Tag Archive for 児童書・絵本の新刊

2019年9月、10月の新刊から
2019年7月、8月、9月の新刊から(その2)読み物ほか
2019年7月、8月、9月の新刊から(その1)絵本
2019年6,7月の新刊から(その2)
2019年6月、7月の新刊から(その1)
2019年4月、5月の新刊から(その2)読み物(6/26追加あり)
2019年4月、5月の新刊から(その1)絵本(追記あり)
2019年3月、4月の新刊から
2019年1月、2月の新刊から
2018年の新刊から*見落としていた本の紹介
2018年11月、12月の新刊から
2018年10月、11月の新刊から
2018年9月、10月の新刊から(その2)
2018年9月、10月の新刊から(その1)
2018年8月、9月の新刊から

2019年9月、10月の新刊から


2019年9月、10月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、新刊作品を紹介します。(一部、見落としていた8月以前の新刊も含まれます)

 

ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。出版されたすべての新刊本を購入して読むことはできませんが、毎月、教文館ナルニア国の新刊本コーナー、クレヨンハウス新刊本コーナー、横浜日吉にあるともだち書店など、信頼できる児童書の目利きのいる書店にある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。

 

(なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

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【絵本】

『めをとじてみえるのは』マック・バーネット/文 イザベル・アルスノー/絵 まつかわまゆみ/訳 評論社 2019/7/20

めを とじて みえるのは (評論社の児童図書館・絵本の部屋)
マック・バーネット
評論社
2019-07-10
 
もう寝る時間なのに、女の子は「どうしてうみはあおいの?」、「どうしてはっぱはいろがかわるの?」、「ふゆにむかうと、どうしてトリはみなみにとんでいっちゃうの?」と次々にパパに質問します。それにユーモアをもって答えていくパパ。「どうして、ねなくちゃいけないの?」という質問には、目を閉じてはじめて見える世界があることを、そっと伝えます。親子のおやすみ前の大切な時間、こんな風に過ごせるといいですね。
 
 
 

『レナレナ』ハリエット・ヴァン・レーク/作 野坂悦子/訳 朔北社 2019/7/20

レナレナ
ハリエット・ヴァン・レーク
朔北社
2019-07-01

オランダで最も権威のある子どもの本の賞であるGouden Griffel(金の石筆賞)を1987年に受賞した『レナレナ』という絵本が復刊されました。作者であるハリエット・ヴァン・レークのデビュー作でもあり、またオランダ語の児童文学や絵本の翻訳者である野坂悦子さんにとっても翻訳作品のデビュー作品です。見開き左ページにはコマ割りの絵、右ページには手書き文字でレナレナの不思議で面白い行動を淡々と記しています。華奢な線で描かれるレナレナのやることなすこと、奇妙に感じますが、思ったまま行動する幼子のようでもあり、ふっと肩の力が抜けてきます。YA世代におすすめです。

 

 

『ぼくはレモネードやさん』えいしましろう/作・絵 生活の医療社 2019/8/30

ぼくはレモネードやさん
えいしましろう
生活の医療
2019-08-3

この絵本の作者は2007年生まれの12歳の男の子です。3歳の時に脳腫瘍を発症、2度の手術、放射線治療、化学療法を受け、5歳で退院しています。その後もずっと通院を続けています。小学3年生の時に小児がんについて知ってもらうための活動(レモネードスタンドや、患児やきょうだい児、家族の交流会など)を始めます。この絵本も、小児がんになって入院生活を送る子どもたちのこと、退院して学校に通うようになっても、後遺症に悩まされている子どもたちがいることを知ってほしいと願って作られています。大変な治療が続く中でも友達と支え合いながら、ポジティブにそれを捉えている姿に、ほんとうの強さ、優しさとはなんだろうと考えさせられます。

 

 

『ぽっとんころころ どんぐり』いわさゆうこ/作 童心社 2019/8/30

ぽっとん ころころ どんぐり
いわさ ゆうこ
童心社
2019-09-03

前半ではくぬぎの木が春から秋への変化していく様子を描き、中盤ではさまざまな種類のどんぐりがあることを伝え、後半ではどんぐりが多くの野生動物の栄養源になっていることを、幼い子ども達にもわかりやすく教えてくれる絵本です。『きゃっきゃっキャベツ』、『つやっつやっなす』など、「どーんとやさい」シリーズと同じいわささんの新刊です。

 

 

『とんでいったふうせんは』ジェシー・オリベロス/文 ダナ・ウルエコッテ/絵 落合恵子/訳 絵本塾出版 2019/9

とんでいった ふうせんは
ジェシー・オリベロス
絵本塾出版
2019-09-24
 
おじいちゃんの記憶を風船にたとえて、老いについて考えさせてくれる絵本です。アメリカで2019年ゴールデン・カイト賞シュナイダー・ファミリーブック賞を受賞しています。孫の男の子は、おじいちゃんの昔の思い出話を聞くことが大好きでした。おじいちゃんは、その生きてきた時間を示すようにたくさんの風船を持っているのです。ところがある時から、その風船がその手を離れていってしまうことすら気づかず、しまいには何も残ってない。おじいちゃんが、記憶を無くすことに戸惑う息子に、両親はおじいちゃんの記憶はあなたが引き継いでいるのよと優しく諭すのです。人は必ず老いていきます。家族がそれを引き継ぐことで記憶が伝承されていく。そこに救いを感じました。
 
 

『くるまがいっぱい!』リチャード・スキャリー/作 木坂涼/訳 好学社 2019/9/2

くるまが いっぱい!
リチャード・スキャリー
好学社
2019-09-03

アメリカで初版1951年、1987年に改訂版が出版された作品の翻訳絵本です。「スキャリーおじさん」シリーズ(BL出版)で親しまれているスキャリーの絵本の特徴は、その鮮やかな色彩にあるといえます。描かれている車はどれも今ではクラッシックカーとなっていますが、乗っている人物の表情も豊かで、小さな子どもたちにとっては、車の絵本として楽しめるでしょう。

 

 

『おつきさまひとつずつ』長野ヒデ子/作 童心社 2019/9/5

 
実際にあった娘さんとのエピソードが絵本になりました。長野ヒデ子さんのお嬢さんと満月の夜に歩いていると、「お月さまがついてくる」と言ったお嬢さん。地球上のあちこちからお月さまが見えることを伝えると、それぞれの国にひとつずつお月さまがあると思い込んでいたそうです。そんな子どもらしい勘違いが可愛らしい作品です。(長野麻子さんは音楽学研究者。長野ヒデ子さんが絵を描いた絵本『すっすっはっはっ こ・きゅ・う』(童心社 2010)、『まんまんぱっ』(童心社 2016)があります)

 

 

『きょうのぼくはどこまでだってはしれるよ』荒井良二/作 NHK出版 2019/9/5

きょうのぼくはどこまでだってはしれるよ
荒井 良二
NHK出版
2019-09-05
 
愛馬あさやけに乗って男の子が駆けていきます。それは新しく生まれてくる命に、あるいはなにか新しいことを始める人にお祝いのことばを届けるためです。どんなに暗い夜にも必ず夜明けがやってくるように、あさやけの中で見る光景は希望の象徴でもあります。現実の世界では自然災害や、子どもたちへの虐待など暗いニュースが続きます。だからこそ荒井良二さんはあえてまばゆい光の世界を描いたのではないかと思います。それは子どもたちの未来が、光り輝くものであってほしい、そのために大人が今、何をすべきなのかと問いかけてくるようにも感じました。3年ぶりのオリジナル絵本です。

 

『すてきってなんだろう?』アントネッラ・カペッティ/文 メリッサ・カストリヨン/絵 あべけんじろう・あべなお/訳 きじとら出版 2019/9/15

すてきって なんだろう?
アントネッラ・カペッティ
きじとら出版
2019-09-01

板橋区立いたばしボローニャ子ども絵本館主催「いたばし国際絵本翻訳大賞〈イタリア語部門〉」の2018年第25回(→こちら)で、最優秀翻訳大賞を受賞した絵本がきじとら出版から出ました。「すてき」と声をかけられたいもむしが、「すてきってなんだろう?」とその意味を探して回ります。聞く相手ごとに「すてき」の意味が違っていて混乱するいもむしくん。こんな風に考える前は気楽だったのになあと思います。幼児期の子どもたちは、新しいことばを覚え、そのことばの意味がなんであるかを理解する過程で、具体的思考から抽象的思考へと思考能力を身に付けていきます。まさにそんな年代の子どもたちと一緒に楽しみたい絵本です。

 

『きみののぞみはなんですか?』五味太郎/作 アノニマスタジオ 2019/9/14

きみののぞみはなんですか?
五味太郎
アノニマ・スタジオ
2019-09-24

絵本作家歴46周年を迎えた五味太郎さんが「アートと哲学とユーモア」をコンセプトにしてつくられた、「くるみドイツ装」と呼ばれる装丁の詩画集のような絵本です。「ぞう・きみののぞみはなんですか?」、「ワニ・すきなのだれ?」、「つくえ・なにがすき?」、「家・なりたいもの なんですか?」と、五味さんが問いかける相手は、命有るものいれば、無いものも。その答えも五味さんらしく、ちょっと捻ってあって、面白い。文字の配置も凝っていて、アート作品として見ても楽しい本です。

 

 

『しろとくろ』きくちちき/作 講談社 2019/9/17

しろとくろ (講談社の創作絵本)
きくち ちき
講談社
2019-09-19
はじめて出会うものすべてに「なんで なんで」となんでも知りたがる好奇心旺盛な猫のしろ。そんな中で犬のくろと出会います。「まってまって いっしょにあそぼう」二匹はたがいに大好きな存在に。小さな子どもたちが、友達に会うのを心待ちにする、そんな気持ちが、画面から溢れています。11月10日まで武蔵野市立吉祥寺美術館で、この絵本の原画展(しろとくろ きくちちき絵本展→こちら)が開催されましたが、その原画展の図録には、犬のくろの立場から、しろとの出会いを喜ぶ『くろ』という絵本もついていました。両方読むと、さらに『しろとくろ』の世界観がぐっと迫ってきます。(きくちちきさんがビラティスラヴァ世界絵本原画展で金牌を受賞した記事→こちら

 

『たいこ』樋勝朋巳/文・絵 福音館書店 2019/10/5

たいこ (幼児絵本シリーズ)
樋勝朋巳
福音館書店
2019-10-02

きょうはマラカスのひ―クネクネさんのいちにちー』のくねくねさんが戻ってきました。くねくねさんが「トン トン トトトン トン トン トトトン」とたいこを叩いていると、次々にフワフワさんなど「なかまにいれて」とともだちがやってきます。みんなで仲良くたたいていると「うるさいぞー ガオーガオー」とかいじゅう。でも、かいじゅうもたいこを叩くと「ゴン ゴン ガオー」どんどん楽しくなってきて、みんなも戻ってきて、一緒に「トン ポコ ペタ ボン ガオー ゴン」と叩き始めます。読んでいる方もリズムに合わせて、楽しくなってきます。(そのほかのクネクネさんシリーズは『フワフワさんはけいとやさん』(2014)、『クネクネさんのいちにち きょうはパーティーのひ』(2017)があります。)

 

『やぎのグッドウィン』ドン・フリーマン/作 こみやゆう/訳 福音館書店 2019/10/10

やぎのグッドウィン (世界傑作絵本シリーズ)
ドン・フリーマン
福音館書店
2019-10-09
 
くまのコールテンくん』などの作者ドン・フリーマンが生前に出版したいと願っていたにも関わらず、出版できずにいた作品です。最終段階のダミー本を息子が発掘し、2017年に60年ぶりに新作として出版されました。実際にフリーマン夫妻が若いころに、やぎに絵の具をくちゃくちゃ噛まれてという体験をもとに着想されたお話は、とても愉快で、また最後はほんとうに大切なものは何なのかを気づかせてくれます。翻訳はこみやゆうさんです。
 

 

『おたんじょうびのおくりもの』むらやまけいこ/作 やまわきゆりこ/絵 教育画劇  2019/10/19(第2版)

おたんじょうびのおくりもの
村山桂子
教育画劇
2019-10-15

1984年に出版された絵本の第2版です。第1版は264mm×188mmでしたが、200mm×200mmと版型が変わっています。正方形になったことで、小さな子ども達には手になじみやすい形になっています。うさぎのぴょんぴょんは、ともだちのみみーに会いに行こうとして、今日がみみーの誕生日だったと思いだします。みみーへの贈り物にりんごがあったと思い出しますが、隠しておいたところを探してもみつかりません。やっとのことで、やぎのおじいさんが病気だと知ってあげてしまったことを思い出してがっかりするぴょんぴょん。そこへやぎのおばあさんがやってきて・・・ぴょんぴょんはりんごを雪の中に隠していました。冬に読んであげたい1冊です。

 

『図書館のふしぎな時間』福本友美子/作 たしろちさと/絵 玉川大学出版部 2019/10/20

図書館のふしぎな時間 (未来への記憶)
福本 友美子
玉川大学出版部
2019-10-12

上野にある国立国会図書館国際子ども図書館を訪れたことはありますか?この絵本は、長く公立図書館で司書をされ、その後児童書の翻訳(『としょかんライオン』(岩崎書店)、『ないしょのおともだち』(ほるぷ出版)など)をされている福本友美子さんのオリジナル作品です。2000年の国際子ども図書館オープンから8年間、非常勤調査員として展示会などに関わった経験をもとに書かれています。図書館で調べ物をするお母さんについてきた女の子が「子どものへや」で本を読んでいると、書架の間に本の妖精が現れて、図書館のなかを案内してくれることになります。女の子は、本の世界のひろがり、物語の力、図書館の役割を妖精との会話で改めて知っていきます。たしろちさとさんの絵も柔らかく、素敵です。

 

『くろはおうさま』メネナ・コティン/文 ロサナ・ファリア/絵 宇野和美/訳 THOUSANDS BOOKS  2019/10/25

くろは おうさま
メネナ・コティン
サウザンブックス社
2019-11-16
 
真っ黒な紙に絵とスペイン語の点字が浮き出るようにエンボス加工がされている絵本です。そこに広がっているのは、目の見えないトマスが感じている色の世界です。視覚に障害を持つ人が色をどのように捉えているのか、一緒に感じてほしいと思います。ベネズエラの作家と画家による作品で、メキシコで出版されました。2007年のボローニャ国際児童図書展ラガッツィ賞(ニューホライズン部門)と、2008年のニューヨークタイムズ・ベスト・イラスト賞を受賞しています。THOUSANDS BOOKSのクラウドファンディングで日本語に翻訳されました。日本語版が出る時に、別冊で日本語の点字シートもついています。
 
『ねこのオーランド― よるのおでかけ』キャスリーン・ヘイル/作 こみやゆう/訳 好学社 2019/10/25

ねこのオーランドー よるのおでかけ
キャスリーン・ヘイル
好学社
2019-10-23
ねこのオーランド―は、ご主人が読んでいる新聞記事に「サーカス‼世界で一番すばらしいライオンとトラの芸!!!」と書いてあるのを見て、こねこたちを連れてサーカスへ出かけていきます。ところがひょんなことから、オーランド―はサーカスの舞台の上に落っこちて、そのまま一緒になって芸をすることになってしまいます。つぎつぎに起こるドタバタ劇にお客さんはオーランドーをサーカスの一員だと思って大喝采。最後は同じ猫族として、ライオンやトラを一喝するオーランドーの姿も滑稽です。原作は1941年にイギリスで出版されています。この絵本も翻訳はこみやゆうさんです。
 
 
 

【児童書】

『貸出禁止の本をすくえ!』アラン・グラッツ/作 ないとうふみこ/訳 ほるぷ出版 2019/7/25

貸出禁止の本をすくえ!
アラン グラッツ
ほるぷ出版
2019-07-25

エイミー・アンは9歳。家は、2人の妹がいて、両親は長女の自分にばかり我慢を強いています。そんなエイミー・アンの居場所は学校の図書室だけです。ところがある日、大好きな『クローディアの秘密』が書架から消えているのです。司書のジョーンズさんは、ある保護者が小学校の図書室にふさわしくないという結論を出して、教育委員会もそれに同意したために貸出禁止になったというのです。そしてエイミー・アンに、教育委員会の会議で一緒に意見を言ってほしいと頼むのですが・・・人前でしゃべるのが苦手で、内気なエイミー・アンは本を救うために、自分の弱さに向き合い、なんとかそれを乗り越えていこうとします。クラスの中にひとり、またひとりと協力者が現れていき、エイミー・アンは自分の殻を打ち破っていきます。ひとつの価値観で子どもたちを縛り付けようとするおとなに、きちんと自分の想いを伝えることが出来た時、事態は大きく動いていきます。小学校中学年の子どもたちにぜひ読んでほしいなと思います。

 

『ヤナギ通りのおばけやしき』ルイス・スロボドキン/作 小宮由/訳 瑞雲舎 2019/9/1

ヤナギ通りのおばけやしき
ルイス スロボドキン
瑞雲舎
2019-08-14
 
原題は「TRICK OR TREAT」、ハロウィンがテーマの幼年童話です。(もっと早くに紹介できればよかった)ハロウィンの夜、ヤナギ通りに住む子どもたちは変装して通りの家々を「いたずらか、おかしか」と言ってまわり、お菓子をもらってきます。ところがその年のハロウィンの夜、通りの真ん中にある、みんながおばけやしきと呼んでいる、誰も住んでいないはずの家に明かりが灯っていました。リリーとビリーの姉弟がその家のドアをノックして「いたずらか、おかしか」と伝えると、出てきたおじいさんは「いたずらをあげる」と言うのです。ヤナギ通りの子どもたちが次々にやってきて・・・お菓子ではなく「いたずら」をくれるそのおじいさんの正体は?と、気になって一気に読めてしまう幼年童話です。ひとりで読み始めた子にぴったりの1冊です。
 

 

『菜の子ちゃんとマジムンの森』日本全国ふしぎ案内4 富安陽子/作 蒲原元/画 福音館書店 2019/10/10

ある日ふっと現れて、学校を不思議な空間に変えてまた去っていく「菜の子先生」の小学生の時のエピソードを集めた「日本全国ふしぎ案内」の4冊目です。今度の舞台は沖縄で、菜の子ちゃんは沖縄本島北部に広がる山原(やんばる)を舞台に、不思議なことが起こります。妖怪ブナガヤの落とし物をひろったユージと菜の子ちゃんは、それを届けに行って不思議な体験をします。赤と青のシーサーにのって山原の奥深くへ分け入り、今度はブナガヤに引っ張られて海の底へ。百年に一度のマジムン月の満月の夜に起きるキーヌーシー(樹齢百年の樹の精霊)の子どもたちの誕生をユージと菜の子ちゃんは目撃するのです。テンポよくお話が進んでいくので、読書が苦手な子でも楽しめる1冊となるでしょう。

 

 

『シノダ! 夢の森のティーパーティー』富安陽子/作 大庭賢哉/絵 偕成社 2019/10

夢の森のティーパーティー (シノダ!)
大庭 賢哉
偕成社
2019-09-18
 
 
 
人間のパパとキツネ族のママから生まれたユイ、タクミ、モエの5人家族の信田家の不思議な物語「シノダ!」の最新刊です。これでシリーズ11作目になります。ある日、ユイは不思議な夢を見ました。おばあちゃんと梅もぎをするのですが、熟した実を取っても、取っても手にした途端に萎んで黒くなってしまうのです。夢の中で転がった梅の実を追いかけてお菓子の家の手前の橋まで行ったところで目覚めました。また、次の日も同じ夢の続きを見てしまいます。今度は夢の中にタクミも出てくるのです。実はママの弟の夜叉丸おじさんの夢の中にふたりは引き込まれたのでした。夜叉丸おじさんとタクミは夢の中に閉じ込めようとする夢魔の策略に引っかかって動物の姿にされ、このままだと夢から覚めることが出来ないという大ピンチに、ユイが手にしたものは・・・現実の世界で無意識に目にしたものが夢に現れたり、さまざまな出来事が脈絡もなく繋がっていたりしますが、そんな不思議な夢の世界を冒険の舞台にし、読む者を引き込んでいきます。

 

『魔法のカクテル』ミヒャエル・エンデ/作 川西芙沙/訳 岩波少年文庫 岩波書店 2019/10/16

魔法のカクテル (岩波少年文庫 249)
ミヒャエル・エンデ
岩波書店
2019-10-17
 
1992年にハードカバーで出版(→こちら)されたエンデの作品の少年文庫版です。大晦日の夜、魔術師とその伯母である魔女は、「地の果ての闇」の大臣と契約した自然破壊、生物の絶滅を実行するために、どんな願いも叶うという「魔法のカクテル」作りに挑みます。動物最高評議会からスパイとして送り込まれた猫のマウリツィオとカラスのヤーコブは、ふたりの悪事を止めようと奮闘します。大晦日の夕方5時から始まって真夜中の12時まで、時計の針の動きに合わせて物語が進んでいきます。少年文庫版の解説はあさのあつこさん。「ユーモア、風刺、皮肉、高揚、冒険、窮地、魔法、悪魔、信頼、希望、未来への危惧、悲哀、笑い、どんでん返しにハッピーエンド。ともかく、あらゆるものが混ざり合っている。なのに、濁りもせず黒く固まりもせず、この世のどこにもない色を持つ物語のカクテル」と評しているように、『モモ』や『はてしない物語』を書いたエンデの、読み人を酔わせる力を持つ作品です。
 

【ノンフィクション】

『こども六法』山崎聡一郎/著 伊藤ハムスター/絵 弘文堂 2019/8/30

こども六法
山崎 聡一郎
弘文堂
2019-08-20

帯には「きみを強くする法律の本 いじめ、虐待に悩んでいるきみへ」と書かれています。法律は人々の行動を縛るものではなく、実は私たちの自由で安心な生活を守るものであるということを、法律になじみのない子どもたちにもわかりやすく説く解説書です。法律を学ぶことは、私たちの生活を守り、弱い立場にあるものを支えてくれる杖になるという明確なメッセージが伝わります。刑法、刑事訴訟法、少年法、民法、民事訴訟法、日本国憲法、そしていじめ防止対策推進法の7章からなり、イラスト入りの事例は子どもたちの生活に即したものになっています。

 

【その他】

『 翻訳者による海外文学ブックガイド BOOK  MARK』金原瑞人・三辺律子/編 CCCメディアハウス 2019/10/7

翻訳者による海外文学ブックガイド BOOKMARK
金原 瑞人
CCCメディアハウス
2019-09-28

 

