2018年11月、12月の新刊から


2018年11月、12月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの絵本と幼年童話を紹介します。(一部、見落としていた10月の新刊も含まれます)

ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。出版されたすべての新刊本を購入して読むことはできませんが、毎月、教文館ナルニア国の新刊本コーナー、クレヨンハウス新刊本コーナー、茗荷谷てんしん書房、横浜日吉にあるともだち書店、代官山蔦屋書店児童書売り場など、信頼できる児童書の目利きのいる書店にある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。

(なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

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【絵本】

『セリョージャとあそぼう!ロシアのこどものあそびとうたと』ナディア・コズリナ/作 まきのはらようこ/訳 カランダ-シ出版 2018/11/2 

セリョージャとあそぼう! ロシアのこどものあそびとうたと
ナディア コズリナ、 まきのは らようこ
カランダーシ
2018-11-02
 
灰色おおかみのセリョージャが、遊びながらロシアに伝わる子どもたちのための詩、わらべうた、鬼ごっこ、お菓子作り、一緒に遊べる布人形作りを紹介していきます。わらべうたは楽譜付き、ロシアの子どもたちの生活を思い浮かべながら楽しめる1冊です。作者のナディア・コズリナさんは1981年生まれのグラフィックデザイナーで、現在は東京で絵を描きながらロシアアートの歴史講義やロシア語教師をしています。カランダ-シ出版はロシア語絵本を専門に出版しているひとり出版社です。

 

『ねこのオーランド― たのしい日々』キャスリーン・ヘイル/作 こみやゆう/訳 好学社 2018/12/18

ねこのオーランドー たのしい日々
キャスリーン・ヘイル
好学社
2018-12-15
 
 
福音館書店の大型絵本『ねこのオーランド―』の姉妹版。ねこのオーランド―とグレイスの夫婦には3匹のこねこがいます。こねこたちを学校に行かせるために、オーランド―たちは、いろんなものを発明して学費を稼ぎます。しかしグレイスはこねこが巣立つことに寂しさを感じ、肝心のこねこたちは学校も行きたがりません。そこでこねこたちに習い事を始めさせます。大人の目線では、すごく人間臭いオーランド―とグレイスに親しみを覚えますが、子どもたちは無邪気なこねこたちの気持ちになっておはなしを楽しむことでしょう。両親の前で習い事の発表会をするこねこたちが、とにかく可愛らしく、心弾む絵本です。英国では1942年に初版が出版されていますが、親の気持ち、そして子どもたちの思いはいつの時代も変わらないんだなと改めて感じました。
 
 
 
 
児童書】
『ぼくはくまですよ』フランク・タシュリン/文・絵 小宮由/訳 大日本図書 2018/12/25

 
一頭のくまが冬眠から目覚めると、森だったところが眠っている間に切り拓かれて工場になっていました。工場の主任に仕事をさぼっていると思われたくまは必死で「ぼくはくまですよ」と訴えるのですが、「おまえは、くまじゃなく人間だ。それも毛皮のコートを着こんだ、ひげもそらない、とんちんかんだ。」と信じてくれません。主任は部長に、部長は常務に、常務は専務に、専務は副社長に、副社長は社長に訴え、そのたびに「ぼくはくまですよ」と必死で訴えるのですが、いつも答えは同じ。「おまえは、くまじゃなくて、人間だ。それも毛皮のコートを着こんだ、ひげもそらない、とんちんかんだ」が繰り返されます。そこで動物園のくまや、サーカスのくまのところへ連れていかれるのですが、そこでも答えは同じです。さてこのくま、一体どうなってしまうのでしょう。荒唐無稽のおはなしではありますが、この作品が作られたのが第二次世界大戦終戦の翌年と考えると、いろいろな意味を含んでいるとも思えます。しかし、こどもは純粋に、くまの気持ちになって最後まではらはらしながらおはなしを楽しむことができるでしょう。文字も大きく挿絵もたっぷりあるので、ひとりで読み始める小学校低学年におすすめです。
 
 
 
