本に関する情報

2021年7月、8月の新刊から
訃報 神宮輝夫さん
訃報 那須正幹さん
2021年5月、6月、7月の新刊から(その2)絵本・読み物
2021年5月、6月の新刊から(その1)絵本
おすすめの幼年童話50『おめでたこぶた その1 四ひきのこぶたとアナグマのお話』アリソン・アトリー作
2021年4月、5月の新刊から
訃報 エリック・カールさん
おすすめの幼年童話49『おしろのばん人とガレスピー』ベンジャミン・エルキン作
2021年3,4月の新刊から(その2)
大阪国際児童文学振興財団 Youtube公式チャンネルのご紹介
2021年3月、4月の新刊から(その1)
訃報 ベバリイ・クリアリーさん
おすすめの幼年童話48 『はじめてのプ―さん プ―のはちみつとり』A.A.ミルン作
2021年2月、3月の新刊から

2021年7月、8月の新刊から


7月、8月に出版された子どもの本、および研究書を紹介します。また、一部、見落としていた7月以前に発行された新刊も含まれています。

この度は、横浜・ともだち書店で児童書担当の方の推薦をいただいたものを取り寄せた本、翻訳者の方から直接送っていただいたものを、読み終えた上で紹介しています。

その他の書籍に関しては銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

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【絵本】
《創作絵本》

『みちとなつ』杉田比呂美/作 福音館書店 2021/6/5 (出版社サイト→こちら

大きな街にお母さんと二人で住むみちと、海辺の町で大家族で住んでいるなつ。二人はお互い知らない同士でした。みちは物静かな女の子でハートの形をした石を集めるのが好きです。なつは海辺で丸くなったきれいなガラス片を集めるのが好きです。夏休み、みちがおじいちゃん、おばあちゃんを訪ねていったのは、なつの住んでいる町。
みちが朝早く海辺でハート型の石を並べていると、なつがやってきます。ふたりは、いいお友だちになれそうですね。

 

 

 

 

 

『うちのねこ』高橋和枝/作 アリス館 2021/7/20(出版社サイト→こちら

ある春の日、野良猫が保護されて、うちにやってきた。もうおとなになっている猫。なかなか心を開いてくれない。慣れたかなあと思うと、ひっかいてくる。そうやって夏が過ぎ、秋が過ぎていく。冬がきて、布団に近寄ってきて目が合うとまたひっかいてきた。保護しないほうがよかったの?野良のままがよかったの?それから1週間後、温かい布団の中にねこが入ってきます。作者の実体験をもとに描かれた作品です。

 

 

 

 

 

『くろねこのほんやさん』シンディ・ウーメ/文・絵 福本友美子/訳 小学館 2021/7/25(出版社サイト→こちら
本を読むのが大好きなくろねこがいました。他の家族はダンサーだったり、ケーキ屋さんだったり、ロボット制作だったりと忙しく仕事をしています。おにいさんに「ほんをよむのはしごとじゃないよ」とまで言われてしまいます。
それでも「ほんをよめばいろんなことがわかるし、なんにでもなれる」と気にしないくろねこ。町で店員募集の本屋さんをみつけて、そこで働くことになりました。
子どもたちひとりひとりに合わせたぴったりの本を選んでくれるので、くろねこのいる本屋さんはたちまち人気店になりました。
ところが大雨で本屋さんが水浸しに。子どもたちも本屋さんに来れなくなりました。そこでまたくろねこの大活躍がはじまります。本を読むことの楽しさを伝えてくれる絵本です。

 

 

 

 

 

『しらすどん』最勝寺朋子/作・絵 岩崎書店 2021/7/31(出版社サイト→こちら

朝ごはんに食べた「しらす丼」。りょうくんは丼にほんのわずかしらすを食べ残して席を立とうとすると、「自分がしらすだったらって、かんがえたことある?」と丼に呼び止められるのです。
するとりょうくんは、しらすの大きさになって、食べかすとしてごみに捨てられ、ゴミ収集車で焼却炉へ・・・このあたりの描写は、少し衝撃的です。その後りょうくんは海のなかで稚魚として目ざめ、しらすとして商品になり、家へとやってきます。
りょうくんは、今度はしらす丼を最後まできれいに食べるのです。
自分が生ごみとして燃やされてしまうという想像は、子どもたちには衝撃かもしれません。しかし作者は「食べることは、他の命をいただくこと」、そうした命のやりとりに無関心になっていることを伝えたいと、飽食の時代に一石を投じる覚悟で制作されました。そのことをきちんと子どもたちに伝えられるように、丁寧に手渡したい絵本です。

 

 

 

 

『野ばらの村のけっこんしき』ジル・バークレム/作・絵 こみやゆう/訳 出版ワークス 2021/8/25(出版社サイト→こちら

「2021年5月、6月の新刊から」(→こちら)でも紹介した「野ばら村の物語」四季シリーズの夏のお話です。
チーズ小屋で働くポピーと粉ひき小屋で働くダスティは小川のほとりで出会って恋におち、結婚することになりました。野ばら村のみんなは大喜び。村をあげて結婚式のお祝いの準備をします。小川の上に浮かべた筏の上での結婚式は、それはとても楽しそうです。細かく描かれた田園風景をじっくり味わってほしいなと思います。

 

 

 

 

 

 

《ノンフィクション絵本》

『旅をしたがる草木の実の知恵 ゲッチョ先生の草木の実コレクション』盛口満/文・絵 少年写真新聞社 2021/7/20(出版社サイト→こちら

草や木は自分で動くことができないため、種子を遠くに運んでもらうために、美味しい木の実をつけて鳥や動物たちに運んでもらえるよう引き付けます。
あるいはトゲトゲをつけて、動物や人にくっついて遠くへ運ばれるものや、風にのって遠くへ飛ぶように出来た種子も。
そんな様々な植物の種子を200種類以上集めて、分類し、わかりやすく説明をしてくれている科学読み物です。

 

 

 

 

 

 

【児童書】

『あなたがいたところ―ワタシゴト 14歳のひろしま2』中澤晶子/作 ささめやゆき/絵 汐文社 2021/6(出版社サイト→こちら

昨年出版された『ワタシゴトー14歳のひろしま』(出版社サイト→こちら)の続編です。
「ワタシゴト」は、「私事=他人のことではない、私のこと」と「渡し事=記憶を手渡すこと」の二つの意味を持っています。
舞台は修学旅行で全国から多くの中学生が訪れる広島。被爆建物を訪れた中学生たちの、4つの物語が収められています。76年前の広島原爆の被害を語り継ぎ、修学旅行という機会でそれに触れることが、若い世代が世界の平和を自分のこととして考える契機になっていく。そのことを本を通して伝えていきたいと思います。

 

 

 

 

 

 

【ノンフィクション】

『あたらしいお金の教科書 ありがとうをはこぶお金、やさしさがめぐる社会』新井和宏/著 山川出版社 2021/7/30(出版社サイト→こちら

かつて外資系金融機関で、国家予算に匹敵するような額のお金を運用していた新井さん。お金を儲けることだけが目的になると、経済格差が広がり不幸になる人が増えることに気づかれます。
そして丁寧に事業をし、従業員も顧客も経営者も三方良しの経営をしている会社を支援するために「鎌倉投信」を設立します。その様子は、NHKの「プロフェッショナル仕事の流儀」でも紹介されました。(→こちら
その後、新井さんは「ありがとうの循環」が社会を巡るような共感通貨eumo(→こちら)を作り、昨年運用が開始されました。
この本は、奪い合いではなく、お互いを助け合う仕組みとしてのお金の意味を、お金の歴史を紐解きながら、わかりやすく解説しています。帯に書かれている「お金の本なのに、生き方や幸せや社会について考えたくなる、全く新しいお金のバイブル」そのものです。

 

 

 

 

【研究書】

『いわさきちひろと戦後日本の母親像 画業の全貌とイメージの形成』宮下美砂子/著 世織書房 2021/6/30 (出版社サイト(書籍情報はなし)→こちら)

ジェンダーと絵本について研究されている筆者の博士論文を元にして書籍化された本です。
戦後の絵本には「おとうさんとおかあさん、そしてこどもふたり」というステレオタイプの家族像が描かれ、いつの間にかそれが当たり前のように刷り込まれてきました。家族の在り方は、その後大きく変わってきており、子どもの本の世界でも価値観の更新が求められています。
この研究では、いわさきちひろが描く「母と子」像を通して、その意味を問い、いわさきちひろの絵本と画業を通して、日本社会にまん延するジェンダー不平等について分析しています。
世界ジェンダーギャップ指数が2021年3月発表では156か国中120位の日本で、宮下さんの研究は子どもの本の世界をジェンダーの視点で捉えなおす必要性を問いかけてくれています。

 

 

(作成K・J)

訃報 神宮輝夫さん


青山学院大学名誉教授で、英米の児童文学を日本の子どもたちに多数紹介してくださった神宮輝夫先生が8月4日に89歳で逝去されました。(青山学院大学お知らせ→こちら、ヤフーニュース記事→こちら

 

 

アーサー・ランサムの『ツバメ号とアマゾン号』(岩波書店→こちら)をはじめとするランサム・サーガシリーズや、『かいじゅうたちのいるところ』(冨山房→こちら)をはじめとするモーリス・センダックの多くの作品など、子どもたちが読み継いでいるロングセラーを翻訳されました。子ども時代に夢中になった人も多いことでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その他にも多くの英米の絵本や児童文学を翻訳し、研究書も多数執筆されました。(NDLサーチ→こちら

 

心より哀悼の誠を捧げます。

(作成K・J)

 

 

 

 

 

訃報 那須正幹さん


7月23日(金)に、児童文学作家、那須正幹さんが22日午後にお亡くなりになったというニュースが飛び込んできました。79歳でした。(毎日新聞記事→こちら・NHKニュース→こちら

 

1978年の第1巻から始まって、2004年の50巻まで続いた『それいけズッコケ三人組』(ポプラ社 ズッコケ三人組サイト→こちら)は那須さんの代表作ですが、私が一番印象に残って大切に思っている1冊は『絵で読む広島の原爆』(西村繁男/絵 福音館書店  1995 →こちら)です。

 

 

この絵本は、1942年広島生まれの那須さんが3歳で被爆した体験がもとになっています。のちに被爆生存者への取材をし、当時の広島の街の様子、人々の暮らし、広島市内の被曝状況や原子爆弾開発の歴史、核爆弾の原理、放射能による障害など科学的な視点で丁寧に書いています。
絵を担当した西村繁男さんも、子どもたちにわかりやすい表現で描いており、大切に手渡し続けていきたい1冊です。

 

 

 

その他、戦後の広島を描いた「ヒロシマ三部作」(ポプラ社 現在品切れ中 →こちら)では日本文学者協会賞を受賞しています。

 

ハチベエ、ハカセ、モーちゃんの変わらない友情と共に、那須さんが子どもたちに伝えたかった被爆体験や平和への思いを、これからも子どもたちに伝え続けていきたいと思います。

 

(作成K・J)

2021年5月、6月、7月の新刊から(その2)絵本・読み物


5月、6月に出版された子どもの本のうち、先月紹介できなかった読み物と、7月に出版された絵本を紹介します。また、一部、見落としていた5月以前に発行された新刊も含まれています。(2021年5月、6月の新刊から(その1)絵本は→こちら

この度は銀座・教文館ナルニア国で選書したものと、横浜・ともだち書店で児童書担当の方の推薦をいただいたものを取り寄せた本、翻訳者の方から直接送っていただいたものを、読み終えた上で紹介しています。

その他の書籍に関しては銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

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【絵本】
《創作》
『太陽と月 10人のアーティストによるインドの民族の物語』バッジュ・シャーム、ジャグディッシュ・チターラー、スパーシュ・ヴィヤーム他 青木恵都/訳 タムラ堂 2021/4/1(第3刷)(出版社サイト→こちら

南インドの小さな工房でシルクスクリーン印刷と手製本で作られるターラーブックスの絵本です。2016年に第1刷が日本で出版されていましたが、大量生産されていない作品なのですぐに手に入らなくなっていました。4月に第3刷が販売されました。今回は2000部発売で、手元にあるものは1641とシリアルナンバー入りです。
紙の手触りや色合いなどから、これは芸術作品だと感じます。太陽と月を巡る昔話を10人のアーティストがそれぞれ見開きページで表現しています。

 

 

 

 

『いろいろかえる』きくちちき/作 偕成社 2021/5(出版社サイト→こちら

みどりのかえるときいろのかえる、そしてももいろのかえるの三匹がおひさまの光を浴びて、お花の間でゆかいに踊ります。池の中ではあおいろのかえるも、だいだいいろのかえるもやってきて、夕陽を浴びて大合唱。そこへ迎えに来たのはとうさんとかあさんのかえる。
にぎやかなかえるたちの声に、こちらも頬がゆるんできます。
きくちちきさんの躍動的な筆のタッチがのびやかで気持ちを解放させてくれます。

 

 

 

 

 

