Tag Archive for 児童書

2021年7月、8月の新刊から
2021年5月、6月、7月の新刊から(その2)絵本・読み物
2021年5月、6月の新刊から(その1)絵本
2021年4月、5月の新刊から
2021年3月、4月の新刊から(その1)
2020年12月、2021年1月の新刊から
2020年11月、12月の新刊から(その2)
2020年10月、11月の新刊から(修正アリ)
2020年9月、10月の新刊から(その2・読み物)
2020年9月、10月の新刊から(その1・絵本)
基本図書を読む31『クラバート』プロイスラー(再掲載)
科学道100冊2020年版が発表されました!
基本図書を読む30『エイブ・リンカーン』 吉野源三郎(再掲載)
基本図書を読む29『時の旅人』アリソン・アトリー(再掲載)
基本図書を読む28『注文の多い料理店』『風の又三郎』『銀河鉄道の夜』宮沢賢治(再掲載)

2021年7月、8月の新刊から


7月、8月に出版された子どもの本、および研究書を紹介します。また、一部、見落としていた7月以前に発行された新刊も含まれています。

この度は、横浜・ともだち書店で児童書担当の方の推薦をいただいたものを取り寄せた本、翻訳者の方から直接送っていただいたものを、読み終えた上で紹介しています。

その他の書籍に関しては銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

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【絵本】
《創作絵本》

『みちとなつ』杉田比呂美/作 福音館書店 2021/6/5 (出版社サイト→こちら

大きな街にお母さんと二人で住むみちと、海辺の町で大家族で住んでいるなつ。二人はお互い知らない同士でした。みちは物静かな女の子でハートの形をした石を集めるのが好きです。なつは海辺で丸くなったきれいなガラス片を集めるのが好きです。夏休み、みちがおじいちゃん、おばあちゃんを訪ねていったのは、なつの住んでいる町。
みちが朝早く海辺でハート型の石を並べていると、なつがやってきます。ふたりは、いいお友だちになれそうですね。

 

 

 

 

 

『うちのねこ』高橋和枝/作 アリス館 2021/7/20(出版社サイト→こちら

ある春の日、野良猫が保護されて、うちにやってきた。もうおとなになっている猫。なかなか心を開いてくれない。慣れたかなあと思うと、ひっかいてくる。そうやって夏が過ぎ、秋が過ぎていく。冬がきて、布団に近寄ってきて目が合うとまたひっかいてきた。保護しないほうがよかったの?野良のままがよかったの?それから1週間後、温かい布団の中にねこが入ってきます。作者の実体験をもとに描かれた作品です。

 

 

 

 

 

『くろねこのほんやさん』シンディ・ウーメ/文・絵 福本友美子/訳 小学館 2021/7/25(出版社サイト→こちら
本を読むのが大好きなくろねこがいました。他の家族はダンサーだったり、ケーキ屋さんだったり、ロボット制作だったりと忙しく仕事をしています。おにいさんに「ほんをよむのはしごとじゃないよ」とまで言われてしまいます。
それでも「ほんをよめばいろんなことがわかるし、なんにでもなれる」と気にしないくろねこ。町で店員募集の本屋さんをみつけて、そこで働くことになりました。
子どもたちひとりひとりに合わせたぴったりの本を選んでくれるので、くろねこのいる本屋さんはたちまち人気店になりました。
ところが大雨で本屋さんが水浸しに。子どもたちも本屋さんに来れなくなりました。そこでまたくろねこの大活躍がはじまります。本を読むことの楽しさを伝えてくれる絵本です。

 

 

 

 

 

『しらすどん』最勝寺朋子/作・絵 岩崎書店 2021/7/31(出版社サイト→こちら

朝ごはんに食べた「しらす丼」。りょうくんは丼にほんのわずかしらすを食べ残して席を立とうとすると、「自分がしらすだったらって、かんがえたことある?」と丼に呼び止められるのです。
するとりょうくんは、しらすの大きさになって、食べかすとしてごみに捨てられ、ゴミ収集車で焼却炉へ・・・このあたりの描写は、少し衝撃的です。その後りょうくんは海のなかで稚魚として目ざめ、しらすとして商品になり、家へとやってきます。
りょうくんは、今度はしらす丼を最後まできれいに食べるのです。
自分が生ごみとして燃やされてしまうという想像は、子どもたちには衝撃かもしれません。しかし作者は「食べることは、他の命をいただくこと」、そうした命のやりとりに無関心になっていることを伝えたいと、飽食の時代に一石を投じる覚悟で制作されました。そのことをきちんと子どもたちに伝えられるように、丁寧に手渡したい絵本です。

 

 

 

 

『野ばらの村のけっこんしき』ジル・バークレム/作・絵 こみやゆう/訳 出版ワークス 2021/8/25(出版社サイト→こちら

「2021年5月、6月の新刊から」(→こちら)でも紹介した「野ばら村の物語」四季シリーズの夏のお話です。
チーズ小屋で働くポピーと粉ひき小屋で働くダスティは小川のほとりで出会って恋におち、結婚することになりました。野ばら村のみんなは大喜び。村をあげて結婚式のお祝いの準備をします。小川の上に浮かべた筏の上での結婚式は、それはとても楽しそうです。細かく描かれた田園風景をじっくり味わってほしいなと思います。

 

 

 

 

 

 

《ノンフィクション絵本》

『旅をしたがる草木の実の知恵 ゲッチョ先生の草木の実コレクション』盛口満/文・絵 少年写真新聞社 2021/7/20(出版社サイト→こちら

草や木は自分で動くことができないため、種子を遠くに運んでもらうために、美味しい木の実をつけて鳥や動物たちに運んでもらえるよう引き付けます。
あるいはトゲトゲをつけて、動物や人にくっついて遠くへ運ばれるものや、風にのって遠くへ飛ぶように出来た種子も。
そんな様々な植物の種子を200種類以上集めて、分類し、わかりやすく説明をしてくれている科学読み物です。

 

 

 

 

 

 

【児童書】

『あなたがいたところ―ワタシゴト 14歳のひろしま2』中澤晶子/作 ささめやゆき/絵 汐文社 2021/6(出版社サイト→こちら

昨年出版された『ワタシゴトー14歳のひろしま』(出版社サイト→こちら)の続編です。
「ワタシゴト」は、「私事=他人のことではない、私のこと」と「渡し事=記憶を手渡すこと」の二つの意味を持っています。
舞台は修学旅行で全国から多くの中学生が訪れる広島。被爆建物を訪れた中学生たちの、4つの物語が収められています。76年前の広島原爆の被害を語り継ぎ、修学旅行という機会でそれに触れることが、若い世代が世界の平和を自分のこととして考える契機になっていく。そのことを本を通して伝えていきたいと思います。

 

 

 

 

 

 

【ノンフィクション】

『あたらしいお金の教科書 ありがとうをはこぶお金、やさしさがめぐる社会』新井和宏/著 山川出版社 2021/7/30(出版社サイト→こちら

かつて外資系金融機関で、国家予算に匹敵するような額のお金を運用していた新井さん。お金を儲けることだけが目的になると、経済格差が広がり不幸になる人が増えることに気づかれます。
そして丁寧に事業をし、従業員も顧客も経営者も三方良しの経営をしている会社を支援するために「鎌倉投信」を設立します。その様子は、NHKの「プロフェッショナル仕事の流儀」でも紹介されました。(→こちら
その後、新井さんは「ありがとうの循環」が社会を巡るような共感通貨eumo(→こちら)を作り、昨年運用が開始されました。
この本は、奪い合いではなく、お互いを助け合う仕組みとしてのお金の意味を、お金の歴史を紐解きながら、わかりやすく解説しています。帯に書かれている「お金の本なのに、生き方や幸せや社会について考えたくなる、全く新しいお金のバイブル」そのものです。

 

 

 

 

【研究書】

『いわさきちひろと戦後日本の母親像 画業の全貌とイメージの形成』宮下美砂子/著 世織書房 2021/6/30 (出版社サイト(書籍情報はなし)→こちら)

ジェンダーと絵本について研究されている筆者の博士論文を元にして書籍化された本です。
戦後の絵本には「おとうさんとおかあさん、そしてこどもふたり」というステレオタイプの家族像が描かれ、いつの間にかそれが当たり前のように刷り込まれてきました。家族の在り方は、その後大きく変わってきており、子どもの本の世界でも価値観の更新が求められています。
この研究では、いわさきちひろが描く「母と子」像を通して、その意味を問い、いわさきちひろの絵本と画業を通して、日本社会にまん延するジェンダー不平等について分析しています。
世界ジェンダーギャップ指数が2021年3月発表では156か国中120位の日本で、宮下さんの研究は子どもの本の世界をジェンダーの視点で捉えなおす必要性を問いかけてくれています。

 

 

(作成K・J)

2021年5月、6月、7月の新刊から(その2)絵本・読み物


5月、6月に出版された子どもの本のうち、先月紹介できなかった読み物と、7月に出版された絵本を紹介します。また、一部、見落としていた5月以前に発行された新刊も含まれています。(2021年5月、6月の新刊から(その1)絵本は→こちら

この度は銀座・教文館ナルニア国で選書したものと、横浜・ともだち書店で児童書担当の方の推薦をいただいたものを取り寄せた本、翻訳者の方から直接送っていただいたものを、読み終えた上で紹介しています。

その他の書籍に関しては銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

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【絵本】
《創作》
『太陽と月 10人のアーティストによるインドの民族の物語』バッジュ・シャーム、ジャグディッシュ・チターラー、スパーシュ・ヴィヤーム他 青木恵都/訳 タムラ堂 2021/4/1(第3刷)(出版社サイト→こちら

南インドの小さな工房でシルクスクリーン印刷と手製本で作られるターラーブックスの絵本です。2016年に第1刷が日本で出版されていましたが、大量生産されていない作品なのですぐに手に入らなくなっていました。4月に第3刷が販売されました。今回は2000部発売で、手元にあるものは1641とシリアルナンバー入りです。
紙の手触りや色合いなどから、これは芸術作品だと感じます。太陽と月を巡る昔話を10人のアーティストがそれぞれ見開きページで表現しています。

 

 

 

 

『いろいろかえる』きくちちき/作 偕成社 2021/5(出版社サイト→こちら

みどりのかえるときいろのかえる、そしてももいろのかえるの三匹がおひさまの光を浴びて、お花の間でゆかいに踊ります。池の中ではあおいろのかえるも、だいだいいろのかえるもやってきて、夕陽を浴びて大合唱。そこへ迎えに来たのはとうさんとかあさんのかえる。
にぎやかなかえるたちの声に、こちらも頬がゆるんできます。
きくちちきさんの躍動的な筆のタッチがのびやかで気持ちを解放させてくれます。

 

 

 

 

 

『天のすべりだい』スズキコージ/作 BL出版 2021/7/1(出版社サイトtopページ→こちらトップページから新刊案内をクリックしてください

コージズキンという愛称で呼ばれて熱烈なファンもいるスズキコージさんの贅沢な画集といった感じでしょうか。
一貫した物語があるわけではないのですが、「あの世とこの世の交信」から生まれた絵だというだけあって、絵の力に圧倒されます。そしてところどころに散りばめられた問いかけの言葉「あの世とこの世のリンゴの味はそっくりなのを君は知ってるかい?」「この世にもあの世にも旅の仲間がいるってこと知ってるかい?」にインスパイアされて、ひとりひとりが絵の中を旅することができる、そんな想像力を搔き立ててくれる絵本です。

 

 

 

 

『街どろぼう』junaida/作 福音館書店 2021/7/10(出版社サイト→こちら

これまで『Michi』、『の』や『怪物園』などの独創的で美しい絵本を創作しているjunaidaさんの新作絵本です。
大きな山の上にひとりぼっちで住んでいる巨人は、ある夜さびしさのあまり、麓の街から一軒の家をこっそり山の上に持ち帰ります。そしてその家の家族に「これからはここでいっしょにくらしましょう ほしいものがあったらなんでもあげますから」と伝えます。するとその家族は「わたしたちだけではさびしいのでしんせきの家も ここにつれてきて」と頼まれるのです。こうして巨人はその都度求められるままに、麓の街にあった家のほとんどを山の上に運びます。そうして山の上ににぎやかな街が出来上がるのですが、巨人はやっぱり孤独でした。そして巨人が山を下りていくのです。美しい絵と、意外な展開の中から、そして最後には心温まる結末も用意されていて、読みながらさまざまなことを考えさせられました。20cm×15cmの小さな絵本です。

 

 

 

《ノンフィクション》

『子どもの本で平和をつくる―イエラ・レップマンの目ざしたこと―』キャシー・スティンソン/文 マリー・ラフランス/絵 さくまゆみこ/訳 小学館 2021/7/19(出版社サイト→こちら

第二次世界大戦後、瓦礫に覆われたドイツの街角でアンネリーゼと幼い弟ペーターは、大きな建物に人々が並んで入っていくのを見て、食べ物をもらえるかもと入っていきました。
ところがそこにはたくさんの本が並べられていたのでした。そこには戦争でドイツと戦ったいろいろな国から届けられた子どもの本が並んでいたのです。
アンネリーゼとペーターはおはなし会に参加します。ひとりの女性がドイツ語に翻訳して子どもたちにおはなしを読んでくれたのでした。その日アンネリーゼは未来に向けて夢を描くことができました。
この女性はイエラ・レップマンという実在の女性です。「すばらしい子どもの本は人びとが理解しあうための”かけ橋”になる」と信じ、終戦後まもなく各国によびかけ「世界の子どもの本展」を開催したのでした。「世界の子どもの本展」はその後イエラの想いに賛同して設立された「国際児童図書評議会」(IBBY→こちら)に引き継がれ、日本でも「日本児童図書評議会」(JBBY→こちら)によって巡回しています。(世界の子どもの本展→こちら)この絵本を翻訳したのは、現在JBBYの会長を務めているさくまゆみこさんです。また、当社はJBBYの法人会員になっています。

 

 

 

 

【児童書】
《物語》

『わたし、パリにいったの』たかどのほうこ/作 のら書店 2021/3/22(出版社サイト→こちら

はなちゃんは妹のめめちゃんとあるアルバムを見るのが大好きです。そのアルバムにはめめちゃんが生まれる前、はなちゃんが両親と一緒にパリへ旅行した写真が収められているのです。なんどもアルバムを開いてはなちゃんが思い出を話しているためか、まるでめめちゃんもそこにいたかのように話すのです。はなちゃんが「めめちゃん、うまれてなかったのに、よくおぼえてるねえ!」「おかあさんにきいたんじゃないの?」と聞くと、「おかあさんのおへそのあなから見てた」と言いはるめめちゃん。そんな楽しい姉妹の会話に思わず笑ってしまいます。ひとりで読み始めた子に手渡したい幼年童話です。

 

 

 

 

『けんだましょうぶ』にしひらあかね/作 福音館書店 2021/4/15(出版社サイト→こちら

けいくんはけんだまが得意です。けんだまを持って野原へ出かけていくと、きつねがけんだま勝負を挑んできます。きつねがけんだま始めると、玉がみかんになったり、りんごになったり。次にたぬきもけんだま勝負を挑んできました。たぬきのけんだまはザリガニに変身したり。そのあとも魔女や天狗とけんだま勝負。なんとも楽しくて、けんだまをやりたくなる幼年童話です。

 

 

 

 

 

 

『すてきなひとりぼっち』なかがわちひろ/作 のら書店 2021/5/20(出版社サイト→こちら

クラスの中にとけこめず、ひとりぼっちであることも平気だとうそぶく一平くん。そうはいっても、「ぼくがこんなに つらいおもいをしていることを だれもしらない。ぼくは、このよにひとりぼっち。」とつぶやきたくもなる。
雨の日、学校から帰ったら玄関がしまっている。母さんを探しに出かけた商店街で一平くんはいろいろな人の親切にふれて、ひとりぼっちではないことに気づきます。
夜明け前に目が覚めて、西の空に月が沈みかけ、東の空から太陽が昇ってくるのをみながら、一平くんが感じる想いがとても素敵です。

 

 

 

 

『ボーダレス・ケアラー 生きてても、生きてなくてもお世話します』山本悦子/作 理論社 2021/5(出版社サイト→こちら

大学の夏休み直前、海斗は一人暮らしをしている認知症の祖母のケアを母親に頼まれます。祖母は1か月前に亡くなった愛犬豆蔵の空のリードを持って散歩に出かけるなど、どうも認知症が進んでいるのではというのです。海斗は母親にバイト代10万出すと言われて引きうけることにしました。
祖母の家に行って、海斗も豆蔵のリードを持って散歩すると、不思議なことに豆蔵が見えることに気がつきます。「幽霊か?」と声に出す海斗に、マンションの駐車場の下に佇む少女が、「ボーダーの状態になっているんだと思うよ。」「ボーダーラインを認識してないっていうのかな。生も死も、みんないっしょ。区別していないの。だから見えるんだと思う」と声をかけてきます。つまり「ボーダー」とは死後の世界へ行かず生と死のはざまにいる存在だというのです。海斗はボーダーの生前の想いを調べ、時にはその思いを遂げる手伝いをするようになります。また海斗がセーラと呼ぶその少女がボーダーになった理由もわかります。そこにはその少女が中学生だった時にいじめられていた同級生との関係があったのです。心温まる物語です。

 

 

 

『あしたもオカピ』斉藤倫/作 fancomi/絵 偕成社 2021/6(出版社サイト→こちら

どうぶつえんで飼育されているオカピは、ある夜、飼育員のおじさんと一緒に月をながめていました。その夜出ていた月は、不思議な形をしていました。半月をさらに半分にしたような、まるで四つ葉のクローバーの一片のような形だったのです。
「よつば月だ。よつば月にどうぶつがお願いすれば、なんでも願いがかなう」と飼育員のおじさんに教えてもらったオカピ、さっそく檻の外に出たいと願います。オカピは夜のどうぶつえんを歩き回って、「よつば月には願いがかなう」ことを他の動物たちにも伝えてまわります。
そう、その夜はほんとうに不思議なことが動物園で起きたのです。ちょっと不思議で、楽しいお話です。この本もひとりで読み始めた子ども向きの幼年童話です。

 

 

 

 

 

『チョコレートのおみやげ』岡田淳/文 植田真/絵 BL出版 2021/6/1(出版社サイトtopページ→こちらトップページから新刊案内をクリックしてください

神戸の街、異人館や港をおばさんに案内してもらったわたし。公園のベンチでチョコレートをつまみながら、おばさんが即興でお話を語り始めます。そのお話は風船売りの男と飼っているニワトリのお話でした。
ニワトリが風を読んで男に伝えると、男は風のない日に風船を売りに出かけるのです。ある日ほんのいたずら心でニワトリは強風が吹きそうな日なのに「今日は風がない日」とうそをついてしまいます。
するとその日を境に男は何カ月も帰ってこない、そこでニワトリは屋根の上の風見鶏になったというお話でした。
その結末に不満のあるわたしは、続きのお話を語ります。その新しい結末に、おばさんと食べているチョコレートがからんで、とてもおしゃれで楽しいお話になっています。

