Tag Archive for 新刊

10月、11月の新刊から(追加あり)
8月、9月の新刊から(その3)絵本
2021年8月、9月の新刊から(その1)絵本
2021年7月、8月の新刊から
2021年5月、6月、7月の新刊から(その2)絵本・読み物
2021年5月、6月の新刊から(その1)絵本
2021年4月、5月の新刊から
2021年3,4月の新刊から(その2)
2021年3月、4月の新刊から(その1)
2021年2月、3月の新刊から
2020年12月、2021年1月の新刊から
2020年11月、12月の新刊から(その2)
2020年11月、12月の新刊から(その1)
2020年10月、11月の新刊から(修正アリ)
2020年9月、10月の新刊から(その2・読み物)

10月、11月の新刊から(追加あり)


お待たせしました。11月12日の記事に続いて、10月、11月の新刊の紹介をいたします。

「8月、9月の新刊から(その1)絵本」→こちら
「8月、9月の新刊から(その2)読み物ほか」→こちら
「8月、9月の新刊から(その3)絵本」→こちら

教文館ナルニア国で選書をした本のほかに、表参道・クレヨンハウスや横浜・ともだち書店で児童書担当に推薦をいただき取り寄せた本、翻訳者の方から直接送っていただいたものもあります。

その他の書籍に関しては銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

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【絵本】
《創作絵本》

『どーこかな?』こがようこ/作 瑞雲舎 2021/10/1 (出版社サイト→現在アクセスが制限されています、絵本ナビ瑞雲舎おすすめ絵本→こちら

「りんちゃん りんちゃん おめめはどーこ?」「ここよ ここよ ぱちくるりん」と、顔のパーツをひとつずつ指していく、赤ちゃんとコミュニケーションする絵本です。
目、耳、鼻、頬、口と順番に「どーこ?」と聞いて「ここよ ここよ」と答えていきます。最後は「いいおかお どーこ?」。
「めんめんすーすー」や「おでこさんをまいて」など、顔を使って遊ぶわらべうたと合わせて、赤ちゃんおはなし会でも活躍しそうです。

 

 

 

 

 

 

『ひよこはにげます』五味太郎/作 福音館書店 2021/10/10 (出版社サイト→こちら

この絵本の帯にはこんな風に書かれています。
「300万部超の名作絵本『きんぎょがにげた』から40年。今度はひよこがにげました!」
ブックスタートなどで手渡す絵本としておなじみの『きんぎょがにげた』、そして今度はひよこが3羽にげますが・・・そう、今度はちゃんと戻ってくるのです。子どもって、自分で世界をいろいろ探索したい、冒険したい、でもそれは戻る場所がある、迎えてくれる存在があるから出来ることなんですよね。単純に見えるけれど深いなあと思いました。

 

 

 

 

 

 

『きつねのぱんとねこのぱん』小沢正/作 長新太/絵 世界文化社 2021/10/20(出版社サイト→こちら

2005年に亡くなった長新太さんと、2008年に亡くなった小沢正さんの二人がタッグを組んだ絵本がこの度ハードカバーになりました。初出は、世界文化社が発行している月刊誌「ワンダーブック」の1973年2月号というから、かれこれ48年前の作品です。
「せかいいちおいしいぱんをつくりたい」と夢をいだくきつねのぱんやさん。ある時「おいしいけど、ねこのぱんやさんにはかなわないねえ」とお客のおほしさまに言われます。きつねはねこのぱんやに出かけていって試食すると「きつねのぱんやさんのぱんにはかなわないねえ」と言って帰るのですが、ほんとうは自信をなくしていました。ねこのぱんやさんもきつねのぱんやへ出かけて行って見ると自分よりうまいと感じて自信を無くすのでした。ところが、自信をなくしたふたりがそれぞれに落ち込んで入院すると、なんとベッドで隣同士に。ふたりして、お互いの腕を認め合い、そこからは一緒にぱん作りを始めるというおはなしです。巻末には長新太さんと一緒に絵本を作ってきたトムズボックスの土井章史さんと放送作家で絵本専門士N田N昌さんの対談も収録されています。

 

 

 

 

『ほんやねこ』石川えりこ/作 講談社 2021/10/12 (出版社サイト→こちら

ほんやで働くねこさん。今日はいつもより早めに店じまいをして散歩に出かけたのはよかったのですが、窓を1か所閉め忘れてしまい、ドアをしめたとたん、強い風が吹き込んでしまいました。
強い風で棚の絵本のページがパラパラとめくれてしまって、物語の登場人物たちもみんな外へ飛ばされてしまったのです。
ねこがいつもの野原で毛づくろいをしていると、「ここから ぼくを おろしてくださいな」という声がして見あげると、ピノキオが木の枝に引っかかっていたのです。ピノキオに事情を聞いたねこは、みんなをさがすことにします。のんびりやのねこが風で飛ばされた物語の登場人物を探すのを、読者も一緒に楽しめる作品です。

 

 

 

 

 

『コールテンくんのクリスマス』ドン・フリーマン/原案 B.G.ヘネシー/作 ジョディ・ウィーラー/絵 木坂涼/訳 好学社 2021/10/14 (出版社サイト→こちら

長く読み継がれてきた『くまのコールテンくん』(偕成社、1975→こちら)の続編ではなく、そのお話に続く前段階のおはなしです。
デパートのおもちゃ売り場に並べられていたくまのぬいぐるみには、まだ名前もありません。クリスマスを前に次々に子どもたちがおもちゃを選びに来るのですが、くまのぬいぐるみはなかなか手に取ってもらえません。自分が服を着ていないと気づいたくまのぬいぐるみはデパートが閉店した真夜中、あちこちの売り場を探して自分に合う服を探すのです。「コールテンくん」になった理由も、ズボンのボタンがひとつ取れていた理由もわかって、なんだか懐かしくて、わくわくしてくるお話です。

 

 

 

 

『ピッキのクリスマス』小西英子/作 福音館書店 2021/10/15 (出版社サイト→こちら

ピッキはリナという女の子の人形でした。クリスマスの前の日、リナはピッキをそばにおいて部屋にクリスマスの飾りをつけ、お母さんとの買い物へもバッグに入れて連れていきました。
ところが、たくさんの買い物をして家に帰る途中、ピッキはバッグから滑り落ちてしまったのです。リナたちは人混みの中、そのことに気づかないまま行ってしまいました。
夜になってクリスマスの鐘が鳴り始めると、ピッキは立ち上がって家にむかって歩き出しますが、ねこににらまれて車道に飛び出し、荷車にはねられて動けなくなってしまうのです。
諦めかけた頃、やってきたおじいさんに拾い上げられます。そのおじいさんはサンタクロースで、プレゼントを配りながらリナの家を探してくれるというのでした。ピッキはリナが星を窓に飾りつけていることをサンタクロースに伝えるのでした。裏表紙にはリナのサンタクロースにあてた手紙が描かれています。リナもやはりピッキを探していたんだなあと、読み終わった後に読者は知って、目が覚めた時のことを想像して心温まることでしょう。

 

 

 

 

 

 

『ちちんぷいぷい』谷川俊太郎/文 堀内誠一/絵 くもん出版 2021/10/20 (出版社サイト→こちら

1987年に亡くなった堀内誠一さん、今年は生誕90年の年にあたります。50年ぶりに発見された原画に、谷川俊太郎さんが文章を書きおろし、楽しい絵本になりました。
きつねのマジシャンが「ちちんぷいぷい」とおまじないの言葉をかけると、あら不思議、どんぐりやりんご、かき、ぶどうと次々にどうぶつたちの大好きな木の実や果物が出てきます。ところが…台の下にだれかがいたのです。親子でいっしょに楽しめる絵本です。

 

 

 

 

 

『ロボベイビー』ディヴィッド・ウィーズナー/作 金原瑞人/訳 BL出版 2021/10/20 (出版社新刊案内ページ→こちら

ロボットの家族に新しい赤ちゃんがやってきます。もちろんダンボール箱に入って。ママのダイオードとパパのラグナットが早速組み立て始めますが、なかなかうまくいきません。
おじさんが来て組み立てますが、なんとおじさんはマニュアルとは全然違う改良をしてしまいます。姉のキャシーは、プログラムをインストールするようにと進言しますが、ママはとりあえずスイッチを入れてしまいます。すると赤ちゃんロボットは暴走してしまうのです。そこで大活躍したのはペットロボットのスプロケットでした。キャシーがプログラムをダウンロードするとやっと正常に動き出したのでした。近未来的なファンタジーで、ロボット好きな子どもたちは喜ぶことでしょう。

 

 

 

 

 

『野ばらの村の秋の実り』ジル・バークレム/作・絵 こみやゆう/訳 出版ワークス 2021/10/25 (出版社サイト→こちら

「野ばらの村の物語」シリーズの3冊目、『野ばらの村のピクニック』=春、『野ばらの村のけっこんしき』=夏に続いて、野ばらの村の秋を描いた絵本です。
森ねずみの女の子プリムローズは、お父さんとブラックベリー摘みに出かけましたが、お父さんがアイブライトおばさんに呼び止められたため、一人で家に帰ることにします。ところがプリムローズはムギ畑に寄り道をし、そこでカヤねずみの家をみつけてお茶をいただくことになります。あっという間に時間が過ぎてしまい、夕闇にまぎれて帰り道がわからなくなって迷子になってしまうのです。最後の場面でプリムローズが、家族に出会えるシーンではホッとします。描かれる秋の実りの風景もとても美しい絵本です。

 

 

 

 

 

『こうさぎとおちばおくりのうた』わたりむつこ/作 でくねいく/絵 のら書店 2021/11/1 (出版社サイト→こちら

『もりのおとぶくろ』、『こうさぎと4ほんのマフラー』、そして『こうさぎとほしのどうくつ』に続く「こうさぎのえほん」シリーズの4冊目、秋の絵本です。
秋深まるころ、こうさぎたちの町では秋祭りが行われ、子どもたちは「おちばおくり」の歌を歌いながらパレードをします。
「おーくれおくれ おーちばおちば てんまでおくれ」
途中でパレードからはずれて、山のうえまできた4ひきのこうさぎたちはぶなじいのところへ行こうとしますが、落ち葉で道が見えなくなってしまいます。すると、かすかに「・・・おーくれ・・・おくれ・・・おーちば・・・おちば・・・」と、そばの木のうろから音が聞こえてきます。それこそ、ぶなじいのおとぶくろだったのです。
秋祭りの様子は、絵本画家の出久根育さんが住むチェコの森がベースになっているようです。豊かな森の美しい森の様子を、絵本を通して感じることが出来ればいいなと思います。

 

 

 

 

 

『リィーヤとトラ』アンナ・フェドゥロヴァ/文 ダリヤ・ベクレメシェヴァ/絵 まきのはらようこ/訳 カランダ-シ 2021/11/1 (出版社サイト→こちら

「1月のおはなし会☆おすすめリスト」(→こちら)には、来年の干支、寅に合わせてトラの絵本をまとめて掲載していますが、そのリストでも紹介している新刊です。
リィーヤは森林監視員のお父さんと一緒に森で暮らしています。リィーヤはどうぶつやことりの言葉がわかるのでした。ある時、リィーヤは森の中で初めてトラと出会います。初めてのことでリィーヤはふるえあがりながらも目をそらさず、名前を名乗ります。そしてどうぶつやとりのことばがわかること、どうぶつもとりも助け合える仲間だと伝えるのです。トラはそれを聞いてリィーヤを襲うことをやめます。その後、罠にかかったトラを助けたリィーヤは、数日後川でおぼれた時に今度はトラがリィーヤを助けてくれるのでした。シベリアのタイガを舞台に描かれたロシアの絵本です。絵はコラージュ技法を使って描かれています。

 

 

 

 

『いっしょだね いっしょだよ』きむらだいすけ/作 講談社 2021/11/10 (出版社サイト→こちら

いろんなどうぶつの親子が出てくる小さい子向けの絵本です。
「ながーい くび ちょっと ながい くび」「キリンの おやこが ごあいさつ いっしょだね いっしょだよ」と体の特徴が同じことを確かめ合います。
おおきな口のカバの親子、長い鼻のゾウの親子、ひなたぼっこが大好きなミーアキャットの親子たち、その他にライオンやシマウマ、ダチョウにゴリラの親子が次々に登場します。
親子で一緒に楽しんでほしい絵本です。

 

 

 

 

 

 

《ノンフィクション絵本》

『もりはみている』大竹英洋/文・写真 福音館書店  2021/10/1(出版社サイト→こちら

森の中に棲む動物たち、あかりすにごじゅうから、こぐまのきょうだい、となかいが、木々の陰から、木の上からじっと見つめています。
帯には「野生の動物たちと見つめあったことがありますか?”ぼくが森を見ていたのではなく、森に見られていたのだ〟そんな感覚をいつか絵本にしたいと思い続けて、この本ができました。」とあります。ページをめくるたびに、視線を感じ、森にいるような気持になるので不思議です。月刊絵本「こどものとも年少版」2015年10月号のハードカバー版です。

 

 

 

 

 

 

『おちばのほん』いわさゆうこ/作 文一総合出版 2021/11/12 (出版社サイト→こちら

今年は都内の紅葉も例年以上に美しく色づいていると感じます。こちらの絵本は、さまざまな種類の紅葉、黄葉する葉の図鑑です。
ただ、葉の種類が羅列されているだけではなく、前半は語りかけるようにさまざまな葉っぱが色づいていく様子を説明してくれます。後半には葉っぱの働きや光合成についての説明や、落ち葉を使った遊び方などの説明、用語解説などが掲載されています。
この1冊を手に公園で、野山で、落ち葉集めをしてみるのも楽しそうです。

 

 

 

 

 

 

 

【読み物】

『雌牛のブーコラ』愛蔵版おはなしのろうそく12 東京子ども図書館/編 東京子ども図書館 2021/10/20 (出版社サイト→こちら

東京子ども図書館刊行の「おはなしのろうそく」23、24に収められているおはなしをまとめた愛蔵版です。
本のタイトルになっているアイスランドの昔話「雌牛のブーコラ」のほかに、アイヌの昔話「腹のなかの小鳥の話」やアンデルセンの「マッチ売りの少女」など全9話と2つのわらべうた「ばか かば まぬけ」と「おてぶしてぶし」が楽譜入りで掲載されています。

 

 

 

 

 

 

『オンボロやしきの人形たち』フランシス・ホジソン・バーネット/作 尾崎愛子/訳 平澤朋子/絵 徳間書店 2021/10/31 (出版社サイト→こちら

『秘密の花園』や『小公女』などの長く読み継がれている名作を残したバーネットの幼年童話です。1907年の作品なのだそうですが、日本では初めて翻訳されました。
シンシアは、おばあちゃんが小さな時に使っていた人形の家を受け継いでいましたが、家も人形たちもくたびれてボロボロになっていました。でもオンボロやしきの人形たちは、陽気で仲良く暮らしていました。
ところがシンシアの誕生日に新しい人形の家が届きます。するとオンボロやしきは部屋の隅に追いやられてしまうのです。それでも気立てのよい人形たちは、新しい家の人形たちの様子に感心し、困っている時には駆け付けて助けるのでした。
ある時、王女さまがシンシアのところへ遊びに来るというので、乳母はオンボロやしきを人形ごと燃やしてしまおうとします。でも妖精がそれを阻止するのです。
それぞれの人形が個性豊かに生き生きと描かれて、おはなしの世界に惹きこまれました。

 

 

 

 

『ポーチとノート』こまつあやこ/作 講談社 2021/10/26 (出版社サイト→こちら

『リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ』(→こちら)で講談社児童文学新人賞を受賞、『ハジメテヒラク』(→こちら)で第54回日本児童文学者協会新人賞を受賞したこまつあやこさんの待望の3作目です。
もうすぐ17歳の誕生日を迎える未来(みく)は、中高一貫の女子校に通っています。物語は祖母が同じマンションに引っ越してくるところから始まります。祖母のアサエは17歳の時に未来の母を未婚のまま出産したので、母親に間違えられるくらい若々しいのです。そんなアサエが未来の10歳の誕生日にプレゼントしてくれたのが生理用品の入った可愛らしいポーチでした。しかし未来はまだそれを使う機会が訪れていなかったのです。祖母とは逆に保守的な母にはそんな性の悩みを打ち明けられずにいました。
夏休み、親友芽衣は、彼氏ができてデートを重ねていましたが、花火大会の夜にお泊りを誘われたと未来に打ち明けます。未来も学校図書館に司書補として夏の間だけバイトをしている大学生の保坂に淡い恋をします。そうしたことを通して否応なしに自分の身体に向き合うことになり、図書館の「救急本箱」のなかにあった『世界中の女子が読んだ!からだと性の教科書』(エレン・ストッケン・ダール、ニナ・ブロックマン/著 高橋幸子/医学監修 池田真紀子/訳 NHK出版 2019)に出会います。図書館司書の池さんが語る「自分の体についての知識は、すべての女子に大事なことだと思うから。」という言葉の中に、作者の温かいメッセージがこめられています。

 

 

 

 

 

【研究書】

『光吉夏弥 戦後絵本の源流』澤田精一/著 岩波書店 2021/10/5 (出版社サイト→こちら

光吉夏弥と聞いて誰だかわからない人も、『はなのすきなうし』(→こちら)や『ひとまねこざる』(→こちら)を翻訳した人だと聞くと、それなら読んだことがあると思うことでしょう。
これらの絵本は戦後1953年から刊行された「岩波の子どもの本」のラインナップです。
第1期24冊の絵本が出版されたのですが、そこには光吉夏弥さんの功績が大変大きかったのです。企画から出版までの期間が短く、また海外の絵本も右開き縦組みに統一されたため、光吉夏弥さんが所有していた絵本(原書)をばらして、逆版でレイアウトしたというのです。ではなぜ光吉夏弥さんが海外の優れた絵本を原書で持っていたのか、その背景について夏弥さんの父親の代にまで遡り、戦前、戦中、戦後の彼の歩みと、子どもの本に対する思いを丁寧に調べた評伝です。戦後占領下、GHQによる日本の子どもの本への影響などについても興味深いものがあります。ご一読をお勧めします。

 

 

 

(作成K・J)

8月、9月の新刊から(その3)絵本


毎月の新刊を出来る限り読んで紹介しているこちらのコーナー。11月になっているのに、まだ「8月、9月の新刊から」なの?と、訝しく感じられる方、ごめんなさい。

10月末に教文館ナルニア国へ行って、新刊チェックしてきました。そうすると見逃していた作品をいくつも見つけてしまいました。

10月、11月の新刊も合わせると絵本だけで25冊、読み物を加えると30冊を超えるために、分割して紹介することにしました。

そこで、「8月、9月の新刊から(その3)絵本」としてまず13冊紹介し、次週に「10月、11月の新刊から」として残りの新刊を紹介いたします。なお、一部8月より前に出版されて見逃している絵本もこちらで紹介いたします。

「8月、9月の新刊から(その1)絵本」→こちら
「8月、9月の新刊から(その2)読み物ほか」→こちら

教文館ナルニア国で選書をした本のほかに、表参道・クレヨンハウスや横浜・ともだち書店で児童書担当に推薦をいただき取り寄せた本、翻訳者の方から直接送っていただいたものもあります。

その他の書籍に関しては銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

 

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【絵本】

『学校が大好き アクバルくん』長倉洋海/文・写真 アリス館 2021/7/10(出版社サイト→こちら

学生時代に大学探検部でアフガン遊牧民に出会ってから、フォトジャーナリストとしてアフガニスタン抵抗運動の指導者マスードをカメラで追うなどしてきた長倉さん。戦争や紛争の表層を撮るのではなく、そこで生活する人々の姿を捉えようとするその姿勢は国際的にも高く評価されています。9月25日(土)にクレヨンハウスで行われた子どもの本の学校、長倉さんの回をオンラインで視聴しました。
毎年、アフガニスタンの北東部バンシール県の山間の学校に通っていた長倉さんは、2019年春に小学1年生になったアクバルくんに出会います。彼のいたずらっぽく笑う顔に惹きつけられ、彼を中心に山の学校の様子を伝えることにしたことなどを多くの画像と共に話してくださいました。その時、話してくださったのと同じ内容が「好書好日」の10月25日の記事に掲載されました。(→こちら)今年夏、アフガニスタン情勢は大きく変化しました。厳しい環境の山の学校で、でも男女一緒に楽しく学ぶ彼らが、これからも学びを続けられるようにと願うばかりです。

 

 

 

『としょかんはどこへ? ニューヨークのとしょかんにいる2とうのライオンのおはなし』ジョシュ・ファンク/文 スティーヴィ・ルイス/絵 金柿秀幸/訳 イマジネイション・プラス 2021/7 (出版社サイト→こちら
ニューヨーク公共図書館の入り口にある2頭のライオンの銅像は有名ですね。その2頭にはそれぞれペイシェンス(Patience=忍耐)とフォーティテュード(Fortitude=不屈の精神)という名前がついています。
2頭は図書館が閉館した後に、児童室に忍び込んでお気に入りの絵本を読むのが好きでした。ところがある晩、児童室へ行って見るとそこはもぬけの殻。図書館がどこかへ行ってしまったと2頭はニューヨークの街中を探し回ります。セントラルパークではアンデルセンの銅像に尋ねたりしますが、見つかりません。ところが夜が明けるからと急いで図書館まで戻ってくると、向かい側に新しい子ども図書館が!児童室だけ新しくなったのですね。『あいぼうはどこへ?』(→こちら)の続編です。

 

 

 

『くまがうえにのぼったら』アヤ井アキコ/作 ブロンズ新社 2021/8/25(出版社サイト→こちら

くいしんぼうのくまが、やまぶどうの実を食べようと松の木にのぼっていきました。食べるのに夢中になっているうちに、どんどん先の細い枝へ。くまの重みに耐えられなくなった松の木は、体をしならせてくまを天高く跳ね上げてしまいます。
雨雲を突き抜け、星まで飛んでいったくまは、山の上に大雨と流れ星を大量に降らせるのです。さてさて、朝になっておひさまが顔を出すと、山の景色が一変しているではありませんか。そこでおひさまが「さあみんなもといたところにもどりなさーい!」と大声で号令をかけるのです。するとみんな元通りになるのですが、雨雲だけ遠くへ飛んでいったので、雨水は霧になって立ち込めていました。憎めない表情のくいしんぼうのくまくんが、読んでもらう子どもたちを惹きつけることでしょう。

 

 

 

 

『おばけのキルト』リール・ネイソン/文 バイロン・エッゲンシュワイラー/絵 石井睦美/訳 光村教育図書 2021/8/25(出版社サイト→こちら

この絵本を、見落としていてハロウィン前に紹介できなくて残念でした。おばけのキルトは、何枚も布を縫い合わせたパッチワークで出来ています。中に綿も詰められているので重くて、ほかのおばけのように軽く飛ぶことができません。「つぎはぎくん」と仲間たちにからかわれる度に、一枚の布だったらよかったのにと思うのです。ところがハロウィンの夜、キルトは勇気を出して外へ出ます。そしてベランダの手すりに引っかかって仮装して歩く子どもたちを眺めていました。すると、バレリーナのかっこうをした小さな女の子のママに拾い上げられてしまうのです。でも女の子の体をくるんで温めてあげると、ママから「すてきなパッチワークだこと」とほめられてすっかり自信がつきました。女の子がぐっすり眠ってしまうと、キルトは空高く飛ぶことが出来たのでした。自己肯定感がいかに生きる上で大切か、キルトを通して教えてくれているようです。

 

 

 

 

『アンディ・ウォーホルのヘビのおはなし』アンディ・ウォーホル/著 野中邦子/訳 河出書房新社 2021/8/30 (出版社サイト→こちら)*新装版

2017年5月に出版された絵本の新装版です。
ポップアートの騎手と呼ばれたアンディ・ウォーホルが、トカゲやヘビ、ワニなどのレザー用品を扱っていたFleming-Joffe社のために作ろうとしていた映画のスケッチを元にした絵本。
1960年代はじめのファッション・アイコンとなったセレブ女性が次々に出てきて、ああ、これは子ども向けの絵本ではないなと思うのですが、色彩もポップな表情もセンスがあって、手に取らずにはいられませんでした。YA世代のファッションや美術に興味のある子たちには、おしゃれな絵本として手に取ってもらえると思います。