『天のすべりだい』スズキコージ/作 BL出版 2021/7/1(出版社サイトtopページ→こちらトップページから新刊案内をクリックしてください

コージズキンという愛称で呼ばれて熱烈なファンもいるスズキコージさんの贅沢な画集といった感じでしょうか。
一貫した物語があるわけではないのですが、「あの世とこの世の交信」から生まれた絵だというだけあって、絵の力に圧倒されます。そしてところどころに散りばめられた問いかけの言葉「あの世とこの世のリンゴの味はそっくりなのを君は知ってるかい?」「この世にもあの世にも旅の仲間がいるってこと知ってるかい?」にインスパイアされて、ひとりひとりが絵の中を旅することができる、そんな想像力を搔き立ててくれる絵本です。

 

 

 

 

『街どろぼう』junaida/作 福音館書店 2021/7/10(出版社サイト→こちら

これまで『Michi』、『の』や『怪物園』などの独創的で美しい絵本を創作しているjunaidaさんの新作絵本です。
大きな山の上にひとりぼっちで住んでいる巨人は、ある夜さびしさのあまり、麓の街から一軒の家をこっそり山の上に持ち帰ります。そしてその家の家族に「これからはここでいっしょにくらしましょう ほしいものがあったらなんでもあげますから」と伝えます。するとその家族は「わたしたちだけではさびしいのでしんせきの家も ここにつれてきて」と頼まれるのです。こうして巨人はその都度求められるままに、麓の街にあった家のほとんどを山の上に運びます。そうして山の上ににぎやかな街が出来上がるのですが、巨人はやっぱり孤独でした。そして巨人が山を下りていくのです。美しい絵と、意外な展開の中から、そして最後には心温まる結末も用意されていて、読みながらさまざまなことを考えさせられました。20cm×15cmの小さな絵本です。

 

 

 

《ノンフィクション》

『子どもの本で平和をつくる―イエラ・レップマンの目ざしたこと―』キャシー・スティンソン/文 マリー・ラフランス/絵 さくまゆみこ/訳 小学館 2021/7/19(出版社サイト→こちら

第二次世界大戦後、瓦礫に覆われたドイツの街角でアンネリーゼと幼い弟ペーターは、大きな建物に人々が並んで入っていくのを見て、食べ物をもらえるかもと入っていきました。
ところがそこにはたくさんの本が並べられていたのでした。そこには戦争でドイツと戦ったいろいろな国から届けられた子どもの本が並んでいたのです。
アンネリーゼとペーターはおはなし会に参加します。ひとりの女性がドイツ語に翻訳して子どもたちにおはなしを読んでくれたのでした。その日アンネリーゼは未来に向けて夢を描くことができました。
この女性はイエラ・レップマンという実在の女性です。「すばらしい子どもの本は人びとが理解しあうための”かけ橋”になる」と信じ、終戦後まもなく各国によびかけ「世界の子どもの本展」を開催したのでした。「世界の子どもの本展」はその後イエラの想いに賛同して設立された「国際児童図書評議会」(IBBY→こちら)に引き継がれ、日本でも「日本児童図書評議会」(JBBY→こちら)によって巡回しています。(世界の子どもの本展→こちら)この絵本を翻訳したのは、現在JBBYの会長を務めているさくまゆみこさんです。また、当社はJBBYの法人会員になっています。

 

 

 

 

【児童書】
《物語》

『わたし、パリにいったの』たかどのほうこ/作 のら書店 2021/3/22(出版社サイト→こちら

はなちゃんは妹のめめちゃんとあるアルバムを見るのが大好きです。そのアルバムにはめめちゃんが生まれる前、はなちゃんが両親と一緒にパリへ旅行した写真が収められているのです。なんどもアルバムを開いてはなちゃんが思い出を話しているためか、まるでめめちゃんもそこにいたかのように話すのです。はなちゃんが「めめちゃん、うまれてなかったのに、よくおぼえてるねえ!」「おかあさんにきいたんじゃないの?」と聞くと、「おかあさんのおへそのあなから見てた」と言いはるめめちゃん。そんな楽しい姉妹の会話に思わず笑ってしまいます。ひとりで読み始めた子に手渡したい幼年童話です。

 

 

 

 

『けんだましょうぶ』にしひらあかね/作 福音館書店 2021/4/15(出版社サイト→こちら

けいくんはけんだまが得意です。けんだまを持って野原へ出かけていくと、きつねがけんだま勝負を挑んできます。きつねがけんだま始めると、玉がみかんになったり、りんごになったり。次にたぬきもけんだま勝負を挑んできました。たぬきのけんだまはザリガニに変身したり。そのあとも魔女や天狗とけんだま勝負。なんとも楽しくて、けんだまをやりたくなる幼年童話です。

 

 

 

 

 

 

『すてきなひとりぼっち』なかがわちひろ/作 のら書店 2021/5/20(出版社サイト→こちら

クラスの中にとけこめず、ひとりぼっちであることも平気だとうそぶく一平くん。そうはいっても、「ぼくがこんなに つらいおもいをしていることを だれもしらない。ぼくは、このよにひとりぼっち。」とつぶやきたくもなる。
雨の日、学校から帰ったら玄関がしまっている。母さんを探しに出かけた商店街で一平くんはいろいろな人の親切にふれて、ひとりぼっちではないことに気づきます。
夜明け前に目が覚めて、西の空に月が沈みかけ、東の空から太陽が昇ってくるのをみながら、一平くんが感じる想いがとても素敵です。

 

 

 

 

『ボーダレス・ケアラー 生きてても、生きてなくてもお世話します』山本悦子/作 理論社 2021/5(出版社サイト→こちら

大学の夏休み直前、海斗は一人暮らしをしている認知症の祖母のケアを母親に頼まれます。祖母は1か月前に亡くなった愛犬豆蔵の空のリードを持って散歩に出かけるなど、どうも認知症が進んでいるのではというのです。海斗は母親にバイト代10万出すと言われて引きうけることにしました。
祖母の家に行って、海斗も豆蔵のリードを持って散歩すると、不思議なことに豆蔵が見えることに気がつきます。「幽霊か?」と声に出す海斗に、マンションの駐車場の下に佇む少女が、「ボーダーの状態になっているんだと思うよ。」「ボーダーラインを認識してないっていうのかな。生も死も、みんないっしょ。区別していないの。だから見えるんだと思う」と声をかけてきます。つまり「ボーダー」とは死後の世界へ行かず生と死のはざまにいる存在だというのです。海斗はボーダーの生前の想いを調べ、時にはその思いを遂げる手伝いをするようになります。また海斗がセーラと呼ぶその少女がボーダーになった理由もわかります。そこにはその少女が中学生だった時にいじめられていた同級生との関係があったのです。心温まる物語です。

 

 

 

『あしたもオカピ』斉藤倫/作 fancomi/絵 偕成社 2021/6(出版社サイト→こちら

どうぶつえんで飼育されているオカピは、ある夜、飼育員のおじさんと一緒に月をながめていました。その夜出ていた月は、不思議な形をしていました。半月をさらに半分にしたような、まるで四つ葉のクローバーの一片のような形だったのです。
「よつば月だ。よつば月にどうぶつがお願いすれば、なんでも願いがかなう」と飼育員のおじさんに教えてもらったオカピ、さっそく檻の外に出たいと願います。オカピは夜のどうぶつえんを歩き回って、「よつば月には願いがかなう」ことを他の動物たちにも伝えてまわります。
そう、その夜はほんとうに不思議なことが動物園で起きたのです。ちょっと不思議で、楽しいお話です。この本もひとりで読み始めた子ども向きの幼年童話です。

 

 

 

 

 

『チョコレートのおみやげ』岡田淳/文 植田真/絵 BL出版 2021/6/1(出版社サイトtopページ→こちらトップページから新刊案内をクリックしてください

神戸の街、異人館や港をおばさんに案内してもらったわたし。公園のベンチでチョコレートをつまみながら、おばさんが即興でお話を語り始めます。そのお話は風船売りの男と飼っているニワトリのお話でした。
ニワトリが風を読んで男に伝えると、男は風のない日に風船を売りに出かけるのです。ある日ほんのいたずら心でニワトリは強風が吹きそうな日なのに「今日は風がない日」とうそをついてしまいます。
するとその日を境に男は何カ月も帰ってこない、そこでニワトリは屋根の上の風見鶏になったというお話でした。
その結末に不満のあるわたしは、続きのお話を語ります。その新しい結末に、おばさんと食べているチョコレートがからんで、とてもおしゃれで楽しいお話になっています。

 

 

 

 

『庭』小手鞠るい/作 小学館 2021/6/7(出版社サイト→こちら

真奈はSNSでの書き込みがきっかけで仲良し5人組から外されてしまい、中2の冬から不登校になっていますが、母親の心配をよそに自分の意志で「登校拒否」しているのだと思っています。そんな日々の中に大きな転機が訪れます。中学3年生になる春休みに、幼い時に亡くなった父親の故郷、ハワイへ一人旅に出ることになったのです。
初めて会う父親方の祖母や叔母たちがハワイで温かく迎えてくれました。そこで自分のルーツに出会い、真奈の傷ついた心は少しずつ回復していきます。日系人の歴史にも触れながら、物語は展開していきますが、結末は表紙絵のような明るい光を感じることができます。中学生以上向けYA作品です。

 

 

 

 

『コレットとわがまま王女』ルイス・スロボドキン/作 小宮由/訳 瑞雲舎 2021/7/1(出版社サイト→こちら

とてもわがままな王女が町に静養にやってくるというので、コレットが住む町は大騒ぎ。ポーリーン王女の滞在中は物音ひとつ立ててはならないという法律が出来たのです。足音を立てないために、ブーツや木ぐつの上にフェルトのスリッパをかぶせたり、馬やロバの蹄鉄にはわらをかぶせ、町の教会の鐘も鳴らないようにしました。当然、子どもたちも声をあげてわらったり、広場で遊ぶこともできません。
町長の娘であるコレットは、飼い猫のシュシュにマスクをし、町のはずれの樫の木の下でおとなしくしていました。ところがポーリーン王女は、その樫の木の下を気に入ってしまったのでした。
一方的に我慢を強いられた町の人たちを救ったのは、なんと子猫のシュシュ。どうやって救ったかは読んでのお楽しみ。

 

 

 

 

【その他】

《エッセイ》
『佐野洋子 とっておき作品集』佐野洋子/著 筑摩書房 2021/3/15(出版社サイト→こちら

『100万回生きたねこ』があまりにも有名な佐野洋子さんが、亡くなられた後で見つかった単行本未収録作品を集めた作品集です。
童話が6編、ショートショートが6編、私の服装変遷史と題したイラストと写真集に、エッセイが10編、そして谷川俊太郎さんとの恋と結婚生活を書いたエッセイ3編。どれもこれも、佐野洋子さんの魅力がたっぷりつまっていて、ファンでなくても夢中になってしまいます。

 

 

 

 

 

《研究書》
『女性受刑者とわが子をつなぐ絵本の読み合い』村中李衣/編著 中島学/著 かもがわ出版 2021/6/30(出版社サイト→こちら

児童文学作家であり、また児童文学研究者でもある村中李衣さんが、長年、山口県美祢市にある官民協働刑務所「社会復帰促進センター」に収容されている女性受刑者とともに絵本を読み合う実践をされてきた、その記録です。何らかの罪を犯して収監されているわけですが、ひとりひとりの生育環境が影響していることがあり、絵本を介在させてまず自分自身と対話をし、自己確立をする中で、自分を客観視し立ち直っていく。特にわが子を持っている受刑者にとっては、自分の過去を客観視して受け入れることが、わが子との関係性も強化していくことになるのです。女子受刑者と図書館の児童サービス、なにも関係がないように見えますが、図書館は地域のすべての人に本を通して幸せな人生を実現していくことを応援する、そんな機能があります。経済格差が拡大し、本や正確な情報にアクセスできない貧困層の家庭にどう手を差し伸べるのか、その課題が見えてきます。ぜひ読んでほしいと思います。

 

 

 

(作成K・J)

2021年5月、6月の新刊から(その1)絵本


5月、6月に出版された子どもの本のうち、まず絵本を紹介します。読み物は7月上旬に公開予定です。また、一部、見落としていた5月以前に発行された新刊も含まれています。

この度は銀座・教文館ナルニア国で選書したものと、横浜・ともだち書店で児童書担当の方の推薦をいただいたものを取り寄せた本、翻訳者の方から直接送っていただいたものを、読み終えた上で紹介しています。

その他の書籍に関しては銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

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【絵本】
《物語絵本》

『あまがえるりょこうしゃ ちかたんけん』松岡たつひで/作 福音館書店 2021/4/10(出版社のサイト→こちら

あまがえる旅行社の今度のツアーはモグラ博士が作った地下を走る車での探検です。
地下をどんどん進んでいく探検ツアーのお話を読んでもらいながら、地中で暮らす虫や動物、植物の様子を知ることができます。子どもたちが大好きな昆虫の幼虫の様子などをみつけながら、物語から知識へと興味関心が広がっていく契機になっていくでしょう。

 

 

 

 

 

