2021年7月、8月の新刊から


7月、8月に出版された子どもの本、および研究書を紹介します。また、一部、見落としていた7月以前に発行された新刊も含まれています。

この度は、横浜・ともだち書店で児童書担当の方の推薦をいただいたものを取り寄せた本、翻訳者の方から直接送っていただいたものを、読み終えた上で紹介しています。

その他の書籍に関しては銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

***************************
【絵本】
《創作絵本》

『みちとなつ』杉田比呂美/作 福音館書店 2021/6/5 (出版社サイト→こちら

大きな街にお母さんと二人で住むみちと、海辺の町で大家族で住んでいるなつ。二人はお互い知らない同士でした。みちは物静かな女の子でハートの形をした石を集めるのが好きです。なつは海辺で丸くなったきれいなガラス片を集めるのが好きです。夏休み、みちがおじいちゃん、おばあちゃんを訪ねていったのは、なつの住んでいる町。
みちが朝早く海辺でハート型の石を並べていると、なつがやってきます。ふたりは、いいお友だちになれそうですね。

 

 

 

 

 

『うちのねこ』高橋和枝/作 アリス館 2021/7/20(出版社サイト→こちら

ある春の日、野良猫が保護されて、うちにやってきた。もうおとなになっている猫。なかなか心を開いてくれない。慣れたかなあと思うと、ひっかいてくる。そうやって夏が過ぎ、秋が過ぎていく。冬がきて、布団に近寄ってきて目が合うとまたひっかいてきた。保護しないほうがよかったの?野良のままがよかったの?それから1週間後、温かい布団の中にねこが入ってきます。作者の実体験をもとに描かれた作品です。

 

 

 

 

 

『くろねこのほんやさん』シンディ・ウーメ/文・絵 福本友美子/訳 小学館 2021/7/25(出版社サイト→こちら
本を読むのが大好きなくろねこがいました。他の家族はダンサーだったり、ケーキ屋さんだったり、ロボット制作だったりと忙しく仕事をしています。おにいさんに「ほんをよむのはしごとじゃないよ」とまで言われてしまいます。
それでも「ほんをよめばいろんなことがわかるし、なんにでもなれる」と気にしないくろねこ。町で店員募集の本屋さんをみつけて、そこで働くことになりました。
子どもたちひとりひとりに合わせたぴったりの本を選んでくれるので、くろねこのいる本屋さんはたちまち人気店になりました。
ところが大雨で本屋さんが水浸しに。子どもたちも本屋さんに来れなくなりました。そこでまたくろねこの大活躍がはじまります。本を読むことの楽しさを伝えてくれる絵本です。

 

 

 

 

 

『しらすどん』最勝寺朋子/作・絵 岩崎書店 2021/7/31(出版社サイト→こちら

朝ごはんに食べた「しらす丼」。りょうくんは丼にほんのわずかしらすを食べ残して席を立とうとすると、「自分がしらすだったらって、かんがえたことある?」と丼に呼び止められるのです。
するとりょうくんは、しらすの大きさになって、食べかすとしてごみに捨てられ、ゴミ収集車で焼却炉へ・・・このあたりの描写は、少し衝撃的です。その後りょうくんは海のなかで稚魚として目ざめ、しらすとして商品になり、家へとやってきます。
りょうくんは、今度はしらす丼を最後まできれいに食べるのです。
自分が生ごみとして燃やされてしまうという想像は、子どもたちには衝撃かもしれません。しかし作者は「食べることは、他の命をいただくこと」、そうした命のやりとりに無関心になっていることを伝えたいと、飽食の時代に一石を投じる覚悟で制作されました。そのことをきちんと子どもたちに伝えられるように、丁寧に手渡したい絵本です。

 

 

 

 

