昨年、児童サービス初心者向けにおはなし会開催についてのノウハウをお知らせするために連載した「おはなし会のいろは」を、再掲載いたします。
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「本のこまど」では、図書館の児童サービス担当のみなさんが図書館で「おはなし会」を実施するにあたって、これまでプログラムのおすすめプランや、おすすめの絵本リストなどの情報を中心にお届けしてきました。
そこで今回は「おはなし会」の実施方法(開催するための実際の下準備や声の出し方なども含む)について連載することにしました。6回にわけて掲載していきます。どうぞお楽しみに!
(その1) 絵本の持ち方、めくり方
(その2) 絵本の読み方 声の出し方
(その3) おはなし会の会場設営 雰囲気作り
(その4) プログラムの作り方
(その5) おはなし会でのこんなハプニング、あなたならどうする?
(その6) おはなし会終了後も大事です (フォローと記録)
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おはなし会のいろはの3回目は、おはなし会の会場設営と雰囲気作りです。
1回目では絵本の持ち方、めくり方を、2回目では絵本の読み方、声の出し方と、絵本を読む時の技術についてお伝えしてきました。今回は、子どもたちを迎えるための会場設営や雰囲気作りで気をつけるとよいポイントについてお伝えします。
会場設営
1)おはなしに集中できるかどうかを確認する
子どもたちは目に入ってくる情報が多いと集中力を持続させることが難しくなります。おはなし会専用の小部屋などがない場合は、子どもたちが集中できる環境づくりを心がけましょう。児童室の小上がりや、児童室の一部を区切って行う場合は、おはなし会に参加しない利用者の動きが気になって集中を切らすことがあります。おはなし会スペースを区切るための衝立や、カーテンをつけるようにするとよいでしょう。また、書架が見えていると、子どもたちはそこにある本に気が逸れることがあります。読み手の後ろに書架がある場合などは、おはなし会の間、布をかけておくだけでも集中が違ってきます。
会場が広すぎる場合も、子どもたちの注意は散漫になり、走り回ったりします。この場合も部屋を衝立やカーテンで仕切って、人数に見合った広さにするようにしましょう。
2)危険がないかどうかを確認する
「あかちゃんおはなし会」「おひざのうえのおはなし会」などと称して、小さい子ども対象のおはなし会をする図書館が増えてきました。ハイハイをする月齢の子どもの参加もあるでしょう。床に落ちた小さなゴミを口に入れてしまったり、絨毯に絡まったホッチキスの針などで指を怪我することもあります。また、歩き始めたばかりの子どもがクッションマットと床のわずか1cmの段差に躓いて転倒する、衝立の下の空間をくぐって向こう側に抜けるとか、つかまり立ちを始めた子どもが不安定な衝立を支えにして立ち上がろうとして衝立ごと倒れるなど、おとなでは思いも及ばないような動きをすることがあります。会場設営をする時は、目線を子どもの高さにして、危険がないかどうか、予め確認しておくことが大切です。
3)ほかの利用者にも配慮する
おはなしの小部屋や、イベントに使える防音の部屋がない場合は、おはなし会での子どもたちの歓声が館内に響くなどして、騒音としてクレームが来ることがあります。子どもたちがおはなしの世界に入り込んで声をあげることは自然なことで、それを止めることはできません。したがって、おはなし会をしていることを、ほかの利用者に予め知らせるようなボードを、おはなし会会場の近くだけでなく、図書館の入口にも立てておきましょう。そうすることで、利用者の方は、「今日はおはなし会があって子どもたちが多く来ているんだな」という情報を得て、多少の声を寛大に受け止めたり、時間をずらして利用するなどの対応が取れます。
なお、おはなし会終了後に、参加者の方に「会場を出たらほかの利用者の方に配慮をお願いします」と一声かけて、おはなし会のテンションをセーブするように伝えましょう。参加する親子も、ほかの利用者もお互いに気持ちよく過ごせると良いですね。
4)大きな災害に備えて
