本に関する情報

基本図書を読む31『クラバート』プロイスラー(再掲載)
2020年8月、9月の新刊から(追記あり)
おすすめの幼年童話42『アレハンドロの大旅行』きたむらえり作
科学道100冊2020年版が発表されました!
基本図書を読む30『エイブ・リンカーン』 吉野源三郎(再掲載)
おすすめの幼年童話41『マンホールからこんにちは』いとうひろし作
2020年7月、8月の新刊から
基本図書を読む29『時の旅人』アリソン・アトリー(再掲載)
基本図書を読む28『注文の多い料理店』『風の又三郎』『銀河鉄道の夜』宮沢賢治(再掲載)
おすすめの幼年童話40『きかんぼのちいちゃいいもうと』ドロシー・エドワーズ作
2020年5月、6月の新刊から(読み物、その他)
教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナー
訃報 シビル・ウェッタシンハさん
2020年5月、6月の新刊から(絵本)
おすすめの幼年童話39『みにくいおひめさま』フィリス=マッギンリ―作

基本図書を読む31『クラバート』プロイスラー(再掲載)


こちらは2016年10月28日に掲載した記事の再掲載です。児童文学というにはとても深い内容の作品、秋の夜長に再読するのにぴったりです。

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 今回の基本図書を読むでは、小学校低学年くらいから中学年くらいの子が楽しむ『大どろぼうホッツエンプロッツ』でも有名なドイツの作家オトフリート・プロイスラーが11年かけて書き上げた『クラバート』を紹介します。この作品は、国際アンデルセン賞・作家賞・次席、ドイツ児童文学賞、ヨーロッバ児童文学賞を受賞しています。

『クラバート』オトフリート・プロイスラー/作 中村浩三/訳 偕成社 1980

 

 
 

 

 

 

 

 

 

 

  物語は、14歳で孤児となった主人公クラバートは、自分に呼びかける奇妙な夢に誘われ、湿地のほとりにある水車小屋で11人の粉ひき職人の仲間になるところから始まります。

 「クラバートはしばらくのあいだ、霧につつまれた森のなかを、まるで盲人のように手さぐりで歩いた。するとあき地にゆきついた。ちょうど木立の下からぬけ出ようとしたとき、雲が切れて、月があらわれ、あたりのすべてが急につめたい月光のなかに浮かびあがった。

 そのとき、クラバートは水車場を見た。

 それはすぐ目の前にあった。雪のなかに黒ぐろと、おどすようにうずくまっていて、さながら、獲物を待ちぶせている、巨大な、おそろしいけだもののようであった。」(P17)

 実は水車小屋の親方は魔法使いで、金曜日の夜になると、職人たちをカラスに変え、魔法を教えていたのです、魔法を使えば、苦しい労働も楽にでき、他人をも支配することができると思ったクラバートは懸命に魔法を勉強します。しかし、クラバートが水車小屋に来て1年目の大みそか、クラバートを何かと気遣ってくれた職人頭のトンダの死をきっかけに、親方の変わりに毎年職人の中から一人、犠牲にならなければならないことを知るのです。最初の1年がふつうの3年に相当する水車小屋で、クラバートは少しずつ秘密を知りながら、心も体も成長していきます。そして、村の少女に恋をし、娘の愛を得、親方から自由になるために、生死をかけた対決をするのです。

 この物語は、ドイツのラウジッツ地方に伝わる<クラバート伝説>を素材に描かれたもので、プロイスラーは、少年のときに読んだクラバート伝説から受けた感銘の深さについて、次のように述べています。

「この物語は当時わたしに強烈な印象をあたえました。なかでも、神秘的なひびきをもつクラバートという名前がわたしの記憶に強くきざみこまれました。それにまた、水車場の職人たちの頭上に死の運命がただよい、年ねんかれらのひとりにおそいかかるという話に、わたしはひどくうごかされ、心をうばわれました。ですから、その後二十年にたって、クラバートに再会したような気持ちになったのも、けっしてふしぎではありません」(「解説」より P379)

 ラウジッツ地方は、ドイツ人(ゲルマン民族)のほかにヴェント人という少数のスラブ系の人々も住んでいる地域で、キリスト教もはいってきましたが、在来の異教の信仰の風習を濃くとどめ、魔女や魔法使いの伝説も豊富に残っているそうです。作品の中で描かれる、湿地のほとりにある不気味な水車小屋の様子、粉ひき職人や村人たちの生活などは、土地に根ざした現実感があります。

 作品の構成は、「1年目」「2年目」「3年目」の3章から成っており、年を重ねるごとに親方との対決が近づき、迫力が増していきます。1年目のクラバートはまだ何も知らない少年で、魅惑的な魔法の力に魅かれますが、次第にその力の代償の大きさを知り、自分の全てをかけて打ち勝とうとします。親方にさとされないように力になってくれる仲間、恋した少女との心のつながり、そして何としてでも抗うのだという自分の強い意志をもってして対決に臨んだとき、クラバートを解放してくれたものは何だったのでしょうか。クラバートを支えてくれた友人ユーローは、対決前のクラバートにこう伝えます。

「苦労して習得しなければならない種類の魔法がある。それが『魔法典』に書いてある魔法だ、記号につぐ記号、呪文につぐ呪文で習得してゆく。それからもうひとつ、心の奥底からはぐくまれる魔法がある。愛する人にたいする心配からうまれる魔法だ。なかなか理解しがたいことだってことはおれにもわかる。――でも、おまえはそれを信頼すべきだよ、クラバート。」(P355)

 この物語は、これから世に出て様々な矛盾と向き合いながらも、希望をもって前に進んでいこうとする若い人たちに、生きていくうえで大切なものは何かを教えてくれます。分厚い本ではありますが、文体は簡潔で読みやすく、振り仮名も丁寧に振られていますので、読みやすいと思います。

 尚、プロイスラー氏が1984年に日本講演のなかで語ったものを再話した「クラバート伝説」が、季刊誌<「子どもと昔話」33号 2007年秋 小澤昔ばなし研究所編集・発行>に掲載されています。プロイスラーの作品との大きな違いは、クラバートを解放するのは恋人ではなく母という点ですが、水車小屋で働くこと、実は親方は魔法使いであること、馬や牛に化けて取引することなど、モチーフが生かされていることがわかります。

(作成 T.I)

2020年8月、9月の新刊から(追記あり)


8月、9月に出版された絵本、児童書のうち、ぜひお薦めしたいものを紹介いたします。

ただし、まだ書店での十分な時間をかけての選書が出来ていません。こちらで紹介する本は、横浜日吉のともだち書店、神保町ブックハウスカフェに注文し送付いただいたものを、読んで記事にしています。なお、一部7月以前に出版された本もあります。

また今回は読み物をチェックできず絵本のみになっています。

その他の書籍に関しては銀座教文館ナルニア国のきになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

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【絵本】

『ふーってして』松田奈那子/作 KADOKAWA  2020/7/9 (出版社サイト→こちら

 

(書影は出版社サイトでご確認ください)

水彩絵の具をぽたりと落として、それに息を吹きかけて出来上がる「ドリッピング」という技法で作成されています。偶然が織りなすさまざまな形が、絵本にダイナミックな展開を与えています。巻末には「ふーってしてみよう」とドリッピングの方法も説明しています。
絵本を読んで、自分でもドリッピングで絵を描いてみられるといいですね。

 

 

『みんなみんな おやすみなさい』いまむらあしこ/文 にしざかひろみ/絵 あすなろ書房 2020/7/30 (出版社サイト→こちら

 

17.8×18の小さな判型の絵本です。抑えた色彩で、満月の夜につぎつぎ動物たちが眠りについていきます。「よるのまきばに、おつきさまがのぼる こひつじたちは、とってもねむたくなってきた おやすみ おやすみ こひつじたち」、「よるのもりに、おつきさまがのぼる ふくろうたちは、とってもねむたくなってきた おやすみ おやすみ  ふくろうたち」と繰り返しが続きます。それにつられてだんだん眠くなってくる穏やかな絵本です。

 

 

 

『ひろいひろいひろいせかいに』ルイス・スロボドキン/作 木坂涼/訳 偕成社 2020/8 (出版社サイト→こちら

 

わたしたちを取り巻く世界にはたくさんのものや人、動物たちがあふれていると、カラーページと白黒のページで次々に見せてくれます。それでも最後のページでは「だけど せかいじゅうさがしても あなたはひとり あなたしか いない わたしもひとり わたししかいない」と結ばれています。この世界の多様性を示しつつ、ひとりひとりの尊厳を伝えてくれる素敵な1冊です。

 

 

 

 

 

『これがぼくらにぴったり!』アン・ローズ/作 アーノルド・ローベル/絵 こみやゆう/訳 好学社 2020/8/23 (出版社サイト→こちら

 

20.8×18.5のこちらも判型の小さな絵本ですが、ある意味、哲学的な意味を持っている深いテーマを扱っています。ロンソンさんは有る時くつひもが切れてしまい新調します。くつひもだけが新しいと釣り合わないといって、靴を新調します。すると来ている服も帽子も何もかも新調しないと気が済まなくなるのです。そして奥さんの服も新しくするとぼろ屋に住んでいては釣り合わないと借金をして大きな屋敷まで買うのですが・・・身の丈に合った暮らしの大切さに気づかせてくれるおはなしです。

 

 

 

『まほうのハッピーハロウィン』石津ちひろ/文 岡田千晶/絵 ブロンズ新社 2020/8/25 (出版社サイト→こちら

 

個人的なことになりますが30年ちょっと前に香港に住んでいた時に初めてハロウィンを我が子たちと体験しました。同じコンドミニアムの中で目印のかぼちゃを玄関先に置いてある家々を子どもたちが仮装してまわりました。大きい子が小さい子の手を引きながら、アメリカ人、イギリス人、香港人、日本人、さまざまな国の子どもたちが手をつないでまわりました。帰国した日本ではまだハロウィンのお祭りは一般的ではありませんでした。ところが2度目の海外転勤から戻った2004年には日本でもあちこちでハロウィンが定着し、お菓子メーカーも第2のバレンタインデーのように楽しいお菓子を販売していますね。
この絵本は、主人公の女の子みのりが手作りの衣装で参加したこども会のハロウィン祭りが描かれています。小さないとこのあきとくんは初めての参加で、なかなか声が出せません。みのりはあるやり方であきとくんに魔法をかけるのです。岡田千晶さんの描く優しいイラストが、楽しいハロウィンの夜を柔らかく表現していて素敵です。

 

 

 

『トラといっしょに』ダイアン・ホフマイアー/文 ジェシー・ホジスン/絵 さくまゆみこ/訳 徳間書店 2020/8/30 (出版社サイト→こちら

 

