2018年10月、11月の新刊から


2018年10月、11月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの絵本と幼年童話を紹介します。(一部、見落としていた9月刊行のものが含まれています)

ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。出版されたすべての新刊本を購入して読むことはできませんが、毎月、教文館ナルニア国の新刊本コーナー、クレヨンハウス新刊本コーナー、茗荷谷てんしん書房、横浜日吉にあるともだち書店、代官山蔦屋書店児童書売り場など、信頼できる児童書の目利きのいる書店にある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。

(なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

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【絵本】

『ジャーニー国境をこえて』フェランチェスカ・サンナ/作 青山真知子/訳 きじとら出版 2018/9/15

ジャーニー 国境をこえて
フランチェスカ・サンナ
きじとら出版
2018-09-03

イタリアに生まれた20代の作家Francesca Sannaの作品です。イタリアの難民センターで出会った二人の女の子の話がきっかけで、地中海を命がけで渡ってくる人々のことを絵本にしたいと思い、スイスのルツェルン応用科学芸術大学でイラストレーションを学び、この作品が生まれました。2016年にイギリスで作品が発表されると、ケイト・グリーナウェイ賞候補から選ばれるアムネスティCILIP特別賞やさまざまな賞を受賞しました。日本語版は、板橋区立いたばしボローニャ子ども絵本館主催いたばし国際絵本翻訳大賞〈英語部門〉で最優秀大賞を受賞して翻訳、出版されました。この絵本を題材にして人権を学ぶワークシート(アムネスティ・インターナショナル英国支部作成)をきじとら出版のホームページからダウンロードできるようになっています。(→こちら)世界中で、難民の問題がクローズアップされている今、子どもたちとも一緒に考えてみたいテーマです。

 

『おほしさまのちいさなおうち』渡辺鉄太/文 加藤チャコ/絵 瑞雲舎 2018/10/1

おほしさまの ちいさなおうち
渡辺 鉄太
瑞雲舎
2018-09-16

おもちゃであそぶのも、絵本を読むのも飽きてしまった男の子がおかあさんになにか楽しい遊びを教えてと頼みます。するとおかあさんは「おほしさまは、よぞらにすんでいるだけじゃないのよ。 とびらも まどもない ちいさな あかい おうちにも すんでいるの」といって、そのおうちを探す探検を提案するのです。果たしてその「とびらもまどもない ちいさなあかいおうち」は、どこにあるのでしょう。「おほしさまのちいさなおうち」はアメリカ、イギリス、オーストラリアなどの英語圏でリンゴの季節になると語られるおはなしだそうです。それを題材にしてオーストラリア在住の児童文学者渡辺鉄太さんが文章におこし、連れ合いの絵本作家加藤チャコさんが絵を描いた夫婦合作絵本です。

 

『鹿踊りのはじまり』宮沢賢治/作 ミロコマチコ/絵 三起商行(ミキハウス) 2018/10/11

 
宮沢 賢治
三起商行
2018-10-01

鹿たちが見たことのない手拭いの正体をめぐっておどおどと、でも興味津々に近づいていくという滑稽で躍動感のある宮沢賢治の作品「鹿踊りのはじまり」に、勢いのある筆致で伸びやかな動物たちを描いて国の内外で評価の高いミロコマチコさんが絵をつけました。方言とミロコマチコさんの絵が相まってなんとも言い難い魅力の詰まった作品になっています。足にけがをして湯治をしようと山奥の温泉に向かう百姓の嘉十は、途中で食べた栃の実団子を鹿のためにと残していくのです。しばらく行ってから手拭いを忘れてきたことに気づいて戻ってみると、手拭いのまわりに六匹の鹿が集まっているではありませんか。不思議なことに、嘉十の耳がきいんと鳴って鹿のことばが聞こえるようになり、鹿たちが手拭いの正体をおっかなびっくり確かめようとしていることを知ります。そのやりとりの滑稽さと、手拭いが何も害を及ぼさない「干からびたなめくじ」とわかって踊りだす様子も、そして思わず飛び出していった嘉十に驚いて鹿たちが逃げて行った後に、銀色に輝くすすきの原の様子なども、躍動感溢れる筆使いで描かれています。1924年(大正13年)の作品ですが、ミロコマチコさんが絵を描くことで、今の子どもたちにも手にしてもらえるのではと思います。

