2月、3月にかけて出版された子どもの本を紹介します。一部見落としていたそれ以前の作品も含まれています。
今回は、横浜・日吉のともだち書店を通して選書したものと、翻訳者より贈られたものを読み終えた上で記事を書いています。
【新刊紹介コーナー終了のお知らせ】
図書館で子どもたちに「どの本がいい?」と聞かれても、自分が読んだことのない本を自信をもって勧めることは出来ないですよね。したがって図書館に入ってくる新刊本について全て目を通して、この本はここがお勧め、こちらの本はこんなことに興味を持っている子に勧められると、当たりをつけることが児童担当としての大切な仕事です。
ただ、ゆっくりと新刊本を読んでいる時間がない、シフトを回すのが精一杯だという声も多く聞かれます。
それならば、こちらで読んでお勧めのポイントなどを発信していこうと始めたのが、こちらの新刊情報のページでした。
研修などで図書館に伺うと選書のお供にしています、と声をかけていただきました。長い間読んでいただきありがとうございました。「本のこまど」の新刊情報は今回が最終回となります。
以下に、新刊情報について調べたり、書評を読むことができるサイトをまとめておきます。これからはそちらをぜひ参考にしてみてください。
【新刊情報・書評サイト】
*銀座教文館ナルニア国 「きになる新刊」コーナー・・・「本のこまど」紹介記事→こちら
*朝日新聞好書好日「子どもの本棚」・・・朝日新聞の朝刊生活面に掲載された子ども向けのお薦め新刊紹介。比較的出版直後の本が紹介されることが多いです。
*JBBYがすすめる子どもの本・・・新刊ではなく前年に出た本を複数の選考委員がすべて読んで比較検討し、次世代に手渡したい本を選んでいます。出版されてから1年半前後でサイトに掲載されます。
*YouTube「大阪国際児童文学振興財団 公式チャンネル IICLO」新刊子どもの本 ここがオススメ!・・・JBBYの理事でもあり、JBBYの選考委員をつとめている土居安子さんによる新刊紹介です。
【新刊情報・冊子体】
*東京子ども図書館機関誌「こどもとしょかん」・・・厳しい選書基準をクリアした児童書が季節ごとに20~35冊ほど紹介されています。出版されて半年前後で選定されます。
*日本子どもの本研究会月刊書評誌「子どもの本棚」・・・毎月17冊の新刊の書評が掲載されます。出版されて半年前後で書評が掲載されています。
*親子読書地域文庫全国連絡会機関誌(隔月)「子どもと読書」・・・新刊紹介として絵本、低学年向、中学年向、高学年向、ノンフィクション、YAの5つのカテゴリーで3冊ずつ掲載されています。出版から半年前後で書評が掲載されています。
なお、他にも新刊児童書を紹介するサイトや冊子はありますが、選者の目を一度通しているものだけを紹介しています。というのも、毎月夥しい数の児童書が出版されていますが、ほんとうに子どもに手渡す価値があるものは少数だからです。
(*記事作成について書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。)
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【絵本】
『よるはおやすみ』はっとりさちえ/作 福音館書店 2021/11/15(出版社サイト→こちら)
この絵本は年末に届いていたため、本来は1月ごろに紹介すべきでしたが、なぜか書類の中に1冊だけ埋もれてしまっていて、紹介しそびれていました。
寝る準備ができるとおかあさんは子どもに「みんなに おやすみを いってから ねましょうね」と声をかけます。そこで家族みんなに、それから家を出てお友だちにも、そして街の中にあるすべてのものにも「おやすみなさい」を言いにいくのです。そして友だちもいっしょにボートにのって海にも海の魚にも、お月さまにも「おやすみなさい」を言いにいくのです。そして安心して静かな眠りに落ちていきます。2月に紹介した(2021年12月、2022年1月の新刊から→こちら)『ここがわたしのねるところ―せかいのおやすみなさい―』レベッカ・ボンド/文 サリー・メイバー/作画 まつむらゆりこ/訳 福音館書店 2022/2/5 (出版社サイト→こちら)とも重なるテーマです。戦火を逃れて避難している子どもたちの上にも安らかに眠れる日が一日も早く訪れてほしいと願いながら紹介します。
『ポチャッ ポチョッ イソップ カエルのくににつたわるおはなし』アーサー・ビナード/再話 スズキコージ/絵 玉川大学出版部 2022/1/31(出版社サイト→こちら)