 

 

 

 

『ロサリンドとこじか』エルサ・ベスコフ/作・絵 石井登志子/訳 徳間書店 2021/8/31(出版社サイト→こちら
1984年にフレーベル館から出版されていた絵本の復刊です。
ある日、おじいちゃんに会いにいった女の子が、おじいちゃんと一緒におはなしを作るというストーリーです。
菩提樹に黄色い花が咲く季節に、ロサリンドという女の子がこじかと一緒に昼寝をしていると、猟師がやってきて鉄砲を撃ちます。ロサリンドは自分の大切なこじかが逃げてしまったと猟師に訴えると、猟師は謝りながらこじかを探してくれることになります。そのこじかは王さまの庭に逃げ込み、金色の檻に入れられていました。子どもたちは、ロサリンドはこじかを助け出せるかしらと、ドキドキしながらこのお話の続きを聞きたがることでしょう。

 

 

 

 

『ともだちのいろ』きくちちき/作 小峰書店 2021/9/6 (出版社サイト→こちら

くろちゃんは黒い犬です。ともだちに「くろちゃん なにいろ すき?」と聞かれるとみどりいろのかえるくんには「みどり!」、赤いことりさんには「あか!」、青い色のとかげくんには「あお!」、茶色いいたちくんには「ちゃいろ!」と答えます。
そう、くろちゃんは聞いてきたともだちの色を答えるのです。そうするとおともだちは大喜びします。
ある時、みんなが一斉にくろちゃんに聞きます。「くろちゃん なにいろが いちばん すき?」
くろちゃんは、困って、困って、答えに窮したかと思ったら「ともだちいろ!」と答えたのでした。みんな違って、みんないい。くろちゃんの優しい気持ちが伝わります。

 

 

 

 

『いっぱいさんせーい!』宮西達也/作・絵 フレーベル館 2021/9 (出版社サイト→こちら

5ひきのなかよしおおかみ、よいお天気に誘われて集まりました。「みんなでなにをしようか・・・?」と聞くと、サイクリングにたこ揚げ、昼寝に山登りと1ぴきずつ違うことをやりたいと提案します。そこで全部やろうと決めて、順番にやっていきます。
山の頂上に登りつめた時に、反対側の麓にぶたたちの群れをみつけます。そこで5ひきは山を下りていくことに。
その頃、ぶたたちは眠りから覚めると1ぴきのぶたが「いわやまにのぼって ほしをみようか?」と提案します。その声に思わずおおかみたちが山の上から「さんせーい」と返事をしたものだから、ぶたたちに気づかれてしまうまぬけなおおかみ、というクスッと笑えるユーモア絵本です。

 

 

 

 

『オノモロ ンボンガ  アフリカ南部のむかしばなし』アルベナ・イヴァノヴィッチ=レア/再話 二コラ・トレーヴ/絵 さくまゆみこ/訳 光村教育図書 2021/9/16(出版社サイト→こちら

ずっとずっとむかし。ある年、雨がまったくふらなくなり、大地が干上がってしまいます。どうぶつたちは水が飲めなくなってしまいました。そんな時、カメがふしぎな夢を見ます。それは、いろいろなおいしそうな実をたくさんつけたまほうの木でした。村の物知りおばあさんは、その木がほんとうにあること、その実を食べるためには木の名前をいって挨拶すること、そして木のある場所を教えてくれます。
そこでカメはそのまほうの木の名前「オノモロ ンボンガ」を唱えながら長い道をゆっくり進んでいくことになりました。途中でライオンやゾウ、ガゼルが歩みののろいカメには無理だといって先を急ぎますが、失敗ばかり。結局ゆっくり着実に歩んでいったカメがまほうの木に辿り着くのです。まほうの木の下でカメが、ちゃんと名前を言えた時には、読んでもらっている子どもたちもきっとホッとすることと思います。

 

 

 

『もりにきたのは』サンドラ・ディークマン/作 牟禮あゆみ/訳 春陽堂書店 2021/9/16  (出版社サイト→こちら
第27回いたばし国際絵本翻訳大賞英語部門で最優秀翻訳大賞を受賞した作品です。
暗い波の上を流されてやってきたしろいどうぶつ。その動物は森の中の洞穴に住み着きます。森のほかのどうぶつたちは、するどい目つきで、体中に葉っぱを巻きつけるしろいどうぶつのことを、「どこかへいけばいいのに」、「あのきば、みました?」、「あいつはきけんだ!」と言うものもいれば、「きっとまいごだ!」、「かなしそうじゃないか!」と言ってうわさをするばかりです。どう接するかについては話し合っても、結局意見はまとまりません。しろいどうぶつが崖から海に飛び込んだのを見たからすたちが、やっと声をかけます。すると北の海から氷が割れて流されてきたしろくまだったことがわかるのです。異質なものを排除しようとするのではなく、声を聴くことの大切さを、知らせてくれる物語です。

 

 

 

 

『すてきなタータンチェック』奥田実紀/文 穂積和夫/絵 たくさんのふしぎ傑作集 福音館書店 2021/9/20 (出版社サイト→こちら
福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」2018年9月号のハードカバーです。作者は、子どもの頃からチェック柄、とりわけタータンチェックと呼ばれる柄に惹かれていました。イギリスに関係ある柄だという漠然とした知識でいたところ、カナダへ留学した時にそこで「プリンス・エドワード島・タータン」というものに出会い、イギリスだけにある柄ではないことを知ります。しかも、「タータンチェック」という呼び名はないとお店の人に言われてしまいます。そこでタータンについて調べようと決意します。この絵本は「タータン」と呼ばれる織物の歴史と変遷、織り方などについての詳細に調べた研究入門書になっているのです。
月刊誌が出た時に、絵を描いた穂積和夫さんとイラストレーター大橋歩さんの対談が銀座・蔦屋書店でありました。その模様も福音館書店の「ふくふく本棚」で読めます。(→こちら

 

 

 

『チリとチリリ よるのおはなし』どいかや/作 アリス館 2021/9/21 (出版社サイト→こちら

自転車にのって「チリチリリ」といろんなところへ行くふたりの女の子。森の方からお囃子が聞こえてくるのに誘われて、自転車に乗って向かいます。すっかり辺りが暗くなっても、森の入り口には明かりが灯っています。そこにはくろねこのドリンクスタンドがあり、「おつきみドリンク」を飲むと、不思議なことにチリとチリリにきつねの耳としっぽが生えてきました。これで、夜の森も良く見えます。そしてくろねこにもらったお花の首飾りはおまつりのチケットでした。ふたりはどうぶつたちに交って「まんげつまつり」に参加したのです。柔らかい色鉛筆画がファンタジーの世界へ連れてってくれます。

 

 

 

『あそぼう クマクマ なにしているかな?森のどうぶつたち 春・夏・秋・冬225のさがしもの』レイチェル・ピアシー/文 フレイヤ・ハルタス/絵 広松由希子/訳 河出書房新社 2021/9/30(出版社サイト→こちら
クマクマの森にはたくさんのどうぶつたちが暮らしています。そんな仲間たちを絵の中に探していく絵本です。
「おはよう!森のなかまたち」、「ウサギのたんじょう会」、「元気いっぱいうんどう会」、「クマクマのピクニック」など、見開きページごとに、春夏秋冬のクマクマの森での出来事が描かれ、「さがしもの」のコラムに書いてあるものを探していきます。さがしものをしながら、森の中でのどうぶつたちが、生き生きと語りかけてくれ、季節が変化していく様子を知ることができます。図書館での読み聞かせには向きませんが、ご家庭では親子で楽しく絵本を囲んで会話が弾みそうです。

 

 

 

 

 

(作成K・J)

2021年8月、9月の新刊から(その1)絵本


8月、9月に出版された子どもの本のうち、絵本を紹介します。読み物は少し時間がかかるため、10月上旬に公開予定です。

また、今回3か月ぶりに銀座教文館ナルニア国へ新刊チェックに行きました。そこで、見落としていた8月以前に発行された新刊もみつけました。それも併せて紹介いたします。

教文館ナルニア国で選書をした本のほかに、横浜・ともだち書店で児童書担当に推薦をいただき取り寄せた本、翻訳者の方から直接送っていただいたものもあります。

その他の書籍に関しては銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

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【絵本】
《創作》

『空とぶ馬と七人のきょうだい モンゴルの北斗七星のおはなし』イサンチノブ・ガンバートル/文 バーサンスレン・ボロルマー/絵 津田紀子/訳 あかつき 2021/6/21(出版社のFacebook→こちら

日本在住のモンゴル人ご夫妻によるモンゴルの昔話を題材にした絵本です。
モンゴルの草原では、夜空に輝く北極星や北斗七星は道しるべとなるためとても大切にしていたようで、北斗七星を「七人の神さま」と呼ぶのだそうです。
そうしたモンゴルに伝わる民話をふくらませて創作したとあとがきに書かれています。中国の民話『王さまと九人のきょうだい』にも通じる個性豊かな兄弟の活躍など、子どもたちを楽しませるお話になっています。

 

 

 

 

 

『ぱったんして』松田奈那子/作 KADOKAWA  2021/7/16(出版社サイト→こちら
表紙画像は出版社サイトでご確認ください。

『ふーってして』(「2020年8月、9月の新刊から」で紹介→こちら)に続く、「はじめてのアート絵本」シリーズ2冊目です。前作ではドリッピングという技法が紹介されていましたが、今回は紙に絵の具をのせて、紙を半分に折って現れる形を楽しむデカルコマニーという技法で描かれています。蝶々に見えたり、木に見えたり、虹になったり。想像を膨らませて楽しめる絵本です。

 

 

 

『秋』かこさとし/作 講談社 2021/7/27 (出版社サイト→こちら

「トウモロコシの葉が風にゆれています。ヒガンバナの行列ができています。秋になりました。私は秋が大好きです。」と、ほかにも好きな理由をたくさん並べて、秋が一番好きな季節だと冒頭で語るかこさとしさん。
しかし、「ところが、そのすてきな秋を、とてもきらいになったときがありました。とてもいやな秋だったことがあります。」
「それは、今からずっとむかしの、昭和十九年のことでした。」と、絵も一変します。第二次世界大戦終結までの一年間は、国内は空襲が相次ぎ、戦地へ赴いた兵士の戦死も次々に伝えられていました。当時、高校生だったかこさんが感じた理不尽さを、戦争の不条理を、熱量をもって語っています。この作品は1953年に描かれ、1955年に加筆、1982年に改訂とメモが残され、30年の月日をかけて温めていたそうです。かこさとしさんの遺族が昨年のステイホーム中に作品を整理していて、原稿や資料をみつけ、コロナ禍で価値観が変わる今だからこそと出版されることになりました。
「青い空や澄んだ秋晴れは、戦争のためにあるんじゃないんだ。」と激しい言葉が綴られた次のページに、「翌年、日本は負けて戦争は終わりました。(中略)戦争のない秋の美しさが続きました。」と結ばれています。改めて、戦火のない国で秋を堪能できることに感謝するとともに、今もなお戦火の中にある地域のことへ心を向けたいと思います。

 

 

 

 

『ふしぎな月』富安陽子/文 吉田尚令/絵 理論社 2021/8  (出版社サイト→こちら

月がきれいに見える季節になりました。富安陽子さんの描くファンタジーの世界が広がっている絵本です。
やさしい月の光は、子どもたちの上に、降り注ぎます。
「月よ、月。ふしぎな月。おまえはいつもながめてる。このよのよろこびを、またかなしみを。」
月の光はサバンナの夜にもジャングルの夜にも、そして戦場の夜にも空を照らします。
「このよがやみにしずまぬように。わたしがやみにのまれぬように。」静かな祈りのように、柔らかく照らしています。

 

 

 

 

 

『あさだおはよう』三浦太郎/作 童心社 2021/9/1(出版社サイト→こちら

三浦太郎さんの「あかちゃん ととととと」シリーズの新作です。
おやさいたちが、朝になって「おはよう」と元気に起きてくる赤ちゃん絵本です。
「おめめ ぱっちり あさだ おはよう」の繰り返しに、読んでいるとむくむく元気が湧いてきます。
出版社サイトには、次に紹介する『こんにち、わ!』といっしょのメイキング動画があります。ぜひこちらもご覧になってください。

 

 

 

 

『こんにち、わ!』三浦太郎/作 童心社 2021/9/1(出版社サイト→こちら

「あかちゃん ととととと」シリーズの新刊。(シリーズについては→こちら
トマトのかあさんとプチトマトのあかちゃんがおさんぽへ。つぎつぎに出会う仲間と「こんにちは」とあいさつをしていきます。
あかちゃんと一緒にコミュニケーションをしながら読みたい絵本です。

 

 

 

 

 

『パ・パ・パ・パ パジャマ』石津ちひろ/文 布川愛子/絵 のら書店 2021/9/1 (出版社サイト→こちら

小さな子どもにとって、ひとりでパジャマに着替えられるって成長を感じられて嬉しいものです。
「パ・パ・パ・パ パジャマ」と唱えながら、うえのパジャマに手を通し、難関のぼたんをよっつ止められたら、あとはズボンだけ。
「とうとう ひとりで きられたよー ばんざーい!」と飛び上がってお布団の海にダイブ。なんでも自分でやりたがる2歳くらいのお子さんにおすすめしたいです。

 

 

 

 

『みんなおやすみ』柿本幸造/絵 はせがわさとみ/文 学研 2021/9/7 (出版社サイト→こちら

『どうぶつだあれかな』、『のりものなあにかな』に続く柿本幸造さんのファーストブックの3冊目です。
学研から家庭に直販していた古い絵本の原画を発見した編集者が遺族の協力を得て10年がかりで復刊したとのこと。
夜空に浮かんだお月さまが、いろんなものに「おやすみなさい」を伝えます。動物園のどうぶつに、車庫で眠るバスに、お店に、公園の遊具に、昆虫たちに、そしておうちのなかにいる子どもにも。柔らかいタッチの絵に心が安らいできます。絵本はボードブックになっているので小さな子どもたちにも扱いやすい1冊です。

 

 

 

 

『きみはたいせつ』クリスチャン・ロビンソン/作 横山和江/訳 BL出版 2021/9/10(版元.comサイト→こちら

「きがつかないほど、ちいさないきものがいる」、「さきにいくものがいれば、あとからいくものもいる」私たちの世界は、地球も宇宙もすべて繋がっていて、今、存在している。
そんなことを、歌うようなことばにして語りかけてくれます。
「たいへんなことがおきて、はじめからやりなおさなくちゃならなくても、こころがばくはつしそうになっても、きっとだれかがささえてくれる」
「とおくはなれていて だいすきなひとと、あえないときがある」
「ひとりぼっちで、たまらなくさびしいときもあるけど、きみはひとりじゃない」
不安な時にも、大丈夫だよと背中をそっと包んでくれる。元気な時は勇気を与えてくれる。そんな一冊です。

 

 

 

 

 

『つきのばんにん』ゾシエンカ/作 あべ弘士/訳 小学館 2021/9/14(出版社サイト→こちら

「よるのどうぶつクラブ」から月の番人に選ばれたしろくまのエミール。はりきって93段のはしごを登り、月のまわりにかかる雲を追い払ったりと忙しく番をしています。
ところが、月が少しずつ欠けていくのです。月がだんだん細くなって消えていくのを止める道具もない、そう思ったエミールは「つきのばんをしていたのに、だんだん、ちいさくなり、きえてしまいそうなんだ」と仲間たちに相談します。すると一羽の鳥が「ものごとは、おおきくなったり、ちいさくなったり、きえたとおもったらあらわれたりするものなのよ」と話してくれます。そう、一度月が見えなくなったあと、月はちゃんと現れて、だんだん大きくなっていくのでした。南アフリカ出身のゾシエンカが描く月明りはとても幻想的で、あべ弘士さんの訳文も穏やかで、そのまま眠りに誘ってくれそうです。

 

 

 

 

『パイロットマイルズ』ジョン・バーニンガム&ヘレン・オクセンバリー/絵 ビル・サラマン/文 谷川俊太郎/訳 BL出版 2021/9/15(出版社サイト→こちら/ジョン・バーニンガム&谷川俊太郎の絵本リスト)

2016年に出版された『ドライバーマイルズ』(絵本ナビサイト→こちら)の続編です。マイルズは、バーニンガム夫妻の愛犬ラッセルテリアでした。2冊目の『パイロットマイルズ』を構想中にジョン・バーニンガムは病気が重くなり、仕上げることは出来ないと悟って妻のヘレン・オクセンバリーに仕上げを依頼したそうです。その頃マイルズも亡くなり、ジョンも2019年1月に亡くなります。
最愛の一人と一匹のためにヘレンはジョンの旧友とともに『パイロットマイルズ』を仕上げました。
トラッジ家の年をとった犬のマイルズ、昔はよくドライブをしたものでした。マイルズに車を作ってくれたお隣の家のハディさんが、今度は飛行機を作ってくれます。
飛行機を操縦して空を飛べば、マイルズもご機嫌に。でもだんだんマイルズは弱っていきます。それでも、もう一度マイルズは空を飛びます。マイルズの飛行機はそのままどんどん飛んでいって見えなくなるのです。「さよならマイルズ」で終わる絵本に、胸がいっぱいになります。

 

 

 

 

『きょうものはらで』エズラ・ジャック・キーツ/絵 石津ちひろ/訳 好学社 2021/9/16(出版社サイト→こちら

1800年代後半に、オリーブ・A・ワズワースがアメリカの伝統的な数え歌を書き記したものに、エズラ・ジャック・キーツが絵をつけた絵本です。
1でかめのかあさんが1ぴきのこがめと砂を掘り、2で魚のかあさんが2ひきのこどもと川で泳ぎ、3でツグミのかあさんが3羽のひなと歌を歌うというように、子どもの数を10まで数えていきます。生き生きとした絵と、その生き物の習性がわかる優しい言葉で表現された数え歌。繰り返し唱えてみたくなります。

 

 

 

 

『すうがくでせかいをみるの』ミゲル・タンコ/作 福本友美子/訳 西成活裕/日本語監修 ほるぷ出版  (出版社サイト→こちら

うちの家族はそれぞれ得意で好きなことがあるという女の子。彼女にとっては、それは数学です。
数学って難しいものではなく、毎日の生活の中に身近にあることを伝えてくれます。たとえば公園の遊具の形、湖に石を投げた時に広がる同心円の波紋、自然が生み出す曲線など。数学をとおして世界を見てみることの面白さを伝えてくれます。
後半は、女の子の「数学ノート」になっていて、手書き文字で「フラクタル」や「多角形」「立体図形」「集合」などの数学用語を説明しています。そんなところから数学に興味をもつ子どもたちが増えるといいなと思いました。

 

 

 

 

 

《ノンフィクション絵本》

『かこさとし あそびの玉手箱 てづくり おもしろ おもちゃ』かこさとし/作 小学館 2021/7/21 (出版社サイト→こちら

2018年に亡くなった絵本作家の幻の絵本の2冊目です。
かこさとしさんは、古今東西の子どもたちの遊びについて収集し、研究されていました。
この絵本は昔の子どもたちが身近なものを工夫して遊んでいた遊びの道具、たとえば草笛や麦わらのバスケット、てぶくろ人形など28紹介されています。
可愛らしいイラストと丁寧な作り方説明で、すぐに遊んでみたくなります。

 

 

 

 

 

 

『すいめん』高久至/写真・文 アリス館 2021/7/22(出版社サイト→こちら

屋久島在住の水中写真家高久さんの写真絵本です。海と空の境界線である水面をさまざまな角度から見せてくれます。
水中動物たちの多くは、生まれてすぐは深く潜れないため、水面近くで過ごします。そんな小さな命の営みや、光の加減によって昼と夜ではまったく違った表情を見せる海の色などは、命のゆりかごである海の豊かさを伝えてくれます。
高久さんの写真絵本にはほかに『おかえり、ウミガメ』や『かくれているよ 海のなか』、『海のぷかぷか ただよう海の生きもの』(いずれもアリス館)などがあります。

 

 

 

 

 

(作成K・J)

 

2021年7月、8月の新刊から


7月、8月に出版された子どもの本、および研究書を紹介します。また、一部、見落としていた7月以前に発行された新刊も含まれています。

この度は、横浜・ともだち書店で児童書担当の方の推薦をいただいたものを取り寄せた本、翻訳者の方から直接送っていただいたものを、読み終えた上で紹介しています。

その他の書籍に関しては銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

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【絵本】
《創作絵本》

『みちとなつ』杉田比呂美/作 福音館書店 2021/6/5 (出版社サイト→こちら

大きな街にお母さんと二人で住むみちと、海辺の町で大家族で住んでいるなつ。二人はお互い知らない同士でした。みちは物静かな女の子でハートの形をした石を集めるのが好きです。なつは海辺で丸くなったきれいなガラス片を集めるのが好きです。夏休み、みちがおじいちゃん、おばあちゃんを訪ねていったのは、なつの住んでいる町。
みちが朝早く海辺でハート型の石を並べていると、なつがやってきます。ふたりは、いいお友だちになれそうですね。

 

 

 

 

 

『うちのねこ』高橋和枝/作 アリス館 2021/7/20(出版社サイト→こちら

ある春の日、野良猫が保護されて、うちにやってきた。もうおとなになっている猫。なかなか心を開いてくれない。慣れたかなあと思うと、ひっかいてくる。そうやって夏が過ぎ、秋が過ぎていく。冬がきて、布団に近寄ってきて目が合うとまたひっかいてきた。保護しないほうがよかったの?野良のままがよかったの?それから1週間後、温かい布団の中にねこが入ってきます。作者の実体験をもとに描かれた作品です。

 

 

 

 

 

『くろねこのほんやさん』シンディ・ウーメ/文・絵 福本友美子/訳 小学館 2021/7/25(出版社サイト→こちら
本を読むのが大好きなくろねこがいました。他の家族はダンサーだったり、ケーキ屋さんだったり、ロボット制作だったりと忙しく仕事をしています。おにいさんに「ほんをよむのはしごとじゃないよ」とまで言われてしまいます。
それでも「ほんをよめばいろんなことがわかるし、なんにでもなれる」と気にしないくろねこ。町で店員募集の本屋さんをみつけて、そこで働くことになりました。
子どもたちひとりひとりに合わせたぴったりの本を選んでくれるので、くろねこのいる本屋さんはたちまち人気店になりました。
ところが大雨で本屋さんが水浸しに。子どもたちも本屋さんに来れなくなりました。そこでまたくろねこの大活躍がはじまります。本を読むことの楽しさを伝えてくれる絵本です。

 

 

 

 

 

『しらすどん』最勝寺朋子/作・絵 岩崎書店 2021/7/31(出版社サイト→こちら

朝ごはんに食べた「しらす丼」。りょうくんは丼にほんのわずかしらすを食べ残して席を立とうとすると、「自分がしらすだったらって、かんがえたことある?」と丼に呼び止められるのです。
するとりょうくんは、しらすの大きさになって、食べかすとしてごみに捨てられ、ゴミ収集車で焼却炉へ・・・このあたりの描写は、少し衝撃的です。その後りょうくんは海のなかで稚魚として目ざめ、しらすとして商品になり、家へとやってきます。
りょうくんは、今度はしらす丼を最後まできれいに食べるのです。
自分が生ごみとして燃やされてしまうという想像は、子どもたちには衝撃かもしれません。しかし作者は「食べることは、他の命をいただくこと」、そうした命のやりとりに無関心になっていることを伝えたいと、飽食の時代に一石を投じる覚悟で制作されました。そのことをきちんと子どもたちに伝えられるように、丁寧に手渡したい絵本です。

 

 

 

 