 

『どんぐり 語りかけ絵本』こがようこ/文・絵 大日本図書 2018/10/10

どんぐり (語りかけ絵本)
大日本図書
2018-10-18

語りを大事にしてこられた絵本作家こがようこさんが、小さな赤ちゃんに語りかけるようにと作られた絵本です。パネルシアターで使うPペーパーにどんぐりをいくつも描いて、それをコラージュしているので、どんぐりが立体的に見えて、摘まめるかのようです。この絵本についてインタビュー記事が絵本ナビのサイトで公開されています。(→こちら)作者の思いを汲みながら、小さい子向けのおはなし会でぜひ読んであげてください。

 

 

『もみじのてがみ』きくちちき/文・絵 小峰書店 2018/10/11

もみじのてがみ
きくち ちき
小峰書店
2018-10-26

つぐみが持ってきた真っ赤なもみじの葉っぱ。ねずみはもみじの葉っぱを探しに出かけます。赤いものを見るたびに「みつけた」と喜びますが、赤いものはきのこだったり、つばきの花だったり、がまずみの実だったりと、なかなかもみじに行き当たりません。次々森の仲間も加わってやっとみつけたところは、一面真っ赤な絨毯を敷き詰めたようなもみじの林でした。「もみじのてがみ ありがとう ゆきじたく ゆきじたく」紅葉が散ると、いよいよ森は雪の季節を迎えます。このまま、きくちちきさんの『ゆき』(ほるぷ出版 2015)に繋がっていく世界観です。

 

『ロシアのお話 雪の花』セルゲイ・コズロフ/原作 オリガ・ファジェーエヴァ/絵 田中友子/訳 偕成社 2018/11

雪の花 (世界のお話傑作選)
セルゲイ コズロフ
偕成社
2018-10-24

ハリネズミくんともりのともだち』(S.オストロフ/絵 岩波書店 2000)や、『きりのなかのはりねずみ』(F.ヤールブソワ/絵 福音館書店 2000)など「ハリネズミと森の仲間達」シリーズが人気のロシアの児童文学作家コズロフの戯曲「雪の花」をもとにした絵本です。(偕成社のサイト→こちら)オリガ・ファジェーエヴァの絵は、この作品のための描きおろしで、彼女の作品が日本で出版されるのも今回が初めてです。大みそかの夜、どうぶつたちはモミの木を飾って新年を祝おうとしますが、ろうそくを持ってくるはずのクマの姿が見当たりません。訪ねていくとクマは高熱を出していました。そのクマのために、ハリネズミは医者のいう「雪の花」を探しに出かけるのです。日本ではモミの木を飾るのはクリスマスだというイメージがありますが、もともとヨーロッパではキリスト教に関係なく常緑樹のモミの木を生命の象徴として新年に飾っていました。ちょうど日本でも古くから門松を飾るのと同じです。そんなことも一緒に子どもたちに伝えられるといいですね。


『そらはあおくて』シャーロット・ゾロトウ/文 なかがわちひろ/訳 杉浦さやか/絵 あすなろ書房 2018/10/30 

そらはあおくて
シャーロット・ゾロトウ
あすなろ書房
2018-10-29
 
ある時、女の子は1冊の古いアルバムを開いておかあさんに尋ねます。「このこ、おかあさんなの?」子ども時代のおかあさんの服装や家の中の様子は今とは違って見えます。でもおかあさんはこう答えるのです。「たいせつなことは すこしも かわっていない。そらは あおくて、くさは みどり。ゆきは しろくて つめたくて、おひさまは まぶしく あたたかい。いまと おんなじだったのよ」と。おばあちゃん、ひいおばあちゃんのアルバムも順番に見ていく女の子。時代が変わっても、変わらない大切なものがあることを、おかあさんとの会話の中でみつけます。おかあさんは、そこで終わりではなく、いつかそれを自分の子どもたちに伝えてあげてほしいと語るのです。原書は1963年の「THE SKY WAS BLUE」で、それにはガース・ウィリアムズが絵を付けていました。今回、絵を描いた杉浦さんは、この絵本に出てくるのと同じ年頃の女の子を持つお母さんです。2018年の女の子から1980年代の母、1950年代の祖母、1920年代の曾祖母の子ども時代の様子を様々な資料で調べたとのこと。アルバムの中に描かれる風景や小物にも注目です。
 
