本に関する情報

おすすめの幼年童話47『ミリー・モリ―・マンデーのおはなし』ジョイス・L・ブレスリー作
基本図書を読む35『西遊記』呉承恩(再掲載)
2020年12月、2021年1月の新刊から
おすすめの幼年童話46『かさをかしてあげたあひるさん』村山壽子作
訃報 安野光雅さん
2020年11月、12月の新刊から(その2)
基本図書を読む34『人形の家』ルーマー・ゴッデン(再掲載)
2020年11月、12月の新刊から(その1)
おすすめの幼年童話45『げんきなぬいぐるみ人形ガルドラ」モドウィナ・セジウィックさく
基本図書を読む33『シートン動物記3 カランポーのオオカミ王 ロボ』アーネスト・T・シートン(再掲載)
2020年10月、11月の新刊から(修正アリ)
おすすめの幼年童話44『テディ・ロビンソンのたんじょう日』ジョーン・G・ロビンソン作・絵
基本図書を読む32『ニルスのふしぎな旅』セルマ・ラーゲルレーヴ(再掲載)
2020年9月、10月の新刊から(その2・読み物)
おすすめの幼年童話43『空想動物ものがたり』マーグリット・メイヨー再話

おすすめの幼年童話47『ミリー・モリ―・マンデーのおはなし』ジョイス・L・ブレスリー作


今回は、小さな女の子の楽しい毎日を描いた作品を紹介します。

『ミリー・モリ―・マンデーのおはなし』ジョイス・L・ブレスリー作 上條由美子やく 菊池恭子え 福音館書店 1991

主人公の女の子の名前は、ミリセント・マーガレット・アマンダと言いましたが、とても長かったので、みんなはミリー・モリ―・マンデーと短く縮めて呼んでいました。ミリー・モリ―・マンデーは、おとうさんと、おかあさんと、おじいちゃんと、おばあちゃんと、おじさんと、おばさんといっしょに、草ぶき屋根の白いきれいな家にすんでいました。この本には、そんなミリー・モリ―・マンデーのささやかな毎日のお話が、12話おさめられています。

おつかいを頼まれたり、おままごとをしたりといった日常のお話や、パーティーやキャンプなどちょっとしたイベントのお話もあります。ミリー・モリ―・マンデーの家の人たちは、人を喜ばせるのが大好きで、本人には内緒で屋根裏の物置をミリー・モリ―・マンデーの部屋に整えるなど、嬉しいことを創り出します。一話ずつ読んでいくと、そんな人たちに囲まれたミリー・モリ―・マンデーの毎日を一緒に楽しむことができます。また読み進めていくと、村の人たちのこともわかるようになってきて、より親しみがわくでしょう。

冒頭に舞台となる村の地図があったり、各話のはじめには大きな扉絵があったりと、わくわくしながら読み進められる本の造りになっています。挿絵も豊富にあり、ミリー・モリ―・マンデーたちの生活の様子が伝わってきます。

作者ジョイス・L・ブレスリーは1896年生まれのイギリスの作家です。『ミリー・モリ―・マンデーのおはなし』は、90年余り前に作られたお話ですが、読み継がれ、また、ストーリーテリングでも語りつがれています。姉妹編に『ミリーモリ―マンデーとともだち』(2014)があり、こちらには10話収められています。時が経っても変わらず、心を躍らせながら読むことができる物語、ぜひおすすめしてみてください。さて、次はどんな嬉しいことが起こるでしょうか!

(作成 T.I)

 

 

 

 

基本図書を読む35『西遊記』呉承恩(再掲載)


2017年3月2日に公開した記事の再掲載です。本文中に「今年1月に出版された」と文言が出てきますが、「2017年1月に出版された」というように読み替えてください。

『西遊記』や『三国志』など中国の古典は何度もブームを繰り返しています。コミックス版も多種出ています。年齢に応じて手渡し、最終的には重厚な基本図書を手渡せるいいなと思います。

 

 

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今月の基本図書は、呉承恩作『西遊記』です。岩波少年文庫(伊藤貴麿/訳 1955)と、読み比べた上で、君島久子が翻訳した福音館書店の本で紹介します。(今回は福音館文庫で読みました)

『西遊記(上)』呉承恩/作 君島久子/訳 瀬川康男/画 福音館書店 1975

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

『西遊記(下)』呉承恩/作 君島久子/訳 瀬川康男/画 福音館書店 1976

 

 

 

 

 

 

 

 

花果山の頂きにあった仙石から孵った石猿は、知恵も力も優れていたので、猿の群れの王座につき美猴王と名乗るようになります。そうやって五百年が経ったころ、仙人になろうとして斉天大聖となり、孫悟空という名前をいただきます。しかし仙力が強いことをよいことにやりたい放題。天宮を大いに騒がせ、お釈迦様に五行山の下に閉じ込められます。そのまた五百年後に縁があって三蔵法師に出会い、取経の旅に猪八戒、沙悟浄とともに同行することになります。物語は、西天目指して幾山河越えていく4人に、次々と困難が襲ってくる様が描かれています。これでもか、これでもかと次々襲いかかる妖怪変化の群れを、悟空たちが知恵と力を使って倒し、八十一の災厄艱難を切り抜け、ついには目的地にたどり着き、無事に経典をいただくまでが、百回の物語にまとめられています。

如意金箍棒を片手に觔斗雲に乗って、ひとっ飛びで十万八千里を越えることの出来る孫悟空の姿は、本だけではなく、映画やアニメーション、ゲームにもなっていて、知らない人はいないでしょう。妖術あり、心躍る冒険あり、唐の皇帝太宗や仏典を求めてインドへ旅をした玄奘など歴史上の人物も登場する壮大なファンタジー物語は、読む人の心を惹きつける魅力があります。乱暴者の孫悟空が健気にも三蔵を必死で守る姿や、食い意地がはって欲得に溺れて道を踏み外すけれども愛嬌のある猪八戒、一途に三蔵に仕える沙悟浄と、三蔵法師を守る三人の個性豊かなお供にも親しみがわきます。

今年1月に出版された『子どもの本のよあけー瀬田貞二伝』(荒木田隆子/著 福音館書店)には、瀬田貞二さんがインタビューに答えて「ぼくは『西遊記』って小学校三年のとき読んで、それでそれ以来なんべん読んだかわからないです。大好きなもののひとつですね」と答えている箇所があります。(『子どもの本のよあけー瀬田貞二伝』p323)

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

『王さまと九人のきょうだい』(君島久子/訳 赤羽末吉/画 岩波書店 1969)という中国昔話絵本の翻訳でも知られる君島久子さんによる福音館書店版『西遊記』は、声に出して読むとますます滑らかに物語が進み、その面白さを倍増させます。

たとえば、「なんじは妖怪か魔物か。我をたぶらかしにやって来たのか。我は公明正大の僧、大唐の勅命を奉じて、西天へ経を求めに行く者。三人の弟子があり、いずれも降竜伏虎の豪傑、妖魔を除く壮士。かれらに見つかれば、その身はみじんに砕かれるであろうぞ。」(第三十七回)、「なんだと。知らざあ言ってきかせよう。我々は、東土大唐より勅命にて、西天へ取経に行く聖僧の弟子だ。(中略)耳をそろえてそっくり返せば、命だけはかんべんしてやる」(第四十七回)という言葉は、目で追って読むよりも、実際に声に出して読んでみると、味わい深いものがあります。

 

 

 

 

 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

 
福音館書店版は、「現存する「西遊記」のテキストとして最も古いものの一つ、明代(14~17世紀)に刊行された金陵世徳堂本を底本として、清代(17世紀~20世紀)に出された六種の刻本により校訂を行ない、北京人民文学出版社より刊行した「西遊記」に拠って訳したもの」(「はじめに」より)をもとにして訳出されています。
 

あとがきには、「作者は呉承恩(1500年~1583年)といっても、明代や清代の古い「西遊記」には作者の署名がなく、呉承恩が書いたという確かな証拠があるわけではありません。あるいは、この物語をまとめ、すぐれた文学作品に仕上げたのが呉承恩であったのかも知れません。」(「訳者あとがき」より)として、南宋時代に著された「大唐三蔵取経詩話」以降、多くの民衆に語り継がれ、「西遊記」という壮大なファンタジーになっていったのではと記されています。

また、福音館書店版は瀬川康男さんの挿し絵がとても目を引きます。この作品に取り掛かっている時、瀬田貞二さんと一緒に宋や明の時代の絵入り古版本を見ており、そうした絵の伝統も受け継いだ作品として仕上がっていると、先の『子どもの本のよあけ』にも記されています。(『子どもの本のよあけ』p324)

 

 

 

君島久子さんは、エッセイ『「王さまと九人の兄弟」の世界』(岩波書店 2009)の中で、孫悟空が刀や斧で切りつけられても死なず、八卦炉の中で錬成されても無事でるのは『王さまと九人のきょうだい』に出てくる「きってくれ」「ぶってくれ」などとの相似しており、天上の話から地獄の音まで聞き分ける聴力はリー族に伝わる「五人兄弟」に出てくる「千里耳」と相似しているなど、中国のさまざまな民族に伝わる多兄弟の昔話との関連を、「このように『西遊記』では、孫悟空が一人で、「九人兄弟」や「十人兄弟」のあらゆる超能力をそなえており、三面六臂の活躍を演じています。どんなに恐ろしく強大な相手にも負けないスーパーヒーロー孫悟空と、「九人兄弟」や「十人兄弟」には、どちらにも、大きな権力に屈しまいとする民衆の願いがこめられているように思われてなりません。」(p105「『西遊記』孫悟空の超能力」)と述べています。

三蔵法師のモデルとなった玄奘(602年~664年)は、隋王朝から唐王朝に代わった629年、太宗の時代に、仏教の研究のために原典を求めようと、西域を抜け、西トルキスタン、サマルカンドを通って、インドのガンダーラに到着、ナーランダ学院で仏典の研究を行い、645年に長安に戻ってきます。その後、「大唐西域記」を著しますが、彼の壮挙はその後広く語り伝えられるようになります。宋代(10世紀~13世紀)にすでに語り物として流行し、「大唐三蔵取経詩話」が書かれていたと、『西遊記』の「はじめに」にも記されています。元の時代には、「西遊記」として芝居として演じられるようになり、物語が次第に膨らんでいったようです。君島久子さんが書いているように、王朝が次々に変わっていく中国の歴史に翻弄される民衆が、語り伝えながら逞しい想像力で練り上げていった物語であり、だからこそ読む者を惹きつけるのだと思います。

今の子どもたちは自分で読むのは難しいかもしれませんが、ひとつひとつの回は短いので、ご家庭でぜひ読み聞かせをしてほしいと思います。「さて、次はどのようになるのでしょうか。次回をお楽しみに。」という言葉に促されて、きっと楽しみに聞くことでしょう。

(作成K・J) 

2020年12月、2021年1月の新刊から


昨年12月と今年に入ってからに出版された子どもの本を紹介いたします。
一部、見落としていた12月以前に発行された新刊も含まれます。

今回は、横浜・日吉のともだち書店に注文していた本の中からの紹介です。なお、2月上旬にはまた教文館ナルニア国で選書して、情報をお届けできるようにいたします。

 

その他の書籍に関しては銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

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【絵本】

『100歳ランナーの物語 夢をあきらめなかったファウジャ』シムラン・ジート・シング/文 バルジンダー・カウル/絵 金哲彦/監修 おおつかのりこ/訳 西村書店 2020/12/12(出版社のサイト→こちら

幼少期に身体が弱く5歳になるまで歩けなかったファウジャが100歳でトロント・ウォーターマラソンを完走するまでのお話です。ファウジャは、インドのパンジャブ地方の出身。シク教の信徒で髪の毛を切らずターバンを巻いています。
5歳で歩けるようになりましたが、当時遠方の学校に通う体力はなく、地元で畑仕事をしながら身体を鍛え、大人になって家族にも恵まれました。子どもたちが独立し、妻にも先立たれた81歳の時、息子家族が住むロンドンへ移り住みます。そこでマラソンに出会い、走るようになります。
89歳でロンドンマラソンを完走した後も、次々に記録を塗り替えていきますが、そこには子ども時代にいつも母から言われていた言葉がありました。「あなたのことはあなたがよく知っている。あなたにできることもね。今日は自分の力を出しきれるかしら?」いくつになっても挑戦することの大切さを、また自分を信じることの強さを教えてくれる伝記絵本です。

 

 

 

 

『よんひゃくまんさいのびわこさん』梨木香歩/作 小沢さかえ/絵 理論社 2020/12(出版社のサイト→こちら

2017年から続くNHKスペシャル「列島誕生ジオ・ジャパン」という番組があります。日本列島の成り立ちがよくわかる大変優れた番組でした。
この絵本は、その列島誕生の過程で生まれた琵琶湖の成り立ちをファンタジーとして描いています。
あとがきには、「日本列島がユーラシア大陸から分離しはじめたのは今から約2000万年前。当時の東アジアの推測図を見ていると、日本列島はあちこち沈んだり現れたり、赤ん坊が母親の胎内の羊水のなかで、ちゃぽんちゃぽんと浮かんだり沈んだりを繰り返しているかのように見えます。(中略)そして列島の真ん中、現在の伊賀辺りで琵琶湖初期の古琵琶湖とされる、大山田湖が現れます。それが400万年前から360万年前まで。その後320万年前、北方向で阿山湖、さらに甲賀湖が、240万年前頃から180万年前頃前までは蒲生野の辺りで蒲生沼沢地が、少しずつ移動するかのように出現します。それから100万年ほど前から現在の琵琶湖の堅田地域を中心とし、現在の琵琶湖の位置、大きさへと近づいていきます。」とあります。こうした悠久の時の流れ、大地の記憶が梨木さんによってファンタジーとなり、琵琶湖畔で育った画家小沢さんの幻想的で美しい絵でそれを表現しています。