トムはある時美術館でトラの描かれた絵を見ます。そのトラはトムに気づいて草の間からじっとこちらを見ているように感じられました。家に帰ってトムはトラの絵を描きます。
その夜、トムの部屋の中にトラがあらわれます。そして「さんぽにいこう」と誘ってきたのです。月の光に誘われて、トムとトラは夜の森へと出かけていきます。幻想的で美しい絵が、ファンタジーの世界を彩ってくれます。トムが美術館で見た絵はフランスの画家アンリ・ルソーが1891年に描いた「不意打ち」という作品であることが巻末で示され、日本でルソーの絵を見られる美術館のリストも示されています。この絵本を読んだ子どもたちが、絵を見に美術館へ足を運ぶことができたら、素敵ですね。

 

 

 

『あ』谷川俊太郎/文 広瀬弦/絵 アリス館 2020/9/1 (出版社サイト→こちら

 

「あ」で始まることばを、物語のように表現した絵本です。谷川俊太郎さんの文に絵をつけるのは佐野洋子さんの息子さんの広瀬弦さん。レタリングで表現される流れるような文字の配置と、背景の色やイラストレーション、どれも味わい深い新しいスタイルの絵本です。

 

 

 

 

『珪藻美術館 ちいさな・ちいさな・ガラスの世界』奥修/文・写真 福音館書店 2020/9/5(出版社サイト→こちら

 

福音館書店月刊誌たくさんのふしぎ2019年6月号のハードカバー版です。福音館書店の月刊誌がこんなに早くハードカバー化されるのは、それだけ話題を呼んだということなんでしょう。
珪藻がこんな形でこんなに美しいということを、この絵本で初めて知りました。この絵本では、珪藻とは0.0005ミリから0.5ミリの小さな藻です。そんな小さな藻をどのような場所で、どのように採取するのか、そしてそれをどのように分別して珪藻アートに仕立てていくのか、詳しく説明が載っています。絵本の帯に「顕微鏡の奥にひろがる満天の星空、打ちあげ花火のきらめき 極小の微生物による、世界一ちいさい”ガラスアート”」と書かれています。そうなんです。珪藻はガラスの殻を持っているため、その殻を顕微鏡下で並べて、創り出したアートなのです。ため息が出るほどに美しい自然の造形を楽しめる絵本です。

 

 

 

『あるヘラジカの物語』星野道夫/原案 鈴木まもる/絵と文 あすなろ書房 2020/9/15 (出版社サイト→こちら

 

1996年8月にロシア・カムチャッカ半島で取材中にヒグマに襲われ亡くなった動物写真家星野道夫さんが残した一枚の写真から着想を得て作られた絵本です。その写真とは2頭のヘラジカが角を絡ませたまま骨になっているものです。(裏表紙にその写真が掲載されています)絵本作家鈴木まもるさんは自然を愛し、世界中の鳥の巣を取材して描いていますが、同じように自然を愛する星野さんとは同い年で自然の中で暮らし動物を愛しているということで意気投合されたそうです。印象深いこの写真の絵本を作りたいと、写真が撮られたアラスカに取材に行かれ、星野さんのお連れ合いの了解を得て制作されました。厳しいアラスカの自然の中で生きるヘラジカや動物たちの生命の連鎖を描く大作です。

 

 

『ねこはるすばん』町田尚子/作 ほるぷ出版 2020/9/15 (出版社サイト→こちら

我が家も猫を飼っています。出かけて帰ってくると玄関先まで必ずお迎えに来てくれます。いい子でお留守番していたんだなと、室内に入るとティッシュペーパーが引き出されてかじられていたり、花瓶の花が全部引っ張り出されていたりします。
この絵本に出てくる猫はその程度のいたずらなんかには見向きもしません。おとなしく留守番していると思いきや、洋服ダンスの向こう側に通り抜け・・・その先に広がっているのは猫たちの世界。気の向くままカフェにより、散髪に行き、映画も見る、釣りもする。でも飼い主が帰宅するころまでには、ちゃんと元の世界に戻ってお出迎え。思わず、我が家の猫にも「こんな風に過ごしてるの?」と聞きたくなってしまう、そんな絵本です。

 

 

 

『がろあむし』舘野鴻/作 偕成社 2020/9 (出版社サイト→こちら

しでむし』、『ぎふちょう』、『つちはんみょうなど、緻密な描写で昆虫の生態を描いた絵本で高い評価を得ている舘野鴻さん(公式サイト→こちら)の新作絵本です。
「がろあむし」という聞きなれないこの昆虫は、1914年に栃木県日光市の中禅寺湖畔でフランス人外交官ガロアさんが発見したことで命名されました。暗黒多湿の地下世界で生きるこの昆虫を描くために苦労をして観察したことなどが巻末に詳細に記載されています。絵本は上空高くから俯瞰した川と里山の景色から始まり、落ち葉が積み重なる地面へと移っていきます。そして地中に蠢く虫たちの世界を描き出します。舘野さんは「私たちの生活とはまったく関係のなさそうな暗黒の地下世界は、じつは私たちの暮らしのすぐそばにあり、その基礎となる地面を支えています。こうした大地の長い歴史と大きな循環の中に、私たちは暮らしているのです。」と書いています。同じ地球に棲む生命として誰も気にかけない小さな昆虫に想いを馳せることが、これからの時代を生きていく上でもとても重要なことだと知らされました。この絵本の表紙絵を描く過程が動画で紹介されています。ぜひこちらもご覧ください。YouTube画像(→こちら

 

 

(作成K・J)

おすすめの幼年童話42『アレハンドロの大旅行』きたむらえり作


今回は、小さなアレハンドロの頑張りに励まされる『アレハンドロの大旅行』を紹介します。

『アレハンドロの大旅行』 きたむらえり作 福音館書店 2015

 イノシシのアレハンドロは、にぎやかな大家族で暮らしていましたが、とてもおとなしい子で一言も話しません。心配した両親は、アレハンドロを遠くの丘まで、一人で行かせることにしました。旅の途中、アレハンドロは、勇気を出して、こんにちは、ありがとう、さようなら、を言おうとするのですが、いつもタイミングを逃してしまいます。誰とも話せないまま、ようやく丘の頂上にたどり着いたとき、アレハンドロの前には、見たこともない高い山がそびえたっていました。初めてみるながめに、アレハンドロが思わず、「こんにちはー」と叫ぶと、山は「こんにちはー」と返事をしてくれました。アレハンドロは嬉しくなって、山に「ありがとう」と言うと、「ありがとう」と返してくれました。アレハンドロは喜んで、とんだり、はねたり、おどったりしました。帰り道、アレハンドロは自分の名前も大きな声で言えるようになっていて、「ただいまー」と元気に家に帰っていくのです。

 大きな危険に見舞われる大冒険ではありませんが、見事に使命を果たす行きて帰りし物語になっています。子どもたちもアレハンドロの頑張りに共感するところが多いでしょう。初めてのこと、苦手なことを、ドキドキしながら乗り越え成長していく子どもたちに、優しく寄り添ってくれる作品です。

 著者がアルゼンチンに住んでいたときの思い出をもとに描いた作品とのことで、グアナコ、アルマジロ、コンドルなど登場する動物は、独特で愉快です。力のぬけたほのぼのした絵は、豊かに広がる草原の空気が伝わってきますし、アレハンドロのおっとりした雰囲気にもよく合っています。

 一文一文が短いので、自分で読み始めたばかりの子でも読みやすいでしょう。また落ち着いた装丁と挿絵のため、小学校の中学年くらいの子も手に取りやすいと思います。長いお話は難しそうだけれど、小さい子の本は読みたくないなという子にも、さりげなくおすすめしてはいかがでしょうか。

(作成 T.I)

 

 

科学道100冊2020年版が発表されました!


自然科学の総合研究所、理化学研究所と編集工学研究所による科学書のセレクト「科学道100冊」の2020年版が発表されました。

「科学道100冊2020」

「科学道100冊」プロジェクトは、書籍を通じて科学者の生き方・考え方、科学の面白さ・素晴らしさを届ける事業として、2017年に始まりました。

「科学」と「本」という、理化学研究所と編集工学研究所の強みを生かして、中学生・高校生を中心に幅広い層に科学の魅力を多様な視点から伝えるものになっています。

 

 

昨年の「科学道100冊」の記事は、「ロウソクの科学」を紹介するページでジュニア版についてお知らせしました。(→こちら
(ジュニア版は小学生にも理解できるラインナップになっています)

ブックレットなども取り寄せて館内で展示することも可能です。ぜひ参考にしてみてください。

(作成K・J)

基本図書を読む30『エイブ・リンカーン』 吉野源三郎(再掲載)


こちらは2016年9月30日に公開した記事の再掲載です。4年前の11月のアメリカ大統領選挙ではドナルド・トランプ氏が選ばれました。それからの4年間は世界的にもナショナリズムが台頭してきました。今年もまたアメリカ大統領選挙が行われます。トランプ大統領が再選されるか、世界中が注目しています。その動きを注視しながら、再読したいと思います。

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 2016年11月8日にアメリカ大統領選挙が行われますが、今回の「基本図書を読む」では、「人民の、人民による、人民のための政治を、断じてこの地上から死滅させない」というゲティスバーグ演説で有名な第16代アメリカ合衆国大統領エイブラハム・リンカーンの伝記を紹介します。

エイブ・リンカーン (ジュニア版 吉野源三郎全集) 
吉野 源三郎
ポプラ社
2000-08

 

 

 

 

 

 リンカーンの伝記は多数出版されていますが、この作品は、子どもたちが読み物として読めるよう、事実に基づいて物語風に書かれています。肩書や成し遂げたことだけでなく、リンカーンが何を見て、何を感じたのか、内面まで掘りさげて描かれているので、信念をもち自分の成すべきことにしっかり向き合った一人の人間を感じることができます。

「都会育ちの人びとから見ると、彼は感じのにぶい男に見えましたし、たしかに彼の心は、ものごとに応じて軽快に、しなやかに動いてゆくほうではありませんでした。しかし、彼はものごとをどっしりと深く経験してゆく男でした。心の表面ではなく、魂のしんで経験してゆく男でした。このしんまでひびいてくるほどの経験はめったにありませんが、その代わり、このしんまでしみ通った以上は、一生心から消しとることができない思いとなって残ります。」(P124)

