本に関する情報

2016年12月、2017年1月の新刊本から
基本図書を読む34『人形の家』ルーマー・ゴッデン
基本図書を読む33『シートン動物記3 カランポーのオオカミ王 ロボ』 アーネスト・T・シートン
2016年10月、11月の新刊から(その2)
限定増刷! 赤羽末吉の絵本2冊
2016年10月、11月の新刊から(その1)
『明日の平和をさがす本300』ブックガイドをぜひ座右に
基本図書を読む32『ニルスのふしぎな旅』セルマ・ラーゲルレーヴ
2016年9月、10月の新刊から(11/2追記あり)
基本図書を読む31『クラバート』プロイスラー
基本図書を読む30『エイブ・リンカーン』 吉野源三郎
2016年8月、9月の新刊から
訃報 ブライアン・ワイルドスミス
基本図書を読む29『時の旅人』アリソン・アトリー
東京子ども図書館から『ブックトークのきほん―21の事例つき』が出版されました

2016年12月、2017年1月の新刊本から


 

2016年12月、2017年1月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの本を紹介します。(一部2016年11月下旬発行のものあり)

また、ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。すべての新刊本を購入して読むことはできませんが、教文館ナルニア国の新刊本コーナー、クレヨンハウス新刊本コーナーなどにある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。

 (なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

 

【絵本】
 
 『まんまん ぱっ』長野麻子/作 長野ヒデ子/絵 童心社 2016/11/20
まんまん ぱっ! (とことこえほん)
長野 麻子
童心社
2016-11-20
 
 長野麻子さん、長野ヒデ子さん母娘による二作目の絵本です。「まんまん ぱっ」「ぱいぱいぱい」「ぐるぐるぐる~ん」など赤ちゃんが喜ぶオノマトペ(擬音語、擬態語)と、パステルの柔らかい線画が楽しい1冊です。耳から聞こえるリズミカルな音にちいさな赤ちゃんも喜ぶことと思います。

 
『フローレンス・ナイチンゲール』デミ/作 さくまゆみこ/訳 光村教育図書 2016/12/20 
デミ
光村教育図書
2016-12

 「近代看護教育の母」と呼ばれるナイチンゲールの伝記絵本です。1820年生まれのフローレンスは、大変裕福な家庭で育ったにも関わらず、貧しい人のために尽くしたいという篤い信仰心をもって、看護婦になる決意をします。実際に看護婦になると患者たちが置かれている劣悪な環境を改善すべきだと提案し、その改革を実践します。従軍看護婦としてクリミア(今のトルコ)戦争の陸軍病院でも働き、ここでも改善するための報告書を作成し、女王にも訴えかけます。先を見通す力、実行に移す力を持っていたフローレンスの働きは、多くの人々に影響を与えます。のちに国際赤十字を設立したアンリ・デュナンもその一人でした。女性としての細やかな配慮をしつつ、大事なことは譲らず実行した姿は、この絵本に出会う子どもたちにも勇気を与えてくれることでしょう。本の表紙画像は出版社のサイトへ→こちら

『だるまちゃんしんぶん』加古里子/作 福音館書店 2016/12/25

 「だるまちゃんしんぶん」は、子どものための新聞。「はるのごう」「なつのごう」「あきのごう」「ふゆのごう」の4枚がポケットに入っています。連載されているのは「せかいびっくりニュース」や「にっぽんきせつニュース」「まちやむらあちこちニュース」などです。やまんば山でのお花見や、沖縄のキジムナちゃんやカッパちゃんに出会った話など創作話の一方で、夏の星座や冬の天気など科学的な記事もあって加古ワールド満載です。新聞の下のほうに季節の植物や生き物が帯状に描かれていたり、季節の遊びが掲載されていたり、読んでいて楽しくなるばかりです。


『ちっちゃなえほん ちっちゃなちっちゃなものがたり―ジェイコブズのイギリス昔話集より―』瀬田貞二/訳 瀬川康男/絵 福音館書店 2017/1/15 

2016年は瀬田貞二生誕100年の年でした。それを記念して出版されたさまざまな作品のうちの1冊です。「ちいさなちいさなおばあさん」などとしてイギリスの昔話で有名なお話を、瀬田貞二さんの訳に瀬川康男さんの意匠による絵で魅せてくれる文字通り小さな(12.8cm×10.6cm)の絵本です。この絵本は1995年にピンク色の横長の絵本(21.2cm×15.2cm)として出版されていましたが、今回は「母の友」1972年4月号掲載の豆本をもとに一回り以上小さくなって、まったく別の絵本として出版されました。素話で語られることの多い昔話ですが、愛蔵版として手元にあると嬉しい1冊です。
 

『おなかのかわ』瀬田貞二/再話 村山知義/絵 福音館書店 1977/4/1第1刷 2017/1/15第16刷(瀬田貞二生誕100年記念出版)

おなかのかわ (こどものとも絵本)
瀬田 貞二
福音館書店
1977-04-10

 ねことおうむが互いに食事に招待し合います。ところが、けちで食いしん坊のねこは、おうむの出してくれたごちそうを平らげてもまだ満足できず、おうむを飲み込み、次々出会ったものを飲み込んでいきます。デンマークの民話「ふとっちょねこ」「ついでにペロリ」にとても似たお話です。しばらく品切れになって手に入らない絵本でしたが、この度瀬田貞二誕生100年記念として限定復刊されています。図書館の蔵書が古くなって買い替える必要がある場合は、この機会にぜひ購入しましょう。

 
『いたずらおばけ』イギリス民話 瀬田貞二/再話 和田義三/画 福音館書店 2017/1/15(瀬田貞二生誕100年記念出版) 

 月刊絵本「こどものとも」1978年2月号として出版されたものを、瀬田貞二生誕100年記念出版としてハードカバー化した絵本です。貧しいけれど陽気な一人暮らしのおばあさん。ある日道端に金貨がたくさん詰まった壺をみつけます。「これがあれば女王さまみたいに働かずに贅沢ができるわ」とショールでしばって引きずって帰る途中、立ち止まると銀に変化してしまいます。「ああ、夢見てたのね。銀でよかったわ」とまた引っ張っていくと、ただの鉄の塊になり、ただの大きな石になっていきます。おばあさんは、「ああ、夢見てたのね。これで十分」と思うのです。いよいよ大きな石を木戸の留め石にしようとすると、それはいたずらが好きなおばけだったのです。おばあさんはおばけに怒ることもなく「いたずらおばけが見られたなんて、なんて運がいいんだろう」と喜んでやすらかに休むというお話です。何事も前向きにとらえるおばあさんに読んでもらうほうも、楽しくなってくる、そんな絵本です。

 

 『なにたべているのかな?(はなしかけえほん)』とよたかずひこ/作 アリス館 2017/1/25

なにたべているのかな? (はなしかけえほん)
とよた かずひこ
アリス館
2017-01-25

 「ももんちゃん」シリーズなど、小さな子どもたちが大好きなたくさんの絵本を作っているとよたかずひこさん。子どもとやりとりをしながら楽しめる絵本を作りたいと「はなしかけえほん」のシリーズを刊行されることになりました。その1冊目が『なにをたべているのかな?』です。先日、クレヨンハウス「子どもの本の学校」でとよたかずひこさんの講演を聞きました。テキストに捉われることなく、子どもたちの反応を見ながらいっぱい話しかけてほしいということでした。3月に『だれかな?だれかな?』、7月に『ゆびさしなあに?』が、このシリーズで出る予定です。初めての子育てでどんな風に子どもに話しかけたらいいのか緊張するという若い親たちにも、ぜひおすすめしたいですね。

 

【研究書】

 『ぼくの絵本美術館 新装版』堀内誠一/著 マガジンハウス 2016/12/14

ぼくの絵本美術館 新装版
堀内 誠一
マガジンハウス
2016-12-14

 1998年に出版された本の新装版です。堀内誠一が生前福音館書店の月刊誌「こどものとも」「母の友」「かがくのとも」や盛光社の「月刊 絵本」や「別冊太陽」などに掲載されていた絵本に関するエッセイをまとめたものです。ラスコーの壁画から始まり、ブーテ・ド・モンヴェルなど19世紀の絵本、コールデコットの絵本などについて語る文章は、美術への深い造詣とともに「子どもに」という視点が明確にあって、読み応えがあります。堀内誠一の絵本への理解も深まることでしょう。 

 

 『子どもの本のよあけ―瀬田貞二伝』荒木田隆子/著 福音館書店 2017/1/15

子どもの本のよあけ―瀬田貞二伝 (福音館の単行本)
荒木田 隆子
福音館書店
2017-01-11

 瀬田貞二担当の福音館書店の編集者として、その晩年の仕事『落穂ひろい―日本の子どもの文化をめぐる人びと』に向かう姿を身近に見てきた荒木田隆子さんによる瀬田貞二伝です。荒木田さんは、瀬田貞二亡き後、その足跡を辿りながら『絵本論―瀬田貞二子どもの本評論集』、『児童文学論―瀬田貞二子どもの本評論集』をまとめあげられました。この本は2013年5月~2014年1月までの5回にわたり東京子ども図書館主催の講座「瀬田貞二氏の仕事」での講演録をもとにしたものです。分厚い著作ですが、講演の際の語り口調そのままになっているので、とても読みやすく、一気に読めてしまいます。この1冊を通して日本の子どもの本の歴史を知ることができ、自分が子ども時代に親しんだ本が生まれてきた背景も知ることができます。前述の3冊の瀬田貞二の評論集とともに、子どもの本について学ぶ人には必読の1冊です。

 

【その他】

『だるまちゃんと楽しむ 日本の子どものあそび読本』加古里子/著 福音館書店 2016/12/25

 まえがきに加古里子さんご自身が「昭和42年(1967年)に出した『日本伝承のあそび読本」を新しくしたものです。(中略)しかし、50年もたっている現在、子どもたちの成長と未来にふさわしい内容、題材、記述になるよう選びなおし、書き改めました。」と記しているように、日本の伝統的なさまざまな遊びが全部で7項目109種類掲載されています。絵も新しく描きなおされ全ページカラーのイラストが、遊び方を丁寧に伝えてくれています。ここに紹介されている草花を使った遊びや、折り紙、あやとりや外遊びなど、子どもたちの創造性を引き出す数々の遊びを、積極的に伝えていきたいと思います。

 

 『少年少女のための文学全集があったころ』松村由利子/著 人文書院 2016/7/10初版第1刷 2017/1/10初版第2刷

少年少女のための文学全集があったころ
松村 由利子
人文書院
2016-07-26
 
昨年夏に出版された時には見落としていた1冊です。1月に増刷されました。この本の著者は子ども時代にたくさんの子どもの本に出会ってきた元新聞記者です。著者紹介を見ると私と同年代。私も子ども時代にほんとうにたくさんの子どもの本に出会ってきました。その中には岩波少年文庫もあれば「少年少女文学全集」の中の本もありました。このエッセイを読んでいて、本に出会うことによって心豊かな子ども時代を過ごせたのだと、瀬田貞二さん、石井桃子さんなど当時子どもの本のために尽力された方々に改めて感謝したくなりました。
 
 

 『さてさて、きょうのおはなしは・・・・・・日本と世界のむかしばなし』瀬田貞二/再話・訳 野見山響子/画 福音館書店  2017/1/15

さてさて、きょうのおはなしは・・・・・・ 日本と世界のむかしばなし (福音館の単行本)
瀬田 貞二
福音館書店
2017-01-11

 瀬田貞二生誕100年記念の一環として出版された「おはなし集」です。「かさじぞう」「ねずみじょうど」や「三びきのやぎのがらがらどん」「三びきのこぶた」など、絵本として出版されているものを含めて、日本の昔話18編、世界の昔話はイギリス7編、ノルウェー1編、ロシア2編の合計28のおはなしが収録されています。ご家庭ではお子さんに読んであげるおはなしとして、図書館員には語りのテキストとして最適です。

(作成K・J)

基本図書を読む34『人形の家』ルーマー・ゴッデン


今月、基本図書として取り上げるのはルーマー・ゴッデンの『人形の家』(瀬田貞二/訳 岩波少年文庫 岩波書店 1978)です。 

人形の家 (岩波少年文庫)
ルーマー ゴッデン
岩波書店
2000-10-18

昨年の秋、八ヶ岳にある小さな絵本美術館にて開催されていた「生誕100年 瀬田貞二―こころに響くことば―展」(2016/9/17(土)~12/04(日))にて、瀬田貞二訳の『人形の家』に堀内誠一が絵を描いた原画を見て、この作品への瀬田貞二のことば(この本のあとがき)を読みました。そこで昔読んだこの作品を読み返してみることにしました。 

1947年に書かれた作品の主人公は、エミリーとシャーロットという姉妹です。彼女たちは曾祖母の代から譲られた小さなオランダ人形や、ほかの手持ちの人形を家族に見立てて遊んでいました。

この姉妹の他に、小さな主人公がいます。それはオランダ人形のトチーです。トチーは百年前に上等な木を使って丁寧に作られたものでした。

そしてトチーには家族がいます。陶器で出来た男の子人形(もとはスコットランドの伝統衣装キルトを着ていた)は、プランタガネットさんと名付けられお父さん役でした。なぜなら前の持ち主が消えないペンで口髭を書き込んでいたからです。姉妹は、この人形に水色のシャツと格子縞の背広を着せ、本物の新聞紙を切って持たせ、貫禄十分に仕立てました。プランタガネット夫人には、クラッカーのおまけで付いていたセルロイド人形がなりました。姉妹が赤い水玉模様の青いブラウスと、青い紐飾りのついた赤いスカートを着せてあげたのです。夫人はことりさんという名前でした。またフラシ天(ビロードのこと)で出来た小さな男の子の人形は、りんごちゃんと名付けられ、トチーの弟になりました。背骨はかがり針、足はパイプ掃除で使うモールで出来た犬には、かがりと名付けられていました。

