2021年3,4月の新刊から(その2)


3月、4月に出版された子どもの本のうち、(その1→こちら)で紹介できなかったものを紹介します。一部、見落としていた3月以前に発行された新刊も含まれています。

この度は4月15日に銀座・教文館ナルニア国へ選書に伺い、購入したものと、神保町にあるブックハウスカフェから取り寄せたものを、読み終えた上で紹介しています。

 

その他の書籍に関しては銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

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【絵本】
《物語絵本》

『オサム』谷川俊太郎/文 あべ弘士/絵 童話屋 2021/3/22(出版社サイト→こちら

巻末に掲載されている谷川さんの「ぼくのゆめ」という詩には、「おおきくなったらなにになりたい? と おとながきく いいひとになりたい と ぼくがこたえる(中略)えらくならなくていい かねもちにならなくていい いいひとになるのが ぼくのゆめ と くちにださずに ぼくはおもう」という一節があります。
谷川さんの思う「いいひと」をあべ弘士さんが絵に描いたら、ゴリラになったそうです。ゴリラの優しい表情を見ているとホッとします。子どもにもおとなにも読んでほしい絵本です。

 

 

 

 

『ともだちいっしゅうかん』内田麟太郎/作 降矢なな/絵 偕成社 2021/4(出版社サイト→こちら

1998年に『ともだちや』(→こちら)が出版されて23年。「おれたち、ともだち!」シリーズ(→こちら)の14冊目となるこちらの絵本は、『ともだちおまじない』(→こちら)と合わせて番外編に位置付けられます。
月曜日から始まって日曜日までロシア民謡の「一週間」のように、毎日きつねとその友だちの楽しいエピソードが描かれます。よく見ると、各曜日の最初のページは「月」「火」「水」などの漢字を模った絵になっています。そんなところも子どもたちが発見して喜びそうです。

 

 

 

 

 

 

『たべたのだーれだ?』たむらしげる/作 0.1.2えほん 福音館書店 2021/4/10(出版社サイト→こちら

月刊絵本「こどものとも0.1.2」2016年8月号のハードカバーです。ボードブックのページに穴が空いていて、向こう側に木の実や果物を食べている動物や虫の一部が見えています。それを予測しながらページをめくるのは、小さな子どもにとっては、まるで「いないいないばあ」遊びをしているような楽しさがあるでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

『まよなかのトイレ』まるやまあやこ/作 福音館書店 2021/4/10(出版社サイト→こちら

月刊絵本「こどものとも」年中向きの2010年6月号のハードカバーです。夜中にトイレに起きたひろこ。おかあさんは、小さな赤ちゃんのお世話の真っ最中で、ひろこはねこのぬいぐるみのみいこを連れて、トイレへ行くことになりました。不安な気持ちで暗い廊下に出ると、ぬいぐるみのみいこがすくっと立ち上がり、トイレまで先導してくれるのです。ぬいぐるみは、幼い子どもの不安な気持ちに寄り添ってくれる心強い存在です。そんな子どもの気持ちが柔らかなタッチの絵で丁寧に描かれています。

 

 

 

 

 

 

《ノンフィクション絵本》
『せかいでさいしょにズボンをはいた女の子』キース・ネグレー/作 石井睦美/訳 光村教育図書 2020/12/23 (2021/4/15第二刷発行)(出版社サイト→こちら

昨年12月に出版されていた絵本ですが、見落としていました。この度第二刷が発行されたので、紹介します。
この絵本のモデルになっているメアリー・エドワーズ・ウォーカーは1832年生まれです。メアリーが育った時代は、日本では江戸後期にあたります。彼女は小さなころから独立心と正義感に満ち溢れていました。そして当時、女性が身につけるべきと思われていた体を締め付けるドレスではなく、活動のしやすいズボンをはいて学校へ通うようになるのです。それは社会への挑戦でした。あとがきにはそのことを理由に何度も逮捕されたと書かれています。その度に「男の子のふくをきているんじゃないわ わたしはわたしのふくをきているのよ!」と主張したのです。その後、メアリーは南北戦争の際に北軍の軍医になり、医師を引退した後も女性の選挙権や、服装の自由についての権利を訴えて活動を続けました。ジェンダーについて考えるきっかけになる絵本です。