 リンカーンは、貧しい家庭に生まれながら、自分の力で身を立て、州議会の議員からやがてアメリカ大統領となります。当時アメリカでは、奴隷制をめぐる争いが激しさを増していました。リンカーンは、ニューオリンズの奴隷市場で混血の少女が裸にされて売られていく場面に衝撃を受け、その出来事を生涯忘れることがなかったそうで、奴隷制に反対し続けました。ただしすぐに廃止するという姿勢をとっていたわけではなく、アメリカが分裂することがないよう、少しずつ奴隷州より自由州を多くしていくことで、奴隷制をなくそうと考えを持っていたそうです。しかし奴隷制への反対を表明していたリンカーンが大統領となることで、ついにアメリカ南北戦争が起こります。リンカーンは、その南北戦争中に奴隷解放宣言を出しますが、結局戦いは4年も続くことになります。そして、北軍が勝利をおさめた11日後にリンカーンは暗殺されるのです。

 リンカーンが奴隷解放宣言を出すに至るまで、奴隷制をめぐってアメリカがどのように揺れ動いたのか、当時のアメリカの政治や人々の生活も物語の中でわかりやすく描かれています。物語になっていることで、過去の出来事を読んでいるというよりは、リンカーンの生きた時代の空気を感じながらその場にいるように読むことができます。リンカーンの一生をみていると、苦難が多く、華々しく幸福な人生を歩んだとは言い難いかもしれまん。冗談を言って人を笑わせるのが好きで、明るく朗らかな人柄だったそうですが、一人でいるときは深い悲しみの表情を浮かべ沈みこんでいることもあったようです。この本を読み終えると、長年の苦労に耐え、深いしわの刻まれた、それでもしっかり立っている老木のような独りの人間が心に残ります。(リンカーンの身長は193センチもあったそうです。)

 著者の吉野源三郎は、哲学者でもあり、編集者でもありました。戦前、新潮社の「日本少国民文庫」の編集に携わり、『エイブ・リンカーン』の原型となった数章もこの文庫に収められています。このエイブ・リンカーンの伝記から、子どもたちに「人としてどのように生きるか」という問いに真摯に向き合ってほしいという著者の強い思いが伝わってきます。子どもたちは、この本を通して、エイブ・リンカーンその人と、一人の人間を描き出した著者、信念をもった二人の大人に出会うことができるのではないでしょうか。

 また、リンカーンの有名な子ども向けの伝記に、ニューベリー賞など数々の賞を受賞した『リンカン―アメリカを変えた大統領』があります。

 『リンカン―アメリカを変えた大統領』(ラッセル・フリードマン著 金原瑞人訳 偕成社 1993)

 
リンカン―アメリカを変えた大統領 
ラッセル・フリードマン
偕成社
1993-07

 

 

 

 

 

  著者のラッセル・フリードマンはジャーナリストで、この本では数多くの写真や資料をもとに、リンカーンの一生を客観的に描いています。少し通った小学校で学んだときのノート、「私は奴隷になりたくありません」と書いた自筆の文、またたくさんの顔写真から、リンカーンの人柄を感じることができます。南北戦争の戦場の写真(戦場で倒れた兵士たちの写真もあります)や大統領就任演説の写真(当時流行していたシルクハットをかぶっている観衆がたくさんいます)などから当時の様子が伝わってきます。 吉野源三郎の物語風の伝記とは異なった手法ですが、その人の生きた時代がどのようなもので、その中でどのように生きたのか、欠点や失敗を含め一人の人間の生き様がに描かれていることは共通しています。

 リリアン・スミスは『児童文学論』(岩波書店 1964)の「知識の本」の章の中で、次のように記しています。

「歴史や伝記にでてくる人物の生涯は、想像力を豊かにし、希望や競争心を高めてくれるものにみちている。この種類の本を読むことは、子どの人生経験を広める。つまり、人間の生活という大きなドラマにたいする共鳴と理解を、子どもの内によびおこすのである。」(P345)

 小学校高学年になると社会に目を向けるようになり、その中で自分はどう生きていくのか?と考えるようになってきます。そのような子どもたちの力になる、しっかりと時代をとらえ、その人物を描き出した伝記を手渡していきたいものです。

(作成 T.I)

おすすめの幼年童話41『マンホールからこんにちは』いとうひろし作


今回は、気軽に読めて愉快なお話『マンホールからこんにちは』を紹介します。

『マンホールからこんにちは』いとうひろし作 徳間書店 2002

 ぼくはおつかいの帰り道に角を曲がると、道のまんなかに、電信柱が立っているのが見えました。近づいてみてみると、それはマンホールから首を出したきりんでした。きりんは、アフリカの草原に住んでいましたが、水あそびをしているうちに、下水のなかに迷いこみ、やっと見つけた出口がマンホールだというのです。
 こんな具合にぼくは、次のマンホールではマンモス、次にはかっぱと、マンホールから出てきた不思議なものに出くわし、そのいきさつを聞きます。

 子どもたちは、マンホールの上で跳んだり、マンホールを踏んで歩いたりしますが、そこから不思議なものがでてきたらと考えると、とても楽しいですね。しかもそれが、大昔からきたマンモス、おばけの世界からきたカッパだったら、なおさらです。身近なところから、とんでもない世界に広がってるかもしれないと想像力をふくらませてくれるお話です。

 おかしみのある漫画風の絵は作品にぴったりです。迫力のある表紙は「なんだろう?」と思わせてくれ、紹介しやすいでしょう。文章を簡潔で、読み始めたばかりので子でも無理なく読めると思います。

 いとうひろしさんは、他にも「おさるのまいにち」シリーズ(講談社)「ごきげんなすてご」シリーズ(徳間書店)などの作品があります。愉快で親しみやすいと同時に、子どもたちの感じていることや考えていることに寄りそって書かれているので、子どもたちは楽しく共感しながら読めると思います。ぜひ、物語の本は苦手だなという子にもおすすめしてみてください。

(作成T.I)

2020年7月、8月の新刊から


7月、8月に出版された絵本、児童書のうち、ぜひお薦めしたいものを紹介いたします。

ただし、都内における7月以降の新型コロナウィルス感染拡大の影響で、書店での十分な時間をかけての選書が出来ていません。こちらで紹介する本は、クレヨンハウスに立ち寄った際に購入したものと横浜日吉のともだち書店に注文し送付いただいたもの、そして一部献本していただいたものを、読み終わり記事にしています。すべての本をチェックしているわけではないので、参考程度にしてください。

 

また、先日お知らせた銀座教文館ナルニア国のきになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

 

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。(見逃していた5月に出版された絵本も含まれています)

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【絵本】

『ぼくのすきなおじさん』長新太/作 絵本塾出版 2020/5  (出版社サイト→こちら

 

2005年に亡くなられた長新太さんのこの絵本は、1993年に童心社から出版された後、長年品切れとなっていました。長新太さんのシュールでパワフルな作品の魅力たっぷりな本作が、この度絵本塾出版から復刊しました。
ぼくのすきなおじさんは、類い稀なる石頭です。その石頭ぶりときたら、月さえもぶっ飛ばしてしまうほどです。
長新太ワールドをたっぷり楽しめる1冊です。

 

 

 

 

『グリム童話 あかずきん』大塚勇三/訳 堀内誠一/絵 福音館書店 2020/5/15  (出版社サイト→こちら

 

こちらも、福音館書店から1970年にソフトカバーとして出版されていた絵本で、ハードカバーとして復刊されました。
グリム童話の「あかずきん」が、とても愛らしく、色鮮やかに描かれています。
50年前に描かれた絵を最新技術で蘇らせたという生き生きとした絵の「あかずきん」をぜひ手にしてほしいと思います。

 

 

 

 

 

『つかまえた』田島征三/作 偕成社 2020/7  (出版社サイト→こちら

 

川に潜って素手で魚を捕まえる野趣あふれる男の子を描いた絵本です。昨年の国際アンデルセン賞画家賞候補としてファイナリストにもなった田島征三さんの大胆な筆致が、絵に躍動感を与え、生命への賛歌ともいえる力強い作品となっています。読み継がれていってほしい作品です。

 

 

 

 

 

 

 

『こんにちは!わたしのえ』はたこうしろう/作 ほるぷ出版 2020/7/25  (出版社サイト→こちら

 

はたこうしろうさんが子どもたちと一緒に行うワークショップのお手伝いに伺ったことがあります。この絵本を手にしたときに、その時のはたさんの子どもたちへの働きかけや参加した子どもたちが生き生きと絵を描いている様子を思い出しました。
はじめは遠慮がちに紙に色を塗っていた子どもたちが、身体全体を使って描き始めると、みるみる表情が変わり、心が解放されていくのです。
そんな子どもの表情の変化、喜びがこの絵本の女の子からも伺えます。芸術の秋にむけて、たくさんの子どもたちに読んでほしいと思います。

 

 

 

 

 

『4さいのこどもって、なにがすき?』ウィリアム・コール/作 トミー・ウンゲラー/絵 こみやゆう/訳 好学社 2020/7/26  (出版社サイト→こちら

 

あなたにとって、4歳の子どものイメージはどんな感じですか?様々なことに興味関心を持って活動的になり、自己中心性から抜け出してお友達との関係も作れるようになる時期です。
そんな4歳の子どもたちが、地域のおばさんの家に集まって自分たちの好きな遊びや食べ物のことを伝えていきます。最後に「あたしたちがいちばんすきなこと。それはね、おばさんみたいなやさしいひとのいえで、あそぶってことよ!」と言って帰っていきます。地域で子どもたちを温かく見守ってくれる存在が増えると、子どもたちも情緒豊かに成長していくだろうなと思います。

 

 

 

 

『びんにいれたおほしさま』サム・ヘイ/文 サラ・マッシーニ/絵 福本友美子/訳 主婦の友社 2020/8/31  (出版社サイト→こちら

 

ある時、公園で弟がぴかぴか光るものを拾ってきました。姉弟は、いったい何だろう?と調べていくのですが、誰も答えてくれません。
男の子はその光るものを大切にびんに入れて片時も離しませんでしたが、その光るものはだんだん弱っていくようでした。そんな時夜空を見上げて男の子が見つけたものは「まいごです ちいさなほしがひとつ」というメッセージ。さて、迷子になったちいさなほしを、どうやって空に帰してあげられるでしょう?想像するだけでも楽しくなってくる絵本です。

 

 

 

 

 

『きっとどこかに』リチャード・ジョーンズ/作 福本友美子/訳 フレーベル館 2020/8  (出版社サイト→こちら

 

迷子になった一匹の子犬。居場所を探してとぼとぼ歩いています。ふと見た川面に葉っぱが一枚、どこかへ流れていきます。それを追っていくうちに都会に迷い込みます。
しかし、お腹を空かせて迷い込んだお店でも、嫌われ、追い出されてしまいます。どこにも行くところはないと諦めていた時に、子犬をみつけて追いかけてきた女の子に声をかけられます。
やっと受け入れてくれる人、場所に出会えた犬の安堵感が絵本からも伝わってきます。「きっとどこかに」という希望を抱くことの大切さを感じさせてくれました。

 

 

 

 

