昨年末から新年にかけて出版された子どもの本を紹介します。
今回は、2月1日に6階から9階へ移転し新装オープンした銀座教文館ナルニア国へ新刊チェックに2月6日に行った際に選書し、一部は横浜日吉にあるともだち書店から取り寄せました。すべて読み終えて記事を書いています。
なお、一部見落としていた昨年12月より前に出版された本と、2022年2月の新刊も含まれています。
併せて銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら)
なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。
**************************
【絵本】
《創作絵本》
『たぬき』いせひでこ/作 平凡社 2021/11/17(出版社サイト→こちら)

2011年3月、いせひでこさんの家の寝室の床下で不思議な物音が・・・そしてある朝、デッキに置いてあるスリッパがいたずらされているのを確認します。するとその夜デッキの上にたぬきの親子が現れます。
そこから庭の観察記「たぬ記」を詳細なスケッチとともにつけ始めます。その記録を元に庭の季節の移ろいとともに、子だぬきたちの巣立ちまでを描いた絵本です。画家の目を通して描かれるたぬきの子育ての様子はとても美しく、愛情豊かな視線を感じます。たぬきの親子も安心して子育てをしたことでしょう。
『おはいんなさい えりまきに』角野栄子/作 牧野鈴子/絵 金の星社 2021/12 改訂新版(出版社サイト→こちら)

1984年に出版された絵本で、長く品切れになっていましたが、この度改訂新版として出版されました。
りっちゃんがママに教えてもらって編んだえりまきはとびきり長いのです。寒い寒い日、りっちゃんはぐるぐるとえりまきを巻いて散歩に出かけます。寒がっている友達やペンキ屋さんにおすもうさん、インドのおじさんに交通整理のおまわりさんまでえりまきに入れてあげました。それでもみんな寒くてぶるぶる。そこでえりまきで長縄跳びを始めると・・・コロナ禍で今はこんな風に密着できないのですが、読んでいて、とてもいいなあと気持ちが温かくなりました。寒い季節にぜひ読んであげたい絵本です。
『おばあさんとトラ』ヤン・ユッテ/作・絵 西村由美/訳 徳間書店 2021/12/31(出版社サイト→こちら)

ヨセフィーンおばあさんは散歩の途中、森の中でトラに出会います。でも、このトラ、おばあさんを襲うことなく喉を鳴らして頭をおばあさんに擦り付けてきます。
そこでおばあさんは「うちにくるかい?」とトラを誘って家に連れて帰ります。
町の人はみんな驚きますが、そのうちおとなしいトラだとわかって、みんなが優しくしてくれました。ところがトラは日に日に色あせて元気がなくなってきました。獣医さんに診てもらうと「ホームシックじゃな」と告げられます。そこでおばあさんは船でトラを生まれ故郷のジャングルに連れていくことにしたのでした。オランダの絵本です。
『旅の絵本Ⅹ』安野光雅/作 福音館書店 2022/1/10(出版社サイト→こちら)

2020年12月に94歳で亡くなられた安野光雅さん(→こちら)が、最後まで描き続けていらした『旅の絵本Ⅹ』が出版されました。
今回の旅の舞台は、オランダです。この絵本の原画は、安野光雅さんが逝去されたあとに、アトリエからみつかったそうです。巻末には安野光雅さんご自身による旅の解説があります。安野光雅さんがお元気だったころに旅をされたオランダの街々と、その時に感じられた想いを突き合わせながらページをめくりました。『旅の絵本』は全部で10冊。絵本を通して偉大な絵本画家の歩みをたどってみるのも、コロナ禍でこその「仮想旅」になりますね。やってみるのも良いかもしれません。
『ねこのオーランドー 毛糸のズボン』キャスリーン・ヘイル/作 こみやゆう/訳 好学社 2022/1/20(出版社サイト→こちら)

こみやゆうさん翻訳の「ねこのオーランドー」シリーズも3冊目です。
ねこのオーランドーはある雪の積もった寒い夜に、道路監視員のピュージーさんの陣中見舞いに行って、パラフィン油の入った缶を倒して腰から下が油まみれになってしまいます。その上、油を浴びた部分の毛が全部抜けてしまったのです。
恥ずかしさで家に帰れず、茂みにうずくまっているオーランドーを気の毒に思ったグレイスは、オーランドーのために毛糸のズボンを編んでくれました。
毛糸のズボンが編み上がるまでの間、オーランドーが3匹の子ねこたちと交わす会話もとても面白く、またしばらくすると毛糸のズボンの下からちゃんと毛が生えてきて一件落着。「おわりよければ、すべてよしってね」という言葉で締めくくられたお話は、子どもたちにも安心感を与えてくれることでしょう。
『ナイチンゲールのうた』ターニャ・ランドマン/作 ローラ・カーリン/絵 広松由希子/訳 BL出版 2022/2/1(出版社サイト新刊紹介→こちら)