 

 

 

 

『女の子だから、男の子だからをなくす本』ユン・ウンジュ/文 イ・ヘジョン/絵 すんみ/訳 エトセトラブックス 2021/3/30(出版社サイト→こちら

「女の子は女らしく」「男の子は男らしく」というように性別によって行動を決めつけられることへの疑問をもち、性別の枠組みから自由になることの大切さを子どもたちにもわかりやすく解く韓国の作家による絵本です。日本と同様に儒教的な家父長制が重視されてきた韓国でも、急速にジェンダー問題への関心は高まっているようです。これからの時代、子どもたちがもっと自由に、自分のやりたいことに挑戦できるように、大人の凝り固まった固定観念をまずはほぐす必要があります。子どもと共に読みたい1冊です。

 

 

 

 

 

 

 

『雪虫』石黒誠/文・絵 たくさんのふしぎ傑作集 福音館書店 2021/3/30(出版社サイト→こちら

北国では、雪がふりはじめる前に飛び交う白い小さな雪虫のことを、冬の訪れを知らせる虫と親しんでいるそうです。
その雪虫の生態を北海道、富良野の森で一年間追った写真絵本です。雪虫は、不思議な生態を持っています。春にヤチダモの木の上で卵から孵った時と、夏にトドマツの根元の地下で過ごす時、白い綿毛を身にまとって雪虫になって飛んでヤチダモの森へ飛んで帰る時、そして秋に次の世代を産む時では、全く違う姿かたちに変わります。その間に7回世代が交代するのです。春から夏にかけてはメスがメスだけを産み、秋になるとオスとメスが生まれます。その時は翅も口もなく交尾をする為だけに数日間生きて、次の年に孵る卵を産むと死ぬという独特の生態を具に記録しています。私たちの暮らしとはなんら関わりのないように感じるこうした小さな昆虫は、他の昆虫や鳥の餌となり生態系を支えています。小さな昆虫の一生を知ることで、私たちは生命がもつ「センス・オブ・ワンダー」を感じることができるのです。月刊絵本「たくさんのふしぎ」の2013年11月号のハードカバーです。

 

 

 

 

『桜島の赤い火』宮武健仁/文・写真 たくさんのふしぎ傑作集 福音館書店 2021/3/30(出版社サイト→こちら

こちらも月刊絵本「たくさんのふしぎ」の2013年1月号のハードカバーです。写真家の宮武さんは小学校の修学旅行で阿蘇山を訪れ、その際に購入した絵葉書セットの中にある夜の闇に赤く光る火口の写真を見て「地球の中が赤く光っている」と感じ、そのことに強く惹かれたそうです。
大人になって赤い火口を写真に収めようと阿蘇山を訪れますが、それならば毎日噴火している桜島のほうがよいと勧められて、桜島に通うようになります。鹿児島市内からは噴煙が見えるだけですが、大隅半島側からは昭和火口が見えるとわかると、そちらからカメラを構えて撮影に挑みます。そして噴火の瞬間を写真に収めていきます。
真っ赤な火が噴き出す火口、そして火山雷の稲妻、それらの写真を見ていると地球は今も地中奥深くにマグマを湛え、常に変化しているのだと感じます。この本の中には火山が身近にある人びとの暮らし、過去の大噴火がもたらした地形や水の流れなどもわかりやすく伝えてくれます。何万年という時間の流れの中で今の地形が形作られていますが、それもまたこれから何万年も経つとまったく違う形に変わっていくのだろうと、その壮大な時間の流れの中のほんの一瞬を生きているのだと、この本を読んで感じました。

 

 

 

 