人形の一家は仲良く暮らしていましたが、ただひとつ不満がありました。それは、自分たちが住んでいるところが靴が入っていた箱だということでした。トチーは百年前、曾祖母に可愛がられていたころには、素敵な人形の家があったことを、家族に話して聞かせます。二階建てで玄関の間や、食堂、居間、二階には寝室が二つあって、どの部屋の調度も素晴らしかったことを伝えると、みんなはそんな素敵な家に住めるといいなあと願います。

そこへ、曾祖母の娘であるエミリーとシャーロットの大叔母さんが亡くなり、遺品である人形の家がエミリーたちのところへ届きます。古ぼけてしまった家具や調度を、姉妹と母親が一緒になって修理をしてくれて、人形の一家はこの上なく和やかで幸せな日々を送り始めました。

ところが、トチーはその修理にかかった費用を捻出するために、姉妹によって展覧会に出品されます。トチーは展覧会の会場で家族のことを思い続けて泣いてばかりいました。展覧会が始まると、女王陛下が見学に来られて、自分も幼いころにこれと同じ人形と遊んだと懐かしがって手に取ります。それには展覧会会場に並べられていた人形たちがびっくりしました。トチーが一文人形と呼ばれる安価なものなのに、女王陛下が足を止めたからでした。とりわけ昔、トチーと一緒に人形の家にいたマーチペーンという花嫁人形は嫉妬を募らせます。

運命とは時にいたずらなものです。展覧会が終わってエミリーとシャーロットのもとに戻され、人形の家で家族で楽しく過ごしていたトチーのもとへ、姉妹へのクリスマスの贈り物として、こともあろうかあの花嫁人形のマーチぺーンが届くのです。

そしてマーチぺーンは、エミリーによって人形の家の女主人になり、プランタガネット一家は使用人として屋根裏部屋に押し込められます。そのうえ、りんごちゃんはマーチぺーンの子どもとされてしまうのです。妹のシャーロットはそれに抗議するのですが、そう決めたのはお姉さんのエミリーで、頑として聞きませんでした。

人形の家の居間には、白い磁器のランプがあり、誕生祝用の小さなロウソクを立てれば灯がともるようになっていました。ある日、りんごちゃんがそのランプに近づき過ぎて、今にも火が燃え移ろうとした時、犬のかがりが異変を見つけて吠えはじめます。すると居間に近づくなとマーチペーンに言われていたにもかかわらず、ことりさんが居間に駆け付け、身を投げ出してりんごちゃんを助けたのです。セルロイドで出来ていることりさんは、りんごちゃんを押しのけた瞬間、引火して燃え尽きてしまったのでした。その間、マーチペーンは薄ら笑いを浮かべてソファに座っているだけでした。

エミリーとシャーロットが人形の家の異変に気付いて、人形の家を開けた時にはことりさんはどこにも名残を留めていませんでした。姉妹は、人形の家で起きた事の次第を理解し、マーチペーンは博物館へ寄贈されることになりました。そしてことりさんのいない人形の家で、トチーとプランタガネットさん、りんごちゃんの平穏な生活がまた続くのでした。

大人に贈る子どもの文学
猪熊 葉子
岩波書店
2016-08-31


この本の作者ルーマー・ゴッデン(1907~1998)は、イギリスのサセックス州で生まれ、12歳までインドで育ちました。 その後、教育を受けるためイギリスに戻るのですが、学校に適応できずにいたことが、猪熊葉子さんが昨年出版された『大人に贈る子どもの文学』(岩波書店)の203ページに記されています。異文化の中で育った幼少期と、イギリスでの厳格な教育の中で葛藤したゴッデンは、後に自由教育の立場の教師に出会い、書くことの訓練を受けたということです。こうした経験を通して、物事を相対的に見る力や、想像性を豊かにしていったのです。

ゴッデンは、『人形の家』の物語を通して、人間関係の中にあるさまざまな葛藤や、それでも最後には必ず人は幸せに気づくことができると、子どもたちに伝えようとしたのでしょう。この物語の終盤で、トチーとプランタガネットさんの会話の中で、

「ぼくたちのような小さいものにとって、人形にとってさえ、そうだ。よいことも、悪いことも、そうだ。でもよいことはもどってくる。そうだろ、トチー?」プランタガネットさんは気がかりになってききました。
「もちろん、そうだわ。」トチーは持ち前の親切な木の声でいいました。
「よいことと悪いことか。ずいぶん悪いことがあった。」とプランタガネットさんはいいました。「でも、それも来ては、去っていくんだわ。だからわたしたちも今はしあわせにやっていきましょう。」とトチーがいいました。   (『人形の家』岩波少年文庫 p230~231)

と、語らせています。

あるインタビュアーが、現実には悪が勝つこともあるのでは、といういじわるな質問をすると、“ゴッデンは、「最後は悪は打ち負かされるものです。もっともよい児童文学作品を検討してみれば、そこではすべて、最後に悪が打ち負かされることがわかるでしょう。物語の途中では、ぞっとするほど恐ろしく、また破壊的かもしれない悪であっても、打ち負かされるのです。無意識のうちに私たちは、子どもが悪より善が強いのだということを信ずるようになることを望んでいるのでしょう。(中略)私は、児童文学作品は倫理的でなければならないと固く信じています。」”(『大人に贈る子どもの文学』p204~205より)と、インタビューに答えたということです。

児童文学論
リリアン H.スミス
岩波書店
1964-04-20

 

こうした点についてリリアン・スミスは、『児童文学論』(石井桃子、瀬田貞二、渡辺茂男/訳 岩波書店)の中で、“この本は、作中に出てくる登場人物の人形をのりこえて、人間世界の根本問題にまで触れているのである。つまり、善と悪、正と邪、はかなく消えてゆく価値に対して真実なるもの、などの問題であり、このようなことは、すべての人に重要な問題なのである。(中略)だが、子どもは、こうした内に秘められた意味をとらえることはできないし、子どもが喜ぶのはそのストーリーである、と主張する人がいるかもしれない。しかし、知覚の鋭い子どもたちは、おのずからこのストーリーの底にながれる意味のいくぶんかを感じとって、かれらをとりまく世界にたいして、いっそう敏感な心をもつようになるのである。”(p276~277)と、述べています。

 

そういえば私自身も子ども時代に、叔母に贈られた着せ替え人形と、その周りにキューピー人形やぬいぐるみなどを置いて、それぞれに身近な大人たちの役割を割り振り、大人たちの言うような言葉を言わせて遊びました。後に自分の娘たちが同様にドールハウスで遊ぶようになったとき、人形に言わせるセリフが、やはり大人の鏡のように感じ、子どもの感性は鋭いと思ったものでした。

エミリーとシャーロットの人形遊びでありながら、人生の深い意味を内在させるこの『人形の家』の物語は、子どもたちの遊びの中に見え隠れする、その鋭い感性を見事に描いた作品と言えるでしょう。時代は大きく変わったとはいえ、今の子どもたちも人形で遊ぶことを好みます。そしてこの作品も、これからも読み継がれるよう手渡していきたいと思います。

 (作成K・J)

基本図書を読む33『シートン動物記3 カランポーのオオカミ王 ロボ』 アーネスト・T・シートン


 今月の基本図書として取り上げるのは、『シートン動物記3 カランポーのオオカミ王 ロボ』(アーネスト・T・シートン作・絵 今泉吉晴訳 福音館書店 2003)です。作家、画家でもあり、環境に関する運動にも取り組んだナチュラリスト(自然が好きで、自然とともに生き、たえず自然に目をむけて、自然について深い学識をもつ人)だったシートンが描いた動物物語の中でも有名な作品です。

ロボ―カランポーのオオカミ王 (シートン動物記 3)
アーネスト・T.シートン
福音館書店
2003-06-20

 

 

 著者のシートンは、イギリス生まれですが、5歳のとき家族と一緒にカナダの開拓農場に移住し、大自然とそこに生きる野生動物たちに親しみました。その後、画家になるためにロンドンで絵の勉強をしますが、野生動物と共に生きながら研究したいという気持ちが大きくなり、トロントに戻り、ナチュラリストとして生きる道を探り始めます。そんなシートンが「ナチュラリスト、作家、そして画家としての仕事をひとつにひっくるめた自立した人生」を確固たるものとした作品がオオカミ王ロボの物語です。この作品は、シートンが経験した事実をもとに描かれています。

 今から120年程前、アメリカのニューメキシコ、カランポーという砂漠のような高原地帯が広がっている土地に、「オオカミ王」と呼ばれたロボというオオカミがいました。普通のオオカミよりも圧倒的に体が大きく、優れた知性をもったロボは、4頭のオオカミを引き連れ、カランポーの牧場のウシに大きな被害をもたらしていました。ついにはロボの首には、当時豪邸が買えるくらいの大金1000ドルという懸賞金がかけられますが、挑戦者はことごとく打ち負かされ、依然ロボの群れは自由なふるまいを続けていました。そこで動物の生態に詳しいシートンに声がかかるのです。シートンは、どんな動物でも生きていく権利があると考えるナチュラリストでしたので、この仕事を引き受けることに迷いはありましたが、その迷いを抱えながらも、ロボの存在にひかれ、真剣に勝負を挑みます。

 シートンは、人間の匂いがつかないように、ウシの血にひたした手袋をはめ、骨でつくったナイフを使って巧妙に罠をしかけたり、H型の罠を作ったりなど、あらゆる知恵を絞ってつかまえようとしますが、ロボは見事に見破ります。そんなロボをシートンは観察し続け、やがて一頭、ロボの前を走ったりして群れをみだすものがいることに気がつきます。ロボの連れ合いと言われていた白く美しいオオカミ、ブランカでした。シートンはまずこのブランカを捕まえることに成功し、動揺して適切な判断ができなくなったロボを捕えるのです。

 動物を愛しながらしとめる立場となったシートンですが、ロボと真剣に向き合う姿勢から、シートンがいかにロボに敬意を抱き、共感していたのか伝わってきます。人間は動物を圧倒する力を持っているように見えるけれども、人間と動物は同じ生きものとして共に生きていく権利を持っているのだというシートンの姿勢は貫かれています。訳者あとがきには、「シートンがいなければ、このように野生動物にやさしくなれる自分に、気づくことはなかった。作者(シートン)が動物たちのくらしを、わたしたちが深く考えられるように、描きだしてくれたことに感謝したい。」(P89)という読者の感想が紹介されています。動物への深い理解と愛を持ったシートンが描いた物語は、動物もくらしを持ち、感情を持ち、その生をまっとうしようとしているのだということを、私たちに伝えてくれます。

 この本にはシートン自身が描いた絵やカットが豊富におさめられています。画家をめざし、どうすれば野生動物の美しさを描くことができるのか考えていたシートンの描いたロボは、荒々しく躍動感があります。以前絵のワークショップで、シートンの絵を一生懸命に写している男の子がいました。緻密に愛情を持って書かれた絵は、思わず描いてみたくなるほど力があるのだと改めて思いました。

 訳者の今泉吉晴氏も動物学者で、シートンに深く共感し、自然の中で動物を観察してきたナチュラリストです。動物への理解とシートンへの共感をもって、美しい文章で訳しています。今回は福音館書店で出版されたものを紹介しましたが、同じ訳者で、童心社からも出版されています。

オオカミ王ロボ (シートン動物記)
Ernest Thompson Seton
童心社
2010-02-01

 

 

 こちらの訳は福音館書店版よりも簡潔な文章になっています。また巻末に「Q&A」があり、シートンについてや当時の社会状況、動物の習性などがわかりやすく解説されています。文学的なものが好きな子には福音館書店版を、動物に興味がある子には童心社版をといった具合に、子どもによっておすすめする本を変えてもよいかと思います。シートンの作品は、物語のあらすじを中心に書いた抄訳版も多数出版されていますが、シートンの動物に対する真摯な姿勢を知るには完訳版がよいでしょう。

  またシートンの伝記として、今泉氏が執筆した『子どもに愛されたナチュラリスト シートン』(今泉吉晴著 福音館書店 2002)があります。

シートン―子どもに愛されたナチュラリスト (福音館の単行本)
今泉 吉晴
福音館書店
2002-07-20

 

 

  この伝記は、今泉氏がシートンのすばらしさを伝えたいという思いから、シートンの生涯をシートンの作品や豊富な資料をもとに丁寧に描き出しています。ナチュラリストとして生きていく道を確立するまでに苦労があったこと、またアメリカの先住民の考え方・生き方に共感していたこと、ウッドクラフト運動など社会運動にも積極的だったことなど、シートンの人生を知ることができると同時に、どのような出会いをもってシートンの思想が作り上げられていったのかを知ることができます。この本の中で、今泉氏はシートンの動物物語について次のように書いています。

「シートンの動物物語は、動物の世界のほんらいの楽しさと、人間に圧迫される、きびしく、悲惨なくらしの現実をつつみかくさず伝えていました。しかも、そのきびしい現実のなかに、人間らしい新しい意味を見いだし、未来に夢をもとうというメッセージがこめられていました。自然をふみにじり対立するのではなく、自然と親しみ、先住民の知恵と文から学び、自分たちのくらしを簡素に豊かにしようと、うったえる作品でした。」(P229) 

 シートンの伝えてくれたメッセージは、21世紀を生きる私たちにも響きます。ぜひ次の世代にも継いでいきたい作品です。

 (作成 T.I)

2016年10月、11月の新刊から(その2)


 

10月、11月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、クリスマスの本と、その他の本をいくつかを紹介します。(9月に出版された本も含む)

また、ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。すべての新刊本を購入して読むことはできませんが、教文館ナルニア国の新刊本コーナーなどにある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。

 (なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

 