「もっと海外文学を若い世代に読んでほしい」そのためには、海外文学のブックガイドが必要。そんな思いから「BOOK MARK」はフリーペーパーとして2015年秋に書店での配布が始まりました。(金原瑞人さんのオフィシャルサイト→こちら)そしてこの度、3年分のフリーペーパーが1冊のブックガイドとして出版されました。12のテーマで17冊ずつ、204作品が紹介されています。フリーペーパーのファンの人にも、嬉しい書籍化です。

(作成K・J)

2019年7月、8月、9月の新刊から(その2)読み物ほか


早く紹介したいと思いながら、「2019年7月、8月、9月の新刊から(その1)絵本」をUPして2週間以上が経過してしまいました。

読み応えのある本が多く、時間がかかってしまいました。

 

なお、その後、紹介したい絵本も続々出ています。そちらはなるべく早い時期に別記事で紹介します。

 

ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。出版されたすべての新刊本を購入して読むことはできませんが、毎月、教文館ナルニア国の新刊本コーナー、クレヨンハウス新刊本コーナー、横浜日吉にあるともだち書店など、信頼できる児童書の目利きのいる書店にある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。

 

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【児童書】

『八月のひかり』中島信子/作 汐文社 2019/7

八月のひかり
中島 信子
汐文社
2019-06-29

いろいろなところで話題に上る「子どもの貧困」に正面から向き合った作品です。小学5年生の美貴は、働く母親に代わって家事を一手に引き受けています。無邪気にふるまう小1の弟勇希と違って、母がなぜ父親と別れたか、よく理解しているからでした。母親は貧しいからこそ、だらしない生活はしてはいけない、礼儀正しく、うそを言わないことが大事だと二人に伝えます。親子3人が慎ましく支え合っている姿を淡々と描きながら、社会的な問題に光を当てており、読む者の心を揺さぶります。

(公式サイト→こちら

 

『きみの存在を意識する』梨屋アリエ/作 ポプラ社 2019/8

きみの存在を意識する (teens’best selection)
梨屋 アリエ
ポプラ社
2019-08-02
 
中2のひすいと、同い年の血のつながらない弟の拓真を中心に、生きづらさを抱えている中学生の日常をそれぞれの視点から描く連作短編です。ひすいは、読書をするのが極端に苦手ですが、同じクラスの中には書字障害、性同一性に悩む子、化学物質過敏症など、何らかの問題を抱えている子がいます。彼らの姿を瑞々しく描きながら、読む者に´普通’という概念とは何か、どのように彼らに寄り添えばよいか問いかけてくる作品です。
 学習障害という概念は、ここ10年ほどで浸透してきました。ディスレクシア(識字障害)とディスグラフィア(書字障害)も、それに含まれます。知的発達に遅れがないにもかかわらず、文字を読むこと、あるいは文字を書くことに困難を示す特性です。これらは、合理的配慮(PCの読み上げソフトを使う、PC入力をする)によって十分に克服することができます。作品中でも、心桜(こはる)が合理的配慮に対応できる学校へ転校する決意をすることが描かれています。この作品は、2020年オナーリスト文芸作品部門およびJBBY賞を受賞しました。

作者が、中学生と共に読書会を行った様子が「好書好日」に掲載されています。(サイト→こちら)

 

 

『かくれ家のアンネ・フランク』ヤニー・ファン・デル・モーレン/作 西村由美/訳 岩波少年文庫 岩波書店 2019/8/8

かくれ家のアンネ・フランク (岩波少年文庫)
ヤニー ファン・デル・モーレン
岩波書店
2019-08-09

ユダヤ人という理由だけでナチスの強制収容所に送られ多くの人が命を落とした事実のひとつとして世界中で読まれてきた『アンネの日記』ですが、1945年に第二次世界大戦が終結して74年が経ち、その事実はどこまで語り継がれているのでしょうか。日本でも若い世代に語り継がれていくべき戦争の記憶が薄れているように、オランダでもアンネ・フランクの悲劇を知らない子どもたちが増えているといいます。そのことに危惧した作者が、子どもたちに『アンネの日記』を知ってもらおうと、アンネ・フランク財団の全面的な協力を得て、事実に基づいて書いた本です。アンネの幼少期から、戦争が始まった頃のこと、かくれ家での生活、そして収容所での暮らしと最期を迎えるところまでが綴られています。戦争とは、ここまで非情に人権を踏みにじるものなのか、そんな中でも尊厳を失わずにいた彼女たちの暮らしを知ることは、今もなお大切なことだと思います。

 

 

 

『シャイローと歩く秋』フィリス・レイノルズ・ネイラー/作 さくまゆみこ/訳 あすなろ書房 2019/8/30

シャイローと歩く秋
フィリス・レイノルズ・ネイラー
あすなろ書房
2019-08-20

1992年にニューベリー賞を受賞した『シャイローがきた夏』の続編です。マーティは、荒くれもののジャドから虐待を受けていた子犬を子どもらしい策略で救い出し、シャイローと名付けます。前作ではそのシャイローをジャドからもらい受けるところまでを描いていました。続編では、傍若無人な振る舞いをするジャドと、マーティが正面から対峙します。その過程で、親にシャイローを救うために嘘をついたことをきちんと打ち明け、またジャドに対してもただ憎むだけではだめだということを学んでいきます。自分の弱さをみつめ、他人を許すことを覚えていくマーティの心の成長に、読む者も勇気づけられました。本のこまどでは2015年4月に紹介しています。(→こちら

 

 

『ヤービの深い秋』梨木香歩/文 小沢さかえ/絵 福音館書店 2019/8/30

ヤービの深い秋 (福音館創作童話シリーズ)
梨木 香歩
福音館書店
2019-08-28

『岸辺のヤービ』の待望の続編です。(本のこまどでの紹介は2015年9月でした。→こちら)秋が深まりゆくころ、はりねずみのような姿をしているクーイ族のヤービは、友達のトリカたちと一緒にトリカのお母さんの薬になるというユメミダケを取りに森深く分け入ることになりました。そのころ「わたし」こと寄宿学校の教師ウタドリも、家庭の事情を抱えるギンドロたちと森へユメミダケを探す冒険にでかけます。美しい秋の森で起きる幻想的な物語の中に、人が生きることの中で大切にしなければならないことがきちんと描かれています。「成長する子どもを、だまってかたわらで見守る。それが、サニークリフ・フリースクールのの職員たちの、いちばん大きな仕事なのだと。」この一文が、読み終わったあとも、心にこだましています。

 

 

『しぶがきほしがきあまいかき』石川えりこ/作・絵 福音館書店 2019/9/5

秋、おばあちゃんと一緒に渋柿を取り入れ、干し柿づくりを覚えていく姉弟たちの様子が瑞々しく描かれている幼年童話です。「ちちんぷいのぷい おひさまいっぱいあたってね あまーい あまーいかきになれ しぶがき しぶがき あまくなれ」と繰り返される唱え言葉も楽しく、またモノトーンの絵の中に、柿の鮮やかな色が際立っていて、秋の収穫の喜びを一緒に味わえる作品です。

 

 

銀の匙』中勘助/作 安野光雅/絵 朝日出版社 2019/9/6

銀の匙
中勘助
朝日出版社
2019-09-07

大正10年に岩波書店から出版された中勘助の『銀の匙』は、その後、灘高校の国語の授業の教材となったことから、話題になりました。灘高校の名物国語教師橋本武によるその授業の様子は、2012年に岩波ジュニア新書『〈銀の匙〉の国語授業』(公式サイト→こちら)としてまとめられました。その『銀の匙』に安野光雅さんが新たに挿絵をつけました。美しい装丁の本書には、ふんだんに脚注がつけられており、明治・大正期の子どもの生活が、生き生きと描き出されています。この機会にぜひ読んでみませんか。

 

 

【ノンフィクション】

『民主主義は誰のもの?』ブランテルグループ/文 マルタ・ピナ/絵 宇野和美/訳 あしたのための本(1) あかね書房 2019/7/20

民主主義は誰のもの? (あしたのための本)
プランテルグループ
あかね書房
2019-07-22

このシリーズは、「日本は、第二次世界大戦のあと、戦争の悲劇を繰り返さないために日本国憲法を制定し、民主的で平和な国を築いてきたはずだったが、そうなっているだろうか」という翻訳者の宇野和美さんの問いかけで始まります。この本はスペインで1977年に出版されました。「みんなが参加して、みんなできめる。それが民主主義だ。」、「ほんとうに民主的な人は、誰の意見にも耳をかたむけ、平等で、公平で、勝っても負けても、いさぎよく堂々としているはずだからだ。」そして、それを判断するためには「情報がよくいきわたっていなければならない。」と書いてあります。「自分たちの社会は自分たちできめる」というテーマでの政治学者宇野重規さんの解説も読みごたえがあります。

 

『独裁政治とは?』ブランテルグループ/文 マルタ・ピナ/絵 宇野和美/訳 あしたのための本(2) あかね書房 2019/7/20

独裁政治とは? (あしたのための本)
プランテルグループ
あかね書房
2019-07-22

「独裁者は、なかまに気前よく、賞をあたえたり、土地をプレゼントしたりする。ときには、自分のものではないものまで、あげてしまう。独裁者は法律であり(独裁者だけが、法律をつくる)、正義だから(独裁者の友だちだけが、裁判官になれる)、どうにでもなれる。」という一文に、あれ、これ、今の日本かしらと感じてしまいました。こちらの本では、社会学者佐藤卓己さんが「独裁者はどうしてうまれるのか」というテーマで解説を書いています。

 

『社会格差はどこから?』ブランテルグループ/文 マルタ・ピナ/絵 宇野和美/訳 あしたのための本(3) あかね書房 2019/7/20

社会格差はどこから? (あしたのための本)
プランテルグループ
あかね書房
2019-07-22

「人はみな平等だ。けれども、世のなかには、ちがいをつくりだすものがある。」と冒頭で投げかけてきます。どうしてこの世の中に格差が広がるのか、それを狭める方法があるのか、基本的人権に触れながら、それを考えるように促します。こちらでは「格差のない社会をつくるには」と題して社会学者の橋本健二さんが解説を書いています。

 

『女と男のちがいって?』ブランテルグループ/文 マルタ・ピナ/絵 宇野和美/訳 あしたのための本(4) あかね書房 2019/7/20

女と男のちがいって? (あしたのための本)
プランテルグループ
あかね書房
2019-07-22

男女の違いは、体のつくりだけで同じ人間だと、しかし育てられ方で違いが出てくると、この本の作者は言います。本来は、ひとりひとりが違っていて、男女というだけで、決めつけることではないと。社会全体が、そんなふうに既成の型にはめずに子どもを育てられたらどれだけいいだろうと思います。こちらでは社会学者、今野美奈子さんが「ひとりひとりが社会のあしたをつくる」と題して解説しています。

 

以上、「あしたのための本」4冊は2016年ボローニャ・ラガッツィ賞ノンフィクション部門最優秀賞を受賞しています。(あしたのための本公式サイト→こちら

 

【その他】

『読書教育の未来』日本読書学会/編 ひつじ書房 2019/7/22

読書教育の未来
ひつじ書房
2019-07-22
 
日本読書学会60周年記念事業としてまとめられた学術書です。刊行の趣旨には「日本読書学会の特色の一つは、教育学・心理学・社会学・言語学・医学・図書館学・その他諸科学等、広範にわたる研究分野の会員が、それぞれの問題関心と方法論とをもって、多様な切り口から子供の発達と読書にかかわる知見を経験的に、あるいは実証的に追及する点にあります。」とあります。「読書の発達」、「読むことの科学」、「読みの教育」、「社会と読書」の4つの章で論じられた30以上の論考で構成されており、まさに読書について学際的に深めた研究書として、子どもと本に関わる人にとって必読の1冊です。
 

 

『北海道の大自然と野生動物の生態をモチーフに絵本創作法を語る―手島圭三郎仕事の流儀』手島圭三郎・川島康男/著 絵本塾出版 2019/8

しまふくろうのみずうみ』(出版当時リブリオ出版/現絵本塾出版)で1982年に日本絵本賞受賞を、『きたきつねのゆめ』(前作と同じ)で1986年にイタリア・ボローニャ国際児童図書展グラフィック賞を受賞した木版画家手島圭三郎にノンフィクション作家川島康男さんが、創作方法や、絵本作りにかける思いを丁寧に聞き出した対話集です。小樽にある絵本・児童文学研究センター理事長、工藤左千夫氏の「人間中心主義の擬人化された動物絵本には見向きもしない彼の頑固さこそ、現在、求められている優れた作家像ではないか。手島氏の逆擬人化された手法こそ、人間中心主義から外れ、生きとし生けるものへの賛歌が自明となる。そして、そこへ至る苦悩の深さと生きがいとの交錯に、手島氏の本領を見る。」という帯の文章のまま、手島さんの絵本にかける思いが、ずっしりと伝わってきます。また134点もの木版作品も収められ、画集としての質も高い1冊です。(公式サイト→こちら

 

 

『ゲンパッチ― 原発のおはなし☆子どもたちへのメッセージ』ちづよ/著 石風社 2019/8/10

ゲンパッチー 原発のおはなし☆子どもたちへのメッセージ
ちづよ
石風社

先日の台風15号による千葉県をはじめとする首都圏で起きた広範囲な停電は、私たちの生活がいかに電気に依存しているか、また電気や電信がライフラインを支えているかについて私たちに突きつけました。普段、私たちはコンセントの向う側がどうなっているか、知らずに生活をしています。電線、電柱がどのような役割をし、そもそもその電気がどこで作られて送られているのか、無意識に使ってきていることでしょう。この本は、そんな疑問をもった子どもたちに応える漫画作品です。さまざまな発電の方法と、そして原発の問題を子どもでもわかりやすく解説してくれています。東日本大震災の津波による福島第一原子力発電所のメルトダウンについて、またそもそも原発政策が使用済み核燃料の処理施設もままならない不確かなものであること、その処理には100年単位の時間が必要であり子孫に負の遺産になっていることなど、包み隠さず、丁寧に描かれています。今、また関西電力をめぐって大きなお金が動いたとニュースで取り上げられています。なぜそこに巨額のお金が動くのか、子どもたちに説明を求められても答えられないおとなにも、そのからくりをしっかりと伝えてくれています。多くの人に手に取ってほしい1冊です。(公式サイト→こちら

 

 

『世界はたくさん、人類はみな他人』本橋成一/著 かもがわ出版 2019/8/15

『炭鉱(ヤマ)』で写真家デビューしてから半世紀、チェルノブイリ原発事故の被災地で暮らす人々を撮影した『ナージャの村』では映画監督として評価の高い本橋成一さんのエッセイです。2013年には写真絵本『うちは精肉店』(農山漁村文化協会)で、第23回けんぶち絵本の里大賞「びばからす賞」、第61回産経児童出版文化賞「JR賞」を受賞しています。タイトルの「世界はたくさん、人類はみな他人」は、日本がバブル景気に向かう頃に盛んにCMで流れた「世界は一家、人類みな兄弟」というキャッチコピーに対するアンチテーゼです。世界の紛争地や被差別地域を真摯な目で追ってきた著者には「風土、食べもの、着るもの、言葉、そして宗教も歴史もみんな違うのに、世界がひとつで、人類がみな兄弟であるわけがないことに気がついた。そしてそんなことを言い出す人や国にかぎって、侵略戦争に加担したり、植民地づくりに精を出したりするものだとわかった。」と映るのです。徹底的に弱者に寄り添い、いのちを真摯にみつめてきた本橋さんの姿勢は、現代社会が忘れてしまっているものを思い起こさせてくれました。(公式サイト→こちら

 

 

『山中恒と読む修身教科書 戦時下の国体思想と現在』山中恒/著 子どもの未来社 2019/8/15

 

失われた20年の教育改革は、エリート主義的改革でした。新自由主義の考えのもと、勝つか負けるかは自己責任だとし、その他大勢の無才はせめて実直な精神さえ養っておけばよいという国の考えが底流にあり、巧妙に道徳を教科化していきました。管理しやすい人材を作ることが、道徳教育の究極の目的です。その背景にあるのが戦前の修身です。「教育勅語」を大臣室に掲げる人が文部科学省のトップにつきました。これからどのように文部科学政策が動いていくのか、刮目しておく必要があります。児童文学者の山中恒さんは、1931年生まれで修身の授業を受けた体験者です。そこでなにが子どもたちに刷り込まれていったのか、子どもに本を手渡す人はきちんと把握していく必要があります。2017年に出版された『戦時下の絵本と教育勅語』(公式サイト→こちら)と合わせて読んでもらいたいと思います。「週刊読書人」(10月4日号)に書評も掲載されています。

 

(作成K・J)

2019年7月、8月、9月の新刊から(その1)絵本


2019年7月、8月、9月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、絵本を紹介します。ノンフィクションや読み物は次週はじめに紹介予定です。

 

ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。出版されたすべての新刊本を購入して読むことはできませんが、毎月、教文館ナルニア国の新刊本コーナー、クレヨンハウス新刊本コーナー、横浜日吉にあるともだち書店など、信頼できる児童書の目利きのいる書店にある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。

 

(なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

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【絵本】

『丘のうえのいっぽんの木に』今森光彦/作 童心社 2019/7/20

 
丘のうえにたつ一本のエノキが育む小さな生命たちの営みを、昆虫写真家としても多くの写真絵本を出している今森光彦さんが、切り絵で表現しています。春先、エノキの根元の落ち葉の中から這い出てきたオオムラサキの幼虫は、木に登り、若葉を食べて大きくなります。やがて蝶になってオスとメスが出会い、エノキに卵を産むのです。オオムラサキの一生を軸に、里山で豊かな生命を育むエノキの揺らぎのない存在感を語ります。モノクロの切り絵なのに、そこに色を感じる、そんな作品に仕上がっています。(童心社のサイト→こちら
 
 
『あなたがおとなになったとき』湯本香樹実/文 はたこうしろう/絵 講談社 2019/7/29
 
『夏の庭 The Friends』などの作品がある湯本さんと、透明感のある伸びやかな絵に定評のあるはたこうしろうさんが組んだ、YA世代向けの作品。野原を歩き、木に登って、海辺で遠くを見つめる少女と少年。「あなたがおとなになったとき どんな歌がすきだろう」、「あなたがおとなになったとき この木はどれほど おおきくなっているだろう」と、繰り返し問いかけます。しかし広大で美しいと思った背景には、廃墟になった街並みや空港が描かれています。未来は決してバラ色ばかりでないことを暗示しつつ、それでも子どもたちは持てる知恵と力を使って、襲いかかる困難も、高い壁も乗り越えていけるという信頼が感じられます。おとなは少女に寄り添う青い鳥の存在のように彼らを見守ることしかできないと感じました。(講談社のサイト→こちら
 
 
 
『こんなとききみならどうする?』五味太郎/作 福音館書店 2019/8/5

 
毎日の生活は、今何をする?選ぶ?の連続で出来ているのかもしれない。この絵本も、いろいろ怪しげな選択肢を前に「こんなとききみならどうする?」と迫ってきます。単純に選べるものもあれば、ちょっと立ち止まって自分ならどうするか、真剣に考えたくなるものもあり、五味さんならではの、ユーモアとペーソスが溢れています。月刊誌かがくのとも2014年1月号のハードカバーです。
 
 
 
『ちいさなひこうきの たび』みねおみつ/作 福音館書店  2019/8/5

ちいさなひこうきの たび (かがくのとも絵本)
みねお みつ
福音館書店
2019-07-31
 
こちらは月刊誌かがくのとも2007年5月号のハードカバーです。調布飛行場を飛び立って、伊豆大島へ渡る小型飛行機がモデルになっています。大きな空港から飛び立つジャンボ機とは、乗り込める乗客も、空港の様子も違うことがわかります。町の中の空港を飛び立つシーンでは、眼下に味の素スタジアムに中央自動車道、京王線と大人であれば、あそこだ!という景色が描かれます。島に向かって南下していく先にも、横浜の湾岸エリアの見覚えのある建物が見えてきて、大人はつい興奮しそうです。ですから子どもたちも小さなプロペラ機とともに大空を旅している気持ちになれるでしょう。8月23日から9月8日までアーツ千代田3331で開催された「かがくのとも50周年 あけてみよう かがくのとびら展」(→こちら)では原画も展示されていました。
 
 
 
 
『まんまるダイズみそづくり』ミノオカ・リョウスケ/作 福音館書店 2019/8/5

まんまるダイズみそづくり (かがくのとも絵本)
ミノオカ・リョウスケ
福音館書店
2019-07-31
 
こちらも、月刊誌かがくのとも2004年1月号のハードカバーです。上記の絵本と同じく8月23日から9月8日までアーツ千代田3331を会場に開催されていた「かがくのとも50周年 あけてみよう かがくのとびら展」(→こちら)の「たべもの」コーナーで、丸い大きなテーブルを使って展示してありました。絵本でも、もちろん味噌の材料になる大豆の栽培の様子と、秋に収穫した後に、柔らかく煮てつぶし、塩と麹と混ぜて半年寝かせることで、大豆が味噌に変身する過程が丁寧に描かれています。身近な食への関心を引きだしてくれることでしょう。
 
 
 
『スノーウィとウッディ』ロジャー・デュボアザン/作 石津ちひろ/訳 好学社 2019/8/17

スノーウィとウッディ
ロジャー・デュボアザン
好学社
2019-08-09
 
ロジャー・デュボアザンの晩年、1979年の作品の初翻出作品です。シロクマのスノーウィはカモメのキティに誘われて、北極圏を離れて緑豊かな森へやってきます。しかしそこでは白い体は目立ってしまいます。ひぐまのウッディに出会うと、ウッディが保護色となってハンターから守ってくれました。やがて森に雪が積もると、逆にウッディの身体が目立ってしまいます。そこでスノーウィーがウッディをハンターから守ってあげるのです。自然界ではありえないお話ですが、デュボアザンの飄々とした描き方が好ましく、楽しく読むことができました。
 
 
 
『いえでをしたてるてるぼうず』にしまきかやこ/作 こぐま社 2019/8/20

いえでをした てるてるぼうず
にしまき かやこ
こぐま社
2019-08-20
 
『わたしのワンピース』出版50周年の年に、新刊が出ました。子どもたちが遠足や、運動会の前に作って「明日天気にしておくれ」と願いをかけるてるてるぼうずのことを、子どもたちは願いが叶うと忘れてしまいます。それに怒ったてるてるぼうずは家出をするのですが・・・最後についたところはくまのこのおうち。くまのこは、てるてるぼうずを友だちとして迎えてくれます。小さな子どもに安心して読んであげられる物語になっています。神奈川近代文学館では、9月23日まで企画展「『わたしのワンピース』50周年 西巻茅子展―子どものように、子どもとともに」を開催しています。(公式サイト→こちら
 
