本に関する情報

おすすめの幼年童話49『おしろのばん人とガレスピー』ベンジャミン・エルキン作
2021年3,4月の新刊から(その2)
大阪国際児童文学振興財団 Youtube公式チャンネルのご紹介
2021年3月、4月の新刊から(その1)
訃報 ベバリイ・クリアリーさん
おすすめの幼年童話48 『はじめてのプ―さん プ―のはちみつとり』A.A.ミルン作
2021年2月、3月の新刊から
基本図書を読む36『ムギと王さま』『天国を出ていく』エリナー・ファージョン(再掲載)
おすすめの幼年童話47『ミリー・モリ―・マンデーのおはなし』ジョイス・L・ブレスリー作
基本図書を読む35『西遊記』呉承恩(再掲載)
2020年12月、2021年1月の新刊から
おすすめの幼年童話46『かさをかしてあげたあひるさん』村山壽子作
訃報 安野光雅さん
2020年11月、12月の新刊から(その2)
基本図書を読む34『人形の家』ルーマー・ゴッデン(再掲載)

おすすめの幼年童話49『おしろのばん人とガレスピー』ベンジャミン・エルキン作


今回は、楽しいお話と迫力ある挿絵が魅力的な作品を紹介します。

『おしろのばん人とガレスピー』ベンジャミン・エルキンぶん ジェームズ・ドーハーティ/え 小宮由/やく

ある国に、世界中のだれよりも目がいい兄弟がいました。うわさを聞きつけた王様は、3人をお城の番人にし、番人をだませたものには金のメダルを贈ると発表します。何百、何千という人たちが挑戦しますが、番人たちは、どんな変装でも見ぬいてしまいます。有名になり、えらそうな顔をするようになった番人たちに、毎日王子さまと遊ぶためにお城にきていた男の子ガレスピーは、だましてやろうと挑むことにします。

昔話風のユーモアあふれる愉快なお話です。複雑な筋ではないので、無理なく物語を追うことができますし、どのようにガレスピーが番人たちをだますのか謎解きのように楽しむことができます。

作者ベンジャミン・エルキンは、アメリカの作家で、日本では『世界でいちばんやかましい音』(ベンジャミン・エルキン作 太田大八絵  松岡享子訳 こぐま社 1999)が有名で、広く親しまれています。

画家ジェームズ・ドーハ―ティは、本作品と『アンディとらいおん』(ジェームズ・ドーハーティ 文・絵  むらおか はなこ訳 福音館書店 1961)でコールデコット・オナー賞を受賞しています。黒と茶色で描かれた躍動感のある絵は迫力があり、絵からも物語の愉快さが伝わってきます。

本作品は、大日本図書が刊行している「こころのほんばこ」シリーズ(大日本図書Webページ→こちら)の1冊です。このシリーズは現時点で11冊出版されており、本のこまどの新刊情報でも複数点紹介してきました。「ハリーとうたうおとなりさん」( ジーン・ジオン文 マーガレット・ブロイ・グレアム絵 小宮由訳 2015)をはじめ、日本でも広く読み継がれている絵本作家の作品が翻訳されていて、親しみやすいと思います。

翻訳を手がけている小宮由さんは、シリーズに次のような言葉を寄せています。
「子どもたちがワクワクしながら、主人公や登場人物と心を重ね、うれしいこと、悲しいこと、楽しいこと、苦しいことを我がことのように体験し、その体験を「こころのほんばこ」にたくさん蓄えてほしい。その積み重ねこそが、友だちの気持ちを想像したり、喜びをわかちあったり、つらいことがあってもそれを乗り越える力になる、そう信じています。」

ぜひ、その子の「こころのほんばこ」に蓄えられる1冊を紹介してみてください!

(作成T.I)

2021年3,4月の新刊から(その2)


3月、4月に出版された子どもの本のうち、(その1→こちら)で紹介できなかったものを紹介します。一部、見落としていた3月以前に発行された新刊も含まれています。

この度は4月15日に銀座・教文館ナルニア国へ選書に伺い、購入したものと、神保町にあるブックハウスカフェから取り寄せたものを、読み終えた上で紹介しています。

 

その他の書籍に関しては銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

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【絵本】
《物語絵本》

『オサム』谷川俊太郎/文 あべ弘士/絵 童話屋 2021/3/22(出版社サイト→こちら

巻末に掲載されている谷川さんの「ぼくのゆめ」という詩には、「おおきくなったらなにになりたい? と おとながきく いいひとになりたい と ぼくがこたえる(中略)えらくならなくていい かねもちにならなくていい いいひとになるのが ぼくのゆめ と くちにださずに ぼくはおもう」という一節があります。
谷川さんの思う「いいひと」をあべ弘士さんが絵に描いたら、ゴリラになったそうです。ゴリラの優しい表情を見ているとホッとします。子どもにもおとなにも読んでほしい絵本です。

 

 

 

 

『ともだちいっしゅうかん』内田麟太郎/作 降矢なな/絵 偕成社 2021/4(出版社サイト→こちら

1998年に『ともだちや』(→こちら)が出版されて23年。「おれたち、ともだち!」シリーズ(→こちら)の14冊目となるこちらの絵本は、『ともだちおまじない』(→こちら)と合わせて番外編に位置付けられます。
月曜日から始まって日曜日までロシア民謡の「一週間」のように、毎日きつねとその友だちの楽しいエピソードが描かれます。よく見ると、各曜日の最初のページは「月」「火」「水」などの漢字を模った絵になっています。そんなところも子どもたちが発見して喜びそうです。

 

 

 

 

 

 

『たべたのだーれだ?』たむらしげる/作 0.1.2えほん 福音館書店 2021/4/10(出版社サイト→こちら

月刊絵本「こどものとも0.1.2」2016年8月号のハードカバーです。ボードブックのページに穴が空いていて、向こう側に木の実や果物を食べている動物や虫の一部が見えています。それを予測しながらページをめくるのは、小さな子どもにとっては、まるで「いないいないばあ」遊びをしているような楽しさがあるでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

『まよなかのトイレ』まるやまあやこ/作 福音館書店 2021/4/10(出版社サイト→こちら

月刊絵本「こどものとも」年中向きの2010年6月号のハードカバーです。夜中にトイレに起きたひろこ。おかあさんは、小さな赤ちゃんのお世話の真っ最中で、ひろこはねこのぬいぐるみのみいこを連れて、トイレへ行くことになりました。不安な気持ちで暗い廊下に出ると、ぬいぐるみのみいこがすくっと立ち上がり、トイレまで先導してくれるのです。ぬいぐるみは、幼い子どもの不安な気持ちに寄り添ってくれる心強い存在です。そんな子どもの気持ちが柔らかなタッチの絵で丁寧に描かれています。

 

 

 

 

 

 

《ノンフィクション絵本》
『せかいでさいしょにズボンをはいた女の子』キース・ネグレー/作 石井睦美/訳 光村教育図書 2020/12/23 (2021/4/15第二刷発行)(出版社サイト→こちら

昨年12月に出版されていた絵本ですが、見落としていました。この度第二刷が発行されたので、紹介します。
この絵本のモデルになっているメアリー・エドワーズ・ウォーカーは1832年生まれです。メアリーが育った時代は、日本では江戸後期にあたります。彼女は小さなころから独立心と正義感に満ち溢れていました。そして当時、女性が身につけるべきと思われていた体を締め付けるドレスではなく、活動のしやすいズボンをはいて学校へ通うようになるのです。それは社会への挑戦でした。あとがきにはそのことを理由に何度も逮捕されたと書かれています。その度に「男の子のふくをきているんじゃないわ わたしはわたしのふくをきているのよ!」と主張したのです。その後、メアリーは南北戦争の際に北軍の軍医になり、医師を引退した後も女性の選挙権や、服装の自由についての権利を訴えて活動を続けました。ジェンダーについて考えるきっかけになる絵本です。

 

 

 

 

『女の子だから、男の子だからをなくす本』ユン・ウンジュ/文 イ・ヘジョン/絵 すんみ/訳 エトセトラブックス 2021/3/30(出版社サイト→こちら

「女の子は女らしく」「男の子は男らしく」というように性別によって行動を決めつけられることへの疑問をもち、性別の枠組みから自由になることの大切さを子どもたちにもわかりやすく解く韓国の作家による絵本です。日本と同様に儒教的な家父長制が重視されてきた韓国でも、急速にジェンダー問題への関心は高まっているようです。これからの時代、子どもたちがもっと自由に、自分のやりたいことに挑戦できるように、大人の凝り固まった固定観念をまずはほぐす必要があります。子どもと共に読みたい1冊です。

 

 

 

 

 

 

 

『雪虫』石黒誠/文・絵 たくさんのふしぎ傑作集 福音館書店 2021/3/30(出版社サイト→こちら

北国では、雪がふりはじめる前に飛び交う白い小さな雪虫のことを、冬の訪れを知らせる虫と親しんでいるそうです。
その雪虫の生態を北海道、富良野の森で一年間追った写真絵本です。雪虫は、不思議な生態を持っています。春にヤチダモの木の上で卵から孵った時と、夏にトドマツの根元の地下で過ごす時、白い綿毛を身にまとって雪虫になって飛んでヤチダモの森へ飛んで帰る時、そして秋に次の世代を産む時では、全く違う姿かたちに変わります。その間に7回世代が交代するのです。春から夏にかけてはメスがメスだけを産み、秋になるとオスとメスが生まれます。その時は翅も口もなく交尾をする為だけに数日間生きて、次の年に孵る卵を産むと死ぬという独特の生態を具に記録しています。私たちの暮らしとはなんら関わりのないように感じるこうした小さな昆虫は、他の昆虫や鳥の餌となり生態系を支えています。小さな昆虫の一生を知ることで、私たちは生命がもつ「センス・オブ・ワンダー」を感じることができるのです。月刊絵本「たくさんのふしぎ」の2013年11月号のハードカバーです。

 

 

 

 

『桜島の赤い火』宮武健仁/文・写真 たくさんのふしぎ傑作集 福音館書店 2021/3/30(出版社サイト→こちら

こちらも月刊絵本「たくさんのふしぎ」の2013年1月号のハードカバーです。写真家の宮武さんは小学校の修学旅行で阿蘇山を訪れ、その際に購入した絵葉書セットの中にある夜の闇に赤く光る火口の写真を見て「地球の中が赤く光っている」と感じ、そのことに強く惹かれたそうです。
大人になって赤い火口を写真に収めようと阿蘇山を訪れますが、それならば毎日噴火している桜島のほうがよいと勧められて、桜島に通うようになります。鹿児島市内からは噴煙が見えるだけですが、大隅半島側からは昭和火口が見えるとわかると、そちらからカメラを構えて撮影に挑みます。そして噴火の瞬間を写真に収めていきます。
真っ赤な火が噴き出す火口、そして火山雷の稲妻、それらの写真を見ていると地球は今も地中奥深くにマグマを湛え、常に変化しているのだと感じます。この本の中には火山が身近にある人びとの暮らし、過去の大噴火がもたらした地形や水の流れなどもわかりやすく伝えてくれます。何万年という時間の流れの中で今の地形が形作られていますが、それもまたこれから何万年も経つとまったく違う形に変わっていくのだろうと、その壮大な時間の流れの中のほんの一瞬を生きているのだと、この本を読んで感じました。

 

 

 

 

『富岡製糸場 生糸がつくった近代の日本』田村仁/写真・文 たくさんのふしぎ傑作集 福音館書店 2021/3/30(出版社サイト→こちら

2014年にユネスコ世界遺産として登録された富岡製糸場の成り立ちと、そこに至る日本の養蚕と製糸の歴史を詳細に伝えてくれる写真絵本です。現在放映中のNHK大河ドラマ「青天を衝け」で今後描かれる明治期の日本の近代化の象徴でもある富岡製糸場が、なぜあの立地になったのか、また富岡製糸場がどんな役割を担っていたのかが、よくわかります。月刊絵本「たくさんのふしぎ」の2016年6月号のハードカバーです。

 

 

 

 

 

 

 

『富士山のまりも 夏休み自由研究50年後の大発見』亀田良成/文 斉藤俊行/絵 たくさんのふしぎ傑作集 福音館書店 2021/3/30(出版社サイト→こちら

月刊絵本「たくさんのふしぎ」の2014年4月号のハードカバーです。昭和22年に東京で生まれ育った作者の亀田さんは、小学生だった昭和30年代に富士山麓の山中湖に毎年夏に通うようになります。小学3年生の時に「ししの糞」と呼ばれる小さなまりもを採取し、東京に持ち帰りジャム瓶で育てるようになります。小学4年生の担任の先生は「一人一研究」と自由研究を熱心に呼びかけます。それに応じて亀田さんは自由研究に「山中湖のなりたちとまりも」をテーマに選びます。そして再びまりもを採取して大きな水槽で観察を始めました。
まりもはその後も亀田さんのご実家の庭で50年もの間、育てられていたのです。長年まりもの世話をしてくれていた母親が老人ホームで暮らすようになった2011年に、亀田さんはインターネットでまりもについて検索してみました。すると、山中湖のまりもが絶滅状態であることがわかります。国立科学博物館に報告をすると、50年以上前の観察記録や遺伝子解析により、幻のフジマリモとわかりニュースにもなりました。亀田さんはいずれ山中湖にまりもを返すために、今も研究を続けているとのことです。子ども時代の自由研究が生涯にわたる研究テーマになることもあるのですね。

 

 

 