 

 

 

 

『庭』小手鞠るい/作 小学館 2021/6/7(出版社サイト→こちら

真奈はSNSでの書き込みがきっかけで仲良し5人組から外されてしまい、中2の冬から不登校になっていますが、母親の心配をよそに自分の意志で「登校拒否」しているのだと思っています。そんな日々の中に大きな転機が訪れます。中学3年生になる春休みに、幼い時に亡くなった父親の故郷、ハワイへ一人旅に出ることになったのです。
初めて会う父親方の祖母や叔母たちがハワイで温かく迎えてくれました。そこで自分のルーツに出会い、真奈の傷ついた心は少しずつ回復していきます。日系人の歴史にも触れながら、物語は展開していきますが、結末は表紙絵のような明るい光を感じることができます。中学生以上向けYA作品です。

 

 

 

 

『コレットとわがまま王女』ルイス・スロボドキン/作 小宮由/訳 瑞雲舎 2021/7/1(出版社サイト→こちら

とてもわがままな王女が町に静養にやってくるというので、コレットが住む町は大騒ぎ。ポーリーン王女の滞在中は物音ひとつ立ててはならないという法律が出来たのです。足音を立てないために、ブーツや木ぐつの上にフェルトのスリッパをかぶせたり、馬やロバの蹄鉄にはわらをかぶせ、町の教会の鐘も鳴らないようにしました。当然、子どもたちも声をあげてわらったり、広場で遊ぶこともできません。
町長の娘であるコレットは、飼い猫のシュシュにマスクをし、町のはずれの樫の木の下でおとなしくしていました。ところがポーリーン王女は、その樫の木の下を気に入ってしまったのでした。
一方的に我慢を強いられた町の人たちを救ったのは、なんと子猫のシュシュ。どうやって救ったかは読んでのお楽しみ。

 

 

 

 

【その他】

《エッセイ》
『佐野洋子 とっておき作品集』佐野洋子/著 筑摩書房 2021/3/15(出版社サイト→こちら

『100万回生きたねこ』があまりにも有名な佐野洋子さんが、亡くなられた後で見つかった単行本未収録作品を集めた作品集です。
童話が6編、ショートショートが6編、私の服装変遷史と題したイラストと写真集に、エッセイが10編、そして谷川俊太郎さんとの恋と結婚生活を書いたエッセイ3編。どれもこれも、佐野洋子さんの魅力がたっぷりつまっていて、ファンでなくても夢中になってしまいます。

 

 

 

 

 

《研究書》
『女性受刑者とわが子をつなぐ絵本の読み合い』村中李衣/編著 中島学/著 かもがわ出版 2021/6/30(出版社サイト→こちら

児童文学作家であり、また児童文学研究者でもある村中李衣さんが、長年、山口県美祢市にある官民協働刑務所「社会復帰促進センター」に収容されている女性受刑者とともに絵本を読み合う実践をされてきた、その記録です。何らかの罪を犯して収監されているわけですが、ひとりひとりの生育環境が影響していることがあり、絵本を介在させてまず自分自身と対話をし、自己確立をする中で、自分を客観視し立ち直っていく。特にわが子を持っている受刑者にとっては、自分の過去を客観視して受け入れることが、わが子との関係性も強化していくことになるのです。女子受刑者と図書館の児童サービス、なにも関係がないように見えますが、図書館は地域のすべての人に本を通して幸せな人生を実現していくことを応援する、そんな機能があります。経済格差が拡大し、本や正確な情報にアクセスできない貧困層の家庭にどう手を差し伸べるのか、その課題が見えてきます。ぜひ読んでほしいと思います。

 

 

 

(作成K・J)

2021年5月、6月の新刊から(その1)絵本


5月、6月に出版された子どもの本のうち、まず絵本を紹介します。読み物は7月上旬に公開予定です。また、一部、見落としていた5月以前に発行された新刊も含まれています。

この度は銀座・教文館ナルニア国で選書したものと、横浜・ともだち書店で児童書担当の方の推薦をいただいたものを取り寄せた本、翻訳者の方から直接送っていただいたものを、読み終えた上で紹介しています。

その他の書籍に関しては銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

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【絵本】
《物語絵本》

『あまがえるりょこうしゃ ちかたんけん』松岡たつひで/作 福音館書店 2021/4/10(出版社のサイト→こちら

あまがえる旅行社の今度のツアーはモグラ博士が作った地下を走る車での探検です。
地下をどんどん進んでいく探検ツアーのお話を読んでもらいながら、地中で暮らす虫や動物、植物の様子を知ることができます。子どもたちが大好きな昆虫の幼虫の様子などをみつけながら、物語から知識へと興味関心が広がっていく契機になっていくでしょう。

 

 

 

 

 

『ぼくのがっこう』すずきのりたけ/作 PHP研究所 2021/5/20 (出版社のサイト→こちら

奇想天外、自由な発想で身近なものを描く『ぼくのおふろ』『ぼくのトイレ』『ぼくのふとん』に続くシリーズの4作目です。
毎日通う学校も、いつもと違っていたら楽しいのに、とどんどん妄想が広がっていきます。
たとえば廊下がぐにゃぐにゃしていたり、机が日替わりで変わったり、先生と生徒が入れ替わったり・・・ナンセンスですが、たまにはそのような捉われない発想で遊んでみるのもいいですね。

 

 

 

 

 

 

『かぜのうた』フィリップ・ジョルダーノ/絵 さわべまちこ/文 ポリフォニープレス  2021/5/25(出版社のサイト→こちら

 

2004年、2009年、2010年と何度もボローニャ国際絵本原画展で賞を取っているイタリアの絵本作家が「風」をテーマに日本の四季を描きました。「かぜがふいたら」いろいろな音がして、いろいろなものが動き出します。繰り返しのリズムと音を楽しんでみましょう。

 

 

 

 

 

『アインシュタイン 時をかけるネズミの大冒険』トーベン・クールマン/作 金原瑞人/訳 ブロンズ新社 2021/5/25(出版社のサイト→こちら

リンドバーグ 空飛ぶネズミの大冒険』『アームストロング 宙飛ぶネズミの大冒険』『エジソン ネズミの海底大冒険』など史実とファンタジーを織り交ぜて好評の「ネズミの冒険シリーズ」の最新刊です。
チーズフェアに行くのを楽しみにしていたネズミ、どこで間違えたか、会場へ行って見るとフェアは前日に終わっていました。
そこから過去へもどろうとするネズミは必死の努力をし、アインシュタインの理論からタイムマシンを作るのですが、なんと辿り着いたところは80年前の世界。まさにアインシュタインが相対性理論を思いつく時だったのです。時間とは何か、相対性理論とは何か、物語を読んでいるうちに理解が深まっていきます。

 

 

 

 

 

 

『野ばらの村のピクニック』ジル・バークレム/作 こみやゆう/訳 出版ワークス 2021/6/25 (出版社のサイト→こちら

40年前に講談社から岸田衿子の訳で出版されていた「のばらの村のものがたり」シリーズのうち、『春のピクニック』がこみやゆうさんの訳で蘇りました。以前のシリーズは18cm×14.5cmの小型判型でしたが、25cm×19.5cmの大判になり、緻密に描かれた切り株の中のねずみの家をつぶさに見て楽しむことが出来ます。
絵の美しさもですが、ねずみのウィルフレッドの誕生日を家族や友達が一緒に祝うお話には、心が温まります。

 

 

 

 

 

 

《ノンフィクション絵本》

『うまれてそだつ わたしたちのDNAといでん』二コラ・デイビス/文 エミリー・サットン/絵 越智典子/訳 斉藤成也/監修 ゴブリン出版 2021/4(出版社のサイト→こちら

ちいさなちいさなめにみえないびせいぶつのせかい』や、『いろいろいっぱい ちきゅうのさまざまないきもの』など「デイビス&サットンの科学絵本シリーズ」の3作目です。
地球上のすべてのいきもの、植物も動物も、生まれては育っていき、次の命を残していきます。それではどうやって生物は次の世代へと命を繋げていけるのか、それはDNAという「設計書」を持っているからなのです。DNAと遺伝について子どもたちにわかりやすく教えてくれる絵本です。

 

 

 

 

 

 

『カブトムシの音がきこえる 土の中の11カ月』小島渉/文 廣野研一/絵 たくさんのふしぎ傑作集 福音館書店 2021/5/15(出版社のサイト→こちら

子どもたちに大人気の昆虫、カブトムシが幼虫時代に土の中でどのように暮らしているかを、親が卵を産んでから、蛹から孵るまでの11カ月を詳しく描いた絵本です。著者の小島渉・山口大理学部講師(36)=昆虫生態学=は「カブトムシは成虫が注目されがちだが、観察してみると幼虫やさなぎも面白い行動をたくさんしており、魅力的なステージ」と山口新聞のインタビューに答えています。(→こちら)1年のうち11カ月を土の中で暮らし、成虫になって外に出てきてからはたった1か月の寿命のカブトムシ。強いイメージのカブトムシがまた違ったイメージで捉えられていて新鮮です。夏の自由研究のきっかけにもなる本です。

 

 

 

 

 

 

『小さな里山をつくる チョウたちの庭』今森光彦/作 アリス館 2021/5/31 (出版社のサイト→こちら

昆虫写真家の今森光彦さんは、滋賀県の琵琶湖の畔に蝶々がくる庭(オーレリアンの庭)を作ります。その30年の歩みをたくさんの写真で紹介しています。
蝶がたくさん来る庭というのは、人間と植物、昆虫とが共生する自然の環境です。ただ単に美しい庭というだけでなく、環境への鋭い視点もまた必要です。
今では75種類もの蝶と生き物が暮らす多様な自然環境と育っていった今森さんの里山つくりは、今の時代にとても大事な視点を教えてくれます。

 

 

 

 

 

『どうなってるの?エンジニアのものづくり』ローズ・ホール/文 リー・コスグローブ/絵 福本友美子/訳 大崎章弘/監修 ひさかたチャイルド 2021/6 (出版社のサイト→こちら

飛行機はどうして空を飛べるの?スマートフォンの中はどうなっているの?そんな子どもたちが身近に抱く疑問に、エンジニアの仕事という視点で解説してくれる絵本です。
しかけ絵本になっていて、めくると詳しい説明が読めるようになってます。
昨年10月に紹介した『どうなってるの?ウイルスと細菌』(紹介記事→こちら)と同じシリーズです。

 

 

 

 

 

(作成K・J)

2021年4月、5月の新刊から


4月、5月に出版された子どもの本を紹介します。一部、見落としていた4月以前に発行された新刊も含まれています。

この度は横浜・ともだち書店、代官山蔦屋書店で児童書担当の方の推薦をいただいたものを取り寄せた本と、習志野市にあるくわのみ書房で選書したもの、翻訳者の方から直接送っていただいたものを、読み終えた上で紹介しています。

 

その他の書籍に関しては銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

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【絵本】
《物語絵本》

『まほうの木』アンドレイ・ウサチョフ/作 イーゴリ・オレイニコフ/絵 藤原潤子/訳 東洋書店新社  2020/11/1(出版社サイト→こちら

2018年に国際アンデルセン賞画家賞を受賞したイーゴリ・オレイニコフが描いたこちらの絵本は、昨年11月に出版されたものです。見逃していましたが、日本での翻訳が少ないため、時間が経過していますが紹介いたします。
天の川のはしっこにある「ふしぎわく星O」に、どんな願いもかなえてくれるまほうの木があります。みんなはまほうの木に願いごとを言って、うれしそうに帰っていきます。たとえば海で暮らしたいと願ったウマはタツノオトシゴに、早く走りたいと車になったウマも。「子どもたちがよい子に、かしこい子に育つように」と願うとまほうの木は「本のなる木」になるのです。そんな不思議な17編のおはなしが詰まった絵本です。そして何より注目してほしいのはイーゴリ・オレイニコフの美しくも幻想的な絵です。読むものを豊かな想像の世界へ誘ってくれます。

 

 

 

『エイドリアンはぜったいウソをついている』マーシー・キャンベル/文 コリーナ・ルーケン/絵 服部雄一郎/訳 岩波書店 2021/1/27(出版社サイト→こちら

こちらも1月に出版されていた絵本ですが、見逃していました。
エイドリアンは妄想癖があるのか、「うちには馬がいるんだよ」と学校でみんなに話しています。でもエイドリアンはおじいちゃんと町はずれの小さな家に住んでいるので、「わたし」は信じられないのです。
ある日、お母さんが犬の散歩のついでにエイドリアンの家まで連れていってくれます。目の当たりにする貧富の格差。そんな環境の中で育つエイドリアンの状況を知って「学校にいるだれよりもすごい想像力の持ち主」なんだと理解していくのです。相手の気持ちに寄り添うことの大切さを教えてくれています。

 

 

 

 

『たんぽぽ たんぽぽ』みなみじゅんこ/作 アリス館 2021/3/31(出版社サイト→こちら

『どんぐりころちゃん』(→こちら)のわらべうた絵本があるみなみじゅんこさんの新刊です。
こちらもわらべうた「たんぽぽ たんぽぽ むこうやまへ とんでけ!」が可愛らしい絵本になりました。
たんぽぽの季節は終わってしまいましたが、新刊で購入したところはこの春のおはなし会できっと活躍したことと思います。
巻末にわらべうたの採譜、そして遊び方がついています。

 

 

 

 

 

『ありえない!』エリック・カール/作 アーサー・ビナード/訳 偕成社 2021/4(出版社サイト→こちら

2021年5月23日に91歳で亡くなられたエリック・カールさんの日本での最新刊です。
「ありえない!」ことにであったら、どんなふうに驚くかしら?それを楽しめるかしら?そんな奇想天外な展開のユーモア絵本です。
魚が鳥かごに、鳥が水槽に?ねずみが猫をつかまえた?タクシーに乗ったら燃料不足でいっしょに走ってくださいって?そんなゆかいなエピソードがたくさん。想像の世界ではどんなこともありうるのですね。奇想天外な発想が次々飛び出てくるエリック・カールさん85歳の時の作品です。

 

 

 

 

 

 

『せかいのはてまでひろがるスカート』ミョン・スジョン/作 河鐘基、廣部尚子/訳 ライチブックス 2021/4/15(出版社サイトFacebook→こちら

2019年のブラチスラバ世界絵本原画展で金のりんご賞を受賞した韓国の絵本です。裾の広がるスカートを、想像の広がりとして描く美しい絵が印象的です。そしてひとつひとつのスカートの広がりの中に、作者が子ども時代に親しんだ児童文学や世界各地の民話が散りばめられています。たとえばかえるのスカートの中に広がっているのは「赤毛のアン」と「紙ぶくろの王女さま」、とりのスカートには「不思議の国のアリス」に「リニ王子と少女シグニ」というように。繊細な線が描き出す幻想的な世界が幾重にも折り重なって、豊かにイメージが広がっていく絵本です。

 

 

 

 

 

 

 

『ふまんばかりのメシュカおばさん』キャロル・チャップマン/作 アーノルド・ローベル/絵 こみやゆう/訳 好学社 2021/4/26 (出版社サイト→こちら

メシュカおばさんは、いつも眉間にしわを寄せて「どうもこうもあるもんか」と言って不平不満ばかりを言っています。パン屋さんに調子はどうかを聞かれると「どうもこうもあるもんか。せなかはいたくて、まるでいしのかべせおってるみたいさ。それにあしときたら!まるででっかくなりすぎたかぼちゃみたいにおもいよ」と答えるのです。息子や娘のことを聞かれても、家のことを聞かれても不満ばかりです。
ある朝、舌の先がちくっとしたかと思うと、不満をいうとすべてがその通りになってしまったのです。そこへラビ(ユダヤ教の指導者)が来てそれは「ふまん病」だといいます。治すにはただひとつ、「これから先、ものごとをすべて前向きに言うようにすること」というのです。それからは、メシュカおばさんは、不満を言いそうになったら、少しでも良いところを探して口に出すようになります。するとなにもかもが感謝に思えて幸せに暮らすことができました、というポジティブシンキングな楽しい絵本です。

 

 

 

 

『クリフォード ちいさなちいさなあかいいぬ』ノーマン・ブリッドウェル/作 椎名かおる/訳 あすなろ書房 2021/4/30(出版社サイト→こちら

エミリーが飼っている犬はクリフォードと言います。お友だちのマーサに「あなたのいぬ、すっごくおおきくて すっごくあかいけど、どこでみつけたの?」と聞かれて、クリフォードがうちの子になった時のことを話しました。実はクリフォードは小さくて、育たないかもと言われていたのです。ある日エミリーが「げんきにおおきくなってね。だいすきだからね。」とクリフォードに伝えると、次の日からどんどん大きくなって、とうとう家の中に入れないほどになったのでした。そこで田舎のおじさんの家に引き取られ、その後エミリーたちも一緒に住むようになったのです。

 

 

 

『クリフォード おおきなおおきなあかいいぬ』ノーマン・ブリッドウェル/作 椎名かおる/訳 あすなろ書房 2021/4/30(出版社サイト→こちら

こちらは、続きの物語。クリフォードは家より大きいのですが、エミリーのことが大好きでいつも一緒です。走っているものは車でも追いかけて捕まえるし、動物園にも連れて行けなくなりました。それでもかしこいクリフォードは、いじめっ子からもどろぼうからも守ってくれます。エミリーのかけがえのない友だちなんですね。2冊合わせて読みたいお話です。

 

 

 

 

 

『ロスコ―さん ともだちにあいにいく』ジム・フィールド/作 momo’sカンパニー/訳 ひさかたチャイルド 2021/5(出版社サイト→こちら

犬のロスコ―さんが、友だちに会うためにキャンプ場へ行ったり、スキー場へ行ったり、湖へ行ったりと、どんどん旅を続けます。この絵本は、ストーリー展開を楽しむというよりは、ロスコ―さんが行く先々にあるものが英語で示されているので、絵本の中のいろいろなものを指さしながら語彙を増やしていくのに役立つ絵本です。子どもたちが日常使う会話は日本語と英語の両方で書かれているので、英語に興味をもつきっかけになることでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

『あまがえるのぼうけん』たてのひろし/作 かわしまはるこ/絵 世界文化社 2021/5/5(出版社サイト→こちら

2019年に出版された『あまがえるのかくれんぼ』(→こちら)の続編です。あまがえるのラッタ、チモ、アルノーの3びきは、遠くに見える森へ行ってみたいと、冒険に出かけます。
森の中には見たことのない植物や、虫たちがいっぱいです。大きなガマガエルに食べられそうになったりしながら、3びきは好奇心たっぷりに森の中で過ごします。豊かな自然の描写も美しく、1ぴき1ぴきのあまがえるの表情もとても豊かです。
『あまがえるのかくれんぼ』紹介ページ(→こちら

 

 

 

 

 