 
『サン・サン・サンタ ひみつきち』かこさとし/作 白泉社 2019/9/9

 
かこさとしさんが描いたクリスマスの絵本があったなんて!と、教文館ナルニア国の新刊コーナーでみつけて、思わず飛びついてしまいました。1986年に偕成社から出版されたこの絵本は、長らく絶版になっていましたが、この度白泉社から復刊になりました。北極の氷の下に誰も知らない巨大な工場があるといって始まる、なにやら壮大な物語です。その秘密の工場には世界中からありとあらゆるゴミがロケットやコンテナで集約されています。ところがそれらのゴミはリサイクルされて、子どもたちが喜ぶおもちゃへと変身するのです。そしてクリスマスイブには・・・そこから先はぜひこの絵本を手に取って読んでみてください。かこさんらしい楽しい結末が待っています。
 
 
 
『巨大空港』鎌田歩/作 福音館書店 2019/9/5

巨大空港 (福音館の科学シリーズ)
鎌田歩
福音館書店
2019-09-04
 
 
乗り入れ航空会社99社、一日の発着数は300便以上、世界約40か国と結ばれている日本の玄関口、成田空港を丁寧に取材して描いたという図鑑絵本です。鈴木のりたけさんの『しごとば』シリーズを彷彿とさせる精緻な描写で、巨大な空港のあちこちで繰り広げられる人々の動きや、モノの動き、仕事をする人、旅行する人、大勢の人が交錯する活気をそのまま絵の中に閉じ込めています。圧巻は、見開き1mを超える第1ターミナルの俯瞰図です。この絵本を開くと、「グッドモーニング、ナリタ アプローチ」と管制塔に朝一番の無線が入るところから始まる空港の一日を、旅行客や、空港で働く人などさまざまな目線から体験できることでしょう。(公式サイト→こちら
 
 
『チェクポ おばあちゃんがくれたたいせつなつつみ』イ・チュニ/文 キム・ドンソン/絵 おおたけきよみ/訳 福音館書店 2019/9/5

韓国の美しい絵本がまた1冊、翻訳されました。オギは学校へ行く時に、おばあちゃんが作ってくれたチェクポに荷物を包んでいます。チェクポとは、布の端切れをつないで風呂敷状にしたものです。しかしお友達のダヒが背負っている赤い鞄が羨ましく思います。そんなオギの気持ちを知ってか知らずじゃ、ダヒはオギのチェクポをかっこ悪いとからかい、仲違いしてしまいます。そんな帰り道、ぬかるみにハマって、スカートが濡れてしまったダヒの窮地をオギのチェクポが救います。おばあちゃんが丁寧に縫ってくれたチェクポを誇りに感じるオギの清々しい表情が素敵です。(公式サイト→こちら
 
 
 
『ちいちゃな女の子のうた “わたしは生きてるさくらんぼ”』新版 デルモア・シュワルツ/文 バーバラ・クーニー/絵 しらいしかずこ/訳 ほるぷ出版 2019/9/10

2019-09
 
 
 
在アメリカのユダヤ人の詩人デルモア・シュワルツの詩にバーバラ・クーニーが絵をつけた作品。1981年にほるぷ出版から出版されてましたが、しばらく絶版となっていました。この度新版として復刊されました。少女が、自我に目覚め、自分は自分、何にだってなれると高らかに歌い上げます。彼女には、老いへの恐れもなく、未来は輝いています。私たちはおとなは、希望を閉ざすことがないように、若い世代に未来を手渡す責任を負っているんだなと、読んでいて感じました。世界中の女の子が、誇りをもってまっすぐに前を向いて歩けるように、おとなの責任は重大です。
 
 
『みかづきちゃん てをつなご』東君平/作 亜紀書房 2019/9/20

みかづきちゃんてをつなご
東 君平
亜紀書房
2019-08-23
 
「てをつなご てをつなご つなぐと ともだち うまれるよ たのしいことが はじまるよ」つきのわぐまのみかづきちゃんが、きつねさんとてをつなぎます。きつねさんは、おさるさんとてをつなぎ、おさるさんはいぬさんとてをつないで、そうやってつぎつぎとつながっていきました。誰かを嫌って争うのではなく、お互い違う存在だけど、お互いを尊重し、繋がっていくことができれば、平和を創り出すことができるのに、今、世の中はなんだか物騒です。子どもたちの世界から、まずはつながることの幸せ、楽しさを伝えていきたいと思います。1984年に福武書店から出版され、しばらく絶版となっていましたが、この度復刊されました。君平絵本のサイト(→こちら)からは動画で見ることもできます。
 
 
 
 
(作成K・J)

 

2019年6,7月の新刊から(その2)


2019年6月、7月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、7月30日に公開した(その1)で紹介できなかった作品を紹介します。(その1→こちら)(一部、見落としていた5月以前の新刊も含まれます)

 

ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。出版されたすべての新刊本を購入して読むことはできませんが、毎月、教文館ナルニア国の新刊本コーナー、クレヨンハウス新刊本コーナー、横浜日吉にあるともだち書店など、信頼できる児童書の目利きのいる書店にある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。

 

(なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

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【絵本】

『あつい あつい』垂石眞子/作 福音館書店 2019/6/10

あつい あつい (幼児絵本シリーズ)
垂石 眞子
福音館書店
2019-06-05
 
 
 
あまりにも暑い昼日中、ペンギンが日陰だと思って入ると、それはおっとせいの落とした影。おっとせいといっしょに日陰を探して入ると、それはカバの落とした影、そして3匹はゾウの落とした影の中で涼むという具合に、小さな動物がより大きな動物の影に入るのですが、大きなゾウだって暑い!そこで涼しいところを求めてみんなで移動した先は、広~い海だったという楽しいおはなしです。毎日、うだるような暑さが続きこの時期にぜひ読んであげたいですね。月刊誌「こどものとも年少版」の2008年8月号がハードカバーになりました。
 
 
『なっちゃんのなつ』伊藤比呂美/文 片山健/絵 福音館書店 2019/6/10 

なっちゃんの なつ (かがくのとも絵本)
伊藤 比呂美
福音館書店
2019-06-05
 
 
 
なっちゃんがお友達のともちゃんちへ遊びに行きますが、ともちゃんは不在。そこでなっちゃんは川原へ向かいます。生い茂る草花は夏の暑さの中でも勢いがあります。くずに、ひまわり、せいばんもろこしにせいたかあわだちそう、おおあれちのぎくにひめむかしよもぎ、サルビア、おしろいばな。どれも身近な植物です。生き物もあおさぎにばったにちょうちょ、せみ。自然の中で夏を感じる子どもの姿を片山健さんが生き生きと描いています。この作品は、月刊誌「かがくのとも」2003年9月号で、この夏ハードカバーになりました。この絵本をもって、夏の花や生物を探しに行けるといいですね。(2019年8月7日に福音館書店のサイトふくふく本棚に作者伊藤比呂美さんのエッセイ記事が掲載されました→こちら
 
 
 
『焼けあとのちかい』半藤一利/文 塚本やすし/絵 大月書店 2019/7/12

焼けあとのちかい
半藤 一利
大月書店
2019-07-15
 
 
 
作家で昭和史研究家でもある半藤一利さんの実体験を基にした絵本です。第二次世界大戦の終戦時に中学生だった半藤さんは、1945年3月10日に東京下町を襲った東京大空襲の中、命からがら焼夷弾の雨の中を逃げ回ります。その年の8月に戦争は終わりますが、その時に「絶対に正義は勝つ。絶対に神風がふく」と言われて信じていたことは何だったのかと考え、もう「絶対に」という言葉は使わないと決心をしたのです。「戦争だけは絶対にはじめてはいけない」ということ以外には。
「いざ戦争になると、人間が人間でなくなります。たとえまわりに丸こげになった数えきれないほどの死体がころがっていても、なにも感じなくなってしまいます。心が動かなくなるのです。戦争のおそろしさとは、自分が人間でなくなっていることを気がつかなくなってしまうことです。」と、その体験から若い世代に伝えてくれています。半藤さんは、秋篠宮家の悠仁親王からの「太平洋戦争はなぜ起こったのか」という質問にも、丁寧に答えていらっしゃいます。(記事→こちら
戦争を体験した世代が高齢化し、直接体験を聞くことが出来なくなっている現在、このように子どもたちにわかりやすい作品が発表されることは、大切なことと思います。絵本ですが、対象年齢は小学校中学年以上でしょう。画家の塚本やすしさんは、ご自身のお母さまの戦争体験の絵本も発表されています。(せんそう 昭和20年3月10日 東京大空襲のこと』塚本千恵子/文 塚本やすし/絵 東京書籍 2014/2/20)
 
 
 
 
『いまもいっしょだね』きむらだいすけ/作 イマジネイション・プラス 2019/7

いまも いっしょだね (imagination unlimited)
きむら だいすけ
イマジネイション ・プラス
2019-07-26
 
 
 
おじいさんが飼っていた犬のシフォンは町の人気者でした。散歩に出かけると、シフォンのまわりには子どもからおとなまで多くの人が集まってきました。ところが、ある時、シフォンは病気になってしまいます。町のみんなが心配をしてくれますが、シフォンの病気はよくなりません。おじいさんは一生懸命看病を続けますが、シフォンはとうとう息をひきとります。おじいさんは意気消沈。動けなくなってしまいます。それでもある時、シフォンの夢を見ます。シフォンに顔を舐められる夢でした。おじいさんは、シフォンは「もういたくないんだね!もうくるしくないんだね!」、そう思うとやっと立ち上がって外に出ることができたのです。町へ出ていくと、シフォンがいっしょにいるのだと感じられるのです。人も動物もいつかは老いるということや、命のこと、死による別れがテーマの絵本ですが、中心にあるのは種を超えた友情であり、生命の尊厳について、丁寧に、描かれていて、読後感はとても温かい気持ちになる作品です。きむらだいすけさんは2016年にうんちコロコロ うんちはいのち』(岩崎書店)という絵本も出版されています。
 
 
 
【読み物】
 
『平和のバトン 広島の高校生たちが描いた8月6日の記憶』弓狩匡純/文 広島平和記念資料館/協力 くもん出版 2019/6/27

平和のバトン: 広島の高校生たちが描いた8月6日の記憶
広島平和記念資料館
くもん出版
2019-06-17
 
 
 
今日、広島は74回目の原爆忌を迎えました。記念式典では松井・広島市市長が平和宣言を表明しました。(→こちら)新聞報道によると、昨年の原爆忌以降に亡くなった広島の被爆者は5068人で、生存中の被爆者の平均年齢は82.65歳となったそうです。(→こちら)人類が初めて体験した原爆の悲惨な体験を語り継げる人々が、どんどん高齢化しているのです。2006年に、「このままでは原爆のことが忘れられてしまう」と危機感を抱いた広島平和記念資料館からの『次世代と描く原爆の絵』(公式サイト→こちらを手がけてほしいという申し出に、広島市立基町高校創造表現コースの生徒たちが応じました。あまりに辛い体験で、それまで誰にも話さなかった体験を、高校生に語り始める高齢の被爆者。そのあまりもの悲惨さに、どう描こうかと逡巡する高校生たち。戦争とは何か、平和とは何か、真摯に向き合い、証言を絵に仕上げていった過程を取材したノンフィクションです。
 
 
【紙芝居】
 
『ちっちゃいこえ』アーサー・ビナード/脚本 丸木俊・丸木位里「原爆の図」より 童心社  2019/5/20

ちっちゃい こえ (単品紙芝居)
アーサー・ビナード
童心社
2019-05-25
 
 
広島に移り住んだ詩人で作家のアーサー・ビナードさんは、広島出身の画家、丸木俊・丸木位里夫妻の描いた15巻の「原爆の図」から、構想を得て、「原爆の図」に描かれたものの中から16の場面を切り取って、原爆と放射能による身体への影響を伝える紙芝居を作ろうと決心します。構想から7年、数々の試行錯誤を重ねて、5月に童心社から『ちっちゃいこえ』という紙芝居が完成し、出版されました。(童心社公式サイト→こちら)制作にかかった7年の歩みを、広島のテレビ局がドキュメンタリー番組にしています。こちらの動画は、8月末まで無料で見ることができます。(RCC・PLAY 2019年3月26日放送「ちっちゃいこえがきこえる?~いま、「原爆の図」をよむ~」→こちら)クロというネコの目を通して描かれる原爆の被害。一瞬にして広島の街と夥しい数の生き物を焼き殺してしまった原爆の光は、その後も体の細胞を壊し続けていると、原爆だけではなく、放射能の問題にも言及する内容になっています。こうした悲惨な現実を乗り越えて、それでも生きるということに希望の光を見出す作品にもなっています。RCCの番組では、保育園児に語って、幼児では抱えきれない恐怖に泣いてしまう子も出ていました。やはり、こうした戦争の現実を扱う作品は、前出の『焼けあとのちかい』と同様に、小学校中学年以上だと思います。
 
 
 
(追記)
 
『かみさまのおはなし』(藤田ミツ/原作 渡邊みどり/復刻提案 高木香織/構成 講談社 2019/5/28)について

かみさまのおはなし
渡邉 みどり
講談社
2019-05-30
 
 
 
昭和15年(1940年)に刊行された『カミサマノオハナシ』を復刻したものです。原作者の藤田ミツ氏は幼稚園経営者で、『古事記』をやさしい言葉になおして、子どもたちに読み聞かせたものをまとめたそうで、語りかけるようなわかりやすい文章になっています。    

ただし、日本神話が戦時協力体制に利用された時代の作品で、戦いを神の宣託として肯定するような内容が、強調されている面があります。

どのように命が生まれ、国が生まれたのか描かれ、個性的な神々が登場するスケールの大きな物語は、子どもたちを引きつける力があり、ぜひ伝えていきたいものです。類書などと比較して、子どもたちにどのような形で手渡していくのがよいのか検討してみてください。

おすすめの類書

『子どもに語る日本の神話』三浦佑之/訳 茨木啓子/再話 こぐま社 2013/10/25

子どもに語る日本の神話
茨木 啓子
こぐま社
2013-10-01

 

 

 

『古事記物語』福永武彦/作 新版 岩波少年文庫 岩波書店 2000/6/16

古事記物語 (岩波少年文庫 (508))
福永 武彦
岩波書店
2000-06-16

 

 

 

『はじめての古事記 日本の神話』竹中淑子・根岸貴子/文 スズキコージ/絵 徳間書店  2012/11/30

はじめての古事記
竹中淑子
徳間書店
2012-11-10

 

 

 

(作成K・JとT・I)

2019年6月、7月の新刊から(その1)


2019年6月、7月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの読み物を紹介します。(一部、見落としていた5月以前の新刊も含まれます)

 

ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。出版されたすべての新刊本を購入して読むことはできませんが、毎月、教文館ナルニア国の新刊本コーナー、クレヨンハウス新刊本コーナー、茗荷谷てんしん書房、横浜日吉にあるともだち書店、代官山蔦屋書店児童書売り場など、信頼できる児童書の目利きのいる書店にある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。

 

(なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

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【絵本】

『ひみつのビクビク』フランチェスカ・サンナ/作 なかがわちひろ/訳 廣済堂あかつき 2019/4/30

ひみつのビクビク (世界の絵本)
Francesca Sanna(フランチェスカ・サンナ)
廣済堂あかつき
2019-04-02



 デビュー作ジャニー 国境をこえて(きじとら出版)で、ケイト・グリ―ナウェイ賞候補から選ばれるアムネスティCILIP特別賞など多く受賞したイタリアの作家の2作目です。『ジャーニー 国境をこえて』では、母国で戦争が始まって難民となる母と子を描きましたが、2作目では異国に住むことになった子どもたちが抱える不安を“ビクビク”とという不思議な生き物にたとえて表現しています。不安に惜し潰れそうになった時に、他へ視線を向けることで、不安を抱いているのはみんな同じなんだよ、と伝えてくれます。色彩も柔らかくて美しい1冊です。

 

 

『ながーいはなでなにするの?』齋藤槙/作 福音館書店 2019/5/20

ながーい はなで なにするの? (幼児絵本ふしぎなたねシリーズ)
齋藤 槙
福音館書店
2019-05-15

 

ゾウのあかちゃんは、まだ鼻を上手に使えません。おかあさんの真似をして、草をつかんでみたり、水を飲もうとしたりするのですが、最初はなかなかうまくいきません。それを温かく見守るゾウのおかあさん。小さな子どもたちにおすすめの1冊です。ぺんぎんたいそうが人気の絵本作家齋藤槙さんのデビュー作で、月刊誌ちいさなかがくのとも2009年11月号のハードカバー化されたものです。

 

『火山はめざめる』はぎわらふぐ/作 早川由紀夫/監修 福音館書店 2019/6/15

火山はめざめる (福音館の科学シリーズ)
はぎわら ふぐ
福音館書店
2019-06-12



日本は火山列島です。この作品は浅間山を題材にして、火山がどのように噴火するのか、地質学と歴史学の視点で小学生にわかりやすく解説している科学絵本です。夏の調べ学習の入り口にできる1冊です。

 
 

『ヒキガエルがいく』パク ジョンチェ/作 申明浩・広松由希子/訳 岩波書店 2019/6/19

ヒキガエルがいく
パク ジォンチェ
岩波書店
2019-06-20

 

表紙のヒキガエルの表情も迫力がありますが、ページをめくっていくたびに、強い生命力に溢れ圧倒されます。「トン」「トトン」と現れ出たヒキガエルが、あちこちから集まってきて「ドンドン ダンダン ドンドン ダンダン」と進んでいきます。やがてその数はますます増え「ダダン ダダン ドドン ドドン 」、池までくると「ワラワラワラワラ」と水に入り、「ピタ」。次の世代を生み出すために集まってきていたのでした。説明などなく、動きのある絵とオノマトペだけで表現されていますが、力強いメッセージが伝わってきます。見開きから始まる美しい絵も楽しんでほしいと思います。なお、後ろに「ヒキガエルがいく」という詩が掲載されています。この詩がそれぞれのページに呼応していることがわかります。

 

『ロージーのひよこはどこ?』パット・ハッチンス/作 こみやゆう/訳 好学社 2019/7/20

ロージーのひよこはどこ?
パット・ハッチンス
好学社
2019-07-18

 

ロージーのおさんぽ』(わたなべしげお/訳 偕成社 1975)で、子どもたちをハラハラドキドキさせたロージーが、ひよこを生みました。でもまたおっちょこちょいのロージーは、うしろから殻をかぶって追いかけてくるひよこに気がつかないまま「わたしの あかちゃんは どこ?」と、探し回ります。そのひよこをねらう動物たちにも気づかず、探し回るロージー。子どもたちは絵を読みながら、きっとハラハラすることでしょう。だからこそ最後にちゃんと出会えた時は、安心感に包まれるのですね。

 

【YA向け】

『答えは本の中に隠れている』岩波ジュニア新書編集部/編 岩波ジュニア新書 岩波書店 2019/6/20

答えは本の中に隠れている (岩波ジュニア新書)
岩波書店
2019-06-21

 

 

友人関係、部活、性の問題などなど、10代の子達が抱えるだろうテーマについて、12人の専門家の方々がエッセイを書いています。もちろんテーマに沿った本の紹介も含めて。さまざまな立場の人たちのセレクトなので、リストをざっとみても、純文学から古典、哲学、歴史書、そして科学的な書籍に至るまで幅広く、「それだけに、あなたの悩みに瞬時に効くアドバイスが書いている頁や本もあれば、今のあなたには何の力にもならないものもあるかもしれません。でも、ボディーブローのようにあとから効いてくる作品や言葉もあるかもしれません。」(はじめにより)と、書いてある通りの読書の道先案内書です。この本の中に紹介されている数冊と一緒に特集をしてもよいでしょう。

 

【その他】

『かこさとしの世界』かこさとしの世界プロジェクトチーム/編 平凡社 2019/6/13

かこさとしの世界: だるまちゃんもからすのパン屋さんも大集合!
平凡社
2019-06-15

 

 

 

2018年5月に亡くなった絵本作家かこさとしさんの展覧会(「かこさとしの世界展」2019年6月から始まったひろしま美術館を皮切りに、全国4か所で行われる)の図録です。かこさとしさんの子ども時代や、デビュー前の創作、そして絵本作品への丁寧な解説がコンパクトにまとまっています。かこさとしさんの作品についてのレファレンスにも使えそうです。

 

『ひとりでよめたよ! 幼年文学おすすめブックガイド200』大阪国際児童文学振興財団/編 評論社 2019/6/30

 
 
 
 
小学校にあがって自分で文字が読めるようになると、保護者は子どもたちに本を読んであげることをやめてしまいます。そうすると、この本の「はじめに」に宮川健郎氏が指摘する「聞くことのコップ」が満ちることなく、読書の楽しみに入ることが出来ないのです。(児童サービスの研修でも必ずここはお伝えしているところです)「聞くことのコップ」を満たすこと=「耳から聴く読書」をたっぷり小学校3年生くらいまで続けてもらって、並行して自分で読む体験を重ねていくことが大事です。このブックガイドには、小学校低学年向けの絵本から幼年文学まで、ロングセラーから幼年文学まで200冊が紹介されています。夏休みの図書館での読書案内にも威力を発揮しそうです。
 
(作成K・J)

2019年4月、5月の新刊から(その2)読み物(6/26追加あり)


2019年4月、5月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの読み物を紹介します。(一部、見落としていた3月以前の新刊も含まれます)

 

ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。出版されたすべての新刊本を購入して読むことはできませんが、毎月、教文館ナルニア国の新刊本コーナー、クレヨンハウス新刊本コーナー、茗荷谷てんしん書房、横浜日吉にあるともだち書店、代官山蔦屋書店児童書売り場など、信頼できる児童書の目利きのいる書店にある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。

 

(なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

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【詩集】

ここで紹介する2冊は、「詩集」とくくってよいか、迷いました。それでも詩を中心に組み立てられているので、「児童書」ではなく、「詩集」として紹介します。

『ぼくがゆびをぱちんとならして、きみがおとなになるまえの詩集』斉藤倫/著 高野文子/画 福音館書店 2019/4/15

 

