Tag Archive for 新刊紹介

2019年7月、8月、9月の新刊から(その1)絵本
2019年6,7月の新刊から(その2)
2019年4月、5月の新刊から(その2)読み物(6/26追加あり)
2019年4月、5月の新刊から(その1)絵本(追記あり)
2019年1月、2月の新刊から
2018年の新刊から*見落としていた本の紹介
2018年11月、12月の新刊から
2018年10月、11月の新刊から
2018年9月、10月の新刊から(その2)
2018年9月、10月の新刊から(その1)
2018年6月、7月の新刊から(その1)絵本・児童書
2018年5月、6月の新刊から
3月、4月の新刊から
2018年2月、3月の新刊から
2017年12月、2018年1月の新刊から

2019年7月、8月、9月の新刊から(その1)絵本


2019年7月、8月、9月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、絵本を紹介します。ノンフィクションや読み物は次週はじめに紹介予定です。

 

ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。出版されたすべての新刊本を購入して読むことはできませんが、毎月、教文館ナルニア国の新刊本コーナー、クレヨンハウス新刊本コーナー、横浜日吉にあるともだち書店など、信頼できる児童書の目利きのいる書店にある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。

 

(なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

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【絵本】

『丘のうえのいっぽんの木に』今森光彦/作 童心社 2019/7/20

 
丘のうえにたつ一本のエノキが育む小さな生命たちの営みを、昆虫写真家としても多くの写真絵本を出している今森光彦さんが、切り絵で表現しています。春先、エノキの根元の落ち葉の中から這い出てきたオオムラサキの幼虫は、木に登り、若葉を食べて大きくなります。やがて蝶になってオスとメスが出会い、エノキに卵を産むのです。オオムラサキの一生を軸に、里山で豊かな生命を育むエノキの揺らぎのない存在感を語ります。モノクロの切り絵なのに、そこに色を感じる、そんな作品に仕上がっています。(童心社のサイト→こちら
 
 
『あなたがおとなになったとき』湯本香樹実/文 はたこうしろう/絵 講談社 2019/7/29
 
『夏の庭 The Friends』などの作品がある湯本さんと、透明感のある伸びやかな絵に定評のあるはたこうしろうさんが組んだ、YA世代向けの作品。野原を歩き、木に登って、海辺で遠くを見つめる少女と少年。「あなたがおとなになったとき どんな歌がすきだろう」、「あなたがおとなになったとき この木はどれほど おおきくなっているだろう」と、繰り返し問いかけます。しかし広大で美しいと思った背景には、廃墟になった街並みや空港が描かれています。未来は決してバラ色ばかりでないことを暗示しつつ、それでも子どもたちは持てる知恵と力を使って、襲いかかる困難も、高い壁も乗り越えていけるという信頼が感じられます。おとなは少女に寄り添う青い鳥の存在のように彼らを見守ることしかできないと感じました。(講談社のサイト→こちら
 
 
 
『こんなとききみならどうする?』五味太郎/作 福音館書店 2019/8/5

 
毎日の生活は、今何をする?選ぶ?の連続で出来ているのかもしれない。この絵本も、いろいろ怪しげな選択肢を前に「こんなとききみならどうする?」と迫ってきます。単純に選べるものもあれば、ちょっと立ち止まって自分ならどうするか、真剣に考えたくなるものもあり、五味さんならではの、ユーモアとペーソスが溢れています。月刊誌かがくのとも2014年1月号のハードカバーです。
 
 
 
『ちいさなひこうきの たび』みねおみつ/作 福音館書店  2019/8/5

ちいさなひこうきの たび (かがくのとも絵本)
みねお みつ
福音館書店
2019-07-31
 
こちらは月刊誌かがくのとも2007年5月号のハードカバーです。調布飛行場を飛び立って、伊豆大島へ渡る小型飛行機がモデルになっています。大きな空港から飛び立つジャンボ機とは、乗り込める乗客も、空港の様子も違うことがわかります。町の中の空港を飛び立つシーンでは、眼下に味の素スタジアムに中央自動車道、京王線と大人であれば、あそこだ!という景色が描かれます。島に向かって南下していく先にも、横浜の湾岸エリアの見覚えのある建物が見えてきて、大人はつい興奮しそうです。ですから子どもたちも小さなプロペラ機とともに大空を旅している気持ちになれるでしょう。8月23日から9月8日までアーツ千代田3331で開催された「かがくのとも50周年 あけてみよう かがくのとびら展」(→こちら)では原画も展示されていました。
 
 
 
 
『まんまるダイズみそづくり』ミノオカ・リョウスケ/作 福音館書店 2019/8/5

まんまるダイズみそづくり (かがくのとも絵本)
ミノオカ・リョウスケ
福音館書店
2019-07-31
 
こちらも、月刊誌かがくのとも2004年1月号のハードカバーです。上記の絵本と同じく8月23日から9月8日までアーツ千代田3331を会場に開催されていた「かがくのとも50周年 あけてみよう かがくのとびら展」(→こちら)の「たべもの」コーナーで、丸い大きなテーブルを使って展示してありました。絵本でも、もちろん味噌の材料になる大豆の栽培の様子と、秋に収穫した後に、柔らかく煮てつぶし、塩と麹と混ぜて半年寝かせることで、大豆が味噌に変身する過程が丁寧に描かれています。身近な食への関心を引きだしてくれることでしょう。
 
 
 
『スノーウィとウッディ』ロジャー・デュボアザン/作 石津ちひろ/訳 好学社 2019/8/17

スノーウィとウッディ
ロジャー・デュボアザン
好学社
2019-08-09
 
ロジャー・デュボアザンの晩年、1979年の作品の初翻出作品です。シロクマのスノーウィはカモメのキティに誘われて、北極圏を離れて緑豊かな森へやってきます。しかしそこでは白い体は目立ってしまいます。ひぐまのウッディに出会うと、ウッディが保護色となってハンターから守ってくれました。やがて森に雪が積もると、逆にウッディの身体が目立ってしまいます。そこでスノーウィーがウッディをハンターから守ってあげるのです。自然界ではありえないお話ですが、デュボアザンの飄々とした描き方が好ましく、楽しく読むことができました。
 
 
 
『いえでをしたてるてるぼうず』にしまきかやこ/作 こぐま社 2019/8/20

いえでをした てるてるぼうず
にしまき かやこ
こぐま社
2019-08-20
 
『わたしのワンピース』出版50周年の年に、新刊が出ました。子どもたちが遠足や、運動会の前に作って「明日天気にしておくれ」と願いをかけるてるてるぼうずのことを、子どもたちは願いが叶うと忘れてしまいます。それに怒ったてるてるぼうずは家出をするのですが・・・最後についたところはくまのこのおうち。くまのこは、てるてるぼうずを友だちとして迎えてくれます。小さな子どもに安心して読んであげられる物語になっています。神奈川近代文学館では、9月23日まで企画展「『わたしのワンピース』50周年 西巻茅子展―子どものように、子どもとともに」を開催しています。(公式サイト→こちら
 
 
『サン・サン・サンタ ひみつきち』かこさとし/作 白泉社 2019/9/9

 
かこさとしさんが描いたクリスマスの絵本があったなんて!と、教文館ナルニア国の新刊コーナーでみつけて、思わず飛びついてしまいました。1986年に偕成社から出版されたこの絵本は、長らく絶版になっていましたが、この度白泉社から復刊になりました。北極の氷の下に誰も知らない巨大な工場があるといって始まる、なにやら壮大な物語です。その秘密の工場には世界中からありとあらゆるゴミがロケットやコンテナで集約されています。ところがそれらのゴミはリサイクルされて、子どもたちが喜ぶおもちゃへと変身するのです。そしてクリスマスイブには・・・そこから先はぜひこの絵本を手に取って読んでみてください。かこさんらしい楽しい結末が待っています。
 
 
 
『巨大空港』鎌田歩/作 福音館書店 2019/9/5

巨大空港 (福音館の科学シリーズ)
鎌田歩
福音館書店
2019-09-04
 
 
乗り入れ航空会社99社、一日の発着数は300便以上、世界約40か国と結ばれている日本の玄関口、成田空港を丁寧に取材して描いたという図鑑絵本です。鈴木のりたけさんの『しごとば』シリーズを彷彿とさせる精緻な描写で、巨大な空港のあちこちで繰り広げられる人々の動きや、モノの動き、仕事をする人、旅行する人、大勢の人が交錯する活気をそのまま絵の中に閉じ込めています。圧巻は、見開き1mを超える第1ターミナルの俯瞰図です。この絵本を開くと、「グッドモーニング、ナリタ アプローチ」と管制塔に朝一番の無線が入るところから始まる空港の一日を、旅行客や、空港で働く人などさまざまな目線から体験できることでしょう。(公式サイト→こちら
 
 
『チェクポ おばあちゃんがくれたたいせつなつつみ』イ・チュニ/文 キム・ドンソン/絵 おおたけきよみ/訳 福音館書店 2019/9/5

韓国の美しい絵本がまた1冊、翻訳されました。オギは学校へ行く時に、おばあちゃんが作ってくれたチェクポに荷物を包んでいます。チェクポとは、布の端切れをつないで風呂敷状にしたものです。しかしお友達のダヒが背負っている赤い鞄が羨ましく思います。そんなオギの気持ちを知ってか知らずじゃ、ダヒはオギのチェクポをかっこ悪いとからかい、仲違いしてしまいます。そんな帰り道、ぬかるみにハマって、スカートが濡れてしまったダヒの窮地をオギのチェクポが救います。おばあちゃんが丁寧に縫ってくれたチェクポを誇りに感じるオギの清々しい表情が素敵です。(公式サイト→こちら
 
 
 
『ちいちゃな女の子のうた “わたしは生きてるさくらんぼ”』新版 デルモア・シュワルツ/文 バーバラ・クーニー/絵 しらいしかずこ/訳 ほるぷ出版 2019/9/10

2019-09
 
 
 
在アメリカのユダヤ人の詩人デルモア・シュワルツの詩にバーバラ・クーニーが絵をつけた作品。1981年にほるぷ出版から出版されてましたが、しばらく絶版となっていました。この度新版として復刊されました。少女が、自我に目覚め、自分は自分、何にだってなれると高らかに歌い上げます。彼女には、老いへの恐れもなく、未来は輝いています。私たちはおとなは、希望を閉ざすことがないように、若い世代に未来を手渡す責任を負っているんだなと、読んでいて感じました。世界中の女の子が、誇りをもってまっすぐに前を向いて歩けるように、おとなの責任は重大です。
 
 
『みかづきちゃん てをつなご』東君平/作 亜紀書房 2019/9/20

みかづきちゃんてをつなご
東 君平
亜紀書房
2019-08-23
 
「てをつなご てをつなご つなぐと ともだち うまれるよ たのしいことが はじまるよ」つきのわぐまのみかづきちゃんが、きつねさんとてをつなぎます。きつねさんは、おさるさんとてをつなぎ、おさるさんはいぬさんとてをつないで、そうやってつぎつぎとつながっていきました。誰かを嫌って争うのではなく、お互い違う存在だけど、お互いを尊重し、繋がっていくことができれば、平和を創り出すことができるのに、今、世の中はなんだか物騒です。子どもたちの世界から、まずはつながることの幸せ、楽しさを伝えていきたいと思います。1984年に福武書店から出版され、しばらく絶版となっていましたが、この度復刊されました。君平絵本のサイト(→こちら)からは動画で見ることもできます。
 
 
 
 
(作成K・J)

 

2019年6,7月の新刊から(その2)


2019年6月、7月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、7月30日に公開した(その1)で紹介できなかった作品を紹介します。(その1→こちら)(一部、見落としていた5月以前の新刊も含まれます)

 

ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。出版されたすべての新刊本を購入して読むことはできませんが、毎月、教文館ナルニア国の新刊本コーナー、クレヨンハウス新刊本コーナー、横浜日吉にあるともだち書店など、信頼できる児童書の目利きのいる書店にある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。

 

(なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

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【絵本】

『あつい あつい』垂石眞子/作 福音館書店 2019/6/10

あつい あつい (幼児絵本シリーズ)
垂石 眞子
福音館書店
2019-06-05
 
 
 
あまりにも暑い昼日中、ペンギンが日陰だと思って入ると、それはおっとせいの落とした影。おっとせいといっしょに日陰を探して入ると、それはカバの落とした影、そして3匹はゾウの落とした影の中で涼むという具合に、小さな動物がより大きな動物の影に入るのですが、大きなゾウだって暑い!そこで涼しいところを求めてみんなで移動した先は、広~い海だったという楽しいおはなしです。毎日、うだるような暑さが続きこの時期にぜひ読んであげたいですね。月刊誌「こどものとも年少版」の2008年8月号がハードカバーになりました。
 
 
『なっちゃんのなつ』伊藤比呂美/文 片山健/絵 福音館書店 2019/6/10 

なっちゃんの なつ (かがくのとも絵本)
伊藤 比呂美
福音館書店
2019-06-05
 
 
 
なっちゃんがお友達のともちゃんちへ遊びに行きますが、ともちゃんは不在。そこでなっちゃんは川原へ向かいます。生い茂る草花は夏の暑さの中でも勢いがあります。くずに、ひまわり、せいばんもろこしにせいたかあわだちそう、おおあれちのぎくにひめむかしよもぎ、サルビア、おしろいばな。どれも身近な植物です。生き物もあおさぎにばったにちょうちょ、せみ。自然の中で夏を感じる子どもの姿を片山健さんが生き生きと描いています。この作品は、月刊誌「かがくのとも」2003年9月号で、この夏ハードカバーになりました。この絵本をもって、夏の花や生物を探しに行けるといいですね。(2019年8月7日に福音館書店のサイトふくふく本棚に作者伊藤比呂美さんのエッセイ記事が掲載されました→こちら
 
 
 
『焼けあとのちかい』半藤一利/文 塚本やすし/絵 大月書店 2019/7/12

焼けあとのちかい
半藤 一利
大月書店
2019-07-15
 
 
 
作家で昭和史研究家でもある半藤一利さんの実体験を基にした絵本です。第二次世界大戦の終戦時に中学生だった半藤さんは、1945年3月10日に東京下町を襲った東京大空襲の中、命からがら焼夷弾の雨の中を逃げ回ります。その年の8月に戦争は終わりますが、その時に「絶対に正義は勝つ。絶対に神風がふく」と言われて信じていたことは何だったのかと考え、もう「絶対に」という言葉は使わないと決心をしたのです。「戦争だけは絶対にはじめてはいけない」ということ以外には。
「いざ戦争になると、人間が人間でなくなります。たとえまわりに丸こげになった数えきれないほどの死体がころがっていても、なにも感じなくなってしまいます。心が動かなくなるのです。戦争のおそろしさとは、自分が人間でなくなっていることを気がつかなくなってしまうことです。」と、その体験から若い世代に伝えてくれています。半藤さんは、秋篠宮家の悠仁親王からの「太平洋戦争はなぜ起こったのか」という質問にも、丁寧に答えていらっしゃいます。(記事→こちら
戦争を体験した世代が高齢化し、直接体験を聞くことが出来なくなっている現在、このように子どもたちにわかりやすい作品が発表されることは、大切なことと思います。絵本ですが、対象年齢は小学校中学年以上でしょう。画家の塚本やすしさんは、ご自身のお母さまの戦争体験の絵本も発表されています。(せんそう 昭和20年3月10日 東京大空襲のこと』塚本千恵子/文 塚本やすし/絵 東京書籍 2014/2/20)
 
 
 
 
『いまもいっしょだね』きむらだいすけ/作 イマジネイション・プラス 2019/7

いまも いっしょだね (imagination unlimited)
きむら だいすけ
イマジネイション ・プラス
2019-07-26
 
 
 
おじいさんが飼っていた犬のシフォンは町の人気者でした。散歩に出かけると、シフォンのまわりには子どもからおとなまで多くの人が集まってきました。ところが、ある時、シフォンは病気になってしまいます。町のみんなが心配をしてくれますが、シフォンの病気はよくなりません。おじいさんは一生懸命看病を続けますが、シフォンはとうとう息をひきとります。おじいさんは意気消沈。動けなくなってしまいます。それでもある時、シフォンの夢を見ます。シフォンに顔を舐められる夢でした。おじいさんは、シフォンは「もういたくないんだね!もうくるしくないんだね!」、そう思うとやっと立ち上がって外に出ることができたのです。町へ出ていくと、シフォンがいっしょにいるのだと感じられるのです。人も動物もいつかは老いるということや、命のこと、死による別れがテーマの絵本ですが、中心にあるのは種を超えた友情であり、生命の尊厳について、丁寧に、描かれていて、読後感はとても温かい気持ちになる作品です。きむらだいすけさんは2016年にうんちコロコロ うんちはいのち』(岩崎書店)という絵本も出版されています。
 
 
 
【読み物】
 
『平和のバトン 広島の高校生たちが描いた8月6日の記憶』弓狩匡純/文 広島平和記念資料館/協力 くもん出版 2019/6/27

平和のバトン: 広島の高校生たちが描いた8月6日の記憶
広島平和記念資料館
くもん出版
2019-06-17
 
 
 
今日、広島は74回目の原爆忌を迎えました。記念式典では松井・広島市市長が平和宣言を表明しました。(→こちら)新聞報道によると、昨年の原爆忌以降に亡くなった広島の被爆者は5068人で、生存中の被爆者の平均年齢は82.65歳となったそうです。(→こちら)人類が初めて体験した原爆の悲惨な体験を語り継げる人々が、どんどん高齢化しているのです。2006年に、「このままでは原爆のことが忘れられてしまう」と危機感を抱いた広島平和記念資料館からの『次世代と描く原爆の絵』(公式サイト→こちらを手がけてほしいという申し出に、広島市立基町高校創造表現コースの生徒たちが応じました。あまりに辛い体験で、それまで誰にも話さなかった体験を、高校生に語り始める高齢の被爆者。そのあまりもの悲惨さに、どう描こうかと逡巡する高校生たち。戦争とは何か、平和とは何か、真摯に向き合い、証言を絵に仕上げていった過程を取材したノンフィクションです。
 
 
【紙芝居】
 
『ちっちゃいこえ』アーサー・ビナード/脚本 丸木俊・丸木位里「原爆の図」より 童心社  2019/5/20

ちっちゃい こえ (単品紙芝居)
アーサー・ビナード
童心社
2019-05-25
 
 
広島に移り住んだ詩人で作家のアーサー・ビナードさんは、広島出身の画家、丸木俊・丸木位里夫妻の描いた15巻の「原爆の図」から、構想を得て、「原爆の図」に描かれたものの中から16の場面を切り取って、原爆と放射能による身体への影響を伝える紙芝居を作ろうと決心します。構想から7年、数々の試行錯誤を重ねて、5月に童心社から『ちっちゃいこえ』という紙芝居が完成し、出版されました。(童心社公式サイト→こちら)制作にかかった7年の歩みを、広島のテレビ局がドキュメンタリー番組にしています。こちらの動画は、8月末まで無料で見ることができます。(RCC・PLAY 2019年3月26日放送「ちっちゃいこえがきこえる?~いま、「原爆の図」をよむ~」→こちら)クロというネコの目を通して描かれる原爆の被害。一瞬にして広島の街と夥しい数の生き物を焼き殺してしまった原爆の光は、その後も体の細胞を壊し続けていると、原爆だけではなく、放射能の問題にも言及する内容になっています。こうした悲惨な現実を乗り越えて、それでも生きるということに希望の光を見出す作品にもなっています。RCCの番組では、保育園児に語って、幼児では抱えきれない恐怖に泣いてしまう子も出ていました。やはり、こうした戦争の現実を扱う作品は、前出の『焼けあとのちかい』と同様に、小学校中学年以上だと思います。
 
 
 
(追記)
 
『かみさまのおはなし』(藤田ミツ/原作 渡邊みどり/復刻提案 高木香織/構成 講談社 2019/5/28)について

かみさまのおはなし
渡邉 みどり
講談社
2019-05-30
 
 
 
昭和15年(1940年)に刊行された『カミサマノオハナシ』を復刻したものです。原作者の藤田ミツ氏は幼稚園経営者で、『古事記』をやさしい言葉になおして、子どもたちに読み聞かせたものをまとめたそうで、語りかけるようなわかりやすい文章になっています。    

ただし、日本神話が戦時協力体制に利用された時代の作品で、戦いを神の宣託として肯定するような内容が、強調されている面があります。

どのように命が生まれ、国が生まれたのか描かれ、個性的な神々が登場するスケールの大きな物語は、子どもたちを引きつける力があり、ぜひ伝えていきたいものです。類書などと比較して、子どもたちにどのような形で手渡していくのがよいのか検討してみてください。

おすすめの類書

『子どもに語る日本の神話』三浦佑之/訳 茨木啓子/再話 こぐま社 2013/10/25

子どもに語る日本の神話
茨木 啓子
こぐま社
2013-10-01

 

 

 

『古事記物語』福永武彦/作 新版 岩波少年文庫 岩波書店 2000/6/16

古事記物語 (岩波少年文庫 (508))
福永 武彦
岩波書店
2000-06-16

 

 

 

『はじめての古事記 日本の神話』竹中淑子・根岸貴子/文 スズキコージ/絵 徳間書店  2012/11/30

はじめての古事記
竹中淑子
徳間書店
2012-11-10

 

 

 

(作成K・JとT・I)

2019年4月、5月の新刊から(その2)読み物(6/26追加あり)


2019年4月、5月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの読み物を紹介します。(一部、見落としていた3月以前の新刊も含まれます)

 

ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。出版されたすべての新刊本を購入して読むことはできませんが、毎月、教文館ナルニア国の新刊本コーナー、クレヨンハウス新刊本コーナー、茗荷谷てんしん書房、横浜日吉にあるともだち書店、代官山蔦屋書店児童書売り場など、信頼できる児童書の目利きのいる書店にある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。

 

(なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

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【詩集】

ここで紹介する2冊は、「詩集」とくくってよいか、迷いました。それでも詩を中心に組み立てられているので、「児童書」ではなく、「詩集」として紹介します。

『ぼくがゆびをぱちんとならして、きみがおとなになるまえの詩集』斉藤倫/著 高野文子/画 福音館書店 2019/4/15

 

学校帰りや、遊びに行く途中、「きみ」はふらっと「ぼく」の家に遊びに来ます。そして「きみ」は学校であったこと、テストのこと、遊びのこと、そして時には人がいつか死を迎えることなど、話してくれます。そのたびに「ぼく」は積みあがった本棚から、詩集を選んで「きみ」に手渡すのです。手渡す詩は、現代詩から俳句まで、その時々でさまざまです。小学生の「きみ」は詩を読みながら、瑞々しい感性でそれを味わっていきます。読み進めるうちに「きみ」と「ぼく」の関係性もわかってきます。親でも先生でもない、こうしたメンターともいえる人との出会いは、素敵だなと感じます。いつかおとなになっていく、思春期前期の小学校中高学年の子どもたちに読んでほしい詩を「きみ」と一緒に味わってほしいと思います。ただ、この本をそのまま小学中学年に手渡せるかというと、読者を選んでしまうでしょう。まずは子どもに本を手渡すおとなが読んでみることをおすすめします。また、思春期真っただ中のYA世代には、ピンとくるものも多いでしょう。
この本に関して、絵本ナビに詳しい紹介記事があります。そちらも参考にしてください。(→こちら

 

『どうぶつたちのナンセンス絵本』マリー・ホール・エッツ/詩・絵 こみやゆう/訳 アノニマ・スタジオ 2019/4/19

どうぶつたちのナンセンス絵本
マリー・ホール・エッツ
アノニマ・スタジオ
2019-04-22

こちらの本も「絵本」と題名にあるのですが、幼年童話といってよいページ数です。そして表紙には「マリー・ホール・エッツ詩・絵」と表記されています。1ページに、あるいは見開き2ページにひとつの絵が鉛筆画で描かれていて、そこに短い文章がついています。それがまたちょっと不思議な世界を醸し出しています。たとえば「カタツムリってやつはだね、ペットにしたら そりゃいいよ.部屋とはね、ベッドをね、はじめから もってるからね」なんて書かれていて、しかも最後は「ぼんごはんのときにはね、ケチャップ  かけて、食べることだって できるのさ.」ですって。これこそナンセンスという世界は、繰り返し読んでみると、ふっと肩の力が抜けて楽しくなってきます。アノニマ・スタジオのサイトも参考にしてください。(→こちら

 

【児童書】

『ノウサギのムトゥラ 南部アフリカのむかしばなし』ビヴァリー・ナイドゥ―/作 ピート・フロブラー/絵 さくまゆみこ/訳 岩波書店 2019/3/27

ノウサギのムトゥラ: 南部アフリカのむかしばなし
ビヴァリー ナイドゥー
岩波書店
2019-03-01

 

アフリカ南部ツワナ人の間に伝わる昔話です。ノウサギのムトゥラが、大きくて力のある動物に知恵で立ち向かっていく痛快なおはなしです。小さな子どもたちは、知恵をつかえば自分を脅かす大きな力にも立ち向かえることを学ぶでしょう。8つの短いおはなしにわかれているので、子どもに語ってあげることもできます。著者のあとがきに「知恵を使って、力のずっと強い動物たちに立ち向かう小さなノウサギのお話は、奴隷にさせられた人々といっしょに、広い大西洋を渡りました。奴隷の所有者たちは、とらえたアフリカ人の身体を好きなように使うことはできたかもしれませんが、心まで支配することはできませんでした。」と、書いてあってハッとしました。誰からも支配されない強い心をもつようにという、アフリカの大地からのメッセージでもあるのですね。文字はおおきく、漢字にはルビもふってあるので、小学校低学年から読むことができます。

 

 

『月白青船山』朽木祥/作 岩波書店 2019/5/10

 
 
朽木さんのデビュー作『かはたれ』とその続編『たそかれ』(いずれも福音館書店)と同じ北鎌倉を舞台にした作品です。北鎌倉あたりには切通と呼ばれる鎌倉幕府が戦略的に作った山中の道が800年前からそのまま残っています。草木が鬱蒼と茂る切通を抜けて鎌倉時代へ、もしタイムスリップをしたら、どんな世界が広がっているのでしょう。夏休みに、鎌倉に住む大叔父さんの家に預けられた兄弟と、その家に出入りする女の子が一緒に、その地に伝わる歴史を紐解き、800年という時を遡って、そこに生きていた人々の暮らしや愛に思いを寄せていきます。とても読みやすいファンタジー作品に仕上がっています。
 
 
『ワンダ・ガアグ グリムのゆかいなおはなし』ワンダ・ガアグ/編・絵 松岡享子/訳 のら書店 2019/5/20

ワンダ・ガアグ グリムのゆかいなおはなし
ワンダ ガアグ
のら書店
2019-05-20
 

『100まんびきのねこ』などの作品があるアメリカの絵本作家ワンダ・ガアグは、ボヘミア移民の家庭で幼い時からグリムに親しんできました。そのガアグが再話した「Tales from Grimm」は『グリムのむかしばなしⅠ』、『グリムのむかしばなしⅡ』が、のら書店から2017年に相次いで松岡享子さんの翻訳で出版されています。それ以外にも、グリムにはまだおもしろいお話があることを伝えたくて、その後ガアグは「Three gay tales from Grimm」を発表します。それを今回も松岡享子さんが翻訳されました。3つのおはなしが収められていますが、そのうちの「かしこいおよめさん」と「ハンス羽根まみれ」は、あまり知られていないおはなしです。どちらもなんともいえないおかしさ、楽しさをもったお話です。文字も大きく、ルビもふってあるので自分で読み始めた子どもたちにふさわしい1冊です。

 

【ノンフィクション】

『「空気」を読んでも従わない 生き苦しさからラクになる』鴻上尚史/著 岩波ジュニア新書 岩波書店 2019/4/19

日本ほど同調圧力(周囲から浮かないように目立たないように暗黙の了解で同じような行動をしたり、服装をしたりすること)の強い国はないでしょう。この1年の間だけでも、女子高生が生まれつきの茶色の頭髪を学校の規則で黒く染めさせられたとか、就職活動の服装が一律真っ黒いスーツであるとか、使い勝手が悪いのに小学校入学では全員がランドセルを背負っているという、同調圧力に関するニュース、話題に事欠きません。なぜ日本では周囲に合わせるのか、海外ではどうしてそのような同調圧力が起きないのか、歴史背景や社会の仕組みなどを丁寧に説明しながら、そのような社会での生き苦しさをどう理解し、どのように自分らしく生きていける伝えてくれます。グローバル化がすすみ、日本でも少しずつこれから変わっていくことでしょう。自分が自分らしくあるために「空気」を読んでも従わないという潔さは、これからますます大事になってくるでしょう。この本はユニバーサルデザインのフォントが使用されていて、とても読みやすいのも特徴です。

 

 

【その他 エッセイなど】

『あの日からの或る日の絵とことば 3.11と子どもの本の作家たち』筒井大介/編 創元社 2019/3/10

 

2011年3月11日14時46分、あなたはどこにいて、何をしていましたか?あの日以降、何がかわって、何がかわっていないのか。絵本編集者である筒井大介氏は、あの日以降、出版される絵本の傾向が変わったと感じて、33名の絵本作家が震災をめぐる記憶を書いたエッセイ集を企画しました。ひとりひとりが、それぞれ違う場所で、違った立場で感じたこと、今思うことなどを書いて、描いており、読者はそれに重ねて自分の軌跡をたどる作業が出来るのではと思います。創元社のサイトも参考にしてください。(→こちら

 

『のこす言葉 中川李枝子 本と子どもが教えてくれたこと』中川李枝子/著 平凡社 2019/5/10

中川さんといえば『ぐりとぐら』、『ぐりとぐら』といえば中川さんというように、そのデビュー作は、今もロングセラーとして多くの子どもたちを魅了し続けています。そのおいたちや、若いころにみどり保育園で保育士をされていたころのエピソードを読んでいると、この作品は生まれるべきして生まれたのだとも感じました。平凡社の「のこす言葉」シリーズの1冊です。(→こちら

 

『子どもの本のもつ力―世界と出会える60冊』清水真砂子/著 大月書店 2019/6/14

この1冊だけは、4,5月に出版されたものではなく、出版されて書店に並び始めたばかりの1冊です。『ゲド戦記』の翻訳や児童文学評論で知られる清水真砂子さんが選んだ60冊の児童書に関するエッセイです。月刊誌『クレスコ』(クレスコ編集委員会・全日本教職員組合編)2011年1月号から2017年3月号まで6年に渡って連載されたものがもとになっています。「成熟とは子どもを卒業することと思いこんでいた私はこの頃から、大人になったはずの自分の中に子どもが生きていること、生きてのびやかに呼吸したがっていることに、少しずつ少しずつ気づいていきます。」(p5)の言葉にハッとさせられました。60冊の児童書(絵本含む)が「「かわいい」がとりこぼすものとは?」、「ひとり居がもたらしてくれるもの」、「毎日は同じじゃない」、「「たのしい」だけで十分!」、「子どもが”他者”と出会うとき」、「現在と昔とこれからと」という6つのテーマに分けられています。それだけでも、どこにどんな本が選ばれているんだろうと、興味津々になることでしょう。大月書店のサイトも参考にしてください。(→こちら

 

(作成K・J)

2019年4月、5月の新刊から(その1)絵本(追記あり)


2019年4月、5月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの絵本(特にノンフィクション絵本)を紹介します。(一部、見落としていた3月以前の新刊も含まれます)

 

児童書、YA向けの本は現在読んでいます。6月上旬にUPする予定です。

*6月7日に1冊追加しました。『ロバくんのみみ』

ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。出版されたすべての新刊本を購入して読むことはできませんが、毎月、教文館ナルニア国の新刊本コーナー、クレヨンハウス新刊本コーナー、茗荷谷てんしん書房、横浜日吉にあるともだち書店、代官山蔦屋書店児童書売り場など、信頼できる児童書の目利きのいる書店にある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。

 

(なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

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【絵本】
《ものがたり絵本》

『へいわとせんそう』谷川俊太郎/文 Noritake/絵 ブロンズ新社 2019/3/25

へいわとせんそう
たにかわ しゅんたろう
ブロンズ新社
2019-03-13
 
「へいわの〇〇/せんそうの〇〇」と、平和の時の姿と戦時中の姿を対比して見開きで次々に見せていく絵本です。「ボク」「ワタシ」「チチ」「ハハ」「かぞく」、平和の時は安らいでいるのに、戦争の時は悲しんでいたり緊張したりしています。際立つのは「どうぐ」でペンがピストルに変わります。そうやって次々ページをめくっていくと、「みかたのかお」「てきのかお」、「みかたのあかちゃん」「てきのあかちゃん」は変化せず同じ絵が使われています。敵と味方といえども同じ時代を生きている人であり、同じように未来があることをその絵で示しながら、国を背負って殺し合いをすることがどれ程無意味なことか、読者の側に気づかせようとしています。この絵本は短期間に3刷(2019/4/10)になっているように、反響が大きいことがわかります。ただ幼い子ども向きかというと、それは違うと思います。むしろ絵を見て言語化でき、その背景にまで想像を馳せることのできるYA世代~大人向けの絵本であるといえるでしょう。
 
 

『あるくくま』谷川俊太郎/文 祖敷大輔/絵 クレヨンハウス  2019/4/10

あるくくま
谷川 俊太郎
クレヨンハウス
2019-03-27
 
こちらも谷川俊太郎さんの作品です。87歳の今も衰えることのない創作意欲に驚かされます。この絵本は挿絵画家として活躍されているイラストレーター祖敷大輔さんの初の絵本作品です。未知の世界に向けて歩き出すくまの子。向かっていく先はどこでしょう。どこへでも行ける、そんな可能性を持っています。ところが、行き止まりになったかと思うとそれはとうさんぐまだったのです。絵本を読んでいて、ここで「あっ、これはくまの子の夢だったのか」と単純に判断しそうになります。子どもたちが育っていく中で、既成概念の枠で我が子を囲いがちな親という存在への谷川さんなりのメッセージなのかも。それでも「ぼくはばかじゃない」と高らかに宣言をして、親を踏み越えていくのが、成長であると思います。そう思うと、この絵本も可愛い絵だから小さい子向けかと思いがちですが、対象年齢はYA世代ではないでしょうか。(2019年5月18日に作者お二人のトークをクレヨンハウスで伺いました。→こちら
 
 

『なまえのないねこ』竹下文子/文 町田尚子/絵 小峰書店 2019/4/25

なまえのないねこ
竹下文子
小峰書店

 

この絵本の主人公は表紙絵になっているこの猫です。野良猫であるゆえに名前がありません。なまえのない猫は、名づけられているいろんな猫たちを紹介していきます。最後に雨の降る公園で少女に「きみ、きれいなメロンいろのめをしているね」と言われます。そして「おいで、メロン」と声をかけられてついていくのです。猫は「ほしかったのは、なまえじゃないんだ。なまえをよんでくれるひとなんだ。」と思うのです。名づけるということの意味を改めて感じさせてくれる絵本です。でも幼い子どもはもっと単純に、身寄りのないねこが少女に出会う絵本として楽しめるのではと思います。2019年5月9日から20日まで西荻窪にあるギャラリーURESICAにて絵本原画展も行われていました。

 

『ロバくんのみみ』ロジャー・デュボアザン/作 こみやゆう/訳 好学社 2019/5/18

ロバくんのみみ
ロジャー・デュボアザン
好学社
2019-05-16
 
ロバくんは、仲良しのうまのパットくんと水を飲んでいて、「パットくんのみみって、みじかくてすてきだな」と思います。そう感じた途端、自分の長くて立っている耳がみすぼらしく見えてしまいます。そこで牧場の仲間たちにどうしたらいいか聞いても回ります。いろんな仲間がいろんなアドバイスをくれるのですが、その度にうまくいきません。自分がそのままで受け入れられてるって自信がつくと、ロバくんに笑顔が戻ります。幼い子どもたちも「そのままでいいんだよ」とメッセージを受けとれることでしょう。絵本の見返しから美しく、大事に読み継ぎたい1冊です。原作は1940年に出版されています。
 

 

『あまがえるのかくれんぼ』舘野鴻/作 かわしまはるこ/絵 世界文化社 2019/5/20

あまがえるのかくれんぼ (世界文化社のワンダー絵本)
たての ひろし
世界文化社
2019-05-09
 
 
 
『しでむし』『つちはんみょう』など昆虫たちの精密かつ力強く描くことで定評のある舘野鴻さんが、今回は描画を生物画家かわしまはるこさんに任せて、あまがえるの生態についてのおはなしを作りました。子どもたちはあまがえるの子どもたちの目線にたって、あまがえるの体の色の変化について理解していくことでしょう。かわしまさんはご自身で何年もあまがえるを飼育しているそうです。絵からもあまがえるへの愛情を感じることが出来ます。

 

《ノンフィクション絵本》

『家をせおって歩く かんぜん版』村上慧/作 福音館書店 2019/3/10

 
福音館の月刊誌「たくさんのふしぎ」2016年3月号として出版された『家をせおって歩く』は、出版当時とても話題になりました。今回改訂、増補しハードカバーになって出版されました。家をせおう?それで全国あるく?高学年以上の子どもたちにとっては「家とはなにか」、「住むとはなにか」という既成概念を打ち破ることになるかもしれません。YA世代以上には、家をせおって歩きながら生活した日記をまとめた『家をせおって歩いた』(夕書房 2017/4)も一緒に合わせて読むことをお勧めします。
 

 

『牧野富太郎ものがたり 草木とみた夢』谷本雄治/文 大野八生/絵 出版ワークス 2019/3/20

草木とみた夢: 牧野富太郎ものがたり
谷本 雄治
出版ワークス
2019-02-27

「日本植物学の父」と呼ばれた牧野富太郎の伝記絵本です。江戸時代の終わりごろ、高知に生まれた富太郎は、幼い時から植物が大好きで、草木の観察をずっと続けていました。やがて東京に出て植物の研究をするようになるのですが、学歴のない富太郎は疎まれるようになります。そのような中で独学で研究を重ね、『大日本植物誌』を編纂します。大好きなものに没頭し、やがて夢をかなえた富太郎の生き方は、いろいろな示唆に富んでいます。園芸家でもある大野八生さんの絵も、柔らかい線なのに、強い意志を感じます。

 

『ダーウィンの「種の起源」はじめての進化論』サビーナ・ラデヴァ/作・絵 福岡伸一/訳 岩波書店 2019/4/23

ダーウィンの「種の起源」: はじめての進化論
サビーナ ラデヴァ
岩波書店
2019-04-24

1859年に『種の起源』を出版して、世に進化論を問いかけたチャールズ・ダーウィンのことは、誰でもよく知っていると思います。しかし『種の起源』を読んで、それをまた子どもにわかりやすく説明できる人は少ないのではないでしょうか。こちらの絵本は、『種の起源』を美しい絵と、子どもにわかりやすい表現で、解き明かしてくれます。作者のサビーナ・ラデヴァさんは分子生物学を学んだ後に、科学とアートを結び付ける仕事がしたいとイラストレーターになりました。この絵本が最初の作品です。日本語訳は生物学者の福岡伸一さんです。

 

 

《かがくのとも》

福音館書店の月刊誌「かがくのとも」は、創刊から50年を迎えました。この月刊誌が出始めた時のことは、とても印象に残っています。当時5歳下の弟がちょうど幼稚園の年長児で、その4月よりこの月刊誌を取り始めたからです。創刊号の『しっぽのはたらき』(川田健/文 薮内正幸/絵 1969年4月号)からして、5歳児の弟だけでなく当時10歳の私も夢中になりました。それまで当たり前のように感じていた身近なものを思いもよらぬ切り口で、「なぜだろう」「どうなっているんだろう」「どうすればいいのかな」と考える習慣を与えてくれました。その体験は、今もこうして「子どもに本を手渡す」という仕事の根幹に息づいています。4月に出版された記念誌と記念出版された作品を紹介します。(福音館書店の50周年記念サイト→こちら

『かがくのとものもと 月刊科学絵本「かがくのとも」の50年』かがくのとも編集部 福音館書店 2019/4/15

かがくのとものもと 月刊科学絵本「かがくのとも」の50年 (福音館の単行本)
寄藤文平+吉田考宏(文平銀座)デザイン
福音館書店
2019-04-16

 

世界で初めて創刊された月刊科学絵本「かがくのとも」の50年の歴史と、その全作品について知ることができる1冊です。これまで数回、「かがくのとも」の編集者の方々のおはなしを伺う機会があり、1冊の月刊誌にかけている時間は、構想から始まって完成まで平均3年~4年と聞いていましたが、この本の第3部「1冊のかがくのともができるまで」には、その過程が丁寧に書かれています。この1冊で「かがくのとも」のすべてがわかる、そんな貴重な資料です。

 

『イワシ むれでいきるさかな』大片忠明/作 福音館書店 2019/4/15

イワシ むれで いきる さかな (かがくのとも絵本)
大片 忠明
福音館書店
2019-04-10

この絵本の初出は2013年5月号でした。小さなイワシがどのように海の中で生活しているのか、なぜむれで生きているのか、子どもたちにわかりやすく伝えてくれます。群れで生きて、たくさんの卵を産み、他の生みの生き物の餌としても貴重な存在であるイワシは、海の生態系の中でいかに重要なのか、示唆に富んでいます。

 

『かずくらべ』西内久典/文 安野光雅/絵 福音館書店 2019/4/15

かずくらべ (かがくのとも絵本)
西内 久典
福音館書店
2019-04-19

小さな子どもが数の概念を獲得していく時に使うのが指の数。指の数と対象とを比較して、5と同じか、多いか、少ないか、そんなところから数に対する概念が獲得されていきます。この絵本では数を比べることで理解できるように促してくれます。初出は、1969年9月号でした。

 

『まるのおうさま』谷川俊太郎/文 粟津潔/絵 福音館書店 2019/4/15

美しい絵柄の皿は「ぼくはなんてまるいんだろう。ぼくこそまるのおうさまだ。」と威張ります。ところが割れてしまうと、今度はシンバルが自分こそ王様だと主張します。でも大きなタイヤが登場すると、轢かれてしまいます。そうやって次々に我こそはまるのおうさまだと名乗るのですが、最後は宇宙にまで広がっていき・・・何が一番なのか結論は出ないのですが、身の回りにあるたくさんの丸、球について気づいていく作品です。初出は1971年2月号です。

 

『みち』五味太郎/作 福音館書店 2019/4/15

みち (かがくのとも絵本)
五味 太郎
福音館書店
2019-04-17

1973年5月号の『みち』は、五味太郎さんが28歳の時に作った絵本デビュー作品です。道といっても狭い道もあれば広い道もある。陸上だけでなく、川は船の道、そらにも飛行機の通り道が定められている、道を通るのは人間だけではなく、電線は電気の通り道、水道は水の通り道、というようにさまざまなものに道があるということを伝えたうえで、きみはきみの道を歩いてごらんと背中を押してくれるのです。

 

『やぶかのはなし』栗原毅/文 長新太/絵 福音館書店 2019/4/15

やぶかのはなし (かがくのとも傑作集 どきどきしぜん)
栗原 毅
福音館書店
1994-05-20

子どもたちに一番身近な害虫って、夏にその柔肌から血を吸う蚊でしょう。その蚊はなぜ血を吸うのか、そもそもすべての蚊が人間の血を吸うのか、蚊が吸うのは人間の血だけなのか、身近過ぎてあまり知らないことを、蚊の目線から教えてくれます。小さな生き物にも道理があるんだと知ることができるのではないでしょうか。この初出は1990年の7月号です。

 

『のうさぎ』高橋喜平/文 薮内正幸/絵 福音館書店 2019/4/15

のうさぎ (かがくのとも絵本)
高橋 喜平
福音館書店
2019-04-17

雪の上にてんてんと足跡がついています。これは野うさぎの足跡です。ピンと耳を立てて緊張している野うさぎ。そこへ空からクマタカが襲い掛かってきました。さて野うさぎは逃げおおせることができるでしょうか?動物や鳥の絵本を描くと右に出るものがないと言われた薮内さんが丁寧に描いた作品です。初出は1999年4月号でした。

 

その他、50周年記念の期間限定復刻出版で『むかしのしょうぼう いまのしょうぼう』(山本忠敬/作 1984年4月号→こちら)と、『せんせい』(大場牧夫/文 長新太/絵 1996年2月号→こちら)が出版されています。こちらの2冊はすでに持っているため、今回購入しませんでした。紹介は、福音館書店の公式サイトをご覧になってください。

 

(作成K・J)

2019年1月、2月の新刊から


2019年1月、2月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの絵本と幼年童話を紹介します。(一部、見落としていた2018年12月の新刊も含まれます)

ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。出版されたすべての新刊本を購入して読むことはできませんが、毎月、教文館ナルニア国の新刊本コーナー、クレヨンハウス新刊本コーナー、茗荷谷てんしん書房、横浜日吉にあるともだち書店、代官山蔦屋書店児童書売り場など、信頼できる児童書の目利きのいる書店にある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。

(なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

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【絵本】

『もういいかい』岡野薫子/作 太田大八/画 復刊ドットコム 2019/1/25

もう いいかい
岡野 薫子
復刊ドットコム
2019-01-19

1976年に講談社から出版されていた作品が復刊されました。かくれんぼでおにになったカオル。ともだちが遠くに走っていく気配を感じますが、ふいにすぐ後ろで「もういいよ」という声を聞きます。目を開けてみると、見知らぬ子がそこにはいました。その子はカオルを空き地にある自分の小屋に連れて行くと、そこで太鼓をたたき始めます。その不思議な子の頭には角が見えて、逃げ出すカオル。すると雷鳴が鳴り響き夕立が追いかけてきました。2016年に他界された太田大八氏の描く鬼の子の表情が印象的です。

 

『こんとん』夢枕獏/文 松本大洋/絵 偕成社 2019/2 

こんとん
夢枕 獏
偕成社
2019-01-25
 
“こんとん=混沌”なのでしょうか。「こん とん  こん とん 名前じゃないよ まだ 名前は ないからなあ」「名前が ないので だれでも ない。 だれでも ないのに だれでも ないから なんにでも なれる。」まるで禅問答のような言葉ではじまるこの絵本は、幼い子ども向けというよりは、おとなに向けて、あるいはYA世代に向けて作られた絵本と言っていいでしょう。目も耳も鼻も口もなかった「こんとん」に、ある日帝が目耳鼻口がつけた途端、「こんとん」は倒れて動かなくなる・・・いかに自分の目で見、聞き、嗅ぎ、自分の口で語ることが重いことなのか、と問いかける不思議な作品です。詩人工藤直子さんの息子で「鉄コン筋クリート」などヒットした作品を持つ漫画家の松本大洋さんが絵本を手掛けるのは、谷川俊太郎さんと組んだ『かないくん』(谷川俊太郎さん×松本大洋対談は→こちら)についで2冊目です。

 

*ノンフィクション絵本*

『数字はわたしのことば ぜったいにあきらめなかった数学者ソフィー・ジェルマン』シェリル・バード―/文 バーバラ・マクリントック/絵 福本友美子/訳 ほるぷ出版 2019/1/20

数字はわたしのことば: ぜったいあきらめなかった数学者ソフィー・ジェルマン
シェリル バードー
ほるぷ出版
2019-01-24
 
フランス革命が推し進められていた1776年4月に、ある裕福な家庭にソフィーという女の子が生まれます。当時のフランスでは女の子は家で教育を受けられればよいほうで、女子には学問は不要だと考えられていました。ソフィーが13歳の時に、バスティーユ襲撃が起こり、パリの街はきな臭い空気に包まれます。家に籠って過ごしていた時に父親の書庫から「数学の歴史」という本をみつけ、夢中になります。ソフィーは両親はもちろん周囲の偏見と闘いながら数学の研究を続け、大きな功績を残します。この絵本はそんなソフィーの生涯を、シェリル・バード―が大量の資料をもとに子どもたち向けに文章を書き、バーバラ・マクリントックが魅力的な絵をつけています。自分が関心をもったことを諦めずに極めていくことに対して勇気を与えてくれる伝記絵本です。
 
 
『キュリオシティ ぼくは火星にいる』マーカス・モートン/作 松田素子/訳 渡部潤一/日本語版監修 BL出版 2019/2/10

キュリオシティ ぼくは、火星にいる
マーカス・モートン
ビーエル出版
2019-02-02
NASAのマーズ・ローバー・ミッションを知っていますか?車型のロボット火星探査車を使った火星の調査のことです。先日も、2004年に打ち上げられ、当初3カ月の期間というミッションだった火星探査車オポチュニティが、昨年6月に砂嵐に襲われて太陽光発電できなくなっていましたが、再起動を断念、14年にわたる活動を閉じたことがニュースになりました。(→さよならオポチュニティ)この絵本では、オポチュニティの後継機キュリオシティの開発から、打ち上げ、そして火星上での探査について、とても丁寧に描かれています。開発過程では、火星での生命体を探す使命を果たすために、厳しく地球上のばい菌さえも付着しないよう細心の注意が払われていること、2年2か月ごとに地球と火星が接近するそのタイミングに打ち上げること、火星まで6億キロの距離を253日間かけて飛んだあと、無事に火星に降り立つためにもいくつもの難関を越えなければならないことなど、子どもにもわかるように説明されています。昨年11月には次の火星探査車インサイトも無事到着し、調査を開始しています。(→こちら)宇宙へ関心を持ち、そのことを通して地球の環境についても考えるきっかけとなる絵本です。
 
 
 
【児童書】

『ぼくは本を読んでいる。』ひこ・田中/作 講談社 2019/1/15

ぼくは本を読んでいる。
ひこ・田中
講談社
2019-01-17
 
小学校5年生になったルカは、両親が仕事で帰りの遅い日に出没したゴキブリを退治しようと追いかけて、両親の本部屋(天井まである本棚にびっしり本が詰まっている書斎)に入り込みます。ゴキブリは取り逃がしてしまいますが、脚立を使って覗いた棚の上に、紙カバーに包まれた本を5冊みつけます。そのうちの1冊のカバーを外すと『小公女』と書いてあり、出版年を見ると両親が10歳前後の時に出た本だとわかり、読み始めます。ルカの小学校での友人関係を絡めながら読書体験のなかったルカが、本を読むことで変化していく様子を描いています。文中で紹介されている『小公女』や『あしながおじさん』、『ゲド戦記』、『赤毛のアン』などを、この機会にその年代の子どもたちに読んでもらえるといいなと思いました。
 
 
『ルイジンニョ少年 ブラジルをたずねて』かどのえいこ/文 福原幸男/絵 ポプラ社 2019/1

ルイジンニョ少年: ブラジルをたずねて
かどの えいこ
ポプラ社
2019-01-08
 
2018年に国際アンデルセン賞作家賞を受賞された角野栄子さんのデビュー作の復刻版が出版されました。角野さんが1959年にブラジル移民団にに混じって貨客船でブラジルまで旅をし、2年間サンパウロで過ごした経験をもとに書いています。タイトルのルイジンニョ少年(ジンニョとは親しみをこめて男性の名前につける呼称、ルイスくん)は、実際に角野さんがサンパウロにいた時に同じアパートに住んでいて、ポルトガル語の会話の先生役を引き受けてくれた9歳の少年です。この物語では、主人公のえいこさんがルイスくんの家に下宿している設定になっています。1960年代のブラジル・サンパウロの様子、陽気で肌の色で分け隔てないブラジルの人々の気質などを、ルイジンニョ少年との交流を通して描いた作品です。復刻版あとがきもぜひ読んでほしいと思います。
 
 
 
『メアリ・ポピンズ』トラバース/作 岸田衿子/訳 安野光雅/絵 朝日出版社 2019/1/25

メアリ・ポピンズ
トラバース
朝日出版社
2019-01-26
 
「安野光雅の絵で読む世界の少年少女文学」の『小さな家のローラ』『赤毛のアン』、『あしながおじさん』に続く4冊目です。このシリーズは、「子どもから大人まで楽しめる」「長く読み継がれる」という視点で安野さんご自身が作品を選んで挿絵を描いていらっしゃいます。安野さんって今年93歳になられるのです。その安野さんの描きおろしの絵がまたとても素敵で、すでに別の出版社から出ている作品を読んでいても、安野さんの絵で読みたくなります。翻訳は岸田衿子さん。1993年に河出書房新社より刊行された訳を、著作権継承者の了解を得て使用しているそうです。安野さんは生前の岸田さんとも交流があったので、さらに思い入れもあったことでしょう。2月1日にディズニー映画「メリー・ポピンズ リターンズ」も公開されたところです。この作品に出合ってもらえる機会となりそうですね。
 
 
【ノンフィクション】

『ことばハンター 国語辞典はこう作る』飯間浩明 ポプラ社 2019/1
 
国語辞典の編纂については三浦しをん氏の小説『舟を編む』(光文社 2011)とその映画化で、多くの人が知るところとなりました。これは国語辞典編纂の仕事について、編纂者の飯間浩明さんが小学校高学年~YA世代に向けて書いた本です。飯間さんは、2018年6月放送のNHKの番組「プロフェッショナル仕事の流儀」で取り上げられました。(→こちら)番組を見て、街をめぐり、人々との会話から、生きた新しいことばをキャッチし、それを端的な文言で説明するというその仕事ぶりに魅せられたものでした。辞書を定期的に改訂することは、「ことばの変化を知り、気づかなかった事実に気づき」(「おわりに」より)それを観察し記録していくことであり、ネット時代になりスマートフォンで、すぐに何でも調べられる時代であっても、おろそかにできない大切な仕事なんだと知ることができました。子どもたちにことばは生きているということ、ことばは面白いということをこの本を通して伝えたいと思いました。
 
 
『ミッション・シロクマ・レスキュー』ナンシー・F・キャスタルド、カレン・デ・シーヴ/著 田中直樹/日本版企画監修 土居利光/監修 ハーパーコリンズ・ジャパン 2019/2/15

ミッション・シロクマ・レスキュー (ナショナル ジオグラフィック キッズ)
ナンシー・F・キャスタルド カレン・デ・シーヴ
ハーパーコリンズ・ ジャパン
2019-02-08
 
ホッキョクグマがロシア北東部ノバヤゼムリヤ列島の集落を大挙して襲ったというニュースを2月半ばにワールドニュースで見ました。(→こちら)地球の温暖化の影響で、生息地を追われているシロクマたちの状況を象徴するようなニュースでした。ニュースになったころにちょうど出版されたこちらの本では、シロクマの生態を詳しく知ったうえで、なぜシロクマたちの住む場所がなくなっているのかを、親子でどうしたらよいか考えることができます。シリーズ既刊の『ミッション・パンダ・レスキュー』、『ミッション・ライオン・レスキュー』と合わせて、子どもたちに動物の現状を通して環境問題について知ってほしいと思います。(既刊の2冊はこちらで紹介→2018年11月、12月の新刊から
 
 
【詩】
 
『まど・みちお詩集 ぞうさん』まど・みちお/詩 童話屋 2019/1/23

まど・みちお詩集 ぞうさん
まど・みちお
童話屋
2019-01-26
 
まど・みちおさんの詩が、童話屋のポケット詩集になりました。これまでたくさんのまどみちお詩集が出ていますが、この本は文庫本サイズで携帯しやすく、四季折々、あるいは気分に合わせて声に出して読みたくなります。おはなし会でもぜひ詩を紹介してあげてください。
 
 
【その他】
 
『元「童話屋」読書相談員 向井惇子講演録「どの絵本読んだらいいですか?」』向井ゆか/編 かもがわ出版 2019/1/15
 
渋谷にあった子どもの本の専門店「童話屋」(1977~1998)の創業スタッフで読書相談員をしていらした向井惇子さんの講演録です。童話屋閉店後(『のはらうた』を始めとする童話屋の出版部門は続いています)、フリーの絵本アドバイザーとして目黒区東山絵本勉強会や川崎市宮前文庫グループなどを中心に講演会や勉強会の講師を、2017年に亡くなられる三日前まで務めていらっしゃいました。その講演の記録をまとめたものです。私自身も杉並区の文庫の勉強会で講演を聞いています。向井さんの語りかける言葉がそのまま響いてくるようで、子育てを始めたばかりの若いご両親や、図書館で初めて仕事をする人たちにも、「絵本を選ぶ」ということは、どういうことなのか、わかりやすく教えてくれる1冊です。
 
 
『子どもと本をむすぶ 児童図書館のあゆみ』児童図書館研究会 20191/23
2016年度児童図書館研究会全国学習会(東京学習会2017/2/26~27)の分科会「児童図書館研究会のあゆみ 先輩に学ぶ」の記録を編集した冊子です。構成は二部にわかれていて、第一部は元江東区城東図書館長福嶋禮子さんに研究会設立当時について聞く「福嶋さんに聞こう!」、第二部は慶應義塾大学非常勤講師汐崎順子さんに、図書館の児童サービスの歴史を聞く「児童サービスの歴史」になっています。過去を振り返りつつ、変化の激しい現代の子どもたちにどのように本を手渡していくのか、児童サービスに関わるものに考えること、そして行動することを促します。(児童図書館研究会の公式サイトは現在リニューアル中となっており、サイトから購入できませんが、銀座・教文館ナルニア国では、この冊子を扱っています)
 


『のこす言葉 安野光雅 自分の眼で見て、考える』安野光雅/作 のこす言葉編集部/編 平凡社 2019/2/6

 

 
平凡社の「KOKORO BOOKLETのこす言葉」シリーズの1冊です。これは、“一つのことを極める上でどんな知恵を積み重ねてきたのか。人生の先輩が切実な言葉で伝える語り下ろしの自伝シリーズ”(→こちら/週刊「読書人」Webより)で、1984年に国際アンデルセン賞画家賞を受賞した安野光雅さんの「自分の眼で見て、考える」はその第3弾となります。92歳になった安野さんは現在も新作を発表し続けていらっしゃいます。その原動力となっているのは何か、この本を読んでいると見えてきます。その生き生きとした語り口に、安野さんの絵の魅力に繋がっているものを感じました。

(作成K・J)

2018年の新刊から*見落としていた本の紹介


2018年9月~12月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、見落としていたおすすめの本を紹介いたします。(前回紹介した記事は→こちら

2019年1月の新刊は現在チェック、読んでいる最中です。2月に記事をUPしますので、もう少しお待ちください。

 

ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。出版されたすべての新刊本を購入して読むことはできませんが、毎月、教文館ナルニア国の新刊本コーナー、クレヨンハウス新刊本コーナー、茗荷谷てんしん書房、横浜日吉にあるともだち書店、代官山蔦屋書店児童書売り場など、信頼できる児童書の目利きのいる書店にある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。

(なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

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【絵本】

『リズムがみえる』ミシェル・ウッド/絵 トヨミ・アイガス/文 金原瑞人/訳 ピーター・バラカン/監修 サウザンブックス社 2018/9/25

リズムがみえる
トヨミ・アイガス
サウザンブックス社
2018-10-01

冒頭に「この本は、アフリカ系アメリカ人の音楽の歴史をアーティストの目を通して描いたものです。」とあります。読み進んでいくうちに 500年以上前の大航海時代に始まり300年も続いたと言う奴隷貿易の歴史と、過酷な環境に身を置きながらも音楽を通して先祖のリズムを伝えてきた人々の歴史に圧倒されました。躍動感溢れる絵と、その脇に小さく記された歴史の年表との落差に、アフリカ系アメリカ人の歩んできた道のりが見えてきます。ファンクやラップ、ヒップホップの好きなYA世代にぜひ手に取ってもらいたい1冊です。(サウザンブックスのページへ→こちら

サウザンブックス社は、クラウドファンディングを用いて、世界中の価値ある絵本を日本に紹介している出版社で(出版のコンセプト→こちら)、2018年10月にレズビアンの母親の家庭を描いた『ふたりママの家で』(パトリシア・ポラッコ/作 中川亜紀子/訳)も出版しています。
合わせて5年前に出版された岩波ジュニア新書の『魂をゆさぶる歌に出会う―アメリカ黒人文化のルーツへ』(ウェルズ恵子/著 岩波ジュニア新書 2014/2)も紹介するとよいでしょう。アフリカ系アメリカ人の文化の歴史がより詳しく、わかりやすく解説されています。(私も後輩から教えてもらいました)



 

『オーロラの国の子どもたち』イングリとエドガー・パーリン・ドーレア/作 かみじょうゆみこ/訳 福音館書店 2018/11/15

オーロラの国の子どもたち (世界傑作絵本シリーズ)
イングリとエドガー・パーリン・ドーレア
福音館書店
2018-11-14
 
北ヨーロッパ・ラップランド(スカンジナビア半島北部)に住むサーミ族の生活を、ラッセとリーセの兄妹の視点から描くドーレア夫妻の作品です。ドーレア夫妻はリンカーンの伝記絵本で1940年にコールデコット賞を受賞しています。妻のイングリはバイキング末裔で、ノルウェー育ちです。その美しい自然と生活を子どもたちに知らせたいと、実際にノルウェー北部を取材して絵本にしました。厳しい自然の中でトナカイを放牧し、夏の間だけ学校に通う子どもたちの姿が生き生きと描かれています。2017年12月には菱木晃子さんが『巨人の花嫁 スウェーデン・サーメのむかしばなし』(平澤朋子/絵 BL出版)(紹介文→こちら)を出版していますが、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、ロシアのコラ半島北部に暮らす先住民族サーミ(サーメ)に対する知識と理解が大きく進んできた証と言ってよいでしょう。福音館書店の公式サイト「ふくふく本棚」のページに、文化人類学者葛野昭浩氏によるサーミ族とこの絵本についてのエッセイが掲載されています。(→こちら

 

 

『つちをほらなくなったスチームショベル』ジョージ・ウォルターズ/文 ロジャー・デュボアザン/絵 こみやゆう/訳 好学社 2018/12/7 

つちをほらなくなったスチームショベル
ジョージ・ウォルターズ
好学社
2018-12-11
 
蒸気を使って動かすショベルカーは1839年に発明され、19世紀後半から20世紀の初頭に大活躍します。特にパナマ運河の掘削ではその威力を発揮しますが、1930年以降ディーゼルエンジンで動くショベルカーへと変遷していきます。この絵本は1948年にアメリカで出版されているので、世代交代が進み始めた頃のスチームショベルが主人公です。たまたまそばを通りかかった孫が「ぼく、スチームショベルになりたい」と言ったのに対し、おばあさんがスチームショベルは土を食べるから汚れている、そんなものになるな、と答えるのを聞いてしまいます。そして土を食べるのをやめで、その男の子が好きだという食べ物を探して暴走をするのです。色彩の魔術師と評されるデュボアザンが、黄色と青色を効果的に使った鮮やかで軽妙な絵で、ショベルカーをまるで恐竜のような命あるものとして描いていて、それがとてもユーモラスです。

 

【児童書】

『野生のロボット』ピーター・ブラウン/作・絵 前沢明枝/訳 福音館書店 2018/11/15 

野生のロボット (世界傑作童話シリーズ)
ピーター・ブラウン
福音館書店
2018-11-14

ロボットの輸送船が難破して無人島に流れ着いたロボットのロズ。ラッコのいたずらでスイッチが入り太陽光で充電され目覚めて活動を始めます。島の環境に順応しつつ野生動物から学ぶロズの姿に、動物たちもロズに心開いていきます。あれ?ロボットって感情を持ってないはず、野生化するなんてあり得るのだろうか、と思う方にはまずは読んでみてほしいと思います。

(作成K・J)

2018年11月、12月の新刊から


2018年11月、12月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの絵本と幼年童話を紹介します。(一部、見落としていた10月の新刊も含まれます)

ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。出版されたすべての新刊本を購入して読むことはできませんが、毎月、教文館ナルニア国の新刊本コーナー、クレヨンハウス新刊本コーナー、茗荷谷てんしん書房、横浜日吉にあるともだち書店、代官山蔦屋書店児童書売り場など、信頼できる児童書の目利きのいる書店にある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。

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【絵本】

『セリョージャとあそぼう!ロシアのこどものあそびとうたと』ナディア・コズリナ/作 まきのはらようこ/訳 カランダ-シ出版 2018/11/2 

セリョージャとあそぼう! ロシアのこどものあそびとうたと
ナディア コズリナ、 まきのは らようこ
カランダーシ
2018-11-02
 
灰色おおかみのセリョージャが、遊びながらロシアに伝わる子どもたちのための詩、わらべうた、鬼ごっこ、お菓子作り、一緒に遊べる布人形作りを紹介していきます。わらべうたは楽譜付き、ロシアの子どもたちの生活を思い浮かべながら楽しめる1冊です。作者のナディア・コズリナさんは1981年生まれのグラフィックデザイナーで、現在は東京で絵を描きながらロシアアートの歴史講義やロシア語教師をしています。カランダ-シ出版はロシア語絵本を専門に出版しているひとり出版社です。

 

『ねこのオーランド― たのしい日々』キャスリーン・ヘイル/作 こみやゆう/訳 好学社 2018/12/18

ねこのオーランドー たのしい日々
キャスリーン・ヘイル
好学社
2018-12-15
 
 
福音館書店の大型絵本『ねこのオーランド―』の姉妹版。ねこのオーランド―とグレイスの夫婦には3匹のこねこがいます。こねこたちを学校に行かせるために、オーランド―たちは、いろんなものを発明して学費を稼ぎます。しかしグレイスはこねこが巣立つことに寂しさを感じ、肝心のこねこたちは学校も行きたがりません。そこでこねこたちに習い事を始めさせます。大人の目線では、すごく人間臭いオーランド―とグレイスに親しみを覚えますが、子どもたちは無邪気なこねこたちの気持ちになっておはなしを楽しむことでしょう。両親の前で習い事の発表会をするこねこたちが、とにかく可愛らしく、心弾む絵本です。英国では1942年に初版が出版されていますが、親の気持ち、そして子どもたちの思いはいつの時代も変わらないんだなと改めて感じました。
 
 
 
 
児童書】
『ぼくはくまですよ』フランク・タシュリン/文・絵 小宮由/訳 大日本図書 2018/12/25

 
一頭のくまが冬眠から目覚めると、森だったところが眠っている間に切り拓かれて工場になっていました。工場の主任に仕事をさぼっていると思われたくまは必死で「ぼくはくまですよ」と訴えるのですが、「おまえは、くまじゃなく人間だ。それも毛皮のコートを着こんだ、ひげもそらない、とんちんかんだ。」と信じてくれません。主任は部長に、部長は常務に、常務は専務に、専務は副社長に、副社長は社長に訴え、そのたびに「ぼくはくまですよ」と必死で訴えるのですが、いつも答えは同じ。「おまえは、くまじゃなくて、人間だ。それも毛皮のコートを着こんだ、ひげもそらない、とんちんかんだ」が繰り返されます。そこで動物園のくまや、サーカスのくまのところへ連れていかれるのですが、そこでも答えは同じです。さてこのくま、一体どうなってしまうのでしょう。荒唐無稽のおはなしではありますが、この作品が作られたのが第二次世界大戦終戦の翌年と考えると、いろいろな意味を含んでいるとも思えます。しかし、こどもは純粋に、くまの気持ちになって最後まではらはらしながらおはなしを楽しむことができるでしょう。文字も大きく挿絵もたっぷりあるので、ひとりで読み始める小学校低学年におすすめです。
 
 
 
『ジュリアが糸をつむいだ日』リンダ・スー・パーク/作 ないとうふみこ/訳 いちかわなつこ/絵 徳間書店 2018/12/31

ジュリアが糸をつむいだ日 (児童書)
リンダ・スー パーク
徳間書店
2018-12-11
 
韓国系アメリカ人の女の子ジュリアは7年生(中1)。引っ越していった先でパトリックと仲良くなり、一緒に楽農クラブに入会します。これは子どもたちに農業について教えてくれるサークルです。そこで子どもたちはテーマを決めて自由研究をすることになっています。ふたりが選んだテーマは、カイコを飼うこと。ジュリアのお母さんの提案でした。ふたりは自由研究に取り組む中で、韓国系移民の歴史について、そしてカイコのえさの桑の葉を栽培する黒人のディクソンさんと出会うことで、人種差別についても深く考えるようになっていきます。また、大事に育てたカイコから糸を取るためには、カイコを蛾の成虫になるまえに殺すことを知って葛藤するジュリアは、家畜の命についても深く考えます。ひとつの学びをきっかけにして、成長していくティーンズの姿は、読み終わってとても爽やかなものがありました。作者は、『モギ ちいさな焼き物師』(片岡しのぶ訳、あすなろ書房)で2002年度に米国最高の児童文学賞ニューベリー賞を受賞しています。
 
 
 
『風と行く者 守り人外伝』上橋菜穂子/作 佐竹美保/絵 偕成社 2018/12

 
 
 
 
 
 
「守り人シリーズ」の待望の外伝3作目です。タルシュ帝国との戦いが終わり、タンダと平穏な暮らしをしていたバルサは、久しぶりに草市に出かけます。そこでバルサが16歳だったころ、養父ジグロとともに護衛したことのあるサダン・タラム(風の楽人)一行と再会します。シャタ(流水琴)を奏で、異界エウロカ・ターン〈森の王の谷間〉への道を開くことのできるサダン・タラムのお頭は何者かに命を狙われます。再び、サダン・タラムの護衛をしてロタに旅立つことになったバルサは、氏族間の抗争が続くロタ北部の歴史の闇を覗くことになるのです。新しいお頭は、もしかしてジグロの忘れ形見なのか、それを知りたくて一気に読んでしまいました。



 
【詩】
『クリストファー・ロビンのうた』A・A・ミルン/作 E・H・シェパード/絵 小田島雄志・小田島若子/訳 河出書房新社 2018/10/18

クリストファー・ロビンのうた
A・A・ミルン
河出書房新社
2018-10-17



『クマのプーさんとぼく』A・A・ミルン/作 E・H・シェパード/絵 小田島雄志・小田島若子/訳 河出書房新社 2018/10/30

クマのプーさんとぼく
A・A・ミルン
河出書房新社
2018-10-17
 
晶文社から1978年に出版されたミルンの詩集『わたしたちがおさなかったころ』(When We Were Very Young,1924)を翻訳した『クリストファー・ロビンのうた』が10月18日に、1979年に出版された『いまわたしたちは六歳』(Now We Are Six,1927)を翻訳した『クマのぷーさんとぼく』が10月30日にそれぞれ新装復刊として河出書房新社から出ました。ミルンが子どもたちのために書いた詩には、子どもの自由な想像力、あそびや自然が描かれており、思わずくすりと笑ってしまいます。子どものこうした無邪気さを失いたくないと思いました。声に出して読んであげたいですね。
 
 
 
【ノンフィクション】
『NATIONAL GEOGRAPHIC ミッション・パンダ・レスキュー』キットソン・ジャジンカ/著 土居利光/監修 田中直樹/日本版企画監修 ハーバーコリンズ・ジャパン 2018/11/25

ミッション・パンダ・レスキュー (ナショナル ジオグラフィック キッズ)
キットソン ジャジンカ
ハーパーコリンズ・ ジャパン
2018-11-24
『NATIONAL GEOGRAPHIC ミッション・ライオン・レスキュー』アシュリー・ブラウン・ブリュエット/著 土居利光/監修 田中直樹/日本版企画監修 ハーバーコリンズ・ジャパン 2018/12/25

ミッション・ライオン・レスキュー (ナショナル ジオグラフィック キッズ)
アシュリー ブラウン・ブリュエット
ハーパーコリンズ・ ジャパン
2018-12-25
 
 
こちらの2冊は、購入したものではなく、出版社から贈呈されたものです。絶滅危惧種である動物たちについて詳細にその生態と生息環境について調べられた本です。情報量が大変多く、対象年齢は高学年以上と思われますが、もっと低学年の子どもにも、親子で読むことで関心をもってほしいとお笑い芸人ココリコの田中さんが日本語版の企画に携わっています。出版社の想定した対象年齢と、本の中身とのギャップに、ここで紹介すべきかと迷ったシリーズです。しかし世界の野生動物たちの現状を深く捉えたものとして評価出来ると思い、こちらの2冊を紹介します。
 
 
【その他】
『わたしはよろこんで歳をとりたい』イェルク・ツィンク/著 眞壁伍郎/訳 こぐま社 2018/10/25

わたしはよろこんで歳をとりたい
イェルク ツィンク
こぐま社
2018-10-18
 
児童書専門の出版社こぐま社の佐藤英和さんがどうしても出版したかったと願っていらしたドイツの神学者が自らの老いをみつめて語る「老い」をテーマにしたエッセイです。児童書ではありませんがぜひ紹介したいと思います。幼児と老人では人生の春と冬に例えられますが、深層心理学の世界では老人はまた幼児のころに戻っていく、世の中を捉える視点が生産性の高い青年・壮年の時とは変化し、感性の部分で両者は共通性をもっている、共感しあえる存在として捉えられています。「ツィンクが語る、わたしたちは秋の実のように大地にうもれながら、新しい春の芽生えをまっているという姿に、長年子どもたちと読書活動をしてきた、わたしの知人友人たちもまた、深い慰めと励ましを受けた」と訳者あとがきにあるように、子どもたちのそばにいる私たちにとって、人生を考え、また次の世代になにを手渡すべきかということも知らせてくれる、深い文章です。誰もが、一日、一日と老いに向かっています。ほんの少し歩みをとめて、老いていく人生の意味を考えてみるのもよいかもしれません。
 
 
 
『あふれでたのはやさしさだった 奈良少年刑務所 絵本と詩の教室』寮美千子/著 西日本出版社 2018/12/7

 
奈良に転居したのをきっかけに奈良少年刑務所で「物語の教室」を始められた作家の寮美千子さん。少年刑務所に通って、少年たちと詩や物語を学ぶうちに、彼らは凶暴な悪人ではなく、実は貧困の中で、あるいは親からの虐待を受け、心に傷を負っていることに気づいていきます。そうした中で彼らが詠んだ詩は、2011年に『空が青いから白をえらんだのです―奈良少年刑務所詩集』として新潮社から出版されました。この本は、少年刑務所の中で起きた数々の奇跡の記録です。人が人として生きていくために、一番大切なものは何なのか、私たちにその問いを突き付けてくる1冊です。詩集と一緒に紹介してほしいと思います。
 
 
『本・子ども・絵本』中川李枝子/著 山脇百合子/絵 文春文庫 文藝春秋 2018/12/10

本・子ども・絵本 (文春文庫)
中川 李枝子
文藝春秋
2018-12-04
 
1997年に大和書房から出版された『ぐりとぐら』の作者中川李枝子さんのエッセイが、文庫版になって戻ってきました。カラーの撮りおろし写真のページも加わり、その上軽くていつでも通勤のバッグの中に忍ばせておけます。「生まれてきてよかった」とすべての子どもたちに思ってほしい。絵本の世界で豊かな経験をした子どもは人生に希望と自信をもって進むことができるという中川李枝子さんのメッセージを、今子育てしている若いご両親にもぜひ届けたいと思います。



 
『暴力を受けていい人はひとりもいない CAP(子どもへの暴力防止)とデートDV予防ワークショップで出会った子どもたちが教えてくれたこと』阿部真紀/著 高文研 2018/12/10

 
『あふれでたのはやさしさだった』では犯罪を犯してしまった少年たちが、幼少期に何らかの暴力(ことばの暴力も含む)を受けていると指摘していました。しかし、CAP(子どもへの暴力防止)とデートDV予防ワークショップの活動を続けてきた認定NPO法人エンパワメントかながわの阿部真紀さんは、「その暴力を受けていい人は誰ひとりいないのだ」と明言します。さまざまな暴力を他人事ではなく、自分のこととして捉えられるようにするには、子どもの時から繰り返しそのことを伝えていくしかありません。ここに記された活動の記録は、憲法に保障された基本的人権を守る活動でもあります。子どもたちが未来に向かって、自信をもって生きていけるために、目をそらさず、自分事として受け止めたい。そして、子どもに関わる多くの人に読んでほしいと感じた1冊です。



(作成K・J)
 

2018年10月、11月の新刊から


2018年10月、11月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの絵本と幼年童話を紹介します。(一部、見落としていた9月刊行のものが含まれています)

ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。出版されたすべての新刊本を購入して読むことはできませんが、毎月、教文館ナルニア国の新刊本コーナー、クレヨンハウス新刊本コーナー、茗荷谷てんしん書房、横浜日吉にあるともだち書店、代官山蔦屋書店児童書売り場など、信頼できる児童書の目利きのいる書店にある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。

(なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

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【絵本】

『ジャーニー国境をこえて』フェランチェスカ・サンナ/作 青山真知子/訳 きじとら出版 2018/9/15

ジャーニー 国境をこえて
フランチェスカ・サンナ
きじとら出版
2018-09-03

イタリアに生まれた20代の作家Francesca Sannaの作品です。イタリアの難民センターで出会った二人の女の子の話がきっかけで、地中海を命がけで渡ってくる人々のことを絵本にしたいと思い、スイスのルツェルン応用科学芸術大学でイラストレーションを学び、この作品が生まれました。2016年にイギリスで作品が発表されると、ケイト・グリーナウェイ賞候補から選ばれるアムネスティCILIP特別賞やさまざまな賞を受賞しました。日本語版は、板橋区立いたばしボローニャ子ども絵本館主催いたばし国際絵本翻訳大賞〈英語部門〉で最優秀大賞を受賞して翻訳、出版されました。この絵本を題材にして人権を学ぶワークシート(アムネスティ・インターナショナル英国支部作成)をきじとら出版のホームページからダウンロードできるようになっています。(→こちら)世界中で、難民の問題がクローズアップされている今、子どもたちとも一緒に考えてみたいテーマです。

 

『おほしさまのちいさなおうち』渡辺鉄太/文 加藤チャコ/絵 瑞雲舎 2018/10/1

おほしさまの ちいさなおうち
渡辺 鉄太
瑞雲舎
2018-09-16

おもちゃであそぶのも、絵本を読むのも飽きてしまった男の子がおかあさんになにか楽しい遊びを教えてと頼みます。するとおかあさんは「おほしさまは、よぞらにすんでいるだけじゃないのよ。 とびらも まどもない ちいさな あかい おうちにも すんでいるの」といって、そのおうちを探す探検を提案するのです。果たしてその「とびらもまどもない ちいさなあかいおうち」は、どこにあるのでしょう。「おほしさまのちいさなおうち」はアメリカ、イギリス、オーストラリアなどの英語圏でリンゴの季節になると語られるおはなしだそうです。それを題材にしてオーストラリア在住の児童文学者渡辺鉄太さんが文章におこし、連れ合いの絵本作家加藤チャコさんが絵を描いた夫婦合作絵本です。

 

『鹿踊りのはじまり』宮沢賢治/作 ミロコマチコ/絵 三起商行(ミキハウス) 2018/10/11

 
宮沢 賢治
三起商行
2018-10-01

鹿たちが見たことのない手拭いの正体をめぐっておどおどと、でも興味津々に近づいていくという滑稽で躍動感のある宮沢賢治の作品「鹿踊りのはじまり」に、勢いのある筆致で伸びやかな動物たちを描いて国の内外で評価の高いミロコマチコさんが絵をつけました。方言とミロコマチコさんの絵が相まってなんとも言い難い魅力の詰まった作品になっています。足にけがをして湯治をしようと山奥の温泉に向かう百姓の嘉十は、途中で食べた栃の実団子を鹿のためにと残していくのです。しばらく行ってから手拭いを忘れてきたことに気づいて戻ってみると、手拭いのまわりに六匹の鹿が集まっているではありませんか。不思議なことに、嘉十の耳がきいんと鳴って鹿のことばが聞こえるようになり、鹿たちが手拭いの正体をおっかなびっくり確かめようとしていることを知ります。そのやりとりの滑稽さと、手拭いが何も害を及ぼさない「干からびたなめくじ」とわかって踊りだす様子も、そして思わず飛び出していった嘉十に驚いて鹿たちが逃げて行った後に、銀色に輝くすすきの原の様子なども、躍動感溢れる筆使いで描かれています。1924年(大正13年)の作品ですが、ミロコマチコさんが絵を描くことで、今の子どもたちにも手にしてもらえるのではと思います。

 

『どんぐり 語りかけ絵本』こがようこ/文・絵 大日本図書 2018/10/10

どんぐり (語りかけ絵本)
大日本図書
2018-10-18

語りを大事にしてこられた絵本作家こがようこさんが、小さな赤ちゃんに語りかけるようにと作られた絵本です。パネルシアターで使うPペーパーにどんぐりをいくつも描いて、それをコラージュしているので、どんぐりが立体的に見えて、摘まめるかのようです。この絵本についてインタビュー記事が絵本ナビのサイトで公開されています。(→こちら)作者の思いを汲みながら、小さい子向けのおはなし会でぜひ読んであげてください。

 

 

『もみじのてがみ』きくちちき/文・絵 小峰書店 2018/10/11

もみじのてがみ
きくち ちき
小峰書店
2018-10-26

つぐみが持ってきた真っ赤なもみじの葉っぱ。ねずみはもみじの葉っぱを探しに出かけます。赤いものを見るたびに「みつけた」と喜びますが、赤いものはきのこだったり、つばきの花だったり、がまずみの実だったりと、なかなかもみじに行き当たりません。次々森の仲間も加わってやっとみつけたところは、一面真っ赤な絨毯を敷き詰めたようなもみじの林でした。「もみじのてがみ ありがとう ゆきじたく ゆきじたく」紅葉が散ると、いよいよ森は雪の季節を迎えます。このまま、きくちちきさんの『ゆき』(ほるぷ出版 2015)に繋がっていく世界観です。

 

『ロシアのお話 雪の花』セルゲイ・コズロフ/原作 オリガ・ファジェーエヴァ/絵 田中友子/訳 偕成社 2018/11

雪の花 (世界のお話傑作選)
セルゲイ コズロフ
偕成社
2018-10-24

ハリネズミくんともりのともだち』(S.オストロフ/絵 岩波書店 2000)や、『きりのなかのはりねずみ』(F.ヤールブソワ/絵 福音館書店 2000)など「ハリネズミと森の仲間達」シリーズが人気のロシアの児童文学作家コズロフの戯曲「雪の花」をもとにした絵本です。(偕成社のサイト→こちら)オリガ・ファジェーエヴァの絵は、この作品のための描きおろしで、彼女の作品が日本で出版されるのも今回が初めてです。大みそかの夜、どうぶつたちはモミの木を飾って新年を祝おうとしますが、ろうそくを持ってくるはずのクマの姿が見当たりません。訪ねていくとクマは高熱を出していました。そのクマのために、ハリネズミは医者のいう「雪の花」を探しに出かけるのです。日本ではモミの木を飾るのはクリスマスだというイメージがありますが、もともとヨーロッパではキリスト教に関係なく常緑樹のモミの木を生命の象徴として新年に飾っていました。ちょうど日本でも古くから門松を飾るのと同じです。そんなことも一緒に子どもたちに伝えられるといいですね。


『そらはあおくて』シャーロット・ゾロトウ/文 なかがわちひろ/訳 杉浦さやか/絵 あすなろ書房 2018/10/30 

そらはあおくて
シャーロット・ゾロトウ
あすなろ書房
2018-10-29
 
ある時、女の子は1冊の古いアルバムを開いておかあさんに尋ねます。「このこ、おかあさんなの?」子ども時代のおかあさんの服装や家の中の様子は今とは違って見えます。でもおかあさんはこう答えるのです。「たいせつなことは すこしも かわっていない。そらは あおくて、くさは みどり。ゆきは しろくて つめたくて、おひさまは まぶしく あたたかい。いまと おんなじだったのよ」と。おばあちゃん、ひいおばあちゃんのアルバムも順番に見ていく女の子。時代が変わっても、変わらない大切なものがあることを、おかあさんとの会話の中でみつけます。おかあさんは、そこで終わりではなく、いつかそれを自分の子どもたちに伝えてあげてほしいと語るのです。原書は1963年の「THE SKY WAS BLUE」で、それにはガース・ウィリアムズが絵を付けていました。今回、絵を描いた杉浦さんは、この絵本に出てくるのと同じ年頃の女の子を持つお母さんです。2018年の女の子から1980年代の母、1950年代の祖母、1920年代の曾祖母の子ども時代の様子を様々な資料で調べたとのこと。アルバムの中に描かれる風景や小物にも注目です。
 
 
 

『ゆき』はたこうしろう/絵 ひさかたチャイルド 2018/11

ゆき
ひさかたチャイルド
2018-11-21
 
文部省唱歌の「ゆき」がはたこうしろうさんの素敵な絵で1冊の絵本になりました。「ゆきやこんこ あられやこんこ・・・」一面の真っ白な雪原に真っ赤な帽子とコートの女の子が鮮やかに描かれ、雪にはしゃぐ表情もとても生き生きとしていて、思わず歌いだしてしまいます。図書館でのおはなし会でも子どもたちと一緒に歌ってもいいですね。

 

 

【クリスマスの本】

この秋に出版されたクリスマス関連の本を3冊紹介します。

『くるみ割り人形』E.T.A.ホフマン/作 サンナ・アンヌッカ/絵 小宮由/訳 アノニマスタジオ 2018/10/25

くるみ割り人形

E.T.A.ホフマン
アノニマ・スタジオ
2018-11-01

アノニマスタジオから出版されるマリメッコのデザイナーSANNA ANNUKKAによる本は、2013年のモミの木』、2015年の『雪の女王』に続いてこれが3作目。縦長で金箔押しの装丁で、文字も小さくぎっしり。子どもが自分で読む本というよりは、YA世代向けのおしゃれな本というイメージです。こみやゆうさんの翻訳はとても読みやすいので、クリスマスの季節、YA世代に手に取ってほしいなと思います。

 

『クリスマスのおかいもの』ルー・ピーコック/文 ヘレン・スティーヴンズ/絵 こみやゆう/訳 ほるぷ出版 2018/10/10

クリスマスのおかいもの
ルー ピーコック
ほるぷ出版
2018-10-15

原書はイギリスで2017年に出たOliver Elephant(Nosy Crow 2017)という絵本です。ルー・ピーコックさんの作品が日本に紹介されるのはこれが初めてで、こみやゆうさんが翻訳しました。クリスマスプレゼントを選ぶママのお供で、妹と一緒に買い物に出かけたノアくん。そのノアくんが連れているのがぬいぐるみのぞうのオリバーです。ママがプレゼントを選んでいる間オリバーと遊んで待っていたノアくん。いざ帰ろうとしたとき、オリバーが見当たりません。さっきまで一緒だったのに・・・ヘレン・スティーブンズの柔らかなタッチの絵も心地よく、幼い子どもの表情をよく捉えています。

 

 

『メリークリスマス―世界の子どものクリスマス―』R.B.ウィルソン/文 市川里美/画 さくまゆみこ/訳 BL出版 2018/10/20

メリークリスマス ―世界の子どものクリスマス
R・B・ウィルソン
ビーエル出版
2018-10-12

2000年前に中東の小さな町ベツレヘムで生まれたイエス・キリストの誕生を祝うクリスマスは、北欧に伝わる冬至祭りの風習と一緒になり、いつしかキリスト教国以外にも、楽しい冬のお祭りとして広がっていきました。クリスマスの起源となったイエスの誕生に関するおはなしに加えて、世界18か国のクリスマスの祝い方や、世界中で謳われているクリスマスキャロルなどを紹介するノンフィクション絵本です。そしてクリスマスはひとつの宗教を超えて、世界が平和になることを願い、すべての者が幸せになるように祈る日だという作者のメッセージが温かく伝わってきます。

 

 

【ノンフィクション】

『あずき』荒井真紀/作 福音館書店 2018/11/10

あずき (かがくのとも絵本)
荒井 真紀
福音館書店
2018-11-07
たんぽぽ』(金の星社 2017)でブラティスラヴァ世界絵本原画展金のりんご賞を受賞された荒井真紀さんが手がけた月刊かがくのとも2014年5月号『あずき』がハードカバーになりました。美味しそうなたいやきのあんこは何から出来ているんだろうと問いかけるところから始まって、あずき豆を土にまき、花が咲いて収穫し、それを使ってあんこを作るところまで丁寧に描いています。後半はあんこを使ったお菓子やお料理の紹介ページが続き、「むかしから、あずきのまめのあかいいろは おめでたいいろとされてきました。」という日本の食の文化にも触れています。子どもたちに伝えていきたい文化です。
 

 

『みずとはなんじゃ?』かこさとし/作 鈴木まもる/絵 小峰書店 2018/11/11

みずとは なんじゃ?
かこさとし
小峰書店
2018-11-08
 
今年5月2日に92歳で亡くなられた加古里子さんの最後の絵本です。(訃報を伝える記事→こちら)6月4日夜に放送されたNHK番組“プロフェッショナル仕事の流儀”「ただこどもたちのために かこさとし最後の記録」(→こちら)の中で、この作品を仕上げる過程で自力で絵が描けなくなり、絵本作家の鈴木まもるさんに依頼したこと、そのラフスケッチを見ながらかこさとしさんがご自身のこだわりの部分を伝えるシーンが映し出されていました。1962年に月刊誌「こどものとも」として作られた『かわ』から始まり、かがく絵本『』(1969)、『地球』(1975)で、地球上に豊かにある水がいかに不思議な存在であるか伝えてきたかこさん。1998年から構想していた「水のふしぎ」のテーマで、2016年に絵本制作に取り掛かり、2018年に3月に下絵が完成します。しかし完成させる体力が残ってないと覚悟され鈴木まもるさんに絵を依頼することになります。鈴木さんは急いでラフスケッチを描き、かこさんも死の直前の4月末まで構成を練られました。日々の生活に密着した「水」を幼い子どもたちにわかりやすく教えてくれる渾身の1冊、ぜひ子どもたちに手渡してあげてください。なお、初回特典としてこの本が出来るまでの経緯やかこさんの直筆原稿が盛り込まれた特性冊子がついています。(SLA発行の「学校図書館速報版11月15日号」にも「かこさとしさんの思いをつなぐ」と題して、この絵本の紹介記事が掲載されています)
 

 

【その他】

『絵本は心のへその緒―赤ちゃんに語りかけるということ』松居直/作 NPOブックスタート 2018/10/5

こんとあき』に使われた林明子の絵が表紙にあしらわれた薄手の本書は、日本でのブックスタートの理念を構築する際に大きな役割を果たした松居直氏のこれまでの講演や発言の記録の中から「赤ちゃんと絵本」、「ブックスタート」についての部分をまとめたものです。「言葉とは何か」、「共に居るということ」、「ブックスタートについて」の3章にまとめられた記録を読んでいると、福音館書店を子どもの本の専門出版社として大きく育てた松居氏ならではの子どもへの深い愛のまなざしを感じられて胸が熱くなりました。

 

 

『子ども文庫の100年 子どもと本をつなぐ人びと』高橋樹一郎/作 みすず書房 2018/11/1

この本は、子ども読書年の翌年の2001年から2004年にかけて公益財団法人伊藤忠記念財団と、公益財団法人法人東京子ども図書館が共同で行った「子どもBUNKOプロジェクト」がもとになっています。1974年から会社の社会貢献事業として文庫活動などに助成を続けている伊藤忠記念財団と、都内で活動を続けていた4つの子ども文庫を母体として1974年に生まれた東京子ども図書館が、設立30周年を記念して、文庫の実態を活動の意義を再確認するための事業でした。その調査をもとに、全国各地で一時期は公共図書館の3倍以上の数があった民間による小さな子どものための図書室の歴史と意義、文庫活動から図書館設立運動へとうねりが広がった経過など、時代を追って日本独特の文化と呼ばれる文庫活動に光を当て、子どもたちに本を手渡してきた人々の軌跡を記しています。ずっしりと重い10章にわたる論考は、日本の子どもたちの読書活動の一翼を担った文庫の貴重な記録です。

 

 

(作成K・J)

2018年9月、10月の新刊から(その2)


2018年9月、10月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの絵本と幼年童話を紹介します。

ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。出版されたすべての新刊本を購入して読むことはできませんが、毎月、教文館ナルニア国の新刊本コーナー、クレヨンハウス新刊本コーナー、横浜日吉にあるともだち書店、代官山蔦屋書店児童書売り場など、信頼できる児童書の目利きのいる書店にある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。

(その2)では、前回紹介しそびれた「加古里子のかがくの世界」セットの絵本と、読み物を中心に紹介します。

 

(なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

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【絵本】

加古里子のかがくの世界 あそびとくらし 絵本セット

*『だんめんず』加古里子/作 福音館書店 2018/10/05

だんめんず (かがくのとも絵本)
加古 里子
福音館書店
2018-10-03
 
表紙のピアノをはじめ、花瓶、車、家、子どもたちの身近にあるものが、次々と断面図で示されます。実際には切って見ることが出来ないものですが、こうして断面を示されると、普段使っているものや見ているものの構造に興味がわきますね。初出は月刊かがくのとも1973年3月号です。

 

『いろいろおにあそび』加古里子/作 福音館書店 2018/10/5

 
子どもの遊びを全国から収集して記録していた加古里子さん。この絵本はその中でも鬼ごっこだけに焦点をあてた絵本です。幼い時、公園に近所の子どもたちが集まると必ず鬼ごっこをして遊んだものでした。最近の子どもたちも鬼ごっこしているのでしょうか。この絵本を読んで今までやってなかったいろんな鬼ごっこに挑戦してほしいなと思います。時には図書館の児童行事で「鬼ごっこ大会」なんてやってみてはいかがでしょう?こちらは初出は月刊かがくのとも1999年8月号です。

 

*『ごむのじっけん』加古里子/作 福音館書店 2018/10/05

ごむのじっけん (かがくのとも絵本)
加古 里子
福音館書店
2018-10-03
 
ゴムの4つの性質を子どもにもわかりやすいように実験を使って解き明かし、それぞれの性質にあった使い方を示してくれる絵本です。特に輪ゴムは子どもたちにとって身近な遊び道具でもあります。身近なところから始まって、ジェット機や宇宙船で使われるゴム製品にまで関心を広げてくれる加古里子さんならではの科学絵本です。初出は月刊かがくのとも1971年9月号です。

 

『たこ』加古里子/作  福音館書店  2018/10/05

たこ(凧) (かがくのとも絵本)
加古 里子
福音館書店
2018-10-03
 
昔の冬の遊びの代表が凧揚げでした。凧揚げの出来る広い遊び場が減って、経験したことのない子どもたちが増えているかもしれませんね。この絵本ではハガキやポリ袋を使って出来る手作り凧の作り方を教えてくれています。小さな凧だったら、近所の公園でも試してみることができるかもしれません。親子で、祖父母と孫で、会話をしながら作ってみるのもいいですね。冬休みの子ども向け工作などのイベントにも繋げられそうです。初出は月刊かがくのとも1971年1月号です。
 

 

*『でんとうがつくまで』加古里子/作  福音館書店 2018/10/05 

 
スイッチを押せば電灯が灯ることを、普段当たり前だと考えて生活をしています。しかし一度地震や台風、洪水などの災害が起きると、何日も停電し、電気のありがたさをそこでやっと気づくことになります。この絵本では水力発電で生まれた電気が家庭に送られるまでをわかりやすく伝えるとともに、いろいろな発電の方法も教えてくれています。初出は月刊かがくのとも1970年1月号です。

 

『わたしもいれて!ふたりであそぼ、みんなであそぼ』加古里子/作 福音館書店 2018/10/05

ひとりで遊べる遊び、ふたりで遊べる遊び、では三人では?仲間が増えるたびに、人数ぴったりの遊びがつぎつぎと出てくるところはさすが加古里子さんです。道具がなくてもできる集団遊びがたくさん紹介されています。協調性の育成などと声高に唱えるよりも、この絵本に出てくる先生のように一緒に集団遊びに夢中になることが、子どもたちがいろいろな能力を身につける契機になるんじゃないかなと思いました。初出は月刊かがくのとも2001年4月号です。

以上の6冊はセット購入以外に1冊ずつでも購入が出来ます。そのうち*印のものは限定発売です。この機会をお見逃しなく。

 

 

【児童書】

『魔女のむすこたち』カレル・ポラーチェク/作 小野田澄子/訳 岩波書店 2018/9/14 

魔女のむすこたち (岩波少年文庫)
カレル・ポラーチェク
岩波書店
2018-09-15
 
岩波書店から1969年に出版されていた『魔女のむすこたち』が岩波少年文庫になってもどってきました。カレル・ポラーチェクはチェコの作家です。ユダヤ人であったポラーチェクは、ヨゼフ・チャペック、カレル・チャペック兄弟に出会ったことで創作活動に入っていきます。『魔女のむすこたち』は、とてもユーモラスで、つぎつぎに読者を裏切る面白い展開に思わず笑ってしまいます。挿絵はヨゼフ・チャペックで、お話のおかしさを増し加えています。自分で読めない子には読んであげることをお勧めします。耳から聞くと、そのユーモアが余計際立つのではと思います。
 

 

『きっちり・しとーるさん』おのりえん/作・絵 こぐま社 2018/9/25

 
なにもかも決められたとおりにきっちりとやらないと気が済まないしとーるさん。そんなしとーるさんは図書館の司書さんで、図書館の利用者にとってはちょっと怖い存在です。ところがある雪の夜にしとーるさんが子猫を拾います。生き物相手ではきっちりしたくても出来ないことに気がつくのです。さて、この子猫は図書館の館長にも利用者にも可愛がられることになるのですが、とくにその名前がちょっと素敵です。本を読むのが苦手な子にも読みやすい本をと作られたこぐま社の「どんどんぶんこ」の1冊です。

 

『カテリネッラとおにのフライパン-イタリアのおいしい話』剣持弘子/訳・再話 剣持晶子/絵 こぐま社 2018/9/25

 
イタリアの食べ物を題材にした昔話が4つ入っています。本のタイトルになっている「カテリネッラとおにのフライパン」は、フライパンを貸してくれた鬼にお礼のドーナツを届けるのに、途中で「1個だけなら」とつまみ食いをするカテリネッラという女の子の話。くいしんぼうもいい加減にしないと、大変なことになってしまうという教訓。ほかのお話も短くて楽しいものばなりです。これも「こぐまのどんどんぶんこ」の1冊です。この度発刊された『きっちり・しとーるさん』とこの本でシリーズ完結です。
 
 

『そらのかんちゃん、ちていのコロちゃん』東直子/作 及川賢治/絵 福音館書店 2018/10/5

 
雲の上の国にすんでいるかんちゃんが、雲のわたあめを食べていて、うっかり雲の穴から落っこちると、着いたところは地底の国でした。地底の国にすむコロちゃんと仲良くなって、お互い行き来をするようになります。そこに氷の国のレンちゃんにも加わります。かこさとしさんの『だるまちゃんとかみなりちゃん』を彷彿とさせるお話でした。詩人の東さんは小さい時、とても空想好きだったそうです。だからこんなお話が生まれたのだとインタビューに答えています。(福音館書店ふくふく本棚サイト→こちら)絵本から読み物に移行する子どもたちにもちょうどよい1冊です。

 

『いいたいことがあります!』魚住直子/作 西村ツチカ/絵 偕成社 2018/10

いいたいことがあります!
魚住 直子
偕成社
2018-09-19

小学校6年生の陽菜子は中学受験を控え、忙しく塾に通っています。仕事をしているお母さんは、塾の勉強以外にも陽菜子に家事も分担させます。ところが同じように私立の中学に進学した兄には家事を分担をさせないのです。そんな母親への不満もくすぶっているところへ、中学受験をしない友人たちから遊びの誘いがきて、陽菜子はついに塾をさぼってしまうのです。思春期の入り口で揺れる気持ち、とくに親子の感情の行き違いと和解を丁寧に描いていて好感が持てます。その年代の子どもたちにも、そこを通り過ぎた子たちにもお勧めできる1冊です。

【その他】

 『よみきかせのきほん-保育園・幼稚園・学校での実践ガイド』東京子ども図書館 2018/10/17

東京子ども図書館から読み聞かせに関するガイドブックが出ました。読み聞かせのための基本ガイド、そして本の持ち方まで丁寧に書かれており、本の紹介記事には本の内容だけではなく対象年齢と所要時間が書いてあり、プログラムを作成するのにとても役立つでしょう。図書館の事務用に準備しておくとよいと思います。

 

『読みたいのに読めない君へ、届けマルチメディアDAISY』牧野綾/編著 高井陽/イラスト 日本図書館協会 2018/9/30

 
知能はなにも問題がないのに、文字を読むことが困難、あるいは文字を書くことに困難をきたすという学習障害のひとつにディスレクシア(識字障害)があります。編著者の牧野さんはお子さんのひとりがディスレクシアであったことから、識字障害や視覚障害など紙による印刷物を読むことが困難な人の読書を支援するDigital Accessible Information System、通称DAISYに出会います。しかし当時は出版点数も少なく、教科書などに対応してなかったため、マルチデイジー教科書の製作と普及活動をするボランティア団体調布デイジーを立ち上げます。小さなブックレットですが、ディスレクシアの問題に図書館の児童サービスとしてどのように対応していけばよいのか、ヒントを与えてくれます。ぜひご一読をお願いします。
 
(作成K・J)

2018年9月、10月の新刊から(その1)


2018年9月、10月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの絵本と幼年童話を紹介します。(一部8月に出版されたものも含まれます)

ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。出版されたすべての新刊本を購入して読むことはできませんが、毎月、教文館ナルニア国の新刊本コーナー、クレヨンハウス新刊本コーナー、横浜日吉にあるともだち書店、代官山蔦屋書店児童書売り場など、信頼できる児童書の目利きのいる書店にある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。

なお、読み物は来週UPする予定です。

 

(画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

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【絵本】

『きんいろのきつね』大川悦生/文 赤羽末吉/絵 ポプラ社 2018/8 第42刷

大川悦生が再話し赤羽末吉が描いた那須野原に伝わる九尾の狐の民話が、しばらく手に入らない状況でしたが、この夏増刷されました。ここ2,3年のうちに国際アンデルセン賞画家の赤羽末吉の作品が掘り起こされ、再度手に入るようになっている背景には、作品を整理し、系統的に研究を重ねてこられた赤羽茂乃さん(赤羽末吉の三男の妻)の功績があります。『きんいろのきつね』で、ぜひ那須野原に伝わる九尾の狐と殺生石の伝説に出合ってほしいと思います。(参考:那須町工芸振興会サイト→こちら

 



『わたしたちだけのときは』デイヴィッド・アレキサンダー・ロバートソン/文 ジュリー・フレット/絵 横山和江/訳 岩波書店 2018/9/7 

わたしたちだけのときは
デイヴィッド・アレキサンダー・ロバートソン
岩波書店
2018-09-08

カナダであった史実をもとにした絵本です。15世紀末の大航海時代を皮切りに、カナダにもともと住んでいた先住民族は、ヨーロッパから移民してきた人々に土地を奪われ、先住民族が連綿と引き継いできた文化や言葉を否定され強制的に同化させられました。特に子どもたちは親から離され寄宿生活を強いられました。こうした政策は2008年6月に当時のカナダの首相スティーブン・ハーバーが「同化政策は先住民を深く傷つけた」と公式に謝罪するまで続きました。この絵本に出てくる可愛らしい女の子たちは、クリー族に生まれました。長期休暇などで教師がいない時だけ、子どもたちは民族の言葉を忘れないようにクリー語でお喋りするのです。おばあちゃんの思い出話として語られるこのお話は、つい最近まで数百年に渡って抑圧されながらも、民族の誇りを抱いて生きてきた人がいるということに気づかせてくれます。日本でもアイヌ民族への抑圧が有史以来長く続いてきました。誰もが、尊厳を傷つけられずに生きていける世界が実現されることを願いながら、読みました。2017年カナダ総督文学賞を受賞しています。



 

『かあちゃんのジャガイモばたけ』アニタ・ローベル/作 まつかわまゆみ/訳 評論社 2018/9/25

 
 
アニタ・ローベルが1967年に出版した『POTATOES,POTATOES』が、この度カラー版になって評論社から出版されました。この作品は1982年に今江祥智の訳で『じゃがいもかあさん』(偕成社)として出版されていました。戦争をはじめた東の国と西の国の間にある谷間に、ジャガイモ畑のふたりの息子を守るために高い塀を築いているお母さんがいました。塀の中だけは平和が保たれていましたが、ある日兄弟は兵士に憧れて東と西の国へ出ていき、それぞれが軍の大将になります。戦争が長引き、食料が底を尽いたとき、二人が思い出したのは、お母さんの畑でした。戦争の対極にある大切なことを教えてくれる絵本です。
 



 『アルフィーとせかいのむこうがわ』チャールズ・キーピング/作 ふしみみさを/訳 ロクリン社 2018/10/1

アルフィーとせかいのむこうがわ
チャールズ キーピング
ロクリン社
2018-10-02
 
 
1967年に『しあわせどおりのカナリア』でケイト・グリーナウェイ賞を受賞したイギリスの絵本作家チャールズ・キーピングの絵本です。この作品は1971年にラクダ出版から『アルフィーとフェリーボート』という題名で出版されていたものの新訳版です。日常とは違う遠い世界へ行ってみたいという冒険心を抱くことは、ある年代の小さな男の子にとってひとつの通過儀礼ともいえるでしょう。アルフィーが「せかいのむこうがわ」へ行けると思って乗り込んだ大きな船は、実はテムズ川の渡船で、日常の世界とは隣合せの場所へ連れて行くだけなのですが、アルフィーにとってはすべてが珍しい光と音に溢れていると感じられるのです。そうした心の動きを、美しい色彩で描き出した絵本です。
 
 
 
『ふたりママの家で』パトリシア・ポラッコ/絵・文 中川亜紀子/訳 THOUSANDS OF BOOKS  2018/10/29

ふたりママの家で (PRIDE叢書)
パトリシア・ポラッコ
サウザンブックス社
2018-11-01
 
わたしとウィル、ミリーの3人兄弟にはママがふたりいます。ママたちは同性カップルで、肌の色の違う子どもたちも生後間もなく養子になったのです。血縁はなくても家族5人は底抜けに明るく、仲良しです。ご近所の中には批判的な人もいますが、地域の人々と繋がりながら、互いを大切にする素敵な家族です。LGBTなど現代的な問題をテーマにしながらも、描かれているのはごく自然な家族の姿、子どもたちの成長です。日本も多様性を認める社会へ生まれ変わることが求められています。そんなことを考えるきっかけになればと思います。
 
 
【科学絵本】
『アリになった数学者』森田真生/文 脇坂克二/絵 福音館書店 2018/10/5

月刊誌たくさんのふしぎ2017年9月号で話題になった1冊が早くもハードカバーになりました。数学者の目から見た世界を美しい言葉と絵で表現した科学絵本です。人間の持っている数学の概念はアリに通じるのだろうか、と考えているうちにアリになってしまった数学者は、アリには人間の数字の概念は伝わらないけれど、アリにだけがわかる数があって彼らが世界を捉えているんだと気づいていきます。文系の私にも、数学の概念を俯瞰した視点で見せてくれる、魅力的な作品です。著者の森田さんは子ども時代から算数が大好きで、足し算の問題を出すと泣き止んだほど。今は在野で数学の世界を探求しています。(森田真生さんの公式サイト→Choreograph Lifeこちら)
 
 
 
【幼年童話】
『クリスマスのあかり チェコのイブのできごと』レンカ・ロジノフスカー/作 出久根育/絵 木村有子/訳 福音館書店 2018/10/15

美しい表紙の絵に思わず本を手にしたくなる本です。フランタという男の子が、クリスマスの前の日に、教会へ゛ベツレヘムのあかり″をもらいに出かけていきます。その途中で、亡くなった奥さんに捧げる花を盗まれて途方に暮れているドブレイシカおじいさんに出会います。フランタはおじいさんにもよいクリスマスが来るようにと、小さな頭で考えて奔走する心温まるおはなしです。チェコのクリスマスの様子は日本のそれとはずいぶん違っていて、素朴な感じがします。版型は絵本の大きさですが61ページとボリュームがあります。親が子に、一日少しずつ読んで聞かせてほしいと思います。

(作成K・J)

2018年6月、7月の新刊から(その1)絵本・児童書


2018年6月、7月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの本を紹介します。なお、ノンフィクションとYA向けは(その2)として来週公開する予定です。

ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。出版されたすべての新刊本を購入して読むことはできませんが、毎月、教文館ナルニア国の新刊本コーナー、クレヨンハウス新刊本コーナー、横浜日吉にあるともだち書店、代官山蔦屋書店児童書売り場など、信頼できる児童書の目利きのいる書店にある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。

 (なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

 

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【絵本】

『おばあちゃんのはこぶね』M.B.ゴフスタイン/作 谷川俊太郎/訳 現代企画室 2018/6/30

おばあちゃんのはこぶね (末盛千枝子ブックス)
M・B・ゴフスタイン
現代企画室
2018-07-02
 
2017年12月20日、77歳の誕生日に亡くなったアメリカの絵本作家ゴフスタインの絵本の復刊です。以前は1996年にすえもりブックスから出版されていました。90歳になるおばあちゃんは、子ども時代に父親が木工で作ってくれた’ノアの方舟’と木の人形たちをずっと大切にしてきました。人生のいろいろな節目で、それは大事な支えになっていたのです。幼い時の思い出が、人の人生をずっと温め続けてくれるのだというゴフスタインからの静かでいて力強いメッセージです。巻末にゴフスタインが亡くなる直前にホスピスにお見舞いに来た知人に語った最期のことばが収められています。

 

『すいかのプール』アンニョン・タル/作 斎藤真理子/訳 岩波書店 2018/7/19

すいかのプール
アンニョン・タル
岩波書店
2018-07-20

タイトル通り、真っ赤に熟れたすいかがプールになる、韓国のなんとも甘やかなファンタジー絵本です。でもほんとうにこんなプールがあるように思えてきます。今年は日本だけでなく、お隣韓国も猛暑に襲われたそうです。そんな暑い昼下がりに読むと、気持ちがすっとする、そんな気がします。

 

『シカの童女』岡野薫子/作 赤羽末吉/絵 復刊ドットコム 2018/7/25

シカの童女
岡野 薫子
復刊ドットコム
2018-07-21
 

1973年にあかね書房から出ていた絵本が復刊されました。北の山の仙人が谷川のそばで見つけた女の赤ちゃん。口はきけないけれど、可愛らしい少女に育ちます。不思議なことに、女の子が傷ついた足で歩くと、そのあとに美しいハスの花が咲くのです。ひとめぼれした若殿様は女の子を館に連れ帰ります。ところが若殿様がシカ狩りに行ってシカを仕留めると、女の子は館から姿を消してしまうのです。赤羽末吉の描く童女の姿がとても印象的です。

 

『こちらムシムシ新聞社~カタツムリはどこにいる?~』三輪一雄/作・絵 偕成社 2018/8

 
ムシムシ新聞社に持ち込まれた「カタツムリ」を見かけなくなったという投書をもとに、テントウムシの七星記者が調査を始めます。そうするとアスファルトやコンクリートで固められた都会はカタツムリにとっては棲みにくいところだとわかります。そこで田舎の方へ取材に出かけます。カタツムリの生態や、カタツムリが多くの生き物の餌になったり、殻が他の生き物の住処になっていることなどが、子ども達にもわかりやすく伝えてくれる科学絵本です。
 
【児童書】
 
『赤毛のアン』ルーシイ=モード=モンゴメリ/作 岸田衿子/訳 安野光雅/絵 朝日出版社 2018/6/20

赤毛のアン
ルーシイ=モード=モンゴメリ
朝日出版社
2018-06-20
 
岸田衿子さんが亡くなる前に翻訳していた『赤毛のアン』に安野光雅さんが絵をつけた作品。『赤毛のアン』といえば朝の連続テレビ小説でも取り上げられた村岡花子さんの翻訳で読んできた人が大半でしょう。岸田さんの文章は、村岡訳で親しんだものには、また違った印象を与えますが、とても読みやすく、安野さんの絵もまたふんわりと柔らかく好ましく仕上がっています。
 
 
『けんこうだいいち』マンロー・リーフ/作 渡辺茂男/訳 復刊ドットコム 2018/6/29

けんこうだいいち
マンロー・リーフ
復刊ドットコム
2018-06-29
 
1969年に学研から出版され、その後フェリシモから2003年に復刊されたマンロー・リーフの『けんこうだいいち』が、復刊ドットコムから再度復刊されました。「げんきなときにはけんこうのことなんか、あまりかんがえません」と始まるこの作品、どうしたら病気になることを予防できるか、ユーモアを交えて教えてくれるこの作品は、昔夢中になって読んだ記憶があります。新しい装丁で復刊されたので、子ども達にもすすめやすいでしょう。
 
 
『タイコたたきの夢』ライナー・チムニク/作・絵 矢川澄子/訳 徳間書店 2018/7/31

タイコたたきの夢 (児童書)
ライナー チムニク
徳間書店
2018-07-12
 
今年1月に復刊された上田真而子訳『熊とにんげん』に続いて、2000年にパロル舎から出ていた『タイコたたきの夢』が徳間書店から復刊されました。「ゆこう どこかにあるはずだ もっとよいくに よいくらし!」タイコをたたきながら人々を旅に誘い出すタイコたたきたち。こここそが新天地と思って腰を落ち着けても、すぐにもっとよいところがあるだろうと、タイコたたきたちはさらに旅を続けていきます。欲望に駆られて戦いに挑んだり、黄金に目がくらんで労働を放棄したり。おはなしはリズムよくすすんでいきますが、ところどころで手をとめて深く考えさせられます。シンプルな絵もまたこの本の魅力です。
 
 
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この夏は、児童向けのノンフィクションもたくさん出ていて、ただいま読み込んでいるところです。来週(その2)で紹介する予定です。どうぞお楽しみに!



(作成K・J)

2018年5月、6月の新刊から


2018年5月、6月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの本を紹介します。

ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。出版されたすべての新刊本を購入して読むことはできませんが、毎月、教文館ナルニア国の新刊本コーナー、クレヨンハウス新刊本コーナー、横浜日吉にあるともだち書店、代官山蔦屋書店児童書売り場など、信頼できる児童書の目利きのいる書店にある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。

 (なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

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【絵本】

『ちょうちょのためにドアをあけよう』ルース・クラウス/文 モーリス・センダック/絵 木坂涼/訳 岩波書店 2018/5/17

ちょうちょのために ドアをあけよう
ルース・クラウス
岩波書店
2018-05-18

子どもたちにとって日々の生活は、いろんなわくわくすることに満ち溢れている、そんな日々の気づきが可愛らしいつぶやきになっていて、またセンダックが描く子どもたちの表情がとても愛くるしい小さな本です。おとなはそんな子どもの表情に癒されるでしょうが、子どもは自分と同じ目線、同じ考えをもっているということに「そうそう!」と頷くのではないでしょうか。集団での読み聞かせには向かないかもしれませんが、子どもを隣に座らせて読んであげたいなと思いました。この本を介しておとなと子どもの会話が弾みそうです。私は「おかあさんと おとうさんを つくるのは あかちゃん もし あかちゃんが うまれなければ ふたりは どっちも ただの ひと」この一文が一番気に入りました。

 

『どしゃぶり』おーなり由子/文 はたこうしろう/絵 講談社 2018/6/12

どしゃぶり (講談社の創作絵本)
おーなり 由子
講談社
2018-06-14
 
暑い夏の午後、空にもくもくと育っていく入道雲。黒い雲のかたまりがこっちに来ると思うと、「ぼつっ!ぼつっ!ぼつっ!あめだだ!」と、雨が降り始めます。雨が広げた傘にぶつかると「ばらっ ばらっ ばらっ ばらばらっ」「とん ととん ぼつんっ ばら ばら ばらっ かさの たいこだあ!」、ますます雨脚は強くなり「ずだだだだだだだ ぼぼぼぼぼぼぼ…」「ずざあ ずざあ ずざあ ずざあああ」。空から地面からものすごい音が溢れてきます。そうなると傘なんて無用の長物。傘を投げ捨て雨の中で飛び跳ねる男の子の躍動感は、生命の輝きに満ちています。先日、5月に亡くなったかこさとしさんの亡くなる約1か月くらい前の様子を撮影したNHKの番組「プロフェッショナル仕事の流儀」で、かこさんが絵本作家の鈴木まもるさんと雨粒の形について話すシーンがありました。雨粒は実は雫の形ではなく丸い形で空から降ってくるのだとかこさんが指摘するのですが、はたこうしろうさんは降ってくる雨粒すべて丸く、さすがだなと思いました。雨は、傘の先から垂れる時は雫の形に見えますが、空から降ってくるときは、少し押しつぶされたような丸い粒なのです。(参考までに→中日新聞プラス達人に訊け




『ぼくのなまえはへいたろう』灰島かり/文 殿内真帆/絵 福音館書店 2018/6/15

ぼくのなまえはへいたろう (ランドセルブックス)
灰島 かり
福音館書店
2018-06-13

2016年に亡くなられた子どもの本の研究者で翻訳者の灰島かりさんの作品です。(追悼記事→こちら)主人公の男の名前は「平太郎」。友達から「むかしのひとみたい」「うまれるとき、おならしたんだよ」とからかわれるので、自分の名前を変えたいと思います。市役所勤めの友達のおじさんに名前を変える手続きについて尋ねてみると簡単には変えられそうにない。そこで父親に直談判しにいくと、自分の名前に込められた思いを教えられます。それでも納得のいかない平太郎くん。でも少しずつ自分の名前を前向きに捉えていくおはなしです。福音館書店のランドセルブックシリーズは、絵本の形をしていますがひとりで読書を始める子どもたち向けの幼年童話として書かれています。

 

『旅の絵本Ⅸ』安野光雅/作 福音館書店 2018/6/15

旅の絵本Ⅸ (安野光雅の絵本)
安野 光雅
福音館書店
2018-06-13
 
安野光雅さんは、かこさとしさんと同い年の92歳。その安野さんの新作が6月に2冊出版されました。その1冊が長年旅先の風景を描き続けて来られた「旅の絵本」シリーズの9冊目『旅の絵本Ⅸ』、スイス編です。イタリア・ミラノから車でアルプス越えをしてスイスに入って行ったと解説編に書いてありますが、工事で一方通行になっていた急峻な崖路を命がけで越えた先で見たグラン・サン・ベルナール峠が、冒頭のページに描かれています。安野さんが実際に歩いてスケッチしたスイス各地の風景が、そこに暮らす人々の様子とともに描かれています。文字のない絵本ですが、旅人となって絵の中に入りこんでいくと思わぬ発見を、たくさんすることができます。
 
 
 
『Whale’s Way ザトウクジラ』ヨハンナ・ジョンストン/作 レナード・ワイスガード/絵 こみやゆう/訳 好学社 2018/6/16

ザトウクジラ
ヨハンナ・ジョンストン
好学社
2018-06-19
 
昨年12月に出版された『コウテイペンギン』(こちら→紹介記事)に続くヨハンナ・ジョンストンとレナード・ワイスガードによる動物の生態を丁寧に描いた絵本です。人間と同じ哺乳類でありながら、普段知ることのできないザトウクジラの生態、とくに子育ての様子を黒と深緑色2色で美しく描き出すワイスガードの画力に圧倒されます。ジョンストンのクジラへの愛情に満ちた言葉を、こみやゆうさんがわかりやすい日本語に翻訳しています。厳しい自然の中で生きるザトウクジラの生き方から、子どもたちもきっと何かを学ぶのではないかと思いました。
 
 
 
『シルクロードのあかい空』イザベル・シムレール/文・絵 石津ちひろ/訳 岩波書店 2018/6/27

シルクロードのあかい空
イザベル・シムレール
岩波書店
2018-06-28
 
あおのじかん(こちら→紹介記事)やはくぶつかんのよる(こちら→紹介記事)に続くイザベル・シムレールの作品。こちらは「朝日にあかくそまる東の空に背をむけて、夕日がしずむ西をめざして」進むシルクロードを赤と白の対比をうまく使って描いています。蝶を専門とする若き昆虫学者が、西安を発って新疆ウイグル自治区の西の果て、カシュガルへと珍しい蝶を求めて旅をしていきます。壮大なシルクロードの風景と、その土地土地の風物や生物を克明に描くページとが交互に出てきます。風物や生物を描くページでは、まるで博物館の展示ケースを覗いているようです。手書き文字は岩波書店の担当編集者が書かれたそうです。
 
 
【詩】
 
『こどもあそびうた』谷川俊太郎/詩 山田馨/編 童話屋 2018/6/3

こどもあそびうた
谷川俊太郎
童話屋
2018-06-28
 
谷川俊太郎さんのこれまでの詩の中から、子どもたちが声に出して読める楽しいものばかりを、谷川さんの大親友で岩波書店で児童書の編集者だった山田馨さんが選んだ詩集が、童話屋から出ました。のはらうたと同じ文庫本サイズで、巻頭におかれた詩「かっぱ」にちなんで表紙デザインはつぶらな瞳の緑の河童です。お二人の友人だったはせみつこさん(詩やことば遊びをステージ構成したパフォーマー、『しゃべる詩あそぶ詩きこえる詩』などの詩集を編んでいる)へのオマージュとして本の帯には「子どもたちに贈る谷川俊太郎のあそぶ詩おどる詩そらでうたう詩」と書かれていました。巻末の詩「えかきうた」の「ひった へに びっくり」のページに描かれている「ひ」「へ」「び」を組み合わせた絵は谷川さんの自作とのこと。6月30日に行われた銀座教文館ナルニア国『こどもあそびうた』刊行記念トークで、童話屋の田中和雄さんと谷川さん、山田さんの楽しいおしゃべりの中で伺いました。声に出して楽しい詩は、おはなし会の導入に使えそうです。




【児童書】


『リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ』こまつあやこ/作 講談社 2018/6/5

昨年9月に第58回講談社児童文学新人賞(公式サイト→こちら)を受賞した作品が刊行されました。作者は現役の図書館司書さんです。題名には耳慣れない言葉が並びます。まるで魔法の呪文のようですが、これはマレーシア語でリマは5、トゥジュは7、つまり「五七五七七」という短歌の韻律をマレーシア語で表したものです。中学2年生の沙弥はマレーシアからの帰国子女、2学期から日本の中学に編入し毎日クラスの中で浮かないか、どきどきしていました。そんな時にみんなから「督促女王」と呼ばれている3年の佐藤先輩に図書室に呼び出されます。借りた本の返却だけかと思いきや、いきなり「今からギンコウに出かけるよ。ついてきてよ」と言われてしまいます。戸惑う沙弥でしたが…中学生の揺れる心を瑞々しい感性で描き、読後感はとても爽やか。ぜひこの夏、10代の利用者に薦めてほしい1冊です。

 

『ふくろ小路一番地』イーヴ・ガーネット/作 石井桃子/訳 岩波少年文庫159  岩波書店 2018/6/15新版第3刷

ふくろ小路一番地 (岩波少年文庫)
イーヴ・ガーネット
岩波書店
2009-05-15

イギリスの小さな町の袋小路に住んでいる子だくさんのラッグルス一家の、家族が織りなすドタバタの日々を描いた作品です。この本はイギリスで1937年に出版され、イギリス図書館協会からその年に出版された最優秀児童文学に贈られるカーネギー賞を受賞しています。ラッグルスのお父さんはゴミ収集を仕事とし、お母さんは洗濯屋さんで、その上子だくさんとくれば、TV番組などで取り上げられる貧乏子だくさん家族を思い浮かべてしまいます。この当時、イギリス児童文学が描いていたのは子守りのいる上流階級の家庭が多かったため、この作品は貧しい労働者階級を描いて話題を呼んだのです。7人の個性豊かな子どもたちが巻き起こすどんな失敗をも、おおらかに受け止める家族の物語は、とても愉快です。ガーネットは若い頃にロンドンの子どもを描くために貧民街を何度も訪ねたということです。そこで見た貧しいけれど生き生きと暮らす子どもたちの姿が作品の中で描かれているのでしょう。石井桃子さんはあとがきに「ガーネット女史の文体は、俗語もまじえた口語で、べらべらしゃべるような調子で書かれてありますので、訳すのに、たいへん苦労しました。」と書いています。その翻訳も大変魅力的です。新版が2009年に出た後、しばらく品切れになっていましたが、この度第3刷として出版されました。すでに蔵書している館も、旧版しかない場合は、この機会に買い替えてもよいと思います。

『源氏物語 つる花の結び 上・下』荻原規子/訳 理論社 2018/6


源氏物語 つる花の結び(下)
理論社
2018-06-12
 
 
『紫の結び』三巻から始まり、『宇治の結び』上下巻(宇治十帖)に続き、この度出版された『つる花の結び』上下巻で荻原源氏物語が完成しました。源氏物語五十四帖を、光源氏と藤壺の宮、紫の上の一生を描く『紫の結び』、中流階級の女人たちとの逢瀬から始まり玉鬘十帖へ続く『つる花の結び』、そして源氏の孫たちが主人公となる『宇治の結び』と大胆に3つの系統にわけて、全7冊に再構築したものです。千年の時を経た古典を読みやすい現代語訳にし、多くの若い読者に読んでほしいという作者の願い通りに、『つる花の結び』は、光源氏の色男っぷりを伝えていて、現代の若い世代も楽しんで読める作品になっています。
 
 
【その他】

 『かんがえる子ども』安野光雅/作 福音館書店

かんがえる子ども (福音館の単行本)
安野 光雅
福音館書店
2018-06-13

安野光雅さんの新刊のもう1冊は子どもの学びと生活について語るエッセイです。「おとなの目が行きとどいていることは必要ですが、行きとどきすぎると、子どもの自由がなくなります。」、「実際に触れて知る、というのは、映像などで見て知っている、というのとは違うと思います。(中略)実際に自然の中を歩いて、花が咲いているのを見、鳥が謳っているのを聞き、雨が地面にしみこんでいく様子を見たり、森の中のにおいをかいだり、というような、直接自分の体で触れて知るような体験とでは、感じかたが大きく違ってくると思います。」と述べ、子どもが体験し、そこから「どうなっているんだろう」と考える、そして自分で答えを見つけていくことの大切さを、実例をあげながら書いておられます。『ふしぎなえ』や、『はじめてであうすうがくの絵本』、『旅の絵本』は、それを実行された結果の作品だったのだと、改めて国際アンデルセン賞作家である安野さんのこれまでの仕事も理解できる1冊でした。


(作成K・J)

3月、4月の新刊から


 2018年3月、4月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの本を紹介します。(一部、見落としていた2月に出版された本も含まれています)

ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。出版されたすべての新刊本を購入して読むことはできませんが、毎月、教文館ナルニア国の新刊本コーナー、クレヨンハウス新刊本コーナー、横浜日吉にあるともだち書店、代官山蔦屋書店児童書コーナー、茗荷谷てんしん書房など、信頼できる児童書の目利きのいる書店にある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。

 (なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

 

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【絵本】 

『ほうまん池のカッパ』椋鳩十/文 赤羽末吉/絵 BL出版 2018/2/1

ほうまん池のカッパ
椋 鳩十
ビーエル出版
2018-01-26
 
種子島に伝わる昔話です。島一番の力持ちで、釣も腕も島一番といつも自慢するとらまつですが、ある日地面の下から伸びてきた手につかまり獲った魚を奪われてしまいます。カッパの仕業で、ほうまん池には十匹ものカッパが棲んでいるのでした。とらまつはカッパを捕まえようと待ち受けますが、カッパのほうがどうやら一枚上手のようです。さてさてこの勝負、いったいどうなることでしょう。再話は椋鳩十、絵は赤羽末吉で、1975年に銀河社から出版されて長く絶版になっていたものが、BL出版から復刊されました。

 

『大根はエライ』久住昌之/文・絵 たくさんのふしぎ傑作集 福音館書店 2018/2/25

大根はエライ (たくさんのふしぎ傑作集)
久住 昌之
福音館書店
2018-01-10

月刊「たくさんのふしぎ」2003年9月号が、今年ハードカバーになりました。『孤独のグルメ』などの作品がある漫画家久住昌之氏の初の絵本作品です。大根おろしや刺身のつまとして他の食品の味を引き立てたり、おでんや煮物で一緒に煮るものによって美味しさがかわったりと、脇役でいながら無くてはならない存在の大根を、それこそ味わい尽くす1冊です。ユーモアたっぷりでいながら大根に関する知識が増す、まさに大根のような味わい深い1冊です。(銀座・教文館ナルニア国でバージニア・リー・バートン展に合せた久住氏のトークイベントに参加してきました。『せいめいのれきし』に大きな影響を受けてきたとのことでした。)

 

『おひさまでたよ』北村人/作 絵本館 2018/3

おひさまでたよ
北村 人
絵本館
2018-03-15

暖かい色のクレヨンの線で描いた小さい子向けの可愛らしい判型の絵本。「ぽかぽか ぽかぽか いいきもち」、「ぽかっぽかっ ふあーあ いいきもち」、ページをめくると動物たちがおひさまの温かい陽射しの中でのーんびりしています。のーんびりすること、これが出来そうでいて、なかなか出来ないからこそ、そんな時間を大事にしたいなと思います。

 

『黄金りゅうと天女』代田昇/文 赤羽末吉/絵 BL出版 2018/3/20

黄金りゅうと天女
代田 昇
ビーエル出版
2018-03-15

沖縄慶良間諸島に伝わる昔話です。1974年に銀河社から出版されていましたが、この度BL出版から復刊されました。昔、沖縄の武士と百姓の娘が身分違いの恋に落ち、天女のお告げの通りに慶留間島に渡ります。そこで生まれた可愛(かな)という娘は、賢く育ちます。しかし七才になった朝、可愛は「天にいかねばならない」と言ってオタキ山へ登っていき、阿嘉島オタフキ山にいた黄金の竜の背に乗って天に昇って行ってしまったのです。人々が可愛のことを話題にしなくなった頃、島へ大和民族の海賊が襲ってきました。村々は略奪されますが、そこに黄金の竜が現れるのです。沖縄の昔話も大切に語り継いでいきたいですね。

 

『さとやまさん』工藤直子/文 今森光彦/写真 アリス館 2018/4/5

さとやまさん
工藤 直子
アリス館
2018-03-23

写真家今森光彦さんは滋賀県大津市の里山で暮し、四季折々の自然の変化を観察し、そこに集う蝶を始めとする虫たちとの生活を大切にしてこられました。そうした里山の動植物や生活はこれまでも写真絵本やNHKの番組「オーレリアンの庭-今森光彦 四季を楽しむ里山暮らし」で紹介されてきました。この度は里山で撮影された夥しい数の写真の中から、厳選された春夏秋冬の表情が切り取られ、それに工藤直子さんが詩をつけました。またその詩に新沢としひこさんが曲をつけて、出版記念トークイベントで披露されました。人々の暮らしを豊かに彩る里山が、過疎化によって各地で放置されているというニュースも聞きます。里山の存在価値が見直されてほしいと願います。

 

『ぐるぐるちゃん かくれんぼ』長江青/文・絵 菊地敦己/ブックデザイン 福音館書店 2018/4/5

ぐるぐるちゃん かくれんぼ (福音館あかちゃんの絵本)
長江 青
福音館書店
2018-04-04
 
福音館書店のあかちゃんの絵本で、こりすのぐるぐるちゃんが活躍する『ぐるぐるちゃん』、『ぐるぐるちゃんとふわふわちゃん』に続く3冊目です。ぐるぐるちゃんはある日おとうさんといっしょにさんぽに出かけ、かくれんぼをします。ぐるぐるちゃんがあまりに上手にかくれたので、おとうさんはみつけられません。さてさて、どうなるかしら。小さな子どもの心に寄り添う可愛らしい絵本です。
 
 
『パンダのあかちゃん おっとっと』まつもとさとみ/作 うしろよしあき/文 わたなべさとこ/絵 KADOKAWA 2018/4/26
 

パンダのあかちゃん おっとっと
まつもと さとみ
KADOKAWA
2018-04-26
 
あかちゃんと絵本について研究をされたいる後路好章さんが文章を書き、2015年にボローニャ国際絵本原画展で入選した渡邊智子さんが絵を描いたパンダのあかちゃんが愛らしい絵本です。パンダの絵本は、シャンシャン効果もあって、たくさん出ていますが、小さな子どもたちが喜ぶ耳心地のよさがあり、この作品を手に取ってみました。
 
 

『村じゅうみんなで』ヒラリー・ロダム・クリントン/文 マーラ・フレイジー/絵 落合恵子/訳 徳間書店 2018/4/30 

村じゅう みんなで (児童書)
ヒラリー・ロダム・クリントン
徳間書店
2018-04-25
 
3年前のアメリカ大統領選でトランプ大統領と競ったヒラリーさんが文章を書いた絵本です。「子どもを育てるには村中みんなの力が必要だ」というアフリカのことわざを、ヒラリーさんは信念としてきました。この絵本では、子どもが望む「こんな公園があったらいいな」を、おとなもこどもも、自分の出来ることを分担し合って、一緒に作り上げていきます。おとなは子どもの持っている良さを信じ、また家族という狭い枠だけでなく社会とのかかわりの中で育てていくことの大切さを、ヒラリーさん自身が子育ての中で、また政治活動の中で感じてきたといいます。マーラ・フレイジーの描く絵も、あちこちから子どもやおとなたちの声が聞こえそうなほど生き生きとしています。

 

『花ばあば』クォン・ユンドク/絵・文 桑畑優香/訳 ころから 2018/4/29

花ばぁば
クォン・ユンドク
ころから株式会社
2018-05-02
 
当初、童心社から10冊出ている日中韓平和絵本として出版される予定だった絵本です。日中韓平和絵本は戦争を体験した絵本作家浜田桂子さん、和歌山静子さん、田島征三さんたちが韓国、中国の絵本作家との交流を通して、次の世代へ平和な時代を手渡したいと、歴史と向き合い、日中韓双方の国で出版することを前提に、参加した絵本作家が作成しました。ところがクォン・ユンドクさんの描く日本軍慰安婦をテーマにした絵本だけは、このシリーズから出すことが出来ませんでした。韓国では出版されて版を重ねているこの美しい絵本を、なんとかして日本でも出版したいと、田島征三さんがクラウドファンディングで呼びかけ、多くの人の支援を受けて、この度新興の小さな出版社から出版されました。
 昨年は#MeToo運動が世界的に広がりをみせ、また世界各地でイスラム過激派による女子学生襲撃事件も繰り返されており、若い女性には関心のあるテーマです。日本人としてデリケートな問題を含んでいますが、この問題を正面から直視することは大切です。近年、ナチスドイツによるホロコーストをテーマに扱った児童書がたくさん出ています。それはドイツが第二次世界大戦後に自分たちの犯した過ちをきちんと受け止め総括しているからともいえます。一方で日本ではこの問題を無かったかのように扱う勢力があって、過去の清算が中途半端に終わっています。ユンドクさんの来日に合わせた講演会に参加してきました。日本を責めるものではなく客観的な事実に基づいて文章が練られ、戦争というものの愚かさを伝えています。絵は柔らかくとても美しい絵本です。YA世代にぜひ手渡していきたい1冊と考えています。
 
 
 
【児童書】

『石井桃子 子どもたちに本を読む喜びを(伝記を読もう)』竹内美紀/文 立花まこと/絵 あかね書房 2018/4/5

石井桃子: 子どもたちに本を読む喜びを (伝記を読もう)
竹内 美紀
あかね書房
2018-04-25
 
子どもの本の翻訳家として、作家として、戦後日本の児童書黄金時代を支えてこられた石井桃子さんについて描かれた伝記が出ました。作者は博士論文を『石井桃子の翻訳はなぜ子どもをひきつけるのか:「声を訳す」文体の秘密』(ミネルヴァ書房 2014)としてまとめ出版された竹内美紀さんです。前作は研究者の立場から書いた専門書ですが、この作品は子どもにわかりやすく石井桃子さんの生い立ちや遺した功績を伝えてくれています。あかね書房の「伝記を読もう」のシリーズは第1期で10冊第2期はこの本を含めて5冊出ています。

 
『四人のヤッコ』西内ミナミ/作 はたこうしろう/絵 すずき出版 2018/4/20

四人のヤッコ (おはなしのくに)
西内 ミナミ
鈴木出版
2018-04-16
 
 ヤッコは一人っ子です。ピアノの練習や学校の宿題で忙しい日々に、自分にそっくりな子がいればいいのになあと思います。ところがその願いがある日叶ってしまいます。ピアノを上手に弾くヤッコ、勉強をどんどん進めてくれるヤッコ、友達と楽しく遊ぶヤッコとほんとうのヤッコの四人になってしまったのです。最初は喜んだのもつかの間、ヤッコはなんだか浮かない顔です。『ぐるんぱのようちえん』などの作品がある西内ミナミさんは1979年に『四人のヤッコと半分のアッコ』(絵童話 山口みねやす/絵)を日本教文社から出しています。この度、はたこうしろうさんの絵でまったく新しい版として出ました。子どもたちにとっても身近なテーマで、楽しんで読めることでしょう。
 
 
 
【その他】
 
『子どもの人権をまもるために』木村草太/編 晶文社 2018/2/10

子どもの人権をまもるために (犀の教室)
木村草太
晶文社
2018-02-08
 
私たちが本を手渡そうとしている子どもたちの権利はどのように扱われているのか、第1部家庭、第2部学校、第3部法律・制度とわけて、今子どもたちが置かれている状況を伝えてくれている1冊ですこの本を読むと、現代の子どもたちを取り巻く状況は虐待や貧困、保育の不足など、報道等で知る以上に厳しい現実があることも見えてくる。こうした事実に目を向けることは、図書館の児童サービスをどのように地域の子どもたちに届けられるかを検討する上でも大切だと思います。ぜひ通読しておくことをお薦めします。

 
『13歳からの絵本ガイド YAのための100冊』金原瑞人、ひこ・田中/監修 西村書店 2018/4/18


13歳からの絵本ガイド YAのための100冊
金原 瑞人
西村書店
2018-04-18
 
絵本は文章と絵が互いに引き立て合って、独自の世界を表現したものです。芸術性の高い作品や、人生の深い機微に鋭く切り込んだ優れた作品も多く出ています。ところが絵本は幼い子どものためのものという先入観が強いせいか、小学生高学年や中高生にこそ読んでほしいという作品がなかなかその世代に手に取られてないということがありました。この絵本ガイドは、十代の子どもたちに手にしてほしい絵本の情報をぎゅっとひとまとめにしています。ここにある絵本は、YAコーナーで展示してみるとよいと思います。
 
(作成K・J)

2018年2月、3月の新刊から


2018年2月、3月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの本を紹介します。

ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。すべての新刊本を購入して読むことはできませんが、毎月、教文館ナルニア国の新刊本コーナー、クレヨンハウス新刊本コーナー、横浜日吉にあるともだち書店、代官山蔦屋書店児童書コーナーなどにある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。

 (なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

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【絵本】

『はるは』ジャニーナ・ドマンスカ/作 谷川俊太郎/訳 童話館出版 2018/2/20

はるは
ジャニーナ ドマンスカ
童話館出版
2018-03-01

「はるは はるさめ  はるは はなざかり はるは うたう」と、春の情景から始まり、夏、秋、冬とめぐって「ふゆは はるをまつ」で締めくくられる詩の絵本です。美しい線描の絵に登場するのは茶色のダックスフント。季節ごとにかたつむりやクジラ、虫たち、鳥たち、うさぎと一緒に躍動する姿は、いろいろなことを想像させて楽しくなります。裏表の見返しには一面のクローバーが描かれています。2枚ほど四つ葉のクローバーがあります。子どもと一緒に探してみてください。

 

『とらのことらこ』きくちちき/作 小学館 2018/2/26 

とらのこ とらこ
きくち ちき
小学館
2018-02-26

 2013年に『しろねこくろねこ』(学研)でブラティスラヴァ国際絵本原画展金のりんご賞を取ったきくちちきさんの新作です。ご自身のお子さんの成長に合わせて絵本もどんどん進化しています。今度の絵本もお子さんとの関係の中から生まれた絵本とのこと。とらの子ども、とらこは母さんとらの真似をして一生懸命獲物を追いますが失敗ばかり。そんなとらこの姿を愛情いっぱいに母さんとらは温かく見守ってくれます。「とらこのことらこ つかまえて  母さんのしっぽにつかまった」と繰り返しのことばも心地よくストーリーが進みます。先日原画展に行ってきました。温かい色合いの原画の色を生かすため印刷では苦労をされたとのこと。表紙の黄色も、とらこの鼻の色も、装丁家と印刷技術者の丁寧な仕事のおかげです。(原画展は2018年4月1日まで。高円寺書肆サイコロにて→こちら) 

 

『さよならともだち』内田麟太郎/作 降矢なな/絵 偕成社 2018/2

さよなら ともだち (「おれたち、ともだち! 」絵本)
内田 麟太郎
偕成社
2018-02-28
 
 『ともだちや』(1998年刊)から始まった「おれたち、ともだち!」シリーズの13冊目の最新刊です。タイトルからキツネとオオカミの別れがテーマかと想像しましたが、キツネが「ともだちや」を始める前のお話でした。1館目の『ともだちや』をもう一度引っ張り出して読みたくなるような懐かしい場面もたくさんありました。「さよなら」は、次の新しい出会いへの一歩です。新しい年度が始まる時に、おすすめできる1冊です。
 
 
『かぶきやパン』かねまつすみれ/文 長野ヒデ子/絵 童心社 2018/2/20
 

かぶきやパン (絵本・こどものひろば)
かねまつ すみれ
童心社
2018-02-20
 
2月20日の「歌舞伎の日」に出版されたこの絵本は、2014年に童心社が実施した第7回絵本テキスト大賞を受賞した『まちのパンや「かぶきや」さん』という作品が元になっています。作者のかねまつさんはパン作りと芝居見物が大好きで、自然のこのお話が生まれたのだそうです。そのテキストをもとに長野ヒデ子さんがユーモアたっぷりの絵をつけられました。実際にお二人で歌舞伎の演目とパンの特徴を照らし合わせてストーリーを練り、市川海老蔵さん他、歌舞伎役者の皆さんにもこの絵本を見ていただいたとのこと。2月24日に都立多摩図書館で行われた童心社創業60周年記念講演会の中で長野ヒデ子さんは、歌舞伎の口上は言葉の響きもとても豊かで、歌舞伎を見たことのない子どもたちにも、絵本を通して日本の伝統文化「歌舞伎」の魅力を伝えたいとおっしゃっていました。声に出して子どもたちに読んであげたい絵本です。(童心社・長野ヒデ子さん×かねまつすみれさんスペシャルインタビューの記事→こちら

 

 『もしぼくが本だったら』ジョゼ・ジョルジェ・レトリア/文 アンドレ・レトリア/絵 宇野和美/訳 アノニマ・スタジオ 2018/3/2 

もしぼくが本だったら
ジョゼ・ジョルジェ・レトリア
アノニマ・スタジオ
2018-03-01

表紙にはベンチに残された本が1冊。「もしぼくが本だったら つれて帰ってくれるよう 出会った人にたのむだろう。」というように「もしぼくが本だったら」に続いてさまざまな本にまつわる文章が続いていきます。。最後のページは「もしぼくが本だったら 「この本がわたしの人生を変えた」とだれかが言うのをきいてみたい。」と、本が持っている力、可能性を示してくれます。作者はポルトガル語の詩人で、その文章に息子さんが絵をつけた親子作品です。デザイン的にも美しく、これまでに数々のデザイン賞を受賞し、13か国語に翻訳されています。日本語にはスペイン語圏の絵本や児童書の翻訳者・宇野和美さんが訳されました。YA世代や大人たちに手に取ってほしい1冊です。

 

『だんごむしのおうち』澤口たまみ/文 たしろちさと/絵 福音館書店 2018/3/10

だんごむしの おうち (幼児絵本ふしぎなたねシリーズ)
澤口 たまみ
福音館書店
2018-03-07
 
春の庭で小さな子どもが掌にだんごむしをのせて「ねえねえ、みてみて!」と見せてくれます。触ると丸くなるだんごむしは小さな子どもにとっては楽しい存在です。この絵本を読んで、もう25年以上前のこと、「お母さん、お土産!」といって筆箱にいっぱいのだんごむしを入れて持って帰ってきた我が子の得意気な顔を思い出しました。庭先で出会う小さなだんごむしは、子どもが身近な自然に興味を持つ入り口になります。よく似た虫で丸まらないわらじむしの説明も出てきます。小さな生命にも目をむける子どもたちの素直さを大切にしたいと思います。「ちいさなかがくのとも」2012年4月号のハードカバーです。3歳くらいから手渡せます。
 
 
 
『王さまになった羊飼い』チベットの昔話 松瀬七織/再話 イ・ヨンギョン/絵 福音館書店 2018/3/15

 
 貧しい羊飼いの男の子が働いて得るものは、毎日たった一握りのツァンパ(ハダカムギを粉にしたもの)でした。ある時、草原でお腹を空かせたうさぎに出会います。男の子はうさぎにツァンパを分けてやるようになります。そうして100日経った時、うさぎは老人に姿を変えました。なんとうさぎは天の神だったのです。老人はお礼を授けようと申し出ますが、男の子は「動物のことばがわかる力がほしい」と願います。男の子はその力で通りかかった王さまの家来の馬を助け、それが縁で王さまの元へ参内し、誰も治療できなかった王子の耳を治します。そして王さまから王国の半分を譲られたのです。小さな生命に注ぐ愛情と誠実さが、貧しい男の子を王へと導いたというチベットの昔話です。 
 
 
 
【児童書】
『おひとよしのりゅう』ケネス₌グレーアム/作 石井桃子/訳 学研プラス 2018/1/15
 『たのしい川べ』(本のこまどの記事は→こちら「基本図書を読む2『たのしい川べ』)を書いたケネス₌グレーアムの幻の名作と言われた『おひとよしのりゅう』(1966年に『新しい世界の童話シリーズ8 おひとよしのりゅう』として学研より出版 その後絶版)が、限定復刻されました。羊飼いの息子と争いごとが嫌いな優しい竜、そして竜退治の騎士セント・ジョージが織りなすなんともユーモラスなお話です。今回の復刻版は東京子ども図書館と教文館ナルニア国だけの限定発売です。のんびりとした話の進み具合は、今の子どもたちに、というよりこのお話にわくわくした昔の子どもだった人たちに喜ばれるのかもしれません。戦隊ものなどで怪獣は退治するものと思っている子どもたちに、戦うことがすべてではないというメッセージを届けられると思います。(教文館ナルニア国の紹介ページ→こちら
 
 
 『青い月の石』トンケ・ドラフト/作 岩波書店 2018/2/16

青い月の石 (岩波少年文庫)
トンケ・ドラフト
岩波書店
2018-02-17
 
作者のトンケ・ドラフトさんは2004年に、1962年に発表した『王への手紙』(岩波少年文庫 2005年)で過去50年にオランダで出版された子どもの本の中から第一位の賞「石筆賞の中の石筆賞」を受賞されました。当時すでに74歳でした。『王への手紙』、そして続編の『白い盾の少年騎士』(岩波少年文庫 2006年)は、困難な状況の中で任務を果たそうとする少年騎士のひたむきな思いと、彼を支える友情を描いて非常に読み応えのある作品でした。大きな賞を受賞した翌2005年に新たに発表した作品が『青い月の石』です。「どこから来たの?マホッフ、マホッフ、マホッヘルチェ」「地面の下からやってきた、マホッヘルチェ!」というオランダに伝わる日本の「はないちもんめ」に似た遊びをモチーフに、地上の世界と地下世界、そして主人公ヨーストのいる世界と中世を思わせる長ひげ王の国が交錯して展開する不思議な物語です。地下の国に君臨するマホッヘルチェを追って、いじめられっ子ヨーストが、いじめっ子ヤンと一緒に冒険に出ていき、同じようにマホッヘルチェを追う長ひげ王の息子イアン王子は地下世界のヒヤシンタ姫に恋をします。編んだセーターが魔力を持つヨーストのおばあちゃん、地下世界に通じる池の近くに住む魔法使いのオルムなどの魅力溢れる登場人物に導かれ一気に読めてしまうファンタジーです。 


 

『イースターのたまごの木』キャサリン・ミルハウス/作・絵 福本友美子/訳 徳間書店 2018/2/28

イースターのたまごの木 (児童書)
キャサリン ミルハウス
徳間書店
2018-02-20
 
1951年にアメリカで出版され、その年の最も優れた絵本に贈られるコールデコット賞を受賞した作品が、翻訳されました。「イースター(復活祭)」は、イエス・キリストが十字架刑を受けた3日後に蘇ったとする聖書にしたがい、キリスト教社会ではクリスマスと並ぶ大切なお祭りです。卵の殻を割って出てくる鳥は、墓から出てきたキリストの象徴とされ、イースターには卵を美しく彩色して飾ったり、庭に隠した卵を子どもたちが探すエッグハントをイースターの朝に行う習慣があります。このお話でも、イースターの朝に兄弟やいとこたちと庭でエッグハントするのを楽しみしている女の子ケイティが主人公です。ケイティがおばあちゃんが子ども時代に隠したイースターエッグを屋根裏で見つけたことから、そのイースターエッグを木に飾るようになり、多くの人に喜ばれるようになります。ここ数年の間に日本でもイースターエッグのお菓子が売られるようになり、ショーウィンドウにもイースターの装飾が施されるようになりました。興味をもった子どもたちに手渡してあげたい1冊です。自分で読むなら低学年から、読んであげるなら幼児でも大丈夫でしょう。なお、イースターは春分の日のすぐ後の満月から一番近い日曜日とされ、毎年変わります。今年のイースターは4月1日の日曜日です。
 
 

『パイパーさんのバス』エリナ―・クライマー/作 クルト・ヴィ―ゼ/絵 小宮由/訳 徳間書店 2018/2/28

パイパーさんのバス (児童書)
エリナー クライマー
徳間書店
2018-02-20
 
 パイパーさんは町でバスの運転手をしています。しかし、家族はなく独りぼっち。ある時、その寂しさにはたと気がついて塞ぎこみます。そんなパイパーさんを頼ってきてくれたのが迷子の犬バスターに、ねこのおくさん。その上バスの中で迷子になったチャボも飼うことになります。しかし町のアパートでは動物の飼育は許されていません。パイパーさんは仕事を休んで、古いバスを買ってバスターたちを乗せ、彼らを引き取ってくれる人を探しに田舎へ出かけていきます。でも動物たちはパイパーさんと別れたくありません。途方に暮れて山道を走っている時に雷雨に合って、山の上の空き家へ逃げ込みます。幸運なことが重なってパイパーさんはこの家を借りて動物たちと一緒に暮らせるようになるのですが・・・その幸運なことっていったいなんでしょう?読んでいると心がほっこりと温かくなる素敵なお話です。文字も大きく挿絵もたくさんついています。小学校低学年の子どもにおすすめできる1冊です。
 
 
 
『波うちぎわのシアン』斉藤倫/作 まめふく/画 偕成社 2018/3

波うちぎわのシアン
斉藤 倫
偕成社
2018-03-14
 
『どろぼうのどろぼん』(福音館書店 2014)や『せなか町から、ずっと』(福音館書店 2016)を書いた 詩人の斉藤倫さんの新作です。この物語の語り手はねこのカモメ。赤ん坊の時に鷗に命を救われたのでこの名前がついています。カモメはラーラという小さな島にある診療所のフジ先生のところで飼われています。カモメはある雨の夜、沖から激しい炎に包まれて港へ流れつく船を発見し、フジ先生に急を知らせます。そしてフジ先生は、焼け落ちる船の中から生まれたばかりの男の赤ん坊を助け出します。この赤ん坊の左の握り拳は固く閉じられ開くことができません。握り拳がシアンという青い巻貝にそっくりなことから、この赤ん坊はやがてシアンと呼ばれるようになります。フジ先生がシアンをはじめ島々の孤児を引き取るために作った孤児院「ちいさなやね」の中で物語が動いていきます。4歳になったシアンには不思議な力がありました。誰かが、シアンの閉じられたままの左手を耳に当てると、潮騒の音が聞こえてきます。それはおかあさんのお腹の中で聞いていた音で、聞いているうちに自分の生まれる前のおかあさんや周りの人の声まで聞こえてくるのでした。ある日シアンは海を隔てた「壁の国」からやってきた旅の一座に誘拐されてしまいます。フジ先生と「ちいさなやね」でおかあさん役のリネンさんが、ねこのカモメを連れてシアンを救出しに「壁の国」に向かうところから物語は急転します。シアンの左手には出生にまつわる重大な事件の秘密が握られていたのでした。ねこの視点から描かれているので、最初は少し読みにくいのですが、旅の一座が現れてくるあたりからぐいぐい惹き込まれていきます。本の好きな子なら、小学校の高学年から手渡せる作品です。
 
 
 
『4ミリ同盟』高楼方子/作 大野八生/絵 福音館書店 2018/3/10

4ミリ同盟 (福音館創作童話シリーズ)
高楼 方子
福音館書店
2018-03-07
 
 この物語の世界では、人々は子どものうちは困らないのに、おとなになると〈フラココノ実〉を食べないと、どうにもこうにもやっていかれないとい体質をしているというのです。この〈フラココノ実〉は、大きな湖の中に浮かぶ〈フラココノ島〉に渡らないと手に入らないので、あちこちの港からその島へ行くルートはいくつもあるというのに、主人公のポイット氏は、いまだにその実を食べる機会が巡ってきません。切望しているにも関わらずです。そんなある日エビータという女性に声をかけられます。彼女もまだ〈フラココノ実〉を食べられていません。なんと〈フラココノ実〉を食べていない人は知らず知らずのうちに地上4ミリほど体が浮いていることを発見し、それでポイット氏が仲間だとわかったのです。同じように体が4ミリ浮いている他の2人とも知り合い、「4ミリ同盟」を作って4人一緒に〈フラココノ実〉を食べるための島にわたるのですが・・・「地に足がついてない」4人はいったいどうなったのでしょう。髙楼方子さんのなんとも不思議で味わい深いお話です。
 
 
 
【その他】
『『ちいさいおうち』『せいめいのれきし』の作者 ヴィ―ジニア・リー・バートンの世界』ギャラリーエークワッド/編 小学館 2018/3/19

昨年(2017年)6月1日から8月9日にかけてギャラリーエークワッドで行われた「ヴァージニア・リー・バートンの「ちいさいおうち」―時代を越えて生き続けるメッセージー」展のリーフレットを底本にして編集された図録で、2018年3月17日から5月7日まで銀座・教文館ウェンライトホールで開催中の「「ちいさいおうち」のばーじにあ・りー・ばーとん」展に併せて、発売されました。ヴァージニア・リー・バートンが遺した作品やさまざまな手仕事について、たくさんのカラー図表とともに展望できる貴重な1冊となっています。また、昨年夏にエークワッドで行われた恐竜学者真鍋真さんと生物学者福岡伸一さんの対談の模様も収録されています。(教文館で開催中の「ばーじにあ・りー・ばーとん」展の案内は→こちら 5/7まで)

 

『過去六年間を顧みて かこさとし小学校卒業のときの絵日記』かこさとし/著 偕成社 2018/3

過去六年間を顧みて かこさとし 小学校卒業のときの絵日記
かこ さとし
偕成社
2018-03-14

91歳のかこさとしさんが、小学卒業時に小学1年生からの6年間を思い出して綴った文集が1冊の本になりました。1926年(大正15年)生まれのかこさんですから、この文集が書かれたのは1938年(昭和13年)です。奇跡的にその当時書いていたものが戦災を免れて残っていたというのは驚きです。また当時の様子が文章と絵で克明に描かれていることに、かこさとしさんの後年の功績を彷彿とさせるものがあります。当時は日中戦争が始まり、戦時体制が強化された時代です。「二・二六事件」や「志那事変」のことが子どもの視点で書かれているのも興味深いです。6年生の時のクラスメートの名前とあだ名、そして相撲人気だったという時代を反映して全員に四股名がついているところなども、とても面白く、時代の記録として大変貴重な資料となるでしょう。かこさとしさんの作品の原点をここに見る思いです。(かこさとし公式webサイト→こちら

(作成K・J)

2017年12月、2018年1月の新刊から


2017年12月、2018年1月に出版された児童サービス向け出版物(絵本、児童書、ノンフィクション、YA向け、教育者・研究者向けなど)の中から、おすすめの本を紹介します。

ここに紹介している本は、実際に手にして読み終えた中から選んでいます。すべての新刊本を購入して読むことはできませんが、毎月、教文館ナルニア国の新刊本コーナー、クレヨンハウス新刊本コーナー、横浜日吉にあるともだち書店、代官山蔦屋書店児童書コーナーなどにある本から選書し、購入し、読んで記事にしています。

YA本の紹介まで、なかなか手が回らず心苦しいところですが、これはという本は、時間が少し経ってからでも紹介したいと思っています。

 (なお、画像はブログ用Amazonアフィリエイトを使用しています。書誌事項は奥付の出版年月日にしており、Amazon入荷日とちがって表示されることがあります。ご了承ください。)

 

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 【絵本】

『コウテイペンギン』ヨハンナ・ジョンストン/作 レナード・ワイスガード/絵 こみやゆう/訳 好学社 2017/12/18 

コウテイペンギン
ヨハンナ ジョンストン
好学社
2017-12-19

 コウテイペンギンの生態を描いた科学絵本です。この本は2015年にアメリカで出版されました。この本への感想を書いたサイトには「a nature documentary」という表現がありましたが(Books In My House→こちら)、まさに長編ドキュメンタリー映画を見たような充実感を読後に感じました。水族館では人気者のペンギンですが、実際にはこれほど過酷な自然の中で生きていること、ペンギンの両親が命がけで次の世代を育む様子が、レナード・ワイスガードの美しい絵(アートワークと表現されていますが、ステンシル技法でしょうか)で描かれています。科学絵本でありながら、芸術性も高い1冊です。こみやゆうさんの翻訳も、子どもたちに語りかけてくるようです。自分で読むには小学校低学年以上ですが、動物が好きな子に読んであげるのであれば、長いおはなしですが幼児でも十分に聞くことが出来るでしょう。

『スロバキアのともだち・はなとゆろ おるすばんのぼうけん』福井さとこ/作 JULA出版局 2017/12/25

おるすばんのぼうけん―スロバキアのともだち・はなとゆろ
福井 さとこ
JULA出版局
2017-12-25

 

プラチスラヴァ芸術大学版画学科大学院で、スロバキアの版画家で絵本作家ドゥシャン・カーライの下で版画と絵本製作について学んだ福井さんの卒業制作が、JULA出版局から出版されました。福井さんがスロバキアでベビーシッターをした時の子どもたちの様子を絵本にしたものだそうです。お留守番をすることになった幼い兄妹が空想の世界に遊びに出かけます。子どもらしい想像の広がる世界に読んでもらう子どもたちにもすっと入っていけることでしょう。折込にはスロバキアのわらべうたも楽譜入りで掲載されています。海の向こうの子どもたちの遊びに想いを馳せるのも素敵な経験になると思います。 

 

『巨人の花よめ スウェーデン・サーメのむかしばなし』菱木晃子/文 平澤朋子/絵 BL出版 2018/1/1 

スカンジナビア半島の北部ラップランドに住んでいる先住民族サーメの人たちに伝わる昔話が、美しい絵本になりました。あとがきに菱木さんが「サーメのむかしばなしにたびたびでてくる巨人は、ときに容赦なく人々の命やくらしをおびやかす存在という意味で、自然の脅威の象徴ととらえることができます。」と記しています。厳しい自然の中で暮らしてきた人々の想いが伝わってくるようです。画家の平澤さんは厳冬のラップランドを訪れて描かれた絵も臨場感に溢れて素晴らしいです。とくに北の大地に春が訪れるシーンはそのままタブロー画として飾っておきたいほどです。

 

『だるまちゃんとかまどんちゃん』加古里子/作 福音館書店 2018/1/15

 だるまちゃんシリーズに新年3冊が仲間入りしました。91歳の加古里子さんがこれらの作品にこめた想いを受け取りたいと思います。子どもたちには、そんなことはあまり関係ないでしょう。新しい仲間をどう受け取るかは子どもたち次第。心優しいかまどんちゃんに懐かしい想いを抱くのは親世代、あるいは祖父母世代かもしれません。子どもたちにも、温かい想いは伝わることでしょう。

『だるまちゃんとはやたちゃん』加古里子/作 福音館書店 2018/1/15

 豊かな自然と共に生きてきた東北の人々の生活に想いを寄せる作品です。おばけ大会に集まるたくさんのおばけたちは、どこかかわいらしくてユーモラス。子どもたちは、そんなたくさんのおばけをみて、面白がることでしょう。


『だるまちゃんとキジムナちゃん』加古里子/作 福音館書店 2018/1/15

 沖縄の子どもが登場する絵本です。加古里子さんは琉球の伝統への敬意と、戦中戦後の沖縄の人々の苦労を偲んでこの作品を描いたということです。大きなハブにつかまってしまっただるまどんを、キジムナちゃんの機転で助けます。子どもたちもドキドキしながら作品を楽しんでくれるといいなと思います。

かこさとし公式webサイトからは、この作品にかける加古里子さんの想いや、NHKワールドニュースでこの3作が取り上げられた動画を見ることができます。→かこさとし公式webサイト

 

『スプーンちゃん』小西英子/作 0.1.2えほん 福音館書店 2018/1/15

スプーンちゃん (0.1.2.えほん)
小西 英子
福音館書店
2018-01-10

「こどものとも0.1.2」の2012年6月号がハードカバーになりました。小さな子どもたちにとって、美味しい食べ物を口に運んでくれるスプーンって、とても身近な存在。そんなスプーンがプリンにメロン、いろんな美味しいものを次々にすくっていきます。自分で食べる練習を始めた小さなお友達に喜ばれそうな1冊です。


『にゃんにゃん』せなけいこ/作 福音館書店 2018/1/15 

にゃん にゃん (幼児絵本シリーズ)
せな けいこ
福音館書店
2018-01-11
 
 「こどものとも年少版」1977年11月号がハードカバーになりました。せなけいこさんの貼り絵によるねこたちの表情が、なんとも愛らしいです。最後の見開きページで母さんねこにおっぱいをもらって満足するこねこたちの表情は、そのまま読んでもらった子どもたちの笑顔につながる、そんな1冊です。

 

 【児童書】

『ハックルベリー・フィンの冒険』上・下 マーク・トウェイン/作 千葉茂樹/訳 岩波少年文庫 岩波書店 2018/1/25

 

ハックルベリー・フィンの冒険(下) (岩波少年文庫)
マーク・トウェイン
岩波書店
2018-01-26
 
岩波少年文庫にこれまで『ハックルベリー・フィンの冒険』が入ってなかった?と思わず思ってしまいました。創元社の世界少年少女文学全集(吉田甲子太郎/訳)をはじめとして、岩波文庫(西田実/訳)、福音館書店の古典童話シリーズ(大塚勇三/訳)など多くの訳本が出ており、この作品のファンも多いと思います。同じくマーク・トウェインの代表作『トム・ソーヤ―の冒険』の続編ともいうべき、この作品では金に目のくらんだ実の父親が登場したり、南北戦争時代の前という時代背景からワトソン家の黒人使用人ジムとの逃走が描かれ、より社会的な問題を提起する作品になっています。ハックが、その時代的な善悪の判断ではなく、自分自身を深くみつめ葛藤し、良心による判断をしていくという彼の精神的な成長の過程が、読む者の心をつかみます。今回、翻訳を担当した千葉さんは、方言の表現にこだわらずに訳した事、「nigger」という差別用語の扱いについて他の訳者が注釈を入れて「くろんぼ」等としたところは、そのようには訳さなかったということです。この冒険の物語をわくわくしながら読む子どもたちにそうした差別用語を覚えてほしくないという訳者のたっての願いだったそうです。安心して子どもたちに手渡せますね。
 
 
 
『バレエ・シューズ』ノエル・ストレトフィールド/著 中村妙子/訳 教文館 2018/1/31
 
バレエ・シューズ
中村妙子
教文館
2018-01-01

 ノエル・ストレトフィールドが1936年に書いた『バレエ・シューズ』は、これまでも村岡花子の訳(講談社マスコット文庫 1967)で出版されたり、中村妙子の訳では1979年にすぐ書房から出版されています。中村さんご自身がお連れ合いの海外赴任でアメリカに住んでいた時に図書館で出合ったのがイギリスの作家ストレトフィールドの「劇場シリーズ」の作品だっだそうです。「劇場シリーズ」の新訳が教文館から2014年に『ふたりのエアリエル』が、昨年秋に『ふたりのスケーター』が出版され、この作品は3作目になります。赤ちゃんの時にそれぞれの事情で両親と死に別れた3人の女の子が、ひとつの家で姉妹のように育てられるおはなしです。考古学者のマシュー大おじさんは出かける先々で孤児を託されて自宅に連れて帰りますが、自分はまた研究の旅へ。世話をするのは姪のシルヴィアと留守を守る家政婦たちでした。3人の女の子たちはシルヴィアたちが自分たちを育てるのに苦労をしているのを知って、自分たちの才能でなんとか収入を得ようとします。健気な少女たちの成長の姿は、自立へと向かう思春期の子どもたちに勇気を与えてくれるはずです。

 

 『熊とにんげん』ライナー・チムニク/作・絵 上田真而子/訳 徳間書店 2018/1/31

熊とにんげん (児童書)
ライナー チムニク
徳間書店
2018-01-20
 
昨年12月に亡くなられたドイツ文学者で翻訳家の上田真而子さんが、ご自身で翻訳した作品の中で一番のお気に入りだったという『熊とにんげん』がこのほど復刊されました。おどる熊を連れて町から町へとあるく旅芸人のおじさんは、熊のことばがわかりました。おじさんと熊は、お互いに信頼し、訪れる町で人々を喜ばせていました。この作品はポーランド領生れのチムニクが24歳の時のデビュー作です。上田さんは訳者あとがきに「寓意をこめた後の作品とはちがって、ここにはやはり、ナイーヴな、純な、ういういしさがあると思います。それでいて、世の中を、人生を鋭く見透している眼があり、それはある意味で宮沢賢治の世界に重なるのではないかとも思いました。」と書いています。信仰深く誠実な生き方をした熊おじさんと、熊の、長い年月を辿る友情は、心の中に温かな風を送ってくれます。
 

 【研究書・エッセイ】

『チェコの十二カ月―おとぎの国に暮らす―』出久根育/文・絵 理論社 2017/12/1

 チェコの首都プラハに住む画家で絵本画家でもある出久根育さんの初めてのエッセイ集です。チェコの四季折々の風物や、自然の営みを、またチェコで出会った素朴でいて心優しい人々の暮らしを、静謐な筆致で丁寧に描き出しています。またところどころに散りばめられた出久根さんの描くチェコの街角や自然の風景は、そのまま新しい物語が始まりそうな予感に満ちています。

 

『大草原のローラ物語 パイオニアガール』ローラ・インガルス・ワイルダー/著 パメラ・スミス・ヒル/解説・注釈 谷口由美子/訳 大修館書店 2018/1/10

大草原のローラ物語―パイオニア・ガール[解説・注釈つき]
ローラ・インガルス・ワイルダー
大修館書店
2017-12-16

アメリカ開拓時代の少女ローラと家族の物語は、福音館書店から恩地三保子の訳でシリーズが出版され、またテレビドラマなどにもなって多くの人たちに親しまれています。また岩波少年文庫からは谷口由美子の訳で『長い冬』、『大草原の小さな町』などが出版されています。今回の作品は、ローラが作品を書く前に書き留めていた注釈付きの自伝『パイオニア・ガール』を谷口さんが訳したものです。単なる物語というのではなく、ローラが執筆した時代について、実に細かい注釈と資料、当時の様子を伝える貴重な写真などがついており、ローラ・インガルス・ワイルダーという作家について、あるいは作品についての研究書という趣になっています。昨年2017年はローラ生誕150周年でした。時代は違いますが、どんな逆境にも常に勇気と愛と希望をもって前向きに乗り越えようとしていた家族の姿から、読む者もまた勇気や愛を取り戻せるような気がします。(出版関連のイベント情報→こちら)現在、銀座教文館ナルニア国のナルニアホールにて『大草原のローラ物語パイオニア・ガール』刊行記念展実施中です。3月18日(日)まで。(ナルニア国イベントページ→こちら

(作成K・J)

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