2019年7月、8月、9月の新刊から(その2)読み物ほか


早く紹介したいと思いながら、「2019年7月、8月、9月の新刊から(その1)絵本」をUPして2週間以上が経過してしまいました。

読み応えのある本が多く、時間がかかってしまいました。

 

なお、その後、紹介したい絵本も続々出ています。そちらはなるべく早い時期に別記事で紹介します。

 

ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。出版されたすべての新刊本を購入して読むことはできませんが、毎月、教文館ナルニア国の新刊本コーナー、クレヨンハウス新刊本コーナー、横浜日吉にあるともだち書店など、信頼できる児童書の目利きのいる書店にある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。

 

(なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

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【児童書】

『八月のひかり』中島信子/作 汐文社 2019/7

八月のひかり
中島 信子
汐文社
2019-06-29

いろいろなところで話題に上る「子どもの貧困」に正面から向き合った作品です。小学5年生の美貴は、働く母親に代わって家事を一手に引き受けています。無邪気にふるまう小1の弟勇希と違って、母がなぜ父親と別れたか、よく理解しているからでした。母親は貧しいからこそ、だらしない生活はしてはいけない、礼儀正しく、うそを言わないことが大事だと二人に伝えます。親子3人が慎ましく支え合っている姿を淡々と描きながら、社会的な問題に光を当てており、読む者の心を揺さぶります。

(公式サイト→こちら

 

『きみの存在を意識する』梨屋アリエ/作 ポプラ社 2019/8

きみの存在を意識する (teens’best selection)
梨屋 アリエ
ポプラ社
2019-08-02
 
中2のひすいと、同い年の血のつながらない弟の拓真を中心に、生きづらさを抱えている中学生の日常をそれぞれの視点から描く連作短編です。ひすいは、読書をするのが極端に苦手ですが、同じクラスの中には書字障害、性同一性に悩む子、化学物質過敏症など、何らかの問題を抱えている子がいます。彼らの姿を瑞々しく描きながら、読む者に´普通’という概念とは何か、どのように彼らに寄り添えばよいか問いかけてくる作品です。
 学習障害という概念は、ここ10年ほどで浸透してきました。ディスレクシア(識字障害)とディスグラフィア(書字障害)も、それに含まれます。知的発達に遅れがないにもかかわらず、文字を読むこと、あるいは文字を書くことに困難を示す特性です。これらは、合理的配慮(PCの読み上げソフトを使う、PC入力をする)によって十分に克服することができます。作品中でも、心桜(こはる)が合理的配慮に対応できる学校へ転校する決意をすることが描かれています。この作品は、2020年オナーリスト文芸作品部門およびJBBY賞を受賞しました。

作者が、中学生と共に読書会を行った様子が「好書好日」に掲載されています。(サイト→こちら)

 

 

『かくれ家のアンネ・フランク』ヤニー・ファン・デル・モーレン/作 西村由美/訳 岩波少年文庫 岩波書店 2019/8/8

かくれ家のアンネ・フランク (岩波少年文庫)
ヤニー ファン・デル・モーレン
岩波書店
2019-08-09

ユダヤ人という理由だけでナチスの強制収容所に送られ多くの人が命を落とした事実のひとつとして世界中で読まれてきた『アンネの日記』ですが、1945年に第二次世界大戦が終結して74年が経ち、その事実はどこまで語り継がれているのでしょうか。日本でも若い世代に語り継がれていくべき戦争の記憶が薄れているように、オランダでもアンネ・フランクの悲劇を知らない子どもたちが増えているといいます。そのことに危惧した作者が、子どもたちに『アンネの日記』を知ってもらおうと、アンネ・フランク財団の全面的な協力を得て、事実に基づいて書いた本です。アンネの幼少期から、戦争が始まった頃のこと、かくれ家での生活、そして収容所での暮らしと最期を迎えるところまでが綴られています。戦争とは、ここまで非情に人権を踏みにじるものなのか、そんな中でも尊厳を失わずにいた彼女たちの暮らしを知ることは、今もなお大切なことだと思います。

 

 

 