『ぼくとがっこう』谷川俊太郎/文 はたこうしろう/絵 アリス館 2021/5/5(出版社サイト→こちら

谷川俊太郎さんが学校生活を詠んだ詩に、はたこうしろうさんが表情豊かな絵をつけました。
短い詩ですが、はたこうしろうさんの描く男の子の小学校6年間が絵の中に描きこまれています。友だちと遊んだり、さまざまなことを発見したり、時にはけんかをしたり。そうしていつかは卒業する日がくる。そうやって成長していく姿が描かれている絵本です。

 

 

 

 

 

 

《ノンフィクション絵本》

『さくららら』升井純子/文 小寺卓矢/写真 アリス館 2021/3/25(出版社サイト→こちら

本州を桜前線が北上する4月は、北海道はまだ雪が残っています。5月になるとようやく木々が目ざめ、野の花も咲き始め、さくらのつぼみも膨らんでいきます。
そうして5月下旬、ようやく満開になるのです。作者の升井さんが2014年5月28日の新聞の片隅に「ようやく桜が開花した」という記事をみつけたのが、この本づくりのきっかけです。「ようやく」という言葉に落ち着かなくなり、「桜にはそれぞれに咲き時がある、人の都合ではなく自然の営みを静かに見守りたい」との想いでテキストを書いたそうです。
北海道在住の写真家の小寺さんは、その主人公にふさわしい桜を探して7年もあちこちを回ったそうですが、最後に新聞記事になった桜を訪ねていき、その木を撮ることになりました。その時、「理想の木なんてない。人の思いどおりにならないからこそ自然は素敵なのかも」と感じたそうです。「おそくたってこれがわたし ちいさくたってこれがわたし」という言葉が胸にじんわりと響きます。

 

 

 

 

『海べをはしる人車鉄道 東海道線のいま、むかし」横溝英一/文・絵 たくさんのふしぎ傑作集 福音館書店 2021/3/30(出版社サイト→こちら

東海道線の歴史を詳しく記した本です。熱海は古くから有名な温泉地でしたが、130年前の明治22年(1889年)に東京・新橋から神戸まで東海道本線が開通した時には、神奈川県の国府津から海岸線ではなく箱根山を迂回して御殿場へ抜けるコースに鉄道が引かれました。小田原や湯河原とともに熱海は鉄道から取り残されたのでした。
そこで国府津から小田原を経由して箱根湯本まではレールの上を馬車が走る馬車鉄道が走るようになり、小田原から熱海までは狭いレールを敷いてその上を人が押して走る人車鉄道が出来たというのです。軽便鉄道が開通するまでの約10年間、この人が押す鉄道が走っていたというのは、この本を読むまで知りませんでした。アップダウンのある海岸線を人が押して走るには大変苦労も多かったようですが、それでも美しい景色に誘われて東京から熱海まで多くの人を運んだのです。昭和9年(1934年)にようやく箱根の山をくぐって沼津に抜ける丹那トンネルが開通します。今は東海道新幹線であっという間に抜けていく小田原~沼津間ですが、今度新幹線に乗る時はそんな歴史に思いを馳せてみたいと思います。

 

 

 

 

 

『二平方メートルの世界で』前田海音/文 はたこうしろう/絵 小学館 2021/4/25(出版社サイト→こちら

脳神経の病気の治療のため3歳の頃から入退院を繰り返している前田海音さん(2010年生まれ、現在小学校5年生)が小学校3年生の時に書いた作文を元にした絵本です。作文は「第11回子どもノンフィクション文学賞」小学生の部の大賞に選ばれました。
「二平方メートル」とは入院した時に過ごすベッドとその周りの空間のことです。海音さんは、その狭い世界の中から入院で心配をかけている両親や留守番する兄への思いを綴り、入院しているほかの子どもたちにも思いを馳せています。それでも「もういや!」「一日でいいから、薬を飲まなくていい日をください!」と思うこともあるのです。ある日、たまたまベッドにまたがるオーバーテーブルの下に潜り込んでテーブルの裏の寄せ書きをみつけます。「みんながんばろうね」「再手術サイテー」「ようやく退院できるよ!」などこのテーブルを使っていた子たちの声がそこには記されていたのです。「この言葉を送りあっていたのは、会ったことのない人どうしだ。時間をこえて言葉を受け取り、言葉を届ける。(中略)この二平方メートルの世界で、同じテーブルを使ってすごしたたくさんのだれかが、たしかにここにいて、私に語りかけてくれた。ひとりじゃないよって。」病気をもっていても、一日一日の大切さを大事にしたいと願うその気持ちが、しっかりと伝わってきます。そして、はたこうしろうさんは海音さんの住む札幌へ訪ねていって、相談しながら絵を描き上げたそうです。

 

 

 

 

『朝ごはんは、お日さまの光!植物のはなし』マイケル・ホランド/文 フィリップ・ジョルダーノ/絵 徳間書店児童書編集部/訳 徳間書店 2021/5/31(出版社サイト→こちら

地球上の植物について、そのしくみや育て方、食物としての役割、植物を使ったテクノロジーから環境問題まで、子どもたちにわかりやすく解説したイラストがとても美しい大判の科学絵本です。
地球上にすむ生き物にとって植物はなくてはならない存在。わかっているだけで40万種あるという植物のふしぎについて考えるきっかけになることでしょう。

 

 

 

 

 

 

【児童書】
《物語》

『クラムボンはかぷかぷわらったよ 宮澤賢治おはなし30選』澤口たまみ/著 岩手日報社 2021/5/1(出版社サイト→こちら

宮澤賢治の後輩(岩手大学農学部)で、「かがくのとも」や「ちいさなかがくのとも」などに身近な自然への温かいまなざしの作品を提供している澤口たまみさんが著した賢治の童話のあらすじダイジェスト作品が、出版されました。賢治が過ごした岩手県で生まれ育ち、賢治が歩いたところを自らも歩いた澤口さんの読み解きは、とても面白く納得がいきます。
難解な賢治の創作がどのような思いで書かれたのかを知ると、もっと賢治が身近に感じられます。賢治の恋心にも触れられています。YA世代にも、ぜひ手に取ってほしいと思います。

 

 

 

 

 

『帰れ 野生のロボット』ピーター・ブラウン/作・絵 前沢明枝/訳 福音館書店 2021/5/20(出版社サイト→こちら

2018年に出版された『野生のロボット』(→こちら)の続編です。野生のロボットとして、無人島でガンのキラリや動物たちと過ごしていたロズ。前作ではそんなロズを不気味な飛行船が回収するところで終わっていました。
こちらでは修理が終わったロズが小さな子どもが二人いる農場に買われて送られていくところから始まります。しかしロズの記憶装置から無人島で過ごした野生の生活の記憶は削除されていなかったのです。やがてふるさとの無人島に戻りたいと思いはじめるロズ。すべてコンピューターで管理されている農場から脱出するのは並大抵のことではありません。しかし二人の子どもたちの助けを借り、渡りの途中でロズを発見してくれたキラリと一緒に無人島への冒険に踏み出すことにします。誰からも発見されずに無人島へたどり着けるのか、ハラハラドキドキの旅が続きます。高度なデジタル社会の中で、やはり自分らしくいるということの大切さを考えさせられました。『野生のロボット』紹介ページ(→こちら

 

 

 

 

『キプリング童話集 動物と世界のはじまりの物語』ラドヤード・キプリング/作 ハンス・フィッシャー/絵 小宮由/訳 アノニマ・スタジオ 2021/5/21(出版社サイト→こちら

『ジャングルブック』の作者、ラドヤード・キプリングが、約120年前に、寝る前の我が子に語って聞かせた11のお話が、美しい装丁のもと、1冊の本になりました。
キプリングは父親の仕事でイギリスの統治下にあったボンベイで生まれます。そして少年期から青年期にかけて世界中を旅してきました。そんな旅先で見聞きしたことが、楽しいお話になっています。
3人の子どもの父親であったキプリングは、わが子を心の底から愛し、積極的に育児にもかかわったそうです。そんな愛情にあふれたお話集なのです。またこのお話集には、『こねこのぴっち』でも知られているスイスの絵本作家ハンス・フィッシャーが挿絵を描いています。

 

 

 

 

 

《ノンフィクション》

『武器ではなく命の水をおくりたい 中村哲医師の生き方』宮田律/著 平凡社 2021/4/21(出版社サイト→こちら

2019年12月4日にアフガニスタンにて武装勢力によって銃撃された中村哲医師の生き方を、現代イスラム研究センター理事長である筆者が子どもたちにもわかりやすく書いた本です。
特に新型コロナウイルス感染拡大対策に揺れている世界情勢をみて、今こそ中村先生の想いを伝えたいと願って書かれています。中村哲先生の関連書籍はたくさん出版されていますが、パンデミックの世界情勢の中でこそ、中村先生の言葉に学ぼうとするこの本の視点はとてもわかりやすいです。武器を取るよりもまずは経済格差を無くすことのほうが大切だと説いた中村先生の言葉をもう一度噛みしめたいと思います。

 

 

 

 

 

【その他】

『児童文学の中の家』深井せつ子/作 エクスナレッジ 2021/4/6(出版社サイト→こちら

子どもの頃、たとえば『秘密の花園』を読んで、この大きなお屋敷の間取りはどうなっているのだろうと思いを巡らせたり、本の扉に見取り図があると本文を読みながら何度も行ったり来たりしたという人は多いでしょう。
この本では『大きな森の小さな家』や『飛ぶ教室』『若草物語』『赤毛のアン』に『床下の小人たち』『ライオンと魔女』など27の名作の舞台となった家がイラストや見取り図とともに紹介されています。
長く読み継がれている作品の魅力は、こうした舞台設定がしっかりとしていて読む者を惹きつけるというところにもあるのかもしれません。
また、この本を片手に昔読んだ名作を読み返すガイドブックにしても楽しいと思います。

 

 

(作成K・J)

2021年3月、4月の新刊から(その1)


3月、4月に出版された子どもの本を紹介します。一部、見落としていた3月以前に発行された新刊も含まれています。

この度は横浜・日吉にあるともだち書店と、代官山蔦屋書店にに注文し届けていただいたものと、本の編集者からお届けいただいたものもあります。それらを読んで紹介文を作成しました。今回は、児童書が1冊と少ないですが、4月中に銀座・教文館ナルニア国へ選書に伺い、出来るだけ早くに紹介できるようにいたします。

 

その他の書籍に関しては銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

 

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【絵本】

『ことりはこえだのてっぺんに』(おやこでよもう!金子みすゞ)金子みすゞ/詩 松本春野/絵 中村勘九郎/ナビゲーター 監修/矢崎節夫 JULA出版局 2021/3(出版社サイト→こちら

JULA出版局から出ている「おやこでよもう!金子みすゞ」シリーズの最新刊です。
絵本のタイトルになっているのは「き」という詩の中のことばです。
「き」のほかに「あかいくつ」、「いろがみ」や「こだまでしょうか」など10篇の詩が収められています。

 

 

 

 

 

『おひさま わらった』きくちちき/作 JULA出版局 2021/3(出版社サイト→こちら

こちらもJULA出版局からの新刊です。ブラティスラヴァ世界絵本原画展で何度も受賞しているきくちちきさんの最新刊です。身近な森の中にさんぽにでかけた子どもが、たくさんのいのちたちと出会い、ふれあい、少し怖い思いをしながらも、すべてがつながっていることを体感していく様子を、4色刷りの木版画で表現しています。
赤、青、黄、黒、それぞれの版を描き分け、直接それぞれの色で印刷し、紙面上で版画が完成するという手法で丁寧に作られています。温かみのある版画だからこそ、命溢れる森の中での躍動感が伝わってくると思います。

 

 

 

 

『かえるのごほうび』絵巻「鳥獣人物戯画」より 木島始/作 梶山俊夫/レイアウト 協力/高山寺 福音館書店 2021/3/20(出版社サイト→こちら

2021年4月13日より東京国立博物館で特別展「国宝 鳥獣戯画のすべて」が始まりました。(公式サイト→こちら)それに合わせて、福音館書店月刊誌「こどものとも」1967年1月号として刊行されていた作品が、新装製版されてこの度出版されました。つまり国宝が絵本になったのです。
今から800年以上前に描かれた素晴らしい絵巻には詞書がつけられていませんが、素晴らしい作品を子どもたちの身近に置けないのかと考えて物語がつけられたと裏表紙に木島始さんの言葉が記されています。まるではじめから、そういう詞書だったと思うほどに自然で楽しいお話になっています。

 

 

 

『気のいいバルテクとアヒルのはなし』クリスティーナ・トゥルスカ/作・絵 おびかゆうこ/訳 徳間書店 2021/3/31(出版社サイト→こちら

ポーランド出身の絵本作家が描いた昔話風の物語です。バルテクという名の気のいい若者は、1わのアヒルと一緒に山奥の村はずれにあるみすぼらしい家に住んでいました。ある時カエルの王様を助けたことから魔法の力を授かります。
そこへ、兵士たちの隊列がやってきます。バクテクは自分の家を宿舎として提供しようとしますが、大将はバクテクのアヒルを丸焼きにしろと命令してきます。それだけは出来ないと、バクテクはカエルの王様に授けられた魔法を使うのでした。1972年にケイト・グリーナウェイ賞を受賞した作品の初邦訳です。

 

 

 

 

 

 

『ヴォドニークの水の館 チェコのむかしばなし』まきのあつこ/文 降矢なな/絵 BL出版 2021/4/1(出版社サイト→こちら

世界のむかしばなし絵本シリーズ[第2期]の5冊目で、チェコの昔話に、スロヴァキア在住の降矢ななさんが絵をつけています。
ヴォドニークとは、ボヘミア地方で語り継がれてきた水の魔物です。日本の河童と同じように、人間を水に引きずり込んで溺れさせる存在であったり、一方では人に親切でいたずら好きな存在として語り継がれているそうです。その姿もたいてい緑色の体をしていると「あとがき」に描かれていて、日本の河童と似ていることに驚きました。
貧しい家の娘があまりのひもじさに家を出て、川に身を投げたのをヴォドニークがつかまえ、水の館に連れ帰ります。娘はヴォドニークに仕えることになるのですが、広間にある壺の中だけは覗いてはならないと言いつけられます。ある時壺の中から前に川でおぼれ死んだ声が聞こえてきたのです。昨年春、新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言で中断された原画展が、銀座・教文館9階ウェンライトホールで再開されています。(降矢なな絵本原画展2021年3月27日~5月5日 公式サイト→こちら)この絵本の原画が追加されており、早速見てきました。水の中の世界は透明で、娘が壺の中の魂を解放するシーンは幻想的で原画ならではの美しさでした。ぜひお時間を作って見にいってください。

 

 

 

 

【児童書】
*読み物*

『さいごのゆうれい』斉藤倫/作 西村ツチカ/画 福音館書店 2021/4/10 (出版社サイト→こちら

ハジメは、小5の夏休みを父親が仕事でいない間、田舎のおばあちゃんの家で過ごすことになりました。ハジメが幼い時に亡くなった母親の実家です。
飛行機が好きなハジメは、おばあちゃんの家の近くに出来た新しい空港を毎日見に行って過ごしていました。8月13日の午後、いつものように空港を見に行くと、飛行船のようにずんぐりした飛行機が降りてくるかと思ったらその飛行機は大きさを変えながら降りてくるのです。そのままその飛行機は滑走路を外れ、すすきの原を越えてハジメのいるフェンスの前で止まるのでした。そして降りてきたのはゆうれいの女の子だったのです。ネムと名乗るゆうれいの女の子と過ごすうちに、ハジメはこの世界から「かなしみ」という感情が消されていること、それは父親が研究開発した薬に因るものだと気づきます。「かなしみ」がないと人は亡くなった人を思い出すこともなくなり、するとゆうれいも居なくなってしまうというのです。「かなしみ」とは何なのか、読み進めるうちに考えさせられます。「かなしみ」を取り戻すために、ハジメとネムと一緒に不思議な旅をするミャオ・ターとゲンゾウなど脇役も魅力的です。

 

 

 

【その他】

『アーノルド・ローベルの全仕事 がまくんとかえるくんができるまで』永岡綾、大久保美夏/編集 ブルーシープ 2021/1/8 (出版社サイト→こちら

今年1月9日から3月28日までの会期で立川市にあるPLAY MUSEUM(公式サイト→こちら)で開催されていた「がまくんとかえるくん」誕生50周年記念アーノルド・ローベル展の図録です。この原画展は、2021年4月3日(土)− 2021年5月23日(日)に広島のひろしま美術館、その後も2022年春に伊丹市立美術館などへ巡回します。(原画展情報→こちら
アーノルド・ローベルの全作品と、ラフスケッチなどの資料がふんだんに集められていて、彼の作品の魅力を深く知ることが出来ます。研究資料としても価値が高いものになっています。

 

 

 

 

 

 

 

『おはなし会で楽しむ手ぶくろ人形』保育と人形の会/編著 児童図書館研究会 2021/3/1(児童図書館研究会のサイト→こちら

「本のこまど」でも何度も紹介しているミトンくまなど、おはなし会で活躍できる手ぶくろ人形の他、さまざまな小物の作り方と演じ方をコンパクトにまとめた本です。
後半には図書館などでの実践報告がまとめられています。絵本やわらべうたとどのように手ぶくろ人形を組み合わせるのか、詳細に書いてありますので、即実践に役立つことでしょう。コロナ禍で子どもたちと距離を保たなければならない昨今のおはなし会ですが、間に人形が入ることで、子どもたちの心もホッと和らぐことと思います。ぜひ図書館事務室に1冊、揃えておいてください。

 

 

 

 

 

 

 

『乳幼児期の性教育ハンドブック』浅井春夫、安達倭雅子、良香織、北山ひと美/編著 “人間と性”教育研究協議会・乳幼児の性と性教育サークル/著 かもがわ出版 2021/4/15(出版社サイト→こちら

世界経済フォーラムが発表した日本の最新のジェンダー・ギャップ指数が120位というニュースはご覧になったと思います。
性差はあるけれど、それが人間の価値の差ではないことを私たちは認識しなければなりません。
しかし男尊女卑の考え方はどんなところから来るのでしょうか。意外と幼いころからの性教育にも起因しているのかもしれません。
性の問題は深く人権に結びついています。このハンドブックは主に保育園、幼稚園の教師向けに書かれたものですが、図書館にも幼い子供たちが大勢やってきます。知らないうちに本や配布物も「男の子向け、女の子向け」と分けてしまっているかもしれないですね。そのあたりから見直してみるためにも一読をお勧めします。

 

 

(作成K・J)

2020年12月、2021年1月の新刊から


昨年12月と今年に入ってからに出版された子どもの本を紹介いたします。
一部、見落としていた12月以前に発行された新刊も含まれます。

今回は、横浜・日吉のともだち書店に注文していた本の中からの紹介です。なお、2月上旬にはまた教文館ナルニア国で選書して、情報をお届けできるようにいたします。

 

