2021年5月、6月、7月の新刊から(その2)絵本・読み物


5月、6月に出版された子どもの本のうち、先月紹介できなかった読み物と、7月に出版された絵本を紹介します。また、一部、見落としていた5月以前に発行された新刊も含まれています。(2021年5月、6月の新刊から(その1)絵本は→こちら

この度は銀座・教文館ナルニア国で選書したものと、横浜・ともだち書店で児童書担当の方の推薦をいただいたものを取り寄せた本、翻訳者の方から直接送っていただいたものを、読み終えた上で紹介しています。

その他の書籍に関しては銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

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【絵本】
《創作》
『太陽と月 10人のアーティストによるインドの民族の物語』バッジュ・シャーム、ジャグディッシュ・チターラー、スパーシュ・ヴィヤーム他 青木恵都/訳 タムラ堂 2021/4/1(第3刷)(出版社サイト→こちら

南インドの小さな工房でシルクスクリーン印刷と手製本で作られるターラーブックスの絵本です。2016年に第1刷が日本で出版されていましたが、大量生産されていない作品なのですぐに手に入らなくなっていました。4月に第3刷が販売されました。今回は2000部発売で、手元にあるものは1641とシリアルナンバー入りです。
紙の手触りや色合いなどから、これは芸術作品だと感じます。太陽と月を巡る昔話を10人のアーティストがそれぞれ見開きページで表現しています。

 

 

 

 

『いろいろかえる』きくちちき/作 偕成社 2021/5(出版社サイト→こちら

みどりのかえるときいろのかえる、そしてももいろのかえるの三匹がおひさまの光を浴びて、お花の間でゆかいに踊ります。池の中ではあおいろのかえるも、だいだいいろのかえるもやってきて、夕陽を浴びて大合唱。そこへ迎えに来たのはとうさんとかあさんのかえる。
にぎやかなかえるたちの声に、こちらも頬がゆるんできます。
きくちちきさんの躍動的な筆のタッチがのびやかで気持ちを解放させてくれます。

 

 

 

 

 

『天のすべりだい』スズキコージ/作 BL出版 2021/7/1(出版社サイトtopページ→こちらトップページから新刊案内をクリックしてください

コージズキンという愛称で呼ばれて熱烈なファンもいるスズキコージさんの贅沢な画集といった感じでしょうか。
一貫した物語があるわけではないのですが、「あの世とこの世の交信」から生まれた絵だというだけあって、絵の力に圧倒されます。そしてところどころに散りばめられた問いかけの言葉「あの世とこの世のリンゴの味はそっくりなのを君は知ってるかい?」「この世にもあの世にも旅の仲間がいるってこと知ってるかい?」にインスパイアされて、ひとりひとりが絵の中を旅することができる、そんな想像力を搔き立ててくれる絵本です。

 

 

 

 

『街どろぼう』junaida/作 福音館書店 2021/7/10(出版社サイト→こちら

これまで『Michi』、『の』や『怪物園』などの独創的で美しい絵本を創作しているjunaidaさんの新作絵本です。
大きな山の上にひとりぼっちで住んでいる巨人は、ある夜さびしさのあまり、麓の街から一軒の家をこっそり山の上に持ち帰ります。そしてその家の家族に「これからはここでいっしょにくらしましょう ほしいものがあったらなんでもあげますから」と伝えます。するとその家族は「わたしたちだけではさびしいのでしんせきの家も ここにつれてきて」と頼まれるのです。こうして巨人はその都度求められるままに、麓の街にあった家のほとんどを山の上に運びます。そうして山の上ににぎやかな街が出来上がるのですが、巨人はやっぱり孤独でした。そして巨人が山を下りていくのです。美しい絵と、意外な展開の中から、そして最後には心温まる結末も用意されていて、読みながらさまざまなことを考えさせられました。20cm×15cmの小さな絵本です。

 

 

 

《ノンフィクション》

『子どもの本で平和をつくる―イエラ・レップマンの目ざしたこと―』キャシー・スティンソン/文 マリー・ラフランス/絵 さくまゆみこ/訳 小学館 2021/7/19(出版社サイト→こちら

第二次世界大戦後、瓦礫に覆われたドイツの街角でアンネリーゼと幼い弟ペーターは、大きな建物に人々が並んで入っていくのを見て、食べ物をもらえるかもと入っていきました。
ところがそこにはたくさんの本が並べられていたのでした。そこには戦争でドイツと戦ったいろいろな国から届けられた子どもの本が並んでいたのです。
アンネリーゼとペーターはおはなし会に参加します。ひとりの女性がドイツ語に翻訳して子どもたちにおはなしを読んでくれたのでした。その日アンネリーゼは未来に向けて夢を描くことができました。
この女性はイエラ・レップマンという実在の女性です。「すばらしい子どもの本は人びとが理解しあうための”かけ橋”になる」と信じ、終戦後まもなく各国によびかけ「世界の子どもの本展」を開催したのでした。「世界の子どもの本展」はその後イエラの想いに賛同して設立された「国際児童図書評議会」(IBBY→こちら)に引き継がれ、日本でも「日本児童図書評議会」(JBBY→こちら)によって巡回しています。(世界の子どもの本展→こちら)この絵本を翻訳したのは、現在JBBYの会長を務めているさくまゆみこさんです。また、当社はJBBYの法人会員になっています。