【児童書】

《昔話・物語》

『火の鳥ときつねのリシカ チェコの昔話』木村有子/編訳 出久根育/絵 岩波少年文庫 岩波書店 2021/4/15(出版社サイト→こちら

チェコで子ども時代を過ごし、また大学時代にチェコへ留学した木村有子さんが、チェコに伝わる昔話を24選んだチェコの昔話集です。挿絵を担当したのは、『命の水―チェコの民話集』(カレル・ヤロミール・エルベン/編 阿部賢一/訳 西村書店 2017→こちら)でも絵を描いたチェコ在住の出久根育さんです。
また2013年に出版された『中・東欧のむかしばなし 三本の金の髪の毛』(松岡享子/訳 降矢なな/絵 のら書店 2013→こちら)にも共通のお話が収録されていますが、当然のことですが翻訳者によっておはなしの雰囲気が少しずつ違っています。子ども時代にチェコで過ごし、身近に昔話を聞いていた木村さんならではの親しみやすい訳で、チェコの昔話を味わってほしいと思います。また木村有子さんのオンライントークイベントが、JBBY主催で6月に行われます。(JBBY国際アンデルセン賞と世界の子どもの本講座2021-②「チェコの国際アンデルセン賞画家が開く絵本の世界」こちら)ぜひ、こちらにもご参加ください。

 

 

 

 

『こそあどの森のおとなたちが子どもだったころ』岡田淳/作 理論社 2021/5(出版社サイト→こちら

「こそあどの森」シリーズ(→こちら)は2017年に12巻目の『水の森の秘密』(→こちら)で完結しました。
この本は「こそあどの森」の物語に出てくる個性豊かなおとなたちが、どんな子ども時代だったのかを描く番外編です。
主人公のスキッパーが作家のトワイエさんから借りた本の中に、子ども時代の写真が挟まっていたのに気づいたことから、スキッパーとふたごが、次々に森のおとなたちに子どもの頃の思い出を聞き出していきます。トワイエさんが子ども時代に通っていた図書館で体験した不思議な出来事、トマトさんが料理が得意になったわけなど、本編に続く子どもの頃のエピソードがわかって楽しくなります。

 

 

 

 

 

 

《ノンフィクション》

『こどもジェンダー』シオリーヌ(大貫詩織)/著 松岡宗嗣/監修 村田エリー/絵 ワニブックス 2021/5/10(出版社サイト→こちら

助産師としてYoutubeチャンネルでジェンダーとセクシュアリティにまつわる動画を公開してきたシオリーヌさんによる子ども向けに、ジェンダーについて考えるヒントを集めた本です。(性教育YouTuberシオリーヌ公式チャンネル→こちら
「ぼくランドセルはあかがいいんだ でもそれはオンナノコのいろだから ダメといわれちゃった」「わたしね スカートなんかすきじゃない フリフリのようふくなんかきたくない」「おとうさんに「オトコなんだからメソメソなくな!」っていわれちゃった ぼくがオンナノコだったら いいの」など、子どもたちの身近にある疑問に答えてくれます。今回紹介した『せかいでさいしょにズボンをはいた女の子』『女の子だから、男の子だからをなくす本』など、子どもの本の世界でもジェンダーに関する書籍が増えています。SDGsの第5番目の目標に「ジェンダー平等を実現しよう」が入り、また2018年の#MeToo運動以降、この問題は子どもの本の世界でも重要なトピックスになっていることの表れです。

 

 

 

【その他】

『つぎに読むの、どれにしよ? 私の親愛なる海外児童文学』越高綾乃/著 かもがわ出版 2021/2/1(出版社サイト→こちら

長野県松本市にある子どもの本の専門店「ちいさいおうち」(→こちら)の経営者の一人娘である作者が、子ども時代から親しんできた海外児童文学について語るエッセイです。
幼少期はもちろんのこと、思春期の辛い時も、子どもの本の主人公たちがそばに寄り添ってくれたという24作品への想いを読むと、ああ、私もそんな風に思ったなと感じたり、もう一度読み返してみたくなったりします。そして翻訳家の石井登志子さんとの対談からは、リンドグレーン作品への想いが溢れています。子ども時代に出会う本がどれだけその後の人生を支えるかということがわかります。

 

 

 

 

『絵本のなかへ帰る』高村志保/著 岬書店 2021/2/16(出版社サイト→こちら

こちらは長野県茅野市にある今井書店の二代目店主による絵本のエッセイです。子ども時代に出会った絵本、とくに父親のひざの上で読んでもらった絵本の思い出、ご自身が子育て中に我が子と読んだ絵本など27冊が並びます。『つぎに読むの、どれにしよ? 私の親愛なる海外児童文学』の越高さんと同様に子ども時代に出会う本がいかに子どもの人格形成に影響を与えるか、人生を彩るかを語っています。
出版元は夏葉社の新レーベル、岬書店、そして表紙の絵はきくちちきさんです。(今井書店本店のtwitter→こちら

 

 

 

 

『岩波少年文庫のあゆみ 1950-2020』若菜晃子/編著 岩波少年文庫別冊 岩波書店 2021/3/12(出版社サイト→こちら

子ども時代に岩波少年文庫に親しんだという編集者でエッセイストの若菜さんによる岩波少年文庫愛がつまったエッセイです。
岩波少年文庫は1950年、終戦後5年後に創刊されました。岩波少年文庫の各巻の巻末には「岩波少年文庫創刊五十年ー新版の発足に際して」には「心躍る辺境の冒険、海賊たちの不気味な唄、垣間みる大人の世界への不安、魔法使いの老婆が棲む深い森、無垢の少年たちの友情と別離―幼少期の読書の記憶の断片は、個個人のその後の人生のさまざまな局面で、あるときは勇気と励ましを与え、またある時は孤独への慰めともなり、意識の深層に蔵され、原風景として消えることがない」という一文が掲載されています。まさにそれを体感してきた作者による70年の歩みをまとめた「岩波少年文庫大全」です。また岩波少年文庫の総目録としても活用できる保存版です。

 

 

(作成K・J)

大阪国際児童文学振興財団 Youtube公式チャンネルのご紹介


一般大阪国際児童文学振興財団では、昨年の緊急事態宣言下で「大阪国際児童文学振興財団 公式チャンネル IICLO」Youtube配信を始め、この4月で開設1周年になりました。

 

大阪国際児童文学振興財団公式チャンネル→こちら

子ども向けに紹介する「YouTube版 本の海大冒険」(絵本編・読物編・YA編・科学編、各回3~5分)は毎週金曜日に、大人向けに紹介する「新刊子どもの本 ここがオススメ!」(各回約30分)は毎月10日に配信しています。

 

公開内容一覧は、以下のページからご覧ください。

一般大阪国際児童文学振興財団Webページ→こちら

 

子ども向けのコンテンツ「Youtube版 本の海大冒険」はブックトークのお手本として、また大人向けの「新刊子どもの本 ここがオススメ!」は、選書の際の参考になると思います。ぜひ参考にしてみてください。

(作成K・J)

2021年3月、4月の新刊から(その1)


3月、4月に出版された子どもの本を紹介します。一部、見落としていた3月以前に発行された新刊も含まれています。

この度は横浜・日吉にあるともだち書店と、代官山蔦屋書店にに注文し届けていただいたものと、本の編集者からお届けいただいたものもあります。それらを読んで紹介文を作成しました。今回は、児童書が1冊と少ないですが、4月中に銀座・教文館ナルニア国へ選書に伺い、出来るだけ早くに紹介できるようにいたします。

 

その他の書籍に関しては銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

 

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【絵本】

『ことりはこえだのてっぺんに』(おやこでよもう!金子みすゞ)金子みすゞ/詩 松本春野/絵 中村勘九郎/ナビゲーター 監修/矢崎節夫 JULA出版局 2021/3(出版社サイト→こちら

JULA出版局から出ている「おやこでよもう!金子みすゞ」シリーズの最新刊です。
絵本のタイトルになっているのは「き」という詩の中のことばです。
「き」のほかに「あかいくつ」、「いろがみ」や「こだまでしょうか」など10篇の詩が収められています。

 

 

 

 

 

『おひさま わらった』きくちちき/作 JULA出版局 2021/3(出版社サイト→こちら

こちらもJULA出版局からの新刊です。ブラティスラヴァ世界絵本原画展で何度も受賞しているきくちちきさんの最新刊です。身近な森の中にさんぽにでかけた子どもが、たくさんのいのちたちと出会い、ふれあい、少し怖い思いをしながらも、すべてがつながっていることを体感していく様子を、4色刷りの木版画で表現しています。
赤、青、黄、黒、それぞれの版を描き分け、直接それぞれの色で印刷し、紙面上で版画が完成するという手法で丁寧に作られています。温かみのある版画だからこそ、命溢れる森の中での躍動感が伝わってくると思います。

 

 

 

 

『かえるのごほうび』絵巻「鳥獣人物戯画」より 木島始/作 梶山俊夫/レイアウト 協力/高山寺 福音館書店 2021/3/20(出版社サイト→こちら

2021年4月13日より東京国立博物館で特別展「国宝 鳥獣戯画のすべて」が始まりました。(公式サイト→こちら)それに合わせて、福音館書店月刊誌「こどものとも」1967年1月号として刊行されていた作品が、新装製版されてこの度出版されました。つまり国宝が絵本になったのです。
今から800年以上前に描かれた素晴らしい絵巻には詞書がつけられていませんが、素晴らしい作品を子どもたちの身近に置けないのかと考えて物語がつけられたと裏表紙に木島始さんの言葉が記されています。まるではじめから、そういう詞書だったと思うほどに自然で楽しいお話になっています。

 

 

 

『気のいいバルテクとアヒルのはなし』クリスティーナ・トゥルスカ/作・絵 おびかゆうこ/訳 徳間書店 2021/3/31(出版社サイト→こちら

ポーランド出身の絵本作家が描いた昔話風の物語です。バルテクという名の気のいい若者は、1わのアヒルと一緒に山奥の村はずれにあるみすぼらしい家に住んでいました。ある時カエルの王様を助けたことから魔法の力を授かります。
そこへ、兵士たちの隊列がやってきます。バクテクは自分の家を宿舎として提供しようとしますが、大将はバクテクのアヒルを丸焼きにしろと命令してきます。それだけは出来ないと、バクテクはカエルの王様に授けられた魔法を使うのでした。1972年にケイト・グリーナウェイ賞を受賞した作品の初邦訳です。

 

 

 

 

 

 

『ヴォドニークの水の館 チェコのむかしばなし』まきのあつこ/文 降矢なな/絵 BL出版 2021/4/1(出版社サイト→こちら

世界のむかしばなし絵本シリーズ[第2期]の5冊目で、チェコの昔話に、スロヴァキア在住の降矢ななさんが絵をつけています。
ヴォドニークとは、ボヘミア地方で語り継がれてきた水の魔物です。日本の河童と同じように、人間を水に引きずり込んで溺れさせる存在であったり、一方では人に親切でいたずら好きな存在として語り継がれているそうです。その姿もたいてい緑色の体をしていると「あとがき」に描かれていて、日本の河童と似ていることに驚きました。
貧しい家の娘があまりのひもじさに家を出て、川に身を投げたのをヴォドニークがつかまえ、水の館に連れ帰ります。娘はヴォドニークに仕えることになるのですが、広間にある壺の中だけは覗いてはならないと言いつけられます。ある時壺の中から前に川でおぼれ死んだ声が聞こえてきたのです。昨年春、新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言で中断された原画展が、銀座・教文館9階ウェンライトホールで再開されています。(降矢なな絵本原画展2021年3月27日~5月5日 公式サイト→こちら)この絵本の原画が追加されており、早速見てきました。水の中の世界は透明で、娘が壺の中の魂を解放するシーンは幻想的で原画ならではの美しさでした。ぜひお時間を作って見にいってください。

 

 

 

 

【児童書】
*読み物*

『さいごのゆうれい』斉藤倫/作 西村ツチカ/画 福音館書店 2021/4/10 (出版社サイト→こちら

ハジメは、小5の夏休みを父親が仕事でいない間、田舎のおばあちゃんの家で過ごすことになりました。ハジメが幼い時に亡くなった母親の実家です。
飛行機が好きなハジメは、おばあちゃんの家の近くに出来た新しい空港を毎日見に行って過ごしていました。8月13日の午後、いつものように空港を見に行くと、飛行船のようにずんぐりした飛行機が降りてくるかと思ったらその飛行機は大きさを変えながら降りてくるのです。そのままその飛行機は滑走路を外れ、すすきの原を越えてハジメのいるフェンスの前で止まるのでした。そして降りてきたのはゆうれいの女の子だったのです。ネムと名乗るゆうれいの女の子と過ごすうちに、ハジメはこの世界から「かなしみ」という感情が消されていること、それは父親が研究開発した薬に因るものだと気づきます。「かなしみ」がないと人は亡くなった人を思い出すこともなくなり、するとゆうれいも居なくなってしまうというのです。「かなしみ」とは何なのか、読み進めるうちに考えさせられます。「かなしみ」を取り戻すために、ハジメとネムと一緒に不思議な旅をするミャオ・ターとゲンゾウなど脇役も魅力的です。

 

 

 

