新刊本・話題の本

2022年2月、3月の新刊から(1冊追加あり)
2022年1月、2月の新刊から
2021年12月、2022年1月の新刊から
2021年11月、12月の新刊から(その2)
2021年11月、12月の新刊から
TCLブックレット「こどもとしょかん」評論シリーズ の紹介
2021年10月、11月の新刊から(追加あり)
2021年8月、9月の新刊から(その3)絵本
2021年8月、9月の新刊から(その2)読み物ほか
2021年8月、9月の新刊から(その1)絵本
2021年7月、8月の新刊から
2021年5月、6月、7月の新刊から(その2)絵本・読み物
2021年5月、6月の新刊から(その1)絵本
2021年4月、5月の新刊から
2021年3,4月の新刊から(その2)

2022年2月、3月の新刊から(1冊追加あり)


2月、3月にかけて出版された子どもの本を紹介します。一部見落としていたそれ以前の作品も含まれています。

今回は、横浜・日吉のともだち書店を通して選書したものと、翻訳者より贈られたものを読み終えた上で記事を書いています。

【新刊紹介コーナー終了のお知らせ】
図書館で子どもたちに「どの本がいい?」と聞かれても、自分が読んだことのない本を自信をもって勧めることは出来ないですよね。したがって図書館に入ってくる新刊本について全て目を通して、この本はここがお勧め、こちらの本はこんなことに興味を持っている子に勧められると、当たりをつけることが児童担当としての大切な仕事です。

ただ、ゆっくりと新刊本を読んでいる時間がない、シフトを回すのが精一杯だという声も多く聞かれます。
それならば、こちらで読んでお勧めのポイントなどを発信していこうと始めたのが、こちらの新刊情報のページでした。

研修などで図書館に伺うと選書のお供にしています、と声をかけていただきました。長い間読んでいただきありがとうございました。「本のこまど」の新刊情報は今回が最終回となります。
以下に、新刊情報について調べたり、書評を読むことができるサイトをまとめておきます。これからはそちらをぜひ参考にしてみてください。

【新刊情報・書評サイト】
*銀座教文館ナルニア国 「きになる新刊」コーナー・・・「本のこまど」紹介記事→こちら
*朝日新聞好書好日「子どもの本棚」・・・朝日新聞の朝刊生活面に掲載された子ども向けのお薦め新刊紹介。比較的出版直後の本が紹介されることが多いです。
JBBYがすすめる子どもの本・・・新刊ではなく前年に出た本を複数の選考委員がすべて読んで比較検討し、次世代に手渡したい本を選んでいます。出版されてから1年半前後でサイトに掲載されます。
*YouTube「大阪国際児童文学振興財団 公式チャンネル IICLO」新刊子どもの本 ここがオススメ!・・・JBBYの理事でもあり、JBBYの選考委員をつとめている土居安子さんによる新刊紹介です。

【新刊情報・冊子体】
*東京子ども図書館機関誌「こどもとしょかん」・・・厳しい選書基準をクリアした児童書が季節ごとに20~35冊ほど紹介されています。出版されて半年前後で選定されます。
*日本子どもの本研究会月刊書評誌「子どもの本棚」・・・毎月17冊の新刊の書評が掲載されます。出版されて半年前後で書評が掲載されています。
*親子読書地域文庫全国連絡会機関誌(隔月)「子どもと読書」・・・新刊紹介として絵本、低学年向、中学年向、高学年向、ノンフィクション、YAの5つのカテゴリーで3冊ずつ掲載されています。出版から半年前後で書評が掲載されています。

なお、他にも新刊児童書を紹介するサイトや冊子はありますが、選者の目を一度通しているものだけを紹介しています。というのも、毎月夥しい数の児童書が出版されていますが、ほんとうに子どもに手渡す価値があるものは少数だからです。

(*記事作成について書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。)

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【絵本】

『よるはおやすみ』はっとりさちえ/作 福音館書店 2021/11/15(出版社サイト→こちら

この絵本は年末に届いていたため、本来は1月ごろに紹介すべきでしたが、なぜか書類の中に1冊だけ埋もれてしまっていて、紹介しそびれていました。
寝る準備ができるとおかあさんは子どもに「みんなに おやすみを いってから ねましょうね」と声をかけます。そこで家族みんなに、それから家を出てお友だちにも、そして街の中にあるすべてのものにも「おやすみなさい」を言いにいくのです。そして友だちもいっしょにボートにのって海にも海の魚にも、お月さまにも「おやすみなさい」を言いにいくのです。そして安心して静かな眠りに落ちていきます。2月に紹介した(2021年12月、2022年1月の新刊から→こちら)『ここがわたしのねるところ―せかいのおやすみなさい―』レベッカ・ボンド/文 サリー・メイバー/作画 まつむらゆりこ/訳 福音館書店 2022/2/5 (出版社サイト→こちらとも重なるテーマです。戦火を逃れて避難している子どもたちの上にも安らかに眠れる日が一日も早く訪れてほしいと願いながら紹介します。

 

 

 

『ポチャッ ポチョッ イソップ カエルのくににつたわるおはなし』アーサー・ビナード/再話 スズキコージ/絵 玉川大学出版部 2022/1/31(出版社サイト→こちら

平和なかえるの国に、「こんなにへいわではいけません!」とかんがえるものが現れます。「へいわばっかりで もうどいつもこいつも へいわボケしているんだ!」と声をあげ、神さまに強い王さまを送ってくれるように要求するのでした。神様は「へいわに くらせるのが いちばんのしあわせだ。それなのに おうさまをほしがるなんて おかしい。」と諭すのですが、かえるたちは聞きません。しかし、かえるたちが望んだ強い王さまは、かえるたちの存在そのものを脅かすのです。2500年前に書かれたというイソップの物語をベースに、アーサー・ビナードさんとスズキコージさんがイソップ物語の本質は何かと突き詰めながら、現代への風刺も効かせた1冊に仕上げています。

 

 

 

 

 

『さくら 語りかけ絵本』こがようこ/文・絵 大日本図書 2022/2/15(出版社サイト→こちら

赤ちゃんに語りかけて遊ぶこがようこさんの「語りかけ絵本」の5冊目です。さくらのはなびらが、一枚、一枚と風に飛ばされて舞い降りてきます。それを集めて、並べて、遊ぶ絵本です。
満開の桜が咲くころ、親子でお散歩しながら桜の花を見あげ、散りしきる花びらを集めていっしょにこの絵本を読んであげてほしいと思います。

 

 

 

 

 

 

『アフガニスタンのひみつの学校 ほんとうにあったおはなし』ジャネット・ウィンター/作 福本友美子/訳 さ・え・ら書房 2022/2/18(出版社サイト→こちら

1996年から2001年の間、アフガニスタンはタリバン政権に支配され女子への教育が禁止されていました。でも秘密裏に女の子のために学校を作り、見つからないようにこっそりと勉強を教えていたグループがあったのです。それを知った作者が取材して作成した絵本です。
タリバン政権に両親を連れていかれたナスリーン、おばあちゃんはなんとか広い世界に目をむけてほしいと秘密の学校の戸を叩きます。最初は心を閉ざしていたナスリーンですが、時間をかけて心がほどけていきます。「もうひとりぼっちではありません。じぶんのものにした知識は、なかよしの友だちのように、いつもナスリーンといっしょでした。」という言葉に、石井桃子さんが「本は友だち」と晩年に残されたことばを思い出しました。
昨年夏以降、ふたたびアフガニスタン情勢が悪化し、ふたたびタリバン政権が制圧し、女子教育にも制限がかかるようになっています。ウクライナ情勢もふくめて、世界各地で学ぶ機会が奪われている子どもたちへ心を寄せたいと思います。

 

 

 

『のいちごつみ』さとうわきこ/作 福音館書店 2022/3/5(出版社サイト→こちら

「ばばばあちゃんの絵本」シリーズに、もう1冊楽しい仲間が加わりました。福音館書店月刊誌「こどものとも」2010年4月号のハードカバー版です。
ばばばあちゃんが春になって暖かくなったので、仲間たちをのいちご摘みに誘います。たくさんのいちごを摘んだので、家に帰っていちごジャムにすることになったのですが、みんながジャムになる前にひとつぶだけ食べたいと言い出して・・・帰り道すがらむしゃむしゃ食べるうちに、家に着いた時にはジャムにするにはほんのわずかに!でも「またとりにいけばいいよ」と前向きなのが、ばばばあちゃんのいいところですね。春にふさわしい1冊です。

 

 

 

 

『おしりじまん』齋藤槙/作 福音館書店 2022/3/5(出版社サイト→こちら

福音館書店月刊誌「ちいさなかがくのとも」2018年9月号のハードカバーです。この絵本には動物たちの後ろ姿、つまりおしりの絵が並んでします。
登場する動物はうさぎにカバ、アジアゾウにトラ、シマウマなど20種類。
齋藤槙さんは独自の技法で絵を描いています。それは薄い紙に輪郭を描いた後、小さなパーツにきりぬいていき、その紙一枚一枚に色を塗り、それを貼り合わせて一つの絵にするのです。膨大な手間がかかるのですが輪郭線を書く必要がないことと、見えている色を抜くことが出来る、つまりは色を塗ることに集中できると、以前講演会でお聞きしました。この絵本でも一匹、一頭ずつ丁寧に仕上げられたことがわかります。2歳くらいの小さい子どもから楽しめる絵本です。

 

 

 

 

『おとがあふれてオムライス』夏目義一/作 福音館書店 2022/3/5(出版社サイト→こちら

こちらも福音館書店月刊誌「ちいさなかがくのとも」2019年2月号のハードカバーです。お休みの日でしょうか?女の子とお父さんがお昼の準備を始めます。メニューはオムライス。「ず ぱん!」「ぴぴち ぴぴち」はピーマンを刻む時の音、たまねぎのみじんぎりは「じゃっじょっじょっ じゃっじょっじょっ」と音がして、たまごをかき混ぜる時には「しゃらしゃらしゃら」「しょかしょか しょかしょか」、調理の時に聞こえてくる音でその過程が表現されています。ほかほかの美味しいオムライスが完成するとまるで絵から飛び出してきていい匂いがしそうです。親子で読みたい1冊です。きっと読み終わったらお料理始まりますね。

 

 

 

『はるのにわで』澤口たまみ/文 米林宏昌/絵 福音館書店 2022/3/10(出版社サイト→こちら

生命のエネルギーに溢れた美しい絵本です。
春の庭におひさまの光が差し込むと、小さな昆虫やかえる、かなへびたちが活動を始めます。花の中にはまるはなばち、小さな水たまりにはあめんぼがいます。葉から葉へ渡っていくはえとりぐもをかなへびが狙っています。木の枝についていたかまきりの卵から夥しい数のあかちゃんかまきりが孵ったり、風に揺られて蝶が飛び立ちます。そうっと覗いてみると、そこにはたくさんの生命がそこにいて、春の訪れを喜んでいるのです。この絵本をもって庭や公園に出かけてほしいと思います。自然を題材にした絵本を作っている澤口さんの文章にアニメーション監督の米林さんが美しい絵をつけました。センス・オブ・ワンダーに溢れた絵本です。(福音館書店ふくふく本棚→こちら

 

 

 

 

 

 

『ニッキーとヴィエラ ―ホロコーストの静かな英雄と救われた少女』ピーター・シス/作 福本友美子/訳 BL出版 2022/3/20(出版社サイト→こちら

1938年、ナチスドイツはチェコスロバキアに侵攻しました。当時イギリスでは17歳以下の子どもを難民として受け入れていることを知った銀行員のニッキーは、私財をつかって、のちに寄付を募ってチェコスロバキアから669人の子どもたちを避難させました。自費で新聞広告を出して引き取ってくれる家庭を募集し、子どもたちの受け入れの手続きをしていたのです。ヴィエラは、チェコスロバキアで生まれたユダヤ人の女の子。両親やいとこたちと楽しく暮らしていましたが、ナチスの侵攻で生活は一変します。ヴィエラの両親は、彼女をイギリスに送り出す決心をします。別れの日、父さんはヴィエラに日記帳を手渡し「毎日のできごとを書いておきなさい。」と伝えます。ヴィエラの父親は強制収容所で殺され、母親は終戦後、収容所を出たあとで病死します。ヴィエラは一度はチェコスロバキアに戻りますが、両親だけでなくいとこたちも亡くし、イギリスで生活することにしました。ニッキーは戦後、自分がしたことは誰にも告げてなかったのですが・・・50年経ったころ、妻が子どもたちの記録を綴ったファイルをみつけたことで、イギリスの人気番組「これが人生だ」で自分が救った子どもたち(その頃には中高年になっていた)に会うのです。その中にヴィエラもいました。彼女は誰が自分を逃がしてくれたのか知らなかったのです。ヴィエラは父の勧めで日記をつけていたので、それをもとに『キンダートランスポートの少女』という本を書きます。今回の絵本は、ピーター・シスがそれを読んだことから着想したそうです。翻訳者の福本さんは、ロシアのウクライナ軍事侵攻を受けてこの絵本が今、世に出ることに意味があるとおっしゃっています。ともに考えたいテーマです。

 

 

 

【その他】

『センス・オブ・何だあ?―感じて育つ―』三宮麻由子/著 大野八生/画 福音館書店 2022/3/5(出版社サイト→こちら

4歳の時に視力を失った三宮さんですが、自然観察を通して感覚が研ぎ澄まされ、周囲のさまざまなものを「感じる」力になったと言います。そんな三宮さんが音や触覚、匂いを通してこの世界を知り、感じたことを軽妙に綴ったエッセイです。
雨の音を聞き分けるとか、雨粒を丸い形のまま触る方法とか、街の中で聞こえてくるさまざまな音を通して「音の地図」を作るとか、普段何気なく見落としている大事な感覚があることに気づかされます。白杖を使っての「歩行訓練」のところでは、「失敗や間違いを犯したときの感覚は、正直、痛いものです。けれど、実はその痛さこそが、次からの進歩につながる大切な感覚である」と書かれていて、「成功体験はもちろん大切です。が、失敗や間違いを肝を据えてそのまま受け止め、細かくしっかり感じとることも同じく、「センス・オブ・ワンダー」に欠かせない「大切なデータ」だと、私は思っています。」という文章に心を打たれました。つい、私たちは間違わないようにと必要以上に緊張したり、子どもにもそれを強いたりしています。でも、もう少しゆったりと構えて「間違えるのも大切なデータ」だって思うことができれば、生きやすくなるのではないかと思います。子ども向けの絵本のテキストもさまざま書いていらっしゃる三宮さんのエッセイを保護者の方にも読んでもらえるといいなと思います。

 

 

(作成K・J)

2022年1月、2月の新刊から


1月から2月にかけて出版された子どもの本を紹介します。

今回は、リニューアルして売り場面積の広がった代官山蔦屋書店で選書し、一部は出版社から寄贈されたものをすべて読み終えて記事を書いています。

 

併せて銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

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【絵本】

『じゅう じゅう じゅう』あずみ虫/作 0.1.2.えほん 福音館書店 2022/1/10(出版社サイト→こちら

「たまごをパカッ」「フライパンで じゅう じゅう じゅう やけた やけた」「ソーセージころん」「じゅう じゅう じゅう やけた やけた」と、フライパンのうえで目玉焼きやソーセージ、にんじん、そしてホットケーキが次々と焼き上がっていきます。
最後にみんなお皿にのせて「いただきます」。ここまで読むと、聞いていた子どもたちの顔もぱあっと笑顔になります。
あずみ虫さんの絵は、アルミ板をはさみで切ってそこに着色する手法で独特の質感があります。小さな子どもたちの生活に密着した「食」をテーマにしたこの絵本、月刊絵本「こどものとも0.1.2.」の2017年10月号のハードカバーです。

 

 

 

 

『女王さまのワードローブ イギリス国民に愛されつづける女王エリザベスの物語』ジュリア・ゴールディング/文 ケイト・ヒンドレー/絵 前沢明枝/訳 BL出版 2022/2/1(出版社新刊情報サイト→こちら

今年2月6日で英国エリザベス女王の在位70年を迎え、その挨拶の言葉が全世界に届けられました。25歳で即位して70年、女王は95歳になられました。
そのエリザベス女王の人生を服を通して辿る絵本です。
1926年4月21日の生誕1か月後に行われた洗礼式のドレスから始まり、少女時代のガールスカウトの制服や第二次世界大戦下で女子国防軍に入隊した時の整備士のつなぎ姿、大戦のあとに行われた結婚式のドレス、そして王位を継承する戴冠式の衣装、それから70年間のそれぞれの時に合わせた衣装や帽子、小物などを詳細なスケッチで説明しています。
そして女王の衣装の変遷を辿りながらも、エリザベス女王の個性やユーモア、温かさ、家族への愛情など、余すところなくその人柄が伝わってくる絵本です。

 

 

 

 

 

『人とくらしたワニ カイマンのクロ』マリア・エウヘニア・マンリケ/文  ラモン・パリス /絵   とどろき しずか/訳 福音館書店 2022/2/10(出版社サイト→こちら

南米ベネズエラで語り継がれている本当にあったお話が絵本になりました。カイマンとは、ワニの一種です。ワニ目には大きく分けてクロコダイル科、アリゲーター科がありその亜種としてカイマン科があるようです。1950年~60年代のベネズエラではワニ革にするために漁師が乱獲していました。ある時、宝石商のファオロは、みなしごになったカイマンの子どもを見つけて「クロ」と名付け、家に連れて帰ります。ファオロはクロを大切に育て、友情をはぐくんでいくのです。ところがある日ファオロが倒れると、クロは食事を受け付けなくなります。それだけ強い愛情で結ばれていたのです。
この絵本の原書はベネズエラの公用語スペイン語で書かれています。また絵もベネズエラ出身の画家が描いています。インターネット書評サイトALL REVIEWSには、翻訳者のこの絵本にかける思いや、ベネズエラの公教育事情が綴られています。合わせて読んでみてください。(ALL REVIEWS→こちら

 

 

 

 

 

【児童書】

『ほじょりん工場のすまこちゃん』安井寿磨子/作 福音館書店 2022/2/10(出版社サイト→こちら

昭和40年代の大阪を舞台にした幼年童話です。作者安井寿磨子さんのご実家が自転車の補助輪を作る工場でお父さんは日本で初めて自転車の補助輪を作った人なのです。
自分の家が補助輪工場だからと、いつまでも補助輪をつけて走っていたすまこちゃんは、ある時お父さんに「ほじょりん、はずすぞ」と言われ自転車に乗る練習を始めるのです。努力するなんてことをしてこなかったすまこちゃんには、補助輪を外すなんて無理にしか思えません。後ろから「勇気や!もっと勇気だせ!」と大きな声を出してはげますお父さん。大阪の町を舞台にした人情あふれる物語に仕上がっています。ひとりで自転車に乗ろうとする作者の思い出を綴った作品は、ちょうどひとりで読み始めるころの子どもたちの実体験に重なっていくのではないでしょうか。

 

 

 

 

『けんかのたね』ラッセル・ホーバン/作  小宮由/訳  大野八生/絵 岩波書店 2022/2/22(出版社サイト→こちら

ある日の夕方のこと、家の中で騒ぎが勃発します。いぬはねこを追い回し、4人の子どもたちは兄弟げんかを始めます。みんなは口々に「悪いのはじぶんのせいじゃない」というばかりです。一体、この騒ぎのたねはなんだったのでしょう。言い訳をする子どもたちと、言い訳できないいぬとねこ、そして言い訳をしなかったねずみの愉快な幼年童話です。園芸家として知られている大野八生さんのイラストも素敵です。大野さんの庭仕事のエッセイも機会があったら読んでみてください。(→こちら

 

 

 

 

 

 

 

【その他】

『ブックスタートの20年』NPOブックスタート/編 NPOブックスタート 2022/1/20(出版社サイト→こちら

2000年の子ども読書年を契機に2001年に日本でも始まったブックスタート。この本には、ブックスタートが始まってから20年の歩みがまとめられています。
2022年1月末時点で、ブックスタートを導入している自治体は1089、普及率は63%です。記録を読んでいると、ブックスタートを導入していたのに取りやめた自治体もあることがわかります。それでも自治体と市民が一緒になって生まれてきた赤ちゃんの幸せのために繋がり、実現してきたことが、この運動に参加してこられた多くの人々の声を通して伝わってきます。導入している自治体の図書館では、保健センターへ出向いてブックスタートバッグを手渡すなど、この活動に関わってきたと思います。
ブックスタート活動の原点にある理念や目標を再確認することができれば、図書館の児童サービスもまた何を大事にしなければならないか見えてくるのではと思います。

 

 

 

 

『「子どもの本」の創作講座 おはなしの家を建てよう』村中李衣/著 金子書房 2022/1/31(出版社サイト→こちら

子どもの本の研究者で、読み語りの実践家、そして児童文学者でもある村中李衣さんの「こどもの本」の創作講座です。
「子どもは、有名作家が書いたとか新人が書いたとかそんなの関係なしに、おはなしが大好きです。どんな荒唐無稽のおはなしだって「そんなことあるわけない」と、最初からおはなしの中に入っていかないなってことはありません。そうではなく、あるわけない世界を本気で生きることができるからこそ、おもしろくなければすぐさまパタンと扉を閉めてこちら側の世界へ戻ってきてしまうのです。」
一番気持ちに正直な読者である子どもたちの心をどう捉える作品が書けるのか、それを「おはなしの家」づくりと称して、ひとつずつ丁寧に教えてくれるテキストです。自分で創作してみたいという方にぜひ。そしてこれを読んでいると、子どもの本をどんなところで評価すればいいのかまで、だんだんとわかってくるところもお勧めポイントです。

 

 

 

 

『レインボーブックガイド 多様な性と生の絵本』草谷桂子/著 子どもの未来社 2022/2/5 (出版社サイト→こちら

静岡で40年以上家庭文庫活動を続けてきた草谷さんが、昭和、平成、令和と変遷してきたジェンダーや性への意識を受け止め、性教育や人権問題にまで視野を広げて200冊余りの関連絵本を解説するガイドブックです。
ロングセラーの絵本から始まって、ここ数年の多様な性に関する絵本まで網羅されています。フェミニズムの視点から見ると、まだまだ子どもの本の世界は古い価値観に固執する人たちも多いのですが、まだ価値観が定まらない子どもたちに手渡す本だからこそ、私たちは細心の注意を払う必要があることに気づかされます。