『ぼくのがっこう』すずきのりたけ/作 PHP研究所 2021/5/20 (出版社のサイト→こちら

奇想天外、自由な発想で身近なものを描く『ぼくのおふろ』『ぼくのトイレ』『ぼくのふとん』に続くシリーズの4作目です。
毎日通う学校も、いつもと違っていたら楽しいのに、とどんどん妄想が広がっていきます。
たとえば廊下がぐにゃぐにゃしていたり、机が日替わりで変わったり、先生と生徒が入れ替わったり・・・ナンセンスですが、たまにはそのような捉われない発想で遊んでみるのもいいですね。

 

 

 

 

 

 

『かぜのうた』フィリップ・ジョルダーノ/絵 さわべまちこ/文 ポリフォニープレス  2021/5/25(出版社のサイト→こちら

 

2004年、2009年、2010年と何度もボローニャ国際絵本原画展で賞を取っているイタリアの絵本作家が「風」をテーマに日本の四季を描きました。「かぜがふいたら」いろいろな音がして、いろいろなものが動き出します。繰り返しのリズムと音を楽しんでみましょう。

 

 

 

 

 

『アインシュタイン 時をかけるネズミの大冒険』トーベン・クールマン/作 金原瑞人/訳 ブロンズ新社 2021/5/25(出版社のサイト→こちら

リンドバーグ 空飛ぶネズミの大冒険』『アームストロング 宙飛ぶネズミの大冒険』『エジソン ネズミの海底大冒険』など史実とファンタジーを織り交ぜて好評の「ネズミの冒険シリーズ」の最新刊です。
チーズフェアに行くのを楽しみにしていたネズミ、どこで間違えたか、会場へ行って見るとフェアは前日に終わっていました。
そこから過去へもどろうとするネズミは必死の努力をし、アインシュタインの理論からタイムマシンを作るのですが、なんと辿り着いたところは80年前の世界。まさにアインシュタインが相対性理論を思いつく時だったのです。時間とは何か、相対性理論とは何か、物語を読んでいるうちに理解が深まっていきます。

 

 

 

 

 

 

『野ばらの村のピクニック』ジル・バークレム/作 こみやゆう/訳 出版ワークス 2021/6/25 (出版社のサイト→こちら

40年前に講談社から岸田衿子の訳で出版されていた「のばらの村のものがたり」シリーズのうち、『春のピクニック』がこみやゆうさんの訳で蘇りました。以前のシリーズは18cm×14.5cmの小型判型でしたが、25cm×19.5cmの大判になり、緻密に描かれた切り株の中のねずみの家をつぶさに見て楽しむことが出来ます。
絵の美しさもですが、ねずみのウィルフレッドの誕生日を家族や友達が一緒に祝うお話には、心が温まります。

 

 

 

 

 

 

《ノンフィクション絵本》

『うまれてそだつ わたしたちのDNAといでん』二コラ・デイビス/文 エミリー・サットン/絵 越智典子/訳 斉藤成也/監修 ゴブリン出版 2021/4(出版社のサイト→こちら

ちいさなちいさなめにみえないびせいぶつのせかい』や、『いろいろいっぱい ちきゅうのさまざまないきもの』など「デイビス&サットンの科学絵本シリーズ」の3作目です。
地球上のすべてのいきもの、植物も動物も、生まれては育っていき、次の命を残していきます。それではどうやって生物は次の世代へと命を繋げていけるのか、それはDNAという「設計書」を持っているからなのです。DNAと遺伝について子どもたちにわかりやすく教えてくれる絵本です。

 

 

 

 

 

 

『カブトムシの音がきこえる 土の中の11カ月』小島渉/文 廣野研一/絵 たくさんのふしぎ傑作集 福音館書店 2021/5/15(出版社のサイト→こちら

子どもたちに大人気の昆虫、カブトムシが幼虫時代に土の中でどのように暮らしているかを、親が卵を産んでから、蛹から孵るまでの11カ月を詳しく描いた絵本です。著者の小島渉・山口大理学部講師(36)=昆虫生態学=は「カブトムシは成虫が注目されがちだが、観察してみると幼虫やさなぎも面白い行動をたくさんしており、魅力的なステージ」と山口新聞のインタビューに答えています。(→こちら)1年のうち11カ月を土の中で暮らし、成虫になって外に出てきてからはたった1か月の寿命のカブトムシ。強いイメージのカブトムシがまた違ったイメージで捉えられていて新鮮です。夏の自由研究のきっかけにもなる本です。

 

 

 

 

 

 

『小さな里山をつくる チョウたちの庭』今森光彦/作 アリス館 2021/5/31 (出版社のサイト→こちら

昆虫写真家の今森光彦さんは、滋賀県の琵琶湖の畔に蝶々がくる庭(オーレリアンの庭)を作ります。その30年の歩みをたくさんの写真で紹介しています。
蝶がたくさん来る庭というのは、人間と植物、昆虫とが共生する自然の環境です。ただ単に美しい庭というだけでなく、環境への鋭い視点もまた必要です。
今では75種類もの蝶と生き物が暮らす多様な自然環境と育っていった今森さんの里山つくりは、今の時代にとても大事な視点を教えてくれます。

 

 

 

 

 

『どうなってるの?エンジニアのものづくり』ローズ・ホール/文 リー・コスグローブ/絵 福本友美子/訳 大崎章弘/監修 ひさかたチャイルド 2021/6 (出版社のサイト→こちら

飛行機はどうして空を飛べるの?スマートフォンの中はどうなっているの?そんな子どもたちが身近に抱く疑問に、エンジニアの仕事という視点で解説してくれる絵本です。
しかけ絵本になっていて、めくると詳しい説明が読めるようになってます。
昨年10月に紹介した『どうなってるの?ウイルスと細菌』(紹介記事→こちら)と同じシリーズです。

 

 

 

 

 

(作成K・J)

おすすめの幼年童話50『おめでたこぶた その1 四ひきのこぶたとアナグマのお話』アリソン・アトリー作


今回は、数多くの幼年童話を残したイギリスの作家、アリソン・アトリーの作品を紹介します。アリソン・アトリーは、1884年生まれのイギリスの作家で、『チム・ラビットのぼうけん』(石井桃子訳 中川宗弥画 童心社 1967)など数多くの物語を残しています。その作品の中には、自然豊かな農場で過ごした子ども時代が生きていて、自然のもつ美しさや不思議さがあふれ、独特の魅力をはなっています。今回紹介するのは、20年にわたって113編執筆された、こぶたのサムのお話です。

『おめでたこぶた その1 四ひきのこぶたとアナグマのお話』(アリソン・アトリー作 すがはらひろくに訳 やまわきゆりこ画 福音館書店 2012)

木かげの小道のほとりに、トム、ビル、アン、サムという四ひきのこぶたと、かしこいアナグマのブロックさんが住んでいました。こぶたたちは、料理を作り、庭を整え、幸せに暮らしていました。家族のなかでも末っ子のサムは、とびきり元気で、好奇心いっぱい。じっとなんかしていません。悪い人間にさらわれてしまったり、「幸運」を探しにいって金のかたまりを見つけたり、と毎日が冒険のようです。雨の日に見知らぬ人がたずねてきたりと、不思議なこともおこります。

また、それぞれのお話のなかに、古くから伝えられてきた昔話や童謡が登場したり、隠れていたりします。例えば、遠くの黒森からオオカミがやってくるお話は、「三びきのコブタ」を思い出しますし、虹の足元には宝物があるというお話も、どこかで聞いたなという気持ちになります。イギリスの子どもほどではなくても、幼いころから触れてきたものが、ひょいひょい顔を出すのはとても面白く、愉快な気持ちになれます。

おめでたこぶたのシリーズは、現在4冊出版されています。(福音館書店Webページ→こちら)。また挿絵は、絵本「ぐりとぐら」シリーズの絵を描いている山脇百合子氏によるもので、のびやかで親しみやすいものとなっています。子どもたちは、元気なサムと一緒に、家族で食卓を囲んで美味しいものを食べたり、木々のささやきや風の匂いを感じたり、そして時には危険な目にあったりしながら、日々の小さな冒険を楽しんでくれることでしょう。

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「おすすめの幼年童話」は2017年4月から連載してきましたが、第50回をもって最終回となります。
(第2回から第18回は、H28年度児童部会員が執筆し、冊子「ひとりでよみはじめた子たちへ」(→こちら)も作成しました。)

絵本から読み物へ移行する子たちに向けて選んだ50冊の本は、日常から不思議な世界に入りこめる本、主人公と一緒に冒険を味わえる本、自分のことのように共感できる本など、様々なものがありますが、子どもたちが物語に入りこみ、夢中になって読んでくれることを願って選びました。一人で読み始めたばかりの子どもたちにとって、負担なく読める文字の大きさやお話の長さも配慮しなければなりませんが、何より読み終えたとき、本の世界の魅力を感じてもらえることが大切だと思います。

子どもたちの本離れが指摘されていますが、読み聞かせから自分で読むようになる時期に、心に残る本に出会えるかどうかは、本への信頼感、その後の本とのつきあい方に大きく関わってくると思います。どうぞこの時期にいる子どもたちが、何度も読みたいと思える大切な1冊に出会えるよう、「おすすめの幼年童話」で紹介した50冊も参考にしていただければ幸いです。

(作成T.I)

 

2021年4月、5月の新刊から


4月、5月に出版された子どもの本を紹介します。一部、見落としていた4月以前に発行された新刊も含まれています。

この度は横浜・ともだち書店、代官山蔦屋書店で児童書担当の方の推薦をいただいたものを取り寄せた本と、習志野市にあるくわのみ書房で選書したもの、翻訳者の方から直接送っていただいたものを、読み終えた上で紹介しています。

 

その他の書籍に関しては銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

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【絵本】
《物語絵本》

『まほうの木』アンドレイ・ウサチョフ/作 イーゴリ・オレイニコフ/絵 藤原潤子/訳 東洋書店新社  2020/11/1(出版社サイト→こちら

2018年に国際アンデルセン賞画家賞を受賞したイーゴリ・オレイニコフが描いたこちらの絵本は、昨年11月に出版されたものです。見逃していましたが、日本での翻訳が少ないため、時間が経過していますが紹介いたします。
天の川のはしっこにある「ふしぎわく星O」に、どんな願いもかなえてくれるまほうの木があります。みんなはまほうの木に願いごとを言って、うれしそうに帰っていきます。たとえば海で暮らしたいと願ったウマはタツノオトシゴに、早く走りたいと車になったウマも。「子どもたちがよい子に、かしこい子に育つように」と願うとまほうの木は「本のなる木」になるのです。そんな不思議な17編のおはなしが詰まった絵本です。そして何より注目してほしいのはイーゴリ・オレイニコフの美しくも幻想的な絵です。読むものを豊かな想像の世界へ誘ってくれます。

 

 

 

『エイドリアンはぜったいウソをついている』マーシー・キャンベル/文 コリーナ・ルーケン/絵 服部雄一郎/訳 岩波書店 2021/1/27(出版社サイト→こちら

こちらも1月に出版されていた絵本ですが、見逃していました。
エイドリアンは妄想癖があるのか、「うちには馬がいるんだよ」と学校でみんなに話しています。でもエイドリアンはおじいちゃんと町はずれの小さな家に住んでいるので、「わたし」は信じられないのです。
ある日、お母さんが犬の散歩のついでにエイドリアンの家まで連れていってくれます。目の当たりにする貧富の格差。そんな環境の中で育つエイドリアンの状況を知って「学校にいるだれよりもすごい想像力の持ち主」なんだと理解していくのです。相手の気持ちに寄り添うことの大切さを教えてくれています。

 

 

 

 

『たんぽぽ たんぽぽ』みなみじゅんこ/作 アリス館 2021/3/31(出版社サイト→こちら

『どんぐりころちゃん』(→こちら)のわらべうた絵本があるみなみじゅんこさんの新刊です。
こちらもわらべうた「たんぽぽ たんぽぽ むこうやまへ とんでけ!」が可愛らしい絵本になりました。
たんぽぽの季節は終わってしまいましたが、新刊で購入したところはこの春のおはなし会できっと活躍したことと思います。
巻末にわらべうたの採譜、そして遊び方がついています。

 

 

 

 

 

『ありえない!』エリック・カール/作 アーサー・ビナード/訳 偕成社 2021/4(出版社サイト→こちら

2021年5月23日に91歳で亡くなられたエリック・カールさんの日本での最新刊です。
「ありえない!」ことにであったら、どんなふうに驚くかしら?それを楽しめるかしら?そんな奇想天外な展開のユーモア絵本です。
魚が鳥かごに、鳥が水槽に?ねずみが猫をつかまえた?タクシーに乗ったら燃料不足でいっしょに走ってくださいって?そんなゆかいなエピソードがたくさん。想像の世界ではどんなこともありうるのですね。奇想天外な発想が次々飛び出てくるエリック・カールさん85歳の時の作品です。

 

 

 

 

 

 