【その他】

『アーノルド・ローベルの全仕事 がまくんとかえるくんができるまで』永岡綾、大久保美夏/編集 ブルーシープ 2021/1/8 (出版社サイト→こちら

今年1月9日から3月28日までの会期で立川市にあるPLAY MUSEUM(公式サイト→こちら)で開催されていた「がまくんとかえるくん」誕生50周年記念アーノルド・ローベル展の図録です。この原画展は、2021年4月3日(土)− 2021年5月23日(日)に広島のひろしま美術館、その後も2022年春に伊丹市立美術館などへ巡回します。(原画展情報→こちら
アーノルド・ローベルの全作品と、ラフスケッチなどの資料がふんだんに集められていて、彼の作品の魅力を深く知ることが出来ます。研究資料としても価値が高いものになっています。

 

 

 

 

 

 

 

『おはなし会で楽しむ手ぶくろ人形』保育と人形の会/編著 児童図書館研究会 2021/3/1(児童図書館研究会のサイト→こちら

「本のこまど」でも何度も紹介しているミトンくまなど、おはなし会で活躍できる手ぶくろ人形の他、さまざまな小物の作り方と演じ方をコンパクトにまとめた本です。
後半には図書館などでの実践報告がまとめられています。絵本やわらべうたとどのように手ぶくろ人形を組み合わせるのか、詳細に書いてありますので、即実践に役立つことでしょう。コロナ禍で子どもたちと距離を保たなければならない昨今のおはなし会ですが、間に人形が入ることで、子どもたちの心もホッと和らぐことと思います。ぜひ図書館事務室に1冊、揃えておいてください。

 

 

 

 

 

 

 

『乳幼児期の性教育ハンドブック』浅井春夫、安達倭雅子、良香織、北山ひと美/編著 “人間と性”教育研究協議会・乳幼児の性と性教育サークル/著 かもがわ出版 2021/4/15(出版社サイト→こちら

世界経済フォーラムが発表した日本の最新のジェンダー・ギャップ指数が120位というニュースはご覧になったと思います。
性差はあるけれど、それが人間の価値の差ではないことを私たちは認識しなければなりません。
しかし男尊女卑の考え方はどんなところから来るのでしょうか。意外と幼いころからの性教育にも起因しているのかもしれません。
性の問題は深く人権に結びついています。このハンドブックは主に保育園、幼稚園の教師向けに書かれたものですが、図書館にも幼い子供たちが大勢やってきます。知らないうちに本や配布物も「男の子向け、女の子向け」と分けてしまっているかもしれないですね。そのあたりから見直してみるためにも一読をお勧めします。

 

 

(作成K・J)

訃報 ベバリイ・クリアリーさん


「ゆかいなヘンリーくん」シリーズ(→こちら)で有名なアメリカの児童文学作家、ベバリイ・クリアリーさんが3月25日、アメリカ、カリフォルニア州カーメルで亡くなられました。104歳でした。(ニュース記事→こちら

日本では、松岡享子さんの翻訳で14冊出版され、小学生時代に親しんだ子どもたちも多いことでしょう。

『がんばれヘンリーくん』ベバリイ・クリアリー/作 ルイス・ダーリング/絵 松岡享子/訳 学習研究社 2007(改訂新版)

その他のゆかいなヘンリーくんシリーズ
『ヘンリーくんとアバラー』
『ヘンリーくんとビーザス』
『ビーザスといたずらラモーナ』
『ヘンリーくんと新聞配達』
『ヘンリーくんと秘密クラブ』
『アバラ―のぼうけん』
『ラモーナは豆台風』
『ゆうかんな女の子ラモーナ』
『ラモーナとおとうさん』
『ラモーナとおかあさん』
『ラモーナ、八歳になる』
『ラモーナとあたらしい家族』
『ラモーナ、明日へ』

 

「本のこまど」の「基本図書を読む20」では、『がんばれヘンリーくん』について詳しく紹介しています。(→こちら 作成T・I)合わせて、こちらもご覧ください。

 

楽しいおはなしを書いてくださったクリアリーさんに感謝の気持ちを込めて、心より哀悼の誠を捧げます。

(作成K・J)

おすすめの幼年童話48 『はじめてのプ―さん プ―のはちみつとり』A.A.ミルン作


今回は、世界中で一番有名かもしれないクマのお話を紹介します。

『はじめてのプーさん プーのはちみつとり』 A.A.ミルン 文  E.H.シェパード 絵   石井桃子 訳 岩波書店 2016

クマのプーさんは、詩人で劇作家のA.A.ミルンが、小さい息子クリストファー・ロビンのぬいぐるみのおもちゃを登場させたお話で、イギリスで1926年と1928年に2冊の本『クマのプーさん』『ㇷ゚―横丁にたった家』が出版されました。日本でも、石井桃子氏の名訳で、1940年代に紹介され、多くの人に愛されてきました。

15話あるお話は、父親が息子に語ってきかせる形式をとっています。舞台は百町森で、小さな男の子クリストファー・ロビン、ちょっと頭が弱いけど愛らしいクマのプーさん、ㇷ゚ーさんの親友で優しくて少し気が弱い子ブタ、じめじめ愚痴っぽいロバのイーヨーなど、個性的で愉快な仲間たちが登場し、平和な毎日にちょっとした事件が起こります。
 例えば、「ㇷ゚―のはちみつとり」のお話では、プーさんが木の上のハチの巣からハチミツをとろうと、木に登って落っこちたり、風船で飛んだりと奮闘します。青い風船にぶらさがったプーさんが、青空にでている小さい黒雲に見えるか見えないかなど、大まじめにやりとりしている場面などは本当に愉快です。またプーが作る詩も、「青空にうかぶ 雲はたのし! ちいさい雲は いつも うたう・・・」といった具合で、なかなかのけっさくで楽しいです。

今回紹介するはじめてのプ―さんシリーズは、15話のうち3話「ㇷ゚―のはちみつとり」「ㇷ゚―あそびをはつめいする」「イーヨーのあたらしいうち」を、文字と絵を大きくし、すべてにルビをつけて、出版したものです。「クマのプーさんえほん」(→こちら)も出版されていますが、絵本版より小さい子でも楽しめる造りとなっています。このシリーズから読み始めて、絵本版、そして岩波少年文庫『クマのプーさん』(2000年)『ㇷ゚―横丁にたった家』(2000年)に進む子もいるかもしれません。本当に幼いころから、小学生、そして大人になってもプーさんの世界がそばにあるのは、とても幸せなことだと思います。

挿絵は、イギリス生まれのE.H.シェパードで、それぞれの仲間たちの愉快な個性がじんわりと伝わってきます。訳者あとがきでは、「ことに動物をユーモラスにかくことが得意で、ㇷ゚―を主題にした挿絵は、シェパード以外の絵が想像できないほど、その内容にくいこんで、子どもの本の挿絵に新しい境地をひらきました」と記されています。(『ㇷ゚―横丁にたった家』A.A.ミルン 文  E.H.シェパード絵   石井桃子訳 岩波書店 岩波少年文庫)

もともと語りかける形式のお話ですので、読み聞かせにもぴったりです。ぜひその子にあったシリーズの本を紹介してあげてください。

(作成 T.I)

2021年2月、3月の新刊から


2月、3月に出版された子どもの本を紹介します。一部、見落としていた2月以前に発行された新刊も含まれています。

2月末に銀座・教文館ナルニア国で久しぶりに新刊チェックをしてきました。また、横浜・日吉にあるともだち書店に注文し届けていただいたものもあります。それらを購入し読んで紹介文を作成しました。

 

その他の書籍に関しては銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

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【絵本】

『ぺこぺこ ペコリン』こがようこ/作 くさかみなこ/絵 講談社 2021/1/15 (出版社のサイト→こちら

とってもくいしんぼのペコリン。なんでもたべちゃいます。たべたものは、マラカスにたいこ、ラッパにピアノ。それをたべちゃうと、ペコリンは楽器に変身して楽しい音を出すのです。ちょっと不思議、でも楽しい、赤ちゃんから楽しめるおはなし絵本です。

 

 

 

 

 

 

 

『おばけのジョージ― こいぬをつれだす』ロバート・ブライト/作 こみやゆう/訳 好学社 2021/1/24 (出版社のサイト→こちら

心優しいおばけのジョージー、好学社から出ているシリーズは『おばけのジョージー こまどりをたすける』、『おばけのジョージー とびだしたけいとだま』、『おばけのジョージー メリーメリークリスマス』に続いて4冊目です。
ある日、散歩に連れ出してもらえない子犬マフィンを外に連れ出したジョージーと仲間たち。ところがマフィンはうさぎの巣穴にはまって動けなくなります。そこで猫のハーマンに飼い主のアイビスさんを呼んできてもらうのです。最後はホッとする結末になっています。

 

 

 

 

『なりきりマイケルのきかんしゃりょこう』ルイス・スロボドキン/作 こみやゆう/訳 出版ワークス 2021/1/25 (出版社のサイト→こちら

マイケルは、想像力豊かな男の子です。マイケルが居間で機関車ごっこを始めると、パパもお姉ちゃんも一緒になって汽車の旅を楽しんでくれます。マイケルは機関車の運転士にも、車掌にもなり、乗り換えバスの運転手にも、跳ね橋の開閉係にもなるのです。想像する力があれば、なんにでもなれる、そんな我が子の姿を温かく見守るパパの姿もほほえましい、そんな絵本です。

 

 

 

 

 

『うみがめのおじいさん』いとうひろし/作 講談社 2021/2/10 (出版社のサイト→こちら

いとうひろしさんの名作『おさるのまいにち』の名脇役うみがめのおじいさんのおはなしです。うみがめのおじいさんは波に揺られてうつらうつら。そうするとたくさんの思い出が波の間からあらわれてきます。そしてたくさんの思い出と一緒に心も体もどんどん海にとけていくように感じるのです。なんともゆったりとした、しずかなしずかな、それでいて気持ちが温かくなってくるお話です。

 

 

 

 

 

 

 

『ひびけわたしのうたごえ』カロライン・ウッドワード/文 ジュリー・モースタッド/絵 むらおかみえ/訳 福音館書店 2021/2/15 (出版社のサイト→こちら

 

カナダに住む6歳の女の子の物語です。学校へ行くために朝早く家を出て、スクールバスが停まる道路までの長い道のりを森を抜けて歩いていきます。まだ朝陽が昇らぬ前の暗い森の中を通り抜けながら、不安な気持ちを吹き飛ばすために女の子は歌を歌うのです。ブリティッシュ・コロンビア州のピース・リバー流域のセシル湖畔で少女時代を過ごした作者の実体験がもとになっています。絵本では夜明け前の通学路を描いていますが、人生における不安な時期と置き換えて読むことができます。どんなに困難な時でも前を向いて心に歌を、そうすればきっと希望がわいてくる。そんな応援歌になる絵本です。絵を描いたのは昨年10月に紹介した『サディ―がいるよ』(「本のこまど」記事→こちら)のジュリー・モースタッドです。

 

 

 

 

 

『おばあちゃんのたからもの』シモーナ・チラオロ/作 福本友美子/訳 光村教育図書 2021/2/20 (出版社のサイト→こちら

おばあちゃんの誕生日を祝うために家族が集まりました。孫娘がおばあちゃんの顔を覗き込んで「そんなにしわがあっていやじゃない?」と尋ねます。でもおばあちゃんは「ちっとも。だってしわは おばあちゃんのたからもの。だいじなおもいでがぜんぶしまってある、だいじなたからもの!」と答えるのです。孫娘は疑って、おばあちゃんの顔のしわを指さしながら「おばあちゃん、ここにはなにがしまっているの?」と次々に聞きます。おばあちゃんは幼い日の春の庭や、娘時代の海辺でのピクニック、おじいちゃんとの初めてのデートのことなど、孫娘に語っていくのです。老いていくことを前向きに捉えた心温まるおはなしです。

 

 

 

 

 

『めぐりめぐる』ジーニー・ベイカー/作 わだすなお/訳 ポリフォニープレス 2021/2 (出版社のサイト→こちら

渡り鳥のオオソリハシシギは南の住処オーストラリアやニュージーランドから飛び立ち、北の住処であるアラスカまで長い旅をします。その壮大な旅の様子を美しいコラージュで描き出しています。北へ飛ぶ旅の途中で立ち寄るのは中国大陸黄海近くの干潟です。急速な開発でどんどん干潟が失われていることもさりげなく描かれています。11000キロメートルをノンストップで飛びつづける鳥たちには「おおむかしからいききしていた しるしのないみちをたどる」能力があるようです。絵本の見開きに車いすの少年が描かれています。長い旅を終えて鳥たちが戻ってきた時には、少年は松葉杖になっていて、季節の移り変わりと時間の経過をさりげなく表現しています。

 

 

 

 

 

『まだまだ まだまだ』五味太郎/作 偕成社 2021/3(出版社のサイト→こちら

2021年2月6日にNHK、ETV特集で五味太郎さんが取り上げられました。(ETV特集「五味太郎はいかが?」→こちら
この番組の中で、制作過程を紹介していたのが、この絵本でした。
かけっこでゴールをしても、まだ走り続けたい男の子は町の中をどんどんかけていきます。
既成概念を常に突き破り、新しい挑戦を続ける五味さんらしい絵本です。人生の挑戦も「ここまで」と決めてしまうのではなく、自分らしく、自分で納得するまで走っていいんだよと、背中を押してくれるおはなしです。

 

 

 

 

 

 

【児童書】
*物語*

『町にきたヘラジカ』フィル・ストング/作 クルト・ヴィーゼ/絵 瀬田貞二/訳 徳間書店 2021/1/31(出版社のサイト→こちら

 