 

 

 

 

(作成K・J)

2021年12月、2022年1月の新刊から


昨年末から新年にかけて出版された子どもの本を紹介します。

今回は、2月1日に6階から9階へ移転し新装オープンした銀座教文館ナルニア国へ新刊チェックに2月6日に行った際に選書し、一部は横浜日吉にあるともだち書店から取り寄せました。すべて読み終えて記事を書いています。

なお、一部見落としていた昨年12月より前に出版された本と、2022年2月の新刊も含まれています。

併せて銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

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【絵本】
《創作絵本》

『たぬき』いせひでこ/作 平凡社 2021/11/17(出版社サイト→こちら

2011年3月、いせひでこさんの家の寝室の床下で不思議な物音が・・・そしてある朝、デッキに置いてあるスリッパがいたずらされているのを確認します。するとその夜デッキの上にたぬきの親子が現れます。
そこから庭の観察記「たぬ記」を詳細なスケッチとともにつけ始めます。その記録を元に庭の季節の移ろいとともに、子だぬきたちの巣立ちまでを描いた絵本です。画家の目を通して描かれるたぬきの子育ての様子はとても美しく、愛情豊かな視線を感じます。たぬきの親子も安心して子育てをしたことでしょう。

 

 

 

『おはいんなさい えりまきに』角野栄子/作 牧野鈴子/絵 金の星社 2021/12 改訂新版(出版社サイト→こちら

1984年に出版された絵本で、長く品切れになっていましたが、この度改訂新版として出版されました。
りっちゃんがママに教えてもらって編んだえりまきはとびきり長いのです。寒い寒い日、りっちゃんはぐるぐるとえりまきを巻いて散歩に出かけます。寒がっている友達やペンキ屋さんにおすもうさん、インドのおじさんに交通整理のおまわりさんまでえりまきに入れてあげました。それでもみんな寒くてぶるぶる。そこでえりまきで長縄跳びを始めると・・・コロナ禍で今はこんな風に密着できないのですが、読んでいて、とてもいいなあと気持ちが温かくなりました。寒い季節にぜひ読んであげたい絵本です。

 

 

 

 

『おばあさんとトラ』ヤン・ユッテ/作・絵 西村由美/訳 徳間書店 2021/12/31(出版社サイト→こちら

ヨセフィーンおばあさんは散歩の途中、森の中でトラに出会います。でも、このトラ、おばあさんを襲うことなく喉を鳴らして頭をおばあさんに擦り付けてきます。
そこでおばあさんは「うちにくるかい?」とトラを誘って家に連れて帰ります。
町の人はみんな驚きますが、そのうちおとなしいトラだとわかって、みんなが優しくしてくれました。ところがトラは日に日に色あせて元気がなくなってきました。獣医さんに診てもらうと「ホームシックじゃな」と告げられます。そこでおばあさんは船でトラを生まれ故郷のジャングルに連れていくことにしたのでした。オランダの絵本です。

 

 

 

 

 

 

『旅の絵本Ⅹ』安野光雅/作 福音館書店 2022/1/10(出版社サイト→こちら

2020年12月に94歳で亡くなられた安野光雅さん(→こちら)が、最後まで描き続けていらした『旅の絵本Ⅹ』が出版されました。
今回の旅の舞台は、オランダです。この絵本の原画は、安野光雅さんが逝去されたあとに、アトリエからみつかったそうです。巻末には安野光雅さんご自身による旅の解説があります。安野光雅さんがお元気だったころに旅をされたオランダの街々と、その時に感じられた想いを突き合わせながらページをめくりました。『旅の絵本』は全部で10冊。絵本を通して偉大な絵本画家の歩みをたどってみるのも、コロナ禍でこその「仮想旅」になりますね。やってみるのも良いかもしれません。

 

 

 

 

 

 

『ねこのオーランドー  毛糸のズボン』キャスリーン・ヘイル/作 こみやゆう/訳 好学社 2022/1/20(出版社サイト→こちら

こみやゆうさん翻訳の「ねこのオーランドー」シリーズも3冊目です。
ねこのオーランドーはある雪の積もった寒い夜に、道路監視員のピュージーさんの陣中見舞いに行って、パラフィン油の入った缶を倒して腰から下が油まみれになってしまいます。その上、油を浴びた部分の毛が全部抜けてしまったのです。
恥ずかしさで家に帰れず、茂みにうずくまっているオーランドーを気の毒に思ったグレイスは、オーランドーのために毛糸のズボンを編んでくれました。
毛糸のズボンが編み上がるまでの間、オーランドーが3匹の子ねこたちと交わす会話もとても面白く、またしばらくすると毛糸のズボンの下からちゃんと毛が生えてきて一件落着。「おわりよければ、すべてよしってね」という言葉で締めくくられたお話は、子どもたちにも安心感を与えてくれることでしょう。

 

 

 

 

 

『ナイチンゲールのうた』ターニャ・ランドマン/作 ローラ・カーリン/絵 広松由希子/訳 BL出版 2022/2/1(出版社サイト新刊紹介→こちら

昔、地球はみずみずしく、空も山も川も海も砂漠も森も美しい色であふれていたのに、動物たちはぼんやりとくすんでいたのです。そこで「えかきさん」はどうぶつたちを呼び集めて、絵の具で色を付けていきました。
まずは昆虫たち、シマウマにキリン、ペンギンにフラミンゴ、次々に色を付けていきます。マンドリルは絵具箱の上に座ってしまったので、カラフルなお尻になってしまいました。行列の最後にいた小さな虫は金の絵の具を塗ってもらいコガネムシになります。やっと仕事が終わったと帰ろうとしたその時、森かげから小さな小鳥が飛んできます。とても臆病で暑さが苦手な鳥でした。でも、絵の具を使い切ってしまっていたのです。そこでえかきさんは、小鳥のくちの中に金の絵の具をひとしずくだけぽつんと垂らしたのです。この小鳥は夜の静けさの中で金色の声で歌うナイチンゲール(夜鳴きうぐいす)と呼ばれるようになったというお話です。『ローラとつくるあなたのせかい』(広松由希子/訳 BL出版 2016→こちら)で2015年にブラチスラバ世界絵本原画展グランプリを受賞したローラ・カーリンの美しい絵に惹きこまれていく絵本です。

 

 

 

 

『シェルパのポルパ 火星の山にのぼる』石川直樹/文 梨木羊/絵 岩波書店 2022/1/28(出版社サイト→こちら

ヒマラヤの山々を案内するシェルパのポルパは、登山をする人々の心強い味方です。そんなポルパはある時、火星にはエベレストよりも高い山があることを知ります。それを知ったシモーヌさんに宇宙まで行けるように改造されたヘリコプターを使うように勧められます。
村の人々の助けも借りて宇宙へ行く準備をしたポルパは、相棒のヤクのプモリと一緒に火星で一番高い山、オリンポス山を目指します。オリンポス山は21,230mの高さです。
この作品の構想は、作者が火星にエベレストの2倍以上の山があるというニュースを見て生まれたそうです。現在、火星探査が進められているので、その内、本当に火星の山を登ることが実現するかもしれませんね。

 

 

 

 

 

『ずんずんばたばたおるすばん』ねじめ正一/文 降矢なな/絵 福音館書店 2022/2/5(出版社サイト→こちら

福音館の月刊絵本「こどものとも」年少版2017年12月号のハードカバーが出ました。お母さんが買い物に出かけた途端に、天井から子ザルたちが降りてきたり、押し入れではナマケモノが布団に潜り込んでいたり、冷蔵庫ではペンギンが涼んでいたり…と次々といろんなことが起こります。僕の部屋ではカピバラがフラダンスしていて、廊下ではパンダとクマが相撲を取り、お風呂の中ではクジラが潮を吹いて、お留守番の家の中はみんなが一緒にずんずんばたばたしていて愉快です。子どもの縦横無尽な想像の世界を描いた楽しい絵本です。

 

 

 

 

『ここがわたしのねるところ―せかいのおやすみなさい―』レベッカ・ボンド/文 サリー・メイバー/作画 まつむらゆりこ/訳 福音館書店 2022/2/5 (出版社サイト→こちら

一日の終わりは「おやすみなさい」の時間。オランダの子どもたちは屋形船の中でぐっすり休みます。中南米の国ではハンモックに揺られながら、インドのように暑い国では蚊帳をつったベッドで、アフガニスタンの子どもは敷物の上で、日本は畳の上に布団を敷いて・・・と世界中のあちこちで寝る場所は違えども、それぞれに安らかに眠る場所があるのです。
この絵本の特徴は、絵がすべてアップリケと刺繍で描かれているということ。それぞれの地域の伝統的なデザインや文様も含めて全部の場面が細かい刺繍によって描かれ、その精巧さ、緻密さにまず驚きます。また訳者のまつむらさんはあとがきに「世界には、安心してねむることのできない子どもたちがいることも思います。戦争状態の国もあれば、災害などで家を失って一時的な施設で暮らさなければならないこともあるからです。(改行)すべての子どもが、ここちよくねむりにつけますように、と願いながら、この作品を訳しました。」と記しています。この絵本を手に取って親子で読むことを通して、そんな祈りを思い出してほしいなと思います。

 

 

 

 

『野ばらの村のひみつのへや』ジル・バークレム/作・絵 こみやゆう/訳 出版ワークス 2022/2/25(出版社サイト→こちら

「野ばらの村の物語」の四季シリーズの4冊に続いて、アドベンチャーシリーズの1冊目が出版されました。
野ばらの村では、冬になると冬至まつりが開かれます。カシの木館の暖炉の周りに村中の人が集まって食べたり、飲んだり、出し物をしたりと楽しく過ごすのです。そんな中、ウィルフレッドとプリムローズはカシの木館の中でひみつの階段をみつけるのです。カシの木館の断面図を見ながら二人が冒険したところを辿るのも楽しいでしょう。細かく描かれた調度品に見入ってしまいます。
シリーズはあと3冊刊行予定です。

 

 

 

 

 

 

《知識絵本》

『こんとごん てんてん ありなしのまき』織田道代/文 早川純子/絵 福音館書店 2022/2/5(出版社サイト→こちら

福音館書店の月刊絵本「かがくのとも」の2017年3月号がハードカバーになりました。この絵本のテーマは「ことば」です。日本語の言葉には似ているけれど、濁点が無いのとあるのとでは意味が全然違ってくるものがあることを、子どもたちにわかりやすくきつねのこんとごんが教えてくれます。
「おひさま きらきら かぜ さわさわ はっぱが はらはら」
「おひさま ぎらぎら かぜ ざわざわ はっぱが ばらばら」
濁点がつくだけでこんなに違ってくるということを、読んでもらうことで耳から聞く耳心地からも感じてもらえるといいなと思います。

 

 

 

 

 

 

『そだててみたら・・・』スギヤマカナヨ/作・絵 赤ちゃんとママ社 2022/2/17(出版社サイト→こちら

たねから植物を育てるって、わくわくする作業です。どんな芽が出てくるのか、どんな花が咲いて実がなるのか、観察するのも楽しいことです。
学校でたねからそだてて観察日誌をつけるという宿題が出たぼくは、近所のたねやさんに行きます。いろいろ迷って「おたのしみ 話のたね」という引き出しの中にあったたねを育ててみることにします。
この少年が育てたのは一体なんだったのでしょう?あとがきのページにその答えが小さく出ていますが、絵を見ながら図鑑で調べてみるのも楽しいですね。好奇心旺盛な子どもたちに手渡したい絵本です。

 

 

 

 

 

 

【児童書】

『白いのはらのこどもたち』(新装版)たかどのほうこ/作 理論社 2021/12(出版社サイト→こちら

野原が大好きなのはらおばさんが、雪の積もった冬の野原にのんちゃんを誘いました。かんじきをはいて散歩するのです。すると雪の上になにかの動物の足跡が・・・それはタヌキとキツネの足跡でした。のはらおばさんは、キツネとタヌキの歩き方の違いで足跡も違っていることを教えてくれます。散歩を続けているうちに、次々にのはらクラブの友達も加わっていきます。冬の野原にはいろんな発見や遊びがあって、のはらおばさんと仲間たちはとても楽しそうです。
この作品は2004年に出版されていた作品に加筆、作者あとがきを加えた新装版として出版されました。

 

 

 

 

『コロキパラン 春を待つ公園で』たかどのほうこ/作 網中いづる/絵 のら書店 2022/1/28(出版社サイト→こちら

大学1年生だった私が、ある年の2月の日曜日にクラスメイトの森田さんに頼まれて一緒にアルバイトした日のことを綴った短い物語です。
バレンタインデーを前に、チョコレートやさん「ムッシュ・チョコット」の店長さんと3人で公園に店を出し、森田さんは売り場のお手伝い、私はチョコレートを買ってくれた人に似顔絵を描くという仕事を担当します。実は絵描きのふりをしているだけで、似顔絵はノートに落書きを描いたことがある程度でした。
コロキパラン・・・キロラポン・・・コロキパラン・・・キロラポン・・・
その優しい音は、公園の隅のおじいさんの手回しオルゴールから出ていました。その音に合わせるとペンが軽やかに動いて似顔絵がうまく描けるのでした。似顔絵はお客さんに好評で、チョコレートを買った人が次々並びます。小さい女の子や男の子もやってきました。最後に並んでいたのは手回しオルゴールのおじいさんでした。ところが店じまいをすると、手提げ金庫の中にはどんぐりやクルミ、葉っぱが!若葉の季節になって、公園を歩くとクルミの木からリスの子の似顔絵が・・・春待つ公園で起きた不思議な魔法の物語です。

 

 

 

 

『おとなってこまっちゃう』ハビエル・マルピカ/作 宇野和美/訳 山本美希/絵 偕成社 2022/1(出版社サイト→こちら

メキシコの児童文学作品です。9 歳の女の子サラのお母さんは、社会の不正に立ち向かい、困っている人や貧しい人のために頑張っている人権派の弁護士です。サラの両親は離婚していますが、毎週金曜日はお父さんのところで過ごしています。
ある日、サラのおじいちゃん(母親のお父さん)が若い女性と再婚すると宣言します。ところがサラのお母さんは、自分と年齢の近い人と父親が再婚することを受け入れられません。
普段は、サラに友達の悪口は言わないようにと注意するのに、頭ごなしにおじいちゃんの彼女を拒否するのはおかしいとサラは思います。
そこで、サラはなんとかおじいちゃんの婚約者と母親を引き合わせようと、計画を立てます。物語は、その若い婚約者が実はお母さんの昔の親友だったということで思わぬ展開となります。サラの味方になってくれるお母さんの弟、サルおじさんはゲイです。古い価値観に捉われない家族像が描かれていて、その中でサラがおとなの抱える弱さや矛盾を「こまっちゃう」と思いながらも理解し、家族それぞれを繋いでいきます。家族について、多様性について考えることのできる作品です。

 

 

(作成K・J)

2021年11月、12月の新刊から(その2)


前回、12月17日に記事を書いた後に購入した11月、12月に出版された子どもの本や子どもの本の周辺資料を紹介します。

今回は、銀座教文館ナルニア国へ新刊チェックに行った際に選書しました。(一部12月6日に訪れた北海道・札幌のちいさなえほんや・ひだまりで購入した本も含まれています)

「11月、12月の新刊から」としていますが、一部見落としていた11月より前に出版された本も紹介いたします。

併せて銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

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【絵本】

『あかいてぶくろ』林木林/文 岡田千晶/絵 小峰書店 2021/10/20(出版社サイト→こちら

ちびちゃんの手を温かく包んでくれる真っ赤なてぶくろ。初めてゆきだるまを作った時も、右と左のてぶくろがちびちゃんの手を守ってくれていました。ところがある時、ちびちゃんは右のてぶくろを失くしてしまいます。翌朝、あちこちを探し回るもののみつかりません。そこでお母さんはもう一度右のてぶくろを編んでくれました。
その頃、片方のてぶくろを拾って持ち帰ったのはうさぎのお母さんでした。てぶくろはポットカバーに、そしてこうさぎたちのナイトキャップになっていました。次の日にはうさぎたちが譲ってあげたので、のねずみの子どもたちの寝袋になります。その寝袋ものねずみたちが奪い合っているうちに飛ばされていきました。さて、片方のてぶくろはどうなったでしょう。最後はりすのセーターになるのです。手編みの編み目の質感が丁寧に描かれていて、久しぶりに編み物をしたくなるような、そんな絵本です。北海道・札幌の絵本専門店ひだまりでみつけました。

 

 

 

 

 

『ゆきのようせい』松田奈那子/作・絵 岩崎書店 2021/10/31(出版社サイト→こちら

「雪虫」という言葉を聞いたことがありますか?主に北海道や東北で、雪が降り始める前の秋の終わりに現れるために「冬を告げる虫」と呼ばれているアブラムシの仲間の小さな昆虫です。正式名称はトドノネオオワタムシで、白くてゆっくりふわふわと雪が舞うように飛ぶため、「雪虫」と呼ばれるようになったそうです。
この絵本の舞台は北海道です。山々が紅葉を迎えた秋の朝、雪虫たちが目を覚まして飛び立ちます。山の中を、森の中を飛びまわりながら「もうすぐふゆがくるよ」と告げて回ります。野山や川の上を飛んで、札幌の街へと飛んでいく雪虫。子どもたちは雪虫をみつけて「ふゆがくるのをおしえてくれるようせいさん」と声をあげます。すると本当に初雪が舞い始めます。秋から冬へ季節の移り変わりを知らせてくれる雪虫をテーマにした絵本です。この絵本も札幌の絵本専門店ひだまりで購入しました。

 

 

 

 

 

 

 

『ほしのおうじさま』アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ/原作 ルイーズ・グレック/文 サラ・マッシーニ/絵 福本友美子/訳 主婦の友社 2021/11/30(出版社サイト→こちら

誰もがよく知っている『星の王子さま』をモチーフにし、イギリスの詩人と画家が新しく創りあげた絵本です。とても美しい絵で、砂漠に遭難した飛行士と小さな星から来た王子様との会話から紡ぎ出される世界を描き出しています。
翻訳は、多くの英語圏の絵本を訳していらっしゃる福本友美子さんです。小さな子どもたちにも、星の王子さまの絵本に出合ってもらえる機会となることと思います。(基本図書を読む『星の王子さま』→こちら

 

 

 

 

 

 

 

『ともだち』内田麟太郎/詩 南塚直子/絵 小峰書店 2021/12/10(出版社サイト→こちら

絵本のタイトルになっている「ともだち」をはじめとして、内田麟太郎さんの「なのはな」、「さくら」、「こうま」、「おひさま」など子どもたちの生活に寄り添う短い詩が12編収められています。
1編につき見開き2ページに南塚直子さんが絵を描いているのですが、なんとその絵は陶板画なのです。陶器の板に絵を描きそれを焼き付ける技法です。陶板画独特の風合い、つまり描いた部分が盛り上がって見えたり、表面に現れる釉薬の割れなどが何とも言えない味を出しています。南塚さんは2013年に京都嵯峨芸術大学の陶芸科に入学して陶板画を学んだと奥付にあります。60歳を超えて新たな技法を学ばれたという姿勢にも頭が下がります。

 

 

 

 

 

『こんなかお、できる?』ウィリアム・コール/作 トミー・ウンゲラー/絵 こみやゆう/訳 好学社 2021/12/22 (出版社サイト→こちら

フランシス・マックジーは、寝る時間になるといろんなことを言って少しでも長く起きていられる理由を探しているような子なのです。なのでパパもママもそれが悩みの種でした。ある日、パパは寝る前に「パパがいうようなかおができるかなっていうゲーム」をすると言い出します。そのお題は「おこった顔」「まぬけな顔」「うれしい顔」などです。次から次へいろんな表情をして「よくできました!」をもらうフランシス。最後は「おやすみなさいのキスをして、っていうこのかおだよ」というお題です。そのかおをして、パパのキスを受けるとぐっすり眠りにつくフランシスなのでした。最初に出版されたのは1963年とのこと。トミー・ウンゲラーの描く女の子の表情がとても生き生きとしていて素敵です。2019年に亡くなったトミー・ウンゲラー(→こちら)の絵本の邦訳としては最新刊になります。

 

 

 

 

 

『野ばらの村の雪まつり』ジル・バークレム/作・絵 こみやゆう/訳 出版ワークス 2021/12/25(出版社サイト→こちら

「野ばらの村の物語」(→こちら)の4巻目は冬の村の様子を描き出します。
野ばらの村に雪が降り積もります。子どもたちは初めて見る雪におおはしゃぎ、そこで村をあげての雪まつりをすることになりました。
大きな切り株の外に深い雪だまりが出来ていたので、そこにアイスホールをつくることになりました。アイスホールの床は氷でつるつる滑って、ダンスタイムはみんながはやくまわるのです。子どもたちを寝かしつけた後は、「おとなだけのダンスは、ますますはやくまわる、はげしいおどりになりました。」とあり、その絵もまたユーモラスで微笑ましいと思いました。厳しい寒い日々も、それを楽しみに変えてしまう野ばらの村ののねずみたちの姿勢に学ぶところ、たくさんありそうです。

 

 

 

 

 

【児童書】

『どんぐり喰い』エルス・ペルフロム/作 野坂悦子/訳 福音館書店 2021/11/20 (出版社サイト→こちら

『第八森の子どもたち』(福音館書店)で第二次世界大戦下のオランダの人々を描き、オランダの最もすぐれた児童文学に贈られる「金の石筆賞」を受賞したエルス・ペルフロムの作品です。この作品でも1990年に三度目の「金の石筆賞」を受賞しています。
この作品は、オランダで出版されたオランダ語の作品ですが、物語の舞台は、1943年から1951年のスペイン、アンダルシア地方です。貧しい家庭に生まれた主人公のクロ(本名はサンチャゴ)の8歳の冬から始まり、16歳になる8年間の彼の成長の過程を描いています。
クロの村の人は、煮炊きに使う薪さえ満足に手に入らない貧しい生活をしています。そんな人々を酷使し搾取しているのは修道院の神父や地主たちです。「どんぐり喰い」とは貧しくて、どんぐりまで拾って食べる人々に対する蔑称です。
「夏も冬も 一年じゅう。 ああ あわれなこの人生
たった一口のパンのために おれは働く 昼も夜も。
休みも知らず 朝一番に起き 身を粉にして 魂を預けて。」
そう歌いながら働くクロ。貧しい中でも誇りを失わないその姿にたくましい強さを感じます。
翻訳者の野坂さんは「改めて『どんぐり喰い』の原書を読み返してみると、作品の輝きがむしろ増していることに驚いた」と書いています。日本でも「子どもの貧困」が社会問題として取り上げられるようになり、この本が人間らしく生きることの意味をもう一度考えさせてくれる契機になればという願いを込めて出版されたということが、「あとがき」からも伝わってきました。