 

 

 

 

【読み物】

『くもとり山のイノシシびょういん 7つのおはなし』かこさとし/文 かこさとし・なかじまかめい/絵 福音館書店 2021/1/10(出版社のサイト→こちら

 

2018年に亡くなられたかこさとしさんが、晩年福音館書店の月刊誌「母の友」2011年11月~2019年7月号までに発表された創作童話をまとめたものです。「母の友」2019年4月号の「編集だより」(p85)にこのようなことが書かれています。
「今月は昨年五月に亡くなった絵本作家、加古里子さんの未発表童話をお届けしました。この作品は昨年、加古さんのお嬢さん、鈴木万里さんが遺稿の中から”発見”してくれたものです。加古さんは2011年以降何度か「母の友」の依頼に応え、「一日一話」に「イノシシ病院」の物語を寄せてくれました。その後独自に三作、書きためておいてくださったようなのです。「完成原稿まで描いていたというのが驚きで、加古本人もイノシシ先生のことが気に入って、筆がのったんじゃないでしょうか」(鈴木さん)。亡き加古さんから「母の友」への贈り物。涙が出る気持ちでありました。三作のうち、残りの二話は今年度のどこかの号で掲載出来たらと思っています。」
「母の友」では見開き2ページに2枚のかこさとしさんの絵がありますが、この度子どもが自分で読めるように漢字をひらがなに開き、文字を大きくしたために一話8ページになっています。そこでなかじまかめいさんによるイラストが加わりました。どれもイノシシ先生がかこさとしさんご本人に見えてくるような優しく温かいお話です。文字を読み始めた子どもたちにぜひ読んでほしいと思います。

 

 

 

 

【その他】

『音楽の肖像 堀内誠一×谷川俊太郎』堀内誠一・谷川俊太郎/著 小学館 2020/11/4(第2刷2021/1/17)(出版社のサイト→こちら

 

児童向けではないかもしれませんが、YA世代には楽しめる1冊です。2020年12月5日から2021年1月24日まで荒川区立図書館ゆいの森あらかわで堀内誠一展が開催されていました。『音楽の肖像』の原画も何枚か展示されていました。
バッハ、モーツァルト、ベートーヴェンからストラヴィンスキー、エリック・サティまで堀内誠一が遺した28人の作曲家の肖像画とエッセイに加えて、谷川俊太郎が32編の詩をつけた芸術を愛する人にはたまらない1冊です。

 

 

 

 

『学校司書おすすめ!小学校学年別知識読みもの240』福岡淳子・金澤磨樹子/編 少年写真新聞社 2020/11/20(出版社のサイト→こちら

 

知識の本を、小学校の学年別に紹介したブックリストです。ブックトークや授業で使う資料として、また団体貸出の選書に役立つことでしょう。各学年ごとに子どもたちの語彙力、読解力の発達に応じためあてが書かれており、とてもわかりやすい選書基準が示されています。また、コラム記事も充実しており、学校図書館だけでなく、公共図書館の司書にとっても、心強い味方になると思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

『デジタル・シティズンシップ コンピュータ1人1台時代の善き使い手をめざす学び』坂本旬・芳賀高洋・豊福晋平・今度珠美・林一真/著 大月書店 2020/12/15(出版社のサイト→こちら

新型コロナウイルス感染症によるパンデミックは、これまで遅々として進まなかった我が国のデジタル教育を大きく変えていくことになりました。これまで子どもたちにデジタルデバイスを手渡す際には、抑制的な「情報モラル」を教えることが主流でした。
しかし、これからの世の中はデジタルを賢く使いこなす時代です。子どもたちが主体的に関われるデジタル・シティズンシップが必要になるとこの本では説いています。デジタル・シティズンシップとは、デジタル世界で生活し、学習し、働くことの権利、責任、機会を理解し、安全で合法的、倫理的な方法で行動できるためのポジティブな捉え方なのです。GIGAスクール構想が前倒しで着手されることになるでしょう。私たち司書もこの視点をもっていたいと思います。

 

 

 

 

『学校が「とまった」日 ウィズ・コロナの学びを支える人々の挑戦』中原淳/監修 田中智輝・村松灯・高崎美佐/編著 東洋館出版 2021/2/1(出版社のサイト→こちら

昨年3月に、なんの根拠も議論もなく、いきなり日本中の学校での学びが止まりました。政府の一方的な通達により、小学校、中学校、高校が臨時休校になり、学びの中断が起きたのでした。
その時、生徒には、保護者には、家庭には、何が起こったのか。そして学校では、どのような意思決定がなされ、教員は何を思っていたのか。NPOなどの学校でもなく、家庭でもない機関は、どのような教育支援を行ったのかを、まとめたものです。
中心にいたのは立教大学経営学部教授の中原淳さん。SNSを通して、どうしたら学びを止めずにいられるのか、すぐに共同研究プロジェクトを立ち上げ、発信していました。私もそのグループの情報を活用し、TS室のeラーニング作成に必要なノウハウを得ることが出来ました。図書館も閉館していた昨年春の緊急事態の中で、何が出来たのか、出来なかったのか、再び学びを止めないために、すべての子どもに関わる人に読んでほしい1冊です。

 

 

(作成K・J)

おすすめの幼年童話46『かさをかしてあげたあひるさん』村山壽子作


今回は、70年以上前に書かれながら、今でも変わらず子どもたちの心に寄り添ってくれる村山壽子氏のおはなし集を紹介します。

『かさをかしてあげたあひるさん 村山壽子おはなし集』 村山壽子作 山口マオ絵 福音館書店 2010

村山壽子氏は、1903年に生まれ、大正時代末期から当時発行されていた絵雑誌「子供之友」に、詩や童話を描いていました。その作品は、登場するものが人間ではなく、動物であったり野菜であったりすることが特徴で、子どもにとって身近なものや親しいものが擬人化されて、不思議だけれど共感できるお話が展開されています。

例えば、表題作の「かさをかしてあげたあひるさん」に登場するのは、あひるさんとにわとりさんです。ある雨の日、お友だちのにわとりさんに傘をかしてと頼まれたあひるさんですが、家には一本しかありません。傘を貸してあげられないと涙をこぼすあひるさんをみて、お母さんは、一本しかない傘を貸してもよいと言ってくれるのです。あひるさんが大喜びで傘を貸すと、後日にわとりさんはお礼に卵をもってきてくれ、お母さんはその卵でおいしいオムレツを焼いてくれるのです。
他愛のないお話ですが、貸してあげられなくて悲しい気持ちや、わかってもらえて嬉しい気持ち、そして最後は美味しそうなオムレツの登場と、子どもの気持ちにぴったりと寄り添い、喜ばせてくれるお話です。

この本には全部で17の童話が紹介されていますが、子どもの心をよく知っている作者だからこそ描ける、明るくユーモアのある作品ばかりです。リズム感のある、声に出してよみたくなる文章です。幼い子でも無理なく読めますし、読み聞かせにも向いています。(仮名遣いは著作権承継者の了承を得て、現代仮名遣いにし、表記の一部も改められています。)

挿絵は、山口マオ氏によるも版画による元気な絵です。村山壽子さんの作品の挿絵は、夫であり、童話作家、前衛美術家として活躍していた村山知義氏によるものが有名ですが、山口マオ氏の挿絵も、カラリと明るいお話の雰囲気が伝わってきて、現代の子どもたちにも親しみやすいものとなっています。JULA出版局からは、村山知義氏の挿絵で読める『村山壽子氏作品集 全3巻』(村山壽子作 村山知義絵 村山壽子作品集編集委員会編 JULA出版局)が出版されています。こちらの作品集では、童話だけでなく、童謡や絵ばなしも紹介されています。どんどんお話を読みたい!という子であれば、ぜひこちらをおすすめしてみてください。

(作成 T.I)

訃報 安野光雅さん


国際アンデルセン賞画家賞を受賞した絵本作家の安野光雅さんが、先月12月24日に亡くなられたというニュースが本日午後流れました。94歳でした。

夕方の各局のニュースでも報道されていましたし、ネットニュースでも流れていましたので、すでにご存知の方も多いことでしょう。(朝日新聞ネットニュース→こちら

 

安野光雅さんの代表作『旅の絵本』(福音館書店 1977年)(シリーズは全9冊→こちら

 

 

 

 

 

また近年も朝日出版社から「安野光雅の絵で読む世界の少年少女文学」シリーズ(2015~2019)(→こちら)など精力的な仕事を続けてこられました。

「本のこまど」での安野光雅さん新刊紹介記事
『森のプレゼント』ローラ・インガルス・ワイルダー/作 安野光雅/絵・訳 朝日出版社 2015/11/20 (→こちら

『旅の絵本Ⅸ』安野光雅/作 福音館書店 2018/6/15『かんがえる子ども』安野光雅/作 福音館書店 2018/6/(→こちら

『赤毛のアン』ルーシイ=モード=モンゴメリ/作 岸田衿子/訳 安野光雅/絵 朝日出版社 2018/6/20(→こちら

*『メアリ・ポピンズ』トラバース/作 岸田衿子/訳 安野光雅/絵 朝日出版社 2019/1/25 (→こちら

『かずくらべ』西内久典/文 安野光雅/絵 福音館書店 2019/4/15 (→こちら

*『銀の匙』中勘助/作 安野光雅/絵 朝日出版社 2019/9/6 (→こちら

 

その他の安野光雅さんの著作(児童向けのみ)→こちら(NDLサーチより)

 

2018年11月1日に日本出版クラブで行われたJBBY主催の角野栄子さんの国際アンデルセン賞作家賞受賞祝賀会に安野光雅さんも参加されていて、その時はお元気そうでした。

たくさんの素晴らしい子どもの本を届けてくださったことに、心から感謝申し上げます。心より哀悼の誠を捧げます。

 

(作成K・J)

 

 

2020年11月、12月の新刊から(その2)


11月、12月に出版された絵本と読み物を追加で紹介いたします。(12月29日に公開した「2020年11月、12月の新刊から(その1)」は→こちら
一部、見落としていた11月以前に発行された新刊も含まれます。

今回は12月29日に、約2か月ぶりに銀座教文館ナルニア国へ行って選書をしてきました。年末年始に、読んで記事にしています。また、1月11日には横浜・日吉のともだち書店に注文していた本が届きました。こちらも急いで読みました。

 

その他の書籍に関しては銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

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【絵本】

『ねこのオーランドー 3びきのグレイス』キャスリーン・ヘイル/作 こみやゆう/訳 好学社 2020/11/6 (出版社サイト→こちら

 

クリスマス前後のねこのオーランドー一家の物語です。クリスマスの買い物に出かけたのに、こねこのティンクルは買い物そっちのけで雪遊びをし家族へのプレゼントを買いそびれます。そこでクリスマスにもらった手品セットの中の「のろいの水」スプレーを香水だと思ってお母さんのグレイスの枕元に置きます。目覚めたグレイスが香水だと思って使うと、なんとグレイスが3びきになってしまったのです。そこでオーランドーたちは、天の川を越えて、しし座のレオが門番をするサンタクロースの家まで、解決方法を聞きに行くのでした。1965年に原作は出版されました。なんとも不思議なファンタジーに仕上がっています。

 

 

 

 

『氷上カーニバル』あべ弘士/作 のら書店 2020/11/10 (出版社サイト→こちら

 

氷上カーニバルは、冬の終わりに開かれるお祭り。花火が上がる中、みんな思い思いの仮装して公園の中の凍った池に集まり、一緒に踊って夜を過ごします。実際に、北海道札幌市の中島公園内の凍った池で大正時代の終わりから昭和にかけて行われていた冬のお祭りで、児童文学作家の神沢利子さんが子ども時代に参加して心に深い感動を覚え、『いないいないばあや』にも書いているとのこと。そのお祭りをテーマに作られたカラフルで楽しい絵本です。新型コロナウイルス感染拡大の第3波が襲う中だからこそ、子どもたちにはこのような心が楽しくなるようなお話を届けたいと思います。

 

 

 

 

『こたつ』麻生知子/作 福音館書店 2020/11/15(出版社サイト→こちら

 

部屋の真ん中に置かれたこたつを上から俯瞰する形で、大みそかから元日までの家族の様子を描く絵本です。おばあちゃんと両親、そして孫のこうたくん、そして猫一匹の心温まる一家の団らんの様子をのぞき見しているうちに、こちらまで懐かしい気持ちにさせられます。飲み物の描き方だけが横向き(倒れているように見える)なのですが、飲み物が何であるか伝えるための苦肉の策だったのでしょうか。そこだけが立体的に見えず少し残念でした。

 

 

 

 

『おともだちになってくれる?』サム・マクブラットニィ/文 アニタ・ジェラーム/絵 小川仁央/訳 評論社 2020/12/5(出版社サイト→現在アクセスできなくなっています)

 

長く読み継がれている『どんなにきみがすきだかあててごらん』(絵本ナビサイト→こちら)の続編です。前作が出版されたのが1995年なので25年ぶりの続編です。
ちゃいろいちびのノウサギは、ひとりで遊びに出かけて、ヒースの茂みの中で白いウサギに出会います。二匹はとても楽しい時間を過ごします。ともだちっていいなと思える絵本です。

 

 

 

 

 

『みえないこいぬ ぽっち』ワンダ・ガアグ/作 こみやゆう/訳 好学社 2020/12/21(出版社サイト→こちら

 