『野ばらの村のけっこんしき』ジル・バークレム/作・絵 こみやゆう/訳 出版ワークス 2021/8/25(出版社サイト→こちら

「2021年5月、6月の新刊から」(→こちら)でも紹介した「野ばら村の物語」四季シリーズの夏のお話です。
チーズ小屋で働くポピーと粉ひき小屋で働くダスティは小川のほとりで出会って恋におち、結婚することになりました。野ばら村のみんなは大喜び。村をあげて結婚式のお祝いの準備をします。小川の上に浮かべた筏の上での結婚式は、それはとても楽しそうです。細かく描かれた田園風景をじっくり味わってほしいなと思います。

 

 

 

 

 

 

《ノンフィクション絵本》

『旅をしたがる草木の実の知恵 ゲッチョ先生の草木の実コレクション』盛口満/文・絵 少年写真新聞社 2021/7/20(出版社サイト→こちら

草や木は自分で動くことができないため、種子を遠くに運んでもらうために、美味しい木の実をつけて鳥や動物たちに運んでもらえるよう引き付けます。
あるいはトゲトゲをつけて、動物や人にくっついて遠くへ運ばれるものや、風にのって遠くへ飛ぶように出来た種子も。
そんな様々な植物の種子を200種類以上集めて、分類し、わかりやすく説明をしてくれている科学読み物です。

 

 

 

 

 

 

【児童書】

『あなたがいたところ―ワタシゴト 14歳のひろしま2』中澤晶子/作 ささめやゆき/絵 汐文社 2021/6(出版社サイト→こちら

昨年出版された『ワタシゴトー14歳のひろしま』(出版社サイト→こちら)の続編です。
「ワタシゴト」は、「私事=他人のことではない、私のこと」と「渡し事=記憶を手渡すこと」の二つの意味を持っています。
舞台は修学旅行で全国から多くの中学生が訪れる広島。被爆建物を訪れた中学生たちの、4つの物語が収められています。76年前の広島原爆の被害を語り継ぎ、修学旅行という機会でそれに触れることが、若い世代が世界の平和を自分のこととして考える契機になっていく。そのことを本を通して伝えていきたいと思います。

 

 

 

 

 

 

【ノンフィクション】

『あたらしいお金の教科書 ありがとうをはこぶお金、やさしさがめぐる社会』新井和宏/著 山川出版社 2021/7/30(出版社サイト→こちら

かつて外資系金融機関で、国家予算に匹敵するような額のお金を運用していた新井さん。お金を儲けることだけが目的になると、経済格差が広がり不幸になる人が増えることに気づかれます。
そして丁寧に事業をし、従業員も顧客も経営者も三方良しの経営をしている会社を支援するために「鎌倉投信」を設立します。その様子は、NHKの「プロフェッショナル仕事の流儀」でも紹介されました。(→こちら
その後、新井さんは「ありがとうの循環」が社会を巡るような共感通貨eumo(→こちら)を作り、昨年運用が開始されました。
この本は、奪い合いではなく、お互いを助け合う仕組みとしてのお金の意味を、お金の歴史を紐解きながら、わかりやすく解説しています。帯に書かれている「お金の本なのに、生き方や幸せや社会について考えたくなる、全く新しいお金のバイブル」そのものです。

 

 

 

 

【研究書】

『いわさきちひろと戦後日本の母親像 画業の全貌とイメージの形成』宮下美砂子/著 世織書房 2021/6/30 (出版社サイト(書籍情報はなし)→こちら)

ジェンダーと絵本について研究されている筆者の博士論文を元にして書籍化された本です。
戦後の絵本には「おとうさんとおかあさん、そしてこどもふたり」というステレオタイプの家族像が描かれ、いつの間にかそれが当たり前のように刷り込まれてきました。家族の在り方は、その後大きく変わってきており、子どもの本の世界でも価値観の更新が求められています。
この研究では、いわさきちひろが描く「母と子」像を通して、その意味を問い、いわさきちひろの絵本と画業を通して、日本社会にまん延するジェンダー不平等について分析しています。
世界ジェンダーギャップ指数が2021年3月発表では156か国中120位の日本で、宮下さんの研究は子どもの本の世界をジェンダーの視点で捉えなおす必要性を問いかけてくれています。

 

 

(作成K・J)

2021年5月、6月、7月の新刊から(その2)絵本・読み物


5月、6月に出版された子どもの本のうち、先月紹介できなかった読み物と、7月に出版された絵本を紹介します。また、一部、見落としていた5月以前に発行された新刊も含まれています。(2021年5月、6月の新刊から(その1)絵本は→こちら

この度は銀座・教文館ナルニア国で選書したものと、横浜・ともだち書店で児童書担当の方の推薦をいただいたものを取り寄せた本、翻訳者の方から直接送っていただいたものを、読み終えた上で紹介しています。

その他の書籍に関しては銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

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【絵本】
《創作》
『太陽と月 10人のアーティストによるインドの民族の物語』バッジュ・シャーム、ジャグディッシュ・チターラー、スパーシュ・ヴィヤーム他 青木恵都/訳 タムラ堂 2021/4/1(第3刷)(出版社サイト→こちら

南インドの小さな工房でシルクスクリーン印刷と手製本で作られるターラーブックスの絵本です。2016年に第1刷が日本で出版されていましたが、大量生産されていない作品なのですぐに手に入らなくなっていました。4月に第3刷が販売されました。今回は2000部発売で、手元にあるものは1641とシリアルナンバー入りです。
紙の手触りや色合いなどから、これは芸術作品だと感じます。太陽と月を巡る昔話を10人のアーティストがそれぞれ見開きページで表現しています。

 

 

 

 

『いろいろかえる』きくちちき/作 偕成社 2021/5(出版社サイト→こちら

みどりのかえるときいろのかえる、そしてももいろのかえるの三匹がおひさまの光を浴びて、お花の間でゆかいに踊ります。池の中ではあおいろのかえるも、だいだいいろのかえるもやってきて、夕陽を浴びて大合唱。そこへ迎えに来たのはとうさんとかあさんのかえる。
にぎやかなかえるたちの声に、こちらも頬がゆるんできます。
きくちちきさんの躍動的な筆のタッチがのびやかで気持ちを解放させてくれます。

 

 

 

 

 

『天のすべりだい』スズキコージ/作 BL出版 2021/7/1(出版社サイトtopページ→こちらトップページから新刊案内をクリックしてください

コージズキンという愛称で呼ばれて熱烈なファンもいるスズキコージさんの贅沢な画集といった感じでしょうか。
一貫した物語があるわけではないのですが、「あの世とこの世の交信」から生まれた絵だというだけあって、絵の力に圧倒されます。そしてところどころに散りばめられた問いかけの言葉「あの世とこの世のリンゴの味はそっくりなのを君は知ってるかい?」「この世にもあの世にも旅の仲間がいるってこと知ってるかい?」にインスパイアされて、ひとりひとりが絵の中を旅することができる、そんな想像力を搔き立ててくれる絵本です。

 

 

 

 

『街どろぼう』junaida/作 福音館書店 2021/7/10(出版社サイト→こちら

これまで『Michi』、『の』や『怪物園』などの独創的で美しい絵本を創作しているjunaidaさんの新作絵本です。
大きな山の上にひとりぼっちで住んでいる巨人は、ある夜さびしさのあまり、麓の街から一軒の家をこっそり山の上に持ち帰ります。そしてその家の家族に「これからはここでいっしょにくらしましょう ほしいものがあったらなんでもあげますから」と伝えます。するとその家族は「わたしたちだけではさびしいのでしんせきの家も ここにつれてきて」と頼まれるのです。こうして巨人はその都度求められるままに、麓の街にあった家のほとんどを山の上に運びます。そうして山の上ににぎやかな街が出来上がるのですが、巨人はやっぱり孤独でした。そして巨人が山を下りていくのです。美しい絵と、意外な展開の中から、そして最後には心温まる結末も用意されていて、読みながらさまざまなことを考えさせられました。20cm×15cmの小さな絵本です。

 

 

 

《ノンフィクション》

『子どもの本で平和をつくる―イエラ・レップマンの目ざしたこと―』キャシー・スティンソン/文 マリー・ラフランス/絵 さくまゆみこ/訳 小学館 2021/7/19(出版社サイト→こちら

第二次世界大戦後、瓦礫に覆われたドイツの街角でアンネリーゼと幼い弟ペーターは、大きな建物に人々が並んで入っていくのを見て、食べ物をもらえるかもと入っていきました。
ところがそこにはたくさんの本が並べられていたのでした。そこには戦争でドイツと戦ったいろいろな国から届けられた子どもの本が並んでいたのです。
アンネリーゼとペーターはおはなし会に参加します。ひとりの女性がドイツ語に翻訳して子どもたちにおはなしを読んでくれたのでした。その日アンネリーゼは未来に向けて夢を描くことができました。
この女性はイエラ・レップマンという実在の女性です。「すばらしい子どもの本は人びとが理解しあうための”かけ橋”になる」と信じ、終戦後まもなく各国によびかけ「世界の子どもの本展」を開催したのでした。「世界の子どもの本展」はその後イエラの想いに賛同して設立された「国際児童図書評議会」(IBBY→こちら)に引き継がれ、日本でも「日本児童図書評議会」(JBBY→こちら)によって巡回しています。(世界の子どもの本展→こちら)この絵本を翻訳したのは、現在JBBYの会長を務めているさくまゆみこさんです。また、当社はJBBYの法人会員になっています。

 

 

 

 

【児童書】
《物語》

『わたし、パリにいったの』たかどのほうこ/作 のら書店 2021/3/22(出版社サイト→こちら

はなちゃんは妹のめめちゃんとあるアルバムを見るのが大好きです。そのアルバムにはめめちゃんが生まれる前、はなちゃんが両親と一緒にパリへ旅行した写真が収められているのです。なんどもアルバムを開いてはなちゃんが思い出を話しているためか、まるでめめちゃんもそこにいたかのように話すのです。はなちゃんが「めめちゃん、うまれてなかったのに、よくおぼえてるねえ!」「おかあさんにきいたんじゃないの?」と聞くと、「おかあさんのおへそのあなから見てた」と言いはるめめちゃん。そんな楽しい姉妹の会話に思わず笑ってしまいます。ひとりで読み始めた子に手渡したい幼年童話です。

 

 

 

 

『けんだましょうぶ』にしひらあかね/作 福音館書店 2021/4/15(出版社サイト→こちら

けいくんはけんだまが得意です。けんだまを持って野原へ出かけていくと、きつねがけんだま勝負を挑んできます。きつねがけんだま始めると、玉がみかんになったり、りんごになったり。次にたぬきもけんだま勝負を挑んできました。たぬきのけんだまはザリガニに変身したり。そのあとも魔女や天狗とけんだま勝負。なんとも楽しくて、けんだまをやりたくなる幼年童話です。

 

 

 

 

 

 

『すてきなひとりぼっち』なかがわちひろ/作 のら書店 2021/5/20(出版社サイト→こちら

クラスの中にとけこめず、ひとりぼっちであることも平気だとうそぶく一平くん。そうはいっても、「ぼくがこんなに つらいおもいをしていることを だれもしらない。ぼくは、このよにひとりぼっち。」とつぶやきたくもなる。
雨の日、学校から帰ったら玄関がしまっている。母さんを探しに出かけた商店街で一平くんはいろいろな人の親切にふれて、ひとりぼっちではないことに気づきます。
夜明け前に目が覚めて、西の空に月が沈みかけ、東の空から太陽が昇ってくるのをみながら、一平くんが感じる想いがとても素敵です。

 

 

 

 

『ボーダレス・ケアラー 生きてても、生きてなくてもお世話します』山本悦子/作 理論社 2021/5(出版社サイト→こちら

大学の夏休み直前、海斗は一人暮らしをしている認知症の祖母のケアを母親に頼まれます。祖母は1か月前に亡くなった愛犬豆蔵の空のリードを持って散歩に出かけるなど、どうも認知症が進んでいるのではというのです。海斗は母親にバイト代10万出すと言われて引きうけることにしました。
祖母の家に行って、海斗も豆蔵のリードを持って散歩すると、不思議なことに豆蔵が見えることに気がつきます。「幽霊か?」と声に出す海斗に、マンションの駐車場の下に佇む少女が、「ボーダーの状態になっているんだと思うよ。」「ボーダーラインを認識してないっていうのかな。生も死も、みんないっしょ。区別していないの。だから見えるんだと思う」と声をかけてきます。つまり「ボーダー」とは死後の世界へ行かず生と死のはざまにいる存在だというのです。海斗はボーダーの生前の想いを調べ、時にはその思いを遂げる手伝いをするようになります。また海斗がセーラと呼ぶその少女がボーダーになった理由もわかります。そこにはその少女が中学生だった時にいじめられていた同級生との関係があったのです。心温まる物語です。

 

 

 

『あしたもオカピ』斉藤倫/作 fancomi/絵 偕成社 2021/6(出版社サイト→こちら

どうぶつえんで飼育されているオカピは、ある夜、飼育員のおじさんと一緒に月をながめていました。その夜出ていた月は、不思議な形をしていました。半月をさらに半分にしたような、まるで四つ葉のクローバーの一片のような形だったのです。
「よつば月だ。よつば月にどうぶつがお願いすれば、なんでも願いがかなう」と飼育員のおじさんに教えてもらったオカピ、さっそく檻の外に出たいと願います。オカピは夜のどうぶつえんを歩き回って、「よつば月には願いがかなう」ことを他の動物たちにも伝えてまわります。
そう、その夜はほんとうに不思議なことが動物園で起きたのです。ちょっと不思議で、楽しいお話です。この本もひとりで読み始めた子ども向きの幼年童話です。

 

 

 

 

 

『チョコレートのおみやげ』岡田淳/文 植田真/絵 BL出版 2021/6/1(出版社サイトtopページ→こちらトップページから新刊案内をクリックしてください

神戸の街、異人館や港をおばさんに案内してもらったわたし。公園のベンチでチョコレートをつまみながら、おばさんが即興でお話を語り始めます。そのお話は風船売りの男と飼っているニワトリのお話でした。
ニワトリが風を読んで男に伝えると、男は風のない日に風船を売りに出かけるのです。ある日ほんのいたずら心でニワトリは強風が吹きそうな日なのに「今日は風がない日」とうそをついてしまいます。
するとその日を境に男は何カ月も帰ってこない、そこでニワトリは屋根の上の風見鶏になったというお話でした。
その結末に不満のあるわたしは、続きのお話を語ります。その新しい結末に、おばさんと食べているチョコレートがからんで、とてもおしゃれで楽しいお話になっています。

 

 

 

 

『庭』小手鞠るい/作 小学館 2021/6/7(出版社サイト→こちら

真奈はSNSでの書き込みがきっかけで仲良し5人組から外されてしまい、中2の冬から不登校になっていますが、母親の心配をよそに自分の意志で「登校拒否」しているのだと思っています。そんな日々の中に大きな転機が訪れます。中学3年生になる春休みに、幼い時に亡くなった父親の故郷、ハワイへ一人旅に出ることになったのです。
初めて会う父親方の祖母や叔母たちがハワイで温かく迎えてくれました。そこで自分のルーツに出会い、真奈の傷ついた心は少しずつ回復していきます。日系人の歴史にも触れながら、物語は展開していきますが、結末は表紙絵のような明るい光を感じることができます。中学生以上向けYA作品です。

 

 

 

 

『コレットとわがまま王女』ルイス・スロボドキン/作 小宮由/訳 瑞雲舎 2021/7/1(出版社サイト→こちら

とてもわがままな王女が町に静養にやってくるというので、コレットが住む町は大騒ぎ。ポーリーン王女の滞在中は物音ひとつ立ててはならないという法律が出来たのです。足音を立てないために、ブーツや木ぐつの上にフェルトのスリッパをかぶせたり、馬やロバの蹄鉄にはわらをかぶせ、町の教会の鐘も鳴らないようにしました。当然、子どもたちも声をあげてわらったり、広場で遊ぶこともできません。
町長の娘であるコレットは、飼い猫のシュシュにマスクをし、町のはずれの樫の木の下でおとなしくしていました。ところがポーリーン王女は、その樫の木の下を気に入ってしまったのでした。
一方的に我慢を強いられた町の人たちを救ったのは、なんと子猫のシュシュ。どうやって救ったかは読んでのお楽しみ。

 

 

 

 

【その他】

《エッセイ》
『佐野洋子 とっておき作品集』佐野洋子/著 筑摩書房 2021/3/15(出版社サイト→こちら

『100万回生きたねこ』があまりにも有名な佐野洋子さんが、亡くなられた後で見つかった単行本未収録作品を集めた作品集です。
童話が6編、ショートショートが6編、私の服装変遷史と題したイラストと写真集に、エッセイが10編、そして谷川俊太郎さんとの恋と結婚生活を書いたエッセイ3編。どれもこれも、佐野洋子さんの魅力がたっぷりつまっていて、ファンでなくても夢中になってしまいます。

 

 

 

 

 

《研究書》
『女性受刑者とわが子をつなぐ絵本の読み合い』村中李衣/編著 中島学/著 かもがわ出版 2021/6/30(出版社サイト→こちら

児童文学作家であり、また児童文学研究者でもある村中李衣さんが、長年、山口県美祢市にある官民協働刑務所「社会復帰促進センター」に収容されている女性受刑者とともに絵本を読み合う実践をされてきた、その記録です。何らかの罪を犯して収監されているわけですが、ひとりひとりの生育環境が影響していることがあり、絵本を介在させてまず自分自身と対話をし、自己確立をする中で、自分を客観視し立ち直っていく。特にわが子を持っている受刑者にとっては、自分の過去を客観視して受け入れることが、わが子との関係性も強化していくことになるのです。女子受刑者と図書館の児童サービス、なにも関係がないように見えますが、図書館は地域のすべての人に本を通して幸せな人生を実現していくことを応援する、そんな機能があります。経済格差が拡大し、本や正確な情報にアクセスできない貧困層の家庭にどう手を差し伸べるのか、その課題が見えてきます。ぜひ読んでほしいと思います。

 

 

 

(作成K・J)

2021年5月、6月の新刊から(その1)絵本


5月、6月に出版された子どもの本のうち、まず絵本を紹介します。読み物は7月上旬に公開予定です。また、一部、見落としていた5月以前に発行された新刊も含まれています。

この度は銀座・教文館ナルニア国で選書したものと、横浜・ともだち書店で児童書担当の方の推薦をいただいたものを取り寄せた本、翻訳者の方から直接送っていただいたものを、読み終えた上で紹介しています。

その他の書籍に関しては銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

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【絵本】
《物語絵本》

『あまがえるりょこうしゃ ちかたんけん』松岡たつひで/作 福音館書店 2021/4/10(出版社のサイト→こちら

あまがえる旅行社の今度のツアーはモグラ博士が作った地下を走る車での探検です。
地下をどんどん進んでいく探検ツアーのお話を読んでもらいながら、地中で暮らす虫や動物、植物の様子を知ることができます。子どもたちが大好きな昆虫の幼虫の様子などをみつけながら、物語から知識へと興味関心が広がっていく契機になっていくでしょう。

 

 

 

 

 

『ぼくのがっこう』すずきのりたけ/作 PHP研究所 2021/5/20 (出版社のサイト→こちら

奇想天外、自由な発想で身近なものを描く『ぼくのおふろ』『ぼくのトイレ』『ぼくのふとん』に続くシリーズの4作目です。
毎日通う学校も、いつもと違っていたら楽しいのに、とどんどん妄想が広がっていきます。
たとえば廊下がぐにゃぐにゃしていたり、机が日替わりで変わったり、先生と生徒が入れ替わったり・・・ナンセンスですが、たまにはそのような捉われない発想で遊んでみるのもいいですね。

 

 

 

 

 

 

『かぜのうた』フィリップ・ジョルダーノ/絵 さわべまちこ/文 ポリフォニープレス  2021/5/25(出版社のサイト→こちら

 

2004年、2009年、2010年と何度もボローニャ国際絵本原画展で賞を取っているイタリアの絵本作家が「風」をテーマに日本の四季を描きました。「かぜがふいたら」いろいろな音がして、いろいろなものが動き出します。繰り返しのリズムと音を楽しんでみましょう。

 

 

 

 

 

『アインシュタイン 時をかけるネズミの大冒険』トーベン・クールマン/作 金原瑞人/訳 ブロンズ新社 2021/5/25(出版社のサイト→こちら

リンドバーグ 空飛ぶネズミの大冒険』『アームストロング 宙飛ぶネズミの大冒険』『エジソン ネズミの海底大冒険』など史実とファンタジーを織り交ぜて好評の「ネズミの冒険シリーズ」の最新刊です。
チーズフェアに行くのを楽しみにしていたネズミ、どこで間違えたか、会場へ行って見るとフェアは前日に終わっていました。
そこから過去へもどろうとするネズミは必死の努力をし、アインシュタインの理論からタイムマシンを作るのですが、なんと辿り着いたところは80年前の世界。まさにアインシュタインが相対性理論を思いつく時だったのです。時間とは何か、相対性理論とは何か、物語を読んでいるうちに理解が深まっていきます。

 

 

 

 

 

 

『野ばらの村のピクニック』ジル・バークレム/作 こみやゆう/訳 出版ワークス 2021/6/25 (出版社のサイト→こちら

40年前に講談社から岸田衿子の訳で出版されていた「のばらの村のものがたり」シリーズのうち、『春のピクニック』がこみやゆうさんの訳で蘇りました。以前のシリーズは18cm×14.5cmの小型判型でしたが、25cm×19.5cmの大判になり、緻密に描かれた切り株の中のねずみの家をつぶさに見て楽しむことが出来ます。
絵の美しさもですが、ねずみのウィルフレッドの誕生日を家族や友達が一緒に祝うお話には、心が温まります。

 

 

 

 

 

 

《ノンフィクション絵本》

『うまれてそだつ わたしたちのDNAといでん』二コラ・デイビス/文 エミリー・サットン/絵 越智典子/訳 斉藤成也/監修 ゴブリン出版 2021/4(出版社のサイト→こちら

ちいさなちいさなめにみえないびせいぶつのせかい』や、『いろいろいっぱい ちきゅうのさまざまないきもの』など「デイビス&サットンの科学絵本シリーズ」の3作目です。
地球上のすべてのいきもの、植物も動物も、生まれては育っていき、次の命を残していきます。それではどうやって生物は次の世代へと命を繋げていけるのか、それはDNAという「設計書」を持っているからなのです。DNAと遺伝について子どもたちにわかりやすく教えてくれる絵本です。

 

 

 

 

 

 

『カブトムシの音がきこえる 土の中の11カ月』小島渉/文 廣野研一/絵 たくさんのふしぎ傑作集 福音館書店 2021/5/15(出版社のサイト→こちら

子どもたちに大人気の昆虫、カブトムシが幼虫時代に土の中でどのように暮らしているかを、親が卵を産んでから、蛹から孵るまでの11カ月を詳しく描いた絵本です。著者の小島渉・山口大理学部講師(36)=昆虫生態学=は「カブトムシは成虫が注目されがちだが、観察してみると幼虫やさなぎも面白い行動をたくさんしており、魅力的なステージ」と山口新聞のインタビューに答えています。(→こちら)1年のうち11カ月を土の中で暮らし、成虫になって外に出てきてからはたった1か月の寿命のカブトムシ。強いイメージのカブトムシがまた違ったイメージで捉えられていて新鮮です。夏の自由研究のきっかけにもなる本です。

 

 

 

 

 

 

『小さな里山をつくる チョウたちの庭』今森光彦/作 アリス館 2021/5/31 (出版社のサイト→こちら

昆虫写真家の今森光彦さんは、滋賀県の琵琶湖の畔に蝶々がくる庭(オーレリアンの庭)を作ります。その30年の歩みをたくさんの写真で紹介しています。
蝶がたくさん来る庭というのは、人間と植物、昆虫とが共生する自然の環境です。ただ単に美しい庭というだけでなく、環境への鋭い視点もまた必要です。
今では75種類もの蝶と生き物が暮らす多様な自然環境と育っていった今森さんの里山つくりは、今の時代にとても大事な視点を教えてくれます。

