハッチンス
大日本図書
2016-01-25
字をまったく覚えようとしないトーマスは、「きけん」と書いてあろうが、まわりの人が大きな声で注意しようとも、たった一言「かんけいないね」という言葉をはき、まったく無視をしてずんずん突き進みます。頭に緑色のペンキがかかろうとも、どんなトラブるを引き起こそうが、お構いなし。そうしてとうとう、トーマスはおまわりさんにつかまって・・・牢屋に保護された時に囚人のおじさんたちに字を教えてもらうと、今度はたちまち本が大好きに!絵本から読み物に移行する小学校低学年でも自分で読める幼年童話です。
 
『キキに出会った人びと 魔女の宅急便特別編』角野栄子/作 佐竹美保/画 福音館書店 2016/1/25
 
 1985年1月25日に『魔女の宅急便』の1巻目が出版されてちょうど31年目の同じ日に、本編では触れられていなかった登場人物のその後や、裏の物語を集めた特別編が出版されました。Amazonでの流通開始日は2016年1月20日になっていますが、本の奥付には「2016年1月25日」となっています。キキが最初に居候したグーチョキパン店のおソノさんの小さい時の話、なぜ「グーチョキパン店」と名付けられたか?など興味深い「ソノちゃんがおソノさんになったわけ」や、コリコ町長が体験した不思議なおはなしなどが収められています。この本を読んでいると、また本編も読み直したくなります。この本をきっかけに、『魔女の宅急便』1~6巻を再び手にとってもらえるといいですね。
 
 

ノンフィクション

『生きものビックリ食事のじかん』スティーブ・ジェンキンス&ロビン・ペイジ/作 佐藤見果夢/訳 評論社 2015/12/23

生きものビックリ食事のじかん (児童図書館・絵本の部屋)
スティーブ ジェンキンズ
評論社
2015-12-23

美しいコラージュの技法を使って、動物たちに備わっている不思議な能力や習性を、子どもたちにわかりやすく伝えてくれる知識絵本。 「どうやって・・・さかなをつかまえる?」「どうやって・・・たまごをまもる?」「どうやって・・・葉っぱをつかう?」など6つのテーマにわかれています。本文では、「わあ、すごい!」と声があがりそうな特徴だけを伝えていますが、巻末に詳しい説明がつけられています。この本を入門書にして、動物たちが命をつなぐために、どのような生活をしているのか、さらに詳しく調べてみようとするきっかけになるとよいな、と思います。
(担当K・J)

基本図書を読む22『トムは真夜中の庭で』フィリッパ・ピアス


 
「庭園がいちばんすきな季節は夏で、それも晴れわたった天候のときだった。初夏には、芝生のところにある三日月型の花壇にまだヒヤシンスが咲き残っていた。まるい花壇では、ニオイアラセイトウが咲いていた。やがてヒヤシンスがおじぎをして枯れ、ニオイアラセイトウもひきぬかれてしまうと、こんどはアラセイトウやエゾギクが、それにかわって花をひらいた。温室の近くに、刈りこんであるツゲの茂みがあったが、その横腹はまるで大きな口のようにへこんでいた。そのへこんだところには、咲きほこっているゼラニウムの鉢をぎっしりとつめてあった。日時計の小径のあたりには、まっかなケシの花やバラが咲いていた。夏の日がくれると、サクラ草が小さな星々のようにかがやいた。晩夏には、煉瓦塀のところにある西洋ナシが、人にとられないようにモスリンの袋でつつんであった。」 ( 『トムは真夜中の庭で』 フィリッパ・ピアス著 高杉一郎訳岩波書店 1989 P66)

 見事な描写で、木々や草花であふれている様子に加え、庭にあたる光、わきおこる風、鼻をかすめる匂いなど、庭の空気を味わうことができるこの作品は、イギリス児童文学のファンタジーの中でも傑作と言われています。

トムは真夜中の庭で
フィリパ・ピアス
岩波書店
1967-12-05

 

 