1994年に村中李衣さんの訳でブックグローブ社から出版されたなんにもないないの改訳再版です。原作は1941年刊の『NOTHING AT ALL』です。古い農家の片隅に子犬の兄弟が住んでいたのですが、一匹は姿が「これっぽっちもみえない」、なので「ぽっち」という名前だったのです。二匹の兄弟は農場にやってきた子どもたちにもらわれていくのですが、ぽっちは見えないので置いてけぼりです。ぽっちは兄弟を探す中で物知りのコクマルカラスと知り合い、姿が見えるようになる魔法の呪文を教えてもらいます。その呪文は「ああ、いそがしや ああ、くらくらする」。それを日の出とともにぐるぐる回りながら九日間唱えるようにというのです。果たしてぽっちは見えるようになるのでしょうか。『なんにもないない』では「てんてこまいまい ぐるぐるまい」という呪文でした。図書館には旧訳の絵本もあると思います。ぜひ読み比べてみてください。

 

 

 

『ヨーロッパの古城 輪切り図鑑クロスセクション』スティーブン・ビースティー/画 リチャード・プラット/文 赤尾秀子/訳 あすなろ書房 2020/12/30 (出版社サイト→こちら

 

重機もない時代にヨーロッパの古城が、どのように造られたのか、断面図にして詳しく説明しているノンフィクション絵本です。当時の封建社会がどのように形作られていったのか、領主がどのように権力を集中していったのか、歴史的な背景も知ることができます。中世を舞台にしたファンタジーなどを読む時にも、このような城の構造を知っているとイメージも膨らんで、何倍も物語の世界を楽しめると思います。

 

 

 

 

 

【児童書】

『アイルランドの妖精のおはなし クリスマスの小屋』ルース・ソーヤー/再話 上條由美子/訳 岸野衣里子/画 福音館書店 2020/10/15 (出版社サイト→こちら

 

アイルランドの妖精伝説です。赤ん坊の時に捨てられ、子だくさんの夫婦に育てられたオーナは、村一番の美しい娘に育ちます。しかし捨て子であったためにオーナは家庭を持つことも出来ず、あちこちの家で奉公をして暮らしていました。その地方を凶作が襲った時、年老いたオーナは行く当てもないまま暇を出されます。オーナは村はずれの沼地の脇のブラックゾーン(すももの仲間)の茂みに隠れます。雪の降り積もるクリスマスイブ、オーナの周りには数えきれないほどの妖精が現れ、夢描いていた暖かい家を建ててくれるのです。心優しいオーナはその家に、貧しい者、飢えている者を温かく迎えるのでした。アイルランドに留学経験のある岸野衣里子さんのイラストも幻想的でイマジネーションをかきたてられます。

 

 

 

 

『コヨーテのはなし アメリカ先住民のむかしばなし』リー・ベック/作 ヴァージニア・リー・バートン/絵 安藤紀子/訳  徳間書店 2020/10/31 (出版社サイト→こちら

 

2012年に同じ翻訳者によって長崎書店から出版されていた本が、別の出版社から再版されました。長崎書店版は横書きでしたが、徳間書店版では縦書きになり、それに合わせて絵がページによっては、左右逆に配置されています。また長崎書店版は原作のうち10話のみが収録されていましたが、こちらには17話が収録された全訳となっています。アメリカ先住民にとって身近な動物であったコヨーテは、いたずら好きで悪さをするものの、人間のために火を取ってきてくれたり、太陽や月、星をつくってくれる存在として描かれています。

 

 

 

 

『はねるのだいすき』神沢利子/文 長新太/絵 絵本塾出版 2020/11 (出版社サイト→こちら

 

1970年に偕成社から出版されていた作品が、再版されました。はねて遊ぶのが大好きなうさぎの子ピコ。野原では「とんぼがえりはきつねの発明だ」といううそぶくきつねをやりこめます。その次に出会ったのはまるで変なおじさんでした。ピコはこのおじさんに自分が何者であるかを必死で伝えます。文中にこのおじさんがたばこを吸ってドーナッツのような輪を作るシーンが出てきます。現在では喫煙シーンを子どもの本で描くことが少なくなりましたが、お話のオリジナリティを損なわないためにもそのままにしたとの注釈もついています。元気なピコのかわいらしさや、長新太さんの勢いのある絵が、そうした部分も十分に補っています。文字を読み始めた子向けの幼年童話です。

 

 

 

 

『かるいお姫さま』ジョージ・マクドナルド/作 モーリス・センダック/絵 脇明子/訳 岩波書店 2020/11/10 (出版社サイト→こちら

 

19世紀のイギリスの文学者ジョージ・マクドナルドの作品にモーリス・センダックが絵を描いた作品が2点、岩波書店から同時発売されました。どちらもセンダックの繊細な挿絵と、表紙には金箔をはった豪華な装丁で(表紙カバーで隠れてしまいますが)出版されました。
こちらの作品は、洗礼式に招かれなかった魔女の呪いで、重力がなくなってしまったお姫様の物語です。すてきな王子様に出会って愛を知ることで重さが戻ってくるのですが、それにしても不思議でロマンティックなおとぎ話です。

 

 

 

 

 

『金の鍵』ジョージ・マクドナルド/作 モーリス・センダック/絵 脇明子/訳 岩波書店 2020/11/10 (出版社サイト→こちら

 

大伯母さんに、もし虹のはしっこにたどり着くことが出来たら、そこに金の鍵がみつかると聞いた男の子モシーは、ある夏の夕方、キラキラと輝く虹のはしっこを森の中にみつけて走り込みます。するとそこは妖精の国でした。モシーは、金の鍵を手に入れましたが、鍵があっても、その鍵で開く錠前がなければ役に立たないことを知り、それを探す旅に出ます。旅の途中でタングルという女の子と出会い一緒に冒険を続けます。二人は影の世界で離ればなれになるのですが、幾多の困難を潜り抜けて、二人は再会できるのです。空飛ぶ魚、海の老人、洞窟とファンタジーの異世界に導かれる作品です。

 

 

 

 

『彼方の光』シェリー・ピアソル/作 斎藤倫子/訳 偕成社 2020/12 (出版社サイト→こちら

 

黒人奴隷の少年サミュエルは、ある夜年老いたハリソンからカナダへの逃亡を告げられます。迫りくる追っ手をかわしながら、身を潜め、川を渡り、北へと向かう二人。その時々に助け手が現れ、最終的にはカナダへと辿り着きます。舞台は逃亡奴隷を手助けしたり匿った者すべてに厳罰を与えるという1850年の逃亡奴隷法が成立した後の1858年のケンタッキー州です。自由州であるオハイオ州との境にある川を越えて、多くの奴隷が北へ北へと逃亡していきました。1861年に南北戦争が始まる、その少し前の物語です。途中で、なぜハリソンが高齢で足にけがをしながらもサミュエルを逃亡へ誘ったのか、その理由がわかります。彼方遠くに見える希望の光を目指して逃げる黒人たちの姿に、現在のアメリカ合衆国の政治の混迷も透けて見えるような気がします。後ほど紹介するちくま新書『アメリカ黒人史―奴隷制からBLMまで』(ジェームス・M・バーダマン/著  森本豊富/訳)に歴史的な背景や、実際に逃亡を手助けした人たちのことも書かれています。合わせて読むと、作品世界を深く理解することができるでしょう。

 

 

 

 

『名探偵カッレ 危険な夏の島』アストリッド・リンドグレーン/作 菱木晃子/訳 平澤朋子/絵 岩波書店 2020/12/17 (出版社サイト→こちら

 

名探偵カッレシリーズの中でも、一番手に汗握るというか、カッレたち白ばら軍に危険が迫りくる作品で、『名探偵カッレとスパイ団』(尾崎義/訳 岩波書店 1960)という題名で出版されていたものの新訳です。
ある夏の夜、赤バラ軍と城跡で合戦をした帰り道、カッレ、アンデッシュ、エヴァロッタは誘拐事件を目撃します。見過ごせないと犯人の車に乗り込んだエヴァロッタを追ってカッレたちの追跡が始まります。隠れ家の無人島で繰り広げられる攻防戦は、ハラハラドキドキの連続で最後まで息を抜くことができません。原作は1953年ですから70年近く前の作品です。それでもカッレたちの推理力と行動力は現代の子どもたちにも魅力的に映ることと思います。ただし今だったらGPSで追跡したり、スマホで証拠撮影したり、まったく違う展開になるとは思いますが、だからこそアナログな時代の子どもたちの逞しさがまぶしく感じるのかもしれません。

 

 

 

 

 

『オン・ザ・カム・アップ』アンジー・トーマス/作 服部理佳/訳 岩崎書店 2020/12/31 (出版社サイト→こちら

 

2020年は、大統領選挙もあってアメリカでBLM(Black Lives Matter)運動が盛り上がった年でした。なぜ、黒人が差別を受けるのか、歴史を遡ってみる必要があります。そして近年BLMをテーマにした児童・YA向けの作品が多く出ているということも、私たちにその問題について学ぶ機会を与えてくれています。若い世代が熱狂するヒップホップもラップも、もともとはアフリカ系アメリカ人、つまりは遡れば400年も前にアフリカから奴隷として連れてこられた人々が、苦難の歴史の中から生み出し創りあげてきた文化なのだということを認識しておく必要があるでしょう。
この作品は、有名なラッパーだった父親譲りの才能を持つ高校生プリアンナが、人種差別による偏見や貧困と闘いながら、自分らしさをみつけていく物語です。「黒人だけちがうルールで戦わなくちゃいけないことはよくあるのよ。」と母親ジェイは半分諦め気分で目立たないことを娘に諭します。しかしプリや友人たちは、黒人というだけで白人であれば見逃されるような軽い失敗も許されない理不尽な学校のやり方に抗議していきます。タイトルになった”on the come up”は、プリがラップに乗せて歌った歌詞で、「這い上がれ」という意味。デビュー作『ザ・ヘイト・ユー・ギヴ』(出版社サイト→こちら)でデビューした作家の第2作目です。

 

 

 

 

【その他】

『アメリカ黒人史―奴隷制からBLMまで』ジェームス・M・バーダマン/著 森本豊富/訳 ちくま新書 筑摩書房 2020/12/10(出版社サイト→こちら

 

現代のアメリカで巻き起こっているBLM運動について理解するために必要な知識がぎゅっとまとめられています。奴隷制度がどのように始まったのか、アメリカ大陸へどのようにしてアフリカから奴隷にされたたちが連れてこられたのか(アフリカ西海岸で拉致されされた黒人は、奴隷として港に集められ「出荷」まで「奴隷の家」と呼ばれる収容所に入れられ「出荷」を何カ月も待たされることも)、奴隷の生活はどうだったのか、南北戦争から公民権運動、そしてオバマ政権誕生、そしてジョージ・フロイド事件からBLM運動までを順を追ってわかりやすくまとめられています。今回、紹介している『彼方の光』や『オン・ザ・カム・アップ』だけでなく、12月に紹介した『オール・アメリカン・ボーイズ』(「本のこまど」記事→こちら)など、児童向けの作品を理解するためにもぜひ一度読んでおいてほしいとおもいます。またアフリカ系アメリカ人が作ってきた音楽について書かれた絵本『リズムがみえる』(ミシェル・ウッド/絵 トヨミ・アイガス/文 金原瑞人/訳 ピーター・バラカン/監修 サウザンブックス社 2018/9/25)(「本のこまど」記事→こちら)の背景でもあります。一方でこのような作品に出会いながら、自分の国に現にある在日外国人への差別などについても広く考える契機になればと思います。

 

 

(作成K・J)

基本図書を読む34『人形の家』ルーマー・ゴッデン(再掲載)


2017年1月27日に投稿した記事の再掲載です。

2020年の年末、約3カ月ぶりに訪れた銀座・教文館ナルニア国で、絵本作家として目覚ましい活躍をされている東郷なりささんの原画展(岸野衣里子画『クリスマスの小屋』、東郷なりさ絵『はりねずみともぐらのふうせんりょこう』原画展2020/10/30~2021/1/4⇒こちら)を見てきました。

 

会場には、東郷なりささんのお母様手作りの「人形の家ドールハウス」が展示されていました。なりささんが子ども時代に大好きだった『人形の家』ハードカバー版の見返しに描かれていた人形の家をそっくりに再現されたそうです。子ども時代に出合った本が、どれだけ子どもの心に深く響くのかということを感じました。

(会場の様子を入り口から撮影することは許可されていました。アップでは撮れませんでしたが、人形の家の雰囲気は伝わると思います。)

 

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今月、基本図書として取り上げるのはルーマー・ゴッデンの『人形の家』(瀬田貞二/訳 岩波少年文庫 岩波書店 1978)です。 

 

 

昨年の秋、八ヶ岳にある小さな絵本美術館にて開催されていた「生誕100年 瀬田貞二―こころに響くことば―展」(2016/9/17(土)~12/04(日))にて、瀬田貞二訳の『人形の家』に堀内誠一が絵を描いた原画を見て、この作品への瀬田貞二のことば(この本のあとがき)を読みました。そこで昔読んだこの作品を読み返してみることにしました。 

 

 

 

1947年に書かれた作品の主人公は、エミリーとシャーロットという姉妹です。彼女たちは曾祖母の代から譲られた小さなオランダ人形や、ほかの手持ちの人形を家族に見立てて遊んでいました。

この姉妹の他に、小さな主人公がいます。それはオランダ人形のトチーです。トチーは百年前に上等な木を使って丁寧に作られたものでした。

そしてトチーには家族がいます。陶器で出来た男の子人形(もとはスコットランドの伝統衣装キルトを着ていた)は、プランタガネットさんと名付けられお父さん役でした。なぜなら前の持ち主が消えないペンで口髭を書き込んでいたからです。姉妹は、この人形に水色のシャツと格子縞の背広を着せ、本物の新聞紙を切って持たせ、貫禄十分に仕立てました。プランタガネット夫人には、クラッカーのおまけで付いていたセルロイド人形がなりました。姉妹が赤い水玉模様の青いブラウスと、青い紐飾りのついた赤いスカートを着せてあげたのです。夫人はことりさんという名前でした。またフラシ天(ビロードのこと)で出来た小さな男の子の人形は、りんごちゃんと名付けられ、トチーの弟になりました。背骨はかがり針、足はパイプ掃除で使うモールで出来た犬には、かがりと名付けられていました。