『ジュリアが糸をつむいだ日』リンダ・スー・パーク/作 ないとうふみこ/訳 いちかわなつこ/絵 徳間書店 2018/12/31

ジュリアが糸をつむいだ日 (児童書)
リンダ・スー パーク
徳間書店
2018-12-11
 
韓国系アメリカ人の女の子ジュリアは7年生(中1)。引っ越していった先でパトリックと仲良くなり、一緒に楽農クラブに入会します。これは子どもたちに農業について教えてくれるサークルです。そこで子どもたちはテーマを決めて自由研究をすることになっています。ふたりが選んだテーマは、カイコを飼うこと。ジュリアのお母さんの提案でした。ふたりは自由研究に取り組む中で、韓国系移民の歴史について、そしてカイコのえさの桑の葉を栽培する黒人のディクソンさんと出会うことで、人種差別についても深く考えるようになっていきます。また、大事に育てたカイコから糸を取るためには、カイコを蛾の成虫になるまえに殺すことを知って葛藤するジュリアは、家畜の命についても深く考えます。ひとつの学びをきっかけにして、成長していくティーンズの姿は、読み終わってとても爽やかなものがありました。作者は、『モギ ちいさな焼き物師』(片岡しのぶ訳、あすなろ書房)で2002年度に米国最高の児童文学賞ニューベリー賞を受賞しています。
 
 
 
『風と行く者 守り人外伝』上橋菜穂子/作 佐竹美保/絵 偕成社 2018/12

 
 
 
 
 
 
「守り人シリーズ」の待望の外伝3作目です。タルシュ帝国との戦いが終わり、タンダと平穏な暮らしをしていたバルサは、久しぶりに草市に出かけます。そこでバルサが16歳だったころ、養父ジグロとともに護衛したことのあるサダン・タラム(風の楽人)一行と再会します。シャタ(流水琴)を奏で、異界エウロカ・ターン〈森の王の谷間〉への道を開くことのできるサダン・タラムのお頭は何者かに命を狙われます。再び、サダン・タラムの護衛をしてロタに旅立つことになったバルサは、氏族間の抗争が続くロタ北部の歴史の闇を覗くことになるのです。新しいお頭は、もしかしてジグロの忘れ形見なのか、それを知りたくて一気に読んでしまいました。



 
【詩】
『クリストファー・ロビンのうた』A・A・ミルン/作 E・H・シェパード/絵 小田島雄志・小田島若子/訳 河出書房新社 2018/10/18

クリストファー・ロビンのうた
A・A・ミルン
河出書房新社
2018-10-17



『クマのプーさんとぼく』A・A・ミルン/作 E・H・シェパード/絵 小田島雄志・小田島若子/訳 河出書房新社 2018/10/30

クマのプーさんとぼく
A・A・ミルン
河出書房新社
2018-10-17
 
晶文社から1978年に出版されたミルンの詩集『わたしたちがおさなかったころ』(When We Were Very Young,1924)を翻訳した『クリストファー・ロビンのうた』が10月18日に、1979年に出版された『いまわたしたちは六歳』(Now We Are Six,1927)を翻訳した『クマのぷーさんとぼく』が10月30日にそれぞれ新装復刊として河出書房新社から出ました。ミルンが子どもたちのために書いた詩には、子どもの自由な想像力、あそびや自然が描かれており、思わずくすりと笑ってしまいます。子どものこうした無邪気さを失いたくないと思いました。声に出して読んであげたいですね。
 
 
 
【ノンフィクション】
『NATIONAL GEOGRAPHIC ミッション・パンダ・レスキュー』キットソン・ジャジンカ/著 土居利光/監修 田中直樹/日本版企画監修 ハーバーコリンズ・ジャパン 2018/11/25

ミッション・パンダ・レスキュー (ナショナル ジオグラフィック キッズ)
キットソン ジャジンカ
ハーパーコリンズ・ ジャパン
2018-11-24
『NATIONAL GEOGRAPHIC ミッション・ライオン・レスキュー』アシュリー・ブラウン・ブリュエット/著 土居利光/監修 田中直樹/日本版企画監修 ハーバーコリンズ・ジャパン 2018/12/25

ミッション・ライオン・レスキュー (ナショナル ジオグラフィック キッズ)
アシュリー ブラウン・ブリュエット
ハーパーコリンズ・ ジャパン
2018-12-25
 
 
こちらの2冊は、購入したものではなく、出版社から贈呈されたものです。絶滅危惧種である動物たちについて詳細にその生態と生息環境について調べられた本です。情報量が大変多く、対象年齢は高学年以上と思われますが、もっと低学年の子どもにも、親子で読むことで関心をもってほしいとお笑い芸人ココリコの田中さんが日本語版の企画に携わっています。出版社の想定した対象年齢と、本の中身とのギャップに、ここで紹介すべきかと迷ったシリーズです。しかし世界の野生動物たちの現状を深く捉えたものとして評価出来ると思い、こちらの2冊を紹介します。
 