 主人公のトムは、弟がはしかにかかったため、夏休みの間、おじさん、おばさんの家に預けられることになり、遊び相手もなく昔の邸宅を改造したアパートで退屈していました。眠ることができなかったある夜、トムは玄関ホールにある大時計が13時を打つのを聞き、裏口から外へさまよい出てみると、ヴィクトリア朝時代の見事な庭園が広がっていたのです。そこで、トムはハティという少女と友達になり、毎晩ベッドを抜け出して、不思議な庭で遊ぶようになります。けれども、トムの日常生活の「時間」と庭での「時間」の流れが異なるようで、雷で倒れたはずのモミの木が、次に来たときは元に戻っていたりします。そして初めはトムのよい遊び相手だったハティは、どんどん成長してして大人の女性になってしまい、トムは庭に行けなくなってしまいます。トムが自分の家に帰らなければならない日、トムはアパートの3階に住んでいるバーソロミュー夫人に会い、おばあさんがハティであることを発見します。トムは年老いたおばあさんのなかに少女のハティを認め、二人はしっかり抱き合うのです。

 ピアスは「作者のことば」の中で、この物語のテーマを次のように述べています。

 「想像力をもってしても、理性をもってしても、いちばん信じにくいことは、「時間」が人間の上にもたらす変化である。子どもたちは、かれがやがて大人になるとか、大人もかつては子どもだったなどときくと、声をあげて笑う。この理解の困難なことを、私はトム・ロングとハティ・メルバンの物語のなかで探究し解決しようと試みた。物語のおわりのところで、トムはおばあさんのバーソロミュー夫人を抱きしめるが、あれはおばあさんが、トムがいつもいっしょに遊ぶのをたのしみにしていた少女だとわかったからである。」(「作者のことば」P302)

 ファンタジーという言葉は、「目に見えるようにすること」というギリシャ語からきたと言われていますが、ピアスは、幼いころの夢をみているおばあさんの夢に入り込むという不思議な物語を、緻密な構成とリアルな描写で描ききり、一人の人間の中に確かに積み重なっていく目にみえない「時間」を見事に見せてくれます。一人で退屈していたトムが、おばあさんの大時計の音に魅かれて、不思議な庭にひきこまれ、一人遊びをしていたハティと出会うというストーリーは自然で、不思議な庭に無理なく入れます。そしてハティが大人になり、トムはハティの夢に入れなくなりますが、現実でおばあさんとなったハティに再会したとき、確かにハティと認めることができるのです。過去と現在が交錯する中での、二人の神秘的ともいえる出会いが描かれています。

 「ハティは、おばあさんになって、思い出のなかにふたたびじぶんの過去を生きはじめたときに、トムをもう一度ちゃんと見ることができた。完全にみとめあったその瞬間に、ハティはむかしのままの少女として、トムの抱擁をうけるのである。おばあさんは、じぶんのなかに子どもをもっていた。私たちはみんな、じぶんのなかに子どもをもっているのだ」(「作者のことば」P303)

 フィリッパ・ピアスは、1955年に第1作目『ハヤ号セイ川をいく』で好評価を得て、1958年に『トムは真夜中の庭で』でカーネギー賞を受賞しました。J.R.タウンゼントが『子どもの本の歴史』で「物語作家としての才能にすぐれ、いつまでも記憶に残る人物を創造する小説家としての力と、バランスのよくとれた作品を完成する建築家的なとでも言うべき才能においてまさっている。」と述べているように、イギリス児童文学作家の中でも名声を博し、子どもたちの心の深いところに響く上質な作品を書いています。

 <その他の作品>
 
ミノー号の冒険』 前田美恵子訳 文研出版 1970(文研児童読書館)
おばあさん空をとぶ』 前田美恵子訳 文研出版 1972(文研児童読書館)
りす女房』 いのくまようこ訳 冨山房 1982
それいけちびっこ作戦』 百々佑利子訳 ポプラ社 1983
ハヤ号セイ川をいく』 足沢良子訳 講談社 1984
ペットねずみ大さわぎ』 高杉一郎訳 岩波書店 1984
幽霊を見た10の話』 高杉一郎訳 岩波書店 1984
サティン入江のなぞ』 高杉一郎訳 岩波書店 1986
エミリーのぞう』 猪熊葉子訳 岩波書店 1989
ふしぎなボール』 猪熊葉子訳 岩波書店 1989
まぼろしの小さい犬』 猪熊葉子訳 岩波書店 1989
ライオンが学校へやってきた』 高杉一郎訳 岩波書店 1989
こわがっているのはだれ』 高杉一郎訳 岩波書店 1992
真夜中のパーティー』 猪熊葉子訳 岩波書店 2000(岩波少年文庫)
8つの物語-思い出の子どもたち』 片岡しのぶ訳 あすなろ書房 2002
川べのちいさなモグラ紳士』 猪熊葉子訳 岩波書店 2005
消えた犬と野原の魔法』 さくまゆみこ訳 徳間書店 2014
 