平和なかえるの国に、「こんなにへいわではいけません!」とかんがえるものが現れます。「へいわばっかりで もうどいつもこいつも へいわボケしているんだ!」と声をあげ、神さまに強い王さまを送ってくれるように要求するのでした。神様は「へいわに くらせるのが いちばんのしあわせだ。それなのに おうさまをほしがるなんて おかしい。」と諭すのですが、かえるたちは聞きません。しかし、かえるたちが望んだ強い王さまは、かえるたちの存在そのものを脅かすのです。2500年前に書かれたというイソップの物語をベースに、アーサー・ビナードさんとスズキコージさんがイソップ物語の本質は何かと突き詰めながら、現代への風刺も効かせた1冊に仕上げています。
『さくら 語りかけ絵本』こがようこ/文・絵 大日本図書 2022/2/15(出版社サイト→こちら)
赤ちゃんに語りかけて遊ぶこがようこさんの「語りかけ絵本」の5冊目です。さくらのはなびらが、一枚、一枚と風に飛ばされて舞い降りてきます。それを集めて、並べて、遊ぶ絵本です。
満開の桜が咲くころ、親子でお散歩しながら桜の花を見あげ、散りしきる花びらを集めていっしょにこの絵本を読んであげてほしいと思います。
『アフガニスタンのひみつの学校 ほんとうにあったおはなし』ジャネット・ウィンター/作 福本友美子/訳 さ・え・ら書房 2022/2/18(出版社サイト→こちら)
1996年から2001年の間、アフガニスタンはタリバン政権に支配され女子への教育が禁止されていました。でも秘密裏に女の子のために学校を作り、見つからないようにこっそりと勉強を教えていたグループがあったのです。それを知った作者が取材して作成した絵本です。
タリバン政権に両親を連れていかれたナスリーン、おばあちゃんはなんとか広い世界に目をむけてほしいと秘密の学校の戸を叩きます。最初は心を閉ざしていたナスリーンですが、時間をかけて心がほどけていきます。「もうひとりぼっちではありません。じぶんのものにした知識は、なかよしの友だちのように、いつもナスリーンといっしょでした。」という言葉に、石井桃子さんが「本は友だち」と晩年に残されたことばを思い出しました。
昨年夏以降、ふたたびアフガニスタン情勢が悪化し、ふたたびタリバン政権が制圧し、女子教育にも制限がかかるようになっています。ウクライナ情勢もふくめて、世界各地で学ぶ機会が奪われている子どもたちへ心を寄せたいと思います。
『のいちごつみ』さとうわきこ/作 福音館書店 2022/3/5(出版社サイト→こちら)
「ばばばあちゃんの絵本」シリーズに、もう1冊楽しい仲間が加わりました。福音館書店月刊誌「こどものとも」2010年4月号のハードカバー版です。
ばばばあちゃんが春になって暖かくなったので、仲間たちをのいちご摘みに誘います。たくさんのいちごを摘んだので、家に帰っていちごジャムにすることになったのですが、みんながジャムになる前にひとつぶだけ食べたいと言い出して・・・帰り道すがらむしゃむしゃ食べるうちに、家に着いた時にはジャムにするにはほんのわずかに!でも「またとりにいけばいいよ」と前向きなのが、ばばばあちゃんのいいところですね。春にふさわしい1冊です。
『おしりじまん』齋藤槙/作 福音館書店 2022/3/5(出版社サイト→こちら)
福音館書店月刊誌「ちいさなかがくのとも」2018年9月号のハードカバーです。この絵本には動物たちの後ろ姿、つまりおしりの絵が並んでします。
登場する動物はうさぎにカバ、アジアゾウにトラ、シマウマなど20種類。
齋藤槙さんは独自の技法で絵を描いています。それは薄い紙に輪郭を描いた後、小さなパーツにきりぬいていき、その紙一枚一枚に色を塗り、それを貼り合わせて一つの絵にするのです。膨大な手間がかかるのですが輪郭線を書く必要がないことと、見えている色を抜くことが出来る、つまりは色を塗ることに集中できると、以前講演会でお聞きしました。この絵本でも一匹、一頭ずつ丁寧に仕上げられたことがわかります。2歳くらいの小さい子どもから楽しめる絵本です。
『おとがあふれてオムライス』夏目義一/作 福音館書店 2022/3/5(出版社サイト→こちら)
こちらも福音館書店月刊誌「ちいさなかがくのとも」2019年2月号のハードカバーです。お休みの日でしょうか?女の子とお父さんがお昼の準備を始めます。メニューはオムライス。「ず ぱん!」「ぴぴち ぴぴち」はピーマンを刻む時の音、たまねぎのみじんぎりは「じゃっじょっじょっ じゃっじょっじょっ」と音がして、たまごをかき混ぜる時には「しゃらしゃらしゃら」「しょかしょか しょかしょか」、調理の時に聞こえてくる音でその過程が表現されています。ほかほかの美味しいオムライスが完成するとまるで絵から飛び出してきていい匂いがしそうです。親子で読みたい1冊です。きっと読み終わったらお料理始まりますね。
