2019年1月、2月の新刊から


2019年1月、2月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの絵本と幼年童話を紹介します。(一部、見落としていた2018年12月の新刊も含まれます)

ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。出版されたすべての新刊本を購入して読むことはできませんが、毎月、教文館ナルニア国の新刊本コーナー、クレヨンハウス新刊本コーナー、茗荷谷てんしん書房、横浜日吉にあるともだち書店、代官山蔦屋書店児童書売り場など、信頼できる児童書の目利きのいる書店にある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。

(なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

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【絵本】

『もういいかい』岡野薫子/作 太田大八/画 復刊ドットコム 2019/1/25

もう いいかい
岡野 薫子
復刊ドットコム
2019-01-19

1976年に講談社から出版されていた作品が復刊されました。かくれんぼでおにになったカオル。ともだちが遠くに走っていく気配を感じますが、ふいにすぐ後ろで「もういいよ」という声を聞きます。目を開けてみると、見知らぬ子がそこにはいました。その子はカオルを空き地にある自分の小屋に連れて行くと、そこで太鼓をたたき始めます。その不思議な子の頭には角が見えて、逃げ出すカオル。すると雷鳴が鳴り響き夕立が追いかけてきました。2016年に他界された太田大八氏の描く鬼の子の表情が印象的です。

 

『こんとん』夢枕獏/文 松本大洋/絵 偕成社 2019/2 

こんとん
夢枕 獏
偕成社
2019-01-25
 
“こんとん=混沌”なのでしょうか。「こん とん  こん とん 名前じゃないよ まだ 名前は ないからなあ」「名前が ないので だれでも ない。 だれでも ないのに だれでも ないから なんにでも なれる。」まるで禅問答のような言葉ではじまるこの絵本は、幼い子ども向けというよりは、おとなに向けて、あるいはYA世代に向けて作られた絵本と言っていいでしょう。目も耳も鼻も口もなかった「こんとん」に、ある日帝が目耳鼻口がつけた途端、「こんとん」は倒れて動かなくなる・・・いかに自分の目で見、聞き、嗅ぎ、自分の口で語ることが重いことなのか、と問いかける不思議な作品です。詩人工藤直子さんの息子で「鉄コン筋クリート」などヒットした作品を持つ漫画家の松本大洋さんが絵本を手掛けるのは、谷川俊太郎さんと組んだ『かないくん』(谷川俊太郎さん×松本大洋対談は→こちら)についで2冊目です。

 

*ノンフィクション絵本*

『数字はわたしのことば ぜったいにあきらめなかった数学者ソフィー・ジェルマン』シェリル・バード―/文 バーバラ・マクリントック/絵 福本友美子/訳 ほるぷ出版 2019/1/20

数字はわたしのことば: ぜったいあきらめなかった数学者ソフィー・ジェルマン
シェリル バードー
ほるぷ出版
2019-01-24
 
フランス革命が推し進められていた1776年4月に、ある裕福な家庭にソフィーという女の子が生まれます。当時のフランスでは女の子は家で教育を受けられればよいほうで、女子には学問は不要だと考えられていました。ソフィーが13歳の時に、バスティーユ襲撃が起こり、パリの街はきな臭い空気に包まれます。家に籠って過ごしていた時に父親の書庫から「数学の歴史」という本をみつけ、夢中になります。ソフィーは両親はもちろん周囲の偏見と闘いながら数学の研究を続け、大きな功績を残します。この絵本はそんなソフィーの生涯を、シェリル・バード―が大量の資料をもとに子どもたち向けに文章を書き、バーバラ・マクリントックが魅力的な絵をつけています。自分が関心をもったことを諦めずに極めていくことに対して勇気を与えてくれる伝記絵本です。
 
 
『キュリオシティ ぼくは火星にいる』マーカス・モートン/作 松田素子/訳 渡部潤一/日本語版監修 BL出版 2019/2/10

キュリオシティ ぼくは、火星にいる
マーカス・モートン
ビーエル出版
2019-02-02
NASAのマーズ・ローバー・ミッションを知っていますか?車型のロボット火星探査車を使った火星の調査のことです。先日も、2004年に打ち上げられ、当初3カ月の期間というミッションだった火星探査車オポチュニティが、昨年6月に砂嵐に襲われて太陽光発電できなくなっていましたが、再起動を断念、14年にわたる活動を閉じたことがニュースになりました。(→さよならオポチュニティ)この絵本では、オポチュニティの後継機キュリオシティの開発から、打ち上げ、そして火星上での探査について、とても丁寧に描かれています。開発過程では、火星での生命体を探す使命を果たすために、厳しく地球上のばい菌さえも付着しないよう細心の注意が払われていること、2年2か月ごとに地球と火星が接近するそのタイミングに打ち上げること、火星まで6億キロの距離を253日間かけて飛んだあと、無事に火星に降り立つためにもいくつもの難関を越えなければならないことなど、子どもにもわかるように説明されています。昨年11月には次の火星探査車インサイトも無事到着し、調査を開始しています。(→こちら)宇宙へ関心を持ち、そのことを通して地球の環境についても考えるきっかけとなる絵本です。
 