【児童書】

『ベルリン1945 はじめての春』上・下 クラウス・コルドン/作 酒寄進一/訳 岩波少年文庫 岩波書店 2020/7/14  (出版社サイト→上巻こちら、下巻こちら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドイツの20世紀前半の転換期を描いた三部作のうちの完結編です。第一世界大戦終結後ワイマール共和国誕生へと動く1918年から1919年のベルリンを舞台にした『ベルリン1919 赤い水兵』、ワイマール共和国の終焉からナチスによるファシズム独裁へと移行した1932年から1933年のベルリンを舞台にした『ベルリン1933 壁を背にして』に続く第三部です。本作では、1945年春の第二次世界大戦末期の英米機による空爆にさらされた頃と、その後のソ連によるベルリン占領下にあるベルリンを描いています。第二次世界大戦下のドイツについてはナチスによるユダヤ人迫害や大虐殺がユダヤ人の立場から描かれる作品が多いのですが、ドイツ一般市民が空襲から逃げる地下壕の中で何を考えていたのか、またソ連の占領下で何が起きていたのか、12歳の少女エンネの目線から描いています。第一部の主人公はヘレ、第二部の主人公はヘレの弟ハンス、そして第三部の主人公エンネはヘレの娘で、歴史に翻弄される家族の物語でもあります。洋の東西を問わず、また戦争を仕掛けた方も、仕掛けられた方も、武力、暴力の応酬によって深く傷つき、犠牲になるのは一般市民であり、弱い立場に置かれる女性や子ども、高齢者たちです。その厳しい事実を直視し、考える契機になる作品です。

 

 

(作成K・J)

基本図書を読む29『時の旅人』アリソン・アトリー(再掲載)


2016年8月31日に公開した記事の再掲載です。夏の夜にタイムファンタジー、お勧めです。

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 イギリスの児童文学者アリソン・アトリーは「グレイ・ラビット」シリーズ、「チム・ラビット」シリーズや「サム・ピッグ」シリーズなど動物が主人公の動物ファンタジーの妙手です。これらの作品は、自分で物語が読めるようになった子どもたちの気持ちに寄り添うもの作品で、今も幼年文学として読み継がれています。(児童部会「基本図書から学ぶ第2回」報告を参照)

 今回はそんなアトリーの作品の中でも、タイム・ファンタジーと呼ばれ、ヤングアダルト向けとされる『時の旅人』(イギリスでは1939年刊)を取り上げてみたいと思います。 

 
『時の旅人』アリソン・アトリー/作 小野章/訳 評論社 1980
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
『時の旅人』アリソン・アトリー/作 松野正子/訳 岩波少年文庫 岩波書店 2000
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「夢か、現か、幻か」・・・読み終えて、浮かんだ言葉でした。

 少女ペネロピーは病気療養のために、兄姉とともにイングランド中部ダービシャー地方にある大叔母ティッシーとその弟バーナバスの住むサッカーズ農場を訪れます。もともと、ほかの家族には見えない亡霊をみる不思議な能力を持っていたペネロピーは、サッカーズ農場を舞台にかつてこの地で生活をしていたバビントン家の人々と350年の時を越えて交流するようになります。

 ペネロピーたちが生活をはじめたサッカーズ農場の屋敷には、350年以上も前に住んでいたバビントン一家の残したものがそこかしこにありました。到着した二日後のこと、ペネロピーは出かける前に2階へひざ掛けを取りに上がり、ドアを開けるとそこに16世紀の衣装を身にまとった貴婦人たちを見ます。そしてティッシーおばさんから、バビントン家の人々と歴史に刻まれているバビントン事件のことを聞かされます。

 その数日後、ペネロピーはまた着替えを取りに2階にかけあがり、ドアを開けた途端に階段をころげ落ちます。気がつくとそこは16世紀のバビントン屋敷の中でした。そこでティッシーおばさんにそっくりのシスリーおばさんに出会います。350年の時間を遡っているにもかかわらず、彼女の姪「ペネロピー・タバナー」として受け入れられ、そこでしばらくの時間を過ごすのです。ところが、門の木戸を抜けると元の時間に戻ってきていたのでした。

 “「すぐもどってきた!」と私はそっと同じことばをくり返しました。何時間も、いえ、何日にも思えるほど、よそに行っていたのに、大きな柱時計の針は私のいないあいだに少しも動いていませんでした。時間と空間を消滅させてしまって、一瞬のうちに何年間も、世界の果てまでも、旅のできる夢のように、私は別の時代に入りこんで、そこで暮らして、柱時計の振り子が半球レンズのうしろで一振りする前に、もとのところへもどってきていました。私はべつの時代のよろこびと不安を味わいました。べつの時代の暮らしの中をしずかに動き、庭を歩き、話をし、あちこちして、そしてまたたくうちに、もどってきたのでした。夢を見たのでもなく、眠っていたのでもなく、私のしたこの旅は、澄みきった空中を通りぬけ、時間を逆もどりした旅でした。たぶん、私はあの時間のかけら― 一瞬間 ―死んで、私の亡霊が年月を飛び越えていったのでしょう。” (岩波少年文庫版『時の旅人』松野正子/訳 p125~126)

 ペネロピーはその後も、時間を飛び越えて過去のバビントン家と関わりを持ち、また元の世界へ戻ってくることを繰り返します。まさにその時代は、イギリスはエリザベス1世統治の世であり、スコットランド女王メアリー・スチュアートとの覇権争いの中、ペネロピーが出会ったバビントン家の跡取りアンソニーは、物語の後半でバビントン事件(エリザベス1世に幽閉されているメアリー女王の脱出を企てるも失敗に終わり、1586年にエリザベス1世暗殺を計画したとして処刑された事件)に関わっていきます。

 その悲劇の結末を知りつつ、過去の時代の人々と関わり、アンソニーの弟フランシスと惹かれあうペネロピー。読み進めるうちに、読者はこの特異な二人の出会いと決して結ばれることがないにもかかわらず確実に心を交わしあう関係に引き込まれていきます。 

 イギリスの児童文学でタイムファンタジーの双璧と呼ばれるフィリパ・ピアスの『トムは真夜中の庭で』(1958)(基本図書を読む㉒参照)では、時計が13時を打つことが過去の時間への入口として明確に描かれていますが、『時の旅人』では過去への明確な入口はありません。読み進んでいるうちにいつの間にかペネロピーが過去の時間に移動し、また現代に戻ってきており、周囲の登場人物からペネロピーが今どの時代にいるのかを類推することになります。

 

 このことについて、佐久間良子氏は、『現代英米児童文学評伝叢書6 アリソン・アトリー』(KTC中央出版 2007)の中で「このタイム・ファンタジーを成り立たせているのは、いくつもの時間が重なり合って共に存在し、古い家にかつて住んでいた人たちが、そのまま影となってそこに生き続けるという、アトリーの時間についての考えである。そしてアトリーが実際に見た夢を記録し、それについて解説している『夢の材料』では、この時間の概念が、夢と結びつけて語られている。主人公ペネロピ(原文ママ)の時間を越えた旅には、アトリーの語る夢の特質が顕著に表れていて、すべてを夢と考えることができる。しかし、アトリーにとって夢はもうひとつの現実であり、この作品における主人公の時間旅行をすべて夢と解釈しても、主人公の体験の真実性が失われることはない。」とし、アトリーの描き出す世界観の巧さを指摘しています。


『アリソン・アトリー』現代英米児童文学評伝叢書6 佐久間良子/著 谷本生剛/原昌/三宅興子/吉田新一/編 KTC中央出版 2007
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 



 

 それは、この作品のまえがきにアトリー自身が記しているように、舞台となったサッカーズ農場が、アトリーが子ども時代を過ごしたキャッスル・トップ農場の記憶と重なっていたこと、その農場の近くにバビントン家の治めていた土地や館があり、その土地で語り継がれるバビントン家の物語をアトリー自身が聞いて育ったことと関係があるようです。だからこそ物語にリアリティが感じられ、読者はその世界へと惹きつけられていくのだと思います。

 この物語の魅力をまとめてみると第一に、農場を取り巻く季節や花や草などの自然や、古い屋敷の調度品などの細部が丁寧に描き込まれていることです。第3章の「ハーブガーデン」(岩波少年文庫版、評論社版では「薬草園」と訳されている)などは、花の香りまで漂ってきそうです。

 第二に、中世のイギリス史をベースに物語が描かれていることです。ペネロピーが迷い込んだ過去は、イギリス宗教改革を断行したヘンリー8世のあとのエリザベス1世と、スコットランド女王メアリー・スチュアートとの覇権争いの時代でした。二人はヘンリー8世をめぐる血縁関係にあるが故に複雑な王位継承権がからみイギリス国教会を支持するエリザベス1世と、カトリック信者であるメアリー女王は対立します。メアリー女王は長く幽閉された後、エリザベス女王の手によって処刑されるという悲劇的な結末は、イギリス中世史への興味を引き起こします。16世紀後半といえば、日本では安土桃山時代。メアリー女王側についたバビントン家はさながら豊臣側についた真田家だろうかなどと、想像しながら読み進むことができました。

 第三に、この物語の重要なキーワードとなっている「Greensleeves」という歌の存在です。16世紀頃から歌い継がれているこの歌は、恋しい人を想う歌であり、シェイクスピアが喜劇「ウィンザーの陽気な女房たち」の中で触れたり、現代ではオリビア・ニュートン・ジョンなどがカバーして歌っており、また曲はクリスマスキャロル(賛美歌216番)となっているので、耳にしたことのある人は多いでしょう。この歌が過去と現代を結ぶ鍵になっています。ペネロピーがある日、礼拝用の緑のドレスを着たまま過去へ行くと、フランシスがロンドンで今流行っている歌だと言って、聞かせてくれるのでした。この歌は過去の時代でも現代でも物語の中で何度か歌われますが、一番切なく心を打つのは物語の最終盤、ペネロピーが雪の中に佇みながら、ほんの一瞬姿を見せた過去の世界でフランシスが歌う声を聞くシーンでした。ペネロピーはフランシスの歌声をたしかに聞きながらも、生きて過去へ行きフランシスに会うのはこれが最後だと悟るのです。 

 「グリーンスリーブスよ、いざ、さらば!
 神の恵、君が上にあらんことを。
 われ、今も君を愛す。
 ふたたび来りてわれを愛せ。」(岩波少年文庫版 p437)

 

