2019年11月、12月の新刊から(その1)絵本


2019年10月、11月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、絵本の新刊作品を紹介します。(一部、11月以前のものも含まれます)

読み物については来週公開予定です。

ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。出版されたすべての新刊本を購入して読むことはできませんが、毎月、教文館ナルニア国の新刊本コーナー、クレヨンハウス新刊本コーナー、横浜日吉にあるともだち書店など、信頼できる児童書の目利きのいる書店にある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。今回は一部寄贈された作品も含まれています。

 

(なお、これまで画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用してきましたが、各出版社の著作権許諾方針にしたがい、書影を利用することにしました。許諾許可が出ないものについては、書誌事項のみ記載し、出版社のサイトへのリンクを貼っています。そちらでご確認ください。)

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【絵本】

 

『「へてかへねかめ」おふろでね』宮川ひろ/作 ましませつこ/絵 童心社 2019/10/20(出版社サイト→こちら

昨年12月29日に95歳で亡くなられた児童文学作家の宮川ひろさんの遺作です。宮川さんのご近所にお住いの村松和子さんのお宅で親子三代にわたって口伝えで伝わってきた入浴時の唱え歌が「へてか へねかめ かめかめ かめか かめの おのたま おちょりこ ちょりこ すっぽんかいの てきてきとんぼ こうとんぼ はりまの べっとう ちょうざえもん」だそうです。村松さんは長野県出身、その地域で伝わってきたわらべうたなのか、おかあさんのご実家だけで伝わってきたのか、節回しも今では詳細がわからないとのことです。お風呂に温まってこれを3回唱えるという習慣が、村松家で長く続いてきたことに宮川さんは「子どものときに毎日となえて、もらいこんできたことばは、あしたをいい日にする力をわきたたせてくれるのではないでしょうか。」と思ったと、あとがき(2018年秋)に書いてあります。ましませつこさんの明るく柔らかな絵が、祖母と孫の優しい時間を包み込んでくれているようです。

 

 

『おうさまのこどもたち』三浦太郎/作 偕成社 2019/11(出版社サイト→こちら

ある国の王様には10人のこどもがいました。ある日王様は自分を継ぐ者を決めるため、こども達に町へ出て人々の暮らしをよく見てくるようにと伝えます。それぞれのこどもは、自分が好きなことをして生きていくことを決めます。例えば花が好きな子は花屋に、乗り物が好きな子はメカニックに、歌が好きな子はアイドル歌手にというように。10番目の末っ子だけはなりたいものが見つからず「みんなが安心して暮らしていけたらいいな」と願っていました。王様は10番目の子に王位を譲り、兄弟姉妹が得意なことを活かしてこの国を豊かにしていくというお話です。昔話のテーマのようですが、今のこどもたちに共感できる職業が出てくるので、小さな子でも理解できるでしょう。三浦太郎さんらしい明るくポップにデザインされた絵も、楽しい絵本です。

 

 

『おばけのジョージー こまどりをたすける』ロバート・ブライト/作 こみやゆう/訳 好学社  2019/11/22 (出版社サイト→こちら

ちいさなおばけのジョージーはホイッティカーさんちのやねうらに住んでいます。優しい心の持ち主のジョージーは、庭の木の枝先にこまどりが巣を作ったのを見て、卵が落ちてしまわないか心配をします。風の強いある夜のこと、ジョージーはホイッティカーさんの帽子で落ちてきた卵を受け止めて、やねうらで保護をします。ホイッティカーさんは、お気に入りの帽子が無くなりこまってしまうのですが、帽子の中でこまどりの赤ちゃんが孵っているのを知って驚きます。ジョージーのともだちのねこやねずみも愛らしい小さな子も楽しめる絵本です。

 

 

 

 

『ちいさなタグボートのバラード』ヨシフ・ブロツキー/詩 イーゴリ・オレイニコフ/絵 沼野恭子/訳 東京外語語大学出版会 2019/11/29(出版社サイト→こちら

2018年に国際アンデルセン賞画家賞を受賞したロシアのイーゴリ・オレイニコフさんの絵本が、翻訳出版されました。1987年にノーベル文学賞を受賞した詩人ヨシフ・ブロツキーが子どもたちのために書いたちいさなタグボートを主人公にした物語に、オレイニコフが美しい絵を描いています。小さなタグボートは、港の中で外国航路の大型船を曳航しながら、まだ行ったことのない異国へ思いを馳せます。それでも自分の持ち場はここであると言い聞かせ、愚直に同じことを繰り返していく。この詩はブロツキーが1962年にソ連の児童向け雑誌『Костер(たき火)』に発表した詩人としてのデビュー作で、イデオロギーの締め付けの厳しかったソ連時代の作品だそうです。そうした背景を知って読むと、さらにこの物語には深い意味があることがわかってきます。おとなはこの物語を深く味わい、こどもは小さなタグボートがいつも同じように活躍することに安心感を抱く。そんなさまざまな読み方が出来る作品です。

 

 

 

『うるさく、しずかに、ひそひそと』ロマナ・ロマニーシン、アンドリー・レシヴ/作 広松由希子/訳 河出書房新社 2019/10/30(出版社サイト→こちら

ウクライナの作家夫妻が手がけたこちらの絵本は、ブラティスラヴァ世界絵本原画展で2017年に金牌を受賞、2018年には下に紹介する『目で見てかんじて世界がみえてくる絵本』とともにボローニャ・ラガッツィ賞ノンフィクション部門の最優秀賞を受賞しました。この作品では、「聞こえる」ということがどういうことなのかを、多面的に分析し、それを視覚的に表しています。また、聞こえない人とのコミュニケーションについても手話についてページを割いて説明しています。(しかも日本語版では五十音の指文字になるなど細やかな配慮がなされています)
音や「聞く」ということをグラフィカルに表現しているその手法もとても面白く、小学生からYA世代、おとなまで広く楽しめると思います。翻訳者の広松由希子さんご自身が、ブラティスラヴァやボローニャでこのご夫妻の作品に目をとめてこられ、初邦訳に至ったことをカバー見返しに記していらっしゃいます。