1969年に学習研究社から刊行された『町にきたヘラジカ』の訳文を、翻訳者である故・瀬田貞二さんのご遺族の了承を得て若干の見直しをした上で、この度徳間書店より再版されました。
アメリカ・ミネソタ州で実際にあった出来事を元にして書かれたおはなしで、厳しい寒波のやってきた冬のある日、仲良しの男の子イバールとワイノは、イバールの父さんの馬屋の中に大きなヘラジカを発見するのです。お腹を空かせて馬の飼い葉をたらふく食べてしまい、父さんや町の人たちは驚きますが、だれもこのヘラジカを撃ち殺すことはせず、町で飼うことにしたのでした。春になってようやくヘラジカは町から出ていきます。次の冬はいままでになく暖かい冬で、山にはヘラジカの餌がたくさんあるはずです。ところが、なんとヘラジカはまたやってきたのでした。ヘラジカを見て驚く町の人々の反応が楽しいおはなしです。文字も大きくルビがふってあるので、小学校低学年の子どもたちに手渡せる1冊です。

 

 

 

 

 

『見知らぬ友』マルセロ・ビルマヘール/作 宇野和美/訳 オーガフミヒロ/絵 福音館書店 2021/2/15(出版社のサイト→こちら

テストで数学の問題が解けない時、好きな女の子に告白したい時など人生のピンチになると現れる「見知らぬ友」。それは自分にしか見えない存在だけど、どうして現れるのか、わからない。そんな不思議なおはなしを皮切りに、思いがけない展開が待ち受けている10の短編が収められているYA向きの作品集です。
作者はアルゼンチンの作家で、物語の舞台は主に首都ブエノスアイレスです。「世界一強い男」のパートではこんな言葉があります。「八月のある寒い金曜日の」、北半球で暮らす私たちにはピンとこないのですが、南半球では真冬なのです。翻訳者の宇野さんは訳者あとがきに「地球の反対側のブエノスアイレスの街で繰り広げられる、肩の力が抜けたような、ちょっととぼけた、けれども、どこか温かな味わいのある物語を楽しんでいけたらうれしいです。」と記しています。そんな洒脱な作品をぜひ若い世代に手渡してあげてください。

 

 

 

 

 

『さくら村は大さわぎ』朽木祥/作 大社玲子/絵 小学館 2021/2/23 (出版社のサイト→こちら

さくら村には、昔からどこのうちでも子どもが生まれたら、さくらの苗木を一本、植える約束がありました。なので春になると村じゅうがさくらでいっぱいになるのです。大きなさくらはひいおじいちゃんやひいおばあちゃんが生まれた時のもの、小さなさくらは子どもたちが生まれた時のものです。
そんなさくら村の満開の四月から、夏と秋を過ごして冬へ、そして次の年の春にもう一本さくらの苗木が植えられるまで一年間の、小学校三年生のハナちゃんとお友達が繰り広げる楽しくも心温まる村の暮らしを描いたおはなしです。小学校低学年から中学年の子どもたちにおすすめです。

 

 

 

 

 

『ロザリンドの庭』エルサ・ベスコフ/作 菱木晃子/訳 植垣歩子/絵 あすなろ書房 2021/2/25 (出版社のサイト→こちら

北欧で読み継がれてきたエルサ・ベスコフの、不思議で美しい幼年童話です。6歳の男の子ラーシュ・エリックは、体が弱くいつもベッドに横になって壁紙に描かれた美しい花の絵を眺めていました。ラーシュは壁紙を見て「あの大きなふしぎな花は、いったいどこの国の花なんだろう?いつかその国をみてみたい」と思っていました。するとある日お母さんが仕事に出かけたあとに壁紙の中からノックする音が聞こえてくるではありませんか。そして壁紙の中から現れたロザリンドは壁紙の花々に水をやりはじめるのです。そのうちラーシュはロザリンドと一緒に壁紙の向こうのロザリンドの庭に行って遊ぶようになるのです。ところがお母さんにその話をしても信じてもらえません。次第に元気になってくるラーシュを見て、おかあさんは田舎に引っ越そうと考えるようになるのです。引っ越していった先は、ロザリンドの庭とそっくり。最後まで柔らかい光に包まれたような優しいファンタジーです。小学校中学年向けの童話です。

 

 

 

 

 

『あしたの幸福』いとうみく/作 松倉香子/絵 理論社 2021/2(出版社のサイト→こちら

中学生の雨音はパパと二人暮らしですが、来月にはパパは恋人の帆波さんと結婚することになっていました。ところが突然パパが交通事故で亡くなったしまいます。帆波さんと信号待ちをしている時に車に突っ込まれ、パパは帆波さんをかばうようにして即死し、帆波さんは助かったのです。
パパの葬儀のあと、雨音を誰が引き取るか、親族たちが話し合う中、彼女はパパと一緒に住んでいたマンションに残りたいと言い出します。そこへ突然現れたのが、雨音を産んだ後に家を出ていった母親。母である国吉京香さんはアスペルガーなのか、人との関わり方が苦手だったのです。それでも、今の家に住み続けるために、雨音は母親である京香さんと同居することにします。その上、お腹に赤ちゃんを宿しているパパの恋人帆波さんも一緒に住むことになるのです。そんな奇妙な関係の中で、少しずつ雨音は両親の愛情や離別のいきさつを知り、緩やかに母親のことを理解しようとしていきます。多感な少女の心の動きが、温かな視線で描かれていて、読後感は爽やかです。YA向けの作品です。

 

 

 

『ヤーガの走る家』ソフィー・アンダーソン/作 長友恵子/訳 小学館 2021/3/1(出版社のサイト→こちら

 

ロシア民話に出てくる「バーバ・ヤガー」をモチーフにした長編ファンタジーです。
「わたしの家には、鳥の尾がはえている。
 家は、年にニ、三度、真夜中にすっくと立ちあがり、猛スピードで走りだす。」というプロローグの最初の一行で、この物語の中にすーっと惹き込まれていきます。
この奇妙な家は、死者をなぐさめ、人生を祝福し、星へ返すための場所、つまり生と死の境界にあるのでした。そして少女マリンカは生と死の境界を守る「門」の番人になることを運命づけられていたのです。しかしマリンカは生きている人たちの世界で友だちが欲しいと願い、言いつけには従わずに自分の意思を押し通そうとします。マリンカのそんな気持ちは自己中心的に映りますが、さまざまな出会いから人を思いやる温かい気持ちを学び、落ち着いた気持ちで自分の将来を考えるようになっていきます。自分の望む未来を決してあきらめないマリンカの姿は思春期の子どもたちに力を与えてくれます。

 

 

 

 

*ノンフィクション*

『女の子はどう生きるか 教えて、上野先生!』上野千鶴子/著 岩波ジュニア新書 岩波書店 2021/1/20 (出版社のサイト→こちら

 

日本のジェンダーギャップは、世界経済フォーラム(WEF)の「世界ジェンダー・ギャップ報告書(Global Gender Gap Report)2020」によると世界153か国中121位。先進国の中でも最低です。
そんな女性が生きにくい社会で、どう生きていくか、認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク理事長で東大名誉教授の上野千鶴子さんが、気持ちがよいほどにすっぱりと答えてくれます。いつの間にか刷り込まれた「女子力」という呪縛から解き放たれ、一人の人間として自分らしく生きていくことを力強く応援してくれるのです。巻末にはネット上でも話題になった2019年度東京大学学部入学式祝辞が収められています。中高生のみなさんに男女問わず読んでほしい1冊です。

 

 

 

 

『SDGs時代の国際協力 アジアで共に学校をつくる』西村幹子・小野道子・井上儀子/著 岩波ジュニア新書 岩波書店 2021/2/19(出版社のサイト→こちら

 

三人の著者は、バングラデシュで長く学校づくりに取り組んできたアジアキリスト教教育基金(Asia Christian Education Fund=ACEF)に二十年以上携わってきました。過去30年の間に国際情勢は大きく変化し、国際協力のあり方も急速に進展しつつ変化しているというのです。
特にSDGs(持続可能な開発目標)の4番目にある「すべての人々への包摂的かつ公正な質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する」を実現するために、先進国が後進国へ施すというような「援助」ではなく、問題に共に立ち向かう「協働」の方向へ、変化しているのです。そうした国際協力の本質を見極め整理しつつ、これからの若い世代にも関心を持ってほしいと願ってこの本は書かれています。

 

 

 

 

【その他】

『昔話と子どもの空想』TCLブックレット 東京子ども図書館 2021/1/29 (出版社のサイト→こちら

東京子ども図書館の機関紙「こどもとしょかん」に掲載されたおはなしに関する評論の中から、バックナンバーの要求がもっとも多かった三篇が収録されたブックレットです。
「人間形成における空想の意味」(小川捷之)、「昔話と子どもの空想」(シャルロッテ・ビューラー 森本真実/訳・松岡享子/編)、「昔話における”先取り”の様式―子どもの文学としての昔話」(松岡享子)の三篇は、どれを読んでも心に深く響く内容です。子どもたちにおはなしを手渡す活動をしている児童担当であれば、ぜひ目を通しておきたいものです。

 

 

 

 

『草木鳥鳥文様』梨木香歩/文 ユカワアツコ/絵 長嶋有里枝/写真 福音館書店 2021/3/15(出版社のサイト→こちら

福音館書店から出版されているけれど、児童向けではなくかなり趣向を凝らした贅沢な大人の趣味本だなと、これは自分の宝物にして何度も眺めていたいと感じた1冊です。
梨木香歩さんの鳥をめぐるエッセイに、古い箪笥の引き出しの内側に描くという手法のユカワアツコさんの鳥の絵。そしてそれをさまざまな風景と共に切り取って撮影した長嶋有里枝さんの写真。
それがぴったりとはまっていて、読む者の心を静かな自然の懐へ返してくれます。「冬の林の中で」(ツグミ/シバ属)、「水上で恋して」(カイツブリ/コウホネ)、「初夏の始まりの知らせ」(アオバズク/ケヤキ)・・・鳥と植物を組み合わせた全36篇のエッセイが収められています。

 

 

 

 

『科学絵本の世界100 学びをもっと楽しくする』別冊太陽 平凡社 2021/3/15(出版社のサイト→こちら

 

子どもの好奇心の扉を開く科学絵本100冊が見開き2ページ、カラーでたっぷりと紹介されています。
どの絵本も、子どもたちにすぐに紹介したくなるものばかり。
このままレファレンスの資料としても重宝しそうです。

 

 

 

 

(作成K・J)

基本図書を読む36『ムギと王さま』『天国を出ていく』エリナー・ファージョン(再掲載)


 2017年3月26日に公開した記事の再掲載です。

36回、3年間で36冊の古典的ではあるものの、今の子どもたちに届けたい作品の解説をしました。

今の子どもたち向けに挿絵を漫画風に変えて、読みやすく抄訳したものも多く出ています。発達段階に応じてそうした本を手渡すことも必要ですが、図書館司書は比較のためにも完訳を読んでおいてほしいと願っています。そして、子どもたちの読解力の発達に応じて、完訳を手渡してほしいと思います。

「基本図書を読む」の再掲載は、今月で終了します。サイト上では繰り返し読むことができますので、ぜひ今後もよろしくお願いします。

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36回目の「基本図書を読む」は、エドワード朝のイギリスで活躍した女性作家エリナ―・ファージョンの『ムギと王さま 本の小べや1』、『天国を出ていく 本の小べや2』(共に石井桃子/訳 岩波書店 岩波少年文庫)です。これらは、ファージョンが77歳の時(1955年)に、それまで書いた作品の中から27編の短編を自ら選んで一冊の本、『THE LITTLE BOOKROOM』(邦題 『本の小部屋』)として出版したものです。

 

『ムギと王さま 本の小べや1』エリナー・ファージョン/作 石井桃子/訳 岩波少年文庫 岩波書店 2001

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
『天国を出ていく 本の小べや2』エリナー・ファージョン/作 石井桃子/訳 岩波少年文庫 岩波書店 2001

 

 

 

 

 

 

 

 

ファージョン作品集3『ムギと王さま』(石井桃子/訳 岩波書店 1971)では、原作と同じ27編が収められていますが、岩波少年文庫として出版される時に、14編と13編に分けられました。

 『ムギと王さま ファージョン作品集3』エリナ―・ファージョン/作 石井桃子/訳 岩波書店 1971

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本の表紙画は、『チムとゆうかんなせんちょうさん』(瀬田貞二/訳 福音館書店)、『時計つくりのジョニー』(あべきみこ/訳 こぐま社)などでおなじみのエドワード・アーディゾーニで、たくさんの本に囲まれて、読書に没頭する子どもの姿が描かれています。

「作者まえがき」には、“わたくしが子どものころに住んでいた家には、わたくしたちが「本の小部屋」とよんでいた部屋がありました。なるほど、その家の部屋は、どの部屋も、本の部屋といえたかもしれません。”(『ムギと王さま』p3)と、子ども部屋も、父の書斎も、食堂も居間も、寝室も本であふれていたことが書かれています。

 そして「本の小部屋」について、次のように語っています。“わたくしに魔法のまどをあけてみせてくれたのは、この部屋です。そこのまどから、わたくしは、じぶんの生きる世界や時代とはちがった、またべつの世界や時代をのぞきました。詩や散文、事実や夢に満ちている世界でした。その部屋には、古い劇や歴史や、古いロマンスがありました。迷信や、伝説や、またわたくしたちが「文学のこっとう品」とよぶものがありました。”(『ムギと王さま』p4~5)