学校帰りや、遊びに行く途中、「きみ」はふらっと「ぼく」の家に遊びに来ます。そして「きみ」は学校であったこと、テストのこと、遊びのこと、そして時には人がいつか死を迎えることなど、話してくれます。そのたびに「ぼく」は積みあがった本棚から、詩集を選んで「きみ」に手渡すのです。手渡す詩は、現代詩から俳句まで、その時々でさまざまです。小学生の「きみ」は詩を読みながら、瑞々しい感性でそれを味わっていきます。読み進めるうちに「きみ」と「ぼく」の関係性もわかってきます。親でも先生でもない、こうしたメンターともいえる人との出会いは、素敵だなと感じます。いつかおとなになっていく、思春期前期の小学校中高学年の子どもたちに読んでほしい詩を「きみ」と一緒に味わってほしいと思います。ただ、この本をそのまま小学中学年に手渡せるかというと、読者を選んでしまうでしょう。まずは子どもに本を手渡すおとなが読んでみることをおすすめします。また、思春期真っただ中のYA世代には、ピンとくるものも多いでしょう。
この本に関して、絵本ナビに詳しい紹介記事があります。そちらも参考にしてください。(→こちら

 

『どうぶつたちのナンセンス絵本』マリー・ホール・エッツ/詩・絵 こみやゆう/訳 アノニマ・スタジオ 2019/4/19

どうぶつたちのナンセンス絵本
マリー・ホール・エッツ
アノニマ・スタジオ
2019-04-22

こちらの本も「絵本」と題名にあるのですが、幼年童話といってよいページ数です。そして表紙には「マリー・ホール・エッツ詩・絵」と表記されています。1ページに、あるいは見開き2ページにひとつの絵が鉛筆画で描かれていて、そこに短い文章がついています。それがまたちょっと不思議な世界を醸し出しています。たとえば「カタツムリってやつはだね、ペットにしたら そりゃいいよ.部屋とはね、ベッドをね、はじめから もってるからね」なんて書かれていて、しかも最後は「ぼんごはんのときにはね、ケチャップ  かけて、食べることだって できるのさ.」ですって。これこそナンセンスという世界は、繰り返し読んでみると、ふっと肩の力が抜けて楽しくなってきます。アノニマ・スタジオのサイトも参考にしてください。(→こちら

 

【児童書】

『ノウサギのムトゥラ 南部アフリカのむかしばなし』ビヴァリー・ナイドゥ―/作 ピート・フロブラー/絵 さくまゆみこ/訳 岩波書店 2019/3/27

ノウサギのムトゥラ: 南部アフリカのむかしばなし
ビヴァリー ナイドゥー
岩波書店
2019-03-01

 

アフリカ南部ツワナ人の間に伝わる昔話です。ノウサギのムトゥラが、大きくて力のある動物に知恵で立ち向かっていく痛快なおはなしです。小さな子どもたちは、知恵をつかえば自分を脅かす大きな力にも立ち向かえることを学ぶでしょう。8つの短いおはなしにわかれているので、子どもに語ってあげることもできます。著者のあとがきに「知恵を使って、力のずっと強い動物たちに立ち向かう小さなノウサギのお話は、奴隷にさせられた人々といっしょに、広い大西洋を渡りました。奴隷の所有者たちは、とらえたアフリカ人の身体を好きなように使うことはできたかもしれませんが、心まで支配することはできませんでした。」と、書いてあってハッとしました。誰からも支配されない強い心をもつようにという、アフリカの大地からのメッセージでもあるのですね。文字はおおきく、漢字にはルビもふってあるので、小学校低学年から読むことができます。

 

 

『月白青船山』朽木祥/作 岩波書店 2019/5/10

 
 
朽木さんのデビュー作『かはたれ』とその続編『たそかれ』(いずれも福音館書店)と同じ北鎌倉を舞台にした作品です。北鎌倉あたりには切通と呼ばれる鎌倉幕府が戦略的に作った山中の道が800年前からそのまま残っています。草木が鬱蒼と茂る切通を抜けて鎌倉時代へ、もしタイムスリップをしたら、どんな世界が広がっているのでしょう。夏休みに、鎌倉に住む大叔父さんの家に預けられた兄弟と、その家に出入りする女の子が一緒に、その地に伝わる歴史を紐解き、800年という時を遡って、そこに生きていた人々の暮らしや愛に思いを寄せていきます。とても読みやすいファンタジー作品に仕上がっています。
 
 
『ワンダ・ガアグ グリムのゆかいなおはなし』ワンダ・ガアグ/編・絵 松岡享子/訳 のら書店 2019/5/20

ワンダ・ガアグ グリムのゆかいなおはなし
ワンダ ガアグ
のら書店
2019-05-20
 

『100まんびきのねこ』などの作品があるアメリカの絵本作家ワンダ・ガアグは、ボヘミア移民の家庭で幼い時からグリムに親しんできました。そのガアグが再話した「Tales from Grimm」は『グリムのむかしばなしⅠ』、『グリムのむかしばなしⅡ』が、のら書店から2017年に相次いで松岡享子さんの翻訳で出版されています。それ以外にも、グリムにはまだおもしろいお話があることを伝えたくて、その後ガアグは「Three gay tales from Grimm」を発表します。それを今回も松岡享子さんが翻訳されました。3つのおはなしが収められていますが、そのうちの「かしこいおよめさん」と「ハンス羽根まみれ」は、あまり知られていないおはなしです。どちらもなんともいえないおかしさ、楽しさをもったお話です。文字も大きく、ルビもふってあるので自分で読み始めた子どもたちにふさわしい1冊です。

 

【ノンフィクション】

『「空気」を読んでも従わない 生き苦しさからラクになる』鴻上尚史/著 岩波ジュニア新書 岩波書店 2019/4/19

日本ほど同調圧力(周囲から浮かないように目立たないように暗黙の了解で同じような行動をしたり、服装をしたりすること)の強い国はないでしょう。この1年の間だけでも、女子高生が生まれつきの茶色の頭髪を学校の規則で黒く染めさせられたとか、就職活動の服装が一律真っ黒いスーツであるとか、使い勝手が悪いのに小学校入学では全員がランドセルを背負っているという、同調圧力に関するニュース、話題に事欠きません。なぜ日本では周囲に合わせるのか、海外ではどうしてそのような同調圧力が起きないのか、歴史背景や社会の仕組みなどを丁寧に説明しながら、そのような社会での生き苦しさをどう理解し、どのように自分らしく生きていける伝えてくれます。グローバル化がすすみ、日本でも少しずつこれから変わっていくことでしょう。自分が自分らしくあるために「空気」を読んでも従わないという潔さは、これからますます大事になってくるでしょう。この本はユニバーサルデザインのフォントが使用されていて、とても読みやすいのも特徴です。

 

 

【その他 エッセイなど】

『あの日からの或る日の絵とことば 3.11と子どもの本の作家たち』筒井大介/編 創元社 2019/3/10

 

2011年3月11日14時46分、あなたはどこにいて、何をしていましたか?あの日以降、何がかわって、何がかわっていないのか。絵本編集者である筒井大介氏は、あの日以降、出版される絵本の傾向が変わったと感じて、33名の絵本作家が震災をめぐる記憶を書いたエッセイ集を企画しました。ひとりひとりが、それぞれ違う場所で、違った立場で感じたこと、今思うことなどを書いて、描いており、読者はそれに重ねて自分の軌跡をたどる作業が出来るのではと思います。創元社のサイトも参考にしてください。(→こちら

 

『のこす言葉 中川李枝子 本と子どもが教えてくれたこと』中川李枝子/著 平凡社 2019/5/10

中川さんといえば『ぐりとぐら』、『ぐりとぐら』といえば中川さんというように、そのデビュー作は、今もロングセラーとして多くの子どもたちを魅了し続けています。そのおいたちや、若いころにみどり保育園で保育士をされていたころのエピソードを読んでいると、この作品は生まれるべきして生まれたのだとも感じました。平凡社の「のこす言葉」シリーズの1冊です。(→こちら

 

『子どもの本のもつ力―世界と出会える60冊』清水真砂子/著 大月書店 2019/6/14

この1冊だけは、4,5月に出版されたものではなく、出版されて書店に並び始めたばかりの1冊です。『ゲド戦記』の翻訳や児童文学評論で知られる清水真砂子さんが選んだ60冊の児童書に関するエッセイです。月刊誌『クレスコ』(クレスコ編集委員会・全日本教職員組合編)2011年1月号から2017年3月号まで6年に渡って連載されたものがもとになっています。「成熟とは子どもを卒業することと思いこんでいた私はこの頃から、大人になったはずの自分の中に子どもが生きていること、生きてのびやかに呼吸したがっていることに、少しずつ少しずつ気づいていきます。」(p5)の言葉にハッとさせられました。60冊の児童書(絵本含む)が「「かわいい」がとりこぼすものとは?」、「ひとり居がもたらしてくれるもの」、「毎日は同じじゃない」、「「たのしい」だけで十分!」、「子どもが”他者”と出会うとき」、「現在と昔とこれからと」という6つのテーマに分けられています。それだけでも、どこにどんな本が選ばれているんだろうと、興味津々になることでしょう。大月書店のサイトも参考にしてください。(→こちら

 

(作成K・J)

2019年4月、5月の新刊から(その1)絵本(追記あり)


2019年4月、5月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの絵本(特にノンフィクション絵本)を紹介します。(一部、見落としていた3月以前の新刊も含まれます)

 

児童書、YA向けの本は現在読んでいます。6月上旬にUPする予定です。

*6月7日に1冊追加しました。『ロバくんのみみ』

ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。出版されたすべての新刊本を購入して読むことはできませんが、毎月、教文館ナルニア国の新刊本コーナー、クレヨンハウス新刊本コーナー、茗荷谷てんしん書房、横浜日吉にあるともだち書店、代官山蔦屋書店児童書売り場など、信頼できる児童書の目利きのいる書店にある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。

 

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【絵本】
《ものがたり絵本》

『へいわとせんそう』谷川俊太郎/文 Noritake/絵 ブロンズ新社 2019/3/25

へいわとせんそう
たにかわ しゅんたろう
ブロンズ新社
2019-03-13
 
「へいわの〇〇/せんそうの〇〇」と、平和の時の姿と戦時中の姿を対比して見開きで次々に見せていく絵本です。「ボク」「ワタシ」「チチ」「ハハ」「かぞく」、平和の時は安らいでいるのに、戦争の時は悲しんでいたり緊張したりしています。際立つのは「どうぐ」でペンがピストルに変わります。そうやって次々ページをめくっていくと、「みかたのかお」「てきのかお」、「みかたのあかちゃん」「てきのあかちゃん」は変化せず同じ絵が使われています。敵と味方といえども同じ時代を生きている人であり、同じように未来があることをその絵で示しながら、国を背負って殺し合いをすることがどれ程無意味なことか、読者の側に気づかせようとしています。この絵本は短期間に3刷(2019/4/10)になっているように、反響が大きいことがわかります。ただ幼い子ども向きかというと、それは違うと思います。むしろ絵を見て言語化でき、その背景にまで想像を馳せることのできるYA世代~大人向けの絵本であるといえるでしょう。
 
 

『あるくくま』谷川俊太郎/文 祖敷大輔/絵 クレヨンハウス  2019/4/10

あるくくま
谷川 俊太郎
クレヨンハウス
2019-03-27
 
こちらも谷川俊太郎さんの作品です。87歳の今も衰えることのない創作意欲に驚かされます。この絵本は挿絵画家として活躍されているイラストレーター祖敷大輔さんの初の絵本作品です。未知の世界に向けて歩き出すくまの子。向かっていく先はどこでしょう。どこへでも行ける、そんな可能性を持っています。ところが、行き止まりになったかと思うとそれはとうさんぐまだったのです。絵本を読んでいて、ここで「あっ、これはくまの子の夢だったのか」と単純に判断しそうになります。子どもたちが育っていく中で、既成概念の枠で我が子を囲いがちな親という存在への谷川さんなりのメッセージなのかも。それでも「ぼくはばかじゃない」と高らかに宣言をして、親を踏み越えていくのが、成長であると思います。そう思うと、この絵本も可愛い絵だから小さい子向けかと思いがちですが、対象年齢はYA世代ではないでしょうか。(2019年5月18日に作者お二人のトークをクレヨンハウスで伺いました。→こちら
 
 

『なまえのないねこ』竹下文子/文 町田尚子/絵 小峰書店 2019/4/25

なまえのないねこ
竹下文子
小峰書店

 

この絵本の主人公は表紙絵になっているこの猫です。野良猫であるゆえに名前がありません。なまえのない猫は、名づけられているいろんな猫たちを紹介していきます。最後に雨の降る公園で少女に「きみ、きれいなメロンいろのめをしているね」と言われます。そして「おいで、メロン」と声をかけられてついていくのです。猫は「ほしかったのは、なまえじゃないんだ。なまえをよんでくれるひとなんだ。」と思うのです。名づけるということの意味を改めて感じさせてくれる絵本です。でも幼い子どもはもっと単純に、身寄りのないねこが少女に出会う絵本として楽しめるのではと思います。2019年5月9日から20日まで西荻窪にあるギャラリーURESICAにて絵本原画展も行われていました。

 

『ロバくんのみみ』ロジャー・デュボアザン/作 こみやゆう/訳 好学社 2019/5/18

ロバくんのみみ
ロジャー・デュボアザン
好学社
2019-05-16
 
ロバくんは、仲良しのうまのパットくんと水を飲んでいて、「パットくんのみみって、みじかくてすてきだな」と思います。そう感じた途端、自分の長くて立っている耳がみすぼらしく見えてしまいます。そこで牧場の仲間たちにどうしたらいいか聞いても回ります。いろんな仲間がいろんなアドバイスをくれるのですが、その度にうまくいきません。自分がそのままで受け入れられてるって自信がつくと、ロバくんに笑顔が戻ります。幼い子どもたちも「そのままでいいんだよ」とメッセージを受けとれることでしょう。絵本の見返しから美しく、大事に読み継ぎたい1冊です。原作は1940年に出版されています。
 

 

『あまがえるのかくれんぼ』舘野鴻/作 かわしまはるこ/絵 世界文化社 2019/5/20

あまがえるのかくれんぼ (世界文化社のワンダー絵本)
たての ひろし
世界文化社
2019-05-09
 
 
 
『しでむし』『つちはんみょう』など昆虫たちの精密かつ力強く描くことで定評のある舘野鴻さんが、今回は描画を生物画家かわしまはるこさんに任せて、あまがえるの生態についてのおはなしを作りました。子どもたちはあまがえるの子どもたちの目線にたって、あまがえるの体の色の変化について理解していくことでしょう。かわしまさんはご自身で何年もあまがえるを飼育しているそうです。絵からもあまがえるへの愛情を感じることが出来ます。

 

《ノンフィクション絵本》

『家をせおって歩く かんぜん版』村上慧/作 福音館書店 2019/3/10

 
福音館の月刊誌「たくさんのふしぎ」2016年3月号として出版された『家をせおって歩く』は、出版当時とても話題になりました。今回改訂、増補しハードカバーになって出版されました。家をせおう?それで全国あるく?高学年以上の子どもたちにとっては「家とはなにか」、「住むとはなにか」という既成概念を打ち破ることになるかもしれません。YA世代以上には、家をせおって歩きながら生活した日記をまとめた『家をせおって歩いた』(夕書房 2017/4)も一緒に合わせて読むことをお勧めします。
 

 

『牧野富太郎ものがたり 草木とみた夢』谷本雄治/文 大野八生/絵 出版ワークス 2019/3/20

草木とみた夢: 牧野富太郎ものがたり
谷本 雄治
出版ワークス
2019-02-27

「日本植物学の父」と呼ばれた牧野富太郎の伝記絵本です。江戸時代の終わりごろ、高知に生まれた富太郎は、幼い時から植物が大好きで、草木の観察をずっと続けていました。やがて東京に出て植物の研究をするようになるのですが、学歴のない富太郎は疎まれるようになります。そのような中で独学で研究を重ね、『大日本植物誌』を編纂します。大好きなものに没頭し、やがて夢をかなえた富太郎の生き方は、いろいろな示唆に富んでいます。園芸家でもある大野八生さんの絵も、柔らかい線なのに、強い意志を感じます。

 

『ダーウィンの「種の起源」はじめての進化論』サビーナ・ラデヴァ/作・絵 福岡伸一/訳 岩波書店 2019/4/23

ダーウィンの「種の起源」: はじめての進化論
サビーナ ラデヴァ
岩波書店
2019-04-24

1859年に『種の起源』を出版して、世に進化論を問いかけたチャールズ・ダーウィンのことは、誰でもよく知っていると思います。しかし『種の起源』を読んで、それをまた子どもにわかりやすく説明できる人は少ないのではないでしょうか。こちらの絵本は、『種の起源』を美しい絵と、子どもにわかりやすい表現で、解き明かしてくれます。作者のサビーナ・ラデヴァさんは分子生物学を学んだ後に、科学とアートを結び付ける仕事がしたいとイラストレーターになりました。この絵本が最初の作品です。日本語訳は生物学者の福岡伸一さんです。

 

 

《かがくのとも》

福音館書店の月刊誌「かがくのとも」は、創刊から50年を迎えました。この月刊誌が出始めた時のことは、とても印象に残っています。当時5歳下の弟がちょうど幼稚園の年長児で、その4月よりこの月刊誌を取り始めたからです。創刊号の『しっぽのはたらき』(川田健/文 薮内正幸/絵 1969年4月号)からして、5歳児の弟だけでなく当時10歳の私も夢中になりました。それまで当たり前のように感じていた身近なものを思いもよらぬ切り口で、「なぜだろう」「どうなっているんだろう」「どうすればいいのかな」と考える習慣を与えてくれました。その体験は、今もこうして「子どもに本を手渡す」という仕事の根幹に息づいています。4月に出版された記念誌と記念出版された作品を紹介します。(福音館書店の50周年記念サイト→こちら

『かがくのとものもと 月刊科学絵本「かがくのとも」の50年』かがくのとも編集部 福音館書店 2019/4/15

かがくのとものもと 月刊科学絵本「かがくのとも」の50年 (福音館の単行本)
寄藤文平+吉田考宏(文平銀座)デザイン
福音館書店
2019-04-16

 

世界で初めて創刊された月刊科学絵本「かがくのとも」の50年の歴史と、その全作品について知ることができる1冊です。これまで数回、「かがくのとも」の編集者の方々のおはなしを伺う機会があり、1冊の月刊誌にかけている時間は、構想から始まって完成まで平均3年~4年と聞いていましたが、この本の第3部「1冊のかがくのともができるまで」には、その過程が丁寧に書かれています。この1冊で「かがくのとも」のすべてがわかる、そんな貴重な資料です。

 

『イワシ むれでいきるさかな』大片忠明/作 福音館書店 2019/4/15

イワシ むれで いきる さかな (かがくのとも絵本)
大片 忠明
福音館書店
2019-04-10

この絵本の初出は2013年5月号でした。小さなイワシがどのように海の中で生活しているのか、なぜむれで生きているのか、子どもたちにわかりやすく伝えてくれます。群れで生きて、たくさんの卵を産み、他の生みの生き物の餌としても貴重な存在であるイワシは、海の生態系の中でいかに重要なのか、示唆に富んでいます。

 

『かずくらべ』西内久典/文 安野光雅/絵 福音館書店 2019/4/15

かずくらべ (かがくのとも絵本)
西内 久典
福音館書店
2019-04-19

小さな子どもが数の概念を獲得していく時に使うのが指の数。指の数と対象とを比較して、5と同じか、多いか、少ないか、そんなところから数に対する概念が獲得されていきます。この絵本では数を比べることで理解できるように促してくれます。初出は、1969年9月号でした。

 

『まるのおうさま』谷川俊太郎/文 粟津潔/絵 福音館書店 2019/4/15

美しい絵柄の皿は「ぼくはなんてまるいんだろう。ぼくこそまるのおうさまだ。」と威張ります。ところが割れてしまうと、今度はシンバルが自分こそ王様だと主張します。でも大きなタイヤが登場すると、轢かれてしまいます。そうやって次々に我こそはまるのおうさまだと名乗るのですが、最後は宇宙にまで広がっていき・・・何が一番なのか結論は出ないのですが、身の回りにあるたくさんの丸、球について気づいていく作品です。初出は1971年2月号です。

 

『みち』五味太郎/作 福音館書店 2019/4/15

みち (かがくのとも絵本)
五味 太郎
福音館書店
2019-04-17

1973年5月号の『みち』は、五味太郎さんが28歳の時に作った絵本デビュー作品です。道といっても狭い道もあれば広い道もある。陸上だけでなく、川は船の道、そらにも飛行機の通り道が定められている、道を通るのは人間だけではなく、電線は電気の通り道、水道は水の通り道、というようにさまざまなものに道があるということを伝えたうえで、きみはきみの道を歩いてごらんと背中を押してくれるのです。

 

『やぶかのはなし』栗原毅/文 長新太/絵 福音館書店 2019/4/15

やぶかのはなし (かがくのとも傑作集 どきどきしぜん)
栗原 毅
福音館書店
1994-05-20

子どもたちに一番身近な害虫って、夏にその柔肌から血を吸う蚊でしょう。その蚊はなぜ血を吸うのか、そもそもすべての蚊が人間の血を吸うのか、蚊が吸うのは人間の血だけなのか、身近過ぎてあまり知らないことを、蚊の目線から教えてくれます。小さな生き物にも道理があるんだと知ることができるのではないでしょうか。この初出は1990年の7月号です。

 

『のうさぎ』高橋喜平/文 薮内正幸/絵 福音館書店 2019/4/15

のうさぎ (かがくのとも絵本)
高橋 喜平
福音館書店
2019-04-17

雪の上にてんてんと足跡がついています。これは野うさぎの足跡です。ピンと耳を立てて緊張している野うさぎ。そこへ空からクマタカが襲い掛かってきました。さて野うさぎは逃げおおせることができるでしょうか?動物や鳥の絵本を描くと右に出るものがないと言われた薮内さんが丁寧に描いた作品です。初出は1999年4月号でした。

 

その他、50周年記念の期間限定復刻出版で『むかしのしょうぼう いまのしょうぼう』(山本忠敬/作 1984年4月号→こちら)と、『せんせい』(大場牧夫/文 長新太/絵 1996年2月号→こちら)が出版されています。こちらの2冊はすでに持っているため、今回購入しませんでした。紹介は、福音館書店の公式サイトをご覧になってください。

 

(作成K・J)

2019年3月、4月の新刊から


2019年3月、4月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの絵本と幼年童話を紹介します。(一部、見落としていた2月の新刊も含まれます)

ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。出版されたすべての新刊本を購入して読むことはできませんが、毎月、教文館ナルニア国の新刊本コーナー、クレヨンハウス新刊本コーナー、茗荷谷てんしん書房、横浜日吉にあるともだち書店、代官山蔦屋書店児童書売り場など、信頼できる児童書の目利きのいる書店にある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。

(なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

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絵本】

『ノロウェイの黒牛 イギリス・スコットランドのむかしばなし』なかがわちひろ/文 さとうゆうすけ/絵 BL出版 2019/3/10

 
福音館書店の『イギリスとアイルランドの昔話』(石井桃子/編・訳 J・D・バトン/画 1981)に収録されている「ノロウェイの黒うし」を素話で聞いたことのある人はいると思います。そちらに収められているのも、この絵本の底本になっているのも、同じくフローラ・アニー・スティールという女流作家が再話したものだそうです。同じ再話ですが、石井桃子さんの訳と、なかがわちひろさんの訳では当然違っていて、石井桃子訳で親しんできた人には、たとえばむすめが魔女によって眠らされている枕元で歌う歌の違いに戸惑いを感じることもあるでしょう。それでも語ると20分かかるおはなしを、絵本にすることで多くの人に知ってもらえるというのは素晴らしいことだと思います。本作が絵本デビューなったさとうゆうすけさんの絵は、構図も素晴らしく、とても丁寧で、物語の中に引き込む力を持っています。

『あみかけクジラ』川村たかし/文 赤羽末吉/絵 BL出版 2019/3/20

あみかけクジラ―クジラむかしむかし
川村 たかし
BL出版
2019-03-01
 
『もりくいクジラ』、『クジラまつり』と合わせて「クジラむかしむかし三部作」は、1973年に実業之日本社から出版され長く絶版になっていた作品ですが、この度BL出版から復刻されました。舞台は約400年前の紀伊の国、太地です。熊野灘では、熊野水軍の末裔が組織的な捕鯨をなりわいにしていました。当初は銛で突き取る手法だったのが、あみかけ漁法が開発されると組織的な捕鯨になっていったそうです。(熊野灘「鯨とともに生きる」ストーリー→こちら)そのような伝承を元にした三部作です。『あみかけクジラ』は太地の大柄な漁師でんじが一人でクジラに立ち向かう様を、赤羽末吉の大胆な筆致で描く作品です。折り込みの見開きページがとてもダイナミックで目を引きます。
 
 
『もりくいクジラ』川村たかし/文 赤羽末吉/絵 BL出版 2019/3/20 
 
『あみかけクジラ』で背中に銛を突き付けられたちびクジラ。銛を背負ったまま大きく成長すると群れを率いて、太地の海に戻ってきました。そのもりくいと若い漁師そうだゆうとの命をかけた対峙に思わず手に汗握ります。こちらにも折り込みの見開きページがあり、絵本の見開きの倍に絵が広がって、まるで屏風絵のようです。
 
 

『クジラまつり』川村たかし/文 赤羽末吉/絵 BL出版 2019/3/20

クジラは、村を潤してくれる大切な宝物です。必要以上な殺生をしないのが捕鯨をなりわいとする太地の村の掟でした。ある年の正月、その大切なクジラがシャチの大群に追い立てられ、狩りの犠牲になっているのをみつけた漁師たちは、必死にシャチを追い払います。そして年1回のクジラまつりの日、村を豊かにしてくれるクジラを福の神として手厚く祭るのです。捕鯨については、世界的にはさまざまな批判もあり、熊野灘の捕鯨文化についてもこの絵本を見るまで詳しくは知らないままでした。クジラとともに歩んでいた地域があることを理解する手助けにもなるのではないでしょうか。

 

『えほん東京』小林豊/作 ポプラ社 2019/3

えほん 東京
小林 豊
ポプラ社
2019-03-02

アフガニスタンを舞台とした『せかいいちうつくしいぼくの村』(産経児童出版文化賞フジテレビ賞)などのある小林さんの最新作は舞台が東京です。小林さんはここ数年『淀川ものがたり お船が来た日』(岩波書店 2013)や『長崎ものがたり お船が出る日』(岩波書店 2015)など日本の歴史をベースにした作品を発表しています。この作品は現代の東京を、四季折々におじいちゃんと孫が一緒に散歩しながら、江戸時代~戦前の古い時代を垣間見ていきます。古の時代から多くの人々が、様々な苦労を積み上げて出来上がったのが今の大都市東京だと思うと、懐かしさと温かさを感じる、そんな絵本でした。

 

『マチルダとふたりのパパ』メル・エリオット/作 三辺律子/訳 岩崎書店 2019/3/31

マチルダとふたりのパパ
メル・エリオット
岩崎書店

パールはある日、ともだちのマチルダのおうちに招待されます。実はパールのおうちはパパがふたりいるのです。パパとママの組み合わせの自分の家とは全然違うのかと思ったら、意外や普通の生活だったのです。昨年秋には『ふたりママの家で』(パトリシア・ポラッコ/作 中川亜紀子/訳 サウザンブックス社)で、女性同士が結婚した家庭の子育てを描いていましたが、こちらは男性同士が結婚した家庭。LGBTといった現代的なテーマを扱いながらも、この作品もとても自然で普通の家族として描いています。子どもたちが自然に受け入れていくことで、多様性が認められる社会になっていくことを期待しています。

 
『ぺんぎんのぴむとぽむ』ディック・ブルーナ/作 まつおかきょうこ/訳 福音館書店 2019/4/5 

ぺんぎんの ぴむ と ぽむ (ブルーナの絵本)
ディック・ブルーナ
福音館書店
2019-04-03
 
氷の国に住むペンギンのぴむとぽむは、氷のない国へ行ってみたくなります。意気揚々と冒険に出かけたのはいいのですが、のっていた氷がおひさまの暖かさでどんどん溶けていくので、さあ大変!ブルーナの絵本の新作です。まつおかきょうこさんの翻訳です。赤ちゃん絵本というよりは文章はそれなりに長く、読んであげるなら2才から。
 
 
 
『はりねずみのぼうけん』ディック・ブルーナ/作 まつおかきょうこ/訳 福音館書店 2019/4/5 

はりねずみの ぼうけん (ブルーナの絵本)
ディック・ブルーナ
福音館書店
2019-04-03
 
ブルーナ絵本新作の2作目ははりねずみが主人公です。はりこちゃんはマフラーを買いに町へ出かけていきます。ところが町は車がいっぱいです。夢中でショーウィンドウを覗いていたはりこちゃんにトラックがぶつかってきて、さあ大変!はりこちゃんは大丈夫かしら。こちらも2才以上のお子さん向けです。
 
 

『もじもじこぶくん』小野寺悦子/文 きくちちき/絵 福音館書店 2019/4/5

 
はずかしがり屋のこぶくん。アイスクリームを買いに行くのですが、なかなか自分の希望を伝えることが出来ません。でも、自分よりもっと小さなお客さまが困っているのを見ると、助けてあげなきゃと、自分でもびっくりするほどの大きな声を出すことが出来たのです。この絵本は福音館書店の月刊誌「こどものとも年中向き」の2016年4月号でした。きくちちきさんの描く柔らかな線のこぶくんがとても愛らしく、ハードカバーになって出版されました。多くの子どもたちの心に寄り添ってくれる作品です。
 
 
『かめくんのさんぽ』なかのひろたか/作 福音館書店 2019/4/5

かめくんのさんぽ (こどものとも絵本)
なかの ひろたか
福音館書店
2019-04-03
 
 
 
『ぞうくんのさんぽ』シリーズの新作です。月刊誌こどものとも年中向き2016年5月号がハードカバーになりました。かめくんがさんぽにともだちを誘います。でもわにくんもかばくんもぞうくんもお昼寝の真っ最中で「さんぽはあとで」とすげない答え。かめくんはともだちの背中をえっちらおっちら乗り越えていくのですが…これまでのシリーズと同様に、くすりと笑える優しいユーモアにあふれている絵本です。
 

『げんこつやまのたぬきさん』長野ヒデ子/作・絵 のら書店 2019/4/10

子どもたちにもなじみ深いわらべうた「げんこつやまのたぬきさん」が長野ヒデ子さんの優しいタッチの色鉛筆画で絵本になりました。たぬきさん以外にもうさぎさんやおつきさまも登場します。わらべうたを歌いながら、小さな赤ちゃんと一緒に楽しめる手のひらサイズの絵本です。

 

 

【詩集】

『あそびうたするものこのゆびとまれ』中脇初枝/編 ひろせべに/絵 福音館書店 2019/4/5

あそびうたするもの このゆびとまれ (日本傑作絵本シリーズ)
福音館書店
2019-04-03
 
子どもたちが遊びの中で歌っていたさまざまな唱え歌、囃し歌などが集められ、それに中脇さんが楽しい絵を描いた遊び歌集です。「あそびうたするもの このゆび とまれ」や「どちらにしようかな てんのかみさまの いうとおり」、「てるてるぼうず てるぼうず あーしたてんきにしておくれ」など、身近に歌い継がれてきた遊び歌が「さそいうた」、「てあそびうた」、「かぞえうた」、「はやくちうた」、「えかきうた」などに分類されてたくさん掲載されています。懐かしい歌がいっぱいですが、ぜひ子どもたちとも一緒に歌って、伝えていきたいですね。
 
 
 
『あそびうたするものよっといで』中脇初枝/編 ひろせべに/絵 福音館書店 2019/4/5

 
『あそびうたするものこのゆびとまれ』と一緒に出版されました。こちらは「きらいでけっこう すかれちゃ こまる」などの「わるくちうた」や、「ゆうびんやさん はがきが十枚おちました」のような「そとあそびうた」、そして「ちちんぷいぷい ちちんぷい いたいの いたいの とんでいけ」のような「おまじないうた」などが載っています。
 
 
 
【児童書】

『バレエシューズ』ノエル・ストレトフィールド/作 朽木祥/訳 金子恵/絵 福音館書店 2019/2/10

バレエシューズ (世界傑作童話シリーズ)
ノエル・ストレトフィールド
福音館書店
2019-02-06
 
以前、教文館刊、中村妙子訳の『バレエシューズ』(紹介記事→こちら)を紹介しました。今回は同じ作品を児童文学作家の朽木祥さんが翻訳しました。身寄りのない赤ちゃん3人が学者に引き取られロンドンのお屋敷で一緒に育っていきます。彼女たちは「フォシル」と名乗り、歴史に名を残せるよう誓い合います。舞台女優を目指すポーリィン、機械作りに惹かれていくペトロ―ヴァ、バレエの才能をもつポゥジーの成長物語です。優しい色合いの装丁と優しい挿絵は、中高生により手渡しやすくなっています。
 
 
 
 
『夢見る人』パム・ムニョス・ライアン/作 ピーター・シス/絵 原田勝/訳 岩波書店 2019/2/27

夢見る人
パム・ムニョス ライアン
岩波書店
2019-02-28
 
自然や、恋愛、政治など多様なテーマで詩を綴り1971年にノーベル文学賞を受賞したチリの詩人、パブロ・ネルーダの少年時代を描いた作品です。パブロ・ネルーダはペンネームで本名はネフタリ・リカルド・レジェス。父親は強権的でネフタリが体が弱く、本を読んで、詩ばかり書いていることを快く思っていません。しかしネフタリの心はいつも夢見ることをやめませんでした。
「作家はみな、政府が正しいと言うことだけを広めなければならないのか?別の考えを示しただけで、なぜ裏切り者とみなされてしまうんだ?考え方は、ひとつより二つあるほうがいいんじゃないか?読者に問いかけ、読者が自分で決められるようにしたほうがいいはずだろう?ネフタリは立ち上がり、部屋の中を行ったりきたりした。今すぐにでも行動を起こし、人々の権利を守り、闘いたい気持ちでいっぱいだった。」(p246)先住民族を迫害する政府への抵抗運動で逮捕者が出て言論の自由が脅かされている時にネフタリが慟哭する場面のことばは、重く心に響いてきました。
章立ては「雨」「風」と短い言葉で、横書きで柔らかなフォントが使われ、ピーター・シスの挿絵や装丁も素敵です。
 
 
 
 
『鹿の王 水底の橋』上橋菜穂子/作 角川書店 2019/3/27

鹿の王 水底の橋
上橋 菜穂子
KADOKAWA
2019-03-27
 
2014年10月に刊行された『鹿の王』上下巻の続編が出ました。(2014年度は新刊情報を定期的にUPしていなかったので「本のこまど」には紹介記事を書いてません。残念)巨大帝国が他民族を侵略していく中で起こった黒狼熱のパンデミックを扱った前作のスピンオフ作品で、『水底の橋』では前作では人々の命を救おうと奔走するオタワル人医師ホッサルが主人公です。東乎瑠帝国で次期皇帝争いが起きている最中、ホッサルは清心教祭司医・真那の招きで清心教医術の発祥の地へ招かれます。しかしそこで次期皇帝争いに巻き込まれていきます。前半は地名や人の名前がすっと入ってこず読みにくさを感じましたが、それに慣れるとぐいぐいと惹きこまれていきました。命と医療の問題に深く切り込む作品は、作者自身が親の看護に立ち会う中で着想を得ただけあって、読み応えがあります。上橋さんは、児童書(YA)の枠組みこだわらず多くの人に読んでほしいと願っておられますが、それでも若い世代に読んでほしいと願いここで紹介します。
 
 
 
(作成K・J)

2019年1月、2月の新刊から


2019年1月、2月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの絵本と幼年童話を紹介します。(一部、見落としていた2018年12月の新刊も含まれます)

ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。出版されたすべての新刊本を購入して読むことはできませんが、毎月、教文館ナルニア国の新刊本コーナー、クレヨンハウス新刊本コーナー、茗荷谷てんしん書房、横浜日吉にあるともだち書店、代官山蔦屋書店児童書売り場など、信頼できる児童書の目利きのいる書店にある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。

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【絵本】

『もういいかい』岡野薫子/作 太田大八/画 復刊ドットコム 2019/1/25

もう いいかい
岡野 薫子
復刊ドットコム
2019-01-19

1976年に講談社から出版されていた作品が復刊されました。かくれんぼでおにになったカオル。ともだちが遠くに走っていく気配を感じますが、ふいにすぐ後ろで「もういいよ」という声を聞きます。目を開けてみると、見知らぬ子がそこにはいました。その子はカオルを空き地にある自分の小屋に連れて行くと、そこで太鼓をたたき始めます。その不思議な子の頭には角が見えて、逃げ出すカオル。すると雷鳴が鳴り響き夕立が追いかけてきました。2016年に他界された太田大八氏の描く鬼の子の表情が印象的です。

 

『こんとん』夢枕獏/文 松本大洋/絵 偕成社 2019/2 

こんとん
夢枕 獏
偕成社
2019-01-25
 
“こんとん=混沌”なのでしょうか。「こん とん  こん とん 名前じゃないよ まだ 名前は ないからなあ」「名前が ないので だれでも ない。 だれでも ないのに だれでも ないから なんにでも なれる。」まるで禅問答のような言葉ではじまるこの絵本は、幼い子ども向けというよりは、おとなに向けて、あるいはYA世代に向けて作られた絵本と言っていいでしょう。目も耳も鼻も口もなかった「こんとん」に、ある日帝が目耳鼻口がつけた途端、「こんとん」は倒れて動かなくなる・・・いかに自分の目で見、聞き、嗅ぎ、自分の口で語ることが重いことなのか、と問いかける不思議な作品です。詩人工藤直子さんの息子で「鉄コン筋クリート」などヒットした作品を持つ漫画家の松本大洋さんが絵本を手掛けるのは、谷川俊太郎さんと組んだ『かないくん』(谷川俊太郎さん×松本大洋対談は→こちら)についで2冊目です。

 

*ノンフィクション絵本*

『数字はわたしのことば ぜったいにあきらめなかった数学者ソフィー・ジェルマン』シェリル・バード―/文 バーバラ・マクリントック/絵 福本友美子/訳 ほるぷ出版 2019/1/20

数字はわたしのことば: ぜったいあきらめなかった数学者ソフィー・ジェルマン
シェリル バードー
ほるぷ出版
2019-01-24
 
フランス革命が推し進められていた1776年4月に、ある裕福な家庭にソフィーという女の子が生まれます。当時のフランスでは女の子は家で教育を受けられればよいほうで、女子には学問は不要だと考えられていました。ソフィーが13歳の時に、バスティーユ襲撃が起こり、パリの街はきな臭い空気に包まれます。家に籠って過ごしていた時に父親の書庫から「数学の歴史」という本をみつけ、夢中になります。ソフィーは両親はもちろん周囲の偏見と闘いながら数学の研究を続け、大きな功績を残します。この絵本はそんなソフィーの生涯を、シェリル・バード―が大量の資料をもとに子どもたち向けに文章を書き、バーバラ・マクリントックが魅力的な絵をつけています。自分が関心をもったことを諦めずに極めていくことに対して勇気を与えてくれる伝記絵本です。
 
 
『キュリオシティ ぼくは火星にいる』マーカス・モートン/作 松田素子/訳 渡部潤一/日本語版監修 BL出版 2019/2/10

キュリオシティ ぼくは、火星にいる
マーカス・モートン
ビーエル出版
2019-02-02
NASAのマーズ・ローバー・ミッションを知っていますか?車型のロボット火星探査車を使った火星の調査のことです。先日も、2004年に打ち上げられ、当初3カ月の期間というミッションだった火星探査車オポチュニティが、昨年6月に砂嵐に襲われて太陽光発電できなくなっていましたが、再起動を断念、14年にわたる活動を閉じたことがニュースになりました。(→さよならオポチュニティ)この絵本では、オポチュニティの後継機キュリオシティの開発から、打ち上げ、そして火星上での探査について、とても丁寧に描かれています。開発過程では、火星での生命体を探す使命を果たすために、厳しく地球上のばい菌さえも付着しないよう細心の注意が払われていること、2年2か月ごとに地球と火星が接近するそのタイミングに打ち上げること、火星まで6億キロの距離を253日間かけて飛んだあと、無事に火星に降り立つためにもいくつもの難関を越えなければならないことなど、子どもにもわかるように説明されています。昨年11月には次の火星探査車インサイトも無事到着し、調査を開始しています。(→こちら)宇宙へ関心を持ち、そのことを通して地球の環境についても考えるきっかけとなる絵本です。
 
 
 
【児童書】

『ぼくは本を読んでいる。』ひこ・田中/作 講談社 2019/1/15

ぼくは本を読んでいる。
ひこ・田中
講談社
2019-01-17
 
小学校5年生になったルカは、両親が仕事で帰りの遅い日に出没したゴキブリを退治しようと追いかけて、両親の本部屋(天井まである本棚にびっしり本が詰まっている書斎)に入り込みます。ゴキブリは取り逃がしてしまいますが、脚立を使って覗いた棚の上に、紙カバーに包まれた本を5冊みつけます。そのうちの1冊のカバーを外すと『小公女』と書いてあり、出版年を見ると両親が10歳前後の時に出た本だとわかり、読み始めます。ルカの小学校での友人関係を絡めながら読書体験のなかったルカが、本を読むことで変化していく様子を描いています。文中で紹介されている『小公女』や『あしながおじさん』、『ゲド戦記』、『赤毛のアン』などを、この機会にその年代の子どもたちに読んでもらえるといいなと思いました。
 
 
『ルイジンニョ少年 ブラジルをたずねて』かどのえいこ/文 福原幸男/絵 ポプラ社 2019/1

ルイジンニョ少年: ブラジルをたずねて
かどの えいこ
ポプラ社
2019-01-08
 
2018年に国際アンデルセン賞作家賞を受賞された角野栄子さんのデビュー作の復刻版が出版されました。角野さんが1959年にブラジル移民団にに混じって貨客船でブラジルまで旅をし、2年間サンパウロで過ごした経験をもとに書いています。タイトルのルイジンニョ少年(ジンニョとは親しみをこめて男性の名前につける呼称、ルイスくん)は、実際に角野さんがサンパウロにいた時に同じアパートに住んでいて、ポルトガル語の会話の先生役を引き受けてくれた9歳の少年です。この物語では、主人公のえいこさんがルイスくんの家に下宿している設定になっています。1960年代のブラジル・サンパウロの様子、陽気で肌の色で分け隔てないブラジルの人々の気質などを、ルイジンニョ少年との交流を通して描いた作品です。復刻版あとがきもぜひ読んでほしいと思います。
 
 
 
『メアリ・ポピンズ』トラバース/作 岸田衿子/訳 安野光雅/絵 朝日出版社 2019/1/25

メアリ・ポピンズ
トラバース
朝日出版社
2019-01-26
 
「安野光雅の絵で読む世界の少年少女文学」の『小さな家のローラ』『赤毛のアン』、『あしながおじさん』に続く4冊目です。このシリーズは、「子どもから大人まで楽しめる」「長く読み継がれる」という視点で安野さんご自身が作品を選んで挿絵を描いていらっしゃいます。安野さんって今年93歳になられるのです。その安野さんの描きおろしの絵がまたとても素敵で、すでに別の出版社から出ている作品を読んでいても、安野さんの絵で読みたくなります。翻訳は岸田衿子さん。1993年に河出書房新社より刊行された訳を、著作権継承者の了解を得て使用しているそうです。安野さんは生前の岸田さんとも交流があったので、さらに思い入れもあったことでしょう。2月1日にディズニー映画「メリー・ポピンズ リターンズ」も公開されたところです。この作品に出合ってもらえる機会となりそうですね。
 
 
【ノンフィクション】

『ことばハンター 国語辞典はこう作る』飯間浩明 ポプラ社 2019/1
 
国語辞典の編纂については三浦しをん氏の小説『舟を編む』(光文社 2011)とその映画化で、多くの人が知るところとなりました。これは国語辞典編纂の仕事について、編纂者の飯間浩明さんが小学校高学年~YA世代に向けて書いた本です。飯間さんは、2018年6月放送のNHKの番組「プロフェッショナル仕事の流儀」で取り上げられました。(→こちら)番組を見て、街をめぐり、人々との会話から、生きた新しいことばをキャッチし、それを端的な文言で説明するというその仕事ぶりに魅せられたものでした。辞書を定期的に改訂することは、「ことばの変化を知り、気づかなかった事実に気づき」(「おわりに」より)それを観察し記録していくことであり、ネット時代になりスマートフォンで、すぐに何でも調べられる時代であっても、おろそかにできない大切な仕事なんだと知ることができました。子どもたちにことばは生きているということ、ことばは面白いということをこの本を通して伝えたいと思いました。
 
 
『ミッション・シロクマ・レスキュー』ナンシー・F・キャスタルド、カレン・デ・シーヴ/著 田中直樹/日本版企画監修 土居利光/監修 ハーパーコリンズ・ジャパン 2019/2/15