 

 

 

 

『飛べないハトを見つけた日から』クリス・ダレーシー/作 相良倫子/訳 東郷なりさ/絵 徳間書店 2021/11/30(出版社サイト→こちら

友人のギャリーとサッカーの練習をしていた公園の植え込みでけがをしたハトを見つけた時から、ダリルの生活は一変してしまいます。
このハトはレース用に飼育されていましたが、ケガをしてしまっては用済み。飼い主に返そうとすると処分するだけだといわれ、自分で飼うことに決めるのです。
それまでは勉強にも身が入らず、打ち込めるものもないダリルでしたが、ハトを守るために責任感が芽生え、理不尽なことに立ち向かう勇気を得て成長していきます。挿絵は鳥の絵を描くのが得意な東郷なりささん(公式サイト→こちら)が描いています。

 

 

 

 

 

『博物館の少女 怪異研究事始め』富安陽子/作 偕成社 2021/12(出版社サイト→こちら

時代は文明開化の頃、明治16年。大阪の下寺町に店を構える花宝堂という道具屋の娘イカルは上京し上野の博物館の古蔵で怪異研究している老人の手伝いをすることになります。その老人織田賢司(= 通称トノサマ)の指示で蔵の整理を始めたイカルですが、台帳と収蔵品の照合を終えた後、黒手匣(くろてばこ)という品物だけが無くなっていることに気づくのです。誰が何の目的で盗んだのか? 隠れキリシタンゆかりの品とも噂される、この匣に隠された秘密とは?富安さんがずっと描きたかったという文明開化の時代の物語、シリーズの第1作です。YA世代の子どもたちにも読みやすい作品になっています。(Youtubeでの紹介動画→こちら

 

 

 

 

【その他】

『かこさとしの手作り紙芝居と私 原点はセツルメント時代』長野ヒデ子/著 加古総合研究所・紙芝居文化推進協議会/協力 石風社 2021/9/10(出版社サイト→こちら

 

紙芝居文化推進協議会会長の長野ヒデ子さんが、戦後すぐに川崎のセツルメントで手作り紙芝居を作って子どもたちにお話を届けに行っていたかこさとしさんに2016年にインタビューしたものをまとめた冊子です。かこさとしさんはその後、2018年5月に92歳で亡くなられました。(「本のこまど」記事→こちら
かこさとしさんは戦前は陸軍士官学校を目指しますが、視力が悪いため受験できず、東京大学に進学します。終戦を戦地に赴かないまま迎えたかこさんは、それからの人生は平和を創り出す活動をしようと決意されます。学生時代に演劇研究会に所属し、子どもたちが大人とは違って思わぬところに反応することを知って、もっと子どもたちを知りたいと思い、卒業後は就職する一方でセツルメントの子どもの会に加わります。そこで初めて作ったのが『わっしょい わっしょい ぶんぶんぶん』という紙芝居。今のような形ではなく、大型日めくりのような形だったそうです。そこから始まる紙芝居つくりは、子どもたちの気持ちや、育ちに寄り添って子どもたちの心を解き放ち、未来へ希望を託すようなものになっていきます。絵本や紙芝居として出版されていない貴重な初期の創作について、聞き出し記録した貴重な資料となっています。デジタル情報社会だからこそ、一方で耳から聞く読書がとても大切です。この冊子を読んで、改めて声の文化、紙芝居のよさを再発見しました。

 

 

 

 

(作成K・J)

2021年11月、12月の新刊から


11月、12月に出版された子どもの本や子どもの本の周辺の資料を紹介します。

今回は、クレヨンハウスで選んだもの、横浜・ともだち書店で児童書担当に推薦をいただき取り寄せた本、出版社から直接送っていただいたもの中心です。次週、銀座教文館ナルニア国へ新刊チェックに行く予定です。そちらでチェックしたものは年内に別記事で紹介いたします。

「11月、12月の新刊から」としていますが、一部見落としていた11月より前に出版された本も紹介いたします。

併せて銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

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【絵本】

『そらからおちてきてん』ジョン・クラッセン/作 長谷川義史/訳 クレヨンハウス 2021/9/25(出版社サイト→こちら)(書影は現在著作権許諾申請中)
ちょっとシュールで、長谷川義史さんの大阪弁の訳がなんともいえないおかしさの味付けをしているジョン・クラッセンの絵本の最新作です。
ちょっとガンコなカメと、おしゃべり好きなアルマジロ、そして無口なヘビの際立つ個性も魅力的です。また空から落ちてくる巨石も、不思議な生物も、「なぜ?」「どうして?」と、考えれば考えるほど不思議ですが、何度もページをめくって、この世界はそうやって一見無意味に感じられる偶然の積み重ねで出来ているのではないかと思えてきます。
クラッセンの絵本は、そうやって読み終わった後にじわじわと様々なことを思いめぐらせるというのが魅力なのだなと思います。

 

 

 

『よあけ』あべ弘士/作 偕成社 2021/10(出版社サイト→こちら
水面に漕ぎ出す小舟、そして『よあけ』という題名にユリ―・シュルヴィッツの作品と似てる、と思ったのが第一印象でした。絵本の後ろ、奥付に「柳宗元、ユリ―・シュルヴィッツ、神沢利子、G.D.バウリーシンら先達への敬意と極東シベリアを流れるビキン川をともに旅した北方民族ウデヘの猟師たちに感謝をこめて」と記されています。
シュルヴィッツの『よあけ』は太陽が昇るとともに一気に光が溢れてきますが、この作品でも凍てつく川を舟で渡っている時に、霧が流れ、太陽の光が差し込むと一気に「わたしは黄金色の中にうかんで」いるシーンが描かれています。きっとあべ弘士さんはシベリアの川を旅した時にシュルヴィッツの『よあけ』を思い出し、またそれまでに出会ったさまざまな本の一場面を心に思い浮かべたのだと思います。凛とした冬の空気を一気に溶かしていく黄金の太陽の光、厳しい寒さの中だからこそ、神々しく描けたのだと思いました。

 

 

 

 

 

『おおきなトラとシカのはんぶんくん』バーニス・フランケル/作 レナード・ワイスガード/絵 こみやゆう/訳 好学社 2021/11/12(出版社サイト→こちら

来年の寅年を前に、ちょっとおとぼけなトラの出てくる楽しい絵本が出版されました。原著は1961年刊です。にいさんたちよりも体の大きさが二分の一しかないため「はんぶんくん」と呼ばれているシカが知恵と勇気で襲いかかろうとするトラに対峙するのと、威勢がいいのにちょっとしたことで怖気づいてしまうトラのやりとりが面白いお話です。翻訳者こみやゆうさんのnote(→こちら)の中で、もう一冊レナード・ワイスガードが描いた『こわがらなくていいんだよ』というトラの絵本を翻訳したことを記していらっしゃいます。版元がなくなったため購入はできませんが、もし館内に所蔵していれば一緒に展示をしてもよいでしょう。(NDLサーチの書誌情報→こちら

 

 

 

 

 

『ハナはへびがすき』蟹江杏/作 福音館書店 2021/11/15 (出版社サイト→こちら

ハナはへびが好き、それだけではなくコマルマルハナバチも、カエルも、トカゲもミミズも、蜘蛛だって、コウモリだって大好きです。ほかの人は気持ち悪いというけれど、じっくり観察すれば美しい模様や、形の中に、自然の不思議があふれていて見飽きないのです。友だちが好きなお人形やピンクのリボンも可愛いけれど、ハナにとっては小さな虫や動物たちが愛おしいのです。しかし、それをわかってくれる人は少ないのです。ひとりでも思いを共有できる友だちに出会った時の喜び。その素直な心の動きを版画で表現した蟹江さん。自由の森学園を卒業後、ロンドンで版画を学んでこられました。私は10年以上前にデパートの上で行われていた個展で蟹江さんの版画に出会っています。この度1冊の絵本になって出版されてほんとうによかったと思いました。

 

 

 

 

『おもち』彦坂有紀、もりといずみ/作 福音館書店 2021/11/20 (出版社サイト→こちら

福音館書店月刊絵本「こどものとも年少版」2018年1月号のハードカバーです。月刊絵本出版の前に、この絵本を担当した編集者さんからこの絵本の制作過程についてお話を伺う機会がありました。作者の彦坂さんともりとさんのユニットの個展「パンと木版画」を見て絵本作りを依頼しようと思っていたところ、他社から『パンどうぞ』(講談社 2014 →こちら)が出てしまったそうです。そこでお二人の持ち味を生かすためにはどんな題材がよいかを考え「おもち」になったこと、またお二人が餅つきを見たことがなかったため、年の暮れにご実家での餅つきに招待したこと、何度も何度も構図をやり直し、納得がいく作品に仕上げるまで、実際にお餅つきを見てもらってから月日が経過したことなどをお聞きしました。会場にはラフスケッチもたくさん展示されていました。幼い子どもたちにお餅がどのように焼けていくのか、香りも音も火鉢の暖かさも実感をもって伝わるようにと描かれたことが改めて絵本を手にして感じられました。まさにお餅が焼けていく匂いを嗅いだ気になりました。お正月にぜひ手に取ってほしいですね。

 

 

『ボクサー』ハサン・ムーサヴィー/作 愛甲恵子/訳 トップスタジオHR 2021/11/30(出版社サイト→こちら

イランで2015年に出版された絵本で、2019年にBIB:The Biennial of Illustration Bratislava (ブラチスラヴァ世界絵本原画展)でグランプリを受賞した作品の邦訳です。この賞は絵本の原画を対象とするもので文章は選考対象に入っていません。(BIBのサイト→こちら)(IBBYの説明サイト→こちら)(JBBYの説明サイト:日本人受賞者のリストが掲載されています→こちら
出版社も初の絵本出版ということで、当社に絵本が寄贈されました。
父親の形見のグローブで、ただ無心に打って、打って、打ち続けたボクサーの物語です。人々の称賛を浴びて打ち続けるうちに、それは破壊的な力を持ち始めます。何もかも打ち崩し、破壊し尽くすのです。
いったい何のために自分は拳を振り上げていたのかと、我に返って考えるボクサー。そこから今度は、人々の生活を守るために、道を通すために、土をたがやし、草木を育て、ナンの記事を焼くためにと、ボクサーの働きが変わっていくのです。最終ページで幼い子どもにボクシングを教えてと声をかけられて「こぶしを上げる前に、そのこぶしがなにを打つのか、考えることだ」と伝えるのです。現代社会を映し出す哲学的な絵本です。

 

 

 

 

『あかるいほうへ あかるいほうへ』おやこでよもう/金子みすゞ 金子みすゞ/詩 きくちちき/絵 ナビゲーター/上戸彩 監修/矢崎節夫 JULA出版局(発売フレーベル館) 2021/12 (出版社サイト→こちら この絵本の情報は未掲載)

金子みすゞの詩「あかるいほうへ」をはじめとして、「ゆき」や「さざんか」など冬の季節の読み聞かせに向く詩10編が、躍動感あふれるきくちちきさんの絵と共に紹介されています。
絵が違うとまた金子みすゞの詩の世界がぐっと身近に感じられます。巻末には2012年にドラマ「金子みすゞ物語」に主演した上戸彩さんがドラマ撮影を通して出会った金子みすゞの生き様について語っています。ぜひ手に取ってほしいと思います。

 

 

 

 

【研究書、その他】

『日本の絵本 100年100人100冊』広松由希子/著 玉川大学出版部 2021/12/10(出版社サイト→こちら

当社受託図書館でも講座講師を務めてくださったことのある絵本評論家で、雑誌などで年間300冊ほどのレビューを書いてらっしゃる広松由希子さんによる、この100年の間に出版された絵本から100人の絵本作家の100冊の絵本を紹介するずっしりと重い本です。(実際に計ったら1.2キロ超・・・個人で購入しにくい分図書館にはリクエストが来ることでしょう)
明治生まれのグラフィックデザイナー杉浦非水の『アヒルトニワトリ』や竹久夢二の『どんたく繪本』、そして中谷千代子の『かばくん』や大村百合子の『ぐりとぐら』、加古里子の『だるまちゃんとてんぐちゃん』、堀内誠一の『たろうのともだち』といった昭和の絵本の黄金期の作家たち、そして長新太に林明子、五味太郎にスズキコージ、山口マオ、酒井駒子、ミロコマチコといった作家の作品が掲載されています。100人100冊の絵本をじっくり味わいながら再読してみたいと思います。

 

 

 

 

『図書館司書30人が選んだ 猫の本棚~出会いから別れまでの299冊~』高野一枝/編著 郵研社 2021/10/31(出版社サイト→こちら

この本はライブラリーコーディネーターの高野一枝さんと図書館司書仲間たちが作りました。まえがきには「中学生以上のおとなを対象にした、猫との出会いから別れまで、猫に関わる本を司書が厳選して紹介した本です。紹介本ならばほかにもあるでしょうが、この本は一味違います。なぜって、本を紹介する人は、「「本と利用者を結ぶ」=「著者と読書を結ぶ」=「人と人を結ぶ」司書だからです。」と書かれ、お薦めポイントとして3つ、「(1)司書は本と利用者を結ぶプロ」、「(2)索引は司書の大事な仕事」、「(3)日本十進分類法(NDC)の付加」が挙げられています。
猫を飼い始めて、添い遂げるまでの、その時々に必要な情報、本は変わっていきます。第1章:猫をむかえる、第2章:猫を識る、第3章:猫と暮らす、第4章:猫を愛でる、第5章:猫に親しむ、第6章:猫をおくる、第7章:番外編 猫のまんが大集合の7章と、9つのコラムで構成されています。幼児、小学生向けの絵本も含まれており、猫の本のレファレンスにも使えるのでこちらでも紹介いたします。

 

 

 

 

(作成K・J)

 

TCLブックレット「こどもとしょかん」評論シリーズ の紹介


東京子ども図書館が刊行している、TCLブックレット「こどもとしょかん」評論シリーズについて紹介します。このシリーズは、東京子ども図書館の機関誌「こどもとしょかん」のバックナンバーの評論が収録されたもので、現在2冊あります。

 児童図書館の先駆者たちーーアメリカ・日本(TCLブックレット「こどもとしょかん」評論シリーズ)東京子ども図書館編纂 東京子ども図書館 2021/5/6 (出版社のサイト→こちら
 
日米児童図書館の黎明期に関する評論2編が収録されています。「アメリカ児童図書館の先達」では、19世紀末〜20世紀初頭、アメリカ公共図書館児童サービスの発展期に特に活躍した、キャロライン・ヒューインズとアン・キャロル・ムーアが紹介されています。「日本児童図書館の黎明期」では、明治時代初めに、図書館の児童サービスの重要性を認識し、日本でのサービスを推し進めた人々が取り上げられています。

社会環境が大きく変わり、サービスの在り方が問われている今、使命感をもって事業を開拓していった先達の歩みから、学びと励ましを得られるように思います。

なお、巻末には関連文献リストが掲載されています。

 

 

もう1冊は、『昔話と子どもの空想』(東京子ども図書館編纂 東京子ども図書館 2021/1/29)です。
お話に関する評論3編が収載されています。詳細は、本のこまど「2021年2月、3月の新刊から」(→こちら)で紹介していますのでご覧ください。

ブックレットに収録されている評論のほかにも、「こどもとしょかん」バックナンバーに掲載されている評論は、何度でも読み返したいものが多くあります。東京子ども図書館のWebページに一覧が掲載されていますので、ぜひ興味のあるものから読んでみてください!  

★東京子ども図書館Webページ 機関誌「こどもとしょかん」→こちら       
                                                                                      

(作成 T.I)

 

2021年10月、11月の新刊から(追加あり)


お待たせしました。11月12日の記事に続いて、10月、11月の新刊の紹介をいたします。

「8月、9月の新刊から(その1)絵本」→こちら
「8月、9月の新刊から(その2)読み物ほか」→こちら
「8月、9月の新刊から(その3)絵本」→こちら

教文館ナルニア国で選書をした本のほかに、表参道・クレヨンハウスや横浜・ともだち書店で児童書担当に推薦をいただき取り寄せた本、翻訳者の方から直接送っていただいたものもあります。

その他の書籍に関しては銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

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【絵本】
《創作絵本》

『どーこかな?』こがようこ/作 瑞雲舎 2021/10/1 (出版社サイト→現在アクセスが制限されています、絵本ナビ瑞雲舎おすすめ絵本→こちら

「りんちゃん りんちゃん おめめはどーこ?」「ここよ ここよ ぱちくるりん」と、顔のパーツをひとつずつ指していく、赤ちゃんとコミュニケーションする絵本です。
目、耳、鼻、頬、口と順番に「どーこ?」と聞いて「ここよ ここよ」と答えていきます。最後は「いいおかお どーこ?」。
「めんめんすーすー」や「おでこさんをまいて」など、顔を使って遊ぶわらべうたと合わせて、赤ちゃんおはなし会でも活躍しそうです。

 

 

 

 

 

 

『ひよこはにげます』五味太郎/作 福音館書店 2021/10/10 (出版社サイト→こちら

この絵本の帯にはこんな風に書かれています。
「300万部超の名作絵本『きんぎょがにげた』から40年。今度はひよこがにげました!」
ブックスタートなどで手渡す絵本としておなじみの『きんぎょがにげた』、そして今度はひよこが3羽にげますが・・・そう、今度はちゃんと戻ってくるのです。子どもって、自分で世界をいろいろ探索したい、冒険したい、でもそれは戻る場所がある、迎えてくれる存在があるから出来ることなんですよね。単純に見えるけれど深いなあと思いました。

 

 

 

 

 

 

『きつねのぱんとねこのぱん』小沢正/作 長新太/絵 世界文化社 2021/10/20(出版社サイト→こちら

2005年に亡くなった長新太さんと、2008年に亡くなった小沢正さんの二人がタッグを組んだ絵本がこの度ハードカバーになりました。初出は、世界文化社が発行している月刊誌「ワンダーブック」の1973年2月号というから、かれこれ48年前の作品です。
「せかいいちおいしいぱんをつくりたい」と夢をいだくきつねのぱんやさん。ある時「おいしいけど、ねこのぱんやさんにはかなわないねえ」とお客のおほしさまに言われます。きつねはねこのぱんやに出かけていって試食すると「きつねのぱんやさんのぱんにはかなわないねえ」と言って帰るのですが、ほんとうは自信をなくしていました。ねこのぱんやさんもきつねのぱんやへ出かけて行って見ると自分よりうまいと感じて自信を無くすのでした。ところが、自信をなくしたふたりがそれぞれに落ち込んで入院すると、なんとベッドで隣同士に。ふたりして、お互いの腕を認め合い、そこからは一緒にぱん作りを始めるというおはなしです。巻末には長新太さんと一緒に絵本を作ってきたトムズボックスの土井章史さんと放送作家で絵本専門士N田N昌さんの対談も収録されています。

 

 

 

 

『ほんやねこ』石川えりこ/作 講談社 2021/10/12 (出版社サイト→こちら

ほんやで働くねこさん。今日はいつもより早めに店じまいをして散歩に出かけたのはよかったのですが、窓を1か所閉め忘れてしまい、ドアをしめたとたん、強い風が吹き込んでしまいました。
強い風で棚の絵本のページがパラパラとめくれてしまって、物語の登場人物たちもみんな外へ飛ばされてしまったのです。
ねこがいつもの野原で毛づくろいをしていると、「ここから ぼくを おろしてくださいな」という声がして見あげると、ピノキオが木の枝に引っかかっていたのです。ピノキオに事情を聞いたねこは、みんなをさがすことにします。のんびりやのねこが風で飛ばされた物語の登場人物を探すのを、読者も一緒に楽しめる作品です。

 

 

 

 

 

『コールテンくんのクリスマス』ドン・フリーマン/原案 B.G.ヘネシー/作 ジョディ・ウィーラー/絵 木坂涼/訳 好学社 2021/10/14 (出版社サイト→こちら

長く読み継がれてきた『くまのコールテンくん』(偕成社、1975→こちら)の続編ではなく、そのお話に続く前段階のおはなしです。
デパートのおもちゃ売り場に並べられていたくまのぬいぐるみには、まだ名前もありません。クリスマスを前に次々に子どもたちがおもちゃを選びに来るのですが、くまのぬいぐるみはなかなか手に取ってもらえません。自分が服を着ていないと気づいたくまのぬいぐるみはデパートが閉店した真夜中、あちこちの売り場を探して自分に合う服を探すのです。「コールテンくん」になった理由も、ズボンのボタンがひとつ取れていた理由もわかって、なんだか懐かしくて、わくわくしてくるお話です。

 

 

 

 

『ピッキのクリスマス』小西英子/作 福音館書店 2021/10/15 (出版社サイト→こちら

ピッキはリナという女の子の人形でした。クリスマスの前の日、リナはピッキをそばにおいて部屋にクリスマスの飾りをつけ、お母さんとの買い物へもバッグに入れて連れていきました。
ところが、たくさんの買い物をして家に帰る途中、ピッキはバッグから滑り落ちてしまったのです。リナたちは人混みの中、そのことに気づかないまま行ってしまいました。
夜になってクリスマスの鐘が鳴り始めると、ピッキは立ち上がって家にむかって歩き出しますが、ねこににらまれて車道に飛び出し、荷車にはねられて動けなくなってしまうのです。
諦めかけた頃、やってきたおじいさんに拾い上げられます。そのおじいさんはサンタクロースで、プレゼントを配りながらリナの家を探してくれるというのでした。ピッキはリナが星を窓に飾りつけていることをサンタクロースに伝えるのでした。裏表紙にはリナのサンタクロースにあてた手紙が描かれています。リナもやはりピッキを探していたんだなあと、読み終わった後に読者は知って、目が覚めた時のことを想像して心温まることでしょう。

