2021年4月、5月の新刊から


4月、5月に出版された子どもの本を紹介します。一部、見落としていた4月以前に発行された新刊も含まれています。

この度は横浜・ともだち書店、代官山蔦屋書店で児童書担当の方の推薦をいただいたものを取り寄せた本と、習志野市にあるくわのみ書房で選書したもの、翻訳者の方から直接送っていただいたものを、読み終えた上で紹介しています。

 

その他の書籍に関しては銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

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【絵本】
《物語絵本》

『まほうの木』アンドレイ・ウサチョフ/作 イーゴリ・オレイニコフ/絵 藤原潤子/訳 東洋書店新社  2020/11/1(出版社サイト→こちら

2018年に国際アンデルセン賞画家賞を受賞したイーゴリ・オレイニコフが描いたこちらの絵本は、昨年11月に出版されたものです。見逃していましたが、日本での翻訳が少ないため、時間が経過していますが紹介いたします。
天の川のはしっこにある「ふしぎわく星O」に、どんな願いもかなえてくれるまほうの木があります。みんなはまほうの木に願いごとを言って、うれしそうに帰っていきます。たとえば海で暮らしたいと願ったウマはタツノオトシゴに、早く走りたいと車になったウマも。「子どもたちがよい子に、かしこい子に育つように」と願うとまほうの木は「本のなる木」になるのです。そんな不思議な17編のおはなしが詰まった絵本です。そして何より注目してほしいのはイーゴリ・オレイニコフの美しくも幻想的な絵です。読むものを豊かな想像の世界へ誘ってくれます。

 

 

 

『エイドリアンはぜったいウソをついている』マーシー・キャンベル/文 コリーナ・ルーケン/絵 服部雄一郎/訳 岩波書店 2021/1/27(出版社サイト→こちら

こちらも1月に出版されていた絵本ですが、見逃していました。
エイドリアンは妄想癖があるのか、「うちには馬がいるんだよ」と学校でみんなに話しています。でもエイドリアンはおじいちゃんと町はずれの小さな家に住んでいるので、「わたし」は信じられないのです。
ある日、お母さんが犬の散歩のついでにエイドリアンの家まで連れていってくれます。目の当たりにする貧富の格差。そんな環境の中で育つエイドリアンの状況を知って「学校にいるだれよりもすごい想像力の持ち主」なんだと理解していくのです。相手の気持ちに寄り添うことの大切さを教えてくれています。

 

 

 

 

『たんぽぽ たんぽぽ』みなみじゅんこ/作 アリス館 2021/3/31(出版社サイト→こちら

『どんぐりころちゃん』(→こちら)のわらべうた絵本があるみなみじゅんこさんの新刊です。
こちらもわらべうた「たんぽぽ たんぽぽ むこうやまへ とんでけ!」が可愛らしい絵本になりました。
たんぽぽの季節は終わってしまいましたが、新刊で購入したところはこの春のおはなし会できっと活躍したことと思います。
巻末にわらべうたの採譜、そして遊び方がついています。

 

 

 

 

 

『ありえない!』エリック・カール/作 アーサー・ビナード/訳 偕成社 2021/4(出版社サイト→こちら

2021年5月23日に91歳で亡くなられたエリック・カールさんの日本での最新刊です。
「ありえない!」ことにであったら、どんなふうに驚くかしら?それを楽しめるかしら?そんな奇想天外な展開のユーモア絵本です。
魚が鳥かごに、鳥が水槽に?ねずみが猫をつかまえた?タクシーに乗ったら燃料不足でいっしょに走ってくださいって?そんなゆかいなエピソードがたくさん。想像の世界ではどんなこともありうるのですね。奇想天外な発想が次々飛び出てくるエリック・カールさん85歳の時の作品です。

 

 

 

 

 

 

『せかいのはてまでひろがるスカート』ミョン・スジョン/作 河鐘基、廣部尚子/訳 ライチブックス 2021/4/15(出版社サイトFacebook→こちら

2019年のブラチスラバ世界絵本原画展で金のりんご賞を受賞した韓国の絵本です。裾の広がるスカートを、想像の広がりとして描く美しい絵が印象的です。そしてひとつひとつのスカートの広がりの中に、作者が子ども時代に親しんだ児童文学や世界各地の民話が散りばめられています。たとえばかえるのスカートの中に広がっているのは「赤毛のアン」と「紙ぶくろの王女さま」、とりのスカートには「不思議の国のアリス」に「リニ王子と少女シグニ」というように。繊細な線が描き出す幻想的な世界が幾重にも折り重なって、豊かにイメージが広がっていく絵本です。

 

 

 

 

 

 

 