ミッション・シロクマ・レスキュー (ナショナル ジオグラフィック キッズ)
ナンシー・F・キャスタルド カレン・デ・シーヴ
ハーパーコリンズ・ ジャパン
2019-02-08
 
ホッキョクグマがロシア北東部ノバヤゼムリヤ列島の集落を大挙して襲ったというニュースを2月半ばにワールドニュースで見ました。(→こちら)地球の温暖化の影響で、生息地を追われているシロクマたちの状況を象徴するようなニュースでした。ニュースになったころにちょうど出版されたこちらの本では、シロクマの生態を詳しく知ったうえで、なぜシロクマたちの住む場所がなくなっているのかを、親子でどうしたらよいか考えることができます。シリーズ既刊の『ミッション・パンダ・レスキュー』、『ミッション・ライオン・レスキュー』と合わせて、子どもたちに動物の現状を通して環境問題について知ってほしいと思います。(既刊の2冊はこちらで紹介→2018年11月、12月の新刊から
 
 
【詩】
 
『まど・みちお詩集 ぞうさん』まど・みちお/詩 童話屋 2019/1/23

まど・みちお詩集 ぞうさん
まど・みちお
童話屋
2019-01-26
 
まど・みちおさんの詩が、童話屋のポケット詩集になりました。これまでたくさんのまどみちお詩集が出ていますが、この本は文庫本サイズで携帯しやすく、四季折々、あるいは気分に合わせて声に出して読みたくなります。おはなし会でもぜひ詩を紹介してあげてください。
 
 
【その他】
 
『元「童話屋」読書相談員 向井惇子講演録「どの絵本読んだらいいですか?」』向井ゆか/編 かもがわ出版 2019/1/15
 
渋谷にあった子どもの本の専門店「童話屋」(1977~1998)の創業スタッフで読書相談員をしていらした向井惇子さんの講演録です。童話屋閉店後(『のはらうた』を始めとする童話屋の出版部門は続いています)、フリーの絵本アドバイザーとして目黒区東山絵本勉強会や川崎市宮前文庫グループなどを中心に講演会や勉強会の講師を、2017年に亡くなられる三日前まで務めていらっしゃいました。その講演の記録をまとめたものです。私自身も杉並区の文庫の勉強会で講演を聞いています。向井さんの語りかける言葉がそのまま響いてくるようで、子育てを始めたばかりの若いご両親や、図書館で初めて仕事をする人たちにも、「絵本を選ぶ」ということは、どういうことなのか、わかりやすく教えてくれる1冊です。
 
 
『子どもと本をむすぶ 児童図書館のあゆみ』児童図書館研究会 20191/23
2016年度児童図書館研究会全国学習会(東京学習会2017/2/26~27)の分科会「児童図書館研究会のあゆみ 先輩に学ぶ」の記録を編集した冊子です。構成は二部にわかれていて、第一部は元江東区城東図書館長福嶋禮子さんに研究会設立当時について聞く「福嶋さんに聞こう!」、第二部は慶應義塾大学非常勤講師汐崎順子さんに、図書館の児童サービスの歴史を聞く「児童サービスの歴史」になっています。過去を振り返りつつ、変化の激しい現代の子どもたちにどのように本を手渡していくのか、児童サービスに関わるものに考えること、そして行動することを促します。(児童図書館研究会の公式サイトは現在リニューアル中となっており、サイトから購入できませんが、銀座・教文館ナルニア国では、この冊子を扱っています)
 


『のこす言葉 安野光雅 自分の眼で見て、考える』安野光雅/作 のこす言葉編集部/編 平凡社 2019/2/6

 

 
平凡社の「KOKORO BOOKLETのこす言葉」シリーズの1冊です。これは、“一つのことを極める上でどんな知恵を積み重ねてきたのか。人生の先輩が切実な言葉で伝える語り下ろしの自伝シリーズ”(→こちら/週刊「読書人」Webより)で、1984年に国際アンデルセン賞画家賞を受賞した安野光雅さんの「自分の眼で見て、考える」はその第3弾となります。92歳になった安野さんは現在も新作を発表し続けていらっしゃいます。その原動力となっているのは何か、この本を読んでいると見えてきます。その生き生きとした語り口に、安野さんの絵の魅力に繋がっているものを感じました。

(作成K・J)

2018年の新刊から*見落としていた本の紹介


2018年9月~12月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、見落としていたおすすめの本を紹介いたします。(前回紹介した記事は→こちら

2019年1月の新刊は現在チェック、読んでいる最中です。2月に記事をUPしますので、もう少しお待ちください。

 

ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。出版されたすべての新刊本を購入して読むことはできませんが、毎月、教文館ナルニア国の新刊本コーナー、クレヨンハウス新刊本コーナー、茗荷谷てんしん書房、横浜日吉にあるともだち書店、代官山蔦屋書店児童書売り場など、信頼できる児童書の目利きのいる書店にある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。

(なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

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【絵本】

『リズムがみえる』ミシェル・ウッド/絵 トヨミ・アイガス/文 金原瑞人/訳 ピーター・バラカン/監修 サウザンブックス社 2018/9/25

リズムがみえる
トヨミ・アイガス
サウザンブックス社
2018-10-01

冒頭に「この本は、アフリカ系アメリカ人の音楽の歴史をアーティストの目を通して描いたものです。」とあります。読み進んでいくうちに 500年以上前の大航海時代に始まり300年も続いたと言う奴隷貿易の歴史と、過酷な環境に身を置きながらも音楽を通して先祖のリズムを伝えてきた人々の歴史に圧倒されました。躍動感溢れる絵と、その脇に小さく記された歴史の年表との落差に、アフリカ系アメリカ人の歩んできた道のりが見えてきます。ファンクやラップ、ヒップホップの好きなYA世代にぜひ手に取ってもらいたい1冊です。(サウザンブックスのページへ→こちら

サウザンブックス社は、クラウドファンディングを用いて、世界中の価値ある絵本を日本に紹介している出版社で(出版のコンセプト→こちら)、2018年10月にレズビアンの母親の家庭を描いた『ふたりママの家で』(パトリシア・ポラッコ/作 中川亜紀子/訳)も出版しています。
合わせて5年前に出版された岩波ジュニア新書の『魂をゆさぶる歌に出会う―アメリカ黒人文化のルーツへ』(ウェルズ恵子/著 岩波ジュニア新書 2014/2)も紹介するとよいでしょう。アフリカ系アメリカ人の文化の歴史がより詳しく、わかりやすく解説されています。(私も後輩から教えてもらいました)



 

『オーロラの国の子どもたち』イングリとエドガー・パーリン・ドーレア/作 かみじょうゆみこ/訳 福音館書店 2018/11/15

オーロラの国の子どもたち (世界傑作絵本シリーズ)
イングリとエドガー・パーリン・ドーレア
福音館書店
2018-11-14
 
北ヨーロッパ・ラップランド(スカンジナビア半島北部)に住むサーミ族の生活を、ラッセとリーセの兄妹の視点から描くドーレア夫妻の作品です。ドーレア夫妻はリンカーンの伝記絵本で1940年にコールデコット賞を受賞しています。妻のイングリはバイキング末裔で、ノルウェー育ちです。その美しい自然と生活を子どもたちに知らせたいと、実際にノルウェー北部を取材して絵本にしました。厳しい自然の中でトナカイを放牧し、夏の間だけ学校に通う子どもたちの姿が生き生きと描かれています。2017年12月には菱木晃子さんが『巨人の花嫁 スウェーデン・サーメのむかしばなし』(平澤朋子/絵 BL出版)(紹介文→こちら)を出版していますが、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、ロシアのコラ半島北部に暮らす先住民族サーミ(サーメ)に対する知識と理解が大きく進んできた証と言ってよいでしょう。福音館書店の公式サイト「ふくふく本棚」のページに、文化人類学者葛野昭浩氏によるサーミ族とこの絵本についてのエッセイが掲載されています。(→こちら

 

 

『つちをほらなくなったスチームショベル』ジョージ・ウォルターズ/文 ロジャー・デュボアザン/絵 こみやゆう/訳 好学社 2018/12/7 

つちをほらなくなったスチームショベル
ジョージ・ウォルターズ
好学社
2018-12-11
 
蒸気を使って動かすショベルカーは1839年に発明され、19世紀後半から20世紀の初頭に大活躍します。特にパナマ運河の掘削ではその威力を発揮しますが、1930年以降ディーゼルエンジンで動くショベルカーへと変遷していきます。この絵本は1948年にアメリカで出版されているので、世代交代が進み始めた頃のスチームショベルが主人公です。たまたまそばを通りかかった孫が「ぼく、スチームショベルになりたい」と言ったのに対し、おばあさんがスチームショベルは土を食べるから汚れている、そんなものになるな、と答えるのを聞いてしまいます。そして土を食べるのをやめで、その男の子が好きだという食べ物を探して暴走をするのです。色彩の魔術師と評されるデュボアザンが、黄色と青色を効果的に使った鮮やかで軽妙な絵で、ショベルカーをまるで恐竜のような命あるものとして描いていて、それがとてもユーモラスです。

 

【児童書】

『野生のロボット』ピーター・ブラウン/作・絵 前沢明枝/訳 福音館書店 2018/11/15 

野生のロボット (世界傑作童話シリーズ)
ピーター・ブラウン
福音館書店
2018-11-14

ロボットの輸送船が難破して無人島に流れ着いたロボットのロズ。ラッコのいたずらでスイッチが入り太陽光で充電され目覚めて活動を始めます。島の環境に順応しつつ野生動物から学ぶロズの姿に、動物たちもロズに心開いていきます。あれ?ロボットって感情を持ってないはず、野生化するなんてあり得るのだろうか、と思う方にはまずは読んでみてほしいと思います。

(作成K・J)

2018年11月、12月の新刊から


2018年11月、12月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの絵本と幼年童話を紹介します。(一部、見落としていた10月の新刊も含まれます)

ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。出版されたすべての新刊本を購入して読むことはできませんが、毎月、教文館ナルニア国の新刊本コーナー、クレヨンハウス新刊本コーナー、茗荷谷てんしん書房、横浜日吉にあるともだち書店、代官山蔦屋書店児童書売り場など、信頼できる児童書の目利きのいる書店にある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。

(なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

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【絵本】

『セリョージャとあそぼう!ロシアのこどものあそびとうたと』ナディア・コズリナ/作 まきのはらようこ/訳 カランダ-シ出版 2018/11/2 

セリョージャとあそぼう! ロシアのこどものあそびとうたと
ナディア コズリナ、 まきのは らようこ
カランダーシ
2018-11-02
 
灰色おおかみのセリョージャが、遊びながらロシアに伝わる子どもたちのための詩、わらべうた、鬼ごっこ、お菓子作り、一緒に遊べる布人形作りを紹介していきます。わらべうたは楽譜付き、ロシアの子どもたちの生活を思い浮かべながら楽しめる1冊です。作者のナディア・コズリナさんは1981年生まれのグラフィックデザイナーで、現在は東京で絵を描きながらロシアアートの歴史講義やロシア語教師をしています。カランダ-シ出版はロシア語絵本を専門に出版しているひとり出版社です。

 

『ねこのオーランド― たのしい日々』キャスリーン・ヘイル/作 こみやゆう/訳 好学社 2018/12/18

ねこのオーランドー たのしい日々
キャスリーン・ヘイル
好学社
2018-12-15
 
 
福音館書店の大型絵本『ねこのオーランド―』の姉妹版。ねこのオーランド―とグレイスの夫婦には3匹のこねこがいます。こねこたちを学校に行かせるために、オーランド―たちは、いろんなものを発明して学費を稼ぎます。しかしグレイスはこねこが巣立つことに寂しさを感じ、肝心のこねこたちは学校も行きたがりません。そこでこねこたちに習い事を始めさせます。大人の目線では、すごく人間臭いオーランド―とグレイスに親しみを覚えますが、子どもたちは無邪気なこねこたちの気持ちになっておはなしを楽しむことでしょう。両親の前で習い事の発表会をするこねこたちが、とにかく可愛らしく、心弾む絵本です。英国では1942年に初版が出版されていますが、親の気持ち、そして子どもたちの思いはいつの時代も変わらないんだなと改めて感じました。
 
 
 
 
児童書】
『ぼくはくまですよ』フランク・タシュリン/文・絵 小宮由/訳 大日本図書 2018/12/25

 
一頭のくまが冬眠から目覚めると、森だったところが眠っている間に切り拓かれて工場になっていました。工場の主任に仕事をさぼっていると思われたくまは必死で「ぼくはくまですよ」と訴えるのですが、「おまえは、くまじゃなく人間だ。それも毛皮のコートを着こんだ、ひげもそらない、とんちんかんだ。」と信じてくれません。主任は部長に、部長は常務に、常務は専務に、専務は副社長に、副社長は社長に訴え、そのたびに「ぼくはくまですよ」と必死で訴えるのですが、いつも答えは同じ。「おまえは、くまじゃなくて、人間だ。それも毛皮のコートを着こんだ、ひげもそらない、とんちんかんだ」が繰り返されます。そこで動物園のくまや、サーカスのくまのところへ連れていかれるのですが、そこでも答えは同じです。さてこのくま、一体どうなってしまうのでしょう。荒唐無稽のおはなしではありますが、この作品が作られたのが第二次世界大戦終戦の翌年と考えると、いろいろな意味を含んでいるとも思えます。しかし、こどもは純粋に、くまの気持ちになって最後まではらはらしながらおはなしを楽しむことができるでしょう。文字も大きく挿絵もたっぷりあるので、ひとりで読み始める小学校低学年におすすめです。
 
 
 
『ジュリアが糸をつむいだ日』リンダ・スー・パーク/作 ないとうふみこ/訳 いちかわなつこ/絵 徳間書店 2018/12/31

ジュリアが糸をつむいだ日 (児童書)
リンダ・スー パーク
徳間書店
2018-12-11
 
韓国系アメリカ人の女の子ジュリアは7年生(中1)。引っ越していった先でパトリックと仲良くなり、一緒に楽農クラブに入会します。これは子どもたちに農業について教えてくれるサークルです。そこで子どもたちはテーマを決めて自由研究をすることになっています。ふたりが選んだテーマは、カイコを飼うこと。ジュリアのお母さんの提案でした。ふたりは自由研究に取り組む中で、韓国系移民の歴史について、そしてカイコのえさの桑の葉を栽培する黒人のディクソンさんと出会うことで、人種差別についても深く考えるようになっていきます。また、大事に育てたカイコから糸を取るためには、カイコを蛾の成虫になるまえに殺すことを知って葛藤するジュリアは、家畜の命についても深く考えます。ひとつの学びをきっかけにして、成長していくティーンズの姿は、読み終わってとても爽やかなものがありました。作者は、『モギ ちいさな焼き物師』(片岡しのぶ訳、あすなろ書房)で2002年度に米国最高の児童文学賞ニューベリー賞を受賞しています。
 
 
 
『風と行く者 守り人外伝』上橋菜穂子/作 佐竹美保/絵 偕成社 2018/12

 
 
 
 
 
 
「守り人シリーズ」の待望の外伝3作目です。タルシュ帝国との戦いが終わり、タンダと平穏な暮らしをしていたバルサは、久しぶりに草市に出かけます。そこでバルサが16歳だったころ、養父ジグロとともに護衛したことのあるサダン・タラム(風の楽人)一行と再会します。シャタ(流水琴)を奏で、異界エウロカ・ターン〈森の王の谷間〉への道を開くことのできるサダン・タラムのお頭は何者かに命を狙われます。再び、サダン・タラムの護衛をしてロタに旅立つことになったバルサは、氏族間の抗争が続くロタ北部の歴史の闇を覗くことになるのです。新しいお頭は、もしかしてジグロの忘れ形見なのか、それを知りたくて一気に読んでしまいました。



 
【詩】
『クリストファー・ロビンのうた』A・A・ミルン/作 E・H・シェパード/絵 小田島雄志・小田島若子/訳 河出書房新社 2018/10/18

クリストファー・ロビンのうた
A・A・ミルン
河出書房新社
2018-10-17



『クマのプーさんとぼく』A・A・ミルン/作 E・H・シェパード/絵 小田島雄志・小田島若子/訳 河出書房新社 2018/10/30

クマのプーさんとぼく
A・A・ミルン
河出書房新社
2018-10-17
 
晶文社から1978年に出版されたミルンの詩集『わたしたちがおさなかったころ』(When We Were Very Young,1924)を翻訳した『クリストファー・ロビンのうた』が10月18日に、1979年に出版された『いまわたしたちは六歳』(Now We Are Six,1927)を翻訳した『クマのぷーさんとぼく』が10月30日にそれぞれ新装復刊として河出書房新社から出ました。ミルンが子どもたちのために書いた詩には、子どもの自由な想像力、あそびや自然が描かれており、思わずくすりと笑ってしまいます。子どものこうした無邪気さを失いたくないと思いました。声に出して読んであげたいですね。
 
 
 
【ノンフィクション】
『NATIONAL GEOGRAPHIC ミッション・パンダ・レスキュー』キットソン・ジャジンカ/著 土居利光/監修 田中直樹/日本版企画監修 ハーバーコリンズ・ジャパン 2018/11/25

ミッション・パンダ・レスキュー (ナショナル ジオグラフィック キッズ)
キットソン ジャジンカ
ハーパーコリンズ・ ジャパン
2018-11-24
『NATIONAL GEOGRAPHIC ミッション・ライオン・レスキュー』アシュリー・ブラウン・ブリュエット/著 土居利光/監修 田中直樹/日本版企画監修 ハーバーコリンズ・ジャパン 2018/12/25

ミッション・ライオン・レスキュー (ナショナル ジオグラフィック キッズ)
アシュリー ブラウン・ブリュエット
ハーパーコリンズ・ ジャパン
2018-12-25
 
 
こちらの2冊は、購入したものではなく、出版社から贈呈されたものです。絶滅危惧種である動物たちについて詳細にその生態と生息環境について調べられた本です。情報量が大変多く、対象年齢は高学年以上と思われますが、もっと低学年の子どもにも、親子で読むことで関心をもってほしいとお笑い芸人ココリコの田中さんが日本語版の企画に携わっています。出版社の想定した対象年齢と、本の中身とのギャップに、ここで紹介すべきかと迷ったシリーズです。しかし世界の野生動物たちの現状を深く捉えたものとして評価出来ると思い、こちらの2冊を紹介します。
 
 
【その他】
『わたしはよろこんで歳をとりたい』イェルク・ツィンク/著 眞壁伍郎/訳 こぐま社 2018/10/25

わたしはよろこんで歳をとりたい
イェルク ツィンク
こぐま社
2018-10-18
 
児童書専門の出版社こぐま社の佐藤英和さんがどうしても出版したかったと願っていらしたドイツの神学者が自らの老いをみつめて語る「老い」をテーマにしたエッセイです。児童書ではありませんがぜひ紹介したいと思います。幼児と老人では人生の春と冬に例えられますが、深層心理学の世界では老人はまた幼児のころに戻っていく、世の中を捉える視点が生産性の高い青年・壮年の時とは変化し、感性の部分で両者は共通性をもっている、共感しあえる存在として捉えられています。「ツィンクが語る、わたしたちは秋の実のように大地にうもれながら、新しい春の芽生えをまっているという姿に、長年子どもたちと読書活動をしてきた、わたしの知人友人たちもまた、深い慰めと励ましを受けた」と訳者あとがきにあるように、子どもたちのそばにいる私たちにとって、人生を考え、また次の世代になにを手渡すべきかということも知らせてくれる、深い文章です。誰もが、一日、一日と老いに向かっています。ほんの少し歩みをとめて、老いていく人生の意味を考えてみるのもよいかもしれません。
 
 
 
『あふれでたのはやさしさだった 奈良少年刑務所 絵本と詩の教室』寮美千子/著 西日本出版社 2018/12/7

 
奈良に転居したのをきっかけに奈良少年刑務所で「物語の教室」を始められた作家の寮美千子さん。少年刑務所に通って、少年たちと詩や物語を学ぶうちに、彼らは凶暴な悪人ではなく、実は貧困の中で、あるいは親からの虐待を受け、心に傷を負っていることに気づいていきます。そうした中で彼らが詠んだ詩は、2011年に『空が青いから白をえらんだのです―奈良少年刑務所詩集』として新潮社から出版されました。この本は、少年刑務所の中で起きた数々の奇跡の記録です。人が人として生きていくために、一番大切なものは何なのか、私たちにその問いを突き付けてくる1冊です。詩集と一緒に紹介してほしいと思います。
 
 
『本・子ども・絵本』中川李枝子/著 山脇百合子/絵 文春文庫 文藝春秋 2018/12/10

本・子ども・絵本 (文春文庫)
中川 李枝子
文藝春秋
2018-12-04
 
1997年に大和書房から出版された『ぐりとぐら』の作者中川李枝子さんのエッセイが、文庫版になって戻ってきました。カラーの撮りおろし写真のページも加わり、その上軽くていつでも通勤のバッグの中に忍ばせておけます。「生まれてきてよかった」とすべての子どもたちに思ってほしい。絵本の世界で豊かな経験をした子どもは人生に希望と自信をもって進むことができるという中川李枝子さんのメッセージを、今子育てしている若いご両親にもぜひ届けたいと思います。



 
『暴力を受けていい人はひとりもいない CAP(子どもへの暴力防止)とデートDV予防ワークショップで出会った子どもたちが教えてくれたこと』阿部真紀/著 高文研 2018/12/10

 
『あふれでたのはやさしさだった』では犯罪を犯してしまった少年たちが、幼少期に何らかの暴力(ことばの暴力も含む)を受けていると指摘していました。しかし、CAP(子どもへの暴力防止)とデートDV予防ワークショップの活動を続けてきた認定NPO法人エンパワメントかながわの阿部真紀さんは、「その暴力を受けていい人は誰ひとりいないのだ」と明言します。さまざまな暴力を他人事ではなく、自分のこととして捉えられるようにするには、子どもの時から繰り返しそのことを伝えていくしかありません。ここに記された活動の記録は、憲法に保障された基本的人権を守る活動でもあります。子どもたちが未来に向かって、自信をもって生きていけるために、目をそらさず、自分事として受け止めたい。そして、子どもに関わる多くの人に読んでほしいと感じた1冊です。



(作成K・J)
 

2018年10月、11月の新刊から


2018年10月、11月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの絵本と幼年童話を紹介します。(一部、見落としていた9月刊行のものが含まれています)

ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。出版されたすべての新刊本を購入して読むことはできませんが、毎月、教文館ナルニア国の新刊本コーナー、クレヨンハウス新刊本コーナー、茗荷谷てんしん書房、横浜日吉にあるともだち書店、代官山蔦屋書店児童書売り場など、信頼できる児童書の目利きのいる書店にある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。

(なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

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【絵本】

『ジャーニー国境をこえて』フェランチェスカ・サンナ/作 青山真知子/訳 きじとら出版 2018/9/15

ジャーニー 国境をこえて
フランチェスカ・サンナ
きじとら出版
2018-09-03

イタリアに生まれた20代の作家Francesca Sannaの作品です。イタリアの難民センターで出会った二人の女の子の話がきっかけで、地中海を命がけで渡ってくる人々のことを絵本にしたいと思い、スイスのルツェルン応用科学芸術大学でイラストレーションを学び、この作品が生まれました。2016年にイギリスで作品が発表されると、ケイト・グリーナウェイ賞候補から選ばれるアムネスティCILIP特別賞やさまざまな賞を受賞しました。日本語版は、板橋区立いたばしボローニャ子ども絵本館主催いたばし国際絵本翻訳大賞〈英語部門〉で最優秀大賞を受賞して翻訳、出版されました。この絵本を題材にして人権を学ぶワークシート(アムネスティ・インターナショナル英国支部作成)をきじとら出版のホームページからダウンロードできるようになっています。(→こちら)世界中で、難民の問題がクローズアップされている今、子どもたちとも一緒に考えてみたいテーマです。

 

『おほしさまのちいさなおうち』渡辺鉄太/文 加藤チャコ/絵 瑞雲舎 2018/10/1

おほしさまの ちいさなおうち
渡辺 鉄太
瑞雲舎
2018-09-16

おもちゃであそぶのも、絵本を読むのも飽きてしまった男の子がおかあさんになにか楽しい遊びを教えてと頼みます。するとおかあさんは「おほしさまは、よぞらにすんでいるだけじゃないのよ。 とびらも まどもない ちいさな あかい おうちにも すんでいるの」といって、そのおうちを探す探検を提案するのです。果たしてその「とびらもまどもない ちいさなあかいおうち」は、どこにあるのでしょう。「おほしさまのちいさなおうち」はアメリカ、イギリス、オーストラリアなどの英語圏でリンゴの季節になると語られるおはなしだそうです。それを題材にしてオーストラリア在住の児童文学者渡辺鉄太さんが文章におこし、連れ合いの絵本作家加藤チャコさんが絵を描いた夫婦合作絵本です。

 

『鹿踊りのはじまり』宮沢賢治/作 ミロコマチコ/絵 三起商行(ミキハウス) 2018/10/11

 
宮沢 賢治
三起商行
2018-10-01

鹿たちが見たことのない手拭いの正体をめぐっておどおどと、でも興味津々に近づいていくという滑稽で躍動感のある宮沢賢治の作品「鹿踊りのはじまり」に、勢いのある筆致で伸びやかな動物たちを描いて国の内外で評価の高いミロコマチコさんが絵をつけました。方言とミロコマチコさんの絵が相まってなんとも言い難い魅力の詰まった作品になっています。足にけがをして湯治をしようと山奥の温泉に向かう百姓の嘉十は、途中で食べた栃の実団子を鹿のためにと残していくのです。しばらく行ってから手拭いを忘れてきたことに気づいて戻ってみると、手拭いのまわりに六匹の鹿が集まっているではありませんか。不思議なことに、嘉十の耳がきいんと鳴って鹿のことばが聞こえるようになり、鹿たちが手拭いの正体をおっかなびっくり確かめようとしていることを知ります。そのやりとりの滑稽さと、手拭いが何も害を及ぼさない「干からびたなめくじ」とわかって踊りだす様子も、そして思わず飛び出していった嘉十に驚いて鹿たちが逃げて行った後に、銀色に輝くすすきの原の様子なども、躍動感溢れる筆使いで描かれています。1924年(大正13年)の作品ですが、ミロコマチコさんが絵を描くことで、今の子どもたちにも手にしてもらえるのではと思います。

 

『どんぐり 語りかけ絵本』こがようこ/文・絵 大日本図書 2018/10/10

どんぐり (語りかけ絵本)
大日本図書
2018-10-18

語りを大事にしてこられた絵本作家こがようこさんが、小さな赤ちゃんに語りかけるようにと作られた絵本です。パネルシアターで使うPペーパーにどんぐりをいくつも描いて、それをコラージュしているので、どんぐりが立体的に見えて、摘まめるかのようです。この絵本についてインタビュー記事が絵本ナビのサイトで公開されています。(→こちら)作者の思いを汲みながら、小さい子向けのおはなし会でぜひ読んであげてください。

 

 

『もみじのてがみ』きくちちき/文・絵 小峰書店 2018/10/11

もみじのてがみ
きくち ちき
小峰書店
2018-10-26

つぐみが持ってきた真っ赤なもみじの葉っぱ。ねずみはもみじの葉っぱを探しに出かけます。赤いものを見るたびに「みつけた」と喜びますが、赤いものはきのこだったり、つばきの花だったり、がまずみの実だったりと、なかなかもみじに行き当たりません。次々森の仲間も加わってやっとみつけたところは、一面真っ赤な絨毯を敷き詰めたようなもみじの林でした。「もみじのてがみ ありがとう ゆきじたく ゆきじたく」紅葉が散ると、いよいよ森は雪の季節を迎えます。このまま、きくちちきさんの『ゆき』(ほるぷ出版 2015)に繋がっていく世界観です。

 

『ロシアのお話 雪の花』セルゲイ・コズロフ/原作 オリガ・ファジェーエヴァ/絵 田中友子/訳 偕成社 2018/11

雪の花 (世界のお話傑作選)
セルゲイ コズロフ
偕成社
2018-10-24

ハリネズミくんともりのともだち』(S.オストロフ/絵 岩波書店 2000)や、『きりのなかのはりねずみ』(F.ヤールブソワ/絵 福音館書店 2000)など「ハリネズミと森の仲間達」シリーズが人気のロシアの児童文学作家コズロフの戯曲「雪の花」をもとにした絵本です。(偕成社のサイト→こちら)オリガ・ファジェーエヴァの絵は、この作品のための描きおろしで、彼女の作品が日本で出版されるのも今回が初めてです。大みそかの夜、どうぶつたちはモミの木を飾って新年を祝おうとしますが、ろうそくを持ってくるはずのクマの姿が見当たりません。訪ねていくとクマは高熱を出していました。そのクマのために、ハリネズミは医者のいう「雪の花」を探しに出かけるのです。日本ではモミの木を飾るのはクリスマスだというイメージがありますが、もともとヨーロッパではキリスト教に関係なく常緑樹のモミの木を生命の象徴として新年に飾っていました。ちょうど日本でも古くから門松を飾るのと同じです。そんなことも一緒に子どもたちに伝えられるといいですね。


『そらはあおくて』シャーロット・ゾロトウ/文 なかがわちひろ/訳 杉浦さやか/絵 あすなろ書房 2018/10/30 

そらはあおくて
シャーロット・ゾロトウ
あすなろ書房
2018-10-29
 
ある時、女の子は1冊の古いアルバムを開いておかあさんに尋ねます。「このこ、おかあさんなの?」子ども時代のおかあさんの服装や家の中の様子は今とは違って見えます。でもおかあさんはこう答えるのです。「たいせつなことは すこしも かわっていない。そらは あおくて、くさは みどり。ゆきは しろくて つめたくて、おひさまは まぶしく あたたかい。いまと おんなじだったのよ」と。おばあちゃん、ひいおばあちゃんのアルバムも順番に見ていく女の子。時代が変わっても、変わらない大切なものがあることを、おかあさんとの会話の中でみつけます。おかあさんは、そこで終わりではなく、いつかそれを自分の子どもたちに伝えてあげてほしいと語るのです。原書は1963年の「THE SKY WAS BLUE」で、それにはガース・ウィリアムズが絵を付けていました。今回、絵を描いた杉浦さんは、この絵本に出てくるのと同じ年頃の女の子を持つお母さんです。2018年の女の子から1980年代の母、1950年代の祖母、1920年代の曾祖母の子ども時代の様子を様々な資料で調べたとのこと。アルバムの中に描かれる風景や小物にも注目です。
 
 
 

『ゆき』はたこうしろう/絵 ひさかたチャイルド 2018/11

ゆき
ひさかたチャイルド
2018-11-21
 
文部省唱歌の「ゆき」がはたこうしろうさんの素敵な絵で1冊の絵本になりました。「ゆきやこんこ あられやこんこ・・・」一面の真っ白な雪原に真っ赤な帽子とコートの女の子が鮮やかに描かれ、雪にはしゃぐ表情もとても生き生きとしていて、思わず歌いだしてしまいます。図書館でのおはなし会でも子どもたちと一緒に歌ってもいいですね。

 

 

【クリスマスの本】

この秋に出版されたクリスマス関連の本を3冊紹介します。

『くるみ割り人形』E.T.A.ホフマン/作 サンナ・アンヌッカ/絵 小宮由/訳 アノニマスタジオ 2018/10/25

くるみ割り人形

E.T.A.ホフマン
アノニマ・スタジオ
2018-11-01

アノニマスタジオから出版されるマリメッコのデザイナーSANNA ANNUKKAによる本は、2013年のモミの木』、2015年の『雪の女王』に続いてこれが3作目。縦長で金箔押しの装丁で、文字も小さくぎっしり。子どもが自分で読む本というよりは、YA世代向けのおしゃれな本というイメージです。こみやゆうさんの翻訳はとても読みやすいので、クリスマスの季節、YA世代に手に取ってほしいなと思います。

 

『クリスマスのおかいもの』ルー・ピーコック/文 ヘレン・スティーヴンズ/絵 こみやゆう/訳 ほるぷ出版 2018/10/10

クリスマスのおかいもの
ルー ピーコック
ほるぷ出版
2018-10-15

原書はイギリスで2017年に出たOliver Elephant(Nosy Crow 2017)という絵本です。ルー・ピーコックさんの作品が日本に紹介されるのはこれが初めてで、こみやゆうさんが翻訳しました。クリスマスプレゼントを選ぶママのお供で、妹と一緒に買い物に出かけたノアくん。そのノアくんが連れているのがぬいぐるみのぞうのオリバーです。ママがプレゼントを選んでいる間オリバーと遊んで待っていたノアくん。いざ帰ろうとしたとき、オリバーが見当たりません。さっきまで一緒だったのに・・・ヘレン・スティーブンズの柔らかなタッチの絵も心地よく、幼い子どもの表情をよく捉えています。

 

 

『メリークリスマス―世界の子どものクリスマス―』R.B.ウィルソン/文 市川里美/画 さくまゆみこ/訳 BL出版 2018/10/20

メリークリスマス ―世界の子どものクリスマス
R・B・ウィルソン
ビーエル出版
2018-10-12

2000年前に中東の小さな町ベツレヘムで生まれたイエス・キリストの誕生を祝うクリスマスは、北欧に伝わる冬至祭りの風習と一緒になり、いつしかキリスト教国以外にも、楽しい冬のお祭りとして広がっていきました。クリスマスの起源となったイエスの誕生に関するおはなしに加えて、世界18か国のクリスマスの祝い方や、世界中で謳われているクリスマスキャロルなどを紹介するノンフィクション絵本です。そしてクリスマスはひとつの宗教を超えて、世界が平和になることを願い、すべての者が幸せになるように祈る日だという作者のメッセージが温かく伝わってきます。

 

 

【ノンフィクション】

『あずき』荒井真紀/作 福音館書店 2018/11/10

あずき (かがくのとも絵本)
荒井 真紀
福音館書店
2018-11-07
たんぽぽ』(金の星社 2017)でブラティスラヴァ世界絵本原画展金のりんご賞を受賞された荒井真紀さんが手がけた月刊かがくのとも2014年5月号『あずき』がハードカバーになりました。美味しそうなたいやきのあんこは何から出来ているんだろうと問いかけるところから始まって、あずき豆を土にまき、花が咲いて収穫し、それを使ってあんこを作るところまで丁寧に描いています。後半はあんこを使ったお菓子やお料理の紹介ページが続き、「むかしから、あずきのまめのあかいいろは おめでたいいろとされてきました。」という日本の食の文化にも触れています。子どもたちに伝えていきたい文化です。
 

 

『みずとはなんじゃ?』かこさとし/作 鈴木まもる/絵 小峰書店 2018/11/11

みずとは なんじゃ?
かこさとし
小峰書店
2018-11-08
 
今年5月2日に92歳で亡くなられた加古里子さんの最後の絵本です。(訃報を伝える記事→こちら)6月4日夜に放送されたNHK番組“プロフェッショナル仕事の流儀”「ただこどもたちのために かこさとし最後の記録」(→こちら)の中で、この作品を仕上げる過程で自力で絵が描けなくなり、絵本作家の鈴木まもるさんに依頼したこと、そのラフスケッチを見ながらかこさとしさんがご自身のこだわりの部分を伝えるシーンが映し出されていました。1962年に月刊誌「こどものとも」として作られた『かわ』から始まり、かがく絵本『』(1969)、『地球』(1975)で、地球上に豊かにある水がいかに不思議な存在であるか伝えてきたかこさん。1998年から構想していた「水のふしぎ」のテーマで、2016年に絵本制作に取り掛かり、2018年に3月に下絵が完成します。しかし完成させる体力が残ってないと覚悟され鈴木まもるさんに絵を依頼することになります。鈴木さんは急いでラフスケッチを描き、かこさんも死の直前の4月末まで構成を練られました。日々の生活に密着した「水」を幼い子どもたちにわかりやすく教えてくれる渾身の1冊、ぜひ子どもたちに手渡してあげてください。なお、初回特典としてこの本が出来るまでの経緯やかこさんの直筆原稿が盛り込まれた特性冊子がついています。(SLA発行の「学校図書館速報版11月15日号」にも「かこさとしさんの思いをつなぐ」と題して、この絵本の紹介記事が掲載されています)
 

 

【その他】

『絵本は心のへその緒―赤ちゃんに語りかけるということ』松居直/作 NPOブックスタート 2018/10/5

こんとあき』に使われた林明子の絵が表紙にあしらわれた薄手の本書は、日本でのブックスタートの理念を構築する際に大きな役割を果たした松居直氏のこれまでの講演や発言の記録の中から「赤ちゃんと絵本」、「ブックスタート」についての部分をまとめたものです。「言葉とは何か」、「共に居るということ」、「ブックスタートについて」の3章にまとめられた記録を読んでいると、福音館書店を子どもの本の専門出版社として大きく育てた松居氏ならではの子どもへの深い愛のまなざしを感じられて胸が熱くなりました。

 

 

『子ども文庫の100年 子どもと本をつなぐ人びと』高橋樹一郎/作 みすず書房 2018/11/1

この本は、子ども読書年の翌年の2001年から2004年にかけて公益財団法人伊藤忠記念財団と、公益財団法人法人東京子ども図書館が共同で行った「子どもBUNKOプロジェクト」がもとになっています。1974年から会社の社会貢献事業として文庫活動などに助成を続けている伊藤忠記念財団と、都内で活動を続けていた4つの子ども文庫を母体として1974年に生まれた東京子ども図書館が、設立30周年を記念して、文庫の実態を活動の意義を再確認するための事業でした。その調査をもとに、全国各地で一時期は公共図書館の3倍以上の数があった民間による小さな子どものための図書室の歴史と意義、文庫活動から図書館設立運動へとうねりが広がった経過など、時代を追って日本独特の文化と呼ばれる文庫活動に光を当て、子どもたちに本を手渡してきた人々の軌跡を記しています。ずっしりと重い10章にわたる論考は、日本の子どもたちの読書活動の一翼を担った文庫の貴重な記録です。

 

 

(作成K・J)

2018年9月、10月の新刊から(その2)


2018年9月、10月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの絵本と幼年童話を紹介します。

ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。出版されたすべての新刊本を購入して読むことはできませんが、毎月、教文館ナルニア国の新刊本コーナー、クレヨンハウス新刊本コーナー、横浜日吉にあるともだち書店、代官山蔦屋書店児童書売り場など、信頼できる児童書の目利きのいる書店にある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。

(その2)では、前回紹介しそびれた「加古里子のかがくの世界」セットの絵本と、読み物を中心に紹介します。

 

(なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

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【絵本】

加古里子のかがくの世界 あそびとくらし 絵本セット

*『だんめんず』加古里子/作 福音館書店 2018/10/05

だんめんず (かがくのとも絵本)
加古 里子
福音館書店
2018-10-03
 
表紙のピアノをはじめ、花瓶、車、家、子どもたちの身近にあるものが、次々と断面図で示されます。実際には切って見ることが出来ないものですが、こうして断面を示されると、普段使っているものや見ているものの構造に興味がわきますね。初出は月刊かがくのとも1973年3月号です。

 

『いろいろおにあそび』加古里子/作 福音館書店 2018/10/5

 
子どもの遊びを全国から収集して記録していた加古里子さん。この絵本はその中でも鬼ごっこだけに焦点をあてた絵本です。幼い時、公園に近所の子どもたちが集まると必ず鬼ごっこをして遊んだものでした。最近の子どもたちも鬼ごっこしているのでしょうか。この絵本を読んで今までやってなかったいろんな鬼ごっこに挑戦してほしいなと思います。時には図書館の児童行事で「鬼ごっこ大会」なんてやってみてはいかがでしょう?こちらは初出は月刊かがくのとも1999年8月号です。

 

*『ごむのじっけん』加古里子/作 福音館書店 2018/10/05

ごむのじっけん (かがくのとも絵本)
加古 里子
福音館書店
2018-10-03
 
ゴムの4つの性質を子どもにもわかりやすいように実験を使って解き明かし、それぞれの性質にあった使い方を示してくれる絵本です。特に輪ゴムは子どもたちにとって身近な遊び道具でもあります。身近なところから始まって、ジェット機や宇宙船で使われるゴム製品にまで関心を広げてくれる加古里子さんならではの科学絵本です。初出は月刊かがくのとも1971年9月号です。

 

『たこ』加古里子/作  福音館書店  2018/10/05

たこ(凧) (かがくのとも絵本)
加古 里子
福音館書店
2018-10-03
 
昔の冬の遊びの代表が凧揚げでした。凧揚げの出来る広い遊び場が減って、経験したことのない子どもたちが増えているかもしれませんね。この絵本ではハガキやポリ袋を使って出来る手作り凧の作り方を教えてくれています。小さな凧だったら、近所の公園でも試してみることができるかもしれません。親子で、祖父母と孫で、会話をしながら作ってみるのもいいですね。冬休みの子ども向け工作などのイベントにも繋げられそうです。初出は月刊かがくのとも1971年1月号です。
 

 

*『でんとうがつくまで』加古里子/作  福音館書店 2018/10/05 

 
スイッチを押せば電灯が灯ることを、普段当たり前だと考えて生活をしています。しかし一度地震や台風、洪水などの災害が起きると、何日も停電し、電気のありがたさをそこでやっと気づくことになります。この絵本では水力発電で生まれた電気が家庭に送られるまでをわかりやすく伝えるとともに、いろいろな発電の方法も教えてくれています。初出は月刊かがくのとも1970年1月号です。

 

『わたしもいれて!ふたりであそぼ、みんなであそぼ』加古里子/作 福音館書店 2018/10/05

ひとりで遊べる遊び、ふたりで遊べる遊び、では三人では?仲間が増えるたびに、人数ぴったりの遊びがつぎつぎと出てくるところはさすが加古里子さんです。道具がなくてもできる集団遊びがたくさん紹介されています。協調性の育成などと声高に唱えるよりも、この絵本に出てくる先生のように一緒に集団遊びに夢中になることが、子どもたちがいろいろな能力を身につける契機になるんじゃないかなと思いました。初出は月刊かがくのとも2001年4月号です。

以上の6冊はセット購入以外に1冊ずつでも購入が出来ます。そのうち*印のものは限定発売です。この機会をお見逃しなく。

 

 

【児童書】

『魔女のむすこたち』カレル・ポラーチェク/作 小野田澄子/訳 岩波書店 2018/9/14 

魔女のむすこたち (岩波少年文庫)
カレル・ポラーチェク
岩波書店
2018-09-15
 
岩波書店から1969年に出版されていた『魔女のむすこたち』が岩波少年文庫になってもどってきました。カレル・ポラーチェクはチェコの作家です。ユダヤ人であったポラーチェクは、ヨゼフ・チャペック、カレル・チャペック兄弟に出会ったことで創作活動に入っていきます。『魔女のむすこたち』は、とてもユーモラスで、つぎつぎに読者を裏切る面白い展開に思わず笑ってしまいます。挿絵はヨゼフ・チャペックで、お話のおかしさを増し加えています。自分で読めない子には読んであげることをお勧めします。耳から聞くと、そのユーモアが余計際立つのではと思います。
 

 

『きっちり・しとーるさん』おのりえん/作・絵 こぐま社 2018/9/25

 
なにもかも決められたとおりにきっちりとやらないと気が済まないしとーるさん。そんなしとーるさんは図書館の司書さんで、図書館の利用者にとってはちょっと怖い存在です。ところがある雪の夜にしとーるさんが子猫を拾います。生き物相手ではきっちりしたくても出来ないことに気がつくのです。さて、この子猫は図書館の館長にも利用者にも可愛がられることになるのですが、とくにその名前がちょっと素敵です。本を読むのが苦手な子にも読みやすい本をと作られたこぐま社の「どんどんぶんこ」の1冊です。

 

『カテリネッラとおにのフライパン-イタリアのおいしい話』剣持弘子/訳・再話 剣持晶子/絵 こぐま社 2018/9/25

 
イタリアの食べ物を題材にした昔話が4つ入っています。本のタイトルになっている「カテリネッラとおにのフライパン」は、フライパンを貸してくれた鬼にお礼のドーナツを届けるのに、途中で「1個だけなら」とつまみ食いをするカテリネッラという女の子の話。くいしんぼうもいい加減にしないと、大変なことになってしまうという教訓。ほかのお話も短くて楽しいものばなりです。これも「こぐまのどんどんぶんこ」の1冊です。この度発刊された『きっちり・しとーるさん』とこの本でシリーズ完結です。
 
 