人形の一家は仲良く暮らしていましたが、ただひとつ不満がありました。それは、自分たちが住んでいるところが靴が入っていた箱だということでした。トチーは百年前、曾祖母に可愛がられていたころには、素敵な人形の家があったことを、家族に話して聞かせます。二階建てで玄関の間や、食堂、居間、二階には寝室が二つあって、どの部屋の調度も素晴らしかったことを伝えると、みんなはそんな素敵な家に住めるといいなあと願います。

そこへ、曾祖母の娘であるエミリーとシャーロットの大叔母さんが亡くなり、遺品である人形の家がエミリーたちのところへ届きます。古ぼけてしまった家具や調度を、姉妹と母親が一緒になって修理をしてくれて、人形の一家はこの上なく和やかで幸せな日々を送り始めました。

ところが、トチーはその修理にかかった費用を捻出するために、姉妹によって展覧会に出品されます。トチーは展覧会の会場で家族のことを思い続けて泣いてばかりいました。展覧会が始まると、女王陛下が見学に来られて、自分も幼いころにこれと同じ人形と遊んだと懐かしがって手に取ります。それには展覧会会場に並べられていた人形たちがびっくりしました。トチーが一文人形と呼ばれる安価なものなのに、女王陛下が足を止めたからでした。とりわけ昔、トチーと一緒に人形の家にいたマーチペーンという花嫁人形は嫉妬を募らせます。

運命とは時にいたずらなものです。展覧会が終わってエミリーとシャーロットのもとに戻され、人形の家で家族で楽しく過ごしていたトチーのもとへ、姉妹へのクリスマスの贈り物として、こともあろうかあの花嫁人形のマーチぺーンが届くのです。

そしてマーチぺーンは、エミリーによって人形の家の女主人になり、プランタガネット一家は使用人として屋根裏部屋に押し込められます。そのうえ、りんごちゃんはマーチぺーンの子どもとされてしまうのです。妹のシャーロットはそれに抗議するのですが、そう決めたのはお姉さんのエミリーで、頑として聞きませんでした。

人形の家の居間には、白い磁器のランプがあり、誕生祝用の小さなロウソクを立てれば灯がともるようになっていました。ある日、りんごちゃんがそのランプに近づき過ぎて、今にも火が燃え移ろうとした時、犬のかがりが異変を見つけて吠えはじめます。すると居間に近づくなとマーチペーンに言われていたにもかかわらず、ことりさんが居間に駆け付け、身を投げ出してりんごちゃんを助けたのです。セルロイドで出来ていることりさんは、りんごちゃんを押しのけた瞬間、引火して燃え尽きてしまったのでした。その間、マーチペーンは薄ら笑いを浮かべてソファに座っているだけでした。

エミリーとシャーロットが人形の家の異変に気付いて、人形の家を開けた時にはことりさんはどこにも名残を留めていませんでした。姉妹は、人形の家で起きた事の次第を理解し、マーチペーンは博物館へ寄贈されることになりました。そしてことりさんのいない人形の家で、トチーとプランタガネットさん、りんごちゃんの平穏な生活がまた続くのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 



この本の作者ルーマー・ゴッデン(1907~1998)は、イギリスのサセックス州で生まれ、12歳までインドで育ちました。 その後、教育を受けるためイギリスに戻るのですが、学校に適応できずにいたことが、猪熊葉子さんが昨年出版された『大人に贈る子どもの文学』(猪熊葉子/著 岩波書店 2016/8)の203ページに記されています。異文化の中で育った幼少期と、イギリスでの厳格な教育の中で葛藤したゴッデンは、後に自由教育の立場の教師に出会い、書くことの訓練を受けたということです。こうした経験を通して、物事を相対的に見る力や、想像性を豊かにしていったのです。

ゴッデンは、『人形の家』の物語を通して、人間関係の中にあるさまざまな葛藤や、それでも最後には必ず人は幸せに気づくことができると、子どもたちに伝えようとしたのでしょう。この物語の終盤で、トチーとプランタガネットさんの会話の中で、

「ぼくたちのような小さいものにとって、人形にとってさえ、そうだ。よいことも、悪いことも、そうだ。でもよいことはもどってくる。そうだろ、トチー?」プランタガネットさんは気がかりになってききました。
「もちろん、そうだわ。」トチーは持ち前の親切な木の声でいいました。
「よいことと悪いことか。ずいぶん悪いことがあった。」とプランタガネットさんはいいました。「でも、それも来ては、去っていくんだわ。だからわたしたちも今はしあわせにやっていきましょう。」とトチーがいいました。   (『人形の家』岩波少年文庫 p230~231)

と、語らせています。

あるインタビュアーが、現実には悪が勝つこともあるのでは、といういじわるな質問をすると、“ゴッデンは、「最後は悪は打ち負かされるものです。もっともよい児童文学作品を検討してみれば、そこではすべて、最後に悪が打ち負かされることがわかるでしょう。物語の途中では、ぞっとするほど恐ろしく、また破壊的かもしれない悪であっても、打ち負かされるのです。無意識のうちに私たちは、子どもが悪より善が強いのだということを信ずるようになることを望んでいるのでしょう。(中略)私は、児童文学作品は倫理的でなければならないと固く信じています。」”(『大人に贈る子どもの文学』p204~205より)と、インタビューに答えたということです。

 
 

 

こうした点についてリリアン・スミスは、『児童文学論』(石井桃子、瀬田貞二、渡辺茂男/訳 岩波書店 1964/4)の中で、“この本は、作中に出てくる登場人物の人形をのりこえて、人間世界の根本問題にまで触れているのである。つまり、善と悪、正と邪、はかなく消えてゆく価値に対して真実なるもの、などの問題であり、このようなことは、すべての人に重要な問題なのである。(中略)だが、子どもは、こうした内に秘められた意味をとらえることはできないし、子どもが喜ぶのはそのストーリーである、と主張する人がいるかもしれない。しかし、知覚の鋭い子どもたちは、おのずからこのストーリーの底にながれる意味のいくぶんかを感じとって、かれらをとりまく世界にたいして、いっそう敏感な心をもつようになるのである。”(p276~277)と、述べています。

 

 

 

 

 

 

なお、『児童文学論』は2016年に岩波現代文庫から出ています。(2021年1月追記)

 

 

 

 

 

そういえば私自身も子ども時代に、叔母に贈られた着せ替え人形と、その周りにキューピー人形やぬいぐるみなどを置いて、それぞれに身近な大人たちの役割を割り振り、大人たちの言うような言葉を言わせて遊びました。後に自分の娘たちが同様にドールハウスで遊ぶようになったとき、人形に言わせるセリフが、やはり大人の鏡のように感じ、子どもの感性は鋭いと思ったものでした。

エミリーとシャーロットの人形遊びでありながら、人生の深い意味を内在させるこの『人形の家』の物語は、子どもたちの遊びの中に見え隠れする、その鋭い感性を見事に描いた作品と言えるでしょう。時代は大きく変わったとはいえ、今の子どもたちも人形で遊ぶことを好みます。そしてこの作品も、これからも読み継がれるよう手渡していきたいと思います。

 (作成K・J)

2020年11月、12月の新刊から(その1)


11月、12月に出版された絵本を紹介いたします。一部、見落としていた11月以前に発行された新刊も含まれます。また読み物に関しては、年末年始のお休みに読んで年明けに紹介できればと思います。

今回は表参道クレヨンハウスで購入したもの、横浜日吉のともだち書店に注文し送付いただいたもの、出版社を通して著者、翻訳者から献本していただいたものを、読んで記事にしています。

その他の書籍に関しては銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

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【絵本】

『ポラーノの広場』宮沢賢治/作 みやこしあきこ/絵 三起商行 2020/10/24(出版社サイト→こちら

宮澤賢治がイーハトーブを舞台に描く童話が絵本になりました。体裁は絵本ですが、88ページの大作です。
みやこしあきこさんが描く絵が、賢治の幻想的なイーハトーブの世界観を見事に表現しています。

「つめくさの花の かおる夜は
 ポランの広場の 夏まつり」

モリーオ市の博物局で働くキューストと、農夫の子ファゼーロが出会って、昔話に語られる野原の真ん中にあるポラーノの広場を探し求めていきます。ミキハウスの宮沢賢治の絵本シリーズの33巻めの絵本です。

 

 

 

 

『おやこでよもう/金子みすゞ もしもわたしがおはななら』金子みすゞ/詩 松本春野/絵 JULA出版局 2020/11(出版社サイト→こちら

おやこでよもう/金子みすゞ」シリーズの最新刊(5冊目)です。
「おはなし会プラン(2021年2月その1)」(→こちら)で紹介した「はねぶとん」以外に、「つもったゆき」、「いしころ」、「おはなだったら」、「おおきなもじ」、「ほしとたんぽぽ」など全部で9編の詩が紹介されています。
ナビゲーターは、歌舞伎役者の中村勘九郎さん。コロナ禍だからこそ「ほしとたんぽぽ」にうたわれている見えないもののつながりや大切さについて語っていらっしゃいます。優しい表情の子どもたちを描くのはいわさきちひろさんの孫の松本春野さんです。

 

 

 

 

『あの湖のあの家におきたこと』トーマス・ハーディング/文 ブリッタ・テッケントラップ/絵 落合恵子/訳 クレヨンハウス 2020/11/1(出版社サイト→こちら

 

クレヨンハウス創業45周年を記念して落合恵子さんが翻訳し出版された絵本の1冊です。
作者の曽祖父が4人の子どもたちと自然の中で暮らすために湖の畔に建てた家が約90年近い歴史を経てどう変わってきたかを描き出しています。曽祖父一家はユダヤ人だったためナチスが権力を握るとイギリスへ亡命します。その後、まずは音楽好きな一家が移り住み、彼らがオーストリアに逃げると、その知人の夫婦がその家に隠れ住みます。戦後、他の家族が移り住みますが、その後湖と家との間に大きな壁が築かれてしまいます。いわゆるベルリンの壁でした。その後、空き家になっていたのですが、作者の手によってレクリエーションセンター(Alexander House)に生まれ変わりました。一軒の家の歴史から戦争に翻弄される人々の暮らしが伝わってきました。

 

 

 

 

『こうさぎたちのクリスマス』エイドリアン・アダムズ/作・絵 三原泉/訳 徳間書店 2020/11/30 (出版社サイト→こちら

 

クリスマス前に紹介できればよかったのですが、遅れてしまいました。ツリーハウスに住むうさぎの少年オーソンは、村のこうさぎたちに「おとなにはないしょ」でクリスマスパーティーの準備を頼まれます。オーソンの家の庭でこうさぎたちがクリスマスの準備をする様子がとても美しく描かれています。
小さなこうさぎたちに頼りにされるオーソンが、最初は面倒臭がりながらも最後はサンタになりきって大活躍します。『みならいうさぎのイースターエッグ』(→こちら)の姉妹本です。なお、この絵本は1979年に佑学社より乾侑美子訳で出版されていました。(→こちら

 

 

 

 

『悲しみのゴリラ』ジャッキー・アズーア・クレイマー/文 シンディ・ダービー/絵 落合恵子/訳 クレヨンハウス 2020/12/1(出版社サイト→こちら

こちらもクレヨンハウス45周年を記念して出版されました。ママを亡くした男の子のそばにゴリラが現れて、男の子の悲しみにそっと寄り添ってくれます。
「どうしてママはしんだの?」
「いのちあるものはかならずしぬんだ。あいするものをおいていくのはかなしいけれど。」
「いつになったら、かなしくなくなるの?」
「ママがずっといっしょにいるとわかったときだよ。」
男の子がパパとその悲しみを分かち合えた時、ゴリラはそっと消えていきます。大切な人を喪うという深い悲しみに寄り添い、それをゴリラのような大きな腕で丸ごと受け止めてくれる、そんな絵本です。
2020年、新型コロナウイルス感染症で多くの人が亡くなりました。ニュースで伝えられる人数は、その数の一人一人に大切な家族がいて、かけがえのない人生があったことまで想像しないと、自分事として受け止められません。

今年は、感染予防のために、新型コロナウイルスでない他の病気で入院している場合でも、あるいは高齢で施設で過ごしている家族にも、面会ができないという事態になって、最期の別れに立ち会えないという大きな悲しみに揺れた人も多くいたことと思います。私も母を7月に天国に見送りましたが、東京からの面会は謝絶と言われ、最期を看取ることができませんでした。

2020年の最後の投稿で、この絵本『悲しみのゴリラ』を紹介できることを、運命の巡り合わせのように感じています。

 

 

 

 

『怪物園』junaida/作 福音館書店 2020/12/5(出版社サイト→こちら

 

昨年『の』(→こちら)という絵本で話題になったjunaidaさんの新刊絵本です。
怪物たちをたくさん乗せて長い旅をしてきた怪物園が、ある夜うっかり玄関を開けっぱなしにしたために、怪物たちが街にあふれ行進するようになります。外で遊べなくなった子どもたちは、空想の世界で遊び始めるのです。
この不思議な世界観はぜひ手に取って味わってみてほしいと思います。

 

 

 

 

(作成K・J)