『せかいのはてまでひろがるスカート』ミョン・スジョン/作 河鐘基、廣部尚子/訳 ライチブックス 2021/4/15(出版社サイトFacebook→こちら

2019年のブラチスラバ世界絵本原画展で金のりんご賞を受賞した韓国の絵本です。裾の広がるスカートを、想像の広がりとして描く美しい絵が印象的です。そしてひとつひとつのスカートの広がりの中に、作者が子ども時代に親しんだ児童文学や世界各地の民話が散りばめられています。たとえばかえるのスカートの中に広がっているのは「赤毛のアン」と「紙ぶくろの王女さま」、とりのスカートには「不思議の国のアリス」に「リニ王子と少女シグニ」というように。繊細な線が描き出す幻想的な世界が幾重にも折り重なって、豊かにイメージが広がっていく絵本です。

 

 

 

 

 

 

 

『ふまんばかりのメシュカおばさん』キャロル・チャップマン/作 アーノルド・ローベル/絵 こみやゆう/訳 好学社 2021/4/26 (出版社サイト→こちら

メシュカおばさんは、いつも眉間にしわを寄せて「どうもこうもあるもんか」と言って不平不満ばかりを言っています。パン屋さんに調子はどうかを聞かれると「どうもこうもあるもんか。せなかはいたくて、まるでいしのかべせおってるみたいさ。それにあしときたら!まるででっかくなりすぎたかぼちゃみたいにおもいよ」と答えるのです。息子や娘のことを聞かれても、家のことを聞かれても不満ばかりです。
ある朝、舌の先がちくっとしたかと思うと、不満をいうとすべてがその通りになってしまったのです。そこへラビ(ユダヤ教の指導者)が来てそれは「ふまん病」だといいます。治すにはただひとつ、「これから先、ものごとをすべて前向きに言うようにすること」というのです。それからは、メシュカおばさんは、不満を言いそうになったら、少しでも良いところを探して口に出すようになります。するとなにもかもが感謝に思えて幸せに暮らすことができました、というポジティブシンキングな楽しい絵本です。

 

 

 

 

『クリフォード ちいさなちいさなあかいいぬ』ノーマン・ブリッドウェル/作 椎名かおる/訳 あすなろ書房 2021/4/30(出版社サイト→こちら

エミリーが飼っている犬はクリフォードと言います。お友だちのマーサに「あなたのいぬ、すっごくおおきくて すっごくあかいけど、どこでみつけたの?」と聞かれて、クリフォードがうちの子になった時のことを話しました。実はクリフォードは小さくて、育たないかもと言われていたのです。ある日エミリーが「げんきにおおきくなってね。だいすきだからね。」とクリフォードに伝えると、次の日からどんどん大きくなって、とうとう家の中に入れないほどになったのでした。そこで田舎のおじさんの家に引き取られ、その後エミリーたちも一緒に住むようになったのです。

 

 

 

『クリフォード おおきなおおきなあかいいぬ』ノーマン・ブリッドウェル/作 椎名かおる/訳 あすなろ書房 2021/4/30(出版社サイト→こちら

こちらは、続きの物語。クリフォードは家より大きいのですが、エミリーのことが大好きでいつも一緒です。走っているものは車でも追いかけて捕まえるし、動物園にも連れて行けなくなりました。それでもかしこいクリフォードは、いじめっ子からもどろぼうからも守ってくれます。エミリーのかけがえのない友だちなんですね。2冊合わせて読みたいお話です。

 

 

 

 

 

『ロスコ―さん ともだちにあいにいく』ジム・フィールド/作 momo’sカンパニー/訳 ひさかたチャイルド 2021/5(出版社サイト→こちら

犬のロスコ―さんが、友だちに会うためにキャンプ場へ行ったり、スキー場へ行ったり、湖へ行ったりと、どんどん旅を続けます。この絵本は、ストーリー展開を楽しむというよりは、ロスコ―さんが行く先々にあるものが英語で示されているので、絵本の中のいろいろなものを指さしながら語彙を増やしていくのに役立つ絵本です。子どもたちが日常使う会話は日本語と英語の両方で書かれているので、英語に興味をもつきっかけになることでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

『あまがえるのぼうけん』たてのひろし/作 かわしまはるこ/絵 世界文化社 2021/5/5(出版社サイト→こちら

2019年に出版された『あまがえるのかくれんぼ』(→こちら)の続編です。あまがえるのラッタ、チモ、アルノーの3びきは、遠くに見える森へ行ってみたいと、冒険に出かけます。
森の中には見たことのない植物や、虫たちがいっぱいです。大きなガマガエルに食べられそうになったりしながら、3びきは好奇心たっぷりに森の中で過ごします。豊かな自然の描写も美しく、1ぴき1ぴきのあまがえるの表情もとても豊かです。
『あまがえるのかくれんぼ』紹介ページ(→こちら

 

 

 

 

 

『ぼくとがっこう』谷川俊太郎/文 はたこうしろう/絵 アリス館 2021/5/5(出版社サイト→こちら

谷川俊太郎さんが学校生活を詠んだ詩に、はたこうしろうさんが表情豊かな絵をつけました。
短い詩ですが、はたこうしろうさんの描く男の子の小学校6年間が絵の中に描きこまれています。友だちと遊んだり、さまざまなことを発見したり、時にはけんかをしたり。そうしていつかは卒業する日がくる。そうやって成長していく姿が描かれている絵本です。

 

 

 

 

 

 

《ノンフィクション絵本》

『さくららら』升井純子/文 小寺卓矢/写真 アリス館 2021/3/25(出版社サイト→こちら

本州を桜前線が北上する4月は、北海道はまだ雪が残っています。5月になるとようやく木々が目ざめ、野の花も咲き始め、さくらのつぼみも膨らんでいきます。
そうして5月下旬、ようやく満開になるのです。作者の升井さんが2014年5月28日の新聞の片隅に「ようやく桜が開花した」という記事をみつけたのが、この本づくりのきっかけです。「ようやく」という言葉に落ち着かなくなり、「桜にはそれぞれに咲き時がある、人の都合ではなく自然の営みを静かに見守りたい」との想いでテキストを書いたそうです。
北海道在住の写真家の小寺さんは、その主人公にふさわしい桜を探して7年もあちこちを回ったそうですが、最後に新聞記事になった桜を訪ねていき、その木を撮ることになりました。その時、「理想の木なんてない。人の思いどおりにならないからこそ自然は素敵なのかも」と感じたそうです。「おそくたってこれがわたし ちいさくたってこれがわたし」という言葉が胸にじんわりと響きます。

 

 

 

 

『海べをはしる人車鉄道 東海道線のいま、むかし」横溝英一/文・絵 たくさんのふしぎ傑作集 福音館書店 2021/3/30(出版社サイト→こちら

東海道線の歴史を詳しく記した本です。熱海は古くから有名な温泉地でしたが、130年前の明治22年(1889年)に東京・新橋から神戸まで東海道本線が開通した時には、神奈川県の国府津から海岸線ではなく箱根山を迂回して御殿場へ抜けるコースに鉄道が引かれました。小田原や湯河原とともに熱海は鉄道から取り残されたのでした。
そこで国府津から小田原を経由して箱根湯本まではレールの上を馬車が走る馬車鉄道が走るようになり、小田原から熱海までは狭いレールを敷いてその上を人が押して走る人車鉄道が出来たというのです。軽便鉄道が開通するまでの約10年間、この人が押す鉄道が走っていたというのは、この本を読むまで知りませんでした。アップダウンのある海岸線を人が押して走るには大変苦労も多かったようですが、それでも美しい景色に誘われて東京から熱海まで多くの人を運んだのです。昭和9年(1934年)にようやく箱根の山をくぐって沼津に抜ける丹那トンネルが開通します。今は東海道新幹線であっという間に抜けていく小田原~沼津間ですが、今度新幹線に乗る時はそんな歴史に思いを馳せてみたいと思います。

 

 

 

 

 

『二平方メートルの世界で』前田海音/文 はたこうしろう/絵 小学館 2021/4/25(出版社サイト→こちら

脳神経の病気の治療のため3歳の頃から入退院を繰り返している前田海音さん(2010年生まれ、現在小学校5年生)が小学校3年生の時に書いた作文を元にした絵本です。作文は「第11回子どもノンフィクション文学賞」小学生の部の大賞に選ばれました。
「二平方メートル」とは入院した時に過ごすベッドとその周りの空間のことです。海音さんは、その狭い世界の中から入院で心配をかけている両親や留守番する兄への思いを綴り、入院しているほかの子どもたちにも思いを馳せています。それでも「もういや!」「一日でいいから、薬を飲まなくていい日をください!」と思うこともあるのです。ある日、たまたまベッドにまたがるオーバーテーブルの下に潜り込んでテーブルの裏の寄せ書きをみつけます。「みんながんばろうね」「再手術サイテー」「ようやく退院できるよ!」などこのテーブルを使っていた子たちの声がそこには記されていたのです。「この言葉を送りあっていたのは、会ったことのない人どうしだ。時間をこえて言葉を受け取り、言葉を届ける。(中略)この二平方メートルの世界で、同じテーブルを使ってすごしたたくさんのだれかが、たしかにここにいて、私に語りかけてくれた。ひとりじゃないよって。」病気をもっていても、一日一日の大切さを大事にしたいと願うその気持ちが、しっかりと伝わってきます。そして、はたこうしろうさんは海音さんの住む札幌へ訪ねていって、相談しながら絵を描き上げたそうです。

 

 

 

 

『朝ごはんは、お日さまの光!植物のはなし』マイケル・ホランド/文 フィリップ・ジョルダーノ/絵 徳間書店児童書編集部/訳 徳間書店 2021/5/31(出版社サイト→こちら

地球上の植物について、そのしくみや育て方、食物としての役割、植物を使ったテクノロジーから環境問題まで、子どもたちにわかりやすく解説したイラストがとても美しい大判の科学絵本です。
地球上にすむ生き物にとって植物はなくてはならない存在。わかっているだけで40万種あるという植物のふしぎについて考えるきっかけになることでしょう。

 

 

 

 

 

 

【児童書】
《物語》

『クラムボンはかぷかぷわらったよ 宮澤賢治おはなし30選』澤口たまみ/著 岩手日報社 2021/5/1(出版社サイト→こちら

宮澤賢治の後輩(岩手大学農学部)で、「かがくのとも」や「ちいさなかがくのとも」などに身近な自然への温かいまなざしの作品を提供している澤口たまみさんが著した賢治の童話のあらすじダイジェスト作品が、出版されました。賢治が過ごした岩手県で生まれ育ち、賢治が歩いたところを自らも歩いた澤口さんの読み解きは、とても面白く納得がいきます。
難解な賢治の創作がどのような思いで書かれたのかを知ると、もっと賢治が身近に感じられます。賢治の恋心にも触れられています。YA世代にも、ぜひ手に取ってほしいと思います。

 

 

 

 

 

『帰れ 野生のロボット』ピーター・ブラウン/作・絵 前沢明枝/訳 福音館書店 2021/5/20(出版社サイト→こちら

2018年に出版された『野生のロボット』(→こちら)の続編です。野生のロボットとして、無人島でガンのキラリや動物たちと過ごしていたロズ。前作ではそんなロズを不気味な飛行船が回収するところで終わっていました。
こちらでは修理が終わったロズが小さな子どもが二人いる農場に買われて送られていくところから始まります。しかしロズの記憶装置から無人島で過ごした野生の生活の記憶は削除されていなかったのです。やがてふるさとの無人島に戻りたいと思いはじめるロズ。すべてコンピューターで管理されている農場から脱出するのは並大抵のことではありません。しかし二人の子どもたちの助けを借り、渡りの途中でロズを発見してくれたキラリと一緒に無人島への冒険に踏み出すことにします。誰からも発見されずに無人島へたどり着けるのか、ハラハラドキドキの旅が続きます。高度なデジタル社会の中で、やはり自分らしくいるということの大切さを考えさせられました。『野生のロボット』紹介ページ(→こちら

 

 

 

 

『キプリング童話集 動物と世界のはじまりの物語』ラドヤード・キプリング/作 ハンス・フィッシャー/絵 小宮由/訳 アノニマ・スタジオ 2021/5/21(出版社サイト→こちら

『ジャングルブック』の作者、ラドヤード・キプリングが、約120年前に、寝る前の我が子に語って聞かせた11のお話が、美しい装丁のもと、1冊の本になりました。
キプリングは父親の仕事でイギリスの統治下にあったボンベイで生まれます。そして少年期から青年期にかけて世界中を旅してきました。そんな旅先で見聞きしたことが、楽しいお話になっています。
3人の子どもの父親であったキプリングは、わが子を心の底から愛し、積極的に育児にもかかわったそうです。そんな愛情にあふれたお話集なのです。またこのお話集には、『こねこのぴっち』でも知られているスイスの絵本作家ハンス・フィッシャーが挿絵を描いています。

 

 

 

 

 