 

 

 

 

 

 

『ちちんぷいぷい』谷川俊太郎/文 堀内誠一/絵 くもん出版 2021/10/20 (出版社サイト→こちら

1987年に亡くなった堀内誠一さん、今年は生誕90年の年にあたります。50年ぶりに発見された原画に、谷川俊太郎さんが文章を書きおろし、楽しい絵本になりました。
きつねのマジシャンが「ちちんぷいぷい」とおまじないの言葉をかけると、あら不思議、どんぐりやりんご、かき、ぶどうと次々にどうぶつたちの大好きな木の実や果物が出てきます。ところが…台の下にだれかがいたのです。親子でいっしょに楽しめる絵本です。

 

 

 

 

 

『ロボベイビー』ディヴィッド・ウィーズナー/作 金原瑞人/訳 BL出版 2021/10/20 (出版社新刊案内ページ→こちら

ロボットの家族に新しい赤ちゃんがやってきます。もちろんダンボール箱に入って。ママのダイオードとパパのラグナットが早速組み立て始めますが、なかなかうまくいきません。
おじさんが来て組み立てますが、なんとおじさんはマニュアルとは全然違う改良をしてしまいます。姉のキャシーは、プログラムをインストールするようにと進言しますが、ママはとりあえずスイッチを入れてしまいます。すると赤ちゃんロボットは暴走してしまうのです。そこで大活躍したのはペットロボットのスプロケットでした。キャシーがプログラムをダウンロードするとやっと正常に動き出したのでした。近未来的なファンタジーで、ロボット好きな子どもたちは喜ぶことでしょう。

 

 

 

 

 

『野ばらの村の秋の実り』ジル・バークレム/作・絵 こみやゆう/訳 出版ワークス 2021/10/25 (出版社サイト→こちら

「野ばらの村の物語」シリーズの3冊目、『野ばらの村のピクニック』=春、『野ばらの村のけっこんしき』=夏に続いて、野ばらの村の秋を描いた絵本です。
森ねずみの女の子プリムローズは、お父さんとブラックベリー摘みに出かけましたが、お父さんがアイブライトおばさんに呼び止められたため、一人で家に帰ることにします。ところがプリムローズはムギ畑に寄り道をし、そこでカヤねずみの家をみつけてお茶をいただくことになります。あっという間に時間が過ぎてしまい、夕闇にまぎれて帰り道がわからなくなって迷子になってしまうのです。最後の場面でプリムローズが、家族に出会えるシーンではホッとします。描かれる秋の実りの風景もとても美しい絵本です。

 

 

 

 

 

『こうさぎとおちばおくりのうた』わたりむつこ/作 でくねいく/絵 のら書店 2021/11/1 (出版社サイト→こちら

『もりのおとぶくろ』、『こうさぎと4ほんのマフラー』、そして『こうさぎとほしのどうくつ』に続く「こうさぎのえほん」シリーズの4冊目、秋の絵本です。
秋深まるころ、こうさぎたちの町では秋祭りが行われ、子どもたちは「おちばおくり」の歌を歌いながらパレードをします。
「おーくれおくれ おーちばおちば てんまでおくれ」
途中でパレードからはずれて、山のうえまできた4ひきのこうさぎたちはぶなじいのところへ行こうとしますが、落ち葉で道が見えなくなってしまいます。すると、かすかに「・・・おーくれ・・・おくれ・・・おーちば・・・おちば・・・」と、そばの木のうろから音が聞こえてきます。それこそ、ぶなじいのおとぶくろだったのです。
秋祭りの様子は、絵本画家の出久根育さんが住むチェコの森がベースになっているようです。豊かな森の美しい森の様子を、絵本を通して感じることが出来ればいいなと思います。

 

 

 

 

 

『リィーヤとトラ』アンナ・フェドゥロヴァ/文 ダリヤ・ベクレメシェヴァ/絵 まきのはらようこ/訳 カランダ-シ 2021/11/1 (出版社サイト→こちら

「1月のおはなし会☆おすすめリスト」(→こちら)には、来年の干支、寅に合わせてトラの絵本をまとめて掲載していますが、そのリストでも紹介している新刊です。
リィーヤは森林監視員のお父さんと一緒に森で暮らしています。リィーヤはどうぶつやことりの言葉がわかるのでした。ある時、リィーヤは森の中で初めてトラと出会います。初めてのことでリィーヤはふるえあがりながらも目をそらさず、名前を名乗ります。そしてどうぶつやとりのことばがわかること、どうぶつもとりも助け合える仲間だと伝えるのです。トラはそれを聞いてリィーヤを襲うことをやめます。その後、罠にかかったトラを助けたリィーヤは、数日後川でおぼれた時に今度はトラがリィーヤを助けてくれるのでした。シベリアのタイガを舞台に描かれたロシアの絵本です。絵はコラージュ技法を使って描かれています。

 

 

 

 

『いっしょだね いっしょだよ』きむらだいすけ/作 講談社 2021/11/10 (出版社サイト→こちら

いろんなどうぶつの親子が出てくる小さい子向けの絵本です。
「ながーい くび ちょっと ながい くび」「キリンの おやこが ごあいさつ いっしょだね いっしょだよ」と体の特徴が同じことを確かめ合います。
おおきな口のカバの親子、長い鼻のゾウの親子、ひなたぼっこが大好きなミーアキャットの親子たち、その他にライオンやシマウマ、ダチョウにゴリラの親子が次々に登場します。
親子で一緒に楽しんでほしい絵本です。

 

 

 

 

 

 

《ノンフィクション絵本》

『もりはみている』大竹英洋/文・写真 福音館書店  2021/10/1(出版社サイト→こちら

森の中に棲む動物たち、あかりすにごじゅうから、こぐまのきょうだい、となかいが、木々の陰から、木の上からじっと見つめています。
帯には「野生の動物たちと見つめあったことがありますか?”ぼくが森を見ていたのではなく、森に見られていたのだ〟そんな感覚をいつか絵本にしたいと思い続けて、この本ができました。」とあります。ページをめくるたびに、視線を感じ、森にいるような気持になるので不思議です。月刊絵本「こどものとも年少版」2015年10月号のハードカバー版です。

 

 

 

 

 

 

『おちばのほん』いわさゆうこ/作 文一総合出版 2021/11/12 (出版社サイト→こちら

今年は都内の紅葉も例年以上に美しく色づいていると感じます。こちらの絵本は、さまざまな種類の紅葉、黄葉する葉の図鑑です。
ただ、葉の種類が羅列されているだけではなく、前半は語りかけるようにさまざまな葉っぱが色づいていく様子を説明してくれます。後半には葉っぱの働きや光合成についての説明や、落ち葉を使った遊び方などの説明、用語解説などが掲載されています。
この1冊を手に公園で、野山で、落ち葉集めをしてみるのも楽しそうです。

 

 

 

 

 

 

 

【読み物】

『雌牛のブーコラ』愛蔵版おはなしのろうそく12 東京子ども図書館/編 東京子ども図書館 2021/10/20 (出版社サイト→こちら

東京子ども図書館刊行の「おはなしのろうそく」23、24に収められているおはなしをまとめた愛蔵版です。
本のタイトルになっているアイスランドの昔話「雌牛のブーコラ」のほかに、アイヌの昔話「腹のなかの小鳥の話」やアンデルセンの「マッチ売りの少女」など全9話と2つのわらべうた「ばか かば まぬけ」と「おてぶしてぶし」が楽譜入りで掲載されています。

 

 

 

 

 

 

『オンボロやしきの人形たち』フランシス・ホジソン・バーネット/作 尾崎愛子/訳 平澤朋子/絵 徳間書店 2021/10/31 (出版社サイト→こちら

『秘密の花園』や『小公女』などの長く読み継がれている名作を残したバーネットの幼年童話です。1907年の作品なのだそうですが、日本では初めて翻訳されました。
シンシアは、おばあちゃんが小さな時に使っていた人形の家を受け継いでいましたが、家も人形たちもくたびれてボロボロになっていました。でもオンボロやしきの人形たちは、陽気で仲良く暮らしていました。
ところがシンシアの誕生日に新しい人形の家が届きます。するとオンボロやしきは部屋の隅に追いやられてしまうのです。それでも気立てのよい人形たちは、新しい家の人形たちの様子に感心し、困っている時には駆け付けて助けるのでした。
ある時、王女さまがシンシアのところへ遊びに来るというので、乳母はオンボロやしきを人形ごと燃やしてしまおうとします。でも妖精がそれを阻止するのです。
それぞれの人形が個性豊かに生き生きと描かれて、おはなしの世界に惹きこまれました。

 

 

 

 

『ポーチとノート』こまつあやこ/作 講談社 2021/10/26 (出版社サイト→こちら

『リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ』(→こちら)で講談社児童文学新人賞を受賞、『ハジメテヒラク』(→こちら)で第54回日本児童文学者協会新人賞を受賞したこまつあやこさんの待望の3作目です。
もうすぐ17歳の誕生日を迎える未来(みく)は、中高一貫の女子校に通っています。物語は祖母が同じマンションに引っ越してくるところから始まります。祖母のアサエは17歳の時に未来の母を未婚のまま出産したので、母親に間違えられるくらい若々しいのです。そんなアサエが未来の10歳の誕生日にプレゼントしてくれたのが生理用品の入った可愛らしいポーチでした。しかし未来はまだそれを使う機会が訪れていなかったのです。祖母とは逆に保守的な母にはそんな性の悩みを打ち明けられずにいました。
夏休み、親友芽衣は、彼氏ができてデートを重ねていましたが、花火大会の夜にお泊りを誘われたと未来に打ち明けます。未来も学校図書館に司書補として夏の間だけバイトをしている大学生の保坂に淡い恋をします。そうしたことを通して否応なしに自分の身体に向き合うことになり、図書館の「救急本箱」のなかにあった『世界中の女子が読んだ!からだと性の教科書』(エレン・ストッケン・ダール、ニナ・ブロックマン/著 高橋幸子/医学監修 池田真紀子/訳 NHK出版 2019)に出会います。図書館司書の池さんが語る「自分の体についての知識は、すべての女子に大事なことだと思うから。」という言葉の中に、作者の温かいメッセージがこめられています。

 

 

 

 

 

【研究書】

『光吉夏弥 戦後絵本の源流』澤田精一/著 岩波書店 2021/10/5 (出版社サイト→こちら

光吉夏弥と聞いて誰だかわからない人も、『はなのすきなうし』(→こちら)や『ひとまねこざる』(→こちら)を翻訳した人だと聞くと、それなら読んだことがあると思うことでしょう。
これらの絵本は戦後1953年から刊行された「岩波の子どもの本」のラインナップです。
第1期24冊の絵本が出版されたのですが、そこには光吉夏弥さんの功績が大変大きかったのです。企画から出版までの期間が短く、また海外の絵本も右開き縦組みに統一されたため、光吉夏弥さんが所有していた絵本(原書)をばらして、逆版でレイアウトしたというのです。ではなぜ光吉夏弥さんが海外の優れた絵本を原書で持っていたのか、その背景について夏弥さんの父親の代にまで遡り、戦前、戦中、戦後の彼の歩みと、子どもの本に対する思いを丁寧に調べた評伝です。戦後占領下、GHQによる日本の子どもの本への影響などについても興味深いものがあります。ご一読をお勧めします。

 

 

 

(作成K・J)

2021年8月、9月の新刊から(その3)絵本


毎月の新刊を出来る限り読んで紹介しているこちらのコーナー。11月になっているのに、まだ「8月、9月の新刊から」なの?と、訝しく感じられる方、ごめんなさい。

10月末に教文館ナルニア国へ行って、新刊チェックしてきました。そうすると見逃していた作品をいくつも見つけてしまいました。

10月、11月の新刊も合わせると絵本だけで25冊、読み物を加えると30冊を超えるために、分割して紹介することにしました。

そこで、「8月、9月の新刊から(その3)絵本」としてまず13冊紹介し、次週に「10月、11月の新刊から」として残りの新刊を紹介いたします。なお、一部8月より前に出版されて見逃している絵本もこちらで紹介いたします。

「8月、9月の新刊から(その1)絵本」→こちら
「8月、9月の新刊から(その2)読み物ほか」→こちら

教文館ナルニア国で選書をした本のほかに、表参道・クレヨンハウスや横浜・ともだち書店で児童書担当に推薦をいただき取り寄せた本、翻訳者の方から直接送っていただいたものもあります。

その他の書籍に関しては銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

 

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【絵本】

『学校が大好き アクバルくん』長倉洋海/文・写真 アリス館 2021/7/10(出版社サイト→こちら

学生時代に大学探検部でアフガン遊牧民に出会ってから、フォトジャーナリストとしてアフガニスタン抵抗運動の指導者マスードをカメラで追うなどしてきた長倉さん。戦争や紛争の表層を撮るのではなく、そこで生活する人々の姿を捉えようとするその姿勢は国際的にも高く評価されています。9月25日(土)にクレヨンハウスで行われた子どもの本の学校、長倉さんの回をオンラインで視聴しました。
毎年、アフガニスタンの北東部バンシール県の山間の学校に通っていた長倉さんは、2019年春に小学1年生になったアクバルくんに出会います。彼のいたずらっぽく笑う顔に惹きつけられ、彼を中心に山の学校の様子を伝えることにしたことなどを多くの画像と共に話してくださいました。その時、話してくださったのと同じ内容が「好書好日」の10月25日の記事に掲載されました。(→こちら)今年夏、アフガニスタン情勢は大きく変化しました。厳しい環境の山の学校で、でも男女一緒に楽しく学ぶ彼らが、これからも学びを続けられるようにと願うばかりです。

 

 

 

『としょかんはどこへ? ニューヨークのとしょかんにいる2とうのライオンのおはなし』ジョシュ・ファンク/文 スティーヴィ・ルイス/絵 金柿秀幸/訳 イマジネイション・プラス 2021/7 (出版社サイト→こちら
ニューヨーク公共図書館の入り口にある2頭のライオンの銅像は有名ですね。その2頭にはそれぞれペイシェンス(Patience=忍耐)とフォーティテュード(Fortitude=不屈の精神)という名前がついています。
2頭は図書館が閉館した後に、児童室に忍び込んでお気に入りの絵本を読むのが好きでした。ところがある晩、児童室へ行って見るとそこはもぬけの殻。図書館がどこかへ行ってしまったと2頭はニューヨークの街中を探し回ります。セントラルパークではアンデルセンの銅像に尋ねたりしますが、見つかりません。ところが夜が明けるからと急いで図書館まで戻ってくると、向かい側に新しい子ども図書館が!児童室だけ新しくなったのですね。『あいぼうはどこへ?』(→こちら)の続編です。

 

 

 

『くまがうえにのぼったら』アヤ井アキコ/作 ブロンズ新社 2021/8/25(出版社サイト→こちら

くいしんぼうのくまが、やまぶどうの実を食べようと松の木にのぼっていきました。食べるのに夢中になっているうちに、どんどん先の細い枝へ。くまの重みに耐えられなくなった松の木は、体をしならせてくまを天高く跳ね上げてしまいます。
雨雲を突き抜け、星まで飛んでいったくまは、山の上に大雨と流れ星を大量に降らせるのです。さてさて、朝になっておひさまが顔を出すと、山の景色が一変しているではありませんか。そこでおひさまが「さあみんなもといたところにもどりなさーい!」と大声で号令をかけるのです。するとみんな元通りになるのですが、雨雲だけ遠くへ飛んでいったので、雨水は霧になって立ち込めていました。憎めない表情のくいしんぼうのくまくんが、読んでもらう子どもたちを惹きつけることでしょう。

 

 

 

 

『おばけのキルト』リール・ネイソン/文 バイロン・エッゲンシュワイラー/絵 石井睦美/訳 光村教育図書 2021/8/25(出版社サイト→こちら

この絵本を、見落としていてハロウィン前に紹介できなくて残念でした。おばけのキルトは、何枚も布を縫い合わせたパッチワークで出来ています。中に綿も詰められているので重くて、ほかのおばけのように軽く飛ぶことができません。「つぎはぎくん」と仲間たちにからかわれる度に、一枚の布だったらよかったのにと思うのです。ところがハロウィンの夜、キルトは勇気を出して外へ出ます。そしてベランダの手すりに引っかかって仮装して歩く子どもたちを眺めていました。すると、バレリーナのかっこうをした小さな女の子のママに拾い上げられてしまうのです。でも女の子の体をくるんで温めてあげると、ママから「すてきなパッチワークだこと」とほめられてすっかり自信がつきました。女の子がぐっすり眠ってしまうと、キルトは空高く飛ぶことが出来たのでした。自己肯定感がいかに生きる上で大切か、キルトを通して教えてくれているようです。

 

 

 

 

『アンディ・ウォーホルのヘビのおはなし』アンディ・ウォーホル/著 野中邦子/訳 河出書房新社 2021/8/30 (出版社サイト→こちら)*新装版

2017年5月に出版された絵本の新装版です。
ポップアートの騎手と呼ばれたアンディ・ウォーホルが、トカゲやヘビ、ワニなどのレザー用品を扱っていたFleming-Joffe社のために作ろうとしていた映画のスケッチを元にした絵本。
1960年代はじめのファッション・アイコンとなったセレブ女性が次々に出てきて、ああ、これは子ども向けの絵本ではないなと思うのですが、色彩もポップな表情もセンスがあって、手に取らずにはいられませんでした。YA世代のファッションや美術に興味のある子たちには、おしゃれな絵本として手に取ってもらえると思います。

 

 

 

 

『ロサリンドとこじか』エルサ・ベスコフ/作・絵 石井登志子/訳 徳間書店 2021/8/31(出版社サイト→こちら
1984年にフレーベル館から出版されていた絵本の復刊です。
ある日、おじいちゃんに会いにいった女の子が、おじいちゃんと一緒におはなしを作るというストーリーです。
菩提樹に黄色い花が咲く季節に、ロサリンドという女の子がこじかと一緒に昼寝をしていると、猟師がやってきて鉄砲を撃ちます。ロサリンドは自分の大切なこじかが逃げてしまったと猟師に訴えると、猟師は謝りながらこじかを探してくれることになります。そのこじかは王さまの庭に逃げ込み、金色の檻に入れられていました。子どもたちは、ロサリンドはこじかを助け出せるかしらと、ドキドキしながらこのお話の続きを聞きたがることでしょう。

 

 

 

 

『ともだちのいろ』きくちちき/作 小峰書店 2021/9/6 (出版社サイト→こちら

くろちゃんは黒い犬です。ともだちに「くろちゃん なにいろ すき?」と聞かれるとみどりいろのかえるくんには「みどり!」、赤いことりさんには「あか!」、青い色のとかげくんには「あお!」、茶色いいたちくんには「ちゃいろ!」と答えます。
そう、くろちゃんは聞いてきたともだちの色を答えるのです。そうするとおともだちは大喜びします。
ある時、みんなが一斉にくろちゃんに聞きます。「くろちゃん なにいろが いちばん すき?」
くろちゃんは、困って、困って、答えに窮したかと思ったら「ともだちいろ!」と答えたのでした。みんな違って、みんないい。くろちゃんの優しい気持ちが伝わります。

 

 

 

 

『いっぱいさんせーい!』宮西達也/作・絵 フレーベル館 2021/9 (出版社サイト→こちら

5ひきのなかよしおおかみ、よいお天気に誘われて集まりました。「みんなでなにをしようか・・・?」と聞くと、サイクリングにたこ揚げ、昼寝に山登りと1ぴきずつ違うことをやりたいと提案します。そこで全部やろうと決めて、順番にやっていきます。
山の頂上に登りつめた時に、反対側の麓にぶたたちの群れをみつけます。そこで5ひきは山を下りていくことに。
その頃、ぶたたちは眠りから覚めると1ぴきのぶたが「いわやまにのぼって ほしをみようか?」と提案します。その声に思わずおおかみたちが山の上から「さんせーい」と返事をしたものだから、ぶたたちに気づかれてしまうまぬけなおおかみ、というクスッと笑えるユーモア絵本です。

 

 

 

 

『オノモロ ンボンガ  アフリカ南部のむかしばなし』アルベナ・イヴァノヴィッチ=レア/再話 二コラ・トレーヴ/絵 さくまゆみこ/訳 光村教育図書 2021/9/16(出版社サイト→こちら

ずっとずっとむかし。ある年、雨がまったくふらなくなり、大地が干上がってしまいます。どうぶつたちは水が飲めなくなってしまいました。そんな時、カメがふしぎな夢を見ます。それは、いろいろなおいしそうな実をたくさんつけたまほうの木でした。村の物知りおばあさんは、その木がほんとうにあること、その実を食べるためには木の名前をいって挨拶すること、そして木のある場所を教えてくれます。
そこでカメはそのまほうの木の名前「オノモロ ンボンガ」を唱えながら長い道をゆっくり進んでいくことになりました。途中でライオンやゾウ、ガゼルが歩みののろいカメには無理だといって先を急ぎますが、失敗ばかり。結局ゆっくり着実に歩んでいったカメがまほうの木に辿り着くのです。まほうの木の下でカメが、ちゃんと名前を言えた時には、読んでもらっている子どもたちもきっとホッとすることと思います。

 

 

 

『もりにきたのは』サンドラ・ディークマン/作 牟禮あゆみ/訳 春陽堂書店 2021/9/16  (出版社サイト→こちら
第27回いたばし国際絵本翻訳大賞英語部門で最優秀翻訳大賞を受賞した作品です。
暗い波の上を流されてやってきたしろいどうぶつ。その動物は森の中の洞穴に住み着きます。森のほかのどうぶつたちは、するどい目つきで、体中に葉っぱを巻きつけるしろいどうぶつのことを、「どこかへいけばいいのに」、「あのきば、みました?」、「あいつはきけんだ!」と言うものもいれば、「きっとまいごだ!」、「かなしそうじゃないか!」と言ってうわさをするばかりです。どう接するかについては話し合っても、結局意見はまとまりません。しろいどうぶつが崖から海に飛び込んだのを見たからすたちが、やっと声をかけます。すると北の海から氷が割れて流されてきたしろくまだったことがわかるのです。異質なものを排除しようとするのではなく、声を聴くことの大切さを、知らせてくれる物語です。

 

 

 

 