昔、地球はみずみずしく、空も山も川も海も砂漠も森も美しい色であふれていたのに、動物たちはぼんやりとくすんでいたのです。そこで「えかきさん」はどうぶつたちを呼び集めて、絵の具で色を付けていきました。
まずは昆虫たち、シマウマにキリン、ペンギンにフラミンゴ、次々に色を付けていきます。マンドリルは絵具箱の上に座ってしまったので、カラフルなお尻になってしまいました。行列の最後にいた小さな虫は金の絵の具を塗ってもらいコガネムシになります。やっと仕事が終わったと帰ろうとしたその時、森かげから小さな小鳥が飛んできます。とても臆病で暑さが苦手な鳥でした。でも、絵の具を使い切ってしまっていたのです。そこでえかきさんは、小鳥のくちの中に金の絵の具をひとしずくだけぽつんと垂らしたのです。この小鳥は夜の静けさの中で金色の声で歌うナイチンゲール(夜鳴きうぐいす)と呼ばれるようになったというお話です。『ローラとつくるあなたのせかい』(広松由希子/訳 BL出版 2016→こちら)で2015年にブラチスラバ世界絵本原画展グランプリを受賞したローラ・カーリンの美しい絵に惹きこまれていく絵本です。
『シェルパのポルパ 火星の山にのぼる』石川直樹/文 梨木羊/絵 岩波書店 2022/1/28(出版社サイト→こちら)

ヒマラヤの山々を案内するシェルパのポルパは、登山をする人々の心強い味方です。そんなポルパはある時、火星にはエベレストよりも高い山があることを知ります。それを知ったシモーヌさんに宇宙まで行けるように改造されたヘリコプターを使うように勧められます。
村の人々の助けも借りて宇宙へ行く準備をしたポルパは、相棒のヤクのプモリと一緒に火星で一番高い山、オリンポス山を目指します。オリンポス山は21,230mの高さです。
この作品の構想は、作者が火星にエベレストの2倍以上の山があるというニュースを見て生まれたそうです。現在、火星探査が進められているので、その内、本当に火星の山を登ることが実現するかもしれませんね。
『ずんずんばたばたおるすばん』ねじめ正一/文 降矢なな/絵 福音館書店 2022/2/5(出版社サイト→こちら)

福音館の月刊絵本「こどものとも」年少版2017年12月号のハードカバーが出ました。お母さんが買い物に出かけた途端に、天井から子ザルたちが降りてきたり、押し入れではナマケモノが布団に潜り込んでいたり、冷蔵庫ではペンギンが涼んでいたり…と次々といろんなことが起こります。僕の部屋ではカピバラがフラダンスしていて、廊下ではパンダとクマが相撲を取り、お風呂の中ではクジラが潮を吹いて、お留守番の家の中はみんなが一緒にずんずんばたばたしていて愉快です。子どもの縦横無尽な想像の世界を描いた楽しい絵本です。
『ここがわたしのねるところ―せかいのおやすみなさい―』レベッカ・ボンド/文 サリー・メイバー/作画 まつむらゆりこ/訳 福音館書店 2022/2/5 (出版社サイト→こちら)

一日の終わりは「おやすみなさい」の時間。オランダの子どもたちは屋形船の中でぐっすり休みます。中南米の国ではハンモックに揺られながら、インドのように暑い国では蚊帳をつったベッドで、アフガニスタンの子どもは敷物の上で、日本は畳の上に布団を敷いて・・・と世界中のあちこちで寝る場所は違えども、それぞれに安らかに眠る場所があるのです。
この絵本の特徴は、絵がすべてアップリケと刺繍で描かれているということ。それぞれの地域の伝統的なデザインや文様も含めて全部の場面が細かい刺繍によって描かれ、その精巧さ、緻密さにまず驚きます。また訳者のまつむらさんはあとがきに「世界には、安心してねむることのできない子どもたちがいることも思います。戦争状態の国もあれば、災害などで家を失って一時的な施設で暮らさなければならないこともあるからです。(改行)すべての子どもが、ここちよくねむりにつけますように、と願いながら、この作品を訳しました。」と記しています。この絵本を手に取って親子で読むことを通して、そんな祈りを思い出してほしいなと思います。
『野ばらの村のひみつのへや』ジル・バークレム/作・絵 こみやゆう/訳 出版ワークス 2022/2/25(出版社サイト→こちら)

「野ばらの村の物語」の四季シリーズの4冊に続いて、アドベンチャーシリーズの1冊目が出版されました。
野ばらの村では、冬になると冬至まつりが開かれます。カシの木館の暖炉の周りに村中の人が集まって食べたり、飲んだり、出し物をしたりと楽しく過ごすのです。そんな中、ウィルフレッドとプリムローズはカシの木館の中でひみつの階段をみつけるのです。カシの木館の断面図を見ながら二人が冒険したところを辿るのも楽しいでしょう。細かく描かれた調度品に見入ってしまいます。
シリーズはあと3冊刊行予定です。
《知識絵本》
『こんとごん てんてん ありなしのまき』織田道代/文 早川純子/絵 福音館書店 2022/2/5(出版社サイト→こちら)