  <参考文献>

英米児童文学史』 瀬田貞二 猪熊葉子 神宮輝夫著 研究社 1971

子どもの本の歴史 英語圏の児童文学 上・下』 J.R,タウンゼンド著 高杉一郎訳 岩波書店 1982

世界児童・青少年文学情報大事典(第1~16巻)』 藤野幸雄編 勉誠出版 2000-2004

(作成T.S)

2015年11月、12月の新刊から


 先月の新刊紹介で11月に出た本もいくつか紹介しましたが、見落としていた作品もありました。11月に出版された本も追加して新刊を紹介します。選書などの参考にしていただけるとありがたいです。 

絵本

『クリスマスイヴの木』デリア・ハディノ/文 エミリー・サットン/絵 三原泉/訳 BL出版 2015/11/1

デリア ハディ
BL出版
2015-11

 しっかりと植えられなかったために、曲がって大きくなれなかったモミの木は、クリスマスイブの夜になっても売れ残ったままでした。そのモミの木をもらった男の子は橋の下のねぐらへと持ち帰ります。その夜、ホームレス仲間のおじいさんがツリーのそばでバンドネオンを弾き鳴らし、そのまわりにクリスマスキャロルを歌う人の輪が出来上がります。きらびやかな家がなくても、豪華なご馳走がなくても、ささやかな喜びを分かち合う姿に心が温かくなります。その後、このモミの木は掃除のおじさんの機転で公園に植えられ大きく育っていくのですが、この男の子はその後どうなったかは描かれていません。男の子が幸せに育っていてほしいと願いつつこの絵本を閉じました。

 

『おもち!』石津ちひろ/作 村上康成/絵  小峰書店 2015/11/12

おもち! (にじいろえほん)
石津 ちひろ
小峰書店
2015-11-12

 ことば遊びの達人、石津ちひろさんのリズミカルで元気な言葉がお餅つきの情景を描き出します。村上康成さんのユーモラスな絵も、搗きたてで、よ~くのびるお餅にぴったり。昔はお正月を迎える準備にどこの家でも年末には臼と杵を出してきて餅つきをしたものですが、今では臼と杵で搗く餅つきは子どもたちには珍しいかもしれませんね。

 

『いちばんのなかよしさん』エリック・カール/作 アーサー・ビナード/訳 偕成社 2015/11

いちばんのなかよしさん
エリック・カール
偕成社
2015-11-18

 いつも何をするにも一緒だったお友達が、ある日突然いなくなってしまいます。やっぱり一緒がいい!と男の子は探しに出かけます。この絵本の裏見返しにエリック・カールの3歳の時の写真が載っています。当時仲良しだった女の子と、この絵本の表紙のようにぎゅ~っと抱きしめあっている写真です。エリックが幼少期を過ごしたニューヨークのお隣の女の子でした。でもエリックの家族はドイツへ引越し、長い年月が経つうちに相手の名前もわからなくなったままだったそうです。ところが、この絵本が出版されたことで写真に写っていた女の子のお嬢さんが気がつき、80年ぶりにお互いの存在がわかったそうです。素敵なおまけですね。

『かようびのドレス』ボニ・アッシュバーン/作 ジュリア・デーノス/絵 小川糸/訳 ほるぷ出版 2015/11/20

かようびのドレス (海外秀作絵本)
ボニ・アッシュバーン
ほるぷ出版
2015-11-20

先月、紹介した『おじいちゃんのコート』と同じように、大好きだった服がいつのまにか着古して小さくなるたびに、ほかのものに変身していくというおはなしの女の子版です。お気に入りのたくさんフリルのついたドレスが小さくなってしまった時、ママが「ぎゃくてんのはっそうがだいじ」といいながら、違うものに仕立て直してくれます。柔らかなパステルカラーで描かれた絵は、おしゃれが大好きな女の子の夢が詰まっているようにも見えます。

 