 第四に、旧約聖書・創世記37~50章に描かれた「ヨセフの夢」を、アンソニーの妻、バビントン家の奥方が刺繍していたというエピソードです。「ヨセフの夢」とは、イスラエル民族の始祖アブラハムのひ孫にあたるヨセフが、少年時代に見た夢です。異母兄弟たちが年少の自分にひれ伏すという夢を麦の穂にたとえて話し、嫉妬にかられた兄たちに奴隷として売り飛ばされエジプトへ行くのですが、そこで能力が買われ宰相にまで上り詰めます。後にイスラエルの地に飢饉が起き、兄たちが売り飛ばした弟ヨセフと知らずに援助を請いに来た時に、ヨセフがその兄たちを許し、受け入れるという物語です。血縁関係にある王家の人々の権力争いに夫が巻き込まれようとしている時にバビントン夫人が「ヨセフの夢」を刺繍し、そしてその刺繍したタペストリーの端切が350年以上時を隔てて、客用の寝室でキルトの一部分になってみつかるという手の込んだアトリーの表現に、深い思いを感じ取りました。

  『時の旅人』については、先に取り上げた『 アリソン・アトリー』(現代英米児童文学評伝叢書6 谷本生剛/原昌/三宅興子/吉田新一/編  佐久間良子/著  KTC中央出版 2007)や、『作品を読んで考えるイギリス児童文学講座4 花ひらくファンタジー』(中野節子、水井雅子、吉井紀子/著 JULA出版局 2012)に詳しく論じられています。 

 

 

『花ひらくファンタジー』作品を読んで考えるイギリス児童文学講座4 中野節子、水井雅子、吉井紀子/著 JULA出版局 2012

 

 

 

 また、アリソン・アトリーの伝記『物語の紡ぎ手 アリソン・アトリー』(デニス・ジャッド/著 中野節子/訳 JULA出版局 2006)には、サッカーズ農場の舞台になったダービシャーの美しい風景や建物を収めた写真や、故郷の地図など豊富な資料があり、『時の旅人』の世界を垣間見ることが出来ます。

 
 
『物語の紡ぎ手 アリソン・アトリー』デニス・ジャッド/著 中野節子/訳 JULA出版局 2006
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 なお、私は若い頃に評論社版(小野章/訳 1980)で読みましたが、今回は岩波少年文庫版(松野正子/訳 1998)と両方を読み比べてみました。個人的には慣れ親しんだ評論社版の本が好きなのですが、今の子どもたちには、現代使われている言葉(例えばハッカ草→レモンバーム、水ハッカ→ミント、オランダガラシ→クレソン)で翻訳され、またイギリスで1978年に出版されたパフィン版の挿絵がふんだんに使われている岩波少年文庫版が手渡しやすいでしょう。今回、久しぶりに読んで、深く掘り下げてみましたが、初めて読む子どもたちには、時を飛び越えるロマンティックな物語として、楽しめるのではないでしょうか。

 

(作成K・J)

基本図書を読む28『注文の多い料理店』『風の又三郎』『銀河鉄道の夜』宮沢賢治(再掲載)


この記事は、2016年8月4日に公開された記事の再掲載です。4年前に公開されていた「宮沢賢治生誕120年ホームページ」は現在閉鎖されていますので、リンクを削除しています。ご了承ください。

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(2016年8月4日公開記事)

今年2016年が、宮沢賢治生誕120年であることを書き落としていましたので、追記します。宮沢賢治は1896年8月27日に岩手県花巻市で生まれました。花巻では宮沢賢治生誕120年記念事業として、ステントグラスのライトアップや花火、特別展など様々な催しが開かれるようです。   

宮沢賢治生誕120年ホームページ 

各地でも生誕120年を記念してイベントが開かれていますので、ぜひ図書館でも特集展示などを組んでみてはいかがでしょうか。

宮沢賢治は岩手県花巻市で生まれた詩人・童話作家です。その作品は教科書の教材としても多く扱われていますので、ほとんどの人がその名前を聞いたことがあるのではないでしょうか。賢治は、37歳の若さで亡くなり、生前に出版されたのは、詩集『春と修羅』、童話集『注文の多い料理店』のみですが、死後評価され、その作品が広められました。農学校の教師を務めたり、「羅須地人協会」(らすちじんきょうかい)を設立して地域文化活動を試みたりもした人で、作品とともにその生き方や価値観も多くに人をひきつけています。賢治の作品は様々な形で出版されていますが、今回は岩波少年文庫の3冊『注文の多い料理店』『銀河鉄道の夜』『風の又三郎』を中心に紹介します。

注文の多い料理店―イーハトーヴ童話集 (岩波少年文庫 (010)) 
宮沢 賢治
岩波書店
2000-06-16

初の童話集『注文の多い料理店』の全作品と詩11編が収められています。山奥で迷った狩人が不思議な料理店に入り込む「注文の多い料理店」、一郎のもとに山ねこからどんぐりの裁判に来てくださいという手紙がくる「どんぐりと山ねこ」、でんしんばしらの軍隊が月夜に行進する「月夜のでんしんばしら」など、小学生でも楽しく読みながら独特の世界を味わえる作品が多くあります。賢治の描いた独特の挿絵も掲載されています。

 

 
銀河鉄道の夜 (岩波少年文庫(012)) 
宮沢 賢治
岩波書店
2000-12-18

 銀河鉄道にのって少年ジョバンニがカンパネラと天空を旅しながら様々なことを感じる「銀河鉄道の夜」、鳥の子を助けたうさぎのホモイが貝の火という美しい玉を手に入れますが、美しいままで持っていることができなかった「貝の火」など、幻想性に富んだ作品を中心に7編が収められています。

 

 
風の又三郎 (岩波少年文庫(011))
宮沢 賢治
岩波書店
2000-11-17

 9月の風の強い日に不思議な転校生がやってくる「風の又三郎」、雪の凍った日にきつねの小学校の幻燈会によばれる「雪渡り」、上手ではないセロ弾きのゴーシュのもとに動物たちがやってくる「セロ弾きのゴーシュ」など、岩手の郷土が豊かに描かれているものを中心に10編が収められています。

 

賢治の作品を読むと、自己犠牲の精神や独特の宗教観なども感じられ、よくわからないな、というところもありますが、不思議にその世界にひきこまれます。空に光る星々、野山で生活する動物たち、農村で暮らしている人々、ざしき童や山男などの普段は見えないもの、そういったものたちの営みがユーモアをもって描かれていて、その息遣いを感じることができます。その作品は、感性豊かな子ども時代に触れてほしいものであると同時に、大人になって読み返すと、また新たな不思議を味わえるような深みのあるものです。 

言葉の響きも独特で味わいがあります。「どっどど どどうど どどうど どどう」(「風の又三郎」)、「赤いしゃっぽのカンカラカンのカアン。(「かしわばやしの夜」)、など思わず声に出して読みたくなります。作品の中に、詩や歌が取り入れられているともあり、言葉で楽しさも味わうことができます。

また多くの画家が賢治の作品の挿絵を描いています。文章だけではイメージしにくいという子も、挿絵があることで親しみやすくなると思います。ぜひ賢治の作品の一つ一つと丁寧に向き合って描いたものを選んで手渡してあげてください。『セロひきゴーシュ』(茂田井武画 福音館書店 1966)、『雪わたり』(堀内誠一画 福音館書店 1969)、『水仙月の四日』(赤羽末吉画 福音館書店 1969)、などは、同じ作家の作品でもここまで風合いが違うのかと驚きますが、それぞれ作品世界の雰囲気を見事に描き出しています。

 
セロひきのゴーシュ (福音館創作童話シリーズ) 
宮沢 賢治 茂田井武/画
福音館書店
1966

 

 

 

 
雪わたり (福音館創作童話シリーズ)
宮沢 賢治 堀内誠一/画
福音館書店
1969
 
 
 
 
 
 

 
水仙月の四日 
宮沢 賢治 赤羽末吉/画
福音館書店
1973
 
 
 

賢治は童話集『注文の多い料理店』の「序」に次のように記しており、賢治がどのようなことを考えて作品を描いたのか伝わってきます。

「 これらのわたくしのおはなしは、みんな林や野はらや鉄道線路やらで、虹や月あかりからもらってきたのです。

 ほんとうに、かしわばやしの青い夕方を、ひとりで通りかかったり、十一月の山の風のなかに、ふるえながら立ったりしますと、もうどうしてもこんな気がしてしかたないのです。ほんとうにもう、どうしてもこんなことがあるようでしかたないということを、わたくしはそのとおりに書いたまでです。

 ですから、これらのなかには、あなたのためになるところもあるでしょうし、ただそれっきりのところもあるでしょうが、わたくしには、そのみわけがよくつきません。なんのことだが、わけのわからないところもあるでしょうが、そんなところは、わたくしにもまた、わけがわからないのです。

 けれども、わたくしは、これらのちいさなものがたりの幾きれかが、おしまい、あなたのすきとおったほんとうのたべものになることを、どんなにねがうかわかりません。」

(『注文の多い料理店 イーハトーブ童話集』  岩波書店 2000 P9~10)

子どもたちには賢治作品の楽しいところをたっぷり味わってもらうとともに、作品に触れることで、宮沢賢治という100年以上前に生まれた一人の人間に出会ってもらえればと思います。

(作成 I.S)

おすすめの幼年童話40『きかんぼのちいちゃいいもうと』ドロシー・エドワーズ作


今回は、愉快に読むことができるイギリスの幼年童話を紹介します。

『きかんぼのちいちゃいいもうと その1ぐらぐらの歯』(ドロシー・エドワーズさく 渡辺茂男やく 酒井駒子え 福音館書店 2005)


 勝気で言うことをきかない「きかんぼ」の妹がまきおこす様々な騒動を、姉の回想で語ったお話が10篇おさめられています。
妹は、水に入ってびしょぬれになったり、姉の大切にしていた妖精のお人形を外へほおり投げたり、サンタクロースが嫌いでかみついたりと、まさか!ということをやってのけます。容赦ないので、読んでいて痛快で、次は何をするのかドキドキします。
つい意地をはってしまう、いたずらしてしまう妹に共感しながら読む子も多いでしょう。

 著者ドロシー・エドワーズはイギリスのストーリーテラーの第一人者といわれ、「きかんぼのちいちゃいいもうと」は、BBC放送で語られたのち出版された代表作です。
妹のお話をする姉の語り口は、落ち着いていてあたたかみがあります。回想ですが、丁寧に書かれているので、読んでいると目の前で騒動が起こっている気持ちになります。
耳で聞いてもわかるような簡単な文章ですので、自分で読み始めた子にもおすすめですし、読んでもらうのもぴったりの本です。

 本書は、1978年に出版された『きかんぼのちいちゃいいもうと』(渡辺茂男訳 堀内誠一絵 福音館書店)に未訳のエピソードを加え、全3巻で改訂出版された1巻目です。
他、『きかんぼのちいちゃいいもうと その2 おとまり』『きかんぼのちいちゃいいもうと その3 いたずらハリー』があります。
 新装版は大人っぽい装丁ですが、旧版は明るい元気な挿絵ですので、旧版からおすすめしてもよいでしょう。