私たちは2011年3月に未曾有の被害をもたらした東日本大震災を経験しました。おはなし会の最中に、再びそのような災害が起きないとは誰も予測できません。どのような災害が襲ってきた場合でも利用者、とりわけ小さな子どもたちの安全をどのように確保するかは、常日頃から考えておく必要があります。おはなし会の部屋で転倒してくるものはないかどうか、避難経路は確保されているかどうか、確認しておきましょう。また小上がりやクッションマットに靴を脱いで上がる場合、その靴をどのように置くかも確認しておきましょう。おはなしの小部屋などがあって靴箱がある場合はよいのですが、それがない場合、なにかあった時にすぐに靴を履いて逃げられるかどうか(地震の場合、裸足での避難は大変危険です)も考えておきましょう。
参加者が少人数の場合は、親子の靴を揃えてマットや小上がりの脇に並べておけばよいのですが、人数が多いときはパニック状態になると靴が散逸する恐れがあります。あらかじめポリ袋などを配布し、靴を手元に置いてもらうような配慮も必要です。
雰囲気作り
1)温かく迎える準備
子どもは小さければ小さいほど、はじめての場所への不安感があります。まずは出迎えるスタッフが笑顔でお母さんに接してあげてください。お母さんが穏やかでいれば、お子さんも安心することができます。それでも不安から泣いてしまうお子さんもいます。無理強いすることなく、入口の外からおはなし会の様子を伺えるようにして、大丈夫だったら途中からでも入れるようにしてあげましょう。
なお、おはなし会の常連が増えていくと、ついつい常連の方と雑談などをして初めての参加者が疎外感を味わうことがあります。初めて参加した子どもたちに「はじめて来てくれたのね。ようこそ。お友達と一緒に楽しい時間を過ごしましょうね」などと声をかけ、初参加の子どもが気後れしないように、周囲の子達と馴染むように配慮してあげましょう。
2)装飾や展示
おはなしの世界に集中できる程度に、親しみやすい装飾をするとよいでしょう。しかし、子どもに人気のキャラクターなどがあると、そちらに気持ちが引っ張られるということがあるので注意しましょう。
また、おはなし会のテーマにあったものを用意しておく、例えば秋の季節に「木の実」をテーマにおはなし会をする場合にどんぐりやまつぼっくり、栗などを用意して絵本とともに展示するのもよいでしょう。
当日、読む絵本だけでなく、季節にあった絵本や関連するテーマの本なども、会場に展示しておくと、おはなし会のあとの貸出につなぐことができます。これらの展示は、入口あたりにしておくとよいでしょう。
2)小道具を用意する
人見知りをする月齢のお子さん(*)にとって、いきなり知らない人に話しかけられると不安から泣いてしまうことがあります。そのような不安を和らげる小道具がミトンくまなどの人形です。人形が介在することで、小さな子どもがぐっとおはなしの世界に近づいて来ることがあります。上手に小道具を活用しましょう。
(*)人見知りは、生後7ヶ月頃から始まります。終わりは個人差があり1歳過ぎに収まる場合もあれば、2歳過ぎまで続くことも。ただ怖がっているわけではなく、人への興味関心があり、近づきたいという気持ちとの葛藤だということです。→科学技術振興機構(JST)「赤ちゃんの「人見知り」行動 単なる怖がりではなく「近づきたいけど怖い」心の葛藤」
ミトンくまなどのパペットのキットは「保育と人形の会」で購入することが出来ます。ボア布の周囲が縫ってあります。裏返して綿を詰め、目鼻と尻尾を縫い付けると出来上がります。→「保育と人形の会」サイト内「ミトン人形」
「じぃーじぃーばあ」や、「にぎりぱっちり」、「ちゅっちゅこっこ」など布を使って遊ぶわらべうたをおはなし会でする際には、スパークハーフという布を用意します。この布は切りっぱなしでも端がほつれることがなく、洗濯も簡単ですぐに乾くので扱いやすいです。
最後に
おはなし会は、児童サービス業務の重要な柱のひとつです。児童室に並べられている本がどんな内容で、本の中にどのような楽しい世界が広がっているかを、子どもたちに伝えていく大切な機会です。また、家庭でこそ子どもたちをお膝に乗せて本を読んでもらいたい、そのためにお母さんをはじめとする保護者の方に絵本を一緒に楽しむことの素晴らしさを伝える場でもあります。
絵本を上手に読むという技術面に走りがちですが、その背景にある「おはなし会」の意義と目的についてもしっかり確認をしたいと思います。
(作成K・J)