『シャイローと歩く秋』フィリス・レイノルズ・ネイラー/作 さくまゆみこ/訳 あすなろ書房 2019/8/30

シャイローと歩く秋
フィリス・レイノルズ・ネイラー
あすなろ書房
2019-08-20

1992年にニューベリー賞を受賞した『シャイローがきた夏』の続編です。マーティは、荒くれもののジャドから虐待を受けていた子犬を子どもらしい策略で救い出し、シャイローと名付けます。前作ではそのシャイローをジャドからもらい受けるところまでを描いていました。続編では、傍若無人な振る舞いをするジャドと、マーティが正面から対峙します。その過程で、親にシャイローを救うために嘘をついたことをきちんと打ち明け、またジャドに対してもただ憎むだけではだめだということを学んでいきます。自分の弱さをみつめ、他人を許すことを覚えていくマーティの心の成長に、読む者も勇気づけられました。本のこまどでは2015年4月に紹介しています。(→こちら

 

 

『ヤービの深い秋』梨木香歩/文 小沢さかえ/絵 福音館書店 2019/8/30

ヤービの深い秋 (福音館創作童話シリーズ)
梨木 香歩
福音館書店
2019-08-28

『岸辺のヤービ』の待望の続編です。(本のこまどでの紹介は2015年9月でした。→こちら)秋が深まりゆくころ、はりねずみのような姿をしているクーイ族のヤービは、友達のトリカたちと一緒にトリカのお母さんの薬になるというユメミダケを取りに森深く分け入ることになりました。そのころ「わたし」こと寄宿学校の教師ウタドリも、家庭の事情を抱えるギンドロたちと森へユメミダケを探す冒険にでかけます。美しい秋の森で起きる幻想的な物語の中に、人が生きることの中で大切にしなければならないことがきちんと描かれています。「成長する子どもを、だまってかたわらで見守る。それが、サニークリフ・フリースクールのの職員たちの、いちばん大きな仕事なのだと。」この一文が、読み終わったあとも、心にこだましています。

 

 

『しぶがきほしがきあまいかき』石川えりこ/作・絵 福音館書店 2019/9/5

秋、おばあちゃんと一緒に渋柿を取り入れ、干し柿づくりを覚えていく姉弟たちの様子が瑞々しく描かれている幼年童話です。「ちちんぷいのぷい おひさまいっぱいあたってね あまーい あまーいかきになれ しぶがき しぶがき あまくなれ」と繰り返される唱え言葉も楽しく、またモノトーンの絵の中に、柿の鮮やかな色が際立っていて、秋の収穫の喜びを一緒に味わえる作品です。

 

 

銀の匙』中勘助/作 安野光雅/絵 朝日出版社 2019/9/6

銀の匙
中勘助
朝日出版社
2019-09-07

大正10年に岩波書店から出版された中勘助の『銀の匙』は、その後、灘高校の国語の授業の教材となったことから、話題になりました。灘高校の名物国語教師橋本武によるその授業の様子は、2012年に岩波ジュニア新書『〈銀の匙〉の国語授業』(公式サイト→こちら)としてまとめられました。その『銀の匙』に安野光雅さんが新たに挿絵をつけました。美しい装丁の本書には、ふんだんに脚注がつけられており、明治・大正期の子どもの生活が、生き生きと描き出されています。この機会にぜひ読んでみませんか。

 

 

【ノンフィクション】

『民主主義は誰のもの?』ブランテルグループ/文 マルタ・ピナ/絵 宇野和美/訳 あしたのための本(1) あかね書房 2019/7/20

民主主義は誰のもの? (あしたのための本)
プランテルグループ
あかね書房
2019-07-22

このシリーズは、「日本は、第二次世界大戦のあと、戦争の悲劇を繰り返さないために日本国憲法を制定し、民主的で平和な国を築いてきたはずだったが、そうなっているだろうか」という翻訳者の宇野和美さんの問いかけで始まります。この本はスペインで1977年に出版されました。「みんなが参加して、みんなできめる。それが民主主義だ。」、「ほんとうに民主的な人は、誰の意見にも耳をかたむけ、平等で、公平で、勝っても負けても、いさぎよく堂々としているはずだからだ。」そして、それを判断するためには「情報がよくいきわたっていなければならない。」と書いてあります。「自分たちの社会は自分たちできめる」というテーマでの政治学者宇野重規さんの解説も読みごたえがあります。