《ノンフィクション》

『武器ではなく命の水をおくりたい 中村哲医師の生き方』宮田律/著 平凡社 2021/4/21(出版社サイト→こちら

2019年12月4日にアフガニスタンにて武装勢力によって銃撃された中村哲医師の生き方を、現代イスラム研究センター理事長である筆者が子どもたちにもわかりやすく書いた本です。
特に新型コロナウイルス感染拡大対策に揺れている世界情勢をみて、今こそ中村先生の想いを伝えたいと願って書かれています。中村哲先生の関連書籍はたくさん出版されていますが、パンデミックの世界情勢の中でこそ、中村先生の言葉に学ぼうとするこの本の視点はとてもわかりやすいです。武器を取るよりもまずは経済格差を無くすことのほうが大切だと説いた中村先生の言葉をもう一度噛みしめたいと思います。

 

 

 

 

 

【その他】

『児童文学の中の家』深井せつ子/作 エクスナレッジ 2021/4/6(出版社サイト→こちら

子どもの頃、たとえば『秘密の花園』を読んで、この大きなお屋敷の間取りはどうなっているのだろうと思いを巡らせたり、本の扉に見取り図があると本文を読みながら何度も行ったり来たりしたという人は多いでしょう。
この本では『大きな森の小さな家』や『飛ぶ教室』『若草物語』『赤毛のアン』に『床下の小人たち』『ライオンと魔女』など27の名作の舞台となった家がイラストや見取り図とともに紹介されています。
長く読み継がれている作品の魅力は、こうした舞台設定がしっかりとしていて読む者を惹きつけるというところにもあるのかもしれません。
また、この本を片手に昔読んだ名作を読み返すガイドブックにしても楽しいと思います。

 

 

(作成K・J)

訃報 エリック・カールさん


5月27日朝、『はらぺこあおむし』など色鮮やかでユーモア溢れる多くの作品を生み出し、世界中の子どもたちに愛されてきたエリック・カールさんが、5月23日に亡くなられたというニュースが飛び込んできました。91歳でした。(ハフポストニュース→こちら

 

 

 

 

 

 

エリック・カールさんの作品については、以下のサイトから「Books」ページをご参照ください。
偕成社・エリック・カール スペシャルサイト(→こちら)

Eric Carle 公式サイト(→こちら

 

4月25日(日)に行われたJBBY国際アンデルセン賞と世界の子どもの本講座「私が会った国際アンデルセン賞画家と世界の絵本作家」(オンライン)で、講師の松本猛さんがエリック・カールさんのアトリエを数回訪れて親しく交流されたことを詳しく語ってくださいました。その独特な創作方法や、お茶目な一面をお聞きしたところだったので、驚いています。

 

明日、公開予定の新刊情報記事では、エリック・カールさんの最新刊『ありえない!』を紹介する予定です。

『ありえない!』エリック・カール/作 アーサー・ビナード/訳 偕成社 2021/5(出版社サイト→こちら

 

 

 

 

 

 

 

心より哀悼の誠を捧げます。

 

(作成K・J)

おすすめの幼年童話49『おしろのばん人とガレスピー』ベンジャミン・エルキン作


今回は、楽しいお話と迫力ある挿絵が魅力的な作品を紹介します。

『おしろのばん人とガレスピー』ベンジャミン・エルキンぶん ジェームズ・ドーハーティ/え 小宮由/やく

ある国に、世界中のだれよりも目がいい兄弟がいました。うわさを聞きつけた王様は、3人をお城の番人にし、番人をだませたものには金のメダルを贈ると発表します。何百、何千という人たちが挑戦しますが、番人たちは、どんな変装でも見ぬいてしまいます。有名になり、えらそうな顔をするようになった番人たちに、毎日王子さまと遊ぶためにお城にきていた男の子ガレスピーは、だましてやろうと挑むことにします。

昔話風のユーモアあふれる愉快なお話です。複雑な筋ではないので、無理なく物語を追うことができますし、どのようにガレスピーが番人たちをだますのか謎解きのように楽しむことができます。

作者ベンジャミン・エルキンは、アメリカの作家で、日本では『世界でいちばんやかましい音』(ベンジャミン・エルキン作 太田大八絵  松岡享子訳 こぐま社 1999)が有名で、広く親しまれています。

画家ジェームズ・ドーハ―ティは、本作品と『アンディとらいおん』(ジェームズ・ドーハーティ 文・絵  むらおか はなこ訳 福音館書店 1961)でコールデコット・オナー賞を受賞しています。黒と茶色で描かれた躍動感のある絵は迫力があり、絵からも物語の愉快さが伝わってきます。

本作品は、大日本図書が刊行している「こころのほんばこ」シリーズ(大日本図書Webページ→こちら)の1冊です。このシリーズは現時点で11冊出版されており、本のこまどの新刊情報でも複数点紹介してきました。「ハリーとうたうおとなりさん」( ジーン・ジオン文 マーガレット・ブロイ・グレアム絵 小宮由訳 2015)をはじめ、日本でも広く読み継がれている絵本作家の作品が翻訳されていて、親しみやすいと思います。

翻訳を手がけている小宮由さんは、シリーズに次のような言葉を寄せています。
「子どもたちがワクワクしながら、主人公や登場人物と心を重ね、うれしいこと、悲しいこと、楽しいこと、苦しいことを我がことのように体験し、その体験を「こころのほんばこ」にたくさん蓄えてほしい。その積み重ねこそが、友だちの気持ちを想像したり、喜びをわかちあったり、つらいことがあってもそれを乗り越える力になる、そう信じています。」

ぜひ、その子の「こころのほんばこ」に蓄えられる1冊を紹介してみてください!

(作成T.I)

2021年3,4月の新刊から(その2)


3月、4月に出版された子どもの本のうち、(その1→こちら)で紹介できなかったものを紹介します。一部、見落としていた3月以前に発行された新刊も含まれています。

この度は4月15日に銀座・教文館ナルニア国へ選書に伺い、購入したものと、神保町にあるブックハウスカフェから取り寄せたものを、読み終えた上で紹介しています。

 

その他の書籍に関しては銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

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【絵本】
《物語絵本》

『オサム』谷川俊太郎/文 あべ弘士/絵 童話屋 2021/3/22(出版社サイト→こちら

巻末に掲載されている谷川さんの「ぼくのゆめ」という詩には、「おおきくなったらなにになりたい? と おとながきく いいひとになりたい と ぼくがこたえる(中略)えらくならなくていい かねもちにならなくていい いいひとになるのが ぼくのゆめ と くちにださずに ぼくはおもう」という一節があります。
谷川さんの思う「いいひと」をあべ弘士さんが絵に描いたら、ゴリラになったそうです。ゴリラの優しい表情を見ているとホッとします。子どもにもおとなにも読んでほしい絵本です。

 

 

 

 

『ともだちいっしゅうかん』内田麟太郎/作 降矢なな/絵 偕成社 2021/4(出版社サイト→こちら

1998年に『ともだちや』(→こちら)が出版されて23年。「おれたち、ともだち!」シリーズ(→こちら)の14冊目となるこちらの絵本は、『ともだちおまじない』(→こちら)と合わせて番外編に位置付けられます。
月曜日から始まって日曜日までロシア民謡の「一週間」のように、毎日きつねとその友だちの楽しいエピソードが描かれます。よく見ると、各曜日の最初のページは「月」「火」「水」などの漢字を模った絵になっています。そんなところも子どもたちが発見して喜びそうです。

 

 

 

 

 

 

『たべたのだーれだ?』たむらしげる/作 0.1.2えほん 福音館書店 2021/4/10(出版社サイト→こちら

月刊絵本「こどものとも0.1.2」2016年8月号のハードカバーです。ボードブックのページに穴が空いていて、向こう側に木の実や果物を食べている動物や虫の一部が見えています。それを予測しながらページをめくるのは、小さな子どもにとっては、まるで「いないいないばあ」遊びをしているような楽しさがあるでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

『まよなかのトイレ』まるやまあやこ/作 福音館書店 2021/4/10(出版社サイト→こちら

月刊絵本「こどものとも」年中向きの2010年6月号のハードカバーです。夜中にトイレに起きたひろこ。おかあさんは、小さな赤ちゃんのお世話の真っ最中で、ひろこはねこのぬいぐるみのみいこを連れて、トイレへ行くことになりました。不安な気持ちで暗い廊下に出ると、ぬいぐるみのみいこがすくっと立ち上がり、トイレまで先導してくれるのです。ぬいぐるみは、幼い子どもの不安な気持ちに寄り添ってくれる心強い存在です。そんな子どもの気持ちが柔らかなタッチの絵で丁寧に描かれています。

 

 

 

 

 

 

《ノンフィクション絵本》
『せかいでさいしょにズボンをはいた女の子』キース・ネグレー/作 石井睦美/訳 光村教育図書 2020/12/23 (2021/4/15第二刷発行)(出版社サイト→こちら

昨年12月に出版されていた絵本ですが、見落としていました。この度第二刷が発行されたので、紹介します。
この絵本のモデルになっているメアリー・エドワーズ・ウォーカーは1832年生まれです。メアリーが育った時代は、日本では江戸後期にあたります。彼女は小さなころから独立心と正義感に満ち溢れていました。そして当時、女性が身につけるべきと思われていた体を締め付けるドレスではなく、活動のしやすいズボンをはいて学校へ通うようになるのです。それは社会への挑戦でした。あとがきにはそのことを理由に何度も逮捕されたと書かれています。その度に「男の子のふくをきているんじゃないわ わたしはわたしのふくをきているのよ!」と主張したのです。その後、メアリーは南北戦争の際に北軍の軍医になり、医師を引退した後も女性の選挙権や、服装の自由についての権利を訴えて活動を続けました。ジェンダーについて考えるきっかけになる絵本です。

 

 

 

 

『女の子だから、男の子だからをなくす本』ユン・ウンジュ/文 イ・ヘジョン/絵 すんみ/訳 エトセトラブックス 2021/3/30(出版社サイト→こちら

「女の子は女らしく」「男の子は男らしく」というように性別によって行動を決めつけられることへの疑問をもち、性別の枠組みから自由になることの大切さを子どもたちにもわかりやすく解く韓国の作家による絵本です。日本と同様に儒教的な家父長制が重視されてきた韓国でも、急速にジェンダー問題への関心は高まっているようです。これからの時代、子どもたちがもっと自由に、自分のやりたいことに挑戦できるように、大人の凝り固まった固定観念をまずはほぐす必要があります。子どもと共に読みたい1冊です。

 

 

 

 

 

 

 

『雪虫』石黒誠/文・絵 たくさんのふしぎ傑作集 福音館書店 2021/3/30(出版社サイト→こちら

北国では、雪がふりはじめる前に飛び交う白い小さな雪虫のことを、冬の訪れを知らせる虫と親しんでいるそうです。
その雪虫の生態を北海道、富良野の森で一年間追った写真絵本です。雪虫は、不思議な生態を持っています。春にヤチダモの木の上で卵から孵った時と、夏にトドマツの根元の地下で過ごす時、白い綿毛を身にまとって雪虫になって飛んでヤチダモの森へ飛んで帰る時、そして秋に次の世代を産む時では、全く違う姿かたちに変わります。その間に7回世代が交代するのです。春から夏にかけてはメスがメスだけを産み、秋になるとオスとメスが生まれます。その時は翅も口もなく交尾をする為だけに数日間生きて、次の年に孵る卵を産むと死ぬという独特の生態を具に記録しています。私たちの暮らしとはなんら関わりのないように感じるこうした小さな昆虫は、他の昆虫や鳥の餌となり生態系を支えています。小さな昆虫の一生を知ることで、私たちは生命がもつ「センス・オブ・ワンダー」を感じることができるのです。月刊絵本「たくさんのふしぎ」の2013年11月号のハードカバーです。

 

 

 

 

『桜島の赤い火』宮武健仁/文・写真 たくさんのふしぎ傑作集 福音館書店 2021/3/30(出版社サイト→こちら

こちらも月刊絵本「たくさんのふしぎ」の2013年1月号のハードカバーです。写真家の宮武さんは小学校の修学旅行で阿蘇山を訪れ、その際に購入した絵葉書セットの中にある夜の闇に赤く光る火口の写真を見て「地球の中が赤く光っている」と感じ、そのことに強く惹かれたそうです。
大人になって赤い火口を写真に収めようと阿蘇山を訪れますが、それならば毎日噴火している桜島のほうがよいと勧められて、桜島に通うようになります。鹿児島市内からは噴煙が見えるだけですが、大隅半島側からは昭和火口が見えるとわかると、そちらからカメラを構えて撮影に挑みます。そして噴火の瞬間を写真に収めていきます。
真っ赤な火が噴き出す火口、そして火山雷の稲妻、それらの写真を見ていると地球は今も地中奥深くにマグマを湛え、常に変化しているのだと感じます。この本の中には火山が身近にある人びとの暮らし、過去の大噴火がもたらした地形や水の流れなどもわかりやすく伝えてくれます。何万年という時間の流れの中で今の地形が形作られていますが、それもまたこれから何万年も経つとまったく違う形に変わっていくのだろうと、その壮大な時間の流れの中のほんの一瞬を生きているのだと、この本を読んで感じました。

 

 

 

 

