2020年2月、3月の新刊より(物語絵本・詩の絵本)


2020年2月、3月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育・研究者向けなど)の中から、今回は冊数が多いのでいくつかにわけて紹介します。1回めはグレタ・トゥーンベリについて書かれた本を紹介(→こちら)、2回目はその他のノンフィクション絵本を紹介(→こちら)しましたが、今回は物語絵本を12冊紹介します。(一部1月に出版されたものもあります)

 

ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えたものの中から選んでいます。出版されたすべての本を購入して読むことはできませんが、毎月、教文館ナルニア国の新刊本コーナー、クレヨンハウス新刊本コーナー、代官山蔦屋書店、横浜・日吉にあるともだち書店など、信頼できる児童書の目利きのいる書店で選書して購入し、読んでから記事を作成しています。

 

(なお、これまで画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用してきましたが、今後は使用せずに各出版社の著作権許諾方針にしたがい、書影を利用することにしました。許諾許可が出ないものについては、書誌事項のみ記載し、出版社のサイトへのリンクを貼っています。そちらでご確認ください。)

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【物語絵本】

『たったひとりのあなたへ フレッド・ロジャーズからこどもたちへのメッセージ』エイミー・リード/文 マット・フェラン/絵 さくまゆみこ/訳 光村教育図書 2020/1/29 (出版社サイト→こちら

 

アメリカには1968年から2000年まで「ロジャースさんのご近所さん」という子ども向けの番組があったそうです。この番組はエミー賞にノミネートされたり、ピーポディー賞や国立テレビ芸術科学院とテレビ批評家協会からの特別功労賞などを受賞しているのですが、この絵本はその番組を作ったフレッド・ロジャーズの子ども時代を描いています。フレッドはアレルギーがあって虚弱体質だったこともあり、いじめに遭います。しかし、フレッドのおじいちゃんはいつも味方になってくれてこう言います。「おまえはおまえのままでいいんだよ。わたしは、そのままのおまえがだいすきなんだ」と。このことばを思い返すたびにフレッドは勇気が湧いてきました。成長とともに体力もつき、友人も出来ていきます。大学生になった時に、悪ふざけするテレビ番組を見ていて、子どものための新しいテレビ番組を作ろうと決意します。自分が子ども時代に受け取った「そのままのあなたでいいんだよ」というメッセージを子どもたちに伝えるためでした。そうやって制作したのが「ロジャーズさんのご近所」という番組で、通算で895話になったということです。

 

 

 

 

 

 

 

『空とぶ船とゆかいななかま』バレリー・ゴルバチョフ/再話・絵 こだまともこ/訳 光村教育図書 2020/1/31 (出版社サイト→こちら)

 

むかしむかし、ある国の王さまがこんなお触れを出します。「空飛ぶ船にのって、お城まできたものを王女と結婚させてやろう」と。村の人々から「世界一のまぬけ」と呼ばれていた若者は、「おいらが旅に出て、空飛ぶ船をさがしてくる」と決意して旅に出かけます。しばらく行ったところでおじいさんに出会います。おじいさんの呼びかけに答え食べ物をわけてあげました。実はそのおじいさんは不思議な力を持っていたのです。おじいさんの言うとおりにすると、空飛ぶ船がみつかります。そして途中で出会ういろいろな特技をもっている男たちを「一緒にお城へ行こう」と次々に誘っていきます。お城につくと、その男たちは王様の無理難題を次々に解決していきます。『シナの五にんきょうだい』や『王さまと九人のきょうだい』ととても似たウクライナの昔話です。

 

 

 

 

 

 

『プレストとゼスト リンボランドをいく』アーサー・ヨーリンクスとモーリス・センダック/文 モーリス・センダック/絵 青山南/訳 岩波書店 2020/2/5 (出版社サイト→こちら

 