クリスマスの新刊絵本

『きょうはクリスマス』小西英子/絵と文 至光社 2016/10

 クリスマスといえば「サンタクロース」が来る日というのが、宗教色のない行事としてのクリスマスのイメージでしょうか。イエス・キリストの降誕祭であるという意識は、多くの人にないのかもしれません。この絵本は、サンタクロースを追いかけて出かけた男の子は、それがお菓子屋さんの売り子だと知り、お手伝いをします。それから、教会の降誕劇に加わってクリスマスの意味を知ります。この降誕劇は、キリストの誕生のいきさつを劇にしたものです。教会学校やキリスト教の幼稚園などでクリスマスの時期に行われています。クリスマスは「イエス・キリストの誕生を祝う日」だと、知るきっかけになるといいですね。 


『そらとぶそりとねこのタビー』C・ロジャー・メイダー/作・絵 齋藤絵里子/訳 徳間書店 2016/10/13 

そらとぶ そりと ねこのタビー (児童書)
C.ロジャー メイダー
徳間書店
2016-10-13

ねこって袋や箱があると本能的に潜り込むもの。ねこのタビーはクリスマスイブにやってきたサンタのおじいさんのふわふわの靴下に惹かれて近づき、贈り物の入っていた袋の中に潜り込んでしまいます。おじいさんは気がつかないまま戻っていってしまいます。そんなわけでもう一度サンタのおじいさんが訪れることになるのです。絵本作家としては3冊目になるこの作品は、『まいごになったねこのタビー』の姉妹編。その他に灰島かりさん翻訳の『てっぺんねこ』(ほるぷ出版 2015)があります。 

 

『もみの木のねがい』エステル・ブライヤー/ジャニィ・ニコル/再話 おびかゆうこ/訳 こみねゆら/絵 福音館書店 2016/10/15

 南アフリカでシュタイナー教育に携わってきた母娘が、操り人形劇の脚本から絵本のために再話したおはなしです。もみの木は、自分のチクチクした葉が気に入らず、妖精に頼んでやわらかい葉に変えてもらいます。ところがヤギに食べられて裸木になってしまいます。その次に銀の葉、金の葉に変えてもらうのですが、やはり葉はすべてなくなってしまいます。元の葉っぱに戻ったとき、子どもたちが喜ぶクリスマスツリーになり、もみの木自身も幸せを感じるのでした。こみねゆらさんの絵が、優しく物語を語ります。

 

 『どうぶつたちのクリスマスツリー』ジャン・ウォール/作 レナード・ワイスガード/絵 こみやゆう/訳 好学社 2016/10/27

どうぶつたちのクリスマスツリー
ジャン ウォール
好学社
2016-10-18

森の中で動物たちがもみの木にクリスマスの飾りをつけています。猛獣も小さな動物もいっしょに手伝います。クリスマスの本当の意味は、イエス・キリストが人々の和解のためにこの世に現れたというところにあります。普段、敵対する者同士も、神の前に同じ創造されたものとして平等であり、互いに尊重しあうことが大切だ、というのがクリスマスにこめられたメッセージです。この絵本は、それを美しく具現化しているのだと感じました。ワイスガードの繊細で色彩豊かな絵にも注目です。

 

絵本

『カイとカイサのぼうけん』エルサ・ベスコフ/作・絵 まつむらゆうこ/訳 福音館書店 2016/11/10

カイとカイサのぼうけん (世界傑作絵本シリーズ)
エルサ・ベスコフ
福音館書店
2016-11-09
 
 エルサ・ベスコフ(1874~1953)はスウェーデンを代表する絵本作家です。『ペレのあたらしいふく』(小野寺百合子/訳 福音館書店 1976)や、『ちいさなちいさなおばあちゃん』(石井登志子/訳 偕成社 2001)などの代表作があります。この絵本は1923年に出版されましたが、これまで日本に紹介されていなかった作品です。森の中にカイとカイサという二人の兄妹が住んでいました。ふたりは家のそばに倒れている枯れ木でいつも遊んでいました。ある日、トムテの魔法で枯れ木がドラゴンになってしまいます。そこからふたりの冒険が始まります。ほかにもトロルの王さまが出てきたりと北欧の正統派ファンタジーになっています。
 
 
児童書

 

『ニット帽の天使―プロイスラーのクリスマス物語』オトフリート・プロイスラー/作 ヘルベルト・ホルツィング/絵 吉田孝夫/訳 さ・え・ら書房 2016/9

ニット帽の天使―プロイスラーのクリスマス物語
オトフリート プロイスラー
さえら書房
2016-09
 
大どろぼうホッツェンプロッツ』(中村浩三/訳 偕成社 1966)や『クラバート』 (中村浩三/訳  偕成社 1980)などの代表作があるプロイスラーのクリスマスの聖家族(幼子イエスとその両親)にまつわる7つの物語が入っている短編集です。舞台はキリスト教、なかでもカトリックの伝統宗教の根付くボヘミアです。ちょっとふしぎな7つの物語を通して、キリスト教の大切な行事であるクリスマスの意味を改めて知る機会にもなることでしょう。小学校3,4年生くらいからがおすすめ。
 
 

『ミスターオレンジ』トゥルース・マティ/作 野坂悦子/訳 平澤朋子/絵 朔北社 2016/9/30 

ミスターオレンジ
トゥルース マティ
朔北社
2016-10
 
舞台は第二次大戦中のニューヨーク。ライナス少年は6人兄弟の3番目。長兄のアプケが志願兵として出征することを誇りに思いますが、母親はそれを喜ぶことができません。ライナスは家業の八百屋を手伝う中で、画家であるミスターオレンジに出会い、想像力の大切さと、戦争の現実に気がついていきます。多感な少年の成長を描いた作品として評価され、2014年に全米図書館協会のバチェルダー賞を授賞しました。ミスターオレンジは、オランダ生まれの画家ピエト・モンドリアン(1872~1944)というオランダを代表する抽象画家で、第二次大戦中、ヨーロッパを離れてニューヨークで晩年を過ごします。この作品は2011年にオランダ・ハーグ市立美術館で開催されるモンドリアン展に合わせて執筆依頼されたとのこと。表紙絵にはモンドリアンの遺作となった「ヴィクトリー・ブギウギ」がデザインがされています。

 

『明るい夜に出かけて』佐藤多佳子/作 新潮社 2016/9/20

明るい夜に出かけて
佐藤 多佳子
新潮社
2016-09-21
 
 大学を1年休学し、両親と住む家を出て、コンビニでバイトする男子大学生の俺こと、富山。実は彼は「ジャンピング・ビーン」と「トーキング・マン」という名前(ラジオネーム)も持っているのです。そしてtwitter、ニコ生、ツイキャス、アメーバピグという現代のコミュニケーションツールや、そして実在する深夜放送「オールナイトニッポン」が登場します。そうしたSNSや深夜放送への投稿を通して緩やかにつながっていく人間模様を軽やかに描いたYA向けの作品。この作品について作者の佐藤多佳子さんご自身のブログ記事も興味深いです。→こちらこちら
 
 
 
『 ココの詩』高楼方子/作 千葉史子/絵 福音館書店 2016/10/10 

ココの詩 (福音館創作童話シリーズ)
高楼 方子
福音館書店
2016-10-05
 
1987年にリブリオ出版から出ていた 高楼方子さんのデビュー作『ココの詩』と、同じくリブリオ出版から出ていた児童文学作品『時計坂の家』、『十一月の扉』がこの10月に福音館書店に版権を移して出版されました。『ココの詩』は、高楼さんがフィレンツェに1年4ヶ月滞在していた時に、まるで物語が降ってくるように紡いだという作品です。金色の鍵を拾い上げたことで、小さな女の子になって自由に動くことができるようになった人形のココの、ふしぎな物語です。挿絵は高楼方子の実妹の千葉史子です。
 
 
 『時計坂の家』高楼方子/作 千葉史子/絵 福音館書店 2016/10/10

時計坂の家 (福音館創作童話シリーズ)
高楼 方子
福音館書店
2016-10-05
 
1992年にリブリオ出版から出版された作品です。夏休みにいとこのマリカに誘われて、汀舘にある祖父の家に行くことになった小6のフー子。時計塔のある坂道の途中にある古い屋敷には、不思議が満ちています。踊り場にある窓は別の世界につながっていて・・・行方不明になったという祖母の秘密に迫っていくフー子たち。少しミステリアスで幻想的な長編ファンタジーです。 こちらの作品の挿絵も千葉史子です。
 
 
『十一月の扉』高楼方子/作 福音館書店 2016/10/10

十一月の扉 (福音館創作童話シリーズ)
高楼 方子
福音館書店
2016-10-05
 
 中学二年生の秋に父親の転勤が決まった爽子。二学期の終わりまでは転校したくないと、偶然みつけた「十一月荘」に下宿させてほしいと申し出ます。ここは今で言うシェアハウスのようなところで大家の閑さん、小学生のるみちゃんと馥子さん母娘、建築家の苑子さんとの生活が始まります。その生活の中で爽子は「ドードー森の物語」を紡ぎ始めます。登場人物と物語の世界がオーバーラップしていく構成は、ぐいぐいと引き込んでいきます。こちらは表紙絵は千葉史子ですが、中の挿絵は高楼方子ご自身のものです。
 
 
 『クマのプー 世界一のクマのお話』A.A.ミルン原案 森絵都/訳 KADOKAWA 2016/10/31

クマのプー 世界一のクマのお話
ポール・ブライト
KADOKAWA
2016-11-02
 
A・A・ミルンの 『クマのプーさん』(石井桃子/訳 岩波少年文庫)が生まれて90年を記念して、その公式続編を4人の児童文学者が書き下ろした作品です。それぞれの作家が子ども時代に愛読し、あるいは研究をしてきました。そうして生まれた秋、冬、春、夏の4つの物語。どれもミルンが乗り移って書かせたような、懐かしい『クマのプーさん』の世界が広がっています。翻訳はやはりプーさんを愛してきた森絵都さんです。
 
 
 
研究書 
 
『児童文学論』リリアン・スミス/作 石井桃子、瀬田貞二、渡辺茂男/訳 岩波現代文庫 岩波書店
 
児童文学論 (岩波現代文庫)
リリアン・H.スミス
岩波書店
2016-10-19
 
 子どもの本に関わるすべての人にとってバイブルであり続けるリリアン・スミスの『児童文学論』(1964年)が文庫版になりました。箱入りの重々しい装丁から手軽に読める形にかわって、より多くの人の手に渡ることを嬉しく思います。石井桃子、瀬田貞二、渡辺茂男という戦後の子どもの本の歴史を創って来た方々に大きな影響を与え、そうやって作られた優れた子どもの本に私たちは育てられてきました。リリアン・スミスがこの本を著したのは1953年のこと。もう古びているように言う人もいますが、この60年の間に環境は大きく変化したものの子どもの成長の姿は時代が変化しても普遍的であり、子どもと本の基本的な関係は変わらないのです。今、読み返しても新たな発見があります。もちろん、私たちは時代の変化に合わせた子どもへのサービスを考えていかなければいけませんが、なにか迷った時に立ち返る拠り所として、この本を座右の書としてほしいと思います。
 
 
『アメリカの絵本―黄金期を築いた作家たち』(連続講座〈絵本の愉しみ〉1 吉田新一/著 朝倉書店 2016/11/25
 
アメリカの絵本 ―黄金期を築いた作家たち― (連続講座〈絵本の愉しみ〉 1)
吉田 新一
朝倉書店
2016-11-25
 
 立教大学、日本女子大学でイギリス児童文学について教えてこられた吉田新一先生がまとめられた連続講座〈絵本の愉しみ〉の第一巻です。19世紀末から始まり、1930年代~50年代にかけての開花期、50年代以降の黄金期にわけて、アメリカの絵本の歴史をひも解くテキストです。特に黄金期以降のマリー・ホール・エッツ、マーガレット・ワイズブラウン、エズラ・ジャック・キーツ、バーバラ・クーニー、マーシャ・ブラウン、そしてモーリス・センダックについて詳細に解説しながら、それらの作家の作品の魅力に肉迫するあたり、とても読み応えがあります。子どもの本の黎明期にいかに図書館の児童サービスが大きな役割を果たしたかについての記述も、私たちにとっては励みになるものでした。 
 
 
その他
 
『おいで子どもたち―初めて陪餐する子どもたちへ』斎藤惇夫/文 田中雅之/写真 日本聖公会 2016/10/31
斎藤 惇夫
日本聖公会
2016-10-31
『ガンバの冒険』などの著作がある斎藤惇夫さんが、キリスト教の洗礼を受けた子どもたちに向けた詩を書かれたものが1冊の本になりました。書影は→こちら。陪餐とはキリストの最後の晩餐に倣って、パンとぶどう酒を礼拝の中でいただく儀式です。キリスト教徒(クリスチャン)は日本の人口の1%と少数派ですが、その子どもたちだけのものにしておくにはもったいないので、ここで紹介させていただきます。クリスマスは、イエス・キリストの誕生を祝う日。キリスト教が子どもを大切にすることの意味がすっと理解できることと思います。
 
 
『未来のだるまちゃんへ』かこさとし/作 文春文庫 文藝春秋 2016/12

未来のだるまちゃんへ (文春文庫)
かこ さとし
文藝春秋
2016-12-01

2014年に文藝春秋からハードカバーで出版された絵本作家かこさとしさんの自伝が、文庫版になりました。表紙の絵もハードカバーの緑色の背景に大勢の絵本の登場人物に囲まれているかこさんの絵から、白地にだるまちゃんがすくっと立っているものに変わりました。また、文庫版のあとがきと、中川李枝子さんによる解説が付け加えられています。昭和20年(1945年)の敗戦が、かこさんの生き方を変え、子どもたちと寄り添う絵本作家としての歩みのスタートになったこと、戦後のセツルメント活動(詳しくは→こちら)で出会った子どもたちとの日々、絵本の創作についてなど絵本作家かこさとしの魅力が余すことなく記された1冊です。ロングセラー絵本『だるまちゃんとてんぐちゃん』(福音館書店 1967)は来年出版50周年。なぜ、かこさんの絵本が子どもたちの心を捉えるか納得です。