 

『独裁政治とは?』ブランテルグループ/文 マルタ・ピナ/絵 宇野和美/訳 あしたのための本(2) あかね書房 2019/7/20

独裁政治とは? (あしたのための本)
プランテルグループ
あかね書房
2019-07-22

「独裁者は、なかまに気前よく、賞をあたえたり、土地をプレゼントしたりする。ときには、自分のものではないものまで、あげてしまう。独裁者は法律であり(独裁者だけが、法律をつくる)、正義だから(独裁者の友だちだけが、裁判官になれる)、どうにでもなれる。」という一文に、あれ、これ、今の日本かしらと感じてしまいました。こちらの本では、社会学者佐藤卓己さんが「独裁者はどうしてうまれるのか」というテーマで解説を書いています。

 

『社会格差はどこから?』ブランテルグループ/文 マルタ・ピナ/絵 宇野和美/訳 あしたのための本(3) あかね書房 2019/7/20

社会格差はどこから? (あしたのための本)
プランテルグループ
あかね書房
2019-07-22

「人はみな平等だ。けれども、世のなかには、ちがいをつくりだすものがある。」と冒頭で投げかけてきます。どうしてこの世の中に格差が広がるのか、それを狭める方法があるのか、基本的人権に触れながら、それを考えるように促します。こちらでは「格差のない社会をつくるには」と題して社会学者の橋本健二さんが解説を書いています。

 

『女と男のちがいって?』ブランテルグループ/文 マルタ・ピナ/絵 宇野和美/訳 あしたのための本(4) あかね書房 2019/7/20

女と男のちがいって? (あしたのための本)
プランテルグループ
あかね書房
2019-07-22

男女の違いは、体のつくりだけで同じ人間だと、しかし育てられ方で違いが出てくると、この本の作者は言います。本来は、ひとりひとりが違っていて、男女というだけで、決めつけることではないと。社会全体が、そんなふうに既成の型にはめずに子どもを育てられたらどれだけいいだろうと思います。こちらでは社会学者、今野美奈子さんが「ひとりひとりが社会のあしたをつくる」と題して解説しています。

 

以上、「あしたのための本」4冊は2016年ボローニャ・ラガッツィ賞ノンフィクション部門最優秀賞を受賞しています。(あしたのための本公式サイト→こちら

 

【その他】

『読書教育の未来』日本読書学会/編 ひつじ書房 2019/7/22

読書教育の未来
ひつじ書房
2019-07-22
 
日本読書学会60周年記念事業としてまとめられた学術書です。刊行の趣旨には「日本読書学会の特色の一つは、教育学・心理学・社会学・言語学・医学・図書館学・その他諸科学等、広範にわたる研究分野の会員が、それぞれの問題関心と方法論とをもって、多様な切り口から子供の発達と読書にかかわる知見を経験的に、あるいは実証的に追及する点にあります。」とあります。「読書の発達」、「読むことの科学」、「読みの教育」、「社会と読書」の4つの章で論じられた30以上の論考で構成されており、まさに読書について学際的に深めた研究書として、子どもと本に関わる人にとって必読の1冊です。
 

 

『北海道の大自然と野生動物の生態をモチーフに絵本創作法を語る―手島圭三郎仕事の流儀』手島圭三郎・川島康男/著 絵本塾出版 2019/8

しまふくろうのみずうみ』(出版当時リブリオ出版/現絵本塾出版)で1982年に日本絵本賞受賞を、『きたきつねのゆめ』(前作と同じ)で1986年にイタリア・ボローニャ国際児童図書展グラフィック賞を受賞した木版画家手島圭三郎にノンフィクション作家川島康男さんが、創作方法や、絵本作りにかける思いを丁寧に聞き出した対話集です。小樽にある絵本・児童文学研究センター理事長、工藤左千夫氏の「人間中心主義の擬人化された動物絵本には見向きもしない彼の頑固さこそ、現在、求められている優れた作家像ではないか。手島氏の逆擬人化された手法こそ、人間中心主義から外れ、生きとし生けるものへの賛歌が自明となる。そして、そこへ至る苦悩の深さと生きがいとの交錯に、手島氏の本領を見る。」という帯の文章のまま、手島さんの絵本にかける思いが、ずっしりと伝わってきます。また134点もの木版作品も収められ、画集としての質も高い1冊です。(公式サイト→こちら