モーリス・センダックが生前友人のアーサー・ヨーリンクスと即興で作った絵本の原稿が、モーリス・センダック没後にファイル整理していたアシスタントによって発見され、絵本になったものです。もとはモーリス・センダックが依頼を受けて、ロンドン交響楽団によるヤナーチェクの「わらべうた Říkadla/ Nursery Rhymes」公演のプロジェクション用に描いた絵でした。その「わらべうた」は19の小唄で構成され、「砂糖大根のお嫁入り」「破れズボンに」「婆さんが魔法をかけると」「ホーホー牛が行く」「白い山羊が梨集め」「山羊が乾草に寝そべって」「熊さん丸太に乗っかって」などユニークな題がついています。アーサーとモーリスがそれらの絵を、思いつくままにつなぎ合わせて別の愉快なおはなしに仕立てているところがこの絵本の面白さです。ナンセンスとユーモアが詰まった不思議な絵本、「プレスト」と「ゼスト」はふたりのニックネームだったそうで「われらの友情の記念だ」とばかり、ふたりの大人が笑い転げながら作っていった勢いを感じながら、その面白さを味わってほしいと思います。

 

 

 

 

『100』名久井直子/作 井上佐由紀/写真 福音館書店 2020/2/10  (出版社サイト→こちら

 

福音館書店月刊誌「ちいさなかがくのとも」2016年12月号のハードカバー版です。「きんぎょが1」と水槽に泳ぐ1匹の金魚の写真、次のページを開くと「100」と100ぴきの金魚が画面から溢れてきそうです。表紙の風船のほかに、本文ではわごむ、きんたろうあめ、スーパーボール、貝殻にどんぐり、いろいろなものの「100」が子どもたちに示されます。この絵本が対象としているのは3才くらいの子どもたち。「1」と「100」の対比は、「ひとつ」と「いっぱい」というまだ数量について漠然としたイメージしか持たないその年代の子どもたちに、明確な数字を理解する機会を与えてくれ、新鮮な学びになっていくと思います。子どもたちと一緒に数を数えて楽しめるといいですね。

 

 

 

 

 

『おひめさまになったワニ』ローラ・エイミー・シュリッツ/作 ブライアン・フロッカ/絵 中野怜奈/訳 福音館書店 2020/2/15 (出版社サイト→こちら

 

英米で子どもたちに人気の異色のプリンセス本って聞くと、一体どんなお話だろうかと気になりますね。コーラ姫はいずれ女王になることを期待され、王さまとお妃さまによって厳しいしつけと教育を受けることになります。しかも立派な女王になるためだからと「コーラひめのよいところをほめるのはやめて、女王になるのにたりないところはないか、いつもさがす」そんな厳しさだったのです。そのため7才になったコーラ姫は朝から晩まで遊ぶ暇なく、勉強や習い事に明け暮れることになります。ここまできて、あれ?これは架空のおはなしではなく、現実にもあることなのだと感じる人が多いのではないでしょうか。ある晩、コーラ姫は名付け親の妖精に話し相手になるペットがほしいと手紙を書きます。翌朝、目が覚めるとベッドの足元には大きな箱が届けられていて、中からなんとワニが出てきたのです。そしてワニは妖精から届けられたペットで、コーラ姫の身代わりになるから、外で自由に遊んでおいでというのです。ところがワニは好き放題に王さまやお妃さまを困らせます。しかしその間にいろんなことを体験したコーラ姫は自分の意見を堂々と言うことができ、王さまもお妃さまもコーラ姫の気持ちを大切にするように変わっていきます。7つのおはなしに分かれている少し長い作品で、絵本というよりは幼年童話に分類できると思いますが、幼稚園児でも読んでもらえれば楽しむことができる作品です。

 

 

 

 

 

『きっとあえるーわたりどりのともだちー』鎌田暢子/作 福音館書店 2020/2/15 (出版社サイト→こちら

 