『すてきなタータンチェック』奥田実紀/文 穂積和夫/絵 たくさんのふしぎ傑作集 福音館書店 2021/9/20 (出版社サイト→こちら
福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」2018年9月号のハードカバーです。作者は、子どもの頃からチェック柄、とりわけタータンチェックと呼ばれる柄に惹かれていました。イギリスに関係ある柄だという漠然とした知識でいたところ、カナダへ留学した時にそこで「プリンス・エドワード島・タータン」というものに出会い、イギリスだけにある柄ではないことを知ります。しかも、「タータンチェック」という呼び名はないとお店の人に言われてしまいます。そこでタータンについて調べようと決意します。この絵本は「タータン」と呼ばれる織物の歴史と変遷、織り方などについての詳細に調べた研究入門書になっているのです。
月刊誌が出た時に、絵を描いた穂積和夫さんとイラストレーター大橋歩さんの対談が銀座・蔦屋書店でありました。その模様も福音館書店の「ふくふく本棚」で読めます。(→こちら

 

 

 

『チリとチリリ よるのおはなし』どいかや/作 アリス館 2021/9/21 (出版社サイト→こちら

自転車にのって「チリチリリ」といろんなところへ行くふたりの女の子。森の方からお囃子が聞こえてくるのに誘われて、自転車に乗って向かいます。すっかり辺りが暗くなっても、森の入り口には明かりが灯っています。そこにはくろねこのドリンクスタンドがあり、「おつきみドリンク」を飲むと、不思議なことにチリとチリリにきつねの耳としっぽが生えてきました。これで、夜の森も良く見えます。そしてくろねこにもらったお花の首飾りはおまつりのチケットでした。ふたりはどうぶつたちに交って「まんげつまつり」に参加したのです。柔らかい色鉛筆画がファンタジーの世界へ連れてってくれます。

 

 

 

『あそぼう クマクマ なにしているかな?森のどうぶつたち 春・夏・秋・冬225のさがしもの』レイチェル・ピアシー/文 フレイヤ・ハルタス/絵 広松由希子/訳 河出書房新社 2021/9/30(出版社サイト→こちら
クマクマの森にはたくさんのどうぶつたちが暮らしています。そんな仲間たちを絵の中に探していく絵本です。
「おはよう!森のなかまたち」、「ウサギのたんじょう会」、「元気いっぱいうんどう会」、「クマクマのピクニック」など、見開きページごとに、春夏秋冬のクマクマの森での出来事が描かれ、「さがしもの」のコラムに書いてあるものを探していきます。さがしものをしながら、森の中でのどうぶつたちが、生き生きと語りかけてくれ、季節が変化していく様子を知ることができます。図書館での読み聞かせには向きませんが、ご家庭では親子で楽しく絵本を囲んで会話が弾みそうです。

 

 

 

 

 

(作成K・J)

2021年8月、9月の新刊から(その2)読み物ほか


8月、9月に出版された子どもの本のうち、読み物や子どもの本の周辺の資料を紹介します。

すでに10月発行の絵本も届いていますが、それはまた月末にまとめてお知らせする予定です。

また、今回3か月ぶりに銀座教文館ナルニア国へ新刊チェックに行きました。そこで、見落としていた8月以前に発行された新刊もみつけました。それも併せて紹介いたします。

教文館ナルニア国で選書をした本のほかに、横浜・ともだち書店で児童書担当に推薦をいただき取り寄せた本、翻訳者の方から直接送っていただいたものもあります。

その他の書籍に関しては銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

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【児童書】
《物語》

『山賊のむすめローニャ』リンドグレーン・コレクション アストリッド・リンドグレーン/作 イロン・ヴィークランド/絵 ヘレンハルメ美穂/訳 岩波書店 2021/8/27 (出版社サイト→こちら

 

ジブリのアニメーションで知っているという人が多いかもしれません。『長くつ下のピッピ』で子どもたちの心をつかんだアストリッド・リンドグレーンが73歳の時に出版した最後の小説です。
日本では1982年に大塚勇三の翻訳で岩波書店から刊行されました。
この度、新装版「リンドグレーン・コレクション」収録にあたり新たに翻訳されました。
嵐の夜にマッティス山賊の娘として生まれたローニャは、外の世界に出かけていって敵対するボルカ山賊の息子ビルクに出会います。
ふたりの間には次第に友情が芽生えますが、父親にとっては許しがたいことでした。ローニャにとっては自分への愛情であることを重々承知の上で、それでも父親に背を向け自立の道を歩みます。伝統や、誰かが決めた枠にはまらず、自分たちで道を切り拓こうとする姿勢は、今の子どもたちに必要なことだと思います。手渡していきたいですね。

 

 

 

『おてんばヨリーとひげおじさん』アニー・M.G.シュミット/作 フィーブ・ヴェステンドルブ/絵 西村由美/訳 岩波書店 2021/9/10(出版社サイト→こちら

 

オランダの国際アンデルセン賞受賞作家のアニー・M.G.シュミットさんが、長い間一緒に本を出版してきたイラストレーター、ヴェステンドルブさんとの最後の共作として1990年に出版した幼年童話です。
新しい国際特急列車が初めて走るお祝いの日、オランダの大臣や外国の大統領も乗り込んで出発を待つばかりでした。ところが発車寸前、小さな女の子ヨリーが「だめっ、だめーっ!」と叫んで車掌のひげおじさんの腕をつかんで制止したしたのです。なんと列車の下にハリネズミたちがいるから助けてというのです。ハリネズミを助けている時、ヨリーはすごいものを見つけてしまいます。それは一体何なのか、列車は無事に終点にたどりつけるのか、ハラハラドキドキの展開に、ぐっと惹きつけられるお話です。142ページと幼年童話としては長めですが、ルビもふってあるので低学年の子どもたちにおすすめできそうです。

 

 

 

『黄色い夏の日』高楼方子/作 木村彩子/画 福音館書店 2021/9/10  (出版社サイト→こちら

中学生になって美術部に入った景介は、丘の上にある古い洋館をスケッチしたいと思っていました。怪しまれるかと思いながら、家の周りを見ている時、その洋館の主である老女に声をかけられます。なんと、それは景介の祖母が入院していた時、隣のベッドにいたおばあさんでした。庭にキンポウゲの黄色い花が咲き乱れるその家でゆりあという可愛らしい少女と出会います。そして不思議な雰囲気をもつその少女に、景介はすっかり心惹かれていくのです。
時間を超えるファンタジーとしてはフィリッパ・ピアスの『トムは真夜中の庭で』や、ジョーン・G・ロビンソンの『思い出のマーニー』を彷彿させます。読む者を惹きつける不思議で美しい物語です。

 

 

 

 

 

『王さまとかじや』ジェイコブ・ブランク/文 ルイス・スロボドキン/絵 八木田宜子/訳 徳間書店 2021/9/30(出版社サイト→こちら

むかしある国に「えらいホレイショ王」という王さまがいました。まだ8歳の若い王さまだったので、王さまがやることなすことは、いろいろな大臣が決めていました。そして王さまはその決めたことに従うしかありませんでした。
ある日、乗馬をしている時に、からすが王さまの冠を盗んでしまいます。取り戻すように大臣たちに命じますが、「『ぬすまれたかんむりをとりもどす大臣』がおりません。かんがえるじかんをいただきませんと」と答えるばかり。そこで王さまは近くの村で大きな声が出せると評判のかじやを呼ぶことを命じます。
大臣たちにあやつられていた王さまが、自分で判断して、大臣たちの鼻を明かすところがとても面白いお話です。文字を読み始めたばかりの子どもたちにおすすめします。

 

 

 

 

 

【ノンフィクション】
『ギャル電とつくる! バイブステンアゲ サイバーパンク電子工作』ギャル電/著 オーム社 2021/9/13 (出版社サイト→こちら

Eテレなどにも出演したことのある電子工作ユニット「ギャル電」(2021/10/17文春オンラインインタビュー記事→こちら)は、「今のギャルは電子工作をする時代」をスローガンに活動しています。ギャル語をしゃべり、派手な格好をしていますが、実はひとりは工学研究科修士課程を修了している専門家。専門知識を使って、ティーンエイジャーにおしゃれな光るアクセサリーを指南してくれます。
中身は制作過程をわかりやすく示す写真や回路図やプログラミングなどで、初心者でも取り組める内容になっています。夏休みは終わってしまったけれど、これからハロウィンやクリスマスもあるし、こうした電子工作の知識はきっと役に立つはずです。児童書として発売されてはいない本ですが、中高生向けにぜひおすすめしたい1冊です。

 

 

 

 

 

【エッセイ】

『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー2』ブレイディみかこ/著 新潮社 2021/9/15 (出版社サイト→こちら

2年前に発売され大反響を呼んだ『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(出版社サイト→こちら)の続編です。前作では、イギリス、ブライトンに暮らすブレイディ家の一人息子が通う公立中学の、子どもを点数や偏差値で決めつけず、子どもの可能性を信じてさまざまな取り組みをする様子を描き多くの人の共感を呼びました。
「2」では息子も13歳になり、さまざまな出来事を通して、物事をみつめ、成長していく様子が描かれます。思春期は、親の枠から飛び出し、自立へ向かう時期、そこにはいろいろな思いが交錯します。
そうした姿を瑞々しく描くエッセイ。ティーンズサービスについて考えるヒントもたくさんあるはずです。

 

 

 

 

 

『子ども、本、祈り』斎藤惇夫/著 教文館 2021/9/30 (出版社サイト→こちら

福音館書店の編集者を経て、児童文学作家になり『グリックの冒険』、『冒険者たち』などの作品を生み出してこられた斎藤惇夫さん。作家活動の傍ら、数年前より教会付属幼稚園の園長になられ、日々子どもたちと相対していらっしゃいます。
本書は園長として、幼稚園の子どもたちの中に発見した驚きに満ちた世界を折々にエッセイにまとめたものです。
時代はすごい勢いで変化し、子どもたちの生活の中にもデジタルが入り込んでいても、やはり子どもにとって物語を読むよろこびは変わらない、むしろますます重要になっていると言っていいでしょう。子どもたちの中にいて見えるものを、一緒に確認したいなと思います。

 

 

 

 

【研究書、その他】

『ありがとう 絵本作家・田畑精一の歩いた道』「ありがとう 絵本作家・田畑精一の歩いた道」実行委員会/編 童心社 2021/6/30 (出版社サイト→こちら

2020年6月に亡くなられた田畑精一さん(訃報記事→こちら)と親しかった絵本作家、編集者、児童書の研究者やデザイナーが集まって「お別れの会」のかわりに何かしたいと実行委員会を作られ、展覧会と本を刊行することを決められました。
「没後一年 田畑精一『おしいれのぼうけん』展」は2021年3月16日から6月13日まで東京練馬にあるちひろ美術館・東京で行われ(→こちら)、9月11日から11月30日までは安曇野ちひろ美術館(→こちら)で行われています。
53ページほどのこの本には、田畑精一さんが雑誌記事や対談などで残してこられた子どもの本との出会いや、子どもの本に向き合ってこられた想いがまとめられ、随所に田畑精一さんが描いた絵が散りばめられています。またコラムとしていわむらかずおさんや神沢利子さんなど田畑精一さんと親しかった方々が思い出を寄せていらっしゃいます。彼の作品が長く読み継がれてきたその理由がすっと降りてきて、ほんとうに「ありがとう」と伝えたくなりました。

 

 

 

 

『”グリムおばさん”とよばれて―メルヒェンを語りつづけた日々―』シャルロッテ・ルジュモン/著 高野享子/訳 こぐま社 改訂第1版 2021/8/5(出版社サイト→こちら

ドイツで1961年に出版され、日本では1984年に翻訳され、お話を語る人々の間で読み継がれてきたこの本が、この度、改訂を加えて出版されました。
グリムの昔話を、その原点に忠実に40年間も語り続けてきたルジュモン夫人の記録です。病院で医療技術員として働きながら傷病兵に語り聞かせたのが、彼女が職業的語り手になった動機です。昔話には人々の苦しみを和らげ、生きることへの助けになると確信したというのです。
子どもたちに昔話を語る人は少なくなりました。それでも図書館ではおはなし会で昔話を語ってくれる司書さんやボランティアさんがいて、その伝統は絶えさせてはいけないなと改めて思いました。

 

 

 

 

『子どもに定番絵本の読み聞かせを 選書眼を育てる60冊の絵本リスト』尾野三千代/著 児童図書館研究会 2021/8/15 (出版社サイト→こちら

公共図書館で長く児童担当として働いてきた著者が、これだけどんどん新しい絵本が出版される中でも、定番の絵本をすすめる理由を丁寧に解き明かしてくれます。
年間、千の単位で新刊本が出版されていますが、その多くが売れ残り、断裁されている事実を知るものとして、長く読み継がれてきた定番絵本をもっと大事に受け渡していくことが、子どもたちのためになるのでは、と私自身も感じています。ただそれをきちんと言葉にすることが難しかったのですが、この本を読んで整理できました。
選書の際の足場をどう養えばよいか、迷っている児童担当の方にはぜひ読んでほしいと思います。

 

 

 

 

 

 

『かこさとしと紙芝居 創作の原点』かこさとし・鈴木万里/著 童心社 2021/8/25 (出版社サイト→こちら

かこさとしさんが東大の学生時代に、セツルメント運動に関わって子どもたちの遊びや学びを支えるボランティアをされていたことはかこさとしさんが亡くなられた後の特別番組や、エッセイ集などでご存知の方も多いでしょう。
かこさとしさんの代表作『どろぼうがっこう』や『おたまじゃくしの101ちゃん』などは、子どもたちの前で演じた手描きの紙芝居が元になっています。つまりかこさとしさんの創作の原点が紙芝居にはありました。
この本では、豊富な資料と共にかこさとしさんの紙芝居の魅力をたっぷりと味わうことができます。

 

 

 

 

 

 

 

『すき間の子ども、すき間の支援 一人ひとりの「語り」と経験の可視化』村上靖彦/編著 明石書店 2021/9/10 (出版社サイト→こちら

こちらは児童書でも児童書の研究書でもありませんが、子どもたちの「今」を私たちに示してくれる本なので、紹介いたします。
発達障害や、子どもの貧困など、子どもたちを取り巻く状況を知っておくことは、図書館での児童サービスを考える上でもとても大切なことです。
児童福祉に関することではありますが、子どもの現実の一端を知るためにも、ぜひ一読されることをお勧めします。

 

 

 

 

 

 

 

(作成K・J)

2021年8月、9月の新刊から(その1)絵本


8月、9月に出版された子どもの本のうち、絵本を紹介します。読み物は少し時間がかかるため、10月上旬に公開予定です。

また、今回3か月ぶりに銀座教文館ナルニア国へ新刊チェックに行きました。そこで、見落としていた8月以前に発行された新刊もみつけました。それも併せて紹介いたします。

教文館ナルニア国で選書をした本のほかに、横浜・ともだち書店で児童書担当に推薦をいただき取り寄せた本、翻訳者の方から直接送っていただいたものもあります。

その他の書籍に関しては銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

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【絵本】
《創作》

『空とぶ馬と七人のきょうだい モンゴルの北斗七星のおはなし』イサンチノブ・ガンバートル/文 バーサンスレン・ボロルマー/絵 津田紀子/訳 あかつき 2021/6/21(出版社のFacebook→こちら

日本在住のモンゴル人ご夫妻によるモンゴルの昔話を題材にした絵本です。
モンゴルの草原では、夜空に輝く北極星や北斗七星は道しるべとなるためとても大切にしていたようで、北斗七星を「七人の神さま」と呼ぶのだそうです。
そうしたモンゴルに伝わる民話をふくらませて創作したとあとがきに書かれています。中国の民話『王さまと九人のきょうだい』にも通じる個性豊かな兄弟の活躍など、子どもたちを楽しませるお話になっています。

 

 

 

 

 

『ぱったんして』松田奈那子/作 KADOKAWA  2021/7/16(出版社サイト→こちら
表紙画像は出版社サイトでご確認ください。

『ふーってして』(「2020年8月、9月の新刊から」で紹介→こちら)に続く、「はじめてのアート絵本」シリーズ2冊目です。前作ではドリッピングという技法が紹介されていましたが、今回は紙に絵の具をのせて、紙を半分に折って現れる形を楽しむデカルコマニーという技法で描かれています。蝶々に見えたり、木に見えたり、虹になったり。想像を膨らませて楽しめる絵本です。

 

 

 

『秋』かこさとし/作 講談社 2021/7/27 (出版社サイト→こちら

「トウモロコシの葉が風にゆれています。ヒガンバナの行列ができています。秋になりました。私は秋が大好きです。」と、ほかにも好きな理由をたくさん並べて、秋が一番好きな季節だと冒頭で語るかこさとしさん。
しかし、「ところが、そのすてきな秋を、とてもきらいになったときがありました。とてもいやな秋だったことがあります。」
「それは、今からずっとむかしの、昭和十九年のことでした。」と、絵も一変します。第二次世界大戦終結までの一年間は、国内は空襲が相次ぎ、戦地へ赴いた兵士の戦死も次々に伝えられていました。当時、高校生だったかこさんが感じた理不尽さを、戦争の不条理を、熱量をもって語っています。この作品は1953年に描かれ、1955年に加筆、1982年に改訂とメモが残され、30年の月日をかけて温めていたそうです。かこさとしさんの遺族が昨年のステイホーム中に作品を整理していて、原稿や資料をみつけ、コロナ禍で価値観が変わる今だからこそと出版されることになりました。
「青い空や澄んだ秋晴れは、戦争のためにあるんじゃないんだ。」と激しい言葉が綴られた次のページに、「翌年、日本は負けて戦争は終わりました。(中略)戦争のない秋の美しさが続きました。」と結ばれています。改めて、戦火のない国で秋を堪能できることに感謝するとともに、今もなお戦火の中にある地域のことへ心を向けたいと思います。

 

 

 

 

『ふしぎな月』富安陽子/文 吉田尚令/絵 理論社 2021/8  (出版社サイト→こちら

月がきれいに見える季節になりました。富安陽子さんの描くファンタジーの世界が広がっている絵本です。
やさしい月の光は、子どもたちの上に、降り注ぎます。
「月よ、月。ふしぎな月。おまえはいつもながめてる。このよのよろこびを、またかなしみを。」
月の光はサバンナの夜にもジャングルの夜にも、そして戦場の夜にも空を照らします。
「このよがやみにしずまぬように。わたしがやみにのまれぬように。」静かな祈りのように、柔らかく照らしています。

 

 

 

 

 

『あさだおはよう』三浦太郎/作 童心社 2021/9/1(出版社サイト→こちら

三浦太郎さんの「あかちゃん ととととと」シリーズの新作です。
おやさいたちが、朝になって「おはよう」と元気に起きてくる赤ちゃん絵本です。
「おめめ ぱっちり あさだ おはよう」の繰り返しに、読んでいるとむくむく元気が湧いてきます。
出版社サイトには、次に紹介する『こんにち、わ!』といっしょのメイキング動画があります。ぜひこちらもご覧になってください。

 

 

 

 

『こんにち、わ!』三浦太郎/作 童心社 2021/9/1(出版社サイト→こちら

「あかちゃん ととととと」シリーズの新刊。(シリーズについては→こちら
トマトのかあさんとプチトマトのあかちゃんがおさんぽへ。つぎつぎに出会う仲間と「こんにちは」とあいさつをしていきます。
あかちゃんと一緒にコミュニケーションをしながら読みたい絵本です。

 

 

 

 

 

『パ・パ・パ・パ パジャマ』石津ちひろ/文 布川愛子/絵 のら書店 2021/9/1 (出版社サイト→こちら

小さな子どもにとって、ひとりでパジャマに着替えられるって成長を感じられて嬉しいものです。
「パ・パ・パ・パ パジャマ」と唱えながら、うえのパジャマに手を通し、難関のぼたんをよっつ止められたら、あとはズボンだけ。
「とうとう ひとりで きられたよー ばんざーい!」と飛び上がってお布団の海にダイブ。なんでも自分でやりたがる2歳くらいのお子さんにおすすめしたいです。

 

 

 

 

『みんなおやすみ』柿本幸造/絵 はせがわさとみ/文 学研 2021/9/7 (出版社サイト→こちら

『どうぶつだあれかな』、『のりものなあにかな』に続く柿本幸造さんのファーストブックの3冊目です。
学研から家庭に直販していた古い絵本の原画を発見した編集者が遺族の協力を得て10年がかりで復刊したとのこと。
夜空に浮かんだお月さまが、いろんなものに「おやすみなさい」を伝えます。動物園のどうぶつに、車庫で眠るバスに、お店に、公園の遊具に、昆虫たちに、そしておうちのなかにいる子どもにも。柔らかいタッチの絵に心が安らいできます。絵本はボードブックになっているので小さな子どもたちにも扱いやすい1冊です。

 

 

 

 

『きみはたいせつ』クリスチャン・ロビンソン/作 横山和江/訳 BL出版 2021/9/10(版元.comサイト→こちら

「きがつかないほど、ちいさないきものがいる」、「さきにいくものがいれば、あとからいくものもいる」私たちの世界は、地球も宇宙もすべて繋がっていて、今、存在している。
そんなことを、歌うようなことばにして語りかけてくれます。
「たいへんなことがおきて、はじめからやりなおさなくちゃならなくても、こころがばくはつしそうになっても、きっとだれかがささえてくれる」
「とおくはなれていて だいすきなひとと、あえないときがある」
「ひとりぼっちで、たまらなくさびしいときもあるけど、きみはひとりじゃない」
不安な時にも、大丈夫だよと背中をそっと包んでくれる。元気な時は勇気を与えてくれる。そんな一冊です。

 

 

 

 

 

『つきのばんにん』ゾシエンカ/作 あべ弘士/訳 小学館 2021/9/14(出版社サイト→こちら

「よるのどうぶつクラブ」から月の番人に選ばれたしろくまのエミール。はりきって93段のはしごを登り、月のまわりにかかる雲を追い払ったりと忙しく番をしています。
ところが、月が少しずつ欠けていくのです。月がだんだん細くなって消えていくのを止める道具もない、そう思ったエミールは「つきのばんをしていたのに、だんだん、ちいさくなり、きえてしまいそうなんだ」と仲間たちに相談します。すると一羽の鳥が「ものごとは、おおきくなったり、ちいさくなったり、きえたとおもったらあらわれたりするものなのよ」と話してくれます。そう、一度月が見えなくなったあと、月はちゃんと現れて、だんだん大きくなっていくのでした。南アフリカ出身のゾシエンカが描く月明りはとても幻想的で、あべ弘士さんの訳文も穏やかで、そのまま眠りに誘ってくれそうです。