 

 

『ゲンパッチ― 原発のおはなし☆子どもたちへのメッセージ』ちづよ/著 石風社 2019/8/10

ゲンパッチー 原発のおはなし☆子どもたちへのメッセージ
ちづよ
石風社

先日の台風15号による千葉県をはじめとする首都圏で起きた広範囲な停電は、私たちの生活がいかに電気に依存しているか、また電気や電信がライフラインを支えているかについて私たちに突きつけました。普段、私たちはコンセントの向う側がどうなっているか、知らずに生活をしています。電線、電柱がどのような役割をし、そもそもその電気がどこで作られて送られているのか、無意識に使ってきていることでしょう。この本は、そんな疑問をもった子どもたちに応える漫画作品です。さまざまな発電の方法と、そして原発の問題を子どもでもわかりやすく解説してくれています。東日本大震災の津波による福島第一原子力発電所のメルトダウンについて、またそもそも原発政策が使用済み核燃料の処理施設もままならない不確かなものであること、その処理には100年単位の時間が必要であり子孫に負の遺産になっていることなど、包み隠さず、丁寧に描かれています。今、また関西電力をめぐって大きなお金が動いたとニュースで取り上げられています。なぜそこに巨額のお金が動くのか、子どもたちに説明を求められても答えられないおとなにも、そのからくりをしっかりと伝えてくれています。多くの人に手に取ってほしい1冊です。(公式サイト→こちら

 

 

『世界はたくさん、人類はみな他人』本橋成一/著 かもがわ出版 2019/8/15

『炭鉱(ヤマ)』で写真家デビューしてから半世紀、チェルノブイリ原発事故の被災地で暮らす人々を撮影した『ナージャの村』では映画監督として評価の高い本橋成一さんのエッセイです。2013年には写真絵本『うちは精肉店』(農山漁村文化協会)で、第23回けんぶち絵本の里大賞「びばからす賞」、第61回産経児童出版文化賞「JR賞」を受賞しています。タイトルの「世界はたくさん、人類はみな他人」は、日本がバブル景気に向かう頃に盛んにCMで流れた「世界は一家、人類みな兄弟」というキャッチコピーに対するアンチテーゼです。世界の紛争地や被差別地域を真摯な目で追ってきた著者には「風土、食べもの、着るもの、言葉、そして宗教も歴史もみんな違うのに、世界がひとつで、人類がみな兄弟であるわけがないことに気がついた。そしてそんなことを言い出す人や国にかぎって、侵略戦争に加担したり、植民地づくりに精を出したりするものだとわかった。」と映るのです。徹底的に弱者に寄り添い、いのちを真摯にみつめてきた本橋さんの姿勢は、現代社会が忘れてしまっているものを思い起こさせてくれました。(公式サイト→こちら

 

 

『山中恒と読む修身教科書 戦時下の国体思想と現在』山中恒/著 子どもの未来社 2019/8/15

 

失われた20年の教育改革は、エリート主義的改革でした。新自由主義の考えのもと、勝つか負けるかは自己責任だとし、その他大勢の無才はせめて実直な精神さえ養っておけばよいという国の考えが底流にあり、巧妙に道徳を教科化していきました。管理しやすい人材を作ることが、道徳教育の究極の目的です。その背景にあるのが戦前の修身です。「教育勅語」を大臣室に掲げる人が文部科学省のトップにつきました。これからどのように文部科学政策が動いていくのか、刮目しておく必要があります。児童文学者の山中恒さんは、1931年生まれで修身の授業を受けた体験者です。そこでなにが子どもたちに刷り込まれていったのか、子どもに本を手渡す人はきちんと把握していく必要があります。2017年に出版された『戦時下の絵本と教育勅語』(公式サイト→こちら)と合わせて読んでもらいたいと思います。「週刊読書人」(10月4日号)に書評も掲載されています。

 

(作成K・J)