 

 

 

 

 

『どうなってるの?エンジニアのものづくり』ローズ・ホール/文 リー・コスグローブ/絵 福本友美子/訳 大崎章弘/監修 ひさかたチャイルド 2021/6 (出版社のサイト→こちら

飛行機はどうして空を飛べるの?スマートフォンの中はどうなっているの?そんな子どもたちが身近に抱く疑問に、エンジニアの仕事という視点で解説してくれる絵本です。
しかけ絵本になっていて、めくると詳しい説明が読めるようになってます。
昨年10月に紹介した『どうなってるの?ウイルスと細菌』(紹介記事→こちら)と同じシリーズです。

 

 

 

 

 

(作成K・J)

2021年4月、5月の新刊から


4月、5月に出版された子どもの本を紹介します。一部、見落としていた4月以前に発行された新刊も含まれています。

この度は横浜・ともだち書店、代官山蔦屋書店で児童書担当の方の推薦をいただいたものを取り寄せた本と、習志野市にあるくわのみ書房で選書したもの、翻訳者の方から直接送っていただいたものを、読み終えた上で紹介しています。

 

その他の書籍に関しては銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

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【絵本】
《物語絵本》

『まほうの木』アンドレイ・ウサチョフ/作 イーゴリ・オレイニコフ/絵 藤原潤子/訳 東洋書店新社  2020/11/1(出版社サイト→こちら

2018年に国際アンデルセン賞画家賞を受賞したイーゴリ・オレイニコフが描いたこちらの絵本は、昨年11月に出版されたものです。見逃していましたが、日本での翻訳が少ないため、時間が経過していますが紹介いたします。
天の川のはしっこにある「ふしぎわく星O」に、どんな願いもかなえてくれるまほうの木があります。みんなはまほうの木に願いごとを言って、うれしそうに帰っていきます。たとえば海で暮らしたいと願ったウマはタツノオトシゴに、早く走りたいと車になったウマも。「子どもたちがよい子に、かしこい子に育つように」と願うとまほうの木は「本のなる木」になるのです。そんな不思議な17編のおはなしが詰まった絵本です。そして何より注目してほしいのはイーゴリ・オレイニコフの美しくも幻想的な絵です。読むものを豊かな想像の世界へ誘ってくれます。

 

 

 

『エイドリアンはぜったいウソをついている』マーシー・キャンベル/文 コリーナ・ルーケン/絵 服部雄一郎/訳 岩波書店 2021/1/27(出版社サイト→こちら

こちらも1月に出版されていた絵本ですが、見逃していました。
エイドリアンは妄想癖があるのか、「うちには馬がいるんだよ」と学校でみんなに話しています。でもエイドリアンはおじいちゃんと町はずれの小さな家に住んでいるので、「わたし」は信じられないのです。
ある日、お母さんが犬の散歩のついでにエイドリアンの家まで連れていってくれます。目の当たりにする貧富の格差。そんな環境の中で育つエイドリアンの状況を知って「学校にいるだれよりもすごい想像力の持ち主」なんだと理解していくのです。相手の気持ちに寄り添うことの大切さを教えてくれています。

 

 

 

 

『たんぽぽ たんぽぽ』みなみじゅんこ/作 アリス館 2021/3/31(出版社サイト→こちら

『どんぐりころちゃん』(→こちら)のわらべうた絵本があるみなみじゅんこさんの新刊です。
こちらもわらべうた「たんぽぽ たんぽぽ むこうやまへ とんでけ!」が可愛らしい絵本になりました。
たんぽぽの季節は終わってしまいましたが、新刊で購入したところはこの春のおはなし会できっと活躍したことと思います。
巻末にわらべうたの採譜、そして遊び方がついています。

 

 

 

 

 

『ありえない!』エリック・カール/作 アーサー・ビナード/訳 偕成社 2021/4(出版社サイト→こちら

2021年5月23日に91歳で亡くなられたエリック・カールさんの日本での最新刊です。
「ありえない!」ことにであったら、どんなふうに驚くかしら?それを楽しめるかしら?そんな奇想天外な展開のユーモア絵本です。
魚が鳥かごに、鳥が水槽に?ねずみが猫をつかまえた?タクシーに乗ったら燃料不足でいっしょに走ってくださいって?そんなゆかいなエピソードがたくさん。想像の世界ではどんなこともありうるのですね。奇想天外な発想が次々飛び出てくるエリック・カールさん85歳の時の作品です。

 

 

 

 

 

 

『せかいのはてまでひろがるスカート』ミョン・スジョン/作 河鐘基、廣部尚子/訳 ライチブックス 2021/4/15(出版社サイトFacebook→こちら

2019年のブラチスラバ世界絵本原画展で金のりんご賞を受賞した韓国の絵本です。裾の広がるスカートを、想像の広がりとして描く美しい絵が印象的です。そしてひとつひとつのスカートの広がりの中に、作者が子ども時代に親しんだ児童文学や世界各地の民話が散りばめられています。たとえばかえるのスカートの中に広がっているのは「赤毛のアン」と「紙ぶくろの王女さま」、とりのスカートには「不思議の国のアリス」に「リニ王子と少女シグニ」というように。繊細な線が描き出す幻想的な世界が幾重にも折り重なって、豊かにイメージが広がっていく絵本です。

 

 

 

 

 

 

 

『ふまんばかりのメシュカおばさん』キャロル・チャップマン/作 アーノルド・ローベル/絵 こみやゆう/訳 好学社 2021/4/26 (出版社サイト→こちら

メシュカおばさんは、いつも眉間にしわを寄せて「どうもこうもあるもんか」と言って不平不満ばかりを言っています。パン屋さんに調子はどうかを聞かれると「どうもこうもあるもんか。せなかはいたくて、まるでいしのかべせおってるみたいさ。それにあしときたら!まるででっかくなりすぎたかぼちゃみたいにおもいよ」と答えるのです。息子や娘のことを聞かれても、家のことを聞かれても不満ばかりです。
ある朝、舌の先がちくっとしたかと思うと、不満をいうとすべてがその通りになってしまったのです。そこへラビ(ユダヤ教の指導者)が来てそれは「ふまん病」だといいます。治すにはただひとつ、「これから先、ものごとをすべて前向きに言うようにすること」というのです。それからは、メシュカおばさんは、不満を言いそうになったら、少しでも良いところを探して口に出すようになります。するとなにもかもが感謝に思えて幸せに暮らすことができました、というポジティブシンキングな楽しい絵本です。

 

 

 

 

『クリフォード ちいさなちいさなあかいいぬ』ノーマン・ブリッドウェル/作 椎名かおる/訳 あすなろ書房 2021/4/30(出版社サイト→こちら

エミリーが飼っている犬はクリフォードと言います。お友だちのマーサに「あなたのいぬ、すっごくおおきくて すっごくあかいけど、どこでみつけたの?」と聞かれて、クリフォードがうちの子になった時のことを話しました。実はクリフォードは小さくて、育たないかもと言われていたのです。ある日エミリーが「げんきにおおきくなってね。だいすきだからね。」とクリフォードに伝えると、次の日からどんどん大きくなって、とうとう家の中に入れないほどになったのでした。そこで田舎のおじさんの家に引き取られ、その後エミリーたちも一緒に住むようになったのです。

 

 

 

『クリフォード おおきなおおきなあかいいぬ』ノーマン・ブリッドウェル/作 椎名かおる/訳 あすなろ書房 2021/4/30(出版社サイト→こちら

こちらは、続きの物語。クリフォードは家より大きいのですが、エミリーのことが大好きでいつも一緒です。走っているものは車でも追いかけて捕まえるし、動物園にも連れて行けなくなりました。それでもかしこいクリフォードは、いじめっ子からもどろぼうからも守ってくれます。エミリーのかけがえのない友だちなんですね。2冊合わせて読みたいお話です。

 

 

 

 

 

『ロスコ―さん ともだちにあいにいく』ジム・フィールド/作 momo’sカンパニー/訳 ひさかたチャイルド 2021/5(出版社サイト→こちら

犬のロスコ―さんが、友だちに会うためにキャンプ場へ行ったり、スキー場へ行ったり、湖へ行ったりと、どんどん旅を続けます。この絵本は、ストーリー展開を楽しむというよりは、ロスコ―さんが行く先々にあるものが英語で示されているので、絵本の中のいろいろなものを指さしながら語彙を増やしていくのに役立つ絵本です。子どもたちが日常使う会話は日本語と英語の両方で書かれているので、英語に興味をもつきっかけになることでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

『あまがえるのぼうけん』たてのひろし/作 かわしまはるこ/絵 世界文化社 2021/5/5(出版社サイト→こちら

2019年に出版された『あまがえるのかくれんぼ』(→こちら)の続編です。あまがえるのラッタ、チモ、アルノーの3びきは、遠くに見える森へ行ってみたいと、冒険に出かけます。
森の中には見たことのない植物や、虫たちがいっぱいです。大きなガマガエルに食べられそうになったりしながら、3びきは好奇心たっぷりに森の中で過ごします。豊かな自然の描写も美しく、1ぴき1ぴきのあまがえるの表情もとても豊かです。
『あまがえるのかくれんぼ』紹介ページ(→こちら

 

 

 

 

 

『ぼくとがっこう』谷川俊太郎/文 はたこうしろう/絵 アリス館 2021/5/5(出版社サイト→こちら

谷川俊太郎さんが学校生活を詠んだ詩に、はたこうしろうさんが表情豊かな絵をつけました。
短い詩ですが、はたこうしろうさんの描く男の子の小学校6年間が絵の中に描きこまれています。友だちと遊んだり、さまざまなことを発見したり、時にはけんかをしたり。そうしていつかは卒業する日がくる。そうやって成長していく姿が描かれている絵本です。

 

 

 

 

 

 

《ノンフィクション絵本》

『さくららら』升井純子/文 小寺卓矢/写真 アリス館 2021/3/25(出版社サイト→こちら

本州を桜前線が北上する4月は、北海道はまだ雪が残っています。5月になるとようやく木々が目ざめ、野の花も咲き始め、さくらのつぼみも膨らんでいきます。
そうして5月下旬、ようやく満開になるのです。作者の升井さんが2014年5月28日の新聞の片隅に「ようやく桜が開花した」という記事をみつけたのが、この本づくりのきっかけです。「ようやく」という言葉に落ち着かなくなり、「桜にはそれぞれに咲き時がある、人の都合ではなく自然の営みを静かに見守りたい」との想いでテキストを書いたそうです。
北海道在住の写真家の小寺さんは、その主人公にふさわしい桜を探して7年もあちこちを回ったそうですが、最後に新聞記事になった桜を訪ねていき、その木を撮ることになりました。その時、「理想の木なんてない。人の思いどおりにならないからこそ自然は素敵なのかも」と感じたそうです。「おそくたってこれがわたし ちいさくたってこれがわたし」という言葉が胸にじんわりと響きます。

 

 

 

 

『海べをはしる人車鉄道 東海道線のいま、むかし」横溝英一/文・絵 たくさんのふしぎ傑作集 福音館書店 2021/3/30(出版社サイト→こちら

東海道線の歴史を詳しく記した本です。熱海は古くから有名な温泉地でしたが、130年前の明治22年(1889年)に東京・新橋から神戸まで東海道本線が開通した時には、神奈川県の国府津から海岸線ではなく箱根山を迂回して御殿場へ抜けるコースに鉄道が引かれました。小田原や湯河原とともに熱海は鉄道から取り残されたのでした。
そこで国府津から小田原を経由して箱根湯本まではレールの上を馬車が走る馬車鉄道が走るようになり、小田原から熱海までは狭いレールを敷いてその上を人が押して走る人車鉄道が出来たというのです。軽便鉄道が開通するまでの約10年間、この人が押す鉄道が走っていたというのは、この本を読むまで知りませんでした。アップダウンのある海岸線を人が押して走るには大変苦労も多かったようですが、それでも美しい景色に誘われて東京から熱海まで多くの人を運んだのです。昭和9年(1934年)にようやく箱根の山をくぐって沼津に抜ける丹那トンネルが開通します。今は東海道新幹線であっという間に抜けていく小田原~沼津間ですが、今度新幹線に乗る時はそんな歴史に思いを馳せてみたいと思います。

 

 

 

 

 

『二平方メートルの世界で』前田海音/文 はたこうしろう/絵 小学館 2021/4/25(出版社サイト→こちら

脳神経の病気の治療のため3歳の頃から入退院を繰り返している前田海音さん(2010年生まれ、現在小学校5年生)が小学校3年生の時に書いた作文を元にした絵本です。作文は「第11回子どもノンフィクション文学賞」小学生の部の大賞に選ばれました。
「二平方メートル」とは入院した時に過ごすベッドとその周りの空間のことです。海音さんは、その狭い世界の中から入院で心配をかけている両親や留守番する兄への思いを綴り、入院しているほかの子どもたちにも思いを馳せています。それでも「もういや!」「一日でいいから、薬を飲まなくていい日をください!」と思うこともあるのです。ある日、たまたまベッドにまたがるオーバーテーブルの下に潜り込んでテーブルの裏の寄せ書きをみつけます。「みんながんばろうね」「再手術サイテー」「ようやく退院できるよ!」などこのテーブルを使っていた子たちの声がそこには記されていたのです。「この言葉を送りあっていたのは、会ったことのない人どうしだ。時間をこえて言葉を受け取り、言葉を届ける。(中略)この二平方メートルの世界で、同じテーブルを使ってすごしたたくさんのだれかが、たしかにここにいて、私に語りかけてくれた。ひとりじゃないよって。」病気をもっていても、一日一日の大切さを大事にしたいと願うその気持ちが、しっかりと伝わってきます。そして、はたこうしろうさんは海音さんの住む札幌へ訪ねていって、相談しながら絵を描き上げたそうです。

 

 

 

 

『朝ごはんは、お日さまの光!植物のはなし』マイケル・ホランド/文 フィリップ・ジョルダーノ/絵 徳間書店児童書編集部/訳 徳間書店 2021/5/31(出版社サイト→こちら

地球上の植物について、そのしくみや育て方、食物としての役割、植物を使ったテクノロジーから環境問題まで、子どもたちにわかりやすく解説したイラストがとても美しい大判の科学絵本です。
地球上にすむ生き物にとって植物はなくてはならない存在。わかっているだけで40万種あるという植物のふしぎについて考えるきっかけになることでしょう。

 

 

 

 

 

 

【児童書】
《物語》

『クラムボンはかぷかぷわらったよ 宮澤賢治おはなし30選』澤口たまみ/著 岩手日報社 2021/5/1(出版社サイト→こちら

宮澤賢治の後輩(岩手大学農学部)で、「かがくのとも」や「ちいさなかがくのとも」などに身近な自然への温かいまなざしの作品を提供している澤口たまみさんが著した賢治の童話のあらすじダイジェスト作品が、出版されました。賢治が過ごした岩手県で生まれ育ち、賢治が歩いたところを自らも歩いた澤口さんの読み解きは、とても面白く納得がいきます。
難解な賢治の創作がどのような思いで書かれたのかを知ると、もっと賢治が身近に感じられます。賢治の恋心にも触れられています。YA世代にも、ぜひ手に取ってほしいと思います。

 

 

 

 

 

『帰れ 野生のロボット』ピーター・ブラウン/作・絵 前沢明枝/訳 福音館書店 2021/5/20(出版社サイト→こちら

2018年に出版された『野生のロボット』(→こちら)の続編です。野生のロボットとして、無人島でガンのキラリや動物たちと過ごしていたロズ。前作ではそんなロズを不気味な飛行船が回収するところで終わっていました。
こちらでは修理が終わったロズが小さな子どもが二人いる農場に買われて送られていくところから始まります。しかしロズの記憶装置から無人島で過ごした野生の生活の記憶は削除されていなかったのです。やがてふるさとの無人島に戻りたいと思いはじめるロズ。すべてコンピューターで管理されている農場から脱出するのは並大抵のことではありません。しかし二人の子どもたちの助けを借り、渡りの途中でロズを発見してくれたキラリと一緒に無人島への冒険に踏み出すことにします。誰からも発見されずに無人島へたどり着けるのか、ハラハラドキドキの旅が続きます。高度なデジタル社会の中で、やはり自分らしくいるということの大切さを考えさせられました。『野生のロボット』紹介ページ(→こちら

 

 

 

 

『キプリング童話集 動物と世界のはじまりの物語』ラドヤード・キプリング/作 ハンス・フィッシャー/絵 小宮由/訳 アノニマ・スタジオ 2021/5/21(出版社サイト→こちら

『ジャングルブック』の作者、ラドヤード・キプリングが、約120年前に、寝る前の我が子に語って聞かせた11のお話が、美しい装丁のもと、1冊の本になりました。
キプリングは父親の仕事でイギリスの統治下にあったボンベイで生まれます。そして少年期から青年期にかけて世界中を旅してきました。そんな旅先で見聞きしたことが、楽しいお話になっています。
3人の子どもの父親であったキプリングは、わが子を心の底から愛し、積極的に育児にもかかわったそうです。そんな愛情にあふれたお話集なのです。またこのお話集には、『こねこのぴっち』でも知られているスイスの絵本作家ハンス・フィッシャーが挿絵を描いています。

 

 

 

 

 

《ノンフィクション》

『武器ではなく命の水をおくりたい 中村哲医師の生き方』宮田律/著 平凡社 2021/4/21(出版社サイト→こちら

2019年12月4日にアフガニスタンにて武装勢力によって銃撃された中村哲医師の生き方を、現代イスラム研究センター理事長である筆者が子どもたちにもわかりやすく書いた本です。
特に新型コロナウイルス感染拡大対策に揺れている世界情勢をみて、今こそ中村先生の想いを伝えたいと願って書かれています。中村哲先生の関連書籍はたくさん出版されていますが、パンデミックの世界情勢の中でこそ、中村先生の言葉に学ぼうとするこの本の視点はとてもわかりやすいです。武器を取るよりもまずは経済格差を無くすことのほうが大切だと説いた中村先生の言葉をもう一度噛みしめたいと思います。

 

 

 

 

 

【その他】

『児童文学の中の家』深井せつ子/作 エクスナレッジ 2021/4/6(出版社サイト→こちら

子どもの頃、たとえば『秘密の花園』を読んで、この大きなお屋敷の間取りはどうなっているのだろうと思いを巡らせたり、本の扉に見取り図があると本文を読みながら何度も行ったり来たりしたという人は多いでしょう。
この本では『大きな森の小さな家』や『飛ぶ教室』『若草物語』『赤毛のアン』に『床下の小人たち』『ライオンと魔女』など27の名作の舞台となった家がイラストや見取り図とともに紹介されています。
長く読み継がれている作品の魅力は、こうした舞台設定がしっかりとしていて読む者を惹きつけるというところにもあるのかもしれません。
また、この本を片手に昔読んだ名作を読み返すガイドブックにしても楽しいと思います。

 

 

(作成K・J)

2021年3,4月の新刊から(その2)


3月、4月に出版された子どもの本のうち、(その1→こちら)で紹介できなかったものを紹介します。一部、見落としていた3月以前に発行された新刊も含まれています。

この度は4月15日に銀座・教文館ナルニア国へ選書に伺い、購入したものと、神保町にあるブックハウスカフェから取り寄せたものを、読み終えた上で紹介しています。

 

その他の書籍に関しては銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

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【絵本】
《物語絵本》

『オサム』谷川俊太郎/文 あべ弘士/絵 童話屋 2021/3/22(出版社サイト→こちら

巻末に掲載されている谷川さんの「ぼくのゆめ」という詩には、「おおきくなったらなにになりたい? と おとながきく いいひとになりたい と ぼくがこたえる(中略)えらくならなくていい かねもちにならなくていい いいひとになるのが ぼくのゆめ と くちにださずに ぼくはおもう」という一節があります。
谷川さんの思う「いいひと」をあべ弘士さんが絵に描いたら、ゴリラになったそうです。ゴリラの優しい表情を見ているとホッとします。子どもにもおとなにも読んでほしい絵本です。

 

 

 

 

『ともだちいっしゅうかん』内田麟太郎/作 降矢なな/絵 偕成社 2021/4(出版社サイト→こちら

1998年に『ともだちや』(→こちら)が出版されて23年。「おれたち、ともだち!」シリーズ(→こちら)の14冊目となるこちらの絵本は、『ともだちおまじない』(→こちら)と合わせて番外編に位置付けられます。
月曜日から始まって日曜日までロシア民謡の「一週間」のように、毎日きつねとその友だちの楽しいエピソードが描かれます。よく見ると、各曜日の最初のページは「月」「火」「水」などの漢字を模った絵になっています。そんなところも子どもたちが発見して喜びそうです。

 

 

 

 

 

 

『たべたのだーれだ?』たむらしげる/作 0.1.2えほん 福音館書店 2021/4/10(出版社サイト→こちら

月刊絵本「こどものとも0.1.2」2016年8月号のハードカバーです。ボードブックのページに穴が空いていて、向こう側に木の実や果物を食べている動物や虫の一部が見えています。それを予測しながらページをめくるのは、小さな子どもにとっては、まるで「いないいないばあ」遊びをしているような楽しさがあるでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

『まよなかのトイレ』まるやまあやこ/作 福音館書店 2021/4/10(出版社サイト→こちら

月刊絵本「こどものとも」年中向きの2010年6月号のハードカバーです。夜中にトイレに起きたひろこ。おかあさんは、小さな赤ちゃんのお世話の真っ最中で、ひろこはねこのぬいぐるみのみいこを連れて、トイレへ行くことになりました。不安な気持ちで暗い廊下に出ると、ぬいぐるみのみいこがすくっと立ち上がり、トイレまで先導してくれるのです。ぬいぐるみは、幼い子どもの不安な気持ちに寄り添ってくれる心強い存在です。そんな子どもの気持ちが柔らかなタッチの絵で丁寧に描かれています。

 

 

 

 

 

 

《ノンフィクション絵本》
『せかいでさいしょにズボンをはいた女の子』キース・ネグレー/作 石井睦美/訳 光村教育図書 2020/12/23 (2021/4/15第二刷発行)(出版社サイト→こちら

昨年12月に出版されていた絵本ですが、見落としていました。この度第二刷が発行されたので、紹介します。
この絵本のモデルになっているメアリー・エドワーズ・ウォーカーは1832年生まれです。メアリーが育った時代は、日本では江戸後期にあたります。彼女は小さなころから独立心と正義感に満ち溢れていました。そして当時、女性が身につけるべきと思われていた体を締め付けるドレスではなく、活動のしやすいズボンをはいて学校へ通うようになるのです。それは社会への挑戦でした。あとがきにはそのことを理由に何度も逮捕されたと書かれています。その度に「男の子のふくをきているんじゃないわ わたしはわたしのふくをきているのよ!」と主張したのです。その後、メアリーは南北戦争の際に北軍の軍医になり、医師を引退した後も女性の選挙権や、服装の自由についての権利を訴えて活動を続けました。ジェンダーについて考えるきっかけになる絵本です。

 

 

 

 

『女の子だから、男の子だからをなくす本』ユン・ウンジュ/文 イ・ヘジョン/絵 すんみ/訳 エトセトラブックス 2021/3/30(出版社サイト→こちら

「女の子は女らしく」「男の子は男らしく」というように性別によって行動を決めつけられることへの疑問をもち、性別の枠組みから自由になることの大切さを子どもたちにもわかりやすく解く韓国の作家による絵本です。日本と同様に儒教的な家父長制が重視されてきた韓国でも、急速にジェンダー問題への関心は高まっているようです。これからの時代、子どもたちがもっと自由に、自分のやりたいことに挑戦できるように、大人の凝り固まった固定観念をまずはほぐす必要があります。子どもと共に読みたい1冊です。

 

 

 

 

 

 

 