『はるのにわで』澤口たまみ/文 米林宏昌/絵 福音館書店 2022/3/10(出版社サイト→こちら)
生命のエネルギーに溢れた美しい絵本です。
春の庭におひさまの光が差し込むと、小さな昆虫やかえる、かなへびたちが活動を始めます。花の中にはまるはなばち、小さな水たまりにはあめんぼがいます。葉から葉へ渡っていくはえとりぐもをかなへびが狙っています。木の枝についていたかまきりの卵から夥しい数のあかちゃんかまきりが孵ったり、風に揺られて蝶が飛び立ちます。そうっと覗いてみると、そこにはたくさんの生命がそこにいて、春の訪れを喜んでいるのです。この絵本をもって庭や公園に出かけてほしいと思います。自然を題材にした絵本を作っている澤口さんの文章にアニメーション監督の米林さんが美しい絵をつけました。センス・オブ・ワンダーに溢れた絵本です。(福音館書店ふくふく本棚→こちら)
『ニッキーとヴィエラ ―ホロコーストの静かな英雄と救われた少女』ピーター・シス/作 福本友美子/訳 BL出版 2022/3/20(出版社サイト→こちら)
1938年、ナチスドイツはチェコスロバキアに侵攻しました。当時イギリスでは17歳以下の子どもを難民として受け入れていることを知った銀行員のニッキーは、私財をつかって、のちに寄付を募ってチェコスロバキアから669人の子どもたちを避難させました。自費で新聞広告を出して引き取ってくれる家庭を募集し、子どもたちの受け入れの手続きをしていたのです。ヴィエラは、チェコスロバキアで生まれたユダヤ人の女の子。両親やいとこたちと楽しく暮らしていましたが、ナチスの侵攻で生活は一変します。ヴィエラの両親は、彼女をイギリスに送り出す決心をします。別れの日、父さんはヴィエラに日記帳を手渡し「毎日のできごとを書いておきなさい。」と伝えます。ヴィエラの父親は強制収容所で殺され、母親は終戦後、収容所を出たあとで病死します。ヴィエラは一度はチェコスロバキアに戻りますが、両親だけでなくいとこたちも亡くし、イギリスで生活することにしました。ニッキーは戦後、自分がしたことは誰にも告げてなかったのですが・・・50年経ったころ、妻が子どもたちの記録を綴ったファイルをみつけたことで、イギリスの人気番組「これが人生だ」で自分が救った子どもたち(その頃には中高年になっていた)に会うのです。その中にヴィエラもいました。彼女は誰が自分を逃がしてくれたのか知らなかったのです。ヴィエラは父の勧めで日記をつけていたので、それをもとに『キンダートランスポートの少女』という本を書きます。今回の絵本は、ピーター・シスがそれを読んだことから着想したそうです。翻訳者の福本さんは、ロシアのウクライナ軍事侵攻を受けてこの絵本が今、世に出ることに意味があるとおっしゃっています。ともに考えたいテーマです。
【その他】
『センス・オブ・何だあ?―感じて育つ―』三宮麻由子/著 大野八生/画 福音館書店 2022/3/5(出版社サイト→こちら)
4歳の時に視力を失った三宮さんですが、自然観察を通して感覚が研ぎ澄まされ、周囲のさまざまなものを「感じる」力になったと言います。そんな三宮さんが音や触覚、匂いを通してこの世界を知り、感じたことを軽妙に綴ったエッセイです。
雨の音を聞き分けるとか、雨粒を丸い形のまま触る方法とか、街の中で聞こえてくるさまざまな音を通して「音の地図」を作るとか、普段何気なく見落としている大事な感覚があることに気づかされます。白杖を使っての「歩行訓練」のところでは、「失敗や間違いを犯したときの感覚は、正直、痛いものです。けれど、実はその痛さこそが、次からの進歩につながる大切な感覚である」と書かれていて、「成功体験はもちろん大切です。が、失敗や間違いを肝を据えてそのまま受け止め、細かくしっかり感じとることも同じく、「センス・オブ・ワンダー」に欠かせない「大切なデータ」だと、私は思っています。」という文章に心を打たれました。つい、私たちは間違わないようにと必要以上に緊張したり、子どもにもそれを強いたりしています。でも、もう少しゆったりと構えて「間違えるのも大切なデータ」だって思うことができれば、生きやすくなるのではないかと思います。子ども向けの絵本のテキストもさまざま書いていらっしゃる三宮さんのエッセイを保護者の方にも読んでもらえるといいなと思います。
(作成K・J)