福音館書店の月刊絵本「かがくのとも」の2017年3月号がハードカバーになりました。この絵本のテーマは「ことば」です。日本語の言葉には似ているけれど、濁点が無いのとあるのとでは意味が全然違ってくるものがあることを、子どもたちにわかりやすくきつねのこんとごんが教えてくれます。
「おひさま きらきら かぜ さわさわ はっぱが はらはら」
「おひさま ぎらぎら かぜ ざわざわ はっぱが ばらばら」
濁点がつくだけでこんなに違ってくるということを、読んでもらうことで耳から聞く耳心地からも感じてもらえるといいなと思います。
『そだててみたら・・・』スギヤマカナヨ/作・絵 赤ちゃんとママ社 2022/2/17(出版社サイト→こちら)

たねから植物を育てるって、わくわくする作業です。どんな芽が出てくるのか、どんな花が咲いて実がなるのか、観察するのも楽しいことです。
学校でたねからそだてて観察日誌をつけるという宿題が出たぼくは、近所のたねやさんに行きます。いろいろ迷って「おたのしみ 話のたね」という引き出しの中にあったたねを育ててみることにします。
この少年が育てたのは一体なんだったのでしょう?あとがきのページにその答えが小さく出ていますが、絵を見ながら図鑑で調べてみるのも楽しいですね。好奇心旺盛な子どもたちに手渡したい絵本です。
【児童書】
『白いのはらのこどもたち』(新装版)たかどのほうこ/作 理論社 2021/12(出版社サイト→こちら)

野原が大好きなのはらおばさんが、雪の積もった冬の野原にのんちゃんを誘いました。かんじきをはいて散歩するのです。すると雪の上になにかの動物の足跡が・・・それはタヌキとキツネの足跡でした。のはらおばさんは、キツネとタヌキの歩き方の違いで足跡も違っていることを教えてくれます。散歩を続けているうちに、次々にのはらクラブの友達も加わっていきます。冬の野原にはいろんな発見や遊びがあって、のはらおばさんと仲間たちはとても楽しそうです。
この作品は2004年に出版されていた作品に加筆、作者あとがきを加えた新装版として出版されました。
『コロキパラン 春を待つ公園で』たかどのほうこ/作 網中いづる/絵 のら書店 2022/1/28(出版社サイト→こちら)

大学1年生だった私が、ある年の2月の日曜日にクラスメイトの森田さんに頼まれて一緒にアルバイトした日のことを綴った短い物語です。
バレンタインデーを前に、チョコレートやさん「ムッシュ・チョコット」の店長さんと3人で公園に店を出し、森田さんは売り場のお手伝い、私はチョコレートを買ってくれた人に似顔絵を描くという仕事を担当します。実は絵描きのふりをしているだけで、似顔絵はノートに落書きを描いたことがある程度でした。
コロキパラン・・・キロラポン・・・コロキパラン・・・キロラポン・・・
その優しい音は、公園の隅のおじいさんの手回しオルゴールから出ていました。その音に合わせるとペンが軽やかに動いて似顔絵がうまく描けるのでした。似顔絵はお客さんに好評で、チョコレートを買った人が次々並びます。小さい女の子や男の子もやってきました。最後に並んでいたのは手回しオルゴールのおじいさんでした。ところが店じまいをすると、手提げ金庫の中にはどんぐりやクルミ、葉っぱが!若葉の季節になって、公園を歩くとクルミの木からリスの子の似顔絵が・・・春待つ公園で起きた不思議な魔法の物語です。
『おとなってこまっちゃう』ハビエル・マルピカ/作 宇野和美/訳 山本美希/絵 偕成社 2022/1(出版社サイト→こちら)

メキシコの児童文学作品です。9 歳の女の子サラのお母さんは、社会の不正に立ち向かい、困っている人や貧しい人のために頑張っている人権派の弁護士です。サラの両親は離婚していますが、毎週金曜日はお父さんのところで過ごしています。
ある日、サラのおじいちゃん(母親のお父さん)が若い女性と再婚すると宣言します。ところがサラのお母さんは、自分と年齢の近い人と父親が再婚することを受け入れられません。
普段は、サラに友達の悪口は言わないようにと注意するのに、頭ごなしにおじいちゃんの彼女を拒否するのはおかしいとサラは思います。
そこで、サラはなんとかおじいちゃんの婚約者と母親を引き合わせようと、計画を立てます。物語は、その若い婚約者が実はお母さんの昔の親友だったということで思わぬ展開となります。サラの味方になってくれるお母さんの弟、サルおじさんはゲイです。古い価値観に捉われない家族像が描かれていて、その中でサラがおとなの抱える弱さや矛盾を「こまっちゃう」と思いながらも理解し、家族それぞれを繋いでいきます。家族について、多様性について考えることのできる作品です。
(作成K・J)