『雪虫』石黒誠/文・絵 たくさんのふしぎ傑作集 福音館書店 2021/3/30(出版社サイト→こちら

北国では、雪がふりはじめる前に飛び交う白い小さな雪虫のことを、冬の訪れを知らせる虫と親しんでいるそうです。
その雪虫の生態を北海道、富良野の森で一年間追った写真絵本です。雪虫は、不思議な生態を持っています。春にヤチダモの木の上で卵から孵った時と、夏にトドマツの根元の地下で過ごす時、白い綿毛を身にまとって雪虫になって飛んでヤチダモの森へ飛んで帰る時、そして秋に次の世代を産む時では、全く違う姿かたちに変わります。その間に7回世代が交代するのです。春から夏にかけてはメスがメスだけを産み、秋になるとオスとメスが生まれます。その時は翅も口もなく交尾をする為だけに数日間生きて、次の年に孵る卵を産むと死ぬという独特の生態を具に記録しています。私たちの暮らしとはなんら関わりのないように感じるこうした小さな昆虫は、他の昆虫や鳥の餌となり生態系を支えています。小さな昆虫の一生を知ることで、私たちは生命がもつ「センス・オブ・ワンダー」を感じることができるのです。月刊絵本「たくさんのふしぎ」の2013年11月号のハードカバーです。

 

 

 

 

『桜島の赤い火』宮武健仁/文・写真 たくさんのふしぎ傑作集 福音館書店 2021/3/30(出版社サイト→こちら

こちらも月刊絵本「たくさんのふしぎ」の2013年1月号のハードカバーです。写真家の宮武さんは小学校の修学旅行で阿蘇山を訪れ、その際に購入した絵葉書セットの中にある夜の闇に赤く光る火口の写真を見て「地球の中が赤く光っている」と感じ、そのことに強く惹かれたそうです。
大人になって赤い火口を写真に収めようと阿蘇山を訪れますが、それならば毎日噴火している桜島のほうがよいと勧められて、桜島に通うようになります。鹿児島市内からは噴煙が見えるだけですが、大隅半島側からは昭和火口が見えるとわかると、そちらからカメラを構えて撮影に挑みます。そして噴火の瞬間を写真に収めていきます。
真っ赤な火が噴き出す火口、そして火山雷の稲妻、それらの写真を見ていると地球は今も地中奥深くにマグマを湛え、常に変化しているのだと感じます。この本の中には火山が身近にある人びとの暮らし、過去の大噴火がもたらした地形や水の流れなどもわかりやすく伝えてくれます。何万年という時間の流れの中で今の地形が形作られていますが、それもまたこれから何万年も経つとまったく違う形に変わっていくのだろうと、その壮大な時間の流れの中のほんの一瞬を生きているのだと、この本を読んで感じました。

 

 

 

 

『富岡製糸場 生糸がつくった近代の日本』田村仁/写真・文 たくさんのふしぎ傑作集 福音館書店 2021/3/30(出版社サイト→こちら

2014年にユネスコ世界遺産として登録された富岡製糸場の成り立ちと、そこに至る日本の養蚕と製糸の歴史を詳細に伝えてくれる写真絵本です。現在放映中のNHK大河ドラマ「青天を衝け」で今後描かれる明治期の日本の近代化の象徴でもある富岡製糸場が、なぜあの立地になったのか、また富岡製糸場がどんな役割を担っていたのかが、よくわかります。月刊絵本「たくさんのふしぎ」の2016年6月号のハードカバーです。

 

 

 

 

 

 

 

『富士山のまりも 夏休み自由研究50年後の大発見』亀田良成/文 斉藤俊行/絵 たくさんのふしぎ傑作集 福音館書店 2021/3/30(出版社サイト→こちら

月刊絵本「たくさんのふしぎ」の2014年4月号のハードカバーです。昭和22年に東京で生まれ育った作者の亀田さんは、小学生だった昭和30年代に富士山麓の山中湖に毎年夏に通うようになります。小学3年生の時に「ししの糞」と呼ばれる小さなまりもを採取し、東京に持ち帰りジャム瓶で育てるようになります。小学4年生の担任の先生は「一人一研究」と自由研究を熱心に呼びかけます。それに応じて亀田さんは自由研究に「山中湖のなりたちとまりも」をテーマに選びます。そして再びまりもを採取して大きな水槽で観察を始めました。
まりもはその後も亀田さんのご実家の庭で50年もの間、育てられていたのです。長年まりもの世話をしてくれていた母親が老人ホームで暮らすようになった2011年に、亀田さんはインターネットでまりもについて検索してみました。すると、山中湖のまりもが絶滅状態であることがわかります。国立科学博物館に報告をすると、50年以上前の観察記録や遺伝子解析により、幻のフジマリモとわかりニュースにもなりました。亀田さんはいずれ山中湖にまりもを返すために、今も研究を続けているとのことです。子ども時代の自由研究が生涯にわたる研究テーマになることもあるのですね。

 

 

 

【児童書】

《昔話・物語》

『火の鳥ときつねのリシカ チェコの昔話』木村有子/編訳 出久根育/絵 岩波少年文庫 岩波書店 2021/4/15(出版社サイト→こちら

チェコで子ども時代を過ごし、また大学時代にチェコへ留学した木村有子さんが、チェコに伝わる昔話を24選んだチェコの昔話集です。挿絵を担当したのは、『命の水―チェコの民話集』(カレル・ヤロミール・エルベン/編 阿部賢一/訳 西村書店 2017→こちら)でも絵を描いたチェコ在住の出久根育さんです。
また2013年に出版された『中・東欧のむかしばなし 三本の金の髪の毛』(松岡享子/訳 降矢なな/絵 のら書店 2013→こちら)にも共通のお話が収録されていますが、当然のことですが翻訳者によっておはなしの雰囲気が少しずつ違っています。子ども時代にチェコで過ごし、身近に昔話を聞いていた木村さんならではの親しみやすい訳で、チェコの昔話を味わってほしいと思います。また木村有子さんのオンライントークイベントが、JBBY主催で6月に行われます。(JBBY国際アンデルセン賞と世界の子どもの本講座2021-②「チェコの国際アンデルセン賞画家が開く絵本の世界」こちら)ぜひ、こちらにもご参加ください。

 

 

 

 

『こそあどの森のおとなたちが子どもだったころ』岡田淳/作 理論社 2021/5(出版社サイト→こちら

「こそあどの森」シリーズ(→こちら)は2017年に12巻目の『水の森の秘密』(→こちら)で完結しました。
この本は「こそあどの森」の物語に出てくる個性豊かなおとなたちが、どんな子ども時代だったのかを描く番外編です。
主人公のスキッパーが作家のトワイエさんから借りた本の中に、子ども時代の写真が挟まっていたのに気づいたことから、スキッパーとふたごが、次々に森のおとなたちに子どもの頃の思い出を聞き出していきます。トワイエさんが子ども時代に通っていた図書館で体験した不思議な出来事、トマトさんが料理が得意になったわけなど、本編に続く子どもの頃のエピソードがわかって楽しくなります。

 

 

 

 

 

 

《ノンフィクション》

『こどもジェンダー』シオリーヌ(大貫詩織)/著 松岡宗嗣/監修 村田エリー/絵 ワニブックス 2021/5/10(出版社サイト→こちら

助産師としてYoutubeチャンネルでジェンダーとセクシュアリティにまつわる動画を公開してきたシオリーヌさんによる子ども向けに、ジェンダーについて考えるヒントを集めた本です。(性教育YouTuberシオリーヌ公式チャンネル→こちら
「ぼくランドセルはあかがいいんだ でもそれはオンナノコのいろだから ダメといわれちゃった」「わたしね スカートなんかすきじゃない フリフリのようふくなんかきたくない」「おとうさんに「オトコなんだからメソメソなくな!」っていわれちゃった ぼくがオンナノコだったら いいの」など、子どもたちの身近にある疑問に答えてくれます。今回紹介した『せかいでさいしょにズボンをはいた女の子』『女の子だから、男の子だからをなくす本』など、子どもの本の世界でもジェンダーに関する書籍が増えています。SDGsの第5番目の目標に「ジェンダー平等を実現しよう」が入り、また2018年の#MeToo運動以降、この問題は子どもの本の世界でも重要なトピックスになっていることの表れです。

 

 

 

【その他】

『つぎに読むの、どれにしよ? 私の親愛なる海外児童文学』越高綾乃/著 かもがわ出版 2021/2/1(出版社サイト→こちら

長野県松本市にある子どもの本の専門店「ちいさいおうち」(→こちら)の経営者の一人娘である作者が、子ども時代から親しんできた海外児童文学について語るエッセイです。
幼少期はもちろんのこと、思春期の辛い時も、子どもの本の主人公たちがそばに寄り添ってくれたという24作品への想いを読むと、ああ、私もそんな風に思ったなと感じたり、もう一度読み返してみたくなったりします。そして翻訳家の石井登志子さんとの対談からは、リンドグレーン作品への想いが溢れています。子ども時代に出会う本がどれだけその後の人生を支えるかということがわかります。

 

 

 

 

『絵本のなかへ帰る』高村志保/著 岬書店 2021/2/16(出版社サイト→こちら

こちらは長野県茅野市にある今井書店の二代目店主による絵本のエッセイです。子ども時代に出会った絵本、とくに父親のひざの上で読んでもらった絵本の思い出、ご自身が子育て中に我が子と読んだ絵本など27冊が並びます。『つぎに読むの、どれにしよ? 私の親愛なる海外児童文学』の越高さんと同様に子ども時代に出会う本がいかに子どもの人格形成に影響を与えるか、人生を彩るかを語っています。
出版元は夏葉社の新レーベル、岬書店、そして表紙の絵はきくちちきさんです。(今井書店本店のtwitter→こちら

 

 

 

 

『岩波少年文庫のあゆみ 1950-2020』若菜晃子/編著 岩波少年文庫別冊 岩波書店 2021/3/12(出版社サイト→こちら

子ども時代に岩波少年文庫に親しんだという編集者でエッセイストの若菜さんによる岩波少年文庫愛がつまったエッセイです。
岩波少年文庫は1950年、終戦後5年後に創刊されました。岩波少年文庫の各巻の巻末には「岩波少年文庫創刊五十年ー新版の発足に際して」には「心躍る辺境の冒険、海賊たちの不気味な唄、垣間みる大人の世界への不安、魔法使いの老婆が棲む深い森、無垢の少年たちの友情と別離―幼少期の読書の記憶の断片は、個個人のその後の人生のさまざまな局面で、あるときは勇気と励ましを与え、またある時は孤独への慰めともなり、意識の深層に蔵され、原風景として消えることがない」という一文が掲載されています。まさにそれを体感してきた作者による70年の歩みをまとめた「岩波少年文庫大全」です。また岩波少年文庫の総目録としても活用できる保存版です。

 

 

(作成K・J)

2021年3月、4月の新刊から(その1)


3月、4月に出版された子どもの本を紹介します。一部、見落としていた3月以前に発行された新刊も含まれています。

この度は横浜・日吉にあるともだち書店と、代官山蔦屋書店にに注文し届けていただいたものと、本の編集者からお届けいただいたものもあります。それらを読んで紹介文を作成しました。今回は、児童書が1冊と少ないですが、4月中に銀座・教文館ナルニア国へ選書に伺い、出来るだけ早くに紹介できるようにいたします。

 

その他の書籍に関しては銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

 

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【絵本】

『ことりはこえだのてっぺんに』(おやこでよもう!金子みすゞ)金子みすゞ/詩 松本春野/絵 中村勘九郎/ナビゲーター 監修/矢崎節夫 JULA出版局 2021/3(出版社サイト→こちら

JULA出版局から出ている「おやこでよもう!金子みすゞ」シリーズの最新刊です。
絵本のタイトルになっているのは「き」という詩の中のことばです。
「き」のほかに「あかいくつ」、「いろがみ」や「こだまでしょうか」など10篇の詩が収められています。

 

 

 

 

 

『おひさま わらった』きくちちき/作 JULA出版局 2021/3(出版社サイト→こちら

こちらもJULA出版局からの新刊です。ブラティスラヴァ世界絵本原画展で何度も受賞しているきくちちきさんの最新刊です。身近な森の中にさんぽにでかけた子どもが、たくさんのいのちたちと出会い、ふれあい、少し怖い思いをしながらも、すべてがつながっていることを体感していく様子を、4色刷りの木版画で表現しています。
赤、青、黄、黒、それぞれの版を描き分け、直接それぞれの色で印刷し、紙面上で版画が完成するという手法で丁寧に作られています。温かみのある版画だからこそ、命溢れる森の中での躍動感が伝わってくると思います。

 

 

 

 

『かえるのごほうび』絵巻「鳥獣人物戯画」より 木島始/作 梶山俊夫/レイアウト 協力/高山寺 福音館書店 2021/3/20(出版社サイト→こちら

2021年4月13日より東京国立博物館で特別展「国宝 鳥獣戯画のすべて」が始まりました。(公式サイト→こちら)それに合わせて、福音館書店月刊誌「こどものとも」1967年1月号として刊行されていた作品が、新装製版されてこの度出版されました。つまり国宝が絵本になったのです。
今から800年以上前に描かれた素晴らしい絵巻には詞書がつけられていませんが、素晴らしい作品を子どもたちの身近に置けないのかと考えて物語がつけられたと裏表紙に木島始さんの言葉が記されています。まるではじめから、そういう詞書だったと思うほどに自然で楽しいお話になっています。

 

 

 

『気のいいバルテクとアヒルのはなし』クリスティーナ・トゥルスカ/作・絵 おびかゆうこ/訳 徳間書店 2021/3/31(出版社サイト→こちら

ポーランド出身の絵本作家が描いた昔話風の物語です。バルテクという名の気のいい若者は、1わのアヒルと一緒に山奥の村はずれにあるみすぼらしい家に住んでいました。ある時カエルの王様を助けたことから魔法の力を授かります。
そこへ、兵士たちの隊列がやってきます。バクテクは自分の家を宿舎として提供しようとしますが、大将はバクテクのアヒルを丸焼きにしろと命令してきます。それだけは出来ないと、バクテクはカエルの王様に授けられた魔法を使うのでした。1972年にケイト・グリーナウェイ賞を受賞した作品の初邦訳です。

 

 

 

 

 

 

『ヴォドニークの水の館 チェコのむかしばなし』まきのあつこ/文 降矢なな/絵 BL出版 2021/4/1(出版社サイト→こちら

世界のむかしばなし絵本シリーズ[第2期]の5冊目で、チェコの昔話に、スロヴァキア在住の降矢ななさんが絵をつけています。
ヴォドニークとは、ボヘミア地方で語り継がれてきた水の魔物です。日本の河童と同じように、人間を水に引きずり込んで溺れさせる存在であったり、一方では人に親切でいたずら好きな存在として語り継がれているそうです。その姿もたいてい緑色の体をしていると「あとがき」に描かれていて、日本の河童と似ていることに驚きました。
貧しい家の娘があまりのひもじさに家を出て、川に身を投げたのをヴォドニークがつかまえ、水の館に連れ帰ります。娘はヴォドニークに仕えることになるのですが、広間にある壺の中だけは覗いてはならないと言いつけられます。ある時壺の中から前に川でおぼれ死んだ声が聞こえてきたのです。昨年春、新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言で中断された原画展が、銀座・教文館9階ウェンライトホールで再開されています。(降矢なな絵本原画展2021年3月27日~5月5日 公式サイト→こちら)この絵本の原画が追加されており、早速見てきました。水の中の世界は透明で、娘が壺の中の魂を解放するシーンは幻想的で原画ならではの美しさでした。ぜひお時間を作って見にいってください。

 

 

 

 

【児童書】
*読み物*

『さいごのゆうれい』斉藤倫/作 西村ツチカ/画 福音館書店 2021/4/10 (出版社サイト→こちら

ハジメは、小5の夏休みを父親が仕事でいない間、田舎のおばあちゃんの家で過ごすことになりました。ハジメが幼い時に亡くなった母親の実家です。
飛行機が好きなハジメは、おばあちゃんの家の近くに出来た新しい空港を毎日見に行って過ごしていました。8月13日の午後、いつものように空港を見に行くと、飛行船のようにずんぐりした飛行機が降りてくるかと思ったらその飛行機は大きさを変えながら降りてくるのです。そのままその飛行機は滑走路を外れ、すすきの原を越えてハジメのいるフェンスの前で止まるのでした。そして降りてきたのはゆうれいの女の子だったのです。ネムと名乗るゆうれいの女の子と過ごすうちに、ハジメはこの世界から「かなしみ」という感情が消されていること、それは父親が研究開発した薬に因るものだと気づきます。「かなしみ」がないと人は亡くなった人を思い出すこともなくなり、するとゆうれいも居なくなってしまうというのです。「かなしみ」とは何なのか、読み進めるうちに考えさせられます。「かなしみ」を取り戻すために、ハジメとネムと一緒に不思議な旅をするミャオ・ターとゲンゾウなど脇役も魅力的です。

 

 

 

【その他】

『アーノルド・ローベルの全仕事 がまくんとかえるくんができるまで』永岡綾、大久保美夏/編集 ブルーシープ 2021/1/8 (出版社サイト→こちら

今年1月9日から3月28日までの会期で立川市にあるPLAY MUSEUM(公式サイト→こちら)で開催されていた「がまくんとかえるくん」誕生50周年記念アーノルド・ローベル展の図録です。この原画展は、2021年4月3日(土)− 2021年5月23日(日)に広島のひろしま美術館、その後も2022年春に伊丹市立美術館などへ巡回します。(原画展情報→こちら
アーノルド・ローベルの全作品と、ラフスケッチなどの資料がふんだんに集められていて、彼の作品の魅力を深く知ることが出来ます。研究資料としても価値が高いものになっています。

 

 

 

 

 

 

 

『おはなし会で楽しむ手ぶくろ人形』保育と人形の会/編著 児童図書館研究会 2021/3/1(児童図書館研究会のサイト→こちら

「本のこまど」でも何度も紹介しているミトンくまなど、おはなし会で活躍できる手ぶくろ人形の他、さまざまな小物の作り方と演じ方をコンパクトにまとめた本です。
後半には図書館などでの実践報告がまとめられています。絵本やわらべうたとどのように手ぶくろ人形を組み合わせるのか、詳細に書いてありますので、即実践に役立つことでしょう。コロナ禍で子どもたちと距離を保たなければならない昨今のおはなし会ですが、間に人形が入ることで、子どもたちの心もホッと和らぐことと思います。ぜひ図書館事務室に1冊、揃えておいてください。

 

 

 

 

 

 

 

『乳幼児期の性教育ハンドブック』浅井春夫、安達倭雅子、良香織、北山ひと美/編著 “人間と性”教育研究協議会・乳幼児の性と性教育サークル/著 かもがわ出版 2021/4/15(出版社サイト→こちら

世界経済フォーラムが発表した日本の最新のジェンダー・ギャップ指数が120位というニュースはご覧になったと思います。
性差はあるけれど、それが人間の価値の差ではないことを私たちは認識しなければなりません。
しかし男尊女卑の考え方はどんなところから来るのでしょうか。意外と幼いころからの性教育にも起因しているのかもしれません。
性の問題は深く人権に結びついています。このハンドブックは主に保育園、幼稚園の教師向けに書かれたものですが、図書館にも幼い子供たちが大勢やってきます。知らないうちに本や配布物も「男の子向け、女の子向け」と分けてしまっているかもしれないですね。そのあたりから見直してみるためにも一読をお勧めします。

 

 

(作成K・J)

2021年2月、3月の新刊から


2月、3月に出版された子どもの本を紹介します。一部、見落としていた2月以前に発行された新刊も含まれています。

2月末に銀座・教文館ナルニア国で久しぶりに新刊チェックをしてきました。また、横浜・日吉にあるともだち書店に注文し届けていただいたものもあります。それらを購入し読んで紹介文を作成しました。

 

その他の書籍に関しては銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

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【絵本】

『ぺこぺこ ペコリン』こがようこ/作 くさかみなこ/絵 講談社 2021/1/15 (出版社のサイト→こちら

とってもくいしんぼのペコリン。なんでもたべちゃいます。たべたものは、マラカスにたいこ、ラッパにピアノ。それをたべちゃうと、ペコリンは楽器に変身して楽しい音を出すのです。ちょっと不思議、でも楽しい、赤ちゃんから楽しめるおはなし絵本です。

 

 

 

 

 

 

 

『おばけのジョージ― こいぬをつれだす』ロバート・ブライト/作 こみやゆう/訳 好学社 2021/1/24 (出版社のサイト→こちら

心優しいおばけのジョージー、好学社から出ているシリーズは『おばけのジョージー こまどりをたすける』、『おばけのジョージー とびだしたけいとだま』、『おばけのジョージー メリーメリークリスマス』に続いて4冊目です。
ある日、散歩に連れ出してもらえない子犬マフィンを外に連れ出したジョージーと仲間たち。ところがマフィンはうさぎの巣穴にはまって動けなくなります。そこで猫のハーマンに飼い主のアイビスさんを呼んできてもらうのです。最後はホッとする結末になっています。

 

 

 

 

『なりきりマイケルのきかんしゃりょこう』ルイス・スロボドキン/作 こみやゆう/訳 出版ワークス 2021/1/25 (出版社のサイト→こちら

マイケルは、想像力豊かな男の子です。マイケルが居間で機関車ごっこを始めると、パパもお姉ちゃんも一緒になって汽車の旅を楽しんでくれます。マイケルは機関車の運転士にも、車掌にもなり、乗り換えバスの運転手にも、跳ね橋の開閉係にもなるのです。想像する力があれば、なんにでもなれる、そんな我が子の姿を温かく見守るパパの姿もほほえましい、そんな絵本です。

 

 

 

 

 

『うみがめのおじいさん』いとうひろし/作 講談社 2021/2/10 (出版社のサイト→こちら

いとうひろしさんの名作『おさるのまいにち』の名脇役うみがめのおじいさんのおはなしです。うみがめのおじいさんは波に揺られてうつらうつら。そうするとたくさんの思い出が波の間からあらわれてきます。そしてたくさんの思い出と一緒に心も体もどんどん海にとけていくように感じるのです。なんともゆったりとした、しずかなしずかな、それでいて気持ちが温かくなってくるお話です。

 

 

 

 

 

 

 

『ひびけわたしのうたごえ』カロライン・ウッドワード/文 ジュリー・モースタッド/絵 むらおかみえ/訳 福音館書店 2021/2/15 (出版社のサイト→こちら

 

カナダに住む6歳の女の子の物語です。学校へ行くために朝早く家を出て、スクールバスが停まる道路までの長い道のりを森を抜けて歩いていきます。まだ朝陽が昇らぬ前の暗い森の中を通り抜けながら、不安な気持ちを吹き飛ばすために女の子は歌を歌うのです。ブリティッシュ・コロンビア州のピース・リバー流域のセシル湖畔で少女時代を過ごした作者の実体験がもとになっています。絵本では夜明け前の通学路を描いていますが、人生における不安な時期と置き換えて読むことができます。どんなに困難な時でも前を向いて心に歌を、そうすればきっと希望がわいてくる。そんな応援歌になる絵本です。絵を描いたのは昨年10月に紹介した『サディ―がいるよ』(「本のこまど」記事→こちら)のジュリー・モースタッドです。

 

 

 

 

 

『おばあちゃんのたからもの』シモーナ・チラオロ/作 福本友美子/訳 光村教育図書 2021/2/20 (出版社のサイト→こちら

おばあちゃんの誕生日を祝うために家族が集まりました。孫娘がおばあちゃんの顔を覗き込んで「そんなにしわがあっていやじゃない?」と尋ねます。でもおばあちゃんは「ちっとも。だってしわは おばあちゃんのたからもの。だいじなおもいでがぜんぶしまってある、だいじなたからもの!」と答えるのです。孫娘は疑って、おばあちゃんの顔のしわを指さしながら「おばあちゃん、ここにはなにがしまっているの?」と次々に聞きます。おばあちゃんは幼い日の春の庭や、娘時代の海辺でのピクニック、おじいちゃんとの初めてのデートのことなど、孫娘に語っていくのです。老いていくことを前向きに捉えた心温まるおはなしです。