 
 

『ゆき』はたこうしろう/絵 ひさかたチャイルド 2018/11

ゆき
ひさかたチャイルド
2018-11-21
 
文部省唱歌の「ゆき」がはたこうしろうさんの素敵な絵で1冊の絵本になりました。「ゆきやこんこ あられやこんこ・・・」一面の真っ白な雪原に真っ赤な帽子とコートの女の子が鮮やかに描かれ、雪にはしゃぐ表情もとても生き生きとしていて、思わず歌いだしてしまいます。図書館でのおはなし会でも子どもたちと一緒に歌ってもいいですね。

 

 

【クリスマスの本】

この秋に出版されたクリスマス関連の本を3冊紹介します。

『くるみ割り人形』E.T.A.ホフマン/作 サンナ・アンヌッカ/絵 小宮由/訳 アノニマスタジオ 2018/10/25

くるみ割り人形

E.T.A.ホフマン
アノニマ・スタジオ
2018-11-01

アノニマスタジオから出版されるマリメッコのデザイナーSANNA ANNUKKAによる本は、2013年のモミの木』、2015年の『雪の女王』に続いてこれが3作目。縦長で金箔押しの装丁で、文字も小さくぎっしり。子どもが自分で読む本というよりは、YA世代向けのおしゃれな本というイメージです。こみやゆうさんの翻訳はとても読みやすいので、クリスマスの季節、YA世代に手に取ってほしいなと思います。

 

『クリスマスのおかいもの』ルー・ピーコック/文 ヘレン・スティーヴンズ/絵 こみやゆう/訳 ほるぷ出版 2018/10/10

クリスマスのおかいもの
ルー ピーコック
ほるぷ出版
2018-10-15

原書はイギリスで2017年に出たOliver Elephant(Nosy Crow 2017)という絵本です。ルー・ピーコックさんの作品が日本に紹介されるのはこれが初めてで、こみやゆうさんが翻訳しました。クリスマスプレゼントを選ぶママのお供で、妹と一緒に買い物に出かけたノアくん。そのノアくんが連れているのがぬいぐるみのぞうのオリバーです。ママがプレゼントを選んでいる間オリバーと遊んで待っていたノアくん。いざ帰ろうとしたとき、オリバーが見当たりません。さっきまで一緒だったのに・・・ヘレン・スティーブンズの柔らかなタッチの絵も心地よく、幼い子どもの表情をよく捉えています。

 

 

『メリークリスマス―世界の子どものクリスマス―』R.B.ウィルソン/文 市川里美/画 さくまゆみこ/訳 BL出版 2018/10/20

メリークリスマス ―世界の子どものクリスマス
R・B・ウィルソン
ビーエル出版
2018-10-12

2000年前に中東の小さな町ベツレヘムで生まれたイエス・キリストの誕生を祝うクリスマスは、北欧に伝わる冬至祭りの風習と一緒になり、いつしかキリスト教国以外にも、楽しい冬のお祭りとして広がっていきました。クリスマスの起源となったイエスの誕生に関するおはなしに加えて、世界18か国のクリスマスの祝い方や、世界中で謳われているクリスマスキャロルなどを紹介するノンフィクション絵本です。そしてクリスマスはひとつの宗教を超えて、世界が平和になることを願い、すべての者が幸せになるように祈る日だという作者のメッセージが温かく伝わってきます。

 

 