 (作成K・J) 

限定増刷! 赤羽末吉の絵本2冊


ちひろ美術館・東京で2016年11月9日(水)から2017年1月15日(日)まで開催中の赤羽末吉・中国とモンゴルの大地」展に合わせて、長く品切れになっていた絵本2冊がこの度限定増刷されました。

君島久子さんが中国の少数部族に伝わる昔話を再話して翻訳し、それに赤羽末吉が中国国内を取材して絵を描いた美しい絵本です。この時期にしか手に入らない絵本です。所蔵していない図書館では、購入のチャンスです。また所蔵していても、出版から月日がたち、経年劣化しているのであれば、この機会に買い換えて、また子どもたちに手渡してあげて欲しいと思います。

 

『チワンのにしき―中国民話』(おはなし創作絵本21)君島久子/文 赤羽末吉/絵 ポプラ社 1977年7月第1刷 2016年11月第13刷

理想郷を錦に織り込んだおばばでしたが、織り上がったと同時に風に飛ばされて仙女のもとへ。錦を取り戻しに2人の息子たちが出かけて行きますが、それぞれ諦めてしまいます。末の息子はさまざまな困難を乗り越えて、錦を取り戻すと・・・中国の南方、ベトナムの国境付近に住むチワン族に伝わる昔話です。流れるような大胆かつ繊細な赤羽さんの絵がとても美しい1冊です。

 

『あかりの花―中国苗族民話』肖甘牛/採話 君島久子/再話 赤羽末吉/画 福音館書店 1985年1月30日発行 2016年12月1日第9刷

段々畑で懸命に働くトーリンはある日ユリの花をみつけ楽しみに出かけていくようになりました。ある日、ユリの花が倒されているのを見て持ち帰り、石うすに上で育てます。十五夜の晩、トーリンのもとに美しい娘が現れます。娘と一緒に暮らし始めたトーリンは、暮らし向きが良くなると怠けるようになってしまいます。すると満月の夜金鶏鳥が現れ、娘をさらってしまうのです。このお話は、再び勤勉に仕事をするようになったトーリンのもとに娘が戻ってきるハッピーエンドです。赤羽さんは、「石うす」というものが実際にはどういうものなのか、物々交換をする市場がどのようなものだったのか、苗族の集落を訪れて取材を重ね、この絵を描いたとのことです。絵本の見返しから美しく趣向をこらしたこの作品をこれからの子どもたちにも手渡し続けて欲しいと思います。
 

(作成K・J)

2016年10月、11月の新刊から(その1)


10月、11月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの絵本いくつかを紹介します。

また、ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。すべての新刊本を購入して読むことはできませんが、教文館ナルニア国の新刊本コーナーなどにある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。クリスマスの絵本と、YA向けの本は、(その2)で紹介します。

 (なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

 

絵本

『おばあちゃんとバスにのって』マット・ラ・ペーニャ/作 クリスチャン・ロビンソン/絵 石津ちひろ/訳 すずき出版 2016/9/27 
おばあちゃんと バスにのって
マット デ・ラ・ペーニャ
鈴木出版
2016-10-01
 
ジェイは毎週日曜日、教会で礼拝をすませた後に、おばあちゃんと出かけるところがあります。それはスープ・キッチンと呼ばれるボランティア食堂です。このおばあちゃん、どんなことに対しても「良いところ」をさがす名人のようです。雨降りも植物には必要、スラム街でも美しいものは見つけられる、どんな人にも素晴らしいところがあると、折々に伝えてくれるのです。ボランティア活動も援助するというのではなく、そこにいる人々と時間と場所を共有するためで、とても自然体です。この絵本は2016年度のニューベリー賞(*)、そしてコールデコット賞(*)オナー賞のダブル受賞作です。
(*)ニューベリー賞:1922年よりアメリカ児童図書館協会が授与する、アメリカ合衆国における最も優れた児童文学の著者に与えられる賞
(*)コールデコット賞:1938年より同じく児童図書館協会が授与する、アメリカ合衆国におえる最も優れた絵本に与えられる賞。オナー賞はその次点作品に与えられる 
 
『シャクルトンの大漂流』ウィリアム・グリル/作 千葉茂樹/訳 岩波書店 2016/10/14 
シャクルトンの大漂流
ウィリアム・グリル
岩波書店
2016-10-15
 
1914年にイギリス帝国南極横断探検隊の隊長アーネスト・シャクルトンは、南極大陸を横断しようと隊員26名とともにエンデュアランス号に乗って出航します。しかし、南極大陸の手前で船ごと流氷の中に閉じ込められ、その後船が難破する不運に見舞われます。厳しい自然の中で、隊員たちが協力しながら苦難を乗り越え1917年に帰還するまでの大冒険を描いた作品です。色鉛筆で描いた絵は、とても繊細でありながらダイナミックで素晴らしく、2015年度のケイト・グリーナウェイ賞(*)を受賞しています。しかも作者はこの作品がデビュー作という25歳の青年です。同じ題材を扱った読物には千葉茂樹訳の『エンデュアランス号大漂流』(エリザベス・コーディー キメル/作 あすなろ書房 2000)もあります。
(*)ケイト・グリーナウェイ賞:1956年に英国図書館協会によって設立されたイギリスの絵本作家ケイト・グリーナウェイ(1846~1901)の名を冠した賞で、その年イギリスで出版された絵本のうち、最も優れた作品の画家に贈られる賞
 
 
 『わたしのそばできいていて』リサ・パップ/作 菊田まりこ/訳 WAVE出版 2016/10/20
わたしのそばできいていて
リサ・パップ
WAVE出版
2016-09-27
 
 アメリカにはライブラリー・ドッグがいる図書館があるのをご存知でしたか?字を読むのに困難を抱える子どもたちを、ライブラリー・ドッグがサポートします。この絵本の主人公、マディは字を読むのが苦手です。特に学校でクラスのみんなの前で音読をすると、クラスメートに笑われるので余計に緊張してしまうのです。そんなマディがライブラリー・ドックのボニーに出会い、ボニー相手に本を読むうちに、少しずつ自信をもって読めるようになっていきます。苦手なことを克服するために、静かに見守ってくれるボニーのような存在はとても大切なんだと感じます。
 
 
『ふたりはバレリーナ』バーバラ・マクリントック/作 福本友美子/訳 ほるぷ出版 2016/10/20 
ふたりはバレリーナ
バーバラ・マクリントック
ほるぷ出版
2016-10-25
 
ないしょのともだち』(ビバリー・ドノフリオ/文 福本友美子/訳 ほるぷ出版 2010)などの作品があるバーバラ・マクリントックの最新作です。2016年10月6日~11月27日まで銀座・教文館ナルニア国で原画展が行われていました。最終日にマクリントックさんのトークショーも聞いてきました。バレエを習い始めた女の子エマと、プリマバレリーナのジュリアのある一日が並行して描かれています。エマがその日、大きな劇場で見たバレエ公演のプリマがジュリアなのです。公演後、二人が出会うシーンが印象的です。バレエを習っている子どもたちにぜひ手渡してあげたい素敵な絵本です。 
 
 
『はじめてのオーケストラ』佐渡裕/原作 はたこうしろう/絵 小学館 2016/11/1 
はじめてのオーケストラ
佐渡 裕
小学館
2016-10-27
 
 こちらの絵本は世界的な指揮者・佐渡裕氏が、小学生になって初めてコンサートに行き感動を味わった我が子の体験をもとに、多くの小学生にもコンサートに足を運んでほしいと願い、書いた作品です。さまざまな楽器が響き合い、美しいハーモーニーになる様子を、はたこうしろうさんの絵が余すことなく表現しています。主人公のみーちゃんが初めてコンサートホールに行ったのはクリスマスシーズンで、演目はベートーベンの交響曲第九です。ちょうどこれからの季節におすすめできますね。佐渡裕氏の公式サイトからは、小学館の特集ページにリンクされており、インタビュー動画も見ることができます。こちら→佐渡裕オフィシャルファンサイト→「はじめてのオーケストラ
 
 
『パンタロンとケーキやさん』キャサリン・ジャクソン/作 レナード・ワイスガード/絵 こみやゆう/訳 好学社 2016/11/1
パンタロンとケーキやさん
キャサリン ジャクソン
好学社
2016-11-02

 1949年にイギリスで出版されたA Little Golden Bookシリーズの中の1冊として出版され、その後1951年にアメリカでも出版された絵本が日本で初めて紹介されました。翻訳はこみやゆうさん。ケーキが大好きなプードルのパンタロンが主人公。ケーキ屋さんのお手伝いがしたいのですが、ケーキ屋のベーカーさんに断られてしまいます。そんなパンタロンはベーカーさんが怪我でお休みの間、大活躍します。『あめがふるとき ちょうちょうはどこへ』(メイ・ゲアリック/文 岡部うた子/訳 1974 金の星社)や、『ちいさな島』(ゴールデン・マクドナルド/文 谷川俊太郎/訳 童話館出版 1996)の絵を描いたレナード・ワイスガードのふんわりとした素朴な絵が楽しい1冊です。 

 

『しろくまのそだてかた』うつみのりこ/作 飛鳥新社 2016/11/7

しろくまのそだてかた
うつみのりこ
飛鳥新社
2016-11-03
 
この絵本は、「子育ては大変だけど、お母さんになったときの喜びを思い出してと、ママ、パパ、おじいちゃん、おばあちゃんなど、子育てに関わるすべてのみなさんに読んで欲しいと願って、2005年に神戸でミニ絵本として誕生」したとのこと。私は10cm×14.5cmのミニ絵本をまず紹介してもらっていました。それが口コミで多くの読者に広がり、10年以上の月日を経て、この度書籍化されました。この絵本は、子どものためのというよりは、お母さんに向けてのメッセージ絵本です。子育てに疲れたママたちが、ホッとできる場所を図書館でも提供できるといいですね。 

 

『かぜ』イブ・スパング・オルセン/作 ひだにれいこ/訳 亜紀書房 2016/11/7 
かぜ
イブ・スパング・オルセン
亜紀書房
2016-10-25
 
 『つきのぼうや』(やまのうちきよこ/訳 福音館書店 1975)というデンマークのロングセラー絵本の作者、イブ・スパング・オルセンが、「風」について丁寧に描いた絵本です。絵本の形をとっていますが、文字が小さく字数が多いので、ちいさなお子さんはご家庭で読んでもらったり、小学低学年のお子さんは自分で読むのにちょうどよいでしょう。「風」といっても、そよ風もあれば、温かい南風もあり、暴風もある、そんな身近な風について姉と弟が会話しながら展開していく絵本です。
 

 (作成K・J) 

『明日の平和をさがす本300』ブックガイドをぜひ座右に


幼児から多感なYA世代を対象に、手渡したい「戦争と平和」について考えるための本のガイドとして、『明日の平和をさがす本300―戦争と平和を考える 絵本からYAまで』(宇野和美/さくまゆみこ/土居安子/西山利佳/野上暁/編著 岩崎書店 2016/11/30)が、出版されました。

本の帯に「公共図書館・学校図書館・図書ボランティア必携!」という文字が踊りますが、内容を見るとそれが大げさな表現でないことがよくわかります。編集委員の5人は、子どもの本の翻訳や編集に携わったり、児童文学を研究し子どもの本の評論をされている、信頼できるプロです。それに加えて、図書館や学校図書館の司書として、書店員として子どもたちに本を手渡す仕事をしている方々、SEALD’s選書「“今”を生き抜くための102冊」選書に携わった方、安保法案に反対するママの会事務局の方など、多彩な21名が執筆者として名前を連ね、今、子どもたちに何をどのように伝えるべきかを真摯に考察し、選書していったことがわかります。

明日の平和をさがす本 戦争と平和を考える絵本からYAまで300
宇野 和美
岩崎書店
2016-11-18
 
 (アマゾンでの配本は2016年11月18日になっていますが、本の奥付の出版年は2016年11月30日です)
 
このブックガイドの特筆すべき点は、掲載されている本が2000年~2016年9月までに出版されたものであること、幼児からYA世代まで年齢に応じて手渡せる本が網羅されていること、絵本、創作文学、そしてノンフィクション、マンガとジャンルも様々であること、巻末に本の舞台となった地域の地図(世界と日本)、時代年表などの資料も充実していることです。
また、各紹介文は1冊に1ページで、読者対象年齢、時代背景、キーワードなどがひと目でわかる表示になっており、使いやすい作りになっています。
 
もうひとつの特徴は、章ごとのコラム記事です。ここでは過去に出版された戦争と平和をテーマにした本の評論や、2000年以前に出版された本で、これからもずっと手渡し続けていきたい作品の紹介などが書かれています。
 
「はじめに」で、野上暁氏が
“日本は、1945年8月15日に、アメリカやイギリスなどの連合国を敵に回した戦争に負けて以来、一度も戦争をしていません。310万人ともいわれる、尊い犠牲者を出した反省から、憲法で戦争をしないと決めたからです。その後、世界の国々と友好関係を築き、平和が続いてきたことで経済も発展し、戦争の荒廃から立ち直し豊かな暮らしを実現できました。
 ところが、それから70年以上もたつと、戦争の悲惨な記憶がうすれ、近隣の国々を侵略したことへの反省もなく、憲法の精神をないがしろにして、戦争ができる国に変えようとする力が強まってきています。世界の各地で、いまも戦争や紛争が起こっていますから、いつまた日本がそれに関わらないとも限りません。
 子どもの本に関わる私たちは、将来にわたって戦争の悲劇を子どもたちに味わわせることを断じて避けたいと願います。”(p3)
と、記しておられます。
 