(作成 T.I)

2020年5月、6月の新刊から(読み物、その他)


7月2日に「2020年5月、6月の新刊から(絵本)」(→こちら)を紹介してから、期間が開いてしまいましたが、読み物を紹介いたします。なお、4月、5月には書店が休業していた関係で、それ以前に出版された本も含まれています。

こちらの本は、銀座教文館ナルニア国と横浜日吉のともだち書店に注文して送付していただき、読み終わって記事を作成しています。

また、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

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【児童書】
《児童文学》

『ケルトとローマの息子』(新版)ローズマリー・サトクリフ/作 灰島かり/訳 ほるぷ出版 2020/2/20 (出版社サイト→こちら

英国を代表する歴史小説家、ローズマリー・サトクリフの読み応えのある作品で2000年に出版されたものの新版です。翻訳者は2016年に早世された灰島かりさんです。
舞台は2世紀前半のブリトン島とローマ帝国です。ケルトの部族社会ドゥムノニー族の中で育てられたべリックは、実は海で遭難したローマ人の遺児。育ての親や部族の長老によって十五歳の成人の儀式も受けることが出来ました。しかし、その後天候不良と疫病の流行が部族の暮らしを襲うと、異国の血がこの地に災いをもたらしているとして部族を追放されることになります。ローマ軍前線の街に赴いたべリックは騙されて奴隷としてローマへ連れていかれます。そこから始まる過酷な運命は、読んでいて胸が苦しくなるほどです。しかしべリックは持ち前の聡明さと勇気をもって、その人生を切り拓いていくのです。先が見えない現代だからこそ、時代の流れに翻弄されつつも、希望を捨てなかったべリックの生き方は私たちにかすかな光明をもたらしてくれると思います。

 

 

 

『夜明けの風』(新版) ローズマリー・サトクリフ/作 灰島かり/訳 ほるぷ出版 2020/3/20  (出版社サイト→こちら

こちらもローズマリー・サトクリフの歴史小説です。時代は『ケルトとローマの息子』から進んだ6世紀後半で、ローマ軍団が去ったブリテン島が舞台となっています。
当時のブリテン島はローマ文明を受け継いだケルト部族であるブリトン人と、侵入者であるサクソン人とのし烈な戦いが続いていました。
主人公オウェインはブリトン人で、ブリトン人とサクソン人との最後の大掛かりな戦いでひとり生き残った少年です。
一緒に参戦した父と兄を亡くし、北へ逃れる道中で同じようにひとり生き残った少女と出会います。大陸へ逃亡する旅の途中で少女が病気になったことからオウェインはサクソン人に少女レジナを託し、自分は奴隷として生きる道を選びます。
聡明なオウェインは、雇い主の信頼を得、のちの戦で彼を救ったことで自由の身になります。物語の後半ではローマ教皇グレゴリウス1世の命を受けてイギリスに布教のために遣わされ、のちにカンタベリー大司教となるアウグスティヌスの到着とケント王エゼルベルフトによる歓迎という実際にあった歴史上の出来事も描かれています。
時代に翻弄され、支配者たちの争いに巻き込まれていく庶民が、実は時代を作ってきたのだと読んでいて感じました。今、私たちもコロナ禍により先の見えない時代に生きていますが、こうした歴史小説を読むことは、生きる力を与えてくれるのではないでしょうか。若い世代にぜひ読んでほしいと思います。

 

 

 

『王の祭り』小川英子/作 ゴブリン書房 2020/4 (出版社サイト→こちら

 

16世紀、イングランド王国ではエリザベス1世が女王として統治していました。同じ頃、日本では信長が戦国時代の覇者として君臨しようとしていました。
物語は、信長が長篠・設楽原の合戦に勝利したことを朝廷に報告するために京の明智光秀の屋敷に滞在しているところから始まります。そこに訪ねてきた伴天連の宣教師から、信長は地球儀を見せられヨーロッパ大陸の果てにある島国がイングランド王国であること、そこには16年間在位を続けている女王がいることを聞くのです。
舞台は変わって、イングランド王国ではエリザベス女王を密かに暗殺しようとするものがいたのです。
革職人の息子ウィルは、ある夜家を飛び出して暗い森を歩いているときに妖精を捕まえます。そのウィルは妖精に「エリザベス女王がいる間にケニルワース城へ行きたい」と願うのです。伯爵の依頼で父が献上する女王の手袋を持っていくことになったウィルは、刺客に狙われた女王とともに妖精の力で時空を越えて戦国時代の安土桃山城へ降り立ちます。信長は大喜びで絢爛豪華な城をエリザベス女王に案内し、帰国を望む女王たちを京へ送って本能寺に出向いたそのさ中に、明智光秀に襲撃されます。まさに「〈時〉と〈処〉を超えて繰り広げられる壮大な歴史ファンタジー」、その後どのようにして女王とウィルがイングランドに戻るのかも、ぜひ読んでみてください。

 

 

 

 

《ノンフィクション》

『有権者って誰?』藪野祐三/著 岩波ジュニア新書 岩波書店 2020/4/17 (出版社サイト→こちら

2015年に選挙権年齢が満18歳に引き下げられましたが、20歳以下、および20歳代の投票率の低さが目立っています。
この本では、「どうせ、ぼくの、わたしの1票で政治は変わらない」という意識を、無理やり変えようとするのではなく、まずは「さまざまな有権者がいるという事実」を伝えていこうとしています。
若い世代の人の問題だけではなく、公共性に対する権利と義務をもっているという市民性の問題として、広く訴えています。
作者は、その市民性を身につけるために、まず自分の「無知」に気づくこと、異文化との交流を勧めています。そうすることによって、選挙の重要性を理解し、有権者としての自覚が生まれるとの指摘に、私自身もさまざまな気づきを与えられました。親子で読むのもいいですね。中高生にもわかりやすい言葉で、グラフや図表を用いて書かれています。

 

 

 

『チョウはなぜ飛ぶか』日高敏隆/著 岩波少年文庫 岩波書店 2020/5/15(出版社サイト→こちら

この本には、動物行動学者日高敏隆さん(1930-2009)が1975年に著した岩波科学の本16『チョウはなぜ飛ぶか』と、エッセイ「思っていたこと  思っていること」(『動物は何を見ているか』2013年 青土社)、「今なぜナチュラル・ヒストリーか?」(『ぼくの世界博物誌』2006年 玉川大学出版部)が収められています。
日高さんの蝶の研究は、小学生の時にアゲハ蝶を捕まえようと観察していて「チョウの飛ぶ道はきまっているのだろうか?」という疑問を持ったことに始まります。「その当時、春の最初のアゲハが去年の春と同じ道を飛ぶのには、きっとなにか、それなりのわけがあると考えた」ことが、その後の研究へとつながっています。この夏も多くの子どもたちが夏の自由研究などの資料を探しに図書館を利用することと思います。幼い時の小さな疑問が、大きな研究の業績に繋がることを考えると、そこでどんな資料を手渡すかがとても重要になるなあと思いました。岩波少年文庫にするにあたり、『しでむし』(2009年 偕成社)などの作品がある絵本画家舘野鴻さんが表紙絵を描き、「「なぜ」の発見」という一文を載せています。小学校高学年以上であれば読めるようになっています。ぜひ昆虫好きな子どもたちに手渡してください。

 

 

 

『議会制民主主義の活かし方 未来を選ぶために』糠塚康江/著 岩波ジュニア新書 岩波書店 2020/5/27 (出版社サイト→こちら)

こちらの岩波ジュニア新書も、『有権者って誰?』と同じように、若い世代に向けて書かれています。議会制民主主義の歴史を紐解き、現在の選挙制度についてわかりやすく解説しています。また現在の国会の形骸化、政権への忖度や、統計や文書の改ざん問題などにも言及しています。
作者は、3月末まで大学教授として憲法学などを教えていました。新型コロナウイルス感染症対策における政治の迷走などについても、あとがきで触れつつ、これからの時代を生きる私たちに、有権者として、国民として何が必要であるかを語りかけてくれています。
この本はUDフォントが使用されており、誰もが読みやすい配慮もされています。

 

 

 

 

 

 

【その他研究書など】

『新装版 私の絵本ろん 中・高校生のための絵本入門』赤羽末吉/著 平凡社 2020/5/8 (出版社サイト→こちら

今年は赤羽末吉生誕110周年で、ロングセラー『かさじぞう』が生まれて60年になる節目の年として、赤羽末吉が描いた絵本なども多く復刊されています。
また各地で行われる予定だった「赤羽末吉原画展」(多くは2021年に延期されています)に合わせて、赤羽末吉の研究書なども復刊されています。こちらは、1983年に偕成社から出版され、2005年に平凡社ライブラリーに収録された赤羽末吉のエッセイの新装復刻版です。
赤羽末吉の絵本創作にかける思いや、『そら、にげろ』、『へそとりごろべえ』、『つるにょうぼう』など12冊の絵本の制作過程、紀行などからなっている読み応えのあるエッセイになっています。
4月に『絵本作家赤羽末吉 スーホの草原にかける虹』(福音館書店)を上梓した義理の娘の赤羽茂乃さんが「新装版に寄せて―赤羽末吉への扉」という一文を寄せています。文庫版で手に取りやすい1冊です。
なお、生誕100年の記念に出版された『画集 赤羽末吉の絵本』(2010年 講談社)が増刷発行されています。こちらも併せて再読してほしいと思います。(所蔵してない図書館は購入するチャンスです)

 

 

 

 

『年齢別!子育てママ&パパの頼れる絵本193』遠藤裕美/監修 ユーキャン学び出版/自由国民社 2020/5/27 (出版社サイト→こちら

 

現役保育士で絵本講師(NPO法人絵本で子育てセンター認定)の資格を持つ遠藤裕美さんが執筆、監修した0~6歳の子ども向けの絵本ガイドブックです。それぞれの年齢の子どもたちの発達の特性が書かれ、またひとつひとつのテーマごとに「育児アドバイス」がついていて、子育て中のママ&パパには頼りになる1冊になっています。
この本の編集を担当された坂田さんが「新刊JP」のインタビューに答えている記事(→こちら)もぜひご覧になってください。このガイドブックの特徴とおすすめポイントがよくわかると思います。

 

 

 

(作成K・J)

教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナー


いつも私が児童書の新刊をチェックするために定期的に足を運び、さまざまな情報をいただいている銀座の老舗書店・教文館の児童書専門店、ナルニア国が6月より公式サイト上に「きになる新刊」コーナーの掲載を始めました。

教文館ナルニア国「きになる新刊」コーナー

 

「きになる新刊」は毎週火曜日に更新されます。

 