 

 

 

 

 

『めぐりめぐる』ジーニー・ベイカー/作 わだすなお/訳 ポリフォニープレス 2021/2 (出版社のサイト→こちら

渡り鳥のオオソリハシシギは南の住処オーストラリアやニュージーランドから飛び立ち、北の住処であるアラスカまで長い旅をします。その壮大な旅の様子を美しいコラージュで描き出しています。北へ飛ぶ旅の途中で立ち寄るのは中国大陸黄海近くの干潟です。急速な開発でどんどん干潟が失われていることもさりげなく描かれています。11000キロメートルをノンストップで飛びつづける鳥たちには「おおむかしからいききしていた しるしのないみちをたどる」能力があるようです。絵本の見開きに車いすの少年が描かれています。長い旅を終えて鳥たちが戻ってきた時には、少年は松葉杖になっていて、季節の移り変わりと時間の経過をさりげなく表現しています。

 

 

 

 

 

『まだまだ まだまだ』五味太郎/作 偕成社 2021/3(出版社のサイト→こちら

2021年2月6日にNHK、ETV特集で五味太郎さんが取り上げられました。(ETV特集「五味太郎はいかが?」→こちら
この番組の中で、制作過程を紹介していたのが、この絵本でした。
かけっこでゴールをしても、まだ走り続けたい男の子は町の中をどんどんかけていきます。
既成概念を常に突き破り、新しい挑戦を続ける五味さんらしい絵本です。人生の挑戦も「ここまで」と決めてしまうのではなく、自分らしく、自分で納得するまで走っていいんだよと、背中を押してくれるおはなしです。

 

 

 

 

 

 

【児童書】
*物語*

『町にきたヘラジカ』フィル・ストング/作 クルト・ヴィーゼ/絵 瀬田貞二/訳 徳間書店 2021/1/31(出版社のサイト→こちら

 

1969年に学習研究社から刊行された『町にきたヘラジカ』の訳文を、翻訳者である故・瀬田貞二さんのご遺族の了承を得て若干の見直しをした上で、この度徳間書店より再版されました。
アメリカ・ミネソタ州で実際にあった出来事を元にして書かれたおはなしで、厳しい寒波のやってきた冬のある日、仲良しの男の子イバールとワイノは、イバールの父さんの馬屋の中に大きなヘラジカを発見するのです。お腹を空かせて馬の飼い葉をたらふく食べてしまい、父さんや町の人たちは驚きますが、だれもこのヘラジカを撃ち殺すことはせず、町で飼うことにしたのでした。春になってようやくヘラジカは町から出ていきます。次の冬はいままでになく暖かい冬で、山にはヘラジカの餌がたくさんあるはずです。ところが、なんとヘラジカはまたやってきたのでした。ヘラジカを見て驚く町の人々の反応が楽しいおはなしです。文字も大きくルビがふってあるので、小学校低学年の子どもたちに手渡せる1冊です。

 

 

 

 

 

『見知らぬ友』マルセロ・ビルマヘール/作 宇野和美/訳 オーガフミヒロ/絵 福音館書店 2021/2/15(出版社のサイト→こちら

テストで数学の問題が解けない時、好きな女の子に告白したい時など人生のピンチになると現れる「見知らぬ友」。それは自分にしか見えない存在だけど、どうして現れるのか、わからない。そんな不思議なおはなしを皮切りに、思いがけない展開が待ち受けている10の短編が収められているYA向きの作品集です。
作者はアルゼンチンの作家で、物語の舞台は主に首都ブエノスアイレスです。「世界一強い男」のパートではこんな言葉があります。「八月のある寒い金曜日の」、北半球で暮らす私たちにはピンとこないのですが、南半球では真冬なのです。翻訳者の宇野さんは訳者あとがきに「地球の反対側のブエノスアイレスの街で繰り広げられる、肩の力が抜けたような、ちょっととぼけた、けれども、どこか温かな味わいのある物語を楽しんでいけたらうれしいです。」と記しています。そんな洒脱な作品をぜひ若い世代に手渡してあげてください。

 

 

 

 

 

『さくら村は大さわぎ』朽木祥/作 大社玲子/絵 小学館 2021/2/23 (出版社のサイト→こちら

さくら村には、昔からどこのうちでも子どもが生まれたら、さくらの苗木を一本、植える約束がありました。なので春になると村じゅうがさくらでいっぱいになるのです。大きなさくらはひいおじいちゃんやひいおばあちゃんが生まれた時のもの、小さなさくらは子どもたちが生まれた時のものです。
そんなさくら村の満開の四月から、夏と秋を過ごして冬へ、そして次の年の春にもう一本さくらの苗木が植えられるまで一年間の、小学校三年生のハナちゃんとお友達が繰り広げる楽しくも心温まる村の暮らしを描いたおはなしです。小学校低学年から中学年の子どもたちにおすすめです。

 

 

 

 

 

『ロザリンドの庭』エルサ・ベスコフ/作 菱木晃子/訳 植垣歩子/絵 あすなろ書房 2021/2/25 (出版社のサイト→こちら

北欧で読み継がれてきたエルサ・ベスコフの、不思議で美しい幼年童話です。6歳の男の子ラーシュ・エリックは、体が弱くいつもベッドに横になって壁紙に描かれた美しい花の絵を眺めていました。ラーシュは壁紙を見て「あの大きなふしぎな花は、いったいどこの国の花なんだろう?いつかその国をみてみたい」と思っていました。するとある日お母さんが仕事に出かけたあとに壁紙の中からノックする音が聞こえてくるではありませんか。そして壁紙の中から現れたロザリンドは壁紙の花々に水をやりはじめるのです。そのうちラーシュはロザリンドと一緒に壁紙の向こうのロザリンドの庭に行って遊ぶようになるのです。ところがお母さんにその話をしても信じてもらえません。次第に元気になってくるラーシュを見て、おかあさんは田舎に引っ越そうと考えるようになるのです。引っ越していった先は、ロザリンドの庭とそっくり。最後まで柔らかい光に包まれたような優しいファンタジーです。小学校中学年向けの童話です。

 

 

 

 

 

『あしたの幸福』いとうみく/作 松倉香子/絵 理論社 2021/2(出版社のサイト→こちら

中学生の雨音はパパと二人暮らしですが、来月にはパパは恋人の帆波さんと結婚することになっていました。ところが突然パパが交通事故で亡くなったしまいます。帆波さんと信号待ちをしている時に車に突っ込まれ、パパは帆波さんをかばうようにして即死し、帆波さんは助かったのです。
パパの葬儀のあと、雨音を誰が引き取るか、親族たちが話し合う中、彼女はパパと一緒に住んでいたマンションに残りたいと言い出します。そこへ突然現れたのが、雨音を産んだ後に家を出ていった母親。母である国吉京香さんはアスペルガーなのか、人との関わり方が苦手だったのです。それでも、今の家に住み続けるために、雨音は母親である京香さんと同居することにします。その上、お腹に赤ちゃんを宿しているパパの恋人帆波さんも一緒に住むことになるのです。そんな奇妙な関係の中で、少しずつ雨音は両親の愛情や離別のいきさつを知り、緩やかに母親のことを理解しようとしていきます。多感な少女の心の動きが、温かな視線で描かれていて、読後感は爽やかです。YA向けの作品です。

 

 

 

『ヤーガの走る家』ソフィー・アンダーソン/作 長友恵子/訳 小学館 2021/3/1(出版社のサイト→こちら

 

ロシア民話に出てくる「バーバ・ヤガー」をモチーフにした長編ファンタジーです。
「わたしの家には、鳥の尾がはえている。
 家は、年にニ、三度、真夜中にすっくと立ちあがり、猛スピードで走りだす。」というプロローグの最初の一行で、この物語の中にすーっと惹き込まれていきます。
この奇妙な家は、死者をなぐさめ、人生を祝福し、星へ返すための場所、つまり生と死の境界にあるのでした。そして少女マリンカは生と死の境界を守る「門」の番人になることを運命づけられていたのです。しかしマリンカは生きている人たちの世界で友だちが欲しいと願い、言いつけには従わずに自分の意思を押し通そうとします。マリンカのそんな気持ちは自己中心的に映りますが、さまざまな出会いから人を思いやる温かい気持ちを学び、落ち着いた気持ちで自分の将来を考えるようになっていきます。自分の望む未来を決してあきらめないマリンカの姿は思春期の子どもたちに力を与えてくれます。

 

 

 

 

*ノンフィクション*

『女の子はどう生きるか 教えて、上野先生!』上野千鶴子/著 岩波ジュニア新書 岩波書店 2021/1/20 (出版社のサイト→こちら

 

日本のジェンダーギャップは、世界経済フォーラム(WEF)の「世界ジェンダー・ギャップ報告書(Global Gender Gap Report)2020」によると世界153か国中121位。先進国の中でも最低です。
そんな女性が生きにくい社会で、どう生きていくか、認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク理事長で東大名誉教授の上野千鶴子さんが、気持ちがよいほどにすっぱりと答えてくれます。いつの間にか刷り込まれた「女子力」という呪縛から解き放たれ、一人の人間として自分らしく生きていくことを力強く応援してくれるのです。巻末にはネット上でも話題になった2019年度東京大学学部入学式祝辞が収められています。中高生のみなさんに男女問わず読んでほしい1冊です。

 

 

 

 

『SDGs時代の国際協力 アジアで共に学校をつくる』西村幹子・小野道子・井上儀子/著 岩波ジュニア新書 岩波書店 2021/2/19(出版社のサイト→こちら

 

三人の著者は、バングラデシュで長く学校づくりに取り組んできたアジアキリスト教教育基金(Asia Christian Education Fund=ACEF)に二十年以上携わってきました。過去30年の間に国際情勢は大きく変化し、国際協力のあり方も急速に進展しつつ変化しているというのです。
特にSDGs(持続可能な開発目標)の4番目にある「すべての人々への包摂的かつ公正な質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する」を実現するために、先進国が後進国へ施すというような「援助」ではなく、問題に共に立ち向かう「協働」の方向へ、変化しているのです。そうした国際協力の本質を見極め整理しつつ、これからの若い世代にも関心を持ってほしいと願ってこの本は書かれています。

 

 

 

 

【その他】

『昔話と子どもの空想』TCLブックレット 東京子ども図書館 2021/1/29 (出版社のサイト→こちら

東京子ども図書館の機関紙「こどもとしょかん」に掲載されたおはなしに関する評論の中から、バックナンバーの要求がもっとも多かった三篇が収録されたブックレットです。
「人間形成における空想の意味」(小川捷之)、「昔話と子どもの空想」(シャルロッテ・ビューラー 森本真実/訳・松岡享子/編)、「昔話における”先取り”の様式―子どもの文学としての昔話」(松岡享子)の三篇は、どれを読んでも心に深く響く内容です。子どもたちにおはなしを手渡す活動をしている児童担当であれば、ぜひ目を通しておきたいものです。

 

 

 

 

『草木鳥鳥文様』梨木香歩/文 ユカワアツコ/絵 長嶋有里枝/写真 福音館書店 2021/3/15(出版社のサイト→こちら

福音館書店から出版されているけれど、児童向けではなくかなり趣向を凝らした贅沢な大人の趣味本だなと、これは自分の宝物にして何度も眺めていたいと感じた1冊です。
梨木香歩さんの鳥をめぐるエッセイに、古い箪笥の引き出しの内側に描くという手法のユカワアツコさんの鳥の絵。そしてそれをさまざまな風景と共に切り取って撮影した長嶋有里枝さんの写真。
それがぴったりとはまっていて、読む者の心を静かな自然の懐へ返してくれます。「冬の林の中で」(ツグミ/シバ属)、「水上で恋して」(カイツブリ/コウホネ)、「初夏の始まりの知らせ」(アオバズク/ケヤキ)・・・鳥と植物を組み合わせた全36篇のエッセイが収められています。

 

 

 

 

『科学絵本の世界100 学びをもっと楽しくする』別冊太陽 平凡社 2021/3/15(出版社のサイト→こちら

 

子どもの好奇心の扉を開く科学絵本100冊が見開き2ページ、カラーでたっぷりと紹介されています。
どの絵本も、子どもたちにすぐに紹介したくなるものばかり。
このままレファレンスの資料としても重宝しそうです。

 

 

 

 

(作成K・J)

2020年12月、2021年1月の新刊から


昨年12月と今年に入ってからに出版された子どもの本を紹介いたします。
一部、見落としていた12月以前に発行された新刊も含まれます。

今回は、横浜・日吉のともだち書店に注文していた本の中からの紹介です。なお、2月上旬にはまた教文館ナルニア国で選書して、情報をお届けできるようにいたします。

 

その他の書籍に関しては銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

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【絵本】

『100歳ランナーの物語 夢をあきらめなかったファウジャ』シムラン・ジート・シング/文 バルジンダー・カウル/絵 金哲彦/監修 おおつかのりこ/訳 西村書店 2020/12/12(出版社のサイト→こちら

幼少期に身体が弱く5歳になるまで歩けなかったファウジャが100歳でトロント・ウォーターマラソンを完走するまでのお話です。ファウジャは、インドのパンジャブ地方の出身。シク教の信徒で髪の毛を切らずターバンを巻いています。
5歳で歩けるようになりましたが、当時遠方の学校に通う体力はなく、地元で畑仕事をしながら身体を鍛え、大人になって家族にも恵まれました。子どもたちが独立し、妻にも先立たれた81歳の時、息子家族が住むロンドンへ移り住みます。そこでマラソンに出会い、走るようになります。
89歳でロンドンマラソンを完走した後も、次々に記録を塗り替えていきますが、そこには子ども時代にいつも母から言われていた言葉がありました。「あなたのことはあなたがよく知っている。あなたにできることもね。今日は自分の力を出しきれるかしら?」いくつになっても挑戦することの大切さを、また自分を信じることの強さを教えてくれる伝記絵本です。

 

 

 

 

『よんひゃくまんさいのびわこさん』梨木香歩/作 小沢さかえ/絵 理論社 2020/12(出版社のサイト→こちら

2017年から続くNHKスペシャル「列島誕生ジオ・ジャパン」という番組があります。日本列島の成り立ちがよくわかる大変優れた番組でした。
この絵本は、その列島誕生の過程で生まれた琵琶湖の成り立ちをファンタジーとして描いています。
あとがきには、「日本列島がユーラシア大陸から分離しはじめたのは今から約2000万年前。当時の東アジアの推測図を見ていると、日本列島はあちこち沈んだり現れたり、赤ん坊が母親の胎内の羊水のなかで、ちゃぽんちゃぽんと浮かんだり沈んだりを繰り返しているかのように見えます。(中略)そして列島の真ん中、現在の伊賀辺りで琵琶湖初期の古琵琶湖とされる、大山田湖が現れます。それが400万年前から360万年前まで。その後320万年前、北方向で阿山湖、さらに甲賀湖が、240万年前頃から180万年前頃前までは蒲生野の辺りで蒲生沼沢地が、少しずつ移動するかのように出現します。それから100万年ほど前から現在の琵琶湖の堅田地域を中心とし、現在の琵琶湖の位置、大きさへと近づいていきます。」とあります。こうした悠久の時の流れ、大地の記憶が梨木さんによってファンタジーとなり、琵琶湖畔で育った画家小沢さんの幻想的で美しい絵でそれを表現しています。

 

 

 

 

【読み物】

『くもとり山のイノシシびょういん 7つのおはなし』かこさとし/文 かこさとし・なかじまかめい/絵 福音館書店 2021/1/10(出版社のサイト→こちら

 

2018年に亡くなられたかこさとしさんが、晩年福音館書店の月刊誌「母の友」2011年11月~2019年7月号までに発表された創作童話をまとめたものです。「母の友」2019年4月号の「編集だより」(p85)にこのようなことが書かれています。
「今月は昨年五月に亡くなった絵本作家、加古里子さんの未発表童話をお届けしました。この作品は昨年、加古さんのお嬢さん、鈴木万里さんが遺稿の中から”発見”してくれたものです。加古さんは2011年以降何度か「母の友」の依頼に応え、「一日一話」に「イノシシ病院」の物語を寄せてくれました。その後独自に三作、書きためておいてくださったようなのです。「完成原稿まで描いていたというのが驚きで、加古本人もイノシシ先生のことが気に入って、筆がのったんじゃないでしょうか」(鈴木さん)。亡き加古さんから「母の友」への贈り物。涙が出る気持ちでありました。三作のうち、残りの二話は今年度のどこかの号で掲載出来たらと思っています。」
「母の友」では見開き2ページに2枚のかこさとしさんの絵がありますが、この度子どもが自分で読めるように漢字をひらがなに開き、文字を大きくしたために一話8ページになっています。そこでなかじまかめいさんによるイラストが加わりました。どれもイノシシ先生がかこさとしさんご本人に見えてくるような優しく温かいお話です。文字を読み始めた子どもたちにぜひ読んでほしいと思います。

 

 

 

 

【その他】

『音楽の肖像 堀内誠一×谷川俊太郎』堀内誠一・谷川俊太郎/著 小学館 2020/11/4(第2刷2021/1/17)(出版社のサイト→こちら

 

児童向けではないかもしれませんが、YA世代には楽しめる1冊です。2020年12月5日から2021年1月24日まで荒川区立図書館ゆいの森あらかわで堀内誠一展が開催されていました。『音楽の肖像』の原画も何枚か展示されていました。
バッハ、モーツァルト、ベートーヴェンからストラヴィンスキー、エリック・サティまで堀内誠一が遺した28人の作曲家の肖像画とエッセイに加えて、谷川俊太郎が32編の詩をつけた芸術を愛する人にはたまらない1冊です。

 

 

 

 

『学校司書おすすめ!小学校学年別知識読みもの240』福岡淳子・金澤磨樹子/編 少年写真新聞社 2020/11/20(出版社のサイト→こちら

 

知識の本を、小学校の学年別に紹介したブックリストです。ブックトークや授業で使う資料として、また団体貸出の選書に役立つことでしょう。各学年ごとに子どもたちの語彙力、読解力の発達に応じためあてが書かれており、とてもわかりやすい選書基準が示されています。また、コラム記事も充実しており、学校図書館だけでなく、公共図書館の司書にとっても、心強い味方になると思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

『デジタル・シティズンシップ コンピュータ1人1台時代の善き使い手をめざす学び』坂本旬・芳賀高洋・豊福晋平・今度珠美・林一真/著 大月書店 2020/12/15(出版社のサイト→こちら

新型コロナウイルス感染症によるパンデミックは、これまで遅々として進まなかった我が国のデジタル教育を大きく変えていくことになりました。これまで子どもたちにデジタルデバイスを手渡す際には、抑制的な「情報モラル」を教えることが主流でした。
しかし、これからの世の中はデジタルを賢く使いこなす時代です。子どもたちが主体的に関われるデジタル・シティズンシップが必要になるとこの本では説いています。デジタル・シティズンシップとは、デジタル世界で生活し、学習し、働くことの権利、責任、機会を理解し、安全で合法的、倫理的な方法で行動できるためのポジティブな捉え方なのです。GIGAスクール構想が前倒しで着手されることになるでしょう。私たち司書もこの視点をもっていたいと思います。

 

 

 

 

『学校が「とまった」日 ウィズ・コロナの学びを支える人々の挑戦』中原淳/監修 田中智輝・村松灯・高崎美佐/編著 東洋館出版 2021/2/1(出版社のサイト→こちら

昨年3月に、なんの根拠も議論もなく、いきなり日本中の学校での学びが止まりました。政府の一方的な通達により、小学校、中学校、高校が臨時休校になり、学びの中断が起きたのでした。
その時、生徒には、保護者には、家庭には、何が起こったのか。そして学校では、どのような意思決定がなされ、教員は何を思っていたのか。NPOなどの学校でもなく、家庭でもない機関は、どのような教育支援を行ったのかを、まとめたものです。
中心にいたのは立教大学経営学部教授の中原淳さん。SNSを通して、どうしたら学びを止めずにいられるのか、すぐに共同研究プロジェクトを立ち上げ、発信していました。私もそのグループの情報を活用し、TS室のeラーニング作成に必要なノウハウを得ることが出来ました。図書館も閉館していた昨年春の緊急事態の中で、何が出来たのか、出来なかったのか、再び学びを止めないために、すべての子どもに関わる人に読んでほしい1冊です。

 

 

(作成K・J)

2020年11月、12月の新刊から(その2)


11月、12月に出版された絵本と読み物を追加で紹介いたします。(12月29日に公開した「2020年11月、12月の新刊から(その1)」は→こちら
一部、見落としていた11月以前に発行された新刊も含まれます。

今回は12月29日に、約2か月ぶりに銀座教文館ナルニア国へ行って選書をしてきました。年末年始に、読んで記事にしています。また、1月11日には横浜・日吉のともだち書店に注文していた本が届きました。こちらも急いで読みました。

 

その他の書籍に関しては銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

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【絵本】

『ねこのオーランドー 3びきのグレイス』キャスリーン・ヘイル/作 こみやゆう/訳 好学社 2020/11/6 (出版社サイト→こちら

 

クリスマス前後のねこのオーランドー一家の物語です。クリスマスの買い物に出かけたのに、こねこのティンクルは買い物そっちのけで雪遊びをし家族へのプレゼントを買いそびれます。そこでクリスマスにもらった手品セットの中の「のろいの水」スプレーを香水だと思ってお母さんのグレイスの枕元に置きます。目覚めたグレイスが香水だと思って使うと、なんとグレイスが3びきになってしまったのです。そこでオーランドーたちは、天の川を越えて、しし座のレオが門番をするサンタクロースの家まで、解決方法を聞きに行くのでした。1965年に原作は出版されました。なんとも不思議なファンタジーに仕上がっています。

 

 

 

 

『氷上カーニバル』あべ弘士/作 のら書店 2020/11/10 (出版社サイト→こちら

 

氷上カーニバルは、冬の終わりに開かれるお祭り。花火が上がる中、みんな思い思いの仮装して公園の中の凍った池に集まり、一緒に踊って夜を過ごします。実際に、北海道札幌市の中島公園内の凍った池で大正時代の終わりから昭和にかけて行われていた冬のお祭りで、児童文学作家の神沢利子さんが子ども時代に参加して心に深い感動を覚え、『いないいないばあや』にも書いているとのこと。そのお祭りをテーマに作られたカラフルで楽しい絵本です。新型コロナウイルス感染拡大の第3波が襲う中だからこそ、子どもたちにはこのような心が楽しくなるようなお話を届けたいと思います。

 

 

 

 

『こたつ』麻生知子/作 福音館書店 2020/11/15(出版社サイト→こちら

 

部屋の真ん中に置かれたこたつを上から俯瞰する形で、大みそかから元日までの家族の様子を描く絵本です。おばあちゃんと両親、そして孫のこうたくん、そして猫一匹の心温まる一家の団らんの様子をのぞき見しているうちに、こちらまで懐かしい気持ちにさせられます。飲み物の描き方だけが横向き(倒れているように見える)なのですが、飲み物が何であるか伝えるための苦肉の策だったのでしょうか。そこだけが立体的に見えず少し残念でした。

 

 

 

 

『おともだちになってくれる?』サム・マクブラットニィ/文 アニタ・ジェラーム/絵 小川仁央/訳 評論社 2020/12/5(出版社サイト→現在アクセスできなくなっています)

 

長く読み継がれている『どんなにきみがすきだかあててごらん』(絵本ナビサイト→こちら)の続編です。前作が出版されたのが1995年なので25年ぶりの続編です。
ちゃいろいちびのノウサギは、ひとりで遊びに出かけて、ヒースの茂みの中で白いウサギに出会います。二匹はとても楽しい時間を過ごします。ともだちっていいなと思える絵本です。

 

 

 

 

 

『みえないこいぬ ぽっち』ワンダ・ガアグ/作 こみやゆう/訳 好学社 2020/12/21(出版社サイト→こちら

 