 私たちの平和な暮らしは当たり前のものではなく、先の戦争をこえて獲得したものであることを痛感します。そして私たちは、子どもたちに平和な世の中をも未来永劫手渡していくんだという決意をもって、彼らが本を通して自分たちとは違う文化があることを理解し、また人と人が信頼をし合うことの大切さを学び、さらに、現在、困難な状況にある人々へ共感の気持ちを抱けるよう事実も知らせていけるよう、本を選書し、手渡していく必要があります。このブックガイドは、その際の道しるべになると思います。

第1章 戦争ってなんだろう?
第2章 生きるための冒険
第3章 声なきものたちの戦争
第4章 子どもたちの体験
第5章 絵のちから 音楽のきぼう
第6章 伝える人 語りつぐ意志
第7章 勇気ある決断 未来への思い
第8章 平和をつくるために
(作成K・J) 

基本図書を読む32『ニルスのふしぎな旅』セルマ・ラーゲルレーヴ


今月の基本図書として取り上げるのは、スウェーデンの女性作家で、1909年にノーベル文学賞も受賞しているセルマ・ラーゲルレーヴ(1858~1940)の書いた『ニルスのふしぎな旅』(上・下巻 菱木晃子/訳 ベッティール・リーベック/画 福音館書店 2007)(原題『ニルス・ホルゲルソンのふしぎなスェーデン旅行』)です。この作品は、スウェーデンで上巻が1906年、下巻が1907年に出版されました。

父親の影響でスウェーデンの文化に親しみを持ち、スウェーデン語の翻訳家になった菱木晃子は、この作品に携わるために、8年をかけてスウェーデンの地理や歴史を学び直したということです。(下巻「訳者あとがき」より)

ニルスのふしぎな旅〈上〉 (福音館古典童話シリーズ 39)
セルマ ラーゲルレーヴ
福音館書店
2007-06-20

 

 

ニルスのふしぎな旅〈下〉 (福音館古典童話シリーズ 40)
セルマ ラーゲルレーヴ
福音館書店
2007-06-20

スウェーデン南部の村に住むニルスという14歳の少年は、怠惰な上に乱暴者で、学校でも家でも問題児でした。ある春の日、ニルスは両親が教会に出かけている間に、家の中でトムテ(小人の妖精)を虫とり網で捕まえ、からかったため、トムテの怒りをかい、小人の姿に変えられてしまいます。

小人になったニルスは、家で飼っているガチョウのモルテンが、ガンの群れと一緒に北へ飛んでいこうするのを止めようとして飛びつき、そのままモルテンと共にガンの群れに加わって飛び立ちます。その後、群れを率いるアッカに認められ、ラップランドへ向かう旅について行くことになりました。

この冒険の旅は、3月20日に始まり、11月9日に終わる55章の物語として描かれています。小人になった途端に動物たちと会話ができるようになったニルスは、旅の中で出会うさまざまな出来事を通して、互いに尊重し合い、助け合うことの大切さを学んでいきます。家畜にさえ悪戯をしていたニルスですが、知恵をはたらかせてリスの親子を助けたり、キツネからガンの群れを守ったりするなど、しだいに動物たちからの信頼を得ていきます。途中、ガンの群れからはぐれますが、動物園に捕らえられていたワシのゴルゴ(ゴルゴは幼鳥の時に親を亡くしアッカに育てられています)を救い出し、最北の地ラップランドにいたアッカたちに再会します。

夏の間、ラップランドで過ごしたニルスとガンの群れは秋の訪れとともに、故郷の村へと戻ってきます。小人になってしまった今は両親の前に姿を見せられないと、再びガンと共に旅を続けたいというニルスでしたが、両親に捕まえられ祭りの供え物にされそうになったモルテンを救い出そうとして、妖精の魔法がとけ、元の少年の姿に戻るのでした。

この作品は、「子どもたちに自分の国の歴史や地理について楽しみながら学んでほしい」という狙いで、副教材としてラーゲルレーヴに執筆の依頼があり、書かれたものです。私はそのことを、出版を記念した訳者菱木晃子の講演会で伺いました。

そのあたりについて下巻の「訳者あとがき」にも詳しく記されています。

“「スウェーデンの地理にふれながらも、物語として子どもたちが楽しめる本にしたい」という意気ごみのもと、ラーゲルレーヴはこの仕事をひきうけました。そして周到な準備をはじめました。地理、歴史、動植物に関する文献を読み、各方面からの提案や意見に耳をかたむけ、自らの足でスウェーデン各地を取材してまわったのです。”『ニルスのふしぎな旅 下』(福音館書店) p526~527

そうした材料がそろう中、どのような作品にするかを思い悩んだ末、イギリスのキップリング(『ジャングル・ブック』の作品などがある)の作品にヒントを得て、動物たちを擬人化すること、トムテ(小人の妖精)の言い伝えを踏まえて、『ニルスのふしぎな旅』が紡ぎ出されていったのです。

”ここにようやく、ラーゲルレーヴは主人公の男の子をトムテの姿に変えて、ガチョウの背中にのせ、スウェーデンじゅうを旅させることを思いついたのでした。これは、ほんとうにすばらしい思いつきでした。空から地面をながめること、つまり国土を鳥瞰図としてとらえることは、地理の教科書にはもってこいの手法だったからです。もちろん、この設定は物語の導入としても、子どもたちの興味をひくのに十分なものでした。”

 この作品は、副教材としてだけでなく、物語としての面白さが評判となり、大人たちにも読まれるようになり、海外へも広まっていきます。

 
日本では大正半ばの1918年に、原作の一部が香川鉄蔵により翻訳され『飛行一寸法師』と題して大日本図書から出版されています。その後も多くの出版社からこの作品は出版されますが、とても分量が多いためいずれも抄訳に留まっていました。1958年に、香川鉄蔵はラーゲルレーヴ生誕100周年祝賀行事にスウェーデンに招待されたのを機に、完訳することを目指します。しかし完成をみるものの、病に倒れてしまいます。その志を継いだのが息子の香川節で、父の訳出したものを現代風に改めるなどして完成させ、1982年に偕成社から全訳版として出版されました。
 偕成社から出版された全訳版は4巻に分かれています。挿絵は、原作と同じリューベックのものが使われています。そのあたりの経緯については、村山朝子の著書『『ニルス』に学ぶ地理教育―環境社会スウェーデンの原点』(叢書 地球発見3 ナカニシヤ出版 2005)に詳しく記されています。(第1章2「完訳までの長い道のり」p19~31)
『ニルス』に学ぶ地理教育―環境社会スウェーデンの原点 (叢書・地球発見)
村山 朝子
ナカニシヤ出版
2005-12


 
 
その後、この作品がたいへん優れているにも関わらず分厚い2冊組で本に親しんでいる子でないと手に取らないこと、内容的には小学校中学年くらいの子どもたちに読んでほしいということから、福音館書店から2012年から2013年にかけて絵物語「ニルスが出会った物語」シリーズが出版されました。
長い物語のうち、独立して読んでも楽しめる6つのエピソードにしぼり、児童書の挿絵などで子どもたちから人気のある平澤朋子が絵をつけており、とても親しみやすいものになっています。このシリーズを出版するために、菱木と平澤はスウェーデン旅行をし、実際に物語の舞台を歩いたとのことです。
どの物語も美しい絵がふんだんに使われており、長編に挑戦する前の小学校中学年の子どもたちに最適のシリーズです。


 なお、菱木晃子の公式サイトには「『ニルスのふしぎな旅』を訳して―翻訳こぼれ話」の特集ページがあり、実際に物語に出てくるスウェーデンの町や村、建造物の写真もたくさん紹介されています。(菱木晃子公式ホームページ→こちら 「『ニルスのふしぎな旅』を訳して」のページ→こちら

『ニルスのふしぎな旅』は、今から110年ほど前に書かれた物語であるにも関わらず、前出の村山朝子『『ニルス』に学ぶ地理教育―環境社会スウェーデンの原点』でも指摘されているのですが、早くから環境保全に対する考え方がきちんと記されているのです。

たとえば製鉄所が出来たばかりに棲家を追われるクマについて書かれている28章「製鉄所」では開発か自然保護かということを考えさせられます。また、山火事で木が焼けてしまったところへ植樹する子どもたちを描いている39章「イェストリークランド地方をこえて」では、“木が育ち、森ができれば、このあれはてていた山に、虫が飛びまわり、オオヨシキリの歌声が響きわたり、ライチョウがおどり、すべての命あるものがよみがえります。そうです。これは、つぎの世代のための記念碑のような仕事です。なにもしなければ、裸の山しか残せなかったでしょうに、この仕事のおかげで子孫にりっぱな森をゆずりわたせるのです。”(下巻 p233~234)と、環境を保全することの大切さをさらりと記しています。

またニルスが人間に戻る前に最後にガンのアッカとことばを交わすところでは、アッカに”「いいかね。おまえがわたしたちといっしょにして学んだことがあるとすれば、人間はこの世に人間だけで暮らしているのではないということだろう。人間は広い土地を持っているのだから、自然の岩礁、浅瀬の湖、沼、湿地、未開の山、人里離れた森を、わたしたちのような貧しい生き物が安心して暮らせるように、少しくらい残してくれてもよいと思うのだ。若いころから、わたしは追われてばかりだった。わたしのような者にも安心してすごせる場所が必要だということを、知っていてほしいのだよ」”(下巻53章「ヴェンメイヘーイ丘への旅」 p503)と、言わせています。

作者のラーゲルレーヴは、1858年にスウェーデン中南部ヴェルムランド地方のモールバッカの旧家富農の娘として生まれました。女子高等師範学校を卒業し教師をしながら、小説を書き続けていました。1890年に『イェスタ・ベルリング物語』を書いてコンクールで1等になったことから、作家活動に専念し、1909年にスウェーデン人として、女性として初のノーベル文学賞を受賞しています。

この作品を書いた頃は、イギリスに始まった産業革命の影響で工業が盛んになっていた時代です。急な発展の陰で、自然が破壊されていくのを見ていたのでしょう。子ども向けの作品のなかに、こうした鋭い視点を盛り込みつつ、ニルスが冒険を通して人間的に成長していく様子を、子どもたちの心に沁み渡るように描いており、大変読み応えのある作品です。偕成社の全訳版と合わせて、子どもたちに読んでもらいたいと思います。

(作成K・J)

2016年9月、10月の新刊から(11/2追記あり)


  9月、10月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの本いくつかを紹介します。一部、これまでに見落としていた8月の作品も含まれています。

また、ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。すべての新刊本を購入して読むことはできませんが、教文館ナルニア国の新刊本コーナーなどにある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。YA向けの本は、読み終わるのに時間がかかっています。11月のまとめて紹介します。

 (なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

絵本

『プーさんとであった日』リンジー・マティック/文 ソフィー・ブラッコール/絵 山口文生/訳 評論社 2016/8/20

プーさんと であった日: 世界で いちばん ゆうめいな クマの ほんとうに あった お話 (児童図書館・絵本の部屋)
リンジー マティック
評論社
2016-08-27

 

今年コールデコット賞を受賞した作品です。A・A・ミルンの書いた『くまのプーさん』(石井桃子/訳 岩波書店)を知らない人はいないと思いますが、そのプーさんにモデルになったクマがいたのです。カナダ人獣医師が1914年夏に第一次世界大戦の従軍医師としてイギリスに渡った時に連れて行った子グマが、ロンドン動物園に預けられました。そのクマは獣医師の出身地ウィニペグにちなんでウィニーと名付けられます。そして戦争の終わった1925年、ミルンの息子クリストファー・ロビンは動物園でウィニーに会います。そこで、クリストファー・ロビンは自分のクマのぬいぐるみに「ウィニー・ザ・プー」と名付けるのでした。そんな事実をもとに、獣医師の孫にあたるリンジー・マティックがこの絵本の文章を書きました。巻末には写真資料もあり、サブタイトルに「世界でいちばんゆうめいなクマのほんとうにあったお話」とあるように、ノンフィクションであることがわかります。

 

『お月さまのこよみ絵本-旧暦で行事をたのしむ-』千葉望/文 阿部伸二/絵 理論社 2016/8

お月さまのこよみ絵本
千葉 望
理論社
2016-08-20
 
 日本古来の年中行事、例えばお正月やお月見、お盆などは、旧暦(太陰暦)で行われてきました。新年は必ず新月で月がないところから一年が始まります。お盆は旧暦の7月15日に行われ必ず満月になります。晴れた夜に提灯がいらないほどの明るさに照らされて夜通し踊ったことでしょう。太陽暦の中に無理やり年中行事を当てはめるために中秋の名月が毎年変わったりしていることなどもわかります。この絵本を通して、月の満ち欠けと昔の人が営んできた暮らしに思いを馳せて欲しいと思います。併せて『月の満ちかけ絵本』(大枝四郎/文 佐藤みき/絵 あすなろ書房 2012)や、『夜空をみあげよう』(松村由利子/文 ジョン・シェリー/絵 福音館書店)も紹介するとよいでしょう。 

 

 『おばあちゃんのあかいマント』ローレン・カスティーヨ/作 たがきょうこ/訳 ほるぷ出版 2016/8/25

おばあちゃんのあかいマント (海外秀作絵本)
ローレン・カスティーヨ
ほるぷ出版
2016-08-27

おばあちゃんは都会に引っ越していきました。まごのぼくが初めておばあちゃんのところへ泊まりに行きます。都会の雑踏にひるんでいるぼくにおばあちゃんはあかいマントを編んでくれます。マントを羽織ると、なんだか勇気が湧いてきて、おばあちゃんの大好きな都会の生活をあちこち覗いてまわることができました。おばあちゃんにとって、たくさんの刺激がある都会の暮らしが向いているんだなあと、その思いを共有して成長していく姿を、秋らしい色彩とともに描いた絵本です。コルデコット賞オナーブックに選ばれている絵本です。 