その他の書籍に関しては銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

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【絵本】

『100歳ランナーの物語 夢をあきらめなかったファウジャ』シムラン・ジート・シング/文 バルジンダー・カウル/絵 金哲彦/監修 おおつかのりこ/訳 西村書店 2020/12/12(出版社のサイト→こちら

幼少期に身体が弱く5歳になるまで歩けなかったファウジャが100歳でトロント・ウォーターマラソンを完走するまでのお話です。ファウジャは、インドのパンジャブ地方の出身。シク教の信徒で髪の毛を切らずターバンを巻いています。
5歳で歩けるようになりましたが、当時遠方の学校に通う体力はなく、地元で畑仕事をしながら身体を鍛え、大人になって家族にも恵まれました。子どもたちが独立し、妻にも先立たれた81歳の時、息子家族が住むロンドンへ移り住みます。そこでマラソンに出会い、走るようになります。
89歳でロンドンマラソンを完走した後も、次々に記録を塗り替えていきますが、そこには子ども時代にいつも母から言われていた言葉がありました。「あなたのことはあなたがよく知っている。あなたにできることもね。今日は自分の力を出しきれるかしら?」いくつになっても挑戦することの大切さを、また自分を信じることの強さを教えてくれる伝記絵本です。

 

 

 

 

『よんひゃくまんさいのびわこさん』梨木香歩/作 小沢さかえ/絵 理論社 2020/12(出版社のサイト→こちら

2017年から続くNHKスペシャル「列島誕生ジオ・ジャパン」という番組があります。日本列島の成り立ちがよくわかる大変優れた番組でした。
この絵本は、その列島誕生の過程で生まれた琵琶湖の成り立ちをファンタジーとして描いています。
あとがきには、「日本列島がユーラシア大陸から分離しはじめたのは今から約2000万年前。当時の東アジアの推測図を見ていると、日本列島はあちこち沈んだり現れたり、赤ん坊が母親の胎内の羊水のなかで、ちゃぽんちゃぽんと浮かんだり沈んだりを繰り返しているかのように見えます。(中略)そして列島の真ん中、現在の伊賀辺りで琵琶湖初期の古琵琶湖とされる、大山田湖が現れます。それが400万年前から360万年前まで。その後320万年前、北方向で阿山湖、さらに甲賀湖が、240万年前頃から180万年前頃前までは蒲生野の辺りで蒲生沼沢地が、少しずつ移動するかのように出現します。それから100万年ほど前から現在の琵琶湖の堅田地域を中心とし、現在の琵琶湖の位置、大きさへと近づいていきます。」とあります。こうした悠久の時の流れ、大地の記憶が梨木さんによってファンタジーとなり、琵琶湖畔で育った画家小沢さんの幻想的で美しい絵でそれを表現しています。

 

 

 

 

【読み物】

『くもとり山のイノシシびょういん 7つのおはなし』かこさとし/文 かこさとし・なかじまかめい/絵 福音館書店 2021/1/10(出版社のサイト→こちら

 

2018年に亡くなられたかこさとしさんが、晩年福音館書店の月刊誌「母の友」2011年11月~2019年7月号までに発表された創作童話をまとめたものです。「母の友」2019年4月号の「編集だより」(p85)にこのようなことが書かれています。
「今月は昨年五月に亡くなった絵本作家、加古里子さんの未発表童話をお届けしました。この作品は昨年、加古さんのお嬢さん、鈴木万里さんが遺稿の中から”発見”してくれたものです。加古さんは2011年以降何度か「母の友」の依頼に応え、「一日一話」に「イノシシ病院」の物語を寄せてくれました。その後独自に三作、書きためておいてくださったようなのです。「完成原稿まで描いていたというのが驚きで、加古本人もイノシシ先生のことが気に入って、筆がのったんじゃないでしょうか」(鈴木さん)。亡き加古さんから「母の友」への贈り物。涙が出る気持ちでありました。三作のうち、残りの二話は今年度のどこかの号で掲載出来たらと思っています。」
「母の友」では見開き2ページに2枚のかこさとしさんの絵がありますが、この度子どもが自分で読めるように漢字をひらがなに開き、文字を大きくしたために一話8ページになっています。そこでなかじまかめいさんによるイラストが加わりました。どれもイノシシ先生がかこさとしさんご本人に見えてくるような優しく温かいお話です。文字を読み始めた子どもたちにぜひ読んでほしいと思います。

 

 

 

 

【その他】

『音楽の肖像 堀内誠一×谷川俊太郎』堀内誠一・谷川俊太郎/著 小学館 2020/11/4(第2刷2021/1/17)(出版社のサイト→こちら

 

児童向けではないかもしれませんが、YA世代には楽しめる1冊です。2020年12月5日から2021年1月24日まで荒川区立図書館ゆいの森あらかわで堀内誠一展が開催されていました。『音楽の肖像』の原画も何枚か展示されていました。
バッハ、モーツァルト、ベートーヴェンからストラヴィンスキー、エリック・サティまで堀内誠一が遺した28人の作曲家の肖像画とエッセイに加えて、谷川俊太郎が32編の詩をつけた芸術を愛する人にはたまらない1冊です。

 

 

 

 

『学校司書おすすめ!小学校学年別知識読みもの240』福岡淳子・金澤磨樹子/編 少年写真新聞社 2020/11/20(出版社のサイト→こちら

 

知識の本を、小学校の学年別に紹介したブックリストです。ブックトークや授業で使う資料として、また団体貸出の選書に役立つことでしょう。各学年ごとに子どもたちの語彙力、読解力の発達に応じためあてが書かれており、とてもわかりやすい選書基準が示されています。また、コラム記事も充実しており、学校図書館だけでなく、公共図書館の司書にとっても、心強い味方になると思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

『デジタル・シティズンシップ コンピュータ1人1台時代の善き使い手をめざす学び』坂本旬・芳賀高洋・豊福晋平・今度珠美・林一真/著 大月書店 2020/12/15(出版社のサイト→こちら

新型コロナウイルス感染症によるパンデミックは、これまで遅々として進まなかった我が国のデジタル教育を大きく変えていくことになりました。これまで子どもたちにデジタルデバイスを手渡す際には、抑制的な「情報モラル」を教えることが主流でした。
しかし、これからの世の中はデジタルを賢く使いこなす時代です。子どもたちが主体的に関われるデジタル・シティズンシップが必要になるとこの本では説いています。デジタル・シティズンシップとは、デジタル世界で生活し、学習し、働くことの権利、責任、機会を理解し、安全で合法的、倫理的な方法で行動できるためのポジティブな捉え方なのです。GIGAスクール構想が前倒しで着手されることになるでしょう。私たち司書もこの視点をもっていたいと思います。

 

 

 

 

『学校が「とまった」日 ウィズ・コロナの学びを支える人々の挑戦』中原淳/監修 田中智輝・村松灯・高崎美佐/編著 東洋館出版 2021/2/1(出版社のサイト→こちら

昨年3月に、なんの根拠も議論もなく、いきなり日本中の学校での学びが止まりました。政府の一方的な通達により、小学校、中学校、高校が臨時休校になり、学びの中断が起きたのでした。
その時、生徒には、保護者には、家庭には、何が起こったのか。そして学校では、どのような意思決定がなされ、教員は何を思っていたのか。NPOなどの学校でもなく、家庭でもない機関は、どのような教育支援を行ったのかを、まとめたものです。
中心にいたのは立教大学経営学部教授の中原淳さん。SNSを通して、どうしたら学びを止めずにいられるのか、すぐに共同研究プロジェクトを立ち上げ、発信していました。私もそのグループの情報を活用し、TS室のeラーニング作成に必要なノウハウを得ることが出来ました。図書館も閉館していた昨年春の緊急事態の中で、何が出来たのか、出来なかったのか、再び学びを止めないために、すべての子どもに関わる人に読んでほしい1冊です。

 

 

(作成K・J)

2020年11月、12月の新刊から(その2)


11月、12月に出版された絵本と読み物を追加で紹介いたします。(12月29日に公開した「2020年11月、12月の新刊から(その1)」は→こちら
一部、見落としていた11月以前に発行された新刊も含まれます。

今回は12月29日に、約2か月ぶりに銀座教文館ナルニア国へ行って選書をしてきました。年末年始に、読んで記事にしています。また、1月11日には横浜・日吉のともだち書店に注文していた本が届きました。こちらも急いで読みました。

 

その他の書籍に関しては銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

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【絵本】

『ねこのオーランドー 3びきのグレイス』キャスリーン・ヘイル/作 こみやゆう/訳 好学社 2020/11/6 (出版社サイト→こちら

 

クリスマス前後のねこのオーランドー一家の物語です。クリスマスの買い物に出かけたのに、こねこのティンクルは買い物そっちのけで雪遊びをし家族へのプレゼントを買いそびれます。そこでクリスマスにもらった手品セットの中の「のろいの水」スプレーを香水だと思ってお母さんのグレイスの枕元に置きます。目覚めたグレイスが香水だと思って使うと、なんとグレイスが3びきになってしまったのです。そこでオーランドーたちは、天の川を越えて、しし座のレオが門番をするサンタクロースの家まで、解決方法を聞きに行くのでした。1965年に原作は出版されました。なんとも不思議なファンタジーに仕上がっています。

 

 

 

 

『氷上カーニバル』あべ弘士/作 のら書店 2020/11/10 (出版社サイト→こちら

 

氷上カーニバルは、冬の終わりに開かれるお祭り。花火が上がる中、みんな思い思いの仮装して公園の中の凍った池に集まり、一緒に踊って夜を過ごします。実際に、北海道札幌市の中島公園内の凍った池で大正時代の終わりから昭和にかけて行われていた冬のお祭りで、児童文学作家の神沢利子さんが子ども時代に参加して心に深い感動を覚え、『いないいないばあや』にも書いているとのこと。そのお祭りをテーマに作られたカラフルで楽しい絵本です。新型コロナウイルス感染拡大の第3波が襲う中だからこそ、子どもたちにはこのような心が楽しくなるようなお話を届けたいと思います。

 

 

 

 

『こたつ』麻生知子/作 福音館書店 2020/11/15(出版社サイト→こちら

 

部屋の真ん中に置かれたこたつを上から俯瞰する形で、大みそかから元日までの家族の様子を描く絵本です。おばあちゃんと両親、そして孫のこうたくん、そして猫一匹の心温まる一家の団らんの様子をのぞき見しているうちに、こちらまで懐かしい気持ちにさせられます。飲み物の描き方だけが横向き(倒れているように見える)なのですが、飲み物が何であるか伝えるための苦肉の策だったのでしょうか。そこだけが立体的に見えず少し残念でした。

 

 

 

 

『おともだちになってくれる?』サム・マクブラットニィ/文 アニタ・ジェラーム/絵 小川仁央/訳 評論社 2020/12/5(出版社サイト→現在アクセスできなくなっています)

 

長く読み継がれている『どんなにきみがすきだかあててごらん』(絵本ナビサイト→こちら)の続編です。前作が出版されたのが1995年なので25年ぶりの続編です。
ちゃいろいちびのノウサギは、ひとりで遊びに出かけて、ヒースの茂みの中で白いウサギに出会います。二匹はとても楽しい時間を過ごします。ともだちっていいなと思える絵本です。

 

 

 

 

 

『みえないこいぬ ぽっち』ワンダ・ガアグ/作 こみやゆう/訳 好学社 2020/12/21(出版社サイト→こちら

 

1994年に村中李衣さんの訳でブックグローブ社から出版されたなんにもないないの改訳再版です。原作は1941年刊の『NOTHING AT ALL』です。古い農家の片隅に子犬の兄弟が住んでいたのですが、一匹は姿が「これっぽっちもみえない」、なので「ぽっち」という名前だったのです。二匹の兄弟は農場にやってきた子どもたちにもらわれていくのですが、ぽっちは見えないので置いてけぼりです。ぽっちは兄弟を探す中で物知りのコクマルカラスと知り合い、姿が見えるようになる魔法の呪文を教えてもらいます。その呪文は「ああ、いそがしや ああ、くらくらする」。それを日の出とともにぐるぐる回りながら九日間唱えるようにというのです。果たしてぽっちは見えるようになるのでしょうか。『なんにもないない』では「てんてこまいまい ぐるぐるまい」という呪文でした。図書館には旧訳の絵本もあると思います。ぜひ読み比べてみてください。

 

 

 

『ヨーロッパの古城 輪切り図鑑クロスセクション』スティーブン・ビースティー/画 リチャード・プラット/文 赤尾秀子/訳 あすなろ書房 2020/12/30 (出版社サイト→こちら

 

重機もない時代にヨーロッパの古城が、どのように造られたのか、断面図にして詳しく説明しているノンフィクション絵本です。当時の封建社会がどのように形作られていったのか、領主がどのように権力を集中していったのか、歴史的な背景も知ることができます。中世を舞台にしたファンタジーなどを読む時にも、このような城の構造を知っているとイメージも膨らんで、何倍も物語の世界を楽しめると思います。

 

 

 

 

 

【児童書】

『アイルランドの妖精のおはなし クリスマスの小屋』ルース・ソーヤー/再話 上條由美子/訳 岸野衣里子/画 福音館書店 2020/10/15 (出版社サイト→こちら

 

アイルランドの妖精伝説です。赤ん坊の時に捨てられ、子だくさんの夫婦に育てられたオーナは、村一番の美しい娘に育ちます。しかし捨て子であったためにオーナは家庭を持つことも出来ず、あちこちの家で奉公をして暮らしていました。その地方を凶作が襲った時、年老いたオーナは行く当てもないまま暇を出されます。オーナは村はずれの沼地の脇のブラックゾーン(すももの仲間)の茂みに隠れます。雪の降り積もるクリスマスイブ、オーナの周りには数えきれないほどの妖精が現れ、夢描いていた暖かい家を建ててくれるのです。心優しいオーナはその家に、貧しい者、飢えている者を温かく迎えるのでした。アイルランドに留学経験のある岸野衣里子さんのイラストも幻想的でイマジネーションをかきたてられます。

 

 

 

 

『コヨーテのはなし アメリカ先住民のむかしばなし』リー・ベック/作 ヴァージニア・リー・バートン/絵 安藤紀子/訳  徳間書店 2020/10/31 (出版社サイト→こちら

 

2012年に同じ翻訳者によって長崎書店から出版されていた本が、別の出版社から再版されました。長崎書店版は横書きでしたが、徳間書店版では縦書きになり、それに合わせて絵がページによっては、左右逆に配置されています。また長崎書店版は原作のうち10話のみが収録されていましたが、こちらには17話が収録された全訳となっています。アメリカ先住民にとって身近な動物であったコヨーテは、いたずら好きで悪さをするものの、人間のために火を取ってきてくれたり、太陽や月、星をつくってくれる存在として描かれています。

 

 

 

 

『はねるのだいすき』神沢利子/文 長新太/絵 絵本塾出版 2020/11 (出版社サイト→こちら

 

1970年に偕成社から出版されていた作品が、再版されました。はねて遊ぶのが大好きなうさぎの子ピコ。野原では「とんぼがえりはきつねの発明だ」といううそぶくきつねをやりこめます。その次に出会ったのはまるで変なおじさんでした。ピコはこのおじさんに自分が何者であるかを必死で伝えます。文中にこのおじさんがたばこを吸ってドーナッツのような輪を作るシーンが出てきます。現在では喫煙シーンを子どもの本で描くことが少なくなりましたが、お話のオリジナリティを損なわないためにもそのままにしたとの注釈もついています。元気なピコのかわいらしさや、長新太さんの勢いのある絵が、そうした部分も十分に補っています。文字を読み始めた子向けの幼年童話です。

 

 

 

 

『かるいお姫さま』ジョージ・マクドナルド/作 モーリス・センダック/絵 脇明子/訳 岩波書店 2020/11/10 (出版社サイト→こちら

 

19世紀のイギリスの文学者ジョージ・マクドナルドの作品にモーリス・センダックが絵を描いた作品が2点、岩波書店から同時発売されました。どちらもセンダックの繊細な挿絵と、表紙には金箔をはった豪華な装丁で(表紙カバーで隠れてしまいますが)出版されました。
こちらの作品は、洗礼式に招かれなかった魔女の呪いで、重力がなくなってしまったお姫様の物語です。すてきな王子様に出会って愛を知ることで重さが戻ってくるのですが、それにしても不思議でロマンティックなおとぎ話です。

 

 

 

 

 

『金の鍵』ジョージ・マクドナルド/作 モーリス・センダック/絵 脇明子/訳 岩波書店 2020/11/10 (出版社サイト→こちら

 

大伯母さんに、もし虹のはしっこにたどり着くことが出来たら、そこに金の鍵がみつかると聞いた男の子モシーは、ある夏の夕方、キラキラと輝く虹のはしっこを森の中にみつけて走り込みます。するとそこは妖精の国でした。モシーは、金の鍵を手に入れましたが、鍵があっても、その鍵で開く錠前がなければ役に立たないことを知り、それを探す旅に出ます。旅の途中でタングルという女の子と出会い一緒に冒険を続けます。二人は影の世界で離ればなれになるのですが、幾多の困難を潜り抜けて、二人は再会できるのです。空飛ぶ魚、海の老人、洞窟とファンタジーの異世界に導かれる作品です。

 

 

 

 

『彼方の光』シェリー・ピアソル/作 斎藤倫子/訳 偕成社 2020/12 (出版社サイト→こちら

 

黒人奴隷の少年サミュエルは、ある夜年老いたハリソンからカナダへの逃亡を告げられます。迫りくる追っ手をかわしながら、身を潜め、川を渡り、北へと向かう二人。その時々に助け手が現れ、最終的にはカナダへと辿り着きます。舞台は逃亡奴隷を手助けしたり匿った者すべてに厳罰を与えるという1850年の逃亡奴隷法が成立した後の1858年のケンタッキー州です。自由州であるオハイオ州との境にある川を越えて、多くの奴隷が北へ北へと逃亡していきました。1861年に南北戦争が始まる、その少し前の物語です。途中で、なぜハリソンが高齢で足にけがをしながらもサミュエルを逃亡へ誘ったのか、その理由がわかります。彼方遠くに見える希望の光を目指して逃げる黒人たちの姿に、現在のアメリカ合衆国の政治の混迷も透けて見えるような気がします。後ほど紹介するちくま新書『アメリカ黒人史―奴隷制からBLMまで』(ジェームス・M・バーダマン/著  森本豊富/訳)に歴史的な背景や、実際に逃亡を手助けした人たちのことも書かれています。合わせて読むと、作品世界を深く理解することができるでしょう。

 

 

 

 

『名探偵カッレ 危険な夏の島』アストリッド・リンドグレーン/作 菱木晃子/訳 平澤朋子/絵 岩波書店 2020/12/17 (出版社サイト→こちら

 