おすすめの幼年童話45『げんきなぬいぐるみ人形ガルドラ」モドウィナ・セジウィックさく


今回は、いつも前向きな主人公に元気がもらえるお話を紹介します。

『げんきなぬいぐるみ人形ガルドラ』モドウィナ・セジウィックさく 多賀京子やく 大社玲子え 福音館書店 2014


 主人公のガルドラは、小さな女の子メリーベルのぬいぐるみ人形です。目は黒いボタン、髪の毛は黒い毛糸の手作り人形でしたが、ほかの人形にまけないくらい、人形らしいやりかたで、笑ったり、うたったり、泣いたりしました。この本にはそんなガルドラのお話が4話入っています。

 1話目の「星のブローチ」というお話では、ガルドラは、小川に落ちて、どんどん流されてしまいます。そんなときでもガルドラは、(牛がぶつかってきてくれて、よかった。乳母車がたおれて、おかげで外へでられたよ・・・川を流れていくのは、ゆかいだな)なんて考えて、いつでも前向きです。このときは、親切なおじさんに拾われて、きちんと乾くように、橋の手すりにかけてもらいます。すると、ガルドラの組んだ腕の上に、コマドリが巣をかけたのです! その後、ちゃんとメリーベルに見つけてもらい、ヒナが巣立っていくと無事に家にもどります。そして、ガルドラを自慢に思ったメリーベルから、ぴかぴか光る星のブローチをもらうのです。

 他のお話でも、屋根の上にのせられてしまったり、ピクニックへ連れて行ってもらえなかったりと、ガルドラは災難ばかりにあいます。けれども、いつもよいほうに考えて元気いっぱい、最後はちゃんとメリーベルのもとに戻ります。これからどうなるのかハラハラしながらも、平気の平左で乗り越えていく主人公に、勇気をもらえ、明るい気持ちで読み進めていくことができるでしょう。また4話目の「森のおく」は、ブルーベルの青くかがやく光にみちた、魔法のような光景が広がる、また一味違った魅力のあるお話になっています。
 
作者はインドに生まれ、イギリスで執筆活動をつづけた作家で、ガルドラのお話は英国放送協会(BBC)の子ども向けラジオ番組で放送されたものが基となっています。可愛らしい装丁になっており、大社玲子氏によるあたたかく柔らかな挿絵も親しみやすいです。元気なガルドラのお話、ぜびおすすめしてみてください!

(作成 T.I)

基本図書を読む33『シートン動物記3 カランポーのオオカミ王 ロボ』アーネスト・T・シートン(再掲載)


2016年12月20日に投稿した記事の再掲載です。

この間に福音館書店版の『シートン動物記』と『シートン―子どもに愛されたナチュラリスト』は絶版になっています。除籍する際は、手に入らないことも含めて、気を付けてください。

童心社版については、出版社のサイトを追加しました。

 

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 今月の基本図書として取り上げるのは、『シートン動物記3 カランポーのオオカミ王 ロボ』(アーネスト・T・シートン作・絵 今泉吉晴訳 福音館書店 2003)です。作家、画家でもあり、環境に関する運動にも取り組んだナチュラリスト(自然が好きで、自然とともに生き、たえず自然に目をむけて、自然について深い学識をもつ人)だったシートンが描いた動物物語の中でも有名な作品です。

 
ロボ―カランポーのオオカミ王 (シートン動物記 3) 
アーネスト・T.シートン/作・絵
今泉吉晴/訳
福音館書店
2003/06/20

 

 

 

 

 

 

 著者のシートンは、イギリス生まれですが、5歳のとき家族と一緒にカナダの開拓農場に移住し、大自然とそこに生きる野生動物たちに親しみました。その後、画家になるためにロンドンで絵の勉強をしますが、野生動物と共に生きながら研究したいという気持ちが大きくなり、トロントに戻り、ナチュラリストとして生きる道を探り始めます。そんなシートンが「ナチュラリスト、作家、そして画家としての仕事をひとつにひっくるめた自立した人生」を確固たるものとした作品がオオカミ王ロボの物語です。この作品は、シートンが経験した事実をもとに描かれています。

 今から120年程前、アメリカのニューメキシコ、カランポーという砂漠のような高原地帯が広がっている土地に、「オオカミ王」と呼ばれたロボというオオカミがいました。普通のオオカミよりも圧倒的に体が大きく、優れた知性をもったロボは、4頭のオオカミを引き連れ、カランポーの牧場のウシに大きな被害をもたらしていました。ついにはロボの首には、当時豪邸が買えるくらいの大金1000ドルという懸賞金がかけられますが、挑戦者はことごとく打ち負かされ、依然ロボの群れは自由なふるまいを続けていました。そこで動物の生態に詳しいシートンに声がかかるのです。シートンは、どんな動物でも生きていく権利があると考えるナチュラリストでしたので、この仕事を引き受けることに迷いはありましたが、その迷いを抱えながらも、ロボの存在にひかれ、真剣に勝負を挑みます。

 シートンは、人間の匂いがつかないように、ウシの血にひたした手袋をはめ、骨でつくったナイフを使って巧妙に罠をしかけたり、H型の罠を作ったりなど、あらゆる知恵を絞ってつかまえようとしますが、ロボは見事に見破ります。そんなロボをシートンは観察し続け、やがて一頭、ロボの前を走ったりして群れをみだすものがいることに気がつきます。ロボの連れ合いと言われていた白く美しいオオカミ、ブランカでした。シートンはまずこのブランカを捕まえることに成功し、動揺して適切な判断ができなくなったロボを捕えるのです。

 動物を愛しながらしとめる立場となったシートンですが、ロボと真剣に向き合う姿勢から、シートンがいかにロボに敬意を抱き、共感していたのか伝わってきます。人間は動物を圧倒する力を持っているように見えるけれども、人間と動物は同じ生きものとして共に生きていく権利を持っているのだというシートンの姿勢は貫かれています。訳者あとがきには、「シートンがいなければ、このように野生動物にやさしくなれる自分に、気づくことはなかった。作者(シートン)が動物たちのくらしを、わたしたちが深く考えられるように、描きだしてくれたことに感謝したい。」(P89)という読者の感想が紹介されています。動物への深い理解と愛を持ったシートンが描いた物語は、動物もくらしを持ち、感情を持ち、その生をまっとうしようとしているのだということを、私たちに伝えてくれます。

 この本にはシートン自身が描いた絵やカットが豊富におさめられています。画家をめざし、どうすれば野生動物の美しさを描くことができるのか考えていたシートンの描いたロボは、荒々しく躍動感があります。以前絵のワークショップで、シートンの絵を一生懸命に写している男の子がいました。緻密に愛情を持って書かれた絵は、思わず描いてみたくなるほど力があるのだと改めて思いました。

 訳者の今泉吉晴氏も動物学者で、シートンに深く共感し、自然の中で動物を観察してきたナチュラリストです。動物への理解とシートンへの共感をもって、美しい文章で訳しています。今回は福音館書店で出版されたものを紹介しましたが、同じ訳者で、童心社からも出版されています。

 
『ロボ―カランポーのオオカミ王(シートン動物記)』
アーネスト・T・シートン/作・絵
今泉吉晴/訳・解説
童心社
2010/02/10
(出版社サイト→こちら

 

 

 

 

 

 こちらの訳は福音館書店版よりも簡潔な文章になっています。また巻末に「Q&A」があり、シートンについてや当時の社会状況、動物の習性などがわかりやすく解説されています。文学的なものが好きな子には福音館書店版を、動物に興味がある子には童心社版をといった具合に、子どもによっておすすめする本を変えてもよいかと思います。シートンの作品は、物語のあらすじを中心に書いた抄訳版も多数出版されていますが、シートンの動物に対する真摯な姿勢を知るには完訳版がよいでしょう。

  またシートンの伝記として、今泉氏が執筆した『子どもに愛されたナチュラリスト シートン』(今泉吉晴著 福音館書店 2002)があります。

 
『シートン―子どもに愛されたナチュラリスト 』
今泉 吉晴/著
福音館書店
2002/07/20

 

 

 

 

 

  この伝記は、今泉氏がシートンのすばらしさを伝えたいという思いから、シートンの生涯をシートンの作品や豊富な資料をもとに丁寧に描き出しています。ナチュラリストとして生きていく道を確立するまでに苦労があったこと、またアメリカの先住民の考え方・生き方に共感していたこと、ウッドクラフト運動など社会運動にも積極的だったことなど、シートンの人生を知ることができると同時に、どのような出会いをもってシートンの思想が作り上げられていったのかを知ることができます。この本の中で、今泉氏はシートンの動物物語について次のように書いています。

「シートンの動物物語は、動物の世界のほんらいの楽しさと、人間に圧迫される、きびしく、悲惨なくらしの現実をつつみかくさず伝えていました。しかも、そのきびしい現実のなかに、人間らしい新しい意味を見いだし、未来に夢をもとうというメッセージがこめられていました。自然をふみにじり対立するのではなく、自然と親しみ、先住民の知恵と文から学び、自分たちのくらしを簡素に豊かにしようと、うったえる作品でした。」(P229) 

 シートンの伝えてくれたメッセージは、21世紀を生きる私たちにも響きます。ぜひ次の世代にも継いでいきたい作品です。

 (作成 T.I)

2020年10月、11月の新刊から(修正アリ)


10月、11月に出版された絵本、児童書、および参考資料を紹介いたします。(一部、見落としていた10月以前に発行された新刊も含まれます。)

今回は表参道クレヨンハウスで購入したもの、横浜日吉のともだち書店に注文し送付いただいたもの、出版社を通して著者、翻訳者から献本していただいたものを、読んで記事にしています。なお、一部9月以前に出版された本もあります。

その他の書籍に関しては銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

 

【絵本】

『つるかめつるかめ』中脇初枝/文 あずみ虫/絵 あすなろ書房 2020/8/15 (出版社サイト→こちら

自分の力ではどうしようもないことが起こった時、昔の人達はおまじないの言葉を唱えて、それを乗り越えてきたそうです。
今年1月以降、世界を襲った新型コロナウイルスによるパンデミックは、子どもたちには一体それが何なのかさえ理解できず、大人の不安がそのまま投影され、より不安を感じていることでしょう。
「くわばらくわばら」「まじゃらくまじゃらく」「とーしーとーしー」「ちちんぷいぷいちちんぷい」。そんな言葉を声に出してみると気持ちがすっと楽になりそうですね。最後のページの「なにがあっても」「だいじょうぶ だいじょうぶ」の言葉がどれほど安心を与えてくれることでしょう。親子で読んでほしいですね。

 

 

 

『アルフィー』ティラ・ヒーダー/作 石津ちひろ/訳 絵本塾出版 2020/9(出版社サイト→こちら

ニアは6歳の誕生日に同い年だというカメのアルフィーを買うことにしました。ニアにとって、カメでもアルフィーは友達です。たくさん話しかけますが、アルフィーの反応は薄いまま。さて、7歳の誕生日を前にアルフィーが行方不明になってしまいます。さて、アルフィーはどこへ行ってしまったのでしょう?絵本の後半はアルフィーの視点から描かれます。そして驚きの結末を知って、胸が熱くなります。この絵本は作者ティラ・ヒーダーの体験をヒントにしているそうです。

 

 

 

 

 

 

『まどのむこうのくだものなあに?』荒井真紀/作 福音館書店 2020/10/10(出版社サイト→こちら

ため息が出るほど美しい絵本です。ほんとうにこれが子ども向けなのかと思うほどのクオリティです。題材はくだもの。最初のページは黒一面に四角い窓が切り抜いてあり、次のページに描かれている果物の一部が見えています。子どもたちは、その窓から見える情報をもとに果物の名前を当てる文字のない絵本です。写真ではなく絵であることにも驚きですが、果物の反対のページには果物を半分に切った断面が描かれており、それも窓を通して見ることが出来ます。自然の造形の美しさ、センス・オブ・ワンダーをこのような形で子どもたちに示すことのできる絵本は稀有といってもいいのではないでしょうか。

 

 

 

 

 

『おばけのジョージ― メリーメリークリスマス!』ロバート・ブライト/作 こみやゆう/訳 好学社 2020/10/19(出版社サイト→こちら

おばけのジョージ―シリーズの最新刊です。クリスマスに向けて、もみの木に飾りつけをして、美味しい食事を用意し、家族や友達とにぎやかに過ごすためにわくわくしながら準備をしているのに、たったひとり丘の大きなお屋敷に住むグロームズさんだけは変わり者で、クリスマスなんて大嫌いでした。ところがその年は、姪と甥のサラとトニーを預かることになってしまったのです。サンタなんてとんでもないというグロームズさんでしたが、サラとトニーはおじさんのためにもサンタさんに宛てた手紙を書くのです。今回もおばけのジョージ―と仲間たちが大活躍。グロームズさんも最後には笑顔になるのですが、どんなことがあったのかは読んでのお楽しみに!