【ノンフィクション】

『あずき』荒井真紀/作 福音館書店 2018/11/10

あずき (かがくのとも絵本)
荒井 真紀
福音館書店
2018-11-07
たんぽぽ』(金の星社 2017)でブラティスラヴァ世界絵本原画展金のりんご賞を受賞された荒井真紀さんが手がけた月刊かがくのとも2014年5月号『あずき』がハードカバーになりました。美味しそうなたいやきのあんこは何から出来ているんだろうと問いかけるところから始まって、あずき豆を土にまき、花が咲いて収穫し、それを使ってあんこを作るところまで丁寧に描いています。後半はあんこを使ったお菓子やお料理の紹介ページが続き、「むかしから、あずきのまめのあかいいろは おめでたいいろとされてきました。」という日本の食の文化にも触れています。子どもたちに伝えていきたい文化です。
 

 

『みずとはなんじゃ?』かこさとし/作 鈴木まもる/絵 小峰書店 2018/11/11

みずとは なんじゃ?
かこさとし
小峰書店
2018-11-08
 
今年5月2日に92歳で亡くなられた加古里子さんの最後の絵本です。(訃報を伝える記事→こちら)6月4日夜に放送されたNHK番組“プロフェッショナル仕事の流儀”「ただこどもたちのために かこさとし最後の記録」(→こちら)の中で、この作品を仕上げる過程で自力で絵が描けなくなり、絵本作家の鈴木まもるさんに依頼したこと、そのラフスケッチを見ながらかこさとしさんがご自身のこだわりの部分を伝えるシーンが映し出されていました。1962年に月刊誌「こどものとも」として作られた『かわ』から始まり、かがく絵本『』(1969)、『地球』(1975)で、地球上に豊かにある水がいかに不思議な存在であるか伝えてきたかこさん。1998年から構想していた「水のふしぎ」のテーマで、2016年に絵本制作に取り掛かり、2018年に3月に下絵が完成します。しかし完成させる体力が残ってないと覚悟され鈴木まもるさんに絵を依頼することになります。鈴木さんは急いでラフスケッチを描き、かこさんも死の直前の4月末まで構成を練られました。日々の生活に密着した「水」を幼い子どもたちにわかりやすく教えてくれる渾身の1冊、ぜひ子どもたちに手渡してあげてください。なお、初回特典としてこの本が出来るまでの経緯やかこさんの直筆原稿が盛り込まれた特性冊子がついています。(SLA発行の「学校図書館速報版11月15日号」にも「かこさとしさんの思いをつなぐ」と題して、この絵本の紹介記事が掲載されています)
 

 

【その他】

『絵本は心のへその緒―赤ちゃんに語りかけるということ』松居直/作 NPOブックスタート 2018/10/5

こんとあき』に使われた林明子の絵が表紙にあしらわれた薄手の本書は、日本でのブックスタートの理念を構築する際に大きな役割を果たした松居直氏のこれまでの講演や発言の記録の中から「赤ちゃんと絵本」、「ブックスタート」についての部分をまとめたものです。「言葉とは何か」、「共に居るということ」、「ブックスタートについて」の3章にまとめられた記録を読んでいると、福音館書店を子どもの本の専門出版社として大きく育てた松居氏ならではの子どもへの深い愛のまなざしを感じられて胸が熱くなりました。

 

 

『子ども文庫の100年 子どもと本をつなぐ人びと』高橋樹一郎/作 みすず書房 2018/11/1

この本は、子ども読書年の翌年の2001年から2004年にかけて公益財団法人伊藤忠記念財団と、公益財団法人法人東京子ども図書館が共同で行った「子どもBUNKOプロジェクト」がもとになっています。1974年から会社の社会貢献事業として文庫活動などに助成を続けている伊藤忠記念財団と、都内で活動を続けていた4つの子ども文庫を母体として1974年に生まれた東京子ども図書館が、設立30周年を記念して、文庫の実態を活動の意義を再確認するための事業でした。その調査をもとに、全国各地で一時期は公共図書館の3倍以上の数があった民間による小さな子どものための図書室の歴史と意義、文庫活動から図書館設立運動へとうねりが広がった経過など、時代を追って日本独特の文化と呼ばれる文庫活動に光を当て、子どもたちに本を手渡してきた人々の軌跡を記しています。ずっしりと重い10章にわたる論考は、日本の子どもたちの読書活動の一翼を担った文庫の貴重な記録です。

 

 

(作成K・J)