そうしたものに夢中になった子ども時代があったからこそ、ファージョンは詩や、子どものための創作物語を書くようになっていくのです。そして、77歳で出版した『THE LITTLE BOOKROOM』で、1956年にイギリスで出版された最もすぐれた子どもの本に贈られるカーネギー賞と、初の国際アンデルセン賞を受賞しました。

イギリス児童文学研究者の中野節子らは、『作品を読んで考えるイギリス児童文学講座4 花ひらくファンタジー』(中野節子・水井雅子・吉井紀子/著 JULA出版局 2012)の中で、“「イギリスのアンデルセン」といわれたエリナ―の特徴をよく伝える創作妖精物語の傑作が収められている。”と、この作品について評しています。

 

表題作の「ムギと王さま」は、お人よしの少年ウィリーがエジプトのラー王との不思議な問答を語ってくれるというお話です。エジプト王の持つ財宝よりも自分の父親が丹精込めて作ったムギのほうが金色だと信じるウィリーの純粋な気持ちと、空想の中で語られる問答に思わず引き込まれます。

「貧しい島の奇跡」では、貧しい島を訪問してくれる女王のために大切なバラの花を犠牲にして水たまりを埋めたロイスの心に報いるように、女王亡き後に起こる奇跡を描いています。純真な子どものひたむきさと、それが身分の高い人の気持ちを動かすという物語は、静かな感動がすっと心にしみわたりました。

ひいおばあちゃんのそのまたひいおばあちゃんの時代から代々受け継がれてきた子守歌を、百十歳のひいおばあちゃんのために歌ってあげる十歳のひ孫グリゼルダを描く「《ねんねはおどる》」は、健気な少女の姿に心を打たれます。

「サン・フェアリー・アン」というお話もまた印象的です。第二次世界大戦でリトル・エグハム村に疎開してきたキャシーはずっと心を閉ざしていました。それは大事にしていた人形のサン・フェアリー・アンを、いたずらっ子によって池の中に投げ込まれてしまったからでした。この人形は、第一次世界大戦前にフランスで作られ代々女の子に受け継がれていたもので、終戦後、フランスに従軍していたキャシーの父親が廃墟の中から拾って娘に渡したものだったのです。心を閉ざしているキャシーを気にしていたレイン先生の奥さんは、ある時干上がった池が不衛生なのを見て、池の掃除をします。最後に出てきたのがサン・フェアリー・アンでした。レイン先生の奥さんはその人形を見て驚きます。それこそ、自分がフランスにいた時、母から譲られ大切にしていた人形だったからです。幾世代も女の子たちの手を経て大切にされてきた人形が、キャシーのその後の人生を変えていくこのお話も、心を動かします。 

 27の短い物語は、どれも不思議で面白く、それぞれに歌うようなことばで、ファージョンが作り上げた想像の世界に私たちを誘ってくれます。この歌うようなことば、詩のようなことばこそファージョンの魅力なのでしょう。

『ファージョン自伝 わたしの子供時代』(エリナ―・ファージョン/著 中野節子/監訳 広岡弓子・原山美樹子/訳 西村書店 2000)によると、ファージョンの子ども時代、さまざまな生活の場面に歌があったと書かれています。ゲームの時に子どもたちがポーズを決めるときも、「はい、ポーズ」というメロディを母親がピアノで弾いていたというのです。(第5章 1890年代の子供部屋 p259)

この自伝にはあちこちに、遊びの中で歌われていたメロディが採譜されて掲載されています。

 エリナ―・ファージョンは1881年、ロンドンに生まれます。父親は貧しい生まれのユダヤ系イギリス人でしたが、ニュージーランドで新聞を発行する仕事につき、その後ベストセラー作家となってイギリスに戻ってきます。母親は、その作品愛読していたというアメリカの俳優ジョーゼフ・ジェファソンの娘マーガレットです。ふたりの間には、兄ハリー、そしてエリナ―、弟ジョーゼフ、ハーバート(ほかに夭折したエリナ―の兄チャールズもいた)の子どもたちがいましたが、兄弟は学校には通うことなく育ちました。ファージョンが物語のまえがきに書いた「本の小部屋」で、古今東西のさまざまな本に出会うことによって、さまざまな知識を得、想像の世界を広げていったのです。

この自伝は1935年にイギリスで出版されました。克明に自分たちの両親のこと、そして子ども時代のことが記されており、その中にはエリナ―・ファージョンの作品の魅力を理解するためのヒントがたくさん散りばめられています。

 ファージョンの作品は、一部では古臭いと評する人もいるようですが、想像の翼を広げて物語の世界に深く入り込んでいくことを好む子どもたちには、今でも手渡すことの出来る作品です。また、歌うようなことばで綴られた物語は、耳から聴いて心地よく語りのテキストとしておすすめです。

 

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2014年4月より毎月1回長く読み継がれてきた児童文学を紹介してきた「基本図書を読む」の連載は、36回をもって最終回とします。

第1回目の冒頭には、もう一人の執筆者T・S(のちにT・I)が
“「何か楽しい本ない?」と聞かれたとき、ブックトークを作成するとき、新刊図書の購入を検討するときなど、業務を行ううえで、本を選ぶ場面はたくさんあります。資料を選択するためには、その資料を評価しなければならず、資料を選ぶ判断基準が必要になってきます。判断基準をつくるには、とにかくたくさん本を読むことですが、とりわけ基本図書とよばれている本を読むことは、大きな力となってくれます。

基本図書とは、長い間子どもに愛され、読み継がれてきた本を言います。時の試練を経ても色あせることがない、読書の喜びを与えてくれる本で、図書館の蔵書の核となっています。基本図書を読むことで、子どもたちが本質的にどんなものを求めているのか、質の高い作品とはどのようなものなのか、図書館員としてどのようなものを手渡していくべきかが、自ずとみえてきます。

H26年度「本のこまど」では、「基本図書を読む」というテーマで、毎月1冊の本を紹介する予定です。大人になっても楽しめる作品ばかりですが、子どもたちはどんなふうに読んでいるのだろうという視点も持って、味わってみてください。12冊の中から、みなさまにとっても、心に残る大切な1冊が見つかり、仕事をしていくうえで力になってくれればと思っています。”

と記しました。

当初、1年だけで終わる予定だった連載を3年続けて来られたのは、私たちが子ども時代に読んだ本が、「子どもに本を手渡す」という今の仕事を支えてくれているという思いがあったからです。3年間で36冊を紹介できたことは、私たちにとっても喜びです。

この度、共に記事を書いてきた室員が産休に入ったこともあり、連載を終わることにしました。長い間、読んでくださりありがとうございました。

過去の記事はこちらから遡って読むことが出来ます。→「基本図書を読む

(作成K・J)

おすすめの幼年童話47『ミリー・モリ―・マンデーのおはなし』ジョイス・L・ブレスリー作


今回は、小さな女の子の楽しい毎日を描いた作品を紹介します。

『ミリー・モリ―・マンデーのおはなし』ジョイス・L・ブレスリー作 上條由美子やく 菊池恭子え 福音館書店 1991

主人公の女の子の名前は、ミリセント・マーガレット・アマンダと言いましたが、とても長かったので、みんなはミリー・モリ―・マンデーと短く縮めて呼んでいました。ミリー・モリ―・マンデーは、おとうさんと、おかあさんと、おじいちゃんと、おばあちゃんと、おじさんと、おばさんといっしょに、草ぶき屋根の白いきれいな家にすんでいました。この本には、そんなミリー・モリ―・マンデーのささやかな毎日のお話が、12話おさめられています。

おつかいを頼まれたり、おままごとをしたりといった日常のお話や、パーティーやキャンプなどちょっとしたイベントのお話もあります。ミリー・モリ―・マンデーの家の人たちは、人を喜ばせるのが大好きで、本人には内緒で屋根裏の物置をミリー・モリ―・マンデーの部屋に整えるなど、嬉しいことを創り出します。一話ずつ読んでいくと、そんな人たちに囲まれたミリー・モリ―・マンデーの毎日を一緒に楽しむことができます。また読み進めていくと、村の人たちのこともわかるようになってきて、より親しみがわくでしょう。

冒頭に舞台となる村の地図があったり、各話のはじめには大きな扉絵があったりと、わくわくしながら読み進められる本の造りになっています。挿絵も豊富にあり、ミリー・モリ―・マンデーたちの生活の様子が伝わってきます。

作者ジョイス・L・ブレスリーは1896年生まれのイギリスの作家です。『ミリー・モリ―・マンデーのおはなし』は、90年余り前に作られたお話ですが、読み継がれ、また、ストーリーテリングでも語りつがれています。姉妹編に『ミリーモリ―マンデーとともだち』(2014)があり、こちらには10話収められています。時が経っても変わらず、心を躍らせながら読むことができる物語、ぜひおすすめしてみてください。さて、次はどんな嬉しいことが起こるでしょうか!

(作成 T.I)

 

 

 

 

基本図書を読む35『西遊記』呉承恩(再掲載)


2017年3月2日に公開した記事の再掲載です。本文中に「今年1月に出版された」と文言が出てきますが、「2017年1月に出版された」というように読み替えてください。

『西遊記』や『三国志』など中国の古典は何度もブームを繰り返しています。コミックス版も多種出ています。年齢に応じて手渡し、最終的には重厚な基本図書を手渡せるいいなと思います。

 

 

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今月の基本図書は、呉承恩作『西遊記』です。岩波少年文庫(伊藤貴麿/訳 1955)と、読み比べた上で、君島久子が翻訳した福音館書店の本で紹介します。(今回は福音館文庫で読みました)

『西遊記(上)』呉承恩/作 君島久子/訳 瀬川康男/画 福音館書店 1975

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

『西遊記(下)』呉承恩/作 君島久子/訳 瀬川康男/画 福音館書店 1976

 

 

 

 

 

 

 

 

花果山の頂きにあった仙石から孵った石猿は、知恵も力も優れていたので、猿の群れの王座につき美猴王と名乗るようになります。そうやって五百年が経ったころ、仙人になろうとして斉天大聖となり、孫悟空という名前をいただきます。しかし仙力が強いことをよいことにやりたい放題。天宮を大いに騒がせ、お釈迦様に五行山の下に閉じ込められます。そのまた五百年後に縁があって三蔵法師に出会い、取経の旅に猪八戒、沙悟浄とともに同行することになります。物語は、西天目指して幾山河越えていく4人に、次々と困難が襲ってくる様が描かれています。これでもか、これでもかと次々襲いかかる妖怪変化の群れを、悟空たちが知恵と力を使って倒し、八十一の災厄艱難を切り抜け、ついには目的地にたどり着き、無事に経典をいただくまでが、百回の物語にまとめられています。

如意金箍棒を片手に觔斗雲に乗って、ひとっ飛びで十万八千里を越えることの出来る孫悟空の姿は、本だけではなく、映画やアニメーション、ゲームにもなっていて、知らない人はいないでしょう。妖術あり、心躍る冒険あり、唐の皇帝太宗や仏典を求めてインドへ旅をした玄奘など歴史上の人物も登場する壮大なファンタジー物語は、読む人の心を惹きつける魅力があります。乱暴者の孫悟空が健気にも三蔵を必死で守る姿や、食い意地がはって欲得に溺れて道を踏み外すけれども愛嬌のある猪八戒、一途に三蔵に仕える沙悟浄と、三蔵法師を守る三人の個性豊かなお供にも親しみがわきます。

今年1月に出版された『子どもの本のよあけー瀬田貞二伝』(荒木田隆子/著 福音館書店)には、瀬田貞二さんがインタビューに答えて「ぼくは『西遊記』って小学校三年のとき読んで、それでそれ以来なんべん読んだかわからないです。大好きなもののひとつですね」と答えている箇所があります。(『子どもの本のよあけー瀬田貞二伝』p323)

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

『王さまと九人のきょうだい』(君島久子/訳 赤羽末吉/画 岩波書店 1969)という中国昔話絵本の翻訳でも知られる君島久子さんによる福音館書店版『西遊記』は、声に出して読むとますます滑らかに物語が進み、その面白さを倍増させます。

たとえば、「なんじは妖怪か魔物か。我をたぶらかしにやって来たのか。我は公明正大の僧、大唐の勅命を奉じて、西天へ経を求めに行く者。三人の弟子があり、いずれも降竜伏虎の豪傑、妖魔を除く壮士。かれらに見つかれば、その身はみじんに砕かれるであろうぞ。」(第三十七回)、「なんだと。知らざあ言ってきかせよう。我々は、東土大唐より勅命にて、西天へ取経に行く聖僧の弟子だ。(中略)耳をそろえてそっくり返せば、命だけはかんべんしてやる」(第四十七回)という言葉は、目で追って読むよりも、実際に声に出して読んでみると、味わい深いものがあります。

 

 

 

 

 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

 
福音館書店版は、「現存する「西遊記」のテキストとして最も古いものの一つ、明代(14~17世紀)に刊行された金陵世徳堂本を底本として、清代(17世紀~20世紀)に出された六種の刻本により校訂を行ない、北京人民文学出版社より刊行した「西遊記」に拠って訳したもの」(「はじめに」より)をもとにして訳出されています。
 

あとがきには、「作者は呉承恩(1500年~1583年)といっても、明代や清代の古い「西遊記」には作者の署名がなく、呉承恩が書いたという確かな証拠があるわけではありません。あるいは、この物語をまとめ、すぐれた文学作品に仕上げたのが呉承恩であったのかも知れません。」(「訳者あとがき」より)として、南宋時代に著された「大唐三蔵取経詩話」以降、多くの民衆に語り継がれ、「西遊記」という壮大なファンタジーになっていったのではと記されています。