ユーゴ修道士と本をあいしすぎたクマ』ケイティ・ビービ/文 S.D.シンドラー/絵 千葉茂樹/訳 光村教育図書 2015/12/20

ケイティ ビービ
光村教育図書
2015-12-20
修道院の図書館から大事な経典を借りたまま返せなかったユーゴ修道士。それはクマに襲われた時にとっさに本を投げつけたからでしたが、クマはその味をしめてしまいます。ユーゴ修道士は別の修道院から経典を借り、仲間たちに助けてもらって写本を完成させます。そして経典を返しに行くのですが・・・本の味に目覚めたクマに出会わなきゃいいですね。この絵本を読んでいると中世の書物の作られる過程や、扱いについても興味を持つのではないでしょうか。中世フランスでほんとうにあったお話をベースに作られた絵本だそうです。

 

児童書

『どうぶつたちがはしっていく』長新太/作 子どもの未来社 2015/11/26

どうぶつたちがはしっていく 1 (長新太のおはなし絵本)
長 新太
子どもの未来社
2015-11-26

 「長新太のおはなし絵本」として『キャベツくんのおしゃべり』と2冊が同時に出版されました。絵本となっていますが、絵本から読み物へ移る幼稚園の年長さんくらいから小学校低学年の子どもたちにちょうどよい幼年童話です。「どうぶつたちがはしっていく」「ゾウのオネエサン」の2話が収録されています。とにかくおもしろい長新太ワールドが広がります。 

『キャベツくんのおしゃべり』長新太/作 子どもの未来社 2015/11/26

 こちらには「キャベツくんのおしゃべり」のほか、「ゾウのオジイサン」「こうえんのすなば」の3話が収録されています。長新太さんならではの、おかしくも、ちょっぴりシュールな世界が繰り広げられています。読んであげてもいいし、自分でも読める、そんな短いお話です。

『さかさ町』F・エマーソン・アンドリュース/作 ルイス・スロボドキン/絵 こみやゆう/訳 岩波書店 2015/12/17

さかさ町
F.エマーソン・アンドリュース
岩波書店
2015-12-18
 
リッキーとアンの兄妹は自分たちだけでランカスターに住むおじいちゃんを訪ねていくために汽車に乗っていました。ところが途中で橋が壊れて前に進めなくなり、「さかさ町」という見知らぬ町で一日待たされることになりました。この町はその名のとおり、なにもかもが逆さま。なんだかへんてこりんな町です。でも、読めばこんな町があればいいのになぁ~ときっと思うことでしょう。こちらも幼稚園年長さんくらいから小学生低学年向けの幼年童話です。
 
『ゆうかんな猫ミランダ』エレナー・エスティス/作 エドワード・アーディゾーニ/絵 津森優子/訳 岩波書店 2015/12/15
ゆうかんな猫ミランダ
エレナー・エスティス
岩波書店
2015-12-16
 
読み終わって感じたのは、どんな困難な時にも生命を生み育てる母性の強さでした。物語はうんと昔のローマの街。まだコロッセオでライオンのショーが行われていたような昔です。人間の家族に飼われていた母猫のミランダは、ある時蛮族が街を襲い火をつけたことから人間の家族と離れてしまい、迫り来る火と煙の中を子猫たちを連れて逃げていきます。途中で親猫からはぐれた子猫も一緒に・・・街外れのコロッセオに着いた頃には子猫の数は34匹。おまけに自分にも赤ちゃんが4匹生まれます。さあ、ミランダはどうやってたくさんの子猫たちを育て守っていくのでしょう。この物語の作者は『百まいのドレス』のエレナー・エスティス、そして繊細な絵はエドワード・アーディゾーニです。
 
『少年キム』ラドヤード・キプリング/作 三辺律子/訳  岩波少年文庫 岩波書店 2015/11/17
少年キム(上) (岩波少年文庫)
ラドヤード・キプリング
岩波書店
2015-11-18

少年キム(下) (岩波少年文庫)
ラドヤード・キプリング
岩波書店
2015-11-18
 
英国初史上最年少ノーベル文学賞受賞作家で『ジャングル・ブック』でも有名なラドヤード・キプリングの作品です。日本では『少年キムの冒険』(亀山竜樹/訳 世界名作全集 講談社 1960)、『少年キム』(斎藤兆史/訳 晶文社 1997)など既にほかの訳者によって発表されてきた作品ですが、この度若手翻訳家の三辺さんにより岩波少年文庫として出版されました。大英帝国が植民地としていた19世紀のインドを舞台に、13歳の孤児キムがチベットのラマ(高僧)と出会い、伝説の聖なる河を探す旅に出ます。当時ロシアもインドの覇権を狙っており、キムは英国側のスパイとしての活動もすることになります。利発なキムはスパイとして「大いなるゲーム」に加わりながらも、ラマの弟子としてその教えも彼の中に深く影響を与えていきます。多感な時期を懸命に生きるキムの姿から目が離せなくなります。三辺さんは今年5月には『ジャングル・ブック』を岩波少年文庫として訳していらっしゃいます。合わせて読んでほしいと思います。
 