 

 

 

『ピーターラビットのクリスマス 25の物語のアドベント』レイチェル・ボーデン/文 長友恵子/訳 文化出版局 2020/10/25(出版社サイト→こちら

ピーター・ラビットのお話を愛読してきたレイチェル・ボーデンが、そのお話からインスパイアされて新しく描き下ろしたクリスマスアドベントの物語です。12月1日から25日まで毎日1章ずつ読み進めていくことが出来るのです。ひとつひとつのお話の終わりには、クリスマスにちなんだ遊びやレシピが紹介されています。ビアトリクス・ポターが描いたピーター・ラビットのシリーズに出てくる仲間たちも登場するおはなしは、どれも心温まるものばかりです。

 

 

 

 

 

 

『まほうつかいウーのふしぎなえ』エド・エンバリー/作 小宮由/訳 文溪堂 2020/10(出版社サイト→こちら

モノクロの絵の中に作り出される影、色、光。錯覚をテーマにした絵本です。コマ割りで描かれたカエルに姿を変えられた王子と魔法使いウーの会話の部分と、見開きで現れる錯覚を起こさせるモノクロの模様画が交互に出てきながら、おはなしが進んでいきます。
不思議で、面白いアート絵本です。

 

 

 

 

 

『なぞなぞのにわ』石津ちひろ/なぞなぞ 中上あゆみ/絵 偕成社 2020/10(出版社サイト→こちら

春夏秋冬、四季折々の庭の中に描かれる花や虫、小動物・・・眺めているだけでも心豊かになります。絵の中に隠れているものを、なぞなぞで問いかける絵本です。なぞなぞはちょっと難しいかな。それでも、最後に答えが出ていて「あ~そうか!」と思って、もう一度絵をよく見て、何度でも探して遊べます。読み聞かせというよりは、親子で絵を探して遊ぶ、そんな絵本です。

 

 

 

 

 

 

『ふゆごもりのまえに』ジャン・ブレット/作 こうのすゆきこ/訳 福音館書店 2020/11/5(出版社サイト→こちら

はりねずみのハリーは、冬ごもりの前に農場の中を一回り散歩をすることにします。ところが農場の動物たちに出会うたびに、ハリーが冬ごもりした後の冬の景色の美しさを次々に聞かされます。ハリーは、この冬は起きていてそれを目撃したいと巣穴に入らずにいたのですが、夜になって凍え死にそうになってしまいます。それを助けてくれたのは農場の女の子リサ。リサはハリーが冬景色を楽しめるように、ハリーを温かいティーポットカバーに入れて窓辺に居場所を作ってくれました。ハリーは生まれて初めて雪を、つららを、氷のはった池をみることが出来たのでした。ペットとして今はりねずみが人気だそうですね。そんな愛らしいハリネズミの寝姿も見られる絵本です。

 

 

 

『ねこはすっぽり』石津ちひろ/文 松田奈那子/絵 こぐま社 2020/11/5(出版社サイト→こちら

愛らしい猫のいろいろな格好を楽しいオノマトペで表現した絵本です。「ごろりーん ごろりーん ねこはすきなばしょで ごろりーん」「のびーん のびーん ねこはどこまでも のびーん」「ぴょーん ぴょーん ねこははこのなかへ ぴょーん」。帯に書かれた作者のことばには「猫たちは気の向くままに、遊び、食べ、よく眠る。時にはニンゲンが頭を抱えるくらいのいたずらをする。軽やかに跳んで、走り回り、思い切り体をねじったり、気持ちよさそうにのびをする。(中略)この絵本の猫のように、世界中の子どもたちがのびのびと安心して過ごせる日常が早く戻ってきますように。」とあります。そんな温かい思いを感じられる絵本です。

 

 

 

『サンタさんのおとしもの』三浦太郎/作 あすなろ書房 2020/11/20(出版社サイト→こちら

クリスマスイブにおつかいにでかけた女の子は、大きな赤いてぶくろを拾います。これはサンタさんの落とし物に違いないと思った女の子はサンタさんを探すことにします。町でいちばん高い教会の塔に登って見渡すと、今まさにサンタさんがえんとつに入っていこうとしているところでした。しかもそこは女の子のおうち。女の子は大急ぎで家に走って帰ります。女の子は無事にサンタさんに落とし物を渡せるでしょうか?黒い背景に赤や緑、白の色が鮮やかな楽しい絵本です。

 

 

 

 

 

『赤ずきん RED RIDING HOOD』ビアトリクス・ポター/再話 ヘレン・オクセンバリー/絵 角野栄子/訳 文化出版局 2020/11/22(出版社サイト→こちら

ピーター・ラビットのシリーズを書いたビアトリクス・ポターが再話した『赤ずきん』です。それに絵本作家へレン・オクセンバリーが絵をつけたものを角野栄子さんが翻訳されました。
シャルル・ペロー再話の昔話に近いストーリーですが、ヘレン・オクセンバリーはその文章を手にしたときに野の花の咲く牧草地や、白樺林などの広がるイギリスの田舎の風景を思い出したそうです。見返しページには赤ずきんの家からおばあちゃんの家までの地図が描かれていて、たしかにピーター・ラビットも出てきそうな雰囲気です。結末は「そして、それが赤ずきんのさいごでした。」で終わっていますが、ヘレン・オクセンバリーの絵がその先の物語を想像させてくれて救いを感じました。

 

 

 

『ネコとなかよくなろうよ』トミー・デ・パオラ/作 福本友美子/訳 光村教育図書 2020/11/30(出版社サイト→こちら

今年3月に亡くなったトミー・デ・パオラさんの1979年の作品です。日本では1990年にほるぷ出版から『きみとぼくのネコのほん』(森下美根子/訳)として出版されていました。ネコがどのようにして人間の生活の中にペットとして飼われるようになったのか、どのような種類がいて、どんな特徴があるか、飼う時はどんなことに気をつければいいのかを、ネコを保護しているキララおばさんと、ネコをもらいにきたパトリックの会話形式で知ることができます。なお新版では、ネコをもらったら最後まで飼うというのが今はルールとして浸透しているため、主人公がたくさんネコをもらってきたのに両親から1匹だけと言われておばさんに返しに行く結末の部分がカットされたとのことです。10月29日に紹介した『クリスマスツリーをかざろうよ!』(→こちら)と同じ判型、形式の絵本です。

 

 

 

 

『大統領を動かした女性 ルース・ギンズバーグ 男女差別とたたかう最高裁判事』ジョナ・ウィンター/著 ステイシー・イナースト/絵 渋谷弘子/訳 汐文社 2020/11第2刷 (初版は2018年3月)(出版社サイト→こちら

今年9月18日に亡くなったギンズバーグ最高裁判事のニュースは、アメリカ大統領選挙のニュースとともに耳にした人も多いことでしょう。(BUSINESS INSIDER記事→こちら)その後、トランプ大統領は即座に自分に有利になるよう保守派の最高裁判事を任命し話題になりましたね。それに合わせてこの度増刷されました。
R.G.Bと呼ばれて若い人からも人気の高かったギンズバーグは貧しい家庭に生まれたものの努力を惜しまず学び続け、弁護士になってからも男女差別と闘い、大統領の心を動かすアメリカの正義と平等を象徴する女性となっていく姿を描いた伝記絵本です。この翻訳絵本が2018年3月に出版された時はまだ存命だったギンズバーグさん。あとがきに「84歳となったR.G.Bは衰える気配などまったく見せていない」と記されていて、心に迫ります。

 

 

 

 

【読み物】

『ハジメテヒラク』こまつあやこ/作 講談社 2020/8/25(出版社サイト→こちら

 

講談社児童文学新人賞を受賞し、デビュー作『リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ』が2019年度中学入試最多出題作になったこまつあやこの待望の2作目です。
遅くなりましたが、YA世代、とくに中学生に読んでほしくて紹介します。
主人公のあみは、小学生の時に友達に仲間外れにされるのですが、そんな時従姉から教えてもらった脳内実況でやり過ごしてきたのでした。そんなあみが、中学受験をして入学した中高一貫校で、ひょんなことから生け花部に入ることになりました。個性豊かな部活の仲間たちの中で様々なことに気づきながら成長していくあみの姿を爽やかに描いた作品です。

 

 

 

 

『雪山のエンジェル』ローセン・セントジョン/作 さくまゆみこ/訳 評論社 2020/10/25(翻訳者さくまゆみこさんのブログ→こちら

本を読むのが大好きなケニアの12歳の少女マケナは、山岳ガイドの父親と学校教師の母親の愛情を受けて幸せに暮らしていました。ところが両親は親族の看病に出かけたシエラレオネでエボラ出血熱にかかって突然亡くなってしまいます。引き取られた家では、死因がエボラ出血熱だと知られるとおばさんにまるでマケナがウイルスをまき散らしている恐ろしい存在かのように扱われ、追い出されてしまいます。スラム街をうろつく中で出会ったスノウと呼ばれる少女は、アルビノでやはり虐殺の危機から逃れてスラム街に流れついたのでした。マケナはスノウからどんな困難な中でも希望をもって生き抜くことを教えられます。しかしスラム街が強制的に破壊された夜、ふたりは離れ離れになってしまいます。その後、アフリカで孤児の保護活動をしているスコットランド人のヘレンと出会うのです。過酷な運命の中で生き抜き、自分の居場所を見つけていくマケナの物語を読みながら、今、この瞬間にも新型コロナウイルスの影響で差別を受けたり、困難な状況下に置かれている子どもたちが世界には多くいることを想像しています。もうすぐクリスマス、そんな子どもたちにもマケナのように暖かいクリスマスが訪れるようにと願うばかりです。

 

 

 

 

『オール・アメリカン・ボーイズ』ジェイソン・レノルズ、ブレンダン・カイリー/著 中野怜奈/訳 偕成社 2020/12(出版社サイト→こちら

今年は、アメリカにおいて黒人に対する差別問題が浮き彫りにされ、「BLM (Black Lives Matter)」が大きく取り上げられました。テニスの全米オープン選手権では女子で優勝した大坂なおみ選手が、無実の罪で暴行死した黒人の名前が書かれたマスクをして毎回登場したことでも話題になりました。
この作品は、2013年に17歳の黒人少年を射殺した白人の自警団員に無罪判決が出て、翌年にまた18歳の黒人少年が無防備なまま警官に射殺された事件に胸を痛めた黒人作家ジェイソン・レイノルズと白人作家ブレンダン・カイリーの二人が書きあげました。出版された2015年にはニューヨークタイムズ紙のベストセラーとなり、さまざまな賞を受賞しました。
この小説は、パーティーに出かけるために立ち寄った店で、白人女性に不注意でぶつかられ警官に万引き犯だと誤認逮捕された黒人少年のラシャドと、その現場を目撃した白人少年クインのそれぞれの立場から、事件が起きた金曜日から翌週木曜日までの1週間の様子が交互に書かれます。2人の作家がそれぞれの体験に基づいて書くからこそ、この物語が現実味を帯びて読むものに迫ってきます。訳者あとがきに「もともと先住民が暮らしていた土地に他の国々からやってきたり、連れてこられた人たちが築いた国に、外見的なアメリカ人らしさなど本来あるわけがなく、なにをもってアメリカ人としての内面の価値とするかを、だれかが決められるはずもありません。しかし社会の中に依然としてある、そのステレオタイプなイメージのために、黒人のラシャドも白人のクインも苦しんでいるように見えます。それは「アメリカ人らしい」という大ざっぱな表現が、現実の多様さを無視したものだからでしょう。」と書かれています。そのギャップに真正面から取り組んだこの作品を、多くの人に読んでほしいと願います。

 

 

 

 

【ノンフィクション】

『自由への手紙』オードリー・タン/語り クーリエ・ジャポン編集チーム/編 講談社 2020/11/17(出版社サイト→こちら

台湾の最年少デジタル大臣のオードリー・タンの活躍ぶりは、新型コロナウイルス感染の拡大に歯止めをかけたことで日本でもずいぶん報道されていました。自分がトランスジェンダーであることも公表しているオードリー・タンさんにインタビューしてまとめられた本です。
「本当に自由な人」とは、「自分が変えたいと思っていることを、変えられる人。自分が起こしたいと思っている変化を起こせる人。それこそ自由な人です。」と語るタンさん。帯にも「誰かが決めた「正しさ」には、もう合わせなくていい」とあるように、ほんとうに自分らしく生きるにはどうしたらいいのか、力強いメッセージが込められています。YA世代にはぜひ手にしてほしい1冊です。

 

 

 

 

『カカ・ムラドーナカムラのおじさん』ガフワラ/原作 さだまさし/訳・文 双葉社 2020/12/6(プレスリリース→こちら

12月4日は中村哲医師の命日です。中村先生がアフガニスタンで凶弾に倒れてちょうど1年になります。1984年にアフガニスタンへ医師として赴き、アフガニスタンの山岳地帯で治療を続けるうちに、その地方の貧困問題に関心を持つようになります。2000年からは飲料水・灌漑用の井戸を掘る事業を始め、03年からは農村復興のための大掛かりな水利事業を始めていました。
亡くなった後に、中村医師の功績を後世に語り伝えようとアフガニスタンで2冊の絵本が出版されました。『カカ・ムラド~ナカムラのおじさん』と『カカ・ムラドと魔法の小箱』です。その2冊を翻訳し、解説をつけたものが日本で出版されました。翻訳は歌手のさだまさしさんです。また通販会社フェリシモの「LOVE AND PEACE PROJECT」を通じて出版のための基金が集められました。日本の子どもたちにも伝えていきたい絵本です。

 

 

 

【その他】

『世界で読み継がれる 子どもの本100』コリン・ソルター/著 金原瑞人+安納令奈/訳 原書房2020/10/31(出版社サイト→こちら

19世紀に刊行された古典的な作品から、映画化されたYA向けの作品まで、ジャンルは絵本、昔話、ファンタジーと広い分野から選ばれた100作品をフルカラーで紹介する本です。1作品につき3ページを使ってその作品の時代背景、作者の経歴、そしてその作品が持っている魅力を語り、次の世代へと受け渡していく価値があることを伝えてくれています。この作品は、児童書の研究者でもなく、マニアックな愛好家でもなく、パヴィリオンブックス社の依頼を受けたプロのライターだそうです。訳者の金原さんは、そういう人が書いたからこそ、客観的にバランスよく説明がなされていて、読み物として読みやすいと指摘しています。たしかにエッセイを読んでいるようで、昔読んだ本は再読したくなるし、未読のままだった本は読んでみようという気持ちにさせられます。この本を片手に、児童書の魅力を再発見する旅に出たくなります。

 

 

 