また、福音館書店版は瀬川康男さんの挿し絵がとても目を引きます。この作品に取り掛かっている時、瀬田貞二さんと一緒に宋や明の時代の絵入り古版本を見ており、そうした絵の伝統も受け継いだ作品として仕上がっていると、先の『子どもの本のよあけ』にも記されています。(『子どもの本のよあけ』p324)

 

 

 

君島久子さんは、エッセイ『「王さまと九人の兄弟」の世界』(岩波書店 2009)の中で、孫悟空が刀や斧で切りつけられても死なず、八卦炉の中で錬成されても無事でるのは『王さまと九人のきょうだい』に出てくる「きってくれ」「ぶってくれ」などとの相似しており、天上の話から地獄の音まで聞き分ける聴力はリー族に伝わる「五人兄弟」に出てくる「千里耳」と相似しているなど、中国のさまざまな民族に伝わる多兄弟の昔話との関連を、「このように『西遊記』では、孫悟空が一人で、「九人兄弟」や「十人兄弟」のあらゆる超能力をそなえており、三面六臂の活躍を演じています。どんなに恐ろしく強大な相手にも負けないスーパーヒーロー孫悟空と、「九人兄弟」や「十人兄弟」には、どちらにも、大きな権力に屈しまいとする民衆の願いがこめられているように思われてなりません。」(p105「『西遊記』孫悟空の超能力」)と述べています。

三蔵法師のモデルとなった玄奘(602年~664年)は、隋王朝から唐王朝に代わった629年、太宗の時代に、仏教の研究のために原典を求めようと、西域を抜け、西トルキスタン、サマルカンドを通って、インドのガンダーラに到着、ナーランダ学院で仏典の研究を行い、645年に長安に戻ってきます。その後、「大唐西域記」を著しますが、彼の壮挙はその後広く語り伝えられるようになります。宋代(10世紀~13世紀)にすでに語り物として流行し、「大唐三蔵取経詩話」が書かれていたと、『西遊記』の「はじめに」にも記されています。元の時代には、「西遊記」として芝居として演じられるようになり、物語が次第に膨らんでいったようです。君島久子さんが書いているように、王朝が次々に変わっていく中国の歴史に翻弄される民衆が、語り伝えながら逞しい想像力で練り上げていった物語であり、だからこそ読む者を惹きつけるのだと思います。

今の子どもたちは自分で読むのは難しいかもしれませんが、ひとつひとつの回は短いので、ご家庭でぜひ読み聞かせをしてほしいと思います。「さて、次はどのようになるのでしょうか。次回をお楽しみに。」という言葉に促されて、きっと楽しみに聞くことでしょう。

(作成K・J) 

2020年12月、2021年1月の新刊から


昨年12月と今年に入ってからに出版された子どもの本を紹介いたします。
一部、見落としていた12月以前に発行された新刊も含まれます。

今回は、横浜・日吉のともだち書店に注文していた本の中からの紹介です。なお、2月上旬にはまた教文館ナルニア国で選書して、情報をお届けできるようにいたします。

 

その他の書籍に関しては銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

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【絵本】

『100歳ランナーの物語 夢をあきらめなかったファウジャ』シムラン・ジート・シング/文 バルジンダー・カウル/絵 金哲彦/監修 おおつかのりこ/訳 西村書店 2020/12/12(出版社のサイト→こちら

幼少期に身体が弱く5歳になるまで歩けなかったファウジャが100歳でトロント・ウォーターマラソンを完走するまでのお話です。ファウジャは、インドのパンジャブ地方の出身。シク教の信徒で髪の毛を切らずターバンを巻いています。
5歳で歩けるようになりましたが、当時遠方の学校に通う体力はなく、地元で畑仕事をしながら身体を鍛え、大人になって家族にも恵まれました。子どもたちが独立し、妻にも先立たれた81歳の時、息子家族が住むロンドンへ移り住みます。そこでマラソンに出会い、走るようになります。
89歳でロンドンマラソンを完走した後も、次々に記録を塗り替えていきますが、そこには子ども時代にいつも母から言われていた言葉がありました。「あなたのことはあなたがよく知っている。あなたにできることもね。今日は自分の力を出しきれるかしら?」いくつになっても挑戦することの大切さを、また自分を信じることの強さを教えてくれる伝記絵本です。

 

 

 

 

『よんひゃくまんさいのびわこさん』梨木香歩/作 小沢さかえ/絵 理論社 2020/12(出版社のサイト→こちら

2017年から続くNHKスペシャル「列島誕生ジオ・ジャパン」という番組があります。日本列島の成り立ちがよくわかる大変優れた番組でした。
この絵本は、その列島誕生の過程で生まれた琵琶湖の成り立ちをファンタジーとして描いています。
あとがきには、「日本列島がユーラシア大陸から分離しはじめたのは今から約2000万年前。当時の東アジアの推測図を見ていると、日本列島はあちこち沈んだり現れたり、赤ん坊が母親の胎内の羊水のなかで、ちゃぽんちゃぽんと浮かんだり沈んだりを繰り返しているかのように見えます。(中略)そして列島の真ん中、現在の伊賀辺りで琵琶湖初期の古琵琶湖とされる、大山田湖が現れます。それが400万年前から360万年前まで。その後320万年前、北方向で阿山湖、さらに甲賀湖が、240万年前頃から180万年前頃前までは蒲生野の辺りで蒲生沼沢地が、少しずつ移動するかのように出現します。それから100万年ほど前から現在の琵琶湖の堅田地域を中心とし、現在の琵琶湖の位置、大きさへと近づいていきます。」とあります。こうした悠久の時の流れ、大地の記憶が梨木さんによってファンタジーとなり、琵琶湖畔で育った画家小沢さんの幻想的で美しい絵でそれを表現しています。

 

 

 

 

【読み物】

『くもとり山のイノシシびょういん 7つのおはなし』かこさとし/文 かこさとし・なかじまかめい/絵 福音館書店 2021/1/10(出版社のサイト→こちら

 

2018年に亡くなられたかこさとしさんが、晩年福音館書店の月刊誌「母の友」2011年11月~2019年7月号までに発表された創作童話をまとめたものです。「母の友」2019年4月号の「編集だより」(p85)にこのようなことが書かれています。
「今月は昨年五月に亡くなった絵本作家、加古里子さんの未発表童話をお届けしました。この作品は昨年、加古さんのお嬢さん、鈴木万里さんが遺稿の中から”発見”してくれたものです。加古さんは2011年以降何度か「母の友」の依頼に応え、「一日一話」に「イノシシ病院」の物語を寄せてくれました。その後独自に三作、書きためておいてくださったようなのです。「完成原稿まで描いていたというのが驚きで、加古本人もイノシシ先生のことが気に入って、筆がのったんじゃないでしょうか」(鈴木さん)。亡き加古さんから「母の友」への贈り物。涙が出る気持ちでありました。三作のうち、残りの二話は今年度のどこかの号で掲載出来たらと思っています。」
「母の友」では見開き2ページに2枚のかこさとしさんの絵がありますが、この度子どもが自分で読めるように漢字をひらがなに開き、文字を大きくしたために一話8ページになっています。そこでなかじまかめいさんによるイラストが加わりました。どれもイノシシ先生がかこさとしさんご本人に見えてくるような優しく温かいお話です。文字を読み始めた子どもたちにぜひ読んでほしいと思います。

 

 

 

 

【その他】

『音楽の肖像 堀内誠一×谷川俊太郎』堀内誠一・谷川俊太郎/著 小学館 2020/11/4(第2刷2021/1/17)(出版社のサイト→こちら

 

児童向けではないかもしれませんが、YA世代には楽しめる1冊です。2020年12月5日から2021年1月24日まで荒川区立図書館ゆいの森あらかわで堀内誠一展が開催されていました。『音楽の肖像』の原画も何枚か展示されていました。
バッハ、モーツァルト、ベートーヴェンからストラヴィンスキー、エリック・サティまで堀内誠一が遺した28人の作曲家の肖像画とエッセイに加えて、谷川俊太郎が32編の詩をつけた芸術を愛する人にはたまらない1冊です。

 

 

 

 

『学校司書おすすめ!小学校学年別知識読みもの240』福岡淳子・金澤磨樹子/編 少年写真新聞社 2020/11/20(出版社のサイト→こちら

 

知識の本を、小学校の学年別に紹介したブックリストです。ブックトークや授業で使う資料として、また団体貸出の選書に役立つことでしょう。各学年ごとに子どもたちの語彙力、読解力の発達に応じためあてが書かれており、とてもわかりやすい選書基準が示されています。また、コラム記事も充実しており、学校図書館だけでなく、公共図書館の司書にとっても、心強い味方になると思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

『デジタル・シティズンシップ コンピュータ1人1台時代の善き使い手をめざす学び』坂本旬・芳賀高洋・豊福晋平・今度珠美・林一真/著 大月書店 2020/12/15(出版社のサイト→こちら

新型コロナウイルス感染症によるパンデミックは、これまで遅々として進まなかった我が国のデジタル教育を大きく変えていくことになりました。これまで子どもたちにデジタルデバイスを手渡す際には、抑制的な「情報モラル」を教えることが主流でした。
しかし、これからの世の中はデジタルを賢く使いこなす時代です。子どもたちが主体的に関われるデジタル・シティズンシップが必要になるとこの本では説いています。デジタル・シティズンシップとは、デジタル世界で生活し、学習し、働くことの権利、責任、機会を理解し、安全で合法的、倫理的な方法で行動できるためのポジティブな捉え方なのです。GIGAスクール構想が前倒しで着手されることになるでしょう。私たち司書もこの視点をもっていたいと思います。

 

 

 

 

『学校が「とまった」日 ウィズ・コロナの学びを支える人々の挑戦』中原淳/監修 田中智輝・村松灯・高崎美佐/編著 東洋館出版 2021/2/1(出版社のサイト→こちら

昨年3月に、なんの根拠も議論もなく、いきなり日本中の学校での学びが止まりました。政府の一方的な通達により、小学校、中学校、高校が臨時休校になり、学びの中断が起きたのでした。
その時、生徒には、保護者には、家庭には、何が起こったのか。そして学校では、どのような意思決定がなされ、教員は何を思っていたのか。NPOなどの学校でもなく、家庭でもない機関は、どのような教育支援を行ったのかを、まとめたものです。
中心にいたのは立教大学経営学部教授の中原淳さん。SNSを通して、どうしたら学びを止めずにいられるのか、すぐに共同研究プロジェクトを立ち上げ、発信していました。私もそのグループの情報を活用し、TS室のeラーニング作成に必要なノウハウを得ることが出来ました。図書館も閉館していた昨年春の緊急事態の中で、何が出来たのか、出来なかったのか、再び学びを止めないために、すべての子どもに関わる人に読んでほしい1冊です。

 

 

(作成K・J)

おすすめの幼年童話46『かさをかしてあげたあひるさん』村山壽子作


今回は、70年以上前に書かれながら、今でも変わらず子どもたちの心に寄り添ってくれる村山壽子氏のおはなし集を紹介します。

『かさをかしてあげたあひるさん 村山壽子おはなし集』 村山壽子作 山口マオ絵 福音館書店 2010

村山壽子氏は、1903年に生まれ、大正時代末期から当時発行されていた絵雑誌「子供之友」に、詩や童話を描いていました。その作品は、登場するものが人間ではなく、動物であったり野菜であったりすることが特徴で、子どもにとって身近なものや親しいものが擬人化されて、不思議だけれど共感できるお話が展開されています。

例えば、表題作の「かさをかしてあげたあひるさん」に登場するのは、あひるさんとにわとりさんです。ある雨の日、お友だちのにわとりさんに傘をかしてと頼まれたあひるさんですが、家には一本しかありません。傘を貸してあげられないと涙をこぼすあひるさんをみて、お母さんは、一本しかない傘を貸してもよいと言ってくれるのです。あひるさんが大喜びで傘を貸すと、後日にわとりさんはお礼に卵をもってきてくれ、お母さんはその卵でおいしいオムレツを焼いてくれるのです。
他愛のないお話ですが、貸してあげられなくて悲しい気持ちや、わかってもらえて嬉しい気持ち、そして最後は美味しそうなオムレツの登場と、子どもの気持ちにぴったりと寄り添い、喜ばせてくれるお話です。

この本には全部で17の童話が紹介されていますが、子どもの心をよく知っている作者だからこそ描ける、明るくユーモアのある作品ばかりです。リズム感のある、声に出してよみたくなる文章です。幼い子でも無理なく読めますし、読み聞かせにも向いています。(仮名遣いは著作権承継者の了承を得て、現代仮名遣いにし、表記の一部も改められています。)

挿絵は、山口マオ氏によるも版画による元気な絵です。村山壽子さんの作品の挿絵は、夫であり、童話作家、前衛美術家として活躍していた村山知義氏によるものが有名ですが、山口マオ氏の挿絵も、カラリと明るいお話の雰囲気が伝わってきて、現代の子どもたちにも親しみやすいものとなっています。JULA出版局からは、村山知義氏の挿絵で読める『村山壽子氏作品集 全3巻』(村山壽子作 村山知義絵 村山壽子作品集編集委員会編 JULA出版局)が出版されています。こちらの作品集では、童話だけでなく、童謡や絵ばなしも紹介されています。どんどんお話を読みたい!という子であれば、ぜひこちらをおすすめしてみてください。

(作成 T.I)