  

 『ひまなこなべ アイヌのむかしばなし』萱野茂/文 どいかや/絵 あすなろ書房 2016/8/30

ひまなこなべ アイヌのむかしばなし
萱野 茂
あすなろ書房
2016-08-31

 アイヌのむかしばなしが絵本になりました。アイヌに伝わるイオマンテ(熊送り)の儀式が題材になっています。カムイ(神)は、熊の姿になって人々のもとにやってきて、肉や毛皮をもたらします。それに感謝を捧げるために人々は歌って、踊り、ユカラとよばれる物語を語ります。アイヌの人々にとって自分たちの生活を豊かにしてくれる動物たち、とりわけ熊は信仰の対象であったのです。またこのおはなしには、普段家の人に丁寧に使ってもらっている小さなおなべが、神様となって出てきます。身の回りのものすべてに神が宿ると信じて大切に扱ったアイヌの人々の暮らしが昔話になっています。

 

『りゅうおうさまのたからもの』イチンノロブ・ガンバートル/文 バーサンスレン・ボロルマー/絵 津田紀子/訳 福音館書店 2016/9/15

りゅうおうさまのたからもの (世界傑作絵本シリーズ)
イチンノロブ・ガンバートル
福音館書店
2016-09-14

鳥に捕まえられたちいさな川魚を助けてあげた男の子が、そのお礼に竜王のもとに連れて行かれるところからはじまるモンゴルの昔話です。草原地帯であるモンゴルにこれほど豊かな水に関する昔話があると知って驚きました。それだけ草原での放牧に水の存在が大切だということでしょう。ガンバートル氏とボロルマーさんはご夫妻で、ともにモンゴル文化芸術大学美術学部卒。ウランバートル大学大学院修士課程修了の翻訳者津田さんとは、昨年出版された『トヤのひっこし』(福音館書店)という作品でも仕事をしています。

 

『まどべにならんだ五つのおもちゃ』ケビン・ヘンクス/作・絵 松井るり子/訳 徳間書店 2016/9/30

まどべに ならんだ 五つの おもちゃ (児童書)
ケビン ヘンクス
徳間書店
2016-09-10

 まどべに飾られた小さなお人形たちがなんとも愛らしい絵本です。なにか特別なことが起きるわけでもなく、淡々とまどべの人形たちは窓の外で起きることをじーっとみつめています。このまどべに最後に仲間入りしたのは、ねこの形のマトリョーシカ人形。さてこの人形はなにをまっているのでしょう。こちらもコールデコット賞オナーブックに選ばれた作品です。

 

『あくたれラルフのハロウィン』ジャック・ガントス/作 ニコール・ルベール/絵 こみやゆう/訳 PHP研究所 2016/9/30

あくたれラルフのハロウィン
ジャック・ガントス
PHP研究所
2016-09-17

あくたれラルフ』(石井桃子/訳 童話館出版 1994)の続編として、こみやゆう氏が翻訳した『あくたれラルフのたんじょうび』(2010)、『あくたれラルフのクリスマス』(2013)(いずれもPHP研究所)の続編として、この秋のハロウィンに向けて出版された1冊です。お友達からハロウィンのパーティーに招待されたセイラは「あなたがいちばんすきなものにへんそうしてきてね」という呼びかけにラルフになって出かけます。ラルフはその逆にセイラに変装します。さて、パーティではセイラになったラルフがいつもの通りにいたずら三昧。セイラはどうなってしまうのでしょう。ちょっぴりハラハラドキドキする絵本です。

 

『七五三だよ 一・ニ・三』長野ヒデ子/作・絵 佼成出版社 2016/10/30

七五三だよ 一・二・三
長野ヒデ子
佼成出版社
2016-10-10
 
長野ヒデ子さんによる七五三の絵本が出来ました。どうして女の子の三才と七才、男の子五才でお祝いをするのか、そのいわれを子どもにもわかりやすく伝えてくれます。この絵本では姉弟妹がちょうど七五三の年齢で、祖父母もいっしょにお参りをしてお祝いをします。子どもの成長を願う七五三の行事がこれからも長く続いて欲しいと思いました。
 
その他
 
『大人に贈る子どもの文学』猪熊葉子/作 岩波書店 2016/8/31
大人に贈る子どもの文学
猪熊 葉子
岩波書店
2016-08-31
 
今年88歳を迎えられたイギリス児童文学者であり、翻訳家でもある猪熊葉子さんが、どうしても書き残しておきたいと書かれた本が出版されました。猪熊さんの子ども時代は裕福な家庭であったにもかかわらず、母親との確執があって決して幸せではなかったとのことですが、そのような子ども時代に出会った本が猪熊さんを支えたと「おわりに」に書かれています。本の世界で出会った主人公たちとともに困難を乗り越えることによって、自分の人生を肯定できる力になったというのです。そして「自分の人生にイエスといえる幸福」を、次の世代にも手渡してほしいと願っていらっしゃいます。子どもたちに本を手渡す私たちにとって、背筋がしゃんとなるメッセージです。

(作成K・J)

基本図書を読む31『クラバート』プロイスラー


 今回の基本図書を読むでは、小学校低学年くらいから中学年くらいの子が楽しむ『大どろぼうホッツエンプロッツ』でも有名なドイツの作家オトフリート・プロイスラーが11年かけて書き上げた『クラバート』を紹介します。この作品は、国際アンデルセン賞・作家賞・次席、ドイツ児童文学賞、ヨーロッバ児童文学賞を受賞しています。

『クラバート』 プロイスラー作 中村浩三訳 偕成社 1980

クラバート
オトフリート=プロイスラー
偕成社
1980-05

 

 

  物語は、14歳で孤児となった主人公クラバートは、自分に呼びかける奇妙な夢に誘われ、湿地のほとりにある水車小屋で11人の粉ひき職人の仲間になるところから始まります。

 「クラバートはしばらくのあいだ、霧につつまれた森のなかを、まるで盲人のように手さぐりで歩いた。するとあき地にゆきついた。ちょうど木立の下からぬけ出ようとしたとき、雲が切れて、月があらわれ、あたりのすべてが急につめたい月光のなかに浮かびあがった。

 そのとき、クラバートは水車場を見た。

 それはすぐ目の前にあった。雪のなかに黒ぐろと、おどすようにうずくまっていて、さながら、獲物を待ちぶせている、巨大な、おそろしいけだもののようであった。」(P17)

 実は水車小屋の親方は魔法使いで、金曜日の夜になると、職人たちをカラスに変え、魔法を教えていたのです、魔法を使えば、苦しい労働も楽にでき、他人をも支配することができると思ったクラバートは懸命に魔法を勉強します。しかし、クラバートが水車小屋に来て1年目の大みそか、クラバートを何かと気遣ってくれた職人頭のトンダの死をきっかけに、親方の変わりに毎年職人の中から一人、犠牲にならなければならないことを知るのです。最初の1年がふつうの3年に相当する水車小屋で、クラバートは少しずつ秘密を知りながら、心も体も成長していきます。そして、村の少女に恋をし、娘の愛を得、親方から自由になるために、生死をかけた対決をするのです。

 この物語は、ドイツのラウジッツ地方に伝わる<クラバート伝説>を素材に描かれたもので、プロイスラーは、少年のときに読んだクラバート伝説から受けた感銘の深さについて、次のように述べています。

「この物語は当時わたしに強烈な印象をあたえました。なかでも、神秘的なひびきをもつクラバートという名前がわたしの記憶に強くきざみこまれました。それにまた、水車場の職人たちの頭上に死の運命がただよい、年ねんかれらのひとりにおそいかかるという話に、わたしはひどくうごかされ、心をうばわれました。ですから、その後二十年にたって、クラバートに再会したような気持ちになったのも、けっしてふしぎではありません」(「解説」より P379)

 ラウジッツ地方は、ドイツ人(ゲルマン民族)のほかにヴェント人という少数のスラブ系の人々も住んでいる地域で、キリスト教もはいってきましたが、在来の異教の信仰の風習を濃くとどめ、魔女や魔法使いの伝説も豊富に残っているそうです。作品の中で描かれる、湿地のほとりにある不気味な水車小屋の様子、粉ひき職人や村人たちの生活などは、土地に根ざした現実感があります。

 作品の構成は、「1年目」「2年目」「3年目」の3章から成っており、年を重ねるごとに親方との対決が近づき、迫力が増していきます。1年目のクラバートはまだ何も知らない少年で、魅惑的な魔法の力に魅かれますが、次第にその力の代償の大きさを知り、自分の全てをかけて打ち勝とうとします。親方にさとされないように力になってくれる仲間、恋した少女との心のつながり、そして何としてでも抗うのだという自分の強い意志をもってして対決に臨んだとき、クラバートを解放してくれたものは何だったのでしょうか。クラバートを支えてくれた友人ユーローは、対決前のクラバートにこう伝えます。

「苦労して習得しなければならない種類の魔法がある。それが『魔法典』に書いてある魔法だ、記号につぐ記号、呪文につぐ呪文で習得してゆく。それからもうひとつ、心の奥底からはぐくまれる魔法がある。愛する人にたいする心配からうまれる魔法だ。なかなか理解しがたいことだってことはおれにもわかる。――でも、おまえはそれを信頼すべきだよ、クラバート。」(P355)

 この物語は、これから世に出て様々な矛盾と向き合いながらも、希望をもって前に進んでいこうとする若い人たちに、生きていくうえで大切なものは何かを教えてくれます。分厚い本ではありますが、文体は簡潔で読みやすく、振り仮名も丁寧に振られていますので、読みやすいと思います。

 尚、プロイスラー氏が1984年に日本講演のなかで語ったものを再話した「クラバート伝説」が、季刊誌<「子どもと昔話」33号 2007年秋 小澤昔ばなし研究所編集・発行>に掲載されています。プロイスラーの作品との大きな違いは、クラバートを解放するのは恋人ではなく母という点ですが、水車小屋で働くこと、実は親方は魔法使いであること、馬や牛に化けて取引することなど、モチーフが生かされていることがわかります。

(作成 T.I)

基本図書を読む30『エイブ・リンカーン』 吉野源三郎


 2016年11月8日にアメリカ大統領選挙が行われますが、今回の「基本図書を読む」では、「人民の、人民による、人民のための政治を、断じてこの地上から死滅させない」というゲティスバーグ演説で有名な第16代アメリカ合衆国大統領エイブラハム・リンカーンの伝記を紹介します。

 

 

 リンカーンの伝記は多数出版されていますが、この作品は、子どもたちが読み物として読めるよう、事実に基づいて物語風に書かれています。肩書や成し遂げたことだけでなく、リンカーンが何を見て、何を感じたのか、内面まで掘りさげて描かれているので、信念をもち自分の成すべきことにしっかり向き合った一人の人間を感じることができます。

「都会育ちの人びとから見ると、彼は感じのにぶい男に見えましたし、たしかに彼の心は、ものごとに応じて軽快に、しなやかに動いてゆくほうではありませんでした。しかし、彼はものごとをどっしりと深く経験してゆく男でした。心の表面ではなく、魂のしんで経験してゆく男でした。このしんまでひびいてくるほどの経験はめったにありませんが、その代わり、このしんまでしみ通った以上は、一生心から消しとることができない思いとなって残ります。」(P124)

 リンカーンは、貧しい家庭に生まれながら、自分の力で身を立て、州議会の議員からやがてアメリカ大統領となります。当時アメリカでは、奴隷制をめぐる争いが激しさを増していました。リンカーンは、ニューオリンズの奴隷市場で混血の少女が裸にされて売られていく場面に衝撃を受け、その出来事を生涯忘れることがなかったそうで、奴隷制に反対し続けました。ただしすぐに廃止するという姿勢をとっていたわけではなく、アメリカが分裂することがないよう、少しずつ奴隷州より自由州を多くしていくことで、奴隷制をなくそうと考えを持っていたそうです。しかし奴隷制への反対を表明していたリンカーンが大統領となることで、ついにアメリカ南北戦争が起こります。リンカーンは、その南北戦争中に奴隷解放宣言を出しますが、結局戦いは4年も続くことになります。そして、北軍が勝利をおさめた11日後にリンカーンは暗殺されるのです。

 リンカーンが奴隷解放宣言を出すに至るまで、奴隷制をめぐってアメリカがどのように揺れ動いたのか、当時のアメリカの政治や人々の生活も物語の中でわかりやすく描かれています。物語になっていることで、過去の出来事を読んでいるというよりは、リンカーンの生きた時代の空気を感じながらその場にいるように読むことができます。リンカーンの一生をみていると、苦難が多く、華々しく幸福な人生を歩んだとは言い難いかもしれまん。冗談を言って人を笑わせるのが好きで、明るく朗らかな人柄だったそうですが、一人でいるときは深い悲しみの表情を浮かべ沈みこんでいることもあったようです。この本を読み終えると、長年の苦労に耐え、深いしわの刻まれた、それでもしっかり立っている老木のような独りの人間が心に残ります。(リンカーンの身長は193センチもあったそうです。)

 著者の吉野源三郎は、哲学者でもあり、編集者でもありました。戦前、新潮社の「日本少国民文庫」の編集に携わり、『エイブ・リンカーン』の原型となった数章もこの文庫に収められています。このエイブ・リンカーンの伝記から、子どもたちに「人としてどのように生きるか」という問いに真摯に向き合ってほしいという著者の強い思いが伝わってきます。子どもたちは、この本を通して、エイブ・リンカーンその人と、一人の人間を描き出した著者、信念をもった二人の大人に出会うことができるのではないでしょうか。