 

 

 

 

『パイロットマイルズ』ジョン・バーニンガム&ヘレン・オクセンバリー/絵 ビル・サラマン/文 谷川俊太郎/訳 BL出版 2021/9/15(出版社サイト→こちら/ジョン・バーニンガム&谷川俊太郎の絵本リスト)

2016年に出版された『ドライバーマイルズ』(絵本ナビサイト→こちら)の続編です。マイルズは、バーニンガム夫妻の愛犬ラッセルテリアでした。2冊目の『パイロットマイルズ』を構想中にジョン・バーニンガムは病気が重くなり、仕上げることは出来ないと悟って妻のヘレン・オクセンバリーに仕上げを依頼したそうです。その頃マイルズも亡くなり、ジョンも2019年1月に亡くなります。
最愛の一人と一匹のためにヘレンはジョンの旧友とともに『パイロットマイルズ』を仕上げました。
トラッジ家の年をとった犬のマイルズ、昔はよくドライブをしたものでした。マイルズに車を作ってくれたお隣の家のハディさんが、今度は飛行機を作ってくれます。
飛行機を操縦して空を飛べば、マイルズもご機嫌に。でもだんだんマイルズは弱っていきます。それでも、もう一度マイルズは空を飛びます。マイルズの飛行機はそのままどんどん飛んでいって見えなくなるのです。「さよならマイルズ」で終わる絵本に、胸がいっぱいになります。

 

 

 

 

『きょうものはらで』エズラ・ジャック・キーツ/絵 石津ちひろ/訳 好学社 2021/9/16(出版社サイト→こちら

1800年代後半に、オリーブ・A・ワズワースがアメリカの伝統的な数え歌を書き記したものに、エズラ・ジャック・キーツが絵をつけた絵本です。
1でかめのかあさんが1ぴきのこがめと砂を掘り、2で魚のかあさんが2ひきのこどもと川で泳ぎ、3でツグミのかあさんが3羽のひなと歌を歌うというように、子どもの数を10まで数えていきます。生き生きとした絵と、その生き物の習性がわかる優しい言葉で表現された数え歌。繰り返し唱えてみたくなります。

 

 

 

 

『すうがくでせかいをみるの』ミゲル・タンコ/作 福本友美子/訳 西成活裕/日本語監修 ほるぷ出版  (出版社サイト→こちら

うちの家族はそれぞれ得意で好きなことがあるという女の子。彼女にとっては、それは数学です。
数学って難しいものではなく、毎日の生活の中に身近にあることを伝えてくれます。たとえば公園の遊具の形、湖に石を投げた時に広がる同心円の波紋、自然が生み出す曲線など。数学をとおして世界を見てみることの面白さを伝えてくれます。
後半は、女の子の「数学ノート」になっていて、手書き文字で「フラクタル」や「多角形」「立体図形」「集合」などの数学用語を説明しています。そんなところから数学に興味をもつ子どもたちが増えるといいなと思いました。

 

 

 

 

 

《ノンフィクション絵本》

『かこさとし あそびの玉手箱 てづくり おもしろ おもちゃ』かこさとし/作 小学館 2021/7/21 (出版社サイト→こちら

2018年に亡くなった絵本作家の幻の絵本の2冊目です。
かこさとしさんは、古今東西の子どもたちの遊びについて収集し、研究されていました。
この絵本は昔の子どもたちが身近なものを工夫して遊んでいた遊びの道具、たとえば草笛や麦わらのバスケット、てぶくろ人形など28紹介されています。
可愛らしいイラストと丁寧な作り方説明で、すぐに遊んでみたくなります。

 

 

 

 

 

 

『すいめん』高久至/写真・文 アリス館 2021/7/22(出版社サイト→こちら

屋久島在住の水中写真家高久さんの写真絵本です。海と空の境界線である水面をさまざまな角度から見せてくれます。
水中動物たちの多くは、生まれてすぐは深く潜れないため、水面近くで過ごします。そんな小さな命の営みや、光の加減によって昼と夜ではまったく違った表情を見せる海の色などは、命のゆりかごである海の豊かさを伝えてくれます。
高久さんの写真絵本にはほかに『おかえり、ウミガメ』や『かくれているよ 海のなか』、『海のぷかぷか ただよう海の生きもの』(いずれもアリス館)などがあります。

 

 

 

 

 

(作成K・J)

 

2021年7月、8月の新刊から


7月、8月に出版された子どもの本、および研究書を紹介します。また、一部、見落としていた7月以前に発行された新刊も含まれています。

この度は、横浜・ともだち書店で児童書担当の方の推薦をいただいたものを取り寄せた本、翻訳者の方から直接送っていただいたものを、読み終えた上で紹介しています。

その他の書籍に関しては銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

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【絵本】
《創作絵本》

『みちとなつ』杉田比呂美/作 福音館書店 2021/6/5 (出版社サイト→こちら

大きな街にお母さんと二人で住むみちと、海辺の町で大家族で住んでいるなつ。二人はお互い知らない同士でした。みちは物静かな女の子でハートの形をした石を集めるのが好きです。なつは海辺で丸くなったきれいなガラス片を集めるのが好きです。夏休み、みちがおじいちゃん、おばあちゃんを訪ねていったのは、なつの住んでいる町。
みちが朝早く海辺でハート型の石を並べていると、なつがやってきます。ふたりは、いいお友だちになれそうですね。

 

 

 

 

 

『うちのねこ』高橋和枝/作 アリス館 2021/7/20(出版社サイト→こちら

ある春の日、野良猫が保護されて、うちにやってきた。もうおとなになっている猫。なかなか心を開いてくれない。慣れたかなあと思うと、ひっかいてくる。そうやって夏が過ぎ、秋が過ぎていく。冬がきて、布団に近寄ってきて目が合うとまたひっかいてきた。保護しないほうがよかったの?野良のままがよかったの?それから1週間後、温かい布団の中にねこが入ってきます。作者の実体験をもとに描かれた作品です。

 

 

 

 

 

『くろねこのほんやさん』シンディ・ウーメ/文・絵 福本友美子/訳 小学館 2021/7/25(出版社サイト→こちら
本を読むのが大好きなくろねこがいました。他の家族はダンサーだったり、ケーキ屋さんだったり、ロボット制作だったりと忙しく仕事をしています。おにいさんに「ほんをよむのはしごとじゃないよ」とまで言われてしまいます。
それでも「ほんをよめばいろんなことがわかるし、なんにでもなれる」と気にしないくろねこ。町で店員募集の本屋さんをみつけて、そこで働くことになりました。
子どもたちひとりひとりに合わせたぴったりの本を選んでくれるので、くろねこのいる本屋さんはたちまち人気店になりました。
ところが大雨で本屋さんが水浸しに。子どもたちも本屋さんに来れなくなりました。そこでまたくろねこの大活躍がはじまります。本を読むことの楽しさを伝えてくれる絵本です。

 

 

 

 

 

『しらすどん』最勝寺朋子/作・絵 岩崎書店 2021/7/31(出版社サイト→こちら

朝ごはんに食べた「しらす丼」。りょうくんは丼にほんのわずかしらすを食べ残して席を立とうとすると、「自分がしらすだったらって、かんがえたことある?」と丼に呼び止められるのです。
するとりょうくんは、しらすの大きさになって、食べかすとしてごみに捨てられ、ゴミ収集車で焼却炉へ・・・このあたりの描写は、少し衝撃的です。その後りょうくんは海のなかで稚魚として目ざめ、しらすとして商品になり、家へとやってきます。
りょうくんは、今度はしらす丼を最後まできれいに食べるのです。
自分が生ごみとして燃やされてしまうという想像は、子どもたちには衝撃かもしれません。しかし作者は「食べることは、他の命をいただくこと」、そうした命のやりとりに無関心になっていることを伝えたいと、飽食の時代に一石を投じる覚悟で制作されました。そのことをきちんと子どもたちに伝えられるように、丁寧に手渡したい絵本です。

 

 

 

 

『野ばらの村のけっこんしき』ジル・バークレム/作・絵 こみやゆう/訳 出版ワークス 2021/8/25(出版社サイト→こちら

「2021年5月、6月の新刊から」(→こちら)でも紹介した「野ばら村の物語」四季シリーズの夏のお話です。
チーズ小屋で働くポピーと粉ひき小屋で働くダスティは小川のほとりで出会って恋におち、結婚することになりました。野ばら村のみんなは大喜び。村をあげて結婚式のお祝いの準備をします。小川の上に浮かべた筏の上での結婚式は、それはとても楽しそうです。細かく描かれた田園風景をじっくり味わってほしいなと思います。

 

 

 

 

 

 

《ノンフィクション絵本》

『旅をしたがる草木の実の知恵 ゲッチョ先生の草木の実コレクション』盛口満/文・絵 少年写真新聞社 2021/7/20(出版社サイト→こちら

草や木は自分で動くことができないため、種子を遠くに運んでもらうために、美味しい木の実をつけて鳥や動物たちに運んでもらえるよう引き付けます。
あるいはトゲトゲをつけて、動物や人にくっついて遠くへ運ばれるものや、風にのって遠くへ飛ぶように出来た種子も。
そんな様々な植物の種子を200種類以上集めて、分類し、わかりやすく説明をしてくれている科学読み物です。

 

 

 

 

 

 

【児童書】

『あなたがいたところ―ワタシゴト 14歳のひろしま2』中澤晶子/作 ささめやゆき/絵 汐文社 2021/6(出版社サイト→こちら

昨年出版された『ワタシゴトー14歳のひろしま』(出版社サイト→こちら)の続編です。
「ワタシゴト」は、「私事=他人のことではない、私のこと」と「渡し事=記憶を手渡すこと」の二つの意味を持っています。
舞台は修学旅行で全国から多くの中学生が訪れる広島。被爆建物を訪れた中学生たちの、4つの物語が収められています。76年前の広島原爆の被害を語り継ぎ、修学旅行という機会でそれに触れることが、若い世代が世界の平和を自分のこととして考える契機になっていく。そのことを本を通して伝えていきたいと思います。

 

 

 

 

 

 

【ノンフィクション】

『あたらしいお金の教科書 ありがとうをはこぶお金、やさしさがめぐる社会』新井和宏/著 山川出版社 2021/7/30(出版社サイト→こちら

かつて外資系金融機関で、国家予算に匹敵するような額のお金を運用していた新井さん。お金を儲けることだけが目的になると、経済格差が広がり不幸になる人が増えることに気づかれます。
そして丁寧に事業をし、従業員も顧客も経営者も三方良しの経営をしている会社を支援するために「鎌倉投信」を設立します。その様子は、NHKの「プロフェッショナル仕事の流儀」でも紹介されました。(→こちら
その後、新井さんは「ありがとうの循環」が社会を巡るような共感通貨eumo(→こちら)を作り、昨年運用が開始されました。
この本は、奪い合いではなく、お互いを助け合う仕組みとしてのお金の意味を、お金の歴史を紐解きながら、わかりやすく解説しています。帯に書かれている「お金の本なのに、生き方や幸せや社会について考えたくなる、全く新しいお金のバイブル」そのものです。

 

 

 

 

【研究書】

『いわさきちひろと戦後日本の母親像 画業の全貌とイメージの形成』宮下美砂子/著 世織書房 2021/6/30 (出版社サイト(書籍情報はなし)→こちら)

ジェンダーと絵本について研究されている筆者の博士論文を元にして書籍化された本です。
戦後の絵本には「おとうさんとおかあさん、そしてこどもふたり」というステレオタイプの家族像が描かれ、いつの間にかそれが当たり前のように刷り込まれてきました。家族の在り方は、その後大きく変わってきており、子どもの本の世界でも価値観の更新が求められています。
この研究では、いわさきちひろが描く「母と子」像を通して、その意味を問い、いわさきちひろの絵本と画業を通して、日本社会にまん延するジェンダー不平等について分析しています。
世界ジェンダーギャップ指数が2021年3月発表では156か国中120位の日本で、宮下さんの研究は子どもの本の世界をジェンダーの視点で捉えなおす必要性を問いかけてくれています。

 

 

(作成K・J)

2021年5月、6月、7月の新刊から(その2)絵本・読み物


5月、6月に出版された子どもの本のうち、先月紹介できなかった読み物と、7月に出版された絵本を紹介します。また、一部、見落としていた5月以前に発行された新刊も含まれています。(2021年5月、6月の新刊から(その1)絵本は→こちら

この度は銀座・教文館ナルニア国で選書したものと、横浜・ともだち書店で児童書担当の方の推薦をいただいたものを取り寄せた本、翻訳者の方から直接送っていただいたものを、読み終えた上で紹介しています。

その他の書籍に関しては銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

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【絵本】
《創作》
『太陽と月 10人のアーティストによるインドの民族の物語』バッジュ・シャーム、ジャグディッシュ・チターラー、スパーシュ・ヴィヤーム他 青木恵都/訳 タムラ堂 2021/4/1(第3刷)(出版社サイト→こちら

南インドの小さな工房でシルクスクリーン印刷と手製本で作られるターラーブックスの絵本です。2016年に第1刷が日本で出版されていましたが、大量生産されていない作品なのですぐに手に入らなくなっていました。4月に第3刷が販売されました。今回は2000部発売で、手元にあるものは1641とシリアルナンバー入りです。
紙の手触りや色合いなどから、これは芸術作品だと感じます。太陽と月を巡る昔話を10人のアーティストがそれぞれ見開きページで表現しています。

 

 

 

 

『いろいろかえる』きくちちき/作 偕成社 2021/5(出版社サイト→こちら

みどりのかえるときいろのかえる、そしてももいろのかえるの三匹がおひさまの光を浴びて、お花の間でゆかいに踊ります。池の中ではあおいろのかえるも、だいだいいろのかえるもやってきて、夕陽を浴びて大合唱。そこへ迎えに来たのはとうさんとかあさんのかえる。
にぎやかなかえるたちの声に、こちらも頬がゆるんできます。
きくちちきさんの躍動的な筆のタッチがのびやかで気持ちを解放させてくれます。

 

 

 

 

 

『天のすべりだい』スズキコージ/作 BL出版 2021/7/1(出版社サイトtopページ→こちらトップページから新刊案内をクリックしてください

コージズキンという愛称で呼ばれて熱烈なファンもいるスズキコージさんの贅沢な画集といった感じでしょうか。
一貫した物語があるわけではないのですが、「あの世とこの世の交信」から生まれた絵だというだけあって、絵の力に圧倒されます。そしてところどころに散りばめられた問いかけの言葉「あの世とこの世のリンゴの味はそっくりなのを君は知ってるかい?」「この世にもあの世にも旅の仲間がいるってこと知ってるかい?」にインスパイアされて、ひとりひとりが絵の中を旅することができる、そんな想像力を搔き立ててくれる絵本です。

 

 

 

 

『街どろぼう』junaida/作 福音館書店 2021/7/10(出版社サイト→こちら

これまで『Michi』、『の』や『怪物園』などの独創的で美しい絵本を創作しているjunaidaさんの新作絵本です。
大きな山の上にひとりぼっちで住んでいる巨人は、ある夜さびしさのあまり、麓の街から一軒の家をこっそり山の上に持ち帰ります。そしてその家の家族に「これからはここでいっしょにくらしましょう ほしいものがあったらなんでもあげますから」と伝えます。するとその家族は「わたしたちだけではさびしいのでしんせきの家も ここにつれてきて」と頼まれるのです。こうして巨人はその都度求められるままに、麓の街にあった家のほとんどを山の上に運びます。そうして山の上ににぎやかな街が出来上がるのですが、巨人はやっぱり孤独でした。そして巨人が山を下りていくのです。美しい絵と、意外な展開の中から、そして最後には心温まる結末も用意されていて、読みながらさまざまなことを考えさせられました。20cm×15cmの小さな絵本です。

 

 

 

《ノンフィクション》

『子どもの本で平和をつくる―イエラ・レップマンの目ざしたこと―』キャシー・スティンソン/文 マリー・ラフランス/絵 さくまゆみこ/訳 小学館 2021/7/19(出版社サイト→こちら

第二次世界大戦後、瓦礫に覆われたドイツの街角でアンネリーゼと幼い弟ペーターは、大きな建物に人々が並んで入っていくのを見て、食べ物をもらえるかもと入っていきました。
ところがそこにはたくさんの本が並べられていたのでした。そこには戦争でドイツと戦ったいろいろな国から届けられた子どもの本が並んでいたのです。
アンネリーゼとペーターはおはなし会に参加します。ひとりの女性がドイツ語に翻訳して子どもたちにおはなしを読んでくれたのでした。その日アンネリーゼは未来に向けて夢を描くことができました。
この女性はイエラ・レップマンという実在の女性です。「すばらしい子どもの本は人びとが理解しあうための”かけ橋”になる」と信じ、終戦後まもなく各国によびかけ「世界の子どもの本展」を開催したのでした。「世界の子どもの本展」はその後イエラの想いに賛同して設立された「国際児童図書評議会」(IBBY→こちら)に引き継がれ、日本でも「日本児童図書評議会」(JBBY→こちら)によって巡回しています。(世界の子どもの本展→こちら)この絵本を翻訳したのは、現在JBBYの会長を務めているさくまゆみこさんです。また、当社はJBBYの法人会員になっています。

 

 

 

 

【児童書】
《物語》

『わたし、パリにいったの』たかどのほうこ/作 のら書店 2021/3/22(出版社サイト→こちら

はなちゃんは妹のめめちゃんとあるアルバムを見るのが大好きです。そのアルバムにはめめちゃんが生まれる前、はなちゃんが両親と一緒にパリへ旅行した写真が収められているのです。なんどもアルバムを開いてはなちゃんが思い出を話しているためか、まるでめめちゃんもそこにいたかのように話すのです。はなちゃんが「めめちゃん、うまれてなかったのに、よくおぼえてるねえ!」「おかあさんにきいたんじゃないの?」と聞くと、「おかあさんのおへそのあなから見てた」と言いはるめめちゃん。そんな楽しい姉妹の会話に思わず笑ってしまいます。ひとりで読み始めた子に手渡したい幼年童話です。

 

 

 

 

『けんだましょうぶ』にしひらあかね/作 福音館書店 2021/4/15(出版社サイト→こちら

けいくんはけんだまが得意です。けんだまを持って野原へ出かけていくと、きつねがけんだま勝負を挑んできます。きつねがけんだま始めると、玉がみかんになったり、りんごになったり。次にたぬきもけんだま勝負を挑んできました。たぬきのけんだまはザリガニに変身したり。そのあとも魔女や天狗とけんだま勝負。なんとも楽しくて、けんだまをやりたくなる幼年童話です。

 

 

 

 

 

 

『すてきなひとりぼっち』なかがわちひろ/作 のら書店 2021/5/20(出版社サイト→こちら

クラスの中にとけこめず、ひとりぼっちであることも平気だとうそぶく一平くん。そうはいっても、「ぼくがこんなに つらいおもいをしていることを だれもしらない。ぼくは、このよにひとりぼっち。」とつぶやきたくもなる。
雨の日、学校から帰ったら玄関がしまっている。母さんを探しに出かけた商店街で一平くんはいろいろな人の親切にふれて、ひとりぼっちではないことに気づきます。
夜明け前に目が覚めて、西の空に月が沈みかけ、東の空から太陽が昇ってくるのをみながら、一平くんが感じる想いがとても素敵です。

 

 

 

 

『ボーダレス・ケアラー 生きてても、生きてなくてもお世話します』山本悦子/作 理論社 2021/5(出版社サイト→こちら

大学の夏休み直前、海斗は一人暮らしをしている認知症の祖母のケアを母親に頼まれます。祖母は1か月前に亡くなった愛犬豆蔵の空のリードを持って散歩に出かけるなど、どうも認知症が進んでいるのではというのです。海斗は母親にバイト代10万出すと言われて引きうけることにしました。
祖母の家に行って、海斗も豆蔵のリードを持って散歩すると、不思議なことに豆蔵が見えることに気がつきます。「幽霊か?」と声に出す海斗に、マンションの駐車場の下に佇む少女が、「ボーダーの状態になっているんだと思うよ。」「ボーダーラインを認識してないっていうのかな。生も死も、みんないっしょ。区別していないの。だから見えるんだと思う」と声をかけてきます。つまり「ボーダー」とは死後の世界へ行かず生と死のはざまにいる存在だというのです。海斗はボーダーの生前の想いを調べ、時にはその思いを遂げる手伝いをするようになります。また海斗がセーラと呼ぶその少女がボーダーになった理由もわかります。そこにはその少女が中学生だった時にいじめられていた同級生との関係があったのです。心温まる物語です。

 

 

 

『あしたもオカピ』斉藤倫/作 fancomi/絵 偕成社 2021/6(出版社サイト→こちら

どうぶつえんで飼育されているオカピは、ある夜、飼育員のおじさんと一緒に月をながめていました。その夜出ていた月は、不思議な形をしていました。半月をさらに半分にしたような、まるで四つ葉のクローバーの一片のような形だったのです。
「よつば月だ。よつば月にどうぶつがお願いすれば、なんでも願いがかなう」と飼育員のおじさんに教えてもらったオカピ、さっそく檻の外に出たいと願います。オカピは夜のどうぶつえんを歩き回って、「よつば月には願いがかなう」ことを他の動物たちにも伝えてまわります。
そう、その夜はほんとうに不思議なことが動物園で起きたのです。ちょっと不思議で、楽しいお話です。この本もひとりで読み始めた子ども向きの幼年童話です。

 

 

 

 

 

『チョコレートのおみやげ』岡田淳/文 植田真/絵 BL出版 2021/6/1(出版社サイトtopページ→こちらトップページから新刊案内をクリックしてください

神戸の街、異人館や港をおばさんに案内してもらったわたし。公園のベンチでチョコレートをつまみながら、おばさんが即興でお話を語り始めます。そのお話は風船売りの男と飼っているニワトリのお話でした。
ニワトリが風を読んで男に伝えると、男は風のない日に風船を売りに出かけるのです。ある日ほんのいたずら心でニワトリは強風が吹きそうな日なのに「今日は風がない日」とうそをついてしまいます。
するとその日を境に男は何カ月も帰ってこない、そこでニワトリは屋根の上の風見鶏になったというお話でした。
その結末に不満のあるわたしは、続きのお話を語ります。その新しい結末に、おばさんと食べているチョコレートがからんで、とてもおしゃれで楽しいお話になっています。