名探偵カッレシリーズの中でも、一番手に汗握るというか、カッレたち白ばら軍に危険が迫りくる作品で、『名探偵カッレとスパイ団』(尾崎義/訳 岩波書店 1960)という題名で出版されていたものの新訳です。
ある夏の夜、赤バラ軍と城跡で合戦をした帰り道、カッレ、アンデッシュ、エヴァロッタは誘拐事件を目撃します。見過ごせないと犯人の車に乗り込んだエヴァロッタを追ってカッレたちの追跡が始まります。隠れ家の無人島で繰り広げられる攻防戦は、ハラハラドキドキの連続で最後まで息を抜くことができません。原作は1953年ですから70年近く前の作品です。それでもカッレたちの推理力と行動力は現代の子どもたちにも魅力的に映ることと思います。ただし今だったらGPSで追跡したり、スマホで証拠撮影したり、まったく違う展開になるとは思いますが、だからこそアナログな時代の子どもたちの逞しさがまぶしく感じるのかもしれません。

 

 

 

 

 

『オン・ザ・カム・アップ』アンジー・トーマス/作 服部理佳/訳 岩崎書店 2020/12/31 (出版社サイト→こちら

 

2020年は、大統領選挙もあってアメリカでBLM(Black Lives Matter)運動が盛り上がった年でした。なぜ、黒人が差別を受けるのか、歴史を遡ってみる必要があります。そして近年BLMをテーマにした児童・YA向けの作品が多く出ているということも、私たちにその問題について学ぶ機会を与えてくれています。若い世代が熱狂するヒップホップもラップも、もともとはアフリカ系アメリカ人、つまりは遡れば400年も前にアフリカから奴隷として連れてこられた人々が、苦難の歴史の中から生み出し創りあげてきた文化なのだということを認識しておく必要があるでしょう。
この作品は、有名なラッパーだった父親譲りの才能を持つ高校生プリアンナが、人種差別による偏見や貧困と闘いながら、自分らしさをみつけていく物語です。「黒人だけちがうルールで戦わなくちゃいけないことはよくあるのよ。」と母親ジェイは半分諦め気分で目立たないことを娘に諭します。しかしプリや友人たちは、黒人というだけで白人であれば見逃されるような軽い失敗も許されない理不尽な学校のやり方に抗議していきます。タイトルになった”on the come up”は、プリがラップに乗せて歌った歌詞で、「這い上がれ」という意味。デビュー作『ザ・ヘイト・ユー・ギヴ』(出版社サイト→こちら)でデビューした作家の第2作目です。

 

 

 

 

【その他】

『アメリカ黒人史―奴隷制からBLMまで』ジェームス・M・バーダマン/著 森本豊富/訳 ちくま新書 筑摩書房 2020/12/10(出版社サイト→こちら

 

現代のアメリカで巻き起こっているBLM運動について理解するために必要な知識がぎゅっとまとめられています。奴隷制度がどのように始まったのか、アメリカ大陸へどのようにしてアフリカから奴隷にされたたちが連れてこられたのか(アフリカ西海岸で拉致されされた黒人は、奴隷として港に集められ「出荷」まで「奴隷の家」と呼ばれる収容所に入れられ「出荷」を何カ月も待たされることも)、奴隷の生活はどうだったのか、南北戦争から公民権運動、そしてオバマ政権誕生、そしてジョージ・フロイド事件からBLM運動までを順を追ってわかりやすくまとめられています。今回、紹介している『彼方の光』や『オン・ザ・カム・アップ』だけでなく、12月に紹介した『オール・アメリカン・ボーイズ』(「本のこまど」記事→こちら)など、児童向けの作品を理解するためにもぜひ一度読んでおいてほしいとおもいます。またアフリカ系アメリカ人が作ってきた音楽について書かれた絵本『リズムがみえる』(ミシェル・ウッド/絵 トヨミ・アイガス/文 金原瑞人/訳 ピーター・バラカン/監修 サウザンブックス社 2018/9/25)(「本のこまど」記事→こちら)の背景でもあります。一方でこのような作品に出会いながら、自分の国に現にある在日外国人への差別などについても広く考える契機になればと思います。

 

 

(作成K・J)

2020年10月、11月の新刊から(修正アリ)


10月、11月に出版された絵本、児童書、および参考資料を紹介いたします。(一部、見落としていた10月以前に発行された新刊も含まれます。)

今回は表参道クレヨンハウスで購入したもの、横浜日吉のともだち書店に注文し送付いただいたもの、出版社を通して著者、翻訳者から献本していただいたものを、読んで記事にしています。なお、一部9月以前に出版された本もあります。

その他の書籍に関しては銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

 

【絵本】

『つるかめつるかめ』中脇初枝/文 あずみ虫/絵 あすなろ書房 2020/8/15 (出版社サイト→こちら

自分の力ではどうしようもないことが起こった時、昔の人達はおまじないの言葉を唱えて、それを乗り越えてきたそうです。
今年1月以降、世界を襲った新型コロナウイルスによるパンデミックは、子どもたちには一体それが何なのかさえ理解できず、大人の不安がそのまま投影され、より不安を感じていることでしょう。
「くわばらくわばら」「まじゃらくまじゃらく」「とーしーとーしー」「ちちんぷいぷいちちんぷい」。そんな言葉を声に出してみると気持ちがすっと楽になりそうですね。最後のページの「なにがあっても」「だいじょうぶ だいじょうぶ」の言葉がどれほど安心を与えてくれることでしょう。親子で読んでほしいですね。

 

 

 

『アルフィー』ティラ・ヒーダー/作 石津ちひろ/訳 絵本塾出版 2020/9(出版社サイト→こちら

ニアは6歳の誕生日に同い年だというカメのアルフィーを買うことにしました。ニアにとって、カメでもアルフィーは友達です。たくさん話しかけますが、アルフィーの反応は薄いまま。さて、7歳の誕生日を前にアルフィーが行方不明になってしまいます。さて、アルフィーはどこへ行ってしまったのでしょう?絵本の後半はアルフィーの視点から描かれます。そして驚きの結末を知って、胸が熱くなります。この絵本は作者ティラ・ヒーダーの体験をヒントにしているそうです。

 

 

 

 

 

 

『まどのむこうのくだものなあに?』荒井真紀/作 福音館書店 2020/10/10(出版社サイト→こちら

ため息が出るほど美しい絵本です。ほんとうにこれが子ども向けなのかと思うほどのクオリティです。題材はくだもの。最初のページは黒一面に四角い窓が切り抜いてあり、次のページに描かれている果物の一部が見えています。子どもたちは、その窓から見える情報をもとに果物の名前を当てる文字のない絵本です。写真ではなく絵であることにも驚きですが、果物の反対のページには果物を半分に切った断面が描かれており、それも窓を通して見ることが出来ます。自然の造形の美しさ、センス・オブ・ワンダーをこのような形で子どもたちに示すことのできる絵本は稀有といってもいいのではないでしょうか。

 

 

 

 

 

『おばけのジョージ― メリーメリークリスマス!』ロバート・ブライト/作 こみやゆう/訳 好学社 2020/10/19(出版社サイト→こちら

おばけのジョージ―シリーズの最新刊です。クリスマスに向けて、もみの木に飾りつけをして、美味しい食事を用意し、家族や友達とにぎやかに過ごすためにわくわくしながら準備をしているのに、たったひとり丘の大きなお屋敷に住むグロームズさんだけは変わり者で、クリスマスなんて大嫌いでした。ところがその年は、姪と甥のサラとトニーを預かることになってしまったのです。サンタなんてとんでもないというグロームズさんでしたが、サラとトニーはおじさんのためにもサンタさんに宛てた手紙を書くのです。今回もおばけのジョージ―と仲間たちが大活躍。グロームズさんも最後には笑顔になるのですが、どんなことがあったのかは読んでのお楽しみに!

 

 

 

『ピーターラビットのクリスマス 25の物語のアドベント』レイチェル・ボーデン/文 長友恵子/訳 文化出版局 2020/10/25(出版社サイト→こちら

ピーター・ラビットのお話を愛読してきたレイチェル・ボーデンが、そのお話からインスパイアされて新しく描き下ろしたクリスマスアドベントの物語です。12月1日から25日まで毎日1章ずつ読み進めていくことが出来るのです。ひとつひとつのお話の終わりには、クリスマスにちなんだ遊びやレシピが紹介されています。ビアトリクス・ポターが描いたピーター・ラビットのシリーズに出てくる仲間たちも登場するおはなしは、どれも心温まるものばかりです。

 

 

 

 

 

 

『まほうつかいウーのふしぎなえ』エド・エンバリー/作 小宮由/訳 文溪堂 2020/10(出版社サイト→こちら

モノクロの絵の中に作り出される影、色、光。錯覚をテーマにした絵本です。コマ割りで描かれたカエルに姿を変えられた王子と魔法使いウーの会話の部分と、見開きで現れる錯覚を起こさせるモノクロの模様画が交互に出てきながら、おはなしが進んでいきます。
不思議で、面白いアート絵本です。

 

 

 

 

 

『なぞなぞのにわ』石津ちひろ/なぞなぞ 中上あゆみ/絵 偕成社 2020/10(出版社サイト→こちら

春夏秋冬、四季折々の庭の中に描かれる花や虫、小動物・・・眺めているだけでも心豊かになります。絵の中に隠れているものを、なぞなぞで問いかける絵本です。なぞなぞはちょっと難しいかな。それでも、最後に答えが出ていて「あ~そうか!」と思って、もう一度絵をよく見て、何度でも探して遊べます。読み聞かせというよりは、親子で絵を探して遊ぶ、そんな絵本です。

 

 

 

 

 

 

『ふゆごもりのまえに』ジャン・ブレット/作 こうのすゆきこ/訳 福音館書店 2020/11/5(出版社サイト→こちら

はりねずみのハリーは、冬ごもりの前に農場の中を一回り散歩をすることにします。ところが農場の動物たちに出会うたびに、ハリーが冬ごもりした後の冬の景色の美しさを次々に聞かされます。ハリーは、この冬は起きていてそれを目撃したいと巣穴に入らずにいたのですが、夜になって凍え死にそうになってしまいます。それを助けてくれたのは農場の女の子リサ。リサはハリーが冬景色を楽しめるように、ハリーを温かいティーポットカバーに入れて窓辺に居場所を作ってくれました。ハリーは生まれて初めて雪を、つららを、氷のはった池をみることが出来たのでした。ペットとして今はりねずみが人気だそうですね。そんな愛らしいハリネズミの寝姿も見られる絵本です。

 

 

 

『ねこはすっぽり』石津ちひろ/文 松田奈那子/絵 こぐま社 2020/11/5(出版社サイト→こちら

愛らしい猫のいろいろな格好を楽しいオノマトペで表現した絵本です。「ごろりーん ごろりーん ねこはすきなばしょで ごろりーん」「のびーん のびーん ねこはどこまでも のびーん」「ぴょーん ぴょーん ねこははこのなかへ ぴょーん」。帯に書かれた作者のことばには「猫たちは気の向くままに、遊び、食べ、よく眠る。時にはニンゲンが頭を抱えるくらいのいたずらをする。軽やかに跳んで、走り回り、思い切り体をねじったり、気持ちよさそうにのびをする。(中略)この絵本の猫のように、世界中の子どもたちがのびのびと安心して過ごせる日常が早く戻ってきますように。」とあります。そんな温かい思いを感じられる絵本です。

 

 

 

『サンタさんのおとしもの』三浦太郎/作 あすなろ書房 2020/11/20(出版社サイト→こちら

クリスマスイブにおつかいにでかけた女の子は、大きな赤いてぶくろを拾います。これはサンタさんの落とし物に違いないと思った女の子はサンタさんを探すことにします。町でいちばん高い教会の塔に登って見渡すと、今まさにサンタさんがえんとつに入っていこうとしているところでした。しかもそこは女の子のおうち。女の子は大急ぎで家に走って帰ります。女の子は無事にサンタさんに落とし物を渡せるでしょうか?黒い背景に赤や緑、白の色が鮮やかな楽しい絵本です。

 

 

 

 

 

『赤ずきん RED RIDING HOOD』ビアトリクス・ポター/再話 ヘレン・オクセンバリー/絵 角野栄子/訳 文化出版局 2020/11/22(出版社サイト→こちら

ピーター・ラビットのシリーズを書いたビアトリクス・ポターが再話した『赤ずきん』です。それに絵本作家へレン・オクセンバリーが絵をつけたものを角野栄子さんが翻訳されました。
シャルル・ペロー再話の昔話に近いストーリーですが、ヘレン・オクセンバリーはその文章を手にしたときに野の花の咲く牧草地や、白樺林などの広がるイギリスの田舎の風景を思い出したそうです。見返しページには赤ずきんの家からおばあちゃんの家までの地図が描かれていて、たしかにピーター・ラビットも出てきそうな雰囲気です。結末は「そして、それが赤ずきんのさいごでした。」で終わっていますが、ヘレン・オクセンバリーの絵がその先の物語を想像させてくれて救いを感じました。

 

 

 

『ネコとなかよくなろうよ』トミー・デ・パオラ/作 福本友美子/訳 光村教育図書 2020/11/30(出版社サイト→こちら

今年3月に亡くなったトミー・デ・パオラさんの1979年の作品です。日本では1990年にほるぷ出版から『きみとぼくのネコのほん』(森下美根子/訳)として出版されていました。ネコがどのようにして人間の生活の中にペットとして飼われるようになったのか、どのような種類がいて、どんな特徴があるか、飼う時はどんなことに気をつければいいのかを、ネコを保護しているキララおばさんと、ネコをもらいにきたパトリックの会話形式で知ることができます。なお新版では、ネコをもらったら最後まで飼うというのが今はルールとして浸透しているため、主人公がたくさんネコをもらってきたのに両親から1匹だけと言われておばさんに返しに行く結末の部分がカットされたとのことです。10月29日に紹介した『クリスマスツリーをかざろうよ!』(→こちら)と同じ判型、形式の絵本です。

 

 

 

 

『大統領を動かした女性 ルース・ギンズバーグ 男女差別とたたかう最高裁判事』ジョナ・ウィンター/著 ステイシー・イナースト/絵 渋谷弘子/訳 汐文社 2020/11第2刷 (初版は2018年3月)(出版社サイト→こちら

今年9月18日に亡くなったギンズバーグ最高裁判事のニュースは、アメリカ大統領選挙のニュースとともに耳にした人も多いことでしょう。(BUSINESS INSIDER記事→こちら)その後、トランプ大統領は即座に自分に有利になるよう保守派の最高裁判事を任命し話題になりましたね。それに合わせてこの度増刷されました。
R.G.Bと呼ばれて若い人からも人気の高かったギンズバーグは貧しい家庭に生まれたものの努力を惜しまず学び続け、弁護士になってからも男女差別と闘い、大統領の心を動かすアメリカの正義と平等を象徴する女性となっていく姿を描いた伝記絵本です。この翻訳絵本が2018年3月に出版された時はまだ存命だったギンズバーグさん。あとがきに「84歳となったR.G.Bは衰える気配などまったく見せていない」と記されていて、心に迫ります。

 

 

 

 

【読み物】

『ハジメテヒラク』こまつあやこ/作 講談社 2020/8/25(出版社サイト→こちら

 

講談社児童文学新人賞を受賞し、デビュー作『リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ』が2019年度中学入試最多出題作になったこまつあやこの待望の2作目です。
遅くなりましたが、YA世代、とくに中学生に読んでほしくて紹介します。
主人公のあみは、小学生の時に友達に仲間外れにされるのですが、そんな時従姉から教えてもらった脳内実況でやり過ごしてきたのでした。そんなあみが、中学受験をして入学した中高一貫校で、ひょんなことから生け花部に入ることになりました。個性豊かな部活の仲間たちの中で様々なことに気づきながら成長していくあみの姿を爽やかに描いた作品です。

 

 

 

 

『雪山のエンジェル』ローセン・セントジョン/作 さくまゆみこ/訳 評論社 2020/10/25(翻訳者さくまゆみこさんのブログ→こちら

本を読むのが大好きなケニアの12歳の少女マケナは、山岳ガイドの父親と学校教師の母親の愛情を受けて幸せに暮らしていました。ところが両親は親族の看病に出かけたシエラレオネでエボラ出血熱にかかって突然亡くなってしまいます。引き取られた家では、死因がエボラ出血熱だと知られるとおばさんにまるでマケナがウイルスをまき散らしている恐ろしい存在かのように扱われ、追い出されてしまいます。スラム街をうろつく中で出会ったスノウと呼ばれる少女は、アルビノでやはり虐殺の危機から逃れてスラム街に流れついたのでした。マケナはスノウからどんな困難な中でも希望をもって生き抜くことを教えられます。しかしスラム街が強制的に破壊された夜、ふたりは離れ離れになってしまいます。その後、アフリカで孤児の保護活動をしているスコットランド人のヘレンと出会うのです。過酷な運命の中で生き抜き、自分の居場所を見つけていくマケナの物語を読みながら、今、この瞬間にも新型コロナウイルスの影響で差別を受けたり、困難な状況下に置かれている子どもたちが世界には多くいることを想像しています。もうすぐクリスマス、そんな子どもたちにもマケナのように暖かいクリスマスが訪れるようにと願うばかりです。

 

 

 

 

『オール・アメリカン・ボーイズ』ジェイソン・レノルズ、ブレンダン・カイリー/著 中野怜奈/訳 偕成社 2020/12(出版社サイト→こちら

今年は、アメリカにおいて黒人に対する差別問題が浮き彫りにされ、「BLM (Black Lives Matter)」が大きく取り上げられました。テニスの全米オープン選手権では女子で優勝した大坂なおみ選手が、無実の罪で暴行死した黒人の名前が書かれたマスクをして毎回登場したことでも話題になりました。
この作品は、2013年に17歳の黒人少年を射殺した白人の自警団員に無罪判決が出て、翌年にまた18歳の黒人少年が無防備なまま警官に射殺された事件に胸を痛めた黒人作家ジェイソン・レイノルズと白人作家ブレンダン・カイリーの二人が書きあげました。出版された2015年にはニューヨークタイムズ紙のベストセラーとなり、さまざまな賞を受賞しました。
この小説は、パーティーに出かけるために立ち寄った店で、白人女性に不注意でぶつかられ警官に万引き犯だと誤認逮捕された黒人少年のラシャドと、その現場を目撃した白人少年クインのそれぞれの立場から、事件が起きた金曜日から翌週木曜日までの1週間の様子が交互に書かれます。2人の作家がそれぞれの体験に基づいて書くからこそ、この物語が現実味を帯びて読むものに迫ってきます。訳者あとがきに「もともと先住民が暮らしていた土地に他の国々からやってきたり、連れてこられた人たちが築いた国に、外見的なアメリカ人らしさなど本来あるわけがなく、なにをもってアメリカ人としての内面の価値とするかを、だれかが決められるはずもありません。しかし社会の中に依然としてある、そのステレオタイプなイメージのために、黒人のラシャドも白人のクインも苦しんでいるように見えます。それは「アメリカ人らしい」という大ざっぱな表現が、現実の多様さを無視したものだからでしょう。」と書かれています。そのギャップに真正面から取り組んだこの作品を、多くの人に読んでほしいと願います。

 

 

 

 