『世界の児童文学をめぐる旅』池田正孝/著 エクスナレッジ 2020/10/19(出版社サイト→こちら

こちらのエッセイは、中央大学名誉教授で東京子ども図書館理事の池田正孝さんが、イギリスを中心とした児童文学の舞台を、実際に旅をして書かれたものです。『ピーター・ラビットのおはなし』『ツバメ号とアマゾン号』『リンゴ畑のマーティン・ピピン』『運命の騎士』『クマのプーさん』『秘密の花園』『トムは真夜中の庭で』や「ナルニア国物語シリーズ」など、その作品数は22にも上ります。またアンデルセン童話やアストリッド・リンドグレーンの世界や『ハイジ』など、イギリス以外にも北欧やスイスなども訪れ、美しい写真と一緒に物語の舞台や背景をあますことなく紹介しています。この本を読んでいると、自分もかの地を旅したいと熱望してしまいます。せめて本の中で旅をしたいと思います。

 

 

(作成K・J)

おすすめの幼年童話44『テディ・ロビンソンのたんじょう日』ジョーン・G・ロビンソン作・絵


今回は、ほのぼのと楽しく読めるくまのぬいぐるみのお話を紹介します。

『テディ・ロビンソンのたんじょう日』ジョーン・G・ロビンソンさく・え 小宮由訳 岩波書店 2012

テディ・ロビンソンは、小さな女の子デボラのくまのぬいぐるみです。大きくて、だきごこちのいい、ひとなつっこいくまで、毛はうす茶色、目もやさしい茶色です。この本には、そんなテディ・ロビンソンのお話が6つ入っています。

赤ちゃんのベビーシッターになったり(赤ちゃんが起きないようにちゃんとそばに座っていたのです!)、たんじょう日を祝ってもらったり、うでが落ちてお人形病院に行ったりと、ささやかだけれど楽しい、テディ・ロビンソンの毎日が描かれています。テディ・ロビンソンは想像力豊かでユーモアいっぱい、ときどき作る歌もとても愉快です。例えば、たんじょう日パーティーの日に作ったのは、こんな歌です。

ばんざーい、ばんざーい、ばんざーい!
きょうは ぼくのたんじょう日
三じはんに なったらば
お茶を のみに いらっしゃい
あなたに ようじが ないのなら
かえれ というまで いていいよ

さてさて、どんなたんじょう日パーティになったのでしょうか?

挿絵は、ほのぼのとしたお話によく合う線画で、そえられた描き文字も楽しいです。少し分量はありますが、振り仮名もあり、丁寧でわかりやすい文章ですので、読み始めたばかりの子でもすんなりと読めると思います。

同シリーズに「テディ・ロビンソンとサンタクロース」(2012)、「ゆうかんなテディ・ロビンソン」(2012)があり、他出版社からは『くまのテディ・ロビンソン』『テディ・ロビンソンまほうをつかう』(坪井郁美訳 福音館書店 1992)もあります。読むと幸せな気もちになれるテディ・ロビンソンのシリーズ、ぜひ紹介してみてください。

著書のジョーン・G・ロビンソン氏はイギリスの作家で、クリスマスカードや挿絵の仕事をしていましたが、自分でもお話を書くようになったそうです。映画化もされた『思い出のマーニー 上・下』(松野正子訳 岩波少年文庫 2003)や、以前「本のこまど」で紹介した『おはようスーちゃん』(中川李枝子訳 アリス館  2007)などの作品もあります。(→こちら
また、この時期にぴったりの絵本『クリスマスってなあに?』(こみやゆう訳 岩波書店 2012 )もおすすめです。

(作成 T.I)

基本図書を読む32『ニルスのふしぎな旅』セルマ・ラーゲルレーヴ(再掲載)


2016年11月25日に公開した記事の再掲載です。画像等を入れ替えて、修正しました。

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今月の基本図書として取り上げるのは、スウェーデンの女性作家で、1909年にノーベル文学賞も受賞しているセルマ・ラーゲルレーヴ(1858~1940)の書いた『ニルスのふしぎな旅』(上・下巻 菱木晃子/訳 ベッティール・リーベック/画 福音館書店 2007)(原題『ニルス・ホルゲルソンのふしぎなスェーデン旅行』)です。この作品は、スウェーデンで上巻が1906年、下巻が1907年に出版されました。

父親の影響でスウェーデンの文化に親しみを持ち、スウェーデン語の翻訳家になった菱木晃子は、この作品に携わるために、8年をかけてスウェーデンの地理や歴史を学び直したということです。(下巻「訳者あとがき」より)

 
 
ニルスのふしぎな旅〈上〉 (福音館古典童話シリーズ 39)
セルマ ラーゲルレーヴ/作 ベッティール・リーベック/画 菱木晃子/訳
福音館書店
2007-06-20

 

 

 

 

 
ニルスのふしぎな旅〈下〉 (福音館古典童話シリーズ 40)
セルマ ラーゲルレーヴ/作 ベッティール・リーベック/画 菱木晃子/訳
福音館書店
2007-06-20
 
 
 
 
 

スウェーデン南部の村に住むニルスという14歳の少年は、怠惰な上に乱暴者で、学校でも家でも問題児でした。ある春の日、ニルスは両親が教会に出かけている間に、家の中でトムテ(小人の妖精)を虫とり網で捕まえ、からかったため、トムテの怒りをかい、小人の姿に変えられてしまいます。

小人になったニルスは、家で飼っているガチョウのモルテンが、ガンの群れと一緒に北へ飛んでいこうするのを止めようとして飛びつき、そのままモルテンと共にガンの群れに加わって飛び立ちます。その後、群れを率いるアッカに認められ、ラップランドへ向かう旅について行くことになりました。

この冒険の旅は、3月20日に始まり、11月9日に終わる55章の物語として描かれています。小人になった途端に動物たちと会話ができるようになったニルスは、旅の中で出会うさまざまな出来事を通して、互いに尊重し合い、助け合うことの大切さを学んでいきます。家畜にさえ悪戯をしていたニルスですが、知恵をはたらかせてリスの親子を助けたり、キツネからガンの群れを守ったりするなど、しだいに動物たちからの信頼を得ていきます。途中、ガンの群れからはぐれますが、動物園に捕らえられていたワシのゴルゴ(ゴルゴは幼鳥の時に親を亡くしアッカに育てられています)を救い出し、最北の地ラップランドにいたアッカたちに再会します。

夏の間、ラップランドで過ごしたニルスとガンの群れは秋の訪れとともに、故郷の村へと戻ってきます。小人になってしまった今は両親の前に姿を見せられないと、再びガンと共に旅を続けたいというニルスでしたが、両親に捕まえられ祭りの供え物にされそうになったモルテンを救い出そうとして、妖精の魔法がとけ、元の少年の姿に戻るのでした。

この作品は、「子どもたちに自分の国の歴史や地理について楽しみながら学んでほしい」という狙いで、副教材としてラーゲルレーヴに執筆の依頼があり、書かれたものです。私はそのことを、出版を記念した訳者菱木晃子の講演会で伺いました。

そのあたりについて下巻の「訳者あとがき」にも詳しく記されています。

“「スウェーデンの地理にふれながらも、物語として子どもたちが楽しめる本にしたい」という意気ごみのもと、ラーゲルレーヴはこの仕事をひきうけました。そして周到な準備をはじめました。地理、歴史、動植物に関する文献を読み、各方面からの提案や意見に耳をかたむけ、自らの足でスウェーデン各地を取材してまわったのです。”『ニルスのふしぎな旅 下』(福音館書店) p526~527

そうした材料がそろう中、どのような作品にするかを思い悩んだ末、イギリスのキップリング(『ジャングル・ブック』の作品などがある)の作品にヒントを得て、動物たちを擬人化すること、トムテ(小人の妖精)の言い伝えを踏まえて、『ニルスのふしぎな旅』が紡ぎ出されていったのです。

”ここにようやく、ラーゲルレーヴは主人公の男の子をトムテの姿に変えて、ガチョウの背中にのせ、スウェーデンじゅうを旅させることを思いついたのでした。これは、ほんとうにすばらしい思いつきでした。空から地面をながめること、つまり国土を鳥瞰図としてとらえることは、地理の教科書にはもってこいの手法だったからです。もちろん、この設定は物語の導入としても、子どもたちの興味をひくのに十分なものでした。”

 この作品は、副教材としてだけでなく、物語としての面白さが評判となり、大人たちにも読まれるようになり、海外へも広まっていきます。

 
日本では大正半ばの1918年に、原作の一部が香川鉄蔵により翻訳され『飛行一寸法師』と題して大日本図書から出版されています。その後も多くの出版社からこの作品は出版されますが、とても分量が多いためいずれも抄訳に留まっていました。1958年に、香川鉄蔵はラーゲルレーヴ生誕100周年祝賀行事にスウェーデンに招待されたのを機に、完訳することを目指します。しかし完成をみるものの、病に倒れてしまいます。その志を継いだのが息子の香川節で、父の訳出したものを現代風に改めるなどして完成させ、1982年に偕成社から全訳版として出版されました。
 
ニルスのふしぎな旅〈1〉[全訳版] (偕成社文庫) 
ラーゲルレーヴ/作 香川鉄蔵、 香川節/訳
偕成社
1982-12
 
 
 
 
 
 



 偕成社から出版された全訳版は4巻に分かれています。挿絵は、原作と同じリューベックのものが使われています。そのあたりの経緯については、村山朝子の著書『『ニルス』に学ぶ地理教育―環境社会スウェーデンの原点』(叢書 地球発見3 ナカニシヤ出版 2005)に詳しく記されています。(第1章2「完訳までの長い道のり」p19~31)

 
『ニルス』に学ぶ地理教育―環境社会スウェーデンの原点 (叢書・地球発見)
村山 朝子
ナカニシヤ出版
2005-12
 
 
 
 
 
 
 
その後、この作品がたいへん優れているにも関わらず分厚い2冊組で本に親しんでいる子でないと手に取らないこと、内容的には小学校中学年くらいの子どもたちに読んでほしいということから、福音館書店から2012年から2013年にかけて絵物語ニルスが出会った物語シリーズが出版されました。
長い物語のうち、独立して読んでも楽しめる6つのエピソードにしぼり、児童書の挿絵などで子どもたちから人気のある平澤朋子が絵をつけており、とても親しみやすいものになっています。このシリーズを出版するために、菱木と平澤はスウェーデン旅行をし、実際に物語の舞台を歩いたとのことです。
どの物語も美しい絵がふんだんに使われており、長編に挑戦する前の小学校中学年の子どもたちに最適のシリーズです。
 
まぼろしの町 ニルスが出会った物語1 (世界傑作童話シリーズ)
セルマ・ラーゲルレーヴ/作 菱木晃子/訳 平澤朋子/画
福音館書店
2012-05-09



 

 

なお、菱木晃子の公式サイトには「『ニルスのふしぎな旅』を訳して―翻訳こぼれ話」の特集ページがあり、実際に物語に出てくるスウェーデンの町や村、建造物の写真もたくさん紹介されています。(菱木晃子公式ホームページ→こちら 「『ニルスのふしぎな旅』を訳して」のページ→こちら

『ニルスのふしぎな旅』は、今から110年ほど前に書かれた物語であるにも関わらず、前出の村山朝子『『ニルス』に学ぶ地理教育―環境社会スウェーデンの原点』でも指摘されているのですが、早くから環境保全に対する考え方がきちんと記されているのです。

たとえば製鉄所が出来たばかりに棲家を追われるクマについて書かれている28章「製鉄所」では開発か自然保護かということを考えさせられます。また、山火事で木が焼けてしまったところへ植樹する子どもたちを描いている39章「イェストリークランド地方をこえて」では、“木が育ち、森ができれば、このあれはてていた山に、虫が飛びまわり、オオヨシキリの歌声が響きわたり、ライチョウがおどり、すべての命あるものがよみがえります。そうです。これは、つぎの世代のための記念碑のような仕事です。なにもしなければ、裸の山しか残せなかったでしょうに、この仕事のおかげで子孫にりっぱな森をゆずりわたせるのです。”(下巻 p233~234)と、環境を保全することの大切さをさらりと記しています。

またニルスが人間に戻る前に最後にガンのアッカとことばを交わすところでは、アッカに”「いいかね。おまえがわたしたちといっしょにして学んだことがあるとすれば、人間はこの世に人間だけで暮らしているのではないということだろう。人間は広い土地を持っているのだから、自然の岩礁、浅瀬の湖、沼、湿地、未開の山、人里離れた森を、わたしたちのような貧しい生き物が安心して暮らせるように、少しくらい残してくれてもよいと思うのだ。若いころから、わたしは追われてばかりだった。わたしのような者にも安心してすごせる場所が必要だということを、知っていてほしいのだよ」”(下巻53章「ヴェンメイヘーイ丘への旅」 p503)と、言わせています。

作者のラーゲルレーヴは、1858年にスウェーデン中南部ヴェルムランド地方のモールバッカの旧家富農の娘として生まれました。女子高等師範学校を卒業し教師をしながら、小説を書き続けていました。1890年に『イェスタ・ベルリング物語』を書いてコンクールで1等になったことから、作家活動に専念し、1909年にスウェーデン人として、女性として初のノーベル文学賞を受賞しています。

この作品を書いた頃は、イギリスに始まった産業革命の影響で工業が盛んになっていた時代です。急な発展の陰で、自然が破壊されていくのを見ていたのでしょう。子ども向けの作品のなかに、こうした鋭い視点を盛り込みつつ、ニルスが冒険を通して人間的に成長していく様子を、子どもたちの心に沁み渡るように描いており、大変読み応えのある作品です。偕成社の全訳版と合わせて、子どもたちに読んでもらいたいと思います。

(作成K・J)

2020年9月、10月の新刊から(その2・読み物)