『富岡製糸場 生糸がつくった近代の日本』田村仁/写真・文 たくさんのふしぎ傑作集 福音館書店 2021/3/30(出版社サイト→こちら

2014年にユネスコ世界遺産として登録された富岡製糸場の成り立ちと、そこに至る日本の養蚕と製糸の歴史を詳細に伝えてくれる写真絵本です。現在放映中のNHK大河ドラマ「青天を衝け」で今後描かれる明治期の日本の近代化の象徴でもある富岡製糸場が、なぜあの立地になったのか、また富岡製糸場がどんな役割を担っていたのかが、よくわかります。月刊絵本「たくさんのふしぎ」の2016年6月号のハードカバーです。

 

 

 

 

 

 

 

『富士山のまりも 夏休み自由研究50年後の大発見』亀田良成/文 斉藤俊行/絵 たくさんのふしぎ傑作集 福音館書店 2021/3/30(出版社サイト→こちら

月刊絵本「たくさんのふしぎ」の2014年4月号のハードカバーです。昭和22年に東京で生まれ育った作者の亀田さんは、小学生だった昭和30年代に富士山麓の山中湖に毎年夏に通うようになります。小学3年生の時に「ししの糞」と呼ばれる小さなまりもを採取し、東京に持ち帰りジャム瓶で育てるようになります。小学4年生の担任の先生は「一人一研究」と自由研究を熱心に呼びかけます。それに応じて亀田さんは自由研究に「山中湖のなりたちとまりも」をテーマに選びます。そして再びまりもを採取して大きな水槽で観察を始めました。
まりもはその後も亀田さんのご実家の庭で50年もの間、育てられていたのです。長年まりもの世話をしてくれていた母親が老人ホームで暮らすようになった2011年に、亀田さんはインターネットでまりもについて検索してみました。すると、山中湖のまりもが絶滅状態であることがわかります。国立科学博物館に報告をすると、50年以上前の観察記録や遺伝子解析により、幻のフジマリモとわかりニュースにもなりました。亀田さんはいずれ山中湖にまりもを返すために、今も研究を続けているとのことです。子ども時代の自由研究が生涯にわたる研究テーマになることもあるのですね。

 

 

 

【児童書】

《昔話・物語》

『火の鳥ときつねのリシカ チェコの昔話』木村有子/編訳 出久根育/絵 岩波少年文庫 岩波書店 2021/4/15(出版社サイト→こちら

チェコで子ども時代を過ごし、また大学時代にチェコへ留学した木村有子さんが、チェコに伝わる昔話を24選んだチェコの昔話集です。挿絵を担当したのは、『命の水―チェコの民話集』(カレル・ヤロミール・エルベン/編 阿部賢一/訳 西村書店 2017→こちら)でも絵を描いたチェコ在住の出久根育さんです。
また2013年に出版された『中・東欧のむかしばなし 三本の金の髪の毛』(松岡享子/訳 降矢なな/絵 のら書店 2013→こちら)にも共通のお話が収録されていますが、当然のことですが翻訳者によっておはなしの雰囲気が少しずつ違っています。子ども時代にチェコで過ごし、身近に昔話を聞いていた木村さんならではの親しみやすい訳で、チェコの昔話を味わってほしいと思います。また木村有子さんのオンライントークイベントが、JBBY主催で6月に行われます。(JBBY国際アンデルセン賞と世界の子どもの本講座2021-②「チェコの国際アンデルセン賞画家が開く絵本の世界」こちら)ぜひ、こちらにもご参加ください。

 

 

 

 

『こそあどの森のおとなたちが子どもだったころ』岡田淳/作 理論社 2021/5(出版社サイト→こちら

「こそあどの森」シリーズ(→こちら)は2017年に12巻目の『水の森の秘密』(→こちら)で完結しました。
この本は「こそあどの森」の物語に出てくる個性豊かなおとなたちが、どんな子ども時代だったのかを描く番外編です。
主人公のスキッパーが作家のトワイエさんから借りた本の中に、子ども時代の写真が挟まっていたのに気づいたことから、スキッパーとふたごが、次々に森のおとなたちに子どもの頃の思い出を聞き出していきます。トワイエさんが子ども時代に通っていた図書館で体験した不思議な出来事、トマトさんが料理が得意になったわけなど、本編に続く子どもの頃のエピソードがわかって楽しくなります。