 また、リンカーンの有名な子ども向けの伝記に、ニューベリー賞など数々の賞を受賞した『リンカン―アメリカを変えた大統領』があります。

 『リンカン―アメリカを変えた大統領』(ラッセル・フリードマン著 金原瑞人訳 偕成社 1993)

リンカン―アメリカを変えた大統領
ラッセル・フリードマン
偕成社
1993-07

 

 

  著者のラッセル・フリードマンはジャーナリストで、この本では数多くの写真や資料をもとに、リンカーンの一生を客観的に描いています。少し通った小学校で学んだときのノート、「私は奴隷になりたくありません」と書いた自筆の文、またたくさんの顔写真から、リンカーンの人柄を感じることができます。南北戦争の戦場の写真(戦場で倒れた兵士たちの写真もあります)や大統領就任演説の写真(当時流行していたシルクハットをかぶっている観衆がたくさんいます)などから当時の様子が伝わってきます。 吉野源三郎の物語風の伝記とは異なった手法ですが、その人の生きた時代がどのようなもので、その中でどのように生きたのか、欠点や失敗を含め一人の人間の生き様がに描かれていることは共通しています。

 リリアン・スミスは『児童文学論』(岩波書店 1964)の「知識の本」の章の中で、次のように記しています。

「歴史や伝記にでてくる人物の生涯は、想像力を豊かにし、希望や競争心を高めてくれるものにみちている。この種類の本を読むことは、子どの人生経験を広める。つまり、人間の生活という大きなドラマにたいする共鳴と理解を、子どもの内によびおこすのである。」(P345)

 小学校高学年になると社会に目を向けるようになり、その中で自分はどう生きていくのか?と考えるようになってきます。そのような子どもたちの力になる、しっかりと時代をとらえ、その人物を描き出した伝記を手渡していきたいものです。

(作成 T.I)

2016年8月、9月の新刊から


 8月、9月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの本いくつかを紹介します。一部、これまでに見落としていた7月以前の作品も含まれています。

また、ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。すべての新刊本を購入して読むことはできませんが、教文館ナルニア国の新刊本コーナーなどにある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。 (なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

 

絵本 

『ジャック船長とちびっこかいぞく』ピーター・ベントリー/文 ヘレン・オクセンバリー/絵 やましたはるお/訳 BL出版 2016/6/20

ジャック船長とちびっこかいぞく
ピーター ベントリー
BL出版
2016-06

 6月に出版された絵本です。ジャックは、ちいさな弟や友達と砂浜で砂の船を作ります。「われら、ジャックとザックとカスパー3人ぐみ。おそれをしらない海の勇者だ」と、たちまち砂の船はかいぞく船に。男の子ならではの勇ましい海の冒険が始まります。彼らがみつけた宝物とは・・・。この絵本をみつけたのは、9月になってから。夏休み前に紹介したかった1冊です。 

 

 『おおきくなったら』チェコのわらべうた 内田莉莎子/訳 ヨセフ・ラダ/絵 福音館書店   2016/8/25

 内田莉莎子の翻訳で、ヨセフ・ラダの絵といえば『きつねものがたり』(ヨセフ・ラダ/作 福音館書店 1966)を思い出します。チェコのわらべうたをいくつか再話され、収録されています。ひとつひとつがリズミカルで、声に出して読むと味わい深いものがあります。チェコでは1954年に出版されましたが、日本では1979年に月刊「こどものとも年少版」で出版され1982年にハードカバーになっていました。この8月に久しぶりに増刷されました。

 

『ぐやんよやん』長谷川摂子/文 ながさわまさこ/絵 福音館書店  2016/8/25

ぐやん よやん (幼児絵本シリーズ)
長谷川 摂子
福音館書店
2016-08-24

2011年に亡くなられた長谷川摂子さんの月刊「こどものとも年少版」1999年6月号の作品です。こちらはこの度、はじめてハードカバーになりました。ながさわさんの音を表現した絵が不思議な世界を創り出しています。月刊誌の折込付録には長谷川摂子さんが「この絵本は読むというより、リズムと抑揚を自在につけて、思い切って声を出し、歌って楽しんでほしいのです(中略)子どもといっしょに身体を右に左に揺すぶって、心ゆくまでうねり、のたうつ感覚を味わってください」と書かれていたあったそうです。そんな風に親子で楽しんでほしい絵本です。

 

 『おいしいかぞえうた』岸田衿子/文 古矢一穂/絵 福音館書店 2016/8/25

 「こどものとも年少版」2009年12月号のハードカバー版です。子どもたちが大好きな食べ物や飲み物が10登場します。お菓子だけでなく、「くじゃがも にこにこ たべる」、「くさいや はっぱもたべる」といろいろなものが出てきます。それに合わせて『きいちごだより』(岸田衿子/文 福音館書店)などで植物を繊細に描く古矢さんの、それとは違った味わい深い絵も楽しめます。

 

 ドライバーマイルズ』ジョン・バーミンガム/作 谷川俊太郎/絵 BL出版 2016/8/25

ジョン バーニンガム
BL出版
2016-08

ジョン・バーニンガムの作品を谷川俊太郎さんが翻訳した新しい絵本です。マイルズというのは、アリスとノーマン親子が飼っている犬です。この犬がとても厄介者なのです。散歩は嫌い、ドッグフードも嫌い、雨も嫌い・・・好きなのはドライブに連れて行ってもらうこと。ある日、隣の家のハディがマイルズ用の車を作り、マイルズも運転を覚えます。犬が運転するの?と、びっくりな展開ですが、バーミンガムの絵と谷川さんの文章がマッチしていて、すんなり物語の中に入っていくことができました。

 

『はこぶ』佐々木幹郎/文 いわむらかずお/絵 復刊ドットコム 2016/8/8 

はこぶ (五感のえほん10)
佐々木 幹郎
復刊ドットコム
2016-08-18

1983年に、谷川俊太郎と小松左京が監修し、訪問販売のみで発売されたブリタニカ絵本館ピコモス( 日本ブリタニカ社刊 全25巻)のうち、生活に根付く五感を扱う絵本をセレクトし、復刊されたシリーズ“五感のえほん”全10巻の最後の1冊です。「はこぶ」というと、物流だけに目がいきますが、風が運ぶもの、水が運ぶもの、そして血液によって運ばれるウィルスも、目には見えない心を相手に届けることばも「はこぶ」ものなんだと気づかせてくれる絵本です。『14ひきシリーズ』などを出版する前のいわむらかずおさんのごく初期の作品でもあり、絵にも注目です。 

 

 『きょうはそらにまるいつき』荒井良二/作 偕成社 2016/9 

きょうはそらにまるいつき
荒井 良二
偕成社
2016-09-09

 太陽の光に比べて、柔らかく優しい光を放つ月。それぞれの場所で懸命に生きるひとりひとりの上に注がれる優しい光は、古の時代から人々を慰めてきたことでしょう。この絵本を手に取る人は、まさにその柔らかい光に包まれて、硬くなった心もほどけていくことでしょう。「みんながそらをみています きょうはそらにまるいつき ごほうびのようなおつきさま」。『あさになったのでまどをあけますよ』に続く、懸命に生きる人へ贈られるエールです。

 

 『絵巻じたて ひろがるえほん かわ』加古里子/作 福音館書店 2016/9/10

 1966年に発行されたこどものとも絵本『かわ』は、川の源流から始まって、田畑を潤し、工場を動かし、ものを運び、その周辺の人々の生活をささえて海へ注ぎ込むところまでを丁寧に描いた秀作でした。教育現場などで、この絵本を複数冊購入した上で、解体して絵巻にして子どもたちに見せているという声を聞いた編集部が、絵巻絵本の形で出そうと苦心をし、この度出版したものです。広げると全長7メートル。私たちの生活を潤してくれる川の存在を再発見できるのではないでしょうか。片面は川の水色以外はモノトーンで、こちらにテキストが入っています。片面はカラーで文字がありません。絵巻になったので最終ページの水平線は地球が丸いということがよくわかります。図書館では箱ごと装備するのか、貸出には検討が必要かもしれませんが、学校図書館などでは授業にも使えるのではないでしょうか。 

 

『ぐるりヨーロッパ街歩き たびネコさん』ケイト・バンクス/作 ローレン・カスティーヨ/絵 住吉千夏子/訳 きじとら出版 2016/9/30 

たびネコさん ~ぐるりヨーロッパ街歩き~
ケイト・バンクス
きじとら出版
2016-09-05
 
 前回に続いて、きじとら出版からの新刊を紹介します。こちらの作品は第22回国際翻訳絵本大賞(英語部門)受賞作品です。家族の旅にくっついていくネコ。ローマを出発して、マルセイユ、バルセロナ、パリ、ロンドン、アムステルダム、ミュンヘン、そしてヴェネツィアと、その都市ごとの名所を訪れます。ネコの姿を追いかけながら、ヨーロッパをぐるりと巡ることが出来る絵本です。巻末に各地の名所の解説もついています。

 

『とうだい』斉藤倫/文 小池アミイゴ/絵 福音館書店 2016/9/15

とうだい (日本傑作絵本シリーズ)
斉藤 倫
福音館書店
2016-09-14
 
福音館書店から読み物『どろぼうのどろぼん』や『せなか町から、ずっと』を発表されている詩人の斉藤倫さんの初の絵本です。小さな灯台はいつも同じ場所に立って海を照らしています。沖をいく船や、渡り鳥を見ていて、自分が動けないことを情けなく思うのですが、変わらず海を照らし続ける灯台があるからこそ、嵐の夜に船は港に戻ることができ、渡り鳥も戻ってくることができると知り、自分の役割に誇りを持つのです。淡々と綴られていることばに、温かいまなざしを感じます。
 
 
『ぱーおーぽのうた』きくちちき/作 佼成出版社 2016/9/30
 
ぱーおーぽのうた
きくちちき
佼成出版社
2016-09-20
 
ブラティスラヴァ世界絵本原画展・金のりんご賞受賞作家きくちちきさんの最新作です。この絵本の原画展が、杉並区高円寺にあるギャラリーえほんやるすばんするかいしゃで開催されていると聞き、行ってきました。この絵本は制作も、ブックデザインもきくちさんご本人とのこと。原画は黒一色の線画。それをPCに取り込んでデジタルで彩色したとのことでした。小さなぞうがのっちのっち歩き始めると、大きなぞうも、ほかの動物たちもいっしょに歩き出します。オノマトペで表現されたことばもリズミカル。絵にも躍動感があふれ、読んでいるうちに元気になってくる、そんな絵本です。(原画展の会期は10月4日まで)
 
 
児童書
 

 『やぎと少年』I・B・シンガー/作 モーリス・センダック/絵 工藤幸雄/訳 岩波書店 2016/8/4(第9刷)

やぎと少年 (岩波の愛蔵版)
I.B.シンガー
岩波書店
1979-11-26
 
ノーベル文学賞作家によるユダヤのお話集です。7篇のお話は、人間の持つ業を軽やかに笑い飛ばすような視点で書かれており、面白いものばかりです。1979年に日本で出版された本です。しばらく手に入らなかった作品がこの度、増刷されました。モーリス・センダックの繊細な絵も魅力的です。所蔵していない館はぜひこの機会に購入するとよいでしょう。

 

『ちいさな曲芸師バーナビー』バーバラ・クーニー/再話・絵 末盛千枝子/訳 現代企画室 2016/8/20

ちいさな曲芸師 バーナビー フランスに伝わるお話 (末盛千枝子ブックス)
バーバラ・クーニー
現代企画室
2016-08-06
 
 こちらは2006年にすえもりブックスから出版されていたものの復刊です。この絵本の題材になった「聖母子マリアの曲芸師」は、フランスで何百年もの間語り継がれ、オペラの題材や歌になっている伝説なのだそうです。コルデコット賞作家のバーバラ・クーニーは、パリへ取材に出かけ、700年以上前から保存されている写本を手にし、フランス中を旅をしてこの絵本のためにスケッチをしたそうです。絵本の形をとっていますが、47ページあり、児童書と分類しました。自分で読める子どもたちももちろんですが、幼い子どもたちにも読んで聞かせてあげたいおはなしです。

 

ノンフィクション

『こどものとうひょう おとなのせんきょ』かこさとし 復刊ドットコム  2016/8/22

 1983年に出版された「かこさとし◆しゃかいの本」が、この度復刊されました。民主主義=多数決と思い込みがちな私たちですが、かこさんは、「この本は、少数でもすぐれた考えや案を、狭い利害や自己中心になりやすい多数派が学び、反省する、最も大切な「民主主義の真髄」をとりもどしたいという願いでかいたものです。」と、あとがきに記しています。少数者の意見が踏みにじられていく今の社会を見ていると、余計にかこさんのことばが心に響きます。子どもたちにわかりやすい例とことばで説く優れた社会教育の1冊です。

(作成K・J)

訃報 ブライアン・ワイルドスミス


イギリス人の絵本作家でフランス在住のブライアン・ワイルドスミス(1930年生まれ)が8月31日に亡くなったというニュースが入ってきました。(→こちら

ブライアン・ワイルドスミスは、1950年代オックスフォード大学出版局と専属契約を結びラ・フォンテーヌの寓話に絵をつけるなど作品を発表、1962年には『ワイルドスミスのABC』でケイト・グリナウェイ賞を受賞しています。

『ワイルドスミスのABC』ブライアン・ワイルドスミス/作 らくだ出版

ワイルドスミスのABC (ブライアン・ワイルドスミス作品選)
ブライアン・ワイルドスミス
らくだ出版
1962-01
 
 
 
 
日本では、俳優の石坂浩二さんがワイルドスミスの翻訳に多く携わり、伊豆高原にあるワイルドスミス絵本美術館(現在、休館中)は石坂浩二さんが館長を勤めています。
クリスマスシーズンに、よく読まれる『クリスマスの12にち』(石坂浩二/訳 講談社 1997)は、イギリスで古くから歌われているクリスマスキャロルに「色彩の魔術師」と呼ばれたワイルドスミスが描いた絵の色彩の美しさに心惹かれます。