【ノンフィクション】

『自由への手紙』オードリー・タン/語り クーリエ・ジャポン編集チーム/編 講談社 2020/11/17(出版社サイト→こちら

台湾の最年少デジタル大臣のオードリー・タンの活躍ぶりは、新型コロナウイルス感染の拡大に歯止めをかけたことで日本でもずいぶん報道されていました。自分がトランスジェンダーであることも公表しているオードリー・タンさんにインタビューしてまとめられた本です。
「本当に自由な人」とは、「自分が変えたいと思っていることを、変えられる人。自分が起こしたいと思っている変化を起こせる人。それこそ自由な人です。」と語るタンさん。帯にも「誰かが決めた「正しさ」には、もう合わせなくていい」とあるように、ほんとうに自分らしく生きるにはどうしたらいいのか、力強いメッセージが込められています。YA世代にはぜひ手にしてほしい1冊です。

 

 

 

 

『カカ・ムラドーナカムラのおじさん』ガフワラ/原作 さだまさし/訳・文 双葉社 2020/12/6(プレスリリース→こちら

12月4日は中村哲医師の命日です。中村先生がアフガニスタンで凶弾に倒れてちょうど1年になります。1984年にアフガニスタンへ医師として赴き、アフガニスタンの山岳地帯で治療を続けるうちに、その地方の貧困問題に関心を持つようになります。2000年からは飲料水・灌漑用の井戸を掘る事業を始め、03年からは農村復興のための大掛かりな水利事業を始めていました。
亡くなった後に、中村医師の功績を後世に語り伝えようとアフガニスタンで2冊の絵本が出版されました。『カカ・ムラド~ナカムラのおじさん』と『カカ・ムラドと魔法の小箱』です。その2冊を翻訳し、解説をつけたものが日本で出版されました。翻訳は歌手のさだまさしさんです。また通販会社フェリシモの「LOVE AND PEACE PROJECT」を通じて出版のための基金が集められました。日本の子どもたちにも伝えていきたい絵本です。

 

 

 

【その他】

『世界で読み継がれる 子どもの本100』コリン・ソルター/著 金原瑞人+安納令奈/訳 原書房2020/10/31(出版社サイト→こちら

19世紀に刊行された古典的な作品から、映画化されたYA向けの作品まで、ジャンルは絵本、昔話、ファンタジーと広い分野から選ばれた100作品をフルカラーで紹介する本です。1作品につき3ページを使ってその作品の時代背景、作者の経歴、そしてその作品が持っている魅力を語り、次の世代へと受け渡していく価値があることを伝えてくれています。この作品は、児童書の研究者でもなく、マニアックな愛好家でもなく、パヴィリオンブックス社の依頼を受けたプロのライターだそうです。訳者の金原さんは、そういう人が書いたからこそ、客観的にバランスよく説明がなされていて、読み物として読みやすいと指摘しています。たしかにエッセイを読んでいるようで、昔読んだ本は再読したくなるし、未読のままだった本は読んでみようという気持ちにさせられます。この本を片手に、児童書の魅力を再発見する旅に出たくなります。

 

 

 

『世界の児童文学をめぐる旅』池田正孝/著 エクスナレッジ 2020/10/19(出版社サイト→こちら

こちらのエッセイは、中央大学名誉教授で東京子ども図書館理事の池田正孝さんが、イギリスを中心とした児童文学の舞台を、実際に旅をして書かれたものです。『ピーター・ラビットのおはなし』『ツバメ号とアマゾン号』『リンゴ畑のマーティン・ピピン』『運命の騎士』『クマのプーさん』『秘密の花園』『トムは真夜中の庭で』や「ナルニア国物語シリーズ」など、その作品数は22にも上ります。またアンデルセン童話やアストリッド・リンドグレーンの世界や『ハイジ』など、イギリス以外にも北欧やスイスなども訪れ、美しい写真と一緒に物語の舞台や背景をあますことなく紹介しています。この本を読んでいると、自分もかの地を旅したいと熱望してしまいます。せめて本の中で旅をしたいと思います。

 

 

(作成K・J)

2020年9月、10月の新刊から(その2・読み物)


9月,10月に出版された絵本、児童書のうち、先週絵本を紹介しましたので、本日は児童書、および参考資料を紹介いたします。

今回は先月久しぶりに訪れた銀座・教文館ナルニア国で新刊チェックをしました。それに加えて横浜日吉のともだち書店に注文し送付いただいたもの、出版社を通して著者、翻訳者から献本していただいたものを、読んで記事にしています。なお、一部9月以前に出版された本もあります。

その他の書籍に関しては銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

 

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【児童書】
《創作》

『めいたんていサムくん』那須正幹/作 はたこうしろう/絵 童心社 2020/9/4  (出版社サイト→こちら

小学2年生のオサムくんは、みんなが困っている時に推理して解決する名人なので、「めいたんていサムくん」と呼ばれています。
ある朝はタケシくんのうわぐつが無くなっているのを、推理でなぜ無くなっているか当てました。ある時は公園で行方不明になった人形を見つけ出しました。また3年生のハルミさんにまとわりつく犬が、なぜそうするのか、推理して解決しました。サムくんの活躍は子どもたちの日常で起きるちょっとした事件です。きっとサムくんのことを身近に感じられるでしょう。小学校低学年向けの幼年童話です。

 

 

 

 

『はりねずみともぐらのふうせんりょこう アリソン・アトリーのおはなし集』アリソン・アトリー/作 上條由美子/訳 東郷なりさ/絵 福音館書店 2020/9/5  (出版社サイト→こちら

『チム・ラビットのおはなし』など動物を主人公にした素敵なおはなしをたくさん残したイギリスの児童文学者アリソン・アトリー(1884~1976)の、おはなし集です。「小さな人形の家」、表題にもなっている「はりねずみともぐらのふうせんりょこう」、そして「のねずみとうさぎと小さな白いめんどり」の3つのおはなしが収められています。どれも夢があって、心がわくわくしてくるおはなしです。読んであげるなら小さな子どもたちでも楽しむことができる幼年童話です。

 

 

 

 

 

 

『かじ屋と妖精たち イギリスの昔話』脇明子/編訳 岩波少年文庫 岩波書店 2020/9/15 (出版社サイト→こちら

素話(ストーリーテリング)でよく語られるイギリスの昔話が、脇明子さんの訳で、新しく編まれました。全部で31のおはなしが、゛ゆかいで短いお話”、゛ちょっとハラハラするお話”、゛知恵が役に立つお話”、゛こわくてドキドキするお話”、゛ふしぎなことに出会うお話”、゛妖精たちの出てくるお話”、゛女の子が幸せをつかむお話”、゛大冒険のお話”、゛すてきな幸運にめぐりあうお話”の8つのカテゴリーに分けられていて、おはなし選びにも役立ちます。「ものぐさジャック」や「トム・ティット・トット」、「三びきの子ブタのお話」、「ジャックと豆の木」、「ノロウェイの黒い雄牛」などよく知られているお話もたくさん。読んでもらうのもよし、自分で読むのもよし、そして自分でおはなしを語れればもっとよし。いろいろな楽しみ方ができる1冊です。

 

 

 

『おとうさんのかお』岩瀬成子/作 いざわ直子/絵 佼成出版社 2020/9/30  (出版社サイト→こちら

利里は3年生が終わった春休み、単身赴任中のお父さんのところで過ごすことにしました。きっかけはお兄ちゃんとけんかをして、顔も見たくなかったからです。お父さんならわかってくれると思ったのに、お父さんともなかなか気持ちが通じ合いません。そんな時、公園で出会った女の子、雪ちゃんは、拾った石に顔の絵を描いて遊んでいました。雪ちゃんとの出会いを通して、利里とお父さんの気持ちも近づいていきます。
だんだん人間関係に悩みはじめる小学校中学年向けのお話です。

 

 

 

 

 

『宇宙の神秘 時を超える宇宙船』ホーキング博士のスペース・アドベンチャーⅡ‐3 ルーシー・ホーキング/作 さくまゆみこ/訳 佐藤勝彦/監修 岩崎書店 2020/9/30 (出版社サイト→こちら

ALS(筋萎縮性側索硬化症)を患いながらも、宇宙物理学を研究し続けたスティーヴン・ホーキング博士が、娘のルーシー・ホーキングさんとともに著したスペース・アドベンチャーシリーズの完結編です。ホーキング博士は2018年3月に亡くなられましたが、存命中にほぼ書き終えていたそうです。前号で、主人公のジョージは、AIロボットのボルツマンとふたりだけで宇宙船アルテミス号で宇宙へ飛び出します。しかし、超高速の宇宙船は簡単には行き先を変更できません。アインシュタインの相対性理論を物語で体験できる壮大な冒険物語です。シリーズですが、単独で読んでも、思わず惹きこまれていきます。後半には「タイムトラベルと、移動する時計の不思議」や「感染症、パンデミック、地球の健康」、「人工知能(AI)」など10のテーマでの科学エッセイも収められており、そこも読みごたえがあります。

 

 

 

 

『おじいちゃんとの最後の旅』ウルフ・スタルク/作 キティ・クローザー/絵 菱木晃子/訳 徳間書店 2020/9/30 (出版社サイト→こちら

おじいちゃんは口が悪くて乱暴で、入院先でも看護婦さんに呆れられ、パパもお見舞いに行きたがりません。でもぼくはそんなおじいちゃんが大好きです。そのおじいちゃんが、おばあちゃんと一緒に住んでいた家に死ぬ前にもう一度行きたいと願っているのを知って、病院を抜け出す計画を立てます。その計画は、パン屋のアダムも巻き込んで完璧ですが、「うそをつく」ことに少しだけ胸が痛みます。それでもおじいちゃんが、思い出の家で一晩過ごせたことは、良かったと思うのでした。死が近いおじいちゃんと孫の、心温まる、ちょっぴり切ない物語です。『おじいちゃんの口笛』などの作品があるスタルクは2017年に亡くなりました。これが最後の作品となりました。

 

 

 

 

『イワンの馬鹿』レフ・トルストイ/作 ハンス・フィッシャー/絵 小宮由/訳 アノニマ・スタジオ 2020/10/2 (出版社サイト→こちら

レフ・トルストイは『戦争と平和』や『アンナ・カレーニナ』などの大作があるロシアを代表する文豪です。その彼は50 代半ばで「無学で、貧しい、素朴な、額に汗して働く人たちの信仰の中に、真実がある」と悟り、「これからは、民衆とともに生き、人生のために有益な、しかも一般の民衆に理解されるものを、民衆自身の言葉で、民衆自身の表現で、単純に、簡素に、わかりやすく書こう」としたのが『イワンの馬鹿』です。人間の幸せとは何なのか、本質的な問いを投げかけてくれる寓話です。
注目すべきなのは、翻訳者小宮由さんです。由さんの祖父、北御門二郎氏は、17歳の時にトルストイの作品、特に『人は何で生きるか』、『イワンの馬鹿』に出会って、トルストイの説く絶対非暴力の思想に目覚め、それまで受けてきた忠君愛国の学校教育がいかに間違っているかということに気づき、良心的兵役拒否をしました。北御門氏はトルストイの翻訳に力を注ぎ、『イワンの馬鹿』も翻訳しました。孫である由さんが、なぜ『イワンの馬鹿』を翻訳することになったのかを書いているあとがきがまた読み応えがあります。 なお、挿絵はハンス・フィッシャーで、繊細でとても素敵です。

 

 

 

『ミスエデュケーション』エミリー・M・ダンフォース/著 有澤真庭/訳 サウザンブックス社 2020/11/6 (出版社サイト→こちら

アメリカで2012年に出版されたYA小説で、アメリカ図書館協会が優れたYA小説のデビュー作品に贈るウィリアム・C・モリス・デビューアワードの最終候補に残るなど高い評価を受けました。
12歳の夏休みに、親友アイリーンの挑戦で初めて彼女にキスしたキャメロン。女の子に惹かれるという性的指向に気づきながらも、周囲の無理解と宗教的葛藤に悩みながらも、仲間たちと自分らしさを見出していきます。LGBTQをテーマにした作品で、日本ではクラウドファンディングを用いて出版されました。アイリーンと過ごした夏休み二日間を描いた第一部、両親の事故死を知っておばあちゃん、ルースおばさんと暮らすことになった中学・高校時代の第二部、同性愛者であることがバレてキリスト教系の矯正施設に強制的に送り込まれる第三部となっています。この作品がデビュー作になったエミリー・M・ダンフォースはロード・アイランド大学の助教授で同性パートナーと暮らすレズビアンです。世間の無理解に苦しむLGBTQの子どもの成長物語を描きたいと、同性愛矯正治療キャンプなどを取材して書かれました。

 

 

 

 

《ノンフィクション》

『子どもを守る言葉『同意』って何?YES、NOは自分が決める!』レイチェル・ブライアン/作 中井はるの/訳 集英社 2020/10/31 (出版社サイト→こちら

『ワンダー』(R・J・パラシオ/著 ほるぷ出版)などの翻訳を手掛けた中井はるのさんが訳出された人権に関するノンフィクション新刊です。SNS などを通して知り合った卑劣な大人に騙される少女の事件がニュースでも報じられました。自分を守るために、イヤなこと、ダメなことを相手にもわかるように意思表示することの大切さを、イラストをたっぷり使って小さな子どもにもわかりやすく説いています。親子で一緒に読みながら、この本で使われる「同意」と「バウンダリー(境界線)」の意味について、話し合えるといいですね。

 

 

 

 

 

【その他】

『子どもの本から世界をみる 子どもとおとなのブックガイド88』石井郁子、片岡洋子、川上蓉子、鈴木佐喜子、田代康子、三輪ほう子、田中孝彦/著 かもがわ出版 2020/9/30 (出版社サイト→こちら

このブックガイドは、月刊誌『教育』(教育科学研究会編集)の1990年11月号から2018年3月号までの、「子どもの本」欄に掲載された紹介・書評のうちの84の記事に書きおろしの4点を加えて、加筆・再構成されたものです。選者の6人は、子育てや生徒と関わる仕事を通して、幼児から高校生までそれぞれの成長過程にふさわしいと思われる本を選び、紹介してきました。その選書基準は、他のブックリストと同様のもに加えて、”子どもたちが新しい世界を知り、おとなの世界も広がっていき、今をそして明日を考えることができる本”という点が特徴的です。世界的なパンデミックの中で、子どもたちの「どう生きるべきか」という問いを感じ取り、おとなも共に考え合える本、子どもの本を通して社会や時代をみつめる本が選ばれています。ぜひみなさんの選書の際の一助にしていただきたいと思います。

 

 

 

『藤田浩子の手・顔・からだでおはなし』なにもなくてもいつでも・どこでも楽しめる⑤ 藤田浩子/編著 保坂あけみ/絵 一声社 2020/10/30 (出版社サイト→こちら

楽しい語りや、わらべうた遊び、おはなし会小道具などを精力的に紹介する藤田浩子さんの新刊です。手元に絵本やさまざまな小道具が無くても、手や顔、身体を使って、子どもたちと触れ合って遊べる遊びやおはなしが50以上紹介されています。1章では小さな赤ちゃんを中心にした親子遊び、第2章では1~3歳向けの遊びやおはなし、3章では4~6歳向けの遊びやおはなしというように分けられています。図書館のおはなし会でも使えるものがたくさんあります。ぜひいくつか覚えて演じてみてください。

 

 

(作成K・J)

2020年9月、10月の新刊から(その1・絵本)


9月,10月に出版された絵本、児童書のうち、お薦めしたい作品を紹介いたします。(その1で絵本を、その2で児童書・その他を紹介します)

先月、久しぶりに銀座・教文館ナルニア国へ行き、新刊チェックをすることができました。それに加えて横浜日吉のともだち書店に注文し送付いただいたもの、出版社を通して著者、翻訳者から献本していただいたものを、読んで記事にしています。なお、一部9月以前に出版された本もあります。

その他の書籍に関しては銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

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【絵本】

『いのち』シンシア・ライラント/文 ブレンダン・ウェンツェル/絵 田中一明/訳 カクイチ研究所ぷねうま舎 2020/8/21(出版社サイト→こちら

この地球上に溢れている「いのち」。どんな大きな動物も最初は小さなはじまりがありました。そして「いのち」が大きく育っていくためには、大切な必要なものがあるということを、語りかけてくれます。答えはひとつではないかもしれません。環境問題なのか、命の連鎖のことなのか、答えは明確には示されません。おとなが読むと哲学的な問いかけのようにも聞こえます。おとなと子どもが一緒に読みながら、「いのち」について考えるきっかけにするとよいでしょう。絵はとても美しく希望を感じることができます。

 

 

 

 

 

『ぼうしかぶって』三浦太郎/作 童心社 2020/9/1 (出版社サイト→こちら

「あかちゃん ととととと」シリーズの1冊です。「ぼうし」だけど、登場人物はみんな野菜や果物です。「へた」をぼうしに見立てています。
「なすのとうさん たたたたた ぼうしかぶって いってきまーす」
「パイナップルのにいさん どどどどど ぼうしかぶって いってきまーす」
繰り返しが楽しい絵本です。

 

 

 

 

『おふろにはいろ』三浦太郎/作 童心社 2020/9/1 (出版社サイト→こちら

こちらも野菜や果物が主人公。
こちらでは、皮を服に見立てて、それを脱いでお風呂に入ります。
「すすすすす たまねぎのばあさん ふくぬいで おふろにはいろ あ~ いいゆだな」
「ららららら とうもろこしのかあさん ふくぬいで おふろにはいろ あ~ おはだつるつる」
こちらも繰り返しが楽しい絵本です。

 

 

 

 

『サディがいるよ』サラ・オレアリー/文 ジュリー・モースタッド/絵 横山和江/訳 福音館書店 2020/9/5 (出版社サイト→こちら

サディは想像力豊かな女の子。ダンボール箱に入ればたちまち大海原を航海する船で旅する気分になれます。ある時は人魚になったり、ある時はオオカミ少年になったり、空を飛ぶことだってできる。想像することの楽しさ、豊かさを伝えてくれる絵本です。

 

 

 

 

 

 

 

『子どもの本の世界を変えたニューベリーの物語』ミシェル・マーケル/文 ナンシー・カーペンター/絵 金原瑞人/訳 西村書店 2020/9/10 (出版社サイト→こちら

世界初の児童文学賞といえば米国図書館協会児童サービス協会が選定するニューベリー賞です。(国際子ども図書館のサイト→こちら)国際子ども図書館の説明文には「18世紀の英国で児童図書の出版に携わったジョン・ニューベリーの名を冠して創設されました、世界で最初の児童文学賞。最も優れた米国の児童図書を書いた作家に贈られます」と書かれています。
この絵本は、そのジョン・ニューベリーがどんな子どもだったのか、そしてどうして子どもの本を出版しようとしたのかを教えてくれる伝記絵本です。その当時、おとなが子どもを躾・教育しようとする本ばかりの中で、ジョンは「子どもの本の主役は、「子ども」」と位置づけ、子どもたちが自由に想像し、楽しめる作品を出版しました。読書週間を迎えて、ジョン・ニューベリーの願いに想いを馳せたいですね。