 

 

 

 

『庭』小手鞠るい/作 小学館 2021/6/7(出版社サイト→こちら

真奈はSNSでの書き込みがきっかけで仲良し5人組から外されてしまい、中2の冬から不登校になっていますが、母親の心配をよそに自分の意志で「登校拒否」しているのだと思っています。そんな日々の中に大きな転機が訪れます。中学3年生になる春休みに、幼い時に亡くなった父親の故郷、ハワイへ一人旅に出ることになったのです。
初めて会う父親方の祖母や叔母たちがハワイで温かく迎えてくれました。そこで自分のルーツに出会い、真奈の傷ついた心は少しずつ回復していきます。日系人の歴史にも触れながら、物語は展開していきますが、結末は表紙絵のような明るい光を感じることができます。中学生以上向けYA作品です。

 

 

 

 

『コレットとわがまま王女』ルイス・スロボドキン/作 小宮由/訳 瑞雲舎 2021/7/1(出版社サイト→こちら

とてもわがままな王女が町に静養にやってくるというので、コレットが住む町は大騒ぎ。ポーリーン王女の滞在中は物音ひとつ立ててはならないという法律が出来たのです。足音を立てないために、ブーツや木ぐつの上にフェルトのスリッパをかぶせたり、馬やロバの蹄鉄にはわらをかぶせ、町の教会の鐘も鳴らないようにしました。当然、子どもたちも声をあげてわらったり、広場で遊ぶこともできません。
町長の娘であるコレットは、飼い猫のシュシュにマスクをし、町のはずれの樫の木の下でおとなしくしていました。ところがポーリーン王女は、その樫の木の下を気に入ってしまったのでした。
一方的に我慢を強いられた町の人たちを救ったのは、なんと子猫のシュシュ。どうやって救ったかは読んでのお楽しみ。

 

 

 

 

【その他】

《エッセイ》
『佐野洋子 とっておき作品集』佐野洋子/著 筑摩書房 2021/3/15(出版社サイト→こちら

『100万回生きたねこ』があまりにも有名な佐野洋子さんが、亡くなられた後で見つかった単行本未収録作品を集めた作品集です。
童話が6編、ショートショートが6編、私の服装変遷史と題したイラストと写真集に、エッセイが10編、そして谷川俊太郎さんとの恋と結婚生活を書いたエッセイ3編。どれもこれも、佐野洋子さんの魅力がたっぷりつまっていて、ファンでなくても夢中になってしまいます。

 

 

 

 

 

《研究書》
『女性受刑者とわが子をつなぐ絵本の読み合い』村中李衣/編著 中島学/著 かもがわ出版 2021/6/30(出版社サイト→こちら

児童文学作家であり、また児童文学研究者でもある村中李衣さんが、長年、山口県美祢市にある官民協働刑務所「社会復帰促進センター」に収容されている女性受刑者とともに絵本を読み合う実践をされてきた、その記録です。何らかの罪を犯して収監されているわけですが、ひとりひとりの生育環境が影響していることがあり、絵本を介在させてまず自分自身と対話をし、自己確立をする中で、自分を客観視し立ち直っていく。特にわが子を持っている受刑者にとっては、自分の過去を客観視して受け入れることが、わが子との関係性も強化していくことになるのです。女子受刑者と図書館の児童サービス、なにも関係がないように見えますが、図書館は地域のすべての人に本を通して幸せな人生を実現していくことを応援する、そんな機能があります。経済格差が拡大し、本や正確な情報にアクセスできない貧困層の家庭にどう手を差し伸べるのか、その課題が見えてきます。ぜひ読んでほしいと思います。

 

 

 

(作成K・J)

2021年5月、6月の新刊から(その1)絵本


5月、6月に出版された子どもの本のうち、まず絵本を紹介します。読み物は7月上旬に公開予定です。また、一部、見落としていた5月以前に発行された新刊も含まれています。

この度は銀座・教文館ナルニア国で選書したものと、横浜・ともだち書店で児童書担当の方の推薦をいただいたものを取り寄せた本、翻訳者の方から直接送っていただいたものを、読み終えた上で紹介しています。

その他の書籍に関しては銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

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【絵本】
《物語絵本》

『あまがえるりょこうしゃ ちかたんけん』松岡たつひで/作 福音館書店 2021/4/10(出版社のサイト→こちら

あまがえる旅行社の今度のツアーはモグラ博士が作った地下を走る車での探検です。
地下をどんどん進んでいく探検ツアーのお話を読んでもらいながら、地中で暮らす虫や動物、植物の様子を知ることができます。子どもたちが大好きな昆虫の幼虫の様子などをみつけながら、物語から知識へと興味関心が広がっていく契機になっていくでしょう。

 

 

 

 

 

『ぼくのがっこう』すずきのりたけ/作 PHP研究所 2021/5/20 (出版社のサイト→こちら

奇想天外、自由な発想で身近なものを描く『ぼくのおふろ』『ぼくのトイレ』『ぼくのふとん』に続くシリーズの4作目です。
毎日通う学校も、いつもと違っていたら楽しいのに、とどんどん妄想が広がっていきます。
たとえば廊下がぐにゃぐにゃしていたり、机が日替わりで変わったり、先生と生徒が入れ替わったり・・・ナンセンスですが、たまにはそのような捉われない発想で遊んでみるのもいいですね。

 

 

 

 

 

 

『かぜのうた』フィリップ・ジョルダーノ/絵 さわべまちこ/文 ポリフォニープレス  2021/5/25(出版社のサイト→こちら

 

2004年、2009年、2010年と何度もボローニャ国際絵本原画展で賞を取っているイタリアの絵本作家が「風」をテーマに日本の四季を描きました。「かぜがふいたら」いろいろな音がして、いろいろなものが動き出します。繰り返しのリズムと音を楽しんでみましょう。

 

 

 

 

 

『アインシュタイン 時をかけるネズミの大冒険』トーベン・クールマン/作 金原瑞人/訳 ブロンズ新社 2021/5/25(出版社のサイト→こちら

リンドバーグ 空飛ぶネズミの大冒険』『アームストロング 宙飛ぶネズミの大冒険』『エジソン ネズミの海底大冒険』など史実とファンタジーを織り交ぜて好評の「ネズミの冒険シリーズ」の最新刊です。
チーズフェアに行くのを楽しみにしていたネズミ、どこで間違えたか、会場へ行って見るとフェアは前日に終わっていました。
そこから過去へもどろうとするネズミは必死の努力をし、アインシュタインの理論からタイムマシンを作るのですが、なんと辿り着いたところは80年前の世界。まさにアインシュタインが相対性理論を思いつく時だったのです。時間とは何か、相対性理論とは何か、物語を読んでいるうちに理解が深まっていきます。

 

 

 

 

 

 

『野ばらの村のピクニック』ジル・バークレム/作 こみやゆう/訳 出版ワークス 2021/6/25 (出版社のサイト→こちら

40年前に講談社から岸田衿子の訳で出版されていた「のばらの村のものがたり」シリーズのうち、『春のピクニック』がこみやゆうさんの訳で蘇りました。以前のシリーズは18cm×14.5cmの小型判型でしたが、25cm×19.5cmの大判になり、緻密に描かれた切り株の中のねずみの家をつぶさに見て楽しむことが出来ます。
絵の美しさもですが、ねずみのウィルフレッドの誕生日を家族や友達が一緒に祝うお話には、心が温まります。

 

 

 

 

 

 

《ノンフィクション絵本》

『うまれてそだつ わたしたちのDNAといでん』二コラ・デイビス/文 エミリー・サットン/絵 越智典子/訳 斉藤成也/監修 ゴブリン出版 2021/4(出版社のサイト→こちら

ちいさなちいさなめにみえないびせいぶつのせかい』や、『いろいろいっぱい ちきゅうのさまざまないきもの』など「デイビス&サットンの科学絵本シリーズ」の3作目です。
地球上のすべてのいきもの、植物も動物も、生まれては育っていき、次の命を残していきます。それではどうやって生物は次の世代へと命を繋げていけるのか、それはDNAという「設計書」を持っているからなのです。DNAと遺伝について子どもたちにわかりやすく教えてくれる絵本です。

 

 

 

 

 

 

『カブトムシの音がきこえる 土の中の11カ月』小島渉/文 廣野研一/絵 たくさんのふしぎ傑作集 福音館書店 2021/5/15(出版社のサイト→こちら

子どもたちに大人気の昆虫、カブトムシが幼虫時代に土の中でどのように暮らしているかを、親が卵を産んでから、蛹から孵るまでの11カ月を詳しく描いた絵本です。著者の小島渉・山口大理学部講師(36)=昆虫生態学=は「カブトムシは成虫が注目されがちだが、観察してみると幼虫やさなぎも面白い行動をたくさんしており、魅力的なステージ」と山口新聞のインタビューに答えています。(→こちら)1年のうち11カ月を土の中で暮らし、成虫になって外に出てきてからはたった1か月の寿命のカブトムシ。強いイメージのカブトムシがまた違ったイメージで捉えられていて新鮮です。夏の自由研究のきっかけにもなる本です。

 

 

 

 

 

 

『小さな里山をつくる チョウたちの庭』今森光彦/作 アリス館 2021/5/31 (出版社のサイト→こちら

昆虫写真家の今森光彦さんは、滋賀県の琵琶湖の畔に蝶々がくる庭(オーレリアンの庭)を作ります。その30年の歩みをたくさんの写真で紹介しています。
蝶がたくさん来る庭というのは、人間と植物、昆虫とが共生する自然の環境です。ただ単に美しい庭というだけでなく、環境への鋭い視点もまた必要です。
今では75種類もの蝶と生き物が暮らす多様な自然環境と育っていった今森さんの里山つくりは、今の時代にとても大事な視点を教えてくれます。

 

 

 

 

 

『どうなってるの?エンジニアのものづくり』ローズ・ホール/文 リー・コスグローブ/絵 福本友美子/訳 大崎章弘/監修 ひさかたチャイルド 2021/6 (出版社のサイト→こちら

飛行機はどうして空を飛べるの?スマートフォンの中はどうなっているの?そんな子どもたちが身近に抱く疑問に、エンジニアの仕事という視点で解説してくれる絵本です。
しかけ絵本になっていて、めくると詳しい説明が読めるようになってます。
昨年10月に紹介した『どうなってるの?ウイルスと細菌』(紹介記事→こちら)と同じシリーズです。

 

 

 

 

 

(作成K・J)

2021年4月、5月の新刊から


4月、5月に出版された子どもの本を紹介します。一部、見落としていた4月以前に発行された新刊も含まれています。

この度は横浜・ともだち書店、代官山蔦屋書店で児童書担当の方の推薦をいただいたものを取り寄せた本と、習志野市にあるくわのみ書房で選書したもの、翻訳者の方から直接送っていただいたものを、読み終えた上で紹介しています。

 

その他の書籍に関しては銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

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【絵本】
《物語絵本》

『まほうの木』アンドレイ・ウサチョフ/作 イーゴリ・オレイニコフ/絵 藤原潤子/訳 東洋書店新社  2020/11/1(出版社サイト→こちら

2018年に国際アンデルセン賞画家賞を受賞したイーゴリ・オレイニコフが描いたこちらの絵本は、昨年11月に出版されたものです。見逃していましたが、日本での翻訳が少ないため、時間が経過していますが紹介いたします。
天の川のはしっこにある「ふしぎわく星O」に、どんな願いもかなえてくれるまほうの木があります。みんなはまほうの木に願いごとを言って、うれしそうに帰っていきます。たとえば海で暮らしたいと願ったウマはタツノオトシゴに、早く走りたいと車になったウマも。「子どもたちがよい子に、かしこい子に育つように」と願うとまほうの木は「本のなる木」になるのです。そんな不思議な17編のおはなしが詰まった絵本です。そして何より注目してほしいのはイーゴリ・オレイニコフの美しくも幻想的な絵です。読むものを豊かな想像の世界へ誘ってくれます。

 

 

 

『エイドリアンはぜったいウソをついている』マーシー・キャンベル/文 コリーナ・ルーケン/絵 服部雄一郎/訳 岩波書店 2021/1/27(出版社サイト→こちら

こちらも1月に出版されていた絵本ですが、見逃していました。
エイドリアンは妄想癖があるのか、「うちには馬がいるんだよ」と学校でみんなに話しています。でもエイドリアンはおじいちゃんと町はずれの小さな家に住んでいるので、「わたし」は信じられないのです。
ある日、お母さんが犬の散歩のついでにエイドリアンの家まで連れていってくれます。目の当たりにする貧富の格差。そんな環境の中で育つエイドリアンの状況を知って「学校にいるだれよりもすごい想像力の持ち主」なんだと理解していくのです。相手の気持ちに寄り添うことの大切さを教えてくれています。

 

 

 

 

『たんぽぽ たんぽぽ』みなみじゅんこ/作 アリス館 2021/3/31(出版社サイト→こちら

『どんぐりころちゃん』(→こちら)のわらべうた絵本があるみなみじゅんこさんの新刊です。
こちらもわらべうた「たんぽぽ たんぽぽ むこうやまへ とんでけ!」が可愛らしい絵本になりました。
たんぽぽの季節は終わってしまいましたが、新刊で購入したところはこの春のおはなし会できっと活躍したことと思います。
巻末にわらべうたの採譜、そして遊び方がついています。

 

 

 

 

 

『ありえない!』エリック・カール/作 アーサー・ビナード/訳 偕成社 2021/4(出版社サイト→こちら

2021年5月23日に91歳で亡くなられたエリック・カールさんの日本での最新刊です。
「ありえない!」ことにであったら、どんなふうに驚くかしら?それを楽しめるかしら?そんな奇想天外な展開のユーモア絵本です。
魚が鳥かごに、鳥が水槽に?ねずみが猫をつかまえた?タクシーに乗ったら燃料不足でいっしょに走ってくださいって?そんなゆかいなエピソードがたくさん。想像の世界ではどんなこともありうるのですね。奇想天外な発想が次々飛び出てくるエリック・カールさん85歳の時の作品です。

 

 

 

 

 

 

『せかいのはてまでひろがるスカート』ミョン・スジョン/作 河鐘基、廣部尚子/訳 ライチブックス 2021/4/15(出版社サイトFacebook→こちら

2019年のブラチスラバ世界絵本原画展で金のりんご賞を受賞した韓国の絵本です。裾の広がるスカートを、想像の広がりとして描く美しい絵が印象的です。そしてひとつひとつのスカートの広がりの中に、作者が子ども時代に親しんだ児童文学や世界各地の民話が散りばめられています。たとえばかえるのスカートの中に広がっているのは「赤毛のアン」と「紙ぶくろの王女さま」、とりのスカートには「不思議の国のアリス」に「リニ王子と少女シグニ」というように。繊細な線が描き出す幻想的な世界が幾重にも折り重なって、豊かにイメージが広がっていく絵本です。

 

 

 

 

 

 

 

『ふまんばかりのメシュカおばさん』キャロル・チャップマン/作 アーノルド・ローベル/絵 こみやゆう/訳 好学社 2021/4/26 (出版社サイト→こちら

メシュカおばさんは、いつも眉間にしわを寄せて「どうもこうもあるもんか」と言って不平不満ばかりを言っています。パン屋さんに調子はどうかを聞かれると「どうもこうもあるもんか。せなかはいたくて、まるでいしのかべせおってるみたいさ。それにあしときたら!まるででっかくなりすぎたかぼちゃみたいにおもいよ」と答えるのです。息子や娘のことを聞かれても、家のことを聞かれても不満ばかりです。
ある朝、舌の先がちくっとしたかと思うと、不満をいうとすべてがその通りになってしまったのです。そこへラビ(ユダヤ教の指導者)が来てそれは「ふまん病」だといいます。治すにはただひとつ、「これから先、ものごとをすべて前向きに言うようにすること」というのです。それからは、メシュカおばさんは、不満を言いそうになったら、少しでも良いところを探して口に出すようになります。するとなにもかもが感謝に思えて幸せに暮らすことができました、というポジティブシンキングな楽しい絵本です。

 

 

 

 

『クリフォード ちいさなちいさなあかいいぬ』ノーマン・ブリッドウェル/作 椎名かおる/訳 あすなろ書房 2021/4/30(出版社サイト→こちら

エミリーが飼っている犬はクリフォードと言います。お友だちのマーサに「あなたのいぬ、すっごくおおきくて すっごくあかいけど、どこでみつけたの?」と聞かれて、クリフォードがうちの子になった時のことを話しました。実はクリフォードは小さくて、育たないかもと言われていたのです。ある日エミリーが「げんきにおおきくなってね。だいすきだからね。」とクリフォードに伝えると、次の日からどんどん大きくなって、とうとう家の中に入れないほどになったのでした。そこで田舎のおじさんの家に引き取られ、その後エミリーたちも一緒に住むようになったのです。

 

 

 

『クリフォード おおきなおおきなあかいいぬ』ノーマン・ブリッドウェル/作 椎名かおる/訳 あすなろ書房 2021/4/30(出版社サイト→こちら

こちらは、続きの物語。クリフォードは家より大きいのですが、エミリーのことが大好きでいつも一緒です。走っているものは車でも追いかけて捕まえるし、動物園にも連れて行けなくなりました。それでもかしこいクリフォードは、いじめっ子からもどろぼうからも守ってくれます。エミリーのかけがえのない友だちなんですね。2冊合わせて読みたいお話です。

 

 

 

 

 

『ロスコ―さん ともだちにあいにいく』ジム・フィールド/作 momo’sカンパニー/訳 ひさかたチャイルド 2021/5(出版社サイト→こちら

犬のロスコ―さんが、友だちに会うためにキャンプ場へ行ったり、スキー場へ行ったり、湖へ行ったりと、どんどん旅を続けます。この絵本は、ストーリー展開を楽しむというよりは、ロスコ―さんが行く先々にあるものが英語で示されているので、絵本の中のいろいろなものを指さしながら語彙を増やしていくのに役立つ絵本です。子どもたちが日常使う会話は日本語と英語の両方で書かれているので、英語に興味をもつきっかけになることでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

『あまがえるのぼうけん』たてのひろし/作 かわしまはるこ/絵 世界文化社 2021/5/5(出版社サイト→こちら

2019年に出版された『あまがえるのかくれんぼ』(→こちら)の続編です。あまがえるのラッタ、チモ、アルノーの3びきは、遠くに見える森へ行ってみたいと、冒険に出かけます。
森の中には見たことのない植物や、虫たちがいっぱいです。大きなガマガエルに食べられそうになったりしながら、3びきは好奇心たっぷりに森の中で過ごします。豊かな自然の描写も美しく、1ぴき1ぴきのあまがえるの表情もとても豊かです。
『あまがえるのかくれんぼ』紹介ページ(→こちら

 

 

 

 

 

『ぼくとがっこう』谷川俊太郎/文 はたこうしろう/絵 アリス館 2021/5/5(出版社サイト→こちら

谷川俊太郎さんが学校生活を詠んだ詩に、はたこうしろうさんが表情豊かな絵をつけました。
短い詩ですが、はたこうしろうさんの描く男の子の小学校6年間が絵の中に描きこまれています。友だちと遊んだり、さまざまなことを発見したり、時にはけんかをしたり。そうしていつかは卒業する日がくる。そうやって成長していく姿が描かれている絵本です。

 

 

 

 

 

 

《ノンフィクション絵本》

『さくららら』升井純子/文 小寺卓矢/写真 アリス館 2021/3/25(出版社サイト→こちら

本州を桜前線が北上する4月は、北海道はまだ雪が残っています。5月になるとようやく木々が目ざめ、野の花も咲き始め、さくらのつぼみも膨らんでいきます。
そうして5月下旬、ようやく満開になるのです。作者の升井さんが2014年5月28日の新聞の片隅に「ようやく桜が開花した」という記事をみつけたのが、この本づくりのきっかけです。「ようやく」という言葉に落ち着かなくなり、「桜にはそれぞれに咲き時がある、人の都合ではなく自然の営みを静かに見守りたい」との想いでテキストを書いたそうです。
北海道在住の写真家の小寺さんは、その主人公にふさわしい桜を探して7年もあちこちを回ったそうですが、最後に新聞記事になった桜を訪ねていき、その木を撮ることになりました。その時、「理想の木なんてない。人の思いどおりにならないからこそ自然は素敵なのかも」と感じたそうです。「おそくたってこれがわたし ちいさくたってこれがわたし」という言葉が胸にじんわりと響きます。

 

 

 

 

『海べをはしる人車鉄道 東海道線のいま、むかし」横溝英一/文・絵 たくさんのふしぎ傑作集 福音館書店 2021/3/30(出版社サイト→こちら

東海道線の歴史を詳しく記した本です。熱海は古くから有名な温泉地でしたが、130年前の明治22年(1889年)に東京・新橋から神戸まで東海道本線が開通した時には、神奈川県の国府津から海岸線ではなく箱根山を迂回して御殿場へ抜けるコースに鉄道が引かれました。小田原や湯河原とともに熱海は鉄道から取り残されたのでした。
そこで国府津から小田原を経由して箱根湯本まではレールの上を馬車が走る馬車鉄道が走るようになり、小田原から熱海までは狭いレールを敷いてその上を人が押して走る人車鉄道が出来たというのです。軽便鉄道が開通するまでの約10年間、この人が押す鉄道が走っていたというのは、この本を読むまで知りませんでした。アップダウンのある海岸線を人が押して走るには大変苦労も多かったようですが、それでも美しい景色に誘われて東京から熱海まで多くの人を運んだのです。昭和9年(1934年)にようやく箱根の山をくぐって沼津に抜ける丹那トンネルが開通します。今は東海道新幹線であっという間に抜けていく小田原~沼津間ですが、今度新幹線に乗る時はそんな歴史に思いを馳せてみたいと思います。

 

 

 

 

 