 
 
【児童書】

『ぼくは本を読んでいる。』ひこ・田中/作 講談社 2019/1/15

ぼくは本を読んでいる。
ひこ・田中
講談社
2019-01-17
 
小学校5年生になったルカは、両親が仕事で帰りの遅い日に出没したゴキブリを退治しようと追いかけて、両親の本部屋(天井まである本棚にびっしり本が詰まっている書斎)に入り込みます。ゴキブリは取り逃がしてしまいますが、脚立を使って覗いた棚の上に、紙カバーに包まれた本を5冊みつけます。そのうちの1冊のカバーを外すと『小公女』と書いてあり、出版年を見ると両親が10歳前後の時に出た本だとわかり、読み始めます。ルカの小学校での友人関係を絡めながら読書体験のなかったルカが、本を読むことで変化していく様子を描いています。文中で紹介されている『小公女』や『あしながおじさん』、『ゲド戦記』、『赤毛のアン』などを、この機会にその年代の子どもたちに読んでもらえるといいなと思いました。
 
 
『ルイジンニョ少年 ブラジルをたずねて』かどのえいこ/文 福原幸男/絵 ポプラ社 2019/1

ルイジンニョ少年: ブラジルをたずねて
かどの えいこ
ポプラ社
2019-01-08
 
2018年に国際アンデルセン賞作家賞を受賞された角野栄子さんのデビュー作の復刻版が出版されました。角野さんが1959年にブラジル移民団にに混じって貨客船でブラジルまで旅をし、2年間サンパウロで過ごした経験をもとに書いています。タイトルのルイジンニョ少年(ジンニョとは親しみをこめて男性の名前につける呼称、ルイスくん)は、実際に角野さんがサンパウロにいた時に同じアパートに住んでいて、ポルトガル語の会話の先生役を引き受けてくれた9歳の少年です。この物語では、主人公のえいこさんがルイスくんの家に下宿している設定になっています。1960年代のブラジル・サンパウロの様子、陽気で肌の色で分け隔てないブラジルの人々の気質などを、ルイジンニョ少年との交流を通して描いた作品です。復刻版あとがきもぜひ読んでほしいと思います。
 
 
 
『メアリ・ポピンズ』トラバース/作 岸田衿子/訳 安野光雅/絵 朝日出版社 2019/1/25

メアリ・ポピンズ
トラバース
朝日出版社
2019-01-26
 
「安野光雅の絵で読む世界の少年少女文学」の『小さな家のローラ』『赤毛のアン』、『あしながおじさん』に続く4冊目です。このシリーズは、「子どもから大人まで楽しめる」「長く読み継がれる」という視点で安野さんご自身が作品を選んで挿絵を描いていらっしゃいます。安野さんって今年93歳になられるのです。その安野さんの描きおろしの絵がまたとても素敵で、すでに別の出版社から出ている作品を読んでいても、安野さんの絵で読みたくなります。翻訳は岸田衿子さん。1993年に河出書房新社より刊行された訳を、著作権継承者の了解を得て使用しているそうです。安野さんは生前の岸田さんとも交流があったので、さらに思い入れもあったことでしょう。2月1日にディズニー映画「メリー・ポピンズ リターンズ」も公開されたところです。この作品に出合ってもらえる機会となりそうですね。
 
 
【ノンフィクション】

『ことばハンター 国語辞典はこう作る』飯間浩明 ポプラ社 2019/1
 
国語辞典の編纂については三浦しをん氏の小説『舟を編む』(光文社 2011)とその映画化で、多くの人が知るところとなりました。これは国語辞典編纂の仕事について、編纂者の飯間浩明さんが小学校高学年~YA世代に向けて書いた本です。飯間さんは、2018年6月放送のNHKの番組「プロフェッショナル仕事の流儀」で取り上げられました。(→こちら)番組を見て、街をめぐり、人々との会話から、生きた新しいことばをキャッチし、それを端的な文言で説明するというその仕事ぶりに魅せられたものでした。辞書を定期的に改訂することは、「ことばの変化を知り、気づかなかった事実に気づき」(「おわりに」より)それを観察し記録していくことであり、ネット時代になりスマートフォンで、すぐに何でも調べられる時代であっても、おろそかにできない大切な仕事なんだと知ることができました。子どもたちにことばは生きているということ、ことばは面白いということをこの本を通して伝えたいと思いました。
 