『野ばらの村のけっこんしき』ジル・バークレム/作・絵 こみやゆう/訳 出版ワークス 2021/8/25(出版社サイト→こちら

「2021年5月、6月の新刊から」(→こちら)でも紹介した「野ばら村の物語」四季シリーズの夏のお話です。
チーズ小屋で働くポピーと粉ひき小屋で働くダスティは小川のほとりで出会って恋におち、結婚することになりました。野ばら村のみんなは大喜び。村をあげて結婚式のお祝いの準備をします。小川の上に浮かべた筏の上での結婚式は、それはとても楽しそうです。細かく描かれた田園風景をじっくり味わってほしいなと思います。

 

 

 

 

 

 

《ノンフィクション絵本》

『旅をしたがる草木の実の知恵 ゲッチョ先生の草木の実コレクション』盛口満/文・絵 少年写真新聞社 2021/7/20(出版社サイト→こちら

草や木は自分で動くことができないため、種子を遠くに運んでもらうために、美味しい木の実をつけて鳥や動物たちに運んでもらえるよう引き付けます。
あるいはトゲトゲをつけて、動物や人にくっついて遠くへ運ばれるものや、風にのって遠くへ飛ぶように出来た種子も。
そんな様々な植物の種子を200種類以上集めて、分類し、わかりやすく説明をしてくれている科学読み物です。

 

 

 

 

 

 

【児童書】

『あなたがいたところ―ワタシゴト 14歳のひろしま2』中澤晶子/作 ささめやゆき/絵 汐文社 2021/6(出版社サイト→こちら

昨年出版された『ワタシゴトー14歳のひろしま』(出版社サイト→こちら)の続編です。
「ワタシゴト」は、「私事=他人のことではない、私のこと」と「渡し事=記憶を手渡すこと」の二つの意味を持っています。
舞台は修学旅行で全国から多くの中学生が訪れる広島。被爆建物を訪れた中学生たちの、4つの物語が収められています。76年前の広島原爆の被害を語り継ぎ、修学旅行という機会でそれに触れることが、若い世代が世界の平和を自分のこととして考える契機になっていく。そのことを本を通して伝えていきたいと思います。

 

 

 

 

 

 

【ノンフィクション】

『あたらしいお金の教科書 ありがとうをはこぶお金、やさしさがめぐる社会』新井和宏/著 山川出版社 2021/7/30(出版社サイト→こちら

かつて外資系金融機関で、国家予算に匹敵するような額のお金を運用していた新井さん。お金を儲けることだけが目的になると、経済格差が広がり不幸になる人が増えることに気づかれます。
そして丁寧に事業をし、従業員も顧客も経営者も三方良しの経営をしている会社を支援するために「鎌倉投信」を設立します。その様子は、NHKの「プロフェッショナル仕事の流儀」でも紹介されました。(→こちら
その後、新井さんは「ありがとうの循環」が社会を巡るような共感通貨eumo(→こちら)を作り、昨年運用が開始されました。
この本は、奪い合いではなく、お互いを助け合う仕組みとしてのお金の意味を、お金の歴史を紐解きながら、わかりやすく解説しています。帯に書かれている「お金の本なのに、生き方や幸せや社会について考えたくなる、全く新しいお金のバイブル」そのものです。

 

 

 

 

【研究書】

『いわさきちひろと戦後日本の母親像 画業の全貌とイメージの形成』宮下美砂子/著 世織書房 2021/6/30 (出版社サイト(書籍情報はなし)→こちら)

ジェンダーと絵本について研究されている筆者の博士論文を元にして書籍化された本です。
戦後の絵本には「おとうさんとおかあさん、そしてこどもふたり」というステレオタイプの家族像が描かれ、いつの間にかそれが当たり前のように刷り込まれてきました。家族の在り方は、その後大きく変わってきており、子どもの本の世界でも価値観の更新が求められています。
この研究では、いわさきちひろが描く「母と子」像を通して、その意味を問い、いわさきちひろの絵本と画業を通して、日本社会にまん延するジェンダー不平等について分析しています。
世界ジェンダーギャップ指数が2021年3月発表では156か国中120位の日本で、宮下さんの研究は子どもの本の世界をジェンダーの視点で捉えなおす必要性を問いかけてくれています。

 

 

(作成K・J)