9月,10月に出版された絵本、児童書のうち、先週絵本を紹介しましたので、本日は児童書、および参考資料を紹介いたします。

今回は先月久しぶりに訪れた銀座・教文館ナルニア国で新刊チェックをしました。それに加えて横浜日吉のともだち書店に注文し送付いただいたもの、出版社を通して著者、翻訳者から献本していただいたものを、読んで記事にしています。なお、一部9月以前に出版された本もあります。

その他の書籍に関しては銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

 

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【児童書】
《創作》

『めいたんていサムくん』那須正幹/作 はたこうしろう/絵 童心社 2020/9/4  (出版社サイト→こちら

小学2年生のオサムくんは、みんなが困っている時に推理して解決する名人なので、「めいたんていサムくん」と呼ばれています。
ある朝はタケシくんのうわぐつが無くなっているのを、推理でなぜ無くなっているか当てました。ある時は公園で行方不明になった人形を見つけ出しました。また3年生のハルミさんにまとわりつく犬が、なぜそうするのか、推理して解決しました。サムくんの活躍は子どもたちの日常で起きるちょっとした事件です。きっとサムくんのことを身近に感じられるでしょう。小学校低学年向けの幼年童話です。

 

 

 

 

『はりねずみともぐらのふうせんりょこう アリソン・アトリーのおはなし集』アリソン・アトリー/作 上條由美子/訳 東郷なりさ/絵 福音館書店 2020/9/5  (出版社サイト→こちら

『チム・ラビットのおはなし』など動物を主人公にした素敵なおはなしをたくさん残したイギリスの児童文学者アリソン・アトリー(1884~1976)の、おはなし集です。「小さな人形の家」、表題にもなっている「はりねずみともぐらのふうせんりょこう」、そして「のねずみとうさぎと小さな白いめんどり」の3つのおはなしが収められています。どれも夢があって、心がわくわくしてくるおはなしです。読んであげるなら小さな子どもたちでも楽しむことができる幼年童話です。

 

 

 

 

 

 

『かじ屋と妖精たち イギリスの昔話』脇明子/編訳 岩波少年文庫 岩波書店 2020/9/15 (出版社サイト→こちら

素話(ストーリーテリング)でよく語られるイギリスの昔話が、脇明子さんの訳で、新しく編まれました。全部で31のおはなしが、゛ゆかいで短いお話”、゛ちょっとハラハラするお話”、゛知恵が役に立つお話”、゛こわくてドキドキするお話”、゛ふしぎなことに出会うお話”、゛妖精たちの出てくるお話”、゛女の子が幸せをつかむお話”、゛大冒険のお話”、゛すてきな幸運にめぐりあうお話”の8つのカテゴリーに分けられていて、おはなし選びにも役立ちます。「ものぐさジャック」や「トム・ティット・トット」、「三びきの子ブタのお話」、「ジャックと豆の木」、「ノロウェイの黒い雄牛」などよく知られているお話もたくさん。読んでもらうのもよし、自分で読むのもよし、そして自分でおはなしを語れればもっとよし。いろいろな楽しみ方ができる1冊です。

 

 

 

『おとうさんのかお』岩瀬成子/作 いざわ直子/絵 佼成出版社 2020/9/30  (出版社サイト→こちら

利里は3年生が終わった春休み、単身赴任中のお父さんのところで過ごすことにしました。きっかけはお兄ちゃんとけんかをして、顔も見たくなかったからです。お父さんならわかってくれると思ったのに、お父さんともなかなか気持ちが通じ合いません。そんな時、公園で出会った女の子、雪ちゃんは、拾った石に顔の絵を描いて遊んでいました。雪ちゃんとの出会いを通して、利里とお父さんの気持ちも近づいていきます。
だんだん人間関係に悩みはじめる小学校中学年向けのお話です。

 

 

 

 

 

『宇宙の神秘 時を超える宇宙船』ホーキング博士のスペース・アドベンチャーⅡ‐3 ルーシー・ホーキング/作 さくまゆみこ/訳 佐藤勝彦/監修 岩崎書店 2020/9/30 (出版社サイト→こちら

ALS(筋萎縮性側索硬化症)を患いながらも、宇宙物理学を研究し続けたスティーヴン・ホーキング博士が、娘のルーシー・ホーキングさんとともに著したスペース・アドベンチャーシリーズの完結編です。ホーキング博士は2018年3月に亡くなられましたが、存命中にほぼ書き終えていたそうです。前号で、主人公のジョージは、AIロボットのボルツマンとふたりだけで宇宙船アルテミス号で宇宙へ飛び出します。しかし、超高速の宇宙船は簡単には行き先を変更できません。アインシュタインの相対性理論を物語で体験できる壮大な冒険物語です。シリーズですが、単独で読んでも、思わず惹きこまれていきます。後半には「タイムトラベルと、移動する時計の不思議」や「感染症、パンデミック、地球の健康」、「人工知能(AI)」など10のテーマでの科学エッセイも収められており、そこも読みごたえがあります。

 

 

 

 

『おじいちゃんとの最後の旅』ウルフ・スタルク/作 キティ・クローザー/絵 菱木晃子/訳 徳間書店 2020/9/30 (出版社サイト→こちら

おじいちゃんは口が悪くて乱暴で、入院先でも看護婦さんに呆れられ、パパもお見舞いに行きたがりません。でもぼくはそんなおじいちゃんが大好きです。そのおじいちゃんが、おばあちゃんと一緒に住んでいた家に死ぬ前にもう一度行きたいと願っているのを知って、病院を抜け出す計画を立てます。その計画は、パン屋のアダムも巻き込んで完璧ですが、「うそをつく」ことに少しだけ胸が痛みます。それでもおじいちゃんが、思い出の家で一晩過ごせたことは、良かったと思うのでした。死が近いおじいちゃんと孫の、心温まる、ちょっぴり切ない物語です。『おじいちゃんの口笛』などの作品があるスタルクは2017年に亡くなりました。これが最後の作品となりました。

 

 

 

 

『イワンの馬鹿』レフ・トルストイ/作 ハンス・フィッシャー/絵 小宮由/訳 アノニマ・スタジオ 2020/10/2 (出版社サイト→こちら

レフ・トルストイは『戦争と平和』や『アンナ・カレーニナ』などの大作があるロシアを代表する文豪です。その彼は50 代半ばで「無学で、貧しい、素朴な、額に汗して働く人たちの信仰の中に、真実がある」と悟り、「これからは、民衆とともに生き、人生のために有益な、しかも一般の民衆に理解されるものを、民衆自身の言葉で、民衆自身の表現で、単純に、簡素に、わかりやすく書こう」としたのが『イワンの馬鹿』です。人間の幸せとは何なのか、本質的な問いを投げかけてくれる寓話です。
注目すべきなのは、翻訳者小宮由さんです。由さんの祖父、北御門二郎氏は、17歳の時にトルストイの作品、特に『人は何で生きるか』、『イワンの馬鹿』に出会って、トルストイの説く絶対非暴力の思想に目覚め、それまで受けてきた忠君愛国の学校教育がいかに間違っているかということに気づき、良心的兵役拒否をしました。北御門氏はトルストイの翻訳に力を注ぎ、『イワンの馬鹿』も翻訳しました。孫である由さんが、なぜ『イワンの馬鹿』を翻訳することになったのかを書いているあとがきがまた読み応えがあります。 なお、挿絵はハンス・フィッシャーで、繊細でとても素敵です。

 

 

 

『ミスエデュケーション』エミリー・M・ダンフォース/著 有澤真庭/訳 サウザンブックス社 2020/11/6 (出版社サイト→こちら

アメリカで2012年に出版されたYA小説で、アメリカ図書館協会が優れたYA小説のデビュー作品に贈るウィリアム・C・モリス・デビューアワードの最終候補に残るなど高い評価を受けました。
12歳の夏休みに、親友アイリーンの挑戦で初めて彼女にキスしたキャメロン。女の子に惹かれるという性的指向に気づきながらも、周囲の無理解と宗教的葛藤に悩みながらも、仲間たちと自分らしさを見出していきます。LGBTQをテーマにした作品で、日本ではクラウドファンディングを用いて出版されました。アイリーンと過ごした夏休み二日間を描いた第一部、両親の事故死を知っておばあちゃん、ルースおばさんと暮らすことになった中学・高校時代の第二部、同性愛者であることがバレてキリスト教系の矯正施設に強制的に送り込まれる第三部となっています。この作品がデビュー作になったエミリー・M・ダンフォースはロード・アイランド大学の助教授で同性パートナーと暮らすレズビアンです。世間の無理解に苦しむLGBTQの子どもの成長物語を描きたいと、同性愛矯正治療キャンプなどを取材して書かれました。

 

 

 

 

《ノンフィクション》

『子どもを守る言葉『同意』って何?YES、NOは自分が決める!』レイチェル・ブライアン/作 中井はるの/訳 集英社 2020/10/31 (出版社サイト→こちら

『ワンダー』(R・J・パラシオ/著 ほるぷ出版)などの翻訳を手掛けた中井はるのさんが訳出された人権に関するノンフィクション新刊です。SNS などを通して知り合った卑劣な大人に騙される少女の事件がニュースでも報じられました。自分を守るために、イヤなこと、ダメなことを相手にもわかるように意思表示することの大切さを、イラストをたっぷり使って小さな子どもにもわかりやすく説いています。親子で一緒に読みながら、この本で使われる「同意」と「バウンダリー(境界線)」の意味について、話し合えるといいですね。

 

 

 

 

 

【その他】

『子どもの本から世界をみる 子どもとおとなのブックガイド88』石井郁子、片岡洋子、川上蓉子、鈴木佐喜子、田代康子、三輪ほう子、田中孝彦/著 かもがわ出版 2020/9/30 (出版社サイト→こちら

このブックガイドは、月刊誌『教育』(教育科学研究会編集)の1990年11月号から2018年3月号までの、「子どもの本」欄に掲載された紹介・書評のうちの84の記事に書きおろしの4点を加えて、加筆・再構成されたものです。選者の6人は、子育てや生徒と関わる仕事を通して、幼児から高校生までそれぞれの成長過程にふさわしいと思われる本を選び、紹介してきました。その選書基準は、他のブックリストと同様のもに加えて、”子どもたちが新しい世界を知り、おとなの世界も広がっていき、今をそして明日を考えることができる本”という点が特徴的です。世界的なパンデミックの中で、子どもたちの「どう生きるべきか」という問いを感じ取り、おとなも共に考え合える本、子どもの本を通して社会や時代をみつめる本が選ばれています。ぜひみなさんの選書の際の一助にしていただきたいと思います。

 

 

 

『藤田浩子の手・顔・からだでおはなし』なにもなくてもいつでも・どこでも楽しめる⑤ 藤田浩子/編著 保坂あけみ/絵 一声社 2020/10/30 (出版社サイト→こちら

楽しい語りや、わらべうた遊び、おはなし会小道具などを精力的に紹介する藤田浩子さんの新刊です。手元に絵本やさまざまな小道具が無くても、手や顔、身体を使って、子どもたちと触れ合って遊べる遊びやおはなしが50以上紹介されています。1章では小さな赤ちゃんを中心にした親子遊び、第2章では1~3歳向けの遊びやおはなし、3章では4~6歳向けの遊びやおはなしというように分けられています。図書館のおはなし会でも使えるものがたくさんあります。ぜひいくつか覚えて演じてみてください。

 

 

(作成K・J)

おすすめの幼年童話43『空想動物ものがたり』マーグリット・メイヨー再話


今回は、世界各地で語りつがれてきた空想上の動物たちの物語10話を華やかに描いた『空想動物ものがたり』を紹介します。

『空想動物ものがたり』 マーグリット・メイヨー再話 ジェイン・レイ絵 百々佑利子訳 岩波書店 2005


ペガサス、人魚、ユニコーン、サンダーバード、竜、ミノタウロス、フェニックス、など空想上の動物にまつわる物語を紹介しています。ギリシャ神話、北アメリカ先住民の話、中国で語られる物語など、世界各地の神話や伝承から再話していて、色とりどりの不思議なお話を味わうことができます。

空想上の動物は、体の前のほうはライオンの頭、まん中はヤギの頭、尾は長い蛇だったり、蛇につやつやした羽毛が生えていたり不思議な姿で、子どもたちをひきつけるでしょう。太古から語り継がれてきた物語は、洪水や嵐などの不思議な現象、どうして島や大河ができたのか、どうして大地に音楽があるのかなど、この世の起こりを人々がどのようにとらえ、どのように向き合ってきたのかを、伝えてくれます。また、登場する神々や英雄は、人間と同じように、愛や怒り、かなしみといった深い感情をもち、時には我が身を滅ぼします。子どもたちは、これらの物語から、目にみえる世界の表面だけでなく、もっと深くて広い世界があることを知ることができると思います。

大型の本で、神話の世界が美しく豪華な絵であらわされています。再話者マーグリット・メイヨーは、イギリスで学校の先生をしながら、世界各地の神話や民話を子どもたちに語りきかせてきたとのことで、この本での語り口も優しく親しみやすくなっており、初めて神話に触れる子も抵抗なく入ることができるでしょう。また巻末には「ものがたりについて」という解説があり、物語の背景や出典が記されています。

訳者の百々佑利子氏は次のような言葉をよせています。
「人間はペガサスのようにつばさをもっています。空想の力というつばさです、そして物語をつむぎだすことばをもっています。物語はいつまでもかたりつがれていきます。「物語」とは、永遠のいのちをもつ不死鳥フェニックスではないでしょうか。」(表紙カバーより)

しっかりとした物語ですので、少し読み慣れてきた子へのおすすめがよいかと思います。また1話ずつ読んであげてもよいでしょう。豊かな神話や物語の入口となってくれる1冊として、ぜひご紹介ください。

(作成 T.I)

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