『富岡製糸場 生糸がつくった近代の日本』田村仁/写真・文 たくさんのふしぎ傑作集 福音館書店 2021/3/30(出版社サイト→こちら

2014年にユネスコ世界遺産として登録された富岡製糸場の成り立ちと、そこに至る日本の養蚕と製糸の歴史を詳細に伝えてくれる写真絵本です。現在放映中のNHK大河ドラマ「青天を衝け」で今後描かれる明治期の日本の近代化の象徴でもある富岡製糸場が、なぜあの立地になったのか、また富岡製糸場がどんな役割を担っていたのかが、よくわかります。月刊絵本「たくさんのふしぎ」の2016年6月号のハードカバーです。

 

 

 

 

 

 

 

『富士山のまりも 夏休み自由研究50年後の大発見』亀田良成/文 斉藤俊行/絵 たくさんのふしぎ傑作集 福音館書店 2021/3/30(出版社サイト→こちら

月刊絵本「たくさんのふしぎ」の2014年4月号のハードカバーです。昭和22年に東京で生まれ育った作者の亀田さんは、小学生だった昭和30年代に富士山麓の山中湖に毎年夏に通うようになります。小学3年生の時に「ししの糞」と呼ばれる小さなまりもを採取し、東京に持ち帰りジャム瓶で育てるようになります。小学4年生の担任の先生は「一人一研究」と自由研究を熱心に呼びかけます。それに応じて亀田さんは自由研究に「山中湖のなりたちとまりも」をテーマに選びます。そして再びまりもを採取して大きな水槽で観察を始めました。
まりもはその後も亀田さんのご実家の庭で50年もの間、育てられていたのです。長年まりもの世話をしてくれていた母親が老人ホームで暮らすようになった2011年に、亀田さんはインターネットでまりもについて検索してみました。すると、山中湖のまりもが絶滅状態であることがわかります。国立科学博物館に報告をすると、50年以上前の観察記録や遺伝子解析により、幻のフジマリモとわかりニュースにもなりました。亀田さんはいずれ山中湖にまりもを返すために、今も研究を続けているとのことです。子ども時代の自由研究が生涯にわたる研究テーマになることもあるのですね。

 

 

 

【児童書】

《昔話・物語》

『火の鳥ときつねのリシカ チェコの昔話』木村有子/編訳 出久根育/絵 岩波少年文庫 岩波書店 2021/4/15(出版社サイト→こちら

チェコで子ども時代を過ごし、また大学時代にチェコへ留学した木村有子さんが、チェコに伝わる昔話を24選んだチェコの昔話集です。挿絵を担当したのは、『命の水―チェコの民話集』(カレル・ヤロミール・エルベン/編 阿部賢一/訳 西村書店 2017→こちら)でも絵を描いたチェコ在住の出久根育さんです。
また2013年に出版された『中・東欧のむかしばなし 三本の金の髪の毛』(松岡享子/訳 降矢なな/絵 のら書店 2013→こちら)にも共通のお話が収録されていますが、当然のことですが翻訳者によっておはなしの雰囲気が少しずつ違っています。子ども時代にチェコで過ごし、身近に昔話を聞いていた木村さんならではの親しみやすい訳で、チェコの昔話を味わってほしいと思います。また木村有子さんのオンライントークイベントが、JBBY主催で6月に行われます。(JBBY国際アンデルセン賞と世界の子どもの本講座2021-②「チェコの国際アンデルセン賞画家が開く絵本の世界」こちら)ぜひ、こちらにもご参加ください。

 

 

 

 

『こそあどの森のおとなたちが子どもだったころ』岡田淳/作 理論社 2021/5(出版社サイト→こちら

「こそあどの森」シリーズ(→こちら)は2017年に12巻目の『水の森の秘密』(→こちら)で完結しました。
この本は「こそあどの森」の物語に出てくる個性豊かなおとなたちが、どんな子ども時代だったのかを描く番外編です。
主人公のスキッパーが作家のトワイエさんから借りた本の中に、子ども時代の写真が挟まっていたのに気づいたことから、スキッパーとふたごが、次々に森のおとなたちに子どもの頃の思い出を聞き出していきます。トワイエさんが子ども時代に通っていた図書館で体験した不思議な出来事、トマトさんが料理が得意になったわけなど、本編に続く子どもの頃のエピソードがわかって楽しくなります。

 

 

 

 

 

 

《ノンフィクション》

『こどもジェンダー』シオリーヌ(大貫詩織)/著 松岡宗嗣/監修 村田エリー/絵 ワニブックス 2021/5/10(出版社サイト→こちら

助産師としてYoutubeチャンネルでジェンダーとセクシュアリティにまつわる動画を公開してきたシオリーヌさんによる子ども向けに、ジェンダーについて考えるヒントを集めた本です。(性教育YouTuberシオリーヌ公式チャンネル→こちら
「ぼくランドセルはあかがいいんだ でもそれはオンナノコのいろだから ダメといわれちゃった」「わたしね スカートなんかすきじゃない フリフリのようふくなんかきたくない」「おとうさんに「オトコなんだからメソメソなくな!」っていわれちゃった ぼくがオンナノコだったら いいの」など、子どもたちの身近にある疑問に答えてくれます。今回紹介した『せかいでさいしょにズボンをはいた女の子』『女の子だから、男の子だからをなくす本』など、子どもの本の世界でもジェンダーに関する書籍が増えています。SDGsの第5番目の目標に「ジェンダー平等を実現しよう」が入り、また2018年の#MeToo運動以降、この問題は子どもの本の世界でも重要なトピックスになっていることの表れです。

 

 

 

【その他】

『つぎに読むの、どれにしよ? 私の親愛なる海外児童文学』越高綾乃/著 かもがわ出版 2021/2/1(出版社サイト→こちら

長野県松本市にある子どもの本の専門店「ちいさいおうち」(→こちら)の経営者の一人娘である作者が、子ども時代から親しんできた海外児童文学について語るエッセイです。
幼少期はもちろんのこと、思春期の辛い時も、子どもの本の主人公たちがそばに寄り添ってくれたという24作品への想いを読むと、ああ、私もそんな風に思ったなと感じたり、もう一度読み返してみたくなったりします。そして翻訳家の石井登志子さんとの対談からは、リンドグレーン作品への想いが溢れています。子ども時代に出会う本がどれだけその後の人生を支えるかということがわかります。

 

 

 

 

『絵本のなかへ帰る』高村志保/著 岬書店 2021/2/16(出版社サイト→こちら

こちらは長野県茅野市にある今井書店の二代目店主による絵本のエッセイです。子ども時代に出会った絵本、とくに父親のひざの上で読んでもらった絵本の思い出、ご自身が子育て中に我が子と読んだ絵本など27冊が並びます。『つぎに読むの、どれにしよ? 私の親愛なる海外児童文学』の越高さんと同様に子ども時代に出会う本がいかに子どもの人格形成に影響を与えるか、人生を彩るかを語っています。
出版元は夏葉社の新レーベル、岬書店、そして表紙の絵はきくちちきさんです。(今井書店本店のtwitter→こちら

 

 

 

 

『岩波少年文庫のあゆみ 1950-2020』若菜晃子/編著 岩波少年文庫別冊 岩波書店 2021/3/12(出版社サイト→こちら

子ども時代に岩波少年文庫に親しんだという編集者でエッセイストの若菜さんによる岩波少年文庫愛がつまったエッセイです。
岩波少年文庫は1950年、終戦後5年後に創刊されました。岩波少年文庫の各巻の巻末には「岩波少年文庫創刊五十年ー新版の発足に際して」には「心躍る辺境の冒険、海賊たちの不気味な唄、垣間みる大人の世界への不安、魔法使いの老婆が棲む深い森、無垢の少年たちの友情と別離―幼少期の読書の記憶の断片は、個個人のその後の人生のさまざまな局面で、あるときは勇気と励ましを与え、またある時は孤独への慰めともなり、意識の深層に蔵され、原風景として消えることがない」という一文が掲載されています。まさにそれを体感してきた作者による70年の歩みをまとめた「岩波少年文庫大全」です。また岩波少年文庫の総目録としても活用できる保存版です。

 

 

(作成K・J)

大阪国際児童文学振興財団 Youtube公式チャンネルのご紹介


一般大阪国際児童文学振興財団では、昨年の緊急事態宣言下で「大阪国際児童文学振興財団 公式チャンネル IICLO」Youtube配信を始め、この4月で開設1周年になりました。

 

大阪国際児童文学振興財団公式チャンネル→こちら

子ども向けに紹介する「YouTube版 本の海大冒険」(絵本編・読物編・YA編・科学編、各回3~5分)は毎週金曜日に、大人向けに紹介する「新刊子どもの本 ここがオススメ!」(各回約30分)は毎月10日に配信しています。

 

公開内容一覧は、以下のページからご覧ください。

一般大阪国際児童文学振興財団Webページ→こちら

 

子ども向けのコンテンツ「Youtube版 本の海大冒険」はブックトークのお手本として、また大人向けの「新刊子どもの本 ここがオススメ!」は、選書の際の参考になると思います。ぜひ参考にしてみてください。

(作成K・J)

2021年3月、4月の新刊から(その1)


3月、4月に出版された子どもの本を紹介します。一部、見落としていた3月以前に発行された新刊も含まれています。

この度は横浜・日吉にあるともだち書店と、代官山蔦屋書店にに注文し届けていただいたものと、本の編集者からお届けいただいたものもあります。それらを読んで紹介文を作成しました。今回は、児童書が1冊と少ないですが、4月中に銀座・教文館ナルニア国へ選書に伺い、出来るだけ早くに紹介できるようにいたします。

 

その他の書籍に関しては銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

 

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【絵本】

『ことりはこえだのてっぺんに』(おやこでよもう!金子みすゞ)金子みすゞ/詩 松本春野/絵 中村勘九郎/ナビゲーター 監修/矢崎節夫 JULA出版局 2021/3(出版社サイト→こちら

JULA出版局から出ている「おやこでよもう!金子みすゞ」シリーズの最新刊です。
絵本のタイトルになっているのは「き」という詩の中のことばです。
「き」のほかに「あかいくつ」、「いろがみ」や「こだまでしょうか」など10篇の詩が収められています。

 

 

 

 

 

『おひさま わらった』きくちちき/作 JULA出版局 2021/3(出版社サイト→こちら

こちらもJULA出版局からの新刊です。ブラティスラヴァ世界絵本原画展で何度も受賞しているきくちちきさんの最新刊です。身近な森の中にさんぽにでかけた子どもが、たくさんのいのちたちと出会い、ふれあい、少し怖い思いをしながらも、すべてがつながっていることを体感していく様子を、4色刷りの木版画で表現しています。
赤、青、黄、黒、それぞれの版を描き分け、直接それぞれの色で印刷し、紙面上で版画が完成するという手法で丁寧に作られています。温かみのある版画だからこそ、命溢れる森の中での躍動感が伝わってくると思います。

 

 

 

 

『かえるのごほうび』絵巻「鳥獣人物戯画」より 木島始/作 梶山俊夫/レイアウト 協力/高山寺 福音館書店 2021/3/20(出版社サイト→こちら

2021年4月13日より東京国立博物館で特別展「国宝 鳥獣戯画のすべて」が始まりました。(公式サイト→こちら)それに合わせて、福音館書店月刊誌「こどものとも」1967年1月号として刊行されていた作品が、新装製版されてこの度出版されました。つまり国宝が絵本になったのです。
今から800年以上前に描かれた素晴らしい絵巻には詞書がつけられていませんが、素晴らしい作品を子どもたちの身近に置けないのかと考えて物語がつけられたと裏表紙に木島始さんの言葉が記されています。まるではじめから、そういう詞書だったと思うほどに自然で楽しいお話になっています。

 

 

 

『気のいいバルテクとアヒルのはなし』クリスティーナ・トゥルスカ/作・絵 おびかゆうこ/訳 徳間書店 2021/3/31(出版社サイト→こちら

ポーランド出身の絵本作家が描いた昔話風の物語です。バルテクという名の気のいい若者は、1わのアヒルと一緒に山奥の村はずれにあるみすぼらしい家に住んでいました。ある時カエルの王様を助けたことから魔法の力を授かります。
そこへ、兵士たちの隊列がやってきます。バクテクは自分の家を宿舎として提供しようとしますが、大将はバクテクのアヒルを丸焼きにしろと命令してきます。それだけは出来ないと、バクテクはカエルの王様に授けられた魔法を使うのでした。1972年にケイト・グリーナウェイ賞を受賞した作品の初邦訳です。

 

 

 

 

 

 

『ヴォドニークの水の館 チェコのむかしばなし』まきのあつこ/文 降矢なな/絵 BL出版 2021/4/1(出版社サイト→こちら

世界のむかしばなし絵本シリーズ[第2期]の5冊目で、チェコの昔話に、スロヴァキア在住の降矢ななさんが絵をつけています。
ヴォドニークとは、ボヘミア地方で語り継がれてきた水の魔物です。日本の河童と同じように、人間を水に引きずり込んで溺れさせる存在であったり、一方では人に親切でいたずら好きな存在として語り継がれているそうです。その姿もたいてい緑色の体をしていると「あとがき」に描かれていて、日本の河童と似ていることに驚きました。
貧しい家の娘があまりのひもじさに家を出て、川に身を投げたのをヴォドニークがつかまえ、水の館に連れ帰ります。娘はヴォドニークに仕えることになるのですが、広間にある壺の中だけは覗いてはならないと言いつけられます。ある時壺の中から前に川でおぼれ死んだ声が聞こえてきたのです。昨年春、新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言で中断された原画展が、銀座・教文館9階ウェンライトホールで再開されています。(降矢なな絵本原画展2021年3月27日~5月5日 公式サイト→こちら)この絵本の原画が追加されており、早速見てきました。水の中の世界は透明で、娘が壺の中の魂を解放するシーンは幻想的で原画ならではの美しさでした。ぜひお時間を作って見にいってください。