 

 

 

 

 

 

《ノンフィクション》

『こどもジェンダー』シオリーヌ(大貫詩織)/著 松岡宗嗣/監修 村田エリー/絵 ワニブックス 2021/5/10(出版社サイト→こちら

助産師としてYoutubeチャンネルでジェンダーとセクシュアリティにまつわる動画を公開してきたシオリーヌさんによる子ども向けに、ジェンダーについて考えるヒントを集めた本です。(性教育YouTuberシオリーヌ公式チャンネル→こちら
「ぼくランドセルはあかがいいんだ でもそれはオンナノコのいろだから ダメといわれちゃった」「わたしね スカートなんかすきじゃない フリフリのようふくなんかきたくない」「おとうさんに「オトコなんだからメソメソなくな!」っていわれちゃった ぼくがオンナノコだったら いいの」など、子どもたちの身近にある疑問に答えてくれます。今回紹介した『せかいでさいしょにズボンをはいた女の子』『女の子だから、男の子だからをなくす本』など、子どもの本の世界でもジェンダーに関する書籍が増えています。SDGsの第5番目の目標に「ジェンダー平等を実現しよう」が入り、また2018年の#MeToo運動以降、この問題は子どもの本の世界でも重要なトピックスになっていることの表れです。

 

 

 

【その他】

『つぎに読むの、どれにしよ? 私の親愛なる海外児童文学』越高綾乃/著 かもがわ出版 2021/2/1(出版社サイト→こちら

長野県松本市にある子どもの本の専門店「ちいさいおうち」(→こちら)の経営者の一人娘である作者が、子ども時代から親しんできた海外児童文学について語るエッセイです。
幼少期はもちろんのこと、思春期の辛い時も、子どもの本の主人公たちがそばに寄り添ってくれたという24作品への想いを読むと、ああ、私もそんな風に思ったなと感じたり、もう一度読み返してみたくなったりします。そして翻訳家の石井登志子さんとの対談からは、リンドグレーン作品への想いが溢れています。子ども時代に出会う本がどれだけその後の人生を支えるかということがわかります。

 

 

 

 

『絵本のなかへ帰る』高村志保/著 岬書店 2021/2/16(出版社サイト→こちら

こちらは長野県茅野市にある今井書店の二代目店主による絵本のエッセイです。子ども時代に出会った絵本、とくに父親のひざの上で読んでもらった絵本の思い出、ご自身が子育て中に我が子と読んだ絵本など27冊が並びます。『つぎに読むの、どれにしよ? 私の親愛なる海外児童文学』の越高さんと同様に子ども時代に出会う本がいかに子どもの人格形成に影響を与えるか、人生を彩るかを語っています。
出版元は夏葉社の新レーベル、岬書店、そして表紙の絵はきくちちきさんです。(今井書店本店のtwitter→こちら

 

 

 

 

『岩波少年文庫のあゆみ 1950-2020』若菜晃子/編著 岩波少年文庫別冊 岩波書店 2021/3/12(出版社サイト→こちら

子ども時代に岩波少年文庫に親しんだという編集者でエッセイストの若菜さんによる岩波少年文庫愛がつまったエッセイです。
岩波少年文庫は1950年、終戦後5年後に創刊されました。岩波少年文庫の各巻の巻末には「岩波少年文庫創刊五十年ー新版の発足に際して」には「心躍る辺境の冒険、海賊たちの不気味な唄、垣間みる大人の世界への不安、魔法使いの老婆が棲む深い森、無垢の少年たちの友情と別離―幼少期の読書の記憶の断片は、個個人のその後の人生のさまざまな局面で、あるときは勇気と励ましを与え、またある時は孤独への慰めともなり、意識の深層に蔵され、原風景として消えることがない」という一文が掲載されています。まさにそれを体感してきた作者による70年の歩みをまとめた「岩波少年文庫大全」です。また岩波少年文庫の総目録としても活用できる保存版です。

 

 

(作成K・J)