訃報 安野光雅さん


国際アンデルセン賞画家賞を受賞した絵本作家の安野光雅さんが、先月12月24日に亡くなられたというニュースが本日午後流れました。94歳でした。

夕方の各局のニュースでも報道されていましたし、ネットニュースでも流れていましたので、すでにご存知の方も多いことでしょう。(朝日新聞ネットニュース→こちら

 

安野光雅さんの代表作『旅の絵本』(福音館書店 1977年)(シリーズは全9冊→こちら

 

 

 

 

 

また近年も朝日出版社から「安野光雅の絵で読む世界の少年少女文学」シリーズ(2015~2019)(→こちら)など精力的な仕事を続けてこられました。

「本のこまど」での安野光雅さん新刊紹介記事
『森のプレゼント』ローラ・インガルス・ワイルダー/作 安野光雅/絵・訳 朝日出版社 2015/11/20 (→こちら

『旅の絵本Ⅸ』安野光雅/作 福音館書店 2018/6/15『かんがえる子ども』安野光雅/作 福音館書店 2018/6/(→こちら

『赤毛のアン』ルーシイ=モード=モンゴメリ/作 岸田衿子/訳 安野光雅/絵 朝日出版社 2018/6/20(→こちら

*『メアリ・ポピンズ』トラバース/作 岸田衿子/訳 安野光雅/絵 朝日出版社 2019/1/25 (→こちら

『かずくらべ』西内久典/文 安野光雅/絵 福音館書店 2019/4/15 (→こちら

*『銀の匙』中勘助/作 安野光雅/絵 朝日出版社 2019/9/6 (→こちら

 

その他の安野光雅さんの著作(児童向けのみ)→こちら(NDLサーチより)

 

2018年11月1日に日本出版クラブで行われたJBBY主催の角野栄子さんの国際アンデルセン賞作家賞受賞祝賀会に安野光雅さんも参加されていて、その時はお元気そうでした。

たくさんの素晴らしい子どもの本を届けてくださったことに、心から感謝申し上げます。心より哀悼の誠を捧げます。

 

(作成K・J)

 

 

2020年11月、12月の新刊から(その2)


11月、12月に出版された絵本と読み物を追加で紹介いたします。(12月29日に公開した「2020年11月、12月の新刊から(その1)」は→こちら
一部、見落としていた11月以前に発行された新刊も含まれます。

今回は12月29日に、約2か月ぶりに銀座教文館ナルニア国へ行って選書をしてきました。年末年始に、読んで記事にしています。また、1月11日には横浜・日吉のともだち書店に注文していた本が届きました。こちらも急いで読みました。

 

その他の書籍に関しては銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

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【絵本】

『ねこのオーランドー 3びきのグレイス』キャスリーン・ヘイル/作 こみやゆう/訳 好学社 2020/11/6 (出版社サイト→こちら

 

クリスマス前後のねこのオーランドー一家の物語です。クリスマスの買い物に出かけたのに、こねこのティンクルは買い物そっちのけで雪遊びをし家族へのプレゼントを買いそびれます。そこでクリスマスにもらった手品セットの中の「のろいの水」スプレーを香水だと思ってお母さんのグレイスの枕元に置きます。目覚めたグレイスが香水だと思って使うと、なんとグレイスが3びきになってしまったのです。そこでオーランドーたちは、天の川を越えて、しし座のレオが門番をするサンタクロースの家まで、解決方法を聞きに行くのでした。1965年に原作は出版されました。なんとも不思議なファンタジーに仕上がっています。

 

 

 

 

『氷上カーニバル』あべ弘士/作 のら書店 2020/11/10 (出版社サイト→こちら

 

氷上カーニバルは、冬の終わりに開かれるお祭り。花火が上がる中、みんな思い思いの仮装して公園の中の凍った池に集まり、一緒に踊って夜を過ごします。実際に、北海道札幌市の中島公園内の凍った池で大正時代の終わりから昭和にかけて行われていた冬のお祭りで、児童文学作家の神沢利子さんが子ども時代に参加して心に深い感動を覚え、『いないいないばあや』にも書いているとのこと。そのお祭りをテーマに作られたカラフルで楽しい絵本です。新型コロナウイルス感染拡大の第3波が襲う中だからこそ、子どもたちにはこのような心が楽しくなるようなお話を届けたいと思います。

 

 

 

 

『こたつ』麻生知子/作 福音館書店 2020/11/15(出版社サイト→こちら

 

部屋の真ん中に置かれたこたつを上から俯瞰する形で、大みそかから元日までの家族の様子を描く絵本です。おばあちゃんと両親、そして孫のこうたくん、そして猫一匹の心温まる一家の団らんの様子をのぞき見しているうちに、こちらまで懐かしい気持ちにさせられます。飲み物の描き方だけが横向き(倒れているように見える)なのですが、飲み物が何であるか伝えるための苦肉の策だったのでしょうか。そこだけが立体的に見えず少し残念でした。

 

 

 

 

『おともだちになってくれる?』サム・マクブラットニィ/文 アニタ・ジェラーム/絵 小川仁央/訳 評論社 2020/12/5(出版社サイト→現在アクセスできなくなっています)

 

長く読み継がれている『どんなにきみがすきだかあててごらん』(絵本ナビサイト→こちら)の続編です。前作が出版されたのが1995年なので25年ぶりの続編です。
ちゃいろいちびのノウサギは、ひとりで遊びに出かけて、ヒースの茂みの中で白いウサギに出会います。二匹はとても楽しい時間を過ごします。ともだちっていいなと思える絵本です。

 

 

 

 

 

『みえないこいぬ ぽっち』ワンダ・ガアグ/作 こみやゆう/訳 好学社 2020/12/21(出版社サイト→こちら

 

1994年に村中李衣さんの訳でブックグローブ社から出版されたなんにもないないの改訳再版です。原作は1941年刊の『NOTHING AT ALL』です。古い農家の片隅に子犬の兄弟が住んでいたのですが、一匹は姿が「これっぽっちもみえない」、なので「ぽっち」という名前だったのです。二匹の兄弟は農場にやってきた子どもたちにもらわれていくのですが、ぽっちは見えないので置いてけぼりです。ぽっちは兄弟を探す中で物知りのコクマルカラスと知り合い、姿が見えるようになる魔法の呪文を教えてもらいます。その呪文は「ああ、いそがしや ああ、くらくらする」。それを日の出とともにぐるぐる回りながら九日間唱えるようにというのです。果たしてぽっちは見えるようになるのでしょうか。『なんにもないない』では「てんてこまいまい ぐるぐるまい」という呪文でした。図書館には旧訳の絵本もあると思います。ぜひ読み比べてみてください。

 

 

 

『ヨーロッパの古城 輪切り図鑑クロスセクション』スティーブン・ビースティー/画 リチャード・プラット/文 赤尾秀子/訳 あすなろ書房 2020/12/30 (出版社サイト→こちら

 

重機もない時代にヨーロッパの古城が、どのように造られたのか、断面図にして詳しく説明しているノンフィクション絵本です。当時の封建社会がどのように形作られていったのか、領主がどのように権力を集中していったのか、歴史的な背景も知ることができます。中世を舞台にしたファンタジーなどを読む時にも、このような城の構造を知っているとイメージも膨らんで、何倍も物語の世界を楽しめると思います。

 

 

 

 

 

【児童書】

『アイルランドの妖精のおはなし クリスマスの小屋』ルース・ソーヤー/再話 上條由美子/訳 岸野衣里子/画 福音館書店 2020/10/15 (出版社サイト→こちら

 

アイルランドの妖精伝説です。赤ん坊の時に捨てられ、子だくさんの夫婦に育てられたオーナは、村一番の美しい娘に育ちます。しかし捨て子であったためにオーナは家庭を持つことも出来ず、あちこちの家で奉公をして暮らしていました。その地方を凶作が襲った時、年老いたオーナは行く当てもないまま暇を出されます。オーナは村はずれの沼地の脇のブラックゾーン(すももの仲間)の茂みに隠れます。雪の降り積もるクリスマスイブ、オーナの周りには数えきれないほどの妖精が現れ、夢描いていた暖かい家を建ててくれるのです。心優しいオーナはその家に、貧しい者、飢えている者を温かく迎えるのでした。アイルランドに留学経験のある岸野衣里子さんのイラストも幻想的でイマジネーションをかきたてられます。

 

 

 

 

『コヨーテのはなし アメリカ先住民のむかしばなし』リー・ベック/作 ヴァージニア・リー・バートン/絵 安藤紀子/訳  徳間書店 2020/10/31 (出版社サイト→こちら

 

2012年に同じ翻訳者によって長崎書店から出版されていた本が、別の出版社から再版されました。長崎書店版は横書きでしたが、徳間書店版では縦書きになり、それに合わせて絵がページによっては、左右逆に配置されています。また長崎書店版は原作のうち10話のみが収録されていましたが、こちらには17話が収録された全訳となっています。アメリカ先住民にとって身近な動物であったコヨーテは、いたずら好きで悪さをするものの、人間のために火を取ってきてくれたり、太陽や月、星をつくってくれる存在として描かれています。

 

 

 

 

『はねるのだいすき』神沢利子/文 長新太/絵 絵本塾出版 2020/11 (出版社サイト→こちら

 

1970年に偕成社から出版されていた作品が、再版されました。はねて遊ぶのが大好きなうさぎの子ピコ。野原では「とんぼがえりはきつねの発明だ」といううそぶくきつねをやりこめます。その次に出会ったのはまるで変なおじさんでした。ピコはこのおじさんに自分が何者であるかを必死で伝えます。文中にこのおじさんがたばこを吸ってドーナッツのような輪を作るシーンが出てきます。現在では喫煙シーンを子どもの本で描くことが少なくなりましたが、お話のオリジナリティを損なわないためにもそのままにしたとの注釈もついています。元気なピコのかわいらしさや、長新太さんの勢いのある絵が、そうした部分も十分に補っています。文字を読み始めた子向けの幼年童話です。

 

 

 

 

『かるいお姫さま』ジョージ・マクドナルド/作 モーリス・センダック/絵 脇明子/訳 岩波書店 2020/11/10 (出版社サイト→こちら

 

19世紀のイギリスの文学者ジョージ・マクドナルドの作品にモーリス・センダックが絵を描いた作品が2点、岩波書店から同時発売されました。どちらもセンダックの繊細な挿絵と、表紙には金箔をはった豪華な装丁で(表紙カバーで隠れてしまいますが)出版されました。
こちらの作品は、洗礼式に招かれなかった魔女の呪いで、重力がなくなってしまったお姫様の物語です。すてきな王子様に出会って愛を知ることで重さが戻ってくるのですが、それにしても不思議でロマンティックなおとぎ話です。

 

 

 

 

 

『金の鍵』ジョージ・マクドナルド/作 モーリス・センダック/絵 脇明子/訳 岩波書店 2020/11/10 (出版社サイト→こちら

 

大伯母さんに、もし虹のはしっこにたどり着くことが出来たら、そこに金の鍵がみつかると聞いた男の子モシーは、ある夏の夕方、キラキラと輝く虹のはしっこを森の中にみつけて走り込みます。するとそこは妖精の国でした。モシーは、金の鍵を手に入れましたが、鍵があっても、その鍵で開く錠前がなければ役に立たないことを知り、それを探す旅に出ます。旅の途中でタングルという女の子と出会い一緒に冒険を続けます。二人は影の世界で離ればなれになるのですが、幾多の困難を潜り抜けて、二人は再会できるのです。空飛ぶ魚、海の老人、洞窟とファンタジーの異世界に導かれる作品です。

 

 

 

 

『彼方の光』シェリー・ピアソル/作 斎藤倫子/訳 偕成社 2020/12 (出版社サイト→こちら

 

黒人奴隷の少年サミュエルは、ある夜年老いたハリソンからカナダへの逃亡を告げられます。迫りくる追っ手をかわしながら、身を潜め、川を渡り、北へと向かう二人。その時々に助け手が現れ、最終的にはカナダへと辿り着きます。舞台は逃亡奴隷を手助けしたり匿った者すべてに厳罰を与えるという1850年の逃亡奴隷法が成立した後の1858年のケンタッキー州です。自由州であるオハイオ州との境にある川を越えて、多くの奴隷が北へ北へと逃亡していきました。1861年に南北戦争が始まる、その少し前の物語です。途中で、なぜハリソンが高齢で足にけがをしながらもサミュエルを逃亡へ誘ったのか、その理由がわかります。彼方遠くに見える希望の光を目指して逃げる黒人たちの姿に、現在のアメリカ合衆国の政治の混迷も透けて見えるような気がします。後ほど紹介するちくま新書『アメリカ黒人史―奴隷制からBLMまで』(ジェームス・M・バーダマン/著  森本豊富/訳)に歴史的な背景や、実際に逃亡を手助けした人たちのことも書かれています。合わせて読むと、作品世界を深く理解することができるでしょう。

 

 

 

 

『名探偵カッレ 危険な夏の島』アストリッド・リンドグレーン/作 菱木晃子/訳 平澤朋子/絵 岩波書店 2020/12/17 (出版社サイト→こちら

 