1994年に村中李衣さんの訳でブックグローブ社から出版されたなんにもないないの改訳再版です。原作は1941年刊の『NOTHING AT ALL』です。古い農家の片隅に子犬の兄弟が住んでいたのですが、一匹は姿が「これっぽっちもみえない」、なので「ぽっち」という名前だったのです。二匹の兄弟は農場にやってきた子どもたちにもらわれていくのですが、ぽっちは見えないので置いてけぼりです。ぽっちは兄弟を探す中で物知りのコクマルカラスと知り合い、姿が見えるようになる魔法の呪文を教えてもらいます。その呪文は「ああ、いそがしや ああ、くらくらする」。それを日の出とともにぐるぐる回りながら九日間唱えるようにというのです。果たしてぽっちは見えるようになるのでしょうか。『なんにもないない』では「てんてこまいまい ぐるぐるまい」という呪文でした。図書館には旧訳の絵本もあると思います。ぜひ読み比べてみてください。

 

 

 

『ヨーロッパの古城 輪切り図鑑クロスセクション』スティーブン・ビースティー/画 リチャード・プラット/文 赤尾秀子/訳 あすなろ書房 2020/12/30 (出版社サイト→こちら

 

重機もない時代にヨーロッパの古城が、どのように造られたのか、断面図にして詳しく説明しているノンフィクション絵本です。当時の封建社会がどのように形作られていったのか、領主がどのように権力を集中していったのか、歴史的な背景も知ることができます。中世を舞台にしたファンタジーなどを読む時にも、このような城の構造を知っているとイメージも膨らんで、何倍も物語の世界を楽しめると思います。

 

 

 

 

 

【児童書】

『アイルランドの妖精のおはなし クリスマスの小屋』ルース・ソーヤー/再話 上條由美子/訳 岸野衣里子/画 福音館書店 2020/10/15 (出版社サイト→こちら

 

アイルランドの妖精伝説です。赤ん坊の時に捨てられ、子だくさんの夫婦に育てられたオーナは、村一番の美しい娘に育ちます。しかし捨て子であったためにオーナは家庭を持つことも出来ず、あちこちの家で奉公をして暮らしていました。その地方を凶作が襲った時、年老いたオーナは行く当てもないまま暇を出されます。オーナは村はずれの沼地の脇のブラックゾーン(すももの仲間)の茂みに隠れます。雪の降り積もるクリスマスイブ、オーナの周りには数えきれないほどの妖精が現れ、夢描いていた暖かい家を建ててくれるのです。心優しいオーナはその家に、貧しい者、飢えている者を温かく迎えるのでした。アイルランドに留学経験のある岸野衣里子さんのイラストも幻想的でイマジネーションをかきたてられます。

 

 

 

 

『コヨーテのはなし アメリカ先住民のむかしばなし』リー・ベック/作 ヴァージニア・リー・バートン/絵 安藤紀子/訳  徳間書店 2020/10/31 (出版社サイト→こちら

 

2012年に同じ翻訳者によって長崎書店から出版されていた本が、別の出版社から再版されました。長崎書店版は横書きでしたが、徳間書店版では縦書きになり、それに合わせて絵がページによっては、左右逆に配置されています。また長崎書店版は原作のうち10話のみが収録されていましたが、こちらには17話が収録された全訳となっています。アメリカ先住民にとって身近な動物であったコヨーテは、いたずら好きで悪さをするものの、人間のために火を取ってきてくれたり、太陽や月、星をつくってくれる存在として描かれています。

 

 

 

 

『はねるのだいすき』神沢利子/文 長新太/絵 絵本塾出版 2020/11 (出版社サイト→こちら

 

1970年に偕成社から出版されていた作品が、再版されました。はねて遊ぶのが大好きなうさぎの子ピコ。野原では「とんぼがえりはきつねの発明だ」といううそぶくきつねをやりこめます。その次に出会ったのはまるで変なおじさんでした。ピコはこのおじさんに自分が何者であるかを必死で伝えます。文中にこのおじさんがたばこを吸ってドーナッツのような輪を作るシーンが出てきます。現在では喫煙シーンを子どもの本で描くことが少なくなりましたが、お話のオリジナリティを損なわないためにもそのままにしたとの注釈もついています。元気なピコのかわいらしさや、長新太さんの勢いのある絵が、そうした部分も十分に補っています。文字を読み始めた子向けの幼年童話です。

 

 

 

 

『かるいお姫さま』ジョージ・マクドナルド/作 モーリス・センダック/絵 脇明子/訳 岩波書店 2020/11/10 (出版社サイト→こちら

 

19世紀のイギリスの文学者ジョージ・マクドナルドの作品にモーリス・センダックが絵を描いた作品が2点、岩波書店から同時発売されました。どちらもセンダックの繊細な挿絵と、表紙には金箔をはった豪華な装丁で(表紙カバーで隠れてしまいますが)出版されました。
こちらの作品は、洗礼式に招かれなかった魔女の呪いで、重力がなくなってしまったお姫様の物語です。すてきな王子様に出会って愛を知ることで重さが戻ってくるのですが、それにしても不思議でロマンティックなおとぎ話です。

 

 

 

 

 

『金の鍵』ジョージ・マクドナルド/作 モーリス・センダック/絵 脇明子/訳 岩波書店 2020/11/10 (出版社サイト→こちら

 

大伯母さんに、もし虹のはしっこにたどり着くことが出来たら、そこに金の鍵がみつかると聞いた男の子モシーは、ある夏の夕方、キラキラと輝く虹のはしっこを森の中にみつけて走り込みます。するとそこは妖精の国でした。モシーは、金の鍵を手に入れましたが、鍵があっても、その鍵で開く錠前がなければ役に立たないことを知り、それを探す旅に出ます。旅の途中でタングルという女の子と出会い一緒に冒険を続けます。二人は影の世界で離ればなれになるのですが、幾多の困難を潜り抜けて、二人は再会できるのです。空飛ぶ魚、海の老人、洞窟とファンタジーの異世界に導かれる作品です。

 

 

 

 

『彼方の光』シェリー・ピアソル/作 斎藤倫子/訳 偕成社 2020/12 (出版社サイト→こちら

 

黒人奴隷の少年サミュエルは、ある夜年老いたハリソンからカナダへの逃亡を告げられます。迫りくる追っ手をかわしながら、身を潜め、川を渡り、北へと向かう二人。その時々に助け手が現れ、最終的にはカナダへと辿り着きます。舞台は逃亡奴隷を手助けしたり匿った者すべてに厳罰を与えるという1850年の逃亡奴隷法が成立した後の1858年のケンタッキー州です。自由州であるオハイオ州との境にある川を越えて、多くの奴隷が北へ北へと逃亡していきました。1861年に南北戦争が始まる、その少し前の物語です。途中で、なぜハリソンが高齢で足にけがをしながらもサミュエルを逃亡へ誘ったのか、その理由がわかります。彼方遠くに見える希望の光を目指して逃げる黒人たちの姿に、現在のアメリカ合衆国の政治の混迷も透けて見えるような気がします。後ほど紹介するちくま新書『アメリカ黒人史―奴隷制からBLMまで』(ジェームス・M・バーダマン/著  森本豊富/訳)に歴史的な背景や、実際に逃亡を手助けした人たちのことも書かれています。合わせて読むと、作品世界を深く理解することができるでしょう。

 

 

 

 

『名探偵カッレ 危険な夏の島』アストリッド・リンドグレーン/作 菱木晃子/訳 平澤朋子/絵 岩波書店 2020/12/17 (出版社サイト→こちら

 

名探偵カッレシリーズの中でも、一番手に汗握るというか、カッレたち白ばら軍に危険が迫りくる作品で、『名探偵カッレとスパイ団』(尾崎義/訳 岩波書店 1960)という題名で出版されていたものの新訳です。
ある夏の夜、赤バラ軍と城跡で合戦をした帰り道、カッレ、アンデッシュ、エヴァロッタは誘拐事件を目撃します。見過ごせないと犯人の車に乗り込んだエヴァロッタを追ってカッレたちの追跡が始まります。隠れ家の無人島で繰り広げられる攻防戦は、ハラハラドキドキの連続で最後まで息を抜くことができません。原作は1953年ですから70年近く前の作品です。それでもカッレたちの推理力と行動力は現代の子どもたちにも魅力的に映ることと思います。ただし今だったらGPSで追跡したり、スマホで証拠撮影したり、まったく違う展開になるとは思いますが、だからこそアナログな時代の子どもたちの逞しさがまぶしく感じるのかもしれません。

 

 

 

 

 

『オン・ザ・カム・アップ』アンジー・トーマス/作 服部理佳/訳 岩崎書店 2020/12/31 (出版社サイト→こちら

 

2020年は、大統領選挙もあってアメリカでBLM(Black Lives Matter)運動が盛り上がった年でした。なぜ、黒人が差別を受けるのか、歴史を遡ってみる必要があります。そして近年BLMをテーマにした児童・YA向けの作品が多く出ているということも、私たちにその問題について学ぶ機会を与えてくれています。若い世代が熱狂するヒップホップもラップも、もともとはアフリカ系アメリカ人、つまりは遡れば400年も前にアフリカから奴隷として連れてこられた人々が、苦難の歴史の中から生み出し創りあげてきた文化なのだということを認識しておく必要があるでしょう。
この作品は、有名なラッパーだった父親譲りの才能を持つ高校生プリアンナが、人種差別による偏見や貧困と闘いながら、自分らしさをみつけていく物語です。「黒人だけちがうルールで戦わなくちゃいけないことはよくあるのよ。」と母親ジェイは半分諦め気分で目立たないことを娘に諭します。しかしプリや友人たちは、黒人というだけで白人であれば見逃されるような軽い失敗も許されない理不尽な学校のやり方に抗議していきます。タイトルになった”on the come up”は、プリがラップに乗せて歌った歌詞で、「這い上がれ」という意味。デビュー作『ザ・ヘイト・ユー・ギヴ』(出版社サイト→こちら)でデビューした作家の第2作目です。

 

 

 

 

【その他】

『アメリカ黒人史―奴隷制からBLMまで』ジェームス・M・バーダマン/著 森本豊富/訳 ちくま新書 筑摩書房 2020/12/10(出版社サイト→こちら

 

現代のアメリカで巻き起こっているBLM運動について理解するために必要な知識がぎゅっとまとめられています。奴隷制度がどのように始まったのか、アメリカ大陸へどのようにしてアフリカから奴隷にされたたちが連れてこられたのか(アフリカ西海岸で拉致されされた黒人は、奴隷として港に集められ「出荷」まで「奴隷の家」と呼ばれる収容所に入れられ「出荷」を何カ月も待たされることも)、奴隷の生活はどうだったのか、南北戦争から公民権運動、そしてオバマ政権誕生、そしてジョージ・フロイド事件からBLM運動までを順を追ってわかりやすくまとめられています。今回、紹介している『彼方の光』や『オン・ザ・カム・アップ』だけでなく、12月に紹介した『オール・アメリカン・ボーイズ』(「本のこまど」記事→こちら)など、児童向けの作品を理解するためにもぜひ一度読んでおいてほしいとおもいます。またアフリカ系アメリカ人が作ってきた音楽について書かれた絵本『リズムがみえる』(ミシェル・ウッド/絵 トヨミ・アイガス/文 金原瑞人/訳 ピーター・バラカン/監修 サウザンブックス社 2018/9/25)(「本のこまど」記事→こちら)の背景でもあります。一方でこのような作品に出会いながら、自分の国に現にある在日外国人への差別などについても広く考える契機になればと思います。

 

 

(作成K・J)

2020年11月、12月の新刊から(その1)


11月、12月に出版された絵本を紹介いたします。一部、見落としていた11月以前に発行された新刊も含まれます。また読み物に関しては、年末年始のお休みに読んで年明けに紹介できればと思います。

今回は表参道クレヨンハウスで購入したもの、横浜日吉のともだち書店に注文し送付いただいたもの、出版社を通して著者、翻訳者から献本していただいたものを、読んで記事にしています。

その他の書籍に関しては銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

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【絵本】

『ポラーノの広場』宮沢賢治/作 みやこしあきこ/絵 三起商行 2020/10/24(出版社サイト→こちら

宮澤賢治がイーハトーブを舞台に描く童話が絵本になりました。体裁は絵本ですが、88ページの大作です。
みやこしあきこさんが描く絵が、賢治の幻想的なイーハトーブの世界観を見事に表現しています。

「つめくさの花の かおる夜は
 ポランの広場の 夏まつり」

モリーオ市の博物局で働くキューストと、農夫の子ファゼーロが出会って、昔話に語られる野原の真ん中にあるポラーノの広場を探し求めていきます。ミキハウスの宮沢賢治の絵本シリーズの33巻めの絵本です。

 

 

 

 

『おやこでよもう/金子みすゞ もしもわたしがおはななら』金子みすゞ/詩 松本春野/絵 JULA出版局 2020/11(出版社サイト→こちら

おやこでよもう/金子みすゞ」シリーズの最新刊(5冊目)です。
「おはなし会プラン(2021年2月その1)」(→こちら)で紹介した「はねぶとん」以外に、「つもったゆき」、「いしころ」、「おはなだったら」、「おおきなもじ」、「ほしとたんぽぽ」など全部で9編の詩が紹介されています。
ナビゲーターは、歌舞伎役者の中村勘九郎さん。コロナ禍だからこそ「ほしとたんぽぽ」にうたわれている見えないもののつながりや大切さについて語っていらっしゃいます。優しい表情の子どもたちを描くのはいわさきちひろさんの孫の松本春野さんです。

 

 

 

 

『あの湖のあの家におきたこと』トーマス・ハーディング/文 ブリッタ・テッケントラップ/絵 落合恵子/訳 クレヨンハウス 2020/11/1(出版社サイト→こちら

 

クレヨンハウス創業45周年を記念して落合恵子さんが翻訳し出版された絵本の1冊です。
作者の曽祖父が4人の子どもたちと自然の中で暮らすために湖の畔に建てた家が約90年近い歴史を経てどう変わってきたかを描き出しています。曽祖父一家はユダヤ人だったためナチスが権力を握るとイギリスへ亡命します。その後、まずは音楽好きな一家が移り住み、彼らがオーストリアに逃げると、その知人の夫婦がその家に隠れ住みます。戦後、他の家族が移り住みますが、その後湖と家との間に大きな壁が築かれてしまいます。いわゆるベルリンの壁でした。その後、空き家になっていたのですが、作者の手によってレクリエーションセンター(Alexander House)に生まれ変わりました。一軒の家の歴史から戦争に翻弄される人々の暮らしが伝わってきました。

 

 

 

 

『こうさぎたちのクリスマス』エイドリアン・アダムズ/作・絵 三原泉/訳 徳間書店 2020/11/30 (出版社サイト→こちら

 

クリスマス前に紹介できればよかったのですが、遅れてしまいました。ツリーハウスに住むうさぎの少年オーソンは、村のこうさぎたちに「おとなにはないしょ」でクリスマスパーティーの準備を頼まれます。オーソンの家の庭でこうさぎたちがクリスマスの準備をする様子がとても美しく描かれています。
小さなこうさぎたちに頼りにされるオーソンが、最初は面倒臭がりながらも最後はサンタになりきって大活躍します。『みならいうさぎのイースターエッグ』(→こちら)の姉妹本です。なお、この絵本は1979年に佑学社より乾侑美子訳で出版されていました。(→こちら

 

 

 

 

『悲しみのゴリラ』ジャッキー・アズーア・クレイマー/文 シンディ・ダービー/絵 落合恵子/訳 クレヨンハウス 2020/12/1(出版社サイト→こちら

こちらもクレヨンハウス45周年を記念して出版されました。ママを亡くした男の子のそばにゴリラが現れて、男の子の悲しみにそっと寄り添ってくれます。
「どうしてママはしんだの?」
「いのちあるものはかならずしぬんだ。あいするものをおいていくのはかなしいけれど。」
「いつになったら、かなしくなくなるの?」
「ママがずっといっしょにいるとわかったときだよ。」
男の子がパパとその悲しみを分かち合えた時、ゴリラはそっと消えていきます。大切な人を喪うという深い悲しみに寄り添い、それをゴリラのような大きな腕で丸ごと受け止めてくれる、そんな絵本です。
2020年、新型コロナウイルス感染症で多くの人が亡くなりました。ニュースで伝えられる人数は、その数の一人一人に大切な家族がいて、かけがえのない人生があったことまで想像しないと、自分事として受け止められません。

今年は、感染予防のために、新型コロナウイルスでない他の病気で入院している場合でも、あるいは高齢で施設で過ごしている家族にも、面会ができないという事態になって、最期の別れに立ち会えないという大きな悲しみに揺れた人も多くいたことと思います。私も母を7月に天国に見送りましたが、東京からの面会は謝絶と言われ、最期を看取ることができませんでした。

2020年の最後の投稿で、この絵本『悲しみのゴリラ』を紹介できることを、運命の巡り合わせのように感じています。

 

 

 

 

『怪物園』junaida/作 福音館書店 2020/12/5(出版社サイト→こちら

 

昨年『の』(→こちら)という絵本で話題になったjunaidaさんの新刊絵本です。
怪物たちをたくさん乗せて長い旅をしてきた怪物園が、ある夜うっかり玄関を開けっぱなしにしたために、怪物たちが街にあふれ行進するようになります。外で遊べなくなった子どもたちは、空想の世界で遊び始めるのです。
この不思議な世界観はぜひ手に取って味わってみてほしいと思います。

 

 

 

 

(作成K・J)

2020年10月、11月の新刊から(修正アリ)


10月、11月に出版された絵本、児童書、および参考資料を紹介いたします。(一部、見落としていた10月以前に発行された新刊も含まれます。)

今回は表参道クレヨンハウスで購入したもの、横浜日吉のともだち書店に注文し送付いただいたもの、出版社を通して著者、翻訳者から献本していただいたものを、読んで記事にしています。なお、一部9月以前に出版された本もあります。

その他の書籍に関しては銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

 

【絵本】

『つるかめつるかめ』中脇初枝/文 あずみ虫/絵 あすなろ書房 2020/8/15 (出版社サイト→こちら

自分の力ではどうしようもないことが起こった時、昔の人達はおまじないの言葉を唱えて、それを乗り越えてきたそうです。
今年1月以降、世界を襲った新型コロナウイルスによるパンデミックは、子どもたちには一体それが何なのかさえ理解できず、大人の不安がそのまま投影され、より不安を感じていることでしょう。
「くわばらくわばら」「まじゃらくまじゃらく」「とーしーとーしー」「ちちんぷいぷいちちんぷい」。そんな言葉を声に出してみると気持ちがすっと楽になりそうですね。最後のページの「なにがあっても」「だいじょうぶ だいじょうぶ」の言葉がどれほど安心を与えてくれることでしょう。親子で読んでほしいですね。

 

 

 

『アルフィー』ティラ・ヒーダー/作 石津ちひろ/訳 絵本塾出版 2020/9(出版社サイト→こちら

ニアは6歳の誕生日に同い年だというカメのアルフィーを買うことにしました。ニアにとって、カメでもアルフィーは友達です。たくさん話しかけますが、アルフィーの反応は薄いまま。さて、7歳の誕生日を前にアルフィーが行方不明になってしまいます。さて、アルフィーはどこへ行ってしまったのでしょう?絵本の後半はアルフィーの視点から描かれます。そして驚きの結末を知って、胸が熱くなります。この絵本は作者ティラ・ヒーダーの体験をヒントにしているそうです。

 

 

 

 

 

 

『まどのむこうのくだものなあに?』荒井真紀/作 福音館書店 2020/10/10(出版社サイト→こちら

ため息が出るほど美しい絵本です。ほんとうにこれが子ども向けなのかと思うほどのクオリティです。題材はくだもの。最初のページは黒一面に四角い窓が切り抜いてあり、次のページに描かれている果物の一部が見えています。子どもたちは、その窓から見える情報をもとに果物の名前を当てる文字のない絵本です。写真ではなく絵であることにも驚きですが、果物の反対のページには果物を半分に切った断面が描かれており、それも窓を通して見ることが出来ます。自然の造形の美しさ、センス・オブ・ワンダーをこのような形で子どもたちに示すことのできる絵本は稀有といってもいいのではないでしょうか。

 

 

 

 

 

『おばけのジョージ― メリーメリークリスマス!』ロバート・ブライト/作 こみやゆう/訳 好学社 2020/10/19(出版社サイト→こちら

おばけのジョージ―シリーズの最新刊です。クリスマスに向けて、もみの木に飾りつけをして、美味しい食事を用意し、家族や友達とにぎやかに過ごすためにわくわくしながら準備をしているのに、たったひとり丘の大きなお屋敷に住むグロームズさんだけは変わり者で、クリスマスなんて大嫌いでした。ところがその年は、姪と甥のサラとトニーを預かることになってしまったのです。サンタなんてとんでもないというグロームズさんでしたが、サラとトニーはおじさんのためにもサンタさんに宛てた手紙を書くのです。今回もおばけのジョージ―と仲間たちが大活躍。グロームズさんも最後には笑顔になるのですが、どんなことがあったのかは読んでのお楽しみに!

 

 

 

『ピーターラビットのクリスマス 25の物語のアドベント』レイチェル・ボーデン/文 長友恵子/訳 文化出版局 2020/10/25(出版社サイト→こちら

ピーター・ラビットのお話を愛読してきたレイチェル・ボーデンが、そのお話からインスパイアされて新しく描き下ろしたクリスマスアドベントの物語です。12月1日から25日まで毎日1章ずつ読み進めていくことが出来るのです。ひとつひとつのお話の終わりには、クリスマスにちなんだ遊びやレシピが紹介されています。ビアトリクス・ポターが描いたピーター・ラビットのシリーズに出てくる仲間たちも登場するおはなしは、どれも心温まるものばかりです。

 

 

 

 

 

 

『まほうつかいウーのふしぎなえ』エド・エンバリー/作 小宮由/訳 文溪堂 2020/10(出版社サイト→こちら

モノクロの絵の中に作り出される影、色、光。錯覚をテーマにした絵本です。コマ割りで描かれたカエルに姿を変えられた王子と魔法使いウーの会話の部分と、見開きで現れる錯覚を起こさせるモノクロの模様画が交互に出てきながら、おはなしが進んでいきます。
不思議で、面白いアート絵本です。

 

 

 

 

 

『なぞなぞのにわ』石津ちひろ/なぞなぞ 中上あゆみ/絵 偕成社 2020/10(出版社サイト→こちら

春夏秋冬、四季折々の庭の中に描かれる花や虫、小動物・・・眺めているだけでも心豊かになります。絵の中に隠れているものを、なぞなぞで問いかける絵本です。なぞなぞはちょっと難しいかな。それでも、最後に答えが出ていて「あ~そうか!」と思って、もう一度絵をよく見て、何度でも探して遊べます。読み聞かせというよりは、親子で絵を探して遊ぶ、そんな絵本です。

 

 

 

 

 

 

『ふゆごもりのまえに』ジャン・ブレット/作 こうのすゆきこ/訳 福音館書店 2020/11/5(出版社サイト→こちら

はりねずみのハリーは、冬ごもりの前に農場の中を一回り散歩をすることにします。ところが農場の動物たちに出会うたびに、ハリーが冬ごもりした後の冬の景色の美しさを次々に聞かされます。ハリーは、この冬は起きていてそれを目撃したいと巣穴に入らずにいたのですが、夜になって凍え死にそうになってしまいます。それを助けてくれたのは農場の女の子リサ。リサはハリーが冬景色を楽しめるように、ハリーを温かいティーポットカバーに入れて窓辺に居場所を作ってくれました。ハリーは生まれて初めて雪を、つららを、氷のはった池をみることが出来たのでした。ペットとして今はりねずみが人気だそうですね。そんな愛らしいハリネズミの寝姿も見られる絵本です。

 

 

 

『ねこはすっぽり』石津ちひろ/文 松田奈那子/絵 こぐま社 2020/11/5(出版社サイト→こちら

愛らしい猫のいろいろな格好を楽しいオノマトペで表現した絵本です。「ごろりーん ごろりーん ねこはすきなばしょで ごろりーん」「のびーん のびーん ねこはどこまでも のびーん」「ぴょーん ぴょーん ねこははこのなかへ ぴょーん」。帯に書かれた作者のことばには「猫たちは気の向くままに、遊び、食べ、よく眠る。時にはニンゲンが頭を抱えるくらいのいたずらをする。軽やかに跳んで、走り回り、思い切り体をねじったり、気持ちよさそうにのびをする。(中略)この絵本の猫のように、世界中の子どもたちがのびのびと安心して過ごせる日常が早く戻ってきますように。」とあります。そんな温かい思いを感じられる絵本です。

 

 

 

『サンタさんのおとしもの』三浦太郎/作 あすなろ書房 2020/11/20(出版社サイト→こちら

クリスマスイブにおつかいにでかけた女の子は、大きな赤いてぶくろを拾います。これはサンタさんの落とし物に違いないと思った女の子はサンタさんを探すことにします。町でいちばん高い教会の塔に登って見渡すと、今まさにサンタさんがえんとつに入っていこうとしているところでした。しかもそこは女の子のおうち。女の子は大急ぎで家に走って帰ります。女の子は無事にサンタさんに落とし物を渡せるでしょうか?黒い背景に赤や緑、白の色が鮮やかな楽しい絵本です。

 

 

 

 

 

『赤ずきん RED RIDING HOOD』ビアトリクス・ポター/再話 ヘレン・オクセンバリー/絵 角野栄子/訳 文化出版局 2020/11/22(出版社サイト→こちら

ピーター・ラビットのシリーズを書いたビアトリクス・ポターが再話した『赤ずきん』です。それに絵本作家へレン・オクセンバリーが絵をつけたものを角野栄子さんが翻訳されました。
シャルル・ペロー再話の昔話に近いストーリーですが、ヘレン・オクセンバリーはその文章を手にしたときに野の花の咲く牧草地や、白樺林などの広がるイギリスの田舎の風景を思い出したそうです。見返しページには赤ずきんの家からおばあちゃんの家までの地図が描かれていて、たしかにピーター・ラビットも出てきそうな雰囲気です。結末は「そして、それが赤ずきんのさいごでした。」で終わっていますが、ヘレン・オクセンバリーの絵がその先の物語を想像させてくれて救いを感じました。

 

 

 

『ネコとなかよくなろうよ』トミー・デ・パオラ/作 福本友美子/訳 光村教育図書 2020/11/30(出版社サイト→こちら

今年3月に亡くなったトミー・デ・パオラさんの1979年の作品です。日本では1990年にほるぷ出版から『きみとぼくのネコのほん』(森下美根子/訳)として出版されていました。ネコがどのようにして人間の生活の中にペットとして飼われるようになったのか、どのような種類がいて、どんな特徴があるか、飼う時はどんなことに気をつければいいのかを、ネコを保護しているキララおばさんと、ネコをもらいにきたパトリックの会話形式で知ることができます。なお新版では、ネコをもらったら最後まで飼うというのが今はルールとして浸透しているため、主人公がたくさんネコをもらってきたのに両親から1匹だけと言われておばさんに返しに行く結末の部分がカットされたとのことです。10月29日に紹介した『クリスマスツリーをかざろうよ!』(→こちら)と同じ判型、形式の絵本です。

 

 

 

 

『大統領を動かした女性 ルース・ギンズバーグ 男女差別とたたかう最高裁判事』ジョナ・ウィンター/著 ステイシー・イナースト/絵 渋谷弘子/訳 汐文社 2020/11第2刷 (初版は2018年3月)(出版社サイト→こちら

今年9月18日に亡くなったギンズバーグ最高裁判事のニュースは、アメリカ大統領選挙のニュースとともに耳にした人も多いことでしょう。(BUSINESS INSIDER記事→こちら)その後、トランプ大統領は即座に自分に有利になるよう保守派の最高裁判事を任命し話題になりましたね。それに合わせてこの度増刷されました。
R.G.Bと呼ばれて若い人からも人気の高かったギンズバーグは貧しい家庭に生まれたものの努力を惜しまず学び続け、弁護士になってからも男女差別と闘い、大統領の心を動かすアメリカの正義と平等を象徴する女性となっていく姿を描いた伝記絵本です。この翻訳絵本が2018年3月に出版された時はまだ存命だったギンズバーグさん。あとがきに「84歳となったR.G.Bは衰える気配などまったく見せていない」と記されていて、心に迫ります。

 

 

 

 

【読み物】

『ハジメテヒラク』こまつあやこ/作 講談社 2020/8/25(出版社サイト→こちら

 

講談社児童文学新人賞を受賞し、デビュー作『リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ』が2019年度中学入試最多出題作になったこまつあやこの待望の2作目です。
遅くなりましたが、YA世代、とくに中学生に読んでほしくて紹介します。
主人公のあみは、小学生の時に友達に仲間外れにされるのですが、そんな時従姉から教えてもらった脳内実況でやり過ごしてきたのでした。そんなあみが、中学受験をして入学した中高一貫校で、ひょんなことから生け花部に入ることになりました。個性豊かな部活の仲間たちの中で様々なことに気づきながら成長していくあみの姿を爽やかに描いた作品です。

 

 

 

 

『雪山のエンジェル』ローセン・セントジョン/作 さくまゆみこ/訳 評論社 2020/10/25(翻訳者さくまゆみこさんのブログ→こちら

本を読むのが大好きなケニアの12歳の少女マケナは、山岳ガイドの父親と学校教師の母親の愛情を受けて幸せに暮らしていました。ところが両親は親族の看病に出かけたシエラレオネでエボラ出血熱にかかって突然亡くなってしまいます。引き取られた家では、死因がエボラ出血熱だと知られるとおばさんにまるでマケナがウイルスをまき散らしている恐ろしい存在かのように扱われ、追い出されてしまいます。スラム街をうろつく中で出会ったスノウと呼ばれる少女は、アルビノでやはり虐殺の危機から逃れてスラム街に流れついたのでした。マケナはスノウからどんな困難な中でも希望をもって生き抜くことを教えられます。しかしスラム街が強制的に破壊された夜、ふたりは離れ離れになってしまいます。その後、アフリカで孤児の保護活動をしているスコットランド人のヘレンと出会うのです。過酷な運命の中で生き抜き、自分の居場所を見つけていくマケナの物語を読みながら、今、この瞬間にも新型コロナウイルスの影響で差別を受けたり、困難な状況下に置かれている子どもたちが世界には多くいることを想像しています。もうすぐクリスマス、そんな子どもたちにもマケナのように暖かいクリスマスが訪れるようにと願うばかりです。

 

 

 

 

『オール・アメリカン・ボーイズ』ジェイソン・レノルズ、ブレンダン・カイリー/著 中野怜奈/訳 偕成社 2020/12(出版社サイト→こちら

今年は、アメリカにおいて黒人に対する差別問題が浮き彫りにされ、「BLM (Black Lives Matter)」が大きく取り上げられました。テニスの全米オープン選手権では女子で優勝した大坂なおみ選手が、無実の罪で暴行死した黒人の名前が書かれたマスクをして毎回登場したことでも話題になりました。
この作品は、2013年に17歳の黒人少年を射殺した白人の自警団員に無罪判決が出て、翌年にまた18歳の黒人少年が無防備なまま警官に射殺された事件に胸を痛めた黒人作家ジェイソン・レイノルズと白人作家ブレンダン・カイリーの二人が書きあげました。出版された2015年にはニューヨークタイムズ紙のベストセラーとなり、さまざまな賞を受賞しました。
この小説は、パーティーに出かけるために立ち寄った店で、白人女性に不注意でぶつかられ警官に万引き犯だと誤認逮捕された黒人少年のラシャドと、その現場を目撃した白人少年クインのそれぞれの立場から、事件が起きた金曜日から翌週木曜日までの1週間の様子が交互に書かれます。2人の作家がそれぞれの体験に基づいて書くからこそ、この物語が現実味を帯びて読むものに迫ってきます。訳者あとがきに「もともと先住民が暮らしていた土地に他の国々からやってきたり、連れてこられた人たちが築いた国に、外見的なアメリカ人らしさなど本来あるわけがなく、なにをもってアメリカ人としての内面の価値とするかを、だれかが決められるはずもありません。しかし社会の中に依然としてある、そのステレオタイプなイメージのために、黒人のラシャドも白人のクインも苦しんでいるように見えます。それは「アメリカ人らしい」という大ざっぱな表現が、現実の多様さを無視したものだからでしょう。」と書かれています。そのギャップに真正面から取り組んだこの作品を、多くの人に読んでほしいと願います。

 

 

 

 

【ノンフィクション】

『自由への手紙』オードリー・タン/語り クーリエ・ジャポン編集チーム/編 講談社 2020/11/17(出版社サイト→こちら

台湾の最年少デジタル大臣のオードリー・タンの活躍ぶりは、新型コロナウイルス感染の拡大に歯止めをかけたことで日本でもずいぶん報道されていました。自分がトランスジェンダーであることも公表しているオードリー・タンさんにインタビューしてまとめられた本です。
「本当に自由な人」とは、「自分が変えたいと思っていることを、変えられる人。自分が起こしたいと思っている変化を起こせる人。それこそ自由な人です。」と語るタンさん。帯にも「誰かが決めた「正しさ」には、もう合わせなくていい」とあるように、ほんとうに自分らしく生きるにはどうしたらいいのか、力強いメッセージが込められています。YA世代にはぜひ手にしてほしい1冊です。

 

 

 

 

『カカ・ムラドーナカムラのおじさん』ガフワラ/原作 さだまさし/訳・文 双葉社 2020/12/6(プレスリリース→こちら

12月4日は中村哲医師の命日です。中村先生がアフガニスタンで凶弾に倒れてちょうど1年になります。1984年にアフガニスタンへ医師として赴き、アフガニスタンの山岳地帯で治療を続けるうちに、その地方の貧困問題に関心を持つようになります。2000年からは飲料水・灌漑用の井戸を掘る事業を始め、03年からは農村復興のための大掛かりな水利事業を始めていました。
亡くなった後に、中村医師の功績を後世に語り伝えようとアフガニスタンで2冊の絵本が出版されました。『カカ・ムラド~ナカムラのおじさん』と『カカ・ムラドと魔法の小箱』です。その2冊を翻訳し、解説をつけたものが日本で出版されました。翻訳は歌手のさだまさしさんです。また通販会社フェリシモの「LOVE AND PEACE PROJECT」を通じて出版のための基金が集められました。日本の子どもたちにも伝えていきたい絵本です。

 

 

 

【その他】

『世界で読み継がれる 子どもの本100』コリン・ソルター/著 金原瑞人+安納令奈/訳 原書房2020/10/31(出版社サイト→こちら

19世紀に刊行された古典的な作品から、映画化されたYA向けの作品まで、ジャンルは絵本、昔話、ファンタジーと広い分野から選ばれた100作品をフルカラーで紹介する本です。1作品につき3ページを使ってその作品の時代背景、作者の経歴、そしてその作品が持っている魅力を語り、次の世代へと受け渡していく価値があることを伝えてくれています。この作品は、児童書の研究者でもなく、マニアックな愛好家でもなく、パヴィリオンブックス社の依頼を受けたプロのライターだそうです。訳者の金原さんは、そういう人が書いたからこそ、客観的にバランスよく説明がなされていて、読み物として読みやすいと指摘しています。たしかにエッセイを読んでいるようで、昔読んだ本は再読したくなるし、未読のままだった本は読んでみようという気持ちにさせられます。この本を片手に、児童書の魅力を再発見する旅に出たくなります。

 

 

 

『世界の児童文学をめぐる旅』池田正孝/著 エクスナレッジ 2020/10/19(出版社サイト→こちら

こちらのエッセイは、中央大学名誉教授で東京子ども図書館理事の池田正孝さんが、イギリスを中心とした児童文学の舞台を、実際に旅をして書かれたものです。『ピーター・ラビットのおはなし』『ツバメ号とアマゾン号』『リンゴ畑のマーティン・ピピン』『運命の騎士』『クマのプーさん』『秘密の花園』『トムは真夜中の庭で』や「ナルニア国物語シリーズ」など、その作品数は22にも上ります。またアンデルセン童話やアストリッド・リンドグレーンの世界や『ハイジ』など、イギリス以外にも北欧やスイスなども訪れ、美しい写真と一緒に物語の舞台や背景をあますことなく紹介しています。この本を読んでいると、自分もかの地を旅したいと熱望してしまいます。せめて本の中で旅をしたいと思います。

 

 

(作成K・J)

2020年9月、10月の新刊から(その2・読み物)


9月,10月に出版された絵本、児童書のうち、先週絵本を紹介しましたので、本日は児童書、および参考資料を紹介いたします。

今回は先月久しぶりに訪れた銀座・教文館ナルニア国で新刊チェックをしました。それに加えて横浜日吉のともだち書店に注文し送付いただいたもの、出版社を通して著者、翻訳者から献本していただいたものを、読んで記事にしています。なお、一部9月以前に出版された本もあります。

その他の書籍に関しては銀座教文館ナルニア国の「きになる新刊」コーナーをぜひご活用ください。(「本のこまど」紹介記事→こちら

なお、書影は各出版社の許諾要件に従って使用しています。

 

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【児童書】
《創作》

『めいたんていサムくん』那須正幹/作 はたこうしろう/絵 童心社 2020/9/4  (出版社サイト→こちら

小学2年生のオサムくんは、みんなが困っている時に推理して解決する名人なので、「めいたんていサムくん」と呼ばれています。
ある朝はタケシくんのうわぐつが無くなっているのを、推理でなぜ無くなっているか当てました。ある時は公園で行方不明になった人形を見つけ出しました。また3年生のハルミさんにまとわりつく犬が、なぜそうするのか、推理して解決しました。サムくんの活躍は子どもたちの日常で起きるちょっとした事件です。きっとサムくんのことを身近に感じられるでしょう。小学校低学年向けの幼年童話です。

 

 

 

 

『はりねずみともぐらのふうせんりょこう アリソン・アトリーのおはなし集』アリソン・アトリー/作 上條由美子/訳 東郷なりさ/絵 福音館書店 2020/9/5  (出版社サイト→こちら

『チム・ラビットのおはなし』など動物を主人公にした素敵なおはなしをたくさん残したイギリスの児童文学者アリソン・アトリー(1884~1976)の、おはなし集です。「小さな人形の家」、表題にもなっている「はりねずみともぐらのふうせんりょこう」、そして「のねずみとうさぎと小さな白いめんどり」の3つのおはなしが収められています。どれも夢があって、心がわくわくしてくるおはなしです。読んであげるなら小さな子どもたちでも楽しむことができる幼年童話です。

 

 

 

 

 

 

『かじ屋と妖精たち イギリスの昔話』脇明子/編訳 岩波少年文庫 岩波書店 2020/9/15 (出版社サイト→こちら

素話(ストーリーテリング)でよく語られるイギリスの昔話が、脇明子さんの訳で、新しく編まれました。全部で31のおはなしが、゛ゆかいで短いお話”、゛ちょっとハラハラするお話”、゛知恵が役に立つお話”、゛こわくてドキドキするお話”、゛ふしぎなことに出会うお話”、゛妖精たちの出てくるお話”、゛女の子が幸せをつかむお話”、゛大冒険のお話”、゛すてきな幸運にめぐりあうお話”の8つのカテゴリーに分けられていて、おはなし選びにも役立ちます。「ものぐさジャック」や「トム・ティット・トット」、「三びきの子ブタのお話」、「ジャックと豆の木」、「ノロウェイの黒い雄牛」などよく知られているお話もたくさん。読んでもらうのもよし、自分で読むのもよし、そして自分でおはなしを語れればもっとよし。いろいろな楽しみ方ができる1冊です。

 

 

 

『おとうさんのかお』岩瀬成子/作 いざわ直子/絵 佼成出版社 2020/9/30  (出版社サイト→こちら

利里は3年生が終わった春休み、単身赴任中のお父さんのところで過ごすことにしました。きっかけはお兄ちゃんとけんかをして、顔も見たくなかったからです。お父さんならわかってくれると思ったのに、お父さんともなかなか気持ちが通じ合いません。そんな時、公園で出会った女の子、雪ちゃんは、拾った石に顔の絵を描いて遊んでいました。雪ちゃんとの出会いを通して、利里とお父さんの気持ちも近づいていきます。
だんだん人間関係に悩みはじめる小学校中学年向けのお話です。

 

 

 

 

 

『宇宙の神秘 時を超える宇宙船』ホーキング博士のスペース・アドベンチャーⅡ‐3 ルーシー・ホーキング/作 さくまゆみこ/訳 佐藤勝彦/監修 岩崎書店 2020/9/30 (出版社サイト→こちら

ALS(筋萎縮性側索硬化症)を患いながらも、宇宙物理学を研究し続けたスティーヴン・ホーキング博士が、娘のルーシー・ホーキングさんとともに著したスペース・アドベンチャーシリーズの完結編です。ホーキング博士は2018年3月に亡くなられましたが、存命中にほぼ書き終えていたそうです。前号で、主人公のジョージは、AIロボットのボルツマンとふたりだけで宇宙船アルテミス号で宇宙へ飛び出します。しかし、超高速の宇宙船は簡単には行き先を変更できません。アインシュタインの相対性理論を物語で体験できる壮大な冒険物語です。シリーズですが、単独で読んでも、思わず惹きこまれていきます。後半には「タイムトラベルと、移動する時計の不思議」や「感染症、パンデミック、地球の健康」、「人工知能(AI)」など10のテーマでの科学エッセイも収められており、そこも読みごたえがあります。

 

 

 

 

『おじいちゃんとの最後の旅』ウルフ・スタルク/作 キティ・クローザー/絵 菱木晃子/訳 徳間書店 2020/9/30 (出版社サイト→こちら

おじいちゃんは口が悪くて乱暴で、入院先でも看護婦さんに呆れられ、パパもお見舞いに行きたがりません。でもぼくはそんなおじいちゃんが大好きです。そのおじいちゃんが、おばあちゃんと一緒に住んでいた家に死ぬ前にもう一度行きたいと願っているのを知って、病院を抜け出す計画を立てます。その計画は、パン屋のアダムも巻き込んで完璧ですが、「うそをつく」ことに少しだけ胸が痛みます。それでもおじいちゃんが、思い出の家で一晩過ごせたことは、良かったと思うのでした。死が近いおじいちゃんと孫の、心温まる、ちょっぴり切ない物語です。『おじいちゃんの口笛』などの作品があるスタルクは2017年に亡くなりました。これが最後の作品となりました。

 

 

 

 

『イワンの馬鹿』レフ・トルストイ/作 ハンス・フィッシャー/絵 小宮由/訳 アノニマ・スタジオ 2020/10/2 (出版社サイト→こちら

レフ・トルストイは『戦争と平和』や『アンナ・カレーニナ』などの大作があるロシアを代表する文豪です。その彼は50 代半ばで「無学で、貧しい、素朴な、額に汗して働く人たちの信仰の中に、真実がある」と悟り、「これからは、民衆とともに生き、人生のために有益な、しかも一般の民衆に理解されるものを、民衆自身の言葉で、民衆自身の表現で、単純に、簡素に、わかりやすく書こう」としたのが『イワンの馬鹿』です。人間の幸せとは何なのか、本質的な問いを投げかけてくれる寓話です。
注目すべきなのは、翻訳者小宮由さんです。由さんの祖父、北御門二郎氏は、17歳の時にトルストイの作品、特に『人は何で生きるか』、『イワンの馬鹿』に出会って、トルストイの説く絶対非暴力の思想に目覚め、それまで受けてきた忠君愛国の学校教育がいかに間違っているかということに気づき、良心的兵役拒否をしました。北御門氏はトルストイの翻訳に力を注ぎ、『イワンの馬鹿』も翻訳しました。孫である由さんが、なぜ『イワンの馬鹿』を翻訳することになったのかを書いているあとがきがまた読み応えがあります。 なお、挿絵はハンス・フィッシャーで、繊細でとても素敵です。

 

 

 

『ミスエデュケーション』エミリー・M・ダンフォース/著 有澤真庭/訳 サウザンブックス社 2020/11/6 (出版社サイト→こちら

アメリカで2012年に出版されたYA小説で、アメリカ図書館協会が優れたYA小説のデビュー作品に贈るウィリアム・C・モリス・デビューアワードの最終候補に残るなど高い評価を受けました。
12歳の夏休みに、親友アイリーンの挑戦で初めて彼女にキスしたキャメロン。女の子に惹かれるという性的指向に気づきながらも、周囲の無理解と宗教的葛藤に悩みながらも、仲間たちと自分らしさを見出していきます。LGBTQをテーマにした作品で、日本ではクラウドファンディングを用いて出版されました。アイリーンと過ごした夏休み二日間を描いた第一部、両親の事故死を知っておばあちゃん、ルースおばさんと暮らすことになった中学・高校時代の第二部、同性愛者であることがバレてキリスト教系の矯正施設に強制的に送り込まれる第三部となっています。この作品がデビュー作になったエミリー・M・ダンフォースはロード・アイランド大学の助教授で同性パートナーと暮らすレズビアンです。世間の無理解に苦しむLGBTQの子どもの成長物語を描きたいと、同性愛矯正治療キャンプなどを取材して書かれました。

 

 

 

 

《ノンフィクション》

『子どもを守る言葉『同意』って何?YES、NOは自分が決める!』レイチェル・ブライアン/作 中井はるの/訳 集英社 2020/10/31 (出版社サイト→こちら

『ワンダー』(R・J・パラシオ/著 ほるぷ出版)などの翻訳を手掛けた中井はるのさんが訳出された人権に関するノンフィクション新刊です。SNS などを通して知り合った卑劣な大人に騙される少女の事件がニュースでも報じられました。自分を守るために、イヤなこと、ダメなことを相手にもわかるように意思表示することの大切さを、イラストをたっぷり使って小さな子どもにもわかりやすく説いています。親子で一緒に読みながら、この本で使われる「同意」と「バウンダリー(境界線)」の意味について、話し合えるといいですね。

 

 

 

 

 

【その他】

『子どもの本から世界をみる 子どもとおとなのブックガイド88』石井郁子、片岡洋子、川上蓉子、鈴木佐喜子、田代康子、三輪ほう子、田中孝彦/著 かもがわ出版 2020/9/30 (出版社サイト→こちら

このブックガイドは、月刊誌『教育』(教育科学研究会編集)の1990年11月号から2018年3月号までの、「子どもの本」欄に掲載された紹介・書評のうちの84の記事に書きおろしの4点を加えて、加筆・再構成されたものです。選者の6人は、子育てや生徒と関わる仕事を通して、幼児から高校生までそれぞれの成長過程にふさわしいと思われる本を選び、紹介してきました。その選書基準は、他のブックリストと同様のもに加えて、”子どもたちが新しい世界を知り、おとなの世界も広がっていき、今をそして明日を考えることができる本”という点が特徴的です。世界的なパンデミックの中で、子どもたちの「どう生きるべきか」という問いを感じ取り、おとなも共に考え合える本、子どもの本を通して社会や時代をみつめる本が選ばれています。ぜひみなさんの選書の際の一助にしていただきたいと思います。

 

 

 

『藤田浩子の手・顔・からだでおはなし』なにもなくてもいつでも・どこでも楽しめる⑤ 藤田浩子/編著 保坂あけみ/絵 一声社 2020/10/30 (出版社サイト→こちら

楽しい語りや、わらべうた遊び、おはなし会小道具などを精力的に紹介する藤田浩子さんの新刊です。手元に絵本やさまざまな小道具が無くても、手や顔、身体を使って、子どもたちと触れ合って遊べる遊びやおはなしが50以上紹介されています。1章では小さな赤ちゃんを中心にした親子遊び、第2章では1~3歳向けの遊びやおはなし、3章では4~6歳向けの遊びやおはなしというように分けられています。図書館のおはなし会でも使えるものがたくさんあります。ぜひいくつか覚えて演じてみてください。

 

 

(作成K・J)

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