 

 

 

 

【児童書】
*読み物*

『さいごのゆうれい』斉藤倫/作 西村ツチカ/画 福音館書店 2021/4/10 (出版社サイト→こちら

ハジメは、小5の夏休みを父親が仕事でいない間、田舎のおばあちゃんの家で過ごすことになりました。ハジメが幼い時に亡くなった母親の実家です。
飛行機が好きなハジメは、おばあちゃんの家の近くに出来た新しい空港を毎日見に行って過ごしていました。8月13日の午後、いつものように空港を見に行くと、飛行船のようにずんぐりした飛行機が降りてくるかと思ったらその飛行機は大きさを変えながら降りてくるのです。そのままその飛行機は滑走路を外れ、すすきの原を越えてハジメのいるフェンスの前で止まるのでした。そして降りてきたのはゆうれいの女の子だったのです。ネムと名乗るゆうれいの女の子と過ごすうちに、ハジメはこの世界から「かなしみ」という感情が消されていること、それは父親が研究開発した薬に因るものだと気づきます。「かなしみ」がないと人は亡くなった人を思い出すこともなくなり、するとゆうれいも居なくなってしまうというのです。「かなしみ」とは何なのか、読み進めるうちに考えさせられます。「かなしみ」を取り戻すために、ハジメとネムと一緒に不思議な旅をするミャオ・ターとゲンゾウなど脇役も魅力的です。

 

 

 

【その他】

『アーノルド・ローベルの全仕事 がまくんとかえるくんができるまで』永岡綾、大久保美夏/編集 ブルーシープ 2021/1/8 (出版社サイト→こちら

今年1月9日から3月28日までの会期で立川市にあるPLAY MUSEUM(公式サイト→こちら)で開催されていた「がまくんとかえるくん」誕生50周年記念アーノルド・ローベル展の図録です。この原画展は、2021年4月3日(土)− 2021年5月23日(日)に広島のひろしま美術館、その後も2022年春に伊丹市立美術館などへ巡回します。(原画展情報→こちら
アーノルド・ローベルの全作品と、ラフスケッチなどの資料がふんだんに集められていて、彼の作品の魅力を深く知ることが出来ます。研究資料としても価値が高いものになっています。

 

 

 

 

 

 

 

『おはなし会で楽しむ手ぶくろ人形』保育と人形の会/編著 児童図書館研究会 2021/3/1(児童図書館研究会のサイト→こちら

「本のこまど」でも何度も紹介しているミトンくまなど、おはなし会で活躍できる手ぶくろ人形の他、さまざまな小物の作り方と演じ方をコンパクトにまとめた本です。
後半には図書館などでの実践報告がまとめられています。絵本やわらべうたとどのように手ぶくろ人形を組み合わせるのか、詳細に書いてありますので、即実践に役立つことでしょう。コロナ禍で子どもたちと距離を保たなければならない昨今のおはなし会ですが、間に人形が入ることで、子どもたちの心もホッと和らぐことと思います。ぜひ図書館事務室に1冊、揃えておいてください。

 

 

 

 

 

 

 

『乳幼児期の性教育ハンドブック』浅井春夫、安達倭雅子、良香織、北山ひと美/編著 “人間と性”教育研究協議会・乳幼児の性と性教育サークル/著 かもがわ出版 2021/4/15(出版社サイト→こちら

世界経済フォーラムが発表した日本の最新のジェンダー・ギャップ指数が120位というニュースはご覧になったと思います。
性差はあるけれど、それが人間の価値の差ではないことを私たちは認識しなければなりません。
しかし男尊女卑の考え方はどんなところから来るのでしょうか。意外と幼いころからの性教育にも起因しているのかもしれません。
性の問題は深く人権に結びついています。このハンドブックは主に保育園、幼稚園の教師向けに書かれたものですが、図書館にも幼い子供たちが大勢やってきます。知らないうちに本や配布物も「男の子向け、女の子向け」と分けてしまっているかもしれないですね。そのあたりから見直してみるためにも一読をお勧めします。

 

 

(作成K・J)

訃報 ベバリイ・クリアリーさん


「ゆかいなヘンリーくん」シリーズ(→こちら)で有名なアメリカの児童文学作家、ベバリイ・クリアリーさんが3月25日、アメリカ、カリフォルニア州カーメルで亡くなられました。104歳でした。(ニュース記事→こちら

日本では、松岡享子さんの翻訳で14冊出版され、小学生時代に親しんだ子どもたちも多いことでしょう。

『がんばれヘンリーくん』ベバリイ・クリアリー/作 ルイス・ダーリング/絵 松岡享子/訳 学習研究社 2007(改訂新版)

その他のゆかいなヘンリーくんシリーズ
『ヘンリーくんとアバラー』
『ヘンリーくんとビーザス』
『ビーザスといたずらラモーナ』
『ヘンリーくんと新聞配達』
『ヘンリーくんと秘密クラブ』
『アバラ―のぼうけん』
『ラモーナは豆台風』
『ゆうかんな女の子ラモーナ』
『ラモーナとおとうさん』
『ラモーナとおかあさん』
『ラモーナ、八歳になる』
『ラモーナとあたらしい家族』
『ラモーナ、明日へ』

 

「本のこまど」の「基本図書を読む20」では、『がんばれヘンリーくん』について詳しく紹介しています。(→こちら 作成T・I)合わせて、こちらもご覧ください。

 

楽しいおはなしを書いてくださったクリアリーさんに感謝の気持ちを込めて、心より哀悼の誠を捧げます。

(作成K・J)

おすすめの幼年童話48 『はじめてのプ―さん プ―のはちみつとり』A.A.ミルン作


今回は、世界中で一番有名かもしれないクマのお話を紹介します。

『はじめてのプーさん プーのはちみつとり』 A.A.ミルン 文  E.H.シェパード 絵   石井桃子 訳 岩波書店 2016

クマのプーさんは、詩人で劇作家のA.A.ミルンが、小さい息子クリストファー・ロビンのぬいぐるみのおもちゃを登場させたお話で、イギリスで1926年と1928年に2冊の本『クマのプーさん』『ㇷ゚―横丁にたった家』が出版されました。日本でも、石井桃子氏の名訳で、1940年代に紹介され、多くの人に愛されてきました。

15話あるお話は、父親が息子に語ってきかせる形式をとっています。舞台は百町森で、小さな男の子クリストファー・ロビン、ちょっと頭が弱いけど愛らしいクマのプーさん、ㇷ゚ーさんの親友で優しくて少し気が弱い子ブタ、じめじめ愚痴っぽいロバのイーヨーなど、個性的で愉快な仲間たちが登場し、平和な毎日にちょっとした事件が起こります。
 例えば、「ㇷ゚―のはちみつとり」のお話では、プーさんが木の上のハチの巣からハチミツをとろうと、木に登って落っこちたり、風船で飛んだりと奮闘します。青い風船にぶらさがったプーさんが、青空にでている小さい黒雲に見えるか見えないかなど、大まじめにやりとりしている場面などは本当に愉快です。またプーが作る詩も、「青空にうかぶ 雲はたのし! ちいさい雲は いつも うたう・・・」といった具合で、なかなかのけっさくで楽しいです。

今回紹介するはじめてのプ―さんシリーズは、15話のうち3話「ㇷ゚―のはちみつとり」「ㇷ゚―あそびをはつめいする」「イーヨーのあたらしいうち」を、文字と絵を大きくし、すべてにルビをつけて、出版したものです。「クマのプーさんえほん」(→こちら)も出版されていますが、絵本版より小さい子でも楽しめる造りとなっています。このシリーズから読み始めて、絵本版、そして岩波少年文庫『クマのプーさん』(2000年)『ㇷ゚―横丁にたった家』(2000年)に進む子もいるかもしれません。本当に幼いころから、小学生、そして大人になってもプーさんの世界がそばにあるのは、とても幸せなことだと思います。

挿絵は、イギリス生まれのE.H.シェパードで、それぞれの仲間たちの愉快な個性がじんわりと伝わってきます。訳者あとがきでは、「ことに動物をユーモラスにかくことが得意で、ㇷ゚―を主題にした挿絵は、シェパード以外の絵が想像できないほど、その内容にくいこんで、子どもの本の挿絵に新しい境地をひらきました」と記されています。(『ㇷ゚―横丁にたった家』A.A.ミルン 文  E.H.シェパード絵   石井桃子訳 岩波書店 岩波少年文庫)

もともと語りかける形式のお話ですので、読み聞かせにもぴったりです。ぜひその子にあったシリーズの本を紹介してあげてください。

(作成 T.I)

2021年2月、3月の新刊から


2月、3月に出版された子どもの本を紹介します。一部、見落としていた2月以前に発行された新刊も含まれています。

2月末に銀座・教文館ナルニア国で久しぶりに新刊チェックをしてきました。また、横浜・日吉にあるともだち書店に注文し届けていただいたものもあります。それらを購入し読んで紹介文を作成しました。

 

その他の書籍に関しては銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

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【絵本】

『ぺこぺこ ペコリン』こがようこ/作 くさかみなこ/絵 講談社 2021/1/15 (出版社のサイト→こちら

とってもくいしんぼのペコリン。なんでもたべちゃいます。たべたものは、マラカスにたいこ、ラッパにピアノ。それをたべちゃうと、ペコリンは楽器に変身して楽しい音を出すのです。ちょっと不思議、でも楽しい、赤ちゃんから楽しめるおはなし絵本です。

 

 

 

 

 

 

 

『おばけのジョージ― こいぬをつれだす』ロバート・ブライト/作 こみやゆう/訳 好学社 2021/1/24 (出版社のサイト→こちら

心優しいおばけのジョージー、好学社から出ているシリーズは『おばけのジョージー こまどりをたすける』、『おばけのジョージー とびだしたけいとだま』、『おばけのジョージー メリーメリークリスマス』に続いて4冊目です。
ある日、散歩に連れ出してもらえない子犬マフィンを外に連れ出したジョージーと仲間たち。ところがマフィンはうさぎの巣穴にはまって動けなくなります。そこで猫のハーマンに飼い主のアイビスさんを呼んできてもらうのです。最後はホッとする結末になっています。

 

 

 

 

『なりきりマイケルのきかんしゃりょこう』ルイス・スロボドキン/作 こみやゆう/訳 出版ワークス 2021/1/25 (出版社のサイト→こちら

マイケルは、想像力豊かな男の子です。マイケルが居間で機関車ごっこを始めると、パパもお姉ちゃんも一緒になって汽車の旅を楽しんでくれます。マイケルは機関車の運転士にも、車掌にもなり、乗り換えバスの運転手にも、跳ね橋の開閉係にもなるのです。想像する力があれば、なんにでもなれる、そんな我が子の姿を温かく見守るパパの姿もほほえましい、そんな絵本です。

 

 

 

 

 

『うみがめのおじいさん』いとうひろし/作 講談社 2021/2/10 (出版社のサイト→こちら

いとうひろしさんの名作『おさるのまいにち』の名脇役うみがめのおじいさんのおはなしです。うみがめのおじいさんは波に揺られてうつらうつら。そうするとたくさんの思い出が波の間からあらわれてきます。そしてたくさんの思い出と一緒に心も体もどんどん海にとけていくように感じるのです。なんともゆったりとした、しずかなしずかな、それでいて気持ちが温かくなってくるお話です。

 

 

 

 

 

 

 

『ひびけわたしのうたごえ』カロライン・ウッドワード/文 ジュリー・モースタッド/絵 むらおかみえ/訳 福音館書店 2021/2/15 (出版社のサイト→こちら

 

カナダに住む6歳の女の子の物語です。学校へ行くために朝早く家を出て、スクールバスが停まる道路までの長い道のりを森を抜けて歩いていきます。まだ朝陽が昇らぬ前の暗い森の中を通り抜けながら、不安な気持ちを吹き飛ばすために女の子は歌を歌うのです。ブリティッシュ・コロンビア州のピース・リバー流域のセシル湖畔で少女時代を過ごした作者の実体験がもとになっています。絵本では夜明け前の通学路を描いていますが、人生における不安な時期と置き換えて読むことができます。どんなに困難な時でも前を向いて心に歌を、そうすればきっと希望がわいてくる。そんな応援歌になる絵本です。絵を描いたのは昨年10月に紹介した『サディ―がいるよ』(「本のこまど」記事→こちら)のジュリー・モースタッドです。

 

 

 

 

 