『ふまんばかりのメシュカおばさん』キャロル・チャップマン/作 アーノルド・ローベル/絵 こみやゆう/訳 好学社 2021/4/26 (出版社サイト→こちら

メシュカおばさんは、いつも眉間にしわを寄せて「どうもこうもあるもんか」と言って不平不満ばかりを言っています。パン屋さんに調子はどうかを聞かれると「どうもこうもあるもんか。せなかはいたくて、まるでいしのかべせおってるみたいさ。それにあしときたら!まるででっかくなりすぎたかぼちゃみたいにおもいよ」と答えるのです。息子や娘のことを聞かれても、家のことを聞かれても不満ばかりです。
ある朝、舌の先がちくっとしたかと思うと、不満をいうとすべてがその通りになってしまったのです。そこへラビ(ユダヤ教の指導者)が来てそれは「ふまん病」だといいます。治すにはただひとつ、「これから先、ものごとをすべて前向きに言うようにすること」というのです。それからは、メシュカおばさんは、不満を言いそうになったら、少しでも良いところを探して口に出すようになります。するとなにもかもが感謝に思えて幸せに暮らすことができました、というポジティブシンキングな楽しい絵本です。

 

 

 

 

『クリフォード ちいさなちいさなあかいいぬ』ノーマン・ブリッドウェル/作 椎名かおる/訳 あすなろ書房 2021/4/30(出版社サイト→こちら

エミリーが飼っている犬はクリフォードと言います。お友だちのマーサに「あなたのいぬ、すっごくおおきくて すっごくあかいけど、どこでみつけたの?」と聞かれて、クリフォードがうちの子になった時のことを話しました。実はクリフォードは小さくて、育たないかもと言われていたのです。ある日エミリーが「げんきにおおきくなってね。だいすきだからね。」とクリフォードに伝えると、次の日からどんどん大きくなって、とうとう家の中に入れないほどになったのでした。そこで田舎のおじさんの家に引き取られ、その後エミリーたちも一緒に住むようになったのです。

 

 

 

『クリフォード おおきなおおきなあかいいぬ』ノーマン・ブリッドウェル/作 椎名かおる/訳 あすなろ書房 2021/4/30(出版社サイト→こちら

こちらは、続きの物語。クリフォードは家より大きいのですが、エミリーのことが大好きでいつも一緒です。走っているものは車でも追いかけて捕まえるし、動物園にも連れて行けなくなりました。それでもかしこいクリフォードは、いじめっ子からもどろぼうからも守ってくれます。エミリーのかけがえのない友だちなんですね。2冊合わせて読みたいお話です。

 

 

 

 

 

『ロスコ―さん ともだちにあいにいく』ジム・フィールド/作 momo’sカンパニー/訳 ひさかたチャイルド 2021/5(出版社サイト→こちら

犬のロスコ―さんが、友だちに会うためにキャンプ場へ行ったり、スキー場へ行ったり、湖へ行ったりと、どんどん旅を続けます。この絵本は、ストーリー展開を楽しむというよりは、ロスコ―さんが行く先々にあるものが英語で示されているので、絵本の中のいろいろなものを指さしながら語彙を増やしていくのに役立つ絵本です。子どもたちが日常使う会話は日本語と英語の両方で書かれているので、英語に興味をもつきっかけになることでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

『あまがえるのぼうけん』たてのひろし/作 かわしまはるこ/絵 世界文化社 2021/5/5(出版社サイト→こちら

2019年に出版された『あまがえるのかくれんぼ』(→こちら)の続編です。あまがえるのラッタ、チモ、アルノーの3びきは、遠くに見える森へ行ってみたいと、冒険に出かけます。
森の中には見たことのない植物や、虫たちがいっぱいです。大きなガマガエルに食べられそうになったりしながら、3びきは好奇心たっぷりに森の中で過ごします。豊かな自然の描写も美しく、1ぴき1ぴきのあまがえるの表情もとても豊かです。
『あまがえるのかくれんぼ』紹介ページ(→こちら

 

 

 

 

 

『ぼくとがっこう』谷川俊太郎/文 はたこうしろう/絵 アリス館 2021/5/5(出版社サイト→こちら

谷川俊太郎さんが学校生活を詠んだ詩に、はたこうしろうさんが表情豊かな絵をつけました。
短い詩ですが、はたこうしろうさんの描く男の子の小学校6年間が絵の中に描きこまれています。友だちと遊んだり、さまざまなことを発見したり、時にはけんかをしたり。そうしていつかは卒業する日がくる。そうやって成長していく姿が描かれている絵本です。

 

 

 

 

 

 