 

 

 

 

【児童書】
《物語》

『わたし、パリにいったの』たかどのほうこ/作 のら書店 2021/3/22(出版社サイト→こちら

はなちゃんは妹のめめちゃんとあるアルバムを見るのが大好きです。そのアルバムにはめめちゃんが生まれる前、はなちゃんが両親と一緒にパリへ旅行した写真が収められているのです。なんどもアルバムを開いてはなちゃんが思い出を話しているためか、まるでめめちゃんもそこにいたかのように話すのです。はなちゃんが「めめちゃん、うまれてなかったのに、よくおぼえてるねえ!」「おかあさんにきいたんじゃないの?」と聞くと、「おかあさんのおへそのあなから見てた」と言いはるめめちゃん。そんな楽しい姉妹の会話に思わず笑ってしまいます。ひとりで読み始めた子に手渡したい幼年童話です。

 

 

 

 

『けんだましょうぶ』にしひらあかね/作 福音館書店 2021/4/15(出版社サイト→こちら

けいくんはけんだまが得意です。けんだまを持って野原へ出かけていくと、きつねがけんだま勝負を挑んできます。きつねがけんだま始めると、玉がみかんになったり、りんごになったり。次にたぬきもけんだま勝負を挑んできました。たぬきのけんだまはザリガニに変身したり。そのあとも魔女や天狗とけんだま勝負。なんとも楽しくて、けんだまをやりたくなる幼年童話です。

 

 

 

 

 

 

『すてきなひとりぼっち』なかがわちひろ/作 のら書店 2021/5/20(出版社サイト→こちら

クラスの中にとけこめず、ひとりぼっちであることも平気だとうそぶく一平くん。そうはいっても、「ぼくがこんなに つらいおもいをしていることを だれもしらない。ぼくは、このよにひとりぼっち。」とつぶやきたくもなる。
雨の日、学校から帰ったら玄関がしまっている。母さんを探しに出かけた商店街で一平くんはいろいろな人の親切にふれて、ひとりぼっちではないことに気づきます。
夜明け前に目が覚めて、西の空に月が沈みかけ、東の空から太陽が昇ってくるのをみながら、一平くんが感じる想いがとても素敵です。

 

 

 

 

『ボーダレス・ケアラー 生きてても、生きてなくてもお世話します』山本悦子/作 理論社 2021/5(出版社サイト→こちら

大学の夏休み直前、海斗は一人暮らしをしている認知症の祖母のケアを母親に頼まれます。祖母は1か月前に亡くなった愛犬豆蔵の空のリードを持って散歩に出かけるなど、どうも認知症が進んでいるのではというのです。海斗は母親にバイト代10万出すと言われて引きうけることにしました。
祖母の家に行って、海斗も豆蔵のリードを持って散歩すると、不思議なことに豆蔵が見えることに気がつきます。「幽霊か?」と声に出す海斗に、マンションの駐車場の下に佇む少女が、「ボーダーの状態になっているんだと思うよ。」「ボーダーラインを認識してないっていうのかな。生も死も、みんないっしょ。区別していないの。だから見えるんだと思う」と声をかけてきます。つまり「ボーダー」とは死後の世界へ行かず生と死のはざまにいる存在だというのです。海斗はボーダーの生前の想いを調べ、時にはその思いを遂げる手伝いをするようになります。また海斗がセーラと呼ぶその少女がボーダーになった理由もわかります。そこにはその少女が中学生だった時にいじめられていた同級生との関係があったのです。心温まる物語です。

 

 

 

『あしたもオカピ』斉藤倫/作 fancomi/絵 偕成社 2021/6(出版社サイト→こちら

どうぶつえんで飼育されているオカピは、ある夜、飼育員のおじさんと一緒に月をながめていました。その夜出ていた月は、不思議な形をしていました。半月をさらに半分にしたような、まるで四つ葉のクローバーの一片のような形だったのです。
「よつば月だ。よつば月にどうぶつがお願いすれば、なんでも願いがかなう」と飼育員のおじさんに教えてもらったオカピ、さっそく檻の外に出たいと願います。オカピは夜のどうぶつえんを歩き回って、「よつば月には願いがかなう」ことを他の動物たちにも伝えてまわります。
そう、その夜はほんとうに不思議なことが動物園で起きたのです。ちょっと不思議で、楽しいお話です。この本もひとりで読み始めた子ども向きの幼年童話です。