 『お静かに、父が昼寝しております ユダヤの民話』母袋夏生/編訳 岩波少年文庫 岩波書店 2015/12/17
お静かに、父が昼寝しております――ユダヤの民話 (岩波少年文庫)
岩波書店
2015-12-17
 
紀元70年にローマ帝国がイスラエル王国を滅ぼして以来、世界中に散らばって生活を続けているユダヤ民族に伝わる昔話を集めて母袋さんが翻訳されました。世界各地に伝わる昔話が32編、旧約聖書の創世記の中から6編の合わせて38編が紹介されています。「あとがき」を読むと、これらの昔話は口承で伝えられ、記録されるようになったのは19世紀末になってからとのこと。20世紀以降中東問題の火種となり続けているイスラエル建国のことも含めて、ユダヤ民族が2000年もの間バラバラになりながらも伝えてきた文化、考え方に触れることができるのも、そのために多くの研究者の労があってのことと感じ入ります。どのお話も既知に富んだものばかりです。
 
その他
『10代のためのYAブックガイド150』金原瑞人、ひこ田中/監修 ポプラ社 2015/11/10
今すぐ読みたい! 10代のための YAブックガイド150!
ポプラ社
2015-11-11
 
金原瑞人さんとひこ田中さんが選んだYA世代向けのブックガイドです。この本の出版記念の金原さんのトークショーに行った際に、“ティーンエイジャーって、先生や親に隠れて本を読みたいわけで・・・ここに挙げているのはそんな本。決して良い本というわけではない。その世代って性のこととか、暴力とか、とにかく近づいちゃダメというものに近づきたい時代。そんな多感な時期に読んでほしい本を選んである”とおっしゃっていたのが、とても印象的でした。自分も親や先生に反抗してた時期がありました。その時の気持ちを思い出して、YA世代に本を手渡せるといいなと思います。
 
 
『司書が先生とつくる学校図書館』福岡淳子/作 玉川大学出版部 2015/11
司書と先生がつくる学校図書館
福岡 淳子
玉川大学出版部
2015-11-28
 
中野区で長く図書館指導員として学校図書館の仕事をしてこられた筆者が、学校教育の中でどのように司書教諭をはじめとして先生方と協働して、図書館を利用する教育を展開していったのか、学校司書としてそれにどのように関わってこられたのかを克明に書き綴った実践記録です。読書の支援だけではなく、どのように蔵書構成を作るのか、また学年別にどのように働きかけをすればよいのか、ということが具体的に書かれており、学校図書館現場で働く人の力強い味方になってくれる1冊です。
 
『石井桃子談話集 子どもに歯ごたえのある本を』石井桃子/著 河出書房新社 2015/12/9
子どもに歯ごたえのある本を
石井 桃子
河出書房新社
2015-12-09

 1965年から2007年までの雑誌や出版社から出される小冊子に残された石井桃子さんへのインタビュー記事、あるいは対談をまとめて「石井桃子談話集」としている本です。内容は今までの石井桃子さんのエッセイで読んだことのあるものなのですが、インタビュアーによって様々な聞き方、つっこみ方をしていて、石井桃子さんの素の姿が立ち現れてくるかのようです。たとえば詩人の吉原幸子さんは、そのものズバリ「ご家族はお持ちにならなかった。」「ずっとお一人でいらっしゃいます?」「たとえば、『ノンちゃん』に出てくる少年が戦争から帰ってこなかったように、密かに待ってた方が、帰っていらっしゃらなかったとか。」などと質問し、それに対して石井桃子さんが「「そりゃね、結婚しようかと思った人はありましたけどもね、とてもその頃はね。」などと答えていらっしゃり、人間味溢れる人物像が浮き上がります。タイトルになっている「子どもに歯ごたえのある本を」は、1996年8月の『文藝春秋』掲載の短いインタビュー記事です。他にも何編か、「子どもの本」について論じているものもありますが、それ以上に約40年強の時間の中から拾い上げられてまとめられた談話集であるにもかかわらず一貫して語られる子どもへの、創作への変わらぬ姿勢というものに敬服いたしました。

 (作成K・J)

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