《ノンフィクション絵本》

『さくららら』升井純子/文 小寺卓矢/写真 アリス館 2021/3/25(出版社サイト→こちら

本州を桜前線が北上する4月は、北海道はまだ雪が残っています。5月になるとようやく木々が目ざめ、野の花も咲き始め、さくらのつぼみも膨らんでいきます。
そうして5月下旬、ようやく満開になるのです。作者の升井さんが2014年5月28日の新聞の片隅に「ようやく桜が開花した」という記事をみつけたのが、この本づくりのきっかけです。「ようやく」という言葉に落ち着かなくなり、「桜にはそれぞれに咲き時がある、人の都合ではなく自然の営みを静かに見守りたい」との想いでテキストを書いたそうです。
北海道在住の写真家の小寺さんは、その主人公にふさわしい桜を探して7年もあちこちを回ったそうですが、最後に新聞記事になった桜を訪ねていき、その木を撮ることになりました。その時、「理想の木なんてない。人の思いどおりにならないからこそ自然は素敵なのかも」と感じたそうです。「おそくたってこれがわたし ちいさくたってこれがわたし」という言葉が胸にじんわりと響きます。

 

 

 

 

『海べをはしる人車鉄道 東海道線のいま、むかし」横溝英一/文・絵 たくさんのふしぎ傑作集 福音館書店 2021/3/30(出版社サイト→こちら

東海道線の歴史を詳しく記した本です。熱海は古くから有名な温泉地でしたが、130年前の明治22年(1889年)に東京・新橋から神戸まで東海道本線が開通した時には、神奈川県の国府津から海岸線ではなく箱根山を迂回して御殿場へ抜けるコースに鉄道が引かれました。小田原や湯河原とともに熱海は鉄道から取り残されたのでした。
そこで国府津から小田原を経由して箱根湯本まではレールの上を馬車が走る馬車鉄道が走るようになり、小田原から熱海までは狭いレールを敷いてその上を人が押して走る人車鉄道が出来たというのです。軽便鉄道が開通するまでの約10年間、この人が押す鉄道が走っていたというのは、この本を読むまで知りませんでした。アップダウンのある海岸線を人が押して走るには大変苦労も多かったようですが、それでも美しい景色に誘われて東京から熱海まで多くの人を運んだのです。昭和9年(1934年)にようやく箱根の山をくぐって沼津に抜ける丹那トンネルが開通します。今は東海道新幹線であっという間に抜けていく小田原~沼津間ですが、今度新幹線に乗る時はそんな歴史に思いを馳せてみたいと思います。

 

 

 

 

 

『二平方メートルの世界で』前田海音/文 はたこうしろう/絵 小学館 2021/4/25(出版社サイト→こちら

脳神経の病気の治療のため3歳の頃から入退院を繰り返している前田海音さん(2010年生まれ、現在小学校5年生)が小学校3年生の時に書いた作文を元にした絵本です。作文は「第11回子どもノンフィクション文学賞」小学生の部の大賞に選ばれました。
「二平方メートル」とは入院した時に過ごすベッドとその周りの空間のことです。海音さんは、その狭い世界の中から入院で心配をかけている両親や留守番する兄への思いを綴り、入院しているほかの子どもたちにも思いを馳せています。それでも「もういや!」「一日でいいから、薬を飲まなくていい日をください!」と思うこともあるのです。ある日、たまたまベッドにまたがるオーバーテーブルの下に潜り込んでテーブルの裏の寄せ書きをみつけます。「みんながんばろうね」「再手術サイテー」「ようやく退院できるよ!」などこのテーブルを使っていた子たちの声がそこには記されていたのです。「この言葉を送りあっていたのは、会ったことのない人どうしだ。時間をこえて言葉を受け取り、言葉を届ける。(中略)この二平方メートルの世界で、同じテーブルを使ってすごしたたくさんのだれかが、たしかにここにいて、私に語りかけてくれた。ひとりじゃないよって。」病気をもっていても、一日一日の大切さを大事にしたいと願うその気持ちが、しっかりと伝わってきます。そして、はたこうしろうさんは海音さんの住む札幌へ訪ねていって、相談しながら絵を描き上げたそうです。

 

 

 

 

『朝ごはんは、お日さまの光!植物のはなし』マイケル・ホランド/文 フィリップ・ジョルダーノ/絵 徳間書店児童書編集部/訳 徳間書店 2021/5/31(出版社サイト→こちら

地球上の植物について、そのしくみや育て方、食物としての役割、植物を使ったテクノロジーから環境問題まで、子どもたちにわかりやすく解説したイラストがとても美しい大判の科学絵本です。
地球上にすむ生き物にとって植物はなくてはならない存在。わかっているだけで40万種あるという植物のふしぎについて考えるきっかけになることでしょう。

 

 

 

 

 

 