 

 

 

 

 

『チョコレートのおみやげ』岡田淳/文 植田真/絵 BL出版 2021/6/1(出版社サイトtopページ→こちらトップページから新刊案内をクリックしてください

神戸の街、異人館や港をおばさんに案内してもらったわたし。公園のベンチでチョコレートをつまみながら、おばさんが即興でお話を語り始めます。そのお話は風船売りの男と飼っているニワトリのお話でした。
ニワトリが風を読んで男に伝えると、男は風のない日に風船を売りに出かけるのです。ある日ほんのいたずら心でニワトリは強風が吹きそうな日なのに「今日は風がない日」とうそをついてしまいます。
するとその日を境に男は何カ月も帰ってこない、そこでニワトリは屋根の上の風見鶏になったというお話でした。
その結末に不満のあるわたしは、続きのお話を語ります。その新しい結末に、おばさんと食べているチョコレートがからんで、とてもおしゃれで楽しいお話になっています。

 

 

 

 

『庭』小手鞠るい/作 小学館 2021/6/7(出版社サイト→こちら

真奈はSNSでの書き込みがきっかけで仲良し5人組から外されてしまい、中2の冬から不登校になっていますが、母親の心配をよそに自分の意志で「登校拒否」しているのだと思っています。そんな日々の中に大きな転機が訪れます。中学3年生になる春休みに、幼い時に亡くなった父親の故郷、ハワイへ一人旅に出ることになったのです。
初めて会う父親方の祖母や叔母たちがハワイで温かく迎えてくれました。そこで自分のルーツに出会い、真奈の傷ついた心は少しずつ回復していきます。日系人の歴史にも触れながら、物語は展開していきますが、結末は表紙絵のような明るい光を感じることができます。中学生以上向けYA作品です。

 

 

 

 

『コレットとわがまま王女』ルイス・スロボドキン/作 小宮由/訳 瑞雲舎 2021/7/1(出版社サイト→こちら

とてもわがままな王女が町に静養にやってくるというので、コレットが住む町は大騒ぎ。ポーリーン王女の滞在中は物音ひとつ立ててはならないという法律が出来たのです。足音を立てないために、ブーツや木ぐつの上にフェルトのスリッパをかぶせたり、馬やロバの蹄鉄にはわらをかぶせ、町の教会の鐘も鳴らないようにしました。当然、子どもたちも声をあげてわらったり、広場で遊ぶこともできません。
町長の娘であるコレットは、飼い猫のシュシュにマスクをし、町のはずれの樫の木の下でおとなしくしていました。ところがポーリーン王女は、その樫の木の下を気に入ってしまったのでした。
一方的に我慢を強いられた町の人たちを救ったのは、なんと子猫のシュシュ。どうやって救ったかは読んでのお楽しみ。

 

 

 

 

【その他】

《エッセイ》
『佐野洋子 とっておき作品集』佐野洋子/著 筑摩書房 2021/3/15(出版社サイト→こちら

『100万回生きたねこ』があまりにも有名な佐野洋子さんが、亡くなられた後で見つかった単行本未収録作品を集めた作品集です。
童話が6編、ショートショートが6編、私の服装変遷史と題したイラストと写真集に、エッセイが10編、そして谷川俊太郎さんとの恋と結婚生活を書いたエッセイ3編。どれもこれも、佐野洋子さんの魅力がたっぷりつまっていて、ファンでなくても夢中になってしまいます。

 

 

 

 

 

《研究書》
『女性受刑者とわが子をつなぐ絵本の読み合い』村中李衣/編著 中島学/著 かもがわ出版 2021/6/30(出版社サイト→こちら

児童文学作家であり、また児童文学研究者でもある村中李衣さんが、長年、山口県美祢市にある官民協働刑務所「社会復帰促進センター」に収容されている女性受刑者とともに絵本を読み合う実践をされてきた、その記録です。何らかの罪を犯して収監されているわけですが、ひとりひとりの生育環境が影響していることがあり、絵本を介在させてまず自分自身と対話をし、自己確立をする中で、自分を客観視し立ち直っていく。特にわが子を持っている受刑者にとっては、自分の過去を客観視して受け入れることが、わが子との関係性も強化していくことになるのです。女子受刑者と図書館の児童サービス、なにも関係がないように見えますが、図書館は地域のすべての人に本を通して幸せな人生を実現していくことを応援する、そんな機能があります。経済格差が拡大し、本や正確な情報にアクセスできない貧困層の家庭にどう手を差し伸べるのか、その課題が見えてきます。ぜひ読んでほしいと思います。

 

 

 

(作成K・J)