マガンのトットとコハクチョウのクークーの友情物語です。実際の野生の鳥の世界では種を越えた交流は起きませんが、渡り鳥としてシベリアから飛んでくるマガンとコハクチョウが毎年同じ越冬地にやってくるのを見ていると、そんな物語が生まれてくるのも頷けます。(越冬コハクチョウとマガン→公益財団法人但馬ふるさとづくり協会・兵庫)
はじめて日本で越冬することになったトットとクークーは同じ田んぼで籾を食べていてごっつんこ。ぶつかったことで知り合って仲良しになります。お互いに猫やきつねに狙われた時は、助け合います。そうして友情をはぐくんだ2羽ですが、春の訪れとともにお別れの時がやってきます。北に飛んで行くと言っても北の国は広いから会えないかもしれない。でも来年の秋にここで再会しようねと約束をして、それぞれ飛び立っていくのです。なお、この絵本は上記のリンク先とは別の島根県宍道湖の自然を守る公益財団法人ホシザキグリーン(→こちら)の取材協力により描かれました。

 

 

 

 

『わたしのやま』フランソワ・オビノ/作 ジェローム・ペラ/絵 谷川俊太郎/訳 世界文化社 2020/2/20 (出版社サイト→こちら

出版社の紹介文を許可をいただいて転載します。

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山に暮らす羊飼いと狼の生活は、敵か味方かという私たちが陥りがちな単純な二元論への疑問を投げかける
一見、相対する羊飼いと狼の同じ山でのそれぞれの生活を描き、敵か味方か、正義か悪か、といった単純化したフィルターを外して物事を見ることの大切さを伝える。羊飼いの視点と狼の視点で表・裏表紙の両サイドから読むことができ、しかも文章は両サイドとも同じもの。一種の仕掛け絵本としてのユニークさもある。フランスでは『アンコリュプティブル賞』(2019-2020)を受賞

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この絵本は、左右どちらも表紙です。片方は、山に住む羊飼いの目線から描かれ、反対側からはその山に棲むおおかみの視点から描かれています。羊飼いにとっては貴重な資源でもある羊を襲ってくるおおかみは危険で厄介な存在です。それでも「やまはわたしのふるさと やすらかでしあわせをかんじるところ」なのです。一方のおおかみにしてみると山は自分たちの住処であり、子育てをするところ。しかし唯一怖いのはライフル銃を持って命を狙ってくる人間という存在なのです。それでも「やまはわたしのふるさと やすらかでしあわせをかんじるところ」なのです。そしてお互いに「わたしのやまをほかのものとわかちあうのでむずかしいが ここがすきになったらだれでもすめるだけのひろさはある」と結びます。お互いの領分を侵さずに共存できることが一番の道でしょう。これまで人間が力ずくで自然を人間のために利用してきましたが、もう一度この地上に棲む他の生物たちと共存していく道を謙虚に考える必要があります。そんな問題提起を投げかけてくれる絵本です。両方から読んでいって真ん中のページで出会うという作りも面白いですね。

 

 

 

 

『さくらの谷』富安陽子/文 松成真理子/絵 偕成社 2020/2 (出版社サイト→こちら

 

この絵本のことについて、私も参加した昨年2019年10月27日にJBBY世界の子どもの本講座・富安陽子さん「物語が生まれる時」(→こちら)の中でお話をしてくださいました。お父様が亡くなられた時、葬儀の夜に夢を見たそうです。3月6日、まだ冬の山並みなのに、奥山の谷間に満開の桜が咲いていて、そこでお父様がオニたちとお花見をしていたそうです。お重箱につめたお弁当(自分が小さい頃の運動会に必ず入っていた肉のしぐれ煮にとんかつ、ちくわが入っていて)で酒盛りしていて、そのうちかくれんぼをすることになって、オニを探していると、いつのまにか亡くなった父や伯母たちを追いかけていたそうです。「ああ、みんなここにいたんだね」と笑いかけたところで夢から覚めたそうです。その夢が、ほぼそのまま、松成真理子のふんわりと優しさを包み込むような絵で描き出されています。不思議だけど、心が温かくなるそんな絵本です。

 

 

 

 

 

 

『おやこでよもう!金子みすゞ こんぺいとうはゆめみてた』高畠那生/絵 坂本美雨/ナビゲーター 矢崎節夫/監修 JULA出版局 2020/2 (出版社サイト→こちら

 