以前、ナルニア国から発信されていた新刊案内メルマガとは違って、すべての本を読んだ上でお薦めするという性質のものとは違うとのことです。

しかし長年培われてきた児童書を見る目を通しての「きになる新刊」は、それこそ気になりますね。ぜひチェックしてみてください。

 

また同じコーナーに「本日入荷の最新刊」も掲載されています。こちらは入荷日に掲載されます。また「学校図書館・文庫の選書リストにオススメの新刊」も、随時発信されるとのこと。選書の心強い味方になってくれそうですね。

 

なお、「本のこまど」での新刊情報も、緩やかに今後も続けていきますが、これからは「これは絶対お薦めしたい」という本に絞っていこうと思っています。

「5、6月の新刊から」は近々公開いたします。お楽しみに。

(作成K・J)

訃報 シビル・ウェッタシンハさん


『きつねのホイティ』(福音館書店→こちら)や『かさどろぼう』(徳間書店→こちら)など色鮮やかな色彩で、クスっと笑える上質なユーモアのある絵本を生み出してきたスリランカの絵本作家シビル・ウェッタシンハさんが7月1日に亡くなられました。92歳でした。(スリランカ交流会Facebook投稿より→こちら

 

『きつねのホイティ』シビル・ウェッタシンハ/作 松岡享子/訳 福音館書店 1994

 

 

 

 

 

 

 

 

『かさどろぼう』シビル・ウェッタシンハ/作 いのくまようこ/訳 徳間書店 2007(日本での初版はベネッセコーポレーションより1995年刊)

 

 

 

 

 

 

2011年に出版された『わたしのなかの子ども』(松岡享子/訳 福音館書店→こちら)には、ウェッタシンハさんがスリランカの古い港町ゴールに近い小さな村で過ごした6歳までの幼い日の思い出が、克明に記されています。

 

『わたしのなかの子ども』シビル・ウェッタシンハ/著 松岡享子/訳 福音館書店 2011

 

 

 

 

このエッセイを書かれた時(スリランカでの発行は1995年)には、すでに67歳になっていらしたのですが、幼い日々の暮らし、自然、さまざまな出来事、特にアッタンマーと呼んでいた祖母との記憶が、ついこの前のように描き出されていて、夢中になって読むことが出来ました。

 

「その当時、夜、寝床にはいると、わたしは、真っ暗闇を通してかがやく色がつぎつぎに現れるのを見ました。わたしの目の前には、夜の漆黒の向こうに、目のさめるようにあざやかで、火のようにかがやいているデザインが無数に浮かび、めまぐるしく現れたり消えたりしました。ひとつひとつのデザインは、色も形もすべて奇妙に違っていて、それは、色とデザインの爆発といってもよく、暗闇とまざりあって、まるで生きているもののようでした。眠りに落ちるとき、わたしの心は、ことばでいいあらわせない喜びにみたされました。
 この喜びは、その後もわたしの心のなかに、たえることなく生きつづけてきたと、わたしは信じています。そうです。ですから、今日までずっとわたしのなかにある子どもが、わたしの道をみちびく光でありつづけたのです。わたしのなかの子どもは、たえずわたしに、幼い子どもの空想世界の謎と魅力、魔法のふしぎを思い出させてくれます。」(p255~256)

 

翻訳を担当した松岡享子さんは、1970年代にユネスコのアジア共同出版計画事業を通してウェッタシンハさんと知り合っていらっしゃいます。

松岡享子さんが、1992年の国際児童図書評議会国際アンデルセン賞の選考委員だった時に、スリランカからウェッタシンハさんが画家賞候補として推薦されました。惜しくも賞には選出されませんでしたが、その時のことを「ウェッタシンハさんの絵本は、くったくのなさという点で際立っていました。緻密、繊細、重厚、あるいは高度にデザイン化された、と評されるであろう他の国々の候補者の作品のなかにあって、ウェッタシンハさんの絵は、素朴で明るく、のびのびとしていて、絵を描くたのしさにあふれているように見えたのです。子どもたちが絵を描いているときのような、とらわれのなさ。たとえば、ろう石で道路に落書きをしているような、あるいは、紙のはしまで来てしまったら、そのまま紙を裏返しにして描きつづけるような、自在で、自然な動きが感じられたのです。わたしは、それを好もしく思いました。」と、評されています。(『わたしのなかの子ども』あとがきより)

 

内なる子どもに背中を押されて描いてきた絵本だからこそ、異国の子どもたちの心を今も捉え続けているのでしょう。

 

『ねこのくにのおきゃくさま』シビル・ウェッタシンハ/作 松岡享子/訳 福音館書店 1996(→こちら

 

 

 

 

 

 

『スリランカの昔話 ふしぎな銀の木』シビル・ウェッタシンハ/作 松岡享子・市川雅子/訳 福音館書店 2017(→こちら

 

 

 

 

 

 

こころより、哀悼の誠を捧げます。

 

(作成K・J)

2020年5月、6月の新刊から(絵本)


緊急事態宣言が解除されたので、6月初めにさっそく銀座にある子どもの本専門店銀座教文館ナルニア国へ選書に行ってきました。加えて横浜・日吉のともだち書店からも、お薦めの本を送っていただきました。それらを全冊読んだうえで、今回は絵本とそれ以外のものとを分けて、みなさまに紹介いたします。

また、3月~5月は実際に書店へ足を運べず、見落としていた本もありました。今回紹介する中には、見落としていた3月~4月に発行されたものもあります。

(なお、各出版社の許諾要件に従って書影を使用しています)

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【絵本】

『自転車ものがたり』高頭祥八/文・絵 たくさんのふしぎ傑作集 福音館書店 2020/3/5(出版社のサイト→こちら

福音館書店月刊誌「たくさんのふしぎ」1996年7月号のハードカバー版で、2016年4月に第1刷が出版されていましたが、この度増刷されました。限定復刊です。購入はお早めに。
子ども達にとって一番身近な自転車の歴史や、動く仕組みなどを詳しい図解などを通して伝えてくれます。
馬車などから始まった速く遠くへ走っていく乗り物のうち、自転車は自動車よりも50年遅いものでした。しかし、ほかの乗り物がスピードの速さを求めて大きく重くなり、その分たくさんのエネルギーを使って騒音や大気汚染を引き起こすのに対して、自転車は軽くてもしっかりと荷物も運べるし、何よりエネルギーは乗る人の足の力だけで環境に優しい乗り物です。
子ども達から大人まで誰もが乗れる乗り物であるからこそ、交通ルールを守って安全に乗ることの大切さも伝えてくれています。

 

 

『もぐらのモリス』ダン・ヤッカリーノ/絵・文 青山南となかまたち/訳 カクイチ研究所 2020/3/25(出版社のサイト→こちら

 

もぐらのモリスは、はたらきもののおにいさんたちといっしょに過ごしていましたが、体は一番小さく、またみんなとは違う考えを持っていました。
たべるものが無くなった時、おにいさんたちは、もっと深く掘ることを決めますが、モリスだけは上に向かって掘り進みます。地上に出てくると地下では見たことのない世界が広がっています。きつねに襲われそうになりますが、機転を利かせて逆にきつねを救います。そして地上からたくさんの美味しいお土産を持ち帰るモリス。人と違う視点を持つことも大切なんだと、励ましてくれているようです。

 

 

 

 

『もっと かぞえてみよう』ディック・ブルーナ/文・絵 福音館書店 2020/4/5(出版社のサイト→こちら

 

2018年2月に出版されたディック・ブルーナの『かぞえてみよう』(→こちら)、『わたしたしざんできるの』(→こちら)と合わせて「こどもがはじめてであう絵本かず」のセットとして組まれることになった絵本です。
『かぞえてみよう』が1~12までの数(1ダース)だったので、こちらでは13から24まで色鮮やかな絵とともに数を数えていきます。
小さな子どもたちにとっては「たくさん」が具体的な数として認識できることは大きな発見であり、喜びに繋がります。

 

 

 

『とんでいく』風木一人/作 岡崎立/絵 福音館書店 2020/4/5(出版社のサイト→こちら

 

左から右へ飛んでいくのは猛禽のタカ、右から左へ飛んでいくのはガン。タカの声は緑で印字され、ガンは赤で印字されています。でも絵はひとつだけ。どういうこと?と思われるでしょう。同じ黒い鳥のシルエットが、左から読んでいくとタカに見え、右から見るとガンに見えるという、しかけのないしかけ絵本なんです。同じシーンでふたつのお話、ぜひ手に取って楽しんでほしいなと思います。

 

 

 

『かなへび』竹中践/文 石森愛彦/絵 かがくのとも絵本 福音館書店 2020/4/5(出版社のサイト→こちら

 

福音館書店月刊誌かがくのとも2015年5月号のハードカバーです。庭や草むらでよく見つけられるかなへび。小さな子どもたちにとっては一番身近な爬虫類ですね。そのかなへびの暮らしを小さな子どもたちにもわかりやすく教えてくれる1冊です。幼いころにかなへびを捕まえたのに、しっぽを切り落として逃げられた時の驚きは数十年経っても忘れられないものです。身近な生命への畏敬を伝えてあげたいですね。

 

 

 

 

『かぞえてみよう どうぶつスポーツたいかい』ヴィルジニー・モルガン/文・絵 石津ちひろ/訳 岩波書店 2020/4/7(出版社のサイト→こちら

 

どうぶつたちのスポーツ大会がはじまります!「ゆうしょうかっぷはつだけ」「かいふえがなったらたいかいがはじまるよ」と、おはなしのなかに数字が1~20~1と盛り込まれて、「ぎんメダルはぜんぶでつ」「きんメダルはつ」「ぼくたちみんなのこころはつ ワンチーム!」で終わる楽しいお話です。
色もはっきりと鮮やか、うさぎにペンギン、チーターにピューマ、カンガルーにキリン、あしかにさるにくま、ワニにいぬと、子どもたちの大好きなどうぶつたちもたくさん登場します。小さな子どもから大きな子たちまで幅広く楽しめることでしょう。

 

 

 

『空を飛びたくなったら』ジュリー・フォリアーノ/文 クリスチャン・ロビンソン/絵 田中一明/訳 カクイチ研究所 2020/4/24(出版社のサイト→こちら

 

子どもたちに想像してみることの楽しさと広がりを、教えてくれる絵本です。子どもたちにとって世界は、知りたいことで溢れています。いろいろなものに触れ、たくさんのことばを聞き、やってみる。そんな日々を、温かく見守ってくれるおとながそばにいてくれたら、怖いものはありません。日々、ぼうけんをしながら学んでいくことができます。
この絵本の絵は『おばあちゃんとバスにのって』(マット・デ・ラ・ベーニャ/文 石津ちひろ/訳 鈴木出版→こちら)でコールデコット賞とニューベリー賞を、『がっこうだってどきどきしてる』(アダム・レックス/文 なかがわちひろ/訳 WAVE出版→こちら)で七つ星の書評を受けたクリスチャン・ロビンソンが描いています。文章はエズラ・ジャック・キーツ賞を受賞しているジュリー・フィリアーノが書いています。