 
『ミッション・シロクマ・レスキュー』ナンシー・F・キャスタルド、カレン・デ・シーヴ/著 田中直樹/日本版企画監修 土居利光/監修 ハーパーコリンズ・ジャパン 2019/2/15

ミッション・シロクマ・レスキュー (ナショナル ジオグラフィック キッズ)
ナンシー・F・キャスタルド カレン・デ・シーヴ
ハーパーコリンズ・ ジャパン
2019-02-08
 
ホッキョクグマがロシア北東部ノバヤゼムリヤ列島の集落を大挙して襲ったというニュースを2月半ばにワールドニュースで見ました。(→こちら)地球の温暖化の影響で、生息地を追われているシロクマたちの状況を象徴するようなニュースでした。ニュースになったころにちょうど出版されたこちらの本では、シロクマの生態を詳しく知ったうえで、なぜシロクマたちの住む場所がなくなっているのかを、親子でどうしたらよいか考えることができます。シリーズ既刊の『ミッション・パンダ・レスキュー』、『ミッション・ライオン・レスキュー』と合わせて、子どもたちに動物の現状を通して環境問題について知ってほしいと思います。(既刊の2冊はこちらで紹介→2018年11月、12月の新刊から
 
 
【詩】
 
『まど・みちお詩集 ぞうさん』まど・みちお/詩 童話屋 2019/1/23

まど・みちお詩集 ぞうさん
まど・みちお
童話屋
2019-01-26
 
まど・みちおさんの詩が、童話屋のポケット詩集になりました。これまでたくさんのまどみちお詩集が出ていますが、この本は文庫本サイズで携帯しやすく、四季折々、あるいは気分に合わせて声に出して読みたくなります。おはなし会でもぜひ詩を紹介してあげてください。
 
 
【その他】
 
『元「童話屋」読書相談員 向井惇子講演録「どの絵本読んだらいいですか?」』向井ゆか/編 かもがわ出版 2019/1/15
 
渋谷にあった子どもの本の専門店「童話屋」(1977~1998)の創業スタッフで読書相談員をしていらした向井惇子さんの講演録です。童話屋閉店後(『のはらうた』を始めとする童話屋の出版部門は続いています)、フリーの絵本アドバイザーとして目黒区東山絵本勉強会や川崎市宮前文庫グループなどを中心に講演会や勉強会の講師を、2017年に亡くなられる三日前まで務めていらっしゃいました。その講演の記録をまとめたものです。私自身も杉並区の文庫の勉強会で講演を聞いています。向井さんの語りかける言葉がそのまま響いてくるようで、子育てを始めたばかりの若いご両親や、図書館で初めて仕事をする人たちにも、「絵本を選ぶ」ということは、どういうことなのか、わかりやすく教えてくれる1冊です。
 
 
『子どもと本をむすぶ 児童図書館のあゆみ』児童図書館研究会 20191/23
2016年度児童図書館研究会全国学習会(東京学習会2017/2/26~27)の分科会「児童図書館研究会のあゆみ 先輩に学ぶ」の記録を編集した冊子です。構成は二部にわかれていて、第一部は元江東区城東図書館長福嶋禮子さんに研究会設立当時について聞く「福嶋さんに聞こう!」、第二部は慶應義塾大学非常勤講師汐崎順子さんに、図書館の児童サービスの歴史を聞く「児童サービスの歴史」になっています。過去を振り返りつつ、変化の激しい現代の子どもたちにどのように本を手渡していくのか、児童サービスに関わるものに考えること、そして行動することを促します。(児童図書館研究会の公式サイトは現在リニューアル中となっており、サイトから購入できませんが、銀座・教文館ナルニア国では、この冊子を扱っています)
 


『のこす言葉 安野光雅 自分の眼で見て、考える』安野光雅/作 のこす言葉編集部/編 平凡社 2019/2/6

 

 
平凡社の「KOKORO BOOKLETのこす言葉」シリーズの1冊です。これは、“一つのことを極める上でどんな知恵を積み重ねてきたのか。人生の先輩が切実な言葉で伝える語り下ろしの自伝シリーズ”(→こちら/週刊「読書人」Webより)で、1984年に国際アンデルセン賞画家賞を受賞した安野光雅さんの「自分の眼で見て、考える」はその第3弾となります。92歳になった安野さんは現在も新作を発表し続けていらっしゃいます。その原動力となっているのは何か、この本を読んでいると見えてきます。その生き生きとした語り口に、安野さんの絵の魅力に繋がっているものを感じました。

(作成K・J)