親子で金子みすゞの詩を読もうというコンセプトで作られたカラフルな詩集絵本です。本の題名になった「こんぺいとうはゆめみてた」の他には、「あさとよる」「だれがほんとを」「こだまでしょうか」や「もくせい」など9編の詩が収められています。高畠那生さんの飄々とした絵も味わい深く、ミュージシャンの坂本美雨さんが「親子で読む」というポイントでナビゲートするページがあったり、それぞれの詩に監修者の矢崎節夫さんが親子で読む時の手がかりになるコメントを書いていたりと、読みやすくなる工夫が満載されています。ぜひ、親子で声に出して読んでほしいなと思います。なお、「本のこまど」で紹介しそびれていましたが、昨年11月に『すずと、ことりと、それからわたし』(→こちら)が同じメンバーで出版されています。どちらも、小ぶりなのでお出かけ先にも持って行けそうです。

 

 

 

 

 

 

『しばふって、いいな!』レオーネ・アデルソン/文 ロジャー・デュボアザン/絵 こみやゆう/訳 瑞雲舎 2020/3/1 (出版社サイト→こちら

 

1960年に出版された「PLEASE PASS THE GRASS!」の初邦訳です。タイトルではGRASSが「しばふ」と訳されていますが、絵本を読むとわかるのですがイネ科の植物全体を指す「GRASS」です。人間にとっては気持ちの良い草原も、虫たちにとってはジャングルであり大切な住処。牛たちにとっては美味しくて新鮮な餌です。動物や昆虫の視点からみる草は、自然環境の中でとても大切な役割があるのですね。『しばふって、いいな!』というタイトルは、草地に寝そべったり、お友達と追いかけっこして遊んだりできる子どもたちの格好の遊び場としての視点で考えられていて、翻訳者こみやさんの思いをそこで感じることが出来ました。新型コロナウィルス感染拡大で、大人も子どもも行動が制限されてストレスが溜まってしまいがちなこの季節。青々とした草原に出かけて新鮮な空気を胸いっぱいに吸いたいですね。

 

 

 

 

 

 

 

『ピーターとオオカミ』セルゲイ・プロコフィエフ/作 降矢なな、ペテル・ウフナール/絵 森安淳/文 偕成社 2020/3 (出版社サイト→こちら 

 

この絵本は、長野県松本市で昨年2019年夏に行われた「セイジ・オザワ・松本フェスティバル」(→こちら)の子どものための音楽物語「ピーターとオオカミ」のプロジェクションとして描かれた絵を元に作られました。オーケストラの曲に合わせてどんどん動くように描かれたものが絵本になるというのも、とても面白い試みです。2月29日から4月19日まで銀座・教文館ウェンライトホールで開催中の「降矢なな絵本原画展」(→こちらでは、プロコフィエフの「ピーターとオオカミ」の音楽をBGMにして、この絵本原画をすべて見ることができます。おじいさんと森の近くに住んでいるピーターは庭の木戸を開けて散歩に出かけたのはよかったのですが、木戸を閉め忘れます。すると飼っているアヒルのバディが抜け出てしまうのです。おじいさんはオオカミが来るから勝手に野原へ出ることは危ないと怒るのですが、怖いもの知らずのピーターはそのオオカミを捕まえようと画策を練るのです。オオカミの表情だけでなく、どの場面も生き生きとしていておはなしの世界にも引き込まれていくことでしょう。

 

 

 

 

『あのほん』ひぐちみちこ/作 こぐま社 2020/3/10 (出版社サイト→こちら)

 

赤ちゃんが最初に発する「あああ~」という声を題材にした赤ちゃんとママに贈る絵本です。1月に生まれて3月に「あ~」と言った赤ちゃんは、「あ~さ」「あ~か」「あ~お」「あ~り」「あ~め」と「あ」で始まる言葉を少しずつ覚えていきます。「あ~」って、ほんとうにいろいろな言葉に繋がっているのですね。ひぐちみちこさんによる『かみさまからのおくりもの』、『クリスマスおめでとう』(いずれもこぐま社→こちら)などと同じ貼り絵のやさしい絵本です。

 

 

 

 

(作成K・J)