 
【その他】
『わたしはよろこんで歳をとりたい』イェルク・ツィンク/著 眞壁伍郎/訳 こぐま社 2018/10/25

わたしはよろこんで歳をとりたい
イェルク ツィンク
こぐま社
2018-10-18
 
児童書専門の出版社こぐま社の佐藤英和さんがどうしても出版したかったと願っていらしたドイツの神学者が自らの老いをみつめて語る「老い」をテーマにしたエッセイです。児童書ではありませんがぜひ紹介したいと思います。幼児と老人では人生の春と冬に例えられますが、深層心理学の世界では老人はまた幼児のころに戻っていく、世の中を捉える視点が生産性の高い青年・壮年の時とは変化し、感性の部分で両者は共通性をもっている、共感しあえる存在として捉えられています。「ツィンクが語る、わたしたちは秋の実のように大地にうもれながら、新しい春の芽生えをまっているという姿に、長年子どもたちと読書活動をしてきた、わたしの知人友人たちもまた、深い慰めと励ましを受けた」と訳者あとがきにあるように、子どもたちのそばにいる私たちにとって、人生を考え、また次の世代になにを手渡すべきかということも知らせてくれる、深い文章です。誰もが、一日、一日と老いに向かっています。ほんの少し歩みをとめて、老いていく人生の意味を考えてみるのもよいかもしれません。
 
 
 
『あふれでたのはやさしさだった 奈良少年刑務所 絵本と詩の教室』寮美千子/著 西日本出版社 2018/12/7

 
奈良に転居したのをきっかけに奈良少年刑務所で「物語の教室」を始められた作家の寮美千子さん。少年刑務所に通って、少年たちと詩や物語を学ぶうちに、彼らは凶暴な悪人ではなく、実は貧困の中で、あるいは親からの虐待を受け、心に傷を負っていることに気づいていきます。そうした中で彼らが詠んだ詩は、2011年に『空が青いから白をえらんだのです―奈良少年刑務所詩集』として新潮社から出版されました。この本は、少年刑務所の中で起きた数々の奇跡の記録です。人が人として生きていくために、一番大切なものは何なのか、私たちにその問いを突き付けてくる1冊です。詩集と一緒に紹介してほしいと思います。
 
 
『本・子ども・絵本』中川李枝子/著 山脇百合子/絵 文春文庫 文藝春秋 2018/12/10

本・子ども・絵本 (文春文庫)
中川 李枝子
文藝春秋
2018-12-04
 
1997年に大和書房から出版された『ぐりとぐら』の作者中川李枝子さんのエッセイが、文庫版になって戻ってきました。カラーの撮りおろし写真のページも加わり、その上軽くていつでも通勤のバッグの中に忍ばせておけます。「生まれてきてよかった」とすべての子どもたちに思ってほしい。絵本の世界で豊かな経験をした子どもは人生に希望と自信をもって進むことができるという中川李枝子さんのメッセージを、今子育てしている若いご両親にもぜひ届けたいと思います。



 
『暴力を受けていい人はひとりもいない CAP(子どもへの暴力防止)とデートDV予防ワークショップで出会った子どもたちが教えてくれたこと』阿部真紀/著 高文研 2018/12/10

 
『あふれでたのはやさしさだった』では犯罪を犯してしまった少年たちが、幼少期に何らかの暴力(ことばの暴力も含む)を受けていると指摘していました。しかし、CAP(子どもへの暴力防止)とデートDV予防ワークショップの活動を続けてきた認定NPO法人エンパワメントかながわの阿部真紀さんは、「その暴力を受けていい人は誰ひとりいないのだ」と明言します。さまざまな暴力を他人事ではなく、自分のこととして捉えられるようにするには、子どもの時から繰り返しそのことを伝えていくしかありません。ここに記された活動の記録は、憲法に保障された基本的人権を守る活動でもあります。子どもたちが未来に向かって、自信をもって生きていけるために、目をそらさず、自分事として受け止めたい。そして、子どもに関わる多くの人に読んでほしいと感じた1冊です。



(作成K・J)