名探偵カッレシリーズの中でも、一番手に汗握るというか、カッレたち白ばら軍に危険が迫りくる作品で、『名探偵カッレとスパイ団』(尾崎義/訳 岩波書店 1960)という題名で出版されていたものの新訳です。
ある夏の夜、赤バラ軍と城跡で合戦をした帰り道、カッレ、アンデッシュ、エヴァロッタは誘拐事件を目撃します。見過ごせないと犯人の車に乗り込んだエヴァロッタを追ってカッレたちの追跡が始まります。隠れ家の無人島で繰り広げられる攻防戦は、ハラハラドキドキの連続で最後まで息を抜くことができません。原作は1953年ですから70年近く前の作品です。それでもカッレたちの推理力と行動力は現代の子どもたちにも魅力的に映ることと思います。ただし今だったらGPSで追跡したり、スマホで証拠撮影したり、まったく違う展開になるとは思いますが、だからこそアナログな時代の子どもたちの逞しさがまぶしく感じるのかもしれません。

 

 

 

 

 

『オン・ザ・カム・アップ』アンジー・トーマス/作 服部理佳/訳 岩崎書店 2020/12/31 (出版社サイト→こちら

 

2020年は、大統領選挙もあってアメリカでBLM(Black Lives Matter)運動が盛り上がった年でした。なぜ、黒人が差別を受けるのか、歴史を遡ってみる必要があります。そして近年BLMをテーマにした児童・YA向けの作品が多く出ているということも、私たちにその問題について学ぶ機会を与えてくれています。若い世代が熱狂するヒップホップもラップも、もともとはアフリカ系アメリカ人、つまりは遡れば400年も前にアフリカから奴隷として連れてこられた人々が、苦難の歴史の中から生み出し創りあげてきた文化なのだということを認識しておく必要があるでしょう。
この作品は、有名なラッパーだった父親譲りの才能を持つ高校生プリアンナが、人種差別による偏見や貧困と闘いながら、自分らしさをみつけていく物語です。「黒人だけちがうルールで戦わなくちゃいけないことはよくあるのよ。」と母親ジェイは半分諦め気分で目立たないことを娘に諭します。しかしプリや友人たちは、黒人というだけで白人であれば見逃されるような軽い失敗も許されない理不尽な学校のやり方に抗議していきます。タイトルになった”on the come up”は、プリがラップに乗せて歌った歌詞で、「這い上がれ」という意味。デビュー作『ザ・ヘイト・ユー・ギヴ』(出版社サイト→こちら)でデビューした作家の第2作目です。

 

 

 

 

【その他】

『アメリカ黒人史―奴隷制からBLMまで』ジェームス・M・バーダマン/著 森本豊富/訳 ちくま新書 筑摩書房 2020/12/10(出版社サイト→こちら

 

現代のアメリカで巻き起こっているBLM運動について理解するために必要な知識がぎゅっとまとめられています。奴隷制度がどのように始まったのか、アメリカ大陸へどのようにしてアフリカから奴隷にされたたちが連れてこられたのか(アフリカ西海岸で拉致されされた黒人は、奴隷として港に集められ「出荷」まで「奴隷の家」と呼ばれる収容所に入れられ「出荷」を何カ月も待たされることも)、奴隷の生活はどうだったのか、南北戦争から公民権運動、そしてオバマ政権誕生、そしてジョージ・フロイド事件からBLM運動までを順を追ってわかりやすくまとめられています。今回、紹介している『彼方の光』や『オン・ザ・カム・アップ』だけでなく、12月に紹介した『オール・アメリカン・ボーイズ』(「本のこまど」記事→こちら)など、児童向けの作品を理解するためにもぜひ一度読んでおいてほしいとおもいます。またアフリカ系アメリカ人が作ってきた音楽について書かれた絵本『リズムがみえる』(ミシェル・ウッド/絵 トヨミ・アイガス/文 金原瑞人/訳 ピーター・バラカン/監修 サウザンブックス社 2018/9/25)(「本のこまど」記事→こちら)の背景でもあります。一方でこのような作品に出会いながら、自分の国に現にある在日外国人への差別などについても広く考える契機になればと思います。

 

 

(作成K・J)

基本図書を読む34『人形の家』ルーマー・ゴッデン(再掲載)


2017年1月27日に投稿した記事の再掲載です。

2020年の年末、約3カ月ぶりに訪れた銀座・教文館ナルニア国で、絵本作家として目覚ましい活躍をされている東郷なりささんの原画展(岸野衣里子画『クリスマスの小屋』、東郷なりさ絵『はりねずみともぐらのふうせんりょこう』原画展2020/10/30~2021/1/4⇒こちら)を見てきました。

 

会場には、東郷なりささんのお母様手作りの「人形の家ドールハウス」が展示されていました。なりささんが子ども時代に大好きだった『人形の家』ハードカバー版の見返しに描かれていた人形の家をそっくりに再現されたそうです。子ども時代に出合った本が、どれだけ子どもの心に深く響くのかということを感じました。

(会場の様子を入り口から撮影することは許可されていました。アップでは撮れませんでしたが、人形の家の雰囲気は伝わると思います。)

 

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今月、基本図書として取り上げるのはルーマー・ゴッデンの『人形の家』(瀬田貞二/訳 岩波少年文庫 岩波書店 1978)です。 

 

 

昨年の秋、八ヶ岳にある小さな絵本美術館にて開催されていた「生誕100年 瀬田貞二―こころに響くことば―展」(2016/9/17(土)~12/04(日))にて、瀬田貞二訳の『人形の家』に堀内誠一が絵を描いた原画を見て、この作品への瀬田貞二のことば(この本のあとがき)を読みました。そこで昔読んだこの作品を読み返してみることにしました。 

 

 

 

1947年に書かれた作品の主人公は、エミリーとシャーロットという姉妹です。彼女たちは曾祖母の代から譲られた小さなオランダ人形や、ほかの手持ちの人形を家族に見立てて遊んでいました。

この姉妹の他に、小さな主人公がいます。それはオランダ人形のトチーです。トチーは百年前に上等な木を使って丁寧に作られたものでした。

そしてトチーには家族がいます。陶器で出来た男の子人形(もとはスコットランドの伝統衣装キルトを着ていた)は、プランタガネットさんと名付けられお父さん役でした。なぜなら前の持ち主が消えないペンで口髭を書き込んでいたからです。姉妹は、この人形に水色のシャツと格子縞の背広を着せ、本物の新聞紙を切って持たせ、貫禄十分に仕立てました。プランタガネット夫人には、クラッカーのおまけで付いていたセルロイド人形がなりました。姉妹が赤い水玉模様の青いブラウスと、青い紐飾りのついた赤いスカートを着せてあげたのです。夫人はことりさんという名前でした。またフラシ天(ビロードのこと)で出来た小さな男の子の人形は、りんごちゃんと名付けられ、トチーの弟になりました。背骨はかがり針、足はパイプ掃除で使うモールで出来た犬には、かがりと名付けられていました。

人形の一家は仲良く暮らしていましたが、ただひとつ不満がありました。それは、自分たちが住んでいるところが靴が入っていた箱だということでした。トチーは百年前、曾祖母に可愛がられていたころには、素敵な人形の家があったことを、家族に話して聞かせます。二階建てで玄関の間や、食堂、居間、二階には寝室が二つあって、どの部屋の調度も素晴らしかったことを伝えると、みんなはそんな素敵な家に住めるといいなあと願います。

そこへ、曾祖母の娘であるエミリーとシャーロットの大叔母さんが亡くなり、遺品である人形の家がエミリーたちのところへ届きます。古ぼけてしまった家具や調度を、姉妹と母親が一緒になって修理をしてくれて、人形の一家はこの上なく和やかで幸せな日々を送り始めました。

ところが、トチーはその修理にかかった費用を捻出するために、姉妹によって展覧会に出品されます。トチーは展覧会の会場で家族のことを思い続けて泣いてばかりいました。展覧会が始まると、女王陛下が見学に来られて、自分も幼いころにこれと同じ人形と遊んだと懐かしがって手に取ります。それには展覧会会場に並べられていた人形たちがびっくりしました。トチーが一文人形と呼ばれる安価なものなのに、女王陛下が足を止めたからでした。とりわけ昔、トチーと一緒に人形の家にいたマーチペーンという花嫁人形は嫉妬を募らせます。

運命とは時にいたずらなものです。展覧会が終わってエミリーとシャーロットのもとに戻され、人形の家で家族で楽しく過ごしていたトチーのもとへ、姉妹へのクリスマスの贈り物として、こともあろうかあの花嫁人形のマーチぺーンが届くのです。

そしてマーチぺーンは、エミリーによって人形の家の女主人になり、プランタガネット一家は使用人として屋根裏部屋に押し込められます。そのうえ、りんごちゃんはマーチぺーンの子どもとされてしまうのです。妹のシャーロットはそれに抗議するのですが、そう決めたのはお姉さんのエミリーで、頑として聞きませんでした。

人形の家の居間には、白い磁器のランプがあり、誕生祝用の小さなロウソクを立てれば灯がともるようになっていました。ある日、りんごちゃんがそのランプに近づき過ぎて、今にも火が燃え移ろうとした時、犬のかがりが異変を見つけて吠えはじめます。すると居間に近づくなとマーチペーンに言われていたにもかかわらず、ことりさんが居間に駆け付け、身を投げ出してりんごちゃんを助けたのです。セルロイドで出来ていることりさんは、りんごちゃんを押しのけた瞬間、引火して燃え尽きてしまったのでした。その間、マーチペーンは薄ら笑いを浮かべてソファに座っているだけでした。

エミリーとシャーロットが人形の家の異変に気付いて、人形の家を開けた時にはことりさんはどこにも名残を留めていませんでした。姉妹は、人形の家で起きた事の次第を理解し、マーチペーンは博物館へ寄贈されることになりました。そしてことりさんのいない人形の家で、トチーとプランタガネットさん、りんごちゃんの平穏な生活がまた続くのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 



この本の作者ルーマー・ゴッデン(1907~1998)は、イギリスのサセックス州で生まれ、12歳までインドで育ちました。 その後、教育を受けるためイギリスに戻るのですが、学校に適応できずにいたことが、猪熊葉子さんが昨年出版された『大人に贈る子どもの文学』(猪熊葉子/著 岩波書店 2016/8)の203ページに記されています。異文化の中で育った幼少期と、イギリスでの厳格な教育の中で葛藤したゴッデンは、後に自由教育の立場の教師に出会い、書くことの訓練を受けたということです。こうした経験を通して、物事を相対的に見る力や、想像性を豊かにしていったのです。

ゴッデンは、『人形の家』の物語を通して、人間関係の中にあるさまざまな葛藤や、それでも最後には必ず人は幸せに気づくことができると、子どもたちに伝えようとしたのでしょう。この物語の終盤で、トチーとプランタガネットさんの会話の中で、

「ぼくたちのような小さいものにとって、人形にとってさえ、そうだ。よいことも、悪いことも、そうだ。でもよいことはもどってくる。そうだろ、トチー?」プランタガネットさんは気がかりになってききました。
「もちろん、そうだわ。」トチーは持ち前の親切な木の声でいいました。
「よいことと悪いことか。ずいぶん悪いことがあった。」とプランタガネットさんはいいました。「でも、それも来ては、去っていくんだわ。だからわたしたちも今はしあわせにやっていきましょう。」とトチーがいいました。   (『人形の家』岩波少年文庫 p230~231)

と、語らせています。

あるインタビュアーが、現実には悪が勝つこともあるのでは、といういじわるな質問をすると、“ゴッデンは、「最後は悪は打ち負かされるものです。もっともよい児童文学作品を検討してみれば、そこではすべて、最後に悪が打ち負かされることがわかるでしょう。物語の途中では、ぞっとするほど恐ろしく、また破壊的かもしれない悪であっても、打ち負かされるのです。無意識のうちに私たちは、子どもが悪より善が強いのだということを信ずるようになることを望んでいるのでしょう。(中略)私は、児童文学作品は倫理的でなければならないと固く信じています。」”(『大人に贈る子どもの文学』p204~205より)と、インタビューに答えたということです。

 
 

 

こうした点についてリリアン・スミスは、『児童文学論』(石井桃子、瀬田貞二、渡辺茂男/訳 岩波書店 1964/4)の中で、“この本は、作中に出てくる登場人物の人形をのりこえて、人間世界の根本問題にまで触れているのである。つまり、善と悪、正と邪、はかなく消えてゆく価値に対して真実なるもの、などの問題であり、このようなことは、すべての人に重要な問題なのである。(中略)だが、子どもは、こうした内に秘められた意味をとらえることはできないし、子どもが喜ぶのはそのストーリーである、と主張する人がいるかもしれない。しかし、知覚の鋭い子どもたちは、おのずからこのストーリーの底にながれる意味のいくぶんかを感じとって、かれらをとりまく世界にたいして、いっそう敏感な心をもつようになるのである。”(p276~277)と、述べています。

 

 

 

 

 

 

なお、『児童文学論』は2016年に岩波現代文庫から出ています。(2021年1月追記)

 

 

 

 

 

そういえば私自身も子ども時代に、叔母に贈られた着せ替え人形と、その周りにキューピー人形やぬいぐるみなどを置いて、それぞれに身近な大人たちの役割を割り振り、大人たちの言うような言葉を言わせて遊びました。後に自分の娘たちが同様にドールハウスで遊ぶようになったとき、人形に言わせるセリフが、やはり大人の鏡のように感じ、子どもの感性は鋭いと思ったものでした。

エミリーとシャーロットの人形遊びでありながら、人生の深い意味を内在させるこの『人形の家』の物語は、子どもたちの遊びの中に見え隠れする、その鋭い感性を見事に描いた作品と言えるでしょう。時代は大きく変わったとはいえ、今の子どもたちも人形で遊ぶことを好みます。そしてこの作品も、これからも読み継がれるよう手渡していきたいと思います。

 (作成K・J)

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