 

 

『うりこひめとあまんじゃく』堀尾青史/文 赤羽末吉/絵 BL出版 2020/5/1(→こちら

 

赤羽末吉生誕110年を記念して、昨年から今年にかけて続々と赤羽末吉が描いた絵本が復刊されています。この絵本も1976年にフレーベル館から出版されていたものが、新たにBL出版から復刊されました。
川上から流れてきた桃から桃太郎が生まれるのはよく知られた昔話ですが、同様に川上からうりが流れてきて中からうりこひめが生まれたという昔話は、誰もが知っているポピュラーなものではないかもしれません。あまんじゃくの、なんとも憎めない悪さと合わせて、子どもたちに伝えていきたい昔話です。

 

 

 

 

『おばけのジョージ― とびだしたけいとだま』ロバート・ブライト/作 こみやゆう/訳 好学社(出版社のサイト→こちら) 

 

心優しいちいさなおばけのジョージ―のおはなしです。(『おばけのジョージ― こまどりをたすける』(→こちら)は「本のこまど」2019年11月、12月の新刊からで紹介しました→こちら)心温まるエピソードです。近所に住む女の子ジェイニーが転んで木の根っこにある穴にけいと玉を落としたことをてんとうむしから聞いたジョージ―はふくろうのオリバーとねこのハーマンに声をかけて助けに行きます。ジェイニーが泣き疲れて眠っている間にうさぎたちに頼んでけいと玉を拾ってきてもらい、オリバーがそっとカゴに入れ、ハーマンが鳴いて起こします。まさかジョージ―たちが助けてくれたと知らないジェイニーは「けいとだまをなくしたゆめをみたんだ」と元気にかけ出していくのです。ホッと心が温まるお話です。

 

 

『けんけんぱっ』にごまりこ/作 0.1.2えほん 福音館書店 2020/5/15(出版社のサイト→こちら

かたあし飛びで「けんけんぱっ」、ねこが跳ぶと、いぬもくまも、そしてりすもぞうもやってきて「けんけんぱっ」、最後はみんな楽しくなって、「けんけん ぱっぱっぱー」と跳び上がって遊びます。福音館書店月刊誌「こどものとも0.1.2」2016年2月号のハードカバーです。

 

 

 

 

 

『こぶたのプーちゃん』本田いづみ/文 さとうあや/絵 福音館書店 2020/5/15(出版社のサイト→こちら

こぶたのプーちゃんは好奇心旺盛。ぬかるみを見ると飛び込んでどろおばけに、そしてほしくさの山にそのままダイブ、もじゃもじゃおばけになってしまいます。そのうえ、たんぽぽの綿毛も体中にくっつけて遊ぶので、ふわふわおばけになります。でも、そんなプーちゃんをおかあさんがみつけると、川に連れて行ってきれいに洗ってくれました。いたずらが大好きな年代の子どもたちに読んであげたい1冊です。福音館書店月刊誌「こどものとも年少版」の2014年4月号のハードカバーです。

 

 

 

『えほんなぞなぞうた』谷川俊太郎/文 あべ弘士/絵 童話屋 2020/5/18(出版社のサイト→こちら

 

Q「ブレーキかけてもとまらない バックもできない まがれない なのにむじこでやすまずはたらく」A「じかん」
ページ1枚になぞなぞが描かれ、その裏側に答えが描かれています。

通しで読んでも楽しいし、おはなし会の導入に、ひとつふたつ選んで子どもたちになぞなぞをしてもいいですね。谷川さんのしゃれたなぞかけは大人が読んでも楽しくなります。

 

 

 

 

 

『語りかけ絵本 えだまめ』こがようこ/文・絵 大日本図書 2020/5/20(出版社のサイト→こちら

 

こがようこさんの語りかけ絵本シリーズの最新刊です。(語りかけ絵本シリーズ→こちら
夏の間、食卓に並ぶえだまめ、小さな子どもたちにとってはさやを押して中からピュッ!と出てくるえだまめ、出すだけでも楽しいですよね。それを「ピュッ!パクッ!パクッ!」とリズミカルに繰り返されて、夢中になることでしょう。「おはなし会プラン2020年8月小さい子向け」でも、紹介しています。(→こちら

 

 

 

 

『わたしたちのカメムシずかん やっかいものが宝ものになった話』鈴木海花/文 はたこうしろう/絵 たくさんのふしぎ傑作集 福音館書店 2020/5/20(出版社のサイト→こちら

 

福音館書店月刊誌「たくさんのふしぎ」2016年11月号のハードカバーです。岩手県葛巻町立江刈小学校で実際にあったお話が絵本になっています。カメムシって臭いにおいを出すやっかいものだと考えられていましたが、ある時、校長先生がカメムシにもいろんな種類があること、それを調べてカメムシ博士になろうと呼びかけたのです。子どもたちが興味を持って調べ始めるといろいろな種類があることがわかり、独自の「カメムシずかん」を作るようになります。子どもたちが見つけたカメムシの名前がほんとうに正しいか確認するためにカメムシを専門に研究する人たちにも葛巻町に来てもらって一緒に研究するようになります。まさに「やっかいものが宝物になった」おはなしです。夏の自由研究の導入に子どもたちに紹介したい1冊です。

 

 

 

『シェルパのポルパ エベレストにのぼる』石川直樹/文 梨木羊/絵 岩波書店 2020/5/28(出版社のサイト→こちら

 

世界中の登山家が憧れる世界一の山エベレスト。そこへの登頂はニュースになるほどで簡単なことではありません。近年は年間800人が登頂に挑むなど、エベレストを目指す人が増えていますが、その陰には土地を知り、また荷物を運んでくれるシェルパの存在があります。この絵本では、シェルパになったばかりのポルパの初めてのエベレスト山頂登山の様子が描かれています。山頂から眺める景色に感動の涙を流すポルパの姿は読む者の心を打ちます。彼らのような山岳民族のおかげで華々しい登山隊の活躍があることを多くの人に知ってほしいと、写真家の石川さんがこの絵本を作られました。

 

 

 

 

『ジュリアンはマーメイド』ジェシカ・ラブ/作 横山和江/訳 サウザンブックス社 2020/5/20(出版社のサイト→こちら

 

ジュリアンは男の子だけれど、マーメイドが大好きです。ある日、プールに出かけた帰りの電車でマーメイドに扮した人たちに出会います。ジュリアンは自分もあんな風になりたいなあと想像を広げます。そして帰宅するとレースのカーテンやお花などでマーメイドに扮装するのです。それを見たおばあちゃん、止めるのではなく、ジュリアンにネックレスをかけてくれて一緒にマーメイドパレードに連れ出してくれました。このパレードはニューヨーク、コニーアイランドで毎年開かれるお祭りで(→こちら)昨年で37回になったそうです。この絵本はLGBTQを考える絵本としてクラウドファンディングで作成されました。自分がなりたいものになる、それを認めることがとても大切だということを教えてくれる絵本です。絵本の中のおばあちゃんたちもとてもグラマーでありのまま描かれています。表紙とカバーの絵が違っているので、ブッカーのかけ方に悩んでしまうかもしれません。

 

 

『はかせのふしぎなプール』中村至男/作 こどものとも傑作集 福音館書店 2020/6/5(出版社のサイト→こちら

 

はかせは、なんでも大きくなってしまうプールを発明します。プールの中から出てくるのは・・・読んできかせれば、ちょっとした形当てクイズになる面白さです。そして、最後にははかせまでそのプールに入ったのはよいのですが、元の大きさに戻すプールは発明してなくて、「おーい、じょしゅくん!もとにもどるプールをはつめいしてくれー」と叫ぶところ、なんともお茶目なはかせです。福音館書店月刊誌「こどものとも」2015年9月号のハードカバーです。

 

 

 

 

 

『こどもたちはまっている』荒井良二/作 亜紀書房 2020/6/17(出版社のサイト→こちら

 

「こどもたちはまっている」、ある時はふねが通るのを、ある時はかもつれっしゃが通るのを、ある時は雨上がりだったり、お祝いの日だったり、夕焼けだったり。何かを待つ、楽しみにするということは、生きていくうえでの希望に繋がっています。子どもたちにとって未来への希望、待っていることはたくさんあるわけで、おとなたちはそれを決して裏切ってはいけないなと、この絵本を読んでいて強く感じました。

 

 

 

(作成K・J)

おすすめの幼年童話39『みにくいおひめさま』フィリス=マッギンリ―作


今回は、お話も挿絵も美しい本『みにくいおひめさま』を紹介します。

『みにくいおひめさま』(フィリス=マッギンリーさく まさきるりこやく なかがわそうやえ 瑞雲舎 2009)


 ある王国の王女エスメラルダは、優しい王さまとお妃さま、素敵なドレスに美味しい食事と、不自由のない贅沢なくらしをしていましたが、ただ一つ幸せでないことがありました。鼻は上を向き、口はへの字にまがり、目にかがやきがなく、誰から見ても美しくなったのです。
 8歳の誕生日に事実をはっきり知ったエスメラルダは泣き止まなくなります。困った王さまは、美しいむすめに変えることができた者には賞金を、しくじった場合は首をはねるというおふれを出します。そこで現れたのが5人の美しい娘を育てているグッドウィッド夫人で、エスメラルダは9カ月の間、夫人とその娘たちと暮らすことになるのです。
 お城とは違って自分のことは自分でやらなければならない生活に、エスメラルダは初めは戸惑いますが、他の子たちの様子をみて、少しずつ自分でやるようになります。そして、自分が他の人より特別えらくないことを知ると鼻は下を向き、自分でものをつくる喜びを知ると口はほほえんで上をむき、そして人に喜んでもらう幸せを知ると目は星のようにかがやき、エスメラルダは美しくなるのです。

美しくなりたいという普遍的な願いをテーマにした、心あたたまる物語です。小学生の女の子で、「おひめさまなのに、みにくいなんてことがあるのか」と言って借りていく子がいましたが、満足してもらえたのではないかと思っています。明るく優しい色遣いの水彩の挿絵は物語にぴったりで、本自体が手に取りたくなるおしゃれな作りになっています。複雑な筋ではなく素直に読める物語ですが、少し長く、また心理描写なども入ってきているので、自分で読むことに少し慣れた子におすすめです。大人が読んでも味わい深い物語ですので、一緒に読んでも楽しいでしょう。

(作成 T.I)

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