 

 

 

『目で見てかんじて 世界がみえてくる絵本』ロマナ・ロマニーシン、アンドリー・レシヴ/作 広松由希子/訳 河出書房新社 2019/11/30(出版社サイト→こちら

上記の絵本と共にボローニャ・ラガッツィ賞ノンフィクション部門最優秀賞受賞したこちらの絵本は、目で見ること、視覚について、色の認識についてなど「見る」ということを、詳細に、しかし子どもでも理解できるようにグラフィカルに表現しています。編集者の方によると、「パントーンインク4色では足りず、色の三原色を表すために4色CMYKを足して8色を通したページがあります」とのこと。色について伝えるための贅沢な印刷であるということは、絵本を手に取ればわかると思います。色や、視覚についての科学的な知識から、目に見えないものをどう捉えるかという思索的なことまで、また目が見えない人のために点字についてもきちんと説明されており、小学生からYA世代、そしておとなまで一緒に楽しむことができるでしょう。

 

 

 

『せかいのくにでおめでとう!』野村たかあき/作 澤田治美(関西外国語大学教授)/監修 講談社 2019/11/26(出版社サイト→こちら

新しい年を迎えての挨拶のことば「しんねんあけましておめでとう」は、アメリカでは「Happy New Year!」、それではルーマニアでは?スペインでは?どこの国でも新しい年を喜び祝うことばがあります。ひとつの国につき見開き2ページを使って、世界14か国のお正月の様子と新年の挨拶を、版画で鮮やかに描いています。こうした作品を通して、子どもたちと一緒に世界へ目を向ける機会ができるとよいですね。

 

 

 

 

 

『ちいさいおうち』バージニア・リー・バートン/文と絵 石井桃子/訳 岩波書店 2019/11/27改版 (出版社サイト→こちら

ロングセラーの『ちいさいおうち』が、2001年の改版されて以来のリニューアルで、出版されました。原書の表紙のちいさいおうちの玄関の前に記されていた「HER-STORY」という文字が、これまでの日本語版では消されていましたが、今回はきちんと記されています。2017年に開催されたGalleryA4でのヴァージニア・リー・バートン展では、「HISTORYという歴史の概念は、男性だけが歴史を作る「His-story」ではなく、女性もまた歴史の主人公であるという彼女からのメッセージが記されている」(→こちら)とありましたが、日本語版にようやくそのことが反映されたと嬉しく思いました。またアメリカで出版された70th Anniversary Editionに掲載されたヴァージニアの息子Aris Demetrisの「母の思い出」の一文が松岡享子さんの翻訳で掲載されています。フォントも大きくなって読みやすくなっています。ロングセラーとして所蔵している館も、新版を入れて読み比べて見てほしいと思います。

 

 

『みずたまり』アデレイド・ホール/作 ロジャー・デュボアザン/絵 こみやゆう/訳 好学社 2019/12/3(出版社サイト→こちら

ある日、めんどりが大きなみずたまりをのぞき込んでびっくり。「コケ―ッ!まあ、たいへん!かわいいめんどりがみずのなかにおっこちてるわ!」そこであわてて七面鳥を呼んできますが、「ちがう!おっこちてるのは、りっぱな七面鳥だ」という具合で、次々に動物たちを呼んでくるのですが、そのたびに大騒ぎになります。でも、太陽の陽射しでみずたまりはいつのまにか乾いてしまい、みんなホッと一安心という、なんともユーモラスなおはなしです。デュボアザンの描く動物たちの表情もまた愉快です。『おばけのジョージー こまどりをたすける』と同様にこみやゆうさんの訳も、とても読みやすいです。

 

 

『父さんがかえる日まで』モーリス・センダック/作 アーサー・ビナード/訳 偕成社 2019/12 (出版社サイト→こちら

この作品はモーリス・センダックが1981年に発表した「OUTSIDE OVER THERE」を、1983年に福音館書店から脇明子さんの翻訳で出版された『まどのそとのそのまたむこう』(品切れ)の改訳新版で、偕成社から出版されました。『まどのそとのそのまたむこう』については福音館書店のサイト「ふくふく本棚」に小風さちさんがエッセイを書いていらっしゃいます。(「命がけのお話」→こちら)福音館書店版が出た時も、この作品が描かんとすることを、どう理解すればいいのか、話題になったものです。アーサー・ビナードさんの翻訳は、脇明子さんの翻訳と比べると、脇さんが原書に忠実に翻訳しているのに対して(56行)、今の子どもたちが物語を読み解けるように、原書には無いことばが、かなり足されています(78行)。タイトルも脇さんが原書に忠実なのに対して、物語の最後に登場する父親からの手紙の一節から『父さんがかえる日まで』と付けられており、ここにも翻訳者の意図するものが見えてくるようです。詩人であるアーサー・ビナードさんが、この作品から何を汲み取ろうとされていたのか、残念ながら出版記念トークに参加できず伺えないままですが、機会があれば確かめてみたいと思います。原書「OUTSIDE OVER THERE」と、ぜひ読み比べてしてみてください。翻訳とは何かを考えることができて、面白いです。

 

 

(作成K・J)