『クリスマスの12日』ブライアン・ワイルドスミス/作 石坂浩二/訳 講談社 1997
クリスマスの12にち (世界の絵本(新))
ブライアン・ワイルドスミス
講談社
1997-10-29

 
1971年に家族でフランスに移住したワイルドスミスは、4人の子ども、3人の孫、そしてひとりのひ孫に恵まれました。昨年、妻のオーレリーを天国に見送ったとのこと。今頃、天国で再会しているでしょうか。
 
ラ・フォンテーヌの寓話に絵をつけた『きたかぜとたいよう』や『うさぎとかめ』、『ライオンとネズミ』(いずれも渡辺茂男/訳 らくだ出版)など素晴らしい作品の多くが現在品切れになっているのは、とても残念です。図書館にはあると思いますので、ぜひ展示してこの機会に手に取ってもらえるとよいでしょう。
 
参考:ブライアン・ワイルドスミス インタビュー記事(amu 2011年5月)
 
『きたかぜとたいよう』ラ・フォンテーヌ/作 ブライアン・ワイルドスミス/絵 らくだ出版 1962
きたかぜとたいよう
ラ・フォンテーヌ
らくだ出版
1962-01-01
 
 
 
 
『うさぎとかめ』ラ・フォンテーヌ/作 ブライアン・ワイルドスミス/絵 らくだ出版 1969
 
 
 
 
『ライオンとネズミ』ラ・フォンテーヌ/作 ブライアン・ワイルドスミス/絵 らくだ出版 1982
ライオンとネズミ
ラ・フォンテーヌ
らくだ出版
1982-01
 
 
 
(作成K・J)
 

基本図書を読む29『時の旅人』アリソン・アトリー


 イギリスの児童文学者アリソン・アトリーは「グレイ・ラビット」シリーズ、「チム・ラビット」シリーズや「サム・ピッグ」シリーズなど動物が主人公の動物ファンタジーの妙手です。これらの作品は、自分で物語が読めるようになった子どもたちの気持ちに寄り添うもの作品で、今も幼年文学として読み継がれています。(児童部会「基本図書から学ぶ第2回」報告を参照)

 今回はそんなアトリーの作品の中でも、タイム・ファンタジーと呼ばれ、ヤングアダルト向けとされる『時の旅人』(イギリスでは1939年刊)を取り上げてみたいと思います。 

時の旅人 (評論社の児童図書館・文学の部屋)
アリスン・アトリー
評論社
1980-12-20
 
 
 
 
 
時の旅人 (岩波少年文庫)
アリソン アトリー
岩波書店
2000-11-17
 
 
 

「夢か、現か、幻か」・・・読み終えて、浮かんだ言葉でした。

 少女ペネロピーは病気療養のために、兄姉とともにイングランド中部ダービシャー地方にある大叔母ティッシーとその弟バーナバスの住むサッカーズ農場を訪れます。もともと、ほかの家族には見えない亡霊をみる不思議な能力を持っていたペネロピーは、サッカーズ農場を舞台にかつてこの地で生活をしていたバビントン家の人々と350年の時を越えて交流するようになります。

 ペネロピーたちが生活をはじめたサッカーズ農場の屋敷には、350年以上も前に住んでいたバビントン一家の残したものがそこかしこにありました。到着した二日後のこと、ペネロピーは出かける前に2階へひざ掛けを取りに上がり、ドアを開けるとそこに16世紀の衣装を身にまとった貴婦人たちを見ます。そしてティッシーおばさんから、バビントン家の人々と歴史に刻まれているバビントン事件のことを聞かされます。

 その数日後、ペネロピーはまた着替えを取りに2階にかけあがり、ドアを開けた途端に階段をころげ落ちます。気がつくとそこは16世紀のバビントン屋敷の中でした。そこでティッシーおばさんにそっくりのシスリーおばさんに出会います。350年の時間を遡っているにもかかわらず、彼女の姪「ペネロピー・タバナー」として受け入れられ、そこでしばらくの時間を過ごすのです。ところが、門の木戸を抜けると元の時間に戻ってきていたのでした。

 “「すぐもどってきた!」と私はそっと同じことばをくり返しました。何時間も、いえ、何日にも思えるほど、よそに行っていたのに、大きな柱時計の針は私のいないあいだに少しも動いていませんでした。時間と空間を消滅させてしまって、一瞬のうちに何年間も、世界の果てまでも、旅のできる夢のように、私は別の時代に入りこんで、そこで暮らして、柱時計の振り子が半球レンズのうしろで一振りする前に、もとのところへもどってきていました。私はべつの時代のよろこびと不安を味わいました。べつの時代の暮らしの中をしずかに動き、庭を歩き、話をし、あちこちして、そしてまたたくうちに、もどってきたのでした。夢を見たのでもなく、眠っていたのでもなく、私のしたこの旅は、澄みきった空中を通りぬけ、時間を逆もどりした旅でした。たぶん、私はあの時間のかけら― 一瞬間 ―死んで、私の亡霊が年月を飛び越えていったのでしょう。” (岩波少年文庫版『時の旅人』松野正子/訳 p125~126)

 ペネロピーはその後も、時間を飛び越えて過去のバビントン家と関わりを持ち、また元の世界へ戻ってくることを繰り返します。まさにその時代は、イギリスはエリザベス1世統治の世であり、スコットランド女王メアリー・スチュアートとの覇権争いの中、ペネロピーが出会ったバビントン家の跡取りアンソニーは、物語の後半でバビントン事件(エリザベス1世に幽閉されているメアリー女王の脱出を企てるも失敗に終わり、1586年にエリザベス1世暗殺を計画したとして処刑された事件)に関わっていきます。

 その悲劇の結末を知りつつ、過去の時代の人々と関わり、アンソニーの弟フランシスと惹かれあうペネロピー。読み進めるうちに、読者はこの特異な二人の出会いと決して結ばれることがないにもかかわらず確実に心を交わしあう関係に引き込まれていきます。 

 イギリスの児童文学でタイムファンタジーの双璧と呼ばれるフィリパ・ピアスの『トムは真夜中の庭で』(1958)(基本図書を読む㉒参照)では、時計が13時を打つことが過去の時間への入口として明確に描かれていますが、『時の旅人』では過去への明確な入口はありません。読み進んでいるうちにいつの間にかペネロピーが過去の時間に移動し、また現代に戻ってきており、周囲の登場人物からペネロピーが今どの時代にいるのかを類推することになります。

 このことについて、佐久間良子氏は、『現代英米児童文学評伝叢書6 アリソン・アトリー』(KTC中央出版 2007)の中で「このタイム・ファンタジーを成り立たせているのは、いくつもの時間が重なり合って共に存在し、古い家にかつて住んでいた人たちが、そのまま影となってそこに生き続けるという、アトリーの時間についての考えである。そしてアトリーが実際に見た夢を記録し、それについて解説している『夢の材料』では、この時間の概念が、夢と結びつけて語られている。主人公ペネロピ(原文ママ)の時間を越えた旅には、アトリーの語る夢の特質が顕著に表れていて、すべてを夢と考えることができる。しかし、アトリーにとって夢はもうひとつの現実であり、この作品における主人公の時間旅行をすべて夢と解釈しても、主人公の体験の真実性が失われることはない。」とし、アトリーの描き出す世界観の巧さを指摘しています。


 

 それは、この作品のまえがきにアトリー自身が記しているように、舞台となったサッカーズ農場が、アトリーが子ども時代を過ごしたキャッスル・トップ農場の記憶と重なっていたこと、その農場の近くにバビントン家の治めていた土地や館があり、その土地で語り継がれるバビントン家の物語をアトリー自身が聞いて育ったことと関係があるようです。だからこそ物語にリアリティが感じられ、読者はその世界へと惹きつけられていくのだと思います。

 この物語の魅力をまとめてみると第一に、農場を取り巻く季節や花や草などの自然や、古い屋敷の調度品などの細部が丁寧に描き込まれていることです。第3章の「ハーブガーデン」(岩波少年文庫版、評論社版では「薬草園」と訳されている)などは、花の香りまで漂ってきそうです。

 第二に、中世のイギリス史をベースに物語が描かれていることです。ペネロピーが迷い込んだ過去は、イギリス宗教改革を断行したヘンリー8世のあとのエリザベス1世と、スコットランド女王メアリー・スチュアートとの覇権争いの時代でした。二人はヘンリー8世をめぐる血縁関係にあるが故に複雑な王位継承権がからみイギリス国教会を支持するエリザベス1世と、カトリック信者であるメアリー女王は対立します。メアリー女王は長く幽閉された後、エリザベス女王の手によって処刑されるという悲劇的な結末は、イギリス中世史への興味を引き起こします。16世紀後半といえば、日本では安土桃山時代。メアリー女王側についたバビントン家はさながら豊臣側についた真田家だろうかなどと、想像しながら読み進むことができました。

 第三に、この物語の重要なキーワードとなっている「Greensleeves」という歌の存在です。16世紀頃から歌い継がれているこの歌は、恋しい人を想う歌であり、シェイクスピアが喜劇「ウィンザーの陽気な女房たち」の中で触れたり、現代ではオリビア・ニュートン・ジョンなどがカバーして歌っており、また曲はクリスマスキャロル(賛美歌216番)となっているので、耳にしたことのある人は多いでしょう。この歌が過去と現代を結ぶ鍵になっています。ペネロピーがある日、礼拝用の緑のドレスを着たまま過去へ行くと、フランシスがロンドンで今流行っている歌だと言って、聞かせてくれるのでした。この歌は過去の時代でも現代でも物語の中で何度か歌われますが、一番切なく心を打つのは物語の最終盤、ペネロピーが雪の中に佇みながら、ほんの一瞬姿を見せた過去の世界でフランシスが歌う声を聞くシーンでした。ペネロピーはフランシスの歌声をたしかに聞きながらも、生きて過去へ行きフランシスに会うのはこれが最後だと悟るのです。 

 「グリーンスリーブスよ、いざ、さらば!
 神の恵、君が上にあらんことを。
 われ、今も君を愛す。
 ふたたび来りてわれを愛せ。」(岩波少年文庫版 p437)

 

 第四に、旧約聖書・創世記37~50章に描かれた「ヨセフの夢」を、アンソニーの妻、バビントン家の奥方が刺繍していたというエピソードです。「ヨセフの夢」とは、イスラエル民族の始祖アブラハムのひ孫にあたるヨセフが、少年時代に見た夢です。異母兄弟たちが年少の自分にひれ伏すという夢を麦の穂にたとえて話し、嫉妬にかられた兄たちに奴隷として売り飛ばされエジプトへ行くのですが、そこで能力が買われ宰相にまで上り詰めます。後にイスラエルの地に飢饉が起き、兄たちが売り飛ばした弟ヨセフと知らずに援助を請いに来た時に、ヨセフがその兄たちを許し、受け入れるという物語です。血縁関係にある王家の人々の権力争いに夫が巻き込まれようとしている時にバビントン夫人が「ヨセフの夢」を刺繍し、そしてその刺繍したタペストリーの端切が350年以上時を隔てて、客用の寝室でキルトの一部分になってみつかるという手の込んだアトリーの表現に、深い思いを感じ取りました。

  『時の旅人』については、先に取り上げた『現代英米児童文学評伝叢書6 アリソン・アトリー』(谷本生剛/原昌/三宅興子/吉田新一/編  佐久間良子/著  KTC中央出版 2007)や、『作品を読んで考えるイギリス児童文学講座4 花ひらくファンタジー』(中野節子/水井雅子/吉井紀子/著 JULA出版局 2012)に詳しく論じられています。 


 

 また、アリソン・アトリーの伝記『物語の紡ぎ手 アリソン・アトリー』(デニス・ジャッド/著 中野節子/訳 JULA出版局 2006)には、サッカーズ農場の舞台になったダービシャーの美しい風景や建物を収めた写真や、故郷の地図など豊富な資料があり、『時の旅人』の世界を垣間見ることが出来ます。

物語の紡ぎ手 アリソン・アトリーの生涯
デニス ジャッド
JULA出版局
2006-04

 

 なお、私は若い頃に評論社版(小野章/訳 1980)で読みましたが、今回は岩波少年文庫版(松野正子/訳 1998)と両方を読み比べてみました。個人的には慣れ親しんだ評論社版の本が好きなのですが、今の子どもたちには、現代使われている言葉(例えばハッカ草→レモンバーム、水ハッカ→ミント、オランダガラシ→クレソン)で翻訳され、またイギリスで1978年に出版されたパフィン版の挿絵がふんだんに使われている岩波少年文庫版が手渡しやすいでしょう。今回、久しぶりに読んで、深く掘り下げてみましたが、初めて読む子どもたちには、時を飛び越えるロマンティックな物語として、楽しめるのではないでしょうか。

(作成K・J)

東京子ども図書館から『ブックトークのきほん―21の事例つき』が出版されました


東京子ども図書館から『ブックトークの基本―21の事例つき』が出版されました。

近年ブックトークは、子どもたちに本を手渡す方法として、学校や公共図書館でさかんに行われるようになってきました。

すでに子どもたちの前で実践している方、これから取組みたいなと思っている方も多いのではないでしょうか。

この本では、「ブックトークの意義とその効果的方法」「ブックトークの歴史と実践のためのアドバイス」の2つの記事と、21の実践事例が掲載されていますので、

基本とおさえると同時に、ブックトークから広がる世界をたっぷり味わうことができます。ぜひ参考にしてみてください。

http://www.tcl.or.jp/pdf/invite/invite292.pdf (東京子ども図書館のホームページより

(作成T・I)

 

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