『二平方メートルの世界で』前田海音/文 はたこうしろう/絵 小学館 2021/4/25(出版社サイト→こちら

脳神経の病気の治療のため3歳の頃から入退院を繰り返している前田海音さん(2010年生まれ、現在小学校5年生)が小学校3年生の時に書いた作文を元にした絵本です。作文は「第11回子どもノンフィクション文学賞」小学生の部の大賞に選ばれました。
「二平方メートル」とは入院した時に過ごすベッドとその周りの空間のことです。海音さんは、その狭い世界の中から入院で心配をかけている両親や留守番する兄への思いを綴り、入院しているほかの子どもたちにも思いを馳せています。それでも「もういや!」「一日でいいから、薬を飲まなくていい日をください!」と思うこともあるのです。ある日、たまたまベッドにまたがるオーバーテーブルの下に潜り込んでテーブルの裏の寄せ書きをみつけます。「みんながんばろうね」「再手術サイテー」「ようやく退院できるよ!」などこのテーブルを使っていた子たちの声がそこには記されていたのです。「この言葉を送りあっていたのは、会ったことのない人どうしだ。時間をこえて言葉を受け取り、言葉を届ける。(中略)この二平方メートルの世界で、同じテーブルを使ってすごしたたくさんのだれかが、たしかにここにいて、私に語りかけてくれた。ひとりじゃないよって。」病気をもっていても、一日一日の大切さを大事にしたいと願うその気持ちが、しっかりと伝わってきます。そして、はたこうしろうさんは海音さんの住む札幌へ訪ねていって、相談しながら絵を描き上げたそうです。

 

 

 

 

『朝ごはんは、お日さまの光!植物のはなし』マイケル・ホランド/文 フィリップ・ジョルダーノ/絵 徳間書店児童書編集部/訳 徳間書店 2021/5/31(出版社サイト→こちら

地球上の植物について、そのしくみや育て方、食物としての役割、植物を使ったテクノロジーから環境問題まで、子どもたちにわかりやすく解説したイラストがとても美しい大判の科学絵本です。
地球上にすむ生き物にとって植物はなくてはならない存在。わかっているだけで40万種あるという植物のふしぎについて考えるきっかけになることでしょう。

 

 

 

 

 

 

【児童書】
《物語》

『クラムボンはかぷかぷわらったよ 宮澤賢治おはなし30選』澤口たまみ/著 岩手日報社 2021/5/1(出版社サイト→こちら

宮澤賢治の後輩(岩手大学農学部)で、「かがくのとも」や「ちいさなかがくのとも」などに身近な自然への温かいまなざしの作品を提供している澤口たまみさんが著した賢治の童話のあらすじダイジェスト作品が、出版されました。賢治が過ごした岩手県で生まれ育ち、賢治が歩いたところを自らも歩いた澤口さんの読み解きは、とても面白く納得がいきます。
難解な賢治の創作がどのような思いで書かれたのかを知ると、もっと賢治が身近に感じられます。賢治の恋心にも触れられています。YA世代にも、ぜひ手に取ってほしいと思います。

 

 

 

 

 

『帰れ 野生のロボット』ピーター・ブラウン/作・絵 前沢明枝/訳 福音館書店 2021/5/20(出版社サイト→こちら

2018年に出版された『野生のロボット』(→こちら)の続編です。野生のロボットとして、無人島でガンのキラリや動物たちと過ごしていたロズ。前作ではそんなロズを不気味な飛行船が回収するところで終わっていました。
こちらでは修理が終わったロズが小さな子どもが二人いる農場に買われて送られていくところから始まります。しかしロズの記憶装置から無人島で過ごした野生の生活の記憶は削除されていなかったのです。やがてふるさとの無人島に戻りたいと思いはじめるロズ。すべてコンピューターで管理されている農場から脱出するのは並大抵のことではありません。しかし二人の子どもたちの助けを借り、渡りの途中でロズを発見してくれたキラリと一緒に無人島への冒険に踏み出すことにします。誰からも発見されずに無人島へたどり着けるのか、ハラハラドキドキの旅が続きます。高度なデジタル社会の中で、やはり自分らしくいるということの大切さを考えさせられました。『野生のロボット』紹介ページ(→こちら

 

 

 

 

『キプリング童話集 動物と世界のはじまりの物語』ラドヤード・キプリング/作 ハンス・フィッシャー/絵 小宮由/訳 アノニマ・スタジオ 2021/5/21(出版社サイト→こちら

『ジャングルブック』の作者、ラドヤード・キプリングが、約120年前に、寝る前の我が子に語って聞かせた11のお話が、美しい装丁のもと、1冊の本になりました。
キプリングは父親の仕事でイギリスの統治下にあったボンベイで生まれます。そして少年期から青年期にかけて世界中を旅してきました。そんな旅先で見聞きしたことが、楽しいお話になっています。
3人の子どもの父親であったキプリングは、わが子を心の底から愛し、積極的に育児にもかかわったそうです。そんな愛情にあふれたお話集なのです。またこのお話集には、『こねこのぴっち』でも知られているスイスの絵本作家ハンス・フィッシャーが挿絵を描いています。

 

 

 

 

 

《ノンフィクション》

『武器ではなく命の水をおくりたい 中村哲医師の生き方』宮田律/著 平凡社 2021/4/21(出版社サイト→こちら

2019年12月4日にアフガニスタンにて武装勢力によって銃撃された中村哲医師の生き方を、現代イスラム研究センター理事長である筆者が子どもたちにもわかりやすく書いた本です。
特に新型コロナウイルス感染拡大対策に揺れている世界情勢をみて、今こそ中村先生の想いを伝えたいと願って書かれています。中村哲先生の関連書籍はたくさん出版されていますが、パンデミックの世界情勢の中でこそ、中村先生の言葉に学ぼうとするこの本の視点はとてもわかりやすいです。武器を取るよりもまずは経済格差を無くすことのほうが大切だと説いた中村先生の言葉をもう一度噛みしめたいと思います。

 

 

 

 

 

【その他】

『児童文学の中の家』深井せつ子/作 エクスナレッジ 2021/4/6(出版社サイト→こちら

子どもの頃、たとえば『秘密の花園』を読んで、この大きなお屋敷の間取りはどうなっているのだろうと思いを巡らせたり、本の扉に見取り図があると本文を読みながら何度も行ったり来たりしたという人は多いでしょう。
この本では『大きな森の小さな家』や『飛ぶ教室』『若草物語』『赤毛のアン』に『床下の小人たち』『ライオンと魔女』など27の名作の舞台となった家がイラストや見取り図とともに紹介されています。
長く読み継がれている作品の魅力は、こうした舞台設定がしっかりとしていて読む者を惹きつけるというところにもあるのかもしれません。
また、この本を片手に昔読んだ名作を読み返すガイドブックにしても楽しいと思います。

 

 

(作成K・J)

2021年3,4月の新刊から(その2)


3月、4月に出版された子どもの本のうち、(その1→こちら)で紹介できなかったものを紹介します。一部、見落としていた3月以前に発行された新刊も含まれています。

この度は4月15日に銀座・教文館ナルニア国へ選書に伺い、購入したものと、神保町にあるブックハウスカフェから取り寄せたものを、読み終えた上で紹介しています。

 

その他の書籍に関しては銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

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【絵本】
《物語絵本》

『オサム』谷川俊太郎/文 あべ弘士/絵 童話屋 2021/3/22(出版社サイト→こちら

巻末に掲載されている谷川さんの「ぼくのゆめ」という詩には、「おおきくなったらなにになりたい? と おとながきく いいひとになりたい と ぼくがこたえる(中略)えらくならなくていい かねもちにならなくていい いいひとになるのが ぼくのゆめ と くちにださずに ぼくはおもう」という一節があります。
谷川さんの思う「いいひと」をあべ弘士さんが絵に描いたら、ゴリラになったそうです。ゴリラの優しい表情を見ているとホッとします。子どもにもおとなにも読んでほしい絵本です。

 

 

 

 

『ともだちいっしゅうかん』内田麟太郎/作 降矢なな/絵 偕成社 2021/4(出版社サイト→こちら

1998年に『ともだちや』(→こちら)が出版されて23年。「おれたち、ともだち!」シリーズ(→こちら)の14冊目となるこちらの絵本は、『ともだちおまじない』(→こちら)と合わせて番外編に位置付けられます。
月曜日から始まって日曜日までロシア民謡の「一週間」のように、毎日きつねとその友だちの楽しいエピソードが描かれます。よく見ると、各曜日の最初のページは「月」「火」「水」などの漢字を模った絵になっています。そんなところも子どもたちが発見して喜びそうです。

 

 

 

 

 

 

『たべたのだーれだ?』たむらしげる/作 0.1.2えほん 福音館書店 2021/4/10(出版社サイト→こちら

月刊絵本「こどものとも0.1.2」2016年8月号のハードカバーです。ボードブックのページに穴が空いていて、向こう側に木の実や果物を食べている動物や虫の一部が見えています。それを予測しながらページをめくるのは、小さな子どもにとっては、まるで「いないいないばあ」遊びをしているような楽しさがあるでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

『まよなかのトイレ』まるやまあやこ/作 福音館書店 2021/4/10(出版社サイト→こちら

月刊絵本「こどものとも」年中向きの2010年6月号のハードカバーです。夜中にトイレに起きたひろこ。おかあさんは、小さな赤ちゃんのお世話の真っ最中で、ひろこはねこのぬいぐるみのみいこを連れて、トイレへ行くことになりました。不安な気持ちで暗い廊下に出ると、ぬいぐるみのみいこがすくっと立ち上がり、トイレまで先導してくれるのです。ぬいぐるみは、幼い子どもの不安な気持ちに寄り添ってくれる心強い存在です。そんな子どもの気持ちが柔らかなタッチの絵で丁寧に描かれています。

 

 

 

 

 

 

《ノンフィクション絵本》
『せかいでさいしょにズボンをはいた女の子』キース・ネグレー/作 石井睦美/訳 光村教育図書 2020/12/23 (2021/4/15第二刷発行)(出版社サイト→こちら

昨年12月に出版されていた絵本ですが、見落としていました。この度第二刷が発行されたので、紹介します。
この絵本のモデルになっているメアリー・エドワーズ・ウォーカーは1832年生まれです。メアリーが育った時代は、日本では江戸後期にあたります。彼女は小さなころから独立心と正義感に満ち溢れていました。そして当時、女性が身につけるべきと思われていた体を締め付けるドレスではなく、活動のしやすいズボンをはいて学校へ通うようになるのです。それは社会への挑戦でした。あとがきにはそのことを理由に何度も逮捕されたと書かれています。その度に「男の子のふくをきているんじゃないわ わたしはわたしのふくをきているのよ!」と主張したのです。その後、メアリーは南北戦争の際に北軍の軍医になり、医師を引退した後も女性の選挙権や、服装の自由についての権利を訴えて活動を続けました。ジェンダーについて考えるきっかけになる絵本です。

 

 

 

 

『女の子だから、男の子だからをなくす本』ユン・ウンジュ/文 イ・ヘジョン/絵 すんみ/訳 エトセトラブックス 2021/3/30(出版社サイト→こちら

「女の子は女らしく」「男の子は男らしく」というように性別によって行動を決めつけられることへの疑問をもち、性別の枠組みから自由になることの大切さを子どもたちにもわかりやすく解く韓国の作家による絵本です。日本と同様に儒教的な家父長制が重視されてきた韓国でも、急速にジェンダー問題への関心は高まっているようです。これからの時代、子どもたちがもっと自由に、自分のやりたいことに挑戦できるように、大人の凝り固まった固定観念をまずはほぐす必要があります。子どもと共に読みたい1冊です。

 

 

 

 

 

 

 

『雪虫』石黒誠/文・絵 たくさんのふしぎ傑作集 福音館書店 2021/3/30(出版社サイト→こちら

北国では、雪がふりはじめる前に飛び交う白い小さな雪虫のことを、冬の訪れを知らせる虫と親しんでいるそうです。
その雪虫の生態を北海道、富良野の森で一年間追った写真絵本です。雪虫は、不思議な生態を持っています。春にヤチダモの木の上で卵から孵った時と、夏にトドマツの根元の地下で過ごす時、白い綿毛を身にまとって雪虫になって飛んでヤチダモの森へ飛んで帰る時、そして秋に次の世代を産む時では、全く違う姿かたちに変わります。その間に7回世代が交代するのです。春から夏にかけてはメスがメスだけを産み、秋になるとオスとメスが生まれます。その時は翅も口もなく交尾をする為だけに数日間生きて、次の年に孵る卵を産むと死ぬという独特の生態を具に記録しています。私たちの暮らしとはなんら関わりのないように感じるこうした小さな昆虫は、他の昆虫や鳥の餌となり生態系を支えています。小さな昆虫の一生を知ることで、私たちは生命がもつ「センス・オブ・ワンダー」を感じることができるのです。月刊絵本「たくさんのふしぎ」の2013年11月号のハードカバーです。

 

 

 

 

『桜島の赤い火』宮武健仁/文・写真 たくさんのふしぎ傑作集 福音館書店 2021/3/30(出版社サイト→こちら

こちらも月刊絵本「たくさんのふしぎ」の2013年1月号のハードカバーです。写真家の宮武さんは小学校の修学旅行で阿蘇山を訪れ、その際に購入した絵葉書セットの中にある夜の闇に赤く光る火口の写真を見て「地球の中が赤く光っている」と感じ、そのことに強く惹かれたそうです。
大人になって赤い火口を写真に収めようと阿蘇山を訪れますが、それならば毎日噴火している桜島のほうがよいと勧められて、桜島に通うようになります。鹿児島市内からは噴煙が見えるだけですが、大隅半島側からは昭和火口が見えるとわかると、そちらからカメラを構えて撮影に挑みます。そして噴火の瞬間を写真に収めていきます。
真っ赤な火が噴き出す火口、そして火山雷の稲妻、それらの写真を見ていると地球は今も地中奥深くにマグマを湛え、常に変化しているのだと感じます。この本の中には火山が身近にある人びとの暮らし、過去の大噴火がもたらした地形や水の流れなどもわかりやすく伝えてくれます。何万年という時間の流れの中で今の地形が形作られていますが、それもまたこれから何万年も経つとまったく違う形に変わっていくのだろうと、その壮大な時間の流れの中のほんの一瞬を生きているのだと、この本を読んで感じました。

 

 

 

 

『富岡製糸場 生糸がつくった近代の日本』田村仁/写真・文 たくさんのふしぎ傑作集 福音館書店 2021/3/30(出版社サイト→こちら

2014年にユネスコ世界遺産として登録された富岡製糸場の成り立ちと、そこに至る日本の養蚕と製糸の歴史を詳細に伝えてくれる写真絵本です。現在放映中のNHK大河ドラマ「青天を衝け」で今後描かれる明治期の日本の近代化の象徴でもある富岡製糸場が、なぜあの立地になったのか、また富岡製糸場がどんな役割を担っていたのかが、よくわかります。月刊絵本「たくさんのふしぎ」の2016年6月号のハードカバーです。

 

 

 

 

 

 

 

『富士山のまりも 夏休み自由研究50年後の大発見』亀田良成/文 斉藤俊行/絵 たくさんのふしぎ傑作集 福音館書店 2021/3/30(出版社サイト→こちら

月刊絵本「たくさんのふしぎ」の2014年4月号のハードカバーです。昭和22年に東京で生まれ育った作者の亀田さんは、小学生だった昭和30年代に富士山麓の山中湖に毎年夏に通うようになります。小学3年生の時に「ししの糞」と呼ばれる小さなまりもを採取し、東京に持ち帰りジャム瓶で育てるようになります。小学4年生の担任の先生は「一人一研究」と自由研究を熱心に呼びかけます。それに応じて亀田さんは自由研究に「山中湖のなりたちとまりも」をテーマに選びます。そして再びまりもを採取して大きな水槽で観察を始めました。
まりもはその後も亀田さんのご実家の庭で50年もの間、育てられていたのです。長年まりもの世話をしてくれていた母親が老人ホームで暮らすようになった2011年に、亀田さんはインターネットでまりもについて検索してみました。すると、山中湖のまりもが絶滅状態であることがわかります。国立科学博物館に報告をすると、50年以上前の観察記録や遺伝子解析により、幻のフジマリモとわかりニュースにもなりました。亀田さんはいずれ山中湖にまりもを返すために、今も研究を続けているとのことです。子ども時代の自由研究が生涯にわたる研究テーマになることもあるのですね。

 

 

 

【児童書】

《昔話・物語》

『火の鳥ときつねのリシカ チェコの昔話』木村有子/編訳 出久根育/絵 岩波少年文庫 岩波書店 2021/4/15(出版社サイト→こちら

チェコで子ども時代を過ごし、また大学時代にチェコへ留学した木村有子さんが、チェコに伝わる昔話を24選んだチェコの昔話集です。挿絵を担当したのは、『命の水―チェコの民話集』(カレル・ヤロミール・エルベン/編 阿部賢一/訳 西村書店 2017→こちら)でも絵を描いたチェコ在住の出久根育さんです。
また2013年に出版された『中・東欧のむかしばなし 三本の金の髪の毛』(松岡享子/訳 降矢なな/絵 のら書店 2013→こちら)にも共通のお話が収録されていますが、当然のことですが翻訳者によっておはなしの雰囲気が少しずつ違っています。子ども時代にチェコで過ごし、身近に昔話を聞いていた木村さんならではの親しみやすい訳で、チェコの昔話を味わってほしいと思います。また木村有子さんのオンライントークイベントが、JBBY主催で6月に行われます。(JBBY国際アンデルセン賞と世界の子どもの本講座2021-②「チェコの国際アンデルセン賞画家が開く絵本の世界」こちら)ぜひ、こちらにもご参加ください。

 

 

 

 

『こそあどの森のおとなたちが子どもだったころ』岡田淳/作 理論社 2021/5(出版社サイト→こちら

「こそあどの森」シリーズ(→こちら)は2017年に12巻目の『水の森の秘密』(→こちら)で完結しました。
この本は「こそあどの森」の物語に出てくる個性豊かなおとなたちが、どんな子ども時代だったのかを描く番外編です。
主人公のスキッパーが作家のトワイエさんから借りた本の中に、子ども時代の写真が挟まっていたのに気づいたことから、スキッパーとふたごが、次々に森のおとなたちに子どもの頃の思い出を聞き出していきます。トワイエさんが子ども時代に通っていた図書館で体験した不思議な出来事、トマトさんが料理が得意になったわけなど、本編に続く子どもの頃のエピソードがわかって楽しくなります。

 

 

 

 

 

 

《ノンフィクション》

『こどもジェンダー』シオリーヌ(大貫詩織)/著 松岡宗嗣/監修 村田エリー/絵 ワニブックス 2021/5/10(出版社サイト→こちら

助産師としてYoutubeチャンネルでジェンダーとセクシュアリティにまつわる動画を公開してきたシオリーヌさんによる子ども向けに、ジェンダーについて考えるヒントを集めた本です。(性教育YouTuberシオリーヌ公式チャンネル→こちら
「ぼくランドセルはあかがいいんだ でもそれはオンナノコのいろだから ダメといわれちゃった」「わたしね スカートなんかすきじゃない フリフリのようふくなんかきたくない」「おとうさんに「オトコなんだからメソメソなくな!」っていわれちゃった ぼくがオンナノコだったら いいの」など、子どもたちの身近にある疑問に答えてくれます。今回紹介した『せかいでさいしょにズボンをはいた女の子』『女の子だから、男の子だからをなくす本』など、子どもの本の世界でもジェンダーに関する書籍が増えています。SDGsの第5番目の目標に「ジェンダー平等を実現しよう」が入り、また2018年の#MeToo運動以降、この問題は子どもの本の世界でも重要なトピックスになっていることの表れです。

 

 

 

【その他】

『つぎに読むの、どれにしよ? 私の親愛なる海外児童文学』越高綾乃/著 かもがわ出版 2021/2/1(出版社サイト→こちら

長野県松本市にある子どもの本の専門店「ちいさいおうち」(→こちら)の経営者の一人娘である作者が、子ども時代から親しんできた海外児童文学について語るエッセイです。
幼少期はもちろんのこと、思春期の辛い時も、子どもの本の主人公たちがそばに寄り添ってくれたという24作品への想いを読むと、ああ、私もそんな風に思ったなと感じたり、もう一度読み返してみたくなったりします。そして翻訳家の石井登志子さんとの対談からは、リンドグレーン作品への想いが溢れています。子ども時代に出会う本がどれだけその後の人生を支えるかということがわかります。

 

 

 

 

『絵本のなかへ帰る』高村志保/著 岬書店 2021/2/16(出版社サイト→こちら

こちらは長野県茅野市にある今井書店の二代目店主による絵本のエッセイです。子ども時代に出会った絵本、とくに父親のひざの上で読んでもらった絵本の思い出、ご自身が子育て中に我が子と読んだ絵本など27冊が並びます。『つぎに読むの、どれにしよ? 私の親愛なる海外児童文学』の越高さんと同様に子ども時代に出会う本がいかに子どもの人格形成に影響を与えるか、人生を彩るかを語っています。
出版元は夏葉社の新レーベル、岬書店、そして表紙の絵はきくちちきさんです。(今井書店本店のtwitter→こちら

 

 

 

 

『岩波少年文庫のあゆみ 1950-2020』若菜晃子/編著 岩波少年文庫別冊 岩波書店 2021/3/12(出版社サイト→こちら

子ども時代に岩波少年文庫に親しんだという編集者でエッセイストの若菜さんによる岩波少年文庫愛がつまったエッセイです。
岩波少年文庫は1950年、終戦後5年後に創刊されました。岩波少年文庫の各巻の巻末には「岩波少年文庫創刊五十年ー新版の発足に際して」には「心躍る辺境の冒険、海賊たちの不気味な唄、垣間みる大人の世界への不安、魔法使いの老婆が棲む深い森、無垢の少年たちの友情と別離―幼少期の読書の記憶の断片は、個個人のその後の人生のさまざまな局面で、あるときは勇気と励ましを与え、またある時は孤独への慰めともなり、意識の深層に蔵され、原風景として消えることがない」という一文が掲載されています。まさにそれを体感してきた作者による70年の歩みをまとめた「岩波少年文庫大全」です。また岩波少年文庫の総目録としても活用できる保存版です。

 

 

(作成K・J)

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