『そらのかんちゃん、ちていのコロちゃん』東直子/作 及川賢治/絵 福音館書店 2018/10/5

 
雲の上の国にすんでいるかんちゃんが、雲のわたあめを食べていて、うっかり雲の穴から落っこちると、着いたところは地底の国でした。地底の国にすむコロちゃんと仲良くなって、お互い行き来をするようになります。そこに氷の国のレンちゃんにも加わります。かこさとしさんの『だるまちゃんとかみなりちゃん』を彷彿とさせるお話でした。詩人の東さんは小さい時、とても空想好きだったそうです。だからこんなお話が生まれたのだとインタビューに答えています。(福音館書店ふくふく本棚サイト→こちら)絵本から読み物に移行する子どもたちにもちょうどよい1冊です。

 

『いいたいことがあります!』魚住直子/作 西村ツチカ/絵 偕成社 2018/10

いいたいことがあります!
魚住 直子
偕成社
2018-09-19

小学校6年生の陽菜子は中学受験を控え、忙しく塾に通っています。仕事をしているお母さんは、塾の勉強以外にも陽菜子に家事も分担させます。ところが同じように私立の中学に進学した兄には家事を分担をさせないのです。そんな母親への不満もくすぶっているところへ、中学受験をしない友人たちから遊びの誘いがきて、陽菜子はついに塾をさぼってしまうのです。思春期の入り口で揺れる気持ち、とくに親子の感情の行き違いと和解を丁寧に描いていて好感が持てます。その年代の子どもたちにも、そこを通り過ぎた子たちにもお勧めできる1冊です。

【その他】

 『よみきかせのきほん-保育園・幼稚園・学校での実践ガイド』東京子ども図書館 2018/10/17

東京子ども図書館から読み聞かせに関するガイドブックが出ました。読み聞かせのための基本ガイド、そして本の持ち方まで丁寧に書かれており、本の紹介記事には本の内容だけではなく対象年齢と所要時間が書いてあり、プログラムを作成するのにとても役立つでしょう。図書館の事務用に準備しておくとよいと思います。

 

『読みたいのに読めない君へ、届けマルチメディアDAISY』牧野綾/編著 高井陽/イラスト 日本図書館協会 2018/9/30

 
知能はなにも問題がないのに、文字を読むことが困難、あるいは文字を書くことに困難をきたすという学習障害のひとつにディスレクシア(識字障害)があります。編著者の牧野さんはお子さんのひとりがディスレクシアであったことから、識字障害や視覚障害など紙による印刷物を読むことが困難な人の読書を支援するDigital Accessible Information System、通称DAISYに出会います。しかし当時は出版点数も少なく、教科書などに対応してなかったため、マルチデイジー教科書の製作と普及活動をするボランティア団体調布デイジーを立ち上げます。小さなブックレットですが、ディスレクシアの問題に図書館の児童サービスとしてどのように対応していけばよいのか、ヒントを与えてくれます。ぜひご一読をお願いします。
 
(作成K・J)

2018年9月、10月の新刊から(その1)


2018年9月、10月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの絵本と幼年童話を紹介します。(一部8月に出版されたものも含まれます)

ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。出版されたすべての新刊本を購入して読むことはできませんが、毎月、教文館ナルニア国の新刊本コーナー、クレヨンハウス新刊本コーナー、横浜日吉にあるともだち書店、代官山蔦屋書店児童書売り場など、信頼できる児童書の目利きのいる書店にある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。

なお、読み物は来週UPする予定です。

 

(画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

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【絵本】

『きんいろのきつね』大川悦生/文 赤羽末吉/絵 ポプラ社 2018/8 第42刷

大川悦生が再話し赤羽末吉が描いた那須野原に伝わる九尾の狐の民話が、しばらく手に入らない状況でしたが、この夏増刷されました。ここ2,3年のうちに国際アンデルセン賞画家の赤羽末吉の作品が掘り起こされ、再度手に入るようになっている背景には、作品を整理し、系統的に研究を重ねてこられた赤羽茂乃さん(赤羽末吉の三男の妻)の功績があります。『きんいろのきつね』で、ぜひ那須野原に伝わる九尾の狐と殺生石の伝説に出合ってほしいと思います。(参考:那須町工芸振興会サイト→こちら

 



『わたしたちだけのときは』デイヴィッド・アレキサンダー・ロバートソン/文 ジュリー・フレット/絵 横山和江/訳 岩波書店 2018/9/7 

わたしたちだけのときは
デイヴィッド・アレキサンダー・ロバートソン
岩波書店
2018-09-08

カナダであった史実をもとにした絵本です。15世紀末の大航海時代を皮切りに、カナダにもともと住んでいた先住民族は、ヨーロッパから移民してきた人々に土地を奪われ、先住民族が連綿と引き継いできた文化や言葉を否定され強制的に同化させられました。特に子どもたちは親から離され寄宿生活を強いられました。こうした政策は2008年6月に当時のカナダの首相スティーブン・ハーバーが「同化政策は先住民を深く傷つけた」と公式に謝罪するまで続きました。この絵本に出てくる可愛らしい女の子たちは、クリー族に生まれました。長期休暇などで教師がいない時だけ、子どもたちは民族の言葉を忘れないようにクリー語でお喋りするのです。おばあちゃんの思い出話として語られるこのお話は、つい最近まで数百年に渡って抑圧されながらも、民族の誇りを抱いて生きてきた人がいるということに気づかせてくれます。日本でもアイヌ民族への抑圧が有史以来長く続いてきました。誰もが、尊厳を傷つけられずに生きていける世界が実現されることを願いながら、読みました。2017年カナダ総督文学賞を受賞しています。



 

『かあちゃんのジャガイモばたけ』アニタ・ローベル/作 まつかわまゆみ/訳 評論社 2018/9/25

 
 
アニタ・ローベルが1967年に出版した『POTATOES,POTATOES』が、この度カラー版になって評論社から出版されました。この作品は1982年に今江祥智の訳で『じゃがいもかあさん』(偕成社)として出版されていました。戦争をはじめた東の国と西の国の間にある谷間に、ジャガイモ畑のふたりの息子を守るために高い塀を築いているお母さんがいました。塀の中だけは平和が保たれていましたが、ある日兄弟は兵士に憧れて東と西の国へ出ていき、それぞれが軍の大将になります。戦争が長引き、食料が底を尽いたとき、二人が思い出したのは、お母さんの畑でした。戦争の対極にある大切なことを教えてくれる絵本です。
 



 『アルフィーとせかいのむこうがわ』チャールズ・キーピング/作 ふしみみさを/訳 ロクリン社 2018/10/1

アルフィーとせかいのむこうがわ
チャールズ キーピング
ロクリン社
2018-10-02
 
 
1967年に『しあわせどおりのカナリア』でケイト・グリーナウェイ賞を受賞したイギリスの絵本作家チャールズ・キーピングの絵本です。この作品は1971年にラクダ出版から『アルフィーとフェリーボート』という題名で出版されていたものの新訳版です。日常とは違う遠い世界へ行ってみたいという冒険心を抱くことは、ある年代の小さな男の子にとってひとつの通過儀礼ともいえるでしょう。アルフィーが「せかいのむこうがわ」へ行けると思って乗り込んだ大きな船は、実はテムズ川の渡船で、日常の世界とは隣合せの場所へ連れて行くだけなのですが、アルフィーにとってはすべてが珍しい光と音に溢れていると感じられるのです。そうした心の動きを、美しい色彩で描き出した絵本です。
 
 
 
『ふたりママの家で』パトリシア・ポラッコ/絵・文 中川亜紀子/訳 THOUSANDS OF BOOKS  2018/10/29

ふたりママの家で (PRIDE叢書)
パトリシア・ポラッコ
サウザンブックス社
2018-11-01
 
わたしとウィル、ミリーの3人兄弟にはママがふたりいます。ママたちは同性カップルで、肌の色の違う子どもたちも生後間もなく養子になったのです。血縁はなくても家族5人は底抜けに明るく、仲良しです。ご近所の中には批判的な人もいますが、地域の人々と繋がりながら、互いを大切にする素敵な家族です。LGBTなど現代的な問題をテーマにしながらも、描かれているのはごく自然な家族の姿、子どもたちの成長です。日本も多様性を認める社会へ生まれ変わることが求められています。そんなことを考えるきっかけになればと思います。
 
 
【科学絵本】
『アリになった数学者』森田真生/文 脇坂克二/絵 福音館書店 2018/10/5

月刊誌たくさんのふしぎ2017年9月号で話題になった1冊が早くもハードカバーになりました。数学者の目から見た世界を美しい言葉と絵で表現した科学絵本です。人間の持っている数学の概念はアリに通じるのだろうか、と考えているうちにアリになってしまった数学者は、アリには人間の数字の概念は伝わらないけれど、アリにだけがわかる数があって彼らが世界を捉えているんだと気づいていきます。文系の私にも、数学の概念を俯瞰した視点で見せてくれる、魅力的な作品です。著者の森田さんは子ども時代から算数が大好きで、足し算の問題を出すと泣き止んだほど。今は在野で数学の世界を探求しています。(森田真生さんの公式サイト→Choreograph Lifeこちら)
 
 
 
【幼年童話】
『クリスマスのあかり チェコのイブのできごと』レンカ・ロジノフスカー/作 出久根育/絵 木村有子/訳 福音館書店 2018/10/15

美しい表紙の絵に思わず本を手にしたくなる本です。フランタという男の子が、クリスマスの前の日に、教会へ゛ベツレヘムのあかり″をもらいに出かけていきます。その途中で、亡くなった奥さんに捧げる花を盗まれて途方に暮れているドブレイシカおじいさんに出会います。フランタはおじいさんにもよいクリスマスが来るようにと、小さな頭で考えて奔走する心温まるおはなしです。チェコのクリスマスの様子は日本のそれとはずいぶん違っていて、素朴な感じがします。版型は絵本の大きさですが61ページとボリュームがあります。親が子に、一日少しずつ読んで聞かせてほしいと思います。

(作成K・J)

2018年8月、9月の新刊から


2018年8月、9月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの本を紹介します。(一部6月末から7月に出版されたものも含まれます)

ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。出版されたすべての新刊本を購入して読むことはできませんが、毎月、教文館ナルニア国の新刊本コーナー、クレヨンハウス新刊本コーナー、横浜日吉にあるともだち書店、代官山蔦屋書店児童書売り場、静岡百町森など、信頼できる児童書の目利きのいる書店にある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。

 

(なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

 

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【絵本】

(復刊絵本)

以下の3冊の絵本が福音館書店から復刊されています。いずれも評価の高い優れた絵本です。所蔵している館でも、経年劣化していれば今が買い替えのチャンスです。お見逃しなく。

『わたしのおふねマギーB』アイリーン・ハース/作・絵 うちだりさこ/訳 福音館書店 2018/9/10

 
自分の名前の付いた船に乗って航海したいと、ある晩マーガレットは星に願いをかけます。翌朝目が覚めてみると弟ジェームズと船に乗っていました。船のかじを取り、やりたいことをやっていくマーガレットの姿は自信に満ちて誇らしげです。カラーの絵と想像をかきたてるモノクロのページが交互に並んでいます。
 
 
 
『ねこのオーランドー』キャスリーン・ヘイル/作・画 脇明子/訳 福音館書店 2018/9/10
ねこのオーランドー (世界傑作絵本シリーズ)
キャスリーン・ヘイル
福音館書店
1982-07-15
 
ご主人に頼んで休暇をもらったねこのオーランドー。家族で車に乗ってキャンプに出かけます。子どもたちにあやとりや釣りを教えたり、ハイキングをしたり。猫たちの休日の様子が生き生きと描かれていてほほえましくなる1冊。イギリスで1938年に出た絵本ですが、家族の休暇の様子は今読んでも古びてないと感じます。

 

『しあわせなふくろう』ホイテーマ/文 チェレスチーノ・ピヤッチ/絵 大塚勇三/訳 福音館書店 2018/9/10

 
オランダに伝わる民話をもとにした絵本です。お百姓の家に飼われている鳥たちは毎日のようにささいなことで言い争ってばかり。ふと石壁の中で仲良く暮らすふくろうの夫婦に、その秘訣を聞きにいきます。ふくろうたちはただ自然のうつろいを眺め、心静かに過ごすことが幸せのだと説くのですが…色鮮やかな絵も素敵です。
 
 
 
以下の2冊は偕成社からこの度復刊された赤羽末吉絵本です。この2冊も高い評価を得ていたにもかかわらずしばらく手に入らなくなっていたものです。所蔵していて劣化している場合は買い替えを、所蔵してない場合はぜひこの機会に購入しましょう。
 
『てんぐだいこ』神沢利子/文 赤羽末吉/絵 偕成社 2018/9 

 
げんごろうさんが拾った太鼓は不思議な力を持っていました。「鼻高くなれ」と言ってぽんと叩けば天狗のように鼻が伸び、「鼻低くなれ」といって叩くと縮むのです。この昔話は岩波の子どもの本『ふしぎなたいこ』(石井桃子/作 清水崑/絵 岩波書店 1953)が、よく知られています。神沢さんの再話に赤羽さんのユーモラスなこちらの絵本もまた違った味わいがあって、読み聞かせにはよいでしょう。
 
 
 
『ゆきむすめ』今江祥智/文 赤羽末吉/絵 偕成社 2018/9

今江 祥智
偕成社
1981-12
 
つららから生まれた雪女は、村の男に惚れられて嫁入りしても、自分が雪女と悟られると男を凍らせて殺してしまいます。村の女たちは、このままでは男が減ってしまうと雪女に敵対してきます。そんな中、心優しい「ゆきむすめ」は、自分を犠牲にして惚れた男を守り抜きます。雪に閉ざされる厳しい北国の冬の辛い生活の中から生まれた創作昔話です。赤羽さんが日本の湿った重い雪を描こうと試みた作品でもあります。
 
 
 
(新刊)
『わたしの森に』アーサー・ビナード/文  田島征三/絵 くもん出版 2018/8/5
わたしの森に
アーサー ビナード
くもん出版
2018-08-02
 
新潟県十日町市鉢集落に廃校をまるごと「空間絵本」として表現した絵本と木の実の美術館(大地の芸術祭2009)主宰の田島征三さんと、そこを訪れたアーサー・ビナードさんが共に制作した絵本です。生きとし生けるもの、すべてに生きる力、知恵があると訴え、同じ生き物である人間の都合で他の生物の生態系を破壊することへの危惧を抱くお二人ならではの、地を這うへびの視点から描くユニークで生命力にあふれた作品です。
 
 
「わらべうたでひろがるあかちゃん絵本」全3巻
次の3冊は、長年語りの場で活躍されてきたこがようこさんと、スロバキア在住の絵本作家降矢ななさんが組んで作ったあかちゃん絵本です。こがさんは、わらべうたを通してあかちゃんとの触れ合いを大事にしてほしいとわらべうたの活動も精力的に続けてこられました。この絵本シリーズを手掛けられたお二人の思いは、童心社のサイトで読むことができます。(→こちら
 
『ねーずみ ねーずみ どーこいきゃ?』こがようこ/構成・文 降矢なな/絵 童心社 2018/9/5
 
♪ねーずみ、ねーずみ、どーこいきゃ、わがすへ ちゅっちゅくちゅ♪のわらべうたが絵本になりました。ねずみのほかにも、うさぎもこぐまも出てきて、最後ははなちゃん。はなちゃんが飛び込む先はママの腕の中です。
 
『へっこぷっとたれた』こがようこ/構成・文 降矢なな/絵 童心社 2018/9/5

 
♪おいっちにの だーるまさん へっこぷっと たれた♪の、わらべうた。「おいっちにーの きのこちゃん」や「おいっちにーの あーひるちゃん」とアレンジも楽しい絵本です。
 
 
『おせんべやけたかな』こがようこ/構成・文 降矢なな/絵 童心社 2018/9/5

 
火鉢の上に並んだ七枚のおせんべ。おせんべが焼けるたびに、裏返ってにっこり笑顔に。次にどのせんべが焼けるか、予想しながら読むのも楽しいです。
 
 
 
 
『まゆとかっぱ ―やまんばのむすめ まゆのおはなし』富安陽子/作 降矢なな/絵 福音館書店 2018/9/10
 
「やまんばのむすめ まゆのおはなし」シリーズにまた新しい1冊が加わりました。元気で力持ちのまゆは、沼で子どもの河童、ミドリマルに出会います。ふたりは相撲の稽古を始めますが、岩をも軽々と投げてしまうまゆにミドリマルはびっくりします。さて大きな河童たちも集まってきてまゆは大河童デッカマルと対戦することになります。小さいけれど力持ちのまゆの姿はこちらも元気をもらえて清々しくなります。
 
 
『めんたべよう!』小西英子/作 福音館書店 2018/9/10

 
サンドイッチサンドイッチおべんとうなど数々の美味しそうな絵本を作ってこられた小西さんの、またまた美味しい絵本です。大人も子どもも大好きな麺料理。うどん、スパゲッティ、そば、ラーメンの4種の麺に絞って、美味しそうな料理が並びます。子どもと一緒に読んだ後に、今日のお昼はどんな麺にしようかなと話し合う声も聞こえてきそうです。
 
 
『万次郎さんとおにぎり』本田いずみ/文 北村人/絵 福音館書店 2018/9/20

 
万次郎さんは、田んぼから採れたばかりのお米をたいて、おにぎりを10個握ります。海苔を9個までまくと、海苔が足りなくなり探しているうちに、おにぎりたちはむずむずと動き出し、勝手に飛び出していきます。「まてえ、まってくれ」と追いかける万次郎さん。おにぎりが着いたところは稲刈りのすんだ田んぼでした。福音館書店のサイト「ふくふく本棚」には「読んだらおにぎりほおばりたくなる!」と紹介されていますが、まさにそんな気持ちになりました。(ふくふく本棚の記事→こちら
 
 
 
『うさぎたちとふしぎなこうじょう』アダム・グリーン/作 レナード・ワイスガード/絵 こみやゆう/訳 好学社 2018/9/25

うさぎたちとふしぎなこうじょう
アダム・グリーン
好学社
2018-09-26
 
古い工場にうさぎたちがたくさん集まってきて一緒に住むようになります。ある時、元気者のいたずらなうさぎがボタンを押していると工場が動き出します。うさぎたちが工場の中を探ってみると1階はイースターたまごをどんどん作り出しています。2階はお菓子工場、3階は人形やぬいぐるみを作っていて、4階は帽子を作っています。うさぎたちは大喜びしますが一羽の茶色のうさぎだけは見向きもしません。さてそのうさぎが喜んだのは何だったのでしょう?1950年にアメリカで出版された絵本です。色鮮やかなワイスガードの絵が印象的です。
 
 
 
【ノンフィクション】
 
『ずっとずっとかぞく』ジョエル・サートレイ/写真 アーサー・ビナード/文 ハーパーコリンズ・ジャパン 2018/6/25

ずっと ずっと かぞく (ナショナル ジオグラフィック キッズ)
ジョエル サートレイ
ハーパーコリンズ・ ジャパン
2018-06-23
 
 
先日9月21日に代官山蔦屋書店児童書売り場で行われたこの絵本の出版記念トークイベントに参加して、この写真絵本に対するアーサー・ビナードさんの思いを聞いてきました。その思いを知らずに写真だけ見ていてはこの絵本のほんとうの意味を知ることは難しいかなと思いました。というのも、NATIONAL GEOGRAPHICのカメラマンが撮った動物写真は本来の生態系の中ではなく、白い背景、あるいは黒い背景の前で撮影された動物たちのポートレートだからです。カメラマンのサートレイ氏はこのような動物たちのポートレートを撮るプロジェクトを「フォト・アーク」と呼んでいます。つまり大洪水から生き延びさせるために動物のつがいを乗せた「ノアの方舟」のように滅びゆく動物を記録し、目が合った人々にその実態を伝えようとしているのです。そうした活動に賛同したビナード氏が、同じ地球に棲む生物として敬意を表して書いた文章がまたこの地球に満ちる生物多様性に気づかせてくれます。あとがきの「不自然な自然の中のぼく」という文を丁寧に読んでもらえたらなと思います。
 
 
『石はなにからできている?』西村寿雄/文 武田晋一/写真 ボコヤマクリタ/構成 岩崎書店 2018/9/30

ちしきのぽけっと (23) 石はなにからできている? (ちしきのぽけっと23)
西村 寿雄
岩崎書店
2018-09-22
 
川原や海岸で拾った石には、いろいろな色や形、つぶつぶが見える石や見えない石、きらきらしている石などさまざまな表情を持っています。これらの石はどこでどうやって出来てきたのか、調べていくと地球の歴史や宇宙からのメッセージなど面白いことがわかってきます。そうした地学的な知識の入り口へ導いてくれる写真絵本です。
 
 
 
【その他】

『気がつけば動物学者三代』今泉忠明/著 講談社 2018/7/20
 
こどもの本総選挙で第1位になった『ざんねんないきもの事典』監修者の今泉忠明さんの一家は、父親の今泉吉典さんが国立科学博物館動物研究部長を務めた動物学者の一人者であり、兄の今泉吉晴さんも、自身の息子勇人さんも動物学者という親子三代動物学者です。その今泉さんが自分の生い立ちや、父親に誘われるままに動物生態調査にのめりこんでいった青春時代など、親子三代で動物学者になった経緯を、軽妙に語るエッセーです。動物好きなYA世代に読んでもらいたいなと思います。表紙イラストは岩崎書店からうんちコロコロうんちはいのちを出したイラストレーター木村太亮さん。
 
 


『対談集―絵本のこと話そうか』松田素子/編 アノニマスタジオ 2018/8/26


絵本のこと話そうか —対談集
長新太
アノニマ・スタジオ
2018-08-21
 
雑誌月刊「MOE」に1987年4月号から1990年3月号まで連載されたリレー対談「絵本のことを話そうか」をまとめた対談集です。1990年に偕成社から『素直にわがまま』として出版されていましたが、この度アノニマスタジオから復刊されました。長新太さん×五味太郎さん、五味太郎さん×林明子さん、谷川俊太郎さん×山田馨さん、岸田今日子さん×スズキコージさんなどそうそうたる面々の絵本に関する対談は、どこを読んでも興味深く、子どもの本への熱い思いが伝わってきます。
 
 
 
『小さな幸せをひとつひとつ数える』末盛千枝子/著 PHP研究所 2018/8/31


 
絵本出版社・至光社で編集者として働き、その後すえもりブックスを立ち上げた末盛千枝子さんの絵本について語る最新エッセーです。ピックスごとに1冊の絵本を通して人生論、幸福論が柔らかい語り口で語られます。巻末にはエッセーの中で語られたその32冊の絵本の書影が並べられています。それを眺めているだけでも、末盛さんのメッセージが浮き上がってきて、絵本に関わることができる幸せをこちらもかみしめることができます。


(作成K・J)

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