【児童書】
《物語》

『クラムボンはかぷかぷわらったよ 宮澤賢治おはなし30選』澤口たまみ/著 岩手日報社 2021/5/1(出版社サイト→こちら

宮澤賢治の後輩(岩手大学農学部)で、「かがくのとも」や「ちいさなかがくのとも」などに身近な自然への温かいまなざしの作品を提供している澤口たまみさんが著した賢治の童話のあらすじダイジェスト作品が、出版されました。賢治が過ごした岩手県で生まれ育ち、賢治が歩いたところを自らも歩いた澤口さんの読み解きは、とても面白く納得がいきます。
難解な賢治の創作がどのような思いで書かれたのかを知ると、もっと賢治が身近に感じられます。賢治の恋心にも触れられています。YA世代にも、ぜひ手に取ってほしいと思います。

 

 

 

 

 

『帰れ 野生のロボット』ピーター・ブラウン/作・絵 前沢明枝/訳 福音館書店 2021/5/20(出版社サイト→こちら

2018年に出版された『野生のロボット』(→こちら)の続編です。野生のロボットとして、無人島でガンのキラリや動物たちと過ごしていたロズ。前作ではそんなロズを不気味な飛行船が回収するところで終わっていました。
こちらでは修理が終わったロズが小さな子どもが二人いる農場に買われて送られていくところから始まります。しかしロズの記憶装置から無人島で過ごした野生の生活の記憶は削除されていなかったのです。やがてふるさとの無人島に戻りたいと思いはじめるロズ。すべてコンピューターで管理されている農場から脱出するのは並大抵のことではありません。しかし二人の子どもたちの助けを借り、渡りの途中でロズを発見してくれたキラリと一緒に無人島への冒険に踏み出すことにします。誰からも発見されずに無人島へたどり着けるのか、ハラハラドキドキの旅が続きます。高度なデジタル社会の中で、やはり自分らしくいるということの大切さを考えさせられました。『野生のロボット』紹介ページ(→こちら

 

 

 

 

『キプリング童話集 動物と世界のはじまりの物語』ラドヤード・キプリング/作 ハンス・フィッシャー/絵 小宮由/訳 アノニマ・スタジオ 2021/5/21(出版社サイト→こちら

『ジャングルブック』の作者、ラドヤード・キプリングが、約120年前に、寝る前の我が子に語って聞かせた11のお話が、美しい装丁のもと、1冊の本になりました。
キプリングは父親の仕事でイギリスの統治下にあったボンベイで生まれます。そして少年期から青年期にかけて世界中を旅してきました。そんな旅先で見聞きしたことが、楽しいお話になっています。
3人の子どもの父親であったキプリングは、わが子を心の底から愛し、積極的に育児にもかかわったそうです。そんな愛情にあふれたお話集なのです。またこのお話集には、『こねこのぴっち』でも知られているスイスの絵本作家ハンス・フィッシャーが挿絵を描いています。

 

 

 

 

 

《ノンフィクション》

『武器ではなく命の水をおくりたい 中村哲医師の生き方』宮田律/著 平凡社 2021/4/21(出版社サイト→こちら

2019年12月4日にアフガニスタンにて武装勢力によって銃撃された中村哲医師の生き方を、現代イスラム研究センター理事長である筆者が子どもたちにもわかりやすく書いた本です。
特に新型コロナウイルス感染拡大対策に揺れている世界情勢をみて、今こそ中村先生の想いを伝えたいと願って書かれています。中村哲先生の関連書籍はたくさん出版されていますが、パンデミックの世界情勢の中でこそ、中村先生の言葉に学ぼうとするこの本の視点はとてもわかりやすいです。武器を取るよりもまずは経済格差を無くすことのほうが大切だと説いた中村先生の言葉をもう一度噛みしめたいと思います。

 

 

 

 

 

【その他】

『児童文学の中の家』深井せつ子/作 エクスナレッジ 2021/4/6(出版社サイト→こちら

子どもの頃、たとえば『秘密の花園』を読んで、この大きなお屋敷の間取りはどうなっているのだろうと思いを巡らせたり、本の扉に見取り図があると本文を読みながら何度も行ったり来たりしたという人は多いでしょう。
この本では『大きな森の小さな家』や『飛ぶ教室』『若草物語』『赤毛のアン』に『床下の小人たち』『ライオンと魔女』など27の名作の舞台となった家がイラストや見取り図とともに紹介されています。
長く読み継がれている作品の魅力は、こうした舞台設定がしっかりとしていて読む者を惹きつけるというところにもあるのかもしれません。
また、この本を片手に昔読んだ名作を読み返すガイドブックにしても楽しいと思います。

 

 

(作成K・J)