『おばあちゃんのたからもの』シモーナ・チラオロ/作 福本友美子/訳 光村教育図書 2021/2/20 (出版社のサイト→こちら

おばあちゃんの誕生日を祝うために家族が集まりました。孫娘がおばあちゃんの顔を覗き込んで「そんなにしわがあっていやじゃない?」と尋ねます。でもおばあちゃんは「ちっとも。だってしわは おばあちゃんのたからもの。だいじなおもいでがぜんぶしまってある、だいじなたからもの!」と答えるのです。孫娘は疑って、おばあちゃんの顔のしわを指さしながら「おばあちゃん、ここにはなにがしまっているの?」と次々に聞きます。おばあちゃんは幼い日の春の庭や、娘時代の海辺でのピクニック、おじいちゃんとの初めてのデートのことなど、孫娘に語っていくのです。老いていくことを前向きに捉えた心温まるおはなしです。

 

 

 

 

 

『めぐりめぐる』ジーニー・ベイカー/作 わだすなお/訳 ポリフォニープレス 2021/2 (出版社のサイト→こちら

渡り鳥のオオソリハシシギは南の住処オーストラリアやニュージーランドから飛び立ち、北の住処であるアラスカまで長い旅をします。その壮大な旅の様子を美しいコラージュで描き出しています。北へ飛ぶ旅の途中で立ち寄るのは中国大陸黄海近くの干潟です。急速な開発でどんどん干潟が失われていることもさりげなく描かれています。11000キロメートルをノンストップで飛びつづける鳥たちには「おおむかしからいききしていた しるしのないみちをたどる」能力があるようです。絵本の見開きに車いすの少年が描かれています。長い旅を終えて鳥たちが戻ってきた時には、少年は松葉杖になっていて、季節の移り変わりと時間の経過をさりげなく表現しています。

 

 

 

 

 

『まだまだ まだまだ』五味太郎/作 偕成社 2021/3(出版社のサイト→こちら

2021年2月6日にNHK、ETV特集で五味太郎さんが取り上げられました。(ETV特集「五味太郎はいかが?」→こちら
この番組の中で、制作過程を紹介していたのが、この絵本でした。
かけっこでゴールをしても、まだ走り続けたい男の子は町の中をどんどんかけていきます。
既成概念を常に突き破り、新しい挑戦を続ける五味さんらしい絵本です。人生の挑戦も「ここまで」と決めてしまうのではなく、自分らしく、自分で納得するまで走っていいんだよと、背中を押してくれるおはなしです。

 

 

 

 

 

 

【児童書】
*物語*

『町にきたヘラジカ』フィル・ストング/作 クルト・ヴィーゼ/絵 瀬田貞二/訳 徳間書店 2021/1/31(出版社のサイト→こちら

 

1969年に学習研究社から刊行された『町にきたヘラジカ』の訳文を、翻訳者である故・瀬田貞二さんのご遺族の了承を得て若干の見直しをした上で、この度徳間書店より再版されました。
アメリカ・ミネソタ州で実際にあった出来事を元にして書かれたおはなしで、厳しい寒波のやってきた冬のある日、仲良しの男の子イバールとワイノは、イバールの父さんの馬屋の中に大きなヘラジカを発見するのです。お腹を空かせて馬の飼い葉をたらふく食べてしまい、父さんや町の人たちは驚きますが、だれもこのヘラジカを撃ち殺すことはせず、町で飼うことにしたのでした。春になってようやくヘラジカは町から出ていきます。次の冬はいままでになく暖かい冬で、山にはヘラジカの餌がたくさんあるはずです。ところが、なんとヘラジカはまたやってきたのでした。ヘラジカを見て驚く町の人々の反応が楽しいおはなしです。文字も大きくルビがふってあるので、小学校低学年の子どもたちに手渡せる1冊です。

 

 

 

 

 

『見知らぬ友』マルセロ・ビルマヘール/作 宇野和美/訳 オーガフミヒロ/絵 福音館書店 2021/2/15(出版社のサイト→こちら

テストで数学の問題が解けない時、好きな女の子に告白したい時など人生のピンチになると現れる「見知らぬ友」。それは自分にしか見えない存在だけど、どうして現れるのか、わからない。そんな不思議なおはなしを皮切りに、思いがけない展開が待ち受けている10の短編が収められているYA向きの作品集です。
作者はアルゼンチンの作家で、物語の舞台は主に首都ブエノスアイレスです。「世界一強い男」のパートではこんな言葉があります。「八月のある寒い金曜日の」、北半球で暮らす私たちにはピンとこないのですが、南半球では真冬なのです。翻訳者の宇野さんは訳者あとがきに「地球の反対側のブエノスアイレスの街で繰り広げられる、肩の力が抜けたような、ちょっととぼけた、けれども、どこか温かな味わいのある物語を楽しんでいけたらうれしいです。」と記しています。そんな洒脱な作品をぜひ若い世代に手渡してあげてください。

 

 

 

 

 

『さくら村は大さわぎ』朽木祥/作 大社玲子/絵 小学館 2021/2/23 (出版社のサイト→こちら

さくら村には、昔からどこのうちでも子どもが生まれたら、さくらの苗木を一本、植える約束がありました。なので春になると村じゅうがさくらでいっぱいになるのです。大きなさくらはひいおじいちゃんやひいおばあちゃんが生まれた時のもの、小さなさくらは子どもたちが生まれた時のものです。
そんなさくら村の満開の四月から、夏と秋を過ごして冬へ、そして次の年の春にもう一本さくらの苗木が植えられるまで一年間の、小学校三年生のハナちゃんとお友達が繰り広げる楽しくも心温まる村の暮らしを描いたおはなしです。小学校低学年から中学年の子どもたちにおすすめです。

 

 

 

 

 

『ロザリンドの庭』エルサ・ベスコフ/作 菱木晃子/訳 植垣歩子/絵 あすなろ書房 2021/2/25 (出版社のサイト→こちら

北欧で読み継がれてきたエルサ・ベスコフの、不思議で美しい幼年童話です。6歳の男の子ラーシュ・エリックは、体が弱くいつもベッドに横になって壁紙に描かれた美しい花の絵を眺めていました。ラーシュは壁紙を見て「あの大きなふしぎな花は、いったいどこの国の花なんだろう?いつかその国をみてみたい」と思っていました。するとある日お母さんが仕事に出かけたあとに壁紙の中からノックする音が聞こえてくるではありませんか。そして壁紙の中から現れたロザリンドは壁紙の花々に水をやりはじめるのです。そのうちラーシュはロザリンドと一緒に壁紙の向こうのロザリンドの庭に行って遊ぶようになるのです。ところがお母さんにその話をしても信じてもらえません。次第に元気になってくるラーシュを見て、おかあさんは田舎に引っ越そうと考えるようになるのです。引っ越していった先は、ロザリンドの庭とそっくり。最後まで柔らかい光に包まれたような優しいファンタジーです。小学校中学年向けの童話です。

 

 

 

 

 

『あしたの幸福』いとうみく/作 松倉香子/絵 理論社 2021/2(出版社のサイト→こちら

中学生の雨音はパパと二人暮らしですが、来月にはパパは恋人の帆波さんと結婚することになっていました。ところが突然パパが交通事故で亡くなったしまいます。帆波さんと信号待ちをしている時に車に突っ込まれ、パパは帆波さんをかばうようにして即死し、帆波さんは助かったのです。
パパの葬儀のあと、雨音を誰が引き取るか、親族たちが話し合う中、彼女はパパと一緒に住んでいたマンションに残りたいと言い出します。そこへ突然現れたのが、雨音を産んだ後に家を出ていった母親。母である国吉京香さんはアスペルガーなのか、人との関わり方が苦手だったのです。それでも、今の家に住み続けるために、雨音は母親である京香さんと同居することにします。その上、お腹に赤ちゃんを宿しているパパの恋人帆波さんも一緒に住むことになるのです。そんな奇妙な関係の中で、少しずつ雨音は両親の愛情や離別のいきさつを知り、緩やかに母親のことを理解しようとしていきます。多感な少女の心の動きが、温かな視線で描かれていて、読後感は爽やかです。YA向けの作品です。

 

 

 

『ヤーガの走る家』ソフィー・アンダーソン/作 長友恵子/訳 小学館 2021/3/1(出版社のサイト→こちら

 

ロシア民話に出てくる「バーバ・ヤガー」をモチーフにした長編ファンタジーです。
「わたしの家には、鳥の尾がはえている。
 家は、年にニ、三度、真夜中にすっくと立ちあがり、猛スピードで走りだす。」というプロローグの最初の一行で、この物語の中にすーっと惹き込まれていきます。
この奇妙な家は、死者をなぐさめ、人生を祝福し、星へ返すための場所、つまり生と死の境界にあるのでした。そして少女マリンカは生と死の境界を守る「門」の番人になることを運命づけられていたのです。しかしマリンカは生きている人たちの世界で友だちが欲しいと願い、言いつけには従わずに自分の意思を押し通そうとします。マリンカのそんな気持ちは自己中心的に映りますが、さまざまな出会いから人を思いやる温かい気持ちを学び、落ち着いた気持ちで自分の将来を考えるようになっていきます。自分の望む未来を決してあきらめないマリンカの姿は思春期の子どもたちに力を与えてくれます。

 

 

 

 

*ノンフィクション*

『女の子はどう生きるか 教えて、上野先生!』上野千鶴子/著 岩波ジュニア新書 岩波書店 2021/1/20 (出版社のサイト→こちら

 

日本のジェンダーギャップは、世界経済フォーラム(WEF)の「世界ジェンダー・ギャップ報告書(Global Gender Gap Report)2020」によると世界153か国中121位。先進国の中でも最低です。
そんな女性が生きにくい社会で、どう生きていくか、認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク理事長で東大名誉教授の上野千鶴子さんが、気持ちがよいほどにすっぱりと答えてくれます。いつの間にか刷り込まれた「女子力」という呪縛から解き放たれ、一人の人間として自分らしく生きていくことを力強く応援してくれるのです。巻末にはネット上でも話題になった2019年度東京大学学部入学式祝辞が収められています。中高生のみなさんに男女問わず読んでほしい1冊です。

 

 

 

 

『SDGs時代の国際協力 アジアで共に学校をつくる』西村幹子・小野道子・井上儀子/著 岩波ジュニア新書 岩波書店 2021/2/19(出版社のサイト→こちら

 

三人の著者は、バングラデシュで長く学校づくりに取り組んできたアジアキリスト教教育基金(Asia Christian Education Fund=ACEF)に二十年以上携わってきました。過去30年の間に国際情勢は大きく変化し、国際協力のあり方も急速に進展しつつ変化しているというのです。
特にSDGs(持続可能な開発目標)の4番目にある「すべての人々への包摂的かつ公正な質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する」を実現するために、先進国が後進国へ施すというような「援助」ではなく、問題に共に立ち向かう「協働」の方向へ、変化しているのです。そうした国際協力の本質を見極め整理しつつ、これからの若い世代にも関心を持ってほしいと願ってこの本は書かれています。

 

 

 

 

【その他】

『昔話と子どもの空想』TCLブックレット 東京子ども図書館 2021/1/29 (出版社のサイト→こちら

東京子ども図書館の機関紙「こどもとしょかん」に掲載されたおはなしに関する評論の中から、バックナンバーの要求がもっとも多かった三篇が収録されたブックレットです。
「人間形成における空想の意味」(小川捷之)、「昔話と子どもの空想」(シャルロッテ・ビューラー 森本真実/訳・松岡享子/編)、「昔話における”先取り”の様式―子どもの文学としての昔話」(松岡享子)の三篇は、どれを読んでも心に深く響く内容です。子どもたちにおはなしを手渡す活動をしている児童担当であれば、ぜひ目を通しておきたいものです。

 

 

 

 

『草木鳥鳥文様』梨木香歩/文 ユカワアツコ/絵 長嶋有里枝/写真 福音館書店 2021/3/15(出版社のサイト→こちら

福音館書店から出版されているけれど、児童向けではなくかなり趣向を凝らした贅沢な大人の趣味本だなと、これは自分の宝物にして何度も眺めていたいと感じた1冊です。
梨木香歩さんの鳥をめぐるエッセイに、古い箪笥の引き出しの内側に描くという手法のユカワアツコさんの鳥の絵。そしてそれをさまざまな風景と共に切り取って撮影した長嶋有里枝さんの写真。
それがぴったりとはまっていて、読む者の心を静かな自然の懐へ返してくれます。「冬の林の中で」(ツグミ/シバ属)、「水上で恋して」(カイツブリ/コウホネ)、「初夏の始まりの知らせ」(アオバズク/ケヤキ)・・・鳥と植物を組み合わせた全36篇のエッセイが収められています。

 

 

 

 

『科学絵本の世界100 学びをもっと楽しくする』別冊太陽 平凡社 2021/3/15(出版社のサイト→こちら

 

子どもの好奇心の扉を開く科学絵本100冊が見開き2ページ、カラーでたっぷりと紹介されています。
どの絵本も、子どもたちにすぐに紹介したくなるものばかり。
このままレファレンスの資料としても重宝しそうです。

 

 

 

 

(作成K・J)

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