 

 

 

『わにのなみだはうそなきなみだ』アンドレ・フランソワ/作 ふしみみさを/訳 ロクリン社 2020/9/15 (出版社サイト→こちら

12.6×26.2㎝の横長の判型の絵本です。表紙カバーを全部開くとわにの全長がちょうど入り込みます。
この絵本は1979年にほるぷ出版から出ていた『わにのなみだ』の新装新訳版です。
おはなしは、「うそなきのことを、わにのなみだっていうんだよ」という問いかけから始まります。そしてそれを確かめるためにエジプトへ行って・・・読んでいくうちに、それがなんとも面白いナンセンスなおはなしになっていきます。

 

 

『パパとすうすう』ケイト・メイズ/原作 サラ・アクトン/絵 古藤ゆず/翻案 学研プラス 2020/9/29 (出版社サイト→こちら

小さな子は、おとなたちが休日の朝くらいゆっくり眠っていたいと思っても、早起きして容赦なく起こしにきます。
まだ寝ていたいパパと、「はやくおきて!」とあの手この手で起こしにかかります。観念したパパが、「おいで。えほんをよもうよ」と言ってくれた時の、うさぎちゃんの幸せな表情。読んでいてほほえましくなってきます。

 

 

 

 

 

『ママとすうすう』ケイト・メイズ/原作 サラ・アクトン/絵 古藤ゆず/翻案 学研プラス 2020/9/29 (出版社サイト→こちら

『パパとすうすう』と一緒に出版されたこちらの絵本は、今度は夜、小さな子を寝かしつける様子が描かれています。
「もうねるじかんだよ」と言っても、すぐに起きてきて、「あれしよう!」「これしよう!」と誘ってきます。
ママと小さなうさぎちゃんとのお休み前のひとときはかけがえのない時間です。最後はママの腕の中ですやすや。安らぎと幸せを感じられる絵本です。

 

 

 

 

 

『はたらくくるまたちのかいたいこうじ』シェリー・ダスキー・リンカー/文 AG・フォード/絵 福本友美子/訳 ひさかたチャイルド (出版社サイト→こちら

「2020年3月、4月の新刊から」(→こちら)で紹介した『はたらくくるまたちとちいさなステアちゃん』の続編です。
今度はビルの解体工事に力を合わせます。お話を読んでもらっているうちに、ブルドーザー、クレーン車、ショベルカー、フロントエンドローダーなど、はたらくくるまの役割分担というのもわかって面白いです。今回もスキッドステアローダーのステアちゃんも、大活躍します。

 

 

 

 

『おおかみのはなし』はやかわじゅんこ/作 瑞雲舎 2020/10/1 (出版社サイト→こちら

ことば遊び絵本『はやくちこぶた』(→こちら)に出てきたおおかみとこぶたが登場する絵本です。
このおおかみ、ちょっとドジでおかしいのです。大切な牙を転んで折ってしまい肉を食べることはもちろん冷たいアイスクリームさえも沁みていたいのです。そこで3びきのこぶたたちは歯医者さんに行くように勧めるのですが、歯医者が怖いおおかみは逃げ出してしまいます。ナンセンスだけれど、なんだかホッとする、そんな味わい深い絵本です。

 

 

 

『はんぶんこ』多田ヒロシ/作 こぐま社 2020/10/15 (出版社サイト→こちら

いろんな動物たちが、たったひとつしかない食べ物を、「はんぶんこ」といって分け合います。分け合って食べるのって、子どもたちにとってはうれしい成長です。ちゃんと半分に切って分けられるものはいいのですが、あれあれ、ごりらくんたちは、「はんぶんこ」といってバナナを食べ始めたけれど、早く食べた方がいっぱい。「はんぶんこじゃない」と言って泣くのも当然だよね。そのあとどうしたかな?「はんぶんこ」で分けることができるようになった2歳前後くらいの子どもたちに読んであげたい1冊です。

 

 

 

 

 

『ねむねむさんがやってくる 眠りが訪れる話』ユ・ヒジン/作・絵 中井はるの/訳 世界文化社 2020/10/20(出版社サイト→こちら

ベッドに入ってもなかなか寝付けない我が子に、眠気を「ねむねむさん」と名付けて、ねむねむさんは「ゆっくりくるのよ。ゆったりと。のんびり のんびりやってくる。」と伝えるおかあさん。「早く寝なさい」なんて言わないで、「だから ゆっくり めをとじて、しずかにそっと おまじない」「ねむねむさん ねむねむさん わたしのゆめを もってきて」と、安らかな眠りが訪れるのを待っていてくれます。子どもを寝かしつけるときは、ゆったり、ゆっくり構えることが何より大切。そのうちこちらも気持ちが落ち着いて、眠くなってきますよ。

 

 

 

『クリスマスツリーをかざろうよ』トミー・デ・パオラ/作 福本友美子/訳 光村教育図書 2020/10/30 (出版社サイト→こちら)(10/29現在未掲載・サイト確認でき次第リンクします)

おはなし会プラン「2020年12月(その2)クリスマスはおうちでね」(→こちら)でも紹介した作品です。12月になるとあちこちにクリスマスツリーが飾られますが、なぜクリスマスツリーを飾るようになったのか、ご存知ですか?それを親子の会話を通してわかりやすく教えてくれる絵本です。ヨーロッパやアメリカの歴史上の人物が出てくるのですが、大きくなった時に世界史で必ず聞く人名です。キリスト教に深く結びついていたものが日本でも宗教に関係なく飾られるようになった背景には、日本にも常緑樹を大切にする文化があったからでしょう。この絵本はアメリカでは1980年に出版されていますが、日本では今回が初めて。今年3月に亡くなられたトミー・デ・パオラさんの(→こちら)日本での最新刊です。

 

 

 

 

『おしゃべりくらげ』あまんきみこ/作 みずうちさとみ/絵 JULA出版局 2020/10 (出版社サイト→こちら

あまんきみこさんの、のんびりとしながらも、毅然とした意志を感じるお話です。くらげの子は「ほねなし」と言われるのが悔しくてたまりません。でも、それは周りから「ほねなし」とからかわれるからなのです。くらげのかあちゃんは、「おまえは、いつのまにか、あたりをうかがいながら、自分をきめるようになったんだい?」と、諭します。ガーゼ生地に刺繍で描いた絵も優しくて素敵です。夏に出版する予定が、春先はガーゼ生地が品切れとなり(布マスクの材料になるため)出版が秋にずれ込んだということです。「忖度」という言葉が、一般的になって久しいのですが、「忖度しない」毅然とした態度を取ることの大切さも物語から感じ取ることができます。

 

 

【ノンフィクション絵本】

『集めてわかるぬけがらのなぞ ゲッチョ先生のぬけがらコレクション』盛口満/文・絵 少年写真新聞社 2020/7/20 (出版社サイト→こちら

夏休み前に出版されたので、すでに多くの図書館には入っていることでしょう。今年の夏もたくさんのせみのぬけがらを見かけました。短い夏休みでしたが、図書館には「何のぬけがら?」と聞きにくる子もいたことでしょう。
こちらの本にはセミだけでなく、いろいろな昆虫のぬけがらを集めてあります。昆虫が苦手な人も、この本を手に取ると、小さな昆虫の精巧な造り、自然のもつ不思議さを感じることができるのではないかと思います。児童のレファレンス用にもぜひ揃えてほしい1冊です。

 

 

 

 

 

『どうなってるの?ウイルスと細菌』サラ・ハル/文 ピーター・アレン/絵 福本友美子/訳 堀川晃菜/監修 ひさかたチャイルド 2020/10 (出版社サイト→こちら

2020年を振り返る時に、世界中に猛威を振るった新型コロナウィルスCOVID-19によるパンデミックのことは必ず語られることでしょう。
子どもたちの日々の生活の中にも「ウイルス」ということばが定着しました。その「ウイルス」とはいったい何なのか、「細菌」とはなにか、そして私たちの身体に備わっている防御システムについて小学校低学年の子にもわかりやすく、めくるとさらに詳しい説明が書いてある111のしかけとともに、理解を助けてくれることでしょう。

 

 

 

(作成K・J)

基本図書を読む31『クラバート』プロイスラー(再掲載)


こちらは2016年10月28日に掲載した記事の再掲載です。児童文学というにはとても深い内容の作品、秋の夜長に再読するのにぴったりです。

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 今回の基本図書を読むでは、小学校低学年くらいから中学年くらいの子が楽しむ『大どろぼうホッツエンプロッツ』でも有名なドイツの作家オトフリート・プロイスラーが11年かけて書き上げた『クラバート』を紹介します。この作品は、国際アンデルセン賞・作家賞・次席、ドイツ児童文学賞、ヨーロッバ児童文学賞を受賞しています。

『クラバート』オトフリート・プロイスラー/作 中村浩三/訳 偕成社 1980

 

 
 

 

 

 

 

 

 

 

  物語は、14歳で孤児となった主人公クラバートは、自分に呼びかける奇妙な夢に誘われ、湿地のほとりにある水車小屋で11人の粉ひき職人の仲間になるところから始まります。

 「クラバートはしばらくのあいだ、霧につつまれた森のなかを、まるで盲人のように手さぐりで歩いた。するとあき地にゆきついた。ちょうど木立の下からぬけ出ようとしたとき、雲が切れて、月があらわれ、あたりのすべてが急につめたい月光のなかに浮かびあがった。

 そのとき、クラバートは水車場を見た。

 それはすぐ目の前にあった。雪のなかに黒ぐろと、おどすようにうずくまっていて、さながら、獲物を待ちぶせている、巨大な、おそろしいけだもののようであった。」(P17)

 実は水車小屋の親方は魔法使いで、金曜日の夜になると、職人たちをカラスに変え、魔法を教えていたのです、魔法を使えば、苦しい労働も楽にでき、他人をも支配することができると思ったクラバートは懸命に魔法を勉強します。しかし、クラバートが水車小屋に来て1年目の大みそか、クラバートを何かと気遣ってくれた職人頭のトンダの死をきっかけに、親方の変わりに毎年職人の中から一人、犠牲にならなければならないことを知るのです。最初の1年がふつうの3年に相当する水車小屋で、クラバートは少しずつ秘密を知りながら、心も体も成長していきます。そして、村の少女に恋をし、娘の愛を得、親方から自由になるために、生死をかけた対決をするのです。

 この物語は、ドイツのラウジッツ地方に伝わる<クラバート伝説>を素材に描かれたもので、プロイスラーは、少年のときに読んだクラバート伝説から受けた感銘の深さについて、次のように述べています。

「この物語は当時わたしに強烈な印象をあたえました。なかでも、神秘的なひびきをもつクラバートという名前がわたしの記憶に強くきざみこまれました。それにまた、水車場の職人たちの頭上に死の運命がただよい、年ねんかれらのひとりにおそいかかるという話に、わたしはひどくうごかされ、心をうばわれました。ですから、その後二十年にたって、クラバートに再会したような気持ちになったのも、けっしてふしぎではありません」(「解説」より P379)

 ラウジッツ地方は、ドイツ人(ゲルマン民族)のほかにヴェント人という少数のスラブ系の人々も住んでいる地域で、キリスト教もはいってきましたが、在来の異教の信仰の風習を濃くとどめ、魔女や魔法使いの伝説も豊富に残っているそうです。作品の中で描かれる、湿地のほとりにある不気味な水車小屋の様子、粉ひき職人や村人たちの生活などは、土地に根ざした現実感があります。

 作品の構成は、「1年目」「2年目」「3年目」の3章から成っており、年を重ねるごとに親方との対決が近づき、迫力が増していきます。1年目のクラバートはまだ何も知らない少年で、魅惑的な魔法の力に魅かれますが、次第にその力の代償の大きさを知り、自分の全てをかけて打ち勝とうとします。親方にさとされないように力になってくれる仲間、恋した少女との心のつながり、そして何としてでも抗うのだという自分の強い意志をもってして対決に臨んだとき、クラバートを解放してくれたものは何だったのでしょうか。クラバートを支えてくれた友人ユーローは、対決前のクラバートにこう伝えます。

「苦労して習得しなければならない種類の魔法がある。それが『魔法典』に書いてある魔法だ、記号につぐ記号、呪文につぐ呪文で習得してゆく。それからもうひとつ、心の奥底からはぐくまれる魔法がある。愛する人にたいする心配からうまれる魔法だ。なかなか理解しがたいことだってことはおれにもわかる。――でも、おまえはそれを信頼すべきだよ、クラバート。」(P355)

 この物語は、これから世に出て様々な矛盾と向き合いながらも、希望をもって前に進んでいこうとする若い人たちに、生きていくうえで大切なものは何かを教えてくれます。分厚い本ではありますが、文体は簡潔で読みやすく、振り仮名も丁寧に振られていますので、読みやすいと思います。

 尚、プロイスラー氏が1984年に日本講演のなかで語ったものを再話した「クラバート伝説」が、季刊誌<「子どもと昔話」33号 2007年秋 小澤昔ばなし研究所編集・発行>に掲載されています。プロイスラーの作品との大きな違いは、クラバートを解放するのは恋人ではなく母という点ですが、水車小屋で働くこと、実は親方は魔法使いであること、馬や牛に化けて取引することなど、モチーフが生かされていることがわかります。

(作成 T.I)

科学道100冊2020年版が発表されました!


自然科学の総合研究所、理化学研究所と編集工学研究所による科学書のセレクト「科学道100冊」の2020年版が発表されました。

「科学道100冊2020」

「科学道100冊」プロジェクトは、書籍を通じて科学者の生き方・考え方、科学の面白さ・素晴らしさを届ける事業として、2017年に始まりました。

「科学」と「本」という、理化学研究所と編集工学研究所の強みを生かして、中学生・高校生を中心に幅広い層に科学の魅力を多様な視点から伝えるものになっています。

 

 

昨年の「科学道100冊」の記事は、「ロウソクの科学」を紹介するページでジュニア版についてお知らせしました。(→こちら
(ジュニア版は小学生にも理解できるラインナップになっています)

ブックレットなども取り寄せて館内で展示することも可能です。ぜひ参考にしてみてください。

(作成K・J)

基本図書を読む30『エイブ・リンカーン』 吉野源三郎(再掲載)


こちらは2016年9月30日に公開した記事の再掲載です。4年前の11月のアメリカ大統領選挙ではドナルド・トランプ氏が選ばれました。それからの4年間は世界的にもナショナリズムが台頭してきました。今年もまたアメリカ大統領選挙が行われます。トランプ大統領が再選されるか、世界中が注目しています。その動きを注視しながら、再読したいと思います。

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 2016年11月8日にアメリカ大統領選挙が行われますが、今回の「基本図書を読む」では、「人民の、人民による、人民のための政治を、断じてこの地上から死滅させない」というゲティスバーグ演説で有名な第16代アメリカ合衆国大統領エイブラハム・リンカーンの伝記を紹介します。

エイブ・リンカーン (ジュニア版 吉野源三郎全集) 
吉野 源三郎
ポプラ社
2000-08

 

 

 

 

 

 リンカーンの伝記は多数出版されていますが、この作品は、子どもたちが読み物として読めるよう、事実に基づいて物語風に書かれています。肩書や成し遂げたことだけでなく、リンカーンが何を見て、何を感じたのか、内面まで掘りさげて描かれているので、信念をもち自分の成すべきことにしっかり向き合った一人の人間を感じることができます。

「都会育ちの人びとから見ると、彼は感じのにぶい男に見えましたし、たしかに彼の心は、ものごとに応じて軽快に、しなやかに動いてゆくほうではありませんでした。しかし、彼はものごとをどっしりと深く経験してゆく男でした。心の表面ではなく、魂のしんで経験してゆく男でした。このしんまでひびいてくるほどの経験はめったにありませんが、その代わり、このしんまでしみ通った以上は、一生心から消しとることができない思いとなって残ります。」(P124)

 リンカーンは、貧しい家庭に生まれながら、自分の力で身を立て、州議会の議員からやがてアメリカ大統領となります。当時アメリカでは、奴隷制をめぐる争いが激しさを増していました。リンカーンは、ニューオリンズの奴隷市場で混血の少女が裸にされて売られていく場面に衝撃を受け、その出来事を生涯忘れることがなかったそうで、奴隷制に反対し続けました。ただしすぐに廃止するという姿勢をとっていたわけではなく、アメリカが分裂することがないよう、少しずつ奴隷州より自由州を多くしていくことで、奴隷制をなくそうと考えを持っていたそうです。しかし奴隷制への反対を表明していたリンカーンが大統領となることで、ついにアメリカ南北戦争が起こります。リンカーンは、その南北戦争中に奴隷解放宣言を出しますが、結局戦いは4年も続くことになります。そして、北軍が勝利をおさめた11日後にリンカーンは暗殺されるのです。

 リンカーンが奴隷解放宣言を出すに至るまで、奴隷制をめぐってアメリカがどのように揺れ動いたのか、当時のアメリカの政治や人々の生活も物語の中でわかりやすく描かれています。物語になっていることで、過去の出来事を読んでいるというよりは、リンカーンの生きた時代の空気を感じながらその場にいるように読むことができます。リンカーンの一生をみていると、苦難が多く、華々しく幸福な人生を歩んだとは言い難いかもしれまん。冗談を言って人を笑わせるのが好きで、明るく朗らかな人柄だったそうですが、一人でいるときは深い悲しみの表情を浮かべ沈みこんでいることもあったようです。この本を読み終えると、長年の苦労に耐え、深いしわの刻まれた、それでもしっかり立っている老木のような独りの人間が心に残ります。(リンカーンの身長は193センチもあったそうです。)

 著者の吉野源三郎は、哲学者でもあり、編集者でもありました。戦前、新潮社の「日本少国民文庫」の編集に携わり、『エイブ・リンカーン』の原型となった数章もこの文庫に収められています。このエイブ・リンカーンの伝記から、子どもたちに「人としてどのように生きるか」という問いに真摯に向き合ってほしいという著者の強い思いが伝わってきます。子どもたちは、この本を通して、エイブ・リンカーンその人と、一人の人間を描き出した著者、信念をもった二人の大人に出会うことができるのではないでしょうか。

 また、リンカーンの有名な子ども向けの伝記に、ニューベリー賞など数々の賞を受賞した『リンカン―アメリカを変えた大統領』があります。

 『リンカン―アメリカを変えた大統領』(ラッセル・フリードマン著 金原瑞人訳 偕成社 1993)

 
リンカン―アメリカを変えた大統領 
ラッセル・フリードマン
偕成社
1993-07

 

 

 

 

 

  著者のラッセル・フリードマンはジャーナリストで、この本では数多くの写真や資料をもとに、リンカーンの一生を客観的に描いています。少し通った小学校で学んだときのノート、「私は奴隷になりたくありません」と書いた自筆の文、またたくさんの顔写真から、リンカーンの人柄を感じることができます。南北戦争の戦場の写真(戦場で倒れた兵士たちの写真もあります)や大統領就任演説の写真(当時流行していたシルクハットをかぶっている観衆がたくさんいます)などから当時の様子が伝わってきます。 吉野源三郎の物語風の伝記とは異なった手法ですが、その人の生きた時代がどのようなもので、その中でどのように生きたのか、欠点や失敗を含め一人の人間の生き様がに描かれていることは共通しています。

 リリアン・スミスは『児童文学論』(岩波書店 1964)の「知識の本」の章の中で、次のように記しています。

「歴史や伝記にでてくる人物の生涯は、想像力を豊かにし、希望や競争心を高めてくれるものにみちている。この種類の本を読むことは、子どの人生経験を広める。つまり、人間の生活という大きなドラマにたいする共鳴と理解を、子どもの内によびおこすのである。」(P345)

 小学校高学年になると社会に目を向けるようになり、その中で自分はどう生きていくのか?と考えるようになってきます。そのような子どもたちの力になる、しっかりと時代をとらえ、その人物を描き出した伝記を手渡していきたいものです。

(作成 T.I)

基本図書を読む29『時の旅人』アリソン・アトリー(再掲載)


2016年8月31日に公開した記事の再掲載です。夏の夜にタイムファンタジー、お勧めです。

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 イギリスの児童文学者アリソン・アトリーは「グレイ・ラビット」シリーズ、「チム・ラビット」シリーズや「サム・ピッグ」シリーズなど動物が主人公の動物ファンタジーの妙手です。これらの作品は、自分で物語が読めるようになった子どもたちの気持ちに寄り添うもの作品で、今も幼年文学として読み継がれています。(児童部会「基本図書から学ぶ第2回」報告を参照)

 今回はそんなアトリーの作品の中でも、タイム・ファンタジーと呼ばれ、ヤングアダルト向けとされる『時の旅人』(イギリスでは1939年刊)を取り上げてみたいと思います。 

 
『時の旅人』アリソン・アトリー/作 小野章/訳 評論社 1980
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
『時の旅人』アリソン・アトリー/作 松野正子/訳 岩波少年文庫 岩波書店 2000
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「夢か、現か、幻か」・・・読み終えて、浮かんだ言葉でした。

 少女ペネロピーは病気療養のために、兄姉とともにイングランド中部ダービシャー地方にある大叔母ティッシーとその弟バーナバスの住むサッカーズ農場を訪れます。もともと、ほかの家族には見えない亡霊をみる不思議な能力を持っていたペネロピーは、サッカーズ農場を舞台にかつてこの地で生活をしていたバビントン家の人々と350年の時を越えて交流するようになります。

 ペネロピーたちが生活をはじめたサッカーズ農場の屋敷には、350年以上も前に住んでいたバビントン一家の残したものがそこかしこにありました。到着した二日後のこと、ペネロピーは出かける前に2階へひざ掛けを取りに上がり、ドアを開けるとそこに16世紀の衣装を身にまとった貴婦人たちを見ます。そしてティッシーおばさんから、バビントン家の人々と歴史に刻まれているバビントン事件のことを聞かされます。

 その数日後、ペネロピーはまた着替えを取りに2階にかけあがり、ドアを開けた途端に階段をころげ落ちます。気がつくとそこは16世紀のバビントン屋敷の中でした。そこでティッシーおばさんにそっくりのシスリーおばさんに出会います。350年の時間を遡っているにもかかわらず、彼女の姪「ペネロピー・タバナー」として受け入れられ、そこでしばらくの時間を過ごすのです。ところが、門の木戸を抜けると元の時間に戻ってきていたのでした。

 “「すぐもどってきた!」と私はそっと同じことばをくり返しました。何時間も、いえ、何日にも思えるほど、よそに行っていたのに、大きな柱時計の針は私のいないあいだに少しも動いていませんでした。時間と空間を消滅させてしまって、一瞬のうちに何年間も、世界の果てまでも、旅のできる夢のように、私は別の時代に入りこんで、そこで暮らして、柱時計の振り子が半球レンズのうしろで一振りする前に、もとのところへもどってきていました。私はべつの時代のよろこびと不安を味わいました。べつの時代の暮らしの中をしずかに動き、庭を歩き、話をし、あちこちして、そしてまたたくうちに、もどってきたのでした。夢を見たのでもなく、眠っていたのでもなく、私のしたこの旅は、澄みきった空中を通りぬけ、時間を逆もどりした旅でした。たぶん、私はあの時間のかけら― 一瞬間 ―死んで、私の亡霊が年月を飛び越えていったのでしょう。” (岩波少年文庫版『時の旅人』松野正子/訳 p125~126)

 ペネロピーはその後も、時間を飛び越えて過去のバビントン家と関わりを持ち、また元の世界へ戻ってくることを繰り返します。まさにその時代は、イギリスはエリザベス1世統治の世であり、スコットランド女王メアリー・スチュアートとの覇権争いの中、ペネロピーが出会ったバビントン家の跡取りアンソニーは、物語の後半でバビントン事件(エリザベス1世に幽閉されているメアリー女王の脱出を企てるも失敗に終わり、1586年にエリザベス1世暗殺を計画したとして処刑された事件)に関わっていきます。

 その悲劇の結末を知りつつ、過去の時代の人々と関わり、アンソニーの弟フランシスと惹かれあうペネロピー。読み進めるうちに、読者はこの特異な二人の出会いと決して結ばれることがないにもかかわらず確実に心を交わしあう関係に引き込まれていきます。 

 イギリスの児童文学でタイムファンタジーの双璧と呼ばれるフィリパ・ピアスの『トムは真夜中の庭で』(1958)(基本図書を読む㉒参照)では、時計が13時を打つことが過去の時間への入口として明確に描かれていますが、『時の旅人』では過去への明確な入口はありません。読み進んでいるうちにいつの間にかペネロピーが過去の時間に移動し、また現代に戻ってきており、周囲の登場人物からペネロピーが今どの時代にいるのかを類推することになります。

 

 このことについて、佐久間良子氏は、『現代英米児童文学評伝叢書6 アリソン・アトリー』(KTC中央出版 2007)の中で「このタイム・ファンタジーを成り立たせているのは、いくつもの時間が重なり合って共に存在し、古い家にかつて住んでいた人たちが、そのまま影となってそこに生き続けるという、アトリーの時間についての考えである。そしてアトリーが実際に見た夢を記録し、それについて解説している『夢の材料』では、この時間の概念が、夢と結びつけて語られている。主人公ペネロピ(原文ママ)の時間を越えた旅には、アトリーの語る夢の特質が顕著に表れていて、すべてを夢と考えることができる。しかし、アトリーにとって夢はもうひとつの現実であり、この作品における主人公の時間旅行をすべて夢と解釈しても、主人公の体験の真実性が失われることはない。」とし、アトリーの描き出す世界観の巧さを指摘しています。


『アリソン・アトリー』現代英米児童文学評伝叢書6 佐久間良子/著 谷本生剛/原昌/三宅興子/吉田新一/編 KTC中央出版 2007
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 



 

 それは、この作品のまえがきにアトリー自身が記しているように、舞台となったサッカーズ農場が、アトリーが子ども時代を過ごしたキャッスル・トップ農場の記憶と重なっていたこと、その農場の近くにバビントン家の治めていた土地や館があり、その土地で語り継がれるバビントン家の物語をアトリー自身が聞いて育ったことと関係があるようです。だからこそ物語にリアリティが感じられ、読者はその世界へと惹きつけられていくのだと思います。

 この物語の魅力をまとめてみると第一に、農場を取り巻く季節や花や草などの自然や、古い屋敷の調度品などの細部が丁寧に描き込まれていることです。第3章の「ハーブガーデン」(岩波少年文庫版、評論社版では「薬草園」と訳されている)などは、花の香りまで漂ってきそうです。

 第二に、中世のイギリス史をベースに物語が描かれていることです。ペネロピーが迷い込んだ過去は、イギリス宗教改革を断行したヘンリー8世のあとのエリザベス1世と、スコットランド女王メアリー・スチュアートとの覇権争いの時代でした。二人はヘンリー8世をめぐる血縁関係にあるが故に複雑な王位継承権がからみイギリス国教会を支持するエリザベス1世と、カトリック信者であるメアリー女王は対立します。メアリー女王は長く幽閉された後、エリザベス女王の手によって処刑されるという悲劇的な結末は、イギリス中世史への興味を引き起こします。16世紀後半といえば、日本では安土桃山時代。メアリー女王側についたバビントン家はさながら豊臣側についた真田家だろうかなどと、想像しながら読み進むことができました。

 第三に、この物語の重要なキーワードとなっている「Greensleeves」という歌の存在です。16世紀頃から歌い継がれているこの歌は、恋しい人を想う歌であり、シェイクスピアが喜劇「ウィンザーの陽気な女房たち」の中で触れたり、現代ではオリビア・ニュートン・ジョンなどがカバーして歌っており、また曲はクリスマスキャロル(賛美歌216番)となっているので、耳にしたことのある人は多いでしょう。この歌が過去と現代を結ぶ鍵になっています。ペネロピーがある日、礼拝用の緑のドレスを着たまま過去へ行くと、フランシスがロンドンで今流行っている歌だと言って、聞かせてくれるのでした。この歌は過去の時代でも現代でも物語の中で何度か歌われますが、一番切なく心を打つのは物語の最終盤、ペネロピーが雪の中に佇みながら、ほんの一瞬姿を見せた過去の世界でフランシスが歌う声を聞くシーンでした。ペネロピーはフランシスの歌声をたしかに聞きながらも、生きて過去へ行きフランシスに会うのはこれが最後だと悟るのです。 

 「グリーンスリーブスよ、いざ、さらば!
 神の恵、君が上にあらんことを。
 われ、今も君を愛す。
 ふたたび来りてわれを愛せ。」(岩波少年文庫版 p437)

 

 第四に、旧約聖書・創世記37~50章に描かれた「ヨセフの夢」を、アンソニーの妻、バビントン家の奥方が刺繍していたというエピソードです。「ヨセフの夢」とは、イスラエル民族の始祖アブラハムのひ孫にあたるヨセフが、少年時代に見た夢です。異母兄弟たちが年少の自分にひれ伏すという夢を麦の穂にたとえて話し、嫉妬にかられた兄たちに奴隷として売り飛ばされエジプトへ行くのですが、そこで能力が買われ宰相にまで上り詰めます。後にイスラエルの地に飢饉が起き、兄たちが売り飛ばした弟ヨセフと知らずに援助を請いに来た時に、ヨセフがその兄たちを許し、受け入れるという物語です。血縁関係にある王家の人々の権力争いに夫が巻き込まれようとしている時にバビントン夫人が「ヨセフの夢」を刺繍し、そしてその刺繍したタペストリーの端切が350年以上時を隔てて、客用の寝室でキルトの一部分になってみつかるという手の込んだアトリーの表現に、深い思いを感じ取りました。

  『時の旅人』については、先に取り上げた『 アリソン・アトリー』(現代英米児童文学評伝叢書6 谷本生剛/原昌/三宅興子/吉田新一/編  佐久間良子/著  KTC中央出版 2007)や、『作品を読んで考えるイギリス児童文学講座4 花ひらくファンタジー』(中野節子、水井雅子、吉井紀子/著 JULA出版局 2012)に詳しく論じられています。 

 

 

『花ひらくファンタジー』作品を読んで考えるイギリス児童文学講座4 中野節子、水井雅子、吉井紀子/著 JULA出版局 2012

 

 

 

 また、アリソン・アトリーの伝記『物語の紡ぎ手 アリソン・アトリー』(デニス・ジャッド/著 中野節子/訳 JULA出版局 2006)には、サッカーズ農場の舞台になったダービシャーの美しい風景や建物を収めた写真や、故郷の地図など豊富な資料があり、『時の旅人』の世界を垣間見ることが出来ます。

 
 
『物語の紡ぎ手 アリソン・アトリー』デニス・ジャッド/著 中野節子/訳 JULA出版局 2006
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 なお、私は若い頃に評論社版(小野章/訳 1980)で読みましたが、今回は岩波少年文庫版(松野正子/訳 1998)と両方を読み比べてみました。個人的には慣れ親しんだ評論社版の本が好きなのですが、今の子どもたちには、現代使われている言葉(例えばハッカ草→レモンバーム、水ハッカ→ミント、オランダガラシ→クレソン)で翻訳され、またイギリスで1978年に出版されたパフィン版の挿絵がふんだんに使われている岩波少年文庫版が手渡しやすいでしょう。今回、久しぶりに読んで、深く掘り下げてみましたが、初めて読む子どもたちには、時を飛び越えるロマンティックな物語として、楽しめるのではないでしょうか。

 

(作成K・J)

基本図書を読む28『注文の多い料理店』『風の又三郎』『銀河鉄道の夜』宮沢賢治(再掲載)


この記事は、2016年8月4日に公開された記事の再掲載です。4年前に公開されていた「宮沢賢治生誕120年ホームページ」は現在閉鎖されていますので、リンクを削除しています。ご了承ください。

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(2016年8月4日公開記事)

今年2016年が、宮沢賢治生誕120年であることを書き落としていましたので、追記します。宮沢賢治は1896年8月27日に岩手県花巻市で生まれました。花巻では宮沢賢治生誕120年記念事業として、ステントグラスのライトアップや花火、特別展など様々な催しが開かれるようです。   

宮沢賢治生誕120年ホームページ 

各地でも生誕120年を記念してイベントが開かれていますので、ぜひ図書館でも特集展示などを組んでみてはいかがでしょうか。

宮沢賢治は岩手県花巻市で生まれた詩人・童話作家です。その作品は教科書の教材としても多く扱われていますので、ほとんどの人がその名前を聞いたことがあるのではないでしょうか。賢治は、37歳の若さで亡くなり、生前に出版されたのは、詩集『春と修羅』、童話集『注文の多い料理店』のみですが、死後評価され、その作品が広められました。農学校の教師を務めたり、「羅須地人協会」(らすちじんきょうかい)を設立して地域文化活動を試みたりもした人で、作品とともにその生き方や価値観も多くに人をひきつけています。賢治の作品は様々な形で出版されていますが、今回は岩波少年文庫の3冊『注文の多い料理店』『銀河鉄道の夜』『風の又三郎』を中心に紹介します。

注文の多い料理店―イーハトーヴ童話集 (岩波少年文庫 (010)) 
宮沢 賢治
岩波書店
2000-06-16

初の童話集『注文の多い料理店』の全作品と詩11編が収められています。山奥で迷った狩人が不思議な料理店に入り込む「注文の多い料理店」、一郎のもとに山ねこからどんぐりの裁判に来てくださいという手紙がくる「どんぐりと山ねこ」、でんしんばしらの軍隊が月夜に行進する「月夜のでんしんばしら」など、小学生でも楽しく読みながら独特の世界を味わえる作品が多くあります。賢治の描いた独特の挿絵も掲載されています。

 

 
銀河鉄道の夜 (岩波少年文庫(012)) 
宮沢 賢治
岩波書店
2000-12-18

 銀河鉄道にのって少年ジョバンニがカンパネラと天空を旅しながら様々なことを感じる「銀河鉄道の夜」、鳥の子を助けたうさぎのホモイが貝の火という美しい玉を手に入れますが、美しいままで持っていることができなかった「貝の火」など、幻想性に富んだ作品を中心に7編が収められています。

 

 
風の又三郎 (岩波少年文庫(011))
宮沢 賢治
岩波書店
2000-11-17

 9月の風の強い日に不思議な転校生がやってくる「風の又三郎」、雪の凍った日にきつねの小学校の幻燈会によばれる「雪渡り」、上手ではないセロ弾きのゴーシュのもとに動物たちがやってくる「セロ弾きのゴーシュ」など、岩手の郷土が豊かに描かれているものを中心に10編が収められています。

 

賢治の作品を読むと、自己犠牲の精神や独特の宗教観なども感じられ、よくわからないな、というところもありますが、不思議にその世界にひきこまれます。空に光る星々、野山で生活する動物たち、農村で暮らしている人々、ざしき童や山男などの普段は見えないもの、そういったものたちの営みがユーモアをもって描かれていて、その息遣いを感じることができます。その作品は、感性豊かな子ども時代に触れてほしいものであると同時に、大人になって読み返すと、また新たな不思議を味わえるような深みのあるものです。 

言葉の響きも独特で味わいがあります。「どっどど どどうど どどうど どどう」(「風の又三郎」)、「赤いしゃっぽのカンカラカンのカアン。(「かしわばやしの夜」)、など思わず声に出して読みたくなります。作品の中に、詩や歌が取り入れられているともあり、言葉で楽しさも味わうことができます。

また多くの画家が賢治の作品の挿絵を描いています。文章だけではイメージしにくいという子も、挿絵があることで親しみやすくなると思います。ぜひ賢治の作品の一つ一つと丁寧に向き合って描いたものを選んで手渡してあげてください。『セロひきゴーシュ』(茂田井武画 福音館書店 1966)、『雪わたり』(堀内誠一画 福音館書店 1969)、『水仙月の四日』(赤羽末吉画 福音館書店 1969)、などは、同じ作家の作品でもここまで風合いが違うのかと驚きますが、それぞれ作品世界の雰囲気を見事に描き出しています。

 
セロひきのゴーシュ (福音館創作童話シリーズ) 
宮沢 賢治 茂田井武/画
福音館書店
1966

 

 

 

 
雪わたり (福音館創作童話シリーズ)
宮沢 賢治 堀内誠一/画
福音館書店
1969
 
 
 
 
 
 

 
水仙月の四日 
宮沢 賢治 赤羽末吉/画
福音館書店
1973
 
 
 

賢治は童話集『注文の多い料理店』の「序」に次のように記しており、賢治がどのようなことを考えて作品を描いたのか伝わってきます。

「 これらのわたくしのおはなしは、みんな林や野はらや鉄道線路やらで、虹や月あかりからもらってきたのです。

 ほんとうに、かしわばやしの青い夕方を、ひとりで通りかかったり、十一月の山の風のなかに、ふるえながら立ったりしますと、もうどうしてもこんな気がしてしかたないのです。ほんとうにもう、どうしてもこんなことがあるようでしかたないということを、わたくしはそのとおりに書いたまでです。

 ですから、これらのなかには、あなたのためになるところもあるでしょうし、ただそれっきりのところもあるでしょうが、わたくしには、そのみわけがよくつきません。なんのことだが、わけのわからないところもあるでしょうが、そんなところは、わたくしにもまた、わけがわからないのです。

 けれども、わたくしは、これらのちいさなものがたりの幾きれかが、おしまい、あなたのすきとおったほんとうのたべものになることを、どんなにねがうかわかりません。」

(『注文の多い料理店 イーハトーブ童話集』  岩波書店 2000 P9~10)

子どもたちには賢治作品の楽しいところをたっぷり味わってもらうとともに、作品に触れることで、宮沢賢治という100年以上前に生まれた一人の人間に出会ってもらえればと思います。

(作成 I.S)

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