2020年2月、3月の新刊より(読み物・その他)


2020年2月、3月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育・研究者向けなど)の中から、今回は冊数が多いのでいくつかにわけて紹介します。1回めはグレタ・トゥーンベリについて書かれた本を紹介(→こちら)、2回目はその他のノンフィクション絵本を紹介(→こちら)、3回目は物語絵本を紹介(→こちら)しました。今回は読み物です。(一部12月、1月に出版されたものもあります)

ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えたものの中から選んでいます。出版されたすべての本を購入して読むことはできませんが、毎月、教文館ナルニア国の新刊本コーナー、クレヨンハウス新刊本コーナー、代官山蔦屋書店、横浜・日吉にあるともだち書店など、信頼できる児童書の目利きのいる書店で選書して購入し、読んでから記事を作成しています。

(なお、これまで画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用してきましたが、今後は使用せずに各出版社の著作権許諾方針にしたがい、書影を利用することにしました。許諾許可が出ないものについては、書誌事項のみ記載し、出版社のサイトへのリンクを貼っています。そちらでご確認ください。)

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【児童書】
幼年童話

『きれいずきのマグスおばさん』イーディス・サッチャー・ハード/文 クレメント・ハード/絵 小宮由/訳 大日本図書 2019/12/20 (出版社サイト→こちら

小宮由さんが「子どもたちがワクワクしながら、主人公や登場人物と心を重ね、うれしいこと、悲しいこと、楽しいこと、苦しいことを我がことのように体験し」てほしいと願って、海外の幼年童話を選りすぐって翻訳してくださっている「こころのほんばこ」シリーズ(→こちら)の1冊です。なにかに一生懸命になるあまり、他のことが抜けてしまうことってよくあります。スージーの家に来てくれる家政婦のマグスおばさんは、きれい好きなのはよいのですが、何かが少しでも汚れていると許せなくて他のことが目に入らなくなってしまいます。そんなマグスおばさんはスージーとの約束で動物園に出かけたのですが・・・自分で物語を読み始めた子どもたちにおすすめの1冊です。

 

 

 

 

『デイビッド・マックチーバーと29ひきの犬』マーガレット・ホルト/文 ウォルター・ロレイン/絵 小宮由/訳 大日本図書 2020/1/20 (出版社サイト→こちら

こちらも「こころのほんばこ」シリーズの1冊、最新刊です。ある町に引っ越してきたばかりのデイビッドは、おかあさんに頼まれて近くのスーパーマーケットに出かけました。頼まれた3種類のお肉などを買って帰ってくる途中、スーパーの紙袋に穴が開いてお肉が次々落っこちてしまいます。それに気がついたデイビットが拾いに戻るたびに犬がたくさんついてきます。その様子を見た町の人たちはパレードだと勘違い。どんどんパレードに加わり、しまいにはブラスバントの人たちも入って町を練り歩くことに。デイビッドが家に帰るころには、デイビッドは町の有名人になっていたという、楽しいお話です。自分で読み始めた子どもたちにおすすめです。

 

 

 

 

 

YA向け

『窓』小手鞠るい/作 小学館 2020/2/9 (出版社サイト→こちら

アメリカ駐在中に自分でやりたいことをみつけ、父親と離婚してアメリカに残った母の遺品であるノートを受けとった中学生の窓香の心の成長を描く作品です。母が亡くなったと知って1年ほど経って届いたそのノートには、母が会えなくなった娘を思って綴った手紙が記されていました。母は自分の人生を生きるためにジャーナリストを目指してアメリカで学び、世界へと目が開かれルワンダやシリアなどの難民キャンプで子どもたちを支援する活動を始めていました。窓香はその手紙を通して、日本で生活していると意識せずに済むけれども、世界のあちこちで戦争が起きて、命が脅かされている子どもたちがいるという事実を知っていきます。そして「中学生の主張」のグループ発表のテーマとして「戦争と子ども」を提案します。母への複雑な想いを乗り越え、自らも広い世界を見ようとする窓香の姿はとても爽やかです。

 

 

 

 

【エッセイ】

『暇なんかないわ 大切なことを 考えるのに 忙しくて ル⁼グウィンのエッセイ』アーシュラ・K・ル⁼グウィン/著 谷垣暁美/訳 河出書房新社 (出版社サイト→こちら

2018年1月22日に88歳で亡くなったアメリカのファンタジー作家アーシュラ・K・ル=グウィンさん(訃報記事→こちら)が、晩年2010年10月から2017年9月まで書き記していたブログ記事より、選りすぐりの41篇をまとめたエッセイ集です。タイトルの『暇なんかないわ 大切なことを 考えるのに 忙しくて』は、ハーバード大学1951年卒業クラスの60年目の同窓会を前にして送られてきたアンケートへの彼女の答えです。その経緯は冒頭のエッセイ「余暇には何を」に書かれています。老いを自覚し、自分の生き方を振返り、人類の行く末も見据えた痛快な言葉は、読んでいて胸のすく思いがします。「自分自身の子どもたちが幼かったころにはまだ、私たち人類が子どもたちのための環境を全面的に破壊するとは限らないという希望がもてた。だが、私たちがそれをやらかしてしまい、目先の利潤を追求する産業主義に、ますます卑屈にひれふしている今、来るべき世代が人生でくつろぎと安らぎを得られるという希望はあまりにもか細く、それにすがるのは、道もない暗闇の中を長く進んでいくことだ。」(「余暇には何を」p18)と、未来を憂い、「空腹のノートルダム大聖堂」という記事の中では、「天は自ら助くる者を助くと彼らは言い、貧しい者や失業者は、過保護な政府に寄生する無能な怠け者に過ぎないとのたまう。貧困があることを否定しないが、貧困について知りたがらない人たちがいる。あまりにひどすぎる状況だし、どうせ自分には何もできないし、と言うのだ。そして、手を差し伸べる人たちがいる。」(p230)と述べ、貧困に直面している人々への温かな眼差しを向けています。ひとつひとつのエッセイは、その時々に感じたことを素直に書き記したブログだからこそ、解説者カレン・ジョイ・ファウラーは「ふだん着のル=グウィン、自宅でくつろいでいるル=グウィン」としての魅力があるとしています。『ゲド戦記』など物語の世界を創造して読者をそこへ引き込んでいく作品とは違う、晩年のル=グウィンの素顔にこのエッセイを通して触れてみるのもよいでしょう。

 

 

『人生の1冊の絵本』柳田邦男/著 岩波新書 岩波書店 2020/2/27 (出版社サイト→こちら

かねてより「大人こそ絵本を」、「絵本は人生に三度(幼少期、子育て期、中高年期)」、「大人の気づき、子どものこころの発達」ということを呼びかけてこられたノンフィクション作家柳田邦男氏の絵本紹介エッセイ。この本の中では、「1.こころの転機」「2.こころのかたち」「3.子どもの感性」「4.無垢な時間」「5.笑いも悲しみもあって」「6.木は見ている」「7.星よ月よ」「8.祈りの灯」というテーマで150冊の絵本が紹介されています。長く読み継がれた名作と呼ばれる絵本だけではなく、ここ数年の間に出版された新しい絵本も多く紹介されており、見落としていた作品はすぐにでも読みたくなります。「絵本は、子どもが読んで理解できるだけでなく、大人が自らの人生経験やこころにかかえている問題を重ねてじっくり読むと、小説などとは違う独特の深い味わいがあることがわかってくる。」とは著者によるあとがきの言葉(p336)は、深く頷くところです。ぜひ多くの人にこのエッセイを読んでいただき、そこに紹介されている絵